JP2003051246A - 電界放射型電子源およびその製造方法 - Google Patents

電界放射型電子源およびその製造方法

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JP2003051246A JP2002153216A JP2002153216A JP2003051246A JP 2003051246 A JP2003051246 A JP 2003051246A JP 2002153216 A JP2002153216 A JP 2002153216A JP 2002153216 A JP2002153216 A JP 2002153216A JP 2003051246 A JP2003051246 A JP 2003051246A
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film
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勉 櫟原
Takuya Komoda
卓哉 菰田
Koichi Aizawa
浩一 相澤
Takashi Hatai
崇 幡井
Toru Baba
徹 馬場
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Abstract

(57)【要約】 【課題】所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易な電界
放射型電子源およびその製造方法を提供する。 【解決手段】強電界ドリフト層6は、少なくとも、柱状
の多結晶シリコンのグレイン51と、グレイン51の表
面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン5
1間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結
晶63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該
シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁
膜である多数のシリコン酸化膜64とから構成される。
強電界ドリフト層6は、陽極酸化処理により形成された
多孔質多結晶シリコン層を、シリコン酸化膜64の厚さ
が電子のトンネリング現象が発生する膜厚となるように
昇温速度を設定した急速加熱法によって熱酸化すること
で形成する。昇温速度は、80℃/sec以上に設定す
ればよい。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電界放射により電
子線を放射するようにした電界放射型電子源およびその
製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、導電性基板の一表面側に酸化
した多孔質半導体層よりなる強電界ドリフト層を形成
し、強電界ドリフト層上に導電性薄膜(例えば、金薄
膜)よりなる表面電極を形成した電界放射型電子源が提
案されている。なお、導電性基板としては、例えば、抵
抗率が導体の導電率に比較的近い半導体基板、金属基
板、ガラス基板(絶縁性基板)の一表面に導電性層を形
成したものなどが用いられており、導電性基板の一部な
いし全部が下部電極を構成している。
【0003】ここにおいて、強電界ドリフト層の形成に
あたっては、例えば導電性基板上に形成した多結晶シリ
コン層を陽極酸化処理により多孔質化することによって
多結晶シリコンのグレインおよびシリコン微結晶を有す
る多孔質多結晶シリコン層を形成し、ランプアニール装
置を利用して多孔質多結晶シリコン層を急速熱酸化して
いる。したがって、強電界ドリフト層は、多結晶シリコ
ンのグレイン、グレインの表面に形成されたシリコン酸
化膜、シリコン微結晶、シリコン微結晶の表面に形成さ
れた絶縁膜たるシリコン酸化膜などを含んでいると考え
られる。
【0004】この種の電界放射型電子源は、表面電極を
真空中に配置するとともに表面電極に対向してコレクタ
電極を配置し、表面電極を下部電極に対して正極(高電
位側)となるように表面電極と下部電極との間に直流電
圧を印加するとともに、コレクタ電極を表面電極に対し
て正極(高電位側)としてコレクタ電極と表面電極との
間に直流電圧を印加することにより表面電極を通して電
子を放出させるものである。この電界放射型電子源で
は、下部電極から強電界ドリフト層に注入された電子が
シリコン微結晶の表面の薄いシリコン酸化膜にかかる強
電界により加速されて、ほとんど散乱することなく表面
電極へ向かってドリフトし表面電極をトンネルして放出
されるものと考えられ、このような電子放出原理は、弾
道型電子放出現象と呼ばれている。なお、強電界ドリフ
ト層の表面に到達した電子はホットエレクトロンである
と考えられ、表面電極の膜厚を10nm〜15nm程度
に設定しておくことにより表面電極を容易にトンネルし
真空中に放出される。また、表面電極と下部電極との間
に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電
極と表面電極との間に流れる電流をエミッション電流
(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば、ダイオード
電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/
Ips)が大きいほど電子放出効率が高くなる。
【0005】この電界放射型電子源では、表面電極と下
部電極との間に印加する直流電圧を10〜20V程度の
低電圧としても電子を放出させることができ、電子放出
特性の真空度依存性が小さく且つ電子放出時にポッピン
グ現象が発生せず安定して電子を放出することができ
る。また、導電性基板として単結晶シリコン基板などの
半導体基板の他にガラス基板などに導電性層を形成した
基板などを使用することができるから、電子源の大面積
化および低コスト化が可能になる。なお、この種の電界
放射型電子源をディスプレイの電子源として応用する場
合には、表面電極、下部電極などを適宜にパターニング
すればよい。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述の電界
放射型電子源では、製造したロット間での電子放出効
率、絶縁耐圧、寿命などの特性のばらつきが大きくなっ
てしまうことがあり、これらのばらつきの原因を仔細に
考察した結果、上述の絶縁膜たるシリコン酸化膜の厚さ
のばらつきが特性のばらつきに影響していることが分か
った。
【0007】本発明は上記事由に鑑みて為されたもので
あり、その目的は、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が
容易な電界放射型電子源およびその製造方法を提供する
ことにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、上記
目的を達成するために、下部電極と、下部電極に対向す
る表面電極と、多数のナノメータオーダの半導体微結晶
および各半導体微結晶の表面にそれぞれ形成された多数
の絶縁膜を含み下部電極と表面電極との間に介在した強
電界ドリフト層とを備え、前記各絶縁膜の厚さを電子の
トンネリング現象が発生する膜厚としたことを特徴とす
るものであり、各絶縁膜での電子の散乱を少なくするこ
とができるとともに強電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さ
のばらつきを小さくでき、所望の絶縁耐圧および寿命の
設計が容易になる。
【0009】請求項2の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、酸化膜よりなるので、例えば前記絶
縁膜としてシリコン酸化膜を採用することで前記絶縁膜
を一般的な半導体製造プロセスにより形成することが可
能になる。
【0010】請求項3の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、窒化膜よりなるので、例えば前記絶
縁膜としてシリコン窒化膜を採用することで前記絶縁膜
を一般的な半導体製造プロセスにより形成することが可
能になり、しかも前記絶縁膜としてシリコン酸化膜を採
用する場合に比べて絶縁耐圧を高めることができる。
【0011】請求項4の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、酸窒化膜よりなるので、例えば前記
絶縁膜としてシリコン酸窒化膜を採用することで前記絶
縁膜を一般的な半導体製造プロセスにより形成すること
ができ、しかも前記絶縁膜としてシリコン酸化膜を採用
する場合に比べて絶縁耐圧を高めることができる。
【0012】請求項5の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、酸化膜と窒化膜との積層膜よりなる
ので、請求項2の発明に比べて絶縁膜の絶縁耐圧を高め
ることが可能になる。
【0013】請求項6の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、酸化膜と酸窒化膜との積層膜よりな
るので、請求項2の発明に比べて絶縁膜の絶縁耐圧を高
めることが可能になる。
【0014】請求項7の発明は、請求項2記載の電界放
射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成する
絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を設
定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に酸化
膜を形成することを特徴とし、前記各絶縁膜の厚さを電
子のトンネリング現象が発生する膜厚とすることが可能
となり、強電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばらつき
を小さくでき、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易
になって、電界放射型電子源の絶縁耐圧の向上および長
寿命化を図れる。
【0015】請求項8の発明は、請求項3記載の電界放
射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成する
絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を設
定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に窒化
膜を形成することを特徴とし、前記各絶縁膜の厚さを電
子のトンネリング現象が発生する膜厚とすることが可能
となり、強電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばらつき
を小さくでき、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易
になって、電界放射型電子源の絶縁耐圧の向上および長
寿命化を図れる。
【0016】請求項9の発明は、請求項4記載の電界放
射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成する
絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を設
定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に酸窒
化膜を形成することを特徴とし、前記各絶縁膜の厚さを
電子のトンネリング現象が発生する膜厚とすることが可
能となり、強電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばらつ
きを小さくでき、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容
易になって、電界放射型電子源の絶縁耐圧の向上および
長寿命化を図れる。
【0017】請求項10の発明は、請求項6記載の電界
放射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成す
る絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のト
ンネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を
設定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に酸
化膜を形成した後に、急速加熱法によって酸化膜の表面
側に酸窒化膜を形成することを特徴とし、前記各絶縁膜
の厚さを電子のトンネリング現象が発生する膜厚とする
ことが可能となり、強電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さ
のばらつきを小さくでき、所望の絶縁耐圧および寿命の
設計が容易になって、電界放射型電子源の絶縁耐圧の向
上および長寿命化を図れる。
【0018】請求項11の発明は、請求項7ないし請求
項10の発明において、前記昇温速度を80℃/sec
以上としてあるので、前記各絶縁膜の厚さを電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚とすることができ、絶縁耐
圧の向上および長寿命化を図れる。
【0019】請求項12の発明は、請求項7ないし請求
項10の発明において、前記昇温速度を150℃/se
c以上としてあるので、請求項11の発明に比べて長寿
命化を図れるとともに、電子放出効率を高めることが可
能になる。
【0020】請求項13の発明は、請求項7ないし請求
項12の発明において、前記強電界ドリフト層の形成後
であって前記表面電極の形成以前に前記強電界ドリフト
層中の欠陥を補償するフォーミング処理を行うので、前
記絶縁膜の欠陥を補償することができ、絶縁耐圧のより
一層の向上および更なる長寿命化を図れる。
【0021】請求項14の発明は、請求項13の発明に
おいて、前記フォーミング処理は、少なくともHとN
とからなる混合ガス中で行うので、前記フォーミング
処理によって前記絶縁膜の厚さが厚くなったり不純物が
導入されるのを防止することができるとともに、比較的
低温で前記絶縁膜の欠陥を補償することができる。
【0022】請求項15の発明は、請求項4記載の電界
放射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成す
る絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のト
ンネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を
設定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に酸
化膜を形成する酸化膜形成工程と、酸化膜を窒化して酸
窒化膜を形成する窒化処理工程とを有することを特徴と
し、前記各絶縁膜の厚さを電子のトンネリング現象が発
生する膜厚とすることが可能となり、強電界ドリフト層
中の絶縁膜の厚さのばらつきを小さくでき、所望の絶縁
耐圧および寿命の設計が容易になって、電界放射型電子
源の絶縁耐圧の向上および長寿命化を図れる。
【0023】請求項16の発明は、請求項1ないし請求
項6のいずれかに記載の電界放射型電子源の製造方法で
あって、前記絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程では、前
記各絶縁膜の厚さが電子のトンネリング現象が発生する
膜厚となるように電気化学的な方法によって前記各絶縁
膜を形成することを特徴とし、前記各絶縁膜の厚さを電
子のトンネリング現象が発生する膜厚とすることが可能
となり、強電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばらつき
を小さくでき、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易
になって、電界放射型電子源の絶縁耐圧の向上および長
寿命化を図れる。
【0024】請求項17の発明は、請求項7ないし請求
項15の発明において、前記絶縁膜を形成する絶縁膜形
成工程では、急速加熱法によって絶縁膜を形成する前に
電気化学的な方法によって絶縁膜を形成するので、急速
加熱法による前記各半導体微結晶の破壊を防止すること
ができる。
【0025】
【発明の実施の形態】(実施形態1)本実施形態では、
導電性基板として抵抗率が導体の抵抗率に比較的近い単
結晶のn形シリコン基板(例えば、抵抗率が略0.01
Ωcm〜0.02Ωcmの(100)基板)を用いてい
る。
【0026】本実施形態の電界放射型電子源10は、図
2に示すように、導電性基板たるn形シリコン基板1の
主表面側に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強
電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に
表面電極7が形成され、n形シリコン基板1の裏面にオ
ーミック電極2が形成されている。なお、本実施形態で
は、n形シリコン基板1が下部電極を構成している。し
たがって、表面電極7は下部電極に対向しており、下部
電極と表面電極7との間に強電界ドリフト層6が介在し
ている。
【0027】表面電極7の材料には仕事関数の小さな材
料が採用され、表面電極7の厚さは10nmに設定され
ているが、この厚さは特に限定されるものではなく、強
電界ドリフト層6を通ってきた電子がトンネリングでき
る厚さであればよく、表面電極7の厚さは10〜15n
m程度に設定すればよい。
【0028】表面電極7は、強電界ドリフト層6上に形
成された金属膜(例えば、Cr膜)よりなる第1薄膜層
と第1薄膜層上に積層された金属膜(例えば、Au膜)
よりなる第2薄膜層とにより構成されている。ここにお
いて、強電界ドリフト層6上の第1薄膜層の材料として
は、例えば、クロム、ニッケル、白金、チタン、イリジ
ウムなどの強電界ドリフト層6との密着性が高く第2薄
膜層と強電界ドリフト層6との間での拡散を防止するこ
とができる材料を採用すればよく、第2薄膜層7bの材
料としては、抵抗が低く経時安定性の高い金などを採用
すればよい。なお、本実施形態では、第1薄膜層の材料
としてCrを採用し第1薄膜層の膜厚を2nmに設定し
てあり、第2薄膜層の材料としてAuを採用し第2薄膜
層の膜厚を8nmに設定してある。また、本実施形態で
は、表面電極7を2層の金属膜により構成してあるが、
2層の金属膜で構成する代わりに、1層または3層以上
の金属膜により構成してもよい。
【0029】図2に示す構成の電界放射型電子源10で
は、表面電極7を真空中に配置するとともに表面電極7
に対向してコレクタ電極21を配置し、表面電極7をn
形シリコン基板1(オーミック電極2)に対して正極
(高電位側)として直流電圧Vpsを印加するとともに、
コレクタ電極21を表面電極7に対して正極(高電位
側)として直流電圧Vcを印加することにより、n形シ
リコン基板1から注入された電子が強電界ドリフト層6
をドリフトし表面電極7を通して放出される(なお、図
2中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e
の流れを示す)。ここにおいて、表面電極7とn形シ
リコン基板1(オーミック電極2)との間に流れる電流
をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面
電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電
子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図2参照)、ダイオ
ード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(Ie
/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)
×100[%])が高くなる。
【0030】ところで、本実施形態における強電界ドリ
フト層6は、図1に示すように、少なくとも、柱状の多
結晶シリコンのグレイン51と、グレイン51の表面に
形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間
に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶6
3と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリ
コン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜で
ある多数のシリコン酸化膜64とから構成されると考え
られる。要するに、強電界ドリフト層6は、各グレイン
の表面が多孔質化し各グレインの中心部分では結晶状態
が維持されている。ここにおいて、シリコン微結晶63
の表面に形成されたシリコン酸化膜64の厚さは電界を
印加した場合(上記直流電圧Vpsを印加した場合)に電
子のトンネリング現象(ファウラ−ノルドハイムトンネ
ル)が発生する膜厚(電子の平均自由行程程度)に設定
してあり、SiO中の電子の平均自由行程は約3nm
であることが知られているので、シリコン酸化膜64の
厚さは1〜3nm程度に設定することが望ましい。な
お、シリコン微結晶63の結晶粒径は電子の平均自由行
程よりも小さくなっている。
【0031】本実施形態の電界放射型電子源10では、
次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。す
なわち、表面電極7を真空中に配置し表面電極7とn形
シリコン基板1(オーミック電極2)との間に表面電極
7を高電位側(正極)として直流電圧Vpsを印加すると
ともに、コレクタ電極21と表面電極7との間にコレク
タ電極21を高電位側(正極)として直流電圧Vcを印
加することにより、直流電圧Vpsが所定値(臨界値)に
達すると、下部電極としてのn形シリコン基板1から強
電界ドリフト層6へ熱的励起された電子eが注入され
る。一方、強電界ドリフト層6に印加された電界の大部
分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子
はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により
加速され、強電界ドリフト層6におけるグレイン51の
間の領域を表面に向かって図1中の矢印の向き(図1中
の上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルして真
空中に放出される。しかして、強電界ドリフト層6では
n形シリコン基板1から注入された電子がシリコン微結
晶63でほとんど散乱されることなく、シリコン酸化膜
64にかかっている強電界で加速されてドリフトし表面
電極7を通して放出され(弾道型電子放出現象)、強電
界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51を通して放
熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せ
ず、安定して電子を放出することができるものと考えら
れる。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子
はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を
容易にトンネルし真空中に放出される。
【0032】以下、本実施形態の電界放射型電子源10
の製造方法について図3を参照しながら説明する。
【0033】まず、n形シリコン基板1の裏面にオーミ
ック電極2を形成した後、n形シリコン基板1の主表面
上に半導体層としてノンドープの多結晶シリコン層3を
形成することにより、図3(a)に示すような構造が得
られる。なお、多結晶シリコン層3の成膜方法として
は、例えば、CVD法(例えば、LPCVD法、プラズ
マCVD法、触媒CVD法など)やスパッタ法やCGS
(Continuous Grain Silicon)法などを採用すればよ
い。
【0034】ノンドープの多結晶シリコン層3を形成し
た後、陽極酸化処理工程にて多結晶シリコン層3を多孔
質化することにより、多孔質半導体層たる多孔質多結晶
シリコン層4が形成され、図3(b)に示すような構造
が得られる。ここにおいて、陽極酸化処理工程では、5
5wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1
で混合した混合液よりなる電解液の入った陽極酸化処理
槽を利用し、白金電極(図示せず)を負極(陰極)、n
形シリコン基板1(オーミック電極2)を正極(陽極)
として、多結晶シリコン層3に光照射を行いながら定電
流で陽極酸化を行うことによって多孔質多結晶シリコン
層4が形成される。このようにして形成された多孔質多
結晶シリコン層4は、多結晶シリコンのグレインおよび
シリコン微結晶を含んでいる。なお、本実施形態では、
多結晶シリコン層3の全部を多孔質化しているが、一部
を多孔質化するようにしてもよい。
【0035】上述の陽極酸化処理工程の終了した後に、
多孔質多結晶シリコン層4を酸化工程にて酸化すること
によって酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電
界ドリフト層6が形成され、図3(c)に示すような構
造が得られる。酸化工程では、急速加熱法によって多孔
質多結晶シリコン層4を酸化することによって上述のグ
レイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜5
2,64を含む強電界ドリフト層6が形成される。ここ
において、急速加熱法による酸化工程では、ランプアニ
ール装置を用い、炉内をOガス雰囲気として基板温度
を室温から所定の酸化温度(例えば、900℃)まで規
定の昇温速度(例えば、80℃/sec)で上昇させて
基板温度を所定の酸化時間(例えば、1時間)だけ維持
することで急速熱酸化(RTO)を行い、その後、基板
温度を室温まで下降させている。本実施形態では、昇温
速度を80℃/secに設定してあるが、昇温速度は8
0℃/sec以上に設定すればよく、150℃/sec
以上に設定することが好ましい。昇温速度をこのような
値に設定する理由については後述する。なお、本実施形
態では、酸化工程が、半導体微結晶たるシリコン微結晶
63の表面側に絶縁膜たるシリコン酸化膜64を形成す
る絶縁膜形成工程となる。
【0036】強電界ドリフト層6を形成した後は、金属
膜(本実施形態ではCr膜)からなる第1薄膜層を電子
ビーム蒸着法によって強電界ドリフト層6上に積層し、
さらに金属膜(本実施形態では、Au膜)からなる第2
薄膜層を電子ビーム蒸着法によって第1薄膜層上に積層
することで第1薄膜層と第2薄膜層とからなる表面電極
7が形成され、図3(d)に示す構造の電界放射型電子
源10が得られる。なお、本実施形態では、表面電極7
を電子ビーム蒸着法により形成しているが、表面電極7
の形成方法は電子ビーム蒸着法に限定されるものではな
く、例えばスパッタ法を用いてもよい。
【0037】ところで、本願発明者らは、鋭意研究の結
果、急速加熱法による酸化工程の条件、特に昇温速度が
電子放出効率や絶縁耐圧、寿命などの特性のロット間の
ばらつきに影響を与えるという知見を得た。
【0038】そこで、本願発明者らは、急速加熱法にお
ける昇温速度を80℃/secに設定した電界放射型電
子源10の強電界ドリフト層6の分析評価として、フォ
トルミネッセンス法(PL法)による強電界ドリフト層
6表面近傍の構造評価、断面TEM(透過型電子顕微
鏡)による強電界ドリフト層6の表面近傍の構造の観察
および元素分析、X線光電子分光分析法(XPS法)に
よる強電界ドリフト層6の構成元素の存在量の深さ方向
の分布測定などを行い、さらに比較例として急速加熱法
における昇温速度を80℃/secに比べて低速の20
℃/secに設定して製造したものについて同様の分析
評価を行った。その結果、昇温速度を20℃/secに
設定した比較例では強電界ドリフト層における表面(表
面電極7との界面)から100nm程度の深さまでSi
膜が形成されてシリコン微結晶の存在が確認されな
いのに対して、昇温速度を比較的高速の80℃/sec
に設定した電界放射型電子源10における強電界ドリフ
ト層6では表面から100nm程度の深さまでの領域に
おいてもシリコン微結晶63が存在していることが分か
った。
【0039】ここで、各分析評価の結果についてそれぞ
れ説明する。まず、本実施形態の電界放射型電子源10
の強電界ドリフト層6および比較例の強電界ドリフト層
それぞれの表面近傍の構造について断面TEMによる観
察および元素分析を行った結果について説明する。断面
TEMによる評価によって、電界放射型電子源10の強
電界ドリフト層6では多結晶シリコンの柱状のグレイン
およびナノメータオーダのシリコン微結晶が確認された
のに対して、比較例の強電界ドリフト層では表面から1
00nm程度の深さまでは全領域にわたってSiO
が形成されており、多結晶シリコンの柱状のグレインは
100nmよりも深い領域でしか確認されないことが分
かった。
【0040】次に、PL法による強電界ドリフト層6の
表面近傍の構造評価の結果について図4を参照しながら
説明する。図4はHe−Cdレーザから波長が325n
mの光を照射して測定した発光スペクトルであって、同
図中のaが本実施形態における強電界ドリフト層6の発
光スペクトルを、同図中のbが比較例における強電界ド
リフト層の発光スペクトルを、それぞれ示している。こ
こにおいて、He−Cdレーザから照射される光の強電
界ドリフト層6への侵入長は強電界ドリフト層6の表面
から深さ方向へ100nm以内であるから、図4中のa
およびbの各発光スペクトルは表面近傍の浅い領域から
の発光スペクトルを示している。なお、一般に、シリコ
ン酸化膜からの発光はFバンドと呼ばれ430nm〜5
40nm付近にピークを持つことが知られ、シリコン微
結晶からの発光はSバンドと呼ばれ、650nm〜80
0nm付近にピークを持つことが知られている。図4か
ら、本実施形態における強電界ドリフト層6ではシリコ
ン微結晶63からの発光と考えられるピークとシリコン
酸化膜からの発光と考えられるピークが観測されたのに
対して、比較例における強電界ドリフト層ではシリコン
酸化膜からの発光と考えられるピークのみが観測され
た。すなわち、比較例における強電界ドリフト層6の表
面から100nm程度の深さまでの領域にはシリコン微
結晶がほとんど存在せず大部分ないし全部がシリコン酸
化膜となっているものと考えられ、この結果は上述の断
面TEMによる分析結果と一致している。
【0041】続いて、XPS法による強電界ドリフト層
6の構成元素の存在量に関する深さ方向分布測定の結果
について図5を参照しながら説明する。図5の横軸は強
電界ドリフト層6の表面からの深さを、同図の縦軸は原
子濃度を、それぞれ示している。ここにおいて、同図中
のa1,a2,a3は本実施形態における強電界ドリフ
ト層6に関する測定結果を、b1,b2,b3は比較例
における強電界ドリフト層に関する測定結果を示してお
り、a1,b1はSiOの深さ方向分布を、a2,b
2はSiの深さ方向分布を、a3,b3はSiOの深
さ方向分布を、それぞれ示している。図5から、本実施
形態における強電界ドリフト層6では表面からの深さが
100nmよりも浅い領域でSiおよびSiOが観測
されているのに対して、比較例では表面から100nm
よりも浅い領域ではSiが観測されずSiOのみ観測
されていることが分かる。この結果は上述の断面TEM
による分析結果と一致する。
【0042】以上の各分析結果から、本実施形態におけ
る強電界ドリフト層6では図6に示すように強電界ドリ
フト層6における表面近傍においても表面にシリコン酸
化膜64が形成されたシリコン微結晶63を含んでお
り、強電界ドリフト層6へ注入された電子eがシリコ
ン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、シ
リコン微結晶63にほとんど衝突することなく図6
(a)中の矢印の向き(右向き)へドリフトして強電界
ドリフト層6の表面に到達し、表面電極7をトンネルし
て真空中に放出されるものと考えられる(図6(a)中
の一点鎖線は電子eの流れを示す)。なお、図6
(a)の上部に記載の「PPS」は強電界ドリフト層6
を、「Metal」は表面電極7を、「Vacuum」
は真空を、それぞれ示している。また、図6(b)は電
子放出原理を説明するエネルギバンド図であって、図6
(b)中の「SiO」はシリコン酸化膜64を、「μ
c−Si」はナノメータオーダのシリコン微結晶63
を、「EFM」は表面電極7のフェルミレベルを、「E
va」は真空レベル(真空準位)を、それぞれ示す。
【0043】一方、比較例における強電界ドリフト層
(以下、強電界ドリフト層6’と称す)では図7に示す
ように強電界ドリフト層6’の表面に近づくほどシリコ
ン酸化膜64の膜厚が大きくなってシリコン微結晶63
が破壊され、表面近傍ではシリコン微結晶63が存在し
ておらず、強電界ドリフト層6’へ注入された電子e
の一部が電子の平均自由行程よりも厚いシリコン酸化膜
64で散乱されたり吸収されたりするために電子放出効
率が低下してしまったり、絶縁耐圧および寿命が低下し
てしまうものと考えられる。
【0044】ここにおいて、本実施形態における強電界
ドリフト層6では表面近傍でもシリコン微結晶63が存
在しているのに対して、比較例における強電界ドリフト
層6’では表面近傍においてシリコン微結晶63が破壊
されている原因としては次のようなモデルが考えられ
る。すなわち、本実施形態では、陽極酸化処理工程後の
酸化工程において図8(a)のようにシリコン微結晶6
3の周囲に酸素分子80が到達するが、昇温速度が比較
的高速(80℃/sec)なので、陽極酸化により形成
されていたシリコン微結晶63の表面側に短時間でシリ
コン酸化膜64が形成されて、シリコン微結晶63の中
心部への酸素原子81の拡散が阻止されることでシリコ
ン微結晶63の表面にのみ電子の電子のトンネリング現
象の発生する膜厚(電子の平均自由行程程度の厚さ)の
シリコン酸化膜64が形成されると考えられる。これに
対して、比較例では、陽極酸化処理工程後の酸化工程に
おいて図8(b)のようにシリコン微結晶63の周囲に
酸素分子80が到達するが、昇温速度が比較的低速(2
0℃/sec)なので、陽極酸化により形成されていた
シリコン微結晶63の中心部まで酸素原子81が拡散し
てシリコン微結晶63全体が酸化されてしまうからであ
ると考えられる。
【0045】図9に、昇温速度を80℃/sec、16
0℃/sec、20℃/secとした場合それぞれの電
子放出効率の経時変化を示す。図9の縦軸は電子放出効
率、横軸は経過時間であり、同図中のaが昇温速度を8
0℃/secとした場合、同図中のbが昇温速度を20
℃/secとした場合、同図中のcが昇温速度を160
℃/secとした場合をそれぞれ示している。図9から
分かるように、本実施形態では比較例に比べて電子放出
効率が高く、電子放出効率の経時変化が小さくなること
で寿命が長くなっており、昇温速度を80℃/secか
ら160℃/secに高速化することで電子放出効率が
さらに高くなっている。なお、昇温速度を160℃とし
た場合の電子放出効率の経時変化のデータは昇温速度を
150℃以上とした場合のデータの一例である。
【0046】ここにおいて、図9に示す電子放出効率の
経時変化は経過時間に対して指数関数的に減衰する関数
(以下、減衰関数と称す)でフィッティングすることが
できる。すなわち、電子放出効率の初期値(以下、初期
電子放出効率と称す)をη、時定数をτ、比例係数
(線形ファクタ)をγ、経過時間をtとすると、任意の
経過時間tにおける電子放出効率をηは、 η=ηexp((−t/τ)γ) で近似することができる。なお、時定数τの値が大きい
ほど電子源の寿命が長くなる。
【0047】図10に、初期電子放出効率ηと上述の
減数関数でフィッティングすることにより求めた時定数
τとの関係を示す。図10の縦軸は初期電子放出効率η
、横軸は時定数τであり、同図中のaが昇温速度を8
0℃/secとした場合、同図中のbが昇温速度を20
℃/secとした場合、同図中のcが昇温速度を160
℃/secとした場合をそれぞれ示している。図10か
ら、昇温速度を高速化するにつれて初期電子放出効率η
および時定数τが大きくなることが分かる。つまり、
昇温速度を高速化するにつれて電子放出効率の向上およ
び長寿命化を図れることが分かる。ここにおいて、初期
電子放出効率ηと時定数τとの積ητで電子源の特
性評価を行うとすれば、ητの値が大きいほど電子源
としての特性が優れていると考えられる。ητの値
は、bでは0.092、aでは5.2、cでは21.8
となっており、昇温速度を20℃/secから80℃/
secへ高速化することにより、20℃/secの場合
に比べてητの値が50倍よりも大きくなっているこ
とが分かる。したがって、昇温速度を80℃/sec以
上に設定することで20℃/secの場合に比べて電子
放出効率の向上および長寿命化を図ることができ、昇温
速度を150℃/sec以上に設定することで電子放出
効率のより一層の向上およびより一層の長寿命化を図れ
る。なお、昇温速度は急速加熱法において用いる製造装
置(例えば、ランプアニール装置)の性能で制約される
が、現在は昇温速度を400℃/sec程度まで高速化
可能であることが知られている。
【0048】しかして、本実施形態の電界放射型電子源
10の製造方法によれば、強電界ドリフト層6中の絶縁
膜たるシリコン酸化膜64の厚さを電子のトンネリング
現象が発生する膜厚(電子の平均自由行程程度)とする
ことができるので、各シリコン酸化膜64での電子の散
乱を少なくすることができるとともに強電界ドリフト層
6中のシリコン酸化膜64の厚さのばらつきを小さくで
き、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易になり、絶
縁耐圧の向上および長寿命化が図れ、さらに電子放出効
率の向上も図れる。
【0049】(実施形態2)本実施形態では、導電性基
板としてガラス基板(例えば、石英ガラス基板)からな
る絶縁性基板の一表面上に金属膜(例えば、タングステ
ン膜)よりなる導電性層を設けたものを用いている。
【0050】本実施形態の電界放射型電子源10は、図
11に示すように、絶縁性基板11上の導電性層12上
に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電界ドリ
フト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に表面電極
7が形成されている。なお、本実施形態では、導電性層
12が下部電極を構成している。したがって、本実施形
態においても、表面電極7は下部電極に対向しており、
下部電極と表面電極7との間に強電界ドリフト層6が介
在している。表面電極7の構成は実施形態1と同じであ
る。
【0051】図11に示す構成の電界放射型電子源10
から電子を放出させるには、表面電極7に対向配置され
たコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極
21との間を真空とした状態で、表面電極7が導電性層
12に対して正極(高電位側)となるように表面電極7
と導電性層12との間に直流電圧Vpsを印加するととも
に、コレクタ電極21が表面電極7に対して正極(高電
位側)となるようにコレクタ電極21と表面電極7との
間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを
適宜に設定すれば、導電性層12から注入された電子が
強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放
出される(図11中の一点鎖線は表面電極7を通して放
出された電子eの流れを示す)。なお、強電界ドリフ
ト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであ
ると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に
放出される。
【0052】本実施形態の電界放射型電子源10では、
表面電極7と導電性層12との間に流れる電流をダイオ
ード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7と
の間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)
Ieと呼ぶことにすれば(図11参照)、ダイオード電
流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/
Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×
100[%])が高くなる。
【0053】強電界ドリフト層6は、実施形態1と同
様、図1に示すように、少なくとも、柱状の多結晶シリ
コンのグレイン51と、グレイン51の表面に形成され
た薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在す
る多数のナノメータオーダのシリコン微結晶63と、各
シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結
晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜である多数
のシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。
要するに、強電界ドリフト層6は、各グレインの表面が
多孔質化し各グレインの中心部分では結晶状態が維持さ
れている。ここにおいて、シリコン微結晶63の表面に
形成されたシリコン酸化膜64の厚さは電界を印加した
場合(上記直流電圧Vpsを印加した場合)に電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚(電子の平均自由行程程
度)に設定してあり、SiO中の電子の平均自由行程
は約3nmであることが知られているので、シリコン酸
化膜64の厚さは1〜3nm程度に設定することが望ま
しい。なお、シリコン微結晶63の結晶粒径は電子の平
均自由行程よりも小さくなっている。
【0054】本実施形態の電界放射型電子源10では、
次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。す
なわち、表面電極7と導電性層12との間に表面電極7
を正極として直流電圧Vpsを印加するとともに、コレク
タ電極21と表面電極7との間にコレクタ電極21を正
極として直流電圧Vcを印加することにより、直流電圧
Vpsが所定値(臨界値)に達すると、下部電極としての
導電性層12から強電界ドリフト層6へ熱的励起された
電子eが注入される。一方、強電界ドリフト層6に印
加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるか
ら、注入された電子eはシリコン酸化膜64にかかっ
ている強電界により加速され、強電界ドリフト層6にお
けるグレイン51の間の領域を表面に向かって図1中の
矢印の向き(図1中の上向き)へドリフトし、表面電極
7をトンネルし真空中に放出される。しかして、強電界
ドリフト層6では導電性層12から注入された電子がシ
リコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコ
ン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフト
し、表面電極7を通して放出され(弾道型電子放出現
象)、強電界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51
を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象
が発生せず、安定して電子を放出することができる。な
お、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホット
エレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にト
ンネルし真空中に放出される。
【0055】なお、本実施形態の電界放射型電子源10
をディスプレイの電子源として利用する場合には下部電
極、表面電極7などを適宜にパターニングすればよい。
【0056】以下、本実施形態の電界放射型電子源10
の製造方法について図12を参照しながら説明する。
【0057】まず、絶縁性基板11の一表面側にスパッ
タ法などによって金属膜(例えば、タングステン膜)か
らなる導電性層12を形成して導電性基板を構成した
後、導電性基板の主表面側(ここでは、導電性層12
上)に半導体層としてノンドープの多結晶シリコン層3
を形成することにより、図12(a)に示すような構造
が得られる。なお、多結晶シリコン層3の成膜方法とし
ては、例えば、CVD法(LPCVD法、プラズマCV
D法、触媒CVD法など)やスパッタ法やCGS(Cont
inuous Grain Silicon)法などを採用すればよい。
【0058】ノンドープの多結晶シリコン層3を形成し
た後、陽極酸化処理工程にて多結晶シリコン層3を多孔
質化することにより、多孔質半導体層たる多孔質多結晶
シリコン層4が形成され、図12(b)に示すような構
造が得られる。ここにおいて、陽極酸化処理工程では、
55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:
1で混合した混合液よりなる電解液の入った陽極酸化処
理槽を利用し、白金電極(図示せず)を負極、導電性層
12を正極として、多結晶シリコン層3に光照射を行い
ながら定電流で陽極酸化処理を行うことによって多孔質
多結晶シリコン層4が形成される。このようにして形成
された多孔質多結晶シリコン層4は、多結晶シリコンの
グレインおよびシリコン微結晶を含んでいる。なお、本
実施形態では、多結晶シリコン層3の全部を多孔質化し
ているが、一部を多孔質化するようにしてもよい。
【0059】上述の陽極酸化処理工程の終了した後に、
多孔質多結晶シリコン層4を酸化工程にて酸化すること
によって酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電
界ドリフト層6が形成され、図12(c)に示すような
構造が得られる。酸化工程では、急速加熱法によって多
孔質多結晶シリコン層4を酸化することによって上述の
グレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜
52,64を含む強電界ドリフト層6が形成される。こ
こにおいて、急速加熱法による酸化工程では、実施形態
1と同様、ランプアニール装置を用い、炉内をOガス
雰囲気として基板温度を室温から所定の酸化温度(例え
ば、900℃)まで規定の昇温速度(例えば、80℃/
sec)で上昇させて基板温度を所定の酸化時間(例え
ば、1時間)だけ維持することで急速熱酸化(RTO)
を行い、その後、基板温度を室温まで下降させている。
本実施形態では、昇温速度を80℃/secに設定して
あるが、実施形態1と同様、昇温速度は80℃/sec
以上に設定すればよく、150℃/sec以上に設定す
ることが好ましい。なお、本実施形態では、実施形態1
と同様、酸化工程が、半導体微結晶たるシリコン微結晶
63の表面側に絶縁膜たるシリコン酸化膜64を形成す
る絶縁膜形成工程となる。
【0060】強電界ドリフト層6を形成した後は、金属
膜(本実施形態ではCr膜)からなる第1薄膜層を電子
ビーム蒸着法によって強電界ドリフト層6上に積層し、
さらに金属膜(本実施形態では、Au膜)からなる第2
薄膜層を電子ビーム蒸着法によって第1薄膜層上に積層
することで第1薄膜層と第2薄膜層とからなる表面電極
7が形成され、図12(d)に示す構造の電界放射型電
子源10が得られる。なお、本実施形態では、表面電極
7を電子ビーム蒸着法により形成しているが、表面電極
7の形成方法は電子ビーム蒸着法に限定されるものでは
なく、例えばスパッタ法を用いてもよい。
【0061】しかして、本実施形態の電界放射型電子源
10の製造方法によれば、強電界ドリフト層6中の絶縁
膜たるシリコン酸化膜64の厚さを電子のトンネリング
現象が発生する膜厚(電子の平均自由行程程度)とする
ことができるので、各シリコン酸化膜64での電子の散
乱を少なくすることができるとともに強電界ドリフト層
6中のシリコン酸化膜64の厚さのばらつきを小さくで
き、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易になり、絶
縁耐圧の向上および長寿命化が図れ、さらに電子放出効
率の向上も図れる。
【0062】ところで、上記各実施形態では、強電界ド
リフト層6を酸化した多孔質多結晶シリコン層により構
成しているが、強電界ドリフト層6を窒化した多孔質多
結晶シリコン層や酸窒化した多孔質多結晶シリコン層に
より構成してもよいし、あるいはその他の酸化若しくは
窒化若しくは酸窒化した多孔質半導体層により構成して
もよい。
【0063】ここにおいて、強電界ドリフト層6を窒化
した多孔質多結晶シリコン層とした場合には多孔質多結
晶シリコン層4をOガスを利用した急速加熱法により
酸化する酸化工程(絶縁膜形成工程)の代わりに例えば
NHガスを利用して昇温速度を各実施形態と同様に設
定した急速加熱法により窒化する窒化工程(絶縁膜形成
工程)を採用すればよく、図1にて説明した各シリコン
酸化膜52,64がいずれもシリコン窒化膜となり、強
電界ドリフト層6を酸窒化した多孔質多結晶シリコン層
とした場合には多孔質多結晶シリコン層4を急速加熱法
により酸化する工程の代わりに例えばOガスとNH
ガスとの混合ガスを利用して昇温速度を各実施形態と同
様に設定した急速加熱法により酸窒化する酸窒化工程
(絶縁膜形成工程)を採用すればよく、図1にて説明し
た各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン酸窒
化膜となる。また、強電界ドリフト層6を酸窒化した多
孔質多結晶シリコン層とした場合には、シリコン酸窒化
膜からなる絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程として、昇
温速度を各実施形態と同様に設定した急速加熱法によっ
てシリコン微結晶63の表面側に酸化膜たるシリコン酸
化膜を形成する酸化膜形成工程と、酸化膜形成工程で形
成したシリコン酸化膜を窒化して酸窒化膜たるシリコン
酸窒化膜を形成する窒化処理工程とを採用するようにす
ればよい。
【0064】なお、半導体微結晶たるシリコン微結晶6
3の表面側に形成された絶縁膜としてシリコン窒化膜や
シリコン酸窒化膜を採用した場合には、シリコン酸化膜
を採用している場合に比べて絶縁耐圧が向上する。ま
た、上記絶縁膜としてシリコン酸化膜とシリコン窒化膜
との積層膜を採用した場合にも、シリコン酸化膜を採用
している場合に比べて絶縁耐圧が向上する。
【0065】また、上記各実施形態で説明した各製造方
法における強電界ドリフト層6の形成後であって表面電
極7の形成以前に強電界ドリフト層6中の欠陥を補償す
るフォーミング処理を行うことによって、上記絶縁膜の
欠陥を補償することができ、絶縁耐圧のより一層の向上
および更なる長寿命化を図ることができる。フォーミン
グ処理は、少なくともHとNとからなる混合ガス中
で基板温度を所定温度(例えば、450℃)まで上昇さ
せて行えばよい。このようなフォーミング処理によって
上記絶縁膜の厚さがフォーミング処理以前よりも厚くな
ったり不純物が導入されるのを防止することができると
ともに、急速加熱法による基板温度に比べて比較的低温
で上記絶縁膜の欠陥を補償することができる。
【0066】また、上記各実施形態における絶縁膜形成
工程では、急速加熱法を利用して絶縁膜を形成している
が、電気化学的な方法によって絶縁膜たるシリコン酸化
膜64を形成するようにしてもよい。例えば、電解質溶
液(例えば、1モルのHSO、1モルのHNO
王水など)の入った酸化処理槽を利用し、白金電極(図
示せず)を負極、下部電極(実施形態1ではn形シリコ
ン基板、実施形態2では導電性層12)を正極として、
定電流を流し多孔質多結晶シリコン層4を酸化すること
によって上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各
シリコン酸化膜52,64を含む強電界ドリフト層6が
形成される。電気化学的な方法によって形成する絶縁膜
を上述のようにシリコン窒化膜などの窒化膜やシリコン
酸窒化膜などの酸窒化膜としてもよいことは勿論であ
る。
【0067】上述のように電気化学的な方法によって上
記絶縁膜を形成した場合には、電子のトンネリング現象
が発生する膜厚(電子の平均自由行程程度)の絶縁膜を
形成することができ、シリコン微結晶63が破壊されて
いないことが確認されたが、昇温速度を80℃/sec
に設定した急速加熱法によって絶縁膜を形成したものに
比べて電子放出効率が低く寿命が短いという結果が得ら
れた。また、電気化学的な方法で形成したシリコン酸化
膜は急速加熱法によって形成したシリコン酸化膜に比べ
て多量の水分を含むことも確認された。したがって、上
記各絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程では、電気化学的
に絶縁膜を形成した後に、急速加熱法によって絶縁膜を
形成するようにすれば、シリコン酸化膜の水分を除去す
ることができて電子放出特性の向上が図れる。言い換え
れば、急速加熱法によって絶縁膜を形成する前に電気化
学的な方法によって絶縁膜を形成するようにすれば、急
速加熱法によるシリコン微結晶の破壊を確実に防止しつ
つ電子放出効率および絶縁耐圧が高く長寿命の電界放射
型電子源を実現することが可能になる。
【0068】また、電気化学的な方法によって上記絶縁
膜を形成した場合には、上述のフォーミング処理を行う
ことによって電界放射型電子源10の長寿命化を図れ
る。図13および図14は電気化学的な方法によって上
記絶縁膜(シリコン酸化膜52,64)を形成した強電
界ドリフト層6について昇温脱離分光法(TDS法)に
よる分析を行った結果であり、図13および図14の横
軸は温度、縦軸はイオン電流である。ここに、図13は
水の脱離スペクトルを示し、図14は水素の脱離スペク
トルを示し、図13および図14中の「イ」はフォーミ
ング処理を行っていないサンプル(以下、フォーミング
処理なしのサンプルと称す)の脱離スペクトル、「ロ」
は真空中で450℃にてアニールを行ったサンプル(以
下、真空アニールありのサンプルと称す)の脱離スペク
トル、「ハ」はHとNとの混合ガス(Hの濃度が
3%)中で450℃にてフォーミング処理を行ったサン
プル(以下、フォーミング処理ありのサンプルと称す)
の脱離スペクトルを示してある。
【0069】図13から、フォーミング処理なしのサン
プルでは100℃〜500℃の範囲にブロードな脱離ス
ペクトルが測定され300℃以下で多量の水が脱離して
いることが分かる。言い換えれば、フォーミング処理な
しのサンプルでは強電界ドリフト層6中に多量の水分が
含まれていることが分かる。これに対して、真空アニー
ルありのサンプルおよびフォーミング処理ありのサンプ
ルでは水の脱離スペクトルのピーク値がフォーミング処
理なしのサンプルに比べて大幅に減少しており、強電界
ドリフト層6中の水分が大幅に減少していることが分か
る。
【0070】また、図14からは、フォーミング処理な
しのサンプルおよび真空アニールありのサンプルでは3
50℃以上の比較的広い温度範囲で水素が脱離している
ことが分かる。これに対して、フォーミング処理ありの
サンプルでは350℃〜500℃の温度範囲での水素の
脱離は測定されずに600℃付近で水素が脱離している
ことが分かる。ここにおいて、水素の脱離スペクトルに
おける350℃付近のピークはSi−H結合やSi−
結合からの水素、600℃付近のピークはSi−H
結合からの水素と考えられており、350℃付近で脱離
する水素は不安定であり、電界放射型電子源10の特性
変動の要因となり、600℃付近で脱離する水素はシリ
コンのダングリングボンドを補償して欠陥を低減させる
ものと考えられる。つまり、電界放射型電子源10の特
性変動を少なくするにはフォーミング処理を行えばよ
い。
【0071】図15に、フォーミング処理なしのサンプ
ル、真空アニールありのサンプル、フォーミング処理あ
りのサンプルそれぞれについて上記直流電圧Vpsを16
V一定、上記直流電圧Vcを100V一定として電子放
出効率の経時変化を測定した結果を示す。ここに、図1
5の縦軸は電子放出効率、横軸は経過時間であり、図1
5中の「イ」はフォーミング処理なしのサンプルの電子
放出効率、「ロ」は真空アニールありのサンプルの電子
放出効率、「ハ」はフォーミング処理ありのサンプルの
電子放出効率を示してある。
【0072】図15から、フォーミング処理なしのサン
プルに比べて、真空アニールありのサンプルおよびフォ
ーミング処理ありのサンプルでは初期の電子放出効率が
向上し、寿命が長くなっていることが分かる。また、真
空アニールありのサンプルとフォーミング処理ありのサ
ンプルとを比較すると、真空アニールありのサンプルで
は20時間連続駆動することにより電子放出効率が約2
桁小さくなっているに対して、フォーミング処理ありの
サンプルでは電子放出効率が約1桁小さくなっているこ
とが分かる。つまり、真空アニールありのサンプルに比
べてフォーミング処理ありのサンプルの方が電子放出特
性の経時安定性が向上していることが分かる。以上説明
した図13〜図15の結果から、上述のフォーミング処
理を行うことにより、強電界ドリフト層6の絶縁膜(シ
リコン酸化膜52,64)中に不安定な形で取り込まれ
ている水および水素を効果的に除去でき(つまり、欠陥
を補償でき)、電子放出特性の経時安定性が向上できる
ものと考えられる。
【0073】
【発明の効果】請求項1の発明は、下部電極と、下部電
極に対向する表面電極と、多数のナノメータオーダの半
導体微結晶および各半導体微結晶の表面にそれぞれ形成
された多数の絶縁膜を含み下部電極と表面電極との間に
介在した強電界ドリフト層とを備え、前記各絶縁膜の厚
さを電子のトンネリング現象が発生する膜厚としたもの
であり、各絶縁膜での電子の散乱を少なくすることがで
きるとともに強電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばら
つきを小さくでき、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が
容易になるという効果がある。
【0074】請求項2の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、酸化膜よりなるので、例えば前記絶
縁膜としてシリコン酸化膜を採用することで前記絶縁膜
を一般的な半導体製造プロセスにより形成することが可
能になるという効果がある。
【0075】請求項3の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、窒化膜よりなるので、例えば前記絶
縁膜としてシリコン窒化膜を採用することで前記絶縁膜
を一般的な半導体製造プロセスにより形成することが可
能になり、しかも前記絶縁膜としてシリコン酸化膜を採
用する場合に比べて絶縁耐圧を高めることができるとい
う効果がある。
【0076】請求項4の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、酸窒化膜よりなるので、例えば前記
絶縁膜としてシリコン酸窒化膜を採用することで前記絶
縁膜を一般的な半導体製造プロセスにより形成すること
ができ、しかも前記絶縁膜としてシリコン酸化膜を採用
する場合に比べて絶縁耐圧を高めることができるという
効果がある。
【0077】請求項5の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、酸化膜と窒化膜との積層膜よりなる
ので、請求項2の発明に比べて絶縁膜の絶縁耐圧を高め
ることが可能になるという効果がある。
【0078】請求項6の発明は、請求項1の発明におい
て、前記絶縁膜が、酸化膜と酸窒化膜との積層膜よりな
るので、請求項2の発明に比べて絶縁膜の絶縁耐圧を高
めることが可能になるという効果がある。
【0079】請求項7の発明は、請求項2記載の電界放
射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成する
絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を設
定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に酸化
膜を形成するので、前記各絶縁膜の厚さを電子のトンネ
リング現象が発生する膜厚とすることが可能となり、強
電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばらつきを小さくで
き、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易になって、
電界放射型電子源の絶縁耐圧の向上および長寿命化を図
れるという効果がある。
【0080】請求項8の発明は、請求項3記載の電界放
射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成する
絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を設
定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に窒化
膜を形成するので、前記各絶縁膜の厚さを電子のトンネ
リング現象が発生する膜厚とすることが可能となり、強
電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばらつきを小さくで
き、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易になって、
電界放射型電子源の絶縁耐圧の向上および長寿命化を図
れるという効果がある。
【0081】請求項9の発明は、請求項4記載の電界放
射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成する
絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を設
定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に酸窒
化膜を形成するので、前記各絶縁膜の厚さを電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚とすることが可能となり、
強電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばらつきを小さく
でき、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易になっ
て、電界放射型電子源の絶縁耐圧の向上および長寿命化
を図れるという効果がある。
【0082】請求項10の発明は、請求項6記載の電界
放射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成す
る絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のト
ンネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を
設定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に酸
化膜を形成した後に、急速加熱法によって酸化膜の表面
側に酸窒化膜を形成するので、前記各絶縁膜の厚さを電
子のトンネリング現象が発生する膜厚とすることが可能
となり、強電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばらつき
を小さくでき、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易
になって、電界放射型電子源の絶縁耐圧の向上および長
寿命化を図れるという効果がある。
【0083】請求項11の発明は、請求項7ないし請求
項10の発明において、前記昇温速度を80℃/sec
以上としてあるので、前記各絶縁膜の厚さを電子のトン
ネリング現象が発生する膜厚とすることができ、絶縁耐
圧の向上および長寿命化を図れるという効果がある。
【0084】請求項12の発明は、請求項7ないし請求
項10の発明において、前記昇温速度を150℃/se
c以上としてあるので、請求項11の発明に比べて長寿
命化を図れるとともに、電子放出効率を高めることが可
能になるという効果がある。
【0085】請求項13の発明は、請求項7ないし請求
項12の発明において、前記強電界ドリフト層の形成後
であって前記表面電極の形成以前に前記強電界ドリフト
層中の欠陥を補償するフォーミング処理を行うので、前
記絶縁膜の欠陥を補償することができ、絶縁耐圧のより
一層の向上および更なる長寿命化を図れるという効果が
ある。
【0086】請求項14の発明は、請求項13の発明に
おいて、前記フォーミング処理は、少なくともHとN
とからなる混合ガス中で行うので、前記フォーミング
処理によって前記絶縁膜の厚さが厚くなったり不純物が
導入されるのを防止することができるとともに、比較的
低温で前記絶縁膜の欠陥を補償することができるという
効果がある。
【0087】請求項15の発明は、請求項4記載の電界
放射型電子源の製造方法であって、前記絶縁膜を形成す
る絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さが電子のト
ンネリング現象が発生する膜厚となるように昇温速度を
設定した急速加熱法によって半導体微結晶の表面側に酸
化膜を形成する酸化膜形成工程と、酸化膜を窒化して酸
窒化膜を形成する窒化処理工程とを有するので、前記各
絶縁膜の厚さを電子のトンネリング現象が発生する膜厚
とすることが可能となり、強電界ドリフト層中の絶縁膜
の厚さのばらつきを小さくでき、所望の絶縁耐圧および
寿命の設計が容易になって、電界放射型電子源の絶縁耐
圧の向上および長寿命化を図れるという効果がある。
【0088】請求項16の発明は、請求項1ないし請求
項6のいずれかに記載の電界放射型電子源の製造方法で
あって、前記絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程では、前
記各絶縁膜の厚さが電子のトンネリング現象が発生する
膜厚となるように電気化学的な方法によって前記各絶縁
膜を形成するので、前記各絶縁膜の厚さを電子のトンネ
リング現象が発生する膜厚とすることが可能となり、強
電界ドリフト層中の絶縁膜の厚さのばらつきを小さくで
き、所望の絶縁耐圧および寿命の設計が容易になって、
電界放射型電子源の絶縁耐圧の向上および長寿命化を図
れるという効果がある。
【0089】請求項17の発明は、請求項7ないし請求
項15の発明において、前記絶縁膜を形成する絶縁膜形
成工程では、急速加熱法によって絶縁膜を形成する前に
電気化学的な方法によって絶縁膜を形成するので、急速
加熱法による前記各半導体微結晶の破壊を防止すること
ができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1の電界放射型電子源の要部概略構成
図である。
【図2】同上の電界放射型電子源の動作説明図である。
【図3】同上の電界放射型電子源の製造方法を説明する
ための主要工程断面図である。
【図4】同上の電界放射型電子源および比較例のフォト
ルミネッセンス測定による発光スペクトル図である。
【図5】同上の電界放射型電子源および比較例のX線光
電子分光分析法による構成元素の深さ方向分布を示すグ
ラフである。
【図6】同上の電界放射型電子源の電子放出原理の説明
図である。
【図7】同上の電界放射型電子源の比較例の電子放出原
理の説明図である。
【図8】同上の電界放射型電子源および比較例における
酸化過程の説明図である。
【図9】同上の電界放射型電子源および比較例の電子放
出効率の経時変化を示すグラフである。
【図10】同上の電界放射型電子源および比較例の電子
放出特性の説明図である。
【図11】実施形態2の電界放射型電子源の動作説明図
である。
【図12】同上の電界放射型電子源の製造方法を説明す
るための主要工程断面図である。
【図13】同上の他の製造方法により形成した強電界ド
リフト層の昇温脱離分光法による脱離スペクトル図であ
る。
【図14】同上の他の製造方法により形成した強電界ド
リフト層の昇温脱離分光法による脱離スペクトル図であ
る。
【図15】同上の他の製造方法により形成した電界放射
型電子源の電子放出効率の経時変化を示すグラフであ
る。
【符号の説明】
6 強電界ドリフト層 7 表面電極 51 グレイン 52 シリコン酸化膜 63 シリコン微結晶 64 シリコン酸化膜
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 相澤 浩一 大阪府門真市大字門真1048番地松下電工株 式会社内 (72)発明者 幡井 崇 大阪府門真市大字門真1048番地松下電工株 式会社内 (72)発明者 馬場 徹 大阪府門真市大字門真1048番地松下電工株 式会社内 Fターム(参考) 5C127 AA01 BA09 BB16 BB18 CC22 DD77 DD78 DD80 DD82 EE07 EE12 EE20 5C135 AA09 AB16 AB18 DD09 HH07 HH20

Claims (17)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下部電極と、下部電極に対向する表面電
    極と、多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各
    半導体微結晶の表面にそれぞれ形成された多数の絶縁膜
    を含み下部電極と表面電極との間に介在した強電界ドリ
    フト層とを備え、前記各絶縁膜の厚さを電子のトンネリ
    ング現象が発生する膜厚としたことを特徴とする電界放
    射型電子源。
  2. 【請求項2】 前記絶縁膜は、酸化膜よりなることを特
    徴とする請求項1記載の電界放射型電子源。
  3. 【請求項3】 前記絶縁膜は、窒化膜よりなることを特
    徴とする請求項1記載の電界放射型電子源。
  4. 【請求項4】 前記絶縁膜は、酸窒化膜よりなることを
    特徴とする請求項1記載の電界放射型電子源。
  5. 【請求項5】 前記絶縁膜は、酸化膜と窒化膜との積層
    膜よりなることを特徴とする請求項1記載の電界放射型
    電子源。
  6. 【請求項6】 前記絶縁膜は、酸化膜と酸窒化膜との積
    層膜よりなることを特徴とする請求項1記載の電界放射
    型電子源。
  7. 【請求項7】 請求項2記載の電界放射型電子源の製造
    方法であって、前記絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程で
    は、前記各絶縁膜の厚さが電子のトンネリング現象が発
    生する膜厚となるように昇温速度を設定した急速加熱法
    によって半導体微結晶の表面側に酸化膜を形成すること
    を特徴とする電界放射型電子源の製造方法。
  8. 【請求項8】 請求項3記載の電界放射型電子源の製造
    方法であって、前記絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程で
    は、前記各絶縁膜の厚さが電子のトンネリング現象が発
    生する膜厚となるように昇温速度を設定した急速加熱法
    によって半導体微結晶の表面側に窒化膜を形成すること
    を特徴とする電界放射型電子源の製造方法。
  9. 【請求項9】 請求項4記載の電界放射型電子源の製造
    方法であって、前記絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程で
    は、前記各絶縁膜の厚さが電子のトンネリング現象が発
    生する膜厚となるように昇温速度を設定した急速加熱法
    によって半導体微結晶の表面側に酸窒化膜を形成するこ
    とを特徴とする電界放射型電子源の製造方法。
  10. 【請求項10】 請求項6記載の電界放射型電子源の製
    造方法であって、前記絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程
    では、前記各絶縁膜の厚さが電子のトンネリング現象が
    発生する膜厚となるように昇温速度を設定した急速加熱
    法によって半導体微結晶の表面側に酸化膜を形成して更
    に酸化膜の表面側に酸窒化膜を形成することを特徴とす
    る電界放射型電子源の製造方法。
  11. 【請求項11】 前記昇温速度を80℃/sec以上と
    してなることを特徴とする請求項7ないし請求項10の
    いずれかに記載の電界放射型電子源の製造方法。
  12. 【請求項12】 前記昇温速度を150℃/sec以上
    としてなることを特徴とする請求項7ないし請求項10
    のいずれかに記載の電界放射型電子源の製造方法。
  13. 【請求項13】 前記強電界ドリフト層の形成後であっ
    て前記表面電極の形成以前に前記強電界ドリフト層中の
    欠陥を補償するフォーミング処理を行うことを特徴とす
    る請求項7ないし請求項12のいずれかに記載の電界放
    射型電子源の製造方法。
  14. 【請求項14】 前記フォーミング処理は、少なくとも
    とNとからなる混合ガス中で行うことを特徴とす
    る請求項13記載の電界放射型電子源の製造方法。
  15. 【請求項15】 請求項4記載の電界放射型電子源の製
    造方法であって、前記絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程
    では、前記各絶縁膜の厚さが電子のトンネリング現象が
    発生する膜厚となるように昇温速度を設定した急速加熱
    法によって半導体微結晶の表面側に酸化膜を形成する酸
    化膜形成工程と、酸化膜を窒化して酸窒化膜を形成する
    窒化処理工程とを有することを特徴とする電界放射型電
    子源の製造方法。
  16. 【請求項16】 請求項1ないし請求項6のいずれかに
    記載の電界放射型電子源の製造方法であって、前記絶縁
    膜を形成する絶縁膜形成工程では、前記各絶縁膜の厚さ
    が電子のトンネリング現象が発生する膜厚となるように
    電気化学的な方法によって前記各絶縁膜を形成すること
    を特徴とする電界放射型電子源の製造方法。
  17. 【請求項17】 前記絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程
    では、急速加熱法によって絶縁膜を形成する前に電気化
    学的な方法によって絶縁膜を形成することを特徴とする
    請求項7ないし請求項15のいずれかに記載の電界放射
    型電子源の製造方法。
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