JP3678193B2 - 電界放射型電子源の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界放射により電子線を放射するようにした電界放射型電子源の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、下部電極と、下部電極に対向する導電性薄膜よりなる表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在する酸化した多孔質半導体層(多孔質シリコン層、多孔質多結晶シリコン層)よりなる強電界ドリフト層とを備えた電界放射型電子源が提案されている
この種の電界放射型電子源は、例えば、図10に示すように導電性基板としてのn形シリコン基板1の主表面(一表面)側に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。また、n形シリコン基板1の裏面にはオーミック電極2が形成されており、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成している。なお、図10に示す例では、n形シリコン基板1と強電界ドリフト層6との間にノンドープの多結晶シリコン層3を介在させてあるが、多結晶シリコン層3を介在させずにn形シリコン基板1の主表面上に強電界ドリフト層6を形成した構成も提案されている。
【0003】
図10に示す構成の電界放射型電子源10’から電子を放出させるには、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図10中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e-の流れを示す)。なお、表面電極7の厚さは10〜15nm程度に設定されている。
【0004】
ところで、上述の電界放射型電子源10’では、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成しているが、図11に示すように、例えばガラス基板よりなる絶縁性基板11の一表面上に金属材料よりなる下部電極12を形成した電界放射型電子源10”も提案されている。ここに、上述の図10に示した電界放射型電子源10’と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0005】
図11に示す構成の電界放射型電子源10”から電子を放出させるには、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図11中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e-の流れを示す)。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0006】
上述の各電界放射型電子源10’,10”では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図10および図11参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。なお、上述の電界放射型電子源10’,10”では、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、直流電圧Vpsが大きいほどエミッション電流Ieが大きくなる。
【0007】
上述の電界放射型電子源10’,10”の製造プロセスにおいて強電界ドリフト層6を形成するにあたっては、下部電極12上にノンドープの多結晶シリコン層を形成した後に、該多結晶シリコン層を陽極酸化処理にて多孔質化することで多孔質多結晶シリコン層を形成し、多孔質多結晶シリコン層を急速熱酸化法ないし電気化学的な方法によって酸化することにより形成されている。ここに、陽極酸化処理では、電解液中で下部電極12を陽極として陽極と陰極との間に規定の電流密度の電流を流すことによって半導体層である多結晶シリコン層を多孔質化して多孔質多結晶シリコン層を形成している。
【0008】
また、上述の図10に示した電界放射型電子源10’では、n形シリコン基板1上に形成した半導体層である多結晶シリコン層を電解液を用いた陽極酸化処理にて多孔質化しているが、単結晶のn形シリコン基板を半導体層としてn形シリコン基板のうち表面側の部分を陽極酸化処理にて多孔質化してから酸化することでn形シリコン基板の表面側に強電界ドリフト層を形成した電界放射型電子源も提案されている。
【0009】
ところで、上述の陽極酸化処理では、陽極と陰極との間に上記規定の電流密度の電流を所定時間だけ流すことによって半導体層の多孔質化を行っており、陽極と陰極との間の通電の開始時に陽極と陰極との間に流れる電流の電流密度が即時に上記規定の電流密度になるようにしている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の製造プロセスを採用して製造した電界放射型電子源10’,10”では、工業的な利用を考えた場合に寿命が短いという不具合があった。ここにおいて、上述の電界放射型電子源10’,10”の寿命が短い原因としては、多結晶シリコン層を上述の陽極酸化処理にて多孔質化して形成した多孔質多結晶シリコン層の表面に多数の微細な孔による微細な凹凸が形成され、結果的に、強電界ドリフト層6の表面に微細な凹凸が形成されてしまい、強電界ドリフト層6にかかる電界の分布が面内で不均一になって、電界集中部で劣化が加速され寿命が短くなってしまうことが考えられる。
【0011】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、従来に比べて長寿命化が可能な電界放射型電子源の製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、下部電極と、下部電極の一表面側に形成された酸化若しくは窒化若しくは酸窒化した多孔質半導体層からなる強電界ドリフト層と、強電界ドリフト層上に形成された表面電極とを備え、表面電極と下部電極との間に電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源の製造方法であって、前記強電界ドリフト層の形成にあたっては、電解液中で下部電極を陽極として陽極と陰極との間に規定の電流密度の電流を流す陽極酸化処理にて下部電極の前記一表面側の半導体層を多孔質化して多孔質半導体層を形成する陽極酸化処理工程と、多孔質半導体層を酸化若しくは窒化若しくは酸窒化する工程とを備え、前記陽極酸化処理工程では、陽極と陰極との間に電流が流れるように通電を開始し前記電流の電流密度を前記規定の電流密度まで時間の経過とともに次第に増加させ、前記規定の電流密度を、前記規定の電流密度の電流密度まで増加させる時間よりも長い規定時間だけ維持して通電を終了することを特徴とし、前記陽極酸化処理工程では、陽極と陰極との間に電流が流れるように通電を開始し前記電流の電流密度を前記規定の電流密度まで時間の経過とともに次第に増加させ、前記規定の電流密度を、前記規定の電流密度の電流密度まで増加させる時間よりも長い規定時間だけ維持して通電を終了するので、前記陽極酸化処理工程にて形成される多孔質半導体層の最表面近傍での多孔度が低くなり前記陽極酸化処理工程による多孔質半導体層の表面の微細な凹凸の形成を抑制することができ、結果的に強電界ドリフト層の表面ラフネスが従来に比べて小さくなり、電子放出時に強電界ドリフト層の表面の微細な凹凸に起因した電界集中を防止することができるから、従来に比べて寿命の長い電界放射型電子源を提供することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本実施形態で説明する電界放射型電子源10では、導電性基板として抵抗率が導体の抵抗率に比較的近い単結晶のn形シリコン基板(例えば、抵抗率が略0.01Ωcm〜0.02Ωcmの(100)基板)を用いている。
【0014】
本実施形態の電界放射型電子源10は、図3に示すように、導電性基板たるn形シリコン基板1の主表面側に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に表面電極7が形成され、n形シリコン基板1の裏面にオーミック電極2が形成されている。なお、本実施形態では、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成している。したがって、表面電極7は下部電極12に対向しており、下部電極12と表面電極7との間に強電界ドリフト層6が介在している。また、多孔質多結晶シリコン層が多孔質半導体層を構成している。
【0015】
表面電極7の材料には仕事関数の小さな材料が採用され、表面電極7の厚さは10nmに設定されているが、この厚さは特に限定されるものではなく、強電界ドリフト層6を通ってきた電子がトンネルできる厚さであればよく、表面電極7の厚さは10〜15nm程度に設定すればよい。
【0016】
図3に示す構成の電界放射型電子源10から電子を放出させるには、図4に示すように、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図4中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e-の流れを示す)。
【0017】
本実施形態における電界放射型電子源10では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図4参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。なお、本実施形態の電界放射型電子源10では、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、直流電圧Vpsが大きいほどエミッション電流Ieが大きくなる。
【0018】
ところで、本実施形態における強電界ドリフト層6は、図5に示すように、少なくとも、n形シリコン基板1の主表面側(つまり、下部電極12における表面電極7側)に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜である多数のシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。要するに、強電界ドリフト層6は、多結晶シリコン層の各グレインの表面が多孔質化し各グレインの中心部分では結晶状態が維持されている。なお、各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている。
【0019】
したがって、本実施形態の電界放射型電子源10では、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7を真空中に配置し表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21と表面電極7との間にコレクタ電極21を高電位側として直流電圧Vcを印加することにより、直流電圧Vpsが所定値(臨界値)に達すると、下部電極12(n形シリコン基板1)から強電界ドリフト層6へ熱的励起により電子e-が注入される。一方、強電界ドリフト層6に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子e-はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、強電界ドリフト層6におけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図5中の矢印の向き(図5中の上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルして真空中に放出される。しかして、強電界ドリフト層6では下部電極12から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなく、シリコン酸化膜64にかかっている強電界で加速されてドリフトし表面電極7を通して放出され(弾道型電子放出現象)、強電界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができるものと考えられる。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0020】
以下、本実施形態の電界放射型電子源10の製造方法について図1を参照しながら説明する。
【0021】
まず、n形シリコン基板1の裏面にオーミック電極2を形成した後、n形シリコン基板1の主表面(一表面)上に半導体層としてノンドープの多結晶シリコン層3を形成する成膜工程を行うことにより、図1(a)に示すような構造が得られる。なお、多結晶シリコン層3の成膜方法としては、例えば、CVD法(例えば、LPCVD法、プラズマCVD法、触媒CVD法など)やスパッタ法やCGS(Continuous Grain Silicon)法などを採用すればよい。
【0022】
ノンドープの多結晶シリコン層3を形成した後、電解液を用いた陽極酸化処理にて陽極酸化の対象となる半導体層である多結晶シリコン層3を多孔質化する陽極酸化処理工程を行うことにより、多孔質半導体層たる多孔質多結晶シリコン層4が形成され、図1(b)に示すような構造が得られる。ここにおいて、陽極酸化処理工程により形成された多孔質多結晶シリコン層4は、多数の多結晶シリコンのグレイン51(図5参照)および多数のシリコン微結晶63(図5参照)を含んでいる。また、陽極酸化処理工程では、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液からなる電解液の入った処理槽を利用しており、500Wのタングステンランプからなる光源により多結晶シリコン層3の表面に光照射を行いながら下部電極12と白金電極よりなる陰極との間に電流を流すことで多結晶シリコン層3を主表面からn形シリコン基板1に達する深さまで多孔質化している。ここで、下部電極12と陰極との間に流す電流の電流密度は図2に示すように変化させている。すなわち、下部電極12と陰極との間に電流が流れるように通電を開始し電流密度を規定の電流密度I1(例えば、25mA/cm2)まで時間の経過とともに次第に増加させ、規定の電流密度I1の電流を規定時間T2(例えば、3秒)だけ維持して通電を終了している。なお、通電開始から電流密度I1に達する時点までの時間T1(図2参照)は例えば1秒程度に設定すればよい。
【0023】
上述の陽極酸化処理工程の終了した後に、エタノールによるリンスを行ってから、多孔質多結晶シリコン層4を酸化する酸化工程を行うことで多孔質多結晶シリコン層4に含まれている半導体結晶(各グレイン51および各シリコン微結晶63)の表面に上述のシリコン酸化膜52,64を形成することによって、上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64を含む強電界ドリフト層6が形成され、酸化工程の後に後述の熱処理工程を行うことによって、図1(c)に示すような構造が得られる。ここにおいて、酸化工程では、上述の多孔質化工程の終了後にエタノールによるリンスを行ってから、所定濃度(例えば1mol/l=1M)の硫酸水溶液の入った処理槽を利用し、下部電極12と白金電極よりなる陰極との間に定電圧を印加する電気化学的な方法により各グレイン51および各シリコン微結晶63それぞれの表面にシリコン酸化膜52,64を形成する。熱処理工程では、シリコン酸化膜52,64に含まれている水分が突沸しないで除去されるように設定した第1の設定温度および昇温速度(例えば20℃/sec以下)で第1の熱処理を行い、その後、第1の設定温度よりも高くシリコン酸化膜52,64の構造緩和が起こるように設定した第2の設定温度で第2の熱処理を行っている。熱処理工程では、ランプアニール装置を用い、第1の熱処理は、酸素ガス雰囲気(つまり、酸化種を含む雰囲気)中で行っており、第1の設定温度を450℃、熱処理時間を1時間に設定してある。また、第2の熱処理は、酸素ガス雰囲気(つまり、酸化種を含む雰囲気)中で行っており、第2の設定温度を900℃、熱処理時間を20分に設定してある。また、本実施形態では、第2の熱処理として急速熱処理法を採用しており、第1の設定温度から第2の設定温度まで基板温度を上昇させる昇温期間の昇温速度を150℃/secに設定してある(なお、この昇温期間の昇温速度は20℃/sec以上に設定すればよく、150℃/sec以上に設定することが望ましい)。
【0024】
強電界ドリフト層6を形成した後は、金属材料(例えば、金)からなる表面電極7を蒸着法などによって形成することにより、図1(d)に示す構造の電界放射型電子源10が得られる。なお、本実施形態では、表面電極7を蒸着法により形成しているが、表面電極7の形成方法は蒸着法に限定されるものではなく、例えばスパッタ法を用いてもよい。
【0025】
しかして、上述の製造方法によれば、陽極酸化処理工程において、陽極である下部電極12と陰極との間に電流が流れるように通電を開始し電流の電流密度を規定の電流密度I1(図2参照)まで時間の経過とともに次第に増加させるので、陽極酸化処理工程にて形成される多孔質半導体層たる多孔質多結晶シリコン層4の最表面近傍での多孔度が低くなり陽極酸化処理工程による多孔質多結晶シリコン層4の表面の微細な凹凸の形成を抑制することができ、結果的に強電界ドリフト層6の表面ラフネスが従来に比べて小さくなり、電子放出時に強電界ドリフト層6の表面の微細な凹凸に起因した電界集中を防止することができるから、従来に比べて寿命の長い電界放射型電子源10を提供することができる。
【0026】
図6に上述の製造方法にて製造した電界放射型電子源10の電子放出特性の経時変化を測定した結果を示し、図7には陽極酸化処理工程にて通電開始時に即時に上記規定の電流密度I1の電流を流して上記規定時間だけ維持するようにして製造した比較例の電子放出特性の経時変化を測定した結果を示す。電界放射型電子源10および比較例の電界放射型電子源の電子放出特性の測定は、真空チャンバ(図示せず)内に電界放射型電子源10ないし比較例の電界放射型電子源を導入して、上述の図4のように、表面電極7に対向してコレクタ電極21を配置し、表面電極7を下部電極12に対して高電位側として直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21を表面電極7に対して高電位側として直流電圧Vcを印加することによって行った。図6,7は上述の直流電圧Vcを100V一定、上述の直流電圧Vpsを16V一定とし、真空チャンバ内の真空度を5×10-5Paとしたときの電子放出特性の測定結果を示したものであって、各図の横軸は通電開始からの経過時間、左側の縦軸は電流密度、右側の縦軸は電子放出効率であり、「イ」はダイオード電流Ipsの電流密度、「ロ」はエミッション電流Ieの電流密度、「ハ」は電子放出効率を示している。図6,7から、比較例の電界放射型電子源に比べて本実施形態の電界放射型電子源10の方が絶縁破壊に至るまでの経過時間が長く長寿命化を図れていることが分かる。
【0027】
ところで、本実施形態では、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成しているが、絶縁性基板(例えば、ガラス基板、セラミック基板など)の一表面側に金属材料や高濃度ドープされた多結晶シリコン層からなる下部電極12を形成した構成を採用するようにしてもよい。また、n形シリコン基板1を半導体層としてn形シリコン基板の表面側の一部を上述の陽極酸化処理工程にて多孔質化することで多孔質半導体層たる多結晶シリコン層を形成し、該多孔質シリコン層を上述の酸化工程にて酸化するようにしてもよい。
【0028】
また、本実施形態では、強電界ドリフト層6を酸化した多孔質多結晶シリコン層により構成しているが、強電界ドリフト層6を窒化した多孔質多結晶シリコン層や酸窒化した多孔質多結晶シリコン層により構成してもよいし、あるいはその他の酸化若しくは窒化若しくは酸窒化した多孔質半導体層により構成してもよい。なお、強電界ドリフト層6を窒化した多孔質多結晶シリコン層とした場合には多孔質化工程により形成した多孔質多結晶シリコン層を酸化する酸化工程の代わりに多孔質多結晶シリコン層を窒化する窒化工程を採用すればよく、図5にて説明した各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン窒化膜となり、強電界ドリフト層6を酸窒化した多孔質多結晶シリコン層とした場合には多孔質化工程により形成した多孔質多結晶シリコン層を酸化する酸化工程の代わりに多孔質多結晶シリコン層を酸窒化する酸窒化工程を採用すればよく、図5にて説明した各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン酸窒化膜となる。
【0029】
【発明の効果】
請求項1の発明は、下部電極と、下部電極の一表面側に形成された酸化若しくは窒化若しくは酸窒化した多孔質半導体層からなる強電界ドリフト層と、強電界ドリフト層上に形成された表面電極とを備え、表面電極と下部電極との間に電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源の製造方法であって、前記強電界ドリフト層の形成にあたっては、電解液中で下部電極を陽極として陽極と陰極との間に規定の電流密度の電流を流す陽極酸化処理にて下部電極の前記一表面側の半導体層を多孔質化して多孔質半導体層を形成する陽極酸化処理工程と、多孔質半導体層を酸化若しくは窒化若しくは酸窒化する工程とを備え、前記陽極酸化処理工程では、陽極と陰極との間に電流が流れるように通電を開始し前記電流の電流密度を前記規定の電流密度まで時間の経過とともに次第に増加させ、前記規定の電流密度を、前記規定の電流密度の電流密度まで増加させる時間よりも長い規定時間だけ維持して通電を終了することを特徴とし、前記陽極酸化処理工程では、陽極と陰極との間に電流が流れるように通電を開始し前記電流の電流密度を前記規定の電流密度まで時間の経過とともに次第に増加させ、前記規定の電流密度を、前記規定の電流密度の電流密度まで増加させる時間よりも長い規定時間だけ維持して通電を終了するので、前記陽極酸化処理工程にて形成される多孔質半導体層の最表面近傍での多孔度が低くなり前記陽極酸化処理工程による多孔質半導体層の表面の微細な凹凸の形成を抑制することができ、結果的に強電界ドリフト層の表面ラフネスが従来に比べて小さくなり、電子放出時に強電界ドリフト層の表面の微細な凹凸に起因した電界集中を防止することができるから、従来に比べて寿命の長い電界放射型電子源を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態の電界放射型電子源の製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図2】同上の製造方法の説明図である。
【図3】同上の電界放射型電子源の概略断面図である。
【図4】同上の動作説明図である。
【図5】同上の動作説明図である。
【図6】同上の電界放射型電子源の電子放出特性図である。
【図7】同上の比較例を示す電界放射型電子源の電子放出特性図である。
【図8】従来例を示す電界放射型電子源の動作説明図である。
【図9】他の従来例を示す電界放射型電子源の動作説明図である。
【符号の説明】
1 n形シリコン基板
2 オーミック電極
3 多結晶シリコン層
4 多孔質多結晶シリコン層
6 強電界ドリフト層
7 表面電極
10 電界放射型電子源
12 下部電極

Claims (1)

  1. 下部電極と、下部電極の一表面側に形成された酸化若しくは窒化若しくは酸窒化した多孔質半導体層からなる強電界ドリフト層と、強電界ドリフト層上に形成された表面電極とを備え、表面電極と下部電極との間に電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源の製造方法であって、前記強電界ドリフト層の形成にあたっては、電解液中で下部電極を陽極として陽極と陰極との間に規定の電流密度の電流を流す陽極酸化処理にて下部電極の前記一表面側の半導体層を多孔質化して多孔質半導体層を形成する陽極酸化処理工程と、多孔質半導体層を酸化若しくは窒化若しくは酸窒化する工程とを備え、前記陽極酸化処理工程では、陽極と陰極との間に電流が流れるように通電を開始し前記電流の電流密度を前記規定の電流密度まで時間の経過とともに次第に増加させ、前記規定の電流密度を、前記規定の電流密度の電流密度まで増加させる時間よりも長い規定時間だけ維持して通電を終了することを特徴とする電界放射型電子源の製造方法。
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