JP2002193633A - 多孔質光ファイバ母材の製造装置 - Google Patents

多孔質光ファイバ母材の製造装置

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Tadakatsu Shimada
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 VAD法により多孔質母材を製造する装置に
おいて、余剰ガラス微粒子の排出効率を高め、気泡や異
物が少なく、長手方向に光学特性の安定した多孔質母材
の製造装置を提供する。 【解決手段】 回転しつつ引き上げられる出発部材に、
原料ガスの火炎加水分解反応により生成したガラス微粒
子を堆積させて多孔質母材を製造する装置において、火
炎加水分解反応により生成したガラス微粒子の堆積が行
なわれる反応室と、該反応室の上部に堆積によって形成
された多孔質光ファイバ母材3を引き上げ格納するため
の上室5と、少なくとも1本のコア堆積用バーナ11と
を有し、バーナが設置されている側の反応室側壁面の天
井付近に沿ってスリット状の給気口1を有し、この給気
口1と対向する側壁面に排気口2を有することを特徴と
している。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はいわゆるVAD法
で、高品質な光ファイバ母材を安定して製造することの
できる多孔質光ファイバ母材の製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】光ファイバ母材の製造方法として、VA
D法はよく知られている。この方法では、回転しつつ上
昇するシャフトに出発部材を取り付け、反応室内に垂下
し、反応室内に設置されたコア堆積用バーナとクラッド
堆積用バーナにより生成されたガラス微粒子を出発部材
の先端に堆積させて、コア層とクラッド層からなる多孔
質光ファイバ母材(以下、単に多孔質母材と称する)が
製造される。
【0003】生成されたガラス微粒子の出発部材への堆
積効率は100 %にはならず、付着・堆積されなかった余
剰のガラス微粒子が製造の間を通して発生している。こ
の余剰ガラス微粒子の大部分は、排気ガス等の他の気体
とともに反応室に別途設けられた排気口より反応室外に
排出される。しかしながら、バーナで生成されてから排
出されるまでの間に、その一部は反応室の天井や側壁に
付着する。ガラス微粒子の生成は、一般的には原料ガス
としてSiCl4のような塩化物を酸水素火炎中に噴出し、
火炎加水分解反応により行われる。この反応で生じる水
蒸気や塩酸といった排気されるべきガスや出発部材に付
着・堆積されなかった余剰ガラス微粒子は高温状態にあ
り、反応室の上部に設けられた上室に侵入しようとす
る。
【0004】上室は反応室ほど高温にならないので、上
記のようなガスが侵入すると、水蒸気は凝縮して塩酸が
上室の壁面に付着する。上室が金属製である場合には塩
酸によって腐食される。たとえ腐食されにくい物質で上
室が構成されていても、製造後の装置の掃除は困難で厄
介である。さらに、余剰ガラス微粒子が塩酸で湿った壁
面に付着し、製造後の装置の掃除をさらに困難にする。
また、余剰ガラス微粒子は、多孔質母材の表面に細かく
樹形状に成長し、その後のガラス化工程で表面の微小な
突起となり,屈折率分布測定の障害となる。このような
事態を避けるため、一般的に上室の上方から反応室に向
けて、下向きの気流を生じさせるという対策が取られて
いる。このことにより、上室内での余剰ガラス微粒子の
壁面付着はある程度防止できるが、反応室内の天井や壁
面への付着を防止することはできなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来技術による製造方
法は、多孔質母材の製造の後半において、反応室の内壁
に付着・堆積したガラス微粒子が剥離・落下し、反応室
内に飛散したガラス微粒子が製造中の多孔質母材に付着
し、ガラス化後の光ファイバ母材中に気泡や異物を生じ
る原因となることがあった。近年、光ファイバの需要の
伸びとともに低コスト化が要求され、そのために光ファ
イバ母材の大型化が急務となっている。製造する光ファ
イバ母材を大きくするためには当然、原料供給量を増や
す必要がある。原料供給量が増加すると、堆積効率が変
化しなくても余剰ガラス微粒子は増加し、そのため従来
技術では、上述のような反応室の内壁に付着・堆積した
ガラス微粒子が剥離する頻度の上昇は避けられなかっ
た。
【0006】余剰ガラス微粒子の排出効率を高めるため
に、吸排気量を増加させるという方法が挙げられるが、
この方法は、反応室内の気流の乱れが大きくなるため、
ガス流量の少ないコア堆積用バーナの火炎の揺れが大き
くなり、多孔質母材の長手方向にわたる屈折率分布の安
定性が大きく乱される。また、製造する多孔質母材の径
が太くなると、製造開始直後から多孔質母材の成長した
直胴部が上室に入るまでの間は、母材と上室の空隙の変
化が大きくなる。このため上室と反応室との境、すなわ
ち反応室入り口において、上室からの下向きの気流の線
速が従来に比べはるかに大きく変化することになる。
【0007】排出されるべきガスおよび余剰ガラス微粒
子の上昇を十分に抑えるように製造開始直後に調整され
ていたこの気流が、母材の直胴部が上室に入る頃にはコ
アの堆積を乱すほどの強い流れになるという問題があ
る。このような問題を解決するため、特開平9-118537号
公報や特開平11-343135号公報は、付着されなかった余
剰ガラス微粒子の装置外への排出に配慮した装置を記載
している。
【0008】特開平9-118537号公報は、反応室をコア用
とクラッド用とに実質的に分離し、かつ、各反応室に設
けた排気調整ダンパで排気引圧を個別に制御している。
分離されたクラッド用反応室の排気引圧は従来よりも高
く設定され、これによりクラッド用反応室の排気量を増
加させてもコアの堆積を行う火炎は乱されず、安定して
製造できるとしている。しかしながら、この方法は反応
室をコア用とクラッド用に実質的に分離し、排気引圧を
個別に制御するのが困難であり、また、仕切り板の下面
にコア堆積時の余剰ガラス微粒子が付着・堆積し、これ
が剥離落下して従来と同様の問題を生じる可能性を有し
ている。
【0009】特開平11-343135号公報は、反応室のバー
ナ背後の側壁全面から給気し、これと対向する側壁に排
気口を設け、さらに、多孔質母材を挟む両側壁に、多数
のガス噴出し口を有するフローガイド壁を設けた装置を
記載しており、これによって反応室の内壁に付着するガ
ラス微粒子を減らすことができるとしている。しかしな
がら、このような構成の装置は、コア堆積用バーナ周囲
の気流は速く、また乱れており、その結果、コアの堆積
は乱され、多孔質母材の長手方向にわたって安定した屈
折率分布を得ることができない。また、該公報の図1
は、上蓋と駆動軸の空隙から大気が流入するのを防ぐた
めに、上室の上部からシールガスを供給する様子を示し
ているが、上室に反応排気ガスや余剰ガラス微粒子の上
室への侵入を防止するには不十分であった。
【0010】本発明は、VAD法により多孔質母材を製
造する装置において、余剰ガラス微粒子の排出効率を高
め、気泡や異物が少なく、長手方向に光学特性の安定し
た多孔質母材の製造装置を提供することを目的としてい
る。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の多孔質母材の製
造装置は、回転しつつ引き上げられる出発部材に、原料
ガスの火炎加水分解反応により生成したガラス微粒子を
堆積させて多孔質母材を製造する装置において、火炎加
水分解反応により生成したガラス微粒子の堆積が行なわ
れる反応室と、該反応室の上部に堆積によって形成され
た多孔質光ファイバ母材を引き上げ格納するための上室
と、少なくとも1本のコア堆積用バーナとを有し、バー
ナが設置されている側の反応室側壁面の天井付近に沿っ
てスリット状の給気口を有し、この給気口と対向する側
壁面に排気口を有することを特徴としている。なお、反
応室内には、さらに少なくとも1本のクラッド堆積用バ
ーナが設けられている。
【0012】本発明の多孔質母材の製造装置において、
給気口の長辺の幅は反応室の幅の75%以上である。ま
た、排気口の形状は矩形状をなし、その上辺が反応室の
天井から50 mm以内に位置するように設けられ、排気口
の水平方向の幅は、反応室の幅の75 %以上とされる。給
気口からの給気線速は、3m/sec以上20 m/sec以下が好
ましい。この給気口からの給気は給気口前後の差圧によ
り行なわれ、給気口を通過する空気は管理された空気で
ある。ここで管理された空気とは、フィルタを通した反
応室外の空気、あるいはクラス1万以下のクリーンルー
ムの空気とされる。また、上室は実質的に筒状の形状を
有し、上室の上部から下方の反応室に向かう気流を併用
することも好ましい態様であり、その際の反応室と上室
の境界におけるガス流の線速は0.05m/sec以上とするの
が望ましい。
【0013】また、反応室の排気口側の底面に、コア堆
積位置よりも高い高床部を設けると良く、コアの堆積を
安定させることができる。反応室は、給気口と排気口を
有する上部反応室と下部反応室から構成され、上部反応
室の底面に下部反応室に通じる接続口が設けられ、下部
反応室は上部反応室に通じる接続口以外に実質的な排気
口を有していない。
【0014】上部反応室と下部反応室との接続口は、出
発部材の回転軸を中心とし、製造しようとする多孔質母
材の接続口を通過する部分の半径にほぼ50 mmを加えた
値を半径とする円形状、あるいはこの円を給気口側と排
気口側に分けたうちの排気口側の半円とこの半円の弦を
給気口側壁面に投影した辺を対辺とする長方形とを結合
した形状であり、かつ給気口の設けられた壁面以外の壁
面からそれぞれ50 mm以上離れた位置に設けられてい
る。
【0015】下部反応室内にコア堆積用バーナを配置
し、上部反応室内にはクラッド堆積用バーナを配置した
構成とする。また、下部反応室内に、コア堆積用バーナ
に加えてコア加熱用バーナを配置した構成、あるいは下
部反応室内に、コア堆積用バーナに加えて実質的にコア
加熱用バーナの役割も果たすクラッド堆積用バーナを配
置した構成としても良く、このクラッド堆積用バーナに
よるクラッドの堆積は実質的に上部反応室で行われるよ
うに配置する。またコア堆積用バーナを、センターコア
堆積用の第1のコア堆積用バーナとサイドコア堆積用の
第2のコア堆積用バーナで構成してもよい。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の多孔質母材の製造
装置について、図を用いてさらに詳細に説明する。図1
〜4は、本発明の製造装置の正面概略縦断面図であり、
図5,6はこれらの側面図であり、図5はバーナが設置
されている側の側壁面を示し、図6はこれと対向する側
壁面を示している。また、図7は上部反応室の底面を示
し、(a)、(b)はそれぞれ接続口の異なる態様を示
している。なお、図1,2,4は、図7(a)のA−A
線に沿った縦断面図であり、図3は、図7(b)のB−
B線に沿った縦断面図である。さらに、図8は、給気
口、上部反応室と下部反応室を仕切る隔離壁及び高床部
を有していない従来の装置例を示している。
【0017】本発明の製造装置は、図1〜4に示すよう
に、反応室のバーナが設置されている側の側壁面の天井
付近に沿って設けられたスリット状の給気口1と、この
給気口1と対向する側壁面に設けられた排気口2を有し
ている。このような位置に設けられた給気口1から空気
等のガスが給気されると、反応室の天井付近に給気口1
から排気口2に向かうガス流が形成される。そのため、
バーナ火炎で生成されたガラス微粒子のうち多孔質母材
3として堆積されなかった余剰ガラス微粒子の大部分は
上昇し、上記ガス流に乗って速やかに反応室外に排出さ
れる。そのため、余剰ガラス微粒子が反応室の天井およ
び側面に付着・堆積して、これが剥離・落下する可能性
は大幅に小さくなる。
【0018】反応室の天井付近に定常流に近いガス流を
形成するには、給気口1と排気口2の幅は広いほうが良
く、いずれも反応室の幅の75%以上とするのが好まし
い。同様の理由により、排気口2も給気口1同様に反応
室の天井付近に、その上辺が反応室の天井から50mm以内
に位置するように設けるのが好ましい。また、天井付近
に形成されるガス流に乗せて余剰ガラス微粒子を効果的
に反応室外に排出させるには、給気口1における給気線
速を3m/sec以上とするのが好ましい。このガス流は多
孔質母材3に直接あたるため、給気線速が20 m/secを超
えると多孔質母材3がこれに煽られて振動し、長手方向
に均一な屈折率分布が得られなくなるので、給気線速は
20 m/sec以下とするのが好ましい。
【0019】給気口1から供給されるガスとしては、空
気か、あるいは反応に影響を及ぼさない窒素、ヘリウ
ム、アルゴンなどの不活性ガス等が挙げられるが、コス
ト的に空気を使用するのが好ましい。この種の製造装置
においては、内部で生成される塩酸などの有毒なガスが
装置の微小な隙間から反応室外に漏れ出さないように、
反応室内を室外に対して負圧に設定する。これは排気口
2にブロワなどを接続することで得られる。従って、給
気口1から反応室内に外の空気が流入し、ガス流を形成
する。
【0020】また、反応室内外の圧力差を適切に設定す
ることで給気線速を所望の流速に調整することができ
る。しかしながら、給気される空気とともに微小なごみ
が反応室内に搬送されてくると、微小なごみは多孔質母
材3に取り込まれ、異物や損失の原因となる。これを避
けるために、この空気は管理されていることが好まし
い。これに対する本発明のひとつの好ましい形態では、
給気口1に防塵フィルタ4を設置し、微小なごみが反応
室内に流入するのを防いでいる。この防塵フィルタ4と
しては、例えばHEPAフィルタなどが挙げられる。また、
別の好ましい形態では、製造装置をクリーンルーム内に
設置することで、微小なごみを問題ないレベルまで減少
することができる。
【0021】上室5には、形成された多孔質母材3が順
次格納されていくが、この上室5として本発明では筒状
のものを採用した。従来技術では、例えば特開平11-343
135号公報に示されているように、上室の上部からシー
ルガスを導入している。このとき、上室へのシールガス
の導入が大気の反応室内への侵入を防止するためであれ
ば、上室の横断面積に応じてこのシールガスの流量を変
更する必要はない。しかしながら、多孔質母材の大型化
にともない、筒状の上室の径もより太径化が必要とな
る。その場合、反応室で生成される高温のガスや余剰ガ
ラス微粒子が上昇気流に乗って上室内に侵入し、そこで
冷却されて上室の壁面で水蒸気が凝縮し、さらに生成さ
れた塩酸がこの凝縮水に吸収されるため、これが上室内
の掃除を困難にしている。
【0022】従って本発明では、上室5の上方から導入
するガスの流量を増加させて上室内での水蒸気の凝縮を
防止している。すなわち、反応室と上室の境界における
ガス流の線速が、多孔質母材3の製造開始から終了を通
して、0.05 m/sec以上になるように調整することで防止
することができる。ガス流の線速は、ガス流量と上室5
の横断面積、反応室と上室の境界における多孔質母材3
の横断面積から計算で求められる。
【0023】上述したように本発明において上室上部か
ら導入されるガスは、従来技術とは異なり大気の反応室
への侵入を防止するものではない。ここでのガスの導入
は、反応室の給気口からのガスの導入と同様、管理され
たものであれば大気であっても良く、別途準備された圧
縮空気であっても良い。また、反応に影響を及ぼさない
窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスでも差し支
えないが、コスト的に空気が好ましい。
【0024】本発明では、反応室の上部に給気口1から
排気口2へ向かう比較的速い流れを形成しているが、こ
れにより、この流れの下側に循環する流れが発生する。
この循環流がコアの堆積を乱す新たな要因となりうる。
この循環流は、基本的には排気口2の下側の壁面に沿っ
て床に向かう下向きの流れができ、さらに床に沿って給
気口1のある壁面に向かう流れとなり、さらに給気口1
のある壁面に沿って上昇し循環する流れとなる。
【0025】この床に沿った流れがコア堆積用バーナ1
1の火炎を正面から煽ることになり、コアの安定した堆
積を妨げる。これを防止するため、本発明の好ましい形
態では、図1〜4に示すように、排気口側に、コア堆積
位置よりも高い位置に高床部6を設けている。これによ
り、上記の床に沿った流れは、基本的にはコア堆積位置
よりも上部を流れることになり、この循環流によりコア
への堆積が乱されることはなく、安定した堆積が可能と
なる。
【0026】しかしながら、反応室内のガスの流れは非
定常流であり、時折、バーナを挟んだ両側の壁面に沿っ
て下向きの強い流れが突発的に生じ、これがコアの堆積
を乱し、屈折率分布の局所的な変動となることが分かっ
た。これを防止するため、本発明のさらに好ましい形態
では、図1,2,4に示すように、反応室を隔離壁7で
仕切って上部反応室8と下部反応室9で構成し、多孔質
母材3のコア部が貫通する位置に両反応室の接続口10
を設け、下部反応室9にはこの上部反応室8との接続口
10以外に実質的な排気口を有さない構成としている。
両反応室の接続口10は上部反応室8よりも狭い横断面
積を有しており、この隔離壁7は実質的に高床部6の機
能も果たすようになっている。
【0027】このような構成としたことにより、下部反
応室9に、上記循環流や壁面に沿った下向きの強い流れ
が達することはなく、下部反応室内は実質的に気流の淀
んだ状態となり、コア堆積用バーナ11の火炎が気流に
よって乱されることはない。両反応室を仕切る隔離壁7
は、コア堆積位置が下部反応室内に位置するように設け
られている。下部反応室内に設けられたバーナの火炎で
発生するガスや余剰ガラス微粒子は、接続口10を通っ
て上部反応室8に流出し、やがて排気口2から排出され
る。
【0028】本発明のより好ましい形態では、上記接続
口10の位置および大きさも規定される。下部反応室9
を上記気流の淀んだ状態にするためには、接続口10を
大きくしすぎてはならない。特に、多孔質母材3の排気
口側及びこれに隣接する壁面側に大きく開口していると
十分な効果が得られない。好ましい接続口10の例を図
7(a),(b)に示す。図7(a)は図1,2又は図
4の上部反応室8の底面を示し、接続口10が円形状を
なす例である。この接続口10は、出発部材の回転軸を
中心として製造される多孔質母材3の接続口における半
径にほぼ50mmを加えた値を半径とする円に含まれる程度
の大きさとするのが良い。
【0029】図7(b)は、図3の上部反応室8の底面
を示し、接続口10は、上記半円とこの半円の弦を給気
口側壁面に投影した辺を対辺とする長方形とを結合した
長方形状、すなわち一端が半円の長方形状をなしてい
る。上記図7(a),(b)のいずれの場合も、接続口
10は、給気口の設けられた壁面以外の壁面からそれぞ
れ50 mm以上離れた位置に、出発部材の周囲に20 mm以上
の空隙を有するように設ける。これによって下向きの流
れが下部反応室9に流れ込むことがなく、下部反応室内
を上記気流の淀んだ状態とすることができ、コア堆積用
バーナの火炎が乱されることなく十分な効果が得られ
る。
【0030】また、逆に接続口10が小さすぎて、接続
口10を貫通している多孔質母材3の出発部材との空隙
が20 mmより狭くなると、下部反応室内に設けられたバ
ーナの火炎で発生する各ガスや余剰ガラス微粒子がうま
く上部反応室側に流出することができず、下部反応室9
の天井(隔離壁7の下面)や接続口10の内周に余剰ガ
ラス微粒子が付着・成長し、これが剥離して浮遊し、多
孔質母材3に付着して異物や気泡となることがある。さ
らに、接続口10が狭くなると、上部反応室8と下部反
応室9は実質的に分離され、両反応室の圧力差からこの
接続口のわずかな空隙を通る気流が生じ、下部反応室9
に設けられたバーナの火炎を乱すことになる。従って、
本発明の好ましい形態では接続口10と接続口における
多孔質母材との空隙を約50 mmとしている。
【0031】ここまで本発明の製造装置について、主と
して反応室の横断面が長方形をなす装置について説明し
てきたが、本発明はこれに限られず、横断面が円形また
はそれに類するものであっても本発明の範疇に含まれ
る。また、コア堆積用バーナの火炎を乱さない程度であ
れば、下部反応室に給気口を設けても良い。なお、この
ようにして製造された多孔質母材は、脱水、焼結ガラス
化することで光ファイバ母材とされ、必要に応じて線引
に適した太さに細径化してプリフォームとし、これを線
引することで光ファイバとされる。
【0032】
【実施例】(実施例1)図1に示した製造装置は、VA
D法により多孔質母材を製造するものであり、1辺が500
mmの立方体状の反応室の上部に半径130 mmの円柱状の
上室5を有し、反応室の天井の中心と上室5の中心軸が
一致するように接続された反応容器と、回転軸が上室5
の中心軸に一致した上下動自在の回転シャフト(図示を
省略)を有している。図に模式的に示したように、反応
室のバーナが設置された側の壁面の天井から5mm下に
幅480 mm高さ15 mmのスリット状の給気口1が設けら
れ、給気口1と対向する壁面の天井から5mm下に幅48
0 mm高さ200 mmの排気口2が設けられている。
【0033】また、反応室の給気口側には、底面から15
0 mmの高さに、中心がシャフトの回転軸と同心で多孔質
母材の接続口を通過する部分の半径より50 mm大きい半
径の円形の穴の開いた隔離壁7を設け、反応室を上部反
応室8と下部反応室9に分割し、さらに、排気口側の底
部は、隔離壁7と同レベルの高床部6とされている。下
部反応室9には1本のコア堆積用バーナ11と1本のコア
加熱用バーナ12を設置し、上部反応室8には2本のク
ラッド堆積用バーナ13を設置した。
【0034】コア(出発部材)先端での堆積位置は、下
部反応室9の底面から100 mmの高さとした。製造の開始
から終了の間を通して、上室5の上部から300 l/minの
空気を導入し、上室と反応室の境界における気流の線速
を0.09 m/sec以上に維持した。給気口1には防塵フィル
タ4としてHEPAフィルタを設置しており、これによって
反応室外の空気は異物などの原因となるごみが除去され
て反応室内に流入する。製造中、給気口1での給気線速
が5 m/secとなるように、反応室の排気引圧を調整し
た。コア堆積用バーナ11には原料ガスとして、450 ml
/minのSiCl4と25 ml/minのGeCl4を供給した。2本のクラ
ッド堆積用バーナ13には原料ガスとしてそれぞれ1.0
l/min、2.5 l/minのSiCl4を供給した。さらに、各堆積
用バーナとコア加熱用バーナ12にはそれぞれ燃焼ガス
としてH2、助燃ガスとしてO2を供給した。
【0035】このようにしてシングルモード光ファイバ
用多孔質母材を製造したところ、外径が200 mmφでコア
の外径40 mmφの多孔質母材ができ、生産速度は450 g/h
rであった。製造の間を通して、上室内及び反応室内の
天井や壁面への余剰ガラス微粒子の付着・堆積は少な
く、これが剥離し落下するようなことはなかった。また
得られた多孔質母材をガラス化して屈折率分布を測定し
たところ、長手方向で安定しており、優れた光学特性を
有していた。
【0036】(実施例2)本実施例は、図2に示した装
置をクラス1万のクリーンルーム内に設置し、給気口1
に防塵フィルタ4を取り付けなかった例である。バーナ
については、1本のコア堆積用バーナ11と、このコア
堆積用バーナ11に隣接して実質的にコア加熱用バーナ
の役割も果たすクラッド堆積用バーナ14を1本下部反
応室9に設置し、さらに1本のクラッド堆積用バーナ1
3を上部反応室8に設置した。なお、下部反応室9に設
置したクラッド堆積用バーナ14は、クラッド部へのガ
ラス微粒子の堆積が上部反応室内で行われるようにその
位置を調整した。なお、本実施例の図2の装置は、上記
防塵フィルタの有無及びバーナの種類と数を除き、実施
例1の図1に示した装置と同一である。
【0037】図1のコア加熱用バーナ12がないことを
除けば、実施例1と同じガス条件でシングルモード光フ
ァイバ用多孔質母材の製造を行い、外径が200 mmφでコ
アの外径が40 mmφの多孔質母材を製造した。このとき
の生産速度は450 g/hrである。製造中、上室内及び反応
室内の天井や壁面への余剰ガラス微粒子の付着・堆積は
少なく、これが剥離し落下するようなことはなかった。
また得られた多孔質母材をガラス化して屈折率分布を測
定したところ、長手方向で安定しており、優れた光学特
性を有していた。
【0038】(実施例3)図3に示した装置をクラス1
万のクリーンルーム内に設置し、給気口1には防塵フィ
ルタ4を取り付けなかった。さらに、図7(b)に上部
反応室8の底面を模式的に示したように、隔離壁7の接
続口10を、中心を出発部材のほぼ回転軸上とする半径
100 mmの円の半円と、この半円の弦を給気口側壁面に投
影した辺を対辺とする長方形とを結合した長方形状とし
た。また、下部反応室9には、1本のセンターコア堆積
用バーナ15と1本のサイドコア堆積用バーナ16を設
置し、上部反応室8には、1本のクラッド堆積用バーナ
13を設置した。なお、本実施例の図3の装置は、上記
防塵フィルタの有無、接続口の形状及びバーナの種類と
数を除き、実施例1の図1に示した装置と同一である。
【0039】センターコア堆積用バーナ15には原料ガ
スとして、100 ml/minのSiCl4と35ml/minのGeCl4を供給
した。サイドコア堆積用バーナ16には原料ガスとし
て、500 ml/minのSiCl4と60 ml/minのGeCl4を供給し
た。クラッド堆積用バーナ13には原料ガスとして2.5
l/minのSiCl4を供給した。さらに、各堆積用バーナに燃
焼ガスとしてH2、助燃ガスとしてO2を供給した。
【0040】このようにして分散シフト光ファイバ用多
孔質母材を製造したところ、外径が180 mmφでサイドコ
アの上記接続口部での外径が120 mmφの多孔質母材がで
き、生産速度は300 g/hrであった。製造中、上室内及び
反応室内の天井や壁面への余剰ガラス微粒子の付着・堆
積は少なく、これが剥離し落下するようなことはなかっ
た。また得られた多孔質母材をガラス化して屈折率分布
を測定したところ、長手方向で安定しており、優れた光
学特性を有していた。
【0041】(実施例4)本実施例の図4に示す装置
は、下記接続口及びバーナの数と種類を除き、実施例2
の図2に示された装置と同一である。隔離壁7の接続口
10は、出発部材の回転軸を中心とする半径100 mmの円
形に形成されている。また、1本のコア堆積用バーナ1
1を下部反応室9に設置し、上部反応室8にはバーナを
設置しなかった。コア堆積用バーナ11には原料ガスと
して、1.6 l/minのSiCl4と150 ml/minのGeCl4を、さら
に燃焼ガスとしてH2、助燃ガスとしてO2を供給した。
【0042】このようにしてマルチモード光ファイバ用
多孔質母材を製造したところ、外径が140 mmφの多孔質
母材ができ、生産速度は140 g/hrであった。製造の間を
通して、反応室内の天井や壁面への余剰ガラス微粒子の
付着・堆積は少なく、これが剥離し落下するようなこと
はなかった。また、得られた多孔質母材をガラス化して
屈折率分布を測定したところ、長手方向で安定してお
り、優れた光学特性を有していた。
【0043】(比較例1)本比較例の図8に示す装置
は、給気口1及び反応室の排気口側に高床部6を設け
ず、かつ反応室を上部反応室8と下部反応室9に分離す
る隔離壁7を設けなかった以外は、実施例2の図2の装
置と同一である。その他の条件は、実施例2と同じにし
てシングルモード光ファイバ用多孔質母材の製造を行っ
たところ、余剰ガラス微粒子が大量に反応室の天井部に
付着・堆積し、製造半ばでこれが剥離・落下した。製造
された多孔質母材をガラス化したところ、多数の異物や
気泡が認められた。
【0044】
【発明の効果】本発明の多孔質母材の製造装置は、上記
構成としたことにより、付着・堆積されなかった余剰の
ガラス微粒子は、反応室の天井付近を流れるガス流に乗
って速やかに反応室外に排出される。特に、掃除の困難
な上室への余剰ガラス微粒子や水蒸気の侵入が抑制さ
れ、製造後の装置の掃除が容易である。また、余剰ガラ
ス微粒子の多孔質母材への付着・堆積も抑制され、高品
質で安定した多孔質母材を製造することができる。さら
に、反応室内の循環流や壁面に沿った下向きの強い流れ
によって、コア堆積用バーナの火炎が乱されることはな
く、長手方向に安定した屈折率分布が得られる。本発明
の製造装置を使用することにより、高品質で安定した光
学特性を有するステップ型の屈折率分布を持ったシング
ルモード光ファイバ用多孔質母材、センターコアとサイ
ドコアを持った分散シフトファイバ用多孔質母材、放物
線型の屈折率分布を持ったマルチモード光ファイバ用多
孔質母材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例1の製造装置の例を示す概略
縦断面図である。
【図2】 本発明の実施例2の製造装置の例を示す概略
縦断面図である。
【図3】 本発明の実施例3の製造装置の例を示す概略
縦断面図である。
【図4】 本発明の実施例4の製造装置の例を示す概略
縦断面図である。
【図5】 本発明の製造装置の給気口側の壁面を示す概
略正面図である。
【図6】 本発明の製造装置の排気口側の壁面を示す概
略正面図である。
【図7】 本発明の製造装置の上部反応室の底面(隔離
壁)を示し、(a),(b)はそれぞれ異なる態様の接
続口を示している。
【図8】 給気口、上部反応室と下部反応室を仕切る隔
離壁及び高床部を有していない比較例1の装置例を示す
概略縦断面図である。
【符号の説明】
1. 給気口 2. 排気口 3. 多孔質母材 4. 防塵フィルタ 5. 上室 6. 高床部 7. 隔離壁 8. 上部反応室 9. 下部反応室 10. 接続口 11. コア堆積用バーナ 12. コア加熱用バーナ 13. クラッド堆積用バーナ 14. クラッド堆積用バーナ 15. センターコア堆積用バーナ 16. サイドコア堆積用バーナ
フロントページの続き (72)発明者 乙坂 哲也 群馬県安中市磯部2丁目13番1号 信越化 学工業株式会社精密機能材料研究所内 (72)発明者 島田 忠克 群馬県安中市磯部2丁目13番1号 信越化 学工業株式会社精密機能材料研究所内 (72)発明者 平沢 秀夫 群馬県安中市磯部2丁目13番1号 信越化 学工業株式会社精密機能材料研究所内 Fターム(参考) 4G021 EA01 EB14 EB18 EB22 EB26

Claims (17)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 回転しつつ引き上げられる出発部材に、
    原料ガスの火炎加水分解反応により生成したガラス微粒
    子を堆積させて多孔質光ファイバ母材を製造する装置に
    おいて、火炎加水分解反応により生成したガラス微粒子
    の堆積が行なわれる反応室と、該反応室の上部に堆積に
    よって形成された多孔質光ファイバ母材を引き上げ格納
    するための上室と、少なくとも1本のコア堆積用バーナ
    とを有し、バーナが設置されている側の反応室側壁面の
    天井付近に沿ってスリット状の給気口を有し、該給気口
    と対向する側壁面に排気口を有することを特徴とする多
    孔質光ファイバ母材の製造装置。
  2. 【請求項2】 前記反応室内に、さらに少なくとも1本
    のクラッド堆積用バーナを有する請求項1に記載の多孔
    質光ファイバ母材の製造装置。
  3. 【請求項3】 前記給気口の長辺の幅が、反応室の幅の
    75 %以上である請求項1または2に記載の多孔質光ファ
    イバ母材の製造装置。
  4. 【請求項4】 前記排気口の形状が矩形状をなし、その
    上辺が反応室の天井から50mm以内に位置するように設け
    られている請求項1乃至3のいずれかに記載の多孔質光
    ファイバ母材の製造装置。
  5. 【請求項5】 前記排気口の水平方向の幅が、反応室の
    幅の75 %以上である請求項1乃至4のいずれかに記載の
    多孔質光ファイバ母材の製造装置。
  6. 【請求項6】 前記給気口からの給気線速が、3m/sec
    以上20 m/sec以下である請求項1乃至5のいずれかに記載
    の多孔質光ファイバ母材の製造装置。
  7. 【請求項7】 前記給気口からの給気が、給気口前後の
    差圧により行なわれ、給気口を通過する空気が管理され
    た空気である請求項1乃至6のいずれかに記載の多孔質光
    ファイバ母材の製造装置。
  8. 【請求項8】 前記管理された空気が、フィルタを通し
    た反応室外の空気である請求項7に記載の多孔質光ファ
    イバ母材の製造装置。
  9. 【請求項9】 前記管理された空気が、クラス1万以下
    のクリーンルームの空気である請求項7に記載の多孔質
    光ファイバ母材の製造装置。
  10. 【請求項10】 前記上室が実質的に筒状の形状を有
    し、反応室と上室の境界におけるガス流の線速が0.05 m
    /sec以上である請求項1乃至9のいずれかに記載の多孔
    質光ファイバ母材の製造装置。
  11. 【請求項11】 前記反応室の底面が、コア堆積位置よ
    りも高い高床部を有し、該高床部が排気口側の底面に設
    けられている請求項1乃至10のいずれかに記載の多孔質
    光ファイバ母材の製造装置。
  12. 【請求項12】 前記反応室が、前記給気口と排気口を
    有する上部反応室と下部反応室から構成され、上部反応
    室の底面に下部反応室に通じる接続口が設けられ、該下
    部反応室が上部反応室に通じる接続口以外に実質的な排
    気口を有していない請求項1乃至11のいずれかに記載
    の多孔質光ファイバ母材の製造装置。
  13. 【請求項13】 前記上部反応室と下部反応室との接続
    口が、製造しようとする多孔質光ファイバ母材の接続口
    を通過する部分の半径に約50 mmを加えた値を半径とし
    前記出発部材の回転軸を中心とする円形状、あるいはこ
    の円の給気口側壁面に平行な直径とこの直径を給気口側
    壁面に投影した辺を辺とする長方形とこの円を結合した
    形状からなり、かつ給気口の設けられた壁面以外の壁面
    からそれぞれ50 mm以上離れている請求項12に記載の
    多孔質光ファイバ母材の製造装置。
  14. 【請求項14】 前記下部反応室内にコア堆積用バーナ
    が配置され、上部反応室内にクラッド堆積用バーナが配
    置されている請求項12又は13に記載の多孔質光ファ
    イバ母材の製造装置。
  15. 【請求項15】 前記下部反応室内に、コア堆積用バー
    ナに加えてコア加熱用バーナが配置されている請求項1
    4に記載の多孔質光ファイバ母材の製造装置。
  16. 【請求項16】 前記下部反応室内に、コア堆積用バー
    ナに加えて実質的にコア加熱用バーナの役割も果たすク
    ラッド堆積用バーナを配置し、該クラッド堆積用バーナ
    によるクラッドの堆積が実質的に上部反応室で行われる
    請求項12乃至14のいずれかに記載の多孔質光ファイ
    バ母材の製造装置。
  17. 【請求項17】 前記コア堆積用バーナが、センターコ
    ア堆積用の第1のコア堆積用バーナとサイドコア堆積用
    の第2のコア堆積用バーナで構成されている請求項1又
    は請求項14乃至16のいずれかに記載の多孔質光ファ
    イバ母材の製造装置。
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