【発明の詳細な説明】
紡糸可能な、等方性のセルロース溶液を調製する方法
本発明は、セルロース、リン酸及び/又はその無水物、及び水からなる成分9
4〜100重量%を含有する紡糸可能な、等方性セルロース溶液を調製する方法
に関し、該溶液はリン酸を含有する溶媒中にセルロースを溶解することにより得
られる。
そのような方法は、ドイツ国特許公報第263 810号より知られ、それは
短繊維(リンタ)セルロースを85〜90%のH3PO4中に溶解することを記載
する。セルロースの溶解は他の薬剤、例えば氷酢酸、及びエタノール又はそれら
の同族体等、を添加することにより容易にすることができる。均一な溶液を得る
のに要する時間は、合計で数時間である。該溶液は、例えば人絹を紡糸するため
に用いることができる。
該製造方法は、ソヴィエト連邦特許第1348396号及びソヴィエト連邦特
許第1397456号より知られる。
これらの刊行物には、80〜85%H3PO4中へのセルロースの溶解の種々の例
が挙げられている。これらの刊行物は、溶解工程が数時間(又はその数倍)かか
ること、及び工程の間にセルロースの重合度(DP)のかなりの減少が有り得る
ことを示す。該溶液は、ファイバー又はフィルムを作るために用いることができ
る。
驚くことには、均一で、紡糸可能な、等方性のセルロース溶液を得ることがで
きる単純な方法が見出された。
本発明は、既知の方法を用いて、セルロースが、溶媒中の水及びリン酸の合計量
に基づいて計算して、68〜85重量%の五酸化二リンを含む溶媒に溶解される
ことからなる。溶液は、室温で放置した状態において複屈折性で無く、等方性で
あると考えられる。
紡糸可能な溶液は、押出し、凝固及び巻き取りによりファイバー又はフイラメン
トに転化されるのに適する溶液である。
本明細書において、用語、リン酸は総てのリンの無機酸及びそれらの混合物を
指す。オルトリン酸は、5価のリンの酸、すなわちH3PO4である。その無水の
同等物、すなわち無水物は五酸化二リン(P2O5)である。オルトリン酸および
五酸化二リンに加えて、系の水分量に依存して、五酸化二リンとオルトリン酸と
の間の水結合容量を有する一連の5価のリンの酸、例えばポリリン酸(H6P4O13
、PPA)等がある。
溶媒のリン含有量は、溶媒中のリン酸の重量を、付随する無水物と残りの水の
当量重量に変換することにより決定される。このように変換されたオルトリン酸
は、72.4重量%の五酸化二リンと残りの水からなり、H6P4O13は84重量
%の五酸化二リンと残りの水からなる。
溶媒中の五酸化二リンの重量%の計算は、溶媒中のリン酸の無水物を含むリン酸
の合計量と水の合計量から始めて、酸を五酸化二リンと水とに変換し、そして五
酸化二リンからなる合計重量%を計算する。
本記載において、セルロースから又は他の成分の一部である物質から導かれる水
及び溶液を得るために添加する水は、溶媒中の五酸化二リンの重量%の計算に含
まれていない。セルロースのより速い溶解を達成するために、溶媒は好ましくは
、72〜80重量%の五酸化二リンを含む。
溶液中の五酸化二リンの重量%の計算は、溶媒中のリン酸の無水物を含むリン
酸の合計量と水の合計量から始めて、酸を五酸化二リンと水とに変換し、そして
五酸化二リンからなる合計重量%を計算する。このため、本記載において、セル
ロースから又は他の成分の一部である物質から導かれる水及び溶液を得るために
添加する水は、溶液中の五酸化二リンの重量%の計算に含まれる。
溶液中のセルロースの重量%は、溶液中の総ての成分の合計量から始めて、計
算する。
リン酸により誘導体化されたセルロースは、溶液の94〜100%を占める成
分に包含される。
リン酸により誘導体化されたセルロースの場合、本明細書に記載されている溶液
中のセルロースの重量%は、セルロース自体に戻って計算した量を指す。このこ
とは、本明細書において言及されているリンの量に同様に適用される。
水、リン酸及び/又はその無水物、並びにセルロース及び/又はリン酸とセル
ロースの反応生成物に加え、他の物質も溶液中に存在し得る。
溶液は4つの群:セルロース、水、リン酸の無水物を含むリン酸、及びその他の
成分、に分類可能な成分を混合する
ことによって調製することができる。「その他の成分」は、セルロース溶液、リ
ン酸以外の溶媒、又は補助剤(添加物)、例えばセルロースの分解に可能な限り
対抗するためのもの、又は染料及びその他、の加工性に益するものであってよい
。
好ましくは、溶液はセルロース、リン酸及び/又はその無水物、並びに水から
なる成分96〜100重量%からなる。
好ましくは、リン酸以外の溶媒は用いず、且つ補助剤又は添加物は溶液全体の重
量に対して0〜4重量%の量でのみ存在する。可能な限り低い量の、成分のセル
ロース、リン酸及び/又はその無水物、並びに水以外の物質、すなわち0〜1重
量%の添加物を含む溶液がより好ましい。
本発明に従う紡糸可能な、等方性の溶液は、該溶液が20重量%未満のセルロ
ースを含む場合に得ることができる。本発明に従う方法を用いることにより、溶
液中のセルロース濃度と溶液中の五酸化二リンの重量%との間に明瞭な連携が存
在するところの等方性のセルロース溶液を得ることができる。
例えば、セルロース濃度4.8重量%の紡糸可能な、等方性の溶液は、58〜7
5重量%の五酸化二リンを含むときに得ることができる。セルロース濃度7.6
重量%の紡糸可能な、等方性の溶液は、59〜71重量%の五酸化二リンを含む
ときに得ることができる。セルロース濃度11.4重量%の紡糸可能な、等方性
の溶液は、61〜69重量%の五酸化二リンを含むときに得ることができる。セ
ルロー
ス濃度17.1重量%の紡糸可能な、等方性の溶液は、63〜65重量%の五酸
化二リンを含むときに得ることができる。
本出願人の未公開の国際出願第96/06208号に記載したように、五酸化二
リンを65〜80重量%含む溶媒にセルロースを溶解させて得られる溶液では、
異方性が観察され得る。
20重量%未満のセルロースを含む溶液の異方性特性は、とりわけ該溶液中の五
酸化二リンの濃度に依存する。
例えばセルロース濃度7.6重量%の異方性溶液は、溶液が71〜75重量%の
五酸化二リンを含むときに得ることができる。セルロース濃度11.4重量%の
異方性溶液は、溶液が69〜76重量%の五酸化二リンを含むときに得ることが
できる。セルロース濃度17.1重量%の異方性溶液は、溶液が65〜79重量
%の五酸化二リンを含むときに得ることができる。
本発明に従う紡糸可能な、等方性の溶液は、適切な混合及び/又は混練機器中
において、68〜85重量%の五酸化二リンを含む溶媒にセルロースを添加する
ことによって得ることができる。本発明に従う方法の好ましい実施態様において
は、溶媒又はセルロース及び溶媒により形成される混合物に追加の水が、セルロ
ースと溶媒とを合せる前、間又は後に添加される。追加の水は他の成分と組み合
わせて、例えば他の溶媒中に存在する水として、例えば追加のリン酸の添加によ
り、添加してもよい。
セルロース及び/又は他の成分、例えば追加の水等、の添加に先立ち、溶媒は、
リン酸と溶媒中に存在する他の何らかの成分との均一な混合物でなければならな
いことが見出された。該均一な混合物は、例えば溶媒の総ての成分を高められた
温度で混合し、且ついくらかの時間、溶媒を加熱し続けることによって得られる
。セルロース濃度7〜20重量%の等方性の紡糸可能な溶液は、溶媒に又はセル
ロース及び溶媒により形成される混合物に、セルロースと溶媒とを合せる丁度前
、間又は後に、追加の水を添加すれば、得ることができる。
本発明に従うセルロース濃度7〜20重量%の等方性の紡糸可能な溶液は、本
出願人の未公開の国際出願第96/06208号に記載したような方法で、溶液
中の五酸化二リンの濃度を低減することによって、例えば異方性の溶液に水を加
えることによって、異方性のセルロース溶液から得ることができることがさらに
見出された。
未公開の国際出願第96/06208号に記載したように、主としてリン酸を
含む溶媒へのセルロースの溶解は、セルロースの外表面上の不透過性の塗膜の形
成により妨げられ/遅延される。国際出願第96/06208号には、この問題
に対する種々の解決法、例えば高速で且つ完全にセルロースと溶媒を混合するこ
と、又は粉体化されたセルロース、又は小さいセルロースチップの使用等、が言
及されている。
この問題は、異方性セルロース溶液(それは、溶液中に比
較的高いセルロース濃度を有する)の調製だけでなく、等方性のセルロース溶液
の調製においても起こることが見出された。国際出願第96/06208号にお
いて提唱された、この問題に対する可能な答えは、等方性の溶液の調製に際して
も使用に適することが見出された。
好ましくは、セルロース及びリン酸を含む溶媒は、装置の混合及び混練部材に
より生じる剪断力の結果、1以上の添加される成分の激しい混入が起こり得る装
置内、例えば高剪断混合機、で合わされる。高剪断混合機の例、例えば当業者に
知られているものは、Linden−Zニーダー、IKA−二重式ニーダー、C
onterna−ニーダー又は二軸押出機を含む。
リン酸を含む溶媒及びセルロースが、混合及び混練機内で合わされた後、該セ
ルロースと溶媒とが混合され、そしてセルロースが溶解する。混合の度合いは、
セルロース外表面上の不透過性の塗膜の形成によって、セルロースの溶解が低下
しすぎないような程度でなければならない。セルロースの溶解は温度を下げるこ
とにより遅くし得る。本発明に従う好ましい方法においては、セルロースと溶媒
とが装置内で合わされ、該装置の、セルロースと溶媒が合わされる部分の温度が
45℃未満、好ましくは5〜20℃である装置内で合わされる。他の好都合な実
施態様においては、セルロースと合わされる前の溶媒が、温度が25℃未満である
ように冷却される。該冷却は、好ましくは、例えば冷凍法によって溶媒の結晶化
が起こら無いように行われる。
あるいは、溶媒の結晶化は、セルロースと溶媒とを高速で合せることにより阻止
することができる。
本発明に従う好ましい方法においては、装置の構造は、混合及び混練の間、出
発物質及び形成される溶液が、溶媒とセルロースとが合わされる通路から溶液が
装置から去る通路へと運ばれるようになっている。そのような装置には、LIS
T−ミキサー、二軸押出機、IKA−Zニーダー、及びConternaニーダーが含ま
れる。
該装置においては、装置内に存在する物質が運ばれる方向で、異なるゾーンを
区別することができる。供給されたセルロースと溶媒との混合及び減少は、主と
して第1のゾーンで起こる。続くゾーンでは、セルロースの溶解をも主として起
こる。次のゾーンは、主として調製された溶液を保持し、それがさらに均一化さ
れ及び未溶解のセルロースと混合される。所望であれば、溶液を脱ガスすること
もできる。
そのような装置においては、セルロースの溶解及び調製される溶液の特性は種
々のゾーンについて選択された温度により影響され得る。
第1ゾーンの温度を30℃未満、好ましくは5〜20℃に選択することにより、セル
ロースの溶解を遅くすることができる。温度を上げることにより、例えば後続の
ゾーンにおいて、セルロースの溶解が促進される。なおここで、セルロースの溶
解及び溶媒とセルロースとを合せることは、放熱しながら行ってもよい。
セルロース溶液のDPは、混合及び混練装置の、主としてセルロースが溶液内
に存在するゾーンの温度及び滞留時間を選択することにより制御することができ
る。一般則として、温度が高い程、及び当該温度における滞留時間が長い程、セ
ルロースのDPはより減じられる。さらに、出発物質のDPが、ある温度及び滞
留時間におけるDPの減少に影響を及ぼし得る。
装置内の物質と装置自体との間熱移動は、通常理想的なやり方では進行しないの
で、装置内の物質と装置自体との間に温度差が生じ得る。
装置は、調製された溶液が、脱ガスされる、例えば減圧されたゾーンを通過す
ることによる、ゾーンを有していることができる。このゾーン中又は別個のゾー
ン中で、水又は他の成分を調製された溶液から抽出し、あるいは該溶液に添加す
ることができる。
調製された溶液を装置内で又は装置から出る際に濾過して、細かい未溶解の粒
子を溶液から除去することができる。得られた溶液は、高粘度である。それは直
接用いることができるが、低温、例えば−20〜10℃で、ある期間保存することが
できる。一般則として、溶液について所望される保存期間が長い程、より低い温
度が選ばれる。
より低い温度で、一定期間保存された場合には、得られた溶液が、例えば結晶化
により固化し得ることに注意しなければならない。固化した物質塊を加熱するこ
とで、高粘度の溶液が再び得られる。
上述の調製方法により、セルロースのDPの制御された減少を有するセルロー
ス溶液を、短期間のうちに作ることができる。例えば、セルロース溶液を、セル
ロースチップ及びリン酸を含む溶媒から15分内及びより短い時間内で作ること
ができる。この期間は、溶液を調製するところのより高い温度を選択することに
よりさらに短くすることができる。
本発明に従う溶液の調製のために、入手可能な総てのタイプのセルロース、例
えばアーボセル(Arbocell 商標)BER600/30、アーボセル(商標)L600/30、バ
ッキー(Buckeye(商標)) V5、バッキー(商標)V60、バッキー(商標)V65、
ビスコクラフト(Viscokraft(商標))及びユーカリプタス(Eucalyptus(商標))
セルロース(これら総てのタイプは当業者に知られている)を用いることができ
る。セルロースは、シート、ストリップ、スクラップ、チップ又は粉体を含む広
汎な形態で供給されることができる。セルロースを供給することができる形態は
、混合及び混練装置への導入により限定される。使用されるセルロースが装置に
導入できない形状であるときには、それは、公知の方法、例えばハンマーミル又
はシュレッダーを用いて、装置外で小さくされなければならない。
所望する無水物変換の酸量を含む溶媒を得るために、種々のリン酸の混合物が
用いられる場合には、該酸を混合した後に、30〜80℃の温度までに加熱し、及び
該溶媒が1/2〜12時間加熱され続けることが好ましい。ある場合には、
採用する酸に依存して、他の時間及び/又は温度が好ましい。例えば、不規則性
が無い非常に均一な溶液は、40〜60℃の温度でオルトリン酸を溶融して、それに
所望する量のポリリン酸を加え、次いで全体を混合し、約20℃までに冷却して得
られる溶媒を用いて得ることができる。
一の適切な方法によれば、溶媒はある時間、例えば30分〜数時間、30〜70℃の
温度で、セルロースと合される前に、放置される。
他の非常に好適な方法によれば、低い及び高い酸濃度において、局所的なばらつ
きが生じないように激しく攪拌され、及び、任意に少量の補助剤又は他の成分の
存在下で、セルロースが添加される。上述したように、セルロースの添加前、間
、又は後に、追加の水も、溶媒又は調製されたセルロースと溶媒との混合物に添
加することができる。
好ましくは、調製の間、溶媒は結晶化しない。
水、リン酸及び/又はその無水物、ならびにセルロース及び/又はセルロース
とリン酸との反応生成物に加え、溶液中に他の成分が存在してもよい。
これらの成分は、溶媒がセルロースと合される前に溶媒に添加されてもよい。又
は、他の成分は、溶媒がセルロースと合される前にセルロースに添加されてもよ
い。さらに、他の成分は、溶媒とセルロースとが合されるときに添加されてもよ
い。そして、もちろん、他の成分は、溶媒とセルロースとが混合された後に添加
されてもよい。
本発明に従う方法が採用されるときには、溶液は、少なく
とも 0.02重量%のセルロースに結合されたリンを含むことが見出された。セル
ロースの添加の直前に、添加と同時に又は添加の短時間後に、溶媒に少量の水を
添加することにより、セルロースに結合したリンの濃度が少ない溶液が得られる
ことも見出された。
溶液が調製され及び貯蔵される温度は、セルロースに結合したリンの濃度に影響
を及ぼす。一般則として、調製及び/又は貯蔵の間の温度が高い程、セルロース
に結合したリンの濃度が高くなる。
さらに、溶媒中の五酸化二リンの濃度は、セルロースに結合したリンの濃度に影
響を及ぼすことも見出された。一般則として、溶媒中の五酸化二リンの濃度が高
い程、セルロースに結合したリンの濃度が高くなる。
使用されるべきセルロースは、90%を超える、より特には95%を超えるα量を有
することが好ましい。溶液から、良好なファイバーを紡糸するためには、高いα
量を有するいわゆる溶解パルプ、例えば産業及び織布用途のファイバーの製造に
用いられるような物、の使用が推奨される。好適なタイプのセルロースには、ア
ルファセル(Alphacel(商標))C−100、アーボセル(商標)BER600/30、バッ
キー(商標)V65、バッキー(商標)V5、バッキー(商標)コットン リンター
ズ、及びビスコクラフト(商標)が含まれる。本明細書の下記に開示する方法に
よって決定されるように、セルロースのDPは250〜6000、好ましくは500〜5000
の範囲が好都合である。一般則として、溶液の紡糸可能性は、
溶液の調製において高いDPのセルロースを使用することにより向上される。
当業者に周知であるように、セルロースの溶解の間に、DPが減少される。その
結果、溶液中のセルロースDPは、出発物質のDPよりも低くなる。
市販の形態のセルロースは、通常いくらかの水(約5重量%)を含み、何ら問
題無くそれ自体として用いることができる。もちろん、乾燥セルロースを用いる
ことも可能であるが、必須ではない。
本発明は、等方性の、紡糸可能な、セルロース溶液にも関し、それは上述した
方法を用いて、特に好都合な方法で得ることができる。このことは、特に、5〜
20重量%、より好ましくは10〜20重量%のセルロース濃度及び60〜71重量%、よ
り好ましくは63〜71重量%の五酸化二リン含量を有する等方性の紡糸可能な溶液
について、及び8重量%未満のセルロース濃度及び60〜80重量%、より好ましく
は71〜80重量%の五酸化二リン含量を有する等方性の溶液について成立する。
等方性のセルロース溶液は、種々の用途に用いることができる。例えば、(中
空)ファイバー、膜、不織布、フィルムの製造において、及びセルロースを含む
溶液の他の既知の用途に用いることができる。加えて、該溶液はセルロース誘導
体の製造に使用することができる。
測定方法
等方性/異方性の決定
等方性又は異方性の目視による決定を、偏光顕微鏡(LeizOrthoplan−Pol(100×
))を用いて行った。このために、約1OOmgの決定されるべき溶液を2枚のスライ
ドに配置し、Mettler FP82ホットステージ板上に置き、その後、加熱を開始して
、約5℃/分の速度で試料を加熱した。異方性から等方性への転移、すなわち、
着色から(複屈折性)、黒への転移、において、実質的な黒の時点で温度を読み
取った。転移温度をTniで表す。
相転移の間の目視による評価を、顕微鏡上に設置した感光性のセルを用いた強度
測定と比較した。この強度測定のために、10〜30μmの試料をスライド上に、交
叉された偏光板を採用したときに、何らの色も見えないように配置した。上記の
とおりに加熱した。感光性セルを記録系に接続し、それを、強度を時間の関数と
して記述するために使用した。ある一定の温度(溶液ごとに異なる)より上で、
強度の直線的な減少があった。この線の強度0までの外挿により、Tni を得た
。見出された値は、総ての場合、上記方法で見出された値と良く一致することが
示された。
本発明に従う溶液は室温で等方性である。このことは、Tniが25℃未満であるこ
とを意味する。しかし、溶液が等方性/異方性の転移を示さない可能性がある。
DPの決定
セルロースの重合度(DP)を、ウベローデ1型(k=0.01)
を用いて決定した。このために、測定されるべきセルロース試料を中和後、50℃
で16時間真空乾燥し、又はセルロース中の水分量を考慮して銅(II)エチレンジ
アミン/水混合物中の水分量を補正した。このようにして、0.3%のセルロース
を含む溶液を、銅(II)エチレンジアミン/水混合物(1/1)を用いて、調製
した。
得られた溶液について、粘度比(ηrel)を決定し、この値から極限粘度(η)
を、下式に従い求めた:
ここで、c=溶液のセルロース濃度(g/dl)及び
k=定数=0.25である。この式から、重合度DPを以下のようにして決定した:
又は
上述したようにして進行したセルロースのDPの決定は、以下の処理の後に行っ
た:
ウエアリング(Waring)ブレンダー(1リットル)に、20gの溶液を入れ、4OOm
lの水を加え、最高の設定にて、全体を10分間混合した。得られた混合物を篩に
移し、水で
十分に洗浄した。最後に2%NaHCO3溶液で、数分間中和し、その後水で約pH7
になるまで洗浄した。得られた物質のDPは上述したように、銅.(II)エチレ
ンジアミン/水混合物(1/1)の調製から出発して、決定した。
リン濃度の決定
溶液中又は該溶液を用いて作ったセルロース生成物中の、セルロースに結合した
リンの量は300mgのセルロース溶液を凝固して、及び50℃で16時間の十分な
洗浄の後、真空乾燥し、次いで密封試料容器に保存し、そして分解フラスコ中で
5mlの濃硫酸と、1000mg/lのイットリウムを含むイットリウム溶液0.
5mlと混合することによって定めることができる。セルロースは加熱により炭化
される。炭化の後、透明な溶液が得られるまで、混合物に過酸化水素水を2ml
ずつ加える。溶液を冷却後、水を加えて体積50mlにする。ICP−ES(誘
導プラズマ−発光スペクEロメトリ)を用いて、測定されるべき溶液中のリン濃
度を、それぞれ100、40、20、及び0mg/lのリンを含む参照試料を使
用して定めたリンの検量線を用いて、下式に従い求める。
リン濃度(%)=(PCONC(mg/l)*50)/(Cw(mg/l)*10)
ここで、PCONC=測定される溶液中のリン濃度及び
Cw =凝固され及び洗浄されたセルロースの秤
り採られた重さ
イットリウムは、溶液の粘度のばらつきを校正するための
内部標準として加える。リン濃度は、波長213.6nmで測定し、内部標準は
波長224.6nmで測定する。
本発明は、以下の実施例を参照して詳細に説明される。特に規定しない限り、付
記の特性を有する以下の出発物質が実施例における溶液を調製するのに使用され
た。
*PPA=ポリリン酸
実施例
実施例1
15.4gのBuckeye Cotton Linters(DP=5900)を、20℃で、五酸化二リンを含
む溶媒中に溶解した。この溶媒は、238.3gのオルトリン酸と54.7gのポリリン酸
を、50℃で30分間、混合及び混練して得た。20℃で攪拌しながらセルロー
スを添加してから10分後、粘性な等方性の溶液が得られ、その溶液は顕微鏡で
未だに判別できる未溶解の粒子を含んだ。20℃で72分間混合した後、均一な
、紡糸可能な等方性の溶液が得られた。セルロースのDPは
850であった。
このようにして、73.6重量%の五酸化二リンを含む溶媒から出発して、73
.4重量%の五酸化二リン及び4.7重量%のセルロースを含む等方性の、紡糸
可能な溶液が得られた。
実施例2
13.1gの粉末セルロース(DP=2300)を、20℃で、五酸化二リンを含む溶媒
中に溶解した。この溶媒は、199.2gのオルトリン酸と48.8gのポリリン酸を、5
0℃で40分間、混合及び混練して得た。20℃で攪拌しつつセルロースを添加
してから27分後、粘性な等方性の溶液が得られ、その溶液は顕微鏡で未だに判
別できる未溶解の粒子を含んだ。20℃で67分間混合した後、均一な紡糸可能
な等方性の溶液が得られた。
このようにして、73.7重量%の五酸化二リンを含む溶媒から出発して、73
.5重量%の五酸化二リン及び4.8重量%のセルロースを含む等方性の、紡糸
可能な溶液が得られた。
実施例3
ニーダー中で、199.8gのオルトリン酸と54.8gのポリリン酸を、45℃で、30
分間混合及び混練して溶媒を調製した。他の実験のために、ニーダーから60.7g
の溶媒を取り出し、残りを18℃まで冷却した。これに、32.8gの水
及び、1分間混練及び混合した後、49.8gの粉末セルロース(DP=700)を加えた。
18℃で、60分間混合及び混練した後、セルロースは完全に溶解し、そして均
一な、紡糸可能な等方性の溶液が得られた。このようにして、74.0重量%の
五酸化二リンを含む溶媒から出発して、62.6重量%の五酸化二リン及び17
.1重量%のセルロースを含む等方性の、紡糸可能な溶液が得られた。
実施例4
ニーダー中で、122.7gのオルトリン酸と34.0gのポリリン酸を、50℃で、45
分間、混合及び混練して溶媒を調製した。溶媒を18℃まで冷却した。これに、
31.0gの水及び、1分間混練及び混合した後、25.6gの粉末セルロース(DP=700)を
加えた。18℃で、78分間混合及び混練した後、セルロースはほとんど完全に
溶解し、そして均一な、紡糸可能な等方性の溶液が得られた。このようにして、
74.0重量%の五酸化二リンを含む溶媒から出発して、61.4重量%の五酸
化二リン及び11.4重量%のセルロースを含む等方性の、紡糸可能な溶液が得
られた。
実施例5
Linden ニーダーの内容物、70.4重量部のポリリン酸(84重量%の五酸
化二リン)に、18℃で、17.6重量部の水と12重量部の粉末セルロース(DP=70
0)とを加えた。ニーダーの内容物を、1.8℃で、激しく混合及び混
練した。30分後、均一な、紡糸可能な等方性のセルロース溶液が得られた。こ
のようにして、84.0重量%の五酸化二リンを含む溶媒から出発して、66.
7重量%の五酸化二リン及び11.4重量%のセルロースを含む等方性の、紡糸
可能な溶液が得られた。
実施例6
ニーダー中で、72.2gのオルトリン酸と16.6gのポリリン酸を、45℃で、45分
間、混合及び混練して、溶媒を調製した。次いで、溶媒を10℃まで冷却した。
これに16gのセルロース粉末(DP=700)を加えた。20℃で、10分間、混練及び
混合後、セルロースは完全に溶解した。この均一な溶液に、293.4gのH3PO4(
80%)を加えた。
数時間混合後、74.5重量%の五酸化二リンを含む溶媒から出発して、61.
7重量%の五酸化二リン及び3.8重量%のセルロースを含むところの均一な、
紡糸可能な等方性のセルロース溶液が得られた。
実施例7
ニーダー中で、78.3重量部のオルトリン酸と21.7重量部のポリリン酸を、45℃
で、45分間、混合及び混練して、溶媒を調製した。この溶媒から、235.1gをニ
ーダーに移し、3℃まで冷却した。これに、62.lgのセルロース粉末(DP=700)を
加えた。7分後、セルロースは完全に及び均一に溶解した。温度は16℃であっ
た。20℃での、一定の
混練及び混合後、25分間に亘り、48gの水を加えた。均一な、紡糸可能な等方
性のセルロース溶液が得られ、該溶液は、74.0重量%の五酸化二リンを含む
溶媒から出発して、60.8重量%の五酸化二リン及び17.1重量%のセルロ
ースを含んだ。
実施例8
オルトリン酸とポリリン酸とを、74.5重量%のP2O5濃度となるような比率で混
合及び加熱して、溶媒を調製した。
IKA−二軸混練機中で、60.6gの粉末セルロース(DP=700)(それは4重量%の平
衡水分量を含む)を、276gの溶媒に加えた。20℃未満の温度で成分を混練
し、均一な、光沢のある、ファイバー形成性の溶液を得た。この溶液に、等方性
の紡糸可能な溶液が得られるまで、水を段階的に加え、該溶液は、15.1重量
%のセルロースと、63.4重量%のP2O5を含んだ。該溶液は相転移点(Tni
)が10℃であった。
実施例9
押出し取出し口を有するLinden−Zニーダー中で、14890gのオルトリン酸
と4110gのポリリン酸を、50℃で、45分間、混合及び混練して、溶媒を調製
した。溶媒を12℃まで冷却した。これに1650gのセルロース(Alphacell-C-100
、DP=2300)を加えた。混練を60分間継続し、最後の50分間は脱ガスした。溶
液の混練の間、温
度を20℃に保った。このようにして、74.1重量%の五酸化二リンを含む溶
媒から出発して、73.8重量%の五酸化二リン及び7.6重量%のセルロース
を含む等方性の、紡糸可能な溶液が得られた。
この溶液を、40℃で、各々直径65μmの375個のキャピラリを有する紡糸
口金を通して押出した。押出された溶液は、エアギャップを通過させられ、約3
5℃のアセトンで満たされた浴中で凝固された。凝固の後、形成されたマルチフ
ィラメントヤーンを水で洗浄し、及び2.5重量%のNaCO3・10H2O水溶
液で中和した。該ヤーンを非常に低い張力下で乾燥させた。
エアギャップにおける異なる延伸比(凝固浴におけるスループット速度を、キャ
ピラリから溶液を押出す速度で除した値と定義される)で、いくつかの実験を行
った。得られたヤーンの機械的強度を測定した。データを表1に示す。ここで、DR=延伸比、BT=破断時靭性、EaB=破断時伸び、IM=初期弾
性率、FM=最終弾性率、及びBto=破断時強さである。
比較例
ニーダー中で、84重量部のポリリン酸(84重量%の五酸化二リン)及び16重量
部の水を、45℃で、60分間、混合及び混練して、溶媒を調製した。得られた
均一な溶液を18℃まで冷却し、そして9重量部の粉末セルロースを加えた。ニ
ーダーの内容物を60分間、混合及び混練した。混合及び混練操作を60分した
後でさえ、均一な、紡糸可能な、等方性のセルロース溶液は得られなかった。得
られた混合物は多くの未溶解セルロース部分を有する低粘度のものであった。こ
の比較例は、70.5重量%の五酸化二リンを含む溶液から出発して、追加の水を添
加せずに、70.2重量%の五酸化二リン及び7.8重量%のセルロースを含む等方性
の紡糸可能な、セルロース溶液を得ることは可能で無いことを示す。
【手続補正書】
【提出日】1998年8月4日(1998.8.4)
【補正内容】
(1)請求の範囲を別紙のとおり訂正する。
(2)明細書第1頁本文第1〜5行を以下のように訂正する。
「本発明は、P2O5を含む溶媒にセルロースを溶解することによって、等方性
の、紡糸可能なセルロースを含む溶液を調製する方法であって、該溶液の94〜
100重量%は以下の成分:
セルロース、
リン酸及び/又はその無水物、
及び水、
からなる溶液を調製する方法に関する。」
(3)明細書第2頁第2行「68〜85」を「72〜85」に訂正する。
(4)明細書第5頁下から第8行「68〜85」を「72〜85」に訂正する。
請求の範囲
1等方性の、紡糸可能なセルロースを含む溶液を調製する方法であって、該溶液
の94〜100重量%は以下の成分:セルロース、
リン酸及び/又はその無水物、
及び水、
からなり、P2O5を含む溶媒にセルロースを溶解することによって該溶液を調製
する方法において、
セルロースが、リン酸及び/又はその無水物並びに水の均−な混合物を含み且つ
72〜85重量%の五酸化二リンを含む溶媒と装置内で激しく混合され、該装置
に存在する混合機及び混練機により高剪断力が生成され、及び溶液を異方性から
等方性へと転化するために必要であれば、上記混合工程の直前に、間に又は後に
水が加えられることを特徴とする等方性の、紡糸可能なセルロースを含む溶液を
調製する方法。
2.溶媒が、72〜80重量%のP2O5を含むことを特徴とする請求の範囲第1
項記載の方法。
3.得られる溶液が7〜20重量%のセルロースを含むことを特徴とする請求の
範囲第1項又は第2項記載の方法。
4.10〜20重量%のセルロース及び60〜71重量%のP2O5を含む等方性
の、紡糸可能なセルロース溶液。
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フロントページの続き
(72)発明者 マートマン,ヘンドリック
オランダ国,6814 エム イー アーネ
ム,バーケンベルグスベーク 145
(72)発明者 ボエルストール,ハネケ
オランダ国,6824 エヌ エヌ アーネ
ム,ニコラース ベートストラート 1
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