JP2000164053A - アルミニウム安定化超電導線の製造方法 - Google Patents

アルミニウム安定化超電導線の製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 熱的電気的安定性に優れ、かつマグネットな
どに使用したときに発生する電磁力により変形すること
のない、充分な機械的強度を有するアルミニウム安定化
超電導線を、生産性良く製造する方法を提供することを
目的とする。 【解決手段】 銅または銅合金マトリックス中に超電導
フィラメントが埋設された超電導線の外周の全体または
一部に、析出型アルミニウム合金からなる安定化材を熱
間押出被覆する工程を具備するアルミニウム安定化超電
導線の製造方法において、前記析出型アルミニウム合金
は、100〜25000ppmのNiを含有するAl−
Ni合金であり、前記熱間押出被覆工程の前に、前記析
出型アルミニウム合金からなる安定化材に、250℃〜
500℃の温度で、10分間以上加熱する時効熱処理を
施すことを特徴とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、熱的電気的安定性
に優れ、かつマグネットなどに使用したときに発生する
電磁力により変形することのない、充分な機械的強度を
有するアルミニウム安定化超電導線を、生産性良く製造
する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】超電導線は、銅または銅合金マトリック
ス中にNb−Ti合金などの超電導フィラメントを埋込
み、その外周に、通常、安定化材として銅を被覆するこ
とにより構成されている。
【0003】近年、熱的電気的安定性の指標となる残留
抵抗比(300Kにおける電気抵抗値と10Kにおける
電気抵抗値との比)が銅より遙かに大きい高純度アルミ
ニウムを安定化材として用いたアルミニウム安定化超電
導線が開発された。
【0004】このアルミニウム安定化超電導線は、アル
ミニウムの比重が銅の約1/3と軽いため、マグネット
などの軽量化を図ることができ、また、アルミニウムは
銅より素粒子透過性に優れているため、高エネルギー物
理学分野で多用されている素粒子検出用マグネットに有
利に用いることが出来る。
【0005】そして、このようなアルミニウム安定化超
電導線は、単芯超電導線または多芯超電導撚線などの超
電導線の周囲に、アルミニウムを誘導加熱または摩擦発
熱などにより、350℃〜550℃程度の温度に急速加
熱して押出被覆する方法により製造されている。
【0006】ところで、大型マグネットなどでは、超電
導線に多大な電磁力が加わるため、高純度アルミニウム
を用いたアルミニウム安定化超電導線は、電磁力により
変形してしまう恐れがある。ここで、アルミニウム安定
化超電導線を冷間加工してアルミニウム安定化材を加工
硬化させることが考えられるが、高純度アルミニウム安
定化材は、冷間加工しても機械的強度の顕著な向上は望
めない。
【0007】このようなことから、安定化材を、高純度
アルミニウムに代わってアルミニウム合金で構成する方
法が検討されるようになった。
【0008】しかし、アルミニウム合金の中では、C
u、Zn、Si、Mgなどの固溶型合金元素を添加した
固溶型アルミニウム合金は、アルミニウム原子の配列格
子を固溶元素により歪ませて強化させるものであるた
め、高強度を得るには合金元素を多量に固溶させる必要
がある。しかし、固溶元素の多量の添加は、導電性を著
しく低下させるので、高強度と高導電性の両立は非常に
困難である。
【0009】一方、Niを添加した析出型アルミニウム
合金は、アルミニウムに対するNiの固溶限が極めて小
さいため、添加したNiの殆どが凝固時にAlと金属間
化合物を形成し、初晶として析出して強度向上に寄与す
るが、残りの極く少量は過飽和に固溶して導電性を著し
く低下させてしまう。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】このような過飽和固溶
元素を時効析出させる方法として、熱間押出被覆時の押
出速度を遅くし、押出機内における熱履歴により時効析
出させる方法があるが、生産性が悪く、実用的でない。
また、低速押出における熱履歴により、Nb−Tiフィ
ラメント中のα−Ti析出物や導入転位が消失して、磁
束ピンニング効果が損なわれ、マグネット特性が低下す
るという問題がある。
【0011】また、押出被覆後に時効熱処理する方法も
あるが、やはりα−Ti析出物や導入転位が消失して、
マグネット特性が低下するという問題がある。
【0012】このようなことから、本発明者等は、析出
型アルミニウム合金を用いたアルミニウム安定化材の導
電性を、生産性およびマグネット特性を低下させること
なく高める方法について研究し、析出型アルミニウム合
金に所定の時効熱処理を施したのち押出被覆することに
より、安定化材の導電性を改善し得ることを見出し、更
に研究を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0013】従って、本発明は、熱的電気的安定性に優
れ、かつマグネットなどに使用したときに発生する電磁
力により変形することにない、充分な機械的強度を有す
るアルミニウム安定化超電導線を、生産性良く製造する
方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明によると、銅また
は銅合金マトリックス中に超電導フィラメントが埋設さ
れた超電導線の外周の全体または一部に、析出型アルミ
ニウム合金からなる安定化材を熱間押出被覆する工程を
具備するアルミニウム安定化超電導線の製造方法におい
て、前記析出型アルミニウム合金は、100〜2500
0ppmのNiを含有するAl−Ni合金であり、前記
熱間押出被覆工程の前に、前記析出型アルミニウム合金
からなる安定化材に、250℃〜500℃の温度で、1
0分間以上加熱する時効熱処理を施すことを特徴とする
アルミニウム安定化超電導線の製造方法が提供される。
【0015】本発明の方法によると、アルミニウム安定
化超電導線の安定化材となるアルミニウムに析出型Al
−Ni合金を用い、この析出型Al−Ni合金に時効熱
処理を施して過飽和Niを充分に析出させたのち、超電
導線材の周囲に熱間押出被覆を施しているので、特性に
優れたAl安定化超電導線を、生産性を害することなく
製造することが可能である。
【0016】なお、上述の析出型Al合金は、超電導線
の外周全体に被覆されても、一部に被覆されても、本発
明においては同様に有効である。
【0017】本発明において、超電導線とは、銅または
銅合金パイプ内にNb−Ti合金棒を挿入して複合ビレ
ットとし、この複合ビレットを熱間押出しして、銅パイ
プとNb−Ti合金棒とを一体化し、次いで圧延、伸線
などの伸延加工を施して得られる単芯超電導線、この超
電導線の多数本を銅または銅合金パイプ内に充填して複
合ビレットとし、これを前述と同様に加工して得られる
多芯超電導線、この多芯超電導線の多数本を撚合わせた
多芯超電導撚線、上述の単芯超電導線、多芯超電導線、
多芯超電導撚線などの周囲に高純度Al安定化材を被覆
したAl安定化超電導線などを含むものである。
【0018】本発明において、析出型アルミニウム合金
の添加元素をNiとした理由は、Niはアルミニウムに
対する固溶限が極めて小さく、時効熱処理によりその殆
どを析出させることが可能であるからである。
【0019】また、Niの添加量を100〜25000
ppmとした理由は、100ppm未満では添加量が少
なすぎて機械的強度の顕著な向上が得られず、一方、2
5000ppmを越えると、析出物による残留抵抗比の
低下が顕著となり、時効熱処理をしても残留抵抗比の顕
著な向上が得られないからである。
【0020】一方、析出型アルミニウム合金の時効熱処
理を、250℃〜500℃に限定した理由は、250℃
未満では拡散速度が遅く、過飽和Niの析出に長時間を
要するため生産性が低下し、また、500℃を超えると
時効熱処理中にNiが多量に固溶し、この固溶元素は熱
間押出被覆後も固溶量が多く、その結果導電性が低下し
て高い残留抵抗比が得られないためである。
【0021】好ましい時効熱処理の温度は、250℃以
上、[押出温度+50]℃以下であり、より好ましく
は、300℃〜450℃である。
【0022】また、時効熱処理の時間を10分間以上に
限定した理由は、10分間未満では、過飽和Niの析出
が充分に行われず、高い残留抵抗比が得られないためで
ある。特性の観点からは、時効熱処理時間に上限制約は
ないが、生産性との兼ね合いから、好ましい時効熱処理
の時間は、30分間〜250時間である。
【0023】本発明では、析出型合金元素としてNiが
用いられるが、Niと同様、アルミニウムに対する固溶
限が小さく、かつ凝固時にアルミニウムとの金属間化合
物を形成するCeやSbを添加した析出型アルミニウム
合金でも、それら元素の添加量を調整すれば、本発明と
類似の効果を得ることが出来る。
【0024】また、析出型合金元素の他に、結晶粒度の
調整、電位などの調整、機械的強度の向上、成形加工性
の向上などを目的として、アルミニウムに対する電気抵
抗増加率が小さいAg、As、Bi、Ca、Cd、C
u、Ga、Mg、Pb、Sc、Si、Sn、Znの中か
ら選ばれる1〜数元素を、残留抵抗比を大きく低下させ
ない範囲で微量添加しても良い。この際、これら元素の
添加量は、Al安定化材の機械的強度と残留抵抗比のバ
ランスが良好に保持されるように制御する必要がある。
【0025】
【発明の実施の形態】以下に、本発明により製造される
Al安定化超電導線について、図を参照して具体的に説
明する。
【0026】図1(a)に示すAl安定化超電導線は、
多芯のCu/NbTi超電導線11に時効熱処理後の析
出型Al合金安定化材13を押出被覆したものである。
【0027】図1(b)に示すAl安定化超電導線は、
多芯のCu/NbTi超電導撚線12に時効熱処理後の
析出型Al合金安定化材13を押出被覆したものであ
る。
【0028】図1(c)に示すAl安定化超電導線は、
多芯のCu/NbTi超導電線11に高純度(99.9
99wt%:5N)Al14を押出被覆したものを複数
撚合わせ、その上に時効熱処理後の析出型Al合金安定
化材13を押出被覆したものである。
【0029】図1(d)に示すAl安定化超電導線は、
多芯のCu/NbTi超電導撚線12に高純度(5N)
Al安定化材14を押出被覆し、その上に時効熱処理後
の析出型Al合金13を押出被覆したものである。
【0030】図1(e)に示すAl安定化超電導線は、
多芯のCu/NbTi超電導撚線12に時効熱処理後の
析出型Al合金安定化材13を押出被覆し、その上に高
純度(5N)Al安定化材14を押出被覆したものであ
る。
【0031】図1(f)に示すAl安定化超電導線は、
多芯のCu/NbTi超電導撚線12に時効熱処理後の
析出型Al合金安定化材13を押出被覆し、押出被覆後
の一辺に高純度(5N)Al安定化材14を半田付けし
たものである。
【0032】図1(g)に示すAl安定化超電導線は、
多芯のCu/NbTi超電導撚線12に時効熱処理後の
析出型Al合金安定化材13を押出被覆し、これを断面
略コの字状の銅安定化材15内に配置して半田付けし、
開放部に板状の銅安定化材16を半田付けしたものであ
る。
【0033】実施例 以下に、本発明の種々の実施例を示し、本発明について
より詳細に説明する。
【0034】(実施例1)銅マトリックス中にNbTi
合金線材を埋め込んだ単芯超電導線を無酸素銅製パイプ
(外径220mm,内径200mm)内に313本充填
して複合ビレットとし、次いで、この複合ビレットに熱
間押出加工および伸線加工を施して、外径0.6mmの
多芯Cu/NbTi超電導線を作製した。
【0035】一方、高純度(5N)AlにNiを100
0ppm含有させた析出型Al合金材を用意し、これを
本発明の範囲内の種々の条件で時効熱処理したのち、前
記多芯Cu/NbTi超電導線の外周に450℃で押出
被覆して、外径2.4mmのAl被覆棒材を得た。
【0036】次に、このAl被覆棒材を外径2.1mm
に冷間伸線加工して、8種の図1(a)に示すアルミニ
ウム安定化超電導線を製造した。
【0037】(実施例2)析出型Al−Ni合金として
高純度(5N)AlにNiを100ppm含有させたA
l−Ni合金を用い、これを本発明の範囲内の種々の条
件で時効熱処理したことを除いて、実施例1と同様にし
て、3種の図1(a)に示すアルミニウム安定化超電導
線を製造した。
【0038】(実施例3)析出型Al−Ni合金として
高純度(5N)AlにNiを25000ppm含有させ
たAl−Ni合金を用い、これを本発明の範囲内の種々
の条件で時効熱処理したことを除いて、実施例1と同様
にして、3種の図1(a)に示すアルミニウム安定化超
電導線を製造した。
【0039】(比較例1)析出型Al合金材の時効熱処
理条件を本発明の範囲外で種々変化させたことを除い
て、実施例1と同様にして、13種の図1(a)に示す
アルミニウム安定化超電導線を製造した。
【0040】実施例1〜3および比較例1で製造した各
々の図1(a)に示すアルミニウム安定化超電導線につ
いて、残留抵抗比、4.2Kにおける0.2%耐力(機
械的強度)、臨界電流値(以下Icと略記する)、およ
びマグネット特性(クエンチ電流と最大発生磁界)を調
査した。その結果を下記表1に示す。
【0041】なお、Icは、得られたアルミニウム安定
化超電導線から長さ1mの短尺線を切り取り、これに液
体He中(4.2K)にて5Tの磁場をかけた状態で電
流を流し、電流を徐々に増加させて抵抗が10-13 Ωm
に達した時の電流値で表した。
【0042】クエンチ電流と最大発生磁界は、得られた
アルミニウム安定化超電導線を内径20mm、外径15
0mmのコイルに巻いてマグネットを作製し、クエンチ
電流はマグネットの超電導状態が破れた時の電流とし、
最大発生磁界は中心に置いたホール素子により測定し
た。なお、マグネットは276A通電した時に5Tの磁
界が発生するように設計した。
【0043】
【表1】
【0044】上記表1より明らかなように、本発明例の
アルミニウム安定化超電導線(No.1〜14)は、いず
れも残留抵抗値、0.2%耐力、Icが高く、しかもク
エンチ電流が277A以上、最大発生磁界が5Tを超え
る良好なマグネット特性(クエンチ電流と最大発生磁
界)を示した。
【0045】これに対し、比較例品のNo.15は時効熱
処理を行わなかったため、No.16,17,21,23
は時効熱処理温度が低いため、No.18は時効熱処理時
間が短すぎたため、いずれも過飽和固溶している不純物
元素が充分に析出出来なかった。
【0046】一方、No.19,20,22,24は時効
熱処理温度が高すぎたため、アルミニウム中への不純物
元素の固溶限界が大きく、固溶量が多くなってしまっ
た。また、No.25はNi析出量が少なすぎたため、残
留抵抗値は高いものの、機械的強度が低く、機械的な撹
乱によりクエンチしてしまった。
【0047】No.26と27については、Ni添加量が
多いために金属間化合物量が多く、残留抵抗比が低すぎ
て、時効熱処理の効果が得られなかった。
【0048】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明に
よると、アルミニウム安定化超電導線のアルミニウム安
定化材として、Ni添加量が100〜25000ppm
の析出型Al−Ni合金を用い、この析出型Al−Ni
合金を、所定の温度および時間、時効熱処理したのち、
超電導線に押出被覆しているので、熱的電気的安定性に
優れ、かつマグネットなどに使用したときに発生する電
磁力で変形しない、充分な機械的強度を有するアルミニ
ウム安定化超電導線を、生産性良く製造することが可能
である。
【0049】従って、本発明の方法は、工業上顕著な効
果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法により製造された種々のAl安定
化超電導線を示す横断面図。

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】銅または銅合金マトリックス中に超電導フ
    ィラメントが埋設された超電導線の外周の全体または一
    部に、析出型アルミニウム合金からなる安定化材を熱間
    押出被覆する工程を具備するアルミニウム安定化超電導
    線の製造方法において、前記析出型アルミニウム合金
    は、100〜25000ppmのNiを含有するAl−
    Ni合金であり、前記熱間押出被覆工程の前に、前記析
    出型アルミニウム合金からなる安定化材に、250℃〜
    500℃の温度で、10分間以上加熱する時効熱処理を
    施すことを特徴とするアルミニウム安定化超電導線の製
    造方法。
  2. 【請求項2】前記時効熱処理は、250℃以上、[押出
    温度+50℃]以下の温度で行われることを特徴とする
    請求項1に記載の方法。
  3. 【請求項3】前記析出型アルミニウム合金は、 As、
    Bi、Ca、Cd、Cu、Ga、Mg、Pb、Sc、S
    i、Sn、およびZnからなる群から選ばれた少なくと
    も1種を含有するAl−Ni合金であることを特徴とす
    る請求項1に記載の方法。
  4. 【請求項4】前記超電導線は、銅または銅合金マトリッ
    クス中に複数本の超電導フィラメントが埋設されてな
    り、その外周に、高純度アルミニウムからなる安定化材
    が被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の方
    法。
  5. 【請求項5】前記熱間押出被覆工程の後に、前記安定化
    材が被覆された超電導線の全周または1部に、高純度ア
    ルミニウムまたは銅からなる安定化材を被覆する工程を
    更に具備することを特徴とする請求項1に記載の方法。
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