WO2021084985A1 - 伝搬時間測定装置 - Google Patents
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Abstract
送信信号と受信信号のあいだの相互相関解析により音響信号の伝搬時間を求める装置において、 1)前記送信信号の自己相関関数における最大ピークに対する他のピークの高さの比が0.8以下であり、且つ、 2)前記送信信号の持続長が前記送信信号の最短周期の5倍以上であるか、又は、前記送信信号の持続長が前記送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の20倍以上である、 という条件を満たすように、前記送信信号を生成する。
Description
本発明は、音響信号の伝搬時間を測定する技術に関する。
配管の外側に取り付けたセンサによって配管内部を伝搬する音響信号の伝搬時間を測定し、その伝搬時間に基づき、配管内を流れる流体の流速や流量を非破壊で計測可能な装置が実用化されている。この種の装置は、音響信号として超音波を用いることが一般的であり、「超音波流量計」あるいは「超音波式流量計」などと呼ばれる。
例えば特許文献1には、配管の上流側及び下流側に配置された一対の超音波振動子を用いて、流体の流れの正方向に伝搬した超音波と逆方向に伝搬した超音波との伝搬時間差に基づいて流体の流量を求める装置が開示されている。特許文献1の装置では、上流側の超音波振動子の受信信号と下流側の超音波振動子の受信信号の相互相関を計算することにより、伝搬時間差を計算している。また、特許文献2には、上流側の受信信号と下流側の受信信号の相互相関から相関ピークを求める際に、ヒルベルト変換を利用することが開示されている。
従来は、測定用の信号としてパルス信号やバースト信号が用いられることが一般的であった。しかし、これらの信号はノイズの影響を受けやすく、相互相関解析の精度に限界がある。それゆえ、従来の超音波流量計は、微少流量の測定などの、高い精度が要求される用途には利用することができなかった。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ノイズに対するロバスト性が高く、且つ、伝搬時間の高精度な測定が可能な技術を提供することにある。
本開示に係る伝搬時間測定装置は、流体を流す配管に対し互いに異なる位置に配置される複数の振動子であって、電気信号としての送信信号を音響信号に変換する第1振動子と、前記第1振動子から送信されて前記配管内の流体を伝搬した前記音響信号を受信し電気信号としての受信信号に変換する第2振動子とを少なくとも含む、複数の振動子と、測定に用いる前記送信信号を生成する送信信号生成部と、前記送信信号と前記受信信号のあいだの相互相関解析により、前記第1振動子から前記第2振動子までの前記音響信号の伝搬時間を求める信号処理部と、を備える。ここで、前記送信信号生成部は、
1)前記送信信号の自己相関関数における最大ピークに対する他のピークの高さの比が0.8以下であり、且つ、
2)前記送信信号の持続長が前記送信信号の最短周期の5倍以上であるか、又は、前記送信信号の持続長が前記送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の20倍以上である、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成するとよい。
1)前記送信信号の自己相関関数における最大ピークに対する他のピークの高さの比が0.8以下であり、且つ、
2)前記送信信号の持続長が前記送信信号の最短周期の5倍以上であるか、又は、前記送信信号の持続長が前記送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の20倍以上である、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成するとよい。
条件1を満たす送信信号を用いることによって、送信信号と受信信号の相互相関関数において、最大ピークとそれ以外のピークの差が十分に大きくなる。それゆえ、仮にノイズ等の影響で受信信号の波形が多少崩れたとしても、最大ピークとそれ以外のピークの差(すなわち、最大ピークの識別性・明瞭性)が維持される。また条件2を満たす持続長の送信信号を用いることによって、送信信号と受信信号のあいだの相互相関解析に用いることができる情報量が増えるため、相互相関関数の誤差を低減する効果が期待できる。すなわち、条件1と条件2を満たす送信信号を用いれば、誤差が少なく、且つ、最大ピークの識別性・明瞭性が高い、相互相関関数を得ることができる。したがって、相互相関関数における最大ピークの位置、すなわち、音響信号の伝搬時間を精度よく求めることが可能となる。
前記送信信号生成部は、さらに、
3)前記送信信号の持続長が前記送信信号の最短周期の10倍以上であるか、又は、前記送信信号の持続長が前記送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の40倍以上である、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成してもよい。この条件3は、条件2をさらに厳しくした条件である。したがって、条件3を満たす持続長の送信信号を用いることにより、相互相関関数の誤差を一層低減することができ、音響信号の伝搬時間の測定精度を一層向上することができる。
3)前記送信信号の持続長が前記送信信号の最短周期の10倍以上であるか、又は、前記送信信号の持続長が前記送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の40倍以上である、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成してもよい。この条件3は、条件2をさらに厳しくした条件である。したがって、条件3を満たす持続長の送信信号を用いることにより、相互相関関数の誤差を一層低減することができ、音響信号の伝搬時間の測定精度を一層向上することができる。
前記送信信号生成部は、さらに、
4)前記送信信号の持続長が、前記第1振動子から前記第2振動子までの音響信号の伝搬時間として想定される最小の伝搬時間よりも短い、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成してもよい。条件4を満たすように送信信号の持続長の上限を設定することにより、送信信号の送信期間と受信信号の受信期間の重なりを避けることができるため、クロストークにより送信信号が受信信号の経路に混入したとしても、混入した送信信号が信号解析に影響することを防止することができる。
4)前記送信信号の持続長が、前記第1振動子から前記第2振動子までの音響信号の伝搬時間として想定される最小の伝搬時間よりも短い、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成してもよい。条件4を満たすように送信信号の持続長の上限を設定することにより、送信信号の送信期間と受信信号の受信期間の重なりを避けることができるため、クロストークにより送信信号が受信信号の経路に混入したとしても、混入した送信信号が信号解析に影響することを防止することができる。
上述した条件1~条件4を満たす送信信号はさまざまなものが考えられる。例えば、前記送信信号は、周波数変調された信号を含んでもよい。また、前記送信信号は、ランダムパルスにより構成される信号を含んでもよい。また、前記送信信号は、異なる周波数の複数の信号が合成された信号を含んでもよい。また、前記送信信号は、所定の時間区分ごとに周波数が変化する信号を含んでもよい。
前記信号処理部は、前記第1振動子からの送信及び前記第2振動子による受信を複数回行うことによって得られた複数の受信信号を用いて相互相関解析を行ってもよい。複数の受信信号を用いることにより、ノイズを低減し、相互相関解析の精度を向上することができる。
前記信号処理部は、前記複数の受信信号からノイズが低減された受信信号を生成し、前記送信信号と前記ノイズが低減された受信信号とのあいだの相互相関解析を行ってもよい。複数の受信信号を用いて受信信号のノイズを低減した後、相互相関関数を計算する、という手順を採ることにより、演算負荷の大きい相互相関関数の演算回数を少なく抑えることができ、高速な処理を実現できる。
前記第1振動子と前記第2振動子は、前記配管を挟んで対向するように配置されてもよい。また、前記第1振動子と前記第2振動子は、前記配管の長手方向の異なる位置に配置されてもよい。
前記第2振動子に前記送信信号が入力され、前記第2振動子から送信された音響信号を受信した前記第1振動子から前記受信信号が出力されるように切り替えを行う切り替え部をさらに備え、前記信号処理部は、前記第2振動子に入力した前記送信信号と前記第1振動子から出力された前記受信信号のあいだの相互相関解析により、前記第2振動子から前記第1振動子までの前記音響信号の伝搬時間を求めてもよい。この構成によれば、同一の伝搬経路について、上流側から下流側に音響信号が伝搬するときの伝搬時間と、下流側から上流側に音響信号が伝搬するときの伝搬時間とを、精度よく求めることができる。
前記信号処理部は、前記第1振動子から前記第2振動子までの前記音響信号の伝搬時間と、前記第2振動子から前記第1振動子までの前記音響信号の伝搬時間との差に基づいて、前記配管内の流体の流速及び/又は流量を求めてもよい。これにより、配管内の流体の情報を高精度に測定することができる。
本発明は、上記構成の少なくとも一部を有する伝搬時間測定装置として捉えてもよいし、流速測定装置、流量測定装置、流量計、流量センサなどとして捉えてもよいし、送信信号を生成する送信信号生成装置、送信回路などとして捉えてもよい。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む伝搬時間測定方法、流速測定方法、流量測定方法、送信信号生成方法として捉えてもよく、または、かかる方法を実現するためのプログラムやそのプログラムを非一時的に記録した記録媒体として捉えることもできる。なお、上記構成および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
本発明によれば、ノイズに対するロバスト性が高く、且つ、伝搬時間の高精度な測定が可能な技術を提供することができる。
<適用例>
図1を参照して、伝搬時間測定装置の適用例を説明する。
図1を参照して、伝搬時間測定装置の適用例を説明する。
伝搬時間測定装置1は、2個以上の振動子101を備え、いずれかの振動子(例えば101a)から送信した音響信号を他の振動子(例えば101b)で受信し、2つの振動子のあいだの経路を音響信号が伝搬するのに要した時間(伝搬時間)を測定する。各振動子101は配管120に対し互いに異なる位置に配置されているため、2つの振動子101のあいだを伝搬する音響信号は配管120の内部を通過する(横切る)。そのため、音響信号の伝搬時間は、一定ではなく、配管120内を流れる流体121の状態(例えば、流速、流量、気泡や異物の存在など)の影響を受けて変化する。したがって、伝搬時間測定装置1で測定した伝搬時間を利用することにより、配管120内の流体121の状態を非破壊で計測することができる。
なお、流体121は、音響信号を伝搬可能な物質であればよく、液体であっても、気体であってもよい。音響信号は、典型的には超音波であるが、可聴域の音波を含んでいてもよい。
伝搬時間測定装置1は、伝搬時間の計算に相互相関解析を利用する。例えば、送信側の振動子101に与える駆動用の電気信号を「送信信号」、受信側の振動子101から出力される電気信号を「受信信号」と呼ぶとき、伝搬時間測定装置1は、送信信号と受信信号のあいだの相互相関関数を計算し、相互相関関数の最大ピーク位置に基づいて、送信信号に対する受信信号のラグ(時間遅れ)を求める。このラグが送信側の振動子101から受信側の振動子101までの音響信号の伝搬時間に相当する。
送信信号の信号波形が受信信号においても十分に保存されている場合には、相互相関関数に明瞭なピークが現れるので、2つの信号のあいだのラグ(つまり伝搬時間)を精度良く求めることができる。しかしながら、現実の場面では、配管120及び流体121を伝搬する際に音響信号が減衰するとともに様々な要因のノイズが乗ってくるため、受信信号の波形が崩れる。そのため、相互相関関数のピークが不明瞭となり、ピーク位置の推定精度が低下したり、場合によっては、正解のピーク以外のピークを誤って選択してしまう可能性もある。従来の超音波流量計のように送信信号としてパルス信号やバースト信号を用いた場合は、このような減衰やノイズの影響を受けやすい。昨今、微少流量の流体を計測可能な装置のニーズが高まっており、これを実現するには、例えばナノ秒オーダーからピコ秒オーダーの精度で伝搬時間を測定可能な性能が必要となる。
そこで、伝搬時間測定装置1は、音響信号の減衰やノイズに対し高いロバスト性をもつように設計された送信信号を測定に利用する。具体的には、伝搬時間測定装置1は、送信信号の波形及び持続長が以下の条件1、2を満たすように、送信信号を生成するとよい。
条件1)送信信号の自己相関関数における最大ピークに対する他のピークの高さの比が0.8以下である。
条件2)送信信号の持続長が送信信号の最短周期の5倍以上であるか、又は、送信信号の持続長が送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の20倍以上である。
送信信号自体の周期性が高い場合、送信信号と受信信号の相互相関関数において、送信信号の波形の周期に対応する間隔で繰り返しピークが現れる。受信信号において信号波形がきれいに保存されているほど最大ピークとそれ以外のピークの区別は容易であるが、前述のように、減衰やノイズの影響で受信信号の波形が崩れると、送信信号の周期性が高い場合には相互相関関数の最大ピークを誤認識する可能性が高まる。条件1は、送信信号自体の周期性が高すぎないことを担保するための条件といえる。
図2Aに送信信号の自己相関関数の一例を示す。横軸は時間(時間シフト量)であり、縦軸は最大ピークの高さが1となるように規格化された自己相関の値である。送信信号の自己相関関数は、送信信号とそれ自身を時間シフトした信号とのあいだの相関であり、時間シフト量が0の場合に(2つの信号が完全に重なるため)最大ピークが現れ、送信信号の波形が周期性を有する場合にはその周期に対応する位置にもピークが現れる。条件1を満たす場合、つまり、最大ピークに対するそれ以外のピークの高さの比が0.8以下である場合は、送信信号の波形の周期性が十分低いといえる。このような場合は、送信信号と受信信号のあいだの相互相関関数においても、最大ピークとそれ以外のピークの差が十分に大きくなり、減衰やノイズの影響で受信信号の波形が崩れたとしても最大ピークの誤認識を生じにくい。
条件2は、相互相関関数の誤差を抑えるために必要な信号持続長の条件である。図2Bに送信信号の一例を示す。横軸は時間であり、縦軸は振幅である。図2Bに示すように、「送信信号の持続長」は送信信号全体の時間長さである。また「送信信号の最短周期」は、送信信号が周波数変調された信号である場合に観念できる概念であり、送信信号に含まれる最大の周波数の逆数に相当する周期である。「自己相関関数の最大ピークの半値半幅」は、図2Aに示すように、自己相関関数の最大ピーク(時間シフト量が0のところに現れるピーク)の高さが半分となる時間シフト量である。最短周期が観念できない送信信号の場合は条件2のうち後者の条件を用いればよく、最短周期が観念できる送信信号の場合は前者の条件と後者の条件のいずれを用いてもよい。
持続長が短い信号は、相互相関解析に用いることができる情報量が少ない。それゆえ、受信信号に含まれるノイズの影響を受けやすく、相互相関関数の誤差が増大する。これがピーク位置の推定精度の低下や、最大ピークの誤認識を生ずる一因となる。これに対し、少なくとも条件2を満たす持続長の信号を用いることで、相互相関関数の誤差を低減する効果が期待でき、ピーク位置の正確な推定が可能となる。
なお、信号の持続長が長いほど高い誤差低減効果が期待できるので、条件2の代わりに、より厳しい条件3を設定してもよい。
条件3)送信信号の持続長が送信信号の最短周期の10倍以上であるか、又は、送信信号の持続長が送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の40倍以上である。
条件1、2又は条件1、3に加え、さらに次の条件4を追加してもよい。条件4は信号の持続長の上限を規定する条件である。
条件4)送信信号の持続長が、送信側の振動子から受信側の振動子までの音響信号の伝搬時間として想定される最小の伝搬時間よりも短い。
音響信号の伝搬時間は、音響信号が流体の流れる方向に沿って伝搬する場合と流体の流れとは反対の方向に伝搬する場合とで変わる。また、伝搬経路、媒質、流体の流速などによっても伝搬時間は変化する。例えば、配管及び各振動子のサイズと相対位置、伝搬する媒質の特性、流体の流速、伝搬角度、伝搬方向(上流から下流か、下流から上流か)などがわかれば、音響信号の伝搬時間がとり得る範囲をあらかじめ想定することができる。仮に、伝搬時間の最小値がTmin、最大値がTmaxと想定された場合には、送信信号の持続長がTminよりも短くなるように設定すればよい。
音響信号は伝搬中に減衰するため、受信信号のレベルは送信信号のレベルに対し極めて小さい。それゆえ、もし送信信号の送信期間と受信信号の受信期間が少しでも重なっていると、回路上の浮遊容量を介して送信信号が受信信号に回り込み、受信信号のノイズを増加させる可能性がある。この点、条件4を満たすように送信信号の持続長の上限を設定することにより、送信期間と受信期間の重なりを避けることができるため、送信信号が受信信号の経路に混入したとしても、混入した送信信号が信号解析に影響することを防止することができる。なお、信号の回り込みを防ぐための対策が別途とられている場合、あるいは、信号の回り込みによるノイズが無視できる場合などには、条件4(すなわち、持続長の上限)を満たさなくても構わない。
<第1実施形態>
(装置構成)
図1及び図3を参照して、伝搬時間測定装置1の具体的な構成を説明する。図1は、伝搬時間測定装置1の構成を模式的に示すブロック図であり、図3は、配管への振動子の設置例を示す断面図である。本実施形態の伝搬時間測定装置1は、配管120内を流れる流体121の流速及び流量を非破壊で計測するための装置であり、超音波流量計又は超音波流量センサとも称される。
(装置構成)
図1及び図3を参照して、伝搬時間測定装置1の具体的な構成を説明する。図1は、伝搬時間測定装置1の構成を模式的に示すブロック図であり、図3は、配管への振動子の設置例を示す断面図である。本実施形態の伝搬時間測定装置1は、配管120内を流れる流体121の流速及び流量を非破壊で計測するための装置であり、超音波流量計又は超音波流量センサとも称される。
伝搬時間測定装置1は、装置本体100と複数の振動子101とを有する。装置本体100と各振動子101のあいだはケーブルで接続されている。本実施形態では、配管120の長手方向の上流側に配置される第1振動子101aと、第1振動子101aよりも下流側に配置される第2振動子101bの2つの振動子101が設けられている(以下、2つの振動子を区別する必要がある場合は「第1振動子101a」、「第2振動子101b」と表記し、両者に共通する説明の場合は単に「振動子101」という表記を用いる。)。なお、振動子101の数は2つに限られず、3つ以上の振動子101が設けられていてもよい。
振動子101は、電気信号と音響信号を相互に変換するデバイスであり、トランスデューサとも呼ばれる。振動子101としては、例えばピエゾ効果によって電圧と力を相互に変換する圧電素子などを用いることができる。図3に示すように、各振動子101は樹脂で構成されたクランプ30中に埋設されている。クランプ30で配管120を挟み込むと、2つの振動子101a、101bが配管120を挟んで対向し、且つ、2つの振動子101a、101bを結ぶ直線が配管120の軸線に対し所定の角度θをなすように、各振動子101a、101bが設置される。このようなクランプ構造を採用することで、既設の配管120に対し簡単に(しかも配管120に改修を加えることなく)振動子101を適切な位置に取り付けることができる。なお、クランプ30と配管120のあいだを密着させ、且つ、音響インピーダンスの整合をはかるために、クランプ30と配管120のあいだにグリスやジェルなどが塗布されるとよい。角度θは音響信号の伝搬角度と呼ばれる。伝搬角度θは任意であるが、後述する伝搬時間差法を利用する場合には0度<θ<90度、好ましくは20度<θ<60度の範囲に設定されるとよい。
装置本体100は、主たる構成として、制御回路102、D/A変換器103、A/D変換器104、切り替え器105、出力器106を有する。制御回路102は、伝搬時間測定装置1の各部の制御、信号処理、演算処理などを行う回路である。D/A変換器103は、制御回路102から入力された送信信号(デジタルデータ)を基に、D/A変換及び信号増幅を行い、所定の電圧の送信信号(アナログ信号)を振動子101へ出力する回路である。A/D変換器104は、振動子101から入力された受信信号(アナログ信号)を所定のサンプリング周期でA/D変換し、受信信号(デジタルデータ)を制御回路102へ出力する回路である。切り替え器105は、D/A変換器103及びA/D変換器104と第1振動子101a及び第2振動子101bとの接続関係を切り替えるスイッチである。D/A変換器103に接続された振動子101が送信側となり、A/D変換器104に接続された振動子101が受信側となる。出力器106は、制御回路102による信号処理や演算処理の結果などの情報を出力するデバイスであり、例えば表示器などである。なお、装置本体100に、ユーザが操作するための入力部(例えば、ボタン、タッチパネルなど)を設けたり、外部装置(例えば、外部のコンピュータやサーバなど)に情報を送信する通信回路(例えばWiFiモジュールなど)を設けてもよい。
図1に示すように、制御回路102は、送信信号生成部110、信号処理部111、記憶部112を有する。送信信号生成部110は、測定に用いる送信信号のデータを生成しD/A変換器103に出力する機能を有する。信号処理部111は、送信信号と受信信号に基づき音響信号の伝搬時間を計算し、さらに伝搬時間から流体の流速及び/又は流量を計算する機能を有する。記憶部112は、送信信号の波形を定義する波形データを記憶している。記憶部112は、複数種類の波形データを記憶することができ、送信信号生成部110は記憶部112から適切な波形データを選択し、送信信号のデータを生成する。
制御回路102は、例えば、CPU(プロセッサ)、RAM、不揮発性の記憶装置(例えばROM、フラッシュメモリ、ハードディスクなど)、I/Oなどを有するコンピュータにより構成してもよい。この場合、CPUが、記憶装置に格納されたプログラムをRAMに展開し、当該プログラムを実行することによって、送信信号生成部110及び信号処理部111の機能が提供される。コンピュータの形態は問わない。例えば、パーソナルコンピュータでもよいし、組み込み用のコンピュータでもよいし、スマートフォンやタブレット端末などでもよい。あるいは、制御回路102が提供する機能の全部又は一部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。あるいは、分散コンピューティングやクラウドコンピューティングの技術を利用し、制御回路102が他のコンピュータと協働して後述する処理を行ってもよい。
配管120の材質、サイズ、形状は問わない。例えば、金属配管や樹脂配管を用いてもよい。また配管120のサイズは、JISやANSIで定められた規格サイズのものでもよいし、独自のサイズのものでもよい。本実施形態の方法は、微少流量の測定を高精度に行うことができるという利点を有するため、1/8インチ管(外径:3.18mm、内径:1.59mm)、1/4インチ管(外径:6.35mm、内径:3.97mm)、1/2インチ管(外径:12.70mm、内径:9.53mm)などの小型の配管の測定に特に好ましく適用できる。また、直線状の配管に限らず、屈曲部を有する配管や曲線状の配管などでもよく、配管の断面形状も任意である。
(測定に用いる送信信号)
本実施形態の伝搬時間測定装置1は、前述した条件1と条件2、又は、条件1と条件3を満たすように設計された送信信号を測定に用いる。以下、これらの条件を満たす送信信号の一例を挙げる。
本実施形態の伝搬時間測定装置1は、前述した条件1と条件2、又は、条件1と条件3を満たすように設計された送信信号を測定に用いる。以下、これらの条件を満たす送信信号の一例を挙げる。
図4Aは、周波数変調された信号の例である。横軸は時間、縦軸は振幅(最大振幅が1となるように規格化された振幅)である。図4Aの送信信号は、持続長が1マイクロ秒であり、時間とともに周波数が1MHzから5MHzまで線形に増加する。図4Bは、図4Aの送信信号の自己相関関数を示している。横軸は時間、縦軸は自己相関関数の値(シフト量がゼロのときの最大ピーク値が1となるように規格された値)である。図4Bをみると、自己相関関数における2番目のピークの値は約0.2であり、図4Aの送信信号が条件1を満たしていることがわかる。また、図4Aの送信信号の最短周期は0.2マイクロ秒(5MHzに対応する波長)であり、信号持続長はその5倍であるため、図4Aの送信信号は条件2も満たしている。
図4Aの送信信号の効果を検証するために、テフロン(登録商標)製の1/8インチ管に対し、角度θが45度となるように2つの振動子101a、101bを設置した系を仮定し、図4Aの送信信号を第1振動子101aに入力した場合に第2振動子101bで受信される受信信号をシミュレーションにより求め、送信信号と受信信号のあいだの相互相関関数を計算した。その結果、受信信号の減衰やノイズの条件を変えてもピーク位置の推定精度の低下や最大ピークの誤認識が発生せず、伝搬時間を精度良く求められることが確認できた。なお、上記のシミュレーションにおいて、2つの振動子のあいだの音響信号の伝搬時間は約3マイクロ秒であり、送信信号の持続長(1マイクロ秒)は条件4も満たしている。
図5Aは、周波数変調された信号の他の例である。横軸は時間、縦軸は振幅(最大振幅が1となるように規格化された振幅)である。図5Aの送信信号は、持続長が1マイクロ秒であり、時間とともに周波数が3.5MHzから5MHzまで線形に増加する。図5Bは、図5Aの送信信号の自己相関関数を示している。横軸は時間、縦軸は自己相関関数の値(シフト量がゼロのときの最大ピーク値が1となるように規格された値)である。図5Bをみると、自己相関関数における2番目のピークの値は約0.75であり、図5Aの送信信号が条件1を満たしていることがわかる。また、図5Aの送信信号の最短周期は0.2マイクロ秒(5MHzに対応する波長)であり、信号持続長はその5倍であるため、図5Aの送信信号は条件2も満たしている。
図5Aの送信信号に対しても上記と同様のシミュレーションを行ったところ、受信信号の減衰やノイズの条件を変えてもピーク位置の推定精度の低下や最大ピークの誤認識が発生せず、伝搬時間を精度良く求められることが確認できた。なおこのシミュレーションの場合、図5Aの送信信号は条件4も満たしている。
図6Aは、比較例としての周波数変調信号である。図6Aの信号は、持続長が1マイクロ秒であり、時間とともに周波数が4MHzから5MHzまで線形に増加する。図6Bは、図6Aの送信信号の自己相関関数を示している。図6Bをみると、自己相関関数における2番目のピークの値が0.8を超えており、図6Aの送信信号が条件1を満たさないことがわかる。図6Aの送信信号に対して上記と同様のシミュレーションを行ったところ、受信信号の減衰やノイズの条件によって、ピーク位置の推定精度の低下や最大ピークの誤認識が発生する可能性があることが確認できた。
なお、図4A及び図5Aでは、時間とともに周波数が線形に増加する信号の例を示したが、周波数変調のやり方はこれに限られない。例えば、時間とともに周波数が減少する信号でもよいし、時間とともに周波数が非線形に(例えば指数関数的に)増加又は減少する信号でもよい。
図7Aは、ランダムパルスにより構成される送信信号の例である。横軸は時間、縦軸は振幅(最大振幅が1となるように規格化された振幅)である。図7Aの送信信号は、持続長が6.2マイクロ秒であり、ランダムな幅をもつ複数のパルスの組み合わせにより構成される。図7Bは、図7Aの送信信号の自己相関関数を示している。横軸は時間、縦軸は自己相関関数の値(シフト量がゼロのときの最大ピーク値が1となるように規格された値)である。図7Bをみると、自己相関関数における2番目のピークの値は約0.25であり、図7Aの送信信号が条件1を満たしていることがわかる。また、図7Aの送信信号の自己相関関数の最大ピークは急峻であり、信号持続長が最大ピークの半値半幅の20倍以上であることは明らかであるため、図7Aの送信信号は条件2も満たしている。
図7Aの送信信号に対しても上記と同様のシミュレーションを行ったところ、受信信号の減衰やノイズの条件を変えてもピーク位置の推定精度の低下や最大ピークの誤認識が発生せず、伝搬時間を精度良く求められることが確認できた。
図8Aは、異なる周波数の複数の信号が合成された送信信号の例であり、1MHzの信号成分と5MHzの信号成分を重ね合わせた例を示している。横軸は時間、縦軸は振幅(最大振幅が1となるように規格化された振幅)である。図8Aの送信信号の持続長は2マイクロ秒である。図8Bは、図8Aの送信信号の自己相関関数を示している。横軸は時間、縦軸は自己相関関数の値(シフト量がゼロのときの最大ピーク値が1となるように規格された値)である。図8Bをみると、自己相関関数における2番目のピークの値は約0.7であり、図8Aの送信信号が条件1を満たしていることがわかる。また、図8Aの送信信号の最短周期は0.2マイクロ秒(5MHzに対応する波長)であり、信号持続長はその10倍であるため、図8Aの送信信号は条件3も満たしている。
図8Aの送信信号に対しても上記と同様のシミュレーションを行ったところ、受信信号の減衰やノイズの条件を変えてもピーク位置の推定精度の低下や最大ピークの誤認識が発生せず、伝搬時間を精度良く求められることが確認できた。なお、このシミュレーションの場合、図8Aの送信信号は条件4も満たしている。
図9Aは、所定の時間区分ごとに周波数が変化する送信信号の例である。横軸は時間、縦軸は振幅(最大振幅が1となるように規格化された振幅)である。この例では、2マイクロ秒ごとに1MHz、5MHz、1MHz、3MHz、1MHzの順に周波数が変化している。送信信号の持続長は10マイクロ秒である。図9Bは、図9Aの送信信号の自己相関関数を示している。横軸は時間、縦軸は自己相関関数の値(シフト量がゼロのときの最大ピーク値が1となるように規格された値)である。図9Bをみると、自己相関関数における2番目のピークの値は約0.5であり、図9Aの送信信号が条件1を満たしていることがわかる。また、図9Aの送信信号の最短周期は0.2マイクロ秒(5MHzに対応する波長)であり、信号持続長はその50倍であるため、図9Aの送信信号は条件3も満たしている。
図9Aの送信信号に対しても上記と同様のシミュレーションを行ったところ、受信信号の減衰やノイズの条件を変えてもピーク位置の推定精度の低下や最大ピークの誤認識が発生せず、伝搬時間を精度良く求められることが確認できた。
(測定動作)
図10のフローチャートに沿って、伝搬時間測定装置1の測定動作の流れを説明する。
図10のフローチャートに沿って、伝搬時間測定装置1の測定動作の流れを説明する。
ステップS100において、制御回路102の送信信号生成部110は、記憶部112から送信信号の波形データを読み込む。送信信号の波形データは、送信信号の波形を定義するデータであり、その形式は問わない。例えば、図4A及び図5Aに示す送信信号であれば、信号持続長、周波数掃引の範囲(開始周波数と終了周波数)、振幅などのパラメータで定義でき、図7Aに示す送信信号であれば、信号持続長、送信信号を構成する各パルスの幅、振幅などのパラメータで定義でき、図8Aに示す送信信号であれば、信号持続長、各信号成分の周波数、振幅などのパラメータで定義でき、図9Aに示す送信信号であれば、信号持続長、各時間区分の長さと周波数、振幅などのパラメータで定義できる。波形データの他の形式として、信号波形を関数で定義したものや、信号波形上の複数の点の振幅値を定義したものなどを用いてもよい。
ステップS101において、制御回路102は、切り替え器105を制御し、第1振動子101aにD/A変換器103を接続し、第2振動子101bにA/D変換器104を接続する。これにより、第1振動子101aが送信側となり、第2振動子101bが受信側となる。
ステップS102において、送信信号生成部110は、ステップS100で読み込んだ波形データを基に送信信号を生成し、D/A変換器103に出力する。また、この送信信号は、後段の相互相関解析に利用するため、RAM(ワークメモリ)に一時的に格納される。
ステップS103において、D/A変換器103にてD/A変換及び増幅された送信信号が第1振動子101aに入力され、第1振動子101aから送信信号に基づく音響信号が送信される。図11Aは送信信号の例(周波数変調信号)であり、図11Bは図11Aの送信信号に基づく音響信号の例である。ここで、送信信号の振幅が一定であるにもかかわらず、音響信号において振幅が一定とならないのは、振動子の周波数特性に因るものである。音響信号は、クランプ30、配管120、及び流体121を経由して、第2振動子101bへと到達する。
ステップS104において、第2振動子101bは受信した音響信号を受信信号に変換し、A/D変換器104へ出力する。図11Cは受信信号の例である。伝搬の過程で音響信号が減衰するため、受信信号の振幅(電圧)は送信信号に比べて1/100~1/1000程度のオーダーとなる。例えば、図11Aの送信信号の振幅は約30Vであるのに対し、図11Cの受信信号の振幅は約10mVである。また、図11Cに示すように、受信信号には様々なノイズが乗っている。A/D変換器104でA/D変換された受信信号は、制御回路102に取り込まれ、RAM(ワークメモリ)に一時的に格納される。
ステップS105において、信号処理部111は、RAMから送信信号と受信信号を読み込み、2つの信号のあいだの相互相関関数を計算する。図11Dは相互相関関数の一例であり、最大ピークの近傍のみ拡大して示している。送信信号と受信信号のあいだのラグに相当するところに明瞭なピークが現れている。なお、相互相関関数については公知の技術であるため、ここでは詳しい説明を割愛する。
ステップS106において、信号処理部111は、相互相関関数における最大ピークの頂点の位置を求める。この位置が、第1振動子101aから第2振動子101bまでの音響信号の伝搬時間に相当する。デジタル信号処理の制約上、ステップS105で計算される相互相関関数は離散的なデータで構成される。そのため、図12Aに示すように、相互相関関数のデータが得られている点(黒丸で示す点)と、ピークの頂点の位置とが一致するとは限らない。したがって、信号処理部111は、相互相関関数の離散的なデータから最大ピークの形状を近似的に求めた上で、最大ピークの頂点の位置を推定するとよい。例えば、図12Bに示すように、信号処理部111は、相互相関関数における最大ピーク近傍のデータをヒルベルト変換によって位相のデータに変換し、変換後のデータを直線近似して、その近似直線のゼロクロス点(位相がゼロになる位置)を最大ピークの頂点の位置とみなしてもよい。あるいは、信号処理部111は、相互相関関数の最大ピーク近傍のデータを多項式近似により補間することによって、最大ピークの形状を推定し、その頂点の位置を求めてもよい。このような処理によって、A/D変換のサンプリング周期よりも高い分解能で、相互相関が最大となる位置、すなわち音響信号の伝搬時間を正確に求めることができる。
ステップS107において、制御回路102は、切り替え器105を制御し、第2振動子101bにD/A変換器103を接続し、第1振動子101aにA/D変換器104を接続する。すなわち、送信側と受信側の振動子が入れ替えられる。以降のステップS108~S112の処理は、ステップS102~S106の処理と同様である(ただし、「第1振動子101a」は「第2振動子101b」と読み替え、「第2振動子101b」は「第1振動子101a」と読み替える。)。
以上の処理によって、第1振動子101aから第2振動子101bまでの音響信号の伝搬時間Tabと、第2振動子101bから第1振動子101aまでの音響信号の伝搬時間Tbaが得られる。配管120内の流体121が流れている場合、伝搬時間TabとTbaのあいだに流体121の流速に応じた時間差が生じる。したがって、伝搬時間TabとTbaを利用して、流体121の流速及び流量を計算することができる。
ここで、Vは流体の流速、Lは配管内部における伝搬経路長、θは伝搬角度、Tabは上流側の振動子から下流側の振動子までの伝搬時間、Tbaは下流側の振動子から上流側の振動子までの伝搬時間、Toは流体以外の部分の伝搬時間である。なお、流体以外の部分の伝搬時間Toは、例えば、クランプ30及び配管120の部分を音響信号が伝搬している時間であり、配管120の仕様(内径、外径、材質など)がわかれば実験又はシミュレーションにより予め求めておくことができる。
ここで、Qは流体の流量、Vは流体の流速、Aは配管内部の断面積である。断面積Aは既知であるものとする。
ステップS115において、信号処理部111は、処理結果(例えば、伝搬時間、流速、流量など)を出力器106に出力する。
(本実施形態の利点)
以上述べた本実施形態の構成によれば、測定用の信号として、条件1と条件2、又は条件1と条件3を満たす送信信号を用いるので、誤差が少なく、且つ、最大ピークの識別性・明瞭性が高い、相互相関関数を得ることができる。したがって、相互相関関数における最大ピークの位置、すなわち、音響信号の伝搬時間を精度よく求めることが可能となる。よって、微少流量の測定など、高い精度が要求される場面への適用も可能である。
以上述べた本実施形態の構成によれば、測定用の信号として、条件1と条件2、又は条件1と条件3を満たす送信信号を用いるので、誤差が少なく、且つ、最大ピークの識別性・明瞭性が高い、相互相関関数を得ることができる。したがって、相互相関関数における最大ピークの位置、すなわち、音響信号の伝搬時間を精度よく求めることが可能となる。よって、微少流量の測定など、高い精度が要求される場面への適用も可能である。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態では、同一の伝搬経路に対し音響信号の送信及び受信を複数回実施し、得られた複数回分の受信信号を用いて相互相関解析を行うことにより、測定精度の向上を図る。基本構成は第1実施形態と同様であるため、以下では、第1実施形態と異なる構成部分を中心に説明する。
本発明の第2実施形態では、同一の伝搬経路に対し音響信号の送信及び受信を複数回実施し、得られた複数回分の受信信号を用いて相互相関解析を行うことにより、測定精度の向上を図る。基本構成は第1実施形態と同様であるため、以下では、第1実施形態と異なる構成部分を中心に説明する。
図13は、第2実施形態に係る伝搬時間測定装置1の測定動作の流れを示すフローチャートである。第1実施形態のフローチャート(図10)と同じ処理については同一のステップ番号が付されている。
ステップS100~S104の処理は第1実施形態と同じである。そして、ステップS130において、受信信号の取得回数がカウントされ、取得回数がN回になるまで、ステップS102~S104の処理が繰り返される。Nは任意に設定可能であり、本実施形態では例えば3~500回程度に設定される。このような処理により、N回分の受信信号がRAMに蓄積される。
ステップS131において、信号処理部111は、N回分の受信信号を用いて、ノイズを低減した受信信号を生成する。信号処理部111は、例えば、N回分の受信信号の平均を求めてもよいし、単純にN回分の受信信号を足し合わせた信号を生成してもよい。いずれの場合も受信信号のSN比を向上することができる。
ステップS132において、信号処理部111は、送信信号とノイズ低減後の受信信号とのあいだの相互相関関数を計算する。ノイズ低減後の受信信号を用いること以外は、第1実施形態のステップS105の処理と同じである。そして、ステップS106において、信号処理部111は、第1振動子101aから第2振動子101bまでの伝搬時間を求める。
その後、送信側と受信側の振動子を入れ替えて、同様の処理を行う。なお、ステップS107以降の処理については、送信側と受信側の振動子が異なる以外は、上述した処理と同じであるため、説明を割愛する。
以上述べた本実施形態によれば、N回分の受信信号を相互相関解析に用いるので、第1実施形態よりもさらに高精度な測定が可能となる。また、本実施形態では、N回分の受信信号を平均又は足し合わせて受信信号のノイズを低減した後、相互相関関数を計算する、という手順を採用しているが、逆に、N回分の受信信号のそれぞれについて相互相関関数を計算した後、N回分の相互相関関数を平均又は足し合わせて、相互相関関数のノイズを低減してもよい。ただし、相互相関関数の演算負荷は非常に大きいため、相互相関関数の演算回数の少ない前者の手順の方が有利である。また、本実施形態では、受信信号のみを平均化したが、送信信号も平均化してもよい。送信信号も平均化することで送信信号のノイズが低減されるため、結果として、相互相関関数のノイズを一層低減することができる。
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る伝搬時間測定装置1は、振動子対の配置(位置関係)に応じて適切な送信信号波形を自動で設定する機能を有する。基本構成は上記実施形態と同様であるため、以下では、上記実施形態と異なる構成部分を中心に説明する。
本発明の第3実施形態に係る伝搬時間測定装置1は、振動子対の配置(位置関係)に応じて適切な送信信号波形を自動で設定する機能を有する。基本構成は上記実施形態と同様であるため、以下では、上記実施形態と異なる構成部分を中心に説明する。
図14は、第3実施形態における送信信号の自動設定処理の流れを示すフローチャートである。例えば、伝搬時間測定装置1のクランプ30を配管120に取り付けた後、所定のボタンを押下するなどして自動設定機能を起動すると、制御回路102が図14の処理を開始する。
ステップS140において、制御回路102はクランプ30の開度を検出する。クランプ30の開度とは、一対のクランプ片のあいだの間隔又は角度であり、例えば、距離センサやポテンショメータなどのセンサによって検出すればよい。ステップS141において、制御回路102は、クランプ30の開度に基づいて2つの振動子101a、101bの相対的な位置関係を計算し、2つの振動子101a、101bのあいだの伝搬距離に基づいて音響信号の伝搬時間を推定する。このとき、伝搬時間に影響を与える他のパラメータ(配管120の肉厚や材質、流体121の流速・流量など)については、予め設定された値を用いてもよいし、ユーザが与えてもよい。ステップS142において、制御回路102は、伝搬時間の推定値に基づいて、送信信号の持続長の上限を決定する。このとき、伝搬時間の推定値よりも短くなるように、持続長の上限を定めるとよい。そして、ステップS143において、制御回路102は、記憶部112に登録されている複数の波形データのなかから、最適な持続長の波形データを選択する。例えば、信号の持続長がステップS142で定めた上限以下の波形データのうちで最も持続長の長いものを、測定に用いる波形データとして選択してもよい。これにより、条件4を満たす送信信号のなかで可及的に持続長の長いものを測定に用いることができるため、測定精度の向上を図ることができる。
なお、本実施形態では、クランプ30の開度から2つの振動子のあいだの距離を求めたが、他の方法により距離や伝搬時間を求めてもよい。例えば、クランプ30を配管120に取り付けた後、テスト用の信号を一方の振動子から送信することで伝搬時間を計測してもよい。あるいは、配管サイズ、流体の種類、流速などのパラメータをユーザに設定させ、その設定されたパラメータから距離や伝搬時間を推定してもよい。
<その他>
上記実施形態は、本発明の構成例を例示的に説明するものに過ぎない。本発明は上記の具体的な形態には限定されることはなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態の装置では、音響信号の伝搬時間を測定した後、その伝搬時間の測定値を利用して流体の流速及び流量を計算したが、流速及び流量の計算は必須ではない。伝搬時間測定装置は、単に伝搬時間を測定する処理を行うだけでもよい。その場合は、図10又は図13のフローにおけるステップS100~S106の処理を実行するだけでもよい。また、単に伝搬時間を測定するだけであれば、伝搬角度θは90度でもよい。また、上記実施形態では、配管を挟み込むように取り付け可能なクランプオン型の装置を例示したが、配管組み込み型の装置構成を採用してもよい。また、振動子の数は3つ以上でもよく、上流側から下流側への音響信号の伝搬に用いる振動子対と、下流側から上流側への音響信号の伝搬に用いる振動子対を分けてもよい。
上記実施形態は、本発明の構成例を例示的に説明するものに過ぎない。本発明は上記の具体的な形態には限定されることはなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態の装置では、音響信号の伝搬時間を測定した後、その伝搬時間の測定値を利用して流体の流速及び流量を計算したが、流速及び流量の計算は必須ではない。伝搬時間測定装置は、単に伝搬時間を測定する処理を行うだけでもよい。その場合は、図10又は図13のフローにおけるステップS100~S106の処理を実行するだけでもよい。また、単に伝搬時間を測定するだけであれば、伝搬角度θは90度でもよい。また、上記実施形態では、配管を挟み込むように取り付け可能なクランプオン型の装置を例示したが、配管組み込み型の装置構成を採用してもよい。また、振動子の数は3つ以上でもよく、上流側から下流側への音響信号の伝搬に用いる振動子対と、下流側から上流側への音響信号の伝搬に用いる振動子対を分けてもよい。
また、図15Aに示すように、第1振動子101aを、異なる周波数特性をもつ複数の振動子101c、101dから構成するとともに、第2振動子101bも同様に、異なる周波数特性をもつ複数の振動子101c、101dから構成してもよい。例えば、1MHz付近に共振周波数を有する振動子101cと5MHz付近に共振周波数を有する振動子101dとを並べて配置することにより、どちらの周波数成分についても電気信号と音響信号のあいだの変換効率を高めることができる。このような構成の振動子は、例えば、図8Aに例示したような、異なる周波数の信号が合成された送信信号を用いる場合や、図4Aや図5Aに例示したような、周波数変調された送信信号を用いる場合に好適である。なお、図15Aの例では2つの振動子101c、101dを組み合わせたが、3つ以上の振動子を組み合わせてもよい。また複数の振動子101c、101dは配管120の軸方向に並べてもよいし、径方向に並べてもよい。
<付記1>
(1) 流体(121)を流す配管(120)に対し互いに異なる位置に配置される複数の振動子(101a、101b)であって、電気信号としての送信信号を音響信号に変換する第1振動子(101a)と、前記第1振動子(101a)から送信されて前記配管(120)内の流体(121)を伝搬した前記音響信号を受信し電気信号としての受信信号に変換する第2振動子(101b)とを少なくとも含む、複数の振動子(101a、101b)と、
測定に用いる前記送信信号を生成する送信信号生成部(110)と、
前記送信信号と前記受信信号のあいだの相互相関解析により、前記第1振動子(101a)から前記第2振動子(101b)までの前記音響信号の伝搬時間を求める信号処理部(111)と、を備え、
前記送信信号生成部(110)は、
1)前記送信信号の自己相関関数における最大ピークに対する他のピークの高さの比が0.8以下であり、且つ、
2)前記送信信号の持続長が前記送信信号の最短周期の5倍以上であるか、又は、前記送信信号の持続長が前記送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の20倍以上である、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成する
ことを特徴とする伝搬時間測定装置(1)。
(1) 流体(121)を流す配管(120)に対し互いに異なる位置に配置される複数の振動子(101a、101b)であって、電気信号としての送信信号を音響信号に変換する第1振動子(101a)と、前記第1振動子(101a)から送信されて前記配管(120)内の流体(121)を伝搬した前記音響信号を受信し電気信号としての受信信号に変換する第2振動子(101b)とを少なくとも含む、複数の振動子(101a、101b)と、
測定に用いる前記送信信号を生成する送信信号生成部(110)と、
前記送信信号と前記受信信号のあいだの相互相関解析により、前記第1振動子(101a)から前記第2振動子(101b)までの前記音響信号の伝搬時間を求める信号処理部(111)と、を備え、
前記送信信号生成部(110)は、
1)前記送信信号の自己相関関数における最大ピークに対する他のピークの高さの比が0.8以下であり、且つ、
2)前記送信信号の持続長が前記送信信号の最短周期の5倍以上であるか、又は、前記送信信号の持続長が前記送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の20倍以上である、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成する
ことを特徴とする伝搬時間測定装置(1)。
1:伝搬時間測定装置
101:振動子
101a:第1振動子
101b:第2振動子
102:制御回路
110:送信信号生成部
111:信号処理部
120:配管
121:流体
101:振動子
101a:第1振動子
101b:第2振動子
102:制御回路
110:送信信号生成部
111:信号処理部
120:配管
121:流体
Claims (14)
- 流体を流す配管に対し互いに異なる位置に配置される複数の振動子であって、電気信号としての送信信号を音響信号に変換する第1振動子と、前記第1振動子から送信されて前記配管内の流体を伝搬した前記音響信号を受信し電気信号としての受信信号に変換する第2振動子とを少なくとも含む、複数の振動子と、
測定に用いる前記送信信号を生成する送信信号生成部と、
前記送信信号と前記受信信号のあいだの相互相関解析により、前記第1振動子から前記第2振動子までの前記音響信号の伝搬時間を求める信号処理部と、を備え、
前記送信信号生成部は、
1)前記送信信号の自己相関関数における最大ピークに対する他のピークの高さの比が0.8以下であり、且つ、
2)前記送信信号の持続長が前記送信信号の最短周期の5倍以上であるか、又は、前記送信信号の持続長が前記送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の20倍以上である、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成する
ことを特徴とする伝搬時間測定装置。 - 前記送信信号生成部は、さらに、
3)前記送信信号の持続長が前記送信信号の最短周期の10倍以上であるか、又は、前記送信信号の持続長が前記送信信号の自己相関関数の最大ピークの半値半幅の40倍以上である、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記送信信号生成部は、さらに、
4)前記送信信号の持続長が、前記第1振動子から前記第2振動子までの音響信号の伝搬時間として想定される最小の伝搬時間よりも短い、
という条件を満たすように、前記送信信号を生成する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記送信信号は、周波数変調された信号を含む
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記送信信号は、ランダムパルスにより構成される信号を含む
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記送信信号は、異なる周波数の複数の信号が合成された信号を含む
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記送信信号は、所定の時間区分ごとに周波数が変化する信号を含む
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記信号処理部は、前記第1振動子からの送信及び前記第2振動子による受信を複数回行うことによって得られた複数の受信信号を用いて相互相関解析を行う
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記信号処理部は、前記複数の受信信号からノイズが低減された受信信号を生成し、前記送信信号と前記ノイズが低減された受信信号とのあいだの相互相関解析を行う
ことを特徴とする請求項8に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記第1振動子と前記第2振動子は、前記配管を挟んで対向するように配置される
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記第1振動子と前記第2振動子は、前記配管の長手方向の異なる位置に配置される
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記第2振動子に前記送信信号が入力され、前記第2振動子から送信された音響信号を受信した前記第1振動子から前記受信信号が出力されるように切り替えを行う切り替え部をさらに備え、
前記信号処理部は、前記第2振動子に入力した前記送信信号と前記第1振動子から出力された前記受信信号のあいだの相互相関解析により、前記第2振動子から前記第1振動子までの前記音響信号の伝搬時間を求める
ことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記信号処理部は、前記第1振動子から前記第2振動子までの前記音響信号の伝搬時間と、前記第2振動子から前記第1振動子までの前記音響信号の伝搬時間との差に基づいて、前記配管内の流体の流速及び/又は流量を求める
ことを特徴とする請求項12に記載の伝搬時間測定装置。 - 前記第1振動子及び前記第2振動子は、それぞれ、異なる周波数特性をもつ複数の振動子を組み合わせて構成されている
ことを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載の伝搬時間測定装置。
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