以下、本発明の実施形態によるサスペンション制御装置を、4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
図1は、第1の実施形態によるサスペンション制御装置を示している。図1において、車両のボディを構成する車体1の下側には、例えば左,右の前輪と左,右の後輪(以下、総称して車輪2という)が設けられている。これらの車輪2は、タイヤ(図示せず)を含んで構成されている。このタイヤは、路面の細かい凹凸を吸収するばねとして作用する。
車速センサ3は、例えば車輪2(即ち、タイヤ)の回転数を検出し、これを車速(車両の走行速度)情報として後述のコントローラ11に出力する。コントローラ11は、車速センサ3からの車速情報に基づいて、車両速度を取得する。このとき、車速センサ3は、車両速度を検出または推定する車両速度検出部を構成している。なお、コントローラ11は、車速センサ3からの車速情報から車両速度を取得するものに限らず、例えばCAN10(Controller Area Network)等から車両速度を取得してもよい。
サスペンション装置4は、車体1と車輪2との間に介装して設けられている。サスペンション装置4は、懸架ばね5(以下、スプリング5という)と、スプリング5と並列関係をなして車体1と車輪2との間に設けられた減衰力調整式緩衝器(以下、可変ダンパ6という)とにより構成される。なお、図1は、1組のサスペンション装置4を、車体1と車輪2との間に設けた場合を模式的に図示している。4輪自動車の場合、サスペンション装置4は、4つの車輪2と車体1との間に個別に独立して合計4組設けられる。
ここで、サスペンション装置4の可変ダンパ6は、車体1側と車輪2側との間に設けられ、発生する力を調整可能な力発生機構である。可変ダンパ6は、減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成されている。可変ダンパ6には、発生減衰力の特性(即ち、減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ等からなる減衰力可変アクチュエータ7が付設されている。減衰力可変アクチュエータ7には、コントローラ11から指令値に応じた指令電流(指令信号)が入力される。減衰力可変アクチュエータ7は、指令値に応じて可変ダンパ6が発生する減衰力を調整する。
なお、減衰力可変アクチュエータ7は、減衰力特性を必ずしも連続的に調整する構成でなくてもよく、例えば2段階以上の複数段階で減衰力を調整可能なものであってもよい。また、可変ダンパ6は、圧力制御タイプでもよく、流量制御タイプであってもよい。
GPS受信機8は、車体1に設けられ、GPS(Global Positioning System)衛星からの信号(以下、GPS信号という)を受信する。GPS受信機8は、GPS信号に基づいて車両の現在位置を算出する。GPS受信機8は、現在位置の情報をコントローラ11に出力する。なお、車両の現在位置は、GPS受信機8から取得する場合に限らず、例えば車速センサ、ジャイロ、地図とのマッチングなどの技術によって推定してもよい。
通信ユニット9は、車両の内部に設けられる受信部である。通信ユニット9は、車両の外部に設けられる外部データベースとなるクラウドCから外部情報としてのダイナミックマップを受信する。クラウドC(クラウド・コンピューティング)は、ネットワークを経由してユーザにサービスを提供する。通信ユニット9は、車体1に設けられ、外部のクラウドCと通信する。例えば車両側で目的地を設定すると、通信ユニット9は、目的地および現在位置の情報をクラウドCに送信する。クラウドCは、現在位置から目的地までの走行経路を決定し、経路を走行する車速計画を算出する。通信ユニット9は、算出された経路および車速を含む経路計画と、位置、車速に応じたサスペンション装置4(可変ダンパ6)への指令値とを含む現在位置近傍のダイナミックマップをクラウドCから受信(ダウンロード)する。ダウンロードされたダイナミックマップは、コントローラ11のダイナミックマップ保存部14Aに保存される。このとき、ダイナミックマップは、静的な高精度地図に、渋滞情報や通行規制などの動的な位置情報を組み合わせたデジタル地図である。ダイナミックマップは、地図上の位置と車速に応じた最適な指令値も含んでいる。
CAN10は、車体1に設けられている。CAN10には、前後加速度、横加速度、ヨーレイト、操舵角等のような各種の車両状態量を含むCAN情報が伝送されている。CAN10は、コントローラ11に接続されている。CAN10は、コントローラ11にCAN情報を出力する。
コントローラ11は、車両の内部に設けられ、可変ダンパ6の発生力を調整する制御装置である。コントローラ11は、状態推定部12と、操縦安定性制御部13と、ダイナミックマップ制御部14と、最大値選択部15とを備えている。
状態推定部12は、車両の内部に設けられ、車両の運動を検出する運動検出部である。状態推定部12は、CAN10からのCAN情報と車速センサ3からの車速とに基づいて車両の状態を推定する。なお、車速は、車速センサ3から直接的に取得する必要はなく、CAN10を経由して取得してもよい。
このとき、CAN情報は、例えば、車両の前後加速度、横加速度、ヨーレイト、操舵角等のような各種の車両状態量を含んでいる。しかしながら、この車両状態量は、遅れ時間やノイズが含まれている。そこで、状態推定部12は、CAN情報等によって取得した車両状態量に基づいて、前後左右並進、ヨーのような車両の状態を推定する。状態推定部12は、推定した車両の状態に基づいて、取得した車両状態量から遅れ時間を補償すると共に、ノイズを除去する。状態推定部12は、遅れ時間の補償等が行われた車両状態量(例えば、前後加速度、横加速度、ヨーレイト等)を算出し、算出した車両状態量からなる内部情報を操縦安定性制御部13に出力する。
操縦安定性制御部13は、状態推定部12(運動検出部)から出力される車両状態量(内部情報)に基づいて可変ダンパ6(力発生機構)への第1指令値を算出する内部指令算出部である。操縦安定性制御部13は、例えば横加速度が大きくなるに従って、可変ダンパ6の減衰力特性がハードとなるような操縦安定性フィードバック指令値(以下、AFB指令値という)を算出する。このとき、AFB指令値は、状態推定部12から出力される車両状態量に基づいて算出される第1指令値である。
ダイナミックマップ制御部14は、通信ユニット9から受信したダイナミックマップ(外部情報)に基づいて可変ダンパ6への第2指令値を算出する外部指令算出部である。ダイナミックマップ制御部14は、車両の現在位置と車速に応じて、ダイナミックマップにより、可変ダンパ6の減衰力特性がハードまたはソフトとなるようなフィードフォワード指令値(以下、FF指令値という)を算出する。このとき、FF指令値は、通信ユニット9から受信したダイナミックマップに基づいて算出される第2指令値である。
ダイナミックマップ制御部14は、ダイナミックマップ保存部14A、現在地車速・指令テーブル出力部14Bおよび指令値算出部14Cを備えている。ダイナミックマップ保存部14Aは、路面の位置情報と車速に最適化された制御指令値を含むダイナミックマップを、現在位置に応じてダウンロードし、経路計画上のデータを一時的に保存する。
現在地車速・指令テーブル出力部14Bは、現在位置を基にダイナミックマップから現在位置の車速・指令テーブルを読み出して出力する。仮に、現在位置がダイナミックマップに無い場合は、現在地車速・指令テーブル出力部14Bは、予め決められた一定の指令値(例えば、ソフトに固定、ハードに固定またはソフトとハードの中間値に固定)となる車速・指令テーブルを出力する。
指令値算出部14Cは、現在地車速・指令テーブル出力部14Bから出力された車速・指令テーブルから現在の車速に応じたFF指令値を算出する。指令値算出部14Cは、FF指令値を最大値選択部15に出力する。
最大値選択部15は、操縦安定性制御部13から出力されたAFB指令値と、ダイナミックマップ制御部14から出力されたFF指令値とを比較し、ハード側(大きい値)となる方を最終的な指令値として選択する。これにより、コントローラ11は、AFB指令値とFF指令値とから、可変ダンパ6への指令値を決定する。最大値選択部15は、選択した指令値に応じた指令信号(指令電流)を減衰力可変アクチュエータ7に出力する。これにより、コントローラ11は、可変ダンパ6の発生減衰力を指令値に応じて制御する。
本実施形態によるサスペンション制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について図1を参照して説明する。
まず、車両側から目的地設定を行うと、通信ユニット9は、車両の現在位置と目的地をクラウドCに送信する。クラウドCは、現在位置から目的地までの走行経路を決定し、経路を走行する車速計画を算出する。算出された経路計画(経路、車速)と位置、車速に応じた可変ダンパ6への指令値を含む現在地近傍のダイナミックマップは、クラウドCからコントローラ11にダウンロードされる。
車両が走行を開始すると、コントローラ11のダイナミックマップ制御部14は、現在位置と車速に応じて、ダイナミックマップに基づいて、4輪の可変ダンパ6のFF指令値を算出する。コントローラ11は、FF指令値を用いることによって、クラウドC上に保存されている路面凹凸やカーブに応じて、可変ダンパ6の発生減衰力をフィードフォワード制御することができる。これにより、車両の乗り心地や操縦安定性を向上させることができる。
但し、信号や駐車車両等により経路計画どおりには走行できない場合がある。このため、コントローラ11は、CAN情報(前後加速度、横加速度、ヨーレイト、操舵角)に基づいて、可変ダンパ6へのAFB指令値を算出する。コントローラ11は、AFB指令値を用いることによって、可変ダンパ6の発生減衰力をフィードバック制御する。これにより、本実施形態によるサスペンション制御装置は、経路計画では発生し得ない車両挙動に対応することができる。
次に、図2にダイナミックマップに保存される路面変位、路面曲率、指令値(第2指令値)、位置、車速の関係例を示す。このダイナミックマップには、クラウドCからダウンロードされた指令値、位置、車速のマップが保存されている。ダイナミックマップに基づいて、現在の位置と車速に基づく指令値が決定される。図2に示す例は、走行経路に波長の異なるA路面とB路面が含まれる場合を想定している。
車速が低い場合(低車速の場合)には、A路面とB路面のいずれでも、路面入力周波数がばね上共振周波数より低くなり、ばね上が振動しない。このため、ダイナミックマップの指令値は、可変ダンパ6をソフトにする指令(ソフト指令)で一定になる。
車速が低車速より高く高車速よりも低い場合(中車速の場合)には、A路面の入力周波数が共振周波数付近となる。このため、A路面のみ可変ダンパ6をハードにする制御を行うために、ダイナミックマップの指令値は、A路面の位置で、ソフト指令からハード指令(可変ダンパ6をハードにする指令)に切り替わる。
車速が中車速よりも高い場合(高車速の場合)には、B路面の入力周波数が共振周波数付近となる。このため、B路面のみ可変ダンパ6をハードにする制御を行うために、ダイナミックマップの指令値は、B路面の位置で、ソフト指令からハード指令に切り替わる。
また、高車速の場合は、路面曲率に応じて予め決められた値以上の横加速度が発生する。即ち、車速が高い場合のみ横加加速度が大きくなる。このため、ダイナミックマップの指令値は、路面曲率に応じて横加加速度が大きくなる位置で、ソフト指令からハード指令に切り替わる。
次に、本実施形態によるサスペンション装置の効果を確認するため、クラウドCが無い従来通りのフィードバック制御を行った場合と、クラウドCからのダイナミックマップに基づくフィードフォワード制御を行った場合とについて、それぞれの指令値を比較した。なお、フィードフォワード制御の指令値は、事前に路面の位置に合わせて決める。
シミュレーション条件は、Eセグメントのセダンを想定した車両諸元とした。シミュレーションモデルは、ばね上とばね下質量を考慮した1/4車両モデルを用いた。路面は、基本的なばね上の制振性能を確認するために、図3に示すうねり路とした。車両が80km/hで走行する場合について、シミュレーションを行った。
フィードバック制御則は、スカイフック制御とした。クラウドCを用いたフィードフォワード制御は、スカイフック制御指令を位置に応じて記憶させた制御則である。シミュレーション結果を図4に示す。図4に示すように、本実施形態によるダイナミックマップ情報に合わせたフィードフォワード制御による電流値(指令値)は、比較例として示す従来のフィードバック制御による電流値(指令値)とほぼ一致する。これに加え、図4中のばね上加速度およびばね上変位は、比較例と本実施形態とで、ほぼ一致する。このため、本実施形態によるダイナミックマップ情報に合わせたフィードフォワード制御は、比較例として示す従来のフィードバック制御と同等な性能であることが分かる。これにより、センサ無の位置情報に合わせたフィードフォワード制御でも、従来のフィードバック制御と同等の制振性能が実現でき、コストを低減しながら、同等な性能を実現できることが分かる。
かくして、本実施形態によれば、サスペンション制御装置は、車両の車体1側と車輪2側との間に設けられ発生する力を調整可能な可変ダンパ6(力発生機構)と、車両の外部に設けられるクラウドC(外部データベース)からダイナミックマップ(外部情報)を受信する車両の内部に設けられる通信ユニット9(受信部)と、車両の内部に設けられ、可変ダンパ6の発生力を調整するコントローラ11(制御装置)と、を備えている。
これに加え、コントローラ11は、車両の内部に設けられ、車両の運動を検出する状態推定部12(運動検出部)と、状態推定部12から出力される車両状態量(内部情報)に基づいて可変ダンパ6へのAFB指令値(第1指令値)を算出する操縦安定性制御部13(内部指令算出部)と、通信ユニット9から受信したダイナミックマップに基づいて可変ダンパ6へのFF指令値(第2指令値)を算出するダイナミックマップ制御部14(外部指令算出部)と、を有し、AFB指令値とFF指令値とから、可変ダンパ6への指令値を決定する。
これにより、通信ユニット9さえ有していれば、コントローラ11は、車両の現在位置や車速等に応じたFF指令値を、ダウンロードすることができる。このため、例えば外界視認センサが無い状態でも、可変ダンパ6をプレビュー制御することが可能になり、乗り心地や操縦安定性等の性能を向上することができる。
また、コントローラ11は、操縦安定性制御部13によるフィードバック制御を行うAFB指令値と、ダイナミックマップ制御部14によるフィードフォワード制御を行うFF指令値と、を組み合わせて可変ダンパ6を制御する。このため、FF指令値によって路面通過前に制御指令を変更することができるのに加え、AFB指令値によって車両状態に応じた可変ダンパ6の制御も可能である。この結果、車両の制振効果を高めることができる。
コントローラ11は、ダイナミックマップ制御部14によるフィードフォワード制御を行うFF指令値を用いて、可変ダンパ6への指令値を決定する。このため、これから走行する路面情報に基づいて、制御指令値が最適化されるように、コントローラ11は、可変ダンパ6に対する指令値を決定することができる。従って、コントローラ11は、あらゆる路面において最適な指令値を決定することができる。
また、操縦安定性制御部13は、車両に設けられるCAN情報に基づいてAFB指令値を算出する。このため、サスペンション制御を行うためだけに加速度センサ等の新たなセンサを設ける必要がなく、システムを簡略化して、製造コストを低減することができる。
さらに、ダイナミックマップは、路面と車速に応じて定めた可変ダンパ6へのFF指令値である。このため、ダイナミックマップ制御部14は、ダイナミックマップに基づいて、車両が走行する路面と、そのときの車速に応じたFF指令値を算出することができる。
次に、図5は第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、フィードバック制御に乗り心地制御を追加したことにある。なお、第2の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第2の実施形態によるコントローラ21は、第1の実施形態によるコントローラ11とほぼ同様に構成され、車両の内部に設けられ、可変ダンパ6の発生力を調整する制御装置である。コントローラ21は、例えばマイクロコンピュータを用いて構成されている。
図5に示すように、コントローラ21は、状態推定部12と、操縦安定性制御部13と、乗り心地制御部22と、ダイナミックマップ制御部14と、指令値補正部23と、最大値選択部24とを備えている。
乗り心地制御部22は、状態推定部12(運動検出部)から出力される車両状態量(内部情報)に基づいて可変ダンパ6(力発生機構)への第1指令値を算出する内部指令算出部である。乗り心地制御部22は、双線形最適制御部22A(以下、BLQ22Aという)と、減衰係数制限部22Bと、減衰力マップ22Cとを備えている。乗り心地制御部22は、状態推定部12から出力されるばね上速度を含む車両状態量と、状態推定部12から出力されるばね上(車体1)とばね下(車輪2)との間の相対速度とに基づいて、ばね上の上下振動を低減するための乗り心地フィードバック指令値(以下、BFB指令値という)を出力する。このとき、BFB指令値は、状態推定部12から出力される車両状態量に基づいて算出される第1指令値である。
BLQ22Aには、状態推定部12から出力される車両状態量が入力されるのに加えて、状態推定部12から出力されるばね上(車体1)とばね下(車輪2)との間の相対速度が入力される。BLQ22Aは、双線形最適制御理論に基づいて、状態推定部12からの車両状態量と相対速度とから、ばね上の上下振動を低減するための可変ダンパ6の減衰係数(目標減衰係数)を算出する。
減衰係数制限部22Bには、BLQ22Aから出力される減衰係数と、状態推定部12から出力される相対速度とが入力される。減衰係数制限部22Bは、減衰係数の最大値を正の値と負の値でそれぞれ独立して制限する。減衰係数制限部22Bは、車体1と車輪2との間の上下方向の相対速度に基づいて、減衰係数の最大値に制限を加える。
減衰力マップ22Cには、減衰係数制限部22Bから出力される減衰係数と、状態推定部12から出力される相対速度とが入力される。減衰力マップ22Cは、目標とする減衰係数と指令値との関係を、相対速度に従って可変に設定したマップである。減衰力マップ22Cは、減衰係数制限部22Bから出力される減衰係数と、状態推定部12から出力される相対速度とに基づいて、減衰力可変アクチュエータ7に出力するBFB指令値(第1指令値)を算出する。
指令値補正部23には、ダイナミックマップ制御部14から出力されるFF指令値と、GPS受信機8から出力される車両の現在位置とが入力される。指令値補正部23は、クラウドCによって決定された経路計画と現在位置とを比較する。指令値補正部23は、現在位置が経路計画に従っていると判断した場合には、ダイナミックマップ制御部14から出力されるFF指令値をそのまま出力する。一方、指令値補正部23は、現在位置が経路計画から外れたと判断した場合には、ダイナミックマップ制御部14から出力されるFF指令値をゼロに補正する。この場合、FF指令値よりも、操縦安定性制御部13からのAFB指令値または乗り心地制御部22からのBFB指令値の方が大きな値(ハード側の値)となる。このため、ダイナミックマップによるフィードフォワード制御の指令(第2指令値)よりも、車両状態量に基づくフィードバック制御の指令(第1指令値)が優先して選択される。
最大値選択部24は、操縦安定性制御部13から出力されたAFB指令値と、乗り心地制御部22から出力されたBFB指令値と、ダイナミックマップ制御部14から出力されて指令値補正部23によって補正されたFF指令値とを比較し、最もハード側(大きい値)となるものを最終的な指令値として選択する。これにより、コントローラ21は、第1指令値であるAFB指令値およびBFB指令値と、第2指令値であるFF指令値とから、可変ダンパ6への指令値を決定する。最大値選択部24は、選択した指令値に応じた指令信号(指令電流)を減衰力可変アクチュエータ7に出力する。これにより、コントローラ21は、可変ダンパ6の発生減衰力を指令値に応じて制御する。
かくして、第2の実施形態でも、第1の実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、第2の実施形態では、乗り心地制御部22によるフィードバック制御を追加したから、ダイナミックマップ制御部14によるフィードフォワード制御ができない場合でも、車体1の上下方向の振動を抑制して、乗り心地を改善することができる。
さらに、コントローラ21は、第1指令値であるAFB指令値およびBFB指令値を優先して選択し、可変ダンパ6への指令値を決定する。具体的には、コントローラ21は、ダイナミックマップ制御部14からのFF指令値を補正する指令値補正部23を備えている。このため、指令値補正部23は、経路計画と現在位置とを比較し、経路計画から外れたと判断した場合に、不確かな制御を防止するために、FF指令値をゼロにする。これにより、経路計画から外れた場合には、操縦安定性制御部13および乗り心地制御部22によるフィードバック制御が優先的に実行される。この結果、例えばクラウドC上の情報が古く、実際の路面状態は工事、事故などによって、路面凹凸、車速、曲率が想定外の場合にも、コントローラ21は、操縦安定性制御部13および乗り心地制御部22によって、可変ダンパ6をフィードバック制御することができる。従って、例えばクラウドCとの通信が途絶えた場合でも、可変ダンパ6を適切に制御することが可能になる。
なお、第2の実施形態では、乗り心地制御部22は、双線形最適制御による制御則により目標減衰係数を算出するものとした。本発明はこれに限らず、乗り心地制御部は、例えばスカイフック制御、H∞制御等のフィードバック制御により、目標減衰係数や目標減衰力を求めてもよい。
次に、図6は第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、車両の運動を検出するために、上下方向の加速度センサが車両に取り付けられていることにある。なお、第3の実施形態では、上述した第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
ばね上加速度センサ31およびばね下加速度センサ32は、車両に取り付けられる上下加速度検出部である。ばね上加速度センサ31およびばね下加速度センサ32は、運動検出部に含まれる。
ばね上加速度センサ31は、車両の車体1側に設けられている。ばね上加速度センサ31は、ばね上側となる車体1側で上下方向の振動加速度を検出し、その検出信号を後述のコントローラ33に出力する。
ばね下加速度センサ32は、車両の車輪2側に設けられている。ばね下加速度センサ32は、ばね下側となる車輪2側で上下方向の振動加速度を検出し、その検出信号を後述のコントローラ33に出力する。
第3の実施形態によるコントローラ33は、第1の実施形態によるコントローラ11とほぼ同様に構成され、車両の内部に設けられ、可変ダンパ6の発生力を調整する制御装置である。コントローラ33は、例えばマイクロコンピュータを用いて構成されている。
図6に示すように、コントローラ33は、積分器34,36、減算器35を備えている。積分器34は、ばね上加速度センサ31からの検出信号を積分することによって、車体1の上下方向に対する速度となるばね上速度を演算する。積分器34は、ばね上速度を出力する。
減算器35は、ばね上加速度センサ31からの検出信号からばね下加速度センサ32からの検出信号を減算し、ばね上加速度とばね下加速度との差分を演算する。このとき、この差分値は、車体1と車輪2との間の相対加速度に対応する。
積分器36は、減算器35から出力された相対加速度を積分し、車体1と車輪2との間の上下方向の相対速度を演算する。積分器36は、相対速度を出力する。
また、コントローラ33は、状態推定部12と、操縦安定性制御部13と、乗り心地制御部37と、ダイナミックマップ制御部14と、最大値選択部38とを備えている。
乗り心地制御部37は、第2の実施形態による乗り心地制御部22と同様に構成されている。乗り心地制御部37は、ばね上加速度センサ31およびばね下加速度センサ32から出力されるばね上加速度およびばね下加速度(内部情報)に基づいて、可変ダンパ6(力発生機構)への第1指令値を算出する内部指令算出部である。具体的には、乗り心地制御部37は、積分器34から出力されるばね上速度と、積分器36から出力されるばね上(車体1)とばね下(車輪2)との間の相対速度とに基づいて、ばね上の上下振動を低減するためのBFB指令値(第1指令値)を出力する。乗り心地制御部37は、第2の実施形態によるBLQ22A、減衰係数制限部22B、減衰力マップ22Cと同様な、双線形最適制御部37A(以下、BLQ37Aという)、減衰係数制限部37B、減衰力マップ37Cを備えている。
BLQ37Aは、双線形最適制御理論に基づいて、積分器34から出力されるばね上速度と、積分器36から出力される相対速度とから、ばね上の上下振動を低減するための可変ダンパ6の減衰係数(目標減衰係数)を算出する。減衰係数制限部37Bは、車体1と車輪2との間の上下方向の相対速度に基づいて、減衰係数の最大値に制限を加える。減衰力マップ37Cは、減衰係数制限部22Bから出力される減衰係数と、積分器36から出力される相対速度とに基づいて、減衰力可変アクチュエータ7に出力する第1指令値としてのBFB指令値を算出する。
最大値選択部38は、操縦安定性制御部13から出力されたAFB指令値と、乗り心地制御部37から出力されたBFB指令値と、ダイナミックマップ制御部14から出力されたFF指令値とを比較し、最もハード側(大きい値)となるものを最終的な指令値として選択する。これにより、コントローラ33は、第1指令値であるAFB指令値およびBFB指令値と、第2指令値であるFF指令値とから、可変ダンパ6への指令値を決定する。最大値選択部38は、選択した指令値に応じた指令信号(指令電流)を減衰力可変アクチュエータ7に出力する。これにより、コントローラ33は、可変ダンパ6の発生減衰力を指令値に応じて制御する。
かくして、第3の実施形態でも、第1の実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、第3の実施形態によるサスペンション制御装置は、車両に取り付けられるばね上加速度センサ31およびばね下加速度センサ32を備えている。コントローラ33は、ばね上加速度センサ31およびばね下加速度センサ32からの信号を積分演算することによって、ばね上速度と相対速度を算出する。このため、車両挙動を直接検知できるため、例えば乗り心地制御のようなフィードバック制御の効果を高めることができる。
なお、操縦安定性制御部13が相対速度を用いてAFB指令値を算出する場合には、状態推定部12からの車両状態量に基づいて相対速度を取得するのに代えて、積分器36から出力される相対速度を用いてもよい。
次に、図7は第4の実施形態を示している。第4の実施形態の特徴は、ダイナミックマップ制御部および乗り心地制御部が減衰係数からなる指令値を算出すると共に、コントローラは、これらの指令値の大きさを制限して可変ダンパへの指令値を決定することにある。なお、第4の実施形態では、上述した第3の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
第4の実施形態によるコントローラ41は、第3の実施形態によるコントローラ33とほぼ同様に構成され、車両の内部に設けられ、可変ダンパ6の発生力を調整する制御装置である。コントローラ41は、例えばマイクロコンピュータを用いて構成されている。
図7に示すように、コントローラ41は、積分器34,36、減算器35を備えている。また、コントローラ41は、状態推定部12と、ダイナミックマップ制御部42と、操縦安定性制御部43と、乗り心地制御部44と、加算器45と、減衰力マップ46とを備えている。
ダイナミックマップ制御部42は、通信ユニット9から受信したダイナミックマップ(外部情報)に基づいて可変ダンパ6への第2指令値を算出する外部指令算出部である。ダイナミックマップ制御部42は、第1の実施形態によるダイナミックマップ制御部14と同様に構成されている。但し、ダイナミックマップ制御部42は、車両の現在位置と車速に応じて、ダイナミックマップにより、操縦安定性フィードフォワード指令値(以下、AFF指令値という)として、操縦安定性を向上させるための目標減衰係数を算出する。これに加え、ダイナミックマップ制御部42は、車両の現在位置と車速に応じて、ダイナミックマップにより、乗り心地フィードフォワード指令値(以下、BFF指令値という)として、乗り心地を向上させるための目標減衰係数を算出する。AFF指令値およびBFF指令値は、通信ユニット9から受信したダイナミックマップに基づいて算出される第2指令値である。
操縦安定性制御部43は、状態推定部12(運動検出部)から出力される車両状態量(内部情報)に基づいて可変ダンパ6(力発生機構)への第1指令値を算出する内部指令算出部である。操縦安定性制御部43は、例えば横加速度が大きくなるに従って、可変ダンパ6の減衰力特性がハードとなるような減衰係数(目標減衰係数)からなるAFB指令値を算出する。AFB指令値は、状態推定部12から出力される車両状態量に基づいて算出される第1指令値である。
乗り心地制御部44は、ばね上加速度センサ31およびばね下加速度センサ32から出力されるばね上加速度およびばね下加速度(内部情報)に基づいて、可変ダンパ6(力発生機構)への第1指令値を算出する内部指令算出部である。具体的には、乗り心地制御部44は、積分器34から出力されるばね上速度と、積分器36から出力されるばね上(車体1)とばね下(車輪2)との間の相対速度とに基づいて、ばね上の上下振動を低減するための減衰係数(目標減衰係数)からなるBFB指令値(第1指令値)を算出する。乗り心地制御部44は、算出したBFB指令値と、ダイナミックマップ制御部42から入力されるBFF指令値とに基づいて、乗り心地を向上させるためのB指令値を出力する。乗り心地制御部44は、双線形最適制御部44A(以下、BLQ44Aという)と、加算器44Bと、減衰係数制限部44Cとを備えている。
BLQ37Aは、双線形最適制御理論に基づいて、積分器34から出力されるばね上速度と、積分器36から出力される相対速度とから、BFB指令値として、ばね上の上下振動を低減するための可変ダンパ6の減衰係数(目標減衰係数)を算出する。
加算器44Bは、BLQ37Aから出力される減衰係数からなるBFB指令値と、ダイナミックマップ制御部42から出力される減衰係数からなるBFF指令値とを加算する。加算器44Bは、加算した減衰係数を、減衰係数制限部44Cに出力する。
減衰係数制限部44Cは、減衰係数の最大値を正の値と負の値でそれぞれ独立して制限する。減衰係数制限部44Cは、車体1と車輪2との間の上下方向の相対速度に基づいて、減衰係数の最大値に制限を加える。これにより、乗り心地制御部44は、乗り心地を向上させるために、最大値が制限された減衰係数からなるB指令値を出力する。
加算器45は、操縦安定性制御部43から出力される減衰係数からなるAFB指令値と、乗り心地制御部44から出力される減衰係数からなるB指令値と、ダイナミックマップ制御部42から出力される減衰係数からなるAFF指令値とを加算する。加算器44Bは、加算した減衰係数を、減衰力マップ46に出力する。
減衰力マップ46には、加算器45から出力される減衰係数と、積分器36から出力される相対速度とが入力される。減衰力マップ46は、目標とする減衰係数と指令値との関係を、相対速度に従って可変に設定したマップである。減衰力マップ46は、加算器45から出力される減衰係数と、積分器36から出力される相対速度とに基づいて、減衰力可変アクチュエータ7に出力する指令値を算出する。
かくして、第4の実施形態でも、第1,第3の実施形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、第4の実施形態では、ダイナミックマップ制御部42は、減衰係数からなるAFF指令値およびBFF指令値を出力する。乗り心地制御部44は、ばね上速度と相対速度に基づいて算出した減衰係数からなるBFB指令値と、ダイナミックマップ制御部42からのBFF指令値とを加算した後に、減衰係数制限を付与したB指令値を出力する。コントローラ41は、操縦安定性制御部43から出力されるAFB指令値と、乗り心地制御部44から出力されるB指令値と、ダイナミックマップ制御部42から出力されるAFF指令値とを加算した目標減衰係数と相対速度を減衰力マップ46に入力し、最終的な指令値を算出する。コントローラ41は、この最終的な指令値に基づき可変ダンパ6を制御する。これにより、乗り心地制御を行うB指令値には減衰係数制限を付与して、急激な減衰力変化を抑制する。これに対し、操安性制御を行うAFB指令値およびAFF指令値は、制限のない指令値とする。これにより、操安性制御指令の立ち上がりを維持し、操安性性能を向上させることができる。
なお、第4の実施形態では、目標減衰係数の指令値(AFB指令値、AFF指令値、BFB指令値、BFF指令値)を用いるものとした。本発明はこれに限らず、目標減衰力の指令値を用いてよい。この場合、減衰力マップは、目標減衰力、相対速度および指令値の関係を示すマップになる。コントローラは、この減衰力マップに基づき、指令値を算出してもよい。
また、第4の実施形態では、ダイナミックマップから出力される指令値(AFF指令値、BFF指令値)は、車両諸元に応じて減衰比を一定に保つよう指令とすることで、車両諸元を指令値の大きさの違いを吸収する。減衰比ζは、ばね上質量m、サスペンションばね定数k、サスペンション減衰係数cとすると、以下の数1の式で表すことができる。
これにより、減衰比ζを一定にするには、サスペンションの減衰係数cを、減衰比ζ、ばね上質量m、サスペンションばね定数kに応じて数2の式のように設定すればよい。
ここで、基本設定に対して補正するように構成する場合は、目標の減衰係数cに対して基本設定を1、現在の車両を2、補正係数をGとすると、以下の数3の式で表すことができる。これにより、基本設定の目標減衰係数(目標減衰力)に補正係数Gを乗算することにより、諸元違いによる指令値の大きさ違いを吸収することができる。
また、固有振動数により適切な制御タイミングが異なるため、クラウド上で事前に車両の諸元情報を車両側から送信し、諸元に応じた指令がクラウドから出力されることにより、対応できる。基本的には、車両の固有振動数が高いほど指令のタイミングが早く、固有振動数が低いほど指令のタイミングが遅くなる。
前記各実施形態では、車体1側と車輪2側との間で調整可能な力を発生する力発生機構を、減衰力調整式の油圧緩衝器からなる可変ダンパ6により構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば力発生機構を液圧緩衝器の他に、エアサスペンション、スタビライザ(キネサス)、電磁サスペンション等により構成してもよい。
前記各実施形態では、外部データベースとしてクラウドCを例に挙げて説明した。本発明はこれに限るものではなく、例えば車両の外部に設けられたサーバコンピュータのデータベースでもよい。また、外部情報は、ダイナミックマップに限らず、位置、車速に応じた可変ダンパへの指令値を含む情報であればよい。
前記各実施形態では、4輪自動車に用いるサスペンション制御装置を例に挙げて説明した。本発明はこれに限るものではなく、例えば2輪、3輪自動車、または作業車両、運搬車両であるトラック、バス等にも適用できるものである。
前記各実施の形態は例示であり、異なる実施の形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
次に、上記実施形態に含まれるサスペンション制御装置として、例えば、以下に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様のサスペンション制御装置は、車両の車体側と車輪側との間に設けられ発生する力を調整可能な力発生機構と、前記車両の外部に設けられる外部データベースから外部情報を受信する前記車両の内部に設けられる受信部と、前記車両の内部に設けられ、前記力発生機構の発生力を調整する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記車両の内部に設けられ、該車両の運動を検出する運動検出部と、該運動検出部から出力される内部情報に基づいて前記力発生機構への第1指令値を算出する内部指令算出部と、前記受信部から受信した前記外部情報に基づいて前記力発生機構への第2指令値を算出する外部指令算出部と、を有し、前記第1指令値と前記第2指令値とから、前記力発生機構への指令値を決定することを特徴としている。
第2の態様としては、第1の態様において、前記内部指令算出部は、前記車両に設けられるCAN情報に基づいて前記第1指令値を算出することを特徴としている。
第3の態様としては、第1または第2の態様において、前記運動検出部は、前記車両に取り付けられる上下加速度検出部を含むことを特徴としている。
第4の態様としては、第1ないし第3のいずれかの態様において、前記制御装置は、前記第1指令値を優先して選択し、前記力発生機構への指令値を決定することを特徴としている。
第5の態様としては、第1ないし第4のいずれかの態様において、前記外部情報は、路面と車速に応じて定めた前記力発生機構への前記第2指令値であることを特徴としている。
第6の態様としては、第1ないし第5のいずれかの態様において、前記第1指令値および前記第2指令値は減衰係数であり、前記制御装置は、前記第1指令値の減衰係数と前記第2指令値の減衰係数との大きさを制限して前記力発生機構への指令値を決定することを特徴としている。
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
本願は、2019年3月27日付出願の日本国特許出願第2019-060489号に基づく優先権を主張する。2019年3月27日付出願の日本国特許出願第2019-060489号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書を含む全開示内容は、参照により本願に全体として組み込まれる。