WO2020149400A1 - 熱可塑性エラストマー組成物、及び熱可塑性エラストマー組成物の製造方法 - Google Patents

熱可塑性エラストマー組成物、及び熱可塑性エラストマー組成物の製造方法 Download PDF

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Abstract

カルボニル含有基及び/又は含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分と、脂肪酸アミド化合物と、を含有し、前記脂肪酸アミド化合物の分子量が400以上である、熱可塑性エラストマー組成物。

Description

熱可塑性エラストマー組成物、及び熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
 本発明は、熱可塑性エラストマー組成物、及び熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に関する。
 本願は、2019年1月17日に、日本に出願された特願2019-006378号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
 近年、環境保護や省資源等の立場から、使用済み材料の再利用が望まれている。架橋ゴム(加硫ゴム)は、高分子物質と架橋剤(加硫剤)とが共有結合した安定な三次元網目構造を有し、非常に高い強度を示すが、強い共有結合による架橋のため再成形が難しい。一方、熱可塑性エラストマーは、物理的架橋を利用するものであり、予備成形等を含む煩雑な加硫・成形工程を必要とせずに、加熱溶融により容易に成形加工することができ、また再利用も可能である。
 このような熱可塑性エラストマーの典型例としては、樹脂成分と架橋ゴム成分とを含み、常温では樹脂成分の結晶化により、塑性変形を阻止し、昇温により樹脂成分の軟化または融解により塑性変形する熱可塑性エラストマーが知られている。
 熱可塑性エラストマーとしては、機械的強度、特に引張強度等の物性に優れる材料の開発が進められてきた。例えば、特開2006-131663号公報(特許文献1)においては、カルボニル含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖と、共有結合性架橋部位を含有する他の側鎖とを有するガラス転移点が25℃以下のポリマーからなる熱可塑性エラストマーが開示されている。また、特開2016-193970号公報(特許文献2)においては、クレイを含むことで引張応力と耐熱性とが向上された熱可塑性エラストマーが開示されている。
特開2006-131663号公報 特開2016-193970号公報
 しかしながら、このような熱可塑性エラストマーは、優れた引張強度を発揮しつつ容易に成形可能という優れた性質を有する一方で、硬化物としたときの表面のタック力(べたつき感)が高く、使用時にべたつき感が生じる場合があった。また、成形時には、熱ロールやパスロール、金型等に貼りつきやすく、成形工程において歩留まりが低くなるおそれがあった。
 本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、硬化物としたときの表面のタック力が低減された熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物の製造方法の提供を課題とする。
 本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、特定のポリマー成分と、分子量400以上の脂肪酸アミド化合物との組み合わせにより、これらを含む熱可塑性エラストマー組成物では、硬化物としたときの表面のタック力が顕著に低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
 すなわち、本発明の一態様は、下記の熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物の製造方法である。
(1)カルボニル含有基及び/又は含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分と、
 脂肪酸アミド化合物と、を含有し、
 前記脂肪酸アミド化合物の分子量が400以上である、熱可塑性エラストマー組成物。
(2) 前記ポリマー(B)の水素結合性架橋部位が、側鎖にカルボニル含有基及び/又は含窒素複素環を有する、前記(1)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(3)前記熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記脂肪酸アミド化合物の含有量の割合が0.1質量%以上である、前記(1)又は(2)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(4)さらに、プロセスオイルを含有する、前記(1)~(3)のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(5)前記熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記プロセスオイルの含有量の割合が30質量%以上である、前記(4)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(6)硬化後のJIS K6253に準拠したショアA硬度が70以下である、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(7)前記ポリマー(A)及び前記ポリマー(B)が、ポリオレフィン系ポリマーである、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(8)分散相及び連続相からなる動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物であり、前記分散相は前記ポリマー成分を含み、前記連続相は熱可塑性樹脂を含む、前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(9)前記ポリマー成分が、前記ポリマー(B)を含み、
 前記ポリマー(B)は、環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと、
 前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(I)及び共有結合性架橋部位を形成する化合物(II)の混合原料、又は前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物と、の反応物である、前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(10) 前記ポリマー成分が、前記ポリマー(B)を含み、
 前記ポリマー(B)は、環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと、
 前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物と、の反応物である、前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(11)前記環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーが、無水マレイン酸変性ポリマーであり、
 前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物が、含窒素複素環含有ポリオール、含窒素複素環含有ポリアミン、及び含窒素複素環含有ポリチオールからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、前記(9)又は(10)に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
(12)前記(1)~(11)のいずれか一つに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、
 環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと、下記の<1>~<3>からなる群から選択される少なくとも一種の原料化合物と、を含む混合物を得て、前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させることにより、ポリマー成分を得ることと、
 前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させる前の前記混合物、又は、前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させた後の前記混合物に、脂肪酸アミド化合物を配合させることと、を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
 <1>前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(I)、
 <2>前記化合物(I)及び前記環状酸無水物基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(II)の混合原料、
 <3>前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物
 本発明によれば、硬化物としたときの表面のタック力が低減された熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供できる。
 以下、本発明の熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物の実施形態を説明する。
≪熱可塑性エラストマー組成物≫
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、カルボニル含有基及び/又は含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分と、脂肪酸アミド化合物と、を含有し、前記脂肪酸アミド化合物の分子量が400以上であるものである。
 発明者らは、上記の特定のポリマー成分と、分子量400以上の脂肪酸アミド化合物との組み合わせにより、これらを含む熱可塑性エラストマー組成物では、硬化物としたときの表面のタック力が顕著に低減されることを見出した。
 以下、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が含む各成分について、詳細に説明する。
<脂肪酸アミド化合物>
 実施形態に係る脂肪酸アミド化合物の分子量は400以上であり、400以上1000以下が好ましく、500以上700以下がより好ましく、550以上650以下がさらに好ましい。
 従来、脂肪酸アミド化合物を配合した熱可塑性エラストマー組成物の硬化物は、その表面のべたつき感が強い場合があった。実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、含有する脂肪酸アミド化合物の分子量が400以上であることで、硬化物表面のタック力が顕著に低減される。
 熱可塑性エラストマー組成物の硬化物表面のタック力が顕著に低減されるメカニズムの詳細は、現時点で明らかではないが、脂肪酸アミド化合物の分子量が400以上であることで、熱可塑性エラストマー組成物を硬化物としたときに、脂肪酸アミド化合物が該硬化物の表面に存在しやすくなることで、タック力の低減が効果的に発揮されると推察される。一方、脂肪酸アミド化合物の分子量が400未満であると、熱可塑性エラストマー組成物が脂肪酸アミド化合物を含んでいたとしても、脂肪酸アミド化合物が熱可塑性エラストマー組成物の硬化物の内部にも多く分布することから、タック力低減の効果が発揮され難いと推察される。
 また、添加剤とポリマー成分との混和状態が良好でないと、添加剤が部分的に凝集して、添加剤の白浮きが発生する場合がある。実施形態に係る、特定のポリマー成分と、添加剤である脂肪酸アミド化合物との組み合わせは、両者を混合したときの混和状態がよい組み合わせと考えられ、硬化物の表面に添加剤の白浮き等が発生し難い等の利点がある。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、含有する脂肪酸アミド化合物の分子量を400以上とすることで、白浮き防止とタック力低減との両立が可能となる。
 実施形態に係る脂肪酸アミド化合物の融点は、上記分子量の値と関連して定まるものであり、特に限定されるものではないが、90℃以上180℃未満が好ましく、100℃以上160℃未満がより好ましい。融点が上記温度範囲内である脂肪酸アミド化合物を用いることで、脂肪酸アミド化合物が溶融した状態で溶融混合を行うことが容易となる。
 実施形態に係る脂肪酸アミド化合物は、脂肪酸アミドを包含するカルボン酸アミドを含む概念であり、以下の一般式(I)で表される化合物のうち、分子量が400以上のものである。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000001
(一般式(I)中、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は一価の有機基を表す。ただし、R、R及びRの全てが水素原子となることはない。)
 一般式(I)で表される化合物において、Rが一価の有機基であり、R及びR水素原子である場合(第一級アミド);Rが一価の有機基であり、R及びRのどちらか一方が一価の有機基であり、R及びRのどちらか一方が水素原子である場合(第二級アミド);Rが一価の有機基であり、R及びRが一価の有機基である場合(第三級アミド)を例示できる。
 Rの一価の有機基は、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。前記脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)及び置換基を有していてもよい不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基)のいずれでもよい。
 上記R、R及びRにおける有機基の炭素数は、実施形態に係る脂肪酸アミド化合物で規定される分子量の範囲において、適宜定めればよい。
 前記一般式(I)で表される化合物は、下記一般式(II)で表されるビスアミド化合物であることが好ましい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000002
(一般式(II)中、R11及びR12はそれぞれ独立に一価の有機基を表す。R14及びR15はそれぞれ独立に水素原子、又は一価の有機基を表す。Rは2価の有機基を表す。)
 R14及びR15が一価の有機基の場合、炭素数1~5のアルキル基を例示できる。
 前記一般式(II)で表される化合物において、R14及びR15が水素原子である場合、下記一般式(III)で表されるビスアミド化合物を例示できる。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000003
(一般式(III)中、R11、R12及びRは、一般式(II)中のR11、R12及びRと同じ意味を表す。)
 前記一般式(II)及び(III)において、R11及びR12の一価の有機基は、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)及び置換基を有していてもよい不飽和脂肪族炭化水素基(アルケニル基)のいずれでもよい。R11及びR12における有機基の炭素数は、実施形態に係る脂肪酸アミド化合物で規定される分子量の範囲において適宜定めればよいが、炭素数9~29が好ましく、炭素数13~25がより好ましく、炭素数15~20がさらに好ましい。
 前記一般式(II)及び(III)において、Rの二価の有機基は、アルキレン基が好ましい。Rのアルキレン基の炭素数は、実施形態に係る脂肪酸アミド化合物で規定される分子量の範囲において適宜定めればよいが、炭素数1~20であることが好ましく、炭素数1~10であることがより好ましく、炭素数1~3であることがさらに好ましい。
 上記アルキル基及びアルケニル基における置換基としては、水酸基等を例示できる。
 前記一般式(III)で表されるビスアミド化合物として、R11及びR12が、それぞれ独立に、炭素数15~20のアルキル基又はアルケニル基であり、Rが、炭素数1~3のアルキレン基であるものが好ましい。
 前記一般式(III)で表される化合物としては、例えば、ジアミンと脂肪酸との反応によって得られるアルキレンビス脂肪酸アミドが挙げられる。
 前記ジアミンとしては、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン等のアルキレンジアミンを例示できる。
 前記脂肪酸としては、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、モンタン酸、メリシン酸などが挙げられる。
 前記一般式(III)で表される化合物としては、N,N’-メチレンビスステアリン酸アミド、N,N’-メチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-エチレンビスステアリン酸アミド、N,N’-エチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ヘキサメチレンビスステアロアミド、N,N’-メチレンビスオクタデカンアミド、N,N’-メチレンビスラウリン酸アミド、N,N’-メチレンビスミリスチン酸アミド、N,N’-メチレンビスパルミチン酸アミド、N,N’-メチレンビスベヘン酸アミド、N,N’-メチレンビスエルカ酸アミド、N,N’-エチレンビスラウリン酸アミド、N,N’-エチレンビスミリスチン酸アミド、N,N’-エチレンビスパルミチン酸アミド、N,N’-エチレンビスベヘン酸アミド、N,N’-エチレンビスエルカ酸アミド、N,N’-(1,6ヘキサンジイル)ビス[12-ヒドロキシオクタデカンアミド]等を例示できる。
 脂肪酸アミド化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。
 熱可塑性エラストマー組成物における脂肪酸アミド化合物の含有量は、ポリマー成分や脂肪酸アミド化合物の種類等に応じて適宜定めればよいが、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の総質量(100質量%)に対する、前記脂肪酸アミド化合物の含有量の割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上7質量%以下がより好ましく、3質量%以上6質量%以下がさらに好ましい。熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記脂肪酸アミド化合物の含有量の割合が上記下限値以上であることにより、熱可塑性エラストマー組成物を硬化物としたときの表面のタック力をより一層効果的に低減できる。また、熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記脂肪酸アミド化合物の含有量の割合が上記上限値以下であることにより、脂肪酸アミド化合物の付着による成形加工機器等の汚染が効果的に防止される。
<ポリマー成分>
 実施形態に係るポリマー成分は、カルボニル含有基及び/又は含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のものである。
 実施形態に係るポリマー成分は、ポリマー(A)及び/又はポリマー(B)が、エラストマー性を有するエラストマー性ポリマー(A)及び/又はエラストマー性を有するエラストマー性ポリマー(B)である、エラストマー成分であってもよい。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性及びエラストマー性(弾性)を有する。ただし、以下に例示するように、熱可塑性エラストマー組成物において、これを構成する一要素であるポリマーの主鎖部分(及び後述の主鎖部分を形成するポリマー)は、必ずしもエラストマー性を有さなくともよい。かかる場合、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が有するエラストマー性は、上記の架橋部位によって発揮されるものと考えられる。ここで、「ポリマーの主鎖」とは、ポリマー(A)~(B)から、後述の架橋部位を構成する側鎖(側鎖(a)、側鎖(a’)、側鎖(b)、及び側鎖(c))を除いた部分をいう。
 ポリマー(A)~(B)において、「側鎖」とは、ポリマーの側鎖および末端をいう。
 また、「カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)」とは、ポリマーの主鎖を形成する原子(通常、炭素原子)に、水素結合性架橋部位としてのカルボニル含有基および/または含窒素複素環(より好ましくはカルボニル含有基および含窒素複素環)が化学的に安定な結合(共有結合)をしていることを意味する。また、「側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有され」とは、水素結合性架橋部位を有する側鎖(以下、便宜上、場合により「側鎖(a’)」と称する。)と、共有結合性架橋部位を有する側鎖(以下、便宜上、場合により「側鎖(b)」と称する。)の双方の側鎖を含むことによってポリマーの側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方が含有されている場合の他、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を有する側鎖(1つの側鎖中に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖:以下、このような側鎖を便宜上、場合により「側鎖(c)」と称する。)を含むことで、ポリマーの側鎖に、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方が含有されている場合を含む概念である。
 このようなポリマー成分は、延伸性が向上するといった観点から、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
 ポリマー(A)~(B)は、例えば、天然高分子または合成高分子等のガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマーを主鎖とし、かつ、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を含むもの;天然高分子または合成高分子等のガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマーを主鎖とし、かつ、側鎖として、水素結合性架橋部位を有する側鎖(a’)及び共有結合性架橋部位を有する側鎖(b)を含有するもの;天然高分子または合成高分子等のガラス転移点が室温(25℃)以下のポリマーを主鎖とし、かつ、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖(c)を含むもの;等としてもよい。
 ポリマー(A)~(B)の主鎖部分を形成するポリマーとしては、それぞれ、ジエン系ゴム、ジエン系ゴムの水素添加物、オレフィン系ゴム、水添されていてもよいポリスチレン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、及び、ポリアミド系ポリマーの中から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。なお、前記ポリオレフィン系ポリマーとしては、オレフィンに由来する構成単位を有するポリマーであり、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE、密度910kg/m3以上930kg/m3未満)、高密度ポリエチレン(HDPE、密度942kg/m3以上)、リニアポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン等が挙げられる。また、このようなポリマー成分(前記ポリマー(A)~(B))の主鎖部分を形成するポリマーとしては、老化しやすい二重結合がないという観点からは、ジエン系ゴムの水添物、オレフィン系ゴム、ポリオレフィン系ポリマーが好ましく、コストの低さ、反応性の高さ(無水マレイン酸等の化合物とのエン反応が可能な二重結合を多数有する)の観点からは、ジエン系ゴムが好ましい。なお、上記主鎖部分を形成するポリマーは、エラストマー性を有するポリマーであってもよく、エラストマー性を有さないポリマーであってもよい。
 また、このようなポリマー成分の主鎖部分を形成するポリマーとしては、圧縮永久歪を低下できるといった観点から、中でも、ポリエチレン(より好ましくは高密度ポリエチレン(HDPE))、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、及び、ポリプロピレンからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ポリエチレン(より好ましくは高密度ポリエチレン(HDPE))、及び、エチレン-ブテン共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
 このようなポリマー成分(前記ポリマー(A)~(B))の主鎖部分を形成するポリマーは、エラストマー性を有するゴム系ポリマーであってもよく、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)などのジエン系ゴムおよびこれらの水素添加物;エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-アクリルゴム(AEM)、エチレン-ブテンゴム(EBM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンゴム、ポリプロピレンゴムなどのオレフィン系ゴム;エピクロロヒドリンゴム;多硫化ゴム;シリコーンゴム;ウレタンゴム;等が挙げられる。
 また、ポリマー成分(前記ポリマー(A)~(B))の主鎖部分を形成するポリマーは、エラストマー性を有するポリマー成分であってもよく、例えば、水添されていてもよいポリスチレン系エラストマー性ポリマー(例えば、SBS、SIS、SEBS等)、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー性ポリマー、ポリウレタン系エラストマー性ポリマー、ポリエステル系エラストマー性ポリマー、ポリアミド系エラストマー性ポリマー等が挙げられ、ポリオレフィン系エラストマー性ポリマーが好ましい。ポリオレフィン系エラストマー性ポリマーとしては、エチレン系共重合体を例示でき、エチレン-αオレフィン共重合体が好ましい。αオレフィンとしては、1-ブテン等が挙げられる。
 また、エラストマー性を有するポリマー(前記エラストマー性ポリマー(A)~(B))の主鎖部分を形成するポリマーとしては、老化しやすい二重結合がないという観点からは、ジエン系ゴムの水添物、オレフィン系ゴムが好ましく、コストの低さ、反応性の高さ(無水マレイン酸等の化合物とのエン反応が可能な二重結合を多数有する)の観点からは、ジエン系ゴムが好ましい。また、前記ポリマー成分として好適な前記エラストマー成分(前記エラストマー性ポリマー(A)~(B))の主鎖部分の形成に、それぞれオレフィン系ゴムを用いると、二重結合が存在しないため劣化がより十分に抑制される傾向にある。
 さらに、ポリマー(A)~(B)は、液状または固体状であってもよく、その分子量は特に限定されず、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が用いられる用途や要求される物性等に応じて適宜選択することができる。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を加熱(脱架橋等)した時の流動性を重視する場合は、上記ポリマー(A)~(B)は液状であることが好ましく、例えば、主鎖部分を形成するポリマーがイソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムである場合には、ポリマー(A)~(B)を液状のものとするために、該主鎖部分の重量平均分子量が1,000~100,000であることが好ましく、1,000~50,000程度であることが特に好ましい。
 一方、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の強度を重視する場合は、上記ポリマー(A)~(B)は固体状であることが好ましく、例えば、主鎖部分部分を形成するポリマーがイソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムである場合には、ポリマー(A)~(B)を固体状のものとするために、該主鎖部分の重量平均分子量が100,000以上であることが好ましく、500,000~1,500,000程度であることが特に好ましい。
 前記主鎖部分の重量平均分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィー(Gel 
permeation chromatography(GPC))により測定した重量平均分子量(ポリスチレン換算)である。測定にはテトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いることが好ましい。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物においては、前記ポリマー(A)~(B)は2種以上を混合して用いることができる。この場合の各ポリマー同士の混合比は、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が用いられる用途や要求される物性等に応じて任意の比率とすることができる。
 また、前記ポリマー(A)~(B)のガラス転移点は、前述のように25℃以下である。ポリマーのガラス転移点がこの範囲であれば、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が室温でゴム状弾性を示すためである。また、実施形態において「ガラス転移点」は、示差走査熱量測定(DSC-Differential Scanning Calorimetry)により測定したガラス転移点である。測定に際しては、昇温速度は10℃/minとする。
 このようなポリマー(A)~(B)の主鎖部分を形成するポリマーは、ポリマー(A)~(B)のガラス転移点が25℃以下となり、得られる熱可塑性エラストマー組成物からなる成形物が室温(25℃)でゴム状弾性を示すことから、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴム;エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-アクリルゴム(AEM)、エチレン-ブテンゴム(EBM)などのオレフィン系ゴム;であることが好ましい。また、前記ポリマー(A)~(B)の主鎖部分の形成に、それぞれオレフィン系ゴムを用いると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の引張強度が向上し、二重結合が存在しないため組成物の劣化がより十分に抑制される傾向にある。
 ポリマー(A)~(B)に用いることが可能な前記スチレン-ブタジエンゴム(SBR)の結合スチレン量や、水添されていてもよいポリスチレン系エラストマー性ポリマーの水添率等は、特に限定されず、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が用いられる用途や、組成物に要求される物性等に応じて任意の比率に調整することができる。
 また、上記ポリマー(A)~(B)の主鎖部分の形成に、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-アクリルゴム(AEM)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-ブテンゴム(EBM)を用いる場合、そのエチレン含有量は、好ましくは10~90モル%であり、より好ましくは30~90モル%である。エチレン含有量がこの範囲であれば、熱可塑性エラストマー(組成物)としたときの圧縮永久歪、機械的強度、特に引張強度に優れるため好ましい。
 また、上記ポリマー(A)~(B)は、上述のように、側鎖として、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a);水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a’)及び共有結合性架橋部位を含有する側鎖(b);並びに、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位を含有する側鎖(c);のうちの少なくとも1種を有するものとなる。なお、本明細書において、側鎖(c)は、側鎖(a’)としても機能しつつ側鎖(b)としても機能するような側鎖であるとも言える。以下において、各側鎖を説明する。
 <側鎖(a’):水素結合性架橋部位を含有する側鎖>
 水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a’)は、水素結合による架橋を形成し得る基(例えば、水酸基、後述の側鎖(a)に含まれる水素結合性架橋部位等)を有し、その基に基づいて水素結合を形成する側鎖であればよく、その構造は特に制限されるものではない。ここにおいて、水素結合性架橋部位は、水素結合によりポリマー同士を架橋する部位である。なお、水素結合による架橋は、水素のアクセプター(孤立電子対を含む原子を含有する基等)と、水素のドナー(電気陰性度が大きな原子に共有結合した水素原子を備える基等)とがあって初めて形成されることから、ポリマー同士の側鎖間において水素のアクセプターと水素のドナーの双方が存在しない場合には、水素結合による架橋が形成されない。そのため、ポリマー同士の側鎖間において、水素のアクセプターと水素のドナーの双方が存在することによって初めて、水素結合性架橋部位が系中に存在することとなる。なお、本明細書においては、ポリマー同士の側鎖間において、水素のアクセプターとして機能し得る部分(例えばカルボニル基等)と、水素のドナーとして機能し得る部分(例えば水酸基等)の双方が存在することをもって、その側鎖の水素のアクセプターとして機能し得る部分とドナーとして機能し得る部分とを、水素結合性架橋部位と判断することができる。
 このような側鎖(a’)中の水素結合性架橋部位としては、より強固な水素結合を形成するといった観点から、以下において説明する、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位(側鎖(a)に含まれる水素結合性架橋部位)であることが好ましい。すなわち、かかる側鎖(a’)としては、後述の側鎖(a)がより好ましい。また、同様の観点で、前記側鎖(a’)中の水素結合性架橋部位としては、カルボニル含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位であることがより好ましい。
 <側鎖(a):カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖>
 カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)は、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有するものであればよく、他の構成は特に限定されない。このような水素結合性架橋部位としては、カルボニル含有基および含窒素複素環を有するものがより好ましい。
 このようなカルボニル含有基としては、カルボニル基を含むものであればよく、特に限定されず、その具体例としては、アミド、エステル、イミド、カルボキシ基、カルボニル基等が挙げられる。このようなカルボニル含有基は、カルボニル含有基を前記主鎖に導入し得る化合物を用いて、前記主鎖(主鎖部分を形成するポリマー)に導入した基であってもよい。例えば、前記カルボニル含有基は、前記主鎖(主鎖部分のポリマー)である高密度ポリエチレンにカルボニル含有基を前記主鎖に導入し得る化合物を用いてカルボニル含有基を導入することで形成される基であってもよい。このようなカルボニル含有基を前記主鎖に導入し得る化合物は特に限定されず、その具体例としては、ケトン、カルボン酸およびその誘導体等が挙げられる。
 このようなカルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の炭化水素基を有する有機酸が挙げられ、該炭化水素基は、脂肪族、脂環族、芳香族等のいずれであってもよい。また、カルボン酸誘導体としては、具体的には、例えば、カルボン酸無水物、アミノ酸、チオカルボン酸(メルカプト基含有カルボン酸)、エステル、ケトン、アミド類、イミド類、ジカルボン酸およびそのモノエステル等が挙げられる。
 また、前記カルボン酸およびその誘導体等としては、具体的には、例えば、マロン酸、マレイン酸、スクシン酸、グルタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、p-フェニレンジ酢酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-アミノ安息香酸、メルカプト酢酸などのカルボン酸および置換基を含有するこれらのカルボン酸;無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸などの酸無水物;マレイン酸エステル、マロン酸エステル、コハク酸エステル、グルタル酸エステル、酢酸エチルなどの脂肪族エステル;フタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テレフタル酸エステル、エチル-m-アミノベンゾエート、メチル-p-ヒドロキシベンゾエートなどの芳香族エステル;キノン、アントラキノン、ナフトキノンなどのケトン;グリシン、チロシン、ビシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、スレオニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、メチオニン、プロリン、N-(p-アミノベンゾイル)-β-アラニンなどのアミノ酸;マレインアミド、マレインアミド酸(マレインモノアミド)、コハク酸モノアミド、5-ヒドロキシバレルアミド、N-アセチルエタノールアミン、N,N’-ヘキサメチレンビス(アセトアミド)、マロンアミド、シクロセリン、4-アセトアミドフェノール、p-アセトアミド安息香酸などのアミド類;マレインイミド、スクシンイミドなどのイミド類;等が挙げられる。
 これらのうち、カルボニル基(カルボニル含有基)を導入し得る化合物として、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の、環骨格中にカルボニル基を有する環状酸無水物であることが好ましく、無水マレイン酸であることが特に好ましい。
 また、前記側鎖(a)が含窒素複素環を有する場合、前記含窒素複素環は、直接又は有機基を介して前記主鎖に導入されていればよく、その構成等は特に制限されるものではない。このような含窒素複素環は、複素環内に窒素原子を含むものであれば複素環内に窒素原子以外のヘテロ原子、例えば、イオウ原子、酸素原子、リン原子等を有するものでも用いることができる。ここで、前記側鎖(a)中に含窒素複素環を用いた場合には、複素環構造を有すると架橋を形成する水素結合がより強くなり、得られる実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の引張強度、及び耐衝撃性が向上するため好ましい。
 また、上記含窒素複素環は置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、ヘキシル基などのアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基などのアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子からなる基;シアノ基;アミノ基;芳香族炭化水素基;エステル基;エーテル基;アシル基;チオエーテル基;水酸基;チオール基;カルボキシ基;イソシアネート基;エポキシ基;アルコキシシリル基等が挙げられ、これらを組み合わせて用いることもできる。これらの置換基の置換位置は特に限定されず、置換基数も限定されない。
 さらに、上記含窒素複素環は、芳香族性を有していても、有していなくてもよいが、芳香族性を有していると得られる実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪や機械的強度がより向上するため好ましい。
 また、このような含窒素複素環は、特に制限されるものではないが、水素結合がより強固になり、圧縮永久歪や機械的強度がより向上するといった観点から、5員環、6員環であることが好ましい。このような含窒素複素環としては、含窒素複素環をベンゼン環と縮合させたもの、含窒素複素環同士を縮合させたものであってもよい。このような含窒素複素環としては、例えば、ピロリン、ピロリドン、オキシインドール(2-オキシインドール)、インドキシル(3-オキシインドール)、ジオキシインドール、イサチン、インドリル、フタルイミジン、β-イソインジゴ、モノポルフィリン、ジポルフィリン、トリポルフィリン、アザポルフィリン、フタロシアニン、ヘモグロビン、ウロポルフィリン、クロロフィル、フィロエリトリン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、イミダゾロン、イミダゾリドン、ヒダントイン、ピラゾリン、ピラゾロン、ピラゾリドン、インダゾール、ピリドインドール、プリン、シンノリン、ピロール、ピロリン、インドール、インドリン、オキシルインドール、カルバゾール、フェノチアジン、インドレニン、イソインドール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、フェナントロリン、オキサジン、ベンゾオキサジン、フタラジン、プテリジン、ピラジン、フェナジン、テトラジン、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、アントラニル、ベンゾチアゾール、ベンゾフラザン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、アントラゾリン、ナフチリジン、チアジン、ピリダジン、ピリミジン、キナゾリン、キノキサリン、トリアジン、ヒスチジン、トリアゾリジン、メラミン、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、ヒドロキシエチルイソシアヌレートおよびこれらの誘導体等が挙げられる。これらのうち、特に含窒素5員環については、下記の化合物(化学式で記載の環状構造)、下記一般式(10)で表されるトリアゾール誘導体および下記一般式(11)で表されるイミダゾール誘導体が好ましく例示される。また、これらは上記した種々の置換基を有していてもよいし、水素付加または脱離されたものであってもよい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000004
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000005
式(10)及び(11)中の置換基X、Y、Zは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数7~20のアラルキル基、炭素数6~20のアリール基又はアミノ基である。なお、上記式(10)中のXおよびYのいずれか一方は水素原子ではなく、同様に、上記式(11)中のX、YおよびZの少なくとも1つは水素原子ではない。
 このような置換基X、Y、Zとしては、水素原子、アミノ基以外に、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ドデシル基、ステアリル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、1-メチルブチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基などの分岐状のアルキル基;ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基;フェニル基、トリル基(o-、m-、p-)、ジメチルフェニル基、メシチル基などのアリール基;等が挙げられる。
 これらのうち、置換基X、Y、Zとしては、アルキル基、特に、ブチル基、オクチル基、ドデシル基、イソプロピル基、2-エチルヘキシル基であることが、得られる実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の加工性が良好となるため好ましい。
 また、含窒素6員環については、下記の化合物が好ましく例示される。これらについても上記した種々の置換基(例えば、前述の含窒素複素環が有していてもよい置換基)を有していてもよいし、水素付加または脱離されたものであってもよい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000006
 また、上記含窒素複素環とベンゼン環または含窒素複素環同士が縮合したものも用いることができ、具体的には、下記の縮合環が好適に例示される。これらの縮合環についても上記した種々の置換基を有していてもよいし、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000007
 このような含窒素複素環としては、中でも、得られる実施形態の熱可塑性エラストマー組成物のリサイクル性、圧縮永久歪、硬度および機械的強度、特に引張強度に優れるため、トリアゾール環、イソシアヌレート環、チアジアゾール環、ピリジン環、イミダゾール環、トリアジン環及びヒダントイン環の中から選択される少なくとも1種であることが好ましく、トリアゾール環、チアジアゾール環、ピリジン環、イミダゾール環およびヒダントイン環の中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
 また、前記側鎖(a)において、上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環の双方が含まれる場合、上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環は、互いに独立の側鎖として主鎖に導入されていてもよいが、上記カルボニル含有基と上記含窒素複素環とが互いに異なる基を介して結合した1つの側鎖として主鎖に導入されていることが好ましい。このように、側鎖(a)としては、上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖が1つの側鎖として主鎖に導入されていることが好ましく、下記一般式(1):
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000008
[式(1)中、Aは含窒素複素環であり、Bは単結合;酸素原子、アミノ基NR’(R'は水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である。)又はイオウ原子;或いはこれらの原子又は基を含んでもよい有機基である。]
で表される構造部分を含有する側鎖が1つの側鎖として主鎖に導入されていることがより好ましい。このように、前記側鎖(a)の前記水素結合性架橋部位としては、上記一般式(1)で表される構造部分を含有することが好ましい。
 ここで、上記式(1)における含窒素複素環Aは、具体的には、上記で例示した含窒素複素環が挙げられる。また、上記式(1)における置換基Bとしては、具体的には、例えば、単結合;酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR’(R’は水素原子または炭素数1~10のアルキル基);これらの原子または基を含んでもよい有機基であり、例えば、炭素数1~20のアルキレン基またはアラルキレン基;これらの原子または基を末端に有する、炭素数1~20のアルキレンエーテル基(アルキレンオキシ基、例えば、-O-CH2CH2-基)、アルキレンアミノ基(例えば、-NH-CH2CH2-基等)またはアルキレンチオエーテル基(アルキレンチオ基、例えば、-S-CH2CH2-基);これらを末端に有する、炭素数1~20のアラルキレンエーテル基(アラルキレンオキシ基)、アラルキレンアミノ基またはアラルキレンチオエーテル基;等が挙げられる。
 ここで、上記アミノ基NR’の炭素数1~10のアルキル基としては、異性体を含む、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。上記式(1)における置換基Bの酸素原子、イオウ原子およびアミノ基NR’;ならびに;これらの原子または基を末端に有する炭素数1~20の、アルキレンエーテル基、アルキレンアミノ基、アルキレンチオエーテル基、または、アラルキレンエーテル基、アラルキレンアミノ基、アラルキレンチオエーテル基等の酸素原子、アミノ基NR’およびイオウ原子は、隣接するカルボニル基と組み合わされ共役系のエステル基、アミド基、イミド基、チオエステル基等を形成することが好ましい。
 これらのうち、前記置換基Bは、共役系を形成する、酸素原子、イオウ原子またはアミノ基;これらの原子または基を末端に有する、炭素数1~20のアルキレンエーテル基、アルキレンアミノ基またはアルキレンチオエーテル基であることが好ましく、アミノ基(NH)、アルキレンアミノ基(-NH-CH2-基、-NH-CH2CH2-基、-NH-CH2CH2CH2-基)、アルキレンエーテル基(-O-CH2-基、-O-CH2CH2-基、-O-CH2CH2CH2-基)であることが特に好ましい。
 また、側鎖(a)が、上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖である場合、上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環を有する前記水素結合性架橋部位は、下記式(2)または(3)で表される1つの側鎖として、そのα位またはβ位で上記ポリマー主鎖に導入されている側鎖であることがより好ましい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000009
[式中、Aは含窒素複素環であり、BおよびDはそれぞれ独立に単結合;酸素原子、アミノ基NR’(R’は水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)またはイオウ原子;あるいはこれらの原子または基を含んでもよい有機基である。]
 ここで、含窒素複素環Aは上記式(1)で例示した含窒素複素環Aと基本的に同一であり、置換基BおよびDはそれぞれ独立に、上記式(1)で例示した置換基Bと基本的に同一である。ただし、上記式(3)における置換基Dは、上記式(1)の置換基Bとして例示したもののうち、単結合;酸素原子、窒素原子またはイオウ原子を含んでもよい炭素数1~20のアルキレン基またはアラルキレン基の共役系を形成するものであることが好ましく、単結合であることが特に好ましい。すなわち、上記式(3)のイミド窒素と共に、酸素原子、窒素原子またはイオウ原子を含んでもよい炭素数1~20のアルキレンアミノ基またはアラルキレンアミノ基を形成することが好ましく、上記式(3)のイミド窒素に含窒素複素環が直接結合する(単結合)ことが特に好ましい。具体的には、上記置換基Dとしては、単結合;上記した酸素原子、イオウ原子またはアミノ基を末端に有する炭素数1~20のアルキレンエーテルまたはアラルキレンエーテル基等;異性体を含む、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、フェニレン基、キシリレン基等が挙げられる。
 また、側鎖(a)が上記カルボニル含有基および上記含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖である場合、前記側鎖(a)の前記水素結合性架橋部位が下記一般式(101):
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000010
[式(101)中、Aは含窒素複素環である。]
で表される構造部分を含有することが好ましい。このような式(101)中の含窒素複素環Aは上記式(1)で例示した含窒素複素環Aと基本的に同一のものである。また、このような側鎖(a)の前記水素結合性架橋部位としては、高モジュラス、高破断強度の観点から、下記一般式(102):
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000011
で表される構造を有するものがより好ましい。更に、前記側鎖(a)が上記一般式(102)で表される基であることが特に好ましい。
 上記ポリマー成分が有することのできる上記カルボニル含有基と上記含窒素複素環との割合は特に限定されず、2:1であると相補的な相互作用を形成しやすくなり、また、容易に製造できるため好ましい。
 このようなカルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)は、主鎖部分100モル%に対して、0.1~50モル%の割合(導入率)で導入されていることが好ましく、1~30モル%の割合で導入されていることがより好ましい。このような側鎖(a)の導入率が0.1モル%未満では架橋時の引張強度が十分でない場合があり、他方、50モル%を超えると架橋密度が高くなりゴム弾性が失われる場合がある。すなわち、導入率が上記した範囲内であれば、上記ポリマー成分の側鎖同士の相互作用によって、分子間で効率良く架橋が形成されるため、架橋時の引張強度が高く、リサイクル性に優れるため好ましい。
 上記導入率は、側鎖(a)として、上記カルボニル含有基を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a-i)と上記含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a-ii)とがそれぞれ独立に導入されている場合には、該カルボニル含有基を含有する側鎖(a-i)と該含窒素複素環を含有する側鎖(a-ii)との割合に従って、これらを一組で1つの側鎖(a)として考えて算出する。なお、側鎖(a-i)及び(a-ii)のうちの何れかが過剰の場合は、多い方の側鎖を基準として、上記導入率を考えればよい。
 また、上記導入割合は、例えば、主鎖部分を形成するポリマーがエチレン-プロピレンゴム(EPM)である場合には、エチレンおよびプロピレンモノマー単位100ユニット当り、側鎖部分の導入されたモノマーが、0.1~50ユニット程度である。
 また、側鎖(a)としては、反応後に前記主鎖を形成するポリマー(ポリマー形成用の材料)に、官能基として環状酸無水物基(好ましくは環骨格中にカルボニル基を有する環状酸無水物基、より好ましくは無水マレイン酸基)を有するポリマー(環状酸無水物基を側鎖に有するポリマー)を用いて、前記官能基(環状酸無水物基)と、該環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)とを反応させて、水素結合性架橋部位を形成して、ポリマーの側鎖を側鎖(a)としたものが好ましい。このような含窒素複素環を導入し得る化合物は、上記で例示した含窒素複素環そのものであってもよく、無水マレイン酸等の環状酸無水物基と反応する置換基(例えば、水酸基、チオール基、アミノ基等)を有する含窒素複素環であってもよい。
 ここで、「環状酸無水物基」とは、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物が、ポリマーに結合するのに必要な構造の変化を受けて生じた基を意味する。環状酸無水物基が環骨格中にカルボニル基を有する環状酸無水物基である場合、環状酸無水物基は、カルボン酸の脱水縮合により生じた構造(例えば、-CO-O-CO-で表される構造)を有していてよい。
 ここで、上記環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーは、環状酸無水物変性ポリマーともいうことができる。環状酸無水物変性ポリマーは、環状酸無水物を直接または有機基を介してポリマーに結合させて形成することができる。
 ここで、側鎖(a)における含窒素複素環の結合位置について説明する。なお、窒素複素環を便宜上「含窒素n員環化合物(n≧3)」とする。
 以下に説明する結合位置(「1~n位」)は、IUPAC命名法に基づくものである。
例えば、非共有電子対を有する窒素原子を3個有する化合物の場合、IUPAC命名法に基づく順位によって結合位置を決定する。具体的には、上記で例示した5員環、6員環および縮合環の含窒素複素環に結合位置を記している。
 このような側鎖(a)においては、直接または有機基を介して共重合体と結合する含窒素n員環化合物の結合位置は特に限定されず、いずれの結合位置(1位~n位)でもよい。好ましくは、その1位または3位~n位である。
 含窒素n員環化合物に含まれる窒素原子が1個(例えば、ピリジン環等)の場合は、分子内でキレートが形成されやすく組成物としたときの引張強度等の物性に優れるため、3位~(n-1)位が好ましい。含窒素n員環化合物の結合位置を選択することにより、ポリマーは、ポリマー同士の分子間で、水素結合、イオン結合、配位結合等による架橋が形成されやすく、リサイクル性に優れ、機械的特性、特に引張強度に優れるものとなる傾向にある。
 <側鎖(b):共有結合性架橋部位を含有する側鎖>
 本明細書において「共有結合性架橋部位を含有する側鎖(b)」は、ポリマーの主鎖を形成する原子(通常、炭素原子)に、共有結合性架橋部位(後述するアミノ基含有化合物等の「共有結合を生成する化合物」等と反応することで、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生成しうる官能基等)が化学的に安定な結合(共有結合)をしていることを意味する。なお、側鎖(b)は共有結合性架橋部位を含有する側鎖であるが、共有結合性部位を有しつつ、更に、水素結合が可能な基を有して、側鎖間において水素結合による架橋を形成するような場合には、後述の側鎖(c)として利用されることとなる。
 なお、ポリマー同士の側鎖間に水素結合を形成することが可能な、水素のドナーと、水素のアクセプターの双方が含まれていない場合、例えば、系中に単にエステル基(-COO-)が含まれている側鎖のみが存在するような場合には、エステル基(-COO-)同士では特に水素結合は形成されないため、かかる基は水素結合性架橋部位としては機能しない。
 他方、例えば、カルボキシ基やトリアゾール環のような、水素結合の水素のドナーとなる部位と、水素のアクセプターとなる部位の双方を有する構造をポリマー同士の側鎖にそれぞれ含む場合には、ポリマー同士の側鎖間で水素結合が形成されるため、水素結合性架橋部位が含有されることとなる。また、例えば、ポリマー同士の側鎖間に、エステル基と水酸基とが共存して、それらの基により側鎖間で水素結合が形成する場合、その水素結合を形成する部位が水素結合性架橋部位となる。そのため、側鎖(b)が有する構造自体や、側鎖(b)が有する構造と他の側鎖が有する置換基の種類等に応じて、側鎖(c)として利用される場合がある。また、ここにいう「共有結合性架橋部位」は、共有結合によりポリマー同士を架橋する部位である。
 このような共有結合性架橋部位を含有する側鎖(b)は特に制限されないが、例えば、官能基を側鎖に有するポリマー(前記主鎖部分を形成させるためのポリマー)と、前記官能基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)とを反応させることで、形成される共有結合性架橋部位を含有するものであることが好ましい。このような側鎖(b)の前記共有結合性架橋部位における架橋は、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により形成されてなることが好ましい。そのため、前記主鎖を構成するポリマーが有する前記官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生成しうる官能基であることが好ましい。
 このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」としては、例えば、1分子中にアミノ基および/またはイミノ基を2個以上(アミノ基およびイミノ基をともに有する場合はこれらの基を合計して2個以上)有するポリアミン化合物;1分子中に水酸基を2個以上有するポリオール化合物;1分子中にイソシアネート(NCO)基を2個以上有するポリイソシアネート化合物;1分子中にチオール基(メルカプト基)を2個以上有するポリチオール化合物;等が挙げられる。
 ここにおいて「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」は、かかる化合物が有する置換基の種類や、かかる化合物を利用して反応せしめた場合の反応の進行の程度等によっては、前記水素結合性架橋部位及び前記共有結合性架橋部位の双方を導入し得る化合物となる(例えば、水酸基を3個以上有する化合物を利用して、共有結合による架橋部位を形成する場合において、反応の進行の程度によっては、官能基を側鎖に有するポリマーの該官能基に2個の水酸基が反応して、残りの1個の水酸基が水酸基として残るような場合も生じ、その場合には、水素結合性の架橋を形成する部位も併せて導入され得ることとなる。)。そのため、ここに例示する「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」には、「水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物」も含まれ得る。
 このような観点から、側鎖(b)を形成する場合には、「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」の中から目的の設計に応じて化合物を適宜選択したり、反応の進行の程度を適宜制御する等して、側鎖(b)を形成すればよい。なお、共有結合性架橋部位を形成する化合物が複素環を有している場合には、より効率よく水素結合性の架橋部位も同時に製造することが可能になり、後述の側鎖(c)として、前記共有結合性架橋部位を有する側鎖を効率よく形成することが可能となる。そのため、かかる複素環を有しているような化合物の具体例については、側鎖(c)を製造するための好適な化合物として、特に側鎖(c)と併せて説明する。なお、側鎖(c)は、その構造から、側鎖(a)や側鎖(b)等の側鎖の好適な一形態であるとも言える。
 このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」として利用可能な前記ポリアミン化合物としては、例えば、以下に示す脂環族アミン、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、含窒素複素環アミン等が挙げられる。
 このような脂環族アミンとしては、具体的には、例えば、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ジアミノシクロヘキサン、ジ-(アミノメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
 また、前記脂肪族ポリアミンとしては、特に制限されないが、例えば、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノヘプタン、ジアミノドデカン、ジエチレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N-アミノエチルピペラジン、トリエチレンテトラミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N’-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジイソプロピル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、N,N’-ジエチル-1,6-ヘキサンジアミン、N,N’,N’’-トリメチルビス(ヘキサメチレン)トリアミン等が挙げられる。
 前記芳香族ポリアミンおよび前記含窒素複素環アミンとしては、特に制限されないが、例えば、ジアミノトルエン、ジアミノキシレン、テトラメチルキシリレンジアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール等が挙げられる。
 また、前記ポリアミン化合物は、その水素原子の一つ以上を、アルキル基、アルキレン基、アラルキレン基、オキシ基、アシル基、ハロゲン原子等で置換してもよく、また、その骨格に、酸素原子、イオウ原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
 また、前記ポリアミン化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の混合比は、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が用いられる用途、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物に要求される物性等に応じて任意の比率に調整することができる。
 上記で例示したポリアミン化合物のうち、ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等が、圧縮永久歪、機械的強度、特に引張強度の改善効果が高く好ましい。
 「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」として利用可能な前記ポリオール化合物は、水酸基を2個以上有する化合物であれば、その分子量および骨格などは特に限定されず、例えば、以下に示すポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、その他のポリオール、およびこれらの混合ポリオール等が挙げられる。
 このようなポリエーテルポリオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,1,1-トリメチロールプロパン、1,2,5-ヘキサントリオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、4,4’-ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4’-ジヒドロキシフェニルメタン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールから選ばれる少なくとも1種に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等から選ばれる少なくとも1種を付加させて得られるポリオール;ポリオキシテトラメチレンオキサイド;等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
 前記ポリエステルポリオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1-トリメチロールプロパンその他の低分子ポリオールの1種または2種以上と、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸その他の低分子カルボン酸やオリゴマー酸の1種または2種以上との縮合重合体;プロピオンラクトン、バレロラクトンなどの開環重合体;等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
 その他のポリオールとしては、具体的には、例えば、ポリマーポリオール、ポリカーボネートポリオール;ポリブタジエンポリオール;水素添加されたポリブタジエンポリオール;アクリルポリオール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリプロピレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリエチレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリプロピレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリエチレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)、ポリプロピレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)などの低分子ポリオール;等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
 「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」として利用可能な前記ポリイソシアネート化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアナートメチル(NBDI)等の脂肪族ポリイソシアネート、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、H6XDI(水添XDI)、H12MDI(水添MDI)、H6TDI(水添TDI)等の脂環式ポリイソシアネートなどのジイソシアネート化合物;ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物;これらのイソシアネート化合物のカルボジイミド変性ポリイソシアネート;これらのイソシアネート化合物のイソシアヌレート変性ポリイソシアネート;これらのイソシアネート化合物と上記で例示したポリオール化合物とを反応させて得られるウレタンプレポリマー;等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
 ポリチオール化合物は、チオール基を2個以上有する化合物であれば、その分子量および骨格などは特に限定されず、その具体例としては、メタンジチオール、1,3-ブタンジチオール、1,4-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,2-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、1,10-デカンジチオール、1,2-エタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,9-ノナンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、1,2-プロパンジチオール、1,3-プロパジチオール、トルエン-3,4-ジチオール、3,6-ジクロロ-1,2-ベンゼンジチオール、1,5-ナフタレンジチオール、1,2-ベンゼンジメタンチオール、1,3-ベンゼンジメタンチオール、1,4-ベンゼンジメタンチオール、4,4’-チオビスベンゼンチオール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、1,8-ジメルカプト-3,6-ジオキサオクタン、1,5-ジメルカプト-3-チアペンタン、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール(トリメルカプト-トリアジン)、2-ジ-n-ブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、トリメチロールプロパントリス(β-チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ポリチオール(チオコールまたはチオール変性高分子(樹脂、ゴム等))等が挙げられ、これらを1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
 このような「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」と反応する、前記主鎖を構成するポリマーが有する官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生成し得る官能基が好ましく、かかる官能基としては、環状酸無水物基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、チオール基等が好適に例示される。
 なお、前記側鎖(b)を有するポリマー(B)は、かかる側鎖(b)の部分において、前記共有結合性架橋部位における架橋、すなわち、前記官能基と上述した「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」との反応により形成される共有結合による架橋を1分子中に少なくとも1個有しており、特に、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により架橋が形成される場合は、2個以上有しているのが好ましく、2~20個有しているのがより好ましく、2~10個有しているのがさらに好ましい。
 また、前記側鎖(b)の共有結合性架橋部位における架橋が、第三級アミノ結合(-N=)、エステル結合(-COO-)を含有していることが、得られる熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪および機械的強度(破断伸び、破断強度)がより容易に改善され得るとの理由から好ましい。なお、この場合において、第三級アミノ結合(-N=)、エステル結合(-COO-)に対して、水素結合を形成することが可能な基を含む側鎖を有するポリマーが含まれている場合(例えば、水酸基等を含む側鎖を有するポリマーが他に存在する場合等)には、前記共有結合性架橋部位が、後述の側鎖(c)として機能し得る。
 例えば、前記側鎖(a’)として前記側鎖(a)を有するポリマー(B)の場合(すなわちポリマー(B)が側鎖(a)及び(b)の双方を有するポリマーである場合)において、共有結合性架橋部位における架橋が前記第三級アミノ結合及び/又は前記エステル結合を有する場合、それらの基と、側鎖(a)(カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する側鎖)中の基とが水素結合(相互作用)することで、架橋密度をより向上させることも可能となるものと考えられる。なお、このような第三級アミノ結合(-N=)、エステル結合(-COO-)を含有している構造の側鎖(b)を形成するとの観点で、「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」としては、上記で例示したもののうち、ポリエチレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリプロピレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリエチレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリプロピレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリエチレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)、ポリプロピレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)であることが好ましい。
 なお、上述のような共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)を利用しても、反応の進行度や置換基の種類、用いる原料の化学量論比等によっては、水素結合性の架橋部位も併せて導入されるような場合もあるため、前記共有結合性架橋部位の好適な構造については、側鎖(c)中の共有結合性架橋部位の好適な構造と併せて説明する。
 <側鎖(c):水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖>
 このような側鎖(c)は、1つの側鎖中に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む側鎖である。このような側鎖(c)に含まれる水素結合性架橋部位は、側鎖(a’)において説明した水素結合性架橋部位として例示したものと同一のものでよく、側鎖(a)中の水素結合性架橋部位として例示したものと同一のものが好ましい。また、側鎖(c)に含まれる共有結合性架橋部位としては、側鎖(b)中の共有結合性架橋部位として例示したものと同一のものを利用できる(その好適な架橋も同一のものを利用できる。)。
 このような側鎖(c)は、官能基を側鎖に有するポリマー(前記主鎖部分を形成させるためのポリマー)と、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入する化合物)とを反応させることで、形成される側鎖であることが好ましい。 このような水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入する化合物)としては、複素環(特に好ましくは含窒素複素環)を有しかつ共有結合性架橋部位を形成することが可能な化合物(共有結合を生成する化合物)が好ましく、中でも、複素環含有ポリオール、複素環含有ポリアミン、複素環含有ポリチオール等がより好ましい。
 なお、このような複素環を含有する、ポリオール、ポリアミンおよびポリチオールは、複素環(特に好ましくは含窒素複素環)を有するものである以外は、前述の「共有結合性架橋部位を形成することが可能な化合物(共有結合を生成する化合物)」において説明したポリオール、ポリアミンおよびポリチオールとして例示したものを適宜利用することができる。また、このような複素環含有ポリオールとしては、特に制限されないが、例えば、ビス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、コウジ酸、ジヒドロキシジチアン、トリスヒドロキシエチルトリアジンが挙げられる。また、前記複素環含有ポリアミンとしては、特に制限されないが、例えば、アセトグアナミン、ピペラジン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、ベンゾグアナミン、メラミンが挙げられる。更に、このような複素環含有ポリチオールとしては、ジメルカプトチアジアゾール、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレートが挙げられる。このように、側鎖(c)としては、官能基を側鎖に有するポリマー(前記主鎖部分を形成させるためのポリマー)と、複素環を含有するポリオール、ポリアミンおよびポリチオール等とを反応させて、得られる側鎖であることが好ましい。
 なお、「水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入する化合物)」と反応する、前記主鎖を構成するポリマーが有する官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生成し得る官能基が好ましく、かかる官能基としては、環状酸無水物基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、チオール基等が好適に例示される。
 また、前記側鎖(c)を有するポリマー(B)は、かかる側鎖(c)の部分において、前記共有結合性架橋部位における架橋を1分子中に少なくとも1個有しており、特に、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により架橋が形成される場合は、2個以上有しているのが好ましく、2~20個有しているのがより好ましく、2~10個有しているのがさらに好ましい。また、前記側鎖(c)の共有結合性架橋部位における架橋が、第三級アミノ結合(-N=)、エステル結合(-COO-)を含有していることが、得られる熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪および機械的強度(破断伸び、破断強度)がより改善されるとの理由から好ましい。
 (側鎖(b)~(c)中の共有結合性架橋部位として好適な構造について)
 側鎖(b)及び/又は(c)に関して、共有結合性架橋部位における架橋が、第三級アミノ結合(-N=)、エステル結合(-COO-)を含有している場合であって、これらの結合部位が水素結合性架橋部位としても機能する場合、得られる熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪および機械的強度(破断伸び、破断強度)がより高度に改善されるとの理由から好ましい。このように、共有結合性架橋部位を有する側鎖中の第三級アミノ結合(-N=)やエステル結合(-COO-)が、他の側鎖との間において、水素結合を形成するような場合、かかる第三級アミノ結合(-N=)、エステル結合(-COO-)を含有している共有結合性架橋部位は、水素結合性架橋部位も備えることとなり、側鎖(c)として機能し得る。
 なお、例えば、前記側鎖(a’)として前記側鎖(a)を有するポリマー(B)の場合であって、前記第三級アミノ結合及び/又は前記エステル結合を含有している共有結合性架橋部位を有する場合において、前記第三級アミノ結合及び/又は前記エステル結合が、前記側鎖(a)中の基と水素結合(相互作用)を形成すると、架橋密度をより向上させることが可能となるものと考えられる。
 ここで、前記主鎖を構成するポリマーが有する官能基と反応して前記第三級アミノ結合及び/又は前記エステル結合を含有している共有結合性架橋部位を形成させることが可能な化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成することが可能な化合物)としては、ポリエチレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリプロピレングリコールラウリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン)、ポリエチレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリプロピレングリコールオクチルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)オクチルアミン)、ポリエチレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)、ポリプロピレングリコールステアリルアミン(例えば、N,N-ビス(2-メチル-2-ヒドロキシエチル)ステアリルアミン)を好適なものとして挙げることができる。
 前記側鎖(b)及び/又は側鎖(c)の上記共有結合性架橋部位における架橋としては、下記一般式(4)~(6)のいずれかで表される構造を少なくとも1つ含有しているものが好ましく、式中のGが第三級アミノ結合、エステル結合を含有しているものがより好ましい(なお、以下の構造において、水素結合性架橋部位を含む場合、その構造を有する側鎖は、側鎖(c)として利用されるものである。)。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000012
 上記一般式(4)~(6)中、E、J、KおよびLはそれぞれ独立に単結合;酸素原子、アミノ基NR’(R’は水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。)またはイオウ原子;あるいはこれらの原子または基を含んでもよい有機基であり、Gは酸素原子、イオウ原子または窒素原子を含んでいてもよく、直鎖状、分岐鎖状又は環状の炭素数1~20の炭化水素基である。
 ここで、置換基E、J、KおよびLはそれぞれ独立に、上記一般式(1)で例示した置換基Bと基本的に同一である。
 また、置換基Gは、直鎖状、分岐鎖状又は環状の炭素数1~20の炭化水素基であり、酸素原子、イオウ原子または窒素原子を含んでいてもよい。このような置換基Gとしては、例えば、メチレン基、エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、1,10-デシレン基、1,11-ウンデシレン基、1,12-ドデシレン基などのアルキレン基;N,N-ジエチルドデシルアミン-2,2’-ジイル、N,N-ジプロピルドデシルアミン-2,2’-ジイル、N,N-ジエチルオクチルアミン-2,2’-ジイル、N,N-ジプロピルオクチルアミン-2,2’-ジイル、N,N-ジエチルステアリルアミン-2,2’-ジイル、N,N-ジプロピルステアリルアミン-2,2’-ジイル、;ビニレン基;1,4-シクロへキシレン基等の2価の脂環式炭化水素基;1,4-フェニレン基、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,3-フェニレンビス(メチレン)基などの2価の芳香族炭化水素基;プロパン-1,2,3-トリイル、ブタン-1,3,4-トリイル、トリメチルアミン-1,1’,1’’-トリイル、トリエチルアミン-2,2’,2’’-トリイル等の3価の炭化水素基;イソシアヌレート基、トリアジン基等の酸素原子、イオウ原子または窒素原子を含む3価の環状炭化水素;下記式(12)および(13)で表される4価の炭化水素基;およびこれらを組み合わせて形成される置換基;等が挙げられる。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000013
 さらに、前記側鎖(c)の上記共有結合性架橋部位における架橋が、上述した上記ポリマーの主鎖にα位またはβ位で結合する下記式(7)~(9)のいずれかで表される構造を少なくとも1つ含有するのが好ましく、式中のGが第三級アミノ基を含有しているのがより好ましい(式(7)~(9)に示す構造は水酸基とカルボニル基を含有しており、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を含む構造といえ、かかる構造を有する側鎖は側鎖(c)として機能し得る。)。また、式中のGとしては、耐熱性が高く、水素結合により、高強度になるという観点から、イソシアヌレート基(イソシアヌレート環)であることが好ましい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000014
式(7)~(9)中、置換基E、J、KおよびLはそれぞれ独立に、上記式(4)~(6)で例示した置換基E、J、KおよびLと基本的に同一であり、置換基Gは、上記式(4)で例示した置換基Gと基本的に同一である。
 また、このような式(7)~(9)のいずれかで表される構造としては、具体的には、下記式(14)~(25)で表される化合物が好適に例示される。
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000015
(式中、lは、1以上の整数を表す。)
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000016
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000017
(式中、l、mおよびnは、それぞれ独立に1以上の整数を表す。)
Figure JPOXMLDOC01-appb-C000018
 また、前記側鎖(b)及び(c)において、上記共有結合性架橋部位における架橋は、環状酸無水物基と、水酸基あるいはアミノ基及び/又はイミノ基との反応により形成されることが好ましい。例えば、反応後に主鎖部分を形成するポリマーが官能基として環状酸無水物基(例えば無水マレイン酸基)を有している場合に、該ポリマーの環状酸無水物基と、水酸基あるいはアミノ基および/またはイミノ基を有する前記共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)とを反応させて、共有結合により架橋する部位を形成してポリマー間を架橋させることで、形成される架橋としてもよい。
 また、このような側鎖(b)及び(c)において、前記共有結合性架橋部位における架橋は、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により形成されてなることがより好ましい。
 以上、側鎖(a’)、側鎖(a)、側鎖(b)、側鎖(c)について説明したが、このようなポリマー中の側鎖の各基(構造)等は、NMR、IRスペクトル等の通常用いられる分析手段により確認することができる。
 また、前記ポリマー(A)は、前記側鎖(a)を有するガラス転移点が25℃以下のポリマーであり、前記ポリマー(B)は、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位を含有しているガラス転移点が25℃以下のポリマー(側鎖として、側鎖(a’)及び側鎖(b)の双方を有するポリマーや、側鎖に側鎖(c)を少なくとも一つ含むポリマー等)である。このようなポリマー成分としては、前記ポリマー(A)~(B)のうちの1種を単独で利用してもよく、あるいは、それらのうちの2種以上を混合して利用してもよい。
 なお、ポリマー(B)は、側鎖(a’)及び側鎖(b)の双方を有するポリマーであっても、側鎖(c)を有するポリマーであってもよいが、このようなポリマー(B)の側鎖に含有される水素結合性架橋部位としては、より強固な水素結合が形成されるといった観点から、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位(より好ましくはカルボニル含有基および含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位)であることが好ましい。また、前記ポリマー(B)の側鎖に含有される前記共有結合性架橋部位における架橋は、その架橋部位を含む側鎖間において水素結合等の分子間相互作用を引き起こさせることも可能となるといった観点から、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合により形成されてなることが好ましい。
 このようなポリマー(A)~(B)を製造する方法としては特に制限されず、上述のような側鎖(a);側鎖(a')及び側鎖(b);、並びに、側鎖(c);からなる群から選択される少なくとも1種を、ガラス転移点が25℃以下のポリマーの側鎖として導入することが可能な公知の方法を適宜採用することができる。例えば、ポリマー(B)を製造するための方法としては、特開2006-131663号公報に記載の方法を採用してもよい。また、上述のような側鎖(a’)及び側鎖(b)を備えるポリマー(B)を得るために、例えば、官能基としての環状酸無水物基(例えば無水マレイン酸基)を側鎖に有するポリマーに、前記環状酸無水物基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)と、前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)との混合物(混合原料)を利用して、それぞれの側鎖を同時に導入してもよい。
 また、このようなポリマー(A)~(B)を製造する方法としては、例えば、官能基(例えば環状酸無水物基等)を側鎖に有するポリマーを用いて、該ポリマーを、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物、並びに、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物及び前記官能基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物の混合原料のうちの少なくとも1種の原料化合物と反応させて、前記側鎖(a)を有するポリマー;側鎖(a')及び側鎖(b)を有するポリマー;及び/又は前記側鎖(c)を有するポリマー(前記ポリマー(A)~(B))を製造する方法を採用してもよい。なお、このような反応の際に採用する条件(温度条件や雰囲気条件等)は特に制限されず、官能基や該官能基と反応させる化合物(水素結合性架橋部位を形成する化合物及び/又は共有結合性架橋部位を形成する化合物)の種類に応じて適宜設定すればよい。なお、前記ポリマー(A)の場合は、水素結合部位を持つモノマーを重合して製造しても良い。
 このような官能基(例えば環状酸無水物基)を側鎖に有するポリマーとしては、前述のポリマー(A)~(B)の主鎖を形成することが可能なポリマーであって、官能基を側鎖に有するものが好ましい。ここで、「官能基を側鎖に含有するポリマー」とは、主鎖を形成する原子に官能基(上述の官能基等、例えば、環状酸無水物基等)が化学的に安定な結合(共有結合)をしているポリマーをいい、ポリマー(例えば公知の天然高分子または合成高分子)と官能基を導入し得る化合物とを反応させることにより得られるものを好適に利用できる。
 また、このような官能基としては、アミド、エステル、ラクトン、ウレタン、エーテル、チオウレタンおよびチオエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの結合を生成し得る官能基であることが好ましく、中でも、環状酸無水物基、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、チオール基等が好ましく、組成物中にクレイを含む場合、クレイをより効率よく分散させることが可能であるといった観点からは、環状酸無水物基が特に好ましい。
また、このような環状酸無水物基としては、環骨格中にカルボニル基を有する環状酸無水物基であってよく、無水コハク酸基、無水マレイン酸基、無水グルタル酸基、無水フタル酸基が好ましく、中でも、容易にポリマー側鎖に導入可能で、工業的に入手が容易である観点からは、無水マレイン酸基がより好ましい。また、前記官能基が環状酸無水物基である場合には、例えば、前記官能基を導入しうる化合物として、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸およびこれらの誘導体等の環状酸無水物を用いて、ポリマー(例えば公知の天然高分子または合成高分子)に官能基を導入してもよい。
 なお、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物としては特に制限されないが、前述の「水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)」を利用することが好ましい。また、前記官能基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物としては特に制限されないが、前述の「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」を利用することが好ましい。また、水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)、及び、共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)としては、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(例えば、含窒素複素環含有ポリオール、含窒素複素環含有ポリアミン、含窒素複素環含有ポリチオール等)も好適に利用することができる。
 また、組成物中にクレイを含む場合、このようなポリマー成分(ポリマー(A)~(B))を製造する方法に、官能基(例えば環状酸無水物基)を側鎖に有するポリマーを用いて、該ポリマーを、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物、並びに、前記官能基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物及び前記官能基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物の混合原料のうちの少なくとも1種の原料化合物と反応させて、前記側鎖(a)を有する前記ポリマー(A)、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されている前記ポリマー(B)を製造する方法を採用する場合、官能基を側鎖に有するポリマーを、前記原料化合物と反応させる前に、クレイと官能基を側鎖に有するポリマーとを混合し、その後、前記原料化合物を添加し、反応させて、ポリマー成分の調製と同時に組成物を形成する方法(クレイを先添加する方法)を採用してもよい。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が、ポリマー(A)をポリマー成分とする熱可塑性エラストマー組成物である場合においては、組成物中に側鎖(a)に由来する特性を付与できるため、特に破断伸び、破断強度、流動性を向上させることが可能となる。また、ポリマー(B)をポリマー成分とする熱可塑性エラストマー組成物においては、組成物中に、側鎖中の共有結合性架橋部位に由来する特性を付与できるため、特に圧縮永久歪を向上させることが可能となる。なお、ポリマー(B)をポリマー成分として含有する熱可塑性エラストマー組成物においては、組成物中において、共有結合性架橋部位に由来する特性の他に、水素結合性架橋部位(側鎖(a’)において説明した水素結合性架橋部位)に由来する特性をも付与できるため、流動性(成形性)を保持した状態で、耐圧縮永久歪性を併せて発揮させることも可能となり、その側鎖の種類やポリマー(B)の種類等を適宜変更することで、用途に応じた所望の特性を、より効率よく発揮させることも可能となる。
 また、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物においては、ポリマー(A)をポリマー成分とする熱可塑性エラストマー組成物と、ポリマー(B)をポリマー成分とする熱可塑性エラストマー組成物とをそれぞれ別々に製造した後、これを混合して、ポリマー成分としてポリマー(A)及び(B)を含有する熱可塑性エラストマー組成物としてもよい。
 また、本明細書においては、ポリマー成分は、ポリマー(A)及び(B)を少なくとも含有していればよいが、組成物中に共有結合性架橋部位を存在せしめて、より効率よく共有結合性架橋部位の特性を利用するといった観点から、側鎖(b)を有するポリマーであってポリマー(B)以外のものを混合して用いてもよい。例えば、ポリマー成分として、ポリマー(A)を用いる場合に、側鎖(b)を有するポリマーであってポリマー(B)以外のものを組み合わせて用いた場合には、組成物中に含まれる側鎖に由来して、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位を含有するポリマー(B)を利用した熱可塑性エラストマー組成物と、ほぼ同様の特性を付与することも可能となる。また、ポリマー成分としてポリマー(A)及び(B)を含有する熱可塑性エラストマー組成物を製造する場合や、ポリマー(A)及び側鎖(b)を有するポリマーであってポリマー(B)以外のものを含有する熱可塑性エラストマー組成物を製造する場合には、各成分(例えばポリマー(A)とポリマー(B)の各成分)の比率を適宜変更することで、所望の特性を適宜発揮させることも可能となる。
 また、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物がポリマー成分として、ポリマー(A)及び(B)を含有する場合には、ポリマー(A)とポリマー(B)の含有比率は質量比([ポリマー(A)]:[ポリマー(B)])で1:9~9:1とすることが好ましく、2:8~8:2とすることがより好ましい。このようなポリマー(A)の含有比率が前記下限未満では流動性(成形性)、機械的強度が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると圧縮永久歪が低下する傾向にある。
 さらに、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物がポリマー成分として、ポリマー(A)と、側鎖(b)を有するポリマーであってポリマー(B)以外のもの(以下、場合により「ポリマー(C)」と称する。)とを含有する場合には、ポリマー(A)とポリマー(C)の含有比率は質量比([ポリマー(A)]:[ポリマー(C)])で1:9~9:1とすることが好ましく、2:8~8:2とすることがより好ましい。このようなポリマー(A)の含有比率が前記下限未満では流動性(成形性)、機械的強度が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると圧縮永久歪が低下する傾向にある。
 また、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物においては、組成物中に側鎖(a’)と側鎖(b)の双方が存在する場合には、その側鎖(a’)の全量と側鎖(b)の全量とが、質量比を基準として、1:9~9:1となっていることが好ましく、2:8~8:2となっていることがより好ましい。このような側鎖(a’)の全量が前記下限未満では流動性(成形性)、機械的強度が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると圧縮永久歪が低下する傾向にある。なお、このような側鎖(a’)は、側鎖(a)を含む概念である。そのため、側鎖(a’)として側鎖(a)のみが含まれるような場合においても、上記質量比で、組成物中に側鎖(a)と側鎖(b)の双方が存在することが好ましい。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、十分に高度な引張応力と十分に高い耐熱性とを発揮することが可能である。なお、このような熱可塑性エラストマー組成物においては、組成を適宜変更することで、用途に応じて必要となる特性(例えば、自己修復性及び/又は耐圧縮永久歪性等の特性)も適宜発揮させることが可能である。すなわち、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、十分に高度な引張応力と十分に高い耐熱性とを発揮できるとともに、付加的に、その組成に応じて、十分な耐圧縮永久歪性及び/又は十分な自己修復性を発揮することも可能である。このように、組成を適宜変更することで熱可塑性エラストマー組成物の用途に応じて、必要となる特性をバランスよく適宜発揮させることが可能であるため、上述のような各種用途に用いる場合には、その用途に応じて必要となる特性を考慮して、組成物中の成分の種類(組成)を適宜変更して利用することが好ましい。
 熱可塑性エラストマー組成物におけるポリマー成分の含有量は、実施形態に係るポリマー成分や脂肪酸アミド化合物の種類等に応じて適宜定めればよいが、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の総質量(100質量%)に対する、前記ポリマー成分の含有量の割合は、例えば、5質量%以上が好ましく、5質量%以上80質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましく、20質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記ポリマー成分の含有量の割合が上記範囲内であることにより、熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性を好ましいものとすることができる。
 以上、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物について説明したが、以下において、そのような実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を製造するための方法としても好適に利用することが可能な実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法について説明する。
[ポリマー成分の製造方法]
 実施形態に係るポリマー成分は、環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと、下記の<1>~<3>からなる群から選択される少なくとも一種の原料化合物との混合物を得て、前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させることにより得ることができる。
<1>前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(I)、<2>前記化合物(I)及び前記環状酸無水物基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(II)の混合原料、
<3>前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物。
 ここで、「環状酸無水物基を側鎖に有するポリマー」とは、ポリマーの主鎖を形成する原子に環状酸無水物基が化学的に安定な結合(共有結合)をしているポリマーのことをいい、例えば、前記ポリマー(A)~(B)の主鎖部分を形成することが可能なポリマーと、環状酸無水物基を導入し得る化合物とを反応させることにより得られるものを好適に利用することができる。
 なお、このような主鎖部分を形成することが可能なポリマーとしては、上記の<ポリマー成分>において例示したものが挙げられる。
 また、前記環状酸無水物基を導入し得る化合物としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸およびこれらの誘導体等の環状酸無水物が挙げられる。
 また、環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーの前記環状酸無水物基としては、環骨格中にカルボニル基を有する環状酸無水物基が好ましく、無水コハク酸基、無水マレイン酸基、無水グルタル酸基、無水フタル酸基が好ましく、中でも、原料の反応性が高く、しかも工業的に原料の入手が容易であるといった観点からは、無水マレイン酸基がより好ましい。
 環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーは、通常行われる方法、例えば、ポリマー(A)~(B)の主鎖部分を形成することが可能なポリマーに、通常行われる条件、例えば、加熱下での撹拌等により環状酸無水物をグラフト重合させる方法で製造してもよい。また、環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーとしては、市販品を用いてもよい。
 このような環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーの市販品としては、例えば、LIR-403(クラレ社製)などの無水マレイン酸変性イソプレンゴム;LIR-410(クラレ社製)などの変性イソプレンゴム;クライナック110、221、231(ポリサー社製)などのカルボキシ変性ニトリルゴム;CPIB(日石化学社製)などのカルボキシ変性ポリブテン;ニュクレル(三井デュポンポリケミカル社製)、ユカロン(三菱化学社製)、タフマーM(例えば、MP0610(三井化学社製)、MP0620(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性エチレン-プロピレンゴム;タフマーM(例えば、MA8510、MH7010、MH7020(三井化学社製)、MH5010、MH5020(三井化学社製)、MH5040(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性エチレン-ブテンゴム;アドテックスシリーズ(無水マレイン酸変性EVA、無水マレイン酸変性EMA(日本ポリオレフィン社製))、HPRシリーズ(無水マレイン酸変性EEA、無水マレイン酸変性EVA(三井・ジュポンポリオレフィン社製))、ボンドファストシリーズ(無水マレイン酸変性EMA(住友化学社製))、デュミランシリーズ(無水マレイン酸変性EVOH(武田薬品工業社製))、ボンダイン(エチレン・アクリル酸エステル・無水マレイン酸三元共重合体(アトフィナ社製))、タフテック(無水マレイン酸変性SEBS、M1943(旭化成社製))、クレイトン(無水マレイン酸変性SEBS、FG1901,FG1924(クレイトンポリマー社製))、タフプレン(無水マレイン酸変性SBS、912(旭化成社製))、セプトン(無水マレイン酸変性SEPS(クラレ社製))、レクスパール(無水マレイン酸変性EVA、ET-182G、224M、234M(日本ポリオレフィン社製))、アウローレン(無水マレイン酸変性EVA、200S、250S(日本製紙ケミカル社製))などの無水マレイン酸変性ポリエチレン;アドマー(例えば、QB550、LF128(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性ポリプロピレン;等が挙げられる。
 また、前記環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーとしては、高分子量で高強度であるといった観点から、無水マレイン酸変性ポリマーが好ましく、無水マレイン酸変性エチレン-プロピレンゴム、無水マレイン酸変性エチレン-ブテンゴムがより好ましい。
 前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(I)としては、上記のポリマー成分において説明した水素結合性架橋部位を形成する化合物(含窒素複素環を導入し得る化合物)として例示したものを好適に利用することができ、例えば、上記実施形態の熱可塑性エラストマー組成物において説明した含窒素複素環そのものであってもよく、あるいは、前記含窒素複素環に無水マレイン酸等の環状酸無水物基と反応する置換基(例えば、水酸基、チオール基、アミノ基等)が結合した化合物(前記置換基を有する含窒素複素環)であってもよい。なお、このような化合物(I)としては、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を同時に導入することが可能な化合物)を利用してもよい(なお、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を有する側鎖は、水素結合性架橋部位を有する側鎖の好適な一形態といえる。)。
 また、このような化合物(I)としては、特に制限されず、目的とするポリマー中の側鎖の種類(側鎖(a)又は側鎖(a’))に応じて、上述のような化合物(I)の中から好適な化合物を適宜選択して用いることができる。このような化合物(I)としては、より高い反応性が得られるといった観点からは、水酸基、チオール基及びアミノ基のうちの少なくとも1種の置換基を有していてもよい、トリアゾール、ピリジン、チアジアゾール、イミダゾール、イソシアヌレート、トリアジン又はヒダントインであることが好ましく、前記置換基を有している、トリアゾール、ピリジン、チアジアゾール、イミダゾール、イソシアヌレート、トリアジン又はヒダントインであることがより好ましく、前記置換基を有しているトリアゾール、イソシアヌレート又はトリアジンであることが更に好ましく、前記置換基を有しているトリアゾールが特に好ましい。なお、このような置換基を有していてもよいトリアゾール、ピリジン、チアジアゾール、イミダゾール又はヒダントインとしては、例えば、4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、アミノピリジン、アミノイミダゾール、アミノトリアジン、アミノイソシアヌレート、ヒドロキシピリジン、ヒドロキシエチルイソシアヌレート等が挙げられる。
 また、前記環状酸無水物基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(II)としては、上記の熱可塑性ポリマー成分において説明した「共有結合性架橋部位を形成する化合物(共有結合を生成する化合物)」として例示したものと同一のものを好適に利用することができる(その化合物として好適なものも同一でよい。)。また、このような化合物(II)としては、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を同時に導入することが可能な化合物)を利用してもよい(なお、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を有する側鎖は、共有結合性架橋部位を有する側鎖の好適な一形態といえる。)。
 このような化合物(II)としては、耐圧縮永久歪性の観点から、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、スルファミド又はポリエーテルポリオールが好ましく、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート又はスルファミドがより好ましく、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートが更に好ましい。
 また、前記化合物(I)及び/又は(II)としては、より効率よく組成物中に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を導入することが可能となることから、前記環状酸無水物基と反応して、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物(水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を同時に導入することが可能な化合物)を利用することが好ましい。このような水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成する化合物としては、前記複素環含有ポリオール、前記複素環含有ポリアミン、前記複素環含有ポリチオールを好適に利用することができ、含窒素複素環含有ポリオール、含窒素複素環含有ポリアミン、含窒素複素環含有ポリチオールをさらに好適に利用することができ、中でも、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートが特に好ましい。
 また、化合物(I)及び化合物(II)の添加量(これらの総量:一方の化合物のみを利用する場合には、その一方の化合物の量となる。)は、特に制限されないが、該化合物中にアミン、アルコール等の活性水素が含まれる場合においては、環状酸無水物基100モル%に対して、該化合物中のアミン、アルコール等の活性水素が20~250モル%となる量であることが好ましく、50~150モル%となる量であることがより好ましく、80~120モル%となる量であることが更に好ましい。このような添加量が前記下限未満では、導入される側鎖の量が少なくなって、架橋密度を十分に高度なものとすることが困難となり、引張強度等の物性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、添加した化合物(I)及び化合物(II)のうち前記架橋部位を形成しないものの割合が増えるため、却って架橋密度が下がってしまう傾向にある。
 また、化合物(I)及び化合物(II)の添加量は、これらの総量が(一方の化合物のみを利用する場合には、その一方の化合物の量となる。)、前記混合物中の前記ポリマー(環状酸無水物基を側鎖に有するポリマー)100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、0.3~7質量部であることがより好ましく、0.5~5.0質量部であることが更に好ましい。このような化合物(I)及び化合物(II)の添加量(質量部に基づく量)が前記下限未満では架橋密度が上がらず所望の物性が発現しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると架橋密度が下がる傾向にある。
 化合物(I)及び化合物(II)の双方を利用する場合において、化合物(I)及び化合物(II)を添加する順序は特に制限されず、どちらを先に加えても良い。また、化合物(I)及び化合物(II)の双方を利用する場合において、化合物(I)を、環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーの、環状酸無水物基の一部と反応させてもよい。これにより、未反応の環状酸無水物基(反応させていない環状酸無水物基)に、化合物(II)を反応させて共有結合性架橋部位を形成させることも可能となる。ここにいう一部とは、環状酸無水物基100モル%に対して1モル%以上50モル%以下であることが好ましい。
 この範囲であれば、得られるポリマー(B)において、化合物(I)に由来した基(例えば含窒素複素環等)を導入した効果が十分に発現され、リサイクル性がより向上する傾向にある。なお、化合物(II)は、共有結合による架橋が適当な個数(例えば、1分子中に1~3個)となるように前記環状酸無水物基と反応させることが好ましい。
 前記ポリマーと前記原料化合物(化合物(I)及び/又は化合物(II))とを反応させると、前記ポリマーが有する環状酸無水物基が開環されて、環状酸無水物基と前記原料化合物(前記化合物(I)及び/又は化合物(II))とが化学結合される。このような前記ポリマーと前記原料化合物(前記化合物(I)及び/又は化合物(II))とを反応(環状酸無水物基を開環)させる際の温度条件は特に制限されず、前記化合物と環状酸無水物基との種類に応じて、これらが反応可能な温度に調整すればよいが、軟化させて反応を瞬時に進める観点からは、100~280℃であってもよく、160~230℃であってもよく、180~220℃であってもよい。
 このような反応により、前記化合物(I)と環状酸無水物基とが反応した箇所においては、少なくとも水素結合性架橋部位が形成されるため、前記ポリマーの側鎖に水素結合性架橋部位(カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する部位、より好ましくはカルボニル含有基および含窒素複素環を有する部位)を含有させることが可能となる。このような反応により、形成(導入)される側鎖を、上記式(2)または(3)で表される構造を含有するものとすることができる。
 また、このような反応により、前記化合物(II)と環状酸無水物基とが反応した箇所においては、少なくとも、共有結合性架橋部位が形成されるため、前記ポリマーの側鎖を共有結合性架橋部を含有するもの(側鎖(b)又は側鎖(c))とすることが可能となる。そして、このような反応により、形成される側鎖を、上記式(7)~(9)で表される構造を含有するものとすることもできる。
 なお、このようなポリマー中の側鎖の各基(構造)、すなわち、未反応の環状酸無水物基、上記式(2)、(3)および(7)~(9)で表される構造等は、NMR、IRスペクトル等の通常用いられる分析手段により確認することができる。
 このようにして反応させることで、カルボニル含有基および/または含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分を得ることができる。
<プロセスオイル>
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、その加工性やゴム加工製品の品質を改善するためにプロセスオイルを含有することができる。かかるプロセスオイルとしては、特に制限されず、いかなるものであってもよいが、プロセスオイルは石油由来(Petroleum-Derived)の炭化水素油を含有するものが好ましい。プロセスオイルにおける石油由来の炭化水素油の含有割合は、50質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、実質的に石油由来の炭化水素油からなるものであってもよい。
 プロセスオイルとしては、ポリマー成分とのなじみがよく、流動性、耐熱性、色安定性、および耐汚染性に優れるとの観点から、バラフィンオイルが好ましい。本明細書において「パラフィンオイル」とは、そのオイルに対して、ASTM D3238-85に準拠した相関環分析(n-d-M環分析)を行って、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率(パラフィン部:CP)、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率(ナフテン部:CN)、及び、芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率(芳香族部:CA)をそれぞれ求めた場合において、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率(CP)が60%以上であるものを意味し、60%以上90%以下であるものが好ましく、70%以上85%以下であるものがより好ましい。
 また、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物においては、前記プロセスオイルが、JIS K 2283(2000年発行)に準拠して測定される、40℃における動粘度が50mm/s~700mm/sのものであることが好ましく、150~600mm/sであることがより好ましく、300~500mm/sであることが更に好ましい。
 このような動粘度(ν)が前記下限未満ではオイルのブリードが起こりやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると充分な流動性を付与できなくなる傾向にある。なお、このようなプロセスオイルの動粘度は、40℃の温度条件下において、JIS K 2283(2000年発行)に準拠して測定される値を採用するが、例えば、JIS K 2283(2000年発行)に準拠したキャノン・フェンスケ式粘度計(例えば柴田科学社製の商品名「SOシリーズ」)を利用して、40℃の温度条件で自動測定した値を採用してもよい。
 さらに、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物においては、前記プロセスオイルが、JIS K2256(2013年発行)に準拠したU字管法により測定されるアニリン点が80℃~145℃であることが好ましく、100~145℃であることがより好ましく、105~145℃であることが更に好ましい。なお、このようなプロセスオイルのアニリン点は、JIS K2256(2013年発行)に準拠したU字管法により測定される値を採用するが、例えば、JIS K2256(2013年発行)に準拠したアニリン点測定装置(例えば田中科学機器社製の商品名「aap-6」)を利用して測定した値を採用してもよい。
 このようなプロセスオイルとしては、適宜市販のものを利用することができ、例えば、JXTGエネルギー社製の商品名「スーパーオイルMシリーズ P200」、「スーパーオイルMシリーズ P400」、「スーパーオイルMシリーズ P500S」;出光興産社製の商品名「ダイアナプロセスオイルPW90」、「ダイアナプロセスオイルPW150」、「ダイアナプロセスオイルPW380」;日本サン石油社製の商品名「SUNPARシリーズ(110、115、120、130、150、2100、2280など)」;モービル社製の商品名「ガーゴイルアークティックシリーズ(1010、1022、1032、1046、1068、1100など)」等を適宜利用してもよい。
 熱可塑性エラストマー組成物におけるプロセスオイルの含有量は、ポリマー成分やプロセスオイルの種類等に応じて適宜定めればよいが、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の総質量(100質量%)に対する、前記プロセスオイルの含有量の割合は、0.1質量%以上が好ましく、0.1質量%以上95質量%以下が好ましく、1質量%以上90質量%以下が好ましく、30質量%以上85質量%以下がより好ましく、35質量%以上70質量%以下がさらに好ましく、50質量%以上85質量%以下が特に好ましい。熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記プロセスオイルの含有量の割合が上記下限値以上(特に、上記下限値が30質量%以上)であることにより、熱可塑性エラストマー組成物の硬度を低下させ、成型加工性をより優れたものとできる。また、熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記プロセスオイルの含有量の割合が上記上限値以下であることにより、成形加工機器等の汚染が、より効果的に防止される。
 プロセスオイルは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組合せて用いてもよい。
 プロセスオイルを配合することにより、熱可塑性エラストマー組成物は加工性が向上するが、それを硬化物としたときの表面のタック力(べたつき感)も向上してしまうという問題がある。
 対して、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、分子量が400以上の脂肪酸アミド化合物を含有することで、プロセスオイルが配合されていた場合であっても、非常に優れたタック力(べたつき感)低減の効果を発揮する。
 また、熱可塑性エラストマー組成物がプロセスオイルを含む場合、前記脂肪酸アミド化合物の含有量が前記プロセスオイル100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.01~30質量部であることがより好ましく、0.05~20質量部であることが更に好ましい。このように脂肪酸アミド化合物の含有量が前記下限以上であることにより、プロセスオイルに起因するタック力の低減の効果が好適に発揮される傾向にある。またプロセスオイルの配合量が比較的高い、前記熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記プロセスオイルの含有量の割合が30質量%以上の場合であっても、非常に優れたタック力(べたつき感)低減の効果を発揮できる。他方、脂肪酸アミド化合物の含有量が前記上限以下であると、プロセスオイルの付着による成形加工機器等の汚染が、より効果的に防止される傾向にある。
 熱可塑性エラストマー組成物の硬度は、特に制限されるものではないが、成型加工性に優れるとの観点から、硬度の値が小さいものが好ましい。例えば、硬化後の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K6253に準拠したショアA硬度が70以下であることが好ましく、60以下であるものがより好ましく、50以下であるものが更に好ましい。なお、前記熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記プロセスオイルの含有量の割合を、例えば80質量%以上とすることで、硬化後の上記ショアA硬度が0の熱可塑性エラストマー組成物も製造可能である。
 熱可塑性エラストマー組成物の硬度は、原料化合物の種類や配合量等により、適宜調節可能であるが、上記プロセルオイルを配合し、上記プロセルオイルの配合量によって硬度を調節することができる。熱可塑性エラストマー組成物におけるプロセルオイルの配合量を増加させるほど、熱可塑性エラストマー組成物の硬度の値を小さくでき、熱可塑性エラストマー組成物の加工性を向上可能である。
 しかし、プロセスオイルを配合することにより、熱可塑性エラストマー組成物は加工性が向上するが、それを硬化物としたときの表面のタック力(べたつき感)も増大してしまうという問題がある。
 対して、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、分子量が400以上の脂肪酸アミド化合物を含有することで、プロセスオイルが配合されていた場合であっても、非常に優れたタック力(べたつき感)低減の効果を発揮する。また、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、プロセスオイルの配合量を比較的高くして、硬化後のJIS K6253に準拠したショアA硬度を30以下とした場合であっても、非常に優れたタック力(べたつき感)低減の効果を発揮できる。
<熱可塑性樹脂>
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物であることが好ましい。動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物としては、分散相及び連続相からなり、前記分散相は前記ポリマー成分を含み、前記連続相は熱可塑性樹脂を含むものが挙げられる。
 動的架橋は、架橋剤と、該架橋剤と反応するポリマー分子とを含む原料を溶融混錬しながら架橋反応を行うことで形成できる。この架橋反応によって、ポリマー成分の溶融粘度が上昇し、熱可塑性樹脂との粘度比が大きくなり、ポリマー成分が分散相を形成するとされる。
 動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物は、エラストマーとしての優れたゴム弾性と、熱可塑性樹脂としての優れた加工性の性質とを合わせ持った非常に有用なものである。実施形態の熱可塑性エラストマー組成物によれば、それを構成成分とした動的架橋型熱可塑性エラストマーを提供できる。
 熱可塑性樹脂は、実施形態に係るポリマー成分に該当しない熱可塑性樹脂であれば特に制限されるものではないが、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂が挙げられる。これら樹脂として、具体的には低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
 また、熱可塑性樹脂は、熱可塑性エラストマーであってもよく、スチレン系エラストマーが好ましい。スチレン系エラストマーとしては、上記の中でも、スチレン-共役ジエンブロック共重合体が好ましい。スチレン系エラストマーは、水素添加されたものであってもよい。スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、等が挙げられる。
 熱可塑性エラストマー組成物における熱可塑性樹脂の含有量は、実施形態に係るポリマー成分や脂肪酸アミド化合物の種類等に応じて適宜定めればよいが、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の総質量(100質量%)に対する、前記熱可塑性樹脂の含有量の割合は、例えば、5質量%以上が好ましく、5質量%以上80質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましく、20質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記熱可塑性樹脂の含有量の割合が上記範囲内であることにより、熱可塑性エラストマー組成物の加工性を好ましいものとすることができる。
 熱可塑性エラストマー組成物が熱可塑性樹脂を含む場合、熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記ポリマー成分及び前記熱可塑性樹脂の合計含有量の割合は、例えば、10質量%以上が好ましく、10質量%以上85質量%以下が好ましく、30質量%以上75質量%以下がより好ましく、50質量%以上65質量%以下がさらに好ましい。熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記ポリマー成分及び前記熱可塑性樹脂の合計含有量の割合が上記範囲内であることにより、熱可塑性エラストマー組成物の加工性及びゴム弾性を好ましいものとすることができる。
 熱可塑性エラストマー組成物における、前記ポリマー成分及び前記熱可塑性樹脂の含有量の合計と、前記プロセスオイルと、の含有割合(ポリマー成分及び前記熱可塑性樹脂の合計)/(プロセスオイル)が質量比で5/1~1/5であることが好ましく、3/1~1/3であることがより好ましく、2/1~1であることがさらに好ましい。なお、熱可塑性エラストマー組成物が熱可塑性樹脂を含まない場合には、前記ポリマー成分及び前記熱可塑性樹脂の含有量の合計とは、ポリマー成分のみの含有量とする。上記質量比が上記範囲内であることにより、熱可塑性エラストマー組成物内におけるプロセスオイルの担持が好適となり、熱可塑性エラストマー組成物の加工性及びゴム弾性の両立を高いレベルで実現可能できる。
<クレイ>
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、クレイを含有することができる。かかるクレイとしては特に制限されず、公知のクレイ(粘土鉱物等)を適宜利用することができる。また、このようなクレイとしては、天然のクレイ、合成クレイ、有機化クレイが挙げられる。
 このようなクレイの中でも、ケイ素及びマグネシウムを主成分とするクレイ、並びに、有機化クレイからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
 また、ケイ素及びマグネシウムを主成分とするクレイとは、クレイの構成成分である金属酸化物の金属の主成分がケイ素(Si)及びマグネシウム(Mg)であるクレイを指し、その他の金属酸化物(アルミニウム(Al)、鉄(Fe)等)を副成分として含んでいても良い。ケイ素及びマグネシウムを主成分とするクレイとしては特に制限されず、公知のものを適宜利用することができる。ケイ素及びマグネシウムを主成分とするクレイを用いることで、粒径が小さいため補強性を高くすることが可能となる。また、このようなケイ素及びマグネシウムを主成分とするクレイとしては、入手のし易さの観点から、スメクタイト構造を有するクレイが好ましい。
 また、このようなケイ素及びマグネシウムを主成分とするクレイとしては、例えば、スティブンサイト、ヘクトライト、サポナイト、タルク等を挙げることができるが、中でも、分散性の観点から、スティブンサイト、ヘクトライト、サポナイトを用いることがより好ましい。
 また、ケイ素及びマグネシウムを主成分とするクレイとしては、合成クレイが好ましい。このような合成クレイとしては、市販のものを利用してもよく、例えば、クニミネ工業社製の商品名「スメクトンSA」、「スメクトンST」、水澤化学工業社製の商品名「イオナイト」、コープケミカル株式会社製の商品名「ルーセンタイト」などを適宜利用することができる。
 また、前記有機化クレイは特に制限されないが、クレイが有機化剤により有機化されてなるものであることが好ましい。このような有機化される前のクレイとしては特に制限されず、いわゆる粘土鉱物であればよく、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、バーミキュライト、ハロイサイト、マイカ、フッ素化マイカ、カオリナイト、パイロフィロライト等が挙げられる。
また、このようなクレイは天然物であっても合成物であってもよい。
 また、前記有機化剤としては特に制限されず、クレイを有機化することが可能な公知の有機化剤を適宜利用することができ、例えば、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2-エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクタデシルアンモニウムイオン等を用いることができる。
 また、このような有機化クレイとしては、単層分散性の観点から、クレイの4級アンモニウム塩を好適に利用することができる。このような有機化クレイの4級アンモニウム塩としては、特に制限されないが、例えば、トリメチルステアリルアンモニウム塩、オレイルビス(2-ヒドロキシルエチル)の塩、メチルアンモニウム塩、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩、ジメチルオクタデシルアンモニウム塩、及び、これらのうちの2種以上の混合物を好適に用いることができる。なお、このような有機化クレイの4級アンモニウム塩としては、引張強度、耐熱性向上の観点から、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩、ジメチルオクタデシルアンモニウム塩、及び、これらの混合物をより好適に利用でき、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩とジメチルオクタデシルアンモニウム塩との混合物を更に好適に利用できる。
 また、このような有機化クレイとしては、市販のものを利用してもよく、例えば、クニミネ工業社製の商品名「クニフィル-D36」、「クニフィル-B1」、「クニフィル-HY」などの他、ホージュン社製の商品名「エスベンシリーズ(C,E,W,WX,N-400,NX,NX80,NZ,NZ70,NE,NEZ,NO12S,NO12」、「オルガナイトシリーズ(D,T)などを適宜利用することができる。このような市販の有機化クレイの中でも、クニミネ工業社製の商品名「クニフィル-D36」とホージュン社製の商品名「エスベンシリーズWX」を好適に利用できる。
 このように、クレイとしては、高分散性の観点から、ケイ素及びマグネシウムを主成分とするクレイ、有機化クレイが好ましく、中でも、より高度な引張応力(モジュラス)が得られることから、有機化クレイを用いることが特に好ましい。
 また、熱可塑性エラストマー組成物がクレイを含む場合、前記クレイの含有量が前記ポリマー成分100質量部に対して20質量部以下が好ましく、0.01~10質量部であることがより好ましく、0.05~5質量部であることが更に好ましい。このようなクレイの含有量が前記下限以上であることにより、引張応力及び耐熱性を向上させる効果が好適に発揮される傾向にあり、他方、前記上限以下であると架橋の程度が好ましいものとなるため伸びや強度が良好となる傾向にある。
<その他の成分>
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、前記ポリマー成分及び前記脂肪酸アミド化合物以外に、さらに必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、これらに該当しない他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、前記ポリマー成分以外のポリマー(以下、「ポリマー類」という。)、補強剤(充填剤)、水素結合性の補強剤(充填剤)アミノ基を導入してなる充填剤(以下、単に「アミノ基導入充填剤」という。)、該アミノ基導入充填剤以外のアミノ基含有化合物、金属元素を含む化合物(以下、単に「金属塩」という。)、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、防錆剤、接着付与剤、帯電防止剤、フィラーなどの各種添加剤等が挙げられる。例えば、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤としては、以下に記載のようなものを適宜利用することができる。
 前記ポリマー成分以外のポリマーとしては、側鎖(b)を有するポリマーであってポリマー(B)以外のものを好適に利用することができる。
 また、このような補強剤(充填剤)としては、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム等を上げることができる。シリカとしては湿式シリカ、炭酸カルシウムとしてはが好適に用いられる。
 このような老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、脂肪族および芳香族のヒンダードアミン系等の化合物を適宜利用することができる。また、前記酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等を適宜利用することができる。また、前記顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等を適宜利用することができ、また、前記可塑剤としては、例えば、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、セバチン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クエン酸等の誘導体をはじめ、ポリエステル、ポリエーテル、エポキシ系等を適宜利用することができる。なお、このような添加剤等としては、特開2006-131663号公報に例示されているようなものを適宜利用してもよい。
 なお、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が、前記ポリマー成分及び前記脂肪酸アミド化合物以外の他の成分(例えば、前記添加剤等)を含有する場合において、前記他の成分の含有量は特に制限されるものではないが、ポリマー類、補強材(充填剤)の場合は、前記ポリマー成分100質量部に対して300質量部以下とすることが好ましく、20~200質量部とすることがより好ましい。このような他の成分の含有量が前記下限未満では他の成分を利用することによる効果が十分に発現しなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、利用する成分の種類にもよるが、前記ポリマー成分の効果が薄まって、物性が低下してしまう傾向にある。
 また、前述の他の成分が、その他の添加剤の場合(ポリマー類、補強材(充填剤)以外のものである場合)は、前記他の成分の含有量は、前記ポリマー成分100質量部に対して20質量部以下とすることが好ましく、0.1~10質量部とすることがより好ましい。このような他の成分の含有量が前記下限未満では他の成分を利用することによる効果が十分に発現しなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記ポリマー成分の反応に悪影響を及ぼし、却って物性が低下してしまう傾向にある。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、前記ポリマー成分及び前記脂肪酸アミド化合物と、所望により、プロセスオイル、熱可塑性樹脂、クレイ、及びそれらに該当しないその他の成分からなる群から選択される少なくとも1つの成分と、を含む。実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、上記の成分を、含有量(質量%)の合計が100質量%を超えないように含有することができる。
<用途など>
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、加熱(例えば100~280℃に加熱)することにより、ポリマー成分の水素結合性架橋部位において形成されていた水素結合や、他の架橋構造が解離する等して軟化し、流動性を付与することができる。これは、加熱により分子間または分子内で形成されている側鎖同士の相互作用(主に水素結合による相互作用)が弱まるためであると考えられる。なお、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物においては、側鎖に、少なくとも水素結合性架橋部位を含むポリマー成分が含有されているため、加熱により流動性が付与された後、放置した場合に、解離した水素結合が再び結合して硬化するため、その組成によっては、熱可塑性エラストマー組成物に、より効率よくリサイクル性を発現させることも可能となる。
 また、本発明の一実施形態として、熱可塑性エラストマー組成物の硬化物を得ることができる。硬化は、一例として、熱可塑性エラストマー組成物を、上記の流動性を付与可能な温度以下とすれば硬化する。
 したがって、本発明の一実施形態として、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の硬化物を提供できる。
 熱可塑性エラストマー組成物の硬化物の表面のタック力は、4N以下であってよく、0.1N以上4N以下であってよく、1N以上3.5N以下であってもよく、2N以上2.7N以下であってもよい。上記タック力が上記の上限値以下であることで、使用時にべたつき感が生じ難く、また、成形用機材への貼りつきが防止される。
 上記タック力は、後述の実施例に記載の測定条件により測定するものとする。
 上記のとおり、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を加熱して流動性を付与し成形加工し、硬化させ、熱可塑性エラストマー組成物の成形品を得ることができる。
 成形加工法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形等が挙げられる。
 押出成形の押出し量は、特に制限されるものではないが、1~50kg/hを例示できる。
 ここでいう加熱とは、後述の≪熱可塑性エラストマー組成物の製造方法≫における、前記溶融混合時の加熱に対応するものであってよく、或いは、一度、熱可塑性エラストマー組成物の成形品を得た後に、それを再度加熱して、流動性を付与する際の加熱に対応するものであってもよい。
 熱可塑性エラストマー組成物の成形品は、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の硬化物であり、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を用いて製造されたものであってよく、熱可塑性エラストマー組成物を含むものであってよく、熱可塑性エラストマー組成物からなるものであってよい。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の成形品としては、ペレット、シートなどの、各種製品の素材として用いられるものも含まれる。実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は脂肪酸アミド化合物を含むことにより、ペレット同士やシート同士のブロッキングを防止できる。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、ゴム弾性を活用して種々のゴム用途に使用することができる。またホットメルト接着剤として、またはこれに含ませる添加剤として使用すると、耐熱性およびリサイクル性を向上させることができるので好ましい。実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、自動車用ゴム部品、ホース、ベルト、シート、防振ゴム、ローラー、ライニング、ゴム引布、シール材、手袋、防舷材、医療用ゴム(シリンジガスケット、チューブ、カテーテル)、ガスケット(家電用、建築用)、アスファルト改質剤、ホットメルト接着剤、ブーツ類、グリップ類、玩具、靴、サンダル、キーパッド、ギア、ペットボトルキャプライナー等の用途に好適に用いられる。
 上記自動車用ゴム部品としては、具体的には、例えば、タイヤのトレッド、カーカス、サイドウォール、インナーライナー、アンダートレッド、ベルト部などのタイヤ各部;外装のラジエータグリル、サイドモール、ガーニッシュ(ピラー、リア、カウルトップ)、エアロパーツ(エアダム、スポイラー)、ホイールカバー、ウェザーストリップ、カウベルトグリル、エアアウトレット・ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、換気口部品、防触対策部品(オーバーフェンダー、サイドシールパネル、モール(ウインドー、フード、ドアベルト))、マーク類;ドア、ライト、ワイパーのウェザーストリップ、グラスラン、グラスランチャンネルなどの内装窓枠用部品;エアダクトホース、ラジエターホース、ブレーキホース;クランクシャフトシール、バルブステムシール、ヘッドカバーガスケット、A/Tオイルクーラーホース、ミッションオイルシール、P/Sホース、P/Sオイルシールなどの潤滑油系部品;燃料ホース、エミッションコントロールホース、インレットフィラーホース、ダイヤフラム類などの燃料系部品;エンジンマウント、インタンクポンプマウントなどの防振用部品;CVJブーツ、ラック&ピニオンブーツ等のブーツ類;A/Cホース、A/Cシール等のエアコンデショニング用部品;タイミングベルト、補機用ベルトなどのベルト部品;ウィンドシールドシーラー、ビニルプラスチゾルシーラー、嫌気性シーラー、ボディシーラー、スポットウェルドシーラーなどのシーラー類;等が挙げられる。
 また、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を、ゴムの改質剤(例えば、流れ防止剤)として、室温でコールドフローを起こす樹脂あるいはゴムに含ませると、押出し時の流れやコールドフローを防止することができる。
≪熱可塑性エラストマー組成物の製造方法≫
 熱可塑性エラストマー組成物は、脂肪酸アミド化合物と、ポリマー成分又はその原料と、必要に応じて、前記熱可塑性エラストマー組成物を構成するその他の各成分とを配合することで得られる。
 より好ましくは、熱可塑性エラストマー組成物は、脂肪酸アミド化合物と、ポリマー成分又はその原料と、必要に応じて、前記熱可塑性エラストマー組成物を構成するその他の各成分とを配合し、これを溶融混合することで得られる。なお、脂肪酸アミド化合物と、ポリマー成分又はその原料と(熱可塑性エラストマー組成物が熱可塑性樹脂を含む場合は熱可塑性樹脂も)が溶融しているのであれば、配合される全ての成分が溶融していなくともよい。
 ポリマー成分の原料を用いる場合、上記の溶融混合時に、ポリマー成分の原料から、ポリマー成分を合成することができる。
 前記熱可塑性エラストマー組成物を構成する上述の各成分の配合を行う装置としては、混合器、例えば撹拌翼式混合器を用いることができ、配合を行う時間は5分~40分であってよい。また、各成分の配合時における添加順序は特に限定されず、2種以上の成分を同時に添加してもよい。
 前記熱可塑性エラストマー組成物を構成する上述の各成分の溶融混合の温度は、熱可塑性エラストマー組成物を構成する成分又はその原料に応じて適宜定めればよいが、脂肪酸アミド化合物、及びポリマー成分又はその原料を含む各種物質の融点以上の温度であることが好ましく、各種物質の熱分解温度未満の温度を例示できる。一例として、溶融混合の温度は、100~280℃であってもよく、160~230℃であってもよく、180~220℃であってもよい。
 また、溶融混合を行う装置は、バッチ式、連続式いずれであってもよい。このような装置としては溶融混練装置を例示でき、例えば単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。
 溶融混合を行う時間は、熱可塑性エラストマー組成物を構成する成分又はその原料に応じて適宜定めればよいが、2分~30分であってよい。
 脂肪酸アミド化合物は、ポリマー成分の原料とともに配合されてよく(ポリマー成分の合成前の添加)、合成後のポリマー成分とともに脂肪酸アミド化合物が配合(ポリマー成分の合成後の添加)されてもよい。
 脂肪酸アミド化合物がポリマー成分の原料とともに配合された場合(上記前添加の場合)には、これらの混合物において、ポリマー成分を合成し、脂肪酸アミド化合物及びポリマー成分を含む、熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
 脂肪酸アミド化合物がポリマー成分とともに配合された場合(上記後添加の場合)には、熱可塑性エラストマーを含む成形品に、脂肪酸アミド化合物を添加し、熱可塑性エラストマー組成物を得てもよい。この場合、該成形品の表面に脂肪酸アミド化合物を塗布することを例示でき、塗布方法としては、該成形品と脂肪酸アミド化合物との混合、該成形品への脂肪酸アミド化合物の吹付け、脂肪酸アミド化合物への該成形品の浸漬、脂肪酸アミド化合物への該成形品の含侵等を例示できる。
 すなわち、ポリマー成分の原料を用いた上記実施形態を含む、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物の製造方法として、以下の態様を提供する。
 環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと、下記の<1>~<3>からなる群から選択される少なくとも一種の原料化合物と、を含む混合物を得て、前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させることにより、ポリマー成分を得ることと、
 前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させる前の前記混合物、又は、前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させた後の前記混合物に、脂肪酸アミド化合物を配合させることとを含む、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
 <1>前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(I)、
 <2>前記化合物(I)及び前記環状酸無水物基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(II)の混合原料、
 <3>前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物
 上記、ポリマー成分、化合物(I)、化合物(II)、水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物、及び脂肪酸アミド化合物としては、上記の≪熱可塑性エラストマー組成物≫で説明したものを例示できる。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物が、動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物である場合、動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、
 ポリマーと、前記ポリマーを架橋させる架橋剤と、熱可塑性樹脂と、を含む混合物を得て、溶融条件下に前記ポリマーと前記架橋剤とを動的架橋させることにより、ポリマー成分を得ることと、
 前記ポリマーと前記架橋剤とを動的架橋させる前の前記混合物、又は、前記ポリマーと前記架橋剤とを動的架橋させた後の前記混合物に、脂肪酸アミド化合物を配合させることと、を含む。
 上記実施形態を含む、本発明に係る動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物の製造方法として、以下の態様を提供する。
 環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと、上記の<2>~<3>からなる群から選択される少なくとも一種の原料化合物と、熱可塑性樹脂と、を含む混合物を得て、溶融条件下に前記ポリマーと原料化合物とを動的架橋させることにより、ポリマー成分を得ることと、
 前記ポリマーと前記原料化合物とを動的架橋させる前の前記混合物、又は、前記ポリマーと前記原料化合物とを動的架橋させた後の前記混合物に、脂肪酸アミド化合物を配合させることとを含む、本発明に係る動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
 ここで、本明細書における「溶融条件下に動的架橋する」とは、溶融状態の前記混合物に、混練によって剪断応力をかけながら、前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させることを意味する。
 動的架橋を行う装置は、バッチ式、連続式いずれであってもよい。このような装置としては溶融混練装置を例示でき、例えば単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。
 動的架橋を行う時間は、熱可塑性エラストマー組成物を構成する成分又はその原料に応じて適宜定めればよいが、2分~30分であってよい。
 動的架橋時の温度は、熱可塑性エラストマー組成物を構成する成分又はその原料に応じて適宜定めればよいが、上記の溶融混合の温度を例示でき、脂肪酸アミド化合物、ポリマー成分の原料を含む各種原料の融点以上の温度であることが好ましく、各種原料の熱分解温度未満の温度を例示できる。一例として、溶融混合の温度は、100~280℃であってもよく、160~230℃であってもよく、180~220℃であってもよい。
 また、例えば、ポリマー(A)をポリマー成分とする熱可塑性エラストマー組成物と、ポリマー(B)をポリマー成分とする熱可塑性エラストマー組成物とをそれぞれ別々に製造した後、これを混合して、ポリマー成分としてポリマー(A)及び(B)を含有する熱可塑性エラストマー組成物としてもよい。また、ポリマー成分としてポリマー(A)及び(B)を組み合わせて含有する熱可塑性エラストマー組成物を製造する場合には、ポリマー(A)とポリマー(B)の比率を適宜変更して、組成物中に存在する水素結合性架橋部位と共有結合性架橋部位の比率等を適宜変更することで、所望の特性を発揮させることも可能である。
 実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法によれば、実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を製造可能である。なお、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、当該方法により製造されたものに限定されない。
 次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
 無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体(三井化学社製の商品名「タフマーMH5040」)35kg、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート(日星産業社製の商品名「タナック」)0.78kg、高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製の商品名「HJ590N」)25kg、スチレン系ブロックコポリマー(クレイトン社製の商品名「G1633EU」)40kg、プロセスオイル(JXTGエネルギー社製の商品名「300HV-S(J)」、百分率(CP)78.6%)62kg、有機化クレイ(ホージュン社製の商品名「エスベンWX」)0.035kg、老化防止剤(ADEKA社製の商品名「アデカスタブAO-50」)0.49kg、および表面改質剤としてエチレンビスオレイン酸アミド(日油社製の商品名「アルフローAD-281F」)0.33kgを計量し、撹拌翼式混合器にて50℃以下の温度で均一に混合し原料混合物を得た。原料混合物100質量%に対するエチレンビスオレイン酸アミドの含有量は約0.2質量%である。エチレンビスオレイン酸アミドの分子量は589、融点は115℃である。
 得られた原料混合物を二軸押出し機に投入し、押出し量20kg/h、200℃で混練することで熱可塑性エラストマー組成物を得た。次いでこの組成物をペレタイズすることでペレットを得た。
[実施例2]
 上記の実施例1において、エチレンビスオレイン酸アミドの添加量を4.9kgとした以外は、実施例1と同様にして、ペレットを作製した。
前記原料混合物100質量%に対するエチレンビスオレイン酸アミドの含有量は約3質量%である。
[実施例3]
 上記の実施例1において、エチレンビスオレイン酸アミドの添加量を8.2kgとした以外は、実施例1と同様にして、ペレットを作製した。
 前記原料混合物100質量%に対するエチレンビスオレイン酸アミドの含有量は約5質量%である。
[実施例4]
 上記の実施例1において、エチレンビスオレイン酸アミドの代わりに、エチレンビスステアリン酸アミド(日油社製の商品名「アルフローH-50S」)4.9kgを添加した以外は、実施例1と同様にして、ペレットを作製した。
 前記原料混合物100質量%に対するエチレンビスステアリン酸アミドの含有量は約3質量%である。エチレンビスステアリン酸アミドの分子量は593、融点は145℃である。
[比較例1]
 上記の実施例1において、エチレンビスオレイン酸アミドの代わりに、オレイン酸モノアミド(日油社製の商品名「アルフローE-10」)4.9kgを添加した以外は、実施例1と同様にしてペレットを作製した。
 前記原料混合物100質量%に対するオレイン酸モノアミドの含有量は約3質量%である。オレイン酸モノアミドの分子量は281、融点は74℃である。
[比較例2]
 上記の実施例1において、エチレンビスオレイン酸アミドの代わりに、エルカ酸モノアミド(日油社製の商品名「アルフローP-10」)4.9kgを添加した以外は、実施例1と同様にしてペレットを作製した。
 前記原料混合物100質量%に対するエルカ酸モノアミドの含有量は約3質量%である。エルカ酸モノアミドの分子量は338、融点は81℃である。
[比較例3]
 上記の実施例1において、脂肪酸アミド化合物を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてペレットを作製した。
<評価>
・射出成形金型からの剥離性
 上記で得られた実施例1~4、比較例1~3のペレットから、射出成形機にて200℃で100mm×100mm×2mm厚の平板を成形し、成形品の射出成形金型からの剥離性を評価した。金型の温度は40℃とした。評価基準は以下のとおりである。
○…エジェクター突き落としにて、金型から成形品を剥離できた。
×…金型への粘着があり、エジェクター突き落としにて、金型から成形品を剥離できなかった。
・熱ロールからの剥離性
 上記で得られた実施例1~4、比較例1~3のペレットから、直径200mm×長さ610mmの二本のロールを備えたミキシングロール装置にてシートを成形し、成形品のロールからの剥離性を評価した。各ロールの温度は130℃で、二本のロール間クリアランスは0.3mmとした。評価基準は以下のとおりである。
○…成形品を熱ロールから容易に剥離できた。
×…熱ロールへの粘着があり、成形品を熱ロールから剥離できない、又は剥離はできたものの成形品が破損した。
・成形品のべたつき感
 上記で得られた成形品(平板及びシート)表面のべたつき感の有無を評価した。
・成形品のタック力
 上記で得られた厚み2mmの平板を、長さ50mm×幅40mmに裁断し、(株)東洋精機製作所製のピクマタックテスタにて、裁断後の平板主面(50mm×40mm)に対して、測定機器付属のプローブ(直径50mm、幅14mmのホイール状、ホイールの円周部分が平板サンプルと接触する)を用いてタック力を測定した。測定条件は、23℃環境下、加圧力は5N、圧着時間3秒、ホルダーの下降速度は1000mm/分、ホルダーの上昇速度は500mm/分とした。
・成形品の硬度
 実施例1のペレットから、上記と同様にして、100mm×100mm×2mm厚の平板を成形し、該平板主面の中央部に対し、JIS K6253に準拠したショアA硬度を測定したところ、50であった。
 原料に用いた脂肪酸アミド化合物の種類及び物性、並びに上記の評価結果を表1に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000019
 分子量が400以上の脂肪酸アミド化合物を含有しない、比較例1~3の熱可塑性エラストマー組成物の成形品は、金型への粘着があり、エジェクター突き落としにて、金型から成形品を剥離できなかった。また、当該成形品は、ロールへの粘着がありシートを熱ロールから剥離することはできなかった。
 一方で、分子量が400以上の脂肪酸アミド化合物を含有する、実施例1~4の熱可塑性エラストマー組成物の成形品は、タック力が低減されており、射出金型からの剥離性と熱ロールからの剥離性とに問題はなく、成形品の表面のべたつき感もなかった。
 また、比較例1~2と実施例1~4との対比によれば、分子量が400未満の脂肪酸アミド化合物を含有する比較例1~2では、分子量が400以上の脂肪酸アミド化合物を含有する実施例1~4と比べて、成型品のタック力の低減の効果に劣っていた。すなわち、脂肪酸アミド化合物の分子量を400以上とすることで、非常に優れたタック力低減効果が発揮されることが分かる。
 また、実施例1~4の熱可塑性エラストマー組成物の成形品は、熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記プロセスオイルの含有量の割合が30質量%以上であるが、このようなプロセスオイルを多量に含む組成にも関わらず、分子量が400以上の脂肪酸アミド化合物を少量含むことで、非常に効果的にタック力低減効果が発揮されることが分かる。
 各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項の範囲によってのみ限定される。
 本発明は、硬化物としたときの表面のタック力が低減された熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供することができる。

Claims (12)

  1.  カルボニル含有基及び/又は含窒素複素環を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有しかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位が含有されておりかつガラス転移点が25℃以下であるポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のポリマー成分と、
     脂肪酸アミド化合物と、を含有し、
     前記脂肪酸アミド化合物の分子量が400以上である、熱可塑性エラストマー組成物。
  2.  前記ポリマー(B)の水素結合性架橋部位が、側鎖にカルボニル含有基及び/又は含窒素複素環を有する、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  3.  前記熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記脂肪酸アミド化合物の含有量の割合が0.1質量%以上である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  4.  さらに、プロセスオイルを含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  5.  前記熱可塑性エラストマー組成物100質量%に対する、前記プロセスオイルの含有量の割合が30質量%以上である、請求項4に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  6.  硬化後のJIS K6253に準拠したショアA硬度が70以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  7.  前記ポリマー(A)及び前記ポリマー(B)が、ポリオレフィン系ポリマーである、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  8.  分散相及び連続相からなる動的架橋型熱可塑性エラストマー組成物であり、前記分散相は前記ポリマー成分を含み、前記連続相は熱可塑性樹脂を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  9.  前記ポリマー成分が、前記ポリマー(B)を含み、
     前記ポリマー(B)は、環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと、
     前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(I)及び共有結合性架橋部位を形成する化合物(II)の混合原料、又は前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物と、の反応物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  10.  前記ポリマー成分が、前記ポリマー(B)を含み、
     前記ポリマー(B)は、環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと、
     前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物と、の反応物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  11.  前記環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーが、無水マレイン酸変性ポリマーであり、
     前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物が、含窒素複素環含有ポリオール、含窒素複素環含有ポリアミン、及び含窒素複素環含有ポリチオールからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項9又は10に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  12.  請求項1~11のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、
     環状酸無水物基を側鎖に有するポリマーと、下記の<1>~<3>からなる群から選択される少なくとも一種の原料化合物と、を含む混合物を得て、前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させることにより、前記ポリマー成分を得ることと、
     前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させる前の前記混合物、又は、前記ポリマーと前記原料化合物とを反応させた後の前記混合物に、分子量が400以上である前記脂肪酸アミド化合物を配合させることと、を含む、熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
     <1>前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位を形成する化合物(I)、
     <2>前記化合物(I)及び前記環状酸無水物基と反応して共有結合性架橋部位を形成する化合物(II)の混合原料、
     <3>前記環状酸無水物基と反応して水素結合性架橋部位及び共有結合性架橋部位の双方を形成可能な化合物
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