なお、本発明におけるイオンセンサは図7のような生化学自動分析装置に備えて使用されることが多い。例えば図7の装置構成では、希釈槽130にサンプル用ポンプ107にて試薬を分注する。また、サンプリングプローブ127でサンプルディスク上に保持されている試料容器101から試料を吸引用ポンプ126で吸引し、イオンセンサ128へ測定試料を流す。発生した電位はAD変換器129にて信号処理する。
イオンセンサには、複数種類のイオンを測定可能なイオンセンサが並べて配置されていてもよいが、少なくとも陰イオンセンサは含まれているものとする。陰イオンセンサは、ポリ塩化ビニルの如き高分子支持膜中に有機化合物からなる感応物質(リガンド)を担持させた高分子支持液膜型電極で構成されており、高分子を基本骨格とし、第4級アンモニウム塩を陰イオン交換基として含む、被覆処理された陰イオン交換樹脂体が用いられている。
図1は、本発明の実施例1のフローセル型陰イオンセンサの構成を示す中央図である。図1の上端a-a’と下端a-a’を結んだ面の断面図を図2とする。なお、イオンセンサの構成は、フロー型に限定されるものではなく、イオンセンサの陰イオン交換体が試料に接する構成となっていれば良い。
直方体状のフローセル型センサ本体1の内部には、測定対象の液体を通過させ、かつ、一部に穴が設けられている流路3、流路の穴を介して流路内を流れる液体に接触するように、穴の周囲に配置された塩素イオン感応膜2、塩素イオン感応膜2に生じる電位を出力する内部電極4、内部電極4と塩素イオン感応膜を電気的に導通させる内部溶液(内部ゲル液)を収容するための空間5が設けられている。塩素イオン感応膜2は、アミン系化合物で被覆処理された、第4級アンモニウム塩を有する陰イオン交換体である。なお、陰イオンセンサとしての機能を果たすものであれば、何ら塩素イオン感応膜に限定されるものではない。流路3は、図1および図2の紙面に垂直方向に、センサ本体1を横断するように形成されており、直径は約1mmである。フローセル型センサ本体1内部には、Ag/AgClからなる内部電極4が設置されており、内部電極4は空間5内の内部溶液(内部ゲル液)を介して、塩素イオン感応膜2と電気的に導通している。内部電極の電位を測定することにより、流路3中を流れる液体中に含まれる塩素イオン濃度を測定することができる。
図2の中央部には凹部9が形成されている。生化学自動分析装置に陰イオンセンサを設置する場合、この凹部9を掴むことによって所定の位置にセンサをセットすることが可能である。
図3は、図1の陰イオンセンサの上端bと下端bの断面図、図4は陰イオンセンサの斜視図である。
図3から明らかなように、塩素イオン感応膜2は流路側に凸になるように配置されている。塩素イオン感応膜2の一方側は流路3の穴を介して流路中を流れる液体と接触しており、塩素イオン感応膜2の他の一方側は空間5内に満たされた内部溶液(内部ゲル液)に接触している。
また、複数個のフローセル型センサを並べて使用する場合には、センサ同士を接合するために、直径1mmの流路3が形成された面の一方側に円柱状の凸部8、反対側の面に凸部8に係合する凹部6を設けていることが望ましい。複数個のフローセル型センサを並べて使用する場合には、フローセル型センサの凸部8を、隣接した他のフローセル型センサの凹部6にはめ込むことにより、流路3がずれることなく連通することとなる。この場合、各フローセル型センサは互いに異なるイオン種を検出し、試料液を順次流路に導入して連続的に複数イオン種のイオン濃度を測定できる。
図4は、凸部8を上に向けて陰イオンセンサを置いた場合の斜視図である。凸部8の内部には直径1mmの流路3が形成されており、その周囲に液洩れ防止用のO-リング9を設けてある。
上記の陰イオンセンサを用いた塩素イオンの測定法の評価方法は次の通りである。陰イオン選択性の評価においては、塩素イオン感応膜に対する妨害イオンの中で、血清中に含まれており最も影響の大きいHCO3イオンの影響を考慮し、HCO3選択係数を評価対象とした。HCO3選択係数の評価については特許文献2と同じ方法を用いた。概要は、塩素イオンを含む試料溶液に妨害イオンとしてHCO3イオンを添加し、Nicolsky-Eisenmannの式によりHCO3選択係数を求めるものである。陰イオンセンサの性能の指標として、HCO3選択係数の数値が小さいほど陰イオン選択性が優れていることになる。保管時に性能が劣化したと判断したのは、HCO3選択係数が0.3に達した期間とした。
内部溶液(内部ゲル液)は、以下のように調製した。
内部溶液(内部ゲル液)には、よりpHを安定させるために緩衝液を使用しているが、何ら緩衝液に限定されるものではない。緩衝液はpH11以上ではpHの管理が難しくなるため、NaCl、KClをベースとしてpH緩衝液を追加し、各pHが、pH3.7、pH4.9、pH7.6、pH9.0、pH10.0、pH11.0になり、かつ内部溶液(内部ゲル液)内の塩素イオン濃度を、1mmol/L以上であれば問題ないが、ここでは90~100mmol/Lになるように調製した。pH緩衝液は、例えばグッド緩衝液や生化学用緩衝液を用いる。
グッド緩衝液の具体例としては、例えば、MES(2-(N-Morphilino)ethanesulfonic acid)緩衝液、Bis-Tris(Bis(2-hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methane)緩衝液、ADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid)緩衝液、PIPES(Piperazine-N,N’-bis(2-ethanesulfonic acid)緩衝液、ACES(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid)緩衝液、MOPSO(3-(N-Morpholino)-2-hydroxypropanesulfonic acid)緩衝液、BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)緩衝液、MOPS(3-(N-Morpholino)propanesulfonic acid)緩衝液、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(N-2-hydroxyethylpiperazine-N’-2-ethanesulfonic acid)緩衝液、DIPSO(3-[N,N-Bis(2-hydroxyethyl)amino]-2-hydroxypropanesulfonic acid)緩衝液、TAPSO(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-hydroxy-3-aminopropanesulfonic acid)緩衝液、POPSO(Piperazine-N,N’-bis(2-hydroxypropanesulfonic acid)緩衝液、HEPPSO(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N-2-hydroxypropane-3-sulfonic acid)緩衝液、EPPS(N-2-Hydroxyethylpiperazine-N’-3-propanesulfonic acid、別名HEPPS)緩衝液、Tricine(Tris(hydroxymethyl)methylglycine)緩衝液、Bicine(N、N-Bis(2-hydroxyethyl)glycine)緩衝液、TAPS(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-3-aminopropanesulfonic acid)緩衝液、CHES(2-(Cyclohexylamino)ethanesulfonic acid)緩衝液、CAPSO(3-N-Cyclohexylamino-2-hydroxypropanesulfonic acid)緩衝液、CAPS(3-Cyclohexylaminopropanesulfonic acid)緩衝液等が挙げられる。
生化学用緩衝液の具体例として、例えば、塩化アンモニウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、クエン酸-第2リン酸ナトリウム系、塩酸-ベロナールナトリウム-酢酸ナトリウム系、第1リン酸カリウム-第2リン酸ナトリウム系、第1リン酸カリウム-ホウ砂系、第1リン酸カリウム-水酸化ナトリウム系、塩酸-コリジン系、塩酸-ベロナールナトリウム系、塩酸-トリスアミノメタン系、塩酸-ホウ砂系、ホウ酸-炭酸ナトリウム系、ホウ酸-ホウ砂系、塩酸-アミノメチルプロパンジオール系、塩化アンモニウム-アンモニア系、グリシン-水酸化ナトリウム系、ホウ酸-水酸化ナトリウム系、塩酸-ジメチルグリシンナトリウム系、ホウ砂-水酸化ナトリウム系、ホウ砂-炭酸ナトリウム系、セーレンセン緩衝液、グリシン-塩化ナトリウム-塩酸系、第2クエン酸ナトリウム-塩酸系、第2クエン酸ナトリウム-水酸化ナトリウム系、ホウ砂-塩化ナトリウム系、ミカエリス緩衝液、ベロナールナトリウム-酢酸ナトリウム-塩酸系、クラーク-ルブス緩衝液、ホウ酸-塩化カリウム-水酸化ナトリウム系、アトキンス-パンチン緩衝液、パリティッシュ緩衝液、コルトホフ緩衝液、マックイルベイン緩衝液、ハスチング-センドロイ緩衝液、ブリトン-ロビンソン緩衝液、マレイン酸塩緩衝液、トリス-マレイン酸塩緩衝液、ベロナール緩衝液、ベロナール-酢酸塩緩衝液、などが挙げられ、何らこれらに限定されるものではない。
本実施例においては、pH3.7、pH4.9の内部溶液を調整する際には、酢酸ナトリウム緩衝液を使用し、pH7.6、pH9.6の内部溶液(内部ゲル液)を調整する際にはCHES緩衝液を使用し、pH11.0の内部溶液(内部ゲル液)を調整する場合には、pHとNaイオンとKイオンとClイオンの濃度調整をより容易にするために、塩化アンモニウム緩衝液を使用した。
なお、本実施例においてイオン交換体は、特許文献2に記載されているイオン交換体と同様のものを使用するものとしたが、作製方法や組成はこれに限らず、弱塩基性の官能基を含むイオン交換体を使用し、アミン系化合物で被覆処理している場合、本発明は有効である。
図5は、本発明に記載の内部溶液(内部ゲル液)の保管性能評価の結果を示す図である。上記のように、pH値を調整した内部溶液(内部ゲル液)を作製し、陰イオンセンサに充填した。それぞれのpHの内部溶液(内部ゲル液)においてHCO3選択係数を測定し、各pHにおいて陰イオンセンサの保管寿命を調べた。陰イオンセンサの保管寿命は、上記記載の方法によりHCO3選択係数を求め、陰イオン選択性を評価した。内部溶液(内部ゲル液)のpHを横軸とし、保管寿命(HCO3選択係数が0.30を超過すると見込まれる時間)を縦軸に示した。内部溶液(内部ゲル液)のpHが3.7においては陰イオンセンサの保管寿命が基準値と比較しておよそ2倍になった。pH4.9においては基準値のおよそ3倍になり、pH7.6以上では2年以上保管していても内部ゲル液は劣化しない。さらにpH9.0~11.0ではおよそ3年となった。
得られた測定値と、以下に述べる比較例の測定値とを同一のグラフにプロットしたものが図5に相当する。内部溶液(内部ゲル液)のpH値を酸性からアルカリ性のいずれかに調製することにより保管寿命を大幅に伸ばすことができることが分かる。さらにpH値を9.0以上とすれば3年以上の保管期間を置いた陰イオンセンサであっても問題無く使用することが可能となる。
陰イオン交換体や陰イオン交換体表面を被覆している縮合物は一般的に緻密化膜としての機能を果たしている。縮合物の構成はアミン系化合物であり、第4級アンモニウム塩のような解離している塩基性物質においては、pKa(酸解離係数)より低いpHではアミノ基のプロトン化や分子鎖の切断反応が起こりやすくなる。内部溶液(内部ゲル液)が酸性~アルカリ性条件下においては、プロトンが膜へ移行せず、陰イオン交換体を被覆している縮合物のアミノ基のプロトン化が起こらず、縮合物は緻密化膜としての役割を果たしたため、選択性が維持されたものと考えられる。
比較例として、NaCl、KClをベースとしてpH緩衝液を追加し、pH1.0になり、かつ内部溶液(内部ゲル液)内の塩素イオン濃度を、90~100mmol/Lになるように調製して作製した陰イオンセンサの保管期限の見積もりを行った。
pH1.0の内部溶液(内部ゲル液)の保管寿命を図5に示す。内部溶液(内部ゲル液)のpHを横軸とし、保管寿命を縦軸に示した。内部溶液(内部ゲル液)がpH1.0では1年以内にHCO3選択係数が0.30を超えた。
陰イオン交換体や陰イオン交換体表面を被覆している縮合物は一般的に緻密化膜としての機能を果たしている。縮合物の構成はアミン系化合物であり、第4級アンモニウム塩のような解離している塩基性物質においては、pKa(酸解離係数)より低いpHではアミノ基のプロトン化や分子鎖の切断反応が起こりやすくなる。内部溶液(内部ゲル液)が酸性条件下において、プロトンが徐々に膜へ移行し、陰イオン交換体を被覆している縮合物内のアミノ基のプロトン化が起こり、縮合物にイオン応答機能が発現することで緻密化膜としての役割を果たさず、劣化が加速し選択性が低下したものと考えられる。