JP3812049B2 - 塩素イオン感応膜及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高分子を基本骨格とし第4級アンモニウム基を陰イオン交換基として含むアニオン交換樹脂膜を用いた塩素イオン感応膜及びその製造方法、塩素イオンセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
イオンセンサの使用により、溶液中の特定のイオン濃度を選択的に定量でき、特定イオンの濃度モニタ、水質分析等の広い分野で使用されてきた。特に、医療分野では、生体液(血液、尿等)中に含まれるイオン(例えば塩素イオン、カリウムイオン等)の定量に応用されている。生体液中の特定イオン濃度は、生体の代謝反応と密接な関係にあり、特定イオン濃度の測定により、高血圧症状、腎疾患、神経症害等の種々の診断が可能である。イオンセンサでは、対象とするイオンの活量aとイオンセンサが示す電位Eとの間に、(数1)の関係が成立する。
【0003】
【数1】
E=E0+2.303{RT/(ZF)}log(a) …(数1)
(数1)においてRは気体定数、Tは絶対温度、Zはイオン価、Fはファラデー定数、E0は系の標準電極電位、S=RT/(ZF)はスロープ感度である。イオンセンサが示す電位Eはイオンの活量aの常用対数に比例し、電位の測定値から目的とするイオンの活量aが簡単に計算でき、電位Eの測定から広い濃度範囲でイオンの定量が可能となる。イオンセンサで使用される塩素イオン感応膜中の塩素イオン選択性リガンドとして、従来から、第4級アンモニウム塩が使用されており、塩素イオン選択性の向上を目的として様々な研究がなされている(Mikrochimica Acta (Wien) 1984 III、1−16)。第4級アンモニウム塩の中でもテトラオクタデシルアンモニウム塩を用いたイオンセンサは塩素イオン選択性が優れている(特開昭64−23151号公報)。また、イオン交換樹脂膜を用いるイオンセンサも数多く研究されている(特開昭57−40642号公報)。塩素イオン選択性リガンドとして第4級アンモニウム塩以外の物質に関して従来多くの研究があるが、近年、有機水銀を用いる高選択性リガンドも開発された(Analytica Chimica Acta、271(1993)135−141)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
イオン交換樹脂膜をイオン感応物質とするイオンセンサでは、アニオン交換膜を用いた場合、アニオン選択性を示すが(特開昭57−40642号公報)、一価アニオン選択性交換膜を用いた場合でも、二価アニオンの感応性が残存するという問題があった。また、一般に電析や濃縮に使用されているアニオン交換樹脂はポリスチレン骨格から構成され、イオン交換基としてトリメチルベンジルアンモニウム基等を含み、生体液中のイオン濃度定量においてイオン選択性が必ずしも十分ではないという問題があった。本発明の目的は、高いイオン選択性を有する塩素イオンセンサを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
イオン交換樹脂膜のイオン選択性は、イオン透過性と関係しており、一般に、カチオン交換膜はカチオンに対して選択性を示し、アニオン交換膜はアニオンに対して選択性を示す。一般のイオン交換膜を用いるイオンセンサでは、カチオン選択性、アニオン選択性が得られるが、正負の極性のイオンについて電価数による選択性を得ることは難しい。本発明では、アニオン選択性の改善のために、メタフェニレンジアミン(MPDA)を溶媒に溶解した溶液(以下では、単にメタフェニレンジアミン溶液と記す)、及びカルボニル基をもつ化合物(例えば、ホルムアルデヒド)と無機酸(例えば、塩酸)との混合液により、アニオン交換樹脂を処理してアニオン交換樹脂表面に、メタフェニレンジアミンとカルボニル基をもつ化合物(例えば、ホルムアルデヒド)との縮合物の薄膜を形成して、塩素イオンセンサの塩素イオン感応膜として使用し、イオン選択性、及び安定性が非常に高い塩素イオンセンサを実現する。
【0006】
本発明の塩素イオンセンサは、生体液(血液、尿等)中に種々の妨害イオンが存在していても、塩素イオンの応答性、選択性が非常に高いため、生体液中の塩素イオンの定量を極めて正確にできる。即ち、本発明では、メタフェニレンジアミン溶液、及びカルボニル基をもつ化合物(例えば、ホルムアルデヒド)と無機酸(例えば、塩酸)との混合液を使用して、アニオン交換樹脂を処理することにより、一価アニオンに選択的に感応するアニオン感応膜を作成する。
【0007】
本発明による塩素イオン感応膜の製造方法では、アニオン交換膜を、メタフェニレンジアミンを溶媒に溶解した溶液(メタフェニレンジアミン溶液)中に浸漬し、次いで、ホルムアルデヒドと無機酸との混合液に浸漬することにより、メタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドとの縮合物をアニオン交換膜の表面、内部に形成する。メタフェニレンジアミンを溶解するための溶媒としては、極性の高い水溶性溶媒が使用でき、エタノール、プロパノール、及びメタノール等が使用できるが、メタノールが最も適している。無機酸は縮合反応の触媒として作用し、無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸が使用できるが塩酸が最も適している。アニオン交換膜を、メタフェニレンジアミン溶液に浸漬する時間、ホルムアルデヒド、無機酸、及び水の濃度比を変化させることにより、メタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドとの縮合物をアニオン交換膜の表面、内部に形成することによりイオン感応膜としての特性(塩素イオン選択性)を制御できる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、図を参照して本発明を実施例により詳細に説明する。先ず、本発明による塩素イオン感応膜を使用する塩素イオンセンサの実施例について説明する。
【0009】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1の塩素イオンセンサの構成を示す断面図である。円筒状のポリ塩化ビニル製のセンサ本体1の端部には塩素イオン感応膜4が接着されており、センサ本体の内部には内部溶液2が満たされている。銀/ハロゲン化銀からなる内部電極3を内部溶液中に浸し、内部電極3の金属部分に信号取り出し用のリード線5の一端を接続し他端を外部測定回路に接続した。
【0010】
(実施例2)
図2は、本発明の実施例2のフローセル型塩素イオンセンサの斜視図、図3は断面図である。直方体状のポリ塩化ビニル製のフローセル型センサ本体6の一方向に直径1mmの貫通孔7を形成し、貫通孔7を試料液の流路とする。図2に示すフローセル型センサを複数個重ねて使用する場合、センサ同士を接合するために、円柱状の凸部8を貫通孔7が形成された面の一方に設けた。凸部8の上面に液洩れ防止用のO−リング9を設置した。図3は、図2のa−a’線で切った断面図である。フローセル型センサ本体6の内部の一部に空洞10が構成されており、空洞10の一方向に湾曲する内曲面11は流路7と交わっており、流路7の側面に楕円形の小孔12が形成されている。小孔12を塞ぐように、内曲面11に沿って、塩素イオン感応膜4が流路側に凸になるように配置されている。塩素イオン感応膜4の流路7の反対側の空洞10の内部には内部溶液2が満たされている。銀/ハロゲン化銀からなる内部電極3を内部溶液中に浸し、内部電極3の金属部分に信号取り出し用のリード線5の一端を接続し他端を外部測定回路に接続した。また、フローセル型センサを複数個重ねて使用する場合、センサ同士を接合するために円柱状の凸部8に合うような凹部13を設けている。フローセル型センサを複数個重ねて使用する場合には、各フローセル型センサは互いに異なるイオン種を検出し、試料液を順次流路に導入して連続的に複数イオン種のイオン濃度を測定できる。
【0011】
(実施例3)
図4は、本発明の実施例3の塩素イオンセンサの構成を示す断面図である。シリコン基板14にソース15、及びドレイン16を設け、シリコン基板14の表面を酸化シリコン17と窒化シリコン18の絶縁膜で被覆した電界効果トランジスタにおいて、ソース15とドレイン16の間の窒化シリコン表面に銀/ハロゲン化銀からなる内部電極3を形成し、内部電極3の上に塩素イオン感応膜4を積層した。図4に示す構成により、内部電極3は電界効果トランジスタのゲートとして機能し、かつ、塩素イオン感応膜の電位検出用の電極として機能する。本実施例では、塩素イオンセンサを半導体技術を用いて製作できるので、センサの小型化、集積化が可能であり大量生産に適しているため安価なセンサを提供できる。
【0012】
(実施例4)
図5は、本発明の実施例4の塩素イオンセンサの構成を示す断面図である。円筒状のポリ塩化ビニル製のセンサ本体1の端部に、銀/ハロゲン化銀からなる内部電極3が接着された塩素イオン感応膜4を接着した。内部電極3の金属部分に信号取り出し用のリード線5の一端を接続し他端を外部測定回路に接続した。
【0013】
(実施例5)
図6は、本発明の実施例5の塩素イオンセンサの構成を示す断面図。円筒状のポリ塩化ビニル製のセンサ本体1の端部に、高分子中間層19、及び銀/ハロゲン化銀からなる内部電極3が積層されているアニオン交換膜4を接着した。内部電極3の金属部分に信号取り出し用のリード線5の一端を接続し他端を外部測定回路に接続した。
【0014】
以上説明した各実施例の塩素イオンセンサを用いた塩素イオンの測定法、イオン選択性の評価方法は次の通りである。例えば、実施例1の塩素イオンセンサを、Ag/AgClの外部参照電極と飽和KClの塩橋とを用いて接続し、外部参照電極と塩素イオンセンサとの間の電位差測定を行ないイオン選択性の評価を行なった。本発明の塩素イオンセンサのイオン選択性を評価する際の比較測定に使用する塩素イオンセンサ(比較測定用塩素イオンセンサ)では、メタフェニレンジアミン溶液、及びホルムアルデヒドと無機酸との混合液による処理を行なっていない、未処理のアニオン交換膜を塩素イオン感応膜として用いた。単独溶液法により選択係数(Kij)を求めイオン選択性を評価した。なお、以下で説明する図9、図10、図11、図12、図13、図17に中の「ブランク」は、比較測定用塩素イオンセンサによる測定値である。
【0015】
独立に測定した、100mMの妨害イオン(イオン種i:以下に説明する実施例では、妨害イオンの例として、Br~、HCO3~、SO4 2~を使用している)を含む水溶液での測定電位Eiと、100mMの塩素イオン水溶液の測定電位Ejとの差(Ei−Ej)を、塩素イオンセンサのスロープ感度Sで除して、(Ei−Ej)/S=log(Kij)から選択係数Kijを求めた。なおSO4 2~のような多価(n)イオンの場合は、Nicolsky−Eisenmannの式より求めた、log(Kij)=(Ei−Ej)/S+1/n−1、から選択係数Kijを求めた。選択係数Kijは、塩素イオンを基準(即ち、イオン種iを塩素イオンとし、Kij=1である)とした相対値であり、例えば、あるイオン(イオン種j)の選択係数が10(log(Kij)=1)の時、塩素イオンより10倍の応答性を有することを意味するので、選択係数Kijの数値が小さいほど選択性が優れていることになる。
【0016】
(実施例6)
以下、本発明による塩素イオン感応膜の製造方法、特に、アニオン交換膜のメタフェニレンジアミン溶液による処理条件(最適な縮合反応条件(縮合反応溶液組成、縮合反応温度、及び反応時間)の決定)について詳細に説明する。先ず、最適な縮合反応温度、及び反応時間について説明する。
【0017】
メタフェニレンジアミン3g(2.7mmol)をメタノール5mlに溶解した溶液(メタフェニレンジアミン溶液)中に、厚さ0.1〜0.15mm、縦20mm横20mmの大きさの原料膜(イオン交感膜、旭硝子製セレミオンASV(ベンジルトリメチルアンモニウム基を有する強塩基性アニオン交換膜であり、補強材として PVC 系合成繊維布を含む))を約24時間漬漬してメタフェニレンジアミンを含浸させた。メタフェニレンジアミンを含浸させた膜を、35%ホルムアルデヒド水溶液、濃塩酸(12N)、及び水からなる溶液中に一定時間浸漬して、メタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドを縮合させ、アニオン交換膜表面に縮合物の薄膜を形成し、塩素イオン感応膜を得た。メタフェニレンジアミンは、温度10°C以下かつ遮光下での保存が要求されるため、浸漬は冷暗所で行なった。反応時間、及び反応温度を変化させて実験を行ない、最適な縮合反応条件を決定した。メタフェニレンジアミン(MPDA)のメタノール溶液は黒色を呈し、メタフェニレンジアミン溶液にアニオン交換膜を浸漬すると、数時間後にはアニオン交換膜全体がほぼ均一に少し黒味がかる。
【0018】
メタフェニレンジアミン溶液に約24時間漬漬したイオン交感膜を取り出し、35%ホルムアルデヒド水溶液、塩酸、及び水からなる反応溶液中に浸漬すると、表面に橙色の縮合物が析出し始める。縮合反応が終了した後、ミクロスパーテルを用いてアニオン交換膜表面の過剰な縮合物を擦り落とすと、濃い褐色のイオン交換膜が塩素イオン感応膜として得られる。この塩素イオン感応膜を、内径4.6φのコルクボ−ラで丸く打ち抜き、図1に示すPVC製のスティック形電極のボディ先端にTHF(テトラヒドロフラン)で接着した後一時間乾燥させた。このスティック形電極のボディに内部溶液(10mMのNaCl溶液)を充填した後使用した。
【0019】
図7は、反応温度21°C(室温)での縮合反応の時間と選択係数Kijの関係を示す図、図8は、46°Cでの縮合反応の時間と選択係数Kijの関係を示す図である。図7、図8の比較から明らかなように、21°C(室温)での縮合反応により得た塩素イオン感応膜の方が、46°Cでの縮合反応により得た塩素イオン感応膜よりも僅かにイオン選択性が高く、縮合反応時間を変化させた場合、縮合反応時間を3時間とした場合に得た塩素イオン感応膜のイオン選択性は、縮合反応時間を6時間、及び10時間とした場合に得たイオン感応膜のイオン選択性よりも若干低かった。図7、図8に示す結果から、縮合反応の反応温度は室温、反応時間は少なくとも6時間以上とした。なお、図7、図8に示す結果は、35%ホルムアルデヒド水溶液、塩酸、及び水からなる反応溶液の組成が、ホルムアルデヒド、塩酸、及び水の重量比を、XF、XA、及びXWとする時、XF:XA:XW=1.2:0.2:5.0である場合を示す。
【0020】
次に、最適な縮合反応条件を与える、塩酸、及びホルムアルデヒドからなる縮合反応溶液の組成比について説明する。反応時間、反応温度は本実施例で上記した通りである。以下、35%ホルムアルデヒド水溶液、塩酸、及び水からなる反応溶液の組成を、ホルムアルデヒド、塩酸、及び水の重量比を、XF、XA、及びXWとして、比、XF:XA:XWで示す。比、XF:XA:XWを変化させて実験を行ない、最適な縮合反応条件を与える比、XF:XA:XWを決定した。
【0021】
図9、及び図10は、縮合反応溶液のホルムアルデヒドと水の重量比を一定にした場合の、塩酸の重量比と選択係数との関係を示す図、図11、及び図12は、縮合反応溶液の塩酸と水の重量比を一定にした場合の、ホルムアルデヒドの重量比と選択係数との関係を示す図、図13は、縮合反応溶液のホルムアルデヒドと塩酸の重量比を一定にした場合の、水の重量比と選択係数との関係を示す図である。先ず、塩酸濃度組成を決定するために、ホルムアルデヒドと水の重量比を、XF:XW=1.2:3.45に固定して、塩酸の重量比XAとイオン選択性との関係を調べた。図9に示すように、塩酸の重量比XAを0.1から1.0まで変化させた場合、XA=0.2の近傍が最適値と判明した。更に、塩酸の重量比XAを0から0.3まで変化させて検討した結果、図10に示すように、塩酸の重量比XA=0.2の場合に、イオン選択性が最も高くなった。
【0022】
次に、塩酸と水の重量比を、XA:XW=0.2:3.45に固定して、ホルムアルデヒドの重量比XFとイオン選択性との関係を調べた。図11に示すように、ホルムアルデヒドの重量比XFを0.6から10まで変化させた場合、XF=1.0の近傍が最適値となることが判明した。更に、ホルムアルデヒドの重量比XFを0.5から1.5まで変化させて検討した結果、図12に示すように、ホルムアルデヒドの重量比XF=1.0の場合にイオン選択性が最も高くなった。最後に、ホルムアルデヒドと塩酸の重量比を、XF:XA=1.0:0.2に固定して、水の重量比XWとイオン選択性との関係を調べた結果を示す。図13から明らかなように、水の重量比XW=5.0の場合にイオン選択性が最も高くなった。以上の結果から、ホルムアルデヒド、塩酸、及び水の重量比は、XF:XA:XW=1:0.2:5が最適であると判明した。図9、図10、図11、図12、図13に示すように、ホルムアルデヒド、塩酸、及び水の重量比が、XF:XA:XW=1:0.2:5である縮合反応溶液組成で作製した塩素イオン感応膜を使用する塩素イオンは、妨害イオンがHCO3~、SO4 2~である場合、比較測定用塩素イオンセンサよりも優れたイオン選択性を示している。
【0023】
図14は、以上の検討結果から得られた好適な塩素イオン感応膜の製造方法を示す。 先ず、メタフェニレンジアミン3g(2.7mmol)をメタノール5mlに溶解した溶液(メタフェニレンジアミン溶液)中に、所定の面積の原料膜(イオン交感膜、旭硝子製セレミオンASV)を約24時間漬漬してメタフェニレンジアミンを含浸させる。メタフェニレンジアミンを含浸させた膜を、ホルムアルデヒド、塩酸、及び水の重量比が、XF:XA:XW=1.0:0.2:5.0である縮合反応溶液中に、暗所、室温で少なくとも6時間以上浸漬して、メタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドを縮合させ、アニオン交換膜表面に縮合物の薄膜を形成する。縮合反応が終了した後、ミクロスパーテルを用いてアニオン交換膜の表面の過剰の縮合物を擦り落とし整形し、塩素イオン感応膜を得る。アニオン交換膜を、所定の大きさ、形状に打ち抜き等により成形し、図1から図6に示す塩素イオンセンサにTHF(テトラヒドロフラン)等で接着し乾燥させる。
【0024】
(実施例7)
以下、本発明の塩素イオンセンサの安定性について説明する。本実施例で使用する塩素イオンセンサは、次のようにして作成した。
【0025】
メタフェニレンジアミン3g(2.7mmol)をメタノール5mlに溶解した溶液(メタフェニレンジアミン溶液)中に、縦20mm横20mmの大きさの原料膜(イオン交感膜、旭硝子製セレミオンASV)を約24時間漬漬してメタフェニレンジアミンを含浸させた。メタフェニレンジアミンを含浸させた膜を、35%ホルムアルデヒド水溶液、塩酸、及び水からなる溶液中に一定時間浸漬して、メタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドを縮合させ、アニオン交換膜表面に縮合物の薄膜を形成して塩素イオン感応膜を得た。メタフェニレンジアミンは、温度10°C以下かつ遮光下での保存が要求されるため、浸漬は冷暗所で行なった。縮合反応溶液のホルムアルデヒド、塩酸、及び水の重量比は、XF:XA:XW=1.0:0.2:5.0とした。塩素イオン感応膜を内径4.6φのコルクボ−ラで丸く打ち抜き、図1に示すPVC製のスティック形電極のボディ先端にTHFで接着後一時間乾燥させ、このスティック形電極のボディに内部溶液(10mMのNaCl溶液)を充填した後使用した。
【0026】
安定性を加速評価するため、管理血清(オートノルム(Nyegaard社))にスティック形電極を連続して浸漬してイオン選択性の経時変化を調べた。図15は、37°Cに保った管理血清にスティック形電極を連続して浸漬した場合の、選択係数の浸漬時間による変化を示す図である。臭素イオンBr~、及び重炭酸イオンHCO3~に対する選択係数Kijは殆ど変化せず選択性は安定であったが、硫酸イオンSO4 2~に対する選択係数Kijは、浸漬時間0時間の選択係数Kijと比較して、log(Kij)の値で、60時間浸漬後に0.22、120時間浸漬後に0.36増大、即ち劣化した。120時間浸漬後では、スロープ感度Sの低下は見られなかった。以上のように、若干の選択性の低下があるが、管理血清に連続浸漬する加速試験に対して、イオン選択性の安定性が良いことが判明した。
【0027】
次に、実施例2のフローセル型塩素イオンセンサを用いた血清の連続測定による加速試験の結果について説明する。本実施例の上記の内径4.6φの塩素イオン感応膜を、図2に示すフローセル型塩素イオンセンサの流路7の側面の楕円形の小孔12を塞ぐように、内曲面11に沿って、塩素イオン感応膜が流路側に凸になるようにTHFで接着して一時間乾燥させ。図2に示す塩素イオン感応膜4の流路7の反対側の空洞10の内部に内部溶液2が満たした後使用した。フローセル型塩素センサは日立7070形生化学自動分析装置に搭載して評価した。イオン選択性は次に説明する混合溶液法により評価した。一定濃度の塩素イオンを含む試料溶液に妨害イオンを各種の濃度で添加した試料として、フローセル型塩素イオンセンサを用いて測定した値を、妨害イオンの添加濃度に対してプロットして直線を得る。この直線の傾き、即ち混合溶液法による選択係数Kijを求めた。安定性を加速評価するため、管理血清を5000検体、10000検体測定して、スロープ感度S、臭素イオンBr~、及び重炭酸イオンHCO3~に対する選択係数Kij、標準血清(塩素イオン濃度の検定値104.5mM)の3回の測定値の平均値、及び管理血清(オートノルム(Nyegaard社))の30回の測定値の再現性(%)を表わすCV(変動係数)値の経時変化を調べた。図16は、スロープ感度S、選択係数Kij、標準血清の測定値の平均値、及び管理血清(オートノルム(Nyegaard社))の測定の再現性(%)の経時変化の結果を示す図である。10000検体の測定後でも、スロープ感度S、選択係数Kij、標準血清の測定値と測定の再現性に関して、変化は殆ど見られず、本発明の塩素イオンセンサは多数の血清測定を行なっても性能が安定して維持されることが判明した。
【0028】
(実施例8)
メタフェニレンジアミン溶液、及びホルムアルデヒドと無機酸との混合液を使用して、アニオン交換樹脂を処理して一価アニオンに選択的に感応する塩素イオン感応膜を作成し、この塩素イオン感応膜を使用する塩素イオンセンサの性能と、他の芳香族系ジアミンを用いる縮合反応によりアニオン交換樹脂を処理して得た塩素イオン感応膜を使用する塩素イオンセンサの性能との比較を行なった例について、以下に説明する。
【0029】
芳香族系ジアミンの例として、フェニレンジアミンのオルト、メタ、パラ異性体、及びナフタレンジアミン等があり、芳香族系ジアミンの各々とホルムアルデヒドとの縮合物の性状はお互いに異なる。本実施例では、芳香族系ジアミンとして、オルトフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、1、5−ナフタレンジアミン、1、8−ナフタレンジアミンの5種類を使用して、ホルムアルデヒドとの縮合物をアニオン交換樹脂の表面、内部に形成して、塩素イオン感応膜とし、これを用いる塩素イオンセンサを作成し性能(塩素イオン選択性)を検討した。本実施例で使用する塩素イオンセンサは次のようにして作製した。上記の5種類の芳香族系ジアミンは有機溶媒に溶解するが、(1)オルト、メタ、又はパラフェニレンジアミンの3g(2.7mmol)をメタノール5mlに、(2)1、5ナフタレンジアミンの0.45gをアセトン10mlに、(3)1、8ナフタレンジアミンの4.3gをメタノール10mlに、各々溶解した。(1)から(3)の5種類の各々の溶液中に、縦20mm横20mmの大きさの原料膜(イオン交換膜、旭硝子セレミオンASV)を約24時間浸漬して、各芳香族系ジアミンをイオン交換膜に含浸させ、次いで、芳香族系ジアミンを含浸したイオン交換膜を、35%ホルムアルデヒド水溶液、塩酸、及び水からなる縮合反応液中に一定時間浸漬することにより、各芳香族系ジアミンとホルムアルデヒドとを縮合させ、アニオン交換膜の表面、内部に縮合物の薄膜を形成して、塩素イオン交換膜を得た。縮合反応液のホルムアルデヒド、塩酸、及び水の重量比は、実施例6と同様に、XF:XA:XW=1.0:0.2:5とした。塩素イオン感応膜を内径4.6φのコルクボ−ラで丸く打ち抜き、図1に示すPVC製のスティック形電極のボディ先端にTHFで接着後、約1時間乾燥させ、スティック形電極のボディに内部溶液(10mM NaCl溶液)を充填した後使用した。オルト、メタ、又はパラフェニレンジアミンは温度10℃以下、かつ遮光下での保存が要求されるため、浸漬は冷暗所で行なった。
【0030】
図17は、芳香族系ジアミンの種類と塩素イオン選択性との関係を示す図である。図17において、横軸に示す略号、1.5NAは1、5ナフタレンジアミンを、1.8NAは1、8ナフタレンジアミンを、MPDAはメタフェニレンジアミンを、PPDAはパラフェニレンジアミンを、OPDAはオルトフェニレンジアミンを、それぞれ意味しており、1.5NA、1.8NA、MPDA、PPDA、OPDAを用いて形成した塩素イオン感応膜を使用する塩素イオンセンサによる選択係数Kijを縦軸に示す。横軸のOPDAでは「ブランク」と比べて塩素イオン選択性が低下し、横軸のPPDAでは、塩素イオン選択性の改善はほとんど見られなかった。しかし、横軸のMPDAでは、「ブランク」と比べて、重炭酸イオンで約3倍、硫酸イオンで約4倍の塩素イオン選択性の改善が見られた。また、横軸1.5NA、1.8NAでは、塩素イオン選択性の改善はほとんど見られなかった。以上説明したように、評価した芳香族系ジアミン系のうち、メタフェニレンジアミンが最適であることが判明した。
【0031】
以上説明したように、メタフェニレンジアミン溶液、及びホルムアルデヒドと無機酸との混合液を使用して、アニオン交換樹脂を処理することによって得た塩素イオン感応膜を使用する塩素イオンセンサの性能が優れていることが判明した。 以下に、本発明を要約する。本発明による塩素イオン感応膜は、(1)メタフェニレンジアミン溶液、及びカルボニル基をもつ化合物と無機酸との混合液に、アニオン交換樹脂膜を浸漬して形成されること、(2)アニオン交換樹脂膜の面が、メタフェニレンジアミンとカルボニル基をもつ化合物との縮合物により被覆されて形成されること、(3)メタフェニレンジアミン溶液、及びホルムアルデヒドと無機酸との混合液に、アニオン交換樹脂膜を浸漬して形成されること、(4)アニオン交換樹脂膜の面が、メタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドとの縮合物により被覆されていることに特徴がある。更に、上記(1)から(4)の何れかの塩素イオン感応膜を具備する塩素イオンセンサに特徴がある。また、本発明の塩素イオン感応膜の製造方法は、(a)アニオン交換樹脂膜を、メタフェニレンジアミンを溶媒に溶解した溶液に浸漬する第1の工程と、メタフェニレンジアミンが含浸したアニオン交換樹脂膜を、カルボニル基をもつ化合物と無機酸との混合液に浸漬して、メタフェニレンジアミンとカルボニル基をもつ化合物との縮合物を生成する第2の工程とを有すること、(b)アニオン交換樹脂膜を、メタフェニレンジアミンを溶媒に溶解した溶液に浸漬する第1の工程と、メタフェニレンジアミンが含浸したアニオン交換樹脂膜を、ホルムアルデヒドと無機酸との混合液に浸漬して、メタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドとの縮合物を生成する第2の工程とを有することに特徴があり、無機酸が塩酸であり、混合液の組成が、ホルムアルデヒド、塩酸、及び水の重量比を、XF、XA、及びXWとする時、XF:XA:XW=1:0.2:5であることにも特徴がある。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、イオン選択性、及び動作の安定性が向上し、高い信頼性を有する塩素イオン感応膜が実現でき、イオン選択性、及び動作の安定性をもつ塩素イオンセンサが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1の塩素イオンセンサの構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例2のフローセル型塩素イオンセンサの斜視図。
【図3】本発明の実施例2の塩素イオンセンサの構成を示す断面図。
【図4】本発明の実施例3の塩素イオンセンサの構成を示す断面図。
【図5】本発明の実施例4の塩素イオンセンサの構成を示す断面図。
【図6】本発明の実施例5の塩素イオンセンサの構成を示す断面図。
【図7】本発明の実施例6において、反応温度21°C(室温)での縮合反応の時間と選択係数の関係を示す図。
【図8】本発明の実施例6において、46°Cででの縮合反応の時間と選択係数の関係を示す図。
【図9】本発明の実施例6において、縮合反応溶液のホルムアルデヒドと水の重量比を一定にした場合の、塩酸の重量比と選択係数との関係を示す図。
【図10】本発明の実施例6において、縮合反応溶液のホルムアルデヒドと水の重量比を一定にした場合の、塩酸の重量比と選択係数との関係を示す図。
【図11】本発明の実施例6において、縮合反応溶液の塩酸と水の重量比を一定にした場合の、ホルムアルデヒドの重量比と選択係数との関係を示す図。
【図12】本発明の実施例6において、縮合反応溶液の塩酸と水の重量比を一定にした場合の、ホルムアルデヒドの重量比と選択係数との関係を示す図。
【図13】本発明の実施例6において、縮合反応溶液のホルムアルデヒドと塩酸の重量比を一定にした場合の、水の重量比と選択係数との関係を示す図。
【図14】本発明の実施例6の好適な塩素イオン感応膜の製造方法を示す図。
【図15】本発明の実施例7において、37°Cに保った管理血清にスティック形電極を連続浸漬した場合の、選択係数の浸漬時間による変化を示す図。
【図16】本発明の実施例7において、スロープ感度、選択係数、標準血清の測定値、及び管理血清測定の再現性の経時変化を示す図。
【図17】本発明の実施例8において、芳香族系ジアミンの種類と塩素イオン選択性との関係を示す図。
【符号の説明】
1…センサ本体、2…内部溶液、3…内部電極、4…塩素イオン感応膜、5…リード線、6…フローセル型センサ本体、7…貫通孔、8…凸部、9…O−リング、10…空洞、11…内曲面、12…小孔、13…凹部、14…シリコン基板、15…ソース、16…ドレイン、17…酸化シリコン、18…窒化シリコン、19…高分子中間層。
Claims (6)
- アニオン交換樹脂膜を有し、前記アニオン交換樹脂膜はベンジルトリメチルアンモニウム基を有する強塩基性アニオン交換膜であり、かつ補強材として PVC 系合成繊維布を含み、メタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドとの縮合物により被覆されることを特徴とする塩素イオン感応膜。
- 前記縮合物は前記アニオン交換樹脂膜の表面と内部に形成されることを特徴とする請求項1に記載の塩素イオン感応膜。
- 塩素イオンセンサと参照電極とに接するように試料溶液を供給する工程と、
前記塩素イオンセンサと前記参照電極との間の電位差計測により、前記試料溶液内の塩素イオンを定量する工程とを有し、前記塩素イオンセンサは、ベンジルトリメチルアンモニウム基を有する強塩基性アニオン交換膜であり、かつ補強材として PVC 系合成繊維布を含み、かつメタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドとの縮合物により被覆されたアニオン交換樹脂膜を有するイオン感応膜を具備し、前記定量する工程では、重炭酸イオンよりも高いイオン選択性によって前記塩素イオンを定量することを特徴とする塩素イオン定量方法。 - ベンジルトリメチルアンモニウム基を有する強塩基性アニオン交換膜であり、かつ補強材として PVC 系合成繊維布を含むアニオン交換樹脂膜を、メタフェニレンジアミンを溶媒に溶解した溶液に浸漬する第1の工程と、
前記メタフェニレンジアミンが含浸した前記アニオン交換樹脂膜を、ホルムアルデヒドと無機酸との混合液に浸漬して、前記メタフェニレンジアミンと前記ホルムアルデヒドとの縮合物を生成する第2の工程とを有することを特徴とする塩素イオン感応膜の製造方法。 - 前記第2の工程では、前記ホルムアルデヒドと水と前記無機酸との重量比を1:0.2:5とする縮合反応溶液を用いることを特徴とする請求項4に記載の塩素イオン感応膜の製造方法。
- イオン感応膜と、
電極と、
前記イオン感応膜と前記電極とに接する内部溶液とを有し、
前記イオン感応膜は、ベンジルトリメチルアンモニウム基を有する強塩基性アニオン交換膜であり、かつ補強材として PVC 系合成繊維布を含み、かつメタフェニレンジアミンとホルムアルデヒドとの縮合物により被覆されたアニオン交換樹脂膜であることを特徴とする塩素イオンセンサ。
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