明 細 書
MALDI-TOF MS用基板及びそれを用いた質量分析方法
技術分野
[0001] 本発明は、 MALDI-TOF MS用基板及びそれを用いた質量分析方法に関する。
背景技術
[0002] MALDI-TOF MS(Matrix Assisted Laser Desorption Ionization—Time Of Flight Mas s Spectrometry,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析)は、生 体高分子等の質量分析に広く用いられている方法である。 MALDIは、被検試料とマ トリックス(レーザー光を吸収する化合物)を混合し、数ナノ秒という短時間のレーザー 光を照射することにより被検試料をイオンィ匕する手法であり、タンパク質、多糖類、脂 質などの幅広レ、生体関連物質をほとんど分解しなレ、緩和な条件でイオンィヒする特徴 を有する。 TOF MSは、イオン化した試料を高電圧の電極間で加速し、高真空無電 場領域のフライトチューブと呼ばれる管中へ導入して等速度飛行させ、一定距離を 飛行するのに要する時間を測定して質量を算出する手法である。原理的には質量が 大きい場合でも、測定条件としては時間が長くなるだけで理論上の測定限界がない ので、高分子に適した質量分析手法である。
[0003] 従来、 MALDI-TOF MS用の基板としては、金や自己組織化膜などの皮膜をコーテ イングしたアルミニウム基板が用いられている。しかしながら、従来の MALDト TOF MS 用基板を用いてタンパク質や DNAの質量分析を行なうと、再現性が悪ぐ高分子量 の被検物質についてはスペクトルが得られにくいという問題がある。特に、 DNAではこ の傾向が顕著であり、これまで DNAの解析に MALDI-TOF MSが有効に用いられた 例は少ない。
[0004] 特許文献 1 :特開 2001- 131 10号公報
特許文献 2:特開 2004-266100号公報
特許文献 3:米国特許 6,743,607B2
特許文献 4 :米国特許 6,693,187B 1
特許文献 5:米国特許公開公報 2003/0220254A1
非特許文献 l : Koomen, J. et al., Anal. Chem., 72: 3860 (2000)
非特許文献 2 :Vorm, O. et al., Anal. Chem., 66: 3287 (1994)
非特許文献 3 : Berggren, W. Τ·, et al" Anal. Chem., 74: 1745 (2002)
非特許文献 4 : Papac, D. I. et al., Anal. Chem., 68: 3215 (1996)
非特許文献 5 : Hung, K. C. et al., Anal. Chem., 70: 3088 (1998)
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 本発明の目的は、タンパク質や核酸のような高分子物質であっても、再現性良く質 量分析を行うことができ、また、質量スペクトルが得られやすい、 MALDI-TOF MS用 基板及びそれを用いた MALDI-TOF MSによる質量分析方法を提供することである。 課題を解決するための手段
[0006] 本願発明者らは、鋭意研究の結果、表面が核酸又はタンパク質に対して易吸着性 の物質から成る、被検物質を付着させる微小なナノドット領域 (以下、「被検物質付着 領域」)を MALDI-TOF MS用基板に設け、被検物質を前記ナノドット領域に付着させ て MALDI-TOF MSを行なうことにより、タンパク質や核酸のような高分子物質であつ ても、再現性良く質量分析を行うことができ、また、質量スペクトルが得られやすくなる ことを見出し、本発明を完成した。
[0007] すなわち、本発明は、表面が核酸又はタンパク質に対して易吸着性の物質力 成 る、被検物質を付着させるナノドット領域を具備する MALDI-TOF MS用基板を提供 する。また、本発明は、上記本発明の基板を用い、核酸又はタンパク質を被検試料と して MALDI-TOF MSにより質量分析を行なう、核酸又はタンパク質の質量分析方法 を提供する。
発明の効果
[0008] 本発明により、タンパク質や核酸のような高分子物質であっても、再現性良く質量 分析を行うことができ、また、質量スペクトルが得られやすい、 MALDI-TOF MS用基 板及びそれを用いた MALDI-TOF MSによる質量分析方法が提供された。本発明の 基板を用いることにより、被検物質がタンパク質や核酸であっても、測定結果が再現
性良く得られ、また、質量スペクトルも得られやすぐかつ、ピークも明瞭になるので、 正確な測定が可能となる。従って、本発明は、タンパク質や核酸等の生体関連物質 の質量分析に大いに貢献するものと期待される。
図面の簡単な説明
[0009] [図 1]本発明の実施例で作製した、ナノドット領域を有する MALDI-TOF MS用基板の 模式断面図である。
[図 2]本発明の実施例で作製した、ナノドット領域を有する MALDI-TOF MS用基板に おける各スポットの特定方法を説明する模式平面図である。
[図 3]本発明の実施例で行った、本発明の基板を用いて、 MALDI-TOF MSにより DN A混合物を質量分析して得られた質量スペクトル (上段)及び市販の基板を用いて得 られた質量スペクトル(下段)を示す図である。
[図 4]本発明の実施例で行った、本発明の基板を用いて、 MALDI-TOF MSにより DN A混合物を質量分析して質量スペクトルが得られた確率 (スポット A1〜E4)及び市販 の基板を用いて質量スペクトルが得られた確率 (左端)を示す図である。
[図 5]本発明の実施例で行った、本発明の基板を用いて 40-merのポリ Cから成る DNA を質量分析して得られた質量スペクトル (上段)及び市販の基板を用いて得られた質 量スペクトル(下段)を示す図である。
[図 6]本発明の実施例で行った、 24-mer DNAを内部標準とし、 23-mer DNAの濃度 を振って、本発明の基板又は市販の基板を用いて MALDI-TOF MSを行レ、、得られ た質量スペクトルのピーク面積の比を取って描いた検量線を示す。
[図 7]本発明の実施例で行った、ナノドット領域を白金、金又はチタンで形成した本発 明の基板を用いて、 MALDI-TOF MSにより DNA混合物を質量分析して質量スぺタト ルが得られた確率(%)並びに比較対照であるナノドット領域を形成しなレ、SiO基板 及び市販の基板を用いた場合の確率を示す図である。
発明を実施するための最良の形態
[0010] 上記の通り、本発明の MALDI-TOF MS用基板は、表面が核酸又はタンパク質に対 して易吸着性の物質力 成る、被検物質を付着させるナノドット領域を具備する。ナノ ドット領域は、少なくともその表面が、核酸又はタンパク質に対して易吸着性の物質(
以下、単に「易吸着性物質」)から成る。易吸着性物質としては、例えば金、白金、銀 、銅、鉄等のような、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属(それらの間の 合金でもよい)、並びにポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等の疎水性ポリマ 一を挙げることができる。これらのうち、加工工程や測定時において熱的及び化学的 に安定な、金、白金及びチタンが好ましい。なお、被検物質付着領域は、その表面 が易吸着性物質で構成されておればよぐ下層は異なる物質で形成されていてもよ レ、。例えば、基板との密着性を高める接着層等を介在させてもよい。下記実施例で は、白金や金が易吸着性物質として用いられているが、シリコン酸化膜の表面に、チ タン層を介して白金層又は金層を形成している。
[0011] 本発明の MALD TOF MS用基板では、被検物質が付着される領域 (以下、「被検 物質付着領域」ということがある)が、上記易吸着性物質力も成るナノドット領域である 。ここで、「ナノドット領域」とは、直径が l z m未満、好ましくは 10nm〜150nm程度、さ らに好ましくは 20nm〜40nm程度の微小領域を意味する。なお、ナノドット領域の形状 は円形に限られず、三角形、正方形、長方形、五角形、六角形、八角形などの多角 形や楕円等、他の形状でもよい。円形以外の場合には、長径又は最も長い辺が上記 の大きさであれば本願発明でいう「ナノドット領域」に包含される。もっとも、短径又は 最も短い辺も上記範囲に含まれるものが好ましい。製造の容易さから円形が特に好 ましい。
[0012] 本発明において、被検物質付着領域がナノドット領域であることが重要な特徴であ る。上記のように、表面が金製の MALDI-TOF MS用基板は既に公知であり、巿販も されている。そして、金は上記したとおり、本発明において好ましく用いられる易吸着 性物質である。本願発明者らは、被検物質が付着される領域をナノドット領域とするこ とにより、同一の易吸着性物質から形成された、ナノドット領域を有さない MALDI-TO F MS用基板と比較してもタンパク質や核酸のような高分子物質を再現性良く質量分 析を行うことができ、また、質量スぺ外ルが得られやすくなるという驚くべき知見を得 、この知見に基づいて本願発明に到達したものである。なお、被検物質が付着される 領域をナノドット領域とすることにより、質量分析の再現性が向上し、質量スペクトル が得られやすくなるメカニズムは、よくわからないが、電子顕微鏡観察により、被検物
質の結晶状態が異なっていることを確認している。すなわち、被検物質が核酸のよう な線状ポリマーである場合、ナノドット領域上では、針状の結晶が形成されるのに対 し、ナノドット領域を有さない公知の基板では、結晶が塊状になっており、本発明の基 板を用いた場合の方が、被検物質がよく分散されて整然と結晶化されることがわかつ ている。
[0013] 被検物質付着領域をその表面に形成する基板の材質は特に限定されないが、核 酸及びタンパク質に対して難吸着性 (以下、単に「難吸着性」)の材質力 成ることが 好ましレ、。すなわち、本発明の好ましい一形態では、難吸着性の基板上に、表面が 易吸着性物質力、ら成るナノドット領域が形成される。難吸着性の材質の好ましい例と しては、シリコン及びシリコン酸化物を挙げることができる。シリコン基板や、シリコン基 板の表面にシリコン酸化物の皮膜を形成した基板は、微細加工技術が確立されてお り、後述する溝等を容易に形成することができるので、この点からも好ましい。ナノドッ ト領域を易吸着性物質で形成し、基板 (すなわち、ナノドット領域の周辺)を難吸着性 材料で形成することにより、タンパク質や核酸のような高分子物質を再現性良く質量 分析を行うことができ、また、質量スペクトルが得られやすくなるという本発明の効果 力 Sさらに向上する。そのメカニズムはよくわからないが、基板に添加された被検試料 中の被検物質が、ナノドット領域上に多かれ少なかれ集まり(ナノドット領域は光学顕 微鏡で見えないほど小さいので、後述のように、被検試料は、ナノドット領域上にのみ 点着されるのではなぐナノドット領域を含むある程度大きな面積の領域に施されるの で、ナノドット領域以外の領域にも被検試料が施される)、これがナノドット上の被検物 質の結晶化に影響するものと推測される。
[0014] ナノドット領域は、測定感度を高めるために、 1枚の基板上に、通常、複数形成され る。ナノドット領域を複数形成する場合に、その配列の周期 (複数のナノドット領域の 中心間の距離)は、特に限定されないが、周期を小さくすることにより高密度化が可 能である。このため、周期は、 lOOOnm以下が好ましぐさらには 600nm以下が好ましい 。なお、複数のナノドット領域は、互いに分離しているので、周期の下限は、ナノドット 領域の直径よりも必然的に大きぐ好ましくは、ナノドット領域の直径の 2倍以上である 。なお、ナノドット領域を複数形成する場合、各ナノドット領域を構成する易吸着性物
質は同一の物質にすることが製造上簡便で好ましいが、異なる易吸着性物質から形 成されたナノドット領域を組み合わせて用いることも可能である。
[0015] 一群のナノドット領域を、 1つのグループとし、 1グループのナノドット領域を、基板に 形成した溝で囲まれる領域内に形成し、このようなグノレープ (スポット)を複数形成し てもよレ、。このように、ナノドット領域がグループ化されていると、例えば、各グループ 内では同一の被検試料を測定し、異なるグループでは被検試料を異ならしめる等、 実験の操作上、便利に使用することができる。スポットに滴下した被検試料は、スポッ トを規定する溝よりも外には流れて行かないので、スポット間での被検試料の混合が 防止される。このようなスポットのサイズは、何ら限定されないが、通常、直径力 S0.5mm 〜5mm程度である。
[0016] ナノドット領域は、基板上に公知の方法により形成することができる。例えば、易吸 着性物質が金属の場合には、フォトレジストや電子線レジストを用いた真空蒸着等に より容易に形成することができる。真空蒸着としては、均一な膜を作製し易い電子ビ ーム (EB)蒸着が好ましい。 EB蒸着を用いた、表面が白金から成る被検物質付着領域 の作製方法が下記実施例に具体的に記載されている。
[0017] 本発明の MALDI-TOF MSによる質量分析方法は、上記本発明の基板を用い、上 記被検物質付着領域上に被検試料とマトリックスとの混合物を付着させて測定に供 することを除き、従来の MALDト TOF MSと全く同様に行うことができ、具体的な方法 の一例が下記実施例に記載されている。なお、本発明の基板では、被検物質付着 領域がナノドット領域であるが、ナノドット領域は、光学顕微鏡で見えない小さなもの であるので、ナノドット領域上にのみ選択的に被検試料を点着することは困難であり、 ナノドット領域を含むより広い領域一帯に被検試料が施される。このため、被検試料 は、ナノドット領域以外の領域にも施される。基板に施す被検試料の量は、特に限定 されないが、通常、 0.5〜5 μ L程度、特に 1〜2 μ L程度である。また、被検試料中の 被検物質 (質量分析する核酸やタンパク質等)の濃度は、特に限定されないが、通常 、 Ο. Ι μ Μ〜: ΙΟΟ μ Μ程度、好ましくは、 1 μ Μ〜50 μ Μ程度である。
[0018] 以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実 施例に限定されるものではない。
実施例 1
[0019] 白金ナノドット領域を具備する基板の作製
直径 2インチのシリコン基板の表面に厚さ 1 μ mの熱酸化膜が形成された基板上に 、図 1に模式的に示すナノドット領域を、電子線レジストを用いる EB蒸着により形成し た。下層のチタン層は、厚さ 2nm、直径 30nm、上層の白金層は、厚さ 50nm、直径 30η mであった。各ナノドット領域の周期(縦方向及び横方向とも)は 60nm、 90nm又は 120 nmであり、各ナノドット領域は、シリコン酸化膜内に形成された、直径 2.4〜2.5mm、幅 100 /i m、深さ 190nm又は 250nmのリング状の溝により囲まれた領域(スポット)内に形 成してグノレープ化した。
[0020] 以上は、具体的には下記工程により行なった。すなわち、先ず、下層レジストとして 、電子線ポジ型レジスト ZEP520 (日本ゼオン製)をスピンコートし(膜厚: 50nm)、ォー ブン中、 165°C、 30分間プリベータした。次に、上層レジストとして、 20%フラーレン(C 60/70)添力 OZEP520レジスト(日本ゼオン製)をスピンコートし(膜厚: 40nm)、オーブン 中、 165°C、 30分間プリベータした。 EB描画装置 JBX9300FS (日本電子製) 100 kV, 7 nA (ビーム径:約 20醒)を用いて、ナノドット領域を形成する部分に EBを照射した。 現像液 ZED-N50 (日本ゼオン製)に 60秒間浸漬して現像した。次に、市販の EB蒸着 装置を用いた EB蒸着により、厚さ 2匪のチタン層、その上に厚さ 50匪の白金層を被 着した。 Shifley Remover 1165 (商品名)に浸漬してレジストを現像し、基板上に、チタ ン層に白金層が積層されて成るナノドット領域のみを残留させた。次に、シリコン酸化 膜内に、リング状の溝を形成し、先に形成したナノドット領域の各グループを、各リン グ状の溝で囲んだ。これは具体的には次のようにして行なった。電子線レジストであ る ZEPレジスト(日本ゼオン製)をスピンコートし(膜厚: 250 nm)、オーブン中、 165°C 、 30分間プリベータした。 EB描画装置 JBX9300FS (日本電子製) 100 kV, 7nA (ビーム 径:約 20匪)を用いて、リング状溝を形成する部分に EBを照射した。現像液 ZED-N5 0 (日本ゼオン製)に 120秒間浸漬して現像した。次に、反応性イオンエッチング装置 1 0-NR(Samco社製)を用い、 CHFガス反応性イオンエッチング (RIE, Reactive Ion Etch ing)を、出力 100 W、ガス圧 0.8 Paで行なった。次いで UV/0処理によりレジストを除 去した。
[0021] なお、各リング状溝で囲まれたスポットは、図 2に示すように、上下方向(基板の直 線部分を左にして)に 1,2,3,4、左右方向に八,8 ,0^を付して識別する(例ぇば、 A1 、 C3のように場所を特定)。なお、作製のばらつきが生じる可能性があるため、各スポ ット内のナノドットの描画の際の露光量を 1 _ 10に変えたものを作製した。
[0022] 走查電子顕微鏡で観察したところ、 60匪周期及び 120匪周期で形成したナノドット 領域にぉレ、て、露光量が多すぎた各 2個のスポットではナノドット領域以外の部分に メタル残りが観察された力 これら以外のスポットでは、所望のナノドット領域のみが基 板上に残留しており、本発明の基板が得られた。
実施例 2
[0023] DNAの MALDI- TOF MS
下記の塩基配列を有する 3種類の DNA (各 16_mer (merは塩基数を示す)、 19-mer 、 24-mer、分子量:各 4893.16, 5815.67, 6713.28)を被検物質とし、マトリックスに 3-H PA (3—ヒドロキシピコリン酸)を用い、実施例 1で作製した基板のナノドット領域上に 被検物質とマトリックスの混合物を点着した。
5 -act tct gtg ttt agg t~3
5し act tct gtg ttt agg tgt c - 3'
5し act tct gtg ttt agg tgt etc tca-3'
[0024] この操作は具体的に次のようにして行なった。 DNAは MilliQ水を用いてそれぞれ 5 pmol/ μ 1の混合溶液とした。 3HPAは 10 mg/mlに 50%ァセトニトリル 50%水(0.1%TFA) に溶解したものを用いた。試料溶液 1 μ 1と 3ΗΡΑ溶液 1 μを基板上に滴下して混合し 風乾した。基板を装置装填用のアダプターに装着した。これを MALDI-TOF MS装置 (ブルカーダルト二タス社製)に装填し、装置の指示書に記載された通りに MALDト T OF MSを行レ、、質量スペクトルのチャートを描いた。一方、比較のため、ナノドット領 域を形成することなぐリング状の溝を形成したシリコン基板、及び市販の MALDI-TO F MS用基板(アルミニウム基板に皮膜を形成したもの)にも同様に試料を点着し、同 様にして MALDI-TOF MSを行なった。結果を図 3に示す。
[0025] 図 3中、上段のチャートは、実施例 1で作製した本発明の基板を用いて得られた質 量スペクトル、下段のチャートは、市販の MALDI-TOF MS基板を用いて得られた質
量スペクトルを示す。図 3からわかるように、本発明の基板を用いた場合には、市販の 基板を用いた場合に比べ、各オリゴヌクレオチドのピークがより明瞭に現れ、測定さ れた質量もより正確であった。なお、ナノドット領域を形成することなぐリング状の溝 を形成したシリコン基板を用いた場合には、いずれのスポットにおいても有効なスぺ タトルは得られなかった。
実施例 3
[0026] MALDI-TOF MSの再現性
実施例 2と同じ DNA試料を用いて、実施例 2と同様に MALDI-TOF MSを行レ、、再 現性の評価を行った。サンプルスポットからランダムに 60個所を選び、レーザー照射 をしたときにマススペクトルが得られた確率を図 4に示した。 S/N比が 5以上、解像度( m/差分 m)が 250以上、シグナル強度が 300以上のものをシグナルとして、 N = 3で標 準偏差を算出した。
[0027] A1〜E1が 60 nm周期、 A2〜E2が 90 nm周期、 A3〜E4が 120 nm周期のドットパター ンである。同じ周期で異なるナンバリングはナノドットプレートの作製段階で露光量の 違レ、から生じるドットサイズの差異である。横軸の一番左側が市販の基板を用いた場 合の結果を示し、スペクトルが得られる確率は約 15%に過ぎなレ、。横軸の一番左側 以外は、本発明の基板の各スポットについての結果を示す。いずれのスポットでも、 市販の基板よりははるかに確率が高ぐ本発明の基板を用いることにより、高い再現 性を持って測定できることがわかる。
実施例 4
[0028] 高分子量 DNAの MALDI-TOF MS
ポリ Cの DNA40-mer及び 50-mer (M.W. 11520, 14412)について、実施例 2と同様に MALDI-TOF MSを行レ、、長鎖の DNAでの検出限界を検索した。結果を図 5に示す。
[0029] 図 5の上段は、実施例 1で作製した本発明の基板を用いて得られた、 40-merの DN Aについての質量スペクトル、下段は、市販の基板を用いて得られた、 40-merの DNA についての質量スペクトルを示す。図 5から明らかなように、本発明の基板を用いた 4 0-mer DNAの測定では S/N比及び検出感度の上昇に成功した。
実施例 5
[0030] 濃度とピーク比の関係の直線性
24-mer DNAを内部標準とし、 23-mer DNAの濃度を振って、実施例 2と同様に MAL
DI-TOF MSを行い、得られた質量スペクトルのピーク面積の比を取った。検量線は 3 回の平均値を取ったものである。比較のため、市販の MALD卜 TOF MS用基板を用い て同じ操作を行なった。結果を図 6に示す。
[0031] 図 6からわかるように、市販の基板を用いた場合直線性があるが、本発明の基板を 用いた場合でも相関性が失われていないことが明らかになった。
実施例 6
[0032] 金ナノドット領域を具備する基板の作製
実施例 1において、白金に代えて金を用いたことを除き、実施例 1と同様な操作によ り、金ナノドット領域を具備する基板を作製した。ただし、ナノドット領域の周期は、 60η m、 90nm、 120nmに加え、さらに 240nm、 480nm、 lOOOnmのものも作製した。
実施例 7
[0033] チタンナノドット領域を具備する基板の作製
実施例 1において、チタン層の厚さを 50匪とし、チタン層の上には白金を被着しな 力、つたことを除き、実施例 1と同様な操作により、チタンナノドット領域を具備する基板 を作製した。ただし、ナノドット領域の周期は、 60nm、 90nm、 120nmに加え、さらに 240 nm、 480nm、 lOOOnmのものも作製した。
実施例 8
[0034] 白金ナノドット領域を具備する基板の作製 (その 2)
実施例 1と同じ方法により白金ナノドット領域を具備する基板を作製した。ただし、ナ ノドット領域の周期は、 60nm、 90nm、 120nmに加え、さらに 240nm、 480nm、 lOOOnmの ものも作製した。
実施例 9
[0035] 実施例 6〜8で作製した基板の性能を実施例 3と同様にしてマススペクトルが得られ る確率 (シグナル獲得確率)を測定した。ただし、 DNAの濃度を 20 μ Μとし、マトリック ス溶液の組成は、 30%ァセトニトリル(0.1 % TFA含有)中に 50mg/mlの 3-ΗΡΑと 5mg/m
1クェン酸 2アンモニゥムを含むものを用いた。
[0036] 結果を図 7に示す。図 7に示されるように、ナノドット領域を白金、金、チタンのいず れで形成した場合でも、比較対照であるドットなし SiO基板や、市販の及び市販の M
ALDI-TOF MS用基板(アルミニウム基板に皮膜を形成したもの)に比べて、シグナル 獲得確率が明らかに高くなつた。また、ナノドットの周期については、 60ηπ!〜 lOOOnm の範囲にわたって全て比較対照の基板を用いた場合よりもシグナル獲得確率が明ら かに高くなつた。
産業上の利用可能性
[0037] 本発明の MALDI-TOF MS基板は、タンパク質や核酸のような高分子物質であって も、再現性良く質量分析を行うことができ、また、質量スぺタトノレが得られやすレ、。この ため、本発明の基板を用いることにより、被検物質がタンパク質や核酸であっても、測 定結果が再現性良く得られ、また、質量スペクトルも得られやすぐかつ、ピークも明 瞭になるので、正確な測定が可能となる。従って、本発明は、タンパク質や核酸等の 生体関連物質の質量分析に有用である。