スクシンィミジル基を持つポルフィリンィ匕合物もしくはその金属錯体、ポル フィリン金属錯体結合アルブミンおよびそれを含有する酸素輸液
技術分野
[0001] 本発明は、可逆的に酸素を結合解離でき、し力も蛋白質に直接結合可能なスクシ ンィミジル基を有するボルフイリンィ匕合物もしくはその金属錯体、それをアルブミンに 共有結合して得たポルフィリン金属錯体結合アルブミン、およびそのポルフィリン金属 錯体結合アルブミンを含有する酸素輸液 (人工酸素運搬体)に関する。
背景技術
[0002] 生体内で酸素運搬'貯蔵の役割を担うヘモグロビンやミオグロビンの補欠分子族で あるヘム、すなわちポルフィリン鉄 (Π)錯体は、酸素分圧に応答して分子状酸素を可 逆的に結合解離する。このような天然のヘムと同じ酸素吸脱着能を合成のボルフイリ ン鉄 (II)錯体で再現しょうとする研究は 1970年代力も報告されているが、初期の研 究例としては、 J. P. Collman, Acc. Chem. Res., 10, 265 (1977)、 F. Basolo, B. M. Ho flman, J. A. Ibers, Acc. Chem. Res., 8, 384 (1975)等が代表的であり、また、最近の 開発動向は Momentau et al, Chem. Rev., 110, 7690 (1994)、 J. P. Collman, Chem. Rev., 104, 561 (2004)等に体系的に記載されている。
[0003] 室温条件下で安定な酸素錯体を形成できるポルフィリン鉄 (II)錯体としては、 5, 10 , 15, 20 テトラキス(a , a , a , α—o ピノくノレアミドフエ-ノレ)ポノレフイリン鉄(II) 錯体(以下、 FeTpivPP錯体と呼ぶ)が知られている(J. P. Collman, et al., J. Am. Che m. So , 97, 1427 (1975)) 0 FeTpivPP錯体は、軸塩基、例えば 1 アルキルイミダゾ ール、 1 アルキル 2—メチルイミダゾール等を過剰に共存させると、ベンゼン、ト ルェン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、 N, N ジメチルホルムアミド等の有機溶媒 中、室温で分子状酸素を可逆的に結合解離できる。また、この錯体をリン脂質力も成 る二分子膜小胞体に包埋させれば、生理条件下 (水相系、 pH7. 4、 37°C)でも同様 の酸素吸脱着機能が発揮される(例えば、 E. Tsuchida et al., J. Chem. So , Dalton Trans., 1984, 1147 (1984)等)。 FeTpivPP錯体が酸素を可逆的に結合解離するため
には、上述したように過剰モル数の軸塩基分子を外部力 添加することが不可欠で ある。しかし、軸塩基として広く用いられているイミダゾール誘導体には薬理作用を持 つものがあり、体内毒性の高い場合が多い。また、リン脂質小胞体を利用する場合、 過剰に共存させたイミダゾール誘導体がその形態を不安定化させる要因ともなり得る 。この軸塩基の添加量を極限的に少なくする方法は、分子内に共有結合でイミダゾ ール誘導体を導入することに他ならな ヽ。
[0004] 本発明者らのグループは、ポルフィリン鉄 (II)錯体の分子内へ置換基として、例え ばアルキルイミダゾール誘導体を共有結合すれば、軸塩基を外部添加することなく 安定な酸素運搬体を供給できるものと考え、既にポルフィリン環の 2位に置換基を有 する FeTpivPP類縁体を合成し、これをリン脂質小胞体中ゃヒト血清アルブミンに包接 させた系につ 、て、可逆的な酸素の吸脱着反応を明らかにして 、る(特開昭 59— 16 4791号公報、特開昭 59— 162924号公報、特開平 8— 301873号公報)。
[0005] し力しながら、一般的に水溶液中では中心鉄 (II)の酸ィ匕反応が加速されるため、得 られる酸素錯体の安定度は著しく低い。換言すると、可逆的な酸素配位活性を発現 できるのは、ボルフイリン鉄錯体の中心鉄が 2価の状態にある時のみで、中心鉄が酸 化し、鉄 (ΠΙ)錯体になると、その酸素配位活性は完全に失われる。本発明者らのグ ループが開発したポルフィリン鉄 (II)錯体を水中に分散させる上記のリン脂質小胞体 中ゃヒト血清アルブミンに包接させる先行技術は、ポルフィリン鉄 (II)錯体を均一に水 中へ溶解させるだけでなぐ酸素配位座近傍に微小な疎水空間を提供することにより 、酸素錯体の安定度を延長させる効果もあった。
[0006] 他方、これらの系ではポルフィリン鉄 (II)錯体の包接駆動力は、いずれも疎水性相 互作用、すなわち非共有結合であるため、酸素結合サイトであるポルフィリン金属錯 体が、疎水場から解離してしまう可能性もある。上記ポルフィリン金属錯体水溶液や 分散液を人工酸素運搬体として、例えば赤血球代替物として体内へ投与した場合、 ある程度の期間、血流中に留まり、酸素輸送体の役割を担ってくれることが望ましい 。実際、アルブミン ポルフィリン金属錯体複合体を血中に投与すると、ポルフィリン 金属錯体はアルブミン力も解離する。つまり、より長い血中半減期を実現するために は、アルブミンに強固な結合様式で固定できるポルフィリン金属錯体の設計と合成が
待たれて 、たのが現状であった。
発明の開示
[0007] 従って、本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、より長期にわたって安定な酸 素錯体を形成し、酸素輸液として有効に作用し得るポルフィリン金属錯体またはその 前駆体としてのボルフイリンィ匕合物を提供することを目的とする。
[0008] 本発明者らは、より強固な結合様式でアルブミンに固定できるポルフィリン金属錯 体の分子設計と機能発現に鋭意研究を重ねた結果、 2位置へ酸素吸着能を有効に 発揮させるために必要な置換基、すなわち塩基性軸配位子であるイミダゾール誘導 体を結合させた 5, 10, 15, 20—テトラキス(a , a , a , α—o—置換アミドフエ-ノレ )ポルフィリン金属錯体の側鎖部分に、アルブミンのアミノ酸残基と特異的に共有結 合を形成し得るスクシンイミドエステル基を導入し、その活性基とアルブミンを共有結 合で連結すると、従来の非共有結合でアルブミンの疎水領域へ包接させて 、た系に 比べ、ポルフィリン金属錯体が格段に強固な力で固定されたアルブミン (すなわち、 ポルフィリン金属錯体結合アルブミン)の合成が可能となり、安定な酸素錯体を形成 し得る新し ヽ酸素輸液が提供できることを見 ヽだし、本発明を完成した。
[0009] すなわち、本発明の第 1の側面によれば、式 [I]:
[化 1]
[0010] (ここで、 Rは、置換基を有してもよ!ヽ直鎖または脂環式炭化水素基、 Rは、アルキレ
ン基、 Rは周期律表第 4〜5周期の遷移金属イオン Mを配位させたときに、イミダゾリ
3
ル基の中心遷移金属イオン Mへの配位を許容する基、 Rは、メチレン基またはェチレ ン基)で示されるポルフィリン化合物、または周期律表第 4〜5周期の遷移金属イオン が配位したその金属錯体が提供される。
[0011] また、本発明の第 2の側面によれば、本発明のポルフィリン金属錯体のスクシンイミ ジル基をアルブミンと反応させることによって得られるポルフィリン金属錯体結合アル ブミンが提供される。
[0012] さらに、本発明の第 3の側面によれば、本発明のポルフィリン金属錯体結合アルブミ ンを含有する酸素輸液が提供される。
発明を実施するための最良の形態
[0013] 本発明のボルフイリンィ匕合物は、上記式 [I]で示される。
[0014] 式 [I]において、 Rは置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。
1
Rは、 1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であることが好ましい。そ
1
のような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、 1, 1一二置換 c〜 力
1 c アル 18 ン基、 1 置換シクロプロピル基、 1 置換シクロペンチル基、 1 置換シクロへキシ ル基、 2—置換ノルボルニル基 (これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミ ド基(R ' CONH )、アルキルエステル基(R ' OOC )、アルキルエーテル基(R ' O 一)、 1—メチル—2—シクロへキセ-ル基、または 1—ァダマンチル基等である。ここ で、 R'で表されるアルキル基としては、 C〜Cアルキル基が好ましい。
1 6
[0015] 式 [I]において、 Rはアルキレン基であり、好ましくは、 C〜C アルキレン基である
2 1 10
[0016] 式 [I]において、 Rは周期律表第 4〜5周期の遷移金属イオン Mを配位させたとき
3
に、イミダゾリル基の中心遷移金属イオン Mへの配位を許容する(配位を阻害しない )基である。かかる Rの例を挙げると、水素原子、メチル基、ェチル基またはプロピル
3
基である。
[0017] また、式 [I]において、 Rは、メチレン基またはエチレン基である。
[0018] 本発明は、式 [I]のボルフイリンィ匕合物に周期律表第 4〜第 5周期の遷移金属ィォ ン Mが配位したポルフィリン金属錯体をも提供する。遷移金属イオン Mとしては、 Fe
または Coが好ましい。 Feの原子価は + 2または + 3であり得、また Coの原子価は + 2であり得る。このポルフィリン金属錯体は、式 [II]で示すことができる。
[化 2]
[0019] 式 [II]において、 X—は、塩ィ匕物イオン、臭化物イオン等のハロゲンィ匕物イオンを表し
、 X—の個数 nは、遷移金属イオン Mの価数から 2を差し引いた数である。
[0020] Mが Fe (II)、 Co (II)等の + 2価の遷移金属イオンである場合に、このポルフィリン金 属錯体は、下記式 [III]に示すように、ポルフィリン分子内に結合されたイミダゾール 基が遷移金属イオン Mに配位した状態になる。
[化 3]
式 [ ]
[0021] このようなポルフィリン金属錯体は、当該分子のみで酸素結合能を発揮できるもの である。また、本発明のポルフィリン金属錯体では、側鎖置換基として、蛋白質と共有 結合可能なスクシンィミジル基を有して 、るため、これをアルブミンと室温で混合する だけで、酸素結合サイトであるポルフィリン金属錯体力 アルブミンのリジンァミノ基と 共有結合を形成し、アルブミン内部にアミド結合を介して固定される。つまり、体内へ 投与した場合でも、血液循環系でポルフィリン金属錯体がアルブミンカゝら解離するこ とはなぐより長い血中滞留時間が期待される。
[0022] 酸素輸液の適応は、出血ショックの蘇生液 (輸血用血液の血液代替物)のほか、術 前血液希釈液、人工心肺等体外循環回路の補填液、移植臓器の灌流液、虚血部位 への酸素供給液 (心筋梗塞、脳梗塞、呼吸不全等)、慢性貧血治療剤、液体換気の 環流液、癌治療用増感剤、再生組織細胞の培養液、さらに、稀少血液型患者への 利用、宗教上の理由による輸血拒否患者への対応、動物医療への応用が期待され ている。酸素輸液は、本発明のポルフィリン金属錯体結合アルブミンを生理食塩水に 分散させること〖こよって得られる。ポルフィリン金属錯体結合アルブミンの濃度は、そ の用途によって異なる力 代用血液としてはヘム濃度で 9. 2mmolZL程度、その他 では、それ以上の濃度を用いることができる。
[0023] 力!]えて、ポルフィリンが例えば第 4〜5周期に属する金属イオンの錯体である場合、 酸化還元反応、酸素酸化反応または酸素添加反応の触媒としての付加価値も高 、 。従って、本発明のポルフィリン金属錯体は、酸素輸液のほか、ガス吸着剤、酸ィ匕還 元触媒、酸素酸化反応触媒、酸素添加反応触媒としての特徴を持つ。
[0024] 本発明のボルフイリンィ匕合物の製造方法には特に制限はないが、例えば、次の式 [ IV] :
[化 4]
置換アミドフエ-ル)ポルフィリンを出発物質として合成することができる。式 [IV]にお いて、 Rは、上に定義した通りである。このポルフィリンは、例えば、 Tsuchida et al., J.
1
Chem. Soc. Perkin Trans 2, 1995, 747 (1995)に記載の方法を用いて合成することが できる。
具体的には、式 [A]: R"OOCRC (NH— Fmoc) COOH (ここで、 Rは、上に定義 した通り、 Fmocは、 9 フルォレ -ルメチルォキシカルボ-ル、 R"は、例えば、 tーブ チル)で示されるァスパラギン酸もしくはグルタミン酸誘導体を適当な乾燥溶媒 (例え ば、ジクロロメタン、ベンゼン、ジメチルホルムアミド等)に溶解し、縮合剤としてジシク 口へキシルカルポジイミド (DCC)をカ卩え、室温で 1〜12時間撹拌する。反応の進行 に伴い白色の沈殿が生成するので、反応溶液を 2〜30分間氷浴中で冷却した後、 析出した N, N'—ジシクロへキシル尿素(DCU)を濾過により除去する。濾液に、式 [ IV]の 2 ヒドロキシメチル一 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , α— o 置換ァ ミドフエニル)ポルフィリンを加え、遮光下で 1〜12時間攪拌する。薄層クロマトグラフ ィー (TLC)で反応の進行を追跡し、必要であれば適当な塩基 (ピリジン、ジメチルァ ミノピリジン、トリェチルァミン等)をカ卩える。溶媒を減圧除去し、残渣をベンゼンに溶 解し、析出した DCUを再び濾過により除去する。溶媒を減圧除去後、冷へキサンを 加え、ポルフィリンを析出させる。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ 一で精製すると、 2- (N— Fmoc— t—ブトキシカルボ-ル—アミノアシル)メチル—5 , 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , α—o 置換アミドフエ二ノレ)ポノレフィリンが得
られる。ここで、アミノアシルは、いうまでもなぐァスパラギルまたはダルタミルである( 以下、同じ)。
[0027] 得られたボルフイリンをジメチルホルムアミドに溶解し、ピぺリジンを加え、遮光下、 室温で 6〜24時間撹拌する。ジメチルホルムアミドとピペリジンを減圧除去した後、残 渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると、 2 - (t—ブトキシカルボ二ルー アミノアシノレ)メチノレ一 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , α—o 置換アミドフ ェニル)ポルフィリンが得られる。
[0028] 次に、下記式 [B]で示される ω—イミダゾリルアルカン酸(式 [Β]において、 Rおよ
2 び Rは、上に定義した通り)の塩酸塩を蒸留ジメチルホルムアミドに溶解し、 DCCと
3
適当な塩基 (例えばピリジン、ジメチルァミノピリジン、トリェチルァミン等)を加え、室 温で 30分〜 4時間撹拌する。
[0029] 反応の進行に伴い生成した DCUを濾過により除去し、濾液に 2 (t ブトキシカ ノレボ-ノレ一アミノアシノレ)メチノレ一 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , a ~o~ 置換アミドフエ-ル)ポルフィリンを加え、遮光下で 15分〜 2時間攪拌する。溶媒を減 圧除去し、残渣をジクロロメタンとトリェチルァミンの混合溶媒に再溶解し、 6〜24時 間、室温、遮光下にて攪拌する。 DCUを濾過により除去した後、残渣をベンゼンに 溶解し、析出物を濾別して、溶媒を減圧除去する。残渣をクロ口ホルムに溶解し、純 水と炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、脱水後、クロ口ホルムを除去して、 2— (N— ( ω—イミダゾリルアルカノィル)—t—ブトキシカルボ-ルーアミノアシル)メチルー 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , α—o 置換アミドフエ二ノレ)ポノレフイリンを得る 。本化合物は、光、シリカゲルカラムによる分離操作で分解してしまうので、そのまま 次の反応に用いる。
[0030] こうして得られたポルフィリンを適当な乾燥溶媒(ジクロロメタン、クロ口ホルム、ベン ゼン等)に溶解し、トリフルォロ酢酸を加え、室温、遮光下で 1〜6時間撹拌する。 TL
Cで反応の進行を追跡、溶媒を減圧除去し、残渣にベンゼンを加え、 2- (N—(ω —イミダゾリルアルカノィル)一アミノアシル)メチル 5, 10, 15, 20—テトラキス(α , a , a , α—ο 置換アミドフエ-ル)ポルフィリンを得る。本化合物は、光、シリカゲ ルカラムによる分離操作で分解してしまうので、そのまま次の反応に用いる。
[0031] 得られたポルフィリンへ中心金属 Μを導入する。この中心金属 Μの導入は、例えば D. Dolphin編、 The Porphyrin, 1978年、アカデミック 'プレス社等に記載の一般法に より達成され、相当のポルフィリン金属錯体として得られる。一般に、鉄錯体の場合に はポルフィリン鉄 (III)錯体が、コバルト錯体の場合にはボルフイリンコノ レト(Π)錯体 が得られる。
[0032] 具体的には、 2- (N— ( ω イミダゾリルアルカノィル) アミノアシル)メチルー 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , α—o 置換アミドフエ二ノレ)ポノレフィリンの蒸 留 THF溶液を電解鉄と臭化水素酸により調製した臭化鉄 (Π)へ、乾燥アルゴン雰囲 気下ですばやく加え、 60〜80°Cで 2〜24時間反応させる。溶媒を減圧除去後、残 渣をクロ口ホルムに溶解させ、純水で十分に洗浄する。脱水、溶媒除去後、得られた 混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画精製すると、茶色固体の 2—(N— ( ω—イミダゾリルアルカノィル)一アミノアシル)メチル 5, 10, 15, 20—テトラキス( a , a , a , α—o 置換アミドフエ-ル)ボルフイナト鉄(III)が得られる。
[0033] このポルフィリンを適当な乾燥溶媒(ジクロロメタン、クロ口ホルム、ベンゼン、ジェチ ルエーテル等)に溶解し、 DCCをカ卩え、室温で 10分〜 2時間撹拌する。そこへ N ヒ ドロキシスクシンイミドのジクロロメタン溶液を添カロし、室温、遮光下にて 2〜24時間反 応させる。 TLCで反応の進行を追跡し、析出物を 0°Cで濾別し、溶媒を減圧除去す る。残渣をベンゼンに溶解し、 DCUを再び濾過により除去した後、溶媒を減圧除去 すると、 目的化合物 2—(N— ( ω イミダゾリルアルカノィル)ースクシンィミジルーァ ミノ酸エステノレ)メチノレ一 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , α—o ピノくノレアミ ドフエ-ル)ボルフイナト鉄(III)が得られる。ここで、アミノ酸エステルは、いうまでもなく 、ァスパラギネートまたはグルタメートである。
[0034] なお、上記ポルフィリン金属錯体のうち、鉄 (III)錯体の形を有する場合は、適当な 還元剤(亜ニチオン酸ナトリウム、ァスコルビン酸等)を用い、常法により中心金属を 3
価から 2価へ還元すれば、酸素結合活性が付与できる。
[0035] これらのポルフィリン鉄(II)錯体をアルブミンと結合させるには、まずポルフィリン鉄( II)錯体のカルボ二ル錯体エタノール溶液を調製し、それを例えばヒト血清アルブミン のリン酸緩衝水溶液と混合し、ゆっくりと室温で 30分〜 3時間攪拌する。得られた溶 液をリン酸緩衝水溶液に対して、 10〜24時間透析し、エタノールを除去する。こうし て得られたポルフィリン鉄 (Π)錯体結合アルブミンは、下記式 [V]で示されるように、 ポルフィリンのスクシンィミジルォキシ基が離脱したァシル基がアルブミンのリシンアミ ノ基とアミド結合を形成しているものである。一酸化炭素錯体として遮光下にて冷蔵 保存する。
[化 6]
[0036] 組換えヒト血清アルブミンに共有結合した系、アルブミン多量体に共有結合した系 、いずれの場合も酸素と接触すると速やかに安定な酸素錯体を生成する。また、これ らの錯体は酸素分圧に応じて酸素を吸脱着できる。この酸素結合解離は可逆的に 繰り返し行うことができ、酸素吸脱着剤、酸素運搬体として作用する。
[0037] 酸素以外にも金属に配位性である気体の場合、相当する配位錯体を形成できる( 例えば、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素等)。これらの理由から、本発明のポ ルフィリン金属錯体は、特に鉄 (Π)またはコバルト (Π)錯体の場合、有効な酸素輸液と して機能することはもちろん、均一系、不均一系での酸化還元反応触媒、およびガス
吸着剤としての応用が可能となる。
[0038] 以下、この発明をいくつかの例により詳細に説明する力 本発明はそれらの例によ り限定されるものではない。
[0039] 例 1
Fmoc—L—グルタミン酸(t—ブチルエステル)(314mg, 0. 74mmol)をジクロロメ タン 2mLに溶解し、 DCC (152mg, 0. 74mmol)を加え、室温で 2時間撹拌した。反 応の進行に伴い白色の沈殿が生成した。 10分間氷浴中で冷却し、析出した DCUを 濾過により除去した。濾液に 2—ヒドロキシメチルー 5, 10, 15, 20—テトラキス(α , a , a , α—o—ピノくノレアミドフエ二ノレ)ポノレフイリン(76mg, 73 mol)をカ卩え、溶液 を ImLまで濃縮。遮光下で 2時間攪拌した。 TLCで反応の進行を追跡し、必要であ ればジメチルアミノビリジン(3. Omg, 25 mol)のジクロロメタン溶液をカ卩える。溶媒 を減圧除去し、残渣をベンゼンに溶解し、析出した DCUを再び濾過により除去した。 溶媒を減圧除去後、冷へキサンを加え、紫色のポルフィリンを析出させた。得られた 混合物をシリカゲルカラム (展開溶媒:クロ口ホルム Z酢酸ェチル = 10Z1)で精製し 、 目的化合物 2— (N— Fmoc— t—ブトキシカルボ-ルー L—グルタミル)メチル— 5 , 10, 15, 20—テトラキス(a , a , a , α—o—ピノくノレアミドフエ二ノレ)ポノレフイリンを 195mg得た(収率: 92%)。
[0040] <分析結果 >
薄層クロマトグラフィー: Rf=0. 71 (CHC1: CH OH = 20:l(v/v))
3 3
赤外吸収スペクトル( v /cm— : 3432(NH); 1726 (C=0 (エステル)), 1690 (C=O(アミ ド))
紫外可視吸収スペクトル( max/nm, CHC1 ): 640, 589, 545, 513, 420
3
^H—NMR ^ベクトル(500 MHz, CDC1 , d(ppm)) , — 2.7 (s, 2H,内部 H) , 0.0— 0.3 (m
3
, 36Η, Bu ) , 1.5 (d, 9H, O— Bu of Glu) , 1.9, 2.4 (m, 4H,— CH CH— ) , 4.0— 4.5 (m, 4
2 2
H, >CHNHCOOCH CHく), 5.2— 5.5 (m, 2H, - CHく SUB〉2- Por) , 7.1- 7.8 (m, 24H,フ
2
ェ-ル H) , 8.6-8.8 (m, 11H,アミド H,ピロール H)
ESI— MSスペクトル(m/z): 1448 [M]+; 1470 [M+Na]+G
[0041] 例 2
2— (N— Fmoc— t—ブトキシカルボ二ルー L—グルタミル)メチル— 5, 10, 15, 2 0—テトラキス(a , a , a , α— o—ピバルアミドフエ-ル)ポルフィリン(215mg, 0. 1 5mmol)をジメチルホルムアミド 30mLに溶解し、ピぺリジン(20mL)をカ卩え、遮光下、 室温で 13時間撹拌した。ジメチルホルムアミドとピペリジンを減圧除去した後、残渣を シリカゲルカラム (展開溶媒:クロ口ホルム Zメタノール Z酢酸: 100Z5Z1)で精製し 、 目的化合物 2—(t—ブトキシカルボ-ルー Lーグルタミル)メチルー 5, 10, 15, 20 —テトラキス(a , a , a , α—o—ピバルアミドフエ-ル)ポルフィリンを 13 lmg得た( 収率: 72%)。
[0042] <分析結果 >
薄層クロマトグラフィー: Rf=0. 3KCHC1: CH OH/20:l(v/v))
3 3
赤外吸収スペクトル(V /cm— : 3432(NH); 1730 (C=0 (エステル)), 1689 (C=0 (アミ ド))
紫外可視吸収スペクトル( max/nm, CHC1 ): 646, 589, 545, 514, 420
3
^H—NMR ^ベクトル(500 MHz, CDC1 , d(ppm)) ,— 2.7 (s, 2H,内部 H) , 0.0— 0.2 (m
3
, 36Η, Bu ) , 1.4 (d, 9H, Gluの O- Bu ) , 2.1, 2.4 (m, 4H,— CH CH -) , 3.5 (s, 1H, >C
2 2
H) , 5.2, 5.4 (d, 2H,— CH— Por) , 7.0-7.8 (m, 16H,フエ-ル H) , 8.6- 8.8 (11H, m,ァ
2
ミド、 H, pyrrole H)
ESI— MSスペクトル(m/z): 1226 [M]+; 1248 [M+Na]+。
[0043] 例 3
8— (2—メチルイミダゾリル)オクタン酸 ·塩酸塩(106mg, 0. 48mmol)を蒸留ジメ チルホルムアミドに溶解し、 DCC (84mg, 0. 48mmol)、卜リエチルァミン(85mL, 0 . 612mmol)をカ卩え、室温で 2時間撹拌した。反応の進行に伴い生成した DCUを濾 過により除去し、濾液に 2—(t—ブトキシカルボ-ルー Lーグルタミル)メチルー 5, 10 , 15, 20—テトラキス , a , a , α— o—ピノくルアミドフエ-ル)ポルフィリン(50mg , 40. 8 /z mol)を加え、遮光下で 30分間攪拌した。溶媒を減圧除去し、残渣をジクロ ロメタン 2mLとトリエチルァミン 3mLに再溶解し、 18時間室温、遮光下にて攪拌した 。 DCUを濾過により除去した後、残渣をベンゼン 2mLに溶解、析出物を濾別して、 溶媒を減圧除去した。残渣をクロ口ホルムに溶解し、純水と炭酸水素ナトリウム水溶
液で洗浄した。脱水後、クロ口ホルムを除去して、 2— (N— (8 - (2—メチルイミダゾリ ルォクタノィル)) t—ブトキシカルボ二ルー Lーグルタミル)メチルー 5, 10, 15, 20 —テトラキス(a , a , a , α—o ピバルアミドフエ-ル)ポルフィリンを得た。本化合 物は、光、シリカゲルカラムによる分離操作で分解してしまうので、そのまま次の反応 に用いた。
[0044] <分析結果 >
薄層クロマトグラフィー: Rf=0. 22 (CHC1: CH OH=20:l(v/v))
3 3
紫外可視吸収スペクトル( max/nm, CHC1 ): 643, 588, 544, 513, 421
3
ESI— MSスペクトル(m/z): 1432 [M]+。
[0045] 例 4
例 3で得られた 2— (N— (8— (2—メチルイミダゾリルオタタノィル)) t—ブトキシ カルボ二ルー L グルタミル)メチル 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , a - o ピバルアミドフエ-ル)ボルフイリンをジクロロメタン 5mLに溶解し、トリフルォロ酢 酸 5mLを加え、室温、遮光下で 3時間撹拌した。 TLCで反応の進行を追跡、溶媒を 減圧除去し、残渣にベンゼン 5mLをカ卩え、 2—(N—(8—(2—メチルイミダゾリルオタ タノィノレ))一 L グノレタミノレ)メチノレ一 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , a ~o —ピノ レアミドフエ-ル)ポルフィリンを得た。本化合物は、光、シリカゲルカラムによ る分離操作で分解してしまうので、そのまま次の反応に用 、た。
[0046] <分析結果 >
薄層クロマトグラフィー: Rf=0. 17 (CHC1: CH OH=10:l(v/v))
3 3
紫外可視吸収スペクトル( max/nm, CHC1 ): 643, 589, 544, 513, 420
3
ESI— MSスペクトル(m/z) : 1376 [M]+。
[0047] 例 5
ポルフィリンへの鉄導入反応は、例えば D. Dolphin編、 The Porphyrin, 1978年、ァ 力デミック 'プレス社等に記載の一般法により達成できる。
[0048] 三つ口フラスコに臭化水素酸水溶液(1. 62mL)を入れ、窒素を 30分間通気して、 完全に脱酸素した。素早く電解鉄 107. 8mg (l . 93mmol)をカ卩え、 80°Cまで昇温し 1時間攪拌した。電解鉄が溶解し、透明薄緑色の溶液となったら、 130°Cまで昇温し
、臭化水素酸及び水を蒸発除去した。得られた薄白色固体の FeBr へ、例 4で合成
2
した 2— (N- (8—(2—メチルイミダゾリルオタタノィル)) Lーグルタミル)メチルー 5 , 10, 15, 20 テトラキス , a , a , α—o ピバルアミドフエ-ル)ポルフィリン 50 mgと 2, 6—ルチジン 50mLの乾燥テトラヒドロフラン溶液(5mL)を窒素雰囲気下で 滴下し、 17時間沸点還流を行った。反応が終了したら、溶媒を減圧除去し、これをク ロロホルムで抽出し、溶媒を減圧除去後、残渣をクロ口ホルムに溶解させ、純水で十 分に洗浄した。脱水、溶媒除去後、得られた混合物をシリカゲルカラム (CHC1 ZCH
3 3
OH = 10Zl)で分画精製した。得られた成分を真空乾燥し、茶色固体の 2— (Ν— (8 一(2—メチルイミダゾリルオタタノィル)) t—ブトキシカルボ-ルー Lーグルタミル)メ チル— 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , α—o ピバルアミドフエ-ル)ポル フイナト鉄(III)を 22mg得た( 2—(t ブトキシカルボ-ル L グルタミル)メチル 5, 10, 15, 20 テトラキス , a , a , α—o ピバルアミドフエ-ル)ポルフィリン からの収率 37%)。
[0049] <分析結果 >
薄層クロマトグラフィー: Rf=0. 64 (CHC1: CH OH=l:l(v/v))
3 3
赤外吸収スペクトル( v /cm— : 3429(NH); 1740 (C=0 (エステル)), 1683 (C=0 (アミ ド))
紫外可視吸収スペクトル( max/nm, CHC1 ): 574.5, 417.5
3
ESI— MSスペクトル(m/z) : 1430 [M- Br]+。
[0050] 例 6
2—(N— (8—(2—メチルイミダゾリルオタタノィル)) t—ブトキシカルボ-ルー L —グノレタミノレ)メチノレ一 5, 10, 15, 20 テトラキス(a , a , a , α—o ピノくノレアミド フエ-ル)ボルフイナト鉄(III) (l lmg, 7. 7 mol)をジクロロメタン 1. 5mLに溶解し、 DCC (4. 2mg, 20 mol)を加え、室温で 30分間撹拌した。そこへ N ヒドロキシス クシンイミド(2. lmg)のジクロロメタン溶液(lmL)を添カ卩し、室温、遮光下にて 14時 間反応させた。 TLCで反応の進行を追跡し、析出物を 0°Cで濾別し、溶媒を減圧除 去した。残渣をベンゼンに溶解、 DCUを再び濾過により除去した。溶媒を減圧除去 して、 目的化合物 2— (N— (8— (2—メチルイミダゾリルオタタノィル))一スクシンイミ
ジル一 L グルタメート)メチル 5, 10, 15, 20 テトラキス(a, , a, α— o ピ バルアミドフヱ-ル)ボルフイナト鉄 (III)錯体 '臭化物を 12mg得た (収率: 100%)。こ のポルフィリンの分析結果は、以下の通りである。
[0051] 薄層クロマトグラフィー: Rf=0. 38(CHC1: MeOH=10:l)
3
赤外吸収スペクトル(v /cm— : 3428(NH); 1740 (C=0(エステル)), 1685(C=0(アミ ド))
紫外可視吸収スペクトル( max/nm, EtOH):421, 568 nm
ESI— MSスペクトル(m/z): 1527 [M— Br]+。
[0052] 例 7
例 1において 2 ヒドロキシメチノレー 5, 10, 15, 20 テトラキス(ひ, a, a, a ~o —ピバルアミドフエ-ル)ポルフィリンの代わりに 2 ヒドロキシメチル— 5, 10, 15, 20 —テトラキス(a, , a, α—o— (1—メチルシクロへキサノィル)ァミノフエ-ル)ポ ルフィリンを用い、例 3において 8—(2—メチルイミダゾリル)オクタン酸'塩酸塩の代 わりに 8 イミダゾリルオクタン酸 ·塩酸塩を用いた以外は例 1〜6と全く同様な方法に 従って、 2—(N— (8— (イミダゾリルオタタノィル))一スクシンイミジノレ一 L グルタメ ート)メチノレ一 5, 10, 15, 20 テトラキス(a, a, a, α— o—(1 メチノレシクロへ キサノィル)ァミノフエニル)ポルフィリン鉄 (III)錯体 '臭化物を定量的に合成した。
[0053] <分析結果 >
薄層クロマトグラフィー(クロ口ホルム Zメタノール: 10Z1 (容量 Z容量): Rf:0. 45 (モノスポット))
赤外吸収スペクトル (cm"1): 1741 ( V C=0 (エステル) )、 1686 ( v C=0 (アミド) ) 紫外可視吸収スペクトル(CHC1、 max: 421, 505, 581, 647, 682 nm)
3
ESI— MSスペクトル(m/z): 1688 [M— Br]+。
[0054] 例 8
例 1において 2 ヒドロキシメチノレー 5, 10, 15, 20 テトラキス(α , α , α, α ~ο —ピバルアミドフエ-ル)ポルフィリンの代わりに 2 ヒドロキシメチル— 5, 10, 15, 20 —テトラキス(α, , α, α—ο— (1—メチルペンタノィル)ァミノフエ-ル)ボルフイリ ンを用い、例 3において 8—(2—メチルイミダゾリル)オクタン酸'塩酸塩の代わりに 12
イミダゾリルドデカン酸'塩酸塩を用いた以外は例 1〜6と全く同様な方法に従って 、 2- (N— (8- (イミダゾリルドデカノィル))スクシンィミジル一 L グルタメート)メチ ルー 5, 10, 15, 20 テトラキス(a, a, a, α—o— (1 メチルシクロペンタノィル )アミノフヱニル)ポルフィリン鉄 (III)錯体 '臭化物を定量的に合成した。
[0055] <分析結果 >
薄層クロマトグラフィー(クロ口ホルム Zメタノール: 10Z1 (容量 Z容量): Rf:0. 37 (モノスポット))
赤外吸収スペクトル(cm—1): 1739 (v C=0 (エステル))、 1683 ( v C=0 (アミド) ) 紫外可視吸収スペクトル(CHC1、 λ max:420, 503, 578, 647, 685 nm)
3
ESI— MSスペクトル(m/z): 1674 [M- Br]+。
[0056] 例 9
例 1において 2 ヒドロキシメチノレー 5, 10, 15, 20 テトラキス(a, a, a, a ~o —ピバルアミドフエ-ル)ポルフィリンの代わりに 2 ヒドロキシメチル— 5, 10, 15, 20 —テトラキス(a, , a, α—o— (ァダマンタノィル)ァミノフエ-ル)ポルフィリンを、 Fmoc L グルタミン酸(t -ブチルエステル)の代わりに Fmoc L ァスパラギン 酸 (t ブチルエステル)を用いた以外は例 1〜6と全く同様な方法に従って、 2—(N 一(8—(2—メチルイミダゾリルオタタノィル))スクシンィミジル L グルタメート)メチ ルー 5, 10, 15, 20 テトラキス(a, a, a, α—o— (ァダマンタノィル)ァミノフエ- ル)ポルフィリン鉄 (III)錯体 '臭化物を定量的に合成した。
[0057] <分析結果 >
薄層クロマトグラフィー(クロ口ホルム Zメタノール: 10Z1 (容量 Z容量): Rf:0. 54 (モノスポット))
赤外吸収スペクトル (cm"1): 1740 (v C=0 (エステル))、 1685 ( v C=0 (アミド) ) 紫外可視吸収スペクトル(CHC1、 λ max:420, 503, 582, 649, 679 nm)
3
ESI— MSスペクトル(m/z): 1826 [M- Br]+。
[0058] 例 10
ί列 6で合成したポノレフィリン鉄(III)錯体-臭ィ匕物 48. 2μ
&(0.
無水トルエン溶液とし、窒素置換後、亜ニチオン酸水溶液と不均一系で約 2時間混
合攪拌し、鉄 (π)へ還元した。窒素雰囲気下、トルエン層だけを抽出、無水硫酸ナトリ ゥムで脱水乾燥後、濾別し、得られたトルエン溶液を測定セルに移し密閉した。こうし てポルフィリン鉄 (II)錯体のトルエン溶液を得た。この溶液の可視吸収スペクトルは λ max :440, 538、 557nmで、当該錯体はイミダゾールが 1つ配位した 5配位デォキ シ型に相当するものである。
[0059] この溶液に、酸素ガスを吹き込むと直ちにスペクトルが変化し、 λ max :425、 551η mのスペクトルが得られた。これは明らかに酸素化錯体になっていることを示す。この 酸素化錯体溶液に窒素ガスを 1分間吹き込むことにより、可視吸収スペクトルは酸素 化型スペクトル力ゝらデォキシ型スペクトルへ可逆的に変化し、酸素の吸脱着が可逆 的に生起することを確認した。なお、酸素を吹き込み、次に窒素を吹き込む操作を繰 り返し、酸素吸脱着を連続して行うことができた。
[0060] 例 11
例 6で合成したポルフィリン鉄(III)錯体 '臭化物 482 g (0. 3 mol)のエタノール 溶液(2. OmL)〖こ、一酸化炭素雰囲気下、ァスコルビン酸水溶液を加え、 5分間撹 拌、ヘムが直ちに還元されて一酸化炭素錯体を形成し、溶液の色はオレンジ色に変 化した。吸収スペクトル測定から、カルボ-ル錯体が形成されていることを確認後、テ フロンチューブを介して、一酸ィ匕炭素圧により、ゆっくりと組換えヒト血清アルブミン (r HSA, 0. 075 μ mol, 4. 98mg)のリン酸緩衝水溶液(pH7. 3, 30mM)中へ滴下 した(FepivP— SlZrHSA=4Zl (molZmol) )。ゆっくりと室温で 1時間攪拌、得ら れた溶液をリン酸緩衝水溶液 (PH7. 3, 30mM)に対して、 15時間透析を行い、ェ タノールを除去した。得られたポルフィリン鉄 (Π)錯体結合アルブミンは、一酸化炭素 錯体として遮光下にて冷蔵 (4°C)保存した。
[0061] 例 12
例 11で得られたポルフィリン鉄 (II)錯体結合アルブミンの分子量測定は、 Matrix-A ssisted Laser Desorption Time of Flight Mass Spectra (MALDI-TOFMS)AXIMA-CF R(KRATOS)により行った。分子イオンピークが mZz: 70, 643に現れ、ポルフィリン 鉄 (II)錯体がアミド結合でアルブミンに共有結合していることが示唆された。通常、ァ ルブミンにポルフィリン金属錯体を包接させた複合体について MALDI—TOFMS
や ESI— TOFMS測定で分子量測定すると、イオンィ匕の途中でポルフィリン金属錯 体が脱離してしまうため、アルブミン自身の質量 (mZz: 66, 500)のみが観測される 。今回の結果は、ポルフィリン金属錯体がアルブミンに共有結合して強固に固定され た結果、分子イオンピークが明確に観測されたことを示している。アルブミン 1分子当 りにはポルフィリン鉄 (II)錯体が約 3分子結合して ヽることが明らかとなつた。
[0062] 例 13
例 11で調製したポルフィリン鉄 (II)錯体結合アルブミン (一酸化炭素錯体)溶液 (4 mL)を lcm石英製分光用セルに入れ、氷水浴で冷やしながら、酸素を通気 (フロー) しながら、ハロゲンランプ(500W)を用いてポルフィリン鉄(II)錯体結合アルブミン水 溶液に光照射した(10分間)。その後、得られた水溶液の紫外可視吸収スペクトル測 定を行った。酸素錯体の形成を確認後、窒素を通気して、脱酸素を行いデォキシ体 を調製した。ポルフィリン鉄 (II)錯体結合アルブミンの窒素雰囲気下における吸収ス ベクトルは、 Fe (11) 5配位高スピン錯体型を示し、トルエン溶液中と同様に、軸塩基が 中心鉄に分子内配位したデォキシ体であることが明ら力となった。そこへ酸素を通気 すると、直ちに酸素錯体型のスペクトルへ移行し、その酸素結合は酸素分圧に応答 して可逆的に変化した。酸素錯体の半減期は 37°Cにおいて、 5時間であった。また、 一酸ィヒ炭素を通気すると安定な一酸ィヒ炭素錯体が得られた。
[0063] 以上述べたように、本発明のポルフィリン金属錯体は、テトラフエ-ルポルフィリン金 属錯体の 2位置に塩基性軸配位子として機能するイミダゾリル基と、蛋白質に共有結 合可能な活性側鎖置換基としてスクシンィミジル基を有するので、アルブミンのリジン 残基とアミド結合を形成し、安定度高い酸素錯体を形成することができる。つまり、本 発明のポルフィリン金属錯体は、酸素結合能を保持したまま、アルブミンに共有結合 により強固に結合させることができる。これを含有する新規な酸素輸液は、血中に投 与した後も、ポルフィリン金属錯体が解離することのない、実用に耐える、安定度高い 製剤として提供できる。また、本発明のポルフィリン金属錯体は前記した酸素輸液の ほか、ガス吸着剤、酸素吸脱着剤、酸化還元触媒、酸素酸化反応触媒等としても有 用なものである。