明 細 書 磁気抵抗素子 技術分野
本発明は、 磁気抵抗素子に関する。 背景技術
強磁性層 非磁性層 Z強磁性層の順に積層した構造を基本構成とする 多層膜に、 中間層である非磁性層を横切るように電流を流した場合、 磁 気抵抗効果 (MR効果) が生じることが知られている。 MR効果は、 非 磁性層を挟む双方の強磁性層の磁化方向間に生じる相対角の大きさに依 存している。 非磁性層が絶縁性材料からなる磁気抵抗素子 (MR素子) を T MR素子といい、 非磁性層が C uなどの導電性材料からなる MR素 子を GMR素子という。 GMR素子には、 電流を積層面に平行に流すタ ィプも存在する。 MR素子は、 例えば、 磁気記録媒体の磁気ヘッ ドゃ磁 気メモ (MR AM) などのデバイスに用いることができる。
現在、 磁気へッ ドゃ MR AMなどを高密度化するために MR素子の微 細化が進められており、 より大きな磁気抵抗変化率 (MR比) が得られ る MR素子や、 高出力の MR素子が求められている。 そのためには、 素 子を構成する多層膜の組成を nmオーダーで制御することが重要である 。 また、 MR素子をデバイス化する、 特に、 MRAMなどに用いる場合 、 従来の S i 半導体などとモノ リシック化することが、 コス ト、 集積度 などの観点から必要不可欠である。 ·その際、 配線欠陥の除去などの理由 から高温での熱処理が必要であり、 熱処理に耐えることができる耐熱性 に優れる MR素子が求められている。 例えば、 S i半導体の配線欠陥を
取り除くための熱処理は、 水素雰囲気下で 400°C〜 4 5 0°Cの高温が 必要とされている。
しかしながら、 従来の MR素子では 3 00°C〜 3 50°C程度の熱処理 において、 耐熱性の高い素子であっても 30 0°C〜 3 8 0°C以上の熱処 理において、 素子の磁気抵抗特性 (MR特性) が劣化する傾向がみられ る (例; Lは、 J o u r n a l o f A p p l i e d P h y s i c s 、 v o l . 8 9、 N o . 1 1、 p 6 6 6 5、 や、 日本応用磁気学会誌、 v o l . 2 5、 N o . 4— 2、 p 7 7 9 ( 200 1 ) 天野 e t . , a 1 、 および、 B本応用磁気学会第 1 1 6回研究会資料 p 1 6などに記載) 熱処理による MR特性の劣化を避ける方法として、 半導体素子形成後 に MR素子を作り込む手法などが提案されている (日本応用磁気学会第 1 1 2回研究会資料 p 4 1などに記載) 。 しかし、 この手法では、 MR 素子間の配線、 MR素子と半導体素子との間の配線、 MR素子に対して 磁界を加えるための配線などは M R素子を作製した後に形成しなければ ならない。 このため、 配線欠陥を取り除くための熱処理なしでは配線抵 杭のばらつきなどが生じ、 素子の信頼性、 安定性が劣化する可能性があ る。
あるいは、 素子の MR特性が劣化しない程度に熱処理温度を下げ、 そ の代わりに素子の出力を向上させて配線欠陥による配線のばらつきに対 応することも考えられる。 この場合、 できるだけ大きい MR比が得られ る素子が好ましい。
発明の開示
そこで、 本発明は、 耐熱性および MR特性に優れる磁気抵抗素子を提 供することを目的とする。
上記目的を達成するために、 本発明の磁気抵抗素子は、 非磁性層との 界面近傍における強磁性層の酸化状態および組成が制御されている。 即ち、 本発明の磁気抵抗素子は、 非磁性層と、 前記非磁性層の両面に 積層された一対の強磁性層とを含む多層膜構造を含み、 前記非磁性層と の界面における、 双方の前記強磁性層が有する磁化方向の相対角度によ り抵抗値が異なり、 前記強磁性層のうち少なく とも一方が、 前記非磁性 層との界面から 2 nmの範囲における組成が式 (MxOy) ^ Ζ によ り示される強磁性層である。 ただし、 Ζは、 R u、 O s、 R h、 I r、 P d、 P t、 C u、 A gおよび A uから選ばれる少なく とも 1種の元素 である。 Mは、 前記 Zおよび Oを除く元素から選ばれる少なく とも 1種 の元素であって強磁性金属を含む元素である。 また、 x、 yおよび zは 、 それぞれ以下の式を満たす数値である。
0. 3 3 < y/x < l . 3 3、 0 < x、 0 < y、 0≤ z≤ 0. 4 また、 本発明の磁気抵抗素子は、 非磁性層と、 前記非磁性層の両面に 積層された一対の強磁性層とを含む多層膜構造を含み、 前記非磁性層と の界面における、 双方の前記強磁性層が有する磁化方向の相対角度によ り抵抗値が異なり、 前記強磁性層のうち少なく とも一方が、 前記非磁性 層との界面から 6 nmの範囲における組成が式 (Mx, Oy. ) い z. Z z , により示される強磁性層であってもよい。 ただし、 Zおよび Mは上述 した Zおよび Mと同一である。 また、 x ' 、 y ' および z ' は、 それぞ れ以下の式を満たす数値である。
0 < y ' / ' < 1. 3 3、 0 < X ' 、 0 < y ' 、 0≤ z ' ≤ 0. 4 本発明の磁気抵抗素子では、 前記磁性層のうち少なく とも一方が、 前 記非磁性層との界面から 2 nmの範囲における組成が上述した式 (Mx . Oy. ) i — z . Z z . により示される強磁性層であってもよい。
このように、 非磁性層との界面近傍における強磁性層の酸化状態およ
び組成を制御することによって、 耐熱性および MR特性に優れる MR素 子とすることができる。
本発明の磁気抵抗素子では、 前記 zが、 式 z > 0を満たす数値であつ てもよい。 また、 本発明の磁気抵抗素子では、 前記 z ' が、 式 z ' 〉 0 を満たす数値であってもよい。
本発明の磁気抵抗素子では、 前記 Mが F eを含んでいてもよい。
本発明の磁気抵抗素子では、 前記 Mが、 式 F e p C o q N i rにより示 される組成であってもよい。 ただし、 p、 qおよび rは、 それぞれ以下 の式を満たす数値である。
p + q + r = l、 0. 4 7 ≤ p ≤ 1 , 0 ≤ q < 0. 4、 0≤ r < 0. 4 本発明の磁気抵抗素子では、 前記 が、 式 p > 0. 5を満たす数値で めってもよい。
本発明の磁気抵抗素子では、 前記 Mが、 式 F e a X^X^により示 される組成であってもよレヽ。 ただし、 X 1は、 C o、 N i、 M n、 T c 、 R e、 Z n、 C d、 H g、 B e、 M g、 C a、 S r、 B aおよび R a から選ばれる少なく とも 1種の元素である。 X 2は、 L i、 N a、 K:、 R b、 C sおよび F rから選ばれる少なく とも 1種の元素である。 また 、 a、 bおよび cは、 それぞれ以下の式を満たす数値である。
a + b + c = l、 0. 4 < a ≤ 1 s 0 ≤ b / a < 0. 5
0 ≤ c / a ≤ 0. 2 5、 0 ≤ ( b + 2 c ) / a < 0. 5
本発明の磁気抵抗素子では、 前記 Mが、 式 F e a X^ X ^ X S a X A e X 5 f により示される組成であってもよレ、。
ただし、 X 1および X 2は、 上述した X 1および X 2と同一である。 X 3は、 T i 、 Z r、 H f 、 V、 N b、 T a、 C r、 M o、 W、 S c、 Y 、 ランタノイ ド、 ァクチノイ ド、 A 1、 G a、 I nおよび T 1 から選ば れる少なく とも 1種の元素である。 X4は、 S i、 G e、 S n、 P b、
A s、 S bおよび B i から選ばれる少なく とも 1種の元素である。 X5 は、 B、 C、 N、 Pおよび Sから選ばれる少なく とも 1種の元素である 。 また、 a、 b、 c、 d、 eおよび f は、 それぞれ以下の式を満たす数 値である。
a + b + c + d + e + f = l、 0. 4 < a≤ 1 , 0≤ b / a < 0. 5 0≤ c / a≤ 0. 2 5、 0≤ ( b + 2 c ) / a < 0. 5
0≤ d , 0≤ e s 0≤ d + e≤ 0. 3、 0≤ f < 0. 0 8
本発明の磁気抵抗素子では、 前記 aが、 式 a > 0. 5を満たす数値で あってもよレヽ。
本発明の磁気抵抗素子では、 前記強磁性層が、 スピネル型化合物を含 んでいてもよい。 なお、 スピネル型化合物は、 非磁性層との界面から 6 n mの範囲に含まれることが好ましく、 2 n mの範囲に含まれることが より好ましい。 スピネル型化合物は、 例えば、 F eをMn、 Z n、 N i 、 L i などの遷移金属元素またはアル力リ金属元素で置換したフェライ トゃ、 マグネタイ ト (F e 3〇4) などが代表的である。
本発明の磁気抵抗素子では、 反強磁性層をさらに含んでいてもよい。 反強磁性層をさらに含むことによって、 スピンバルブ型の MR素子とす ることができる。 このため、 より MR特性に優れる MR素子とすること ができる。
本発明の磁気抵抗素子では、 前記反強磁性層が、 Mnを含んでいても よい。 より具体的には、 前記反強磁性層が、 P tMn、 P d P tMn、
1 r Mn、 F eMn、 N i Mnおよび R hMnから選ばれる少なく とも 1種の金属を含んでいてもよい。
本発明の磁気抵抗素子では、 前記反強磁性層と前記非磁性層との距離 力 S、 3 n m以上 5 0 n m以下の範囲であってもよい。
本発明の磁気抵抗素子は、 非磁性層が導電性材料からなる GMR素子
と しても、 非磁性層が絶縁性材料からなる T M R素子と しても用いるこ とができる。 '
本発明の磁気抵抗素子は、 3 0 0 °C以上の熱処理を行って得た素子で あってもよレ、。 また、 3 5 0 °C以上の熱処理を行って得た素子であって もよい。 図面の簡単な説明 ' 図 1は、 本発明の磁気抵抗素子の一例を示す模式断面図である。
図 2は、 実施例で用いた評価用の磁気抵抗素子ュ-ッ トを示す模式図 である。
図 3は、 実施例で用いた評価用の磁気抵抗素子ュニッ トの構造を示す 断面図である。
図 4は、 実施例において組成分析を行った強磁性層の領域を説明する ための断面図である。
図 5は、 本発明の磁気抵抗素子における膜構成の一例を示す模式断面 図である。 発明の実施形態 °
以下、 図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。 な お、 以下の実施の形態において、 同一の部分には同一の符号を付して重 複する説明を省略する場合がある。
まず、 本発明の M R素子について説明する。
図 1は、 本発明の M R素子の一例を示す模式断面図である。 図 1に示 す M R素子は、 非磁性層 3 と、 非磁性層 3の両面に積層された一対の強 磁性層 1および 2とを含む多層膜構造を含んでいる。 また、 非磁性層 3 と強磁性層 1 との界面 5、 および、 非磁性層 3と強磁性層 2との界面 6
から選ばれる少なく とも一方の界面において、 界面から 2 n mまたは 6 n mの範囲における強磁性層 (例えば、 図 1に示す例における界面 5に 対する組成制御部 4) の酸化状態および組成が制御されている。 このよ うな組成制御部を設けることによって、 耐熱性および MR特性に優れる MR素子とすることができる。 なお、 図 1では、 界面 5に対する組成制 御部 4しか示していないが、 界面 6に対しても同様の組成制御部を設け てもよい。 また、 本発明の MR素子では、 上記多層膜構造が複数組含ま れていてもよい。 この場合、 少なく とも 1つの組に、 上述の組成制御部 が設けられていればよい。
また、 本発明の MR素子では、 必要に応じて、 上述の非磁性層、 強磁 性層以外にさらに層を加えてもよい。 例えば、 反強磁性層を一方の強磁 性層に接するように配置したり、 一方の強磁性層を、 磁性膜/非磁性膜 磁性膜からなる積層構造 (積層フェリ構造) を含む層と したり しても よレ、。 この場合、 スピンバルブ型の MR素子とすることができる。 スピ ンバルブ型の MR素子にすると、 相対的に弱い磁場で磁化方向が変化す る強磁性層 (自由磁性層) と磁化方向が変化しにくい強磁性層 (固定磁 性層) との差が広がるため、 より特性が安定した MR素子とすることが できる。 なお、 素子をスピンバルブ型とする場合は、 固定磁性層および 自由磁性層から選ばれるいずれか一方に、 上述の組成制御部が設けられ ていればよレ、。
反強磁性層を配置することによってスピンバルブ型の MR素子とする 場合、 反強磁性層は、 例えば、 P t Mn、 P d P tMn、 I r Mn、 F eMn、 N i Mn、 R hMn、 C r Mn P t、 T b C oなどを用いれば よレ、。 また、 その膜厚は、 例えば、 5 n m〜 5 0 n mの範囲である。 積層フェリ構造に含まれる非磁性膜には、 例えば、 R u、 I r、 R h などを用いればよい。 非磁性膜の膜厚は、 例えば、 0. 4 ηπ!〜 2. 6
nmの範囲である。 また、 積層フェリ構造に含まれる磁性膜は、 例えば 、 N i 、 F e、 C oなどを含む膜であればよく、 その膜厚は、 例えば、 2 nm〜 l O nmの範囲である。
本発明の MR素子は、 GMR素子として用いても、 TMR素子と して 用いてもよい。 前者の場合、 非磁性層は導電性材料から構成され、 後者 の場合、 非磁性層は絶縁性材料から構成される。 非磁性層に用いる導電 性材料は、 例えば、 C u、 A g、 Au、 C rおよび R uから選ばれる少 なく とも 1種の元素を含む材料であればよい。 また、 非磁性層に用いる 絶縁性材料は、 例えば、 A l、 T a、 S i、 Mgおよび G eから選ばれ る少なく とも 1種の元素の、 酸化物、 窒化物、 炭化物、 酸窒化物および ホウ素化物から選ばれる少なく とも 1種の化合物を含む材料であればよ い。 なかでも、 絶縁特性に優れることから、 A 1の酸化物、 窒化物およ び酸窒化物から選ばれる少なく とも 1種の化合物を含む材料が好ましい 導電性材料を用いた場合の非磁性層の膜厚は、 例えば、 1. 5 nm〜 5. O nmの範囲である。 絶縁性材料を用いた場合の非磁性層の膜厚は 、 例えば、 0. 4 nm〜 5. O nmの範囲である。
次に、 本発明の MR素子の成膜の手法について説明する。
素子の基板には、 表面が絶縁された物、 例えば、 表面が熱酸化処理さ れた S i基板 (熱酸化膜付 S i基板) や、 石英基板、 サファイア基板な どを用いればよい。 基板の表面には、 必要に応じて、 ケモメカニカルポ リ ツシング (CMP) などの平滑化処理を行ってもよい。 また、 基板と して、 MO S トランジスターなどのスィツチ素子が形成された基板を用 いてもよい。 この場合、 例えば、 スィッチ素子の上に絶縁層を形成し、 絶縁層のうち必要な部分にコンタク トホールを形成してもよい。
素子を構成する各層の成膜には、 例えば、 スパッタ法、 分子線ェピタ
キシ一法 (MB E) 、 CVD法、 パルス レーザーデポジション法、 ィォ ンビームスパッタ法などの一般的な薄膜作製手法を用いればよい。 また 、 必要に応じて、 微細加工やエッチングを行ってもよい。 微細加工には 、 一般的な微細加工法、 例えば、 コンタク トマスクゃステツパを用いた フォ トリ ソグラフィ法、 電子線 (E B) リ ソグラフィ法、 F I B (F o c u s e d I o n B e a m) 加工法などを用いればよい。 エッチ ングには、 一般的なエッチング法、 例えば、 イオンミ リング法、 反応性 イオンエッチング (R I E) や誘導結合プラズマ ( I C P) を用いたィ オンミ リング法などを用いればよい。 平滑化を行う場合や、 成膜した膜 の不要な部分を除去するためには、 例えば、 一般的な手法である CMP や精密ラッビング法などを用いればよい。
本発明の MR素子では、 素子を成膜した後に、 素子の特性を改善する ための熱処理 (例えば、 3 00°C以上) を必要に応じて行ってもよい。 熱処理は、 例えば、 真空中、 不活性ガス中、 または、 水素中において行 えばよく、 その際、 素子に磁界を印加してもしなくてもよい。 例えば、 固定磁性層の磁化方向を固定化するために磁界中における熱処理が必要 な素子では、 まず、 磁界中における熱処理 (例えば、 2 6 0°C〜3 00 。C、 8 Χ 1 04ΑΖπ!〜 2. 4 X 1 06 A/m ( l k O e〜3 0 k O e ) ) を行った後に、 再度熱処理を行えばよい。 なお、 後述する実施例で は、 再度の熱処理が無磁界中の熱処理である場合にも、 良好な MR特性 を示す MR素子とすることができた。 また、 再度の熱処理の際に、 1回 目の熱処理 (磁界中における熱処理) で印加した磁界と同じ方向へ磁界 を印加した場合、 より安定した良好な MR特性を示す MR素子とするこ とができた。 また、 再度の熱処理が無磁界中の熱処理である場合、 さら に、 1回目の熱処理 (磁界中における熱処理) で印加した磁界と同じ方 向へ磁界を印加した熱処理を行うことによって、 より安定した良好な M
R特性を示す MR素子とすることができた。
上述したように従来の素子では、 3 0 0°C程度までの熱処理において 素子の MR特性は一定、 または改善する傾向にあるものの、 3 0 0°C以 上の熱処理によって MR特性が劣化する傾向がある。 また、 3 5 0°C程 度までの熱処理において MR特性を維持できる MR素子であっても、 3 5 0°C以上の熱処理によって MR特性が劣化する傾向にある。 これに対 して、 本発明の MR素子では、 3 0 0 °C〜 3 5 0 °C以上の熱処理を行つ た後も、 良好な MR特性を得ることができた (具体的な例は、 実施例に 後述する) 。 即ち、 本発明によって得られる効果は、 3 00°C以上の熱 処理、 なかでも、 3 5 0°C以上の熱処理を行う場合に顕著であるといえ る。 例えば、 S i半導体素子を形成するプロセス内の一部のプロセスで は、 熱処理の温度が約 400°C付近であるため、 本発明の MR素子を用 いることによって、 MR素子の成膜と S i半導体素子の形成プロセスと の組み合わせを視野に入れることも可能になる。 また、 この場合、 S i 半導体素子の形成プロセスにおける 400°C付近の熱処理 (配線欠陥の 低減や、 配線間、 配線一素子間の接触抵抗の低減が目的) と、 MR素子 の特性を改善するための 3 0 0°C以上の熱処理とを同時に行ってもよい 。 この場合、 より低コス トで MR素子と S i半導体との複合体を得るこ とができる。
また、 本発明の MR素子に 3 0 0°C〜 3 5 0°C以上の熱処理を行った 場合、 MR特性を単に維持するだけでなく、 MR特性がさらに改善する 傾向を示す素子を得ることもできた。 この原因は明らかではないが、 一 つの可能性として、 熱処理によって、 非磁性層のバリアとしての特性が 改善した可能性が考えられる。 一般に、 バリア中の欠陥がより少ない方 力 また、 バリアの高さがより高い方が MR特性はより良好になる。 従 来の MR素子では、 バリァの特性が改善することに基づく素子の MR特
性が向上する効果は 3 00°C程度で一定の値に達していたと考えられる 。 一方、 本発明の MR素子では、 3 0 0 °C以上の温度領域で、 3 0 0°C 以下の温度領域とは別の反応、 機構に基づくバリァの欠陥の低減などが 起きている可能性がある。 また、 別の可能性と しては、 熱処理によって 、 非磁性層と強磁性層との界面における化学結合状態が変化した可能性 が考えられる。 現在、 そのメカニズムは明らかではないが、 MR素子の MR特性は、 非磁性層一強磁性層界面の結合状態に敏感である可能性が ある。
あるレ、は、 さらに別の可能性として、 3 0 0°C〜 3 5 0°C以上の熱処 理によって、 非磁性層との界面付近における強磁性層が、 マグネタイ ト (F e 304) などに代表されるスピネル型化合物を含むようになった 可能性が考えられる。 例えば、 スピネル型化合物の 1種であるマグネタ イ ト (F e 304) は、 スピンの分極率が 1 0 0 %である、 いわゆるハ ーフメタルであると考えられる。 非磁性層との界面付近における強磁性 層のスピン分極率が高くなることによって、 素子の MR比の向上が期待 できる。
一般に、 スピネル型化合物 (例えば、 F e、 C oおよび N iから選ば れる少なく とも 1種を含むスピネル型化合物) は 1 20 0°C以上の高温 で生成する。 室温〜 5 00°C程度の温度領域において F e 304などが 生成するためには、 拡散距離の範囲内における酸素分圧が非常に低い ( 例えば、 1 0- i s〜- 25 p a以下 ( 1 0- 2。〜- 3。 a t m以下) ) 必要が ある。 このような非常に低い酸素分圧の状態を作り出すためには、 F e 304などを生成したい領域において、 拡散距離の範囲内が、 F e (C o、 N i ) などの金属と F e 304などのスピネル型化合物との共存状 態である、 即ち、 O/M比が 1. 3 3以下である必要がある。 仮に、 拡 散距離より長い範囲での組成を制御したとしても、 拡散距離以下での局
所的な酸素分圧の変動などによって、 へマタイ ト (F e 2〇3) などが 生成する可能性がある。 また、 素子の MR比は、 非磁性層との界面近傍 における強磁性層の状態に依存していると考えられる。 このため、 耐熱 性および MR特性に優れる MR素子とするためには、 非磁性層との界面 近傍における強磁性層の組成および酸化状態を制御すればよい。
一方、 300°C〜 3 5 0°C以上の温度領域では、 酸素分圧が低すぎる 場合、 ウスタイ ト (F e O) などが生成する可能性がある。 F e Oが生 成すると素子の MR比が劣化すると考えられるが、 非磁性層との界面か ら拡散距離内において F e Oと F e 3 O 4とが共存する状態になった場 合でも、 非磁性層との界面近傍における強磁性層に F e 304などのス ピネル型化合物が存在すれば MR比は良好であると考えられる。 このた めか、 5 00°C程度までの熱処理では、 界面近傍における O/M比が 0 . 3 3より大きい場合に、 高い MR比を得ることができた。 また、 界面 近傍における OZM比が 1. 3 3を越えた場合は、 へマタイ トが生成す るため力 MR比が劣化する結果となった。
あるいは、 またさらに別の可能性と して以下に示す可能性が考えられ る。 非磁性層には、 一般に、 A l、 T a、 S i、 Mg、 G eなどの金属 あるいは半導体と、 O、 N、 C、 Bなどとの化合物が用いられる。 これ らの金属あるいは半導体は、 Oとの化合物であるかどうかに関わらず、 Oと反応する。 このため、 界面近傍における O/M比を本発明の範囲内 に制御することにより、 バリァ内での欠陥の量が低減されるのではない かという可能性である。
本発明の MR素子では、 Mが、 F e
なる組成比であらわ され、 力 つ、
X 1力 、 C o、 N i 、 Mn、 T c、 R e、 Z n、 C d、 H g、 B e、 M g、 C a、 S r、 B aおよび R aから選ばれる少なく とも 1種の元素で
あり、
X 2が、 L i、 N a、 K:、 R b、 C sおよび F rから選ばれる少なく と も 1種の元素であり、
a、 bおよび c力 S、 a + b + c = l、 0. 4 < a ≤ 1 , 0 ≤ b / a < 0 . 5、 0≤ c / a < 0. 2 5、 0 ≤ ( b + 2 c ) / a < 0. 5で示され る関係を満たしていてもよレ、。 このような MR素子とすることによって 、 より大きい MR比を安定して得ることができた。 また、 なかでも、 F eの量を反映する値である aが 0. 5より大きい場合、 より大きい MR 比を得ることができた。
スピネル型化合物は 2価の金属イオン 1に対して、 3価の金属イオン が 2、 酸素が 4からなる。 F e 203などから F e 304などが生成する ためには、 3価のイオンの 2価への還元が必要であるため、 一般にスピ ネル型化合物の生成には低い酸素分圧、 高い温度の条件が必要である。 ここで、 C o、 N i、 M n、 T c、 R e、 Z n、 C d、 H g、 B e、 M g、 C a、 S r、 B aおよび R aなどの 2価イオンになりやすい金属や 、 L i 、 N a、 :、 R b、 C sおよび F rなどの 1価イオンになる元素 を加えた場合、 スピネル型化合物が生成する相領域が、 より低温、 高酸 素分圧側に広がると考えられる。 このため、 素子を作製する条件 (例え ば、 熱処理の温度) に対して、 MR特性に優れる素子とする条件がより 拡大すると考えられる。 なお、 上述した 2価イオンになりやすい金属や 1価イオンになる元素の比率 (b、 c ) があまりに大きすぎる場合は、 スピネル型化合物とは別の化合物が生成し、 MR特性が劣化する可能性 力 sある。
本発明の MR素子では、 Mが、 F e a X ^ X S c X S d X e X S f なる組 成比であらわされ、 かつ、
X 1は、 C o、 N i、 M n、 T c、 R e、 Z n、 C d、 H g、 B e、 M
g、 C a、 S r、 B aおよび R aから選ばれる少なく とも 1種の元素で あり、
X 2は、 L i、 N a、 K、 R b、 C sおよび F rから選ばれる少なく と も 1種の元素でおり、
X3は、 T i、 Z r、 H f 、 V、 N b、 T a、 C r、 Mo、 W、 S c、 Y、 ランタノイ ド、 ァクチノイ ド、 A l、 G a、 I nおよび T 1力、ら選 ばれる少なく とも 1種の元素であり、
X4は、 S i、 G e、 S n、 P b、 A s、 S bおよび B i から選ばれる 少なく とも 1種の元素であり、
X5は、 B、 C、 N、 Pおよび Sから選ばれる少なく とも 1種の元素で あり、
a、 b、 c、 d、 eおよび f 力 、 a + b + c + d + e + f = l、 0. 4 < a≤ 1 0≤ b / a < 0. 5、 0≤ c / a≤ 0. 2 5、 0≤ ( b + 2 c ) / a < 0. 5、 0≤ d x 0≤ e , 0≤ d + e≤ 0. 3、 0≤ f < 0 . 0 8で示される関係を満たしていてもよい。 このような MR素子とす ることによって、 MR特性を保持したまま、 軟磁気特性や、 高周波特性 などの一般的な磁気特性を改善した素子とすることができた。
T i、 Z r、 H f 、 V、 N b、 T a、 C r、 Mo、 W、 S c、 Y、 ラ ンタノイ ド、 ァクチノイ ド、 A 1、 G a、 I nおよび T 1 などは、 2価 、 3価、 あるいは 4価のイオンと して、 F eなどからなるスピネル型化 合物と固溶することによって、 素子の一般的な磁気特性を改善できると 考えられる。 なお、 これらの元素は非磁性であるため、 これらの元素の 比率 (d) があまりに大きい場合、 強磁性転移温度が低くなりすぎたり 、 非磁性層との界面近傍における強磁性層が常磁性あるいは反強磁性と なったりすることによって、 MR特性が劣化する可能性がある。
S i、 G e、 S n、 P b、 A s、 S bおよび B i などの元素や、 B、
C、 N、 Pおよび Sなどの元素は、 スピネル型化合物にわずかに固溶す るか、 粒界に析出することにより、 非磁性層との界面近傍における結晶 粒の状態を制御し、 素子の一般的な磁気特性を改善できると考えられる 。 なお、 これらの元素も非磁性であるため、 これらの元素の比率 (e、 f ) があまりに大きい場合、 MR特性が劣化する可能性がある。
本発明の MR素子では、 Zと して、 R u、 O s、 R h、 I r、 P d、 P t、 C u、 A gおよび A uから選ばれる少なく とも 1種の元素を用い た場合、 より高温の領域まで大きい MR比を得ることができ、 より耐熱 性に優れる MR素子とすることができた。 このとき、 これらの元素と酸 素との化合物生成自由エネルギーは、 これら以外の元素と酸素との化合 物生成自由エネルギーより小さいためか、 本発明において酸素との比率 を制御した元素である Mとは異なる組成比の依存性がみられた。
Zによって、 素子の耐熱性が向上した原因として以下の可能性が考え られる。 R u、 O s、 R h、 I r、 P d、 P t、 C u、 A g、 A uなど の貴金属は、 酸化 '還元触媒と しての作用を有しており、 F e 2O3→ F e 304の生成を促進したり、 F e 304→F e Oの生成を抑制したり する可能性である。 なかでも、 P t、 I r、 R hなどの酸化触媒を用い ることによって、 F e 304→F e Oの生成が抑制されるため力 3 5 0°C以上での熱処理後も安定した MR特性を保つ MR素子とすることが できた。
なお、 F e 3O4などのスピネル型化合物を生成するために、 上述し たように、 元素比率を制御したり、 拡散距離内での酸素分圧を制御した りする方法以外にも、 例えば、 エネルギーを加える方法が考えられる。 エネルギーを加える方法と しては、 例えば、 素子の成膜時や成膜後にプ ラズマ、 光、 イオンビームなどを用いる方法がある。 なかでも、 3 0 0 °C以上の熱処理を行うことによってエネルギーを加える方法が、 簡便で
あり、 かつ、 他のプロセスと同時に行うことも容易であることから、 素 子の生産性の向上に有効である。
また、 2価イオンを加えることによって、 より大きい MR比を得よう とする場合、 2価イオンとなる金属に Mnを用い、 例えば、 P tMn、 P d P t Mn、 I r Mn、 F e Mn、 N i Mn、 R hMnなどからなる 反強磁性層を素子内に配置することによって、 熱処理による反強磁性層 からの Mnの拡散を利用する方法も可能であった。 この場合、 300°C 〜4 5 0°C程度の熱処理温度において Mnの拡散量を上述した範囲内に 制御するために、 反強磁性層と非磁性層との距離を、 例えば、 3 nm〜 5 0 n mの範囲とすればよい。 M nの拡散量を調整するためには、 例え ば、 熱処理の時間を制御すればよい。
また、 実施例に後述するが、 非磁性層との界面近傍における強磁性 層の組成、 結晶粒の状態がより均一である方が、 長時間の熱処理後も、 MR特性の安定性に優れる傾向にあった。
(実施例)
以下、 実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。 なお、 本発明 は、 以下に示す実施例に限定されない。
まず、 本実施例における MR素子の評価方法について説明する。
本実施例では、 各サンプルの MR比を測定することによって MR特性 の評価を行った。 MR比の測定は、 成膜した素子を評価用の MR素子ュ ニッ トに組み込んだ後、 素子の磁気抵抗を測定 (室温、 磁界中) するこ とによって行った。 磁気抵抗の測定は、 直流四端子法を用いて行った。 測定中の磁界の強さは、 最大 4. 0 X 1 05 A/m (5 k O e ) とした 。 また、 サンプルによっては、 MR比の測定後、 無磁界中において 3 0 0 °C、 3 5 0°C、 400°Cおよび 4 5 0°Cでの熱処理を行い、 熱処理後 の MR比をさらに測定することによって、 MR特性の熱処理温度依存性
の評価 (素子の耐熱性の評価) を行った。
なお、 MR比は以下の式 ( 1 ) のように定義した。
MR比 (%) = (Rma x - Rm i J /Rm i n X 1 0 0 ( 1 ) ここで、 Rma xとは、 非磁性層を狭持する一対の強磁性層の磁化方向 が互いに反平行の場合に MR素子に生じる電気抵抗である。 Rm i nとは 、 上記一対の強磁性層の磁化方向が互いに平行の場合に MR素子に生じ る電気抵抗である。
図 2は、 本実施例で用いた評価用の MR素子ュニッ トを示す模式図で ある。 図 2に示す評価用の MR素子ュニッ トは、 MR素子 2 1を上部電 極 2 2および下部電極 2 3で狭持しており、 全体が基板 2 5上に形成さ れている。 また、 上部電極 2 2および下部電極 2 3は、 層間絶縁膜 24 により絶縁されている。 MR素子 2 1に磁界を印加しながら電極間に電 流を流すことにより、 MR素子 2 1の MR比を測定することができる。 なお、 本実施例で用いた MR素子は、 2 /_i mX 2 /x m〜 3 0 /z mX 3 O mの範囲のサイズとした。
評価用の MR素子ユニッ トの作製方法を、 図 3を用いて説明する。 図 3は、 図 2に示す評価用の MR素子ュニッ トを、 MR素子 2 1を含む断 面で見た断面図である。
まず、 基板 2 5に熱酸化膜付 S i基板を用い、 その上に R Fマグネト ロンスパッタおよび DCスパッタを用いて下部電極 2 3および MR素子 2 1を順に成膜した。 MR素子 2 1の強磁性層 2 6には、 磁界中で成膜 を行うことによって磁気異方性を与えた。 また、 非磁性層 2 7には絶縁 性材料であるアルミニウム酸化物を用いた。 非磁性層 2 7は、 最初に A 1 を成膜した後、 酸素を含む雰囲気中において A 1膜の表面に対してラ ンプ加熱 (〜 20 0°C程度) を行い、 アルミニゥム酸化物 (A 1 — O : 組成比は特に限定されない) の膜と した。 その後、 フォ トリ ソグラフィ
法によるパターユングおよびイオンミ リングによるエッチングによって
、 MR素子 2 1を所定のサイズ、 形状に微細加工した。 最後に、 上部電 極 2 2と して C uを、 層間絶縁膜 24として S i 02を成膜して、 評価 用の MR素子ュニッ トを作製した。
また、 本実施例のすべてのサンプルに対し、 上述の MR比の測定後、 非磁性層との界面の近傍における強磁性層の深さ方向の組成を分析した 。 組成の分析は、 透過型電子顕微鏡 (T EM) 、 オージ 光電子分光 ( AE S) 、 X線光電子分光 (X P S) などの手法を用いて行った。 また 、 ミ リングをしながら強磁性層の深さ方向に二次イオン質量分光 (S I MS) を行う手法などを併用した。 非磁性層の下部となる基板側の強磁 性層の組成の分析は、 非磁性層までで成膜を一時停止したモデル膜に対 して他のサンプルと同様の熱処理を行った後、 非磁性層のみをミ リング によって除去することによって強磁性層を露出させて行った。
強磁性層の組成の分析は、 非磁性層との界面から 2 n mごとに設定し た各領域について行った。 図 4に、 組成の分析を行った領域の設定を示 す。 図 4に示すように、 非磁性層 2 7に接する強磁性層 2 6に対して、 非磁性層 2 7との界面から 2 nmごとに領域 D 3 1、 領域 C 3 0、 領域 B 2 9および領域 A 2 8を設定した。 また、 同様に、 領域 E 3.2、 領域 F 3 3、 領域 G 34および領域 H 3 5を設定した。 領域 A〜領域 Hにお いて、 領域 H側を基板側と した。 即ち、 界面から 2 nmの範囲の組成は 、 領域 Dおよび または領域 Eの組成に相当し、 界面から 6 nmの範囲 の組成は、 領域 B〜 Dの平均組成および Zまたは領域 E〜 Gの平均組成 に相当する。
なお、 本明細書において特に記載がない限り、 「界面」 とは、 非磁性 層と強磁性層との界面を、 また、 「0/M比」 とは、 強磁性層における 酸素と元素 Mとの組成比を意味するものとする。 また、 本実施例におい
て、 材料を 「A 1 — 0」 のようにハイフンを用いて表示する場合は、 そ の材料を構成する元素の組成比は、 特に限定されない。
(実施例 1 )
上述した方法を用い、 表 1に示す膜構成の MR素子 (サンプル N o . l〜N o . 8 ) を準備した。 サンプル N o . 1は従来例である。 なお、 表 1における各層の括弧内の数値は、 各層の膜厚を示している。 単位は n mであり、 以下同様にして膜厚を表示する。 なお、 非磁性層である A 1 一 O層の膜厚は、 酸化処理を行う前の A 1 の膜厚値を示している。 以 降の実施例においても同様である。
(表 1 )
*サンプル No. 1は従来例
各サンプルとも、 基板には熱酸化膜付 S i基板を、 下部電極には T a ( 3 ) /C u ( 5 0 ) /T a ( 3 ) からなる積層体を用いた。 下部電極 の上に、 表 1に示す膜構成の左側、 即ち、 反強磁性層から順に各層を積 層し、 MR素子を作製した。 また、 各サンプルとも、 下部電極と強磁性 層との間に I r —Mnからなる反強磁性層を積層し、 非磁性層を挟んで 基板側の強磁性層が固定磁性層、 もう一方の強磁性層が自由磁性層であ るスピンバルブ型の MR素子と した。
非磁性層と接する F e 一 O層の成膜は、 その場 ( i n s i t u ) 酸
化法を用い、 酸化の強度を変化させて行った。 これにより、 界面近傍に おける F e _0層の酸化状態を制御した。 より具体的には、 例えば、 膜 厚が 0. 5 n m〜 2 n mの範囲の強磁性層 (実施例 1では、 F eからな る層) を成膜した後に、 室温〜 200°C、 1 3. 3 P a〜 5 3 k P a ( 1 00mT o r r〜400 T o r r ) の純酸素雰囲気中に置く ことによ つて、 強磁性層を酸化すればよい。 その際、 温度を高くする、 あるいは 、 酸素圧を高くすることによって、 強磁性層の酸化強度を大きくするこ とができた。 なお、 この方法では、 必要に応じて、 成膜一酸化のステツ プを繰り返すことで、 強磁性層の厚み方向の酸化状態に勾配を与えるこ とも可能であった。 また、 非磁性層の下部の強磁性層に対しては、 強磁 性層を強磁性層の酸化を完全に妨げない程度のごく薄い (例えば、 0. 5 nm以下) A 1層で被覆した後に、 上述したその場酸化法を行うこと によって、 A 1層の存在により、 通常より弱く酸化させることが可能で あった。
表 1に示す N o . 2〜N o . 8の各サンプノレでは、 このような方法を 用い、 酸化強度を変化させて F e— O層の成膜を行った。 なお、 以降の 実施例における F e— O層などの酸素を含む層 (非磁性層を除く) の成 膜方法についても、 特に記載のない限り、 同様の方法を用いた。
実施例 1では、 各サンプルの作製後、 熱処理を行わずに MR比を測定 した。 各サンプルの MR比および組成分析の測定結果を表 2— 1および 表 2— 2に示す。 なお、 表 2— 1中の 「一」 は、 未測定であることを意 味している。
(表 2— 1
*サンプル No. 1は従来例
(表 2— 2)
*サンプル No. 1は従来例
表 2— 1および表 2— 2に示すように、 界面から 2 nmの範囲 (領域 Dおよび領域 E) および界面から 6 n mの範囲 (領域 B〜領域 Dおよび 領域 E〜領域 G) における O/M比が 0より大きく 1. 3 3未満である N o . 2〜N o . 6の各サンプルで、 OZM比が 0である N o . 1に対 して MR比が向上した。 なかでも、 界面から 2 nmの範囲 (領域 Dおよ び領域 E) における O/M比が 0. 3 3より大きく 1. 3 3未満である
N o . 3〜N o . 6の各サンプルで、 特に大きい MR比が得られた。 一 方、 界面から 6 nmおよび 2 nmの範囲における OZM比が 1. 3 3を 超えるサンプル (N o . 7および N o . 8) では、 MR比が急速に低下 する結果となった。
また、 F e— O層において、 F eの代わりに、 式 F e p C o qN i r ( p + q + r = l、 0. 4 7≤ p≤ 1 , 0≤ q < 0. 4および 0≤ r < 0 . 4) で示される組成の合金を用いた場合にも、 同様の結果が得られた 。 このとき、 pが 0. 5より大きい場合に、 特に大きい MR比が得られ た。
C o _F e層として、 上述した組成の他に、 F e。. 5。C o。. 5。およ び F e。. 7 5 C o 0. 25など、 その他、 F e。. 5。N i 。. 5。および F e 0 . 50C o 0. 25N i o . 25などを用いた場合についても同様の結果が得ら れた。
また、 非磁性層と して、 反応性蒸着やプラズマ反応、 あるいは自然酸 ィ匕、 自然窒化などにより作製した A 1 2O 3、 A 1 N、 T a O、 T a N などを用いた場合にも、 同様の結果が得られた。
その他、 図 5 ( a ) 〜図 5 (h) に示すような、 非磁性層 4 1を複数 含む素子や反強磁性層 4 3を複数含む素子、 あるいは非磁性膜 44を介 して一対の強磁性層 4 2を積層した構造 (積層フェリ構造) を含む素子 などにおいても、 非磁性層 4 1に接する強磁性層 4 2の界面近傍の領域 に対して上述の範囲の 0//M比を設定することによって、 同様の結果が 得られた。 なお、 図 5 ( c ) 、 図 5 ( d ) および図 5 (h) に示すよう な非磁性層 4 1を複数含む素子の場合、 非磁性層 4 1に接する強磁性層 4 2のうち、 少なく とも 1つの強磁性層の界面近傍の領域に対して上述 の範囲の OZM比を設定することによって、 同様の結果を得ることがで きた。
なお、 界面近傍における強磁性層の酸化状態の制御には、 プラズマ酸 化法やイオンビーム酸化法を用いることも可能であった。 ただし、 一般 的に用いられるプラズマ酸化の条件では酸化強度が強すぎるため、 界面 近傍における強磁性層の酸化状態を上述の範囲の OZM比に制御するこ とは困難であった。 このため、 強磁性層をプラズマやイオンビームに直 接曝さない方法をとる (例えば、 シールドなどを併用し、 そのシールド を回り込む酸素イオンによって強磁性層の酸化を行う、 あるいは、 強磁 性層をイオンビームからオファクシスした位置に配置して酸化を行うな ど) ことによって、 界面近傍における強磁性層の酸化状態を上述の範囲 の O/M比に制御することができた。 その他、 通常のプラズマ酸化の条 件より も酸素濃度を非常に低濃度にし、 ごく短時間の暴露 (例えば、 6 0秒以下) とすることによつても、 界面近傍における強磁性層の酸化状 態を上述の範囲の OZM比に制御することができた。
(実施例 2)
実施例 1 と同様の方法を用い、 表 3に示す膜構成の MR素子 (サンプ ノレ N o . 9〜N o. 1 8) を準備した。 サンプル N o. 9は従来例であ る。
(表 3)
*サンプル No. 9は従来例
各サンプルとも、 基板には熱酸化膜付 S i基板を、 下部電極には T a (3) /C u ( 5 0) /T a ( 3) からなる積層体を用いた。 下部電極 の上に、 表 3に示す膜構成の左側から順に各層を積層し、 MR素子を作 製した。 下部電極と強磁性層との間に、 P t— C oからなる反強磁性層 を積層させ、 スピンバルブ型の MR素子とした。
なお、 表 3では、 サンプル N o . 1 2に示すように F e— O層が複数 含まれる場合は、 それぞれの F e _0層において酸化状態が異なってい ることを意味している。
N o . 9〜N o . 1 8の各サンプルは、 成膜した後、 無磁界中におい て 3 0 0°C、 3 5 0°C、 400°Cおよび 4 5 0°Cの熱処理を 3 0分行い 、 その後室温に戻して MR比を測定した。
各サンプルの MR比および組成分析の測定結果を表 4に示す。 なお、 組成分析は、 非磁性層を狭持する一対の強磁性層の一方 (基板側の強磁 性層 :領域 E〜領域 H) についてのみ行った。
(表 4 )
表 4に示すように、 同じ熱処理温度では、 界面から 2 nmおよび 6 n mの範囲における OZM比が 0である N o . 9に対して、 界面から 2 η mおよび 6 n mの範囲における O/M比が 0より大きく 1. 3 3未満の 場合に MR比が上昇した。 なかでも、 界面から 2 n mの範囲における O ZM比が 0. 3 3より大きく 1. 33未満の場合に、 特に大きい MR比 が得られた。 界面から 6 n mの範囲における OZM比が 0より大きく 1 . 33未満の場合であっても、 界面から 2 nmの範囲における OZM比 が 1. 33以上になると (例えば、 N o . 1 1 _熱処理温度 300°Cな ど) 、 従来例に比べて MR比が低下した。
次に、 界面から 6 nmの範囲における OZM比が 1. 3 3以上である 場合を見てみると、 界面から 2 nmの範囲における O/M比が 0. 3 3 より大きく 1. 3 3未満の場合に MR比が大きく向上した (例えば、 N o . 1 5—熱処理温度 300°C、 N o . 1 8—熱処理温度 300°C〜 4 00°Cなど) 。 一方、 N o. 1 8—熱処理温度 450°Cでは、 界面から 2 nmの範囲における OZM比が 1. 3 3以上となり、 極端に MR比が 低下した。
これらの結果を整理すると、 界面から 2 nmおよび 6 nmの範囲にお ける OZM比が 0より大きく 1. 3 3未満である力 \ 界面から 2 nmの 範囲における OZM比が 0. 3 3より大きく 1. 3 3未満であれば、 高 い MR比を示す MR素子とすることができる。 特に、 界面から 2 nmの 範囲における OZM比の制御の効果が著しい。
なお、 界面から 6 nmの範囲における O/M比が 1. 33以上で、 か つ、 界面から 2 n mの範囲における O/M比が 0より大きく 0. 3 3以 下の場合についても、 大きい MR比が期待できる可能性があるが、 今回 、 そのような条件を満たすサンプルは作製できなかった。
各サンプルの熱処理温度依存性を比較すると、 N o. 9など従来のサ
ンプルでは熱処理温度が 3 00°C以上、 特に 3 5 0°Cを越えた場合の M R比の低下が大きい。 また、 サンプル N o . 9に限らず、 従来の MR素 子では、 一般に、 熱処理温度が 3 00°C以上になると MR比の劣化が始 まっており、 耐熱性のあるものでも 3 5 0°C以上の熱処理を行った場合 MR比が劣化する傾向がある。
これに対し、 本発明の MR素子では MR比の低下が少なく、 むしろ向 上する場合もあり、 3 00°C以上、 特に 3 5 0°C以上の熱処理に対して 優れた耐熱性を示すといえる。 このように、 本発明の MR素子は、 S i 半導体プロセスなどで通常行われる 4 00°C近傍の熱処理に対して、 よ り安定性の高い MR素子とすることができる。 また、 S i半導体プロセ スとの組み合わせを視野に入れることができ、 コス トなどの点からも効 果的である。
本発明の MR素子に 30 0°C〜 3 5 0°C以上の熱処理を行った場合、 単に MR比が維持されるのみならず、 しばしばさらに向上する傾向を示 す。 この原因は明らかではないが、 次のような可能性が考えられる。
1. 界面近傍での強磁性層の酸化状態および組成を制御することによ つて、 非磁性層の欠陥の量が減少するなどの理由により、 非磁性層のバ リアと しての特性が改善した可能性。
一般に、 非磁性層の欠陥の量が少ない方が MR特性は良好となる。 ま た非磁性層に絶縁性材料を用いた場合、 トンネル絶縁層としてのバリア の高さが高い方が MR特性は良好となる。 従来の MR素子では、 このよ うなバリァの特性の改善による MR特性の向上効果は、 熱処理温度が例 えば 3 00°C程度で一定値に達していたと考えられる。 これに対して、 本発明の MR素子では、 熱処理温度が例えば 3 00°C以上においても、 3 00 °C以下とはまた別の反応、 機構によって非磁性層の構造欠陥の低 減が起きている可能性がある。
例えば、 非磁性層に絶縁性材料を用いた場合、 絶縁性材料には、 一般 に、 八 し 丁 &、 3 1 §、 06などの金属 (あるいは半導体) と、 0、 N、 C、 Bなどとの化合物が用いられる。 このような金属 (半導体 ) は、 Oとの化合物であるかどうかに関わらず、 Oと反応しやすい。 こ のため、 界面近傍における強磁性層の酸化状態を制御することによって 、 非磁性層の構造欠陥が低減される機構などが考えられる。
2. 界面近傍における強磁性層の酸化状態および組成を制御すること によって、 界面における化学結合状態が変化した可能性。
メカニズムは明らかではないが、 素子の MR特性は、 非磁性層と強磁 性層との界面の結合状態に大きな影響を受けている可能性がある。
3. 界面近傍における強磁性層の酸化状態および組成を制御すること によって、 界面近傍の強磁性層 (例えば、 図 1における組成制御部 4) 力 マグネタイ ト F e 304に代表されるスピネル型化合物を含む可能 性。
スピネル型化合物はスピンの分極率が 1 00 %である、 いわゆるハー フメタルであることが予想されている。 このため、 界面近傍にスピネル 型化合物が存在する場合、 強磁性層のスピン分極率が高くなり、 MR比 などの MR特性の向上が期待される。
スピネル型の F e (および Zまたは C o、 および/または N i ) 化合 物は通常 1 20 0°C以上の高温で生成する。 室温から 5 00°C付近まで の熱処理温度領域において、 スピネル型化合物である F e 304などが 界面近傍に生成するためには、 界面から熱処理温度 · 時間における酸素 原子の拡散距離内に含まれる酸素の分圧が非常に低い (例えば、 1 0一 1 5~ 1 0— 25 P a以下) 必要がある。
このように非常に低い酸素分圧の状態を作り出すには、 拡散距離内の 強磁性層の酸化状態が、 F e (および/または C o、 および/または N
i ) 金属単体と F e 304などスピネル型化合物との共存状態である必 要がある。 F e 304の O/M比が 1. 3 3であるため、 強磁性層の O ZM比が 1. 3 3未満であれば、 このような低酸素分圧の状態を満たし ていることになる。 なお、 酸素原子の平均拡散距離から考えれば、 界面 から約 6 n mの範囲における強磁性層の OZM比が 1. 3 3未満であれ ばよいことになる。 なお、 拡散距離以上の範囲の酸化状態を制御しても 、 局所的な酸素分圧の変動により、 MR特性の低下の原因となるへマタ イ ト (F e 2O3) などが生成する可能性がある。
また、 MR特性は、 強磁性層のなかでも非磁性層との界面により近い 部分に特に強く依存していると考えられるため、 界面のごく直近である 、 界面から約 2 nmの範囲における酸化状態の制御がより大きな影響力 を持つと推定される。 実施例 2で得られた結果は、 このような現象を反 映している可能性がある。
また、 界面から 2 n mの範囲における O/M比 0. 3 3という下限値 は、 強磁性層の界面直近の領域にスピネル型化合物が存在していること を示唆していると考えられる。 O/M比が 0に近くなると、 過度に酸素 分圧が低くなることで、 MR特性を劣化させると考えられるウスタイ ト (F e O) が部分的に生成する可能性があるからである。
(実施例 3)
実施例 1および 2と同様の方法を用い、 表 5および表 6に示す膜構成 の MR素子 (サンプル N o . 1 9〜N O . 4 4 ) を準備した。 なお、 サ ンプル N o . 1 9は従来例である。
(表 5 )
*サンプル No. 1 9は従来例
(表 6 )
サンプル
反強磁性層 強磁性層 非磁性層 強磁性層
No.
33 Fe-Mn(15) Fe-Li(6) Al-0(1 ) Fe-Li(6)
34 Fe-Mn(15) Fe - Li— 0(6) Al - 0(1 ) Fe-ϋ - 0(6)
35 Fe-Mn(15) Fe— Li— 0(6) Al- 0(1) Fe-Li - 0(6)
36 Fe-Mn(15) Fe - Li— 0(6) Al-0(1 ) Fe— Li— 0(6)
37 Fe- Mn(15) Fe— Li— 0(6) Al- 0(1 ) Fe-Li-0(6)
38 Fe-Mn(15) Fe— Li- 0(6) Al- 0(1) Fe- Li- 0(6)
39 Fe-Mn(15) Fe— Li— 0(6) Al-0(1 ) Fe - Li— 0(6)
40 Fe-Mn(15) Fe - Mn— Li(6) Al-0(1 ) Fe-Mn-Li(6)
41 Fe-Mn(15) Fe-Mn-Li-0(6) Al- 0(1) Fe-Mn- Li-0(6)
42 Fe-Mn(15) Fe—Mn- Li— 0(6) Al-0(1 ) Fe-Mn - Li— 0(6)
43 Fe-Mn(15) Fe-Mn-Li- 0(6) Al-0(1 ) Fe-Mn-U- 0(6)
44 Fe-Mn(15) Fe-Mn- Li- 0(6) Al-0(1 ) Fe-Mn-Li-0(6)
各サンプルとも、 基板には熱酸化膜付 S i基板を、 下部電極には T a (3) /C u ( 5 0) /T a ( 3) からなる積層体を用いた。 下部電極 の上に、 表 5および表 6に示す膜構成の左側から順に各層を配置し、 M R素子を作製した。 下部電極と強磁性層との間に、 F e— Mnからなる 反強磁性層を積層させ、 スピンバルブ型の MR素子とした。
非磁性層と接する強磁性層の成膜には、 成膜と同時に酸素を添加する 反応性成膜法を用いた。 この方法により、 界面近傍における強磁性層の 酸化状態を制御した。 添加する酸素の分圧は、 1. 3 X 1 0_3 P a〜 1. 3 P a ( 1 0— 5T o r r〜 1 0— 2T o r r ) の範囲で変化させ、 通常の反応性スパッタ法を用いた場合よりも、 弱い酸化状態の成膜を行 うことができた。
N o . 1 9〜N o . 44の各サンプルは、 成膜後、 6. 7 X 1 0— 5 P a (5. 0 X 1 0— 7T o r r ) 以下の真空中において、 8. 0 X 1 06 A/m ( l O k O e ) の磁場を印加しながら熱処理 (2 6 0°C、 2 時間) を行い、 強磁性層に磁気異方性を付加した。
各サンプルの MR比および組成分析の測定結果を表 7— 1、 表 7 _ 2 、 表 8 _ 1および表 8— 2に示す。 なお、 表 7— 1および表 8— 1にお ける 「一」 は、 組成分析を行わなかったことを意味している。 また、 実 施例 3では、 各サンプルの作製後、 熱処理をせずに、 室温で MR比を測 定した。
(表 7— 1 )
表 8— 2)
表 7— 1〜表 8— 2に示すように、 F e単体に Mnを添加するだけで は、 得られる MR比が著しく低下することがわかる (サンプル N o . 2
0) 。 これに対して、 実施例 1や実施例 2などに上述した範囲の O/M 比を満たしながら F e _0に Mnを添加した場合、 Mn/F e比が 0以 上 0. 5未満の範囲において、 素子の MR比が向上した (サンプル N o . 2 1〜N o . 2 5) 。
また、 サンプノレ N o . 2 6〜N o . 3 1、 サンプノレ N o. 3 3〜N o . 3 9およびサンプル N o. 40〜N o . 44において得られた MR比 を比較すると、 F e— Oに対して、 実施例 1や実施例 2などに上述した 範囲の〇ZM比を満たしながら、 L i、 Mn、 C oなどの金属を添加し た場合、 (C o +Mn) /F e比が 0以上 0. 5未満の範囲、 L i /F e比が 0以上 0. 2 5以下の範囲、 (Mn + L i X 2) /F e比が 0以 上 0. 5未満の範囲において、 MR比が向上した。
ここで、 L i、 Mn、 C oなどの F eに添加した金属を Dと して、 金 属 Dと酸素との組成比 O/Dに着目する。 金属 Dが C oや Mnなどの場 合には、 組成比 O/Dが 2. 5以上の場合に MR比が向上した。 また、 金属 Dが L i など 1価イオンとなる金属の場合には、 組成比 O/Dが 5 以上で MR比が向上した。
また、 サンプル N o . 3 2の結果によれば、 このような組成の制御を 界面から 2 n mの範囲についてのみ行った場合にも、 MR比向上の効果 が得られることがわかった。
その他、 F eの量に着目すると、 表 7— 1〜表 8— 2に示す組成比で 0. 4より大きければ MR比は向上し、 0. 5より大きい場合に特に高 い MR比が得られることがわかった。
また、 M nや C oの代わりに、 N i、 T c、 R e、 Z n、 C d、 H g 、 B e、 Mg、 C a、 S r、 B aおよび R aから選ばれる少なく とも 1 種の元素を用いた場合にも同様の結果を得ることができた。 また、 L i の代わりに、 N a、 K、 R b、 C sおよび F rから選ばれる少なく とも
1種の元素を用いた場合にも同様の結果を得ることができた。
従来、 界面近傍に Mnなどの不純物とされる元素が存在する場合、 素 子の MR特性は劣化すると考えられてきた。 しカゝし、 本発明のように、 界面近傍における強磁性層の酸化状態の制御を行った場合は、 M nなど の存在により MR特性を逆に向上できることがわかる。
このよ うな現象が起きる原因と して、 以下の可能性が考えられる。 MR特性向上の要因の一つと考えられるスピネル型化合物は、 2価の 金属イオン数 1に対して、 3価の金属イオン数 2、 酸素原子数 4からな る。 F e 2〇3などから、 スピネル型化合物である F e 304などが生成 するためには、 3価イオンが 2価に還元されることが必要となる。 この ため、 一般に、 上述したような低い酸素分圧と 1 200°C程度の高温と が必要とされる。 しかし、 Mn、 C oなどの 2価イオンになりやすい金 属ゃ、 L i などの 1価イオンとなる金属を加えた場合、 スピネル型化合 物が生成する相領域がより低温域、 高酸素分圧域に広がる、 即ち、 高い MR比が得られる安定領域が増加する可能性がある。
また、 本実施例の MR素子に対して、 以下に示す元素をさらに加えて もよく、 この場合、 優れた MR特性を保持したまま、 軟磁気特性や高周 波特性などの一般的な磁気特性を改善することができた。
T i、 Z r、 H f 、 V、 N b、 T a、 C r、 Mo、 W、 S c、 Y、 ラ ンタノイ ド、 ァクチノイ ド、 A 1、 G a、 I nおよび T 1から選ばれる 少なく とも 1種の元素を、 表 7— 1〜表 8— 2に示す組成比で 0. 3以 下の量加えた場合、 MR特性を保ったまま素子の一般的な磁気特性を改 善することができた。 これらの元素は、 2価、 3価または 4価のイオン と して F e 304などのスピネル型化合物と固溶することによって、 素 子の磁気特性を調整している可能性がある。
S i、 G e、 S n、 P b、 A s、 S bおよび B i力 ら選ばれる少なく
とも 1種の元素を、 表 7— 1〜表 8— 2に示す組成比で 0. 3以下の量 加えた場合、 また、 B、 C、 N、 Pおよび Sから選ばれる少なく とも 1 種の元素を、 同様の組成比で 0. 0 8未満の量加えた場合にも、 MR特 性を保ったまま素子の一般的な磁気特性を改善することができた。 これ らの元素は、 スピネル型化合物にわずかに固溶したり、 結晶粒界に析出 したりすることによって、 結晶粒の状態を制御し、 素子の磁気特性を改 善している可能性がある。
これらの元素を加えた場合の F eの量に着目すると、 表 7 _ 1〜表 8 — 2に示す組成比で 0. 4より大きければ MR比は向上し、 0. 5より 大きい場合に特に高い MR比が得られることがわかった。
なお、 上述した反応性成膜法や、 実施例 1で述べたその場酸化法など を用いた場合、 強磁性層の成膜時や成膜直後に、 水銀ランプやレーザー を用いて界面近傍における強磁性層の熱処理 (フラッシュアニールなど ) を行うことによって、 成膜直後から MR特性に優れた MR素子を得る ことも可能であった。 エネルギーを与えることで、 スピネル型化合物が 生成した可能性が考えられる。 その他、 光、 プラズマ、 イオンビームな どでエネルギーを付与する方法も考えられるが、 熱処理などの熱を加え る方法が簡便である。
(実施例 4)
実施例 1〜 3と同様の方法を用い、 表 9一 1および表 9— 2に示す膜 構成の MR素子 (サンプル N o . 4 5〜N o . 5 5) を準備した。
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層、 強磁性層の順に) 各層を配置し、 MR素子を作製した。 下部電極と 強磁性層との間に、 P t _Mnからなる反強磁性層を積層させ、 スピン バルブ型の MR素子と した。 また、 固定磁性層となる強磁性層は、 積層 フェリ構造 (C o _ F e ( 3 ) /R u (0. 8 ) /C o - F e ( 1 ) ) を含んでいる。 なお、 本実施例の各サンプルには、 実施例 3と同様の方 法を用い、 強磁性層に磁気異方性を付加した。
実施例 4では、 N o . 4 5〜N o . 5 0の各サンプルは、 3 0 0°C、 3時間の熱処理後に MR比を測定した。 N o . 5 1〜N o . 5 5の各サ ンプルは、 熱処理前と、 3 0 0°C、 3 5 0°C、 4 0 0°Cおよび 4 5 0°C の熱処理を 1時間行った後に MR比を測定した。
N o . 4 5 ~N o . 5 0の各サンプルの MR比および組成分析の測定 結果を表 1 0— 1および表 1 0— 2に、 N o . 5 1〜N o . 5 5の各サ ンプルの MR比および組成分析の測定結果を表 1 1 一 1、 表 1 1 — 2お よび表 1 1 _ 3に示す。
(表 1 0 _ 1 )
*各サンプルとも 300°Cの熱処理後に MR比を測定
(表 0 - 2 )
*各サンプルとも 300°Cの熱処理後に MR比を測定
(表 1 1 — 1 )
表 1 0— 1および表 1 0— 2に示すように、 界面近傍における強磁性 層の酸化状態を実施例 1や実施例 2などに上述した範囲の O M比に制 御した上で、 さらに、 表 1 0— 1および表 1 0— 2に示す組成比にして 全体の 40%以下の範囲で P tを添加した場合、 素子の MR比がより向
上した。
また、 表 1 1一 1〜表 1 1— 3に示すように、 界面近傍における強磁 性層の酸化状態を実施例 1や実施例 2などに上述した範囲の O/M比に 制御しながら C o、 Mn、 N i などを実施例 3などで示した範囲内で加 え、 さらに、 P t、 P dなどを表 1 1一 1〜表 1 1— 3に示す組成比に して全体の 40 %以下の範囲で加えた場合、 表 4に示す従来例 (サンプ ル N o . 9) などと比べても、 3 5 0°C以上の熱処理を実施した後にお ける MR比が非常に向上した。
また、 サンプル N o . 5 2〜N o . 5 4に示すように、 非磁性層を狭 持する一方の強磁性層についてのみ酸化状態および組成の制御を行つた 場合も、 MR比は向上した。
なお、 表 1 0— 1〜表 1 1— 3に示す P tおよび P dの他に、 I r、 R h、 O s、 R u、 C u、 A gおよび A uから選ばれる少なく とも 1種 の元素を用いた場合にも同様の結果を得ることができた。 また、 (P t 、 P d) 、 (P t、 C u) などの組み合わせを 1 : 1の割合で添加した 場合、 また、 ( I r、 P d、 R h) 、 (R u、 O s、 I r ) 、 (R h、 I r、 P t ) 、 (P d、 P t、 C u) 、 (C u、 A g、 Au) 、 (R u 、 R h、 P d) 、 ( I r、 P t、 C u) などの組み合わせを 1 : 1 : 1 、 2 : 1 : 1および 3 : 2 : 1などの割合で添加した場合についても、 同様の結果を得ることができた。
P t、 P dなど、 これらの元素群が、 強磁性層を構成するその他の元 素群のように、 酸化状態の制御の対象に含まれない (即ち、 O/M比に おける元素 Mに含まれない) 理由と しては、 酸素との化合物生成自由ェ ネルギ一がその他の元素群より低いことなどが考えられる。
また、 得られた MR素子の耐熱性が向上した原因として、 これらの元 素群には酸化 ·還元触媒の効果があり、 F e 203→F e 304などのス
ピネル型化合物を生成する反応が促進されたり、 F e 304→F e 0な どのスピネル型化合物を分解する反応が抑制されたり している可能†生が ある。 これらの元素群のなかでも、 特に、 P t、 I r、 R hなどの酸化 触媒を加えた場合、 F e 304→F e Oの反応が抑制される可能性があ り、 実際、 3 5 0°C以上の温度領域における MR素子の耐熱性の向上に 顕著な効果が得られた。 なお、 同様の酸化 ·還元触媒の効果が得られる 元素であれば、 上記した元素以外の元素においても同様の効果が得られ る可能性がある。 '
(実施例 5)
実施例 3や実施例 4において示したように、 Mnを特定の範囲内で加 えることによって、 大きい MR比が安定して得られる素子とすることが できる。 Mnを加える方法としては、 例えば、 熱処理を行うことによつ て、 Mnを含む反強磁性層 (例えば、 P t— Mn、 P d—P t— Mn、 I r -Mn s F e— Mn、 N i — Mnおよび R h _Mnなど) 力、ら強磁 性層の界面近傍にまで Mnを拡散させる方法が考えられる。 しかし、 こ の方法では、 Mnが必要以上に拡散し、 界面近傍における強磁性層の組 成が上述した範囲からずれることによって、 M R特性が劣化する可能性 がある。 また、 Mnが必要以上に拡散した場合、 界面近傍における強磁 性層の磁気特性の劣化や非磁性層内の構造欠陥の増加などが引き起こさ れる可能性がある。
そこで、 実施例 5と して、 表 1 2に示す膜構成のサンプル N o . 5 6 を準備し、 Mnを含む反強磁性層と界面との距離を変えて、 強磁性層の 界面近傍への Mnの添加と組成制御を試みた。 反強磁性層と界面との距 離 tは、 強磁性層に含まれる C o - F e層の膜厚 t を変化させること により制御した。 なお、 実施例 5では、 距離 tを、 2、 3、 5、 1 0、 2 0、 3 0、 40、 5 0、 60および 7 0 nmに設定した 1 0種類のサ
準備した t
(表 1 2)
実施例 1〜4と同様に、 各サンプルとも、 基板には熱酸化膜付 S i基 板を、 下部電極には T a (3) /C u ( 5 0) /T a (3) からなる積 層体を用いた。 また、 各サンプルに対して、 実施例 3および 4と同様の 方法によって、 強磁性層に磁気異方性を付加した。
サンプル N o . 5 6の MR比および組成分析の測定結果を表 1 3— 1 、 表 1 3— 2、 表 1 3— 3、 表 1 4一 1、 表 1 4一 2および表 1 4— 3 に示す。 なお、 表 1 3— 3中における P t _Mnと表記している領域は 、 反強磁性層の組成と同じ組成を有する領域である。
(表 1 3 — 1 )
サン 距離 熱処理 組成
プル t '皿 'ス
、r,mノ \ レノ 領域 E 領域 F
なιし (Fe0.77COo.230o.77)o.9^0.1
300 ^eO.77^°0.23^0.77)0.9^^0.1 Coo.495Fe0495Mn001 JO 350 ( βο.758。Οο 227ΜΠο,οΐ5θθ 76)ο.9Ρΐο, Co048Fe048Mn004
400 (「β0.73。00.22Μηο θ5θο.66)0.9Ρΐο.ι C°0.455^e0.455^n0.09
450 (Fe0 69Co0 2i Mn0 100 62)09Pt0 1 Co042Fe042Mn0 16 なチ 1し 6ο.77。00.23θθ.77 ,9Pt( 1
300 (Fe。 77〇Oo.230o.77)0.9Pt。.l
4U 350 (「60·77。00.23θο.77)0.9Ρ .ι ^Ο0.495^"βθ.495^η0.01
400 (「β0.75。00,225Μηο ο25θθ.68)0.9Ρΐο.1 COo.476Fe0.476Mn0048
450 (Ρβο.72。00.216Μηο.θ64θο.65)0.9Ρΐθ,1 Co0.435Fe0.435Mn0.13
+ l
なし (Feo 77CO0230o,77)0.9Pt。,i
300 (Fe。 77G00.23O0 77)0 gPto.i
ϋ ϋ 〇 〇 ϋ〇
56 OU 350 (Fe。 77CO0230o.77)o.9Pt。.i O
O ό
400 (Feo.763〇00.229Mno細 Oo,69)0.9Pto.1 Co049Fe0 Li.49Mn002 α
450 (Feo.746COo.224Mno.030o.67)0.9 [0.1 Co0.47Fe047Mn0 06 なし (Fe。 77〇Οο 23θο·77)ο.9Ρΐο 1
300 (f" e0.77G00.230o.77)0.9Pto.l ^°0.5r e0.5 oOU (Feo 77GO0230o.77)0.9Pto.1
400 (Fe0 77GOo.230o.77)o.9Pto.i Co0 5Fe0 5
450 (Fe。 77GO0 23。o 77)0 gPt。 1 〇00.488「βο.488Μηο 024 なし (Feo,77GOo.230o.77)o.9Pto 1 Co0 5Feo.5
300 (^60.77^Ο0.23^0.77)0.9^^0.1 Co0 5Feo 5
70 350 (Fe。 77Go0 23O0フフ)。 9 0,i Go0 5Fe。.5
400 (Fe。 77Co0 23O0 77)0 9 tQ.1
450 (FG0 77Go0 23O0 77)09r t0j COo.5^"e0.5
(表 1 4一 3 )
は、 3 0 0°C以上の熱処理において多量の M nが強磁性層の界面近傍に まで拡散し、 MR比が大幅に低下した。 反強磁性層と非磁性層との間に 配置されている強磁性層の膜厚が薄く、 強磁性層の粒界を通じて、 両者
が直接接触しているに等しい状況になっている可能性がある。
一方、 距離 tが 3 n m以上のサンプルでは、 強磁性層の界面近傍に適 度に M nを拡散させることができ、 一定の熱処理温度の範囲において M R比が向上した。 特に、 距離 tが 1 0 n m以上 6 0 n m以下のサンプル では、 3 0 0 °C〜4 5 0 °Cの熱処理温度の領域すべてにおいて、 M R比 が向上した。
しかし、 距離 tが 5 0 n mを越えた場合は、 界面近傍まで M nを拡散 させることは実質的に困難であった。 この場合、 強磁性層の成長形態が 、 下地層の影響を受けたものから、 バルクに近い、 自己エネルギーに依 存したものに変化している可能性がある。 このため、 強磁性層内の結晶 粒界などの微細構造が変化している可能性があり、 M nを界面近傍にま で拡散させるためには、 5 0 0 °C以上の熱処理温度か長時間の熱処理が 必要になると考えられる。
これらの結果から、 3 0 0 °C〜4 5 0 °C程度の熱処理温度において、 界面近傍への M nの添加量を実施例 3などに上述した範囲内に制御する ためには、 反強磁性層と非磁性層との距離が 3 n mから 5 0 n mの範囲 が好ましいといえる。 このような距離であれば、 熱処理温度および/ま たは熱処理の時間を調整することにより、 拡散現象を利用して、 界面近 傍の強磁性層への M n添加量を上述の範囲内に制御することが可能であ り、 優れた M R特性を有する M R素子を得ることができる。
なお、 実施例 1〜 5のいくつかのサンプルについて、 界面組成分析の 後、 これらのサンプルと組成がまったく同一であるが、 Oを含まないバ ルク合金を用いて、 熱処理後における組成分布の状態、 および、 結晶粒 分布の状態などを調べた。 また、 上記バルク合金における結果と、 実際 のサンプル (M R素子の状態のサンプル) で得られた M R特性、 耐熱性 などの諸物性との相関を調べた。 手法は以下の手順で行った。
まず、 通常の铸造法を用いて、 実際のサンプルと組成が同一になるよ うに (ただし oは含まない) 調整した合金を铸込み、 不活性ガス雰囲気 中、 3 5 0 °C ~ 4 5 0 °Cにおいて熱処理 (2 4時間) した。 次に、 上記 合金を半分に切断した後に断面を研磨し、 断面表面のェツチングを行つ た。 金属顕微鏡および電子顕微鏡を用いて各合金の結晶粒の状態を観察 した後、 表面分析法や、 E D Xなどの組成分析法を用いて、 組成分布の 状態を評価した。
その結果、 バルクの合金において組成分布および結晶粒が均一である ことが確認された組成を有するサンプルの方が、 長時間の熱処理におけ る M R特性の安定性に優れる傾向にあった。 一方、 バルクの合金におい て組成分布が不均一であることが確認された組成を有するサンプルでは 、 熱処理により、 M R特性が劣化しやすい傾向がみられた。 バルタ と薄 膜とでは、 界面の効果などもあり、 相の安定状態は異なっている。 しか し、 バルタの合金において不均一な組成分布を示したサンプルでは、 熱 処理により、 界面近傍に複数の異なる組成の領域が生成し、 一部の領域 で実施例 1や実施例 2などに上述した O ZM比の範囲外になるなどの問 題が起きている可能性がある。
本発明は、 その意図および本質的な特徴から逸脱しない限り、 他の実 施形態に適用しうる。 この明細書に開示されている実施形態は、 あらゆ る点で説明的なものであってこれに限定されない。 本発明の範囲は 上 記説明ではなく添付したクレームによって示されており、 クレームと均 等な意味および範囲にあるすベての変更はそれに含まれる。 産業上の利用の可能性
以上説明したように、 本発明によれば、 耐熱性および M R特性に優れ る磁気抵抗素子を提供できる。 また、 本発明によれば、 3 0 0 °C以上、
特に 3 5 0°C〜 3 8 0°C以上の熱処理後に優れた MR特性を示す磁気抵 抗素子を提供できる。 なお、 本発明の磁気抵抗素子は、 磁気ヘッ ド、 磁 気記録装置、 磁気メモリ (MR AM) などのデバイスに用いることがで きる。 本発明の磁気抵抗素子をこれらのデバイスに用いた場合、 耐熱性 および特性に優れるデバイスを提供できる。