JPWO2020136719A1 - 浴中ロール及び浴中ロールの製造方法 - Google Patents

浴中ロール及び浴中ロールの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】溶融アルミニウムに対する耐侵食性、高温耐酸化性、高温耐摩耗性を高める。【解決手段】Alを少なくとも50質量%以上含む金属浴中で使用される浴中ロールであって、前記浴中ロールのロール表面には、アンダーコート層及びトップコート層からなる二層溶射皮膜が形成されており、前記アンダーコート層は、WB,WCoB,W2CoB2を少なくとも含む第1の硼化物と、Cr,Zr及びTiの硼化物のうち少なくとも1種からなる第2の硼化物とを含み、残部がニッケルを5質量%以上含まないコバルト基合金からなるサーメット溶射皮膜であり、前記トップコート層は、Al2O3系酸化物からなるセラミック溶射皮膜であり、前記サーメット溶射皮膜を100質量%としたとき、前記第1の硼化物の含有量は55質量%以上75質量%以下であり、前記第2の硼化物の含有量は5質量%以上15質量%以下であり、Bの含有量は5.0質量%以上7.0質量%以下であり、前記セラミック溶射皮膜を100質量%としたとき、Al2O3の含有量は、60質量%以上であることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、溶融アルミニウム浴中で使用される浴中ロールの表面を改質する技術に関するものである。
鋼板の表面にメッキ皮膜を形成する方法として、溶融アルミニウムが収容されたポット内に鋼板を浸漬させる方法が知られている。このポットには、鋼板を連続メッキするための溶融金属浴中ロール(例えば、シンクロール、サポートロール)が設置されており、一般的に、ロールの表面には、耐溶融金属反応性、耐食・耐摩耗性を持つ保護層が形成されている。
特許文献1には、溶融金属浴中ロールの表面に、アンダーコート層と、その上にX線相解析により確認される付着状態が、ZrO2 ・x(xはCaO、Y23 、MgO、CeO2 、及びHfO2 からなる群から選択される酸化物)とZrSiO4 及び/またはその分解生成物(ZrO2 及びSiO2 )とからなる層を形成したことを特徴とする耐溶融金属反応性粉末組成物が開示されている。また、特許文献1には、アンダーコート層として、金属炭化物(WC、TiC、Cr 、NbC、ZrC、TaC、MoC、VC),金属硼化物(CrB 、TiB、ZrB、MoB)及び金属窒化物(MoN、TiN)の内の1種以上のセラミックス成分と、Co,Ni,Cr,Mo及びWのうち1種以上とからなるものが開示されている。
特許文献2には、酸化物系セラミック溶射皮膜の表面および該皮膜内気孔部中に、酸化物、硼化物および窒化物のうちから選ばれるいずれか1種以上の水溶液またはスラリーを塗布して封孔処理を行うことが開示されている。さらに、特許文献2の明細書段落0026には、無水クロム酸、クロム酸アンモン、重クロム酸アンモンの水溶液に、TiO,ZrO,SiO,MgOなどの酸化物や、BNなどの窒化物を加えて、溶射皮膜に塗布して加熱焼成する封孔処理技術が開示されている。
特開平6−330278号公報 特許第4571250号公報
特許文献1の構成の浴中ロールを、溶融アルミニウム浴中で使用したが、溶融アルミニウムに対する耐侵食性、高温耐酸化性、高温耐摩耗性が十分でなかった。
特に、近年、サポートロール及びシンクロールの回転速度が鋼板のライン速度よりも低速に速度制御される場合が多くなっており、激しい摩耗環境に晒されることから、これらのロールに対する高温耐摩耗性の改善が強く求められるようになっている。
上記課題を解決するために、本願発明に係る浴中ロールは、(1)Alを少なくとも50質量%以上含む金属浴中で使用される浴中ロールであって、前記浴中ロールのロール表面には、アンダーコート層及びトップコート層からなる二層溶射皮膜が形成されており、前記アンダーコート層は、WB,WCoB,WCoBを少なくとも含む第1の硼化物と、Cr,Zr及びTiの硼化物のうち少なくとも1種からなる第2の硼化物とを含み、残部がニッケルを5質量%以上含まないコバルト基合金からなるサーメット溶射皮膜であり、前記トップコート層は、Al系酸化物からなるセラミック溶射皮膜であり、前記サーメット溶射皮膜を100質量%としたとき、前記第1の硼化物の含有量は55質量%以上75質量%以下であり、前記第2の硼化物の含有量は5質量%以上15質量%以下であり、Bの含有量は5.0質量%以上7.0質量%以下であり、前記セラミック溶射皮膜を100質量%としたとき、Alの含有量は、60質量%以上であることを特徴とする。
(2)前記トップコート層の表面に形成される摩擦低減層であって、BNと、TiO,ZrO,SiO,MgO及びCaOのうち少なくとも1種と、からなる摩擦低減層を有し、前記摩擦低減層を100質量%としたとき、BNの含有量は20質量%以上であることを特徴とする上記(1)に記載の浴中ロール。
(3)前記サーメット溶射皮膜を100質量%としたとき、前記第1の硼化物の含有量が64質量%以上70質量%以下であり、前記第2の硼化物の含有量が7質量%以上12質量%以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の浴中ロール。
(4)上記(1)に記載の浴中ロールの製造方法であって、前記サーメット溶射皮膜を、高速フレーム溶射法により形成し、前記セラミック溶射皮膜を、プラズマ溶射法又は高速フレーム溶射法により形成することを特徴とする。
(5)上記(2)に記載の浴中ロールの製造方法であって、前記サーメット溶射皮膜を、高速フレーム溶射法により形成し、前記セラミック溶射皮膜を、プラズマ溶射法又は高速フレーム溶射法によりにより形成し、前記トップコート層にBNと、TiO,ZrO,SiO,MgO及びCaOのうち少なくとも1種とを含有する水溶液を塗布した後、焼成することにより、前記摩擦低減層を形成することを特徴とする。
本願発明によれば、溶融アルミニウムに対する耐浸食性、高温耐酸化性、高温耐摩耗性に優れた浴中ロールを提供することができる。
溶融アルミニウムめっき装置の概略構成を示す概略図である。 シンクロールの一部における概略拡大図である。 保護層の一部における断面図である。 丸棒溶射サンプルの断面組織の拡大写真である(アルミニウムの侵食が殆ど確認されなかった場合) 丸棒溶射サンプルの断面組織の拡大写真である(アルミニウムの侵食が確認された場合) 摩耗試験装置の概略図である(金属浴なし)。
(第1実施形態)
図1は、溶融アルミニウムめっき装置の概略構成を示している。溶融アルミニウムめっき装置は、ポット11と、シンクロール13と、サポートロール14とを含む。ポット11には、金属浴12が貯留されている。金属浴12は、アルミニウムを主成分とした溶融金属であり、アルミニウムの他に亜鉛などが含まれている。アルミニウムは、金属浴12の中に少なくとも50質量%含まれている。シンクロール13は、金属浴12の中に配置されており、鋼板Aの搬送方向を変更する。サポートロール14は、鋼板Aを挟む位置に設けられており、鋼板Aの通過位置を安定させるとともに、メッキ付着厚みを平準化する。
鋼板Aは、金属浴12に浸漬した後、シンクロール13で方向転換され、サポートロール14でメッキ付着厚みが平準化された後、ポット11の外側に搬出される。
図2及び図3を参照しながら、シンクロール13の表面に形成された保護層について詳細に説明する。図2は、シンクロール13の一部における概略断面図である。図3は保護層の一部における断面図である。
シンクロール13は、ロール本体部131と、ロール本体部131の両端部に形成されたロール軸部132と、ロール本体部131の基材表面に形成された保護層133とを備える。ロール軸部132は、図示しない軸受部に回転可能に支持されている。ロール軸部132を回転軸として、シンクロール13を矢印方向(図1参照)に回転させることにより、鋼板Aを金属浴12の内外で搬送することができる。
保護層133は、アンダーコート層133a及びトップコート層133bを含む。ここで、アンダーコート層133aの上に形成されたトップコート層133bには、シンクロール13を金属浴12に浸漬させたときや、浸漬前の予熱工程において、熱膨張による割れが発生する。したがって、この割れを介して、金属浴12中の溶融金属がアンダーコート層133aに達するため、アンダーコート層133aには溶融アルミニウム対する耐侵食性及び高温耐酸化性が求められる。
(アンダーコート層133aについて)
アンダーコート層133aはサーメット溶射皮膜であり、第1の硼化物と、第2の硼化物と、Co基合金とから構成される。第1の硼化物にはWB,WCoB,WCoBを少なくとも含むW硼化物が用いられる。このW硼化物には、さらに、W,Cr,BからなるW硼化物が含まれていてもよい。第2の硼化物にはCr硼化物、Zr硼化物及びTi硼化物のうち少なくとも1種が用いられる。少なくとも1種であるから、Cr硼化物、Zr硼化物及びTi硼化物のうち1種を用いて第2の硼化物を構成してもよい。また、Cr硼化物、Zr硼化物及びTi硼化物のうち2種を用いて第2の硼化物を構成してもよい。さらに、Cr硼化物、Zr硼化物及びTi硼化物の3種を用いて第2の硼化物を構成してもよい。これらの中で、W硼化物、Zr硼化物及びCo基合金からなるサーメット溶射皮膜が特に好適である。
本発明者等は、第1の硼化物及び第2の硼化物を所定の比率で含有するサーメット溶射皮膜によってアンダーコート層133aを形成することにより、基材に対する溶融アルミニウムの侵食を防止しながら、高温耐酸化性が得られることを発見した。つまり、溶融アルミニウムに対する耐侵食性及び高温耐酸化性が顕著に高められることを発見した。アンダーコート層133aの耐酸化性が高められれば、結果的に、アンダーコート層133aの下にあるロール基材の耐酸化性も高められる。
所定の比率について説明する。アンダーコート層133a(サーメット溶射皮膜)を100質量%としたとき、第1の硼化物の含有量は55質量%以上75質量%以下であり、第2の硼化物の含有量は5質量%以上15質量%以下である。好ましくは、第1の硼化物の含有量は64質量%以上70質量%以下であり、第2の硼化物の含有量は7質量以上12質量%以下である。溶射皮膜が溶射後に急冷されることにより、上記第1硼化物及び第2硼化物の何れかのアモルファス 非結晶相がアンダーコート層133aに含まれる場合もある。
第1の硼化物の含有量が55質量%未満に低下すると、高温耐酸化性及び耐溶融アルミニウム侵食性が不十分となる。第1の硼化物の含有量が75質量%超になると、サーメット溶射皮膜中のB含有量が5.0%未満になる可能性があり、サーメット溶射皮膜の耐溶融アルミニウム侵食性及び高温耐酸化性が不十分になるおそれがある。すなわち、第1の硼化物の含有量が75質量%超になると、サーメット溶射皮膜がWリッチな皮膜になり、Bの含有量が低下するため、サーメット溶射皮膜の耐溶融アルミニウム侵食性が不十分になるおそれがある。
第2の硼化物の含有量が5質量%未満に低下すると、サーメット溶射皮膜中のB含有量が5.0%未満になる可能性があり、サーメット溶射皮膜の耐溶融アルミ侵食性及び高温耐酸化性が不十分になるおそれがある。第2の硼化物の含有量が15質量%超になると、サーメット溶射皮膜中のB含有量が7.0質量%超になる可能性があり、高温の溶融金属中で長期間使用するとサーメット溶射皮膜に過剰な硼化物が生成され、サーメット溶射皮膜の硬度が異常増加して靭性が低下し、その結果、サーメット溶射皮膜に割れが発生しやすくなり、溶融アルミニウムの浸入による素材の溶損やサーメット溶射皮膜の剥離が発生するおそれがある。また、サーメット溶射皮膜に割れが発生すると、空気に触れる面積が増加するため、結果的に高温耐酸化性が不十分になるおそれがある。
本発明者等は、第2の硼化物のみで形成されたアンダーコート層133aでは、十分な溶融アルミニウム耐侵食性及び高温耐酸化性が得られないことを別途確認している。つまり、本発明者等は、第1の硼化物と第2の硼化物とを組み合わせたアンダーコート層133aでなければ、優れた溶融アルミニウム耐侵食性及び高温耐酸化性が得られないことを知見した。この点については、後述する実施例で明らかにする。
Co基合金(100質量%)には、例えば、Cr:15質量%以上35質量%以下,W:10質量%以下,Fe:7質量%以下,C:2質量%未満,Ni:5質量%未満,残部がCoからなる合金を用いることができる。
ここで、Co基合金にNiが5質量%以上含まれていると、溶融アルミニウムにNiが溶解、言い換えると、バインダー金属としてのCo基合金が溶融アルミニウムに溶解して、耐摩耗性に優れたトップコート層133bが基材から脱落するおそれがある。したがって、Co基合金には、Niが5質量%以上含まれていてはならない。
アンダーコート層133aは、例えば、WBと、CrB,ZrB,TiBのうち少なくとも1種と、Co基合金とを含む溶射材料を溶射することにより形成することができる。Co基合金には、W,Feのうち少なくとも一種と、CrとからなるCo基合金を用いることができる。Co基合金には、Niが含まれていてもよいが、5質量%未満であることが必要である。上述の溶射材料の配合比を適宜の値に設定して、高速フレーム溶射法(high velocity oxy-fuel:HVOF)によりロール本体部131の基材表面に溶射することにより、アンダーコート層133aを形成することができる。高速フレーム溶射法は、高圧の酸素と炭化水素系燃料ガスなどの燃焼炎を利用したフレーム溶射法の一種であり、燃焼室の圧力を高めることにより、爆発溶射法に匹敵する高速火炎を発生させることができる。高速フレーム溶射法によって溶射することにより、アンダーコート層133aの皮膜構造を緻密化することができる。これにより、溶射皮膜における貫通気孔が極めて少なくなり、溶融金属が溶射皮膜に浸透することを抑制できる。
なお、溶射時の熱を受熱することにより、溶射されたWBの一部はCo基合金に含まれるCoと反応して、WCoB及びWCoBを形成する。また、少量であるが、W,Cr,BからなるW硼化物が生成されることもある。CrBは、溶射時の熱を受熱することにより、一部がCrBに変わる。ZrBは、溶射時の熱を受熱することにより、一部がZrBに変化する。TiBは、溶射時の熱を受熱することにより、一部がTiBに変化する。つまり、CrBが溶射された場合、アンダーコート層133aには、CrB及びCrBが含まれる。ZrBが溶射された場合、アンダーコート層133aには、ZrB及びZrBが含まれる。TiBが溶射された場合、アンダーコート層133aには、TiB及びTiBが含まれる。
アンダーコート層133aの好ましい厚みは、50μm以上300μm以下である。アンダーコート層133aの厚みが50μm未満になると、上述のアンダーコート層としての効果が得られ難くなる。アンダーコート層133aの厚みが300μmを超過すると、コストが増大する。
(トップコート層133bについて)
アンダーコート層133aは、耐摩耗性が不十分であるため、長期間の通板によって摩耗が発生する。そこで、アンダーコート層133aの上に高温耐摩耗性に優れたトップコート層133bが形成される。
トップコート層133bを形成する溶射皮膜は、アルミナ(Al)系酸化物からなるセラミック溶射皮膜である。このセラミック溶射皮膜は、溶融アルミニウムに対する耐腐食性に優れており、高温での硬度低下が低く、溶融アルミニウム環境下に長期間晒されても、摩耗が生じにくい。この効果を発現させるために、セラミック溶射皮膜の全体を100質量%としたとき、アルミナ(Al)の含有量は、60質量%以上である。アルミナ系酸化物は、アルミナ(Al)単体で構成してもよいが、アルミナ以外の酸化物(例えば、TiO、SiO2)を含んでいてもよい。つまり、Al−TiO、Al−SiOからなるアルミナ系酸化物によって、トップコート層133bを形成してもよい。また、アルミナ(Al)と、Al−TiOと、Al−SiOとからなるアルミナ系酸化物によって、トップコート層133bを形成してもよい。
トップコート層133bの好ましい厚みは、30μm以上300μm以下である。トップコート層133bの厚みが30μm未満になると、上述のトップコート層133bの効果が得られ難くなる。トップコート層133bの厚みが300μmを超過すると、使用中に、熱衝撃により割れが発生するおそれがある。
トップコート層133bは、例えばアルミナ系酸化物を含む溶射パウダーをプラズマ溶射法によってアンダーコート層133aの上に溶射することにより、形成することができる。プラズマ溶射法は、一対の電極間に不活性ガスを流しながら放電したときに発生する高温・高速のプラズマを溶射の熱源として用いる方法である。一般には、作動ガスにはアルゴンが用いられ、電極には水冷されたノズル状の銅製陽極とタングステン製陰極が用いられる。電極間にアークを発生させると作動ガスがアークによってプラズマ化され、ノズルから高温高速のプラズマジェットが噴出する。このプラズマジェットに溶射パウダーを投入し、加熱加速させることにより、溶射パウダーをアンダーコート層133aに衝突させ、トップコート層133bを形成することができる。プラズマ溶射法によれば、アルミナ系酸化物などのような高融点溶射材料であっても、成膜させることができる。
アルミナ系酸化物を含む溶射パウダーを高速フレーム溶射法によってアンダーコート層133aの上に溶射することにより、トップコート層133bを形成してもよい。高速フレーム溶射法は、高圧状態の酸素と炭化水素系燃料ガスなどの燃焼炎を利用したフレーム溶射法の一種である。連続燃焼炎でありながら爆発溶射炎に匹敵する高速火炎を発生させることができる。溶射パウダーが高速度でアンダーコート層133aに衝突するため、緻密な皮膜を形成することができる。溶射パウダーの燃焼炎による溶融を促進するために、溶射パウダーの平均粒度は、好ましくは、15μm以下である。
(第2実施形態)
本実施形態は、第1実施形態の変形例であり、トップコート層133bの上に摩擦低減層が形成される。これにより、トップコート層133bの耐摩耗性をより一層高めることができる。
摩擦低減層は、BNと、室温〜800℃の温度条件下で溶融アルミニウムと反応し難い所定の酸化物とを含む。所定の酸化物には、例えば、TiO、ZrO、SiO、MgO及びCaOの1種以上を用いることができる。摩擦低減層を100質量%としたとき、BNの含有量は20質量以上である。BNの上限値は特に規定しないが、好ましくは50質量%である。BNが50質量%を超過すると、摩擦低減層の耐久性が低下するおそれがある。BNを含む摩擦低減材を用いることにより、セラミック溶射皮膜の表面に滑り潤滑性を備えた摩擦低減層を形成することができる。
これにより、セラミック溶射皮膜に加わる摩擦力が軽減され、セラミック溶射皮膜の損傷、肌荒れなどをより効果的に抑制することができる。なお、上述の摩擦低減材を含有する水溶液をトップコート層133bに塗布して、焼成することにより、上述の摩擦低減層を形成することができる。
ここで、本発明者等は、TiN、ZrN、VN等の他の窒化物を摩擦低減材に用いることも検討したが、BNでなければ優れた高温潤滑性が得られないことを発見した。つまり、本発明者等は、BNを20質量%以上含む摩擦低減材を用いて摩擦低減層を形成することにより、セラミックス溶射皮膜に加わる摩擦力がより効果的に低減されることを発見した。具体的には、鋼板Aの搬送速度がロールの搬送速度の2倍に達しても、ロールを長期間使用できることを発見した。なお、シンクロール13は、一般的に鋼板Aの搬送速度(つまり、ライン速度)よりも低速に制御されている。
CaOは、Alより熱力学的に安定しており、BNとともに使用すると摩擦低減層の耐久性がより長くなる。摩擦低減層の好ましい厚みは、5μm以上100μm以下である。摩擦低減層の厚みが5m未満になると、上述の摩擦低減層の効果が得られ難くなる。摩擦低減層の厚みが100μmを超過すると、摩擦低減層にクラックが発生しやすくなり、欠落や剥離の問題が懸念される。
上述の実施形態では、シンクロール13の保護層133について説明したが、本発明の保護層133は、サポートロール14にも適用することができる。ここで、サポートロール14は、鋼板Aの搬送時に発生する振動による影響を吸収するために、鋼板Aのライン速度よりも低速に速度制御されている。具体的には、サポートロール14の場合、シンクロール13よりも回転速度が低速に速度制御されているため、速度差による摩耗問題が、より顕著となる。したがって、本願発明は、サポートロール14に対してより好適に用いることができる。
次に、実施例を示して本発明についてより具体的に説明する。
(実施例1)
アンダーコート層の耐溶融アルミニウム侵食性を確認するために、以下の耐溶融アルミニウム侵食実験及び高温耐酸化性試験を行った。Fe基にサーメット溶射皮膜を成膜した丸棒溶射サンプルを準備して、これを金属浴に48(hour)浸漬した後、引き揚げ、丸棒溶射サンプルの外観と断面組織を観察した。金属浴の浴成分は100%アルミニウムとし、浴温度は700(℃)に設定した。
アルミニウムの侵食が殆ど確認されなかった場合(例えば、図4参照)には、耐溶融アルミニウム侵食性が極めて良好として、「very good」で評価した。アルミニウムの侵食が僅かに確認された場合には、耐溶融アルミニウム侵食性が概ね良好として、「good」で評価した。アルミニウムの侵食が多く確認された場合(例えば、図5参照)には、耐溶融アルミニウム侵食性が不良として、「poor」で評価した。
高温耐酸化性試験では、サーメット溶射皮膜が成膜されたテストピースを作成し、これを熱重量測定装置(TG)で加熱して重量変化に関する情報を取得することにより、大気中における600℃までの耐酸化性能を評価した。600℃とした理由は、シンクロールが金属浴12に浸漬する前に予熱され、この予熱温度の最高温度が約600℃だからである。
耐溶融アルミニウム侵食性及び耐高温酸化性の評価結果を表1及び表2に示す。なお、Co基合金には、Cr:35質量%,W:5質量%,Fe:2質量%,C:2質量%未満,残部がCoからなる合金1、Cr:25質量%,W:10質量%,Fe:1.5質量%,C:2質量%未満,Ni:1.0質量%,残部がCoからなる合金2、Cr:20質量%,W:5質量%,C:1.0質量%,Ni:2.0質量%,残部がCoからなる合金3、Cr:15質量%,Fe:7質量%,C:1.3質量%,Ni:3.0質量%,残部がCoからなる合金4のいずれかを使用した。なお、アンダーコート層の層厚は、全て100μmを目標値とした。
上述の試験結果から、第1の硼化物の含有量が55質量%以上75質量%以下、第2の硼化物の含有量が5質量%以上15質量%以下のアンダーコート層を形成することにより、溶融アルミニウムに対する耐侵食性及び耐高温酸化性が兼備されることがわかった。特に、第1の硼化物の含有量が64質量%以上70質量%以下、第2の硼化物の含有量が7質量%以上12質量%以下であれば、上述の効果が顕著に高くなることがわかった。また、試料No.1〜6の結果から、W硼化物とZr硼化物との組み合わせが特に優れていることがわかった。一方、第2の硼化物のみをCo基合金と組み合わせた溶射皮膜は、本願発明のサーメット溶射皮膜よりも、溶融アルミニウムに対する耐侵食性及び耐高温酸化性が共に低くなることがわかった。なお、第1の硼化物(W硼化物)は、WB,WCoB,WCoBからなり、表1にはこれらの硼化物の総和含有量を記載している。また、Cr硼化物の含有量としてCrB及びCrBの総和含有量を記載しており、Zr硼化物の含有量としてZrB及びZrBの総和含有量を記載しており、Ti硼化物の含有量としてTiB及びTiBの総和含有量を記載している。
(実施例2)
表1の試料No23〜25のCo基合金を、Cr:15質量%,Fe:7質量%、C:1.0質量%,Ni:5.5質量%,残部がCoからなるCo基合金5(つまり、Niが多いCo基合金)に変更して、上記と同様に溶融アルミニウムに対する耐侵食性を調査した。溶融アルミニウムは、実施例1と同様のものを使用した。その結果を表3に示す。
上述の試験結果から、Co基合金に含まれるNiの含有量が5質量%を超過すると、溶射皮膜が溶融アルミニウムによって浸食されることがわかった。
(実施例3)
トップコート層及び摩擦低減層の耐摩耗性(高温における耐摩耗性)は図6の摩耗試験装置により確認した。同図において、104は金属浴であり、金属浴104の中に二段に折れ曲がった摺動軸101を配置した。摺動軸101の末端部に板状に延びる評価材102を取り付けた。評価材102の基材には、SUS304を使用した。評価材102の基材表面にアンダーコート層及びトップコート層を形成した。また、一部の試料については、トップコート層の上に摩擦低減層を形成した。アンダーコート層は、実施例1の試料No23の溶射皮膜によって構成した。金属浴104中の評価材102に対して支持部材105に支持された相手材103を所定の荷重で押し付けながら、摺動軸101を矢印で示す水平方向に48(hour)往復移動させた。金属浴104の浴成分はアルミニウム100質量%とし、浴温度は700(℃)に設定した。押し付け荷重は5.0(kgf)に設定した。摺動軸101のすべり速度は、50(mm/s)に設定した。相手材103は、SUS304により構成した。
トップコート層及び摩擦低減層の組成を種々変更して、それぞれについて上述の実機評価を実施した。トップコート層の層厚は、全て150μmを目標値とした。摩擦低減層の層厚は、全て50μmを目標値とした。試験後に各評価材102を切断して、切断面の断面組織を観察し、トップコート層の膜厚変化を確認した。試験前のトップコート層の厚みを100%とし、試験後の厚み減少割合が50%以上の場合には、高温耐摩耗性が低いとして「poor」で評価し、試験後の厚み減少割合が20%以上50%未満の場合には、高温耐摩耗性が高いとして「good」で評価し、試験後の厚み減少割合が20%未満の場合には、高温耐摩耗性が高いとして「very good」で評価した。試験結果を表4に示す。
試料No38は、摩擦低減層がなく、かつ、トップコート層に含まれるアルミナ(Al)の含有量が60質量%未満と不足したため、高温耐摩耗性の評価は「poor」であった。これに対して、試料No35〜37、48では、アルミナ(Al)の含有量を60質量%以上に増大させたため、高温耐摩耗性の評価が「good」に向上した。試料No39〜43では、試料No35〜37のトップコート層の上に、BNを20質量%以上含有させた摩擦低減層を形成したため、高温耐摩耗性の評価が「very good」に向上した。一方、試料No44〜46では、摩擦低減層にBNが含まれていないため、高温耐摩耗性の評価は「good」のままであった。また、試料No47では、摩擦低減層に含まれるBNが不足したため、高温耐摩耗性の評価は「good」のままであった。
(実施例4)
上述の試料No35〜38、48をそれぞれ金属浴に浸漬させて、トップコート層の耐溶融アルミニウム腐食性について確認した。金属浴の浴成分はアルミニウム100質量%とし、浴温度を700(℃)、浸漬時間を48(hour)に設定した。浸漬試験後に外観観察を実施し、トップコート層に溶損が認められるか、或いはトップコート層に亀裂が発生し、この亀裂から侵入した溶融アルミニウムによって基材に溶損が認められた場合には、耐溶融アルミニウム腐食性が低いとして「poor」で評価した。上述の溶損が認められなかった場合には、耐溶融アルミニウム腐食性が高いとして「good」で評価した。
11 ポット
12 金属浴
13 シンクロール
14 サポートロール
131 ロール本体部
132 ロール軸部
133 保護層
133a アンダーコート層
133b トップコート層

Claims (5)

  1. Alを少なくとも50質量%以上含む金属浴中で使用される浴中ロールであって、
    前記浴中ロールのロール表面には、アンダーコート層及びトップコート層からなる二層溶射皮膜が形成されており、
    前記アンダーコート層は、WB,WCoB,WCoBを少なくとも含む第1の硼化物と、Cr,Zr及びTiの硼化物のうち少なくとも1種からなる第2の硼化物とを含み、残部がニッケルを5質量%以上含まないコバルト基合金からなるサーメット溶射皮膜であり、
    前記トップコート層は、Al系酸化物からなるセラミック溶射皮膜であり、
    前記サーメット溶射皮膜を100質量%としたとき、前記第1の硼化物の含有量は55質量%以上75質量%以下であり、前記第2の硼化物の含有量は5質量%以上15質量%以下であり、Bの含有量は5.0質量%以上7.0質量%以下であり、
    前記セラミック溶射皮膜を100質量%としたとき、Alの含有量は、60質量%以上であることを特徴とする浴中ロール。
  2. 前記トップコート層の表面に形成される摩擦低減層であって、BNと、TiO,ZrO,SiO,MgO及びCaOのうち少なくとも1種と、からなる摩擦低減層を有し、
    前記摩擦低減層を100質量%としたとき、BNの含有量は20質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の浴中ロール。
  3. 前記サーメット溶射皮膜を100質量%としたとき、前記第1の硼化物の含有量が64質量%以上70質量%以下であり、前記第2の硼化物の含有量が7質量%以上12質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の浴中ロール。
  4. 請求項1に記載の浴中ロールの製造方法であって、
    前記サーメット溶射皮膜を、高速フレーム溶射法により形成し、
    前記セラミック溶射皮膜を、プラズマ溶射法又は高速フレーム溶射法により形成することを特徴とする浴中ロールの製造方法。
  5. 請求項2に記載の浴中ロールの製造方法であって、
    前記サーメット溶射皮膜を、高速フレーム溶射法により形成し、
    前記セラミック溶射皮膜を、プラズマ溶射法又は高速フレーム溶射法により形成し、
    前記トップコート層にBNと、TiO,ZrO,SiO,MgO及びCaOのうち少なくとも1種とを含有する水溶液を塗布した後、焼成することにより、前記摩擦低減層を形成することを特徴とする浴中ロールの製造方法。
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