ここに開示する技術は、内接ギヤポンプに関する。
特許文献1には、外歯のドライブギヤと内歯のドリブンギヤとを備えた内接ギヤポンプが記載されている。特許文献1の内接ギヤポンプは、ドライブギヤとドリブンギヤとが噛み合う噛合点の反対側において、ポンプハウジングの周面にポケットを形成している。ポケットは、内接ギヤポンプの吐出ポートに連通している。内接ギヤポンプが運転しているときに、吐出ポートから吐出される高圧の作動油の一部が、ポケットを通じてドリブンギヤとハウジングとの間に導入される。
ドリブンギヤとドライブギヤとの間には、ドリブンギヤの歯先とドライブギヤの歯先とが当たることによりシールされる三日月状の空間が形成されている。ポケットから吐出された高圧の作動油は、ドリブンギヤの歯先をドライブギヤの歯先に押し付けるように、ドリブンギヤを押す。三日月状の空間内の作動油が、ドリブンギヤの歯先とドライブギヤの歯先との間から漏れることが抑制される。
特許文献2にも、ハウジング内の作動油の漏れを抑制する内接ギヤポンプが記載されている。特許文献2の内接ギヤポンプは、ハウジングの内周面に、油溝を形成している。油溝は、吐出ポートにつながっていると共に、三日月状の空間に対応する位置まで周方向に伸びている。内接ギヤポンプの運転中、油溝を通じてハウジング内に導入される高圧の作動油がアウタロータを押す。作動油が、アウタロータの内歯とインナロータの外歯との間から漏れることが抑制される。
特許文献3に記載された内接ギヤポンプは、ハウジングの内周面に、二本の圧力バランス溝を設けている。二本の圧力バランス溝は、吐出ポートが開口する高圧領域に、周方向に間隔を空けて設けられている。二本の圧力バランス溝はそれぞれ、吐出ポートにつながっている。内接ギヤポンプが運転しているときには、二本の圧力バランス溝のそれぞれを通じて、高圧の作動油が、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との間に供給される。リングギヤがハウジングに対してフロート状態で回転をするから、リングギヤの焼き付きが抑制される。
実開昭61−179385号公報
特開平7−151066号公報
実開昭62−158181号公報
特許文献1や特許文献2に記載されているように、高圧の作動油をリングギヤの外周面とハウジングの内周面との間に供給する内接ギヤポンプは、低回転数で運転しているときには、ピニオンギヤの外歯とリングギヤの内歯との噛み合いが離れる昇圧領域において、外歯と内歯との間から作動油が漏れることを抑制することができる。このことに加えて、前記の構成の内接ギヤポンプは、高圧領域においても、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間が小さくなるから、作動油が高圧領域から、吸込ポートが開口する低圧領域へ漏れることを抑制することができる。
しかしながら、前記の構成の内接ギヤポンプが高回転数で運転しているときには、ハウジング内の作動油の漏れが増えることに、本願発明者は気づいた。
ここに開示する技術は、内接ギヤポンプのハウジング内の作動油の漏れを抑制する。
高圧の作動油をリングギヤの外周面とハウジングの内周面との間に供給することによって、リングギヤが、昇圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へと押されて移動すると、前述したように、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間が小さくなる。内接ギヤポンプの運転中は、リングギヤの回転に伴い、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間において、いわゆる「くさび効果」が発生する。尚、「くさび効果」は、リングギヤの回転に伴い、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との間の狭い隙間に、作動油が引きずり込まれることによって、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との間の油膜の圧力が高くなる現象をいう。
内接ギヤポンプが低回転で運転しているときは、くさび効果が低いので、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間が小さく、作動油の漏れは少ない。
しかしながら、内接ギヤポンプが高回転数で運転しているときは、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間のくさび効果が高まって、リングギヤが、高圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へと押されて移動することを、本願発明者は見いだした。リングギヤが、くさび効果によって、高圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へ押されて移動すると、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間が大きくなり、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間からの作動油の漏れが増えてしまうだけでなく、昇圧領域においても、ピニオンギヤの外歯とリングギヤの内歯との間からの作動油の漏れが増えてしまう。
本願発明者は、前述した知見を得たことから、くさび効果を低減するために、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との間隔を部分的に広げることにした。そして、ハウジングの内周面の特定の位置に凹部を設けることによって、高回転数で運転中の内接ギヤポンプのハウジング内において、作動油の漏れが抑制されることを確認し、ここに開示する技術を完成するに至った。
具体的に、ここに開示する内接ギヤポンプは、外歯を有するピニオンギヤと、前記外歯に噛み合う内歯が内周面に設けられたリングギヤと、前記ピニオンギヤと前記リングギヤとの噛み合いが離れる箇所に設けられかつ、前記外歯及び前記内歯のそれぞれが当接するクレセントと、前記リングギヤの外周面が摺動する摺動面を有しかつ、前記ピニオンギヤ及び前記リングギヤを回転可能に収容するハウジングと、前記摺動面に開口する導入口を有しかつ、前記導入口を通じて前記リングギヤの外周面と前記摺動面との間に高圧の作動油を供給する高圧油供給部と、前記リングギヤの外周面と前記摺動面との間隔が広がるように、前記摺動面に設けられた凹部と、を備える。
そして、前記ハウジング内の空間は、吸込ポートが開口する低圧領域と、吐出ポートが開口する高圧領域と、前記クレセントが配設されている昇圧領域との三領域に区分され、前記導入口は、前記昇圧領域に位置し、前記凹部は、前記高圧領域に位置している。
この構成によると、ピニオンギヤ及びリングギヤは、低圧領域から、昇圧領域を経て、高圧領域に至る方向に回転する。
内接ギヤポンプの運転中には、昇圧領域に位置する導入口から、高圧の作動油が、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との間に導入される。高圧の作動油によって、リングギヤは、昇圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へと押されて移動し、リングギヤの内歯はクレセントに押し付けられる。昇圧領域において、リングギヤの内歯とクレセントとの間から作動油が漏れることが抑制される。また、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との間から作動油が漏れることが抑制される。
リングギヤが昇圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方に押されているため、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジング摺動面との間には、くさび効果が生じる。高圧領域の摺動面には、凹部が設けられている。凹部は、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との間隔を、部分的に広くする。凹部は、くさび効果を低減する。
くさび効果が低減するため、内接ギヤポンプが高回転数で運転しているときに、リングギヤが高圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へ押されて移動することが抑制される。その結果、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との隙間を通じて作動油が漏れることが抑制される。また、昇圧領域において、リングギヤの内歯とクレセントとの間から作動油が漏れることが抑制される。
尚、内接ギヤポンプが低回転数で運転しているときには、くさび効果が高くならないため、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との隙間を通じて作動油が漏れることが抑制される。また、昇圧領域において、リングギヤの内歯とクレセントとの間から作動油が漏れることが抑制される。
また、導入口を通じてリングギヤの外周面とハウジング摺動面との間に導入される作動油は、リングギヤとハウジングとの間の潤滑油としても機能する。リングギヤとハウジングとの間の焼き付きが抑制される。
さらに、前述したように、ハウジング内の作動油の漏れを防止することによって、ハウジング内の発熱を抑制することができる。このことによっても、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きを抑制することができる。
前記凹部は、溝形状を有している、としてもよい。
溝形状の凹部は、くさび効果を効果的に低減することができる。また、溝形状の凹部は、ハウジングの摺動面に、容易に形成することができる。
前記凹部は、前記吐出ポートに非接続である、としてもよい。
凹部は、前述したように、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との間の間隔を広げることによって、くさび効果を低減する機能を発揮する。凹部は、高圧の作動油をハウジング内に導入する機能は必要ではない。
また、仮に凹部を通じて高圧の作動油をハウジング内に導入するよう構成すると、リングギヤは、凹部から導入した高圧の作動油によって、高圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へと押される。高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との隙間を通じて作動油が漏れることが助長される恐れがある。また、昇圧領域において、リングギヤの内歯とクレセントとの間から作動油が漏れることが助長される恐れがある。
昇圧領域に位置する導入口から高圧の作動油を導入することと、高圧領域に位置する凹部によってくさび効果を低減することと、を組み合わせることにより、ハウジング内の作動油の漏れを抑制することと、リングギヤの焼き付きを防止することとが両立する。
前記高圧油供給部は、前記吐出ポートと前記導入口とをつなぐ油路と、前記油路に設けられかつ、前記作動油の圧力を下げる絞りと、を有している、としてもよい。
導入口を通じてハウジング内に導入する作動油の圧力が高すぎると、リングギヤの歯先が、クレセントへ押し付けられる力が強くなりすぎる。リングギヤの歯の摩耗が進行しやすくなる。そこで、油路内に絞りを設けることによって、ハウジング内に導入する作動油の圧力を調整してもよい。
また、ハウジング内に導入する作動油の圧力を調整することと、凹部によって、くさび効果を低減することとを組み合わせることにより、ハウジング内の作動油の漏れを抑制することと、リングギヤとハウジングとの間の潤滑性を確保することとが、バランスする。
前記リングギヤの外周面には、潤滑コーティングが形成されている、としてもよい。
こうすることで、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きが抑制される。従来の内接ギヤポンプは、加工精度が相対的に低くかつ、リングギヤの外周面に潤滑コーティングが形成されていなかったため、特許文献3に記載されているように、二つのバランス溝を通じて作動油をハウジング内に導入することにより、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きを抑制しなければならなかった。
これに対し、今は加工精度が高くなった上に、前記のようにリングギヤの外周面に潤滑コーティングを形成することによって、二つのバランス溝を通じて作動油をハウジング内に導入しなくても、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きを抑制することができる。
前記の内接ギヤポンプによると、ハウジング内の作動油の漏れを抑制することができる。
図1は、内接ギヤポンプの断面図である。
図2は、図1のII−II線端面図である。
図3は、図2のIII−III線断面図、及び、A方向から見た矢視図である。
図4は、図2のIV−IV線断面図、及び、B方向から見た矢視図である。
図5は、内接ギヤポンプの運転時における、ピニオンギヤ及びリングギヤの噛み合い箇所付近を拡大して示す拡大断面図である。
図6は、図3とは異なる高圧油供給部の構成を示す断面図、及び、C方向から見た矢視図である。
以下、内接ギヤポンプ1の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。尚、以下の説明は、内接ギヤポンプ1の一例である。
(内接ギヤポンプの全体構成)
図1は、内接ギヤポンプ1の断面図である。図2は、図1のII−II線端面図である。内接ギヤポンプ1は、シャフト2と、ピニオンギヤ3と、リングギヤ4と、ギヤハウジング5と、フロントカバー6と、リヤカバー7と、を備えている。尚、図2においては、理解を容易にするために、シャフト2、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4には、端面を示すハッチングの図示を省略している。
シャフト2は、図1における紙面左右方向に伸びている。シャフト2は、図示を省略する原動機に接続されている。原動機は、例えば電気モータである。
ピニオンギヤ3は、シャフト2に固定されている。ピニオンギヤ3とシャフト2とは同軸である。ピニオンギヤ3は、シャフト2と共に回転する。ピニオンギヤ3は、外歯31を有している。
リングギヤ4は、ピニオンギヤ3に噛み合う。リングギヤ4は、シャフト2に対して偏心して配置されている。リングギヤ4の内周面には、内歯41が形成されている。図2の紙面右側の領域において、ピニオンギヤ3の外歯31の一部がリングギヤ4の内歯41の一部に噛み合う。尚、図面では示さないが、リングギヤ4の外周面42には、潤滑コーティングが設けられている。潤滑コーティングは、例えば無機材料とフッ素系樹脂とを含む材料によって構成してもよい。
ギヤハウジング5は、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4を収容する。ギヤハウジング5には、貫通孔53が形成されている。シャフト2は、貫通孔53内に位置する。
ピニオンギヤ3及びリングギヤ4は、回転可能に、ギヤハウジング5に収容される。ギヤハウジング5は、リングギヤ4の外周面42が摺動する摺動面51を有している。リングギヤ4の外周面42は、横断面円形状を有している。ギヤハウジング5の摺動面51も、横断面円形状を有している。摺動面51は、シャフト2に対して偏心している。
ギヤハウジング5は、摺動面51に直交する側面52を有している。摺動面51及び側面52は、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4を収容する空間50を形成する。当該空間50は、図1における紙面左側に開放されている。ピニオンギヤ3の第一側面(図1の右の側面)32、及び、リングギヤ4の第一側面(図1の右の側面)43はそれぞれ、ギヤハウジング5の側面52を摺動する。
フロントカバー6は、ギヤハウジング5に隣接して配設されている。フロントカバー6は、ギヤハウジング5に接すると共に、空間50を閉じる側面61を有している。ピニオンギヤ3の第二側面(図1の左の側面)33、及び、リングギヤ4の第二側面(図1の左の側面)44はそれぞれ、フロントカバー6の側面61を摺動する。フロントカバー6には、シャフト2が通る支持孔62が貫通して形成されている。シャフト2は、ベアリング63と軸受部材64、64とを介して、フロントカバー6に支持されている。
リヤカバー7は、ギヤハウジング5を間に挟んで、フロントカバー6とは反対側に配設されている。フロントカバー6、ギヤハウジング5、及び、リヤカバー7は、互いに固定されることによって一体化している。フロントカバー6、ギヤハウジング5及びリヤカバー7によって、内接ギヤポンプ1のハウジング10が構成されている。
フロントカバー6及びギヤハウジング5には、空間50の内部、言い替えるとハウジング10の内部に作動油を吸い込む吸込ポート11が形成されている。吸込ポート11の入口は、図1に示すように、フロントカバー6の外周面に開口している。吸込ポート11の出口は、フロントカバー6の側面61及びギヤハウジング5の側面52のそれぞれに開口している。吸込ポート11の出口はまた、図2に示すように、シャフト2の回転方向に沿うように、周方向に延びている。
フロントカバー6、ギヤハウジング5、及びリヤカバー7には、ハウジング10の内部から作動油を吐き出す吐出ポート12が形成されている。吐出ポート12の出口は、図1に示すように、リヤカバー7の外周面に開口している。尚、吸込ポート11の入口の向きと、吐出ポート12の出口の向きとは、図1に例示するように同じ方向であってもよいし、図示は省略するが、異なる方向であってもよい。
吐出ポート12の入口は、フロントカバー6の側面61及びギヤハウジング5の側面52のそれぞれに開口している。吐出ポート12の入口はまた、図2に示すように、吸込ポート11に対して、シャフト2を挟んだ反対側において、シャフト2の回転方向に沿うように、周方向に延びている。
ギヤハウジング5には、クレセント54が設けられている。クレセント54は、ピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛み合いが離れる箇所に配設されている。クレセント54は、後述する高圧領域と低圧領域とを分離する。
クレセント54は、シャフト2の回転方向に沿うように、所定の角度範囲に亘って周方向に伸びている。より詳細に、クレセント54は、第一円弧面541と、第二円弧面542との二つの円弧面を有し、第一円弧面541及び第二円弧面542はそれぞれ、ギヤハウジング5の側面52に立設している(図3も参照)。クレセント54は、図2に示すように、シャフト2の軸方向に沿って見たときに、三日月形状を有している。ピニオンギヤ3の外歯31の歯先は、クレセント54の第一円弧面541に当接する。リングギヤ4の内歯41の歯先は、クレセント54の第二円弧面542に当接する。
ここで、ハウジング10内は、リングギヤ4の回転中心Oを中心として周方向に、吸込ポート11が開口する低圧領域と、クレセント54が配設されている昇圧領域と、吐出ポート12が開口する高圧領域との三領域に分けることができる。
次に、内接ギヤポンプ1の運転を簡単に説明する。原動機によってシャフト2が、図2の白抜きの矢印の方向に回転すると、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4がそれぞれ、低圧領域から、昇圧領域を経て、高圧領域に至る方向に回転する。
ハウジング10内の低圧領域において、噛み合っていたピニオンギヤ3の外歯31とリングギヤ4の内歯41とが離れるに伴って、吸込ポート11から外歯31と内歯41との間に作動油が吸い込まれる。吸い込まれた作動油は、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4の回転に伴い、低圧領域から、昇圧領域を経て高圧領域へ運ばれる。
ハウジング10内の高圧領域においては、離れていたピニオンギヤ3の外歯31とリングギヤ4の内歯41とが次第に近づいて噛み合う。このことにより、作動油が、外歯31と内歯41との間から吐出ポート12を通じて吐き出される。
(ハウジング内の作動油の漏れを抑制する構成)
内接ギヤポンプ1は、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間に高圧の作動油を供給する高圧油供給部8を備えている。図3は、高圧油供給部8の構成を例示している。図3は、図2のIII−III断面に相当する。
高圧油供給部8は、高圧の作動油によって、リングギヤ4を、昇圧領域の外周囲からリングギヤ4の回転中心Oの方へと押して移動させ、ハウジング10内で作動油が漏れることを抑制する。高圧油供給部8は、摺動面51に開口する導入口81と、吐出ポート12と導入口81とをつなぐ油路82と、油路82に設けられた絞り83とを有している。
導入口81は、図2に示すように、昇圧領域に位置している。より詳細に、導入口81は、クレセント54に対し、径方向に向かい合っている。導入口81は、後述するように、吐出ポート12から吐出される高圧の作動油の一部を、ハウジング10内に導入する。ハウジング10内に導入した高圧の作動油が低圧領域へと流れることを抑制するために、導入口81は、昇圧領域のうち、昇圧領域の中間位置から高圧側の領域が好ましい。導入口81は、高圧側の領域のうち、クレセント54の第二円弧面542の端点と回転中心Oを結ぶ線から周方向に、10〜40°の角度φだけ離れた位置に設けることがさらに好ましい。また、導入口81から導入した高圧の作動油によって、リングギヤ4の歯先をクレセント54に効果的に押し付けるために、導入口81は、クレセント54に向かい合って設けることが好ましい。
導入口81は、図3に例示するように、摺動面51において、シャフト2の軸方向の中央位置又は略中央位置に設けられている。導入口81の開口形状は、図3の構成例では、円形状である。尚、導入口81の開口形状は特定の形状に限定されない。
油路82は、図3の構成例では、ギヤハウジング5内に設けられている。油路82は、ギヤハウジング5の側面52に開口する吐出ポート12と、導入口81とをつないでいる。尚、図3に一点鎖線によって仮想的に示すように、油路は、フロントカバー6に設けた吐出ポート12と、導入口81とをつなぐように、フロントカバー6及びギヤハウジング5に設けてもよい。また、油路は、ギヤハウジング5に設けた吐出ポート12と、導入口81とをつなぐと共に、フロントカバー6に設けた吐出ポート12と、導入口81とをつなぐようにしてもよい。
絞り83は、油路82の断面積を縮小するように構成されている。絞り83は、オリフィスであってもよいし、チョークであってもよい。吐出ポート12から導入口81に向かって油路82内を流れる作動油は、絞り83によって減圧される。導入口81と通じてギヤハウジング5内に導入する作動油の圧力は、吐出ポート12から吐出される作動油の圧力よりも低下している。ギヤハウジング5内に導入する作動油の圧力は、絞り83の構造を変更することによって、調整することができる。
前述したように、内接ギヤポンプ1の運転中に、吐出ポート12から吐出された作動油の一部は、油路82及び導入口81を通じて、リングギヤ4の外周面とギヤハウジング5の摺動面51との間に導入される。高圧の作動油によって、リングギヤ4は、昇圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押されて移動する。これにより、リングギヤ4の歯先がクレセント54に押し付けられるから、昇圧領域において、リングギヤ4の歯先とクレセント54との間を通って作動油が漏れることが抑制される。また、高圧領域において、リングギヤ4の外周面とギヤハウジング5の摺動面51との間を通って作動油が漏れることも抑制される。ハウジング10内の漏れを抑制することによって、内接ギヤポンプ1の効率が向上する。
ここで、油路82に絞り83を設けることによって、ハウジング10内に導入する作動油の圧力を下げているため、リングギヤ4の歯先がクレセント54に強く押し付けられることが抑制される。リングギヤ4の歯先が摩耗してしまうことが抑制される。
また、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間に導入した作動油は、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間の潤滑油としても機能する。これにより、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きが抑制される。また、前述したように、ハウジング10内の漏れを抑制しているため、ハウジング10内の発熱を抑制することができる。このことによっても、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きが抑制される。
内接ギヤポンプ1はまた、凹部9を有している。図4は、凹部9の構成を例示している。図4は、図2のIV−IV断面に相当する。
凹部9は、ギヤハウジング5の摺動面51に設けられている。凹部9は、図5に拡大して示すように、摺動面51から径方向の外方に凹んでいる。尚、図5は、理解を容易にするために、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間の大きさを誇張して描いている。凹部9によって、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間隔は、部分的に広がる(図5のL参照)。
凹部9は、図4の構成例では、シャフト2の軸方向に延びる溝形状を有している。凹部9の深さは、例えば1〜数ミリ程度としてもよい。
凹部9の形状は、溝形状に限らない。後述するように、凹部9は、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間に生じるくさび効果を低減する機能を有していればよい。凹部9は、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間隔を部分的に広げるものであればよい。凹部9は、図示は省略するが、例えば摺動面51から凹んだ複数の穴によって構成してもよい。また、凹部9は、長さの短い複数の溝を、シャフト2の軸方向に並べることによって構成してもよい。尚、図4に示すような溝形状の凹部9は、加工が容易という利点がある。
また、凹部9は、図4に示すように、一つのみ設けてもよい。図示は省略するが、凹部9は、摺動面51の周方向に、複数、設けてもよい。
凹部9は、図2に示すように、高圧領域に設けられている。前述したように、高圧油供給部8の導入口81から導入される高圧の作動油によって、リングギヤ4は、昇圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押されて移動している。高圧領域においてリングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間が小さくなるから、くさび効果が生じる(図5の矢印参照)。凹部9は、くさび効果が生じる高圧領域のうち、くさび効果が大きく生じる箇所の近傍に設けることが好ましい。より具体的に、凹部9は、図2に示すように、ピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛合点Aに対し、周方向に10〜40°の角度θだけ離れた位置に設けてもよい。角度θが大きすぎると(つまり、凹部9がピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛合点Aから離れると)、くさび効果が大きく生じる箇所から離れた位置になるため、後述する、くさび効果を低減する機能が弱くなる。また、角度θが小さすぎると(つまり、凹部9がピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛合点Aに近づくと)、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間を通じて作動油が漏れることが助長される恐れがある。
尚、ピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛合点Aの位置は、両ギヤ3、4が共に回転するので、一定の範囲で周方向に移動する。ここでは、移動範囲の中心点を噛合点Aとする(図2参照)。
凹部9は、高圧油供給部8とは異なり、高圧の作動油をギヤハウジング5内に導入する機能を有していない。凹部9は、吐出ポート12とは非接続である。
高圧領域における摺動面51に、凹部9を設けることによって、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間隔が、部分的に広くなるから、くさび効果が低減する。くさび効果が低減するため、内接ギヤポンプ1の回転数が高いときに、リングギヤ4が高圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押されて移動することが抑制される。その結果、高圧領域において、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間を通じて作動油が漏れることが抑制される。それと共に、昇圧領域において、リングギヤ4の内歯41とクレセント54との間から作動油が漏れることも抑制される。尚、内接ギヤポンプ1が低回転数で運転しているときには、くさび効果がもともと低いから、高圧領域において、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間を通じて作動油が漏れることが抑制されると共に、昇圧領域において、リングギヤ4の内歯41とクレセント54との間から作動油が漏れることも抑制される。
前述したように、凹部9は吐出ポート12とは非接続であり、高圧の作動油を導入する機能を有していない。ここで、仮に凹部9を通じて高圧の作動油をハウジング10内に導入するよう構成すると、リングギヤ4は、高圧の作動油によって高圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押される。高圧領域において、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間を通じて作動油が漏れることが助長される恐れがある。また、昇圧領域において、リングギヤ4の内歯41とクレセント54との間から作動油が漏れることが助長される恐れがある。凹部9を、吐出ポート12とは非接続にすることによって、内接ギヤポンプ1のハウジング10内における作動油の漏れを抑制することが可能になる。
従来の内接ギヤポンプは、加工精度が相対的に低くかつ、リングギヤの外周面に潤滑コーティングが形成されていなかったため、摺動面に設けた複数の導入口のそれぞれからハウジング内に高圧の作動油を導入することにより、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きを抑制する構成を採用しなければならなかった。
これに対し、今は加工精度が相対的に高くなった上に、内接ギヤポンプ1は、リングギヤ4の外周面42に潤滑コーティングを形成している。内接ギヤポンプ1は、複数の導入口を通じて作動油をハウジング内に導入する構成を採用しなくても、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きを抑制することができる。
そこで、この内接ギヤポンプ1は、昇圧領域には高圧油供給部8の導入口81を設けることにより、高圧の作動油をハウジング10内に導入する一方、高圧領域には、高圧の作動油を導入しない凹部9を設けている。高圧油供給部8と凹部9との組み合わせによって、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きを抑制しながら、ハウジング10内の作動油の漏れを抑止することが可能になる。この内接ギヤポンプ1は、信頼性が高くかつ、高効率である。
尚、ギヤハウジング5の摺動面51に潤滑コーティングを形成してもよいし、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51の両面に潤滑コーティングを形成してもよい。
図6は、高圧油供給部の変形例を示している。図6に示す高圧油供給部80は、導入口810と、油路820と、絞り830とを有している。導入口810は、図3に示す導入口81と形状が異なり、溝形状を有している。導入口810は、摺動面51に開口していると共に、シャフト2の軸方向に延びている。導入口810はまた、ギヤハウジング5の、フロントカバー6の側面61との当接面にも開口している。
油路820は、図6の構成例では、フロントカバー6に設けられている。油路820は、前記の油路82と同様に、吐出ポート12と導入口810とをつなぐ。図6の構成例において、油路820は、シャフト2の軸方向に延びている。油路820は、フロントカバー6の側面61に開口し、導入口810の開口に接続される。また、絞り830は、油路820の途中に設けられている。
この構成の高圧油供給部80も、前記の高圧油供給部8と同様に、昇圧領域において、高圧の作動油をハウジング10内に導入することができる。これにより、リングギヤ4の歯先とクレセント54との間の作動油の漏れ、及び、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間の作動油の漏れを抑制することができる。
尚、油路は、図6に一点鎖線で示すように、フロントカバー6の、ギヤハウジング5との接合面から凹陥すると共に、径方向に延びる凹溝によって構成してもよい。また、図示は省略するが、油路及び絞りは、ギヤハウジング5に設けてもよい。
尚、凹部9は、吐出ポート12とは非接続である。しかしながら、凹部9を、吐出ポート12に接続してもよい。但し、この場合、凹部9を通じてリングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間に導入された作動油によって、リングギヤ4が、昇圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押されて移動しないことが好ましい。
ここに例示する内接ギヤポンプ1は、クレセント54が動かない固定式に構成しているが、可動式のクレセントを設けてもよい。また、ここに開示する技術は、クレセントを備えていない内接ギヤポンプに適用することも可能である。クレセントを備えていない内接ギヤポンプにおいて、前述した高圧油供給部8と凹部9との組み合わせは、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きを抑制しながら、リングギヤ4の歯先とピニオンギヤ3の歯先との間の作動油の漏れ、及び、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間の作動油の漏れを抑制することができる。
但し、吸入ポートまたは吐出ポートが摺動面に開口している形式の内接ギヤポンプは、元々くさび効果が発生しない。この形式の内接ギヤポンプに、ここに開示する技術を適用しても、その効果は期待できない。
1 内接ギヤポンプ
10 ハウジング
3 ピニオンギヤ
31 外歯
4 リングギヤ
41 内歯
42 外周面
5 ギヤハウジング
51 摺動面
54 クレセント
6 フロントカバー
7 リヤカバー
8 高圧油供給部
80 高圧油供給部
81 導入口
810 導入口
82 油路
820 油路
83 絞り
830 絞り
9 凹部
ここに開示する技術は、内接ギヤポンプに関する。
特許文献1には、外歯のドライブギヤと内歯のドリブンギヤとを備えた内接ギヤポンプが記載されている。特許文献1の内接ギヤポンプは、ドライブギヤとドリブンギヤとが噛み合う噛合点の反対側において、ポンプハウジングの周面にポケットを形成している。ポケットは、内接ギヤポンプの吐出ポートに連通している。内接ギヤポンプが運転しているときに、吐出ポートから吐出される高圧の作動油の一部が、ポケットを通じてドリブンギヤとハウジングとの間に導入される。
ドリブンギヤとドライブギヤとの間には、ドリブンギヤの歯先とドライブギヤの歯先とが当たることによりシールされる三日月状の空間が形成されている。ポケットから吐出された高圧の作動油は、ドリブンギヤの歯先をドライブギヤの歯先に押し付けるように、ドリブンギヤを押す。三日月状の空間内の作動油が、ドリブンギヤの歯先とドライブギヤの歯先との間から漏れることが抑制される。
特許文献2にも、ハウジング内の作動油の漏れを抑制する内接ギヤポンプが記載されている。特許文献2の内接ギヤポンプは、ハウジングの内周面に、油溝を形成している。油溝は、吐出ポートにつながっていると共に、三日月状の空間に対応する位置まで周方向に伸びている。内接ギヤポンプの運転中、油溝を通じてハウジング内に導入される高圧の作動油がアウタロータを押す。作動油が、アウタロータの内歯とインナロータの外歯との間から漏れることが抑制される。
特許文献3に記載された内接ギヤポンプは、ハウジングの内周面に、二本の圧力バランス溝を設けている。二本の圧力バランス溝は、吐出ポートが開口する高圧領域に、周方向に間隔を空けて設けられている。二本の圧力バランス溝はそれぞれ、吐出ポートにつながっている。内接ギヤポンプが運転しているときには、二本の圧力バランス溝のそれぞれを通じて、高圧の作動油が、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との間に供給される。リングギヤがハウジングに対してフロート状態で回転をするから、リングギヤの焼き付きが抑制される。
実開昭61−179385号公報
特開平7−151066号公報
実開昭62−158181号公報
特許文献1や特許文献2に記載されているように、高圧の作動油をリングギヤの外周面とハウジングの内周面との間に供給する内接ギヤポンプは、低回転数で運転しているときには、ピニオンギヤの外歯とリングギヤの内歯との噛み合いが離れる昇圧領域において、外歯と内歯との間から作動油が漏れることを抑制することができる。このことに加えて、前記の構成の内接ギヤポンプは、高圧領域においても、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間が小さくなるから、作動油が高圧領域から、吸込ポートが開口する低圧領域へ漏れることを抑制することができる。
しかしながら、前記の構成の内接ギヤポンプが高回転数で運転しているときには、ハウジング内の作動油の漏れが増えることに、本願発明者は気づいた。
ここに開示する技術は、内接ギヤポンプのハウジング内の作動油の漏れを抑制する。
高圧の作動油をリングギヤの外周面とハウジングの内周面との間に供給することによって、リングギヤが、昇圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へと押されて移動すると、前述したように、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間が小さくなる。内接ギヤポンプの運転中は、リングギヤの回転に伴い、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間において、いわゆる「くさび効果」が発生する。尚、「くさび効果」は、リングギヤの回転に伴い、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との間の狭い隙間に、作動油が引きずり込まれることによって、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との間の油膜の圧力が高くなる現象をいう。
内接ギヤポンプが低回転で運転しているときは、くさび効果が低いので、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間が小さく、作動油の漏れは少ない。
しかしながら、内接ギヤポンプが高回転数で運転しているときは、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間のくさび効果が高まって、リングギヤが、高圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へと押されて移動することを、本願発明者は見いだした。リングギヤが、くさび効果によって、高圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へ押されて移動すると、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間が大きくなり、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との隙間からの作動油の漏れが増えてしまうだけでなく、昇圧領域においても、ピニオンギヤの外歯とリングギヤの内歯との間からの作動油の漏れが増えてしまう。
本願発明者は、前述した知見を得たことから、くさび効果を低減するために、リングギヤの外周面とハウジングの内周面との間隔を部分的に広げることにした。そして、ハウジングの内周面の特定の位置に凹部を設けることによって、高回転数で運転中の内接ギヤポンプのハウジング内において、作動油の漏れが抑制されることを確認し、ここに開示する技術を完成するに至った。
具体的に、ここに開示する内接ギヤポンプは、外歯を有するピニオンギヤと、前記外歯に噛み合う内歯が内周面に設けられたリングギヤと、前記ピニオンギヤと前記リングギヤとの噛み合いが離れる箇所に設けられかつ、前記外歯及び前記内歯のそれぞれが当接するクレセントと、前記リングギヤの外周面が摺動する摺動面を有しかつ、前記ピニオンギヤ及び前記リングギヤを回転可能に収容するハウジングと、前記摺動面に開口する導入口を有しかつ、前記導入口を通じて前記リングギヤの外周面と前記摺動面との間に高圧の作動油を供給する高圧油供給部と、前記リングギヤの外周面と前記摺動面との間隔が広がるように、前記摺動面に設けられた凹部と、を備える。
そして、前記ハウジング内の空間は、吸込ポートが開口する低圧領域と、吐出ポートが開口する高圧領域と、前記クレセントが配設されている昇圧領域との三領域に区分され、前記導入口は、前記昇圧領域に位置し、前記凹部は、前記導入口から離れていると共に、前記高圧領域に位置している。
この構成によると、ピニオンギヤ及びリングギヤは、低圧領域から、昇圧領域を経て、高圧領域に至る方向に回転する。
内接ギヤポンプの運転中には、昇圧領域に位置する導入口から、高圧の作動油が、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との間に導入される。高圧の作動油によって、リングギヤは、昇圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へと押されて移動し、リングギヤの内歯はクレセントに押し付けられる。昇圧領域において、リングギヤの内歯とクレセントとの間から作動油が漏れることが抑制される。また、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との間から作動油が漏れることが抑制される。
リングギヤが昇圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方に押されているため、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジング摺動面との間には、くさび効果が生じる。高圧領域の摺動面には、凹部が設けられている。凹部は、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との間隔を、部分的に広くする。凹部は、くさび効果を低減する。
くさび効果が低減するため、内接ギヤポンプが高回転数で運転しているときに、リングギヤが高圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へ押されて移動することが抑制される。その結果、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との隙間を通じて作動油が漏れることが抑制される。また、昇圧領域において、リングギヤの内歯とクレセントとの間から作動油が漏れることが抑制される。
尚、内接ギヤポンプが低回転数で運転しているときには、くさび効果が高くならないため、高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との隙間を通じて作動油が漏れることが抑制される。また、昇圧領域において、リングギヤの内歯とクレセントとの間から作動油が漏れることが抑制される。
また、導入口を通じてリングギヤの外周面とハウジング摺動面との間に導入される作動油は、リングギヤとハウジングとの間の潤滑油としても機能する。リングギヤとハウジングとの間の焼き付きが抑制される。
さらに、前述したように、ハウジング内の作動油の漏れを防止することによって、ハウジング内の発熱を抑制することができる。このことによっても、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きを抑制することができる。
前記凹部は、溝形状を有している、としてもよい。
溝形状の凹部は、くさび効果を効果的に低減することができる。また、溝形状の凹部は、ハウジングの摺動面に、容易に形成することができる。
前記凹部は、前記吐出ポートに非接続である、としてもよい。
凹部は、前述したように、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との間の間隔を広げることによって、くさび効果を低減する機能を発揮する。凹部は、高圧の作動油をハウジング内に導入する機能は必要ではない。
また、仮に凹部を通じて高圧の作動油をハウジング内に導入するよう構成すると、リングギヤは、凹部から導入した高圧の作動油によって、高圧領域の外周囲からリングギヤの回転中心の方へと押される。高圧領域において、リングギヤの外周面とハウジングの摺動面との隙間を通じて作動油が漏れることが助長される恐れがある。また、昇圧領域において、リングギヤの内歯とクレセントとの間から作動油が漏れることが助長される恐れがある。
昇圧領域に位置する導入口から高圧の作動油を導入することと、高圧領域に位置する凹部によってくさび効果を低減することと、を組み合わせることにより、ハウジング内の作動油の漏れを抑制することと、リングギヤの焼き付きを防止することとが両立する。
前記高圧油供給部は、前記吐出ポートと前記導入口とをつなぐ油路と、前記油路に設けられかつ、前記作動油の圧力を下げる絞りと、を有している、としてもよい。
導入口を通じてハウジング内に導入する作動油の圧力が高すぎると、リングギヤの歯先が、クレセントへ押し付けられる力が強くなりすぎる。リングギヤの歯の摩耗が進行しやすくなる。そこで、油路内に絞りを設けることによって、ハウジング内に導入する作動油の圧力を調整してもよい。
また、ハウジング内に導入する作動油の圧力を調整することと、凹部によって、くさび効果を低減することとを組み合わせることにより、ハウジング内の作動油の漏れを抑制することと、リングギヤとハウジングとの間の潤滑性を確保することとが、バランスする。
前記リングギヤの外周面には、潤滑コーティングが形成されている、としてもよい。
こうすることで、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きが抑制される。従来の内接ギヤポンプは、加工精度が相対的に低くかつ、リングギヤの外周面に潤滑コーティングが形成されていなかったため、特許文献3に記載されているように、二つのバランス溝を通じて作動油をハウジング内に導入することにより、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きを抑制しなければならなかった。
これに対し、今は加工精度が高くなった上に、前記のようにリングギヤの外周面に潤滑コーティングを形成することによって、二つのバランス溝を通じて作動油をハウジング内に導入しなくても、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きを抑制することができる。
前記凹部は、前記ピニオンギヤと前記リングギヤとが噛み合う噛合点に対し、周方向に10〜40°の角度だけ離れた位置に設けられている、としてもよい。
前記の内接ギヤポンプによると、ハウジング内の作動油の漏れを抑制することができる。
図1は、内接ギヤポンプの断面図である。
図2は、図1のII−II線端面図である。
図3は、図2のIII−III線断面図、及び、A方向から見た矢視図である。
図4は、図2のIV−IV線断面図、及び、B方向から見た矢視図である。
図5は、内接ギヤポンプの運転時における、ピニオンギヤ及びリングギヤの噛み合い箇所付近を拡大して示す拡大断面図である。
図6は、図3とは異なる高圧油供給部の構成を示す断面図、及び、C方向から見た矢視図である。
以下、内接ギヤポンプ1の実施形態について、図面を参照しながら説明をする。尚、以下の説明は、内接ギヤポンプ1の一例である。
(内接ギヤポンプの全体構成)
図1は、内接ギヤポンプ1の断面図である。図2は、図1のII−II線端面図である。内接ギヤポンプ1は、シャフト2と、ピニオンギヤ3と、リングギヤ4と、ギヤハウジング5と、フロントカバー6と、リヤカバー7と、を備えている。尚、図2においては、理解を容易にするために、シャフト2、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4には、端面を示すハッチングの図示を省略している。
シャフト2は、図1における紙面左右方向に伸びている。シャフト2は、図示を省略する原動機に接続されている。原動機は、例えば電気モータである。
ピニオンギヤ3は、シャフト2に固定されている。ピニオンギヤ3とシャフト2とは同軸である。ピニオンギヤ3は、シャフト2と共に回転する。ピニオンギヤ3は、外歯31を有している。
リングギヤ4は、ピニオンギヤ3に噛み合う。リングギヤ4は、シャフト2に対して偏心して配置されている。リングギヤ4の内周面には、内歯41が形成されている。図2の紙面右側の領域において、ピニオンギヤ3の外歯31の一部がリングギヤ4の内歯41の一部に噛み合う。尚、図面では示さないが、リングギヤ4の外周面42には、潤滑コーティングが設けられている。潤滑コーティングは、例えば無機材料とフッ素系樹脂とを含む材料によって構成してもよい。
ギヤハウジング5は、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4を収容する。ギヤハウジング5には、貫通孔53が形成されている。シャフト2は、貫通孔53内に位置する。
ピニオンギヤ3及びリングギヤ4は、回転可能に、ギヤハウジング5に収容される。ギヤハウジング5は、リングギヤ4の外周面42が摺動する摺動面51を有している。リングギヤ4の外周面42は、横断面円形状を有している。ギヤハウジング5の摺動面51も、横断面円形状を有している。摺動面51は、シャフト2に対して偏心している。
ギヤハウジング5は、摺動面51に直交する側面52を有している。摺動面51及び側面52は、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4を収容する空間50を形成する。当該空間50は、図1における紙面左側に開放されている。ピニオンギヤ3の第一側面(図1の右の側面)32、及び、リングギヤ4の第一側面(図1の右の側面)43はそれぞれ、ギヤハウジング5の側面52を摺動する。
フロントカバー6は、ギヤハウジング5に隣接して配設されている。フロントカバー6は、ギヤハウジング5に接すると共に、空間50を閉じる側面61を有している。ピニオンギヤ3の第二側面(図1の左の側面)33、及び、リングギヤ4の第二側面(図1の左の側面)44はそれぞれ、フロントカバー6の側面61を摺動する。フロントカバー6には、シャフト2が通る支持孔62が貫通して形成されている。シャフト2は、ベアリング63と軸受部材64、64とを介して、フロントカバー6に支持されている。
リヤカバー7は、ギヤハウジング5を間に挟んで、フロントカバー6とは反対側に配設されている。フロントカバー6、ギヤハウジング5、及び、リヤカバー7は、互いに固定されることによって一体化している。フロントカバー6、ギヤハウジング5及びリヤカバー7によって、内接ギヤポンプ1のハウジング10が構成されている。
フロントカバー6及びギヤハウジング5には、空間50の内部、言い替えるとハウジング10の内部に作動油を吸い込む吸込ポート11が形成されている。吸込ポート11の入口は、図1に示すように、フロントカバー6の外周面に開口している。吸込ポート11の出口は、フロントカバー6の側面61及びギヤハウジング5の側面52のそれぞれに開口している。吸込ポート11の出口はまた、図2に示すように、シャフト2の回転方向に沿うように、周方向に延びている。
フロントカバー6、ギヤハウジング5、及びリヤカバー7には、ハウジング10の内部から作動油を吐き出す吐出ポート12が形成されている。吐出ポート12の出口は、図1に示すように、リヤカバー7の外周面に開口している。尚、吸込ポート11の入口の向きと、吐出ポート12の出口の向きとは、図1に例示するように同じ方向であってもよいし、図示は省略するが、異なる方向であってもよい。
吐出ポート12の入口は、フロントカバー6の側面61及びギヤハウジング5の側面52のそれぞれに開口している。吐出ポート12の入口はまた、図2に示すように、吸込ポート11に対して、シャフト2を挟んだ反対側において、シャフト2の回転方向に沿うように、周方向に延びている。
ギヤハウジング5には、クレセント54が設けられている。クレセント54は、ピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛み合いが離れる箇所に配設されている。クレセント54は、後述する高圧領域と低圧領域とを分離する。
クレセント54は、シャフト2の回転方向に沿うように、所定の角度範囲に亘って周方向に伸びている。より詳細に、クレセント54は、第一円弧面541と、第二円弧面542との二つの円弧面を有し、第一円弧面541及び第二円弧面542はそれぞれ、ギヤハウジング5の側面52に立設している(図3も参照)。クレセント54は、図2に示すように、シャフト2の軸方向に沿って見たときに、三日月形状を有している。ピニオンギヤ3の外歯31の歯先は、クレセント54の第一円弧面541に当接する。リングギヤ4の内歯41の歯先は、クレセント54の第二円弧面542に当接する。
ここで、ハウジング10内は、リングギヤ4の回転中心Oを中心として周方向に、吸込ポート11が開口する低圧領域と、クレセント54が配設されている昇圧領域と、吐出ポート12が開口する高圧領域との三領域に分けることができる。
次に、内接ギヤポンプ1の運転を簡単に説明する。原動機によってシャフト2が、図2の白抜きの矢印の方向に回転すると、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4がそれぞれ、低圧領域から、昇圧領域を経て、高圧領域に至る方向に回転する。
ハウジング10内の低圧領域において、噛み合っていたピニオンギヤ3の外歯31とリングギヤ4の内歯41とが離れるに伴って、吸込ポート11から外歯31と内歯41との間に作動油が吸い込まれる。吸い込まれた作動油は、ピニオンギヤ3及びリングギヤ4の回転に伴い、低圧領域から、昇圧領域を経て高圧領域へ運ばれる。
ハウジング10内の高圧領域においては、離れていたピニオンギヤ3の外歯31とリングギヤ4の内歯41とが次第に近づいて噛み合う。このことにより、作動油が、外歯31と内歯41との間から吐出ポート12を通じて吐き出される。
(ハウジング内の作動油の漏れを抑制する構成)
内接ギヤポンプ1は、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間に高圧の作動油を供給する高圧油供給部8を備えている。図3は、高圧油供給部8の構成を例示している。図3は、図2のIII−III断面に相当する。
高圧油供給部8は、高圧の作動油によって、リングギヤ4を、昇圧領域の外周囲からリングギヤ4の回転中心Oの方へと押して移動させ、ハウジング10内で作動油が漏れることを抑制する。高圧油供給部8は、摺動面51に開口する導入口81と、吐出ポート12と導入口81とをつなぐ油路82と、油路82に設けられた絞り83とを有している。
導入口81は、図2に示すように、昇圧領域に位置している。より詳細に、導入口81は、クレセント54に対し、径方向に向かい合っている。導入口81は、後述するように、吐出ポート12から吐出される高圧の作動油の一部を、ハウジング10内に導入する。ハウジング10内に導入した高圧の作動油が低圧領域へと流れることを抑制するために、導入口81は、昇圧領域のうち、昇圧領域の中間位置から高圧側の領域が好ましい。導入口81は、高圧側の領域のうち、クレセント54の第二円弧面542の端点と回転中心Oを結ぶ線から周方向に、10〜40°の角度φだけ離れた位置に設けることがさらに好ましい。また、導入口81から導入した高圧の作動油によって、リングギヤ4の歯先をクレセント54に効果的に押し付けるために、導入口81は、クレセント54に向かい合って設けることが好ましい。
導入口81は、図3に例示するように、摺動面51において、シャフト2の軸方向の中央位置又は略中央位置に設けられている。導入口81の開口形状は、図3の構成例では、円形状である。尚、導入口81の開口形状は特定の形状に限定されない。
油路82は、図3の構成例では、ギヤハウジング5内に設けられている。油路82は、ギヤハウジング5の側面52に開口する吐出ポート12と、導入口81とをつないでいる。尚、図3に一点鎖線によって仮想的に示すように、油路は、フロントカバー6に設けた吐出ポート12と、導入口81とをつなぐように、フロントカバー6及びギヤハウジング5に設けてもよい。また、油路は、ギヤハウジング5に設けた吐出ポート12と、導入口81とをつなぐと共に、フロントカバー6に設けた吐出ポート12と、導入口81とをつなぐようにしてもよい。
絞り83は、油路82の断面積を縮小するように構成されている。絞り83は、オリフィスであってもよいし、チョークであってもよい。吐出ポート12から導入口81に向かって油路82内を流れる作動油は、絞り83によって減圧される。導入口81と通じてギヤハウジング5内に導入する作動油の圧力は、吐出ポート12から吐出される作動油の圧力よりも低下している。ギヤハウジング5内に導入する作動油の圧力は、絞り83の構造を変更することによって、調整することができる。
前述したように、内接ギヤポンプ1の運転中に、吐出ポート12から吐出された作動油の一部は、油路82及び導入口81を通じて、リングギヤ4の外周面とギヤハウジング5の摺動面51との間に導入される。高圧の作動油によって、リングギヤ4は、昇圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押されて移動する。これにより、リングギヤ4の歯先がクレセント54に押し付けられるから、昇圧領域において、リングギヤ4の歯先とクレセント54との間を通って作動油が漏れることが抑制される。また、高圧領域において、リングギヤ4の外周面とギヤハウジング5の摺動面51との間を通って作動油が漏れることも抑制される。ハウジング10内の漏れを抑制することによって、内接ギヤポンプ1の効率が向上する。
ここで、油路82に絞り83を設けることによって、ハウジング10内に導入する作動油の圧力を下げているため、リングギヤ4の歯先がクレセント54に強く押し付けられることが抑制される。リングギヤ4の歯先が摩耗してしまうことが抑制される。
また、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間に導入した作動油は、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間の潤滑油としても機能する。これにより、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きが抑制される。また、前述したように、ハウジング10内の漏れを抑制しているため、ハウジング10内の発熱を抑制することができる。このことによっても、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きが抑制される。
内接ギヤポンプ1はまた、凹部9を有している。図4は、凹部9の構成を例示している。図4は、図2のIV−IV断面に相当する。
凹部9は、ギヤハウジング5の摺動面51に設けられている。凹部9は、図5に拡大して示すように、摺動面51から径方向の外方に凹んでいる。尚、図5は、理解を容易にするために、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間の大きさを誇張して描いている。凹部9によって、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間隔は、部分的に広がる(図5のL参照)。
凹部9は、図4の構成例では、シャフト2の軸方向に延びる溝形状を有している。凹部9の深さは、例えば1〜数ミリ程度としてもよい。
凹部9の形状は、溝形状に限らない。後述するように、凹部9は、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間に生じるくさび効果を低減する機能を有していればよい。凹部9は、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間隔を部分的に広げるものであればよい。凹部9は、図示は省略するが、例えば摺動面51から凹んだ複数の穴によって構成してもよい。また、凹部9は、長さの短い複数の溝を、シャフト2の軸方向に並べることによって構成してもよい。尚、図4に示すような溝形状の凹部9は、加工が容易という利点がある。
また、凹部9は、図4に示すように、一つのみ設けてもよい。図示は省略するが、凹部9は、摺動面51の周方向に、複数、設けてもよい。
凹部9は、図2に示すように、高圧領域に設けられている。前述したように、高圧油供給部8の導入口81から導入される高圧の作動油によって、リングギヤ4は、昇圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押されて移動している。高圧領域においてリングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間が小さくなるから、くさび効果が生じる(図5の矢印参照)。凹部9は、くさび効果が生じる高圧領域のうち、くさび効果が大きく生じる箇所の近傍に設けることが好ましい。より具体的に、凹部9は、図2に示すように、ピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛合点Aに対し、周方向に10〜40°の角度θだけ離れた位置に設けてもよい。角度θが大きすぎると(つまり、凹部9がピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛合点Aから離れると)、くさび効果が大きく生じる箇所から離れた位置になるため、後述する、くさび効果を低減する機能が弱くなる。また、角度θが小さすぎると(つまり、凹部9がピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛合点Aに近づくと)、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間を通じて作動油が漏れることが助長される恐れがある。
尚、ピニオンギヤ3とリングギヤ4との噛合点Aの位置は、両ギヤ3、4が共に回転するので、一定の範囲で周方向に移動する。ここでは、移動範囲の中心点を噛合点Aとする(図2参照)。
凹部9は、高圧油供給部8とは異なり、高圧の作動油をギヤハウジング5内に導入する機能を有していない。凹部9は、吐出ポート12とは非接続である。
高圧領域における摺動面51に、凹部9を設けることによって、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間隔が、部分的に広くなるから、くさび効果が低減する。くさび効果が低減するため、内接ギヤポンプ1の回転数が高いときに、リングギヤ4が高圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押されて移動することが抑制される。その結果、高圧領域において、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間を通じて作動油が漏れることが抑制される。それと共に、昇圧領域において、リングギヤ4の内歯41とクレセント54との間から作動油が漏れることも抑制される。尚、内接ギヤポンプ1が低回転数で運転しているときには、くさび効果がもともと低いから、高圧領域において、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間を通じて作動油が漏れることが抑制されると共に、昇圧領域において、リングギヤ4の内歯41とクレセント54との間から作動油が漏れることも抑制される。
前述したように、凹部9は吐出ポート12とは非接続であり、高圧の作動油を導入する機能を有していない。ここで、仮に凹部9を通じて高圧の作動油をハウジング10内に導入するよう構成すると、リングギヤ4は、高圧の作動油によって高圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押される。高圧領域において、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との隙間を通じて作動油が漏れることが助長される恐れがある。また、昇圧領域において、リングギヤ4の内歯41とクレセント54との間から作動油が漏れることが助長される恐れがある。凹部9を、吐出ポート12とは非接続にすることによって、内接ギヤポンプ1のハウジング10内における作動油の漏れを抑制することが可能になる。
従来の内接ギヤポンプは、加工精度が相対的に低くかつ、リングギヤの外周面に潤滑コーティングが形成されていなかったため、摺動面に設けた複数の導入口のそれぞれからハウジング内に高圧の作動油を導入することにより、リングギヤとハウジングとの間の焼き付きを抑制する構成を採用しなければならなかった。
これに対し、今は加工精度が相対的に高くなった上に、内接ギヤポンプ1は、リングギヤ4の外周面42に潤滑コーティングを形成している。内接ギヤポンプ1は、複数の導入口を通じて作動油をハウジング内に導入する構成を採用しなくても、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きを抑制することができる。
そこで、この内接ギヤポンプ1は、昇圧領域には高圧油供給部8の導入口81を設けることにより、高圧の作動油をハウジング10内に導入する一方、高圧領域には、高圧の作動油を導入しない凹部9を設けている。高圧油供給部8と凹部9との組み合わせによって、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きを抑制しながら、ハウジング10内の作動油の漏れを抑止することが可能になる。この内接ギヤポンプ1は、信頼性が高くかつ、高効率である。
尚、ギヤハウジング5の摺動面51に潤滑コーティングを形成してもよいし、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51の両面に潤滑コーティングを形成してもよい。
図6は、高圧油供給部の変形例を示している。図6に示す高圧油供給部80は、導入口810と、油路820と、絞り830とを有している。導入口810は、図3に示す導入口81と形状が異なり、溝形状を有している。導入口810は、摺動面51に開口していると共に、シャフト2の軸方向に延びている。導入口810はまた、ギヤハウジング5の、フロントカバー6の側面61との当接面にも開口している。
油路820は、図6の構成例では、フロントカバー6に設けられている。油路820は、前記の油路82と同様に、吐出ポート12と導入口810とをつなぐ。図6の構成例において、油路820は、シャフト2の軸方向に延びている。油路820は、フロントカバー6の側面61に開口し、導入口810の開口に接続される。また、絞り830は、油路820の途中に設けられている。
この構成の高圧油供給部80も、前記の高圧油供給部8と同様に、昇圧領域において、高圧の作動油をハウジング10内に導入することができる。これにより、リングギヤ4の歯先とクレセント54との間の作動油の漏れ、及び、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間の作動油の漏れを抑制することができる。
尚、油路は、図6に一点鎖線で示すように、フロントカバー6の、ギヤハウジング5との接合面から凹陥すると共に、径方向に延びる凹溝によって構成してもよい。また、図示は省略するが、油路及び絞りは、ギヤハウジング5に設けてもよい。
尚、凹部9は、吐出ポート12とは非接続である。しかしながら、凹部9を、吐出ポート12に接続してもよい。但し、この場合、凹部9を通じてリングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間に導入された作動油によって、リングギヤ4が、昇圧領域の外周囲から回転中心Oの方へと押されて移動しないことが好ましい。
ここに例示する内接ギヤポンプ1は、クレセント54が動かない固定式に構成しているが、可動式のクレセントを設けてもよい。また、ここに開示する技術は、クレセントを備えていない内接ギヤポンプに適用することも可能である。クレセントを備えていない内接ギヤポンプにおいて、前述した高圧油供給部8と凹部9との組み合わせは、リングギヤ4とギヤハウジング5との間の焼き付きを抑制しながら、リングギヤ4の歯先とピニオンギヤ3の歯先との間の作動油の漏れ、及び、リングギヤ4の外周面42とギヤハウジング5の摺動面51との間の作動油の漏れを抑制することができる。
但し、吸入ポートまたは吐出ポートが摺動面に開口している形式の内接ギヤポンプは、元々くさび効果が発生しない。この形式の内接ギヤポンプに、ここに開示する技術を適用しても、その効果は期待できない。
1 内接ギヤポンプ
10 ハウジング
3 ピニオンギヤ
31 外歯
4 リングギヤ
41 内歯
42 外周面
5 ギヤハウジング
51 摺動面
54 クレセント
6 フロントカバー
7 リヤカバー
8 高圧油供給部
80 高圧油供給部
81 導入口
810 導入口
82 油路
820 油路
83 絞り
830 絞り
9 凹部