本開示は、可撓性を有する電磁波吸収シート、特に、数十ギガヘルツ(GHz)から数百ギガヘルツ(GHz)のいわゆるミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能な電磁波吸収シートに関する。
電気回路などから外部へと放出される漏洩電磁波や、不所望に反射した電磁波の影響を回避するために、電磁波を吸収する電磁波吸収シートが用いられている。
近年は、携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などで、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波、さらには、30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数を有するミリ波帯、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、1テラヘルツ(THz)の周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。
このようなより高い周波数の電磁波を利用する技術トレンドに対応して、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収体やユーザの利便性を向上したシート状の電磁波吸収体である電磁波吸収シートにおいても、ミリ波帯域からそれ以上の帯域の電磁波を吸収可能とするものへの要望は、より高くなることが考えられる。
このような電磁波吸収シートとして、誘電体層の一方の表面に抵抗皮膜が、他方の表面に電磁波を反射する電磁波遮蔽層がそれぞれ形成され、反射波の位相を入射波に対して1/2波長分ずらすことで電磁波吸収シートへの入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する、いわゆる電磁波干渉型(λ/4型、または、反射型とも称される)の電磁波吸収シートが知られている。電磁波干渉型の電磁波吸収シートは、比重の大きな磁性体粒子によって磁気的に電磁波を吸収する方式の電磁波吸収シートなどと比べて軽量であり、容易に製造することができるため低コスト化が可能という利点を有している。
従来、いわゆる電磁波干渉型の電磁波吸収シート(電磁波吸収体)として、誘電体層の表面に形成される抵抗皮膜を、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの金属酸化物、金属窒化物ないしはこれらの混合体を、イオンプレーティング法、蒸着法、スパッタリング法などによって形成したものが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
また、電磁波干渉型の電磁波吸収体として、酸化インジウム錫(ITO)膜などの透明導電体の抵抗層と、ガラス、アクリル樹脂などの透明な誘電体層と、この誘電体層に形成された、銀、金、銅、アルミなどの金属からなる反射膜とを備えた、難燃性と透光性とを有する電磁波吸収体が提案されている(特許文献3参照)。
特開平06−120689号公報
特開平09−232787号公報
特開2006− 86446号公報
上記従来の電磁波吸収シートや電磁波吸収体では、誘電体層の表面に形成される抵抗皮膜の面抵抗値を377Ω/sq近傍の値とするインピーダンス整合を行って、電磁波が吸収シートの表面で反射・散乱することによる電磁波吸収効果の低下を防いでいる。
一方、電磁波干渉型の電磁波吸収シートでは、吸収する電磁波が高周波となるにしたがって誘電体層の厚さが薄くなるため、より高い可撓性を有するようになる。より薄く、容易に湾曲させることができる電磁波吸収シートは、貼付可能な場所が広がって使用者の利便性が向上するが、使用者に強く曲げられてしまう機会が増える。このとき、スパッタリング法などによって形成された金属酸化膜などによる抵抗皮膜は強く曲げられることでひびが入りやすく、表面抵抗値が大きくなってインピーダンス整合が崩れてしまい、電磁波吸収特性が低下するという問題がある。
また、光を透過する透光性を備え、かつ、可撓性を備えた電磁波吸収シートは、従来は実現されていなかった。
本開示は、上記従来の課題を解決し、ミリ波帯域以上の周波数帯域の電磁波を良好に吸収することができ、低コストで作製可能な電磁波干渉型の電磁波吸収シートを実現することを目的とする。
上記課題を解決するため本願で開示する電磁波吸収シートは、導電性有機高分子によって形成された抵抗皮膜と、粘着性を有する誘電体層と、電磁波遮蔽層とが順次積層された電磁波干渉型の電磁波吸収シートであって、シート全体が可撓性を有し、前記誘電体層がミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能な層厚に設定されていることを特徴とする。
本願で開示する電磁波吸収シートは、抵抗皮膜が導電性有機高分子によって形成されているため、シートが強く曲げられた場合でもインピーダンス整合を維持して高い電磁波吸収特性を保ち続けることができる。また、誘電体層自体が粘着性を有するため、抵抗皮膜および電磁波遮蔽層と誘電体層との接着を容易に行うことができ、低コストでありながらミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能であり、可撓性を備えた利便性の高い電磁波吸収シートを実現することができる。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を説明する断面図である。
開口率の検討に用いた電磁波遮蔽層の形状を説明するモデル図である。
本願で開示する電磁波吸収シートは、導電性有機高分子によって形成された抵抗皮膜と、粘着性を有する誘電体層と、電磁波遮蔽層とが順次積層された電磁波干渉型の電磁波吸収シートであって、シート全体が可撓性を有し、前記誘電体層がミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能な層厚に設定されている。
なお、本願発明において「誘電体層が粘着性を有する」とは、誘電体層自体が粘着性を有し、別途形成された接着層を介さずとも、積層された抵抗被膜および電磁波遮蔽層と接着された層として一体化される状態であることを意味する。また、「粘着性を有する誘電体層」は、誘電体層を構成する部材(例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂)として粘着性を有するものを用いること、または、誘電体層にシリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、およびウレタン系粘着剤などの粘着剤を添加して粘着性を持たせることにより、実現することができる。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収シートは、抵抗皮膜と誘電体層と電磁波遮蔽層とが積層して形成された電磁波干渉型の電磁波吸収シートとして、強く湾曲された場合でも抵抗皮膜にひび割れなどが生じにくく、インピーダンス整合を維持して高い電磁波吸収特性を発揮することができる。また、誘電体層自体が粘着性を有するため、誘電体層と抵抗皮膜、また、誘電体層と電磁波遮蔽層との接着を容易に行うことができるため、電磁波吸収シート全体として可撓性を有しミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能な電磁波吸収シートを低コストで実現することができる。
本願で開示する電磁波吸収シートにおいて、前記抵抗皮膜と、前記誘電体層とが、いずれも透光性を有するとともに、前記電磁波遮蔽層が導電メッシュにより構成され、シート全体で全光線透過率30%以上の透光性を有することが好ましい。このようにすることで、透光性を有する電磁波吸収シートとして、さらに高い利便性を備えることができる。
また、前記誘電体層が、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、およびウレタン系粘着剤の少なくとも1種の粘着剤を含むことが好ましい。これらの粘着剤は、いずれも透光性が高いいわゆるOCA材料であり、抵抗被膜と誘電体層と電磁波遮蔽層とを良好に接着できるとともに、シート全体の高い光学特性を実現できる。
さらに、前記電磁波遮蔽層の表面抵抗値が、0.3Ω/sq以下であることが好ましい。 また、前記電磁波遮蔽層の開口率が35〜85%であることが好ましい。このようにすることで、透光性を有するとともに高い電磁波吸収特性を実現する電磁波遮蔽層とすることができる。
さらにまた、前記抵抗皮膜に、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン)を含むことが好ましい。このようにすることで、シート全体が強く湾曲された場合でもインピーダンス整合が維持され、高い電磁波吸収特性を備えた電磁波吸収シートを実現することができる。
また、前記電磁波遮蔽層の前記誘電体層とは反対側の表面に接着層を有することができる。このようにすることで、電磁波吸収シートを所望の場所に容易に貼着できて、利便性がさらに向上する。
以下、本願で開示する電磁波吸収シートについて、図面を参照して説明する。以下の実施の形態では、電磁波吸収シートが可撓性を備えるとともに、シート全体として光を透過する透光性を備えたものを例示する。
(実施の形態)
まず、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの全体構成について説明する。
図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。
なお、図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
本実施形態で例示する電磁波吸収シートは、電磁波干渉型(λ/4型、反射型)の電磁波吸収シートであり、抵抗皮膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3が積層されて形成されている。なお、図1に示す電磁波吸収シートでは、電磁波遮蔽層3の背面側、すなわち、電磁波遮蔽層3において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、接着層4が積層形成されている。また、抵抗皮膜1の前面側、すなわち、抵抗皮膜1において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、保護層5が積層形成されている。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、誘電体層2に入射した電磁波11が、誘電体層2の背面側に配置されている電磁波遮蔽層3と誘電体層2との界面で反射されて、反射波12として再び外部へと放出される。このとき、誘電体層2の厚さdを、入射した電磁波の波長λの1/4とする(d=λ/4)ことで、入射波11の位相11aと反射波12の位相12aとが打ち消し合って電磁波吸収シートに入射した電磁波を吸収する。
なお、d=λ/4となるのは、誘電体層2として空気(誘電率ε=1)が用いられる場合であり、誘電体層2に用いられる誘電体の誘電率がεrである場合には、d=λ/(4√εr)となって誘電体層2の厚さdを、1/(4√εr)だけ薄くすることができる。誘電体層2を薄く形成することで、電磁波吸収シート全体の薄型化を実現でき、より可撓性に優れた電磁波吸収シートを実現することができる。
また、本実施形態に示す電磁波吸収シートでは、誘電体層2が粘着性を有している。誘電体層2としては、樹脂、粘着剤などの粘着性を有する有機材料を用いることができる。
誘電体層2の背面側に積層して形成される電磁波遮蔽層3は、誘電体層2との境界面である誘電体層2側の表面で入射してきた電磁波を反射する層である。
本実施形態にかかる、電磁波干渉型の電磁波吸収シートにおける電磁波吸収の原理から、電磁波遮蔽層3は電磁波を反射する反射層として機能することが必要である。また、本実施形態として示す電磁波吸収シートが可撓性と透光性とを有するためには、電磁波遮蔽層としても可撓性と透光性とを備えることが必要である。このような要求に対応できる電磁波遮蔽層3としては、導電性の繊維により構成された導電性メッシュや、極細線の金属などの導電性ワイヤーにより構成された導電性格子を用いることができる。
なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、誘電体層2と電磁波遮蔽層3とが接して配置されることで、誘電体層2の粘着性によって電磁波遮蔽層3と誘電体層2とが密着した状態にすることができる。 抵抗皮膜1は、誘電体層2の前面側、すなわち誘電体層2の電磁波遮蔽層3が積層されている側とは反対の側の、吸収される電磁波が入射する側に形成され、電磁波吸収シートと空気との間のインピーダンス整合を行う。
空気中を伝搬してきた電磁波が電磁波吸収シートに入射する際、電磁波吸収シートの入力インピーダンス値を空気中のインピーダンス値(実際には真空のインピーダンス値)である377Ωに近づけることで、電磁波吸収シートへの電磁波の入射時に電磁波の反射・散乱が生じて電磁波吸収特性が低下することを防ぐことができる。本実施形態の電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜1を導電性有機高分子の膜として形成することで、電磁波吸収シートとしての可撓性を確保するとともに、電磁波吸収シートが強く折り曲げられた場合でも抵抗皮膜1のひび割れなどが生じず、表面抵抗値が変化せずに良好なインピーダンス整合を維持することができる。
接着層4は、電磁波吸収シートを所定の場所に容易に貼り付けることができるように、電磁波遮蔽層3の背面側に形成される層である。接着層4は、粘着性の樹脂ペーストを塗布することで容易に形成できる。
なお、接着層4は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて必須の部材ではない。電磁波吸収シートを所定の場所に配置するに当たっては、電磁波吸収シートが貼り付けられる部材側に接着のための部材が配置されていてもよく、また、電磁波吸収シートを所定の場所に配置する際に、電磁波吸収シートと配置場所との間に接着剤を供給する、または、両面テープを用いるなどの接着方法を採用することができる。
保護層5は、抵抗皮膜1の表面、すなわち、電磁波吸収シートにおいて電磁波が入射する側の最表面に形成され、抵抗皮膜1を保護する部材である。
本実施形態の電磁波吸収シートの抵抗皮膜1を形成する導電性有機高分子は、空気中の湿度の影響によりその表面抵抗値が変化する場合がある。また、樹脂製の膜であるために、表面に尖った部材が接触した場合や、硬い材質のもので擦られた場合には、傷が付く畏れがある。このため、抵抗皮膜1の表面を保護層5で覆って抵抗皮膜1を保護することが好ましい。
なお、保護層5は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて必須の構成要件ではなく、導電性有機高分子の材料によって、表面への水分の付着に伴う表面抵抗値の変化や抵抗皮膜1の表面が傷つくことへの懸念が小さい場合には、保護層5がない電磁波吸収シートの構成を選択可能である。
保護層5としては、後述のようにポリエチレンテレフタレートなどの樹脂材料を用いることができる。保護層5として用いられる樹脂材料は一定の抵抗値を有するが、保護層5の膜厚を薄く設定することで、保護層5の有無による電磁波吸収シートの表面抵抗値への影響を、インピーダンス整合を行う上で実用上問題ないレベルとすることができる。
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する各部材について詳述する。
[抵抗皮膜]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、抵抗皮膜1は、導電性有機高分子で構成される。
導電性有機高分子としては、共役導電性有機高分子が用いられ、ポリチオフェンやその誘導体、ポリピロールやその誘導体を用いることが好ましい。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの抵抗皮膜1に用いられることが好適なポリチオフェン系導電性高分子の具体例としては、ポリ(チオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)等が挙げられる。
また、抵抗皮膜1に用いられることが好適なポリピロール系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)等が挙げられる。
この他にも、抵抗皮膜1としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子を使用することができ、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、および、これらの共重合体等を用いることができる。
なお、抵抗皮膜に用いられる導電性有機高分子として、ポリアニオンをカウンターアニオンとして用いることができる。ポリアニオンとしては特に限定されないが、上述した抵抗皮膜に用いられる共役導電性有機高分子に、化学酸化ドープを生じさせることができるアニオン基を含有するものが好ましい。このようなアニオン基としては、例えば、一般式−O−SO3X、−O−PO(OX)2、−COOX、−SO3Xで表される基等(各式中、Xは水素原子またはアルカリ金属原子を示す。)が挙げられ、中でも、共役導電性有機高分子へのドープ効果に優れることから、−SO3X、および、−O−SO3Xで表される基が特に好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 これらポリアニオンのなかでも、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
上記導電性有機高分子は、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。上記例示した材料の中でも、透光性と導電性とがより高くなることから、ポリピロール、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)から選ばれる1種または2種からなる重合体が好ましい。
特に、共役系の導電性有機高分子とポリアニオンの組み合わせとしては、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン:PEDOT)と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いることが好ましい。
また、本実施形態にかかる抵抗皮膜1においては、導電性有機高分子の電気伝導度を制御して、電磁波吸収シートの入力インピーダンスを空気中のインピーダンス値と整合させるために、ドーパントを併用することができる。ドーパントとしては、ヨウ素、塩素等のハロゲン類、BF3、PF5等のルイス酸類、硝酸、硫酸等のプロトン酸類や、遷移金属、アルカリ金属、アミノ酸、核酸、界面活性剤、色素、クロラニル、テトラシアノエチレン、TCNQ等が使用できる。より具体的には、抵抗皮膜1の表面抵抗値を377Ωに対してプラス/マイナス数%程度の値にすることが好ましく、このとき、導電性有機高分子とドーパントとの配合割合は、一例として質量比で導電性高分子:ドーパント=1:2〜1:4とすることができる。
さらに、抵抗皮膜1を形成する材料としては、他にポリフッ化ビニリデンを含むことが好ましい。
ポリフッ化ビニリデンは、導電性有機高分子をコーティングする際の組成物に加えることで、導電性有機高分子膜の中でバインダーとしての機能を果たし、成膜性を向上させるとともに基材との密着性を高めることができる。
また、さらに、抵抗被膜1に水溶性ポリエステルを含むことが好ましい。水溶性ポリエステルは導電性高分子との相溶性が高いため、抵抗皮膜1を形成する導電性有機高分子のコーティング組成物に水溶性ポリエステルを加えることで抵抗皮膜1内において導電性高分子を固定化させ、より均質な皮膜を形成することができる。この結果、水溶性ポリエステルを用いることで、より厳しい高温高湿環境下におかれた場合でも表面抵抗値の変化が小さくなり、空気中のインピーダンス値とのインピーダンス整合がなされた状態を維持することができる。
抵抗皮膜1にポリフッ化ビニリデン、水溶性ポリエステルを含むことで、抵抗皮膜1の耐候性が向上するため、抵抗皮膜1の表面抵抗値の経時的な変化が抑えられて、安定した電磁波吸収特性を維持することができる信頼性の高い電磁波吸収シートを実現することができる。
抵抗皮膜1における導電性有機高分子の含有量は、抵抗皮膜1組成物に含まれる固形分の全質量に対して、10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。含有量が10質量%を下回ると、抵抗皮膜1の導電性が低下する傾向にある。このため、空気中のインピーダンス値とのインピーダンス整合をとることが困難になり、電磁波吸収性能が低下する。また、インピーダンス整合をとるために抵抗皮膜1の表面電気抵抗値を所定の範囲とすると抵抗皮膜1の膜厚が大きくなることによって、電磁波吸収シート全体が厚くなり、透光性などの光学特性が低下する傾向がある。一方、含有量が35質量%を超えると、導電性有機高分子の構造に起因して抵抗皮膜1をコーティングする際の塗布適性が低下して、良好な抵抗皮膜1を形成しづらくなり、抵抗皮膜1のヘイズが上昇して、やはり光学特性が低下する傾向にある。
なお、抵抗皮膜1は、上述のように抵抗皮膜の形成用塗料としてのコーティング組成物を基材の上に塗布して乾燥することにより形成することができる。
抵抗皮膜形成用塗料を基材の上に塗布する方法としては、例えば、バーコート法、リバース法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、ディッピング法、スピンコート法、スリットコート法、スプレーコート法等の塗布方法を用いることができる。塗布後の乾燥は、抵抗皮膜形成用塗料の溶媒成分が蒸発する条件であればよく、100〜150℃で5〜60分間行うことが好ましい。溶媒が抵抗皮膜1に残っていると強度が劣る傾向にある。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、加熱乾燥法、真空乾燥法、自然乾燥等により行うことができる。また、必要に応じて、塗膜にUV光(紫外線)やEB(電子線)を照射して塗膜を硬化させることで抵抗皮膜1を形成してもよい。
なお、抵抗皮膜1を形成するために用いられる基材としては特に限定されないが、透光性を有する透明基材が好ましい。このような透明基材の材質としては、例えば、樹脂、ゴム、ガラス、セラミックス等の種々のものが使用できる。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、上述した導電性有機高分子を用いて表面抵抗値が377Ω/sqの抵抗皮膜1を構成することで、電磁波吸収シートに入射する電磁波に対して空気中のインピーダンスと整合させることができ、電磁波吸収シート表面での電磁波の反射や散乱を低下させてより良好な電磁波吸収特性を得ることができる。
[誘電体層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの誘電体層2は、透光性を有し、かつ、粘着性を有する材料である透明光学粘着フィルム(OCAフィルム:Optical Clear Adhesive Film)を好適に用いることができる。
より具体的には、シリコーン系OCAであるMHMSI−500(商品名:日栄加工株式会社製)、アクリル系OCAであるMHM−FWV(商品名:日栄加工株式会社製)、ウレタン系OCAであるFree Crystal (商品名:バンドー化学株式会社製)、を用いることができる。
なお、上述の各材料の中でシリコーンOCAは、耐熱性、耐寒性の観点で他の材料よりも優れている。このため、シリコーンOCAを用いて作製された電磁波吸収シートは、使用場所として環境温度上の制約が少ない点で好ましい材料である。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、誘電体層2が粘着性を有することで、樹脂製材料の薄膜として形成される抵抗被膜1と誘電体層2との接着を、誘電体層2上に抵抗被膜1を積層することによって実現できる。このため、誘電体層2が粘着性を有していない場合に必要な、抵抗被膜1と誘電体層2とを貼り合わせる工程(例えば、ラミネート加工工程など)が不要となり、電磁波吸収シートの製造を簡素化して製造コストを低減することができる。なお、抵抗被膜1と誘電体層2を積層した状態で適宜ラミネートすることで、より高い接着力で接着することができる場合がある。
また、透光性を有する電磁波吸収シートとするために、電磁波遮蔽層3として導電性メッシュや導電性格子材料を用いる場合にも、誘電体層2が有する粘着性によって電磁波遮蔽層3を誘電体層2の背面側に密接した状態で配置することができる。誘電体層2が有する粘着性としては、180°ピール粘着力試験法による測定結果として、8〜35N/25mmであることが好ましい。粘着力が8N/25mm以下の場合は誘電体層2と電磁波遮蔽層3とが剥離しやすくなってしまい、35N/mm以上であると粘着が強すぎて貼り直し時のリワーク性が低下して、電磁波吸収シートの製造上の制約が大きくなる。
なお、誘電体層2は、1種の材料で1層の構成として形成することができ、また、同種、異種の材料を2層以上積層した構成とすることもできる。誘電体層2の形成には、塗布法やプレス成型法、押出成型法などを用いることができる。
上述のように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収シートに入射した電磁波と電磁波遮蔽層3で反射された反射波との位相を1/2波長ずらすことで、入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートである。このため、誘電体層の厚さ(図1におけるd)は、吸収しようとする電磁波の波長に対応して定められる。
なお、dの値は、抵抗皮膜1と電磁波遮蔽層3との間が空間となっている場合、すなわち、誘電体層2が空気で形成されている場合は、d=λ/4が成り立つが、誘電体層2を誘電率εrの材料で形成した場合には、d=λ/(4(√εr))となるため、誘電体層2を構成する材料として、材料自体が有する誘電率が大きなものを用いることで誘電体層2の厚さdの値を、1/√εr小さくすることができ、電磁波吸収シート全体の厚さを低減させることができる。本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、可撓性を有するものであることから、電磁波吸収シートを構成する誘電体層2や電磁波吸収シート自体の厚さが小さいほど容易に湾曲させることができてより好ましい。また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートが、後述する接着層4などを介して電磁波の漏洩を防ぎたい部材に貼着して使用されることが多いことを考慮すると、電磁波吸収シートの厚みが薄く容易に貼着部分の形状に沿うこと、また、シートがより軽量化されていることが好ましい。
このように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、誘電体層2として用いられる誘電体の誘電率εrの値や、誘電体層2の厚みを調整することで、当該誘電体層2を備えた電磁波吸収シートでミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収可能なように制御することができる。また、誘電体層2が粘着性を有することで、抵抗皮膜1と誘電体層2、さらには、後述する電磁波遮蔽層3と誘電体層2とを密着して配置することができる。電磁波干渉型の電磁波吸収シートでは、各層間に隙間があるとこの隙間部分が誘電率を持ってしまって誘電体層2の誘電率が所定の値からずれて、吸収する電磁波の周波数が変動するという不都合が生じるが、本実施形態の粘着性を有する誘電体層では、そのような不都合な事態が生じることを良好に回避することができる。
[電磁波遮蔽層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波遮蔽層3は、誘電体層2を介して電磁波吸収シートの電磁波入射面の反対側(背面側)に配置された、抵抗皮膜1を貫通して入射した電磁波を反射させる部材である。
同時に、本実施形態の電磁波吸収シートが可撓性と透光性とを有することから、電磁波遮蔽層3は、少なくとも抵抗皮膜1と誘電体層2が湾曲した際には追従して湾曲する可撓性と、透光性とを有していることが必要である。
このような要求に対応できる電磁波遮蔽層3として、導電性の繊維により構成された導電性メッシュが採用できる。導電性メッシュは、一例としてポリエステルモノフィラメントで織ったメッシュに金属を付着させて導電性とすることで構成できる。金属としては、導電性の高い銅、銀などを用いることができる。また、メッシュの表面を覆う金属膜による反射を低減するために、金属膜のさらに外側に黒色の反射防止層を付与したものも製品化されている。
また、電磁波遮蔽層3としては、他にも、直径が数十から数百μmの細い銅線などの金属線が、縦横に配置された導電性格子を用いることができる。
なお、上述のメッシュや導電性格子による電磁波遮蔽層3は、可撓性と透光性とを確保するために、電磁波遮蔽層として求められる表面抵抗値を実現できる限りにおいて、最低限の厚さを有して構成されることとなる。また、導電性メッシュの繊維や導電性格子のワイヤーが傷ついたり、切断したりしてしまった場合には、所望する表面抵抗値を実現することが困難となる。このため、導電性格子のさらに背面側に、透光性を有する樹脂による補強層かつ保護層を形成して、導電性の材料による電磁波反射部分と樹脂製の膜部分との積層体として構成された電磁波遮蔽層3を用いることができる。
次に、電磁波遮蔽層の開口率と表面抵抗値との関係について検証してみた。
図2は、検証に用いた電磁波遮蔽層の形状を示すモデル図である。
図2に示すように、電磁波遮蔽層として、縦方向と横方向に金属ワイヤーが延在する格子状の金属メッシュを想定し、金属ワイヤーのピッチpを変化させたときの開口率と、導電部材としての金属ワイヤー形成する1つの格子をループとしてインダクタンス素子(コイル)として捉えて金属層としての導電率を計算した。
より具体的には、金属ワイヤーとして直径27μmのものを用いたと想定した。このとき、電磁波遮蔽層の開口率は、ピッチP=ワイヤーの直径L+ワイヤー間の間隙Sから、下記の式(1)として表される。
また、板状の電磁波遮蔽層に入射した電磁波の減衰量を遮断SEとしてdBで表すと、金属板の入出力インピーダンスをZ0、金属板の導電率をσ(Ω-1・m-1)、板の厚みをd(m)として、以下の式(2)として表される。
ここで、金属メッシュの一つ一つの升目をコイルとして考えて、金属板としての抵抗値R=1/(σ・d)をjωLに置き換えると、上記の式(2)は、以下の式(3)と変換できる。
ここで、ω=2πLであるから、電磁波の遮蔽SEは、以下の式(4)と表すことができる。
金属メッシュを構成するワイヤーのピッチPを変化させて、開口率(式(1))と遮断SE(式(4))とを求めた結果を表1に示す。
表1に示すように、電磁波の周波数が60〜90GHzの場合に、導電性メッシュを構成する金属線の間隔(P)が250μmの時、遮断SEとして99%の減衰量に相当する20dBを確保できる(20.2dB)。このとき、メッシュの開口率は85%であり、金属線の湾曲を考慮した導電性メッシュの透過率は66%であった。なお、上述のように、本実施形態の電磁波吸収シートでは、誘電体層に透過率が高い透明光学粘着フィルム(OCA)を使用することができ、電磁波遮蔽層の透過率がほぼそのまま電磁波吸収シートの透過率となる。
導電性メッシュを構成する金属線の間隔Pが170μmの時は開口率が75%、透過率が60%、遮断SEが21.2dBとなる。透光性を有する電磁波吸収シートとするためには、電磁波遮蔽層での全光線透過率は30%程度以上が必要であると考えられ、これを実現するための金属線の間隔Pは50μm、このときの開口率は35%、電磁波の減衰量を示す遮断SEは45.0dBであった。
以上の検討結果を踏まえると、電磁波遮蔽層3における電磁波遮蔽効果と電磁波遮蔽層3の光学特性とから、開口率が35〜85%であることが、導電性メッシュや導電性格子を用いた場合の良好な条件であるということができる。また、電磁波遮蔽層3として良好な電磁波反射特性を得るためには、表面抵抗値が0.3Ω/sq以下であることが好ましい条件であると判断することができる。
[接着層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、接着層4を設けることで、抵抗皮膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3との積層体である電磁波吸収シートを、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面などの所望の位置に貼着することができる。特に、本実施形態の電磁波吸収シートは可撓性を有するものであるため、湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、背面に接着層4を設けることで電磁波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。
接着層4としては、粘着テープなどの粘着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は、180°ピール粘着力試験法による測定結果として、5N/10mm〜12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
また接着層4の厚さは、20μm〜100μmが好ましい。接着層4の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層4の厚さが100μmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また接着層の凝集力が小さい場合は、電磁波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。また、電磁波吸収シート全体としての可撓性を低下させる要因となる。
なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートに用いられる接着層4としては、電磁波吸収シートを被着物体に剥離不可能に貼着する接着層4とすることができるとともに、剥離可能な貼着を行う接着層4とすることもできる。また、前述のように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、接着層4を備えた構成とすることは必須の要件ではなく、電磁波吸収シートを所望する部材に対して、従来一般的な各種の接着方法を用いて接着することができる。
[保護層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜1の表面である電磁波の入射面側に保護層5を設けることができる。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、抵抗皮膜1として用いられている導電性有機高分子は、空気中の湿度の影響を受けてその表面抵抗値が変化する場合がある。このため、抵抗皮膜1の表面に保護層5を設けることで湿度の影響を小さくして、インピーダンス整合による電磁波の吸収特性が低下することを効果的に抑制できる。
本実施形態の電磁波吸収シートにおいて保護層5としては、一例として、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートを用いることができ、これを、樹脂材料の接着剤によって抵抗皮膜1の表面に貼り付けて構成することができる。
なお、保護層5は、抵抗皮膜1の表面全体を覆う膜とすることで、抵抗皮膜1への空気中の湿度による影響を防ぐことができる。樹脂製の膜として形成される保護層5の表面抵抗値の成分は、積層される抵抗皮膜1の表面抵抗値の成分に対して並列接続されたものとして影響すると考えられる。このため、保護層5の厚みが厚くなりすぎなければ、電磁波吸収シートの入力インピーダンスに与える影響は極めて小さいと考えられる。また、電磁波吸収シートとしての入力インピーダンスとして、保護層5の表面抵抗値の影響を考慮した上で、抵抗皮膜1の表面抵抗値をより適した数値に設定することも可能である。
保護層5の厚みとしては、抵抗皮膜1を保護できる範囲においてより薄いことが好ましい。具体的には、保護層5の厚みは、150μm以下が好ましく100μm以下であればより好ましい。保護層の厚みが150μmを超えると、電磁波の吸収性能が低下して電磁波吸収量が20dBを下回る場合がある。また、電磁波吸収シート全体の厚みが大きくなるので、可撓性が低下する。
[実施例]
以下、本実施形態にかかる電磁波吸収シートを実際に作製して、各種の特性を測定した結果について説明する。
<電磁波吸収シートの作製>
以下に記載する材料を用いて、本実施形態にかかる電磁波吸収シートとして、誘電体層にシリコーンOCAを用いた電磁波吸収シート(シート1、シート4、シート5)、誘電体層にアクリルOCAを用いた電磁波吸収シート(シート2)、誘電体層にウレタンOCAを用いた電磁波吸収シート(シート3)を作製した。また、比較例として、誘電体層にPETを用いた電磁波吸収シート(比較例1)を作製した。
[抵抗皮膜]
以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した
(1)導電性高分子分散体(PEDOT−PSS) 36.7部
(PH−1000(商品名:ヘレウス株式会社製))
固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.6部
LATEX32(商品名:アルケマ株式会社製)、
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)水溶性ポリエステル水溶液 0.6部
プラスコートZ561(商品名:瓦応化工業株式会社製)
固形分濃度 25質量%
(4)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.9部
(5)水溶性溶媒(エタノール) 30.0部
(6)水 17.2部。
実施例の電磁波吸収シート(シート1〜5)、および、比較例の電磁波吸収シートの抵抗皮膜は、いずれも、基材としてのポリエチレンテレフタレート製シート(50μm厚)上に、上述の組成で作製した抵抗皮膜液を、バーコート法によって乾燥後の厚さが約120nmとなる量を塗布し、その後150℃で5分加熱し成膜した。この場合の抵抗皮膜の表面抵抗は、いずれも377Ω/sqとなった。
[誘電体層]
実施例の電磁波吸収シートの誘電体層として、以下の部材を用いた。また、比較例1の電磁波吸収シートとして、以下の通りポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を用い、誘電体層以外をシート1と同様にして作製した。
シリコーンOCA
MHMSI−500(商品名:日栄加工株式会社製)
厚さ500μm 粘着力10N/25mm 誘電率3.0
アクリルOCA
MHM−FWV(商品名:日栄加工株式会社製)
厚さ500μm 粘着力30N/25mm 誘電率3.5
ウレタンOCA
Free Crystal (商品名:バンドー化学株式会社製)
厚さ500μm 粘着力25N/25mm 誘電率2.3
比較例1
PET U32(商品名:東レ株式会社製)
厚さ500μm(250μm+250μm)。
[電磁波遮蔽層]
電磁波遮蔽層は、シート1〜3では電磁波遮蔽層1としてセーレン株式会社製の導電メッシュSu−4X−13227(商品名:開口率75%)を用いて形成した。また、導電性メッシュの開口率の差による特性の変化を確認するために、誘電体層にシリコーンOCAを用いたシート4では電磁波遮蔽層2としてセーレン株式会社製の導電メッシュSu−4X−9027(商品名:開口率82%)を用いた。さらに、シート5では、電磁波遮蔽層3としてセーレン株式会社製の導電メッシュSu−4X−27036(商品名:開口率38%)を用いた。
なお、比較例の電磁波吸収シートの電磁波遮蔽層として、上述の開口率75%の電磁波遮蔽層1を用いた。
[シートの形成]
上記で説明した実施例の電磁波吸収シート1〜5では、各誘電体層が有する粘着力を用いて、まず、抵抗皮膜を誘電体層に貼り合わせ、さらに、電磁波遮蔽層である導電性メッシュを、誘電体層の抵抗皮膜を貼り合わせた面とは反対側の面に貼り合わせた。なお、比較例であるPETを誘電体層として用いた電磁波吸収シートは、厚さ20μmのアクリルOCAを用いて、抵抗皮膜と電磁波遮断層とを誘電体層に貼り合わせた。
[測定方法]
上述のようにした作製された実施例(シート1〜5)と比較例の電磁波吸収シートについて、全光線透過率とヘイズ値とを測定した。
なお、全光線透過率とヘイズ値については、日本電色株式会社製のHazeMeterNDH2000(製品名)を用い、JIS K7105に準拠して測定した。光源は、LightCを用いた。
また、電磁波吸収特性は、上記と同様フリースペース法により、キーコム株式会社製の自由区間測定装置と、アンリツ株式会社製のベクトルネットワークアナライザMS4647B(商品名)を用いて、各電磁波吸収シートに対して電磁波を照射した際の入射波と反射波の強度比をそれぞれ電圧値として把握した。
測定結果を以下の表2に示す。
表2に示すように、電磁波遮蔽層に開口率75%の導電性メッシュを用いた電磁波吸収シートの場合、誘電体層にシリコーンOCAを用いた電磁波吸収シート1では、全光線透過率が60%、ヘイズ値が12、誘電体層にアクリルOCAを用いた電磁波吸収シート2では、全光線透過率が60%、ヘイズ値が12、誘電体層にウレタンOCAを用いた電磁波吸収シート3では、全光線透過率が60%、ヘイズ値が12となった。
これに対し、電磁波遮蔽層に同じく開口率75%の導電性メッシュを用い、誘電体層にPETを用いた比較例の電磁波吸収シートでは、全光線透過率が59.9%、ヘイズ値が21であったため、実施例の電磁波吸収シートの光学特性は、いずれも比較例の電磁波吸収シートの光学特性よりも優れていることが確認できた。
また、電磁波遮蔽層に開口率82%の導電性メッシュを用い、誘電体層にシリコーンOCAを用いた電磁波吸収シート4では、全光線透過率が66%、ヘイズ値が7であり、導電性メッシュの開口率が75%から82%へと大きくなると、全光線透過率、ヘイズ値ともによくなって、歪みや滲みの少ない透過光像が得られる電磁波吸収シートが得られることが確認できた。一方、電磁波遮蔽層に開口率38%の導電性メッシュを用い、誘電体層にシリコーンOCAを用いた電磁波吸収シート5では、全光線透過率が30%、ヘイズ値が40であり、電磁波吸収特性としては高い値が得られるものの透光性という観点では許容範囲の特性であると言える。
これらの測定結果から、本実施形態にかかる電磁波吸収シートとして透光性を有する電磁波吸収シートとする場合には、シート全体での全光線透過率が30%以上の透光性を有することが好ましい。また、導電性メッシュにより構成される電磁波遮蔽層の表面抵抗値は0.3Ω/sq以下であることが好ましい。さらに、導電性メッシュの開口率は35〜85%であることが好ましく、実施例に基づくと38%〜82%であることがより好ましい。
[可撓性の確認]
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの可撓性について確認した。
上記作製した、電磁波吸収シート1、電磁波吸収シート2、電磁波吸収シート3、電磁波吸収シート4、および、電磁波吸収シート5それぞれを5×10cmの大きさに切り出し、初期値となる表面抵抗を測定し、表面抵抗値が377Ωであることを確認した。
次に、水平に配置された直径10mm、8mm、6mm、4mm、2mm、0.5mmの6種類の太さのアルミ製の円筒型棒(マンドレル)上に、抵抗皮膜が表向きになるようにして被せ、シートの両端に300gの錘を付けて30秒間維持して、シートの中央部分が曲がった状態で両端を下側に引っ張った。その後、再びそれぞれの電磁波吸収シートの表面抵抗を測定した。
結果、上記電磁波吸収シート1〜電磁波吸収シート5のいずれにおいても、抵抗皮膜の表面抵抗の値(377Ω)に変化が生じず、倍率100倍のマイクロスコープで各シートの表面を観察しても、表面にヒビなどが生じていないことが確認できた。
一方、可撓性の確認における比較例として抵抗皮膜を透明導電膜(ITO)で形成し、これ以外をシート1と同様にした電磁波吸収シート(比較例2のシート)を作製して同じ条件で確認してみたところ、アルミ製の円筒型棒の直径が10mmの場合は表面抵抗値の変化が認められなかったが、アルミ製の円筒型棒の直径が6mmの場合には、表面抵抗値は、750Ω/sqと約2倍に増加した。さらに、アルミ製の円筒型棒の直径が2mm、0.5mmと小さい場合は、表面抵抗値は無限大となってしまい、抵抗皮膜として使用できないものとなった。
以上の結果を踏まえて、本願で開示される電磁波吸収シートの有する可撓性としては、上述したアルミ製の円筒型棒を用いた可撓性試験において、試験終了後の表面抵抗値の変化が2倍より小さいことが好ましく、1.5倍以下であることが更に好ましいと言うことができる。
また、抵抗皮膜を透明導電膜(ITO)で形成した可撓性の確認における比較例の場合には、直径6mmのアルミ製の円筒型棒に巻き付けた電磁波吸収シートの表面に、クラックが入っていることが確認でき、直径0.5mmのアルミ製の円筒型棒に巻き付けた電磁波吸収シートの表面には、より多くのクラックが確認できた。
このことから、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜に導電性有機高分子を用いることで、シートの可撓性が向上し、シートを小さい径で強く折り曲げるような負荷がかかった場合でも、電磁波吸収特性を維持できることが確認できた。
以上説明したように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、吸収する電磁波が入射する側の表面に配置される抵抗皮膜1を導電性有機高分子で構成することで、電磁波吸収シートを強く折り曲げた場合でも電磁波吸収特性を維持することができる。また、抵抗被膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3をいずれも透光性を有する部材で構成することで、可撓性に加えて透光性を備えた電磁波吸収シートとすることができ、例えば、電磁波シールド状態に置かれる居室のカーテンなど、内部、もしくは、外部の様子を視認可能としつつも不所望な電磁波を吸収して透過させないことが求められる状況下で好適に使用できる。
さらに、誘電体層2が、粘着性を備えることで、抵抗被膜1と誘電体層2との接着、誘電体層2と電磁波遮蔽層3との接着を容易に行うことができる。このため、抵抗被膜1として導電性高分子を用い、また、電磁波遮蔽層3として導電性メッシュや導電性格子をもいた場合に、誘電体層との接着のために従来必要であった、ラミネート工程などの特別な接着工程が不要となり、電磁波吸収シートの製造コストを低減することができる。
(他の構成例について)
上記実施形態では、電磁波吸収シート全体として透光性を有し全光線透過率が30%以上のものを例示して説明した。しかし、本願で開示する電磁波吸収シートとして透光性を有することは必ずしも必要ではない。
シートに透光性が要求されない場合には、抵抗被膜、誘電体層、電磁波遮蔽層として透光性を有さない材料を用いて電磁波吸収シートを形成することができ、この場合においても、誘電体層が粘着性を有することで、可撓性を有しミリ波帯域以上の高い周波数の電磁波を吸収可能な電磁波干渉型の電磁波吸収シートを低コストで実現することができる。
電磁波吸収シートとして透光性を有する必要がない場合には、抵抗被膜を構成する導電性有機高分子材料や、適宜添加ドーパントなどの材料選択の余地が広がる。また、誘電体層を形成する材料としても、酸化チタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ガラス、シリコーンゴムなどの誘電体材料と各種の粘着性を有する材料とが混合された材料を選択することができる。
さらに、電磁波遮蔽層としては、メッシュや格子などの透光性を有する形態ではなく、金属箔や樹脂製基材の表面に金属が蒸着形成された反射性シートなどを、抵抗被膜や誘電体層が有する可撓性を妨げない範囲において適宜選択することができる。この場合において誘電体層の粘着性を利用して、誘電体層の背面側に金属箔や金属蒸着膜を貼り付けて、誘電体層と電磁波遮蔽層との間に間隙が生じないようにすることができる。
本願で開示する電磁波吸収シートは、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を安定して吸収することができ、可撓性を備えた低コストの電磁波吸収シートとして有用である。
1 抵抗皮膜
2 誘電体層
3 電磁波遮蔽層
4 接着層
5 保護層
本開示は、可撓性を有する電磁波吸収シート、特に、数十ギガヘルツ(GHz)から数百ギガヘルツ(GHz)のいわゆるミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能な電磁波吸収シートに関する。
電気回路などから外部へと放出される漏洩電磁波や、不所望に反射した電磁波の影響を回避するために、電磁波を吸収する電磁波吸収シートが用いられている。
近年は、携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などで、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波、さらには、30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数を有するミリ波帯、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、1テラヘルツ(THz)の周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。
このようなより高い周波数の電磁波を利用する技術トレンドに対応して、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収体やユーザの利便性を向上したシート状の電磁波吸収体である電磁波吸収シートにおいても、ミリ波帯域からそれ以上の帯域の電磁波を吸収可能とするものへの要望は、より高くなることが考えられる。
このような電磁波吸収シートとして、誘電体層の一方の表面に抵抗皮膜が、他方の表面に電磁波を反射する電磁波遮蔽層がそれぞれ形成され、反射波の位相を入射波に対して1/2波長分ずらすことで電磁波吸収シートへの入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する、いわゆる電磁波干渉型(λ/4型、または、反射型とも称される)の電磁波吸収シートが知られている。電磁波干渉型の電磁波吸収シートは、比重の大きな磁性体粒子によって磁気的に電磁波を吸収する方式の電磁波吸収シートなどと比べて軽量であり、容易に製造することができるため低コスト化が可能という利点を有している。
従来、いわゆる電磁波干渉型の電磁波吸収シート(電磁波吸収体)として、誘電体層の表面に形成される抵抗皮膜を、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの金属酸化物、金属窒化物ないしはこれらの混合体を、イオンプレーティング法、蒸着法、スパッタリング法などによって形成したものが知られている(特許文献1、特許文献2参照)。
また、電磁波干渉型の電磁波吸収体として、酸化インジウム錫(ITO)膜などの透明導電体の抵抗層と、ガラス、アクリル樹脂などの透明な誘電体層と、この誘電体層に形成された、銀、金、銅、アルミなどの金属からなる反射膜とを備えた、難燃性と透光性とを有する電磁波吸収体が提案されている(特許文献3参照)。
特開平06−120689号公報
特開平09−232787号公報
特開2006− 86446号公報
上記従来の電磁波吸収シートや電磁波吸収体では、誘電体層の表面に形成される抵抗皮膜の面抵抗値を377Ω/sq近傍の値とするインピーダンス整合を行って、電磁波が吸収シートの表面で反射・散乱することによる電磁波吸収効果の低下を防いでいる。
一方、電磁波干渉型の電磁波吸収シートでは、吸収する電磁波が高周波となるにしたがって誘電体層の厚さが薄くなるため、より高い可撓性を有するようになる。より薄く、容易に湾曲させることができる電磁波吸収シートは、貼付可能な場所が広がって使用者の利便性が向上するが、使用者に強く曲げられてしまう機会が増える。このとき、スパッタリング法などによって形成された金属酸化膜などによる抵抗皮膜は強く曲げられることでひびが入りやすく、表面抵抗値が大きくなってインピーダンス整合が崩れてしまい、電磁波吸収特性が低下するという問題がある。
また、光を透過する透光性を備え、かつ、可撓性を備えた電磁波吸収シートは、従来は実現されていなかった。
本開示は、上記従来の課題を解決し、ミリ波帯域以上の周波数帯域の電磁波を良好に吸収することができ、低コストで作製可能な電磁波干渉型の電磁波吸収シートを実現することを目的とする。
上記課題を解決するため本願で開示する電磁波吸収シートは、導電性有機高分子によって形成された抵抗皮膜と、粘着性を有する誘電体層と、電磁波遮蔽層とが順次積層された電磁波干渉型の電磁波吸収シートであって、シート全体が可撓性を有し、前記誘電体層がミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能な層厚に設定されていることを特徴とする。
本願で開示する電磁波吸収シートは、抵抗皮膜が導電性有機高分子によって形成されているため、シートが強く曲げられた場合でもインピーダンス整合を維持して高い電磁波吸収特性を保ち続けることができる。また、誘電体層自体が粘着性を有するため、抵抗皮膜および電磁波遮蔽層と誘電体層との接着を容易に行うことができ、低コストでありながらミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能であり、可撓性を備えた利便性の高い電磁波吸収シートを実現することができる。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を説明する断面図である。
開口率の検討に用いた電磁波遮蔽層の形状を説明するモデル図である。
本願で開示する電磁波吸収シートは、導電性有機高分子によって形成された抵抗皮膜と、粘着性を有する誘電体層と、電磁波遮蔽層とが順次積層された電磁波干渉型の電磁波吸収シートであって、シート全体が可撓性を有し、前記誘電体層がミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能な層厚に設定されている。
なお、本願発明において「誘電体層が粘着性を有する」とは、誘電体層自体が粘着性を有し、別途形成された接着層を介さずとも、積層された抵抗被膜および電磁波遮蔽層と接着された層として一体化される状態であることを意味する。また、「粘着性を有する誘電体層」は、誘電体層を構成する部材(例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂)として粘着性を有するものを用いること、または、誘電体層にシリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、およびウレタン系粘着剤などの粘着剤を添加して粘着性を持たせることにより、実現することができる。
このようにすることで、本願で開示する電磁波吸収シートは、抵抗皮膜と誘電体層と電磁波遮蔽層とが積層して形成された電磁波干渉型の電磁波吸収シートとして、強く湾曲された場合でも抵抗皮膜にひび割れなどが生じにくく、インピーダンス整合を維持して高い電磁波吸収特性を発揮することができる。また、誘電体層自体が粘着性を有するため、誘電体層と抵抗皮膜、また、誘電体層と電磁波遮蔽層との接着を容易に行うことができるため、電磁波吸収シート全体として可撓性を有しミリ波帯域以上の電磁波を吸収可能な電磁波吸収シートを低コストで実現することができる。
本願で開示する電磁波吸収シートにおいて、前記抵抗皮膜と、前記誘電体層とが、いずれも透光性を有するとともに、前記電磁波遮蔽層が導電メッシュにより構成され、シート全体で全光線透過率30%以上の透光性を有することが好ましい。このようにすることで、透光性を有する電磁波吸収シートとして、さらに高い利便性を備えることができる。
また、前記誘電体層が、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤、およびウレタン系粘着剤の少なくとも1種の粘着剤を含むことが好ましい。これらの粘着剤は、いずれも透光性が高いいわゆるOCA材料であり、抵抗被膜と誘電体層と電磁波遮蔽層とを良好に接着できるとともに、シート全体の高い光学特性を実現できる。
さらに、前記電磁波遮蔽層の表面抵抗値が、0.3Ω/sq以下であることが好ましい。 また、前記電磁波遮蔽層の開口率が35〜85%であることが好ましい。このようにすることで、透光性を有するとともに高い電磁波吸収特性を実現する電磁波遮蔽層とすることができる。
さらにまた、前記抵抗皮膜に、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン)を含むことが好ましい。このようにすることで、シート全体が強く湾曲された場合でもインピーダンス整合が維持され、高い電磁波吸収特性を備えた電磁波吸収シートを実現することができる。
また、前記電磁波遮蔽層の前記誘電体層とは反対側の表面に接着層を有することができる。このようにすることで、電磁波吸収シートを所望の場所に容易に貼着できて、利便性がさらに向上する。
以下、本願で開示する電磁波吸収シートについて、図面を参照して説明する。以下の実施の形態では、電磁波吸収シートが可撓性を備えるとともに、シート全体として光を透過する透光性を備えたものを例示する。
(実施の形態)
まず、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの全体構成について説明する。
図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。
なお、図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
本実施形態で例示する電磁波吸収シートは、電磁波干渉型(λ/4型、反射型)の電磁波吸収シートであり、抵抗皮膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3が積層されて形成されている。なお、図1に示す電磁波吸収シートでは、電磁波遮蔽層3の背面側、すなわち、電磁波遮蔽層3において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、接着層4が積層形成されている。また、抵抗皮膜1の前面側、すなわち、抵抗皮膜1において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、保護層5が積層形成されている。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、誘電体層2に入射した電磁波11が、誘電体層2の背面側に配置されている電磁波遮蔽層3と誘電体層2との界面で反射されて、反射波12として再び外部へと放出される。このとき、誘電体層2の厚さdを、入射した電磁波の波長λの1/4とする(d=λ/4)ことで、入射波11の位相11aと反射波12の位相12aとが打ち消し合って電磁波吸収シートに入射した電磁波を吸収する。
なお、d=λ/4となるのは、誘電体層2として空気(誘電率ε=1)が用いられる場合であり、誘電体層2に用いられる誘電体の誘電率がεrである場合には、d=λ/(4√εr)となって誘電体層2の厚さdを、1/(4√εr)だけ薄くすることができる。誘電体層2を薄く形成することで、電磁波吸収シート全体の薄型化を実現でき、より可撓性に優れた電磁波吸収シートを実現することができる。
また、本実施形態に示す電磁波吸収シートでは、誘電体層2が粘着性を有している。誘電体層2としては、樹脂、粘着剤などの粘着性を有する有機材料を用いることができる。
誘電体層2の背面側に積層して形成される電磁波遮蔽層3は、誘電体層2との境界面である誘電体層2側の表面で入射してきた電磁波を反射する層である。
本実施形態にかかる、電磁波干渉型の電磁波吸収シートにおける電磁波吸収の原理から、電磁波遮蔽層3は電磁波を反射する反射層として機能することが必要である。また、本実施形態として示す電磁波吸収シートが可撓性と透光性とを有するためには、電磁波遮蔽層としても可撓性と透光性とを備えることが必要である。このような要求に対応できる電磁波遮蔽層3としては、導電性の繊維により構成された導電性メッシュや、極細線の金属などの導電性ワイヤーにより構成された導電性格子を用いることができる。
なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、誘電体層2と電磁波遮蔽層3とが接して配置されることで、誘電体層2の粘着性によって電磁波遮蔽層3と誘電体層2とが密着した状態にすることができる。 抵抗皮膜1は、誘電体層2の前面側、すなわち誘電体層2の電磁波遮蔽層3が積層されている側とは反対の側の、吸収される電磁波が入射する側に形成され、電磁波吸収シートと空気との間のインピーダンス整合を行う。
空気中を伝搬してきた電磁波が電磁波吸収シートに入射する際、電磁波吸収シートの入力インピーダンス値を空気中のインピーダンス値(実際には真空のインピーダンス値)である377Ωに近づけることで、電磁波吸収シートへの電磁波の入射時に電磁波の反射・散乱が生じて電磁波吸収特性が低下することを防ぐことができる。本実施形態の電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜1を導電性有機高分子の膜として形成することで、電磁波吸収シートとしての可撓性を確保するとともに、電磁波吸収シートが強く折り曲げられた場合でも抵抗皮膜1のひび割れなどが生じず、表面抵抗値が変化せずに良好なインピーダンス整合を維持することができる。
接着層4は、電磁波吸収シートを所定の場所に容易に貼り付けることができるように、電磁波遮蔽層3の背面側に形成される層である。接着層4は、粘着性の樹脂ペーストを塗布することで容易に形成できる。
なお、接着層4は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて必須の部材ではない。電磁波吸収シートを所定の場所に配置するに当たっては、電磁波吸収シートが貼り付けられる部材側に接着のための部材が配置されていてもよく、また、電磁波吸収シートを所定の場所に配置する際に、電磁波吸収シートと配置場所との間に接着剤を供給する、または、両面テープを用いるなどの接着方法を採用することができる。
保護層5は、抵抗皮膜1の表面、すなわち、電磁波吸収シートにおいて電磁波が入射する側の最表面に形成され、抵抗皮膜1を保護する部材である。
本実施形態の電磁波吸収シートの抵抗皮膜1を形成する導電性有機高分子は、空気中の湿度の影響によりその表面抵抗値が変化する場合がある。また、樹脂製の膜であるために、表面に尖った部材が接触した場合や、硬い材質のもので擦られた場合には、傷が付く畏れがある。このため、抵抗皮膜1の表面を保護層5で覆って抵抗皮膜1を保護することが好ましい。
なお、保護層5は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて必須の構成要件ではなく、導電性有機高分子の材料によって、表面への水分の付着に伴う表面抵抗値の変化や抵抗皮膜1の表面が傷つくことへの懸念が小さい場合には、保護層5がない電磁波吸収シートの構成を選択可能である。
保護層5としては、後述のようにポリエチレンテレフタレートなどの樹脂材料を用いることができる。保護層5として用いられる樹脂材料は一定の抵抗値を有するが、保護層5の膜厚を薄く設定することで、保護層5の有無による電磁波吸収シートの表面抵抗値への影響を、インピーダンス整合を行う上で実用上問題ないレベルとすることができる。
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートを構成する各部材について詳述する。
[抵抗皮膜]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、抵抗皮膜1は、導電性有機高分子で構成される。
導電性有機高分子としては、共役導電性有機高分子が用いられ、ポリチオフェンやその誘導体、ポリピロールやその誘導体を用いることが好ましい。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの抵抗皮膜1に用いられることが好適なポリチオフェン系導電性高分子の具体例としては、ポリ(チオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3−プロピルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)、ポリ(3−ドデシルチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン)、ポリ(3−ブロモチオフェン)、ポリ(3−クロロチオフェン)、ポリ(3−ヨードチオフェン)、ポリ(3−シアノチオフェン)、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジブチルチオフェン)、ポリ(3−ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3−エトキシチオフェン)、ポリ(3−ブトキシチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3−デシルオキシチオフェン)、ポリ(3−ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3−オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4−ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−メトキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−エトキシチオフェン)、ポリ(3−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン)等が挙げられる。
また、抵抗皮膜1に用いられることが好適なポリピロール系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−n−プロピルピロール)、ポリ(3−ブチルピロール)、ポリ(3−オクチルピロール)、ポリ(3−デシルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3,4−ジブチルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシエチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−カルボキシブチルピロール)、ポリ(3−ヒドロキシピロール)、ポリ(3−メトキシピロール)、ポリ(3−エトキシピロール)、ポリ(3−ブトキシピロール)、ポリ(3−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール)等が挙げられる。
この他にも、抵抗皮膜1としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子を使用することができ、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、および、これらの共重合体等を用いることができる。
なお、抵抗皮膜に用いられる導電性有機高分子として、ポリアニオンをカウンターアニオンとして用いることができる。ポリアニオンとしては特に限定されないが、上述した抵抗皮膜に用いられる共役導電性有機高分子に、化学酸化ドープを生じさせることができるアニオン基を含有するものが好ましい。このようなアニオン基としては、例えば、一般式−O−SO3X、−O−PO(OX)2、−COOX、−SO3Xで表される基等(各式中、Xは水素原子またはアルカリ金属原子を示す。)が挙げられ、中でも、共役導電性有機高分子へのドープ効果に優れることから、−SO3X、および、−O−SO3Xで表される基が特に好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4−スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 これらポリアニオンのなかでも、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
上記導電性有機高分子は、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。上記例示した材料の中でも、透光性と導電性とがより高くなることから、ポリピロール、ポリ(3−メトキシチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(2−アニリンスルホン酸)、ポリ(3−アニリンスルホン酸)から選ばれる1種または2種からなる重合体が好ましい。
特に、共役系の導電性有機高分子とポリアニオンの組み合わせとしては、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン:PEDOT)と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いることが好ましい。
また、本実施形態にかかる抵抗皮膜1においては、導電性有機高分子の電気伝導度を制御して、電磁波吸収シートの入力インピーダンスを空気中のインピーダンス値と整合させるために、ドーパントを併用することができる。ドーパントとしては、ヨウ素、塩素等のハロゲン類、BF3、PF5等のルイス酸類、硝酸、硫酸等のプロトン酸類や、遷移金属、アルカリ金属、アミノ酸、核酸、界面活性剤、色素、クロラニル、テトラシアノエチレン、TCNQ等が使用できる。より具体的には、抵抗皮膜1の表面抵抗値を377Ωに対してプラス/マイナス数%程度の値にすることが好ましく、このとき、導電性有機高分子とドーパントとの配合割合は、一例として質量比で導電性高分子:ドーパント=1:2〜1:4とすることができる。
さらに、抵抗皮膜1を形成する材料としては、他にポリフッ化ビニリデンを含むことが好ましい。
ポリフッ化ビニリデンは、導電性有機高分子をコーティングする際の組成物に加えることで、導電性有機高分子膜の中でバインダーとしての機能を果たし、成膜性を向上させるとともに基材との密着性を高めることができる。
また、さらに、抵抗被膜1に水溶性ポリエステルを含むことが好ましい。水溶性ポリエステルは導電性高分子との相溶性が高いため、抵抗皮膜1を形成する導電性有機高分子のコーティング組成物に水溶性ポリエステルを加えることで抵抗皮膜1内において導電性高分子を固定化させ、より均質な皮膜を形成することができる。この結果、水溶性ポリエステルを用いることで、より厳しい高温高湿環境下におかれた場合でも表面抵抗値の変化が小さくなり、空気中のインピーダンス値とのインピーダンス整合がなされた状態を維持することができる。
抵抗皮膜1にポリフッ化ビニリデン、水溶性ポリエステルを含むことで、抵抗皮膜1の耐候性が向上するため、抵抗皮膜1の表面抵抗値の経時的な変化が抑えられて、安定した電磁波吸収特性を維持することができる信頼性の高い電磁波吸収シートを実現することができる。
抵抗皮膜1における導電性有機高分子の含有量は、抵抗皮膜1組成物に含まれる固形分の全質量に対して、10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。含有量が10質量%を下回ると、抵抗皮膜1の導電性が低下する傾向にある。このため、空気中のインピーダンス値とのインピーダンス整合をとることが困難になり、電磁波吸収性能が低下する。また、インピーダンス整合をとるために抵抗皮膜1の表面電気抵抗値を所定の範囲とすると抵抗皮膜1の膜厚が大きくなることによって、電磁波吸収シート全体が厚くなり、透光性などの光学特性が低下する傾向がある。一方、含有量が35質量%を超えると、導電性有機高分子の構造に起因して抵抗皮膜1をコーティングする際の塗布適性が低下して、良好な抵抗皮膜1を形成しづらくなり、抵抗皮膜1のヘイズが上昇して、やはり光学特性が低下する傾向にある。
なお、抵抗皮膜1は、上述のように抵抗皮膜の形成用塗料としてのコーティング組成物を基材の上に塗布して乾燥することにより形成することができる。
抵抗皮膜形成用塗料を基材の上に塗布する方法としては、例えば、バーコート法、リバース法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、ディッピング法、スピンコート法、スリットコート法、スプレーコート法等の塗布方法を用いることができる。塗布後の乾燥は、抵抗皮膜形成用塗料の溶媒成分が蒸発する条件であればよく、100〜150℃で5〜60分間行うことが好ましい。溶媒が抵抗皮膜1に残っていると強度が劣る傾向にある。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、加熱乾燥法、真空乾燥法、自然乾燥等により行うことができる。また、必要に応じて、塗膜にUV光(紫外線)やEB(電子線)を照射して塗膜を硬化させることで抵抗皮膜1を形成してもよい。
なお、抵抗皮膜1を形成するために用いられる基材としては特に限定されないが、透光性を有する透明基材が好ましい。このような透明基材の材質としては、例えば、樹脂、ゴム、ガラス、セラミックス等の種々のものが使用できる。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、上述した導電性有機高分子を用いて表面抵抗値が377Ω/sqの抵抗皮膜1を構成することで、電磁波吸収シートに入射する電磁波に対して空気中のインピーダンスと整合させることができ、電磁波吸収シート表面での電磁波の反射や散乱を低下させてより良好な電磁波吸収特性を得ることができる。
[誘電体層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの誘電体層2は、透光性を有し、かつ、粘着性を有する材料である透明光学粘着フィルム(OCAフィルム:Optical Clear Adhesive Film)を好適に用いることができる。
より具体的には、シリコーン系OCAであるMHMSI−500(商品名:日栄加工株式会社製)、アクリル系OCAであるMHM−FWV(商品名:日栄加工株式会社製)、ウレタン系OCAであるFree Crystal (商品名:バンドー化学株式会社製)、を用いることができる。
なお、上述の各材料の中でシリコーンOCAは、耐熱性、耐寒性の観点で他の材料よりも優れている。このため、シリコーンOCAを用いて作製された電磁波吸収シートは、使用場所として環境温度上の制約が少ない点で好ましい材料である。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、誘電体層2が粘着性を有することで、樹脂製材料の薄膜として形成される抵抗被膜1と誘電体層2との接着を、誘電体層2上に抵抗被膜1を積層することによって実現できる。このため、誘電体層2が粘着性を有していない場合に必要な、抵抗被膜1と誘電体層2とを貼り合わせる工程(例えば、ラミネート加工工程など)が不要となり、電磁波吸収シートの製造を簡素化して製造コストを低減することができる。なお、抵抗被膜1と誘電体層2を積層した状態で適宜ラミネートすることで、より高い接着力で接着することができる場合がある。
また、透光性を有する電磁波吸収シートとするために、電磁波遮蔽層3として導電性メッシュや導電性格子材料を用いる場合にも、誘電体層2が有する粘着性によって電磁波遮蔽層3を誘電体層2の背面側に密接した状態で配置することができる。誘電体層2が有する粘着性としては、180°ピール粘着力試験法による測定結果として、8〜35N/25mmであることが好ましい。粘着力が8N/25mm以下の場合は誘電体層2と電磁波遮蔽層3とが剥離しやすくなってしまい、35N/mm以上であると粘着が強すぎて貼り直し時のリワーク性が低下して、電磁波吸収シートの製造上の制約が大きくなる。
なお、誘電体層2は、1種の材料で1層の構成として形成することができ、また、同種、異種の材料を2層以上積層した構成とすることもできる。誘電体層2の形成には、塗布法やプレス成型法、押出成型法などを用いることができる。
上述のように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収シートに入射した電磁波と電磁波遮蔽層3で反射された反射波との位相を1/2波長ずらすことで、入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートである。このため、誘電体層の厚さ(図1におけるd)は、吸収しようとする電磁波の波長に対応して定められる。
なお、dの値は、抵抗皮膜1と電磁波遮蔽層3との間が空間となっている場合、すなわち、誘電体層2が空気で形成されている場合は、d=λ/4が成り立つが、誘電体層2を誘電率εrの材料で形成した場合には、d=λ/(4(√εr))となるため、誘電体層2を構成する材料として、材料自体が有する誘電率が大きなものを用いることで誘電体層2の厚さdの値を、1/√εr小さくすることができ、電磁波吸収シート全体の厚さを低減させることができる。本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、可撓性を有するものであることから、電磁波吸収シートを構成する誘電体層2や電磁波吸収シート自体の厚さが小さいほど容易に湾曲させることができてより好ましい。また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートが、後述する接着層4などを介して電磁波の漏洩を防ぎたい部材に貼着して使用されることが多いことを考慮すると、電磁波吸収シートの厚みが薄く容易に貼着部分の形状に沿うこと、また、シートがより軽量化されていることが好ましい。
このように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、誘電体層2として用いられる誘電体の誘電率εrの値や、誘電体層2の厚みを調整することで、当該誘電体層2を備えた電磁波吸収シートでミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を吸収可能なように制御することができる。また、誘電体層2が粘着性を有することで、抵抗皮膜1と誘電体層2、さらには、後述する電磁波遮蔽層3と誘電体層2とを密着して配置することができる。電磁波干渉型の電磁波吸収シートでは、各層間に隙間があるとこの隙間部分が誘電率を持ってしまって誘電体層2の誘電率が所定の値からずれて、吸収する電磁波の周波数が変動するという不都合が生じるが、本実施形態の粘着性を有する誘電体層では、そのような不都合な事態が生じることを良好に回避することができる。
[電磁波遮蔽層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの電磁波遮蔽層3は、誘電体層2を介して電磁波吸収シートの電磁波入射面の反対側(背面側)に配置された、抵抗皮膜1を貫通して入射した電磁波を反射させる部材である。
同時に、本実施形態の電磁波吸収シートが可撓性と透光性とを有することから、電磁波遮蔽層3は、少なくとも抵抗皮膜1と誘電体層2が湾曲した際には追従して湾曲する可撓性と、透光性とを有していることが必要である。
このような要求に対応できる電磁波遮蔽層3として、導電性の繊維により構成された導電性メッシュが採用できる。導電性メッシュは、一例としてポリエステルモノフィラメントで織ったメッシュに金属を付着させて導電性とすることで構成できる。金属としては、導電性の高い銅、銀などを用いることができる。また、メッシュの表面を覆う金属膜による反射を低減するために、金属膜のさらに外側に黒色の反射防止層を付与したものも製品化されている。
また、電磁波遮蔽層3としては、他にも、直径が数十から数百μmの細い銅線などの金属線が、縦横に配置された導電性格子を用いることができる。
なお、上述のメッシュや導電性格子による電磁波遮蔽層3は、可撓性と透光性とを確保するために、電磁波遮蔽層として求められる表面抵抗値を実現できる限りにおいて、最低限の厚さを有して構成されることとなる。また、導電性メッシュの繊維や導電性格子のワイヤーが傷ついたり、切断したりしてしまった場合には、所望する表面抵抗値を実現することが困難となる。このため、導電性格子のさらに背面側に、透光性を有する樹脂による補強層かつ保護層を形成して、導電性の材料による電磁波反射部分と樹脂製の膜部分との積層体として構成された電磁波遮蔽層3を用いることができる。
次に、電磁波遮蔽層の開口率と表面抵抗値との関係について検証してみた。
図2は、検証に用いた電磁波遮蔽層の形状を示すモデル図である。
図2に示すように、電磁波遮蔽層として、縦方向と横方向に金属ワイヤーが延在する格子状の金属メッシュを想定し、金属ワイヤーのピッチpを変化させたときの開口率と、導電部材としての金属ワイヤー形成する1つの格子をループとしてインダクタンス素子(コイル)として捉えて金属層としての導電率を計算した。
より具体的には、金属ワイヤーとして直径27μmのものを用いたと想定した。このとき、電磁波遮蔽層の開口率は、ピッチP=ワイヤーの直径L+ワイヤー間の間隙Sから、下記の式(1)として表される。
また、板状の電磁波遮蔽層に入射した電磁波の減衰量を遮断SEとしてdBで表すと、金属板の入出力インピーダンスをZ0、金属板の導電率をσ(Ω-1・m-1)、板の厚みをd(m)として、以下の式(2)として表される。
ここで、金属メッシュの一つ一つの升目をコイルとして考えて、金属板としての抵抗値R=1/(σ・d)をjωLに置き換えると、上記の式(2)は、以下の式(3)と変換できる。
ここで、ω=2πLであるから、電磁波の遮蔽SEは、以下の式(4)と表すことができる。
金属メッシュを構成するワイヤーのピッチPを変化させて、開口率(式(1))と遮断SE(式(4))とを求めた結果を表1に示す。
表1に示すように、電磁波の周波数が60〜90GHzの場合に、導電性メッシュを構成する金属線の間隔(P)が250μmの時、遮断SEとして99%の減衰量に相当する20dBを確保できる(20.2dB)。このとき、メッシュの開口率は85%であり、金属線の湾曲を考慮した導電性メッシュの透過率は66%であった。なお、上述のように、本実施形態の電磁波吸収シートでは、誘電体層に透過率が高い透明光学粘着フィルム(OCA)を使用することができ、電磁波遮蔽層の透過率がほぼそのまま電磁波吸収シートの透過率となる。
導電性メッシュを構成する金属線の間隔Pが170μmの時は開口率が75%、透過率が60%、遮断SEが21.2dBとなる。透光性を有する電磁波吸収シートとするためには、電磁波遮蔽層での全光線透過率は30%程度以上が必要であると考えられ、これを実現するための金属線の間隔Pは50μm、このときの開口率は35%、電磁波の減衰量を示す遮断SEは45.0dBであった。
以上の検討結果を踏まえると、電磁波遮蔽層3における電磁波遮蔽効果と電磁波遮蔽層3の光学特性とから、開口率が35〜85%であることが、導電性メッシュや導電性格子を用いた場合の良好な条件であるということができる。また、電磁波遮蔽層3として良好な電磁波反射特性を得るためには、表面抵抗値が0.3Ω/sq以下であることが好ましい条件であると判断することができる。
[接着層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、接着層4を設けることで、抵抗皮膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3との積層体である電磁波吸収シートを、電気回路を収納する筐体の内面や、電気機器の内面または外面などの所望の位置に貼着することができる。特に、本実施形態の電磁波吸収シートは可撓性を有するものであるため、湾曲した曲面上にも容易に貼着することができ、背面に接着層4を設けることで電磁波吸収シートの取り扱い容易性が向上する。
接着層4としては、粘着テープなどの粘着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は、180°ピール粘着力試験法による測定結果として、5N/10mm〜12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
また接着層4の厚さは、20μm〜100μmが好ましい。接着層4の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電磁波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層4の厚さが100μmより大きいと、電磁波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。また接着層の凝集力が小さい場合は、電磁波吸収シートを剥離した場合、被着体に糊残りが生じる場合がある。また、電磁波吸収シート全体としての可撓性を低下させる要因となる。
なお、本実施形態にかかる電磁波吸収シートに用いられる接着層4としては、電磁波吸収シートを被着物体に剥離不可能に貼着する接着層4とすることができるとともに、剥離可能な貼着を行う接着層4とすることもできる。また、前述のように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、接着層4を備えた構成とすることは必須の要件ではなく、電磁波吸収シートを所望する部材に対して、従来一般的な各種の接着方法を用いて接着することができる。
[保護層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜1の表面である電磁波の入射面側に保護層5を設けることができる。
本実施形態にかかる電磁波吸収シートにおいて、抵抗皮膜1として用いられている導電性有機高分子は、空気中の湿度の影響を受けてその表面抵抗値が変化する場合がある。このため、抵抗皮膜1の表面に保護層5を設けることで湿度の影響を小さくして、インピーダンス整合による電磁波の吸収特性が低下することを効果的に抑制できる。
本実施形態の電磁波吸収シートにおいて保護層5としては、一例として、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートを用いることができ、これを、樹脂材料の接着剤によって抵抗皮膜1の表面に貼り付けて構成することができる。
なお、保護層5は、抵抗皮膜1の表面全体を覆う膜とすることで、抵抗皮膜1への空気中の湿度による影響を防ぐことができる。樹脂製の膜として形成される保護層5の表面抵抗値の成分は、積層される抵抗皮膜1の表面抵抗値の成分に対して並列接続されたものとして影響すると考えられる。このため、保護層5の厚みが厚くなりすぎなければ、電磁波吸収シートの入力インピーダンスに与える影響は極めて小さいと考えられる。また、電磁波吸収シートとしての入力インピーダンスとして、保護層5の表面抵抗値の影響を考慮した上で、抵抗皮膜1の表面抵抗値をより適した数値に設定することも可能である。
保護層5の厚みとしては、抵抗皮膜1を保護できる範囲においてより薄いことが好ましい。具体的には、保護層5の厚みは、150μm以下が好ましく100μm以下であればより好ましい。保護層の厚みが150μmを超えると、電磁波の吸収性能が低下して電磁波吸収量が20dBを下回る場合がある。また、電磁波吸収シート全体の厚みが大きくなるので、可撓性が低下する。
[実施例]
以下、本実施形態にかかる電磁波吸収シートを実際に作製して、各種の特性を測定した結果について説明する。
<電磁波吸収シートの作製>
以下に記載する材料を用いて、本実施形態にかかる電磁波吸収シートとして、誘電体層にシリコーンOCAを用いた電磁波吸収シート(シート1、シート4、シート5)、誘電体層にアクリルOCAを用いた電磁波吸収シート(シート2)、誘電体層にウレタンOCAを用いた電磁波吸収シート(シート3)を作製した。また、比較例として、誘電体層にPETを用いた電磁波吸収シート(比較例1)を作製した。
[抵抗皮膜]
以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した
(1)導電性高分子分散体(PEDOT−PSS) 36.7部
(PH−1000(商品名:ヘレウス株式会社製))
固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.6部
LATEX32(商品名:アルケマ株式会社製)、
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)水溶性ポリエステル水溶液 0.6部
プラスコートZ561(商品名:瓦応化工業株式会社製)
固形分濃度 25質量%
(4)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.9部
(5)水溶性溶媒(エタノール) 30.0部
(6)水 17.2部。
実施例の電磁波吸収シート(シート1〜5)、および、比較例の電磁波吸収シートの抵抗皮膜は、いずれも、基材としてのポリエチレンテレフタレート製シート(50μm厚)上に、上述の組成で作製した抵抗皮膜液を、バーコート法によって乾燥後の厚さが約120nmとなる量を塗布し、その後150℃で5分加熱し成膜した。この場合の抵抗皮膜の表面抵抗は、いずれも377Ω/sqとなった。
[誘電体層]
実施例の電磁波吸収シートの誘電体層として、以下の部材を用いた。また、比較例1の電磁波吸収シートとして、以下の通りポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を用い、誘電体層以外をシート1と同様にして作製した。
シリコーンOCA
MHMSI−500(商品名:日栄加工株式会社製)
厚さ500μm 粘着力10N/25mm 誘電率3.0
アクリルOCA
MHM−FWV(商品名:日栄加工株式会社製)
厚さ500μm 粘着力30N/25mm 誘電率3.5
ウレタンOCA
Free Crystal (商品名:バンドー化学株式会社製)
厚さ500μm 粘着力25N/25mm 誘電率2.3
比較例1
PET U32(商品名:東レ株式会社製)
厚さ500μm(250μm+250μm)。
[電磁波遮蔽層]
電磁波遮蔽層は、シート1〜3では電磁波遮蔽層1としてセーレン株式会社製の導電メッシュSu−4X−13227(商品名:開口率75%)を用いて形成した。また、導電性メッシュの開口率の差による特性の変化を確認するために、誘電体層にシリコーンOCAを用いたシート4では電磁波遮蔽層2としてセーレン株式会社製の導電メッシュSu−4X−9027(商品名:開口率82%)を用いた。さらに、シート5では、電磁波遮蔽層3としてセーレン株式会社製の導電メッシュSu−4X−27036(商品名:開口率38%)を用いた。
なお、比較例の電磁波吸収シートの電磁波遮蔽層として、上述の開口率75%の電磁波遮蔽層1を用いた。
[シートの形成]
上記で説明した実施例の電磁波吸収シート1〜5では、各誘電体層が有する粘着力を用いて、まず、抵抗皮膜を誘電体層に貼り合わせ、さらに、電磁波遮蔽層である導電性メッシュを、誘電体層の抵抗皮膜を貼り合わせた面とは反対側の面に貼り合わせた。なお、比較例であるPETを誘電体層として用いた電磁波吸収シートは、厚さ20μmのアクリルOCAを用いて、抵抗皮膜と電磁波遮断層とを誘電体層に貼り合わせた。
[測定方法]
上述のようにした作製された実施例(シート1〜5)と比較例の電磁波吸収シートについて、全光線透過率とヘイズ値とを測定した。
なお、全光線透過率とヘイズ値については、日本電色株式会社製のHazeMeterNDH2000(製品名)を用い、JIS K7105に準拠して測定した。光源は、LightCを用いた。
また、電磁波吸収特性は、上記と同様フリースペース法により、キーコム株式会社製の自由区間測定装置と、アンリツ株式会社製のベクトルネットワークアナライザMS4647B(商品名)を用いて、各電磁波吸収シートに対して電磁波を照射した際の入射波と反射波の強度比をそれぞれ電圧値として把握した。
測定結果を以下の表2に示す。
表2に示すように、電磁波遮蔽層に開口率75%の導電性メッシュを用いた電磁波吸収シートの場合、誘電体層にシリコーンOCAを用いた電磁波吸収シート1では、全光線透過率が60%、ヘイズ値が12、誘電体層にアクリルOCAを用いた電磁波吸収シート2では、全光線透過率が60%、ヘイズ値が12、誘電体層にウレタンOCAを用いた電磁波吸収シート3では、全光線透過率が60%、ヘイズ値が12となった。
これに対し、電磁波遮蔽層に同じく開口率75%の導電性メッシュを用い、誘電体層にPETを用いた比較例の電磁波吸収シートでは、全光線透過率が59.9%、ヘイズ値が21であったため、実施例の電磁波吸収シートの光学特性は、いずれも比較例の電磁波吸収シートの光学特性よりも優れていることが確認できた。
また、電磁波遮蔽層に開口率82%の導電性メッシュを用い、誘電体層にシリコーンOCAを用いた電磁波吸収シート4では、全光線透過率が66%、ヘイズ値が7であり、導電性メッシュの開口率が75%から82%へと大きくなると、全光線透過率、ヘイズ値ともによくなって、歪みや滲みの少ない透過光像が得られる電磁波吸収シートが得られることが確認できた。一方、電磁波遮蔽層に開口率38%の導電性メッシュを用い、誘電体層にシリコーンOCAを用いた電磁波吸収シート5では、全光線透過率が30%、ヘイズ値が40であり、電磁波吸収特性としては高い値が得られるものの透光性という観点では許容範囲の特性であると言える。
これらの測定結果から、本実施形態にかかる電磁波吸収シートとして透光性を有する電磁波吸収シートとする場合には、シート全体での全光線透過率が30%以上の透光性を有することが好ましい。また、導電性メッシュにより構成される電磁波遮蔽層の表面抵抗値は0.3Ω/sq以下であることが好ましい。さらに、導電性メッシュの開口率は35〜85%であることが好ましく、実施例に基づくと38%〜82%であることがより好ましい。
[可撓性の確認]
次に、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの可撓性について確認した。
上記作製した、電磁波吸収シート1、電磁波吸収シート2、電磁波吸収シート3、電磁波吸収シート4、および、電磁波吸収シート5それぞれを5×10cmの大きさに切り出し、初期値となる表面抵抗を測定し、表面抵抗値が377Ωであることを確認した。
次に、水平に配置された直径10mm、8mm、6mm、4mm、2mm、0.5mmの6種類の太さのアルミ製の円筒型棒(マンドレル)上に、抵抗皮膜が表向きになるようにして被せ、シートの両端に300gの錘を付けて30秒間維持して、シートの中央部分が曲がった状態で両端を下側に引っ張った。その後、再びそれぞれの電磁波吸収シートの表面抵抗を測定した。
結果、上記電磁波吸収シート1〜電磁波吸収シート5のいずれにおいても、抵抗皮膜の表面抵抗の値(377Ω)に変化が生じず、倍率100倍のマイクロスコープで各シートの表面を観察しても、表面にヒビなどが生じていないことが確認できた。
一方、可撓性の確認における比較例として抵抗皮膜を透明導電膜(ITO)で形成し、これ以外をシート1と同様にした電磁波吸収シート(比較例2のシート)を作製して同じ条件で確認してみたところ、アルミ製の円筒型棒の直径が10mmの場合は表面抵抗値の変化が認められなかったが、アルミ製の円筒型棒の直径が6mmの場合には、表面抵抗値は、750Ω/sqと約2倍に増加した。さらに、アルミ製の円筒型棒の直径が2mm、0.5mmと小さい場合は、表面抵抗値は無限大となってしまい、抵抗皮膜として使用できないものとなった。
以上の結果を踏まえて、本願で開示される電磁波吸収シートの有する可撓性としては、上述したアルミ製の円筒型棒を用いた可撓性試験において、試験終了後の表面抵抗値の変化が2倍より小さいことが好ましく、1.5倍以下であることが更に好ましいと言うことができる。
また、抵抗皮膜を透明導電膜(ITO)で形成した可撓性の確認における比較例の場合には、直径6mmのアルミ製の円筒型棒に巻き付けた電磁波吸収シートの表面に、クラックが入っていることが確認でき、直径0.5mmのアルミ製の円筒型棒に巻き付けた電磁波吸収シートの表面には、より多くのクラックが確認できた。
このことから、本実施形態にかかる電磁波吸収シートでは、抵抗皮膜に導電性有機高分子を用いることで、シートの可撓性が向上し、シートを小さい径で強く折り曲げるような負荷がかかった場合でも、電磁波吸収特性を維持できることが確認できた。
以上説明したように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、吸収する電磁波が入射する側の表面に配置される抵抗皮膜1を導電性有機高分子で構成することで、電磁波吸収シートを強く折り曲げた場合でも電磁波吸収特性を維持することができる。また、抵抗被膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3をいずれも透光性を有する部材で構成することで、可撓性に加えて透光性を備えた電磁波吸収シートとすることができ、例えば、電磁波シールド状態に置かれる居室のカーテンなど、内部、もしくは、外部の様子を視認可能としつつも不所望な電磁波を吸収して透過させないことが求められる状況下で好適に使用できる。
さらに、誘電体層2が、粘着性を備えることで、抵抗被膜1と誘電体層2との接着、誘電体層2と電磁波遮蔽層3との接着を容易に行うことができる。このため、抵抗被膜1として導電性高分子を用い、また、電磁波遮蔽層3として導電性メッシュや導電性格子をもいた場合に、誘電体層との接着のために従来必要であった、ラミネート工程などの特別な接着工程が不要となり、電磁波吸収シートの製造コストを低減することができる。
(他の構成例について)
上記実施形態では、電磁波吸収シート全体として透光性を有し全光線透過率が30%以上のものを例示して説明した。しかし、本願で開示する電磁波吸収シートとして透光性を有することは必ずしも必要ではない。
シートに透光性が要求されない場合には、抵抗被膜、誘電体層、電磁波遮蔽層として透光性を有さない材料を用いて電磁波吸収シートを形成することができ、この場合においても、誘電体層が粘着性を有することで、可撓性を有しミリ波帯域以上の高い周波数の電磁波を吸収可能な電磁波干渉型の電磁波吸収シートを低コストで実現することができる。
電磁波吸収シートとして透光性を有する必要がない場合には、抵抗被膜を構成する導電性有機高分子材料や、適宜添加ドーパントなどの材料選択の余地が広がる。また、誘電体層を形成する材料としても、酸化チタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ガラス、シリコーンゴムなどの誘電体材料と各種の粘着性を有する材料とが混合された材料を選択することができる。
さらに、電磁波遮蔽層としては、メッシュや格子などの透光性を有する形態ではなく、金属箔や樹脂製基材の表面に金属が蒸着形成された反射性シートなどを、抵抗被膜や誘電体層が有する可撓性を妨げない範囲において適宜選択することができる。この場合において誘電体層の粘着性を利用して、誘電体層の背面側に金属箔や金属蒸着膜を貼り付けて、誘電体層と電磁波遮蔽層との間に間隙が生じないようにすることができる。
本願で開示する電磁波吸収シートは、ミリ波帯域以上の高い周波数帯域の電磁波を安定して吸収することができ、可撓性を備えた低コストの電磁波吸収シートとして有用である。
1 抵抗皮膜
2 誘電体層
3 電磁波遮蔽層
4 接着層
5 保護層