本願で開示する測定システムは、測定対象機器と、電波を放射、および/または、受信して前記測定対象機器を測定する測定機器と、透光性を有し、ミリ波帯域以上の電波を吸収する電波吸収部材とを備え、前記電波吸収部材は、いずれも透光性を有する抵抗皮膜と誘電体層と電波遮蔽層とが順次積層されて形成された電波吸収シートが透光性の支持部材の一表面に固着されて構成され、前記電波吸収部材により、前記測定対象機器の周囲の不要電波を遮蔽および/または吸収する。
このようにすることで、本願で開示する測定システムは、所望の周波数の電波を吸収するとともに透光性を有する電波吸収部材を用いているため、電波吸収部材を通して測定対象機器や測定機器の状態を容易に視認することができる。このため、測定機器による電波特性の測定時に、測定状態を確認して測定精度を向上させることができる。
上記構成の測定システムにおいて、前記電波吸収部材の全光線透光率が30%以上であることが好ましい。全光線透過率が30%以上あれば、測定中の測定システムの状況を容易に把握することができる。
また、前記測定対象機器が、ミリ波帯域以上の電波を放射、および/または、受信する機器を用いることができる。
さらに、前記電波吸収部材が他の前記電波吸収部材と互いに嵌合可能な嵌合部を有し、複数枚の前記電波吸収部材が前記嵌合部で嵌合されて一体化されていることが好ましい。このようにすることで、複数枚の電波吸収部材を容易に組み合わせて大面積の電波吸収部材とすることができ、測定対象機器や測定機器の大きさや配置間隔などの測定状態に適合した電波吸収部材を構成することができる。
さらにまた、前記支持部材が変形可能であり、前記電波吸収部材が前記測定対象機器および/または前記測定機器の形状に合わせて変形可能であることが好ましい。このようにすることで、支持部材の変形に合わせて測定対象機器の周囲を覆うように配置する電波吸収部材を、容易に作製することができる。
また、前記電波吸収部材が、前記測定機器から見て前記測定対象機器の少なくとも背面側に配置されていることが好ましい。このようにすることで、測定機器で測定する際の不所望な電波を容易にかつ効果的に遮蔽、または、減衰させることができ、S/N比の高い電波特性の測定を行うことができる。
また、前記電波吸収部材が、その内部に前記測定機器、および/または、前記測定対象機器を収容する電波遮蔽部の側面と上面との少なくとも一部を構成していることが好ましい。このようにすることで、測定環境全体を不所望な電波から隔離して、S/N比の高い電波特性の測定を行うことができる。
この場合において、前記測定機器、および/または、前記測定対象機器が、それぞれ異なる前記電波遮蔽部に収容されているようにすることができる。
また、前記電波遮蔽部の内部に、前記測定機器、および/または、前記測定対象機器を内部に収容する別の電波遮蔽部がさらに配置されているようにすることができる。すなわち、前記測定機器、および/または、前記測定対象機器が、二重の電波遮蔽部の内部に収容されている形態とすることができる。
さらに、前記電波遮蔽部が、前記測定対象機器、および/または、前記測定機器を複数個収容しているようにすることができる。
また、前記電波遮蔽部が、前記測定機器、および/または、前記測定対象機器の底面を覆っていることが好ましい。このようにすることで、測定環境の底面側から不所望な電波が侵入したり、測定電波が不所望に底面に吸収されたりするなどのノイズ要因を、効果的に排除することができる。
また、前記電波遮蔽部が透光性を有する筐体に前記電波吸収シートが貼着されて構成されていることが好ましい。このようにすることで、測定環境に合わせた形状の筐体を、容易に不所望な電波の進入を防止する電波遮蔽部とすることができる。
このとき、前記筐体に複数枚の前記電波吸収シートが貼着されていて、前記複数枚の前記電波吸収シートの配置間隔(断面の間隔)が3mm以下であることが好ましい。隣り合う電波吸収シートの間隔が3mm以下であれば、この隙間部分からの不所望な電波の侵入はほとんど無く、良好な環境で電波特性の測定を行うことができる。
本願で開示する電波遮蔽部は、測定対象機器、および/または、ミリ波帯域以上の電波を放射および/または受信して前記測定対象機器を測定する測定機器の、側面と上面とを覆う筐体を備え、前記測定対象機器、および/または、前記測定機器を内部に収容可能な電波遮蔽部であって、前記筐体の少なくとも一部が透光性を有し、前記筐体の前記透光性を有する部分に電波吸収シートが固着され、前記電波吸収シートが、いずれも透光性を有する抵抗皮膜と誘電体層と電波遮蔽層とが順次積層されて形成されている。
このようにすることで、本願で開示する電波遮蔽部は、所定の電波を良好に吸収して高いS/N比での電波特性の測定を実現するとともに、透光性を有している部分から測定対象機器や測定機器の状態を直接視認することができ、正しい条件で測定が行われているか否かを容易に確認することができる。
このように、本明細書において「電波遮蔽部」とは、外部からの電波の影響を受けない状態で測定対象機器をその内部に収容可能な容器状の部材を言う。電波遮蔽部は、少なくとも測定対象機器の側面と上面とを覆うことができる形状となっているが、測定対象機器が電波を通さない部材上に載置されている場合など底面からの不所望な電波を遮蔽する必要が無い場合があり、電波遮蔽部が底面を備えていることは必須の要件ではない。また、本願における電波遮蔽部は、電波法施行規則に基づいて告示される試験設備としての電波暗室とは、その構成、電波強度の減衰度合いなどが異なるものであり、また、大きさについても、電波暗室として一般的に理解されているような大きさ(例えば、人間が内部に入ることができる程度)を有するものに限られない。
この電波遮蔽部において、前記測定機器、および/または、前記測定対象機器の底面をさらに覆うことが好ましい。このようにすることで、測定環境の底面側の状態に関わりなく、精度の高い電波特性の測定を行うことができる。
また、前記電波吸収シートが固着されている部分の全光線透光率が30%以上であるとすることで、電波遮蔽部の外部から内部の様子を容易に確認することができる。
また、電波遮蔽部が、前記測定対象機器、および/または、前記測定機器を複数個収容しているように構成することができる。
さらに、電波遮蔽部に収容される前記測定対象機器を、ミリ波帯域以上の電波を放射、および/または、受信する機器とすることができる。
以下、本願で開示する測定システム、および、電波遮蔽部について、図面を参照して説明する。
(実施の形態)
[電波吸収部材]
図1に、本実施形態にかかる電波吸収部材の断面構成を示す。
なお、図1では、電波吸収部材における厚み方向(図1中の左右方向)を拡大して、電波吸収シートの構成を詳細に説明することができるようにしている。
図1に示すように、電波吸収部材10は、可撓性と、一例として全光線透過率が60%以上の透光性とを備えた電波吸収シート1と、透光性を有する支持部材2とを有している。
本実施形態にかかる電波吸収部材10の電波吸収シート1は、いずれも透光性を有する抵抗皮膜3、誘電体層4、電波遮蔽層5がこの順に積層されている。なお、図1に例示する電波吸収シート1では、電波遮蔽層5の背面側、すなわち、電波遮蔽層5において誘電体層4が配置されている側とは反対側の表面には、接着層6が積層形成されていて、この接着層6によって、電波吸収シート1が支持部材2に貼着されている。また、抵抗皮膜3の前面側、すなわち、抵抗皮膜3において誘電体層4が配置されている側とは反対側の表面には、保護層7が積層形成されている。
本実施形態にかかる電波吸収シート1は、電波干渉型(λ/4型、または、反射型とも称される)の電波吸収部材である。
図1に示すように、誘電体層4に到達した電波8の一部は、誘電体層4を通過して電波9として誘電体層4の背面側に配置されている電波遮蔽層5と誘電体層4との界面まで到達し、この界面で反射された後、二次反射波9aとして誘電体層4を通過して放出される。また誘電体層4に到達した電波8の一部は、一次反射波8aとして誘電体層4の表面で反射される。
このとき、誘電体層4の厚さdを、入射した電波の波長λの1/4(d=λ/4)とすることで、電波吸収周波数をコントールすることができ、一次反射波8aの位相と二次反射波9aの位相との位相差が180°(λ/2)に近いために振幅比は1ではないが、打ち消しあう。三次反射以降は一次反射の打消しの残りを高次の反射波で打ち消していく。
表面での反射電波(一次反射波)と裏打ちした電波遮蔽層5(導電メッシュ)での反射電波が互いに打ち消しあうことにより、見かけ上、電波が吸収されている状態になる。
誘電体層4の背面側に積層して形成される電波遮蔽層5は、誘電体層4との境界面である誘電体層4側の表面で、入射してきた電波を反射する層である。
本実施形態にかかる、電波干渉型の電波吸収シートにおける電波吸収の原理から、電波遮蔽層5は電波を反射する反射層として機能することが必要である。また、電波遮蔽層5として可撓性と透光性とを備えることが必要である。このような要求に対応できる電波遮蔽層5の具体例としては、導電性の繊維により構成された導電性メッシュを用いることができる。
抵抗皮膜3は、誘電体層4の前面側、すなわち誘電体層4の電波遮蔽層5が積層されている側とは反対の側の吸収される電波が入射する側に形成され、電波吸収シート1と外部(通常は外部環境である空気)との間のインピーダンス整合を行う。
空気中を伝搬してきた電波が電波吸収シート1に入射する際、電波吸収シート1の入力インピーダンス値を空気中のインピーダンス値(実際には真空のインピーダンス値)である377Ωに近づけることで、電波吸収シート1への電波の入射時に電波の反射・散乱が生じて電波吸収特性が低下することを防ぐことが重要となる。本実施形態の電波吸収シート1では、抵抗皮膜3を一例として導電性有機高分子の膜として形成することで、電波吸収シート1としての可撓性を確保するとともに、電波吸収シート1が強く折り曲げられた場合でも抵抗皮膜3のひび割れなどが生じず、表面抵抗値が変化せずに良好なインピーダンス整合を維持することができる。
接着層6は、電波吸収シート1を所定の場所に容易に貼り付けることができるように、電波遮蔽層5の背面側に形成される層である。接着層6は、粘着性の樹脂ペーストを塗布することで容易に形成できる。
なお、接着層6は、本実施形態で示す電波吸収シートにおいて必須の部材ではない。電波吸収シート1を支持部材2の所定の位置に固着するに当たっては、電波吸収シート1が配置される支持部材2側に接着のための部材が配置されていてもよく、また、電波吸収シート1を支持部材に固着する際に、電波吸収シート1と支持部材2との間に接着剤を供給する、または、両面テープを用いるなどの接着方法を採用することができる。これらの方法で支持部材2に対して電波吸収シート1を貼着することにより、支持部材2の表面に沿って電波吸収シート1を密着した状態で固着できる。
ただし、電波吸収シート1と支持部材2との間に両者を接着する部材を配置して貼着することは必須ではなく、電波吸収シート1と支持部材2とを重ね合わせた状態で、電波吸収シート1が動かないようにその端部分を接着テープで固定したり、ビス、釘などの固着具で固定したりして、支持部材2の表面に電波吸収シート1が動かないように固定することができる各種の方法を採用できる。また、電波吸収シート1と支持部材2とが重なり合っている領域の全体が接着されている必要は無く、電波吸収シート1が支持部材2の表面に沿って配置されている状態が維持されていて、電波吸収シート1と支持部材2とが接着されていない部分に生じる間隙から不所望な電波の侵入や電波の漏洩が生じない状態となっていれば良い。
保護層7は、抵抗皮膜3の表面、すなわち、電波吸収シート1において電波が入射する側の最表面に形成され、抵抗皮膜3を保護する部材である。
本実施形態にかかる電波吸収シート1において抵抗皮膜3として採用する導電性有機高分子は、空気中の湿度の影響によりその表面抵抗値が変化する場合がある。また、樹脂製の膜であるために、表面に尖った部材が接触した場合や、硬い材質のもので擦られた場合には、傷が付く畏れがある。このため、抵抗皮膜3の表面を保護層7で覆って抵抗皮膜3を保護することが好ましい。
なお、保護層7は、本実施形態で示す電波吸収シート1において必須の構成要件ではなく、導電性有機高分子等抵抗皮膜3の材料によって、表面への水分の付着に伴う表面抵抗値の変化や抵抗皮膜3の表面が傷つくことへの懸念が小さい場合には、保護層7がない電波吸収シート1の構成を選択可能である。
また、保護層7としては、後述のようにポリエチレンテレフタレートなどの樹脂材料を用いることができる。保護層7として用いられる樹脂材料は一定の抵抗値を有するが、保護層7の膜厚を薄く設定することで、保護層7の有無による電波吸収シートの表面抵抗値への影響を実用上問題ないレベルとすることができる。また、保護層7の抵抗値を含めた状態で良好なインピーダンス整合ができるように、抵抗皮膜3の表面抵抗値を調整することもできる。
支持部材2は、固着された電波吸収シート1を保持して電波吸収部材10の形状を維持するだけの剛性を備えるとともに、電波吸収部材10全体としての透光性を確保するために支持部材2自体が透光性を有することが必要である。このような支持部材2としては、アクリル板や板ガラス、その他材料の透明な板などの一般的な透光性を有する部材を採用することができる。
支持部材2の厚さは、電波吸収部材10として求められる形状を維持できる強度・剛性を発揮することができる範囲で、適宜定めることができる。例えば、図1に示すような平板状の電波吸収部材10を形成する場合には、一例として、縦250mm、横500mm、厚さ3mmのアクリル板を支持部材2として、同じ大きさの縦250mm、横500mmに形成された電波吸収シート1を貼着することができる。この場合は、電波吸収部材10単独で安定して自立させることは困難であるため、適宜、電波吸収部材10をその面が略垂直の状態で保持できる脚部材を使用することが好ましい。また、電波吸収部材10のみで自立できるように、支持部材2の厚さを厚くすること、自立可能なように突起等を下部に有する形状の支持部材2を用いることなども考えられる。
支持部材2の光線透過率については、後述するとおり電波吸収シート1は十分な電波吸収特性を得る上で光線透過率に一定の限界があるのに対し、支持部材2についてはその形状を保つことができる強度を有することができれば材料面での制約などがないため、なるべく高い全光線透過率、できれば100%に近い高い透明度を有する部材を採用することが好ましい。
本実施形態にかかる電波吸収部材10では、電波吸収部材10を通してその向こう側の状態が容易に視認できることが好ましい。この観点では、電波吸収部材10全体としての全光線透過率は30%以上あることが好ましく、周囲の明るさなどの条件にかかわらず容易に反対側が視認できる透過率としては、全光線透過率が60%以上あることがより好ましいと考えられる。もちろん、支持部材2として上述のように透過率が100%に近い部材を採用するとともに、許容範囲の電波吸収特性が得られることを条件に電波吸収シート1として高い透過率を実現して、電波吸収部材として少しでも高い全光線透過率が実現することが好ましいことはいうまでもない。
なお、支持部材は、電波吸収部材のみでは自立不可能な場合に一体化して自立可能に支持する部材には限られず、電波吸収シート単独で自立可能な場合であっても、電波吸収シートが一表面に固着されて電波吸収部材を構成する透光性を有する部材全般を意味する。
[測定システム]
上述のように、本実施形態にかかる電波吸収部材10は、電波吸収シート1の誘電体層4の材料と厚みとを調整することで、所望する周波数の電波を吸収することができるとともに、電波吸収部材10の反対側が視認できることで、電波特性を測定する測定システムに好適に用いることができる。
図2は、本実施形態にかかる測定システムの第1の構成例を説明するための模式図である。
図2に示すように、本実施形態にかかる測定システムでは、測定対象機器11と測定機器12とが対向して配置されるとともに、測定機器12から見て測定対象機器11の背面側に電波吸収部材10が配置されている。
ここで、測定対象機器11は文字通り電波特性を測定する対象となる機器をいい、測定機器12とは、測定対象機器11の電波特性を測定するために必要な機器をいう。したがって、測定される電波特性によって測定対象機器11および測定機器12として、様々な電波関連機器が相当することになる。
第1のパターンとしては、測定対象機器11として所定の電波を放射する機器、より具体的には、電波放射源や発信器、送信アンテナなどが相当する場合がある。この場合には、測定機器12として測定対象機器11から放射される電波を受信する受信装置などが該当し、測定対象機器11が放射する電波を受信することで、測定対象機器11が放射する電波の周波数特性、電波強度特性、指向性その他の電波特性が測定される。
第2のパターンとして、測定対象機器11として、電波を受信する機器、より具体的には、受信装置、受信アンテナなどが相当する場合がある。この場合には、測定機器12としては送信装置、送信アンテナなどの測定対象機器11で受信される電波を放射する機器が相当し、測定機器12から放出された電波を測定対象機器11で受信することで、測定対象機器11の受信強度や受信周波数などの電波特性が測定される。
第3のパターンとして、測定対象機器11として、電波の送信(放射)とを受信とを行う機器、具体的には送受信装置や送受信アンテナが相当する場合がある。この場合には、測定機器12から送信された電波の受信状態や測定機器12で測定された放出電波の特性を解析することで、測定対象機器11である送受信装置や送受信アンテナの電波特性を解析できる。
第4のパターンとして、測定対象機器11として、自身は電波を送受信するものではないが電波を反射する部材を配置して、測定機器12としてのレーダー照射器の電波特性を測定する場合がある。この場合には、測定機器12であるレーダー照射器からレーダー波を測定対象機器11に向かって照射してその反射波を測定機器12で受信することで、測定対象機器11の位置や形状などを正確に検出できるかというレーダー照射器としての特性や、好ましい周波数や強度、指向特性などの電波特性を測定することができる。この第4のパターンの場合は、測定対象機器11はその電波特性を測定される機器ではないが、電波が照射される対象物という観点で、本明細書において測定対象機器11と称することとする。
上述した測定システムにおける4つの電波特性測定パターンのいずれにおいても、測定機器12から見た場合の測定対象機器11の背面側、すなわち、測定対象機器11における、測定機器12が配置されている側とは反対の側に、上述した電波吸収部材10が配置される。なお、電波吸収部材10は、電波吸収シート1が表面に位置する側を測定対象機器11および測定機器12側に向けて配置される。電波吸収部材10の支持部材2は、測定対象機器11が配置される側とは反対側、すなわち、より背面側に配置される。
本実施形態にかかる測定システムでは、このように測定対象機器11の背面側に電波吸収部材10を配置することで、測定機器12から測定対象機器11に向かって電波が放射される場合には、測定対象機器11で直接受信されなかった電波や測定対象機器11に照射されなかった電波が、電波吸収部材によって吸収される。また、測定対象機器11から測定機器12に向かって電波が放射される場合には、測定対象機器11の背面側で電波吸収部材10が不所望な電波を吸収するため、測定機器12では測定対象機器12から放射された電波のみが受信されることになる。
さらに、測定機器12がレーダーの場合では、測定機器12からレーダー波を測定対象機器11に向かって照射してその反射波を測定機器12で受信する場合、測定対象機器11の後方から、測定対象機器11で反射された電波と同様な方向から入射する不必要な電波を電波吸収部材10が吸収する。この結果、測定機器12では測定対象機器12から反射された電波のみが受信されることになる。
このように、測定対象機器11の背面側に電波吸収部材10が配置されることで、測定機器12から見た場合の測定対象機器11の周囲に存在する不所望な電波を吸収することができる。このため、測定対象機器11に起因しない不所望な電波が測定機器12で測定されることを効果的に防止でき、測定機器12における測定結果のS/N比が向上してより精度の高い電波特性の測定を行うことができる。
また、本実施形態にかかる測定システムに用いられる電波吸収部材10は一定以上の透光性を備えているため、電波吸収部材10を通してその向こう側を視認することができる。この結果、図2に示したように測定対象機器11や測定機器12が配置されている側とは反対の側から電波吸収部材10を通して測定対象機器11を確認することができ、例えば、測定対象機器11の配置位置や配置方向がずれていないかを確認できる。同様に、測定機器12の測定面が正しく測定対象機器11に対向しているかなどを電波吸収部材10の背面側から直接視認することができ、正確に電波特性を測定できない状態となっている場合には直ちにその状態を把握して修正することができる。
図3は、本実施形態にかかる測定システムの効果を説明するための模式図である。
図3では、測定対象機器11である電波を反射する部材に対して、測定機器12であるレーダー装置からレーダー波を照射して、測定対象機器11までの距離やその形状を測定する場合、すなわち、上述の第4のパターンの場合を側方から見た状態を示している。
図3に示すように、測定機器12からは所定の周波数、例えば、車載レーダーに用いられている60GHzの周波数のレーダー波13が照射されている。このうち、測定対象機器11に当たったレーダー波13はその表面で反射して反射波14が測定機器12に戻ってくる。一方、測定対象機器11が存在しない領域に対して放射されたレーダー波13は、電波吸収部材10によって吸収される。このため、測定機器12であるレーダー装置から見た場合には、不所望な反射波のない領域の中に測定対象機器11からの反射波14が存在しているノイズの少ない状態下で電波特性の測定を行うことができる。
また、測定対象機器11の背面側に電波吸収部材10が配置されていることから、測定機器12であるレーダーから照射されて測定対象物で反射しなかったレーダー波13以外にも、測定対象機器11の背面側から測定機器12の受信部に入射する不所望な電波も吸収、遮蔽することができる。この結果、測定機器12では、測定対象機器11で反射された反射波14のみを受信することができ、測定時のS/N比を向上させて、測定誤差の低減を図ることができる。
さらに、本実施形態の測定システムでは、電波吸収部材10が透光性を有している。このため、図3に白色矢印15で示したように、電波吸収部材10の背面側から測定対象機器11や測定機器12の状態を視認することができる。このため、測定対象機器11や測定機器12の位置がずれていたり、電波の放射面や受信面が正しく向き合っていなかったりするなど、正しい測定状態にない場合にはこれを直ちに把握することができ、測定を中止して正しい測定状態に戻すなど、精度の良い測定結果が得られる状態に修正することができる。
なお、図3では、測定機器12としてレーダー装置を例示したが、測定機器12と測定対象機器11との関係として上述した送信機器と受信機器、さらには送受信機器などの各種のパターンが採用できることは言うまでも無く、いずれの場合においても測定機器12から見た際に測定対象機器11の周りにはノイズとなる不所望な電波が存在しない状態での電波特性の測定ができるとともに、電波特性の測定状態を、容易に電波吸収部材10の背面側から視認することができる。
このように、本実施形態にかかる測定システムでは、後述する電波遮蔽部や従来の電波暗室を用いることなく、測定機器から見て測定対象機器の背面側に本実施形態にかかる電波吸収部材を配置するだけの簡単な構成で、精度が良く、また、測定状態を容易に目で確認できる状態で、所望する電波特性の測定を行うことができる。
[電波吸収シートの具体的な構成]
ここで、本実施形態にかかる電波吸収部材10に用いられる電波吸収シート1を構成する各部材について、具体的に説明する。
(抵抗皮膜)
上述したように、本実施形態にかかる電波吸収部材10の電波吸収シート1では、抵抗皮膜3は導電性有機高分子で構成されている。
導電性有機高分子としては、共役導電性有機高分子が用いられ、ポリチオフェンやその誘導体、ポリピロールやその誘導体を用いることが好ましい。
電波吸収シート1の抵抗皮膜3に用いられることが好適なポリチオフェン系導電性高分子の具体例としては、ポリ(チオフェン)、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブテンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)等が挙げられる。
また、抵抗皮膜3に用いられることが好適なポリピロール系導電性高分子の具体例としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)等が挙げられる。
この他にも、抵抗皮膜3としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子を使用することができ、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、および、これらの共重合体等を用いることができる。
なお、抵抗皮膜3用いられる導電性有機高分子として、ポリアニオンをカウンターアニオンとして用いることができる。ポリアニオンとしては特に限定されないが、上述した抵抗皮膜に用いられる共役導電性有機高分子に、化学酸化ドープを生じさせることができるアニオン基を含有するものが好ましい。このようなアニオン基としては、例えば、一般式-O-SO3X、-O-PO(OX)2、-COOX、-SO3Xで表される基等(各式中、Xは水素原子またはアルカリ金属原子を示す。)が挙げられ、中でも、共役導電性有機高分子へのドープ効果に優れることから、-SO3X、および、-O-SO3Xで表される基が特に好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート)、ポリメタクリルオキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボン酸基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。 これらポリアニオンのなかでも、スルホン酸基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
上述した導電性有機高分子は、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。上記例示した材料の中でも、透光性と導電性とがより高くなることから、ポリピロール、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)から選ばれる1種または2種からなる重合体が好ましい。
特に、共役系の導電性有機高分子とポリアニオンの組み合わせとしては、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン:PEDOT)と、ポリスチレンスルホン酸(PSS)を用いることが好ましい。
また、抵抗皮膜3においては、導電性有機高分子の電気伝導度を制御して、電波吸収シート1の入力インピーダンスを空気中のインピーダンス値と整合させるために、ドーパントを併用することができる。ドーパントとしては、ヨウ素、塩素等のハロゲン類、BF3、PF5等のルイス酸類、硝酸、硫酸等のプロトン酸類や、遷移金属、アルカリ金属、アミノ酸、核酸、界面活性剤、色素、クロラニル、テトラシアノエチレン、TCNQ等が使用できる。より具体的には、抵抗皮膜1の表面抵抗値を377Ωに対してプラス/マイナス数%程度の値にすることが好ましく、このとき、導電性有機高分子とドーパントとの配合割合は、一例として質量比で導電性高分子:ドーパント=1:2~1:4とすることができる。
さらに、抵抗皮膜3を形成する材料としては、他にポリフッ化ビニリデンを含むことが好ましい。
ポリフッ化ビニリデンは、導電性有機高分子をコーティングする際の組成物に加えることで、導電性有機高分子膜の中でバインダーとしての機能を果たし、成膜性を向上させるとともに基材との密着性を高めることができる。
また、さらに、抵抗被膜3に水溶性ポリエステルを含むことが好ましい。水溶性ポリエステルは導電性高分子との相溶性が高いため、抵抗皮膜3を形成する導電性有機高分子のコーティング組成物に水溶性ポリエステルを加えることで抵抗皮膜1内において導電性高分子を固定化させ、より均質な皮膜を形成することができる。この結果、水溶性ポリエステルを用いることで、より厳しい高温高湿環境下におかれた場合でも表面抵抗値の変化が小さくなり、空気中のインピーダンス値とのインピーダンス整合がなされた状態を維持することができる。
抵抗皮膜3にポリフッ化ビニリデン、水溶性ポリエステルを含むことで、抵抗皮膜3の耐候性が向上するため、抵抗皮膜3の表面抵抗値の経時的な変化が抑えられて、安定した電波吸収特性を維持することができる信頼性の高い電波吸収シートを実現することができる。
抵抗皮膜3における導電性有機高分子の含有量は、抵抗皮膜3組成物に含まれる固形分の全質量に対して、10質量%以上35質量%以下であることが好ましい。含有量が10質量%を下回ると、抵抗皮膜3の導電性が低下する傾向にある。このため、インピーダンス整合をとるために抵抗皮膜3の表面電気抵抗値を所定の範囲とした結果、抵抗皮膜3の膜厚が大きくなることによって、電波吸収シート全体が厚くなり、透光性などの光学特性が低下する傾向がある。一方、含有量が35質量%を超えると、導電性有機高分子の構造に起因して抵抗皮膜3をコーティングする際の塗布適性が低下して、良好な抵抗皮膜3を形成しづらくなり、抵抗皮膜3のヘイズが上昇して、やはり光学特性が低下する傾向にある。
なお、抵抗皮膜3は、上述のように抵抗皮膜の形成用塗料としてのコーティング組成物を基材の上に塗布して乾燥することにより形成することができる。
抵抗皮膜形成用塗料を基材の上に塗布する方法としては、例えば、バーコート法、リバース法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法、ディッピング法、スピンコート法、スリットコート法、スプレーコート法等の塗布方法を用いることができる。塗布後の乾燥は、抵抗皮膜形成用塗料の溶媒成分が蒸発する条件であればよく、100~150℃で5~60分間行うことが好ましい。溶媒が抵抗皮膜3に残っていると強度が劣る傾向にある。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、加熱乾燥法、真空乾燥法、自然乾燥等により行うことができる。また、必要に応じて、塗膜にUV光(紫外線)やEB(電子線)を照射して塗膜を硬化させることで抵抗皮膜3を形成してもよい。
なお、抵抗皮膜3を形成するために用いられる基材としては特に限定されないが、透光性を有する透明基材が好ましい。このような透明基材の材質としては、例えば、樹脂、ゴム、ガラス、セラミックス等の種々のものが使用できる。
本実施形態で示す電波吸収シート1では、上述した導電性有機高分子を用いて所定の表面抵抗値の抵抗皮膜3を構成して、電波吸収シート1に入射する電波に対してのインピーダンス整合をすることができ、電波吸収シート1表面での電波の反射や散乱を低下させてより良好な電波吸収特性を得ることができる。
(誘電体層)
電波吸収シート1の誘電体層4は、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ガラス、透明なシリコーンゴム、透明なOCA、OCRなどの誘電体で形成することができる。なお、誘電体層4は、1種の材料で1層の構成として形成することができ、また、同種、異種の材料を2層以上積層した構成とすることもできる。誘電体層4の形成には、塗布法やプレス成型法、押出成型法などを用いることができる。
上述のように、電波吸収シート1は、電波吸収シート1に入射した電波と電波遮蔽層で反射された反射波との位相を1/2波長ずらすことで、入射波と反射波とが打ち消し合って電波を吸収する電波干渉型(λ/4型)の電波吸収シートである。このため、誘電体層4の厚さ(図1におけるd)は、吸収しようとする電波の波長に対応して定められる。
なお、dの値は、抵抗皮膜3と電波遮蔽層5との間が空間となっている場合、すなわち、誘電体層4が空気で形成されている場合は、d=λ/4が成り立つが、誘電体層4を誘電率εrの材料で形成した場合には、d=λ/(4(√εr))となるため、誘電体層4を構成する材料として、材料自体が有する誘電率が大きなものを用いることで誘電体層4の厚さdの値を、1/√εr小さくすることができ、電波吸収シート1全体の厚さを低減させることができる。本実施形態にかかる電波吸収部材10に用いられる電波吸収シート1は、可撓性を有するものであることから、電波吸収シート1を構成する誘電体層4や電波吸収シート自体の厚さが小さいほど容易に湾曲させることができ、すなわち、より高い可撓性を実現することができるため好ましい。また、本実施形態にかかる電波吸収シート1が、後述する接着層6などを介して支持部材2に貼着されることを考慮すると、電波吸収シート1の厚みが薄く容易に貼着部分の形状に沿うこと、また、シートがより軽量化されていることが好ましい。
なお、電波吸収シート1で吸収される電波の波長λは、誘電体層4として用いられる誘電体の誘電率εrとその厚みからλ=d×4(√εr)となることから、誘電体層4に用いられる誘電体の誘電率εrの値と誘電体層4の厚みを調整して、所定の波長、すなわち周波数(1/λ)の電波を吸収するように設計される。
(電波遮蔽層)
本実施形態で示す電波吸収シート1の電波遮蔽層5は、誘電体層4を介して電波吸収シート1の反対側に配置された、抵抗皮膜3から入射した電波を反射させる部材である。
同時に、電波遮蔽層5は、少なくとも抵抗皮膜3と誘電体層4が湾曲した際には追従して湾曲する可撓性と、透光性とを有していることが必要である。
このような要求に対応できる電波遮蔽層5として、導電性の繊維により構成された導電性メッシュが採用できる。導電性メッシュは、一例としてポリエステルモノフィラメントで織ったメッシュに金属を付着させて導電性とすることで構成できる。付着させる金属としては、導電性の高い銅、銀などを用いることができる。また、メッシュの表面を覆う金属膜による反射を低減するために、金属膜のさらに外側に黒色の反射防止層を付与したものも製品化されている。
なお、上述の導電性メッシュにより構成された電波遮蔽層5は、可撓性と透光性とを確保するために、電波遮蔽層5として求められる表面抵抗値を実現できる限りにおいて、最低限の厚さを有して構成されることとなる。また、導電性メッシュの繊維が傷ついたり、切断したりしてしまった場合には、所望する表面抵抗値を実現することが困難となる。このため、導電性メッシュのさらに背面側に、透光性を有する樹脂による補強層かつ保護層を形成して、導電性の材料による電波反射部分と樹脂製の膜構成部分との積層体による電波遮蔽層5を用いることができる。
(接着層)
本実施形態で示す電波吸収シート1では、接着層6を設けることで、抵抗皮膜3、誘電体層4、電波遮蔽層5の積層体である電波吸収シート1を支持部材2の表面に容易に貼着することができる。特に、本実施形態で示す電波吸収シート1は可撓性を有するものであるため、湾曲した曲面状の支持部材2にも容易に貼着することができ、背面に接着層6を設けることで電波吸収シート1の取り扱い容易性が向上する。
接着層6としては、粘着テープなどの粘着層として利用される公知の材料、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。また被着体である支持部材2に対する粘着力の調節、糊残りの低減のために、粘着付与剤や架橋剤を用いることもできる。被着体に対する粘着力は5N/10mm~12N/10mmが好ましい。粘着力が5N/10mmより小さいと、電波吸収シートが被着体から容易に剥がれてしまったり、ずれてしまったりすることがある。また、粘着力が12N/10mmより大きいと、電波吸収シートを被着体から剥離しにくくなる。
電波吸収シート1を支持部材2から取り外し可能に貼着する場合、粘着力は5N/mm~8N/mm程度が好ましい。この範囲であれば、電波吸収シート1を支持部材2に対して貼り直すことが可能であり、一度支持部材2に貼着した電波吸収シート1を支持部材2から取り外して、別の支持部材2に貼着するなどの再利用も可能となる。
また接着層6の厚さは、20μm~100μmが好ましい。接着層6の厚さが20μmより薄いと、粘着力が小さくなり、電波吸収シートが被着体から容易に剥がれたり、ずれたりすることがある。接着層6の厚さが100μmより大きいと、電波吸収シート1を支持部材2から剥離しにくくなる。また接着層6の凝集力が小さい場合は、電波吸収シート1を剥離した場合、支持部材2に糊残りが生じる場合がある。また、電波吸収シート1全体としての可撓性を低下させる要因となる。
なお、電波吸収シート1に用いられる接着層6としては、電波吸収シート1を支持部材2に剥離不可能に貼着する接着層6とすることができるとともに、剥離可能な貼着を行う接着層6とすることもできる。また、前述のように、電波吸収シート1において、接着層6を備えた構成とすることは必須の要件ではなく、電波吸収シート1を支持部材2の表面に対して、従来一般的な各種の接着、固着方法を用いて固着することができる。
(保護層)
本実施形態で示す電波吸収シート1では、抵抗皮膜3の表面である電波の入射面側に保護層7を設けることができる。
電波吸収シート1において、抵抗皮膜3として用いられている導電性有機高分子は、空気中の湿度の影響を受けてその表面抵抗値が変化する場合がある。このため、抵抗皮膜3の表面に保護層7を設けることで湿度の影響を小さくして、インピーダンス整合による電波の吸収特性が低下することを効果的に抑制できる。
このような保護層7としては、一例として、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートを用いることができ、これを、樹脂材料の接着剤によって抵抗皮膜3の表面に貼り付けて構成することができる。
なお、保護層7は、抵抗皮膜3の表面全体を覆う膜とすることで、抵抗皮膜3への空気中の湿度による影響を防ぐことができる。樹脂製の膜として形成される保護層7の表面抵抗値の成分は、積層される抵抗皮膜3の表面抵抗値の成分に対して並列接続されたものとして影響すると考えられる。このため、保護層7の厚みが厚くなりすぎなければ、電波吸収シート1の入力インピーダンスに与える影響は極めて小さいと考えられる。また、電波吸収シート1としての入力インピーダンスとして、保護層7の表面抵抗値の影響を考慮した上で、抵抗皮膜3の表面抵抗値をより適した数値に設定することも可能である。
保護層7の厚みとしては、抵抗皮膜3を保護できる範囲においてより薄いことが好ましい。具体的には、保護層7の厚みは、150μm以下が好ましく100μm以下であればより好ましい。保護層の厚みが150μmを超えると、電波の吸収性能が低下して電波吸収量が20dBを下回る場合がある。また、電波吸収シート1全体の厚みが大きくなるので、可撓性が低下する。
[電波吸収シートの実施例]
以下、本実施形態にかかる電波吸収部材に用いられる電波吸収シートを実際に作製して、各種の特性を測定した結果について説明する。
<抵抗皮膜の耐候性>
抵抗皮膜を作成する抵抗皮膜液の成分を異ならせて、以下2種類の電波吸収シートをそれぞれ5枚ずつ作成した。
(シート1)
以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した
(1)導電性高分子分散体 36.7部
ヘレウス社製導電性高分子(PEDOT-PSS):
PH-100(製品名)、固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.6部
アルケマ社製:LATEX32(商品名)、
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)水溶性ポリエステル水溶液 0.6部
互応化学工業社製:プラスコートZ561(商品名)
固形分濃度 25質量%
(4)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.9部
(5)水溶性溶媒(エタノール) 30.0部
(6)水 17.2部。
(シート2)
以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した
(1)導電性高分子分散体 33.7部
ヘレウス社製導電性高分子(PEDOT-PSS):
PH-1000(製品名)、固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.1部
アルケマ社製:LATEX32(商品名)、
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.5部
(4)水溶性溶媒(ノルマルプロピルアルコール) 36.0部
(5)水 15.7部。
抵抗皮膜は、基材としてのポリエチレンテレフタレート製シート(25μm厚)上に、上記それぞれの組成で作製した抵抗皮膜液を、バーコート法によって乾燥後の厚さが約120nmとなる量を塗布し、その後150℃で5分加熱し抵抗皮膜を成膜した。この場合の抵抗皮膜の表面抵抗は、いずれも377Ω/sqとなった。
誘電体層として厚さ400μmのウレタンゴムを、電波遮蔽層として厚さ15μmのアルミニウム箔を用い、抵抗被膜、誘電体層、アルミニウム箔を積層密着させて接着剤にて接着した。
(試験条件)
上記作製したシート1(n=5)とシート2(n=5)について、それぞれ初期の表面抵抗値を測定した。次に、全ての電波吸収シートを恒温高湿槽に入れて、60℃、相対湿度90%の条件で、500時間保存した。続いて、保存後の各電波吸収シートの抵抗皮膜の表面抵抗値を測定した。そして、表面抵抗値の変化率を、n=5の電波吸収シートにおける平均値として、表面抵抗値の変化率(%)=[(保存後の表面抵抗値―初期の表面抵抗値)/初期の表面抵抗値]×100との数式に基づいて算出した。
上記測定の結果、それぞれn=5枚の電波吸収シートの表面抵抗値の変化率の平均は、シート1が8%、シート2が18%となった。シート1の表面抵抗値の変化率の数値8%は、377Ωに対して約30Ωに相当し、厳しい耐候性試験の条件を勘案すると、実用的には高い安定性を有している数値であると判断できる。また、シート2の表面抵抗値の変化率の数値18%は、377Ωに対して約68Ωに相当するため、実用的には十分な安定性を有している数値であると判断できる。
上記したシート1とシート2とを用いた耐候性試験の結果から、抵抗皮膜に水溶性ポリエステル水溶液を加えることで、抵抗皮膜の吸湿性を低下させて、表面抵抗値の変化がより少ない安定した電波吸収特性を有する電波吸収シートを実現できることがわかった。
<インピーダンス整合の効果>
次に、電波吸収シートにおける抵抗皮膜の表面抵抗値の違いによる電波吸収特性の変化について、実際に異なる表面抵抗値の抵抗皮膜を備えた電波吸収シート(シート3~シート6)を作製して検討した。
(シートの作製)
電波吸収シートは、いずれも、基材としての厚さ300μmのポリエチレンテレフタレート上に、上記したシート1で用いた抵抗皮膜液をバーコート法によって塗布厚さを変えて塗布し、その後150℃で5分間加熱して抵抗皮膜を製膜した。その後、基材のポリエチレンテレフタレートの抵抗皮膜層を塗布した側とは反対側の面に、厚さ250μmのポリエチレンテレフタレートシートを接着剤で貼り合わせた。結果として、厚さ550μmのポリエチレンテレフタレートの誘電体層2が形成されたこととなる。また、電波遮蔽層3は、厚さ15μmのアルミニウム箔を用いた。このようにして作製した各電波吸収シートが吸収する電波の中心周波数は、76GHzとなった。
それぞれの電波吸収シートの乾燥後の抵抗皮膜層の厚さと、表面抵抗値は以下の通りとした。
(シート3)抵抗皮膜層厚さ:140nm 表面抵抗値:320Ω/sq
(シート4)抵抗皮膜層厚さ: 92nm 表面抵抗値:452Ω/sq
(シート5)抵抗皮膜層厚さ: 15nm 表面抵抗値:302Ω/sq
(シート6)抵抗皮膜層厚さ: 88nm 表面抵抗値:471Ω/sq。
(電波吸収特性の測定)
上記作製したシート3~シート6に加え、抵抗皮膜の表面抵抗値が空気のインピーダンスと同じの377Ω/sqの電波吸収シートである上述のシート1とを測定対象として、フリースペース法によって電波吸収特性を測定した。具体的には、キーコム株式会社製の自由空間測定装置と、アンリツ株式会社製のベクトルネットワークアナライザMS4647B(商品名)を用いて、各電波吸収シートに対して電波を照射した際の入射波と反射波の強度比をそれぞれ電圧値として把握した。
このようにして測定された各電波吸収シートの電波吸収特性を、図4に示す。図4では、入射波の強度に対する反射波の強度の減衰量をdBで表している。
図4において、符号41が、シート1の電波吸収特性を、符号42が、シート3の電波吸収特性を、符号43が、シート4の電波吸収特性を、符号44が、シート5の電波吸収特性を、符号45が、シート6の電波吸収特性を、それぞれ表している。
図4から分かるように、抵抗皮膜の表面抵抗値が377Ω/sqと、空気中(真空)のインピーダンス値と一致して極めて良好なインピーダンス整合が取れているシート1では、76GHzの電波に対する減衰量が約42dBと極めて高くなっている。
これに対し、真空のインピーダンス値(377Ω)に対して、-15%ずれている抵抗皮膜の表面抵抗値が320Ω/sqのシート3では、76GHzでの電波減衰量が約22dB、また、真空のインピーダンス値に対して、+20%ずれている抵抗皮膜の表面抵抗値が452Ω/sqのシート4では、76GHzでの電波減衰量が約21dBと、いずれも20dB(減衰率99%)を超えて、良好な電波吸収特性を発揮している。
一方、真空のインピーダンス値(377Ω)に対して、-20%ずれている抵抗皮膜の表面抵抗値が302Ω/sqのシート5と、+25%ずれている抵抗皮膜の表面抵抗値が471Ω/sqのシート6では、76GHzでの電波減衰量がいずれも約19dBとなっている。電波吸収シートとして実用的な電波吸収特性としては、減衰量として20dB程度以上と考えられることから、抵抗皮膜の表面抵抗値を、真空のインピーダンス値に対して-15%から+20%の範囲とすることで、良好な電波吸収特性を備えた電波吸収シートを得ることができることが分かる。
<電波遮蔽層>
次に、可撓性と透光性を有する電波遮蔽層について検討した。
上述のシート1の製法に基づいて、抵抗値が377Ω/sqの抵抗皮膜を作製した。
いずれも、基材としての厚さ10μmのポリエチレンテレフタレート上に、抵抗皮膜液をバーコート法によって塗布し、その後150°で5分間加熱して製膜した。その後、基材のポリエチレンテレフタレートの抵抗皮膜層を塗布した側とは反対側の面に、誘電体層を、厚さ550μmの透明なシリコーンゴムを用いて形成した。
電波遮蔽層を、第1の実施例であるシート7として、セーレン株式会社製の導電メッシュSu-4X-27035(商品名)を用いて形成した。また、第2の実施例であるシート8として、同じくセーレン株式会社製の導電性メッシュSu-4G-9027(商品名)を用いて形成した。
一方、比較例であるシート9として、藤森工業株式会社製の透明導電フィルムPURE-OPT RN3000(商品名)を電波遮蔽層として形成した。
各電波吸収シートにおける電波遮蔽層の電気的、光学的特性は以下の通りとなった。
(シート7) 表面抵抗値0.04Ω/sq 全光線透過率30% 開口率38%
(シート8) 表面抵抗値0.11Ω/sq 全光線透過率66% 開口率82%
(シート9) 表面抵抗値0.40Ω/sq 全光線透過率77%以上。
このようにして作製された、3つの電波吸収シートについて、全光線透過率、ヘイズ値、電波吸収特性をそれぞれ測定した。
なお、全光線透過率とヘイズ値については、日本電色株式会社製のHazeMeterNDH2000(製品名)を用い、JIS K7105に準拠して測定した。光源は、LightCを用いた。
また、電波吸収特性は、上記と同様フリースペース法により、キーコム株式会社製の自由区間測定装置と、アンリツ株式会社製のベクトルネットワークアナライザMS4647B(商品名)を用いて、各電波吸収シートに対して電波を照射した際の入射波と反射波の強度比をそれぞれ電圧値として把握した。
このようにして測定された各電波吸収シートの電波吸収特性を、図5に示す。図5では、入射波の強度に対する反射波の強度の減衰量をdBで表している。
図5において、符号51がシート7の電波吸収特性を、符号52がシート8の電波吸収特性を、符号53がシート9の電波吸収特性を、それぞれ示している。
また、それぞれの電波吸収シートの光学特性は、シート7の全光線透過率が30%、ヘイズ値が40、シート8の全光線透過率が66%、ヘイズ値が7、シート9の全光線透過率が77%、ヘイズ値が8であった。
ここで、電波遮蔽層の開口率と表面抵抗値との関係について検証してみた。
図6は、検証に用いた電波遮蔽層の形状を示すモデル図である。
図6に示すように、電波遮蔽層として、縦方向と横方向に金属ワイヤーが延在する格子状の金属メッシュを想定し、金属ワイヤーのピッチpを変化させたときの開口率と、導電部材としての金属ワイヤーが形成する1つの格子をループとしてインダクタンス素子(コイル)として捉えて金属層としての導電率を計算した。
より具体的には、金属ワイヤーとして直径27μmのものを用いたと想定した。このとき、電波遮蔽層の開口率は、ピッチP=ワイヤーの直径L+ワイヤー間の間隙Sから、下記の式(1)として表される。
また、板状の電波遮蔽層に入射した電波の減衰量を遮断SEとしてdBで表すと、金属板の入出力インピーダンスをZ0、金属板の導電率をσ(Ω-1・m-1)、板の厚みをd(m)として、以下の式(2)として表される。
ここで、金属メッシュの一つ一つの升目をコイルとして考えて、金属板としての抵抗値R=1/(σ・d)をjωLに置き換えると、上記の式(2)は、以下の式(3)と変換できる。
ここで、ω=2πLであるから、電波の遮蔽SEは、以下の式(4)と表すことができる。
金属メッシュを構成するワイヤーのピッチPを30μmから500μmまで変化させて、開口率(式(1))と遮断SEとを求めると、電波の周波数60~90GHzの場合に、遮断SEとして99%の減衰量に相当する20dBを達成するためには、下記の表1として示すように、金属線間隔は170μmがほぼ上限となることがわかった。このとき、開口率は75%であり、ワイヤーの湾曲を考慮した全光線透過率は60%となった。
一方、透光性を有する電波吸収シートを実現する上で、電波遮蔽層では30%以上の全光線透過率が必要であると考えられ、これを実現するためのワイヤーのピッチPは50μm、このときの開口率は35%、電波の減衰量を示す遮断SEは45dBであった。
以上の電波遮蔽層における電波遮蔽効果の検証結果と、上記作製したシート7の電波遮蔽層とシート8の電波遮蔽層の光学特性から、開口率が35%以上85%以下であることが、導電性メッシュや導電性格子を用いた場合の良好な条件であるということができる。
また、シート9の結果も踏まえて、電波遮蔽層として良好な電波反射特性を得るためには、表面抵抗値が0.3Ω/sq以下であることが好ましい条件であると判断することができ、0.11Ω/sq以下であることがより好ましい。さらに、上記の検討結果から、電波吸収シートとしての好ましい全光線透過率は30%~66%と考えることができる。
<保護層の効果>
次に、抵抗皮膜の表面に保護層を積層することの効果について検証した。
電波吸収シートとしては、上述のシート1を用い、抵抗皮膜の表面に保護層として、粘着層を付与した厚さ25μmポリエチレンテレフタレートシートを貼り合せた、シート10を作製した。
シート1と、シート10とをそれぞれ2枚ずつ用意し、これら計4枚の電波吸収シートに対して乾拭き摺動試験を行って、表面のシート部材の剥離の有無と表面抵抗値の変化とを測定した。なお、乾拭き摺動試験は、白ネルの布をHEIDON社の摺動試験機にセットして、加重2000g、摺動速度4500mm/min、摺動幅25mm、摺動回数1000パス(約10分間)の条件で行った。
試験後の電波吸収シートを確認すると、シート1とシート10ともに、2枚いずれのシートにも目視で確認できる剥離は認められなかった。一方、電波吸収シートの抵抗皮膜の表面抵抗値は、保護層を設けたシート10では2枚とも変化は認められなかったが、保護層を形成しなかったシート1では、それぞれ16%と10%の表面抵抗値の上昇が認められた。この表面抵抗値の上昇は、保護層を形成していない電波吸収シートでは摺動試験の結果抵抗皮膜が削られてその厚さが薄くなったことに起因すると考えられ、保護層を設けることで抵抗皮膜の表面を保護し、表面抵抗値の変化を抑制できることが確認できた。
今回の摺動試験の結果生じた表面抵抗値の上昇度合いである10%、16%という数値は、前述したように、電波吸収特性(電波減衰量)を大きく変えるものではない。しかし、電波吸収シートの実用面を考慮すると、抵抗皮膜の表面抵抗値の変動によってインピーダンス整合が崩れて電波吸収特性が低下してしまう事態を回避することは重要である。このため、保護層を設けて抵抗皮膜の機械的な要因による厚さの変動を押さえ、安定した電波吸収特性を備えた電波吸収シートを構成することが好ましい。
<可撓性の確認>
次に、本実施形態にかかる電波吸収シートにおいて、抵抗皮膜として導電性有機高分子を用いることによって可撓性を確保できる点について確認した。
比較例として、抵抗皮膜を、酸化インジウム錫(ITO)をスパッタリングすることで表面抵抗が370Ω/sqとなるようにして形成したシート11を作製した。なお、シート11において、誘電体層と電波遮蔽層は、シート1のものと同様に構成した。
シート1とシート11とに対し、それぞれのシートを5×10cmの大きさに切り出し、初期値となる表面抵抗を測定した。次に、水平に配置された直径10mm、8mm、6mm、4mm、2mm、0.5mmの6種類の太さのアルミ製の円筒型棒(マンドレル)上に、抵抗皮膜が表向きになるようにして被せ、シートの両端に300gの錘を付けて30秒間維持して、シートの中央部分が曲がった状態で両端を下側に引っ張った。その後、再びそれぞれの電波吸収シートの表面抵抗を測定した。
測定結果を、以下の表2に示す。
結果、アルミ製の円筒型棒の直径が10mmの場合は、シート1およびシート11のいずれも抵抗皮膜の表面抵抗の値に変化が生じなかったが、アルミ製の円筒型棒の直径が6mmの場合には、シート1の表面抵抗値には変化がなかったものの、シート11の表面抵抗値は、750Ω/sqと約2倍に増加した。このことから、アルミ製の円筒型棒に巻き付けた前後での表明抵抗値の変化が、2倍を超えると表面皮膜の表面状態が変化してしまっていると判断することができる。
さらに、アルミ製の円筒型棒の直径が2mm、0.5mmと小さい場合、シート1の表面抵抗値には変化がなかったものの、シート11の表面抵抗値は無限大となってしまい、抵抗皮膜として使用できないものとなった。
また、直径6mmのアルミ製の円筒型棒に巻き付けた電波吸収シートの表面状態をマイクロスコープで観察したところ、シート1には変化は認められなかったが、シート11では、表面にクラックが入っていた。また、直径0.5mmのアルミ製の円筒型棒に巻き付けた電波吸収シートの表面状態をマイクロスコープで観察したところ、シート1には変化は認められなかったが、シート11では、直径6mmのアルミ製の円筒型棒に巻き付けたものよりも多くのクラックが入っていた。
このことから、本実施形態にかかる電波遮蔽部材や、後述の電波遮蔽部に用いられる電波吸収シートでは、抵抗皮膜に導電性有機高分子を用いることで、シートの可撓性が向上し、シートを小さい径で強く折り曲げるような負荷がかかった場合でも、電波吸収特性を維持できることが確認できた。この場合、直径0.5mmの円筒型棒に巻き付けたシートの両端に300gの錘を付けて30秒間維持した可撓性試験前後で表面抵抗値の変化が2倍以下であれば、電波吸収シート表面のクラックが少なく、電波吸収シートとして十分な可撓性を有していると判断できる。
[電波吸収部材の効果、変形例等]
以上説明したように、本実施形態にかかる電波吸収部材は、良好な電波吸収特性と高い可撓性、さらには、電波吸収部材を通して視認可能な透光性とを備えている。このため、特に電波特性の測定時に用いることで、測定ノイズとなる不所望な電波を吸収して測定精度の向上を図ることができる。
また、本実施形態にかかる測定システムでは、本願で開示する電波吸収部材を測定機器から見た場合に測定対象機器の背面側、すなわち、測定機器側とは反対の側に配置することで、測定対象機器の周囲に不所望な電波が存在しない領域を形成することができるので測定精度が向上する。なおかつ、電波吸収部材を通して測定状態が視認できるため、電波吸収部材を測定対象機器のすぐ近くに配置することができ、測定状態を確認しながら電波特性の測定を行うことができる。
発明者らは、本実施形態にかかる電波吸収部材の電波吸収特性を確認したので、その内容を以下に示す。
図7、および、図8は、本実施形態にかかる電波吸収部材の電波吸収特性を確認した確認実験の様子を示す図である。図7は、電波吸収部材を使用した状態を、図8、比較例として電波吸収部材を使用していない状態を、それぞれ示している。
図7、および、図8に示すように、76GHzの電波を使用するミリ波レーダー71(製品名:DEL-ESR-21、Delphi社製)を、レーダー波が手前側に向かって放射されるように配置した。
電波吸収効果を測定する電波吸収部材10として、高さ250mm、幅500mm、厚さ3mmの透明アクリル板を支持部材とし、その表面に厚さ50μmの接着層を介して、黒化処理した銅の金属メッシュ、厚さ500μmの誘電体層(シリコーンOCA)、機械塗工により形成されたPEDOT層(約350Ω)、保護層としての厚さ50μmのPET層を積層した電波吸収部材10を作製した。なお、電波吸収シートの吸収ピーク波長は、76GHzに設定した。また、電波吸収部材10の全光線透過率は、60%であった。
作製した電波吸収部材10を、図7に示すように、電波吸収シートがミリ波レーダー71のレーダー波照射面と対向するように、間隔(約30mm)を隔てて配置した。一方、図8に示す比較例では、電波吸収部材10を配置しない状態とした。
そして、ミリ波レーダー71で検知している前方(図7、図8における手前側)の障害物の様子を、専用のソフトウェア(Kvaser社製、Leaf Light v2)でパソコン画面上に表示した。
本実施形態で説明した電波吸収部材10をミリ波レーダー71の手前に配置した図7の状態では、測定機器に接続したコンピュータの画面上の検知物の表示部分72には何の障害物も表示されていない。これは、電波吸収部材10によってレーダー波が吸収されたため、電波吸収部材10の手前側の障害物を検知していないことを示している。これに対し、図8に示す、電波吸収部材10が配置されていない状態では、同じコンピュータの表示部分72に、複数の縦長長方形が表示されている。これは、図中手前側にいる実験中の人間を検知したものであり、ミリ波レーダー71が正常に動作してレーダー波照射面前方の障害物を検知していることがわかる。
このように、本実施形態にかかる電波吸収部材10を用いることで、ミリ波レーダー71から照射される電波を吸収できることがわかる。また、図7から明らかなように、電波吸収部材10は高い透光性を有するため、電波吸収部材10を通してその向こう側に配置されているミリ波レーダー71の様子を視認することができる。
なお上記実施形態では、本願で開示する電波吸収部材10として平板の支持部材2に電波吸収シート1が貼着された平板状のものを例示した。しかし、電磁波吸収部材10は、平板状のものに限られず、特に測定システムとして使用する場合には、測定装置12が電波特性の測定時にノイズ成分となる不所望な電波を検出しないような形状とすることが好ましい。
図9は、本実施形態にかかる電波吸収部材の異なる形状例を示すイメージ図である。
図9(a)は、垂直面の上端部分から前方に水平な面が張り出した形状の電波吸収部材を示している。
図9(a)に示す電波吸収部材10aでは、電波吸収部材10aのすぐ手前に測定対象機器を配置することで、側方あるいは後方とともに上方に向かって放射される不所望な電波を吸収することができる。同様に、側方あるいは後方とともに上方から入射する不所望な電波を吸収することができる。また、電波吸収部材10aが透光性を有するため、測定対象機器を上方からも視認することができる。なお、本実施形態で示す電波吸収部材10aは、電波吸収シート1aが、断面が略L字状に形成された支持部材2aの内側面(垂直部分の前面と水平部分の下面)に固着される。上述したように、電波吸収シート1aは可撓性を有するため、まず垂直面と水平面とを有する支持部材2aを形成してから、その内側面に電波吸収シート1aを固着することが可能である。もちろん、平板状の支持部材2の一表面に電波吸収シート1が固着された平板状の電波吸収部材10を2枚組み合わせて、図9(a)に示す形状の電波吸収部材10aを形成できることは言うまでも無い。
図9(b)は、垂直面の上端部分から前方に向かって湾曲する上に凸の湾曲面が形成された形状の電波吸収部材を示している。
図9(b)に示す電波吸収部材10bでは、垂直面と湾曲面とが連続して形成された支持部材2bの内側面(前方側の面)に、電波吸収シート1bが固着された構成となっている。図9(b)に示す形状の電波吸収部材10bでも、図9(a)に示す形状の電波吸収部材10aと同様に、上方に向かって放射された不所望な電波を吸収することで、S/N比が高い状態で電波特性を測定することができる。また、上方および後方から、電波特性の測定状態を視認することができる。図9(b)に示す形状の電波吸収部材10bは、平面に連続した湾曲面を有する支持部材2bの内側面に、可撓性を有する電波吸収シート1bを、接着層や塗布された接着剤を用いて貼着することなどにより、容易に作製することができる。
図9(c)は、水平方向に湾曲した形状の電波吸収部材を示している。
図9(c)に示す電波吸収部材10cでは、全体として水平方向のみに湾曲した所定の高さを有する支持部材2cの内側面(前方側の面)に、電波吸収シート1cが固着された構成となっている。図9(c)に示す形状の電波吸収部材10cでは、前方から照射される電波の内、側方に放射される不所望な電波を吸収することで、S/N比が高い状態で電波特性を測定することができる。同様に、側方から入射する不所望な電波を吸収することで、S/N比が高い状態で電波特性を測定することができる。また、左右の側方、および、後方から、電波特性の測定状態を視認することができる。図9(c)に示す形状の電波吸収部材10cは、所定幅を有し一方向に湾曲した支持部材2cの内側面に、可撓性を有する電波吸収シート1cを、接着層や塗布された接着剤を用いて貼着することなどにより、容易に作製することができる。
なお、支持部材2a、2b、2cとして変形可能な材料を用いた場合には、電波吸収シート1a、1b、1cを固着した状態の電波吸収部材10a、10b、10cを変形させて、図9(a)、図9(b)、図9(c)にそれぞれ示す形状にすることができる。このように、電波吸収部材10として形成された後に所定の形状に変形可能とすることで、測定状態に柔軟に対応させて、所望する形状の電波吸収部材を実現できるため好ましい。
このように、本実施形態にかかる電波吸収部材は、電波吸収シートが可撓性を有することで、平面、屈曲面、湾曲面を、全体として、または部分的に有する所望の形状に形成された支持部材に固着することができ、電波特性の測定時に想定される不所望な電波を吸収することができる形状に構成することができる。
なお、図9では、上方、または、側方のいずれか一方のみを覆う形態の電波吸収部材を例示したが、上方、左側、右側の2以上の方向を覆う形態として構成することができることは言うまでも無い。例えば、図9(a)に示した、後方に加えて上方を覆う水平面部分を備えた電波吸収部材10aに、垂直面部分の左右両端部から前方に向かって延出する側壁部分を追加して形成することで前面と下面が開放された箱状の電波吸収部材となり、上方に加えて左右方向の不所望な電波をも吸収することができる。
図10は、本実施形態にかかる電波吸収部材の、さらに別の形状例を示すイメージ図である。
図10に示す電波吸収部材は、略矩形の平板状に形成されていて、一つの辺から突出した略三角形状の凸部を有する第1の電波吸収部材10dと、同様に略矩形の平板状に形成されていて、一つの辺に略三角形の凹部が形成されている第2の電波吸収部材10eとの2種類で構成されている。これら第1の電波吸収部材10dと第2の電波吸収部材10eの凸部と凹部とは互いに嵌合可能となっていて、図10(c)に示すように、2種類の電波吸収部材10d、10eとが組み合わされて固定され、より大面積の電波吸収部材が構成できるようになっている。
このように、本実施形態にかかる電波吸収部材のさらに別の形態では、電波吸収部材の辺に互いに嵌合可能な凹凸形状を有していて、複数枚の電波吸収部材が互いに嵌合されることでより大面積の電波吸収部材を構成することができる。
なお、図10では、それぞれが一つの辺に嵌合可能な凹凸形状が形成された2つの電波吸収部材10d、10eが嵌合される例を示したが、例えば平面視略矩形状に形成された電波吸収部材の2辺、または、4辺に、それぞれ互いに嵌合可能な凸部と凹部とを設けることで、複数枚の電波吸収部材をブロック状につなぎ合わせることができる。このように、互いに嵌合可能な複数枚の電波吸収部材を用いることで、適宜必要に応じた面積、形状の電波吸収部材を構成することができる一方、不要時にはばらばらの状態にしてコンパクトに収納すること、また、持ち運び等することができる。さらに、図10では、互いに嵌合する2枚の電波吸収部材10d、10eを組み合わせてより大面積の平面状の電波吸収部材を構成する例を示したが、嵌合形状を工夫することで、2枚の電波吸収部材を互いに直交するように立体的に組み合わせることも可能である。このようにすることで、例えば、図9(a)に示したような、垂直面と水平面とを備えた電波吸収部材10aを、複数の平面上の電波吸収部材を組み合わせて構成することができる。
本実施形態にかかる電波吸収部材は支持部材に電波吸収シートを固着して形成するものであるため、大面積の電波吸収部材を作製するよりも、小面積の電波吸収部材を複数作製する方が容易である。このため、平面的なもの、立体的なもののいずれの場合でも、互いに嵌合可能に構成された複数の電波吸収部材を組み合わせてより大面積の電波吸収部材を形成するようにすることが好ましい。
なお、複数の電波吸収部材を互いに嵌合可能に構成するためには、嵌合部分の凹凸形状に一定の裕度が必要であるため、微視的に見れば、電波吸収部材(特に、電波吸収シート)が存在しない部分が形成されることとなる。しかし、発明者らが確認したところ、各電波吸収部材の境界部分のような、線状のごくわずかな隙間が生じても電波吸収特性が大きく低下することはなく、実用上の問題は生じない。
[電波遮蔽部]
次に本願で開示する測定システムの第2の構成例である電波遮蔽部の具体例について、実施の形態として説明する。
本実施形態で説明する電波遮蔽部は、透光性を有する支持部材と、この支持部材に固着された可撓性と透光性とを有する電波吸収シートにより構成された本願で開示する電波吸収部材の特徴を有するものであり、内部に測定機器や測定対象機器を収容する電波遮蔽部の外殻を構成する筐体の少なくとも一部が透光性を有していて、この透光性を有する部分に電波吸収部材に用いられている電波吸収シートを固着したものである。言い換えると、本実施形態で説明する電波遮蔽部は、測定機器を収容して不所望な電波を遮ることができる容器状の部材であり、側面と上面との少なくとも一部分が上記実施形態にかかる電波吸収部材で構成されたものである。なお、本願で開示する電波遮蔽部において、本願で開示する電波吸収部材が用いられていない部分は、外部の不要な電波が容器状部材の内部侵入しないような所定の材料を用いて構成されていることはいうまでもない。
図11は、本実施形態にかかる電波遮蔽部を用いて電波特性を計測している状態を示すイメージ図である。
図11に示す電波遮蔽部80は、高い透光性を有するアクリル板により形成された上面と4つの側面とから構成された略箱状の筐体とこの筐体の内面に、上記実施形態で説明した電波吸収部材に用いられる電波吸収シートを貼着して構成されている。すなわち、電波遮蔽部80は、上述した平板状の電波吸収部材によって上面と4つの側面が構成されている状態となっている。
例えば、受信機82の電波特性(受信特性)を計測する場合には、電波遮蔽部の内部に、電波の送信源である送信機81とともに測定対象機器である受信機82を配置して、送信機81から送信される電波と受信機82で受信した電波とを比較する。このような場合に、本実施形態にかかる電波遮蔽部80は、側面と上面がいずれも透光性を有するために、図1に示すように電波特性の計測時における、送信機81や受信機82の状態を直接視認することができる。このため、測定対象機器の状態を確認しながら電波特性を計測しなくてはならない場合でも、従来、電波暗室の内部で電波特性を計測する際に用いていたカメラなどの録画機器を配置する必要がなくなり、これらの状態確認のための機材を電波暗室内に入れていたことによって生じていた電波ノイズの増大や、ノイズを防止するシールド部材の追加の手間を回避することができる。
また、本実施形態にかかる電波遮蔽部80は、透光性を有する支持部材からなる箱状の筐体の内面に、可撓性と透光性とを有する電波吸収シートを貼着等することで容易に形成できるため、測定対象機器や測定機器、測定条件等に応じた形状と大きさの電波遮蔽部を容易に実現することができる。
例えば、車載用レーダーなど小型機器の電波特性を計測する場合には、測定対象機器とその電波特性を計測するための計測機器が収容できる大きさに透光性を有する支持部材で構成された筐体の内面に電波吸収シートを貼着等すれば良い。もちろん、従来の電波暗室のような大きな計測空間が必要な場合には、計測室レベルの大きさの筐体を形成してその内面に電波吸収シートを貼着等することで、所望する大きさの計測空間を有する電波遮蔽部を実現することができる。
また、本実施形態にかかる電波遮蔽部では、筐体を構成する透光性を有する支持部材に貼着する電波吸収シートが高い可撓性を有するため、支持部材の内面に容易に貼着することができる。特に、筐体に曲面が形成されている場合には、電波吸収シートの可撓性を活かして、筐体との間に隙間無く電波吸収シートを貼着することができる。さらに、電波遮蔽部を形成する筐体における、上面と側面、または、隣り合う側面同士などの互いに略垂直に交わる2つの面の境界部分にも、隙間を最小限として電波吸収シートを貼着することができる。なお、透光性部材からなる筐体の面積が大きな場合には、複数枚の電波吸収シートをなるべく隙間が小さくなるようにして貼着することで、大面積の電波遮蔽部の壁面や天井を電波吸収体である電波吸収シートが配置された面とすることができる。前述したように、発明者が確認したところでは、2つの面の境界部分や、複数枚の電波吸収シートを並べて貼着する場合に生じる隙間が、2~3mm程度以下であれば、電波遮蔽部の内部から外部、または、外部から内部への電波の遮蔽特性として必要十分なレベルが実現できるため、実用上の問題は無い。
このように、本実施形態にかかる電波遮蔽部では、金属製のシールド体の内面に炭素材料が塗り込められた電波吸収体が配置された従来の電波暗室と比較して、内部が視認可能であることにさらに加えて、所望の形状、大きさの電波遮蔽部を容易に形成することができるという大きな利点を有している。
なお、電波遮蔽部としては、底面部分も電波吸収体に覆われている構成と、底面部分には電波吸収体を配置せずに大地(アース)での電波の反射を考慮する構成との2種類の形態が存在する。図11に示す、本実施形態の電波遮蔽部80としては、底面が開放された構成を採用することで、送信機81と受信機82とを所定の位置に配置した後に上方から電波遮蔽部80を被せて計測を行うことができる形態を例示している。
これに対し、底面部分も電波吸収体に覆われている構成の電波遮蔽部とする場合には、底面を構成する基材に電波吸収シートを貼着することで、6面が電波吸収体で覆われた形態の電波遮蔽部を構成することができる。特に、計測場所が金属製のテーブル上などである場合には、底面の金属表面での反射を防止するために、電波吸収体である電波吸収シートを貼着した底面を形成することが必要となる。なお、底面側から電波遮蔽部の内部の状態を視認する必要性は乏しいと考えられることから、底面の支持部材としては、必ずしも透光性を有する部材を採用する必要が無い場合も当然に生じ得る。なお、測定対象機器を、電波を通さず反射もしない部材で上面が構成されたテーブル上に載置して電波特性の測定を行う場合も、底面を備えていない電波遮蔽部を使用することができる。
また、例えばアクリル板などの成形性の優れた材料を用いて筐体を構成する場合には、筐体の上面と少なくとも一つの側面とを、または、測定対象機器の側方を囲う側面部分の複数方向または全周を、1枚のアクリル板を曲げ加工によって形成することができる。このような場合でも、本実施形態の電波遮蔽部に用いられる電波吸収体である電波吸収シートは高い可撓性を有しているため、透明な筐体の湾曲面の内側に容易に貼着することができる。
一方、電波遮蔽部の筐体として、上面と4つの側面とをそれぞれ平板状の部材として形成してこれらを接着する場合には、接着部分である面の境界部分には高い透明性が要求される可能性が小さいため、接着剤や溶剤を用いることができる。さらには、金属を含めた各種材料で形成された枠体にそれぞれの面を形成する5枚の基材をはめ込む形で電波遮蔽部の筐体を構成する方法を採用することもできる。この場合において、上面と4つの側面とを構成する基材に電波吸収シートを貼着した後にこれらを接着等して全体の形状を構成することができるとともに、電波吸収シートの高い可撓性を利用して、基材同士を先に接着等して電波遮蔽部の筐体を先に形成してからその内面に電波吸収シートを貼着するという方法を採用することもできる。
以上説明したように、本実施形態にかかる電波遮蔽部において電波吸収体として用いられる電波吸収シートは、吸収する電波が入射する側の表面に配置される抵抗皮膜を導電性有機高分子で構成するとともに電波遮蔽層として導電性メッシュを採用していることで、電波吸収シートを強く折り曲げた場合でも電波吸収特性を維持することができる高い可撓性を有している。また、電波遮蔽部の外殻を構成する筐体が透光性を有する部材で形成され、抵抗皮膜、誘電体層、電波遮蔽層をいずれも透光性を有する部材で形成して全体として全光線透過率が一例として60%以上の透光性を有した電波吸収シートを採用しているため、電波遮蔽部内部の状態を外部から容易に視認することができる。
なお、前述した本願で開示する電波吸収部材と同様に、支持部材に相当する筐体を含めた電波遮蔽部の各部分の全光線透過率を30%以上とすることで、電波遮蔽部の外側からの内部の視認性を十分確保することができる。
また、電波吸収体として高い可撓性を有する電波吸収シートを用いることで、電波遮蔽部の様々な形状に対応させてその内面に貼着することができ、計測対象の機器に合わせた形状の電波遮蔽部を形成することができる。さらに、電波吸収シートを電波吸収体として使用することで、従来の電波暗室に採用されていたような炭素粒子が塗り込まれた四角錐状の電波吸収体を用いた場合と比較して、電波吸収体の形状変化が生じずに交換する手間が省け、さらに、電波吸収体の交換時に手が汚れてしまうなどの問題も生じない。
さらにまた、電波吸収体としての電波吸収シートが電波干渉型(λ/4型、反射型)であり、誘電体層の厚さを変えることで電波吸収シートが吸収する電波の周波数を変更することができる。このため、本実施形態で示した電波遮蔽部は、計測対象の機器や計測条件に応じてより適切な構成を容易に採用することができる。
ここで、本実施形態に示す電波遮蔽部の特長を活かして、電波遮蔽部内に配置される機器の一部をさらに電波遮蔽部内に配置して電波特性を計測する構成例について説明する。
図12は、本実施形態にかかる電波遮蔽部の異なる使用形態を説明するイメージ図である。
図12に示す状態では、図11で示した送信機81と受信機82とを用いた電波特性の計測において、一方の機器である送信機81のみを電波遮蔽部80内でさらに別の電波遮蔽部83で覆っている。この状態において受信機82での受信電波を解析することで、受信機82が受信する電波のうちのノイズ成分のみを検出することができる。したがって、図11に示した状態で送信機81から送信された電波を受信したデータから、図12の状態で受信したデータを差し引くことで、送信機81から送信されている電波のみを精度良く検出することができる。
このように、本実施形態にかかる電波遮蔽部は、計測対象の機器の形状に合わせて簡易に形成することができるので、電波遮蔽部内でさらに一部の機器を電波遮蔽部内に収容して電波特性を比較計測するなど、従来の大がかりな電波暗室では実現できなかった、様々な状態での電波特性の計測を行うことができる。また、一つの電波遮蔽部の内部に、測定対象機器、および/または、測定機器を複数は位置することができることはいうまでもない。
なお、上記実施形態では、電波遮蔽部の全体形状として略直方体のものを例示して説明した。しかし、上述のように、本実施形態にかかる電波遮蔽部に用いられる電波吸収体としての電波吸収シートは、高い可撓性を有するために貼着される面は平面に限られない。このため、電波吸収シートがその内面に貼着される電波遮蔽部の形状が湾曲面であっても問題は無く、例えば、略直方体形状であって上面や側面の一部が湾曲した面で構成されている形状、さらには、全体として略円筒形、半球形状、円錐または円錐台形状の電波遮蔽部を実現することも可能である。もちろん、各面が平板状である全体として略多角柱形状のもの、略多角錐形状の電波遮蔽部を形成することもできる。
以上の実施形態では、電波遮蔽部の全ての面、すなわち、全体が直方体形状である場合には、上面と4つの側面、さらには必要に応じて底面が、透光性の基材とこれに固着された透光性と可撓性とを有する電波吸収シートで構成されている例を示した。しかし、電波遮蔽部内の状況を外部から直接視認可能とする構成として、上面または側面の一部にのぞき窓的な透光性部分があれば十分である場合も想定される。本願で開示する電波遮蔽部はこのような一部分のみが透光性を有する形態を排除するものではない。このような場合には、透光性を有しない筐体部分の内壁に透光性を有する電波吸収シートを固着することも可能であるし、透光性を有しない電波吸収シート、または、透光性を有さない他の方式の電波吸収体を固着することも可能である。
しかし、電波遮蔽部内の状況を視認する上で広い視野を確保するためには、電波遮蔽部の外殻の全体が透光性を有することがより好ましいことは言うまでも無い。また、本実施形態にかかる電波遮蔽部で電波吸収体として用いられる電波吸収シートは、簡易な構成で容易に形成することができる。さらには、高い透光性を有する透明な筐体として用いられるアクリル板やガラス板などは容易に入手可能であり、また、所望の形状の筐体を構成することも容易である。このため、電波遮蔽部の上面と側面とを全て透光性を有する形態とすることが容易であるとともに、一つの面の一部分のみを透光性を有する形態とするよりは、一つの面全体が透光性を有する形態とすることがより容易である場合も多いと考えられる。
図13は、本実施形態にかかる電波遮蔽部の別の構成例を示すイメージ図である。
図13に示す電波遮蔽部90は、透光性を有する筐体91の外面に、外側に抵抗皮膜を向けて電波吸収シート92a、92bを固着している。このようにすることで、電波遮蔽部の外部からの不所望な電波を電波吸収シート92a、92bで吸収し、内部には不所望な電波が侵入しない状態の電波遮蔽部90を形成することができる。なお、電波遮蔽部の外面に電波吸収体を固着する場合も、大面積の筐体の表面に複数枚の電波吸収シートを固着することができる。例えば、筐体91の上面の形状と側面の形状が異なる場合には、図13に示すように、縦横の大きさが異なる電波吸収シート91a、91bを使い分けて、筐体91の表面全体を覆うようにすることができる。また、筐体91の側面方向や後方から不所望な電波が侵入する可能性がない場合には、図13に示すように、筐体91の上面と前面とにのみ電波吸収シート91a、91bを固着することができる。
特に、図13に示す電波吸収シート91a、91bのように、縦方向と横方向との大きさが異なる複数種類の電波吸収シートを予め所定枚数以上用意しておくことで、測定形態に応じてその大きさや形状が異なる筐体の表面、若しくは、内壁面に、パッチワークのように電波吸収シートを固着して所望の形状の電波遮蔽部を形成することができるようになる。特に、本実施形態で示した電波吸収シートは、強く折り曲げても電波吸収特性の変化が生じない高い可撓性を有するため、複数回の貼り直しが可能であり、本実施形態にかかる電波遮蔽部は、従来の電波暗室の概念を変える自由度と汎用性の大きな不所望な電波が測定精度に影響を与えない電波特性の測定空間を、低コストで実現することができるという大きなメリットを有している。
なお、上記の実施形態では、電波吸収シートの抵抗皮膜として導電性高分子膜を、電波遮蔽層として導電性メッシュを用いる例を示して説明した。しかし、本願で開示する測定システム、および、電波遮蔽部において、透光性を有する支持部材に固着される可撓性と透光性とを有する電波吸収シートの抵抗皮膜と電波遮蔽層の材料としては、これら例示したものには限られない。抵抗皮膜としては、導電性高分子膜以外に、銀ナノワイヤーの透明樹脂分散膜、カーボンナノチューブの透明樹脂分散膜など、また、電波遮蔽層としては、導電性メッシュ以外に、銀ナノワイヤーの透明樹脂分散膜、カーボンナノチューブの透明樹脂分散膜など、所定の表面抵抗値を有し、支持部材に容易に貼着または剥離できる可撓性と、支持部材を含めた導電性部材として求められる透光性を有する範囲であれば、各種の材料を採用することができる。
[付記]
以下、本願で開示する電波吸収部材についての内容を改めて付記する。
本願で開示する電波吸収部材は、透光性の支持部材と、前記支持部材の一表面に固着された、全光線透過率が60%以上の透光性と可撓性とを有する電波吸収シートとを備え、前記電波吸収シートは、いずれも透光性を有する抵抗皮膜と誘電体層と電波遮蔽層とが順次積層して形成され、前記抵抗皮膜が導電性高分子膜であり、前記電波遮蔽層が導電性メッシュにより構成されている。
このようにすることで、本願で開示する電波吸収部材は、いわゆる電波干渉型(λ/4型、反射型)の電波吸収部材として誘電体層の厚みを調整することで所望の周波数の電波を吸収するとともに、電波吸収シートが可撓性を備えることで様々な形状の支持部材に容易に固着することができるので、所望の形状の電波吸収部材として実現できる。さらに、電波吸収部材を通してその背面側の状況を視認することができるため、例えば、電波吸収部材を通して測定対象機器を直接視認することができ、電波特性を測定する際に不所望な電波を吸収して測定精度を向上させる用途に良好に使用できる。
上記構成の電波吸収部材において、前記電波吸収シートの前記電波遮蔽層の前記誘電体層とは反対側の表面に接着層が形成され、前記接着層によって前記電波吸収シートが前記支持部材に貼着されていることが好ましい。このようにすることで、支持部材の所望される部分に電波吸収シートを容易に固着することができ、様々な形状の電波吸収部材を実現することができる。
また、少なくとも一つの辺に所定の凹凸形状を有し、前記凹凸形状が互いに嵌合することで、複数枚が接合可能とすることが好ましい。このようにすることで、嵌合する電波吸収部材の数を変化させることで、電波吸収部材の面積を容易に調整することができる。
さらに、前記導電性メッシュが、開口率が35%以上85%以下の繊維状導電メッシュであることが好ましい。
また、前記抵抗皮膜に、ポリ(3、4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリスチレンスルホン酸、ポリフッ化ビニリデンを含むことが好ましい。
さらにまた、前記抵抗皮膜の表面抵抗値が、真空の誘電率に対して-15%から+20%の範囲であることが好ましい。
また、前記誘電体層がミリ波帯域以上の高周波数帯域の電波を吸収可能な層厚に設定されていることが好ましい。このようにすることで、近年利用が拡大しているミリ波帯域の電波を吸収する透光性のある電波吸収部材を実現することができる。
さらに、前記電波吸収シートを、直径0.5mmのアルミ製の円筒型棒に前記抵抗皮膜が表向きになるように巻き付けて、前記電波吸収シートの中央部分が曲がった状態で両端にそれぞれ300gの錘を付けて下側に引っ張った状態を30秒間維持する可撓性試験の前後において、前記抵抗皮膜の電気抵抗値の変化が2倍以下であることが好ましい。このようにすることで、電波吸収シートが強く折り曲げられた場合でも電波吸収特性の変化がほとんど生じない高い可撓性を有することとなり、湾曲面を形成する透明部材にも容易に電波吸収シートを固着することができるようになる。また、電波吸収シートの貼り直しが容易となるので、電波吸収部材を低コストで構成できる。
また、前記電波吸収シートが固着された部分の全光線透過率が60%以上であることが好ましい。透明部材を含む電波吸収部材としての全光線透過率を60%以上とすることで、電波吸収部材を介した高い視認性を確保できる。
さらに、前記支持部材に前記電波吸収シートが取り外し可能に固着されていることが好ましい。
また、変形可能な前記支持部材を備え、全体として変形可能に構成されていることが好ましい。