以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムSの構成を示している。
図示のように、本実施形態に係る燃料電池システムSは、車両等に搭載され、燃料電池スタック10と、オフガス加熱装置を構成する排気燃焼器12と、燃料電池加熱装置を構成する空気熱交換器14、バイパス通路15、及びバイパス弁15aと、改質器16と、コントローラ80と、を備える。
燃料電池スタック10は、複数の燃料電池または燃料電池単位セルを積層して構成され、発電源である個々の燃料電池は、例えば、固体酸化物型燃料電池(SOFF:Solid Oxide Fuel Cell)である。
燃料電池スタック10は、アノード系において、燃料電池スタック10のアノード極に還元剤ガスとしての燃料(例えば水素)を供給するための主燃料供給通路20と、アノード極から排出される発電反応後のアノードオフガスを流すためのアノードオフガス通路22と、を備える。
また、燃料電池スタック10は、カソード系において、燃料電池スタック10のカソード極に酸化剤ガスとしての空気を供給するための主空気供給通路24と、カソード極から排出される発電反応後のカソードオフガスを流すためのカソードオフガス通路26と、を備える。すなわち、本実施形態の上記アノードオフガス及び上記カソードオフガスが、燃料電池スタック10から排出されるオフガスに相当する。
主燃料供給通路20には、上流から順に、原燃料タンク28と、第1インジェクタ30と、蒸発器32と、蒸発器温度センサ101と、改質器用熱交換器34と、改質器16とが設けられている。
また、主燃料供給通路20には、原燃料タンク28と第1インジェクタ30の間で分岐するとともに排気燃焼器12に接続する燃焼器燃料供給通路36が設けられている。また、燃焼器燃料供給通路36には、第2インジェクタ37が設けられている。
原燃料タンク28は、改質前の原燃料として、含酸素燃料(例えば、エタノール)と水との混合物から成る液体燃料を貯蔵する。原燃料タンク28に貯蔵される液体燃料は、主燃料供給通路20の第1インジェクタ30及び燃焼器燃料供給通路36の第2インジェクタ37によりそれぞれ所定噴射量に調節されて、蒸発器32及び排気燃焼器12に供給される。
すなわち、本実施形態において、第1インジェクタ30は、蒸発器32による気化及び改質器16による改質を経て燃料電池スタック10に供給される燃料ガスの流量を調節するべく開度調節可能に構成されている。
また、第2インジェクタ37は、排気燃焼器12に供給される液体燃料の量を調節するべく開度調節可能に構成されている。したがって、本実施形態では、第2インジェクタ37の開度を制御することで、後述する排気燃焼器12で生成される燃焼ガスの熱量に相当する排気燃焼器12の燃料供給量(以下、「燃料噴射量Fcomb」とも記載する)を調節することができる。
蒸発器32は、第1インジェクタ30を介して原燃料タンク28から供給される液体燃料を加熱して、エタノールガス及び水蒸気からなる改質前燃料ガスを生成する。
蒸発器温度センサ101は、蒸発器32で気化されて改質器用熱交換器34に供給される前の燃料ガスの温度を検出する。なお、本実施形態では、当該燃料ガスの温度を、蒸発器32の温度とみなす。すなわち、蒸発器温度センサ101は、改質器用熱交換器34に供給される前の燃料ガスの温度を「蒸発器温度Tv」として検出する蒸発器温度取得部として機能する。
改質器用熱交換器34は、排気燃焼器12からの燃焼ガスと改質前燃料ガスを熱交換することで、改質前燃料ガスを加熱する。
改質器16は、改質前燃料ガスを燃料電池スタック10に供給するために適切な状態とすべく改質する。例えば、改質器16は、図示しない改質用触媒によって上記改質前燃料ガスを水蒸気改質し、水素を主成分とする燃料ガスを生成する。
次に、アノードオフガス通路22は、燃料電池スタック10のアノード極出口と排気燃焼器12を接続する。これにより、上述のように、アノード極から排出される発電反応後のアノードオフガスがアノードオフガス通路22を介して排気燃焼器12に供給される。
一方、主空気供給通路24の入口には、該主空気供給通路24に空気を圧送するエアポンプ38が設けられている。また、主空気供給通路24には上流から順に、バイパス通路15、空気熱交換器14、及びスタック空気極入口温度センサ102が設けられ、他端が燃料電池スタック10の空気極入口に接続されている。
バイパス通路15が、主空気供給通路24において空気熱交換器14の上流位置と空気熱交換器14の下流位置を連結するように接続される。したがって、このバイパス通路15により、エアポンプ38からの空気の一部を、空気熱交換器14をバイパスさせて燃料電池スタック10に供給することができる。
また、バイパス通路15には、バイパス弁15aが設けられている。バイパス弁15aは、その開度(以下では、「バイパス弁開度Oby」とも記載する)が連続的又は段階的に調節可能に構成されている。したがって、バイパス弁15aのバイパス弁開度Obyを適宜調節することで、バイパス通路15に流す空気の流量、すなわち空気熱交換器14をバイパスさせる空気流量(以下では、「バイパス空気流量qby」とも記載する)を調節することができる。結果として、空気熱交換器14を通過させる空気流量(以下では、「熱交換器通過空気流量qex」とも記載する)を調節することができる。
空気熱交換器14は、エアポンプ38により供給される空気の少なくとも一部を、後述する排気燃焼器12で生成される燃焼ガスと熱交換させて加熱する装置である。このように空気熱交換器14により加熱された空気は燃料電池スタック10に供給される。なお、以下では、燃料電池スタック10に供給される空気の流量を「スタック供給空気流量qst」とも記載する。
スタック空気極入口温度センサ102は、主空気供給通路24において燃料電池スタック10のカソード極の入口付近に設けられ、燃料電池スタック10のカソード極に供給される空気の温度を検出する。すなわち、スタック空気極入口温度センサ102で検出される空気の温度は、空気熱交換器14で加熱された空気、及びバイパス通路15を経由して供給される空気が混合されてなる燃料電池スタック10のカソード極入口付近の空気の温度の検出値である。なお、本実施形態では、スタック空気極入口温度センサ102で検出される空気の温度を燃料電池の温度(以下、「スタック温度Ts」とも記載する)とみなす。
一方、カソードオフガス通路26は、燃料電池スタック10のカソード極出口と排気燃焼器12を接続する。これにより、上述のように、カソード極から排出される発電反応後のカソードオフガスがカソードオフガス通路26を介して排気燃焼器12に供給される。
また、カソードオフガス通路26には、燃料電池スタック10のカソード極の入口付近にスタック空気極出口温度センサ103が設けられている。スタック空気極出口温度センサ103は、燃料電池スタック10のカソード極から排出されるカソードオフガスの温度である「スタック出口温度Ts_out」を検出する。
そして、排気燃焼器12は、燃焼器燃料供給通路36の第2インジェクタ37を介して原燃料タンク28から液体燃料の供給を受けるとともに、アノードオフガス通路22及びカソードオフガス通路26を介して燃料電池スタック10からアノードオフガス及び空気極オフガスの供給を受ける。
排気燃焼器12は、これら液体燃料、アノードオフガス、及びカソードオフガスを混合させた混合物を図示しない燃焼用触媒によって触媒燃焼させることで、燃焼ガス(加熱ガス)を生成する。なお、排気燃焼器12は、生成される燃焼ガスに対して要求される熱量が低い場合などには、原燃料タンク28から液体燃料の供給を受けることなく、アノードオフガス及び空気極オフガスを混合させた混合物を触媒燃焼させて燃焼ガスを生成することも可能である。
さらに、排気燃焼器12には、下流に、燃焼ガス通路40が接続される。この燃焼ガス通路40には、上流から順に、燃料ガス通路温度センサ104、上述の空気熱交換器14及び蒸発器32が設けられており、他端は外気へ連通している。本実施形態において、燃焼ガス通路40は、排気燃焼器12で生成された燃焼ガスを上述の空気熱交換器14及び蒸発器32に供給する。
燃料ガス通路温度センサ104は、排気燃焼器12で生成されて燃焼ガス通路40を通る燃焼ガスの温度を検出する。なお、以下では、この燃焼ガスの温度検出値を「排気燃焼器温度Tcomb」とも記載する。
また、本実施形態では、改質器用熱交換器34及び改質器16が排気燃焼器12と共用のケースに収容され(二点鎖線により示す)、燃焼ガスの熱量がこの共用ケースLの内部で改質器用熱交換器34及び改質器16に伝わるように構成されている。
以上の構成を有する燃料電池システムSにおいて、バイパス通路15におけるバイパス弁15aのバイパス弁開度Obyを大きくしてバイパス空気流量qbyを増加させると、熱交換器通過空気流量qexが減少することとなる。したがって、空気熱交換器14において燃焼ガスと熱交換される空気が相対的に減少する一方で、バイパス通路15を通る加熱されない空気が相対的に増加する。
これにより、これらが合流して燃料電池スタック10に供給される空気の熱量は減少することとなる。すなわち、当該空気による燃料電池スタック10の昇温速度は低下する。一方で、上述のように熱交換器通過空気流量qexが減少すると、燃焼ガス通路40の燃焼ガスが空気との熱交換によって奪われる熱量が低下する。すなわち、燃焼ガス通路40を介して蒸発器32に供給される排ガスの熱量が増加する。これにより、当該排ガスによる蒸発器32の昇温速度は増加する。
なお、燃焼ガス通路40内の燃焼ガスから見ると、空気熱交換器14において空気との熱交換で奪われる熱量が減少することとなる。したがって、空気熱交換器14の熱交換後に蒸発器32に供給される燃焼ガスの熱量が相対的に大きくなるため、蒸発器32の昇温速度は向上する。さらに、逆にバイパス通路15におけるバイパス弁15aのバイパス弁開度Obyを小さくしてバイパス空気流量qbyを減少させると、燃料電池スタック10の昇温速度は向上する一方で、蒸発器32の昇温速度は低下する。したがって、バイパス弁15aのバイパス弁開度Obyを調節することで、燃料電池スタック10の昇温速度及び蒸発器32の昇温速度のバランスも調節することができる。
また、本実施形態では、バイパス弁15aは、該バイパス弁15aが全開状態であっても(バイパス弁開度Obyが最大であっても)、蒸発器温度Tvが所定の上限温度を超えないバイパス空気流量qbyとなるように構成される。すなわち、バイパス弁15aが全開であっても、蒸発器温度Tvを上記上限温度以下とすべく、熱交換器通過空気流量qexが一定量以上に保たれる構成である。すなわち、このように蒸発器温度Tvが所定の上限温度を超えないように制限されることで、空気熱交換器14における熱交換後に蒸発器32に供給されるスタック加熱後燃焼ガスの熱量が制限されることとなる。結果として、このスタック加熱後燃焼ガスが蒸発器32を加熱した後に、外部に排出される際の温度を一定以下に制限することができる。
コントローラ80は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたコンピュータ、特にマイクロコンピュータで構成される。そして、コントローラ80は、少なくとも、本実施形態、後述する各変形例1、2、又は第2実施形態に係る各処理を実行するために必要な処理を実行可能となるようにプログラムされている。
なお、コントローラ80は一つの装置として構成されていても良いし、複数の装置に分けられ、本実施形態の各制御を当該複数の装置で分散処理するように構成されていても良い。
そして、コントローラ80は、燃料電池システムSの運転に要する各種装置ないし部品の動作を制御する。特に、本実施形態のコントローラ80は、少なくとも蒸発器温度センサ101及びスタック空気極入口温度センサ102における検出値の信号、好ましくはさらにスタック空気極出口温度センサ103及び燃料ガス通路温度センサ104における検出値の信号を受信し、これら信号に基づいてバイパス弁15a、及び第2インジェクタ37等を制御する。
そして、本実施形態において、コントローラ80は、例えば、所定のSOFC起動スイッチの操作などによって生成される燃料電池システムSの起動要求信号を受信すると、燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機を並行して実行する暖機運転(暖機制御)を実行する。
ここで、燃料電池スタック10の暖機とは、運転停止中等の低温状態(例えば、常温の状態)にあった燃料電池スタック10を、燃料電池スタック10の温度を例えば500℃以上の暖機目標温度(以下では、「スタック暖機目標温度Ts_t」とも記載する)まで上昇(加熱)させる処理を言う。特に、このスタック暖機目標温度Ts_tは、燃料電池スタック10のアノード極触媒(主にニッケル)の酸化劣化が生じる温度である酸化劣化点To_deg(例えば400℃〜500℃の間の所定温度)の周辺の温度、好ましくは酸化劣化点To_degを越える温度に設定される。
蒸発器32の暖機とは、運転停止中等の低温状態の蒸発器32を、上述した原燃料の気化が可能となる例えば数百℃程度の暖機目標温度(以下では、「蒸発器暖機目標温度Tv_t」とも記載する)まで上昇(加熱)させる処理を言う。特に、蒸発器暖機目標温度Tv_tは、改質器16に液体の状態の燃料が供給されることを抑制できる程度に蒸発器32による気化が可能となる温度(蒸発器運転下限温度)以上に設定される。
そして、コントローラ80は、上記暖機運転において、スタック温度Ts及び蒸発器温度Tvに基づき、第2インジェクタ37を制御して排気燃焼器12への燃料供給量である燃料噴射量Fcombを調節する。
さらに、コントローラ80は、上記暖機運転において、スタック温度Ts及び蒸発器温度Tvに基づき、バイパス弁15a(バイパス弁開度Oby)を制御してバイパス空気流量qby(熱交換器通過空気流量qex)を調節する。
次に、本実施形態に係るコントローラ80による制御を行う背景について説明する。
図13は、背景技術にかかる暖機運転における経時変化の概略を示すグラフである。
図示のように、暖機運転が開始されると、排気燃焼器12で生成される燃焼ガスの熱量(排気燃焼器温度Tcomb)の増加にともない、当該燃焼ガスの熱で燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機が進行する。すなわち、スタック温度Ts及び蒸発器温度Tvがそれぞれ上昇する。
しかしながら、種々の要因により、図に示すように、燃料電池スタック10の暖機の進行が蒸発器32の暖機の進行と比べて早い場合には、スタック温度Tsが酸化雰囲気となって触媒劣化を引き起こし得る恐れがある酸化雰囲気上限温度(例えば、酸化劣化点To_deg)に先に到達する恐れがある(図の時刻t1)。
この場合、燃料電池スタック10のアノード極触媒の酸化劣化を抑制すべく、燃料電池スタック10への燃料ガスの供給を開始してアノード極内を還元雰囲気にすることが好ましい。しかしながら、図に示すように、蒸発器32の暖機の進行が相対的に遅れており、蒸発器温度Tvが蒸発器運転下限温度に達していないため、蒸発器32による原燃料の気化を十分に実行することができない。すなわち、この状態で蒸発器32への原燃料の供給を開始しても、燃料の気化が不十分となり改質器16による改質ができず、結果として燃料電池スタック10への燃料ガスの供給ができない状況となることが考えられる。したがって、上記酸化雰囲気を解消できず、アノード極触媒の酸化劣化が進行する恐れがある。
特に、図1に示すシステム構成をとる燃料電池システムSにおける暖機運転の場合には、排気燃焼器12により生成される燃焼ガスは、空気熱交換器14において主空気供給通路24内の空気との熱交換(すなわち、燃料電池スタック10の加熱)に用いられた後の燃料電池加熱後ガスを用いて蒸発器32を暖機する。したがって、暖機運転における蒸発器32の昇温速度は、燃料電池スタック10の昇温速度と比べて低くなる。このため、燃料電池スタック10の暖機の進行と比べ、蒸発器32の暖機の進行がより遅れやすいので、上述した酸化雰囲気を解消できない問題がより顕在化する。
本実施形態に係る燃料電池システムSにおいては、このような問題を解決すべく、以下に説明するコントローラ80による暖機運転を実行する。
図2は、本実施形態における燃料電池システムSの暖機運転を説明するブロック図である。なお、本ブロック図に示す各演算部の機能は、コントローラ80を構成する上記各ハードウェア及びソフトウェア(プログラム)により実現される。
図示のように、本実施形態のコントローラ80は、バイパス弁開度制御部B100と、インジェクタ制御部B110と、を有する。
バイパス弁開度制御部B100には、蒸発器温度センサ101で検出される蒸発器温度Tv、及びスタック空気極入口温度センサ102で検出されるスタック温度Tsが入力される。
バイパス弁開度制御部B100は、蒸発器温度Tv及びスタック温度Tsに基づいて、バイパス弁15aのバイパス弁開度Obyを調節する。
具体的に、バイパス弁開度制御部B100は、蒸発器温度Tv及びスタック温度Tsがそれぞれ所望の値となるように、バイパス弁15aの目標開度である目標バイパス弁開度Oby_tを演算し、バイパス弁開度Obyが目標バイパス弁開度Oby_tに近づくようにバイパス弁15aを操作する。
特に、本実施形態では、バイパス弁開度制御部B100は、燃料電池スタック10の暖機度合及び蒸発器32の暖機度合に基づいて目標バイパス弁開度Oby_tを演算する。
ここで、燃料電池スタック10の暖機度合は、燃料電池スタック10の暖機が当該暖機の完了に対してどの程度まで進行しているかを表す指標(パラメータ)である。したがって、燃料電池スタック10の暖機度合は、燃料電池スタック10の暖機を終了すべき温度(スタック暖機目標温度Ts_t)に対して、現在のスタック温度Tsがどの程度近づいているかという観点から演算することができる。
例えば、バイパス弁開度制御部B100は、燃料電池スタック10の暖機度合を、スタック暖機目標温度Ts_tに対するスタック温度Tsの割合を演算する。スタック暖機目標温度Ts_tに対するスタック温度Tsの割合は、例えば、これらの偏差やこれらの商(=Ts/Ts_t)として演算可能である。なお、以下では、燃料電池スタック10の暖機度合を「スタック暖機度合Wst_e」とも記載する。
また、蒸発器32の暖機度合も同様に、蒸発器32の暖機が当該暖機の完了に対してどの程度まで進行しているかを表すパラメータとして定義される。したがって、蒸発器32の暖機度合も、蒸発器32の暖機を終了すべき温度(蒸発器暖機目標温度Tv_t)に対して、現在の蒸発器温度Tvがどの程度近づいているかという観点から演算することができる。
例えば、バイパス弁開度制御部B100は、蒸発器32の暖機度合を、蒸発器暖機目標温度Tv_tに対する蒸発器温度Tvの割合を演算する。蒸発器暖機目標温度Tv_tに対する蒸発器温度Tvの割合は、例えば、これらの偏差やこれらの商(=Tv/Tv_t)として演算可能である。なお、以下では、蒸発器32の暖機度合を「蒸発器暖機度合Wv_e」とも記載する。
そして、バイパス弁開度制御部B100は、蒸発器温度Tv(蒸発器暖機度合Wv_e)、及びスタック温度Ts(スタック暖機度合Wst_e)がそれぞれ所望の値となるように、バイパス空気流量qbyの目標値である目標バイパス空気流量qby_tを演算する。そして、バイパス弁開度制御部B100は、バイパス弁開度Obyが、目標バイパス空気流量qby_tに相当する目標バイパス弁開度Oby_tに近づくように、バイパス弁15aを操作する。
例えば、バイパス弁開度制御部B100は、スタック暖機度合Wst_eが大きくなるほど、バイパス空気流量qbyを増加させるべく(熱交換器通過空気流量qexを減少させるべく)目標バイパス弁開度Oby_tを高く演算する。すなわち、この場合、バイパス弁開度制御部B100は、スタック暖機度合Wst_eの増加に応じてバイパス弁開度Obyを増加させる。これにより、スタック暖機度合Wst_eの増加が抑制される。
また、バイパス弁開度制御部B100は、蒸発器暖機度合Wv_eが大きくなるほど、バイパス空気流量qbyを減少させるべく(熱交換器通過空気流量qexを増加させるべく)目標バイパス弁開度Oby_tを高く演算する。すなわち、この場合、バイパス弁開度制御部B100は、蒸発器暖機度合Wv_eの増加に応じてバイパス弁開度Obyを増加させる。これにより、蒸発器暖機度合Wv_eの増加が抑制される。
次に、インジェクタ制御部B110には、蒸発器温度センサ101で検出される蒸発器温度Tv、スタック空気極入口温度センサ102で検出されるスタック温度Ts、及びバイパス弁開度制御部B100で演算された目標バイパス弁開度Oby_tが入力される。
インジェクタ制御部B110は、蒸発器温度Tv(蒸発器暖機度合Wv_e)、及びスタック温度Ts(スタック暖機度合Wst_e)に基づいて目標バイパス弁開度Oby_tを参照しつつ、第2インジェクタ37の開度を制御して排気燃焼器12への燃料の噴射量である燃料噴射量Fcombを調節する。
具体的に、インジェクタ制御部B110は、蒸発器温度Tv(蒸発器暖機度合Wv_e)、及びスタック温度Ts(スタック暖機度合Wst_e)が所望の値をとるように、目標バイパス弁開度Oby_tを参照しつつ、燃料噴射量Fcombの目標値である目標燃料噴射量Fcomb_tを演算する。そして、インジェクタ制御部B110は、燃料噴射量Fcombが目標燃料噴射量Fcomb_tに近づくように第2インジェクタ37を操作してその開度を調節する。
例えば、インジェクタ制御部B110は、蒸発器暖機度合Wv_eが大きくなるほど燃料噴射量Fcombを減少させるべく、目標燃料噴射量Fcomb_tを低く演算する。また、例えば、インジェクタ制御部B110は、スタック暖機度合Wst_eが大きくなるほど燃料噴射量Fcombを減少させるべく、目標燃料噴射量Fcomb_tを低く演算する。
次に、上述したバイパス弁開度制御部B100及びインジェクタ制御部B110によるバイパス弁開度Oby及び燃料噴射量Fcombのさらなる具体的な制御態様の例について説明する。
図3は、本実施形態のスタック暖機度合Wst_e及び蒸発器暖機度合Wv_eに基づくバイパス弁開度Oby及び燃料噴射量Fcombの制御の一態様を説明するフローチャートである。
図示のように、ステップS110において、コントローラ80は、スタック暖機度合Wst_eと蒸発器暖機度合Wv_eの大小を判定する。そして、コントローラ80は、スタック暖機度合Wst_eが蒸発器暖機度合Wv_eより大きいと判断すると、ステップS120の処理を実行する。
ここで、スタック暖機度合Wst_eが蒸発器暖機度合Wv_eよりも大きい場合とは、燃料電池スタック10の暖機の進行状況に対して蒸発器32の暖機の進行状況が遅い場合を意味する。
このような場合、例えば、蒸発器32における原燃料の気化を適切に実行することができないにもかかわらず、燃料電池スタック10はスタック温度Tsが一定以上に上昇にすることがある。その結果、燃料電池スタック10のアノード極内には燃料ガスが十分に供給されないにもかかわらず、スタック温度Tsが高くなることで酸化反応が進行しやすい酸化雰囲気になる。アノード極内が酸化雰囲気となると、通常の発電に係る酸化反応以外のアノード極を構成する触媒等の材料と酸素が反応する望ましくない酸化反応が生じやすくなる。
特に、スタック温度Tsが上述の酸化劣化点を越える程度に燃料電池スタック10の暖機が進行している状態で、アノード極内が酸化雰囲気となると、アノード極触媒を構成するニッケルと酸素が不可逆的に反応してアノード極触媒を劣化させる恐れがある。
また、この場合において、燃料電池スタック10の暖機がある程度進行しているにもかかわらず、蒸発器32の暖機にともない燃料電池スタック10に対する暖機を抑制することなく継続すると、燃料電池スタック10の耐熱性の観点から好ましくない。これに対して、本実施形態では、ステップS120の処理によりこのような事態の発生を抑制する。
すなわち、ステップS120において、コントローラ80は、バイパス弁開度Obyを増加させる。これにより、主空気供給通路24において空気熱交換器14をバイパスする空気の割合が増加することとなる(図1参照)。したがって、熱交換器通過空気流量qexが減少し、燃料電池スタック10に供給される空気に対する空気熱交換器14による実質的な加熱量が減少することとなる。結果として、燃料電池スタック10に対する加熱量が低下して、当該燃料電池スタック10の昇温が抑制されることとなる。
一方で、熱交換器通過空気流量qexが減少すると、空気熱交換器14における熱交換によって、排気燃焼器12で生成された燃焼ガスから空気に移る熱量が減少する。したがって、熱交換後に蒸発器32に供給される(スタック加熱後燃焼ガス)燃料電池加熱後燃焼ガスの熱量が増加することとなるので、蒸発器32の加熱量が増加し、蒸発器32の暖機速度が上昇する。
すなわち、バイパス弁開度Obyを増加させることによって、燃料電池スタック10の暖機速度を低下させつつ、蒸発器32の暖機速度を上昇させることができる。
したがって、上記ステップS120の処理を実行することによって、燃料電池スタック10の暖機速度を抑制することができるので、燃料電池スタック10のアノード極内における酸化反応の発生を抑制して、アノード極内が酸化雰囲気に陥ることを抑制することができる。また、燃料電池スタック10の昇温が抑制されることで、燃料電池スタック10の構成部品を耐熱性の観点からもより確実に保護することができる。
一方で、蒸発器32の暖機速度は上昇するので、蒸発器温度Tvをより速やかに蒸発器暖機目標温度Tv_tに近づけることができる。したがって、より確実に、スタック温度Tsが上述のアノード極触媒の酸化劣化を引き起こしうる温度に到達する前に、蒸発器温度Tvを蒸発器32による原燃料の気化が可能な温度とすることができる。
一方、上記ステップS110において、スタック暖機度合Wst_eが蒸発器暖機度合Wv_eより大きくないと判断される場合、すなわち、蒸発器暖機度合Wv_eがスタック暖機度合Wst_eよりも大きいと判断されると、コントローラ80はステップS130の処理を実行する。
ここで、蒸発器暖機度合Wv_eがスタック暖機度合Wst_eよりも大きい場合とは、蒸発器32の暖機の進行に対して燃料電池スタック10の暖機の進行状況が遅い場合を意味する。
この場合は、スタック温度Tsがアノード極触媒の酸化劣化が生じる得る温度に到達する前に、蒸発器温度Tvが蒸発器32の作動温度(原燃料の気化が可能となる温度)に到達し易い状況である。したがって、暖機運転を速やかに完了する観点から、第2インジェクタ37を制御して燃料噴射量Fcombを増加させる。
したがって、ステップS130において、コントローラ80は、暖機運転を速やかに完了する観点から、第2インジェクタ37を制御して燃料噴射量Fcombを増加させる。これにより、燃料電池スタック10及び蒸発器32の双方の昇温(暖機)が促進される。
以上説明した本実施形態の燃料電池システムSによれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の燃料電池システムSは、燃料と空気の供給を受けて発電する燃料電池としての燃料電池スタック10と、燃料電池スタック10に供給する燃料を気化する蒸発器32と、燃料電池スタック10から排出されるオフガス(カソードオフガス及びアノードオフガス)を加熱して加熱ガス(燃焼ガス)を生成するオフガス加熱装置(排気燃焼器)12と、燃料電池スタック10に供給される空気を燃焼ガスにより加熱する燃料電池加熱装置(14,15,15a)と、燃焼ガスにより蒸発器32を加熱する蒸発器加熱装置(14,15a,40)と、燃料電池スタック10の温度を取得する燃料電池温度取得部としてのスタック空気極入口温度センサ102と、蒸発器32の温度を取得する蒸発器温度取得部としての蒸発器温度センサ101と、を備える。
そして、燃料電池システムSは、燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機を実行する暖機運転において、蒸発器32の温度である蒸発器温度Tv及び燃料電池スタック10の温度であるスタック温度Tsに基づいて、蒸発器加熱装置(14,15a,40)及び燃料電池加熱装置(14,15,15a)を制御してオフガスの加熱量(燃料噴射量Fcomb)及び加熱ガスによる空気の加熱量(熱交換器通過空気流量qex)を調節するコントローラ80を有する(図2の「バイパス弁開度制御部B100」及び「インジェクタ制御部B110」)。
これにより、スタック温度Ts及び蒸発器温度Tvに基づく燃料電池スタック10及び蒸発器32のそれぞれの暖機の進行状況に応じて、各暖機の進行バランスを好適に制御することができる。したがって、燃料電池スタック10の暖機と蒸発器32の暖機の進行度合のバランスが崩れることに起因した不具合、例えば燃料電池スタック10及び蒸発器32の耐熱性が損なわれること及びアノード極内の酸化劣化反応の発生等の不具合を抑制することができる。
特に、本実施形態では、燃料電池加熱装置(14,15,15a)は、燃料電池スタック10に空気を供給する空気供給通路である主空気供給通路24に設けられて主空気供給通路24内の空気を上記加熱ガスと熱交換させる空気熱交換器14と、空気熱交換器14をバイパスするように主空気供給通路24に設けられたバイパス通路15と、バイパス通路15に設けられたバイパス弁15aと、を含む。また、蒸発器加熱装置(14,15a,40)は、バイパス弁15aと、空気熱交換器14における熱交換に用いられた後の加熱ガスである燃料電池加熱後ガスを蒸発器32に供給する燃料電池加熱後ガス供給系統である蒸発器ガス供給通路40aと、を含む。
そして、コントローラ80は、バイパス弁15aの開度であるバイパス弁開度Obyを制御して空気熱交換器14に供給される空気流量である熱交換器通過空気流量qexを調節する(図2のバイパス弁開度制御部B100)。
この構成により、バイパス弁15aを操作してバイパス弁開度Obyを調節することによって、熱交換器通過空気流量qexを調節することができる。これにより、空気熱交換器14で加熱ガスと熱交換される空気流量を調節することで、燃料電池スタック10に供給される空気の熱量、すなわち燃料電池スタック10に対する加熱量と、熱交換後の燃料電池加熱後ガスの熱量、すなわち蒸発器32に対する加熱量を制御することができる。
すなわち、暖機運転において、バイパス弁15aの操作によって、燃料電池スタック10に対する加熱量及び蒸発器32に加熱量の双方を好適に制御することができる。したがって、スタック暖機度合Wst_e及び蒸発器暖機度合Wv_eのバランスを一つのアクチュエータであるバイパス弁15aの操作で実行することができる。
例えば、バイパス弁開度Obyを大きくしてバイパス空気流量qbyを増加させると、熱交換器通過空気流量qexが減少することとなる。したがって、空気熱交換器14において加熱ガスと熱交換される空気が相対的に減少する。これにより、熱交換後に燃料電池スタック10に供給される空気の熱量は減少することとなる。すなわち、当該空気による燃料電池スタック10の昇温速度は低下して、当該燃料電池スタック10の暖機速度を抑制することができる。
一方で、この熱交換器通過空気流量qexが減少する場合において、加熱ガスが空気熱交換器14において空気との熱交換で奪われる熱量が減少することとなるので、熱交換後の燃料電池加熱後ガスの熱量は増加する。したがって、燃料電池加熱後ガスによる蒸発器32に対する加熱量が増加することとなるので、蒸発器32の暖機速度が向上する。
すなわち、バイパス弁開度Obyを大きくすることで、燃料電池スタック10の暖機速度を低下させつつ、蒸発器32の暖機速度を向上させることができる。
さらに、逆に、バイパス弁開度Obyを小さくしてバイパス空気流量qbyを減少させる場合には、熱交換器通過空気流量qexが増加するので、蒸発器32の暖機速度を低下させつつ、燃料電池スタック10の暖機速度を向上させることができる。
特に、本実施形態の燃料電池システムSでは、バイパス弁15aは、該バイパス弁15aが全開状態(バイパス弁開度Obyが最大であっても)であっても、蒸発器温度Tvが所定の上限温度を超えないバイバス空気流量qbyとなるように構成される。
これにより、空気熱交換器14における熱交換後に蒸発器32に供給されるスタック加熱後燃焼ガスの熱量が制限されることとなる。結果として、このスタック加熱後燃焼ガスが蒸発器32を加熱した後に、外部に排出される際の温度を一定以下に制限することができる。したがって、燃料電池システムSを搭載した車両の排ガス温度をより確実に低下させることができる。
なお、上述のように蒸発器温度Tvが所定の上限温度を超えないように、バイパス弁15aの構成を調節(設計)することに代えて、又はこれとともに、バイパス通路15の配管径や長さ等の構成を調節(設計)するようにしても良い。
例えば、バイパス通路15を、バイパス弁15aが全開状態であっても、蒸発器温度Tvが上記上限温度を超えないバイバス空気流量qbyとなる径に構成するようにしても良い。さらに、蒸発器温度Tvが上記上限温度を超えないように、バイパス弁15aの構成及びバイパス通路15の構成の双方を好適に調節するようにしても良い。
また、本実施形態の燃料電池システムSでは、オフガス加熱装置(12,37)は、オフガスを燃焼させて加熱ガスとしての燃焼ガスを生成する排気燃焼器12と、排気燃焼器12に供給する燃料の量である燃料噴射量Fcombを調節する燃料供給量調節部(37)と、を有する。そして、コントローラ80は、燃料供給量調節部(37)を制御して燃料噴射量Fcombを調節する。
これにより、オフガス加熱装置(12,37)を燃料電池スタック10のオフガスを加熱する機能を既存の排気燃焼器12により実現することができることができる。すなわち、燃料電池スタック10の加熱及び蒸発器32の加熱に用いる加熱ガスとしての燃焼ガスを生成する機能を、燃料電池システムSの構成の煩雑化を招くことなく実現できる。
さらに、本実施形態の燃料電池システムSは、原燃料である液体燃料を貯留する原燃料タンク28と、原燃料タンク28から排気燃焼器12に燃料を供給する燃焼器燃料供給通路36と、排気燃焼器12で生成される燃焼ガスを空気熱交換器14に供給する燃焼ガス供給通路としての燃焼ガス通路40と、燃料電池加熱装置(14,15,15a)で燃料電池スタック10の加熱に用いられた後の燃焼ガスである燃料電池加熱後燃焼ガスを蒸発器加熱装置(14,15a,40)に供給する蒸発器ガス供給通路としての蒸発器ガス供給通路40aをさらに有する。また、オフガス加熱装置(12,37)は、第2インジェクタ37を有する。そして、コントローラ80は、第2インジェクタ37を制御して燃料噴射量Fcombを調節する(インジェクタ制御部B110)。
これにより、本実施形態に係る燃料電池システムSにおける暖機運転を実行するための具体的なシステム構成が提供されることとなる。特に、このシステム構成によれば、燃料噴射量Fcombを調節することで、排気燃焼器12で生成される燃焼ガスの熱量を調節することができるので、この燃焼ガスによる燃料電池スタック10の暖機速度及び蒸発器32の暖機速度の双方を好適に制御することができる。
さらに、本実施形態の暖機運転では、コントローラ80は、スタック温度Tsに基づくスタック暖機度合Wst_eが蒸発器温度Tvに基づく蒸発器暖機度合Wv_eよりも大きい場合に、燃焼ガスと熱交換される空気の量(空気の加熱量)を減少させる。より具体的には、スタック暖機度合Wst_eが蒸発器暖機度合Wv_eよりも大きい場合には、バイパス弁開度Obyを増加させて熱交換器通過空気流量qexを減少させる(図3のステップS110及びステップS120)。
これにより、燃料電池スタック10の暖機の進行が蒸発器32の暖機の進行に対して進んでいる場合に、燃料電池スタック10に対する加熱量を減少させてその暖機速度を抑制することができる。したがって、例えば、蒸発器32の暖機に対して燃料電池スタック10の暖機が進行し、スタック温度Tsがアノード極内における望ましくない酸化反応の発生が懸念される温度になり得る状況において、燃料電池スタック10の暖機の進行を遅らせることができる。すなわち、蒸発器32の暖機がある程度進行して燃料の気化が可能となって、燃料電池スタック10への燃料ガスの供給が可能となるまで、燃料電池スタック10の加熱(昇温)を抑制することができる。結果として、暖機運転中においてアノード極内における望ましくない酸化反応の発生を抑制することができる。また、このように燃料電池スタック10の加熱が抑制されることで、燃料電池スタック10の構成部品の耐熱性の観点からの保護もより好適なものとすることもできる。
また、本実施形態では、コントローラ80は、蒸発器暖機度合Wv_eがスタック暖機度合Wst_eよりも大きい場合に、上記オフガスの加熱量を増加させる(図3のステップS130)。
蒸発器暖機度合Wv_eがスタック暖機度合Wst_eよりも大きい場合は、スタック温度Tsがアノード極触媒の酸化劣化が生じる得る温度に到達する前に、蒸発器温度Tvが蒸発器32の作動温度(原燃料の気化が可能となる温度)に到達し易い状況である。したがって、この場合に、第2インジェクタ37を制御して燃料噴射量Fcombを増加させることで暖機運転を速やかに完了させることができる。
なお、本実施形態において、スタック暖機度合Wst_eは、燃料電池スタック10の暖機目標温度であるスタック暖機目標温度Ts_tに対する取得されるスタック温度Tsの割合であり、蒸発器暖機度合Wv_eは、蒸発器32の暖機目標温度である蒸発器暖機目標温度Tv_tに対する取得される蒸発器温度Tvの割合であることが好ましい。
このようなパラメータでスタック暖機度合Wst_e及び蒸発器暖機度合Wv_eを定義することによって、暖機運転中における燃料電池スタック10の暖機の進行状況及び蒸発器32の暖機の進行状況を好適に把握することができる。
なお、本実施形態では、燃料電池温度取得部が、燃料電池スタック10に供給される空気の温度を検出するスタック空気極入口温度センサ102として構成されている。これにより、燃料電池スタック10の温度を好適に検出することができる。
一方で、燃料電池スタック10の空気極入口温度を「スタック温度Ts」とすることに代えて、燃料電池スタック10の空気極出口温度であるスタック出口温度Ts_out又は空気極入口温度と空気極出口温度の平均値を「スタック温度Ts」としても良い。特に、燃料電池スタック10の暖機がある程度進行して、燃料電池スタック10における空気の熱損失が低くなるシーンなどにおいて、空気極入口温度に加えて空気極出口温度を考慮して「スタック温度Ts」とすることで、当該「スタック温度Ts」を用いた暖機運転における制御の精度の向上が図られる。
また、本実施形態では、蒸発器温度取得部が、蒸発器32の加熱に用いられた後の加熱ガスの温度を取得する蒸発器温度センサ101として構成されている。これにより、蒸発器32の温度を好適に検出することができる。しかしながら、蒸発器32の温度を、例えば他の場所に設けた温度センサから推定するようにしても良い。
さらに、本実施形態では、上述した燃料電池システムSにより実行される暖機方法の一態様が提供される。
具体的に、本実施形態では、燃料と空気の供給を受けて発電する燃料電池としての燃料電池スタック10から排出されるオフガスを加熱して加熱ガスを生成するとともに、加熱ガスを用いて燃料電池スタック10に供給される空気の加熱、及び燃料電池スタック10に供給する燃料である原燃料を気化する蒸発器32の加熱を行う燃料電池システムSの暖機方法が提供される。
そして、この暖機方法では、燃料電池スタック10の温度であるスタック温度Ts及び蒸発器32の温度である蒸発器温度Tvに基づいて、オフガスの加熱量(燃料噴射量Fcomb)及び加熱ガスによる空気の加熱量(熱交換器通過空気流量qex)を調節する。
これにより、スタック温度Ts及び蒸発器温度Tvに基づく燃料電池スタック10及び蒸発器32のそれぞれの暖機の進行状況に応じて、各暖機の進行バランスを好適に制御することができる。したがって、燃料電池スタック10の暖機と蒸発器32の暖機の進行度合のバランスが崩れることに起因して、燃料電池スタック10及び蒸発器32の耐熱性が損なわれること及びアノード極内の酸化劣化反応の発生等の不具合を抑制することができる。
(第1変形例)
次に、上記実施形態の第1変形例について説明する。なお、上記実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図4は、第1変形例における燃料電池システムSの暖機運転を説明するブロック図である。
図示のように、本変形例が上記実施形態に対して異なる点は、コントローラ80のインジェクタ制御部B110が、スタック温度Ts(スタック暖機度合Wst_e)及び蒸発器温度Tv(蒸発器暖機度合Wv_e)に基づいて第2インジェクタ37の制御を行っていることである。すなわち、インジェクタ制御部B110の制御において目標バイパス弁開度Oby_tが参照されない。
本変形例の場合にも、第1実施形態と同様に、バイパス弁開度制御部B100は、スタック暖機度合Wst_e及び蒸発器暖機度合Wv_eに基づいて、バイパス弁15aを操作する。
一方、インジェクタ制御部B110は、蒸発器温度Tv(蒸発器暖機度合Wv_e)及びスタック温度Ts(スタック暖機度合Wst_e)がそれぞれ所望の値となるように、目標燃料噴射量Fcomb_tを演算し、これに基づいて第2インジェクタ37の開度を操作する。
したがって、本変形例の構成であっても、第1実施形態と同様に、燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機の相互の進行バランスを考慮しつつ好適に暖機運転を実行することができる。
(第2変形例)
次に、上記実施形態の第2変形例について説明する。なお、上記実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図5は、第2変形例における燃料電池システムSの暖機運転を説明するブロック図である。
図示のように、本変形例では、インジェクタ制御部B110は、蒸発器温度Tv(蒸発器暖機度合Wv_e)及びスタック温度Ts(スタック暖機度合Wst_e)がそれぞれ所望の値となるように、目標燃料噴射量Fcomb_tを演算し、これに基づいて第2インジェクタ37の開度を操作する。
一方、バイパス弁開度制御部B100は、蒸発器温度Tv(蒸発器暖機度合Wv_e)及びスタック温度Ts(スタック暖機度合Wst_e)がそれぞれ所望の値となるように、インジェクタ制御部B110で演算された目標燃料噴射量Fcomb_tを参照しつつ、蒸発器暖機度合Wv_eに対してスタック暖機度合Wst_eが大きく乖離しないような目標バイパス空気流量qby_tを演算し、これに基づいてバイパス弁15aを操作する。
したがって、本変形例の構成であっても、第1実施形態と同様に、燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機の相互の進行バランスを考慮しつつ好適に暖機運転を実行することができる。
なお、上記実施形態、第1変形例、及び第2変形例については本発明の態様の例に過ぎず、本発明の範囲で種々の変更が可能である。
例えば、図1に示した燃料電池システムSの各構成は一例であり、本発明の構成をこれに限定する趣旨ではない。具体的に、上記オフガス加熱装置の構成(排気燃焼器12、燃焼器燃料供給通路36、及び第2インジェクタ37)は、出力調節が可能なヒータや燃料の供給量を調節し得る他の燃焼器等、生成する熱量を調節できる任意の装置によって適宜、代替可能である。
また、上記燃料電池加熱装置の構成(空気熱交換器14、バイパス通路15、及びバイパス弁15a)は、オフガス加熱装置からの加熱ガスによって燃料電池スタック10に供給される空気を加熱しつつ、当該加熱量を調節できる任意の装置によって適宜、代替可能である。例えば、上記バイパス通路15及びバイパス弁15aを設ける構成に代えて、図1のエアポンプ38の出力を適宜変更することで空気熱交換器14に供給される空気流量(燃料電池スタック10の加熱量)を調節しても良い。さらに、空気熱交換器14へ空気を供給する別途のポンプ等の空気供給装置を設け、この空気供給装置の出力を制御して空気熱交換器14に供給される空気流量を調節するようにしても良い。
同様に、蒸発器加熱装置(14,15a,40)の構成も、上記実施形態及び各変形例で説明したもの以外に、オフガス加熱装置からの加熱ガスの蒸発器32への供給流量(加熱量)を調節するための他の流路及び該流路に設けられる弁により構成するようにしても良い。
また、「スタック暖機度合Wst_e」及び「蒸発器暖機度合Wv_e」を表すパラメータについても、上述の実施形態及び各変形例のパラメータに必ずしも限定されるものではなく、燃料電池スタック10の暖機の進行度合及び蒸発器32の暖機の進行度合を表すことができる他の任意のパラメータを採用することができる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態又は上記各変形例と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図6は、本実施形態における燃料電池システムSの暖機運転を説明するブロック図である。なお、本ブロック図に示す各演算部の機能は、コントローラ80を構成する上記各ハードウェア及びソフトウェア(プログラム)により実現される。
図示のように、本実施形態のコントローラ80は、スタック温度偏差演算部B200と、蒸発器温度偏差演算部B210と、フィードバック制御部B220と、を有している。
スタック温度偏差演算部B200は、スタック暖機目標温度Ts_tからスタック温度Tsを減算してスタック温度偏差e_sを演算する。すなわち、e_s=Ts_t−Tsとなる。なお、このスタック温度偏差e_sは、スタック暖機目標温度Ts_tに対するスタック温度Tsの割合を表すパラメータの一態様であるので、本実施形態における「スタック暖機度合Wst_e」となる。
また、本実施形態では、コントローラ80は、暖機運転中においてスタック暖機目標温度Ts_tを、燃料電池システムSの状態に応じて変化させる。特に、本実施形態において、コントローラ80は、取得される蒸発器温度Tvの大きさや燃料電池スタック10の空気極入口の温度と空気極出口の温度の差(以下では、「スタック入口−出口温度差ΔTs」とも記載する)に応じてスタック暖機目標温度Ts_tを設定する。
具体的に、コントローラ80は、上記スタック暖機目標温度Ts_tを設定する構成として、第1仮スタック目標温度演算部B201と、第2仮スタック目標温度演算部B202と、第3仮スタック暖機目標温度演算部B203と、ミニマムセレクト部B204と、を有している。
第1仮スタック目標温度演算部B201には、スタック入口−出口温度差ΔTsの下限値である温度差下限値ΔTs_lLim、及びスタック出口温度Ts_outの目標値である目標スタック出口温度Ts_out_tが入力される。
第1仮スタック目標温度演算部B201は、目標スタック出口温度Ts_out_tから温度差下限値ΔTs_lLimを減算することで第1仮目標スタック温度Ts_pre1を求め、これをミニマムセレクト部B204に送信する。
ここで、目標スタック出口温度Ts_out_tは、暖機運転の比較的初期の段階等において、スタック出口温度Ts_outが到達すべき温度である。そして、温度差下限値ΔTs_lLimは、燃料電池スタック10に供給する空気を急速に加熱することによって、スタック入口−出口温度差ΔTsが大きくなることに起因する耐熱性の問題を抑制する観点から定められる。
すなわち、本実施形態の燃料電池システムSの構成によれば、燃料電池スタック10の入口に空気熱交換器14で加熱された空気が供給されることで当該燃料電池スタック10の暖機を行う構成であるため、空気極入口付近は空気極出口付近と比較して温度上昇の速度が大きい。したがって、例えば、燃料電池スタック10の暖機を素早く行う場合などにおいては、空気極入口付近の温度上昇に空気極出口付近の温度上昇が追いつかず、燃料電池スタック10の温度分布が大きくなって耐熱性に影響を与えることが想定される。
このような状況に対して、本実施形態では、スタック出口温度Ts_outが目標スタック出口温度Ts_out_tに達するまでの間における燃料電池スタック10の暖機によって、スタック入口温度が過剰に上昇しないように、上記温度差下限値ΔTs_lLimを設定する。すなわち、目標スタック出口温度Ts_out_tから温度差下限値ΔTs_lLimを減算して得られる第1仮目標スタック温度Ts_pre1で、スタック温度Tsの上昇に制限をかけ、燃料電池スタック10の暖機中においてスタック入口−出口温度差ΔTsが過剰に大きくなることを抑制する。
なお、温度差下限値ΔTs_lLimは、適宜、種々の値を設定することができるが、例えば300℃程度に設定することもできる。
次に、第2仮スタック目標温度演算部B202には、スタック空気極出口温度センサ103からのスタック出口温度Ts_out、及びスタック入口−出口温度差ΔTsの上限値である許容温度差上限値ΔTs_uLimが入力される。
第2仮スタック目標温度演算部B202は、許容温度差上限値ΔTs_uLimからスタック出口温度Ts_outを減算することで第2仮目標スタック温度Ts_pre2を求め、これをミニマムセレクト部B204に送信する。
ここで、許容温度差上限値ΔTs_uLimは、暖機運転の中期〜後期の段階等において、燃料電池スタック10の耐熱性への悪影響を抑制する観点から許容し得るスタック入口−出口温度差ΔTsの上限値である。したがって、許容温度差上限値ΔTs_uLimからスタック出口温度Ts_outを減算して得られる第2仮目標スタック温度Ts_pre2は、スタック入口−出口温度差ΔTsが上記許容される上限値を超えないように、スタック温度Tsを制限する観点から定まる暫定的なスタック温度Tsの目標値である。
次に、第3仮スタック暖機目標温度演算部B203には、蒸発器温度Tvが入力される。第3仮スタック暖機目標温度演算部B203は、蒸発器温度Tvに基づいて第3仮目標スタック温度Ts_pre3を演算する。
図7は、蒸発器温度Tvから第3仮目標スタック温度Ts_pre3を演算するためのテーブルの一例を示している。
第3仮スタック暖機目標温度演算部B203は、図に示す関係に基づき蒸発器温度Tvから第3仮目標スタック温度Ts_pre3を求める。本実施形態では、図示のように、蒸発器温度Tvが所定値α1、α2となるタイミングを境界として、異なる第3仮目標スタック温度Ts_pre3の演算態様が設定される。
具体的に、蒸発器温度Tvが所定値α1以下の場合には、第3仮目標スタック温度Ts_pre3を比較的小さい値に設定するとともに、蒸発器温度Tvの大きさにかかわらず、その値をほとんど変化させないようにする。
ここで、蒸発器温度Tvが所定値α1以下の場合とは、例えば蒸発器32の暖機が初期段階であって、当該蒸発器32による原燃料の気化を行うまでに一定以上の蒸発器32に対する加熱を実行する必要がある状況である。
この場合において、燃料電池スタック10の暖機を通常以上の速度で進行させると、蒸発器32が原燃料の気化を十分に実行可能な温度に達していないにもかかわらず、スタック温度Tsが上記酸化劣化点を越え、アノード極触媒の酸化劣化が懸念される状態となる可能性がある。したがって、このような蒸発器32の暖機が初期状態である場合には、燃料電池スタック10の暖機の進行を抑制すべくスタック温度Tsの上昇を制限するため、第3仮目標スタック温度Ts_pre3を比較的小さく且つほとんど変化させないようにする。
次に、蒸発器温度Tvが所定値α1を越え、且つ所定値α2以下である場合には、蒸発器温度Tvが増加するにつれて第3仮目標スタック温度Ts_pre3が増加するように、当該第3仮目標スタック温度Ts_pre3を演算する。
この場合には、蒸発器32の暖機の進行が少なくとも初期段階を脱しているので、上記所定値α1以下におけるスタック温度Tsの上昇の制限を解除するように、第3仮目標スタック温度Ts_pre3を演算する。すなわち、暖機運転を速やかに終了させる観点から、蒸発器32の暖機の進行に応じて燃料電池スタック10の暖機も進行させるべく、蒸発器温度Tvが増加するにつれて第3仮目標スタック温度Ts_pre3を増加させるようにしている。
次に、蒸発器温度Tvが所定値α2を越えた以降は、第3仮目標スタック温度Ts_pre3を一定値に設定する。ここで、蒸発器温度Tvが所定値α2に達した状態では、スタック温度Tsは最終的なスタック暖機目標温度Ts_tに達する。したがって、スタック温度Tsの目標値に制限をかける必要が無いので、第3仮目標スタック温度Ts_pre3をこの最終的なスタック暖機目標温度Ts_tを同一の値に設定する。
図6に戻り、ミニマムセレクト部B204は、第1仮スタック目標温度演算部B201から受信した第1仮目標スタック温度Ts_pre1、第2仮スタック目標温度演算部B202から受信した第2仮目標スタック温度Ts_pre2、及び第3仮スタック暖機目標温度演算部B203から受信した第3仮目標スタック温度Ts_pre3の内、最も小さい値をスタック暖機目標温度Ts_tとして演算し、スタック温度偏差演算部B200に出力する。
これにより、蒸発器32との暖機の進行とのバランスをとる観点から定まる第3仮目標スタック温度Ts_pre3を、暖機運転の比較的初期段階における燃料電池スタック10の耐熱性を考慮した温度差下限値ΔTs_lLim、及び暖機運転の中期〜後期の段階における燃料電池スタック10の耐熱性を考慮した許容温度差上限値ΔTs_uLimで適宜制限したスタック暖機目標温度Ts_tを求めることができる。すなわち、スタック暖機目標温度Ts_tは、暖機運転中の燃料電池スタック10の耐熱性及び蒸発器暖機度合Wv_eとのバランスが考慮された値となる。
次に、蒸発器温度偏差演算部B210には、蒸発器温度センサ101からの蒸発器温度Tv及び蒸発器暖機目標温度Tv_tが入力される。
蒸発器温度偏差演算部B210は、蒸発器暖機目標温度Tv_tから蒸発器温度Tvを減算して蒸発器温度偏差e_vを演算する。すなわち、e_v=Tv_t−Tvとなる。なお、本実施形態の蒸発器温度偏差e_vは、蒸発器暖機目標温度Tv_tに対する取得される蒸発器温度Tvの割合を表すパラメータの一態様であるので、本実施形態における「蒸発器暖機度合Wv_e」に相当する。
そして、フィードバック制御部B220は、スタック温度偏差演算部B200からスタック温度偏差e_s、蒸発器温度偏差演算部B210から蒸発器温度偏差e_vをそれぞれ受信する。フィードバック制御部B220は、スタック温度偏差e_s及び蒸発器温度偏差e_vに基づいて、バイパス弁15a及び第2インジェクタ37を制御する。
図8は、フィードバック制御部B220の制御の詳細を説明するブロック図である。
図示のように、フィードバック制御部B220は、第1仮目標燃料噴射量演算部B221と、基本制御パラメータ演算部B222と、マックスセレクト部B224と、ミニマムセレクト部B225と、を有している。
第1仮目標燃料噴射量演算部B221は、上述の蒸発器温度偏差演算部B210で演算された蒸発器温度偏差e_vを受信する。第1仮目標燃料噴射量演算部B221は、蒸発器温度偏差e_vに基づいて、改質器16の暖機の観点から燃料噴射量Fcomb(第2インジェクタ37の開度に相当)の予備的な目標値である第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tを演算する。
具体的に、第1仮目標燃料噴射量演算部B221は、少なくとも積分動作を含むフィードバック制御ロジックにしたがい、蒸発器温度偏差e_vがゼロに近づくほど燃料噴射量Fcombが小さく方向に制御されるように、第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tを演算する。そして、第1仮目標燃料噴射量演算部B221は、演算した第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tをマックスセレクト部B224に出力する。
一方、基本制御パラメータ演算部B222は、バイパス弁開度演算部B2221と、第2仮目標燃料噴射量演算部B2222と、第3仮目標燃料噴射量演算部B2223と、を有する。
バイパス弁開度演算部B2221は、上述のスタック温度偏差演算部B200で演算されたスタック温度偏差e_sを受信する。バイパス弁開度演算部B2221は、スタック温度偏差e_sに基づいてバイパス弁15aの目標バイパス弁開度Oby_tを演算する。
具体的に、バイパス弁開度演算部B2221は、図に示すグラフに基づき、スタック温度偏差e_sから目標バイパス弁開度Oby_tを演算する。ここで、図のグラフにおいて、バイパス弁開度演算部B2221は、スタック温度偏差e_s≧0(Ts_t−Ts≧0)となる場合は、燃料電池スタック10の暖機が目標に達していないので、図1に示す主空気供給通路24内の空気をバイパスさせずに全て空気熱交換器14を通すようにする。すなわち、バイパス弁15aの開度を0(全閉)として、できるだけ燃料電池スタック10に供給される空気を空気熱交換器14で加熱して燃料電池スタック10の暖機を促進する。
また、図のグラフにおいて、スタック温度偏差e_s<0(Ts_t−Ts<0)となる場合は、燃料電池スタック10の暖機が目標に達している状態である。したがって、この場合には、燃料電池スタック10に対する加熱量を抑制すべく、スタック温度偏差e_sが低くなるほど、空気熱交換器14をバイパスさせる空気流量を増加させる(熱交換器通過空気流量qexを減少させる)。すなわち、スタック温度偏差e_sが低くなるほど、バイパス弁15aの開度を大きくするように目標バイパス弁開度Oby_tを演算する。
なお、図のグラフにおいて、スタック温度偏差e_sが所定値α以下の領域になると、バイパス弁15aの開度が全開となる。すなわち、これ以上、バイパス弁15aの開度を増加させることはできないため、この状態で、燃料電池スタック10の昇温速度を抑制する場合には、適宜、燃料噴射量Fcombを減少させる制御を行う必要がある。これについては後述する。
次に、第2仮目標燃料噴射量演算部B2222は、上述のスタック温度偏差演算部B200で演算されたスタック温度偏差e_sを受信する。第2仮目標燃料噴射量演算部B2222は、スタック温度偏差e_sに基づいて、燃料電池スタック10に対する加熱量をスタック暖機度合Wst_eに応じて一定以上に維持する観点から燃料噴射量Fcombの予備的な目標値である第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tを演算する。
具体的に、第2仮目標燃料噴射量演算部B2222は、少なくとも積分動作を含むフィードバック制御ロジックにしたがい、図に示すグラフに基づき、スタック温度偏差e_sから第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tを演算する。ここで、図のグラフにおいて、第2仮目標燃料噴射量演算部B2222は、燃料電池スタック10の暖機が目標に達していないスタック温度偏差e_s≧0の場合には、スタック温度偏差e_sが小さくなるほど、燃料噴射量Fcombを減少させるように第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tを演算する。これにより、スタック温度Tsの上昇に応じて、燃料電池スタック10の暖機速度を一定以上とするように、排気燃焼器12で生成される燃焼ガスの熱量を調節することができる。
また、図のグラフにおいて、スタック温度Tsが目標に達しているスタック温度偏差e_s<0(Ts_t−Ts<0)となる場合は、第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tを0とする。
さらに、第2仮目標燃料噴射量演算部B2222は、演算した第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tをマックスセレクト部B224に出力する。
次に、第3仮目標燃料噴射量演算部B2223は、上述のスタック温度偏差演算部B200で演算されたスタック温度偏差e_sを受信する。第3仮目標燃料噴射量演算部B2223は、スタック温度偏差e_sに基づいて、燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機を適切な速度で実行させる観点から、燃料噴射量Fcombの予備的な目標値である第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tを演算する。
具体的に、第3仮目標燃料噴射量演算部B2223は、図に示すグラフに基づき、スタック温度偏差e_sから第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tを演算する。ここで、図のグラフにおいて、第3仮目標燃料噴射量演算部B2223は、バイパス弁15aの開度が全開となるスタック温度偏差e_s=αとなるまで、すなわち、スタック温度Tsがスタック暖機目標温度Ts_tよりも所定値α以上大きくなるまで、第2インジェクタ37の開度を調節して燃料噴射量Fcombを所望の値とするように第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tを演算する。
したがって、第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tとしては、図のグラフのように、基本的には、燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機を適切な速度で実行させる観点から定まる第2インジェクタ37の適切な開度に対応する燃料噴射量Fcombが設定される。
一方で、上述のバイパス弁開度演算部B2221による制御のように、スタック温度偏差e_sが所定値α以下になると、バイパス弁15aの開度を増加させることができず、空気熱交換器14をバイパスさせる空気流量を増やすことができない。
したがって、本実施形態では、第3仮目標燃料噴射量演算部B2223は、スタック温度偏差e_sが所定値α以下の領域において、スタック温度偏差e_sが小さくなるほど、燃料噴射量Fcombを低下させるように第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tを演算する。すなわち、燃料電池スタック10の昇温速度をバイパス弁15aの開度の変更で調節できないシーンにおいては、スタック温度Tsの上昇に応じて燃料噴射量Fcombの方を制限するように第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tを演算する。
さらに、第3仮目標燃料噴射量演算部B2223は、演算した第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tをミニマムセレクト部B225に出力する。
次に、マックスセレクト部B224は、第1仮目標燃料噴射量演算部B221から第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tを受信するとともに、第2仮目標燃料噴射量演算部B2222から第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tを受信する。
マックスセレクト部B224は、第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tと第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tの大きい方であるMax(pre1,pre2)をミニマムセレクト部B225に出力する。
すなわち、マックスセレクト部B224は、蒸発器32の暖機速度を一定以上にする観点から定まる第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tと、燃料電池スタック10の暖機速度を一定以上に維持する観点から定まる第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tの内の大きい方の値を残す。したがって、このMax(pre1,pre2)が目標燃料噴射量Fcomb_tに設定された場合には、燃料電池スタック10及び蒸発器32の双方の暖機速度を一定以上に維持することができる。
次に、ミニマムセレクト部B225は、マックスセレクト部B224からMax(pre1,pre2)、及び第3仮目標燃料噴射量演算部B2223から第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tをそれぞれ受信する。
ミニマムセレクト部B225は、Max(pre1,pre2)及び第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tの内の小さい方を、最終的な目標燃料噴射量Fcomb_tとして選択する。
すなわち、ミニマムセレクト部B225は、燃料電池スタック10及び蒸発器32の双方の暖機速度を一定以上に維持する観点のMax(pre1,pre2)と、バイパス弁15aの開度が全開となる時(スタック温度偏差e_s=α)以降の燃料電池スタック10の昇温速度の調節の観点から定まる第3仮目標燃料噴射量Fcomb_pre3_tの内の小さい方の値を最終的な目標燃料噴射量Fcomb_tとする。
したがって、燃料噴射量Fcombは、バイパス弁15aが全開となるまでにおいては、燃料電池スタック10及び蒸発器32の双方の暖機速度を維持する観点から制御される。一方で、スタック温度Tsがスタック暖機目標温度Ts_tを超えてバイパス弁15aが全開となった以降(スタック温度偏差e_s≦αの領域)は、スタック温度Tsの上昇が抑制されるように燃料噴射量Fcombが制限されることとなる。
以上、説明した本実施形態のコントローラ80の制御ロジックによる一作用について説明する。
図9は、図6〜図8で説明した制御ロジックにしたがう本実施形態の暖機運転の経時変化の一態様を示している。特に図9(a)は暖機運転中のスタック温度Ts及び蒸発器温度Tvの経時変化を示しており、図9(b)は暖機運転中の経時変化を示している。
図示のように、コントローラ80は、スタック温度Tsがスタック暖機目標温度Ts_tに到達する時刻t1までにおいて、図8の第1仮目標燃料噴射量演算部B221、第2仮目標燃料噴射量演算部B2222、第3仮目標燃料噴射量演算部B2223、及びミニマムセレクト部B225等の制御ロジックに従い、燃料噴射量Fcombが適切に制御され燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機が実行される。
そして、時刻t1において、スタック温度Tsがスタック暖機目標温度Ts_tに到達すると、コントローラ80は、バイパス弁開度演算部B2221等の制御ロジックにしたがい、バイパス弁15aが操作され、バイパス弁開度Obyが増加する。
すなわち、時刻t1は、スタック温度Tsがスタック暖機目標温度Ts_tに達したものの、まだ蒸発器32の暖機が完了していない状態である。この場合には、耐熱保護等の観点から燃料電池スタック10に対する加熱量を抑制する一方で、蒸発器32の暖機は継続する必要がある。これに対して、本実施形態では、バイパス弁開度Obyを増加させることで、図に示すように燃料電池スタック10に対する加熱量(昇温)を抑制しつつ、蒸発器32に対する加熱量(昇温)を促進することができる。
なお、図には省略しているが時刻t2以降においては、可能な限りバイパス弁開度Obyを増加させて、スタック温度Tsの上昇を抑制しつつ、蒸発器温度Tvの上昇を促すが、バイパス弁開度Obyが最大開度に到達したにもかかわらず、スタック温度偏差e_sが一定以上(バイパス弁開度演算部B2221におけるα以上)となる場合には、第3仮目標燃料噴射量演算部B2223の制御ロジックにしたがい、燃料噴射量Fcombが制限される。すなわち、バイパス弁15aに対する操作で燃料電池スタック10の加熱量を制限することができなくなったときには、排気燃焼器12で生成される燃焼ガスの熱量そのものを低下させて、燃料電池スタック10の過剰な昇温を抑制する。
さらに、本実施形態では、上述のように、第1仮目標燃料噴射量演算部B221及び第2仮目標燃料噴射量演算部B2222は、積分動作を含むフィードバック制御ロジックにしたがい、第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_t及び第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tを演算している。
一方で、図8に示すように、第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_t及び第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tは、マックスセレクト部B224において何れか一方が選択されるため、選択されなかった他の一方の値は燃料噴射量Fcombの制御に用いられなくなる。この場合、選択されなかった他の一方の値を演算するフィードバック制御ロジックにおいては、偏差がゼロに近づかない状態が続くことが想定される。その結果、当該フィードバック制御ロジックにおける積分動作が繰り返されることとなり、積分動作の項が大きくなる。結果として、選択されなかった他の一方の値が想定以上に大きな値として演算される可能性がある。
そして、この状態においてスタック温度Tsや蒸発器温度Tv等の暖機運転の状態が変化し、マックスセレクト部B224において上述の選択されなかった他の一方の値が選択されるようになった場合、この想定以上に大きくなった値に基づいて第2インジェクタ37が操作されることとなるため、オーバーシュートやハンチングが引き起こされる。
これに対して、本実施形態では、マックスセレクト部B224において選択されない他の一方の値を演算する演算部において、積分動作を停止させる。具体的に、第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tが第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tよりも大きい場合には、第2仮目標燃料噴射量演算部B2222による積分動作を停止する。一方で、第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tが第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tよりも大きい場合には、第1仮目標燃料噴射量演算部B221による積分動作を停止する。これにより、上述の積分動作の繰り返しによるオーバーシュートやハンチング等に起因する制御精度の低下を抑制することができる。
以上説明した本実施形態の燃料電池システムSによれば、第1実施形態で説明した作用効果に加えて以下の作用効果を奏する。
本実施形態の燃料電池システムSでは、コントローラ80は、燃料電池スタック10の暖機が蒸発器32の暖機よりも先に完了する場合に、加熱ガスによる空気の加熱量の減少を実行する。具体的に、本実施形態ではバイパス弁開度Obyを増加させる(図9の時刻t1以降を参照)。
これにより、燃料電池スタック10の暖機が完了している一方で蒸発器32の暖機が完了していない状況において、スタック温度Tsの上昇を抑制しつつ、蒸発器温度Tvの暖機を継続することができる。したがって、燃料電池スタック10の暖機が完了しているにもかかわらず、蒸発器32の暖機にともない燃料電池スタック10が加熱し続けられることによる耐熱性への影響を抑制することができる。
特に、本実施形態の燃料電池システムSは、図1等によって説明したように、バイパス弁開度Obyを増加させることで、燃料電池スタック10に対する加熱量が減少するとともに、蒸発器32の加熱量が増加する。
したがって、本実施形態の構成によれば、一つのアクチュエータであるバイパス弁15aを操作するだけで、暖機運転中における燃料電池スタック10の過剰な昇温を抑制して当該燃料電池スタック10の耐熱保護をより確実なものとしつつも、まだ暖機が完了していない蒸発器32に対して暖機を促してより速やかな暖機運転の完了にも資することとなる。
さらに、本実施形態の燃料電池システムSは、コントローラ80は、加熱ガスである燃焼ガスと熱交換する空気の量が所定の下限値に達すると、加熱ガスの熱量の増加を制限する。すなわち、バイパス弁15aの開度が全開となるスタック温度偏差e_sが所定値α以下となると、燃料噴射量Fcombを制限する(図7の第3仮目標燃料噴射量演算部B2223参照)。
これによれば、バイパス弁15aを開放する制御ではこれ以上、燃料電池スタック10の昇温速度を抑制することができないシーンにおいては、燃料噴射量Fcombを制限することで燃料電池スタック10の昇温速度を抑制することができる。
したがって、例えば、バイパス弁15aが全開であるにもかかわらずスタック暖機度合Wst_eに対して蒸発器暖機度合Wv_eが低いため、蒸発器32の燃料気化準備が整っておらず、燃料電池スタック10への燃料ガスの供給を十分に行うことができない状況において燃料電池スタック10の暖機速度を抑制することができる。すなわち、このような状況においては、燃料電池スタック10の昇温を抑制して、上述したアノード極内の酸化劣化反応を抑制することができる。
さらにより詳細な本実施形態の燃料電池システムSの構成として、コントローラ80は、蒸発器32の暖機目標温度(蒸発器暖機目標温度Tv_t)に対する取得される蒸発器の温度(蒸発器温度Tv)の割合として、蒸発器暖機目標温度Tv_tから蒸発器温度Tvを減算して得られる蒸発器温度偏差e_vを設定し(図6の蒸発器温度偏差演算部B210)、燃料電池の暖機目標温度(スタック暖機目標温度Ts_t)に対する取得される燃料電池の温度(スタック温度Ts)の割合として、スタック暖機目標温度Ts_tからスタック温度Tsを減算して得られる燃料電池温度偏差としてのスタック温度偏差e_sを設定する(スタック温度偏差演算部B200)。
そして、コントローラ80は、蒸発器温度偏差e_vに基づいて、蒸発器32が要求するオフガスの加熱量である蒸発器要求オフガス加熱量に相当する第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tを演算し(図8の第1仮目標燃料噴射量演算部B221)、スタック温度偏差e_sに基づいて、燃料電池スタック10が要求する前記オフガスの加熱量である燃料電池要求オフガス加熱量に相当する第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tを演算する(第2仮目標燃料噴射量演算部B2222)。
さらに、コントローラ80は、第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_t及び第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tに基づいて、オフガスの加熱量の目標値であるオフガス加熱量目標値に相当する目標燃料噴射量Fcomb_tを設定し(マックスセレクト部B224及びミニマムセレクト部B225)、目標燃料噴射量Fcomb_tに基づいて第2インジェクタ37を制御する。
これにより、暖機運転において、蒸発器温度Tv及びスタック温度Tsに基づいて、蒸発器暖機度合Wv_e及びスタック暖機度合Wst_eのバランスを好適に調節し得る燃料電池システムSの具体的な一態様が提供されることとなる。
特に、本実施形態では、コントローラ80は、第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_t及び第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tの内の大きい方を選択して、目標燃料噴射量Fcomb_tを設定する(図8のマックスセレクト部B224)。
これにより、蒸発器暖機度合Wv_eの観点から定まる第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tとスタック暖機度合Wst_eの観点から定まる第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tの内の大きい方を目標燃料噴射量Fcomb_tの候補とすることができる。したがって、この目標燃料噴射量Fcomb_tに基づいて第2インジェクタ37が制御されることで、燃料電池スタック10及び蒸発器32の双方の暖機速度を一定以上に維持することができる。
さらに、本実施形態では、コントローラ80は、第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_tの演算及び第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tの演算を、積分動作を含むフィードバック制御によって実行する。そして、目標燃料噴射量Fcomb_tに設定において選択されなかった方の値の演算が、積分動作を含むフィードバック制御によって実行されている場合には、該積分動作を停止させる。
これにより、マックスセレクト部B224において選択されなかった値の演算において、積分動作が繰り返されることによるオーバーシュートやハンチング等に起因する制御精度の低下を抑制することができる。
さらにより詳細な本実施形態の燃料電池システムSの構成として、コントローラ80は、燃料電池温度偏差としてのスタック温度偏差e_sに基づいて、燃料電池スタック10が要求する加熱ガスによる空気の加熱量の目標値である空気加熱量目標値に相当する目標バイパス弁開度Oby_tを演算し、目標バイパス弁開度Oby_tに基づいてバイパス弁15aを制御する(図8のバイパス弁開度演算部B2221参照)。
これにより、バイパス弁15aを操作するという簡易な制御で暖機運転中のスタック温度Tsの調節を好適に行うことができる。特に、既に説明したように、本実施形態の燃料電池システムSは、バイパス弁開度Obyを調節することで、燃料電池スタック10だけでなく蒸発器32の加熱量も調節できる構成である。したがって、例えば、スタック温度偏差e_sが小さい場合に、目標バイパス弁開度Oby_tを大きくして燃料電池スタック10の加熱量を抑制して該燃料電池スタック10の暖機を抑制しつつ、蒸発器32の加熱量を増加させて蒸発器32の暖機を促進する等の暖機速度のバランス調節を好適に実行することができる。
なお、本実施形態では、第1仮目標燃料噴射量演算部B221及び第2仮目標燃料噴射量演算部B2222の双方が、積分動作を含むフィードバック制御ロジックにしたがい、第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_t及び第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_tをそれぞれ演算するように構成している。しかしながら、第1仮目標燃料噴射量演算部B221及び第2仮目標燃料噴射量演算部B2222における演算を積分動作を含まないフィードバック制御ロジックに基づいて実行するようにしても良い。
また、第1仮目標燃料噴射量演算部B221及び第2仮目標燃料噴射量演算部B2222の何れか一方が積分動作を含むフィードバック制御を実行し、他方は積分動作を含まないフィードバック制御を実行するようにしても良い。この場合、マックスセレクト部B224において選択されなかった値を演算する演算部が、積分動作を含むフィードバック制御を実行する演算部である場合に、当該演算部の積分動作を停止するように構成することができる。
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。なお、第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施形態では、図8に示すバイパス弁開度演算部B2221における目標バイパス弁開度Oby_tの演算態様が、第2実施形態における目標バイパス弁開度Oby_tの演算態様に対して変更される。
具体的に、バイパス弁開度演算部B2221は、図8に示すグラフにおけるスタック温度偏差e_sが0以上の領域、すなわちスタック温度Tsがスタック暖機目標温度Ts_tに到達していない状態において、燃料電池スタック10の暖機完了タイミングと蒸発器32の暖機完了タイミングを予測する。そして、蒸発器32の暖機完了タイミングと燃料電池スタック10の暖機完了タイミングの間の時間差を所望の範囲内に調節する。
特に、本実施形態では、蒸発器32の暖機完了タイミングが燃料電池スタック10の暖機完了タイミングよりも遅いと推測される場合には、バイパス弁開度Obyを調節することでこれらに対する加熱量のバランスを調節して、蒸発器32の暖機完了タイミングと燃料電池スタック10の暖機完了タイミングを略同時に調節する。
図10は、本実施形態に係る暖機運転におけるスタック暖機度合Wst_eと蒸発器暖機度合Wv_eの経時変化の一例を示すタイムチャートである。特に図10(a)はスタック暖機度合Wst_eと蒸発器暖機度合Wv_eの経時変化を示しており、図10(b)はバイパス弁開度Obyの経時変化を示している。
ここで、図に示す(Ts/Ts_t)はスタック暖機目標温度Ts_tに対する現在のスタック温度Tsの割合に当たるものであり、第1実施形態で説明したように、燃料電池スタック10の暖機の進行度の指標である。すなわち、スタック暖機度合Wst_eに相当する。したがって、以降は、これを「スタック暖機進行度(Ts/Ts_t)」とも称する。同様に、(Tv/Tv_t)は蒸発器暖機目標温度Tv_tに対する現在の蒸発器温度Tvの割合に当たるものであり、蒸発器暖機度合Wv_eに相当する。したがって、以降は、これを「蒸発器暖機進行度(Tv/Tv_t)」とも称する。
本実施形態では、バイパス弁開度演算部B2221は、これらスタック暖機進行度(Ts/Ts_t)及び蒸発器暖機進行度(Ts/Ts_t)を所定の演算周期で演算し、図示しないメモリ等に記録する。
さらに、バイパス弁開度演算部B2221は、燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機が何れも完了していないある時刻txにおいて、燃料電池スタック10の暖機が完了する予測時間であるスタック暖機完了予測時間ts_ex、及び蒸発器32の暖機が完了する予測時間である蒸発器暖機完了予測時間tv_exを演算する。
具体的に、バイパス弁開度演算部B2221は、時刻tx以前の所定時間の間におけるスタック暖機進行度(Ts/Ts_t)を読出し、当該所定時間の間におけるスタック暖機進行度(Ts/Ts_t)の変化量(傾き)を演算する。
そして、バイパス弁開度演算部B2221は、演算したスタック暖機進行度(Ts/Ts_t)の変化量を保ったまま燃料電池スタック10の暖機が進行すると仮定して時刻tx以降のスタック暖機進行度(Ts/Ts_t)の予測値である予測スタック暖機進行度(Ts/Ts_t)ex(図10の一点鎖線参照)を設定する。さらに、バイパス弁開度演算部B2221は、この予測スタック暖機進行度(Ts/Ts_t)exが1となる時刻、すなわち、スタック温度Tsがスタック暖機目標温度Ts_tに到達すると予測される時刻をスタック暖機完了予測時間ts_exとして演算する。
同様に、バイパス弁開度演算部B2221は、演算した蒸発器暖機進行度(Tv/Tv_t)の変化量を保ったまま蒸発器32の暖機が進行すると仮定して時刻tx以降の蒸発器暖機進行度(Tv/Tv_t)の予測値である予測蒸発器暖機進行度(Tv/Tv_t)ex(図10の二点鎖線参照)を設定する。そして、バイパス弁開度演算部B2221は、この予測蒸発器暖機進行度(Tv/Tv_t)exが1となる時刻、すなわち、蒸発器温度Tvが蒸発器暖機目標温度Tv_tに到達すると予測される時刻を蒸発器暖機完了予測時間tv_exとして演算する。
そして、図10(a)に示すように、本実施形態では、時刻txの段階において、蒸発器暖機完了予測時間tv_exがスタック暖機完了予測時間ts_exを越えている。したがって、バイパス弁開度演算部B2221は、燃料電池スタック10の暖機完了タイミングと蒸発器32の暖機完了タイミングを合わせるべく、バイパス弁開度Obyを所定値まで増加させる(図10(b)参照)。
これにより、既に説明したように、燃料電池スタック10の昇温速度が抑制される一方で、蒸発器32の昇温速度が増加する。したがって、図10(a)の時刻tx以降の実線で示されるように、スタック暖機進行度(Ts/Ts_t)の変化量(傾き)が小さくなる一方で、蒸発器暖機進行度(Tv/Tv_t)の変化量(傾き)が大きくなる。結果として、実際のスタック暖機完了時間tsと蒸発器暖機完了時間tvがほぼ一致することとなる。すなわち、燃料電池スタック10の暖機完了タイミングと蒸発器32の暖機完了タイミングが略同時となる。
以上説明した本実施形態の燃料電池システムSによれば、第1実施形態及び第2実施形態で説明した作用効果に加えて以下の作用効果を奏する。
本実施形態の燃料電池システムSでは、バイパス弁開度演算部B2221として機能するコントローラ80は、蒸発器32の暖機が完了する予測時間である蒸発器暖機完了予測時間tv_exが、燃料電池スタック10の暖機が完了する予測時間である燃料電池暖機完了予測時間としてのスタック暖機完了予測時間ts_exを越えるときに、蒸発器32の暖機が燃料電池スタック10の暖機よりも先に完了すると判断し、燃焼ガスによるスタック供給空気の加熱量を減少させる処理、すなわちバイパス弁開度Obyを所定値まで増加させる処理を実行する(図10(b)参照)。
これにより、燃料電池スタック10及び蒸発器32の双方の暖機が完了していない状態において、事前に、蒸発器32の暖機完了タイミングが燃料電池スタック10の暖機完了タイミングに対して遅れることを判断することができ、その場合に燃料電池スタック10に対する加熱量を抑制して燃料電池スタック10の暖機完了タイミングを遅らせることができる。したがって、燃料電池スタック10の暖機完了タイミングを蒸発器32の暖機完了タイミングにより近づけることができる。
特に、本実施形態では、図1のような燃料電池システムSの構成をとることで、燃焼ガスによるスタック供給空気の加熱量を減少させる処理としてバイパス弁開度Obyを所定値まで増加させる処理が実行される。
そして、既に説明したように、バイパス弁開度Obyを所定値まで増加させる処理は、燃料電池スタック10の加熱量を抑制するだけではなく、蒸発器32の加熱量を増加させることもできる。したがって、このようにバイパス弁開度Obyの増加させることによって、燃料電池スタック10の暖機完了タイミングを遅らせつつ、蒸発器32の暖機完了タイミングを早めることができるので、燃料電池スタック10の暖機完了タイミングと蒸発器32の暖機完了タイミングをより好適に一致させることができる。
なお、本実施形態では、燃料電池スタック10の暖機完了タイミングと蒸発器32の暖機完了タイミングを略同時にする例を説明したが、例えば、他の制御パラメータとの関係を考慮して、これらの暖機完了タイミングを略同時とすることが必ずしも適切でない場合には、少なくとも燃料電池スタック10の暖機完了タイミングが蒸発器32の暖機完了タイミングに近づくように、好ましくは燃料電池スタック10の暖機完了タイミングが蒸発器32の暖機完了タイミングよりも早くなるように、バイパス弁開度Obyを調節するようにしても良い。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を、上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上記実施形態に対し、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内で様々な変更及び修正が可能である。
例えば、上記各実施形態及び変形例では、燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機を行う暖機運転において、蒸発器温度Tv及びスタック温度Tsに基づいて、蒸発器暖機度合Wv_e及びスタック暖機度合Wst_eのバランスを調節している。
しかしながら、燃料電池スタック10の暖機及び蒸発器32の暖機に加えて改質器16の暖機も行う暖機運転において、スタック温度Ts、蒸発器温度Tv、及び改質器16の温度(以下では、「改質器温度Tr」と記載する。)に基づいて、これらの相互の暖機のバランスを制御するようにしても良い。
例えば、第2実施形態及び第3実施形態に係る図8のブロック図に基づく制御ロジックに変えて、図11で示すブロック図に基づく制御ロジックを採用しても良い。具体的に、図11では、図8のブロック図の構成に加えて、暖機運転における改質器16(図1参照)の温度である改質器温度Trに基づいて、暖機運転において改質器16の暖機度合に応じて定まる改質器16が要求する燃料噴射量である改質器要求燃料噴射量Fcomb_rがマックスセレクト部B224に入力される。
これにより、マックスセレクト部B224は、上述した蒸発器32の暖機の観点から定まる第1仮目標燃料噴射量Fcomb_pre1_t、燃料電池スタック10の暖機の観点から定まる第2仮目標燃料噴射量Fcomb_pre2_t、及び改質器要求燃料噴射量Fcomb_rの内の最大の値がミニマムセレクト部B225以降の処理を介した燃料噴射量Fcombの調節に用いられることとなる。すなわち、燃料電池スタック10の暖機度合、改質器16の暖機度合、及び蒸発器32の暖機度合に基づいて、燃料噴射量Fcombを調節できる。
さらに、例えば、図12に示すような制御ロジックに基づいて、改質器温度偏差e_r(=改質器暖機目標温度Tr_t−改質器温度Tr)に基づいて改質器要求燃料噴射量Fcomb_rを演算しても良い。
図12では、第1仮改質器要求燃料噴射量演算部B221´が、改質器温度偏差e_rに基づいて(改質器温度偏差e_rが0に近づくように)第1仮改質器要求燃料噴射量Fcomb_r_pre1_tを演算する。また、第2仮改質器要求燃料噴射量演算部B2222´は、図に示す予め定められたマップにしたがい改質器温度偏差e_rに基づいて第2仮改質器要求燃料噴射量Fcomb_r_pre2_tを演算する。さらに、第3仮改質器要求燃料噴射量演算部B2223´は、図に示す予め定められたマップにしたがい改質器温度偏差e_rに基づいて第3仮改質器要求燃料噴射量Fcomb_r_pre3_tを演算する。
マックスセレクト部B224´で第1仮改質器要求燃料噴射量Fcomb_r_pre1_t及び第2仮改質器要求燃料噴射量Fcomb_r_pre2_tの内の大きい方が選択される。そして、ミニマムセレクト部B225´で、当該選択された値と第3仮改質器要求燃料噴射量Fcomb_r_pre3_tの内の小さい方の値が改質器要求燃料噴射量Fcomb_rとして設定される。このように定まる改質器要求燃料噴射量Fcomb_rが、図11に示すマックスセレクト部B224に入力されるようになることで、暖機運転における燃料電池スタック10、改質器16、及び蒸発器32の相互の暖機の進行のバランスを好適に調節することができる。
なお、この場合において、第1仮改質器要求燃料噴射量演算部B221´及び第2仮改質器要求燃料噴射量演算部B2222´の少なくとも何れか一方において、積分動作を含むフィードバック制御による演算を行っている場合には、第2実施形態で説明した場合と同様に、マックスセレクト部B224´において選択されなかった値の演算が繰り返されることで積分項が大きくなり、オーバーシュートやハンチング等の制御誤差の要因となることが考えられる。したがって、これを抑制すべく、第2実施形態と同様に、選択されなかった値の演算における積分動作を停止することが好ましい。