JPWO2018096730A1 - 原子発振器および電子機器 - Google Patents

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Abstract

本発明の目的は、減光フィルタ自体を不要、または少なくとも減光特性の高い減光フィルタを不要とする原子発振器および原子発振器を備える電子機器を提供する。本発明は、光源(1)と、アルカリ金属原子が封入された内部空間(2a)を有するガスセル(2)と、光源(1)から出射され、ガスセル(2)を透過した光を検出する光検出器(3)とを備える原子発振器(100)である。内部空間(2a)に封入したアルカリ金属原子(10)を液体の状態または固体の状態として少なくとも入射窓(2F)に付着させることにより、入射窓(2F)に入射する光を減光する。

Description

本発明は、原子発振器および原子発振器を備える電子機器に関する。
原子発振器は、ルビジウム、セシウム等の原子を気密封入したガスセルに2種類の波長の異なるレーザ光を照射することで、量子干渉効果(Coherent Population Trapping(CPT))を利用して共鳴周波数を得ることができる。ガスセル中の原子はレーザ光を吸収し、2種類の光の周波数差に応じて光吸収特性(透過率)が変化することが知られている。特に、原子発振器は、2種類の光のいずれも吸収されずに透過する現象(Electromagnetically Induced Transparency(EIT))を利用して、原子に吸収されず透過する透過光スペクトルをEIT信号として検出している。具体的な原子発振器の構成については、例えば特許文献1(特開2013−239611号公報)に開示されている。
特許文献1に開示されている原子発振器では、光源である半導体レーザとガスセルとの間に減光フィルタ(NDフィルタ)を設けている。減光フィルタは、半導体レーザの出射光の一部のみを透過させ、減光フィルタを透過した光がガスセルに入射する。一般的に、半導体レーザを原子発振器に用いた場合、最適なEIT信号を得るために必要とされる光強度以上の光がガスセルに入射されるので、ガスセルに入射する光を調整する減光フィルタが必須の構成となっている。
特開2013−239611号公報
しかし、特許文献1に開示されている原子発振器では、光源とガスセルとの間に減光フィルタを設ける必要があるため、部品点数が多くなるという問題があった。また、原子発振器に減光フィルタを用いる場合であっても、減光フィルタのみで最適なEIT信号を得るために必要とされる光強度まで減光するには、減光特性の高い減光フィルタが必要となる。特に減光フィルタに吸収型を採用した場合、減光特性が厚みに依存するため高い減光特性を得るためには厚い減光フィルタが必要となる。その結果、特許文献1に開示されている原子発振器では、減光フィルタを小型化できない問題があった。
そこで、本発明の目的は、減光フィルタ自体を不要、または少なくとも減光特性の高い減光フィルタを不要とする原子発振器および原子発振器を備える電子機器を提供する。
本発明の一形態に係る原子発振器は、光源と、アルカリ金属原子が封入された内部空間を有するガスセルと、光源から出射され、ガスセルを透過した光を検出する光検出部とを備え、ガスセルは、光源からの光を入射する入射窓と、光検出部に光を出射する出射窓と、入射窓と出射窓とを保持する側壁と含み、内部空間に封入したアルカリ金属原子を液体の状態または固体の状態として少なくとも入射窓に付着させることにより、入射窓に入射する光を減光する。
本発明の一形態に係る電子機器は、上記に記載の原子発振器を備える。
本発明によれば、少なくとも入射窓に内部空間に封入したアルカリ金属原子を液体の状態または固体の状態として付着させることにより、入射窓に入射する光を減光するので、減光フィルタ自体を不要、または少なくとも減光特性の高い減光フィルタを不要とすることができる。
本発明の実施の形態1に係る原子発振器の構成を説明するための概略図である。 本発明の実施の形態1に係る原子発振器の機能を説明するためのブロック図である。 本発明の実施の形態1に係るガスセル内の状態を説明するための図である。 光源からの光の透過率と光検出部での信号強度との関係を説明するための図である。 光源からの光の透過率とEIT信号の線幅との関係を説明するための図である。 光源からの光の周波数とEIT信号との関係を説明するための図である。 本発明の実施の形態1の変形例に係る原子発振器の構成およびガスセル内の状態を説明するための概略図である。 本発明の実施の形態1の別の変形例に係るガスセル内の状態を説明するための図である。 本発明の実施の形態2に係るガスセル内の状態を説明するための図である。 本発明の実施の形態2の変形例に係るガスセル内の状態を説明するための図である。 本発明の実施の形態3に係るガスセル内の状態を説明するための図である。 本発明の実施の形態3の変形例に係るガスセル内の状態を説明するための図である。 本発明の実施の形態4に係るガスセル内の状態を説明するための図である。 本発明の実施の形態5に係るガスセル内の状態を説明するための図である。 熱伝導性の高い材料のパターンを形成した入射窓を構成を説明するための概略図である。
以下に、本発明の実施の形態に係る原子発振器について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。
(実施の形態1)
以下に、本発明の実施の形態1に係る原子発振器について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る原子発振器100の構成を説明するための概略図である。図1では、原子発振器100の構成のうち、光源1から光検出器3までは量子部について図示してある。原子発振器100は、量子部以外に、後述する光源波長制御回路7および周波数制御回路8の構成(図2参照)や、特に図示していないが信号源となる水晶発振器および量子部からの出力信号を水晶発振器にフィードバックするフィードバック回路などの構成を含んでいる。本願明細書では、説明を簡単にするために原子発振器の量子部について説明する。また、以下の記載において、原子発振器の量子部を単に原子発振器と記載する場合がある。
図1に示す原子発振器100は、光源1、ガスセル2、光検出器3、光学部材4、波長板5およびヒータ9aで構成されている。原子発振器100は、光源1からの光1Aを光学部材4および波長板5を介してガスセル2に入射し、ガスセル2を透過した光を光検出器3で検出してEIT信号を得ている。
図2は、本発明の実施の形態1に係る原子発振器100の機能を説明するためのブロック図である。図2に示す原子発振器100では、図1に示した原子発振器100の量子部の構成以外に、駆動するために必要な温度コントロール回路6,9、光源波長制御回路7、および周波数制御回路8も図示している。
さらに、図1および図2に示した原子発振器100の構成要素について詳しく説明する。光源1は、例えばシングルモードのVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)を用いる。具体的には、光の波長が894.6nmのCs−D1線のVCSELを光源1に用いる。なお、光源1には、光の波長が852.3nmのCs−D2線のVCSEL、795.0nmのRb−D1線のVCSEL、780.2nmのRb−D2線のVCSELなどを用いてもよい。また、光源1は、VCSELに限定されずDFB(Distributed Feedback)レーザやDBR(Distributed Bragg Reflector)レーザなどを用いてもよい。
光源1にVCSELを用いる場合、VCSELの個体差により光の波長がばらつくため、温度コントロール回路6を用いて894.6nmの波長の光が出力できるように調整している。温度コントロール回路6は、光源1の近傍に設けたサーミスタや熱電対で測定した温度に基づき、光源1に設けたヒータで温度を調節する。原子発振器100を原子時計に用いるのであれば、温度コントロール回路6は、光源1を30℃〜125℃辺りの温度範囲で調節する。なお、温度コントロール回路6は、光源1の近くに配置されたサーミスタや熱電対などのセンサ(図示せず)によって温度を測定しながら光源1の温度を調節している。
VCSELから出力される光の波長を制御する方法として、温度を調整する以外に動作電流を調整する方法もある。CSAC(Chip-Scale Atomic Clock)用途の原子発振器100に用いる光源1には、動作電流として0.8〜2mA程度のVCSELが用いられる。本実施の形態1に係る光源1では、VCSELの動作温度を76.9℃、動作電流(DC電流値)を1.1mAとして実験を行っている。また、光源1のVCSELは、入力側にバイアス・ティ(Bias Tees)を設け、当該バイアス・ティでDC電流と4.596315885GHzのRF信号とを合成した信号を入力側に入力している。そのため、光源1のVCSELは、周波数変調することでCsの遷移周波数である9.192631770GHz差を持つ2つの光を1次のサイドバンドで作り出している。RF信号の信号強度は、VCSELまでの配線やVCSEL自体のインピーダンス、DC電流、動作温度によって最適値が異なるため測定系によって大きく値が異なる。本実施の形態1に係る光源1では、EIT信号の信号強度(ピークの信号強度とボトムの信号強度との差)が最大となるように調整している。EIT信号の信号強度が最大となる条件が、VCSELからの光の1次のサイドバンドの強度が最大になる周波数変調に相当する。VCSELを周波数変調した場合、1次のサイドバンド以外にキャリア成分や2次以降の高次モードの成分も発生するが、これらの成分はノイズ要因となるため1次のサイドバンド以外の成分はなるべく抑圧することが望ましい。
原子発振器100は、光源1とガスセル2の間にレンズ等の光学部材4を配置してある。光学部材4は、光源1から出射された拡散光を平行(コリメート)光にしたり、スポット径を変えたりとガスセル2に入射する光形状を調整するために用いられる。本実施の形態1に係る光学部材4では、スポット径が2mmとなるようにコリメータレンズを使用している。なお、光源1のスポット径は、ピークの光強度に対して1/eの光強度となる範囲とする一般的な定義を用いている。原子発振器100では、光学部材4で平行光になった光がガスセル2を透過して光検出器3に至る。
さらに、原子発振器100は、光源1とガスセル2の間に波長板5を配置してある。波長板5は、光源1からの光の偏光を変えるために用いる。光源1から出た光は、一般的に直線偏光である。直線偏光を用いたEIT信号は、外部磁場により大きく変動するエネルギー準位を使用するため周波数変動が生じやすい。そのため、通常、原子発振器では、外部磁場による周波数変動の小さい準位を用いるため、波長板5を用いて光源1からの直線偏光の光を波長板5で円偏光の光に変えてガスセル2に入射している。本実施の形態1に係る波長板5では、右回り円偏光となるように波長板を配置している。なお、ガスセル2に入射する円偏光は、右回り円偏光でも左回り円偏光でもよい。
ガスセル2は、K,Na,Cs,Rbなどのアルカリ金属ガス(原子)を気密封入した密封容器である。ガスセル2は、光源1に対する近方端に光を入射する入射窓(入射側)と、遠方端に光を出射する出射窓(出射側)と、入射窓と出射窓とを保持する側壁(側面)とで構成されている。原子発振器のガスセルでは、Cs,Rbのアルカリ金属ガスが気密封入されている。ガスセル2のサイズが10mm以下の場合、内部空間2a内のアルカリ金属ガスを増やすため、ヒータ9aを温度コントロール回路9で調節してガスセル2を温めている。例えば、原子発振器に用いるガスセルであれば、使用温度として30℃〜125℃程度である。温度コントロール回路9は、ガスセル2の近傍に設けたサーミスタや熱電対で測定した温度に基づき、ガスセル2に設けたヒータで温度を調節する。
ガスセル2で必要とされるアルカリ金属ガスの量は、飽和蒸気圧の量である。しかし、アルカリ金属ガスはガスセル2の容器と反応する等により徐々に消費されるため、ガスセル2には飽和蒸気圧の量よりも多くのアルカリ金属ガスが封入されている。具体的に、一辺の長さが数mm程度のガスセルであれば数μg程度のアルカリ金属ガスがガスセル2に封入してある。なお、飽和蒸気圧の量よりも多く封入したアルカリ金属原子は固体または液体の状態で内部空間2a内に留まることになる。
さらに、本実施の形態1に係るガスセル2では、ヒータ9aを用いて内部空間2a内に留まる固体または液体の状態のアルカリ金属原子を、入射窓に集めて付着させている。具体的に、アルカリ金属原子が相対的に温度の低い領域に固体または液体の状態となって集まる性質を利用して、ガスセル2の出射窓に設けたヒータ9aで出射窓を加熱して、出射窓に対して入射窓の温度を低くして、アルカリ金属原子を入射窓に集めて付着させている。図3は、本発明の実施の形態1に係るガスセル2内の状態を説明するための図である。図3に示すガスセル2では、光源1から出た光1Aを遮らない出射窓2Rの位置にヒータ9aが設けられている。具体的に、ヒータ9aは、出射窓2Rにおける光1Aの光軸の周辺部に設けられている。ガスセル2は、ヒータ9aでガスセル2を加熱することで出射窓2Rに対して入射窓2Fの温度が低くなるような温度勾配を内部空間2aに生じさせる。そのため、出射窓2R側に対して入射窓2F側の飽和蒸気圧の量が小さくなり、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が入射窓2Fに多く集まることになる。つまり、気化したアルカリ金属原子10は、出射窓2R側に比べ温度の低い入射窓2F側で冷却されることで凝集し、固体または液体の状態となる。なお、ヒータ9aは、通常、ガスセル2内に封入してあるアルカリ金属ガスの原子数量を確保するためにガスセル2を高温に加熱しているが、本実施の形態1では固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに集めるためにも使用している。もちろん、アルカリ金属ガスの原子数量を確保するためのヒータと、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに集めるためのヒータとを分けてガスセル2に設けてもよい。
従来の原子発振器では、光路上に固体または液体の状態のアルカリ金属原子が集まらないようにして光源から光検出器3に至る光を妨げないようにガスセルが設計されていた。しかし、本実施の形態1に係るガスセル2では、固体または液体の状態のアルカリ金属原子が光を減光する特性を有していることを利用して、入射窓2Fに集めた固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして用いている。つまり、本実施の形態1に係る原子発振器100では、光源1からの光の強度を減衰させる減光フィルタに代えて、図3に示すガスセル2の入射窓2Fに集めた固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして利用している。
ガスセル2は、光源1からの光を入射するため、少なくとも光経路上において透明であることが必要である。そのため、ガスセル2の入出射窓には、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラスなどのガラスが用いられる。なお、ガスセル2の側面には、ガラスやガラスと陽極接合が可能なSiが用いられる。ガスセル2に用いる部材は、光源1からの光をなるべく透過させる高透過率の部材が望ましく、ARコート等反射防止加工を行ってもよい。
ガスセル2の容器サイズは、光軸方向および光軸に対して垂直方向のいずれの方向においても大きい方が良好なEIT信号を得ることができる。これは、ガスセル2内でアルカリ金属ガスに光が当たる領域が広くなり、アルカリ金属ガスに光が当たる時間が長くなるためである。ただし、小型の原子発振器が望まれており、ガスセルの容器サイズは、一辺の長さが1mm〜10mm程度である。
ガスセル2には、アルカリ金属ガス以外にバッファガスが封入されている。ガスセル内にアルカリ金属ガスのみであると、容器壁面にアルカリ金属原子が短時間で衝突して観測する時間が短くなる問題があった。そこで、観測する時間を延ばすためにバッファガスと呼ばれる不活性ガスをアルカリ金属ガスと共にガスセル内に封入する。これにより、アルカリ金属ガスがバッファガスと衝突することで移動速度を低減して容器壁面に衝突するまでの時間を長くして、観測する時間を延ばしている。封入する不活性ガスは、He,N,Ne,Ar,Kr,Xeがある。ガスセルには、300Torr以下程度の不活性ガスを封入する。なお、バッファガスの温度特性によるEIT信号への影響を抑えるため、温度特性の異なる不活性ガスを同時に封入する。例えば、ガスセルにマイナスの温度特性を持つArとプラスの温度特性を持つNとを同時に封入する。
ガスセル2では、アルカリ金属ガスとしてCs、バッファガスとしてArとNeとの混合ガス(ArとNeとの比率は7:3で合計圧力75Torr)を封入している。また、ガスセル2の動作温度は67℃で、ガスセル2の容器サイズは光軸方向の長さが2mmである。
ガスセル2に外部磁場が加わるとアルカリ金属原子のエネルギー準位がゼーマン分裂し、複数のEIT信号が得られることが知られている。そこで、ガスセル2は、外部磁場の影響を低減するために、磁気シールド2bおよびバイアス磁場2cを加える構成を採用している。磁気シールド2bは、電磁軟鉄、珪素鋼、パーマロイ、アモルファス等の磁性材料が用いられる。バイアス磁場2cは、3軸のヘルムホルツコイル(図示せず)を用いて発生させ、光軸方向に約100mGの磁場として印加されている。なお、ガスセル2にバイアス磁場2cを印加する構成は、ヘルムホルツコイルに限定されない。
光検出器3には、PD(photo diode)を用いている。PDは、光を電流に変換する素子で、例えば近赤外波長に吸収帯を持つSiのPINフォトダイオードである。PINフォトダイオードは、逆バイアス電圧を印加することで高速な応答が可能となるが、原子発振器に用いる場合は特に高速な応答を必要としないため逆バイアス電圧は印加していない。
光検出器3は、PDで得た信号からEIT信号のピーク位置と吸収線のピーク位置を検出する。良好なEIT信号を得るためには吸収線のピーク位置でCPTを生じさせる必要があり、吸収線のピーク位置が光源1からの光の波長に相当する。
光源波長制御回路7は、光源1からの光の波長を制御している。具体的に、光源波長制御回路7は、光検出器3で得た吸収線のピーク位置に応じてDC電源(図示せず)の電流(または電圧)を補正して、吸収線のピーク位置で光源1からの光の波長が安定するように制御している。
周波数制御回路8は、光検出器3から得た信号に応じて光源1の駆動電流に重畳させるRF信号を生成し、ガスセル2内がCPT状態となるようにRF信号の周波数を制御している。具体的に、周波数制御回路8は、光源1に入力する4.596315885kHzのRF信号を、温度補償水晶発振器(TCXO)の信号(10MHz)を基に電圧制御発振器(VCO)および位相同期回路(PLL)を用いて生成している。なお、周波数制御回路8は、EIT信号のピーク位置および吸収線のピーク位置を光検出器3で検出できるように、RF信号の周波数を変調(例えば、10kHz)して光源1からの光の波長を掃引している。
本実施の形態1に係る原子発振器100では、前述したようにガスセル2の入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子を集めて付着させて減光フィルタとして用いている(図3参照)。以下、実験結果を示しながら本実施の形態1に係る原子発振器100について説明する。図3に示すガスセル2の入射窓2Fには、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10(例えば、Cs)が集まっている。そのため、ガスセル2の入射窓2Fに入射した光は、アルカリ金属原子10で散乱または吸収されるため、入射窓2Fに入射した光の透過率は低下する。なお、以下の説明では、アルカリ金属原子10としてCsを用いた実験結果を示しているが、K,Na,Rbなどのアルカリ金属原子を用いても同様の効果が得られる。
図4は、光源1からの光の透過率と光検出器3での信号強度との関係を説明するための図である。図4では、横軸を透過率(%)に、縦軸を信号強度(V)にそれぞれ設定してある。図4に示すように、入射窓2Fにアルカリ金属原子10を多く集めるほど透過率が低下し、それに伴い光検出器3で検出される光の強度が低下する。なお、図4では、アルカリ金属原子10を入射窓2F側に集めた場合の測定結果を点F、アルカリ金属原子10を出射窓2R側に集めた場合の測定結果を点Rとしてそれぞれ示している。光源1からの光の透過率と光検出器3での信号強度との関係は、アルカリ金属原子10を入射窓2F側に集めても、出射窓2R側に集めてもほぼ同じ結果となっている。
次に、原子発振器100で得られるEIT信号は、EIT信号の線幅が細いほど良好である。しかし、EIT信号の線幅が太くなる理由としてパワーブロードニングと、ライトシフトとがある。パワーブロードニングは、Cs等のアルカリ金属ガスに入射する光の強度密度が大きいほどEIT信号の線幅が太くなる現象である。そのため、光源とガスセルとの間に減光フィルタを配置することで、ガスセルに入射する光の強度を減衰させてパワーブロードニングを抑制することができる。
次に、ライトシフトは、アルカリ金属ガスに光が入射した場合、当該光の影響でアルカリ金属ガスが持つ固有のエネルギー準位が変化する現象である。つまり、ライトシフトは、EIT信号を発生させる周波数が光の影響でわずかに変動する。また、ライトシフトは、入射する光の強度の変化にも影響を受けるため、減光フィルタで入射する光の強度を減衰させておくことで、光源1の変化に対してガスセル2に入射する光の強度の変化を小さくしてライトシフトを抑制することができる。
原子発振器100は、EIT信号の線幅が細い良好なEIT信号を得るために、パワーブロードニングおよびライトシフトを抑制する必要がある。従来の原子発振器では、ガスセルに入射する光の強度を減光フィルタで減衰していたが、原子発振器100では、図3のようにアルカリ金属原子10を入射窓2F側に付着させ減光フィルタとして用いることで、ガスセル2に入射する光の強度を減衰させている(図4参照)。
具体的に、アルカリ金属原子10を入射窓2F側に集めることで、EIT信号の線幅が細い良好なEIT信号を得ることを説明する。図5は、光源からの光の透過率とEIT信号の線幅との関係を説明するための図である。図5では、横軸を透過率(%)に、縦軸を線幅(Hz)にそれぞれ設定してある。図5に示すように、アルカリ金属原子10を入射窓2F側に集め透過率を低下させるとEIT信号の線幅が細くなっている(点F)。例えば、点Fは、透過率が100%(減光率0%)のときにEIT信号の線幅が約2.0kHzであるが、透過率が60%(減光率40%)になるとEIT信号の線幅が約1.6kHzとなり、EIT信号の線幅が約20%改善している。さらに、透過率が10%(減光率90%)になるとEIT信号の線幅が約0.8kHzとなり、EIT信号の線幅が約60%改善している。なお、比較例としてアルカリ金属原子10を出射窓2R側に集めた場合、透過率を低下させてもEIT信号の線幅は変化しない(点R)。例えば、点Rは、透過率が60%(減光率40%)のときにEIT信号の線幅が約2.1kHzで、透過率が10%(減光率90%)のときもEIT信号の線幅が約2.1kHzと変化しない。これは、アルカリ金属原子10を出射窓2R側に集めても、ガスセル2に入射する光の強度を減衰させることができず、パワーブロードニングおよびライトシフトを抑制することができないためである。
図5の点Rが示すように、アルカリ金属原子10を出射窓2R側に集めて付着させて出射窓2R側の透過率を変化させても、EIT信号の線幅には影響を与えない。しかし、図4で示したように出射窓2R側に付着したアルカリ金属原子10により出射窓2Rを透過する光の強度が減衰するため、光検出器3で検出できる光の信号強度が低下することになる。そのため、出射窓2R側に付着したアルカリ金属原子10は、EIT信号の特性を悪化させる可能性がある。
アルカリ金属原子10を入射窓2F側に集めた場合、アルカリ金属原子10が粒状に分布した形で入射窓2Fの内部空間2a側に付着する。これは入射窓2Fの部材との関係によるものと考えられるが、光の透過率が同じであれば入射窓2Fの内部空間2a側に付着するアルカリ金属原子10の状態は粒状に限定されず、一様な膜状であっても良い。
ここで、透過率は、ガスセル2の入射窓2Fから入った光の強度に対してガスセル2内部を通って出射窓2Rから出力された光の強度の割合とする。ただし、実際のガスセル2の入射窓2Fにアルカリ金属原子10を付着させた場合、入射窓2Fの部材(例えば、ガラス)による反射および吸収の影響が存在するため、透過率の測定は、入射窓2Fの部材による反射および吸収を別途測定し、その影響を除く必要がある。なお、透過率は、吸収線自体の吸収量が光の強度によって影響を受けるため、アルカリ金属原子10の吸収波長からずらした波長で測定する。なお、減光率は、100%−透過率で求められる。
また、EIT信号の信号強度およびEIT信号の線幅について説明する。図6は、光源1からの光の周波数とEIT信号との関係を説明するための図である。図6では、横軸を周波数(kHz)に、縦軸をEIT信号の信号強度(V)にそれぞれ設定してある。図6では、EIT信号の信号強度が最大となる周波数を0(ゼロ)kHzとなるように周波数を変換して図示してある。EIT信号の信号強度Iは、EIT信号のピークの信号強度とEIT信号のボトムの信号強度との差である。EIT信号の線幅LWは、EIT信号の信号強度Iが50%のときの周波数幅である。
以上のように、本実施の形態1に係る原子発振器100では、光源1と、アルカリ金属原子10が封入された内部空間2aを有するガスセル2と、光源1から出射され、ガスセル2を透過した光を検出する光検出器3とを備えている。ガスセル2は、光源1からの光を入射する入射窓2Fと、光検出器3に光を出射する出射窓2Rと、入射窓2Fと出射窓2Rとを保持する側壁と含む。内部空間2aに封入したアルカリ金属原子10を液体の状態または固体の状態として少なくとも入射窓2Fに付着させることにより、入射窓2Fに入射する光を減光する。そのため、原子発振器100では、減光フィルタ自体を設けなくても良好なEIT信号を得ることができる。原子発振器100では、仮に減光フィルタ自体を不要にすることができなくとも、入射窓2Fに付着させたアルカリ金属原子10で入射窓2Fに入射する光をある程度減光することができるので、減光特性の高い減光フィルタを用いなくてもよい。
原子発振器100では、良好なEIT信号を得るために減光特性の高い減光フィルタを用いなくてもよいので、吸収型の減光フィルタであれば厚みを薄くすることができる。原子発振器100では、液体の状態または固体の状態として入射窓2Fに付着させるアルカリ金属原子10の量は、他の面に付着させるアルカリ金属原子10の量より多いため、逆にEIT信号の線幅の改善に寄与しない出射窓2R側へのアルカリ金属原子10の付着を抑えることができる。原子発振器100は、出射窓2R側へのアルカリ金属原子10の付着を抑えることで、EIT信号の特性悪化を防ぐこともできる。
原子発振器100では、少なくとも出射窓2Rの温度に対する入射窓2Fの温度が低いので、ガスセル2にアルカリ金属原子10(例えば、Cs)のガス圧を飽和蒸気圧の量よりも多めに入れたアルカリ金属原子10が固体や液体の状態となって入射窓2F側に付着する。入射窓2F側に付着した固体や液体の状態となったアルカリ金属原子10が減光フィルタと同様の機能を持っているので、原子発振器100は、入射窓2F側に付着したアルカリ金属原子10が減光フィルタと同程度の透過率になるように設定すれば、減光フィルタが不要となり光学系を簡素化することができる。なお、原子発振器100は、ガスセル2の入射窓2Fにおいて光源1からの光を40%以上減光(透過率60%以下)するように、入射窓2F側に付着したアルカリ金属原子10を設定できれば、EIT信号の線幅を改善することができる(図5参照)。
(変形例)
原子発振器100では、ガスセル2の出射窓2Rにヒータ9a(第1加熱部)を設け、ヒータ9aで出射窓2Rを加熱することで固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させる構成とした。しかし、ヒータ9aは、入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く集めることができれば、出射窓2Rに設けられる構成に限定されない。図7は、本発明の実施の形態1の変形例に係る原子発振器100aの構成およびガスセル2内の状態を説明するための概略図である。なお、図7(a)が原子発振器100aの構成を示し、図7(b)がガスセル2内の状態を示している。
図7(a)に示す原子発振器100aは、ガスセル2の出射窓2R側の側壁(側面)にヒータ9aを設け、ヒータ9aで出射窓2R側の側壁を加熱することで固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させる構成である。図7(b)に示すガスセル2では、ヒータ9aで出射窓2R側の側壁を加熱することで、入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く付着している様子が示されている。そのため、図7(b)に示すガスセル2でも、図3で示したガスセル2と同様、入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして機能させることができる。なお、図7(b)に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
図1に示す原子発振器100では、コリメータレンズである光学部材4で光源1から出た光を平行光にし、平行光になった光をガスセル2に入射して光検出器3で検出する構成である。しかし、ガスセル2を透過する光は平行光に限定されない。図7(a)に示す原子発振器100aでは、光源1から出た光が光検出器3に至るまで広がる光である。原子発振器100aでは、光源1から出た光を平行光にする必要がないため光学部材4を設けていない。また、原子発振器100aでは、ガスセル2の入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10だけで光源1からの光の強度を十分に減衰できないため、減光フィルタ13を設けてある。なお、原子発振器100aにおいて、図1に示す原子発振器100と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
減光フィルタ13は、光源1からの光の強度を減衰させるためのND(Neutral Density)フィルタである。なお、減光フィルタ13でガスセル2に入射する光の強度を減衰させすぎるとEIT信号自体が観測できなくなるので、EIT信号の検出限界を踏まえて最適のND値を設定する必要がある。減光フィルタ13には、ガラス基板に金属膜を成膜し光を反射する反射型や素材自体が光を吸収する吸収型がある。
原子発振器100aに用いる減光フィルタ13は、ガスセル2の入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10と組み合わせて、ガスセル2に入射する光源1からの光の強度を減衰させている。そのため、減光フィルタ13は、高い減光特性が要求されないため、吸収型であれば厚みを薄くすることが可能となる。
さらに、別の変形例について説明する。図3に示したガスセル2では、出射窓2Rのみにヒータ9aを設ける構成であった。しかし、入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を多く集められる構成であれば、ガスセルの構成は出射窓2Rのみにヒータ9aを設ける構成に限定されない。図8は、本発明の実施の形態1の別の変形例に係るガスセル2内の状態を説明するための図である。なお、図8に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
図8に示すガスセル2では、出射窓2Rにヒータ9aを設け、入射窓2Fの側壁側にヒータ9b(第2加熱部)をさらに設けている。これにより、図8に示すガスセル2は、ヒータ9aで出射窓2Rを加熱し、ヒータ9bで入射窓2Fの外側(側壁側)を加熱することで固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fの中心部に多く集めて付着させることができる。光源1からの光はガスセル2の内部空間2aを透過して光検出器3に至る。そのため、入射窓2Fの周辺部に比べて中心部の方が、液体の状態または固体の状態として付着させるアルカリ金属原子10の量が多いので、ガスセル2の中心軸を通る光軸1Bの光の強度をより減衰させることが可能となる。
また、光源1に用いるVCSELのようなレーザ光では、光の強度が中心部に近づくほど強くなり、光軸に対して垂直な方向において光の強度がガウス分布となっている。そのため、入射窓2Fの中心部に固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を多く付着させることで光の強度の均一化を図ることも可能である。
なお、入射窓2Fの中心部に固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を多く付着させるため、温度コントロール回路9(温度調節部)がヒータ9a(第1加熱部)の温度に対してヒータ9b(第2加熱部)の温度が低くなるように調節する。また、ヒータ9bは、入射窓2Fの側壁側に設ける場合に限定されず、側壁の入射窓2F側に設けてもよい。
(実施の形態2)
本実施の形態1に係る原子発振器100では、ガスセル2の出射窓2Rにヒータ9aを設け、ヒータ9aで出射窓2Rを加熱することで固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させる構成とした。しかし、入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を多く集めて付着させる構成であれば、ガスセルの構成はヒータ9aを設ける構成に限定されない。図9は、本発明の実施の形態2に係るガスセル内の状態を説明するための図である。
図9に示すガスセル2では、出射窓2Rに比べて入射窓2Fを構成する部材の厚みを薄くすることで、入射窓2F側の放熱性を高めている。入射窓2F側の放熱性が高いガスセル2は、出射窓2Rに対して入射窓2Fの温度が低くなるような温度勾配を内部空間2aに生じさせる。そのため、出射窓2R側に対して入射窓2F側の飽和蒸気圧の量が小さくなり、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が入射窓2Fに多く集まることになる。図9に示すガスセル2では、部材の厚みが薄い入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く付着している様子が示されている。そのため、図9に示すガスセル2でも、図3で示したガスセル2と同様、入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして機能させることができる。なお、図9に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
以上のように、ガスセル2は、入射窓2F側を構成する部材の厚みが出射窓2R側を構成する部材の厚みより薄いので、入射窓2F側の放熱性が高く固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させることができる。
(変形例)
入射窓2F側の放熱性を高めるために、放熱部材を入射窓2F側に設けてもよい。図10は、本発明の実施の形態2の変形例に係るガスセル2内の状態を説明するための図である。図10に示すガスセル2では、出射窓2Rに比べて構成する部材の厚みを薄くした入射窓2Fに放熱部材11を設けて、入射窓2F側の放熱性をさらに高めている。放熱部材11は、放熱性の高い部材であれば、例えば熱伝導性の高い材料(例えば、カーボン、ガラス、シリコン、アルミニウムなどの金属材料)、金属材料をフィン状に加工して放熱性を高めた部材、電気的にファンを駆動して冷却する部材、これらを組み合わせた部材などである。なお、放熱部材11は、バイアス磁場2cに影響を与えない非磁性の材料が望ましい。また、放熱部材11を設ける位置は、入射窓2Fの側壁側に設ける場合に限定されず、側壁の入射窓2F側に設けてもよい。図10に示すガスセル2では、放熱部材11を設けた入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く付着している様子が示されている。そのため、図10に示すガスセル2でも、図3で示したガスセル2と同様、入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして機能させることができる。なお、図10に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
以上のように、ガスセル2は、入射窓2F側に放熱部材11を設けることで、入射窓2F側の放熱性を高めて固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させることができる。なお、図10に示すガスセル2では、出射窓2Rに比べて構成する部材の厚みを薄くした入射窓2Fに放熱部材11を設けているが、入射窓2F側の放熱性を高めることができれば、出射窓2Rと同じ厚みの部材の入射窓2Fに放熱部材11を設けてもよい。
(実施の形態3)
本実施の形態2に係るガスセル2では、出射窓2Rに比べて入射窓2Fを構成する部材の厚みを薄くすることで入射窓2F側の放熱性を高めて、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させる構成とした。しかし、入射窓2F側の放熱性を高めて、入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を多く集めて付着させる構成であれば、ガスセルの構成は出射窓2Rに比べて構成する部材の厚みが薄い入射窓2Fを用いる構成に限定されない。図11は、本発明の実施の形態3に係るガスセル内の状態を説明するための図である。
図11に示すガスセル2では、出射窓2Rに比べて熱伝導性の高い部材を入射窓2Faに用いることで、入射窓2Fa側の放熱性を高めている。入射窓2Fa側の放熱性が高いガスセル2は、出射窓2Rに対して入射窓2Faの温度が低くなるような温度勾配を内部空間2aに生じさせる。そのため、出射窓2R側に対して入射窓2Fa側の飽和蒸気圧の量が小さくなり、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が入射窓2Faに多く集まることになる。図11に示すガスセル2では、熱伝導性の高い部材を用いた入射窓2Faに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く付着している様子が示されている。そのため、図11に示すガスセル2でも、図3で示したガスセル2と同様、入射窓2Faに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして機能させることができる。なお、図11に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
熱伝導性の高い部材を用いた入射窓2Faは、単一の材料で構成しても、複合材料で構成してもよい。例えば、入射窓2Faは、光源1からの光が透過する部分をガラスで構成し、それ以外の部分を金属材料で構成した複合材料でもよい。
以上のように、ガスセル2は、入射窓2Faを構成する部材の熱伝導性が出射窓2Rを構成する部材の熱伝導性より高いので、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Faに多く集めて付着させることができる。
(変形例)
熱伝導性の高い部材を入射窓に用いるのではなく、ガスセル2の外側に設けてもよい。図12は、本発明の実施の形態3の変形例に係るガスセル2内の状態を説明するための図である。図12に示すガスセル2では、熱伝導性の高い部材12(例えば、アルミニウム、真鍮等の非磁性の金属材料)でガスセル2全体を覆い、熱伝導性の高い部材12を介してヒータ9aでガスセル2を加熱する構成である。つまり、図12に示すガスセル2では、ヒータ9aでガスセル2を直接加熱するのではなく、熱伝導性の高い部材12でガスセル2を間接的に加熱している。なお、図12に示すガスセル2では、熱伝導性の高い部材12を介してガスセル2を間接的に加熱しているので、ヒータ9aの配置位置は熱伝導性の高い部材12のいずれの場所でもよく、配置位置は特に制限されない。
また、熱伝導性の高い部材12は、出射窓2R側の開口部Bに比べて入射窓2F側の開口部Aを大きくしている。そのため、出射窓2R側と比べ入射窓2F側でのガスセル2と熱伝導性の高い部材12との接触面積が小さくなるので、入射窓2F側の加熱能力が小さくなる。入射窓2F側の加熱能力が小さいガスセル2は、出射窓2Rに対して入射窓2Fの温度が低くなるような温度勾配を内部空間2aに生じさせる。そのため、出射窓2R側に対して入射窓2F側の飽和蒸気圧の量が小さくなり、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が入射窓2Fに多く集まることになる。図12に示すガスセル2では、開口部Aが大きい入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く付着している様子が示されている。そのため、図12に示すガスセル2でも、図3で示したガスセル2と同様、入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして機能させることができる。なお、図12に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
以上のように、ガスセル2は、熱伝導性の高い部材12でガスセル2を覆い、出射窓2R側の開口部Bに比べて入射窓2F側の開口部Aを大きくすることで、入射窓2F側の加熱能力を小さくして固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させることができる。
(実施の形態4)
本実施の形態2に係るガスセル2では、出射窓2Rに比べて入射窓2Fを構成する部材の厚みを薄くすることで入射窓2F側の放熱性を高めて、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させる構成とした。しかし、入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を多く集めて付着させる構成であれば、ガスセルの構成は限定されない。図13は、本発明の実施の形態4に係るガスセル内の状態を説明するための図である。
図13に示すガスセル2では、入射窓2Fの内部空間2a側の面に溝を形成することで、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めている。図13(a)に示すガスセル2では、光源1から出た光1Aが透過する入射窓2Fの部分(中心部)に溝2Sを形成してある。溝2Sは、他の入射窓2Fの面よりも低くなっており、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く集まることになる。図13(a)に示すガスセル2では、溝2Sを設けた入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く付着している様子が示されている。そのため、図13(a)に示すガスセル2でも、図3で示したガスセル2と同様、入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして機能させることができる。なお、図13(a)に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
溝の形状は、図13(a)に示す溝2Sに限定されず、図13(b)に示す溝2Tのように入射窓2Fの中心部に向かって溝が深くなる形状でもよい。図13(b)に示すガスセル2では、溝2Tのように入射窓2Fの中心部に向かって溝を深くすることで、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が入射窓2Fの中心部に多く集まり付着する構成となる。そのため、図13(b)に示すガスセル2では、ガスセル2に入射する光源1からの光の強度をより減衰させることが可能となるので、ガウス分布となっているレーザ光に対して光の強度の均一化を図ることも可能となる。
図13(b)に示すガスセル2では、溝2Tを設けた入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く付着している様子が示されている。そのため、図13(b)に示すガスセル2でも、図3で示したガスセル2と同様、入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして機能させることができる。なお、図13(b)に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。なお、溝の数は、図13(a)および図13(b)に示したように入射窓2Fの中心部に1つ設ける構成に限定されない。例えば、図示していないが、入射窓2Fの中心部に小さな溝を複数設けてもよい。
以上のように、入射窓2Fは、中心部において内部空間2a側の面に少なくとも1つの溝2S,2T(凹部)が形成されているので、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させることができる。さらに、溝2T(凹部)は、周辺部に比べて中心部の方を深くすることで、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fの中心部に多く集めることができる。なお、溝を形成する位置は、ガスセル2に入射する光が入射窓2Fの中心部であるため、図13のように入射窓2Fの中心部に溝2S,2Tを形成しているが、入射窓2Fの中心部からずらして光を入射させる場合は、光の入射位置に合わせて溝2S,2Tの位置をずらして形成する。
(実施の形態5)
本実施の形態2に係るガスセル2では、出射窓2Rに比べて入射窓2Fを構成する部材の厚みを薄くすることで入射窓2F側の放熱性を高めて、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めて付着させる構成とした。しかし、入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を多く集めて付着させる構成であれば、ガスセルの構成は限定されない。図14は、本発明の実施の形態5に係るガスセル内の状態を説明するための図である。
図14に示すガスセル2では、少なくとも出射窓2Rの内部空間2a側の面にアルカリ金属原子10が付着することを阻害するコーティング膜を形成することで、固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を入射窓2Fに多く集めている。図14(a)に示すガスセル2では、出射窓2Rの内部空間2a側の面にパラフィン系材料のコーティング膜2Cを形成してある。パラフィン系材料のコーティング膜2Cが形成してある出射窓2Rの面は、アルカリ金属原子10の付着が阻害されるので、入射窓2Fの面に固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く集まることになる。図14(a)に示すガスセル2では、出射窓2Rの面にコーティング膜2Cが形成してあるので、コーティング膜2Cが形成されていない入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く付着している様子が示されている。そのため、図14(a)に示すガスセル2でも、図3で示したガスセル2と同様、入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして機能させることができる。なお、図14(a)に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
コーティング膜2Cを形成する面は、図14(a)に示すように出射窓2Rの面に限定されず、図14(b)に示すように入射窓2Fの面以外の面に形成してもよい。具体的に、図14(b)に示すガスセル2では、出射窓2Rの面、側壁の面にパラフィン系材料のコーティング膜2Cを形成してある。そのため、図14(b)に示すガスセル2では、入射窓2Fの面以外の面にアルカリ金属原子10の付着が阻害されるので、入射窓2Fの面に固体または液体の状態のアルカリ金属原子10がより多く集まることになる。図14(b)に示すガスセル2では、コーティング膜2Cが形成されていない入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10が多く付着している様子が示されている。そのため、図14(b)に示すガスセル2でも、図3で示したガスセル2と同様、入射窓2Fに付着した固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を減光フィルタとして機能させることができる。なお、図14(b)に示すガスセル2において、図3に示すガスセル2と同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
以上のように、ガスセル2は、出射窓2Rの内部空間2a側の面に、液体の状態または固体の状態のアルカリ金属原子10が付着することを阻害するコーティング膜2Cをさらに含むので、コーティング膜2Cが形成されていない入射窓2Fに固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を多く集めることができる。なお、コーティング膜2Cを側壁の内部空間2a側の面にさらに設けてもよい。ここで、コーティング膜2Cは、パラフィン系材料であると説明したが、液体の状態または固体の状態のアルカリ金属原子10が付着することを阻害する材料であればよく、例えば、オクタデシルトリクロロシラン等の有機ケイ素系化合物などであってもよい。
(その他の変形例)
前述の実施の形態に係る原子発振器では、量子干渉効果(CPT)を利用して共鳴周波数を得る構成について説明したが、これに限られない。原子発振器の動作原理には、光とマイクロ波を利用した二重共鳴法と呼ばれる方法があり、前述の実施の形態に係る原子発振器は、二重共鳴法にも同様に適用することができる。
前述の実施の形態に係る原子発振器は、原子時計の基準発振器として使用することができると共に、基準発振器を必要とする携帯電話基地局の電子機器、携帯電話(スマートフォン)、カーナビケーションシステムのようなGPSシステムを利用した位置情報を必要とする受信機などの電子機器に用いることができる。
前述の実施の形態に係る原子発振器は、特に制限がない限り、それぞれの実施の形態を自由に組み合わせてよい。例えば、実施の形態1に係るガスセル2に設けたヒータ9aの構成と、実施の形態2に係るガスセル2で出射窓2Rに比べて入射窓2Fを構成する部材の厚みを薄くする構成とを組み合わせてもよい。また、実施の形態3に係るガスセル2で出射窓2Rに比べて熱伝導性の高い部材を入射窓2Faに用いる構成と、実施の形態5に係るガスセル2で出射窓2Rの内部空間2a側の面にコーティング膜2Cを形成する構成とを組み合わせてもよい。
図11で説明した熱伝導性の高い部材を用いた入射窓2Faの変形例として、例えば、入射窓の表面に熱伝導性の高い材料のパターンを形成することが考えられる。なお、熱伝導性の高い材料は、光源の波長に対して透過率の高い材料を用いることが望ましい。図15は、熱伝導性の高い材料のパターンを形成した入射窓を構成を説明するための概略図である。図15に示す入射窓2Fは、外側の表面にITOなどの透明電極で網状の電極パターン25が形成してある。電極パターン25を形成した部分は、他の部分に比べて熱伝導性が高くなるため、付近にある気化したアルカリ金属原子を冷却して固体または液体の状態のアルカリ金属原子10に凝集させることができる。つまり、入射窓2Fは、電極パターン25を形成することで、凝集させたい位置に固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を凝集させることが可能となる。なお、電極パターン25の線幅や形成する間隔等を変更することで、入射窓2Fの所望する位置に所望する量の固体または液体の状態のアルカリ金属原子10を凝集させることが可能となる。また、図15に示すガスセル2では、出射窓2Rに比べて入射窓2Fを構成する部材の厚みを薄くしてあるが、電極パターン25による放熱効果が得られるのであれば入射窓2Fを構成する部材の厚みを出射窓2Rと同じまたは厚くしてもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 光源、1b,3a プリント基板、2 ガスセル、2a 内部空間、2b 磁気シールド、2c バイアス磁場、2d 遮光部、3 光検出器、4 光学部材、5 波長板、6,9 温度コントロール回路、9a,9b ヒータ、7 光源波長制御回路、8 周波数制御回路、10 アルカリ金属原子、11 放熱部材、12 熱伝導性の高い部材、13 減光フィルタ、100,100a 原子発振器。

Claims (16)

  1. 光源と、
    アルカリ金属原子が封入された内部空間を有するガスセルと、
    前記光源から出射され、前記ガスセルを透過した光を検出する光検出部とを備え、
    前記ガスセルは、前記光源からの光を入射する入射窓と、前記光検出部に光を出射する出射窓と、前記入射窓と前記出射窓とを保持する側壁と含み、
    前記内部空間に封入した前記アルカリ金属原子を液体の状態または固体の状態として少なくとも前記入射窓に付着させることにより、前記入射窓に入射する光を減光する、原子発振器。
  2. 液体の状態または固体の状態として前記入射窓に付着させる前記アルカリ金属原子の量は、他の面に付着させる前記アルカリ金属原子の量より多い、請求項1に記載の原子発振器。
  3. 前記入射窓は、周辺部に比べて中心部の方が、液体の状態または固体の状態として付着させる前記アルカリ金属原子の量が多い、請求項2に記載の原子発振器。
  4. 前記ガスセルは、前記入射窓において前記光源からの光を40%以上減光する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の原子発振器。
  5. 前記ガスセルは、少なくとも前記出射窓の温度に対する前記入射窓の温度が低い、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の原子発振器。
  6. 前記ガスセルは、前記出射窓側に第1加熱部をさらに有する、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の原子発振器。
  7. 前記ガスセルは、前記入射窓の前記側壁側に第2加熱部をさらに有する、請求項6に記載の原子発振器。
  8. 前記第1加熱部および前記第2加熱部の温度を調節する温度調節部をさらに備え、
    前記温度調節部は、前記第1加熱部の温度に対して前記第2加熱部の温度が低くなるように調節する、請求項7に記載の原子発振器。
  9. 前記ガスセルは、前記入射窓側に放熱部材をさらに有する、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の原子発振器。
  10. 前記ガスセルは、前記入射窓を構成する部材の熱伝導性が前記出射窓を構成する部材の熱伝導性より高い、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の原子発振器。
  11. 前記ガスセルは、前記入射窓を構成する部材の厚みが前記出射窓を構成する部材の厚みより薄い、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の原子発振器。
  12. 前記入射窓は、中心部において前記内部空間側の面に少なくとも1つの凹部が形成されている、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の原子発振器。
  13. 前記凹部は、周辺部に比べて中心部の方が深い、請求項12に記載の原子発振器。
  14. 前記ガスセルは、前記出射窓の前記内部空間側の面に、液体の状態または固体の状態の前記アルカリ金属原子が付着することを阻害するコーティング膜をさらに含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の原子発振器。
  15. 前記ガスセルは、前記コーティング膜を前記側壁の前記内部空間側の面にさらに設ける、請求項14に記載の原子発振器。
  16. 請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の前記原子発振器を備える電子機器。
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