以下、実施形態によるシリンダ装置について、4輪自動車等の車両に設けられる緩衝器に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って説明する。
図1ないし図3は、第1の実施形態を示している。図1において、シリンダ装置としての緩衝器1は、内部に封入する作動油(後述の作動流体20)として機能性流体(即ち、電気粘性流体)を用いた減衰力調整式の油圧緩衝器(セミアクティブダンパ)として構成されている。緩衝器1は、例えば、コイルばねからなる懸架ばね(図示せず)と共に、車両用のサスペンション装置を構成する。なお、以下の説明では、緩衝器1の軸方向の一端側を「上端」側とし、軸方向の他端側を「下端」側として記載するものとする。
緩衝器1は、外筒2、内筒4、ピストン5、ピストンロッド8、電極筒17、リング状部材22等を含んで構成されている。外筒2は、緩衝器1の外殻をなすもので、円筒体として形成されている。外筒2は、その下端側がボトムキャップ3により溶接手段等を用いて閉塞された閉塞端となっている。
ボトムキャップ3は、後述するボトムバルブ12のバルブボディ13と共にベース部材を構成している。外筒2の上端側は、開口端となり、この開口端側には、かしめ部2Aが径方向内側に屈曲して形成されている。かしめ部2Aは、シール部材11の環状板体11Aの外周側を抜け止め状態で保持している。
内筒4は、軸方向に延びる円筒状の筒体として形成され、後述の作動流体20(即ち、機能性流体)が封入されている。内筒4は、外筒2内に該外筒2と同軸に設けられ、内筒4の内部には、後述のピストンロッド8が挿入されている。内筒4は、下端側がボトムバルブ12のバルブボディ13に嵌合して取付けられ、上端側はロッドガイド9に嵌合して取付けられている。内筒4には、後述の流路21に常時連通する油穴4Aが、径方向の横孔として周方向に離間して複数(例えば、4個)形成されている。内筒4内のロッド側油室Bは、油穴4Aによって流路21と連通している。
内筒4は、外筒2と共にシリンダを構成し、該シリンダ内には、作動流体20が封入されている。ここで、実施形態では、シリンダ内に充填(封入)される流体、即ち、作動油となる作動流体20として、電気粘性流体(ERF:Electro Rheological Fluid)を用いている。なお、図1では、封入されている作動流体20を無色透明としている。
電気粘性流体は、電界により流体の性状が変化する機能性流体の一種であり、電気粘性流体は、電界(電圧)により性状が変化する流体である。即ち、電気粘性流体は、印加される電圧に応じて流通抵抗(減衰力)が変化するものである。電気粘性流体は、例えば、シリコンオイル等からなる基油(ベースオイル)と、該基油に混ぜ込まれ(分散され)電界の変化に応じて粘性を可変にする粒子(微粒子)とにより構成されている。緩衝器1は、後述の流路21内に電位差を発生させ、該流路21を通過する電気粘性流体の粘度を制御することで、発生減衰力を制御(調整)する構成となっている。なお、実施の形態では電気粘性流体などの機能性流体を例にあげて説明するが、油や水などの作動液を用いてもよい。
内筒4と外筒2との間には、環状のリザーバ室Aが形成されている。リザーバ室A内には、作動流体20と共に作動気体となるガスが封入されている。このガスは、大気圧状態の空気であってもよく、また圧縮された窒素ガス等の気体を用いてもよい。リザーバ室A内のガスは、ピストンロッド8の縮小(縮み行程)時に、当該ピストンロッド8の進入体積分を補償すべく圧縮される。
ピストン5は、内筒4内に摺動可能に嵌装(挿嵌)されている。ピストン5は、内筒4内をロッド側油室Bとボトム側油室Cとに画成している。ピストン5には、ロッド側油室Bとボトム側油室Cとを連通可能とする油路5A,5Bがそれぞれ複数個、周方向に離間して形成されている。ここで、実施形態による緩衝器1は、ユニフロー構造となっている。このため、内筒4内の作動流体20は、ピストンロッド8の縮み行程と伸び行程との両行程で、ロッド側油室B(即ち、内筒4の油穴4A)から流路21に向けて常に一方向(即ち、図1中に二点鎖線で示す矢印Fの方向)に流通する。
このようなユニフロー構造を実現するため、ピストン5の上端面には、例えば、ピストンロッド8の縮小行程(縮み行程)でピストン5が内筒4内を下向きに摺動変位するときに開弁し、これ以外のときには閉弁する縮み側逆止弁6が設けられている。縮み側逆止弁6は、ボトム側油室C内の油液(作動流体20)がロッド側油室Bに向けて各油路5A内を流通するのを許し、これとは逆向きに油液が流れるのを阻止する。
ピストン5の下端面には、例えば、伸長側のディスクバルブ7が設けられている。伸長側のディスクバルブ7は、ピストンロッド8の伸長行程(伸び行程)でピストン5が内筒4内を上向きに摺動変位するときに、ロッド側油室B内の圧力がリリーフ設定圧を越えると開弁し、このときの圧力を、各油路5Bを介してボトム側油室C側にリリーフする。
ピストンロッド8は、内筒4内を軸方向(内筒4および外筒2、延いては、緩衝器1の中心軸線と同方向であり、図1の上下方向)に延びるロッドである。ピストンロッド8の下端側は、内筒4内でピストン5に連結(固定)されている。即ち、ピストンロッド8の下端側には、ナット8A等を用いてピストン5が固定(固着)されている。一方、ピストンロッド8の上端側は、シリンダとなる内筒4および外筒2の外部へ延出している。即ち、ピストンロッド8の上端側は、ロッドガイド9を介して外部に突出している。なお、ピストンロッド8の下端をさらに延ばしてボトム部(例えば、ボトムキャップ3)側から外向きに突出させ、所謂、両ロッドとしてもよい。
ロッドガイド9は、内筒4と外筒2の上端側(一端側)に設けられている。ロッドガイド9は、内筒4と外筒2の上端側を閉塞するように、これら内筒4および外筒2に嵌合している。ロッドガイド9は、ピストンロッド8を支持するもので、例えば金属材料、硬質な樹脂材料等に成形加工、切削加工等を施すことにより所定形状の筒体(段付円筒状)として形成されている。ロッドガイド9は、内筒4の上側部分および後述の電極筒17の上側部分を、外筒2の中央に位置決めする。これと共に、ロッドガイド9は、その内周側でピストンロッド8を軸方向に摺動可能に案内(ガイド)する。
ロッドガイド9は、上側に位置して外筒2の内周側に挿嵌される環状の大径部9Aと、該大径部9Aの下側に位置して内筒4の内周側に挿嵌される短尺筒状の小径部9Bとにより段付円筒状に形成されている。ロッドガイド9の小径部9Bの内周側には、ピストンロッド8を軸方向に摺動可能にガイドするガイド部9Cが設けられている。ガイド部9Cは、例えば金属筒の内周面に4フッ化エチレンコーティングを施すことにより形成されている。
一方、ロッドガイド9の外周側で大径部9Aと小径部9Bとの間には、環状の保持部材10が嵌合して取付けられている。保持部材10は、後述する電極筒17の上端側を軸方向に位置決めした状態で保持している。保持部材10は、例えば電気絶縁性材料(アイソレータ)により形成され、内筒4およびロッドガイド9と電極筒17との間を電気的に絶縁した状態に保っている。
シール部材11は、ロッドガイド9の大径部9Aと外筒2のかしめ部2Aとの間に設けられている。シール部材11は、全体として円環状に形成されている。即ち、シール部材11は、中心にピストンロッド8が挿通される孔が設けられた金属性の環状板体11Aと、該環状板体11Aに焼き付等の手段で固着されたゴム等の弾性材料からなる環状の弾性体11Bとを含んで構成されている。シール部材11は、弾性体11Bの内周がピストンロッド8の外周側に摺接することにより、ピストンロッド8との間を液密、気密に封止(シール)する。
ボトムバルブ12は、内筒4の下端側(他端側)に位置して該内筒4とボトムキャップ3との間に設けられている。ボトムバルブ12は、バルブボディ13と、伸び側逆止弁15と、ディスクバルブ16とを含んで構成されている。バルブボディ13は、ボトムキャップ3と内筒4との間でリザーバ室Aとボトム側油室Cとを画成する。バルブボディ13には、リザーバ室Aとボトム側油室Cとを連通可能とする油路13A,13Bがそれぞれ周方向に間隔をあけて形成されている。
バルブボディ13の外周側には、段差部13Cが形成され、該段差部13Cには、内筒4の下端内周側が嵌合して固定されている。また、段差部13Cには、環状の保持部材14が内筒4の外周側に嵌合して取付けられている。保持部材14は、後述する電極筒17の下端側を軸方向に位置決めした状態で保持している。保持部材14は、例えば電気絶縁性材料(アイソレータ)により形成され、内筒4およびバルブボディ13と電極筒17との間を電気的に絶縁した状態に保っている。また、保持部材14には、後述の流路21をリザーバ室Aに対して連通させる複数の油路14Aが形成されている。
伸び側逆止弁15は、例えば、バルブボディ13の上面側に設けられている。伸び側逆止弁15は、ピストンロッド8の伸長行程でピストン5が上向きに摺動変位するときに開弁し、これ以外のときには閉弁する。伸び側逆止弁15は、リザーバ室A内の油液(作動流体20)がボトム側油室Cに向けて各油路13A内を流通するのを許し、これとは逆向きに油液が流れるのを阻止する。
縮小側のディスクバルブ16は、例えば、バルブボディ13の下面側に設けられている。縮小側のディスクバルブ16は、ピストンロッド8の縮小行程でピストン5が下向きに摺動変位するときに、ボトム側油室C内の圧力がリリーフ設定圧を越えると開弁し、このときの圧力を、各油路13Bを介してリザーバ室A側にリリーフする。
電極筒17は、内筒4の外側に設けられた筒部材(中間筒)である。即ち、電極筒17は、外筒2と内筒4との間で軸方向に延びる圧力管となっている。電極筒17は、導電性材料を用いて筒状に形成することにより、筒状の電極を構成している。電極筒17は、内筒4の外周側に軸方向(上下方向)に離間して設けられた保持部材10,14を介して取付けられている。この場合に、電極筒17の上端側は、例えば、保持部材10およびロッドガイド9を介して、外筒2に対して相対回転が不能になっている。電極筒17の下端側は、例えば、保持部材14、バルブボディ13およびボトムキャップ3を介して、外筒2に対して相対回転が不能になっている。
電極筒17は、内筒4の外周側を全周にわたって取囲むことにより、電極筒17の内部(電極筒17の内周側と内筒4の外周側との間)に流路(通路、油路)、即ち、作動流体20が流動(流通)する流路21を形成している。この場合、電極筒17の内周側と内筒4の外周側との間には、後述の図2ないし図5に示すリング状部材22が設けられている。これにより、図3に示すように、流路21は、リング状部材22によって蛇行する流路となっている。このため、流路21の全長を、軸方向に直線的に延びる流路と比較して長くすることができる。
流路21は、内筒4に径方向の横孔として形成した油穴4Aによりロッド側油室Bと常時連通している。即ち、図1で作動流体20の流れの方向を矢印Fで示すように、緩衝器1は、ピストン5の圧縮行程および伸び行程の両方で、ロッド側油室Bから油穴4Aを通じて流路21に作動流体20が流入する。流路21内に流入した作動流体20は、ピストンロッド8が内筒4内を進退動するとき(即ち、縮み行程と伸び行程を繰返す間)に、この進退動により流路21の軸方向の上端側から下端側に向けて流動する。
流路21内に流入した作動流体20は、電極筒17の下端側から保持部材14の油路14Aを介してリザーバ室Aへと流出する。このとき、作動流体20の圧力は、流路21の上流側(即ち、油穴4A側)で最も高く、流路21内を流通する間に流路抵抗(通路抵抗)を受けるため漸次低下する。このため、流路21内の作動流体20は、流路21の下流側(即ち、保持部材14の油路14A)を流通するときに最も低い圧力となっている。
流路21は、外筒2および内筒4内でピストン5の摺動によって流通する流体、即ち、作動流体20となる電気粘性流体に抵抗を付与する。このために、電極筒17は、電源となるバッテリ18の正極に、例えば、高電圧を発生する高電圧ドライバ(図示せず)を介して接続されている。電極筒17は、流路21内の流体である作動流体20、即ち、機能性流体としての電気粘性流体に電界(電圧)をかける電極(エレクトロード)となる。この場合、電極筒17の両端側は、電気絶縁性の保持部材10,14によって電気的に絶縁されている。一方、内筒4は、ロッドガイド9、ボトムバルブ12、ボトムキャップ3、外筒2、高電圧ドライバ等を介して負極(グランド)に接続されている。
高電圧ドライバは、緩衝器1の減衰力を可変に調整するためのコントローラ(図示せず)から出力される指令(高電圧指令)に基づいて、バッテリ18から出力される直流電圧を昇圧して電極筒17に供給(出力)する。これにより、電極筒17と内筒4との間、換言すれば、流路21内には、電極筒17に印加される電圧に応じた電位差が発生し、電気粘性流体である作動流体20の粘度が変化する。この場合、緩衝器1は、電極筒17に印加される電圧に応じて、発生減衰力の特性(減衰力特性)をハード(Hard)な特性(硬特性)からソフト(soft)な特性(軟特性)に連続的に調整することができる。なお、緩衝器1は、減衰力特性を連続的でなくとも、2段階または複数段階に調整可能なものであってもよい。
次に、電極筒17と内筒4との間に形成される流路21、および、流路21を形成する流路形成部材としてのリング状部材22について、図1に加え、図2ないし図5も参照しつつ説明する。
まず、流路21について説明する。図3に示すように、流路21は、周方向に延びる部分を有する蛇行した流路となっている。即ち、流路21は、一の部分では第1の周方向(例えば、外筒2のかしめ部2A側から見て時計回りの方向)に延び、他の部分では第1の周方向とは逆の第2の周方向(例えば、外筒2のかしめ部2A側から見て反時計回りの方向)に延びている。そして、一の部分と他の部分とは、折り返しとなる繋がり部分によって接続されている。
即ち、流路21は、第1の周方向に延びる部分となる第1の周方向路としての時計回り路21Aと、第2の周方向に延びる部分となる第2の周方向路としての反時計回り路21Bと、これら時計回り路21Aと反時計回り路21Bとを接続する折り返し路21Cとを含んで構成されている。第1の実施形態では、時計回り路21Aの数を7とし、反時計回り路21Bの数を6とし、折り返し路21Cの数を12としている。なお、時計回り(右回り)と反時計回り(左回り)は、緩衝器1(内筒4、電極筒17、リング状部材22等)を軸方向の上端側(一端側)からみたとき、即ち、図1の上側から下側に向けて緩衝器1をみたときの緩衝器1の軸中心線周りの方向に対応する。
流路21の上流側(上端側)は、軸方向に延びる流入路21Dとなっている。流入路21Dは、流路21のうちリング状部材22によって仕切られる部分(即ち、リング状部材22によって作動流体20が蛇行するように案内される部分)の入口となる。流入路21Dには、油穴4Aを通じてロッド側油室Bから流出した作動流体20が流入する。一方、流路21の下流側(下端側)は、軸方向に延びる流出路21Eとなっている。流出路21Eは、流路21のうちリング状部材22によって仕切られる部分の出口となる。流出路21Eから流出した作動流体20は、保持部材14の油路14Aを介してリザーバ室Aへと流出する。
次に、リング状部材22について説明する。リング状部材22は、電極筒17と内筒4との間に蛇行する流路21を形成するものである。このために、リング状部材22は、内筒4と電極筒17との間にこれら内筒4および電極筒17と同軸に設けられている。リング状部材22は、内筒4と電極筒17との間で、軸方向の上端側から下端側に向けてピストンロッド8の進退動により作動流体20が流動する流路21を形成している。換言すれば、リング状部材22は、内筒4と電極筒17との間で、流路21を仕切る(作動流体20を案内する)ものである。リング状部材22は、絶縁体からなり、全体として略筒状に形成されている。この場合、リング状部材22は、例えば、ポリアミド系樹脂、熱硬化性樹脂等の高分子材料(合成ゴムを含むゴム材料、合成樹脂を含む樹脂材料)を用いて形成されている。
リング状部材22は、内筒4と電極筒17との両方に対して軽圧入により嵌合されている。そして、リング状部材22は、接着等の手段を用いて内筒4に固着されている。これにより、リング状部材22の内周面は内筒4の外周面と(液密に)当接し、リング状部材22の外周面は電極筒17の内周面と(液密に)当接している。即ち、流路21を流れる作動流体20が、リング状部材22の柱部22A、時計回り部22B、および、反時計回り部22Cを超えて流出しないようにしている。なお、リング状部材22および内筒4には、例えば、リング状部材22が内筒4に対して回転しないように位置決めする位置決め部(例えば、凹部と凸部)を設ける構成としてもよい。また、内筒4に溝を形成し、該溝に沿ってリング状部材22を固定するようにしてもよい。
ここで、リング状部材22は、柱部22Aと、時計回り部22Bと、反時計回り部22Cとを含んで構成されている。第1の実施形態では、時計回り部22Bの数を7とし、反時計回り部22Cの数を7としている。柱部22Aは、内筒4と電極筒17との間で軸方向に延び、横断面形状が円弧形となっている。
柱部22Aの周方向の一側には、時計回り部22Bの基端側が接続され、柱部22Aの周方向の他側には、反時計回り部22Cの基端側が接続されている。これにより、時計回り部22Bと反時計回り部22Cとは、柱部22Aを介して接続されている。この場合に、時計回り部22Bと反時計回り部22Cは、リング状部材22の軸方向にわたって交互(互い違い)に配置されている。また、軸方向に隣り合う時計回り部22Bと反時計回り部22Cは、軸方向に間隔をもって対面(対向)している。これにより、軸方向に隣り合う時計回り部22Bと反時計回り部22Cとの間は、流路21の時計回り路21Aまたは反時計回り路21Bとなっている。
時計回り部22Bは、内筒4と電極筒17との間に軸方向に離間して配置されている。時計回り部22Bは、柱部22Aの周方向の一側から第1の周方向に延びる第1の周方向部(第1のリング)となるものである。即ち、時計回り部22Bの基端側は、柱部22Aの一側に接続されている。一方、時計回り部22Bの先端側は、柱部22Aの他側に間隔をもって対面している。これにより、時計回り部22Bの先端側と柱部22Aの他側との間は、流路21の折り返し路21Cとなっている。即ち、柱部22A(の他側)のうち軸方向に隣り合う反時計回り部22Cの間は、流路21の折り返し路21Cを形成するための繋がり部となっている。
反時計回り部22Cは、内筒4と電極筒17との間に軸方向に離間して配置されている。この場合、反時計回り部22Cは、軸方向に隣り合う時計回り部22Bの間にそれぞれ配置されている。反時計回り部22Cは、柱部22Aの周方向の他側から第2の周方向に延びる第2の周方向部(第2のリング)となるものである。即ち、反時計回り部22Cの基端側は、柱部22Aの他側に接続されている。一方、反時計回り部22Cの先端側は、柱部22Aの一側に間隔をもって対面している。これにより、反時計回り部22Cの先端側と柱部22Aの一側との間も、流路21の折り返し路21Cとなっている。即ち、柱部22A(の一側)のうち軸方向に隣り合う時計回り部22Bの間は、流路21の折り返し路21Cを形成するための繋がり部となっている。
ここで、時計回り部22Bの軸方向寸法と、反時計回り部22Cの軸方向寸法は、最も下端側の時計回り部22Bを除いて同じになっている。また、時計回り部22Bと反時計回り部22Cの離間寸法(軸方向の間隔)は、反時計回り部22Cの軸方向寸法と同じになっている。なお、これら寸法は、所望の減衰力特性(流路21の圧力損失)が得られるように、互いに異ならせる等、適宜調整することができる。
ところで、特許文献1には、内側の筒と外側の筒との間に螺旋部材を設け、螺旋部材間を流路とした緩衝器が開示されている。一方、緩衝器は、搭載される車両の種類(車種)、サイズ、型式、仕様等に応じて減衰力特性を異ならせる(調整する)必要がある。この場合に、例えば、螺旋部材の角度を変えることで、流路長さを調整し、減衰力特性を異ならせることが考えられる。即ち、螺旋部材の角度が異なる複数種類の部品を用意し、その複数種類の部品の内から所望の減衰力特性が得られる部品を選択することで、車両の種類等に応じて減衰力特性の変更、区別(判別)をすることが考えられる。しかし、螺旋部材の角度の微小な違いを目視で判断することは困難であり、部品管理の難易度が高くなる可能性がある。さらに、螺旋部材の角度毎に、それぞれ別部品となるため、量産コストが高くなる可能性がある。
これに対して、第1の実施形態では、リング状部材22に流路21の時計回り路21Aと反時計回り路21Bとを互いに連通させる切欠き23を形成している。そして、切欠き23の有無、切欠き23の数、切欠き23を設ける位置、切欠き23の大きさ、断面形状、延びる方向等を調整することにより、流路21の圧力損失を調整し、減衰力特性の変更、区別(判別)を容易に行うことができるようにしている。
即ち、切欠き23は、流路21のうち軸方向に隣接した部位(隣り合う部位)となる時計回り路21Aと反時計回り路21Bとを互いに連通させるものである。切欠き23は、例えば、時計回り部22Bまたは反時計回り部22Cの表面に切削加工又はプレス加工(コイニング)を施すことにより、軸方向に延びる凹溝として形成されている。切欠き23は、軸方向に隣り合う時計回り路21Aと反時計回り路21Bとの間を連通して、作動流体20が流通するための油路を形成するものである。これにより、作動流体20は、軸方向に隣り合う時計回り路21Aと反時計回り路21Bとの間を、折り返し路21Cだけでなく切欠き23も通じて流通する。
このとき、切欠き23は、軸方向に隣り合う時計回り路21Aと反時計回り路21Bとの間の近道の油路(バイパス、ショートカット)となる。このため、切欠き23を設けた構成は、切欠き23を設けていない構成と比較すると、例えば、圧力損失を低減でき、減衰力特性をソフト(soft)な特性(軟特性)とすることができる。また、例えば、切欠き23の数を多くする程、切欠き23の数を上流側に多く設ける程、切欠き23の大きさを大きくする(例えば、周方向の幅寸法を大きくする)程、切欠き23の断面形状を大きくする程、例えば、圧力損失を低減でき、減衰力特性をソフトな特性とすることができる。
なお、第1の実施形態では、切欠き23は、リング状部材22の軸中心線と同方向に延びているが、例えば、軸中心線に対して斜めに延びるもの(ねじれの位置)であってもよい。また、切欠き23は、軸方向に延びる直線としているが、例えば、曲線、または、曲線と直線との複合線であってもよい。また、切欠き23の断面形状は、軸方向にわたって同一であるが、例えば、途中で断面積が増減する等、変化させてもよい。即ち、切欠き23は、軸方向に隣接した部位となる時計回り路21Aと反時計回り路21Bとを連通させることができる凹溝であればよい。
また、切欠き23は、1個の時計回り部22Bまたは1個の反時計回り部22Cに対して1個設けているが、例えば、1個の時計回り部22Bまたは1個の反時計回り部22Cに対して複数設けてもよい。また、1個の時計回り部22Bに設ける切欠き23の数と1個の反時計回り部22Cに設ける切欠き23の数とを同数としているが、例えば、異ならせてもよい。また、時計回り部22Bの切欠き23と反時計回り部22Cの切欠き23とが軸方向に一列に並んでいるが、例えば、周方向にずらしてもよい。
ここで、第1の実施形態では、切欠き23は、リング状部材22の上側に位置して、作動流体20が流動する流路21の上流側にのみ設けられている。具体的には、切欠き23は、周方向に延びる時計回り部22Bと反時計回り部22Cとのうち、作動流体20の流通方向の上流側となる上側(一側)から3番目までの時計回り部22Bと反時計回り部22Cとにそれぞれ設けられている。この場合に、「上流側にのみ」は、例えば、「リング状部材22の上端からリング状部材22の軸方向の全長の1/2までの間にのみ」に対応する。好ましくは、「リング状部材22の上端からリング状部材22の軸方向の全長の1/3までの間にのみ」に対応する。より好ましくは、「リング状部材22の上端からリング状部材22の軸方向の全長の1/4までの間にのみ」に対応する。さらに好ましくは、「リング状部材22の上端からリング状部材22の軸方向の全長の1/5までの間にのみ」に対応する。
なお、第1の実施形態では、切欠き23は、上側から3番目までの時計回り部22Bと反時計回り部22Cとの全てに設けているが、例えば、上側から1番目のみ、または、上側から1番目と2番目にのみ設けてもよい。さらには、上側から4番目(またはそれ以上)までの全てに設けてもよい。さらに、1番目と3番目とに設ける等、切欠き23が設けられた最も上側の時計回り部22Bまたは反時計回り部22Cと切欠き23が設けられた最も下側の時計回り部22Bまたは反時計回り部22Cとの間には、切欠き23を設けていない時計回り部22Bまたは反時計回り部22Cがあってもよい。いずれにしても、切欠き23の数、位置、大きさ、断面形状、延びる方向等は、必要な減衰力特性(流路21の圧力損失)が得られるように適宜調整することができる。
第1の実施形態による緩衝器1は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
緩衝器1を自動車等の車両に実装するときは、例えば、ピストンロッド8の上端側を車両の車体側に取付け、外筒2の下端側(ボトムキャップ3側)を車輪側(車軸側)に取付ける。車両の走行時には、路面の凹凸等により、上,下方向の振動が発生すると、ピストンロッド8が外筒2から伸長、縮小するように変位する。このとき、コントローラからの指令に基づいて流路21内に電位差を発生させ、流路21を通過する作動流体20、即ち、電気粘性流体の粘度を制御することにより、緩衝器1の発生減衰力を可変に調整する。
例えば、ピストンロッド8の伸び行程時には、内筒4内のピストン5の移動によってピストン5の縮み側逆止弁6が閉じる。ピストン5のディスクバルブ7の開弁前には、ロッド側油室Bの油液(作動流体20)が加圧され、内筒4の油穴4Aを通じて流路21内に流入する。このとき、ピストン5が移動した分の油液は、リザーバ室Aからボトムバルブ12の伸び側逆止弁15を開いてボトム側油室Cに流入する。
一方、ピストンロッド8の縮み行程時には、内筒4内のピストン5の移動によってピストン5の縮み側逆止弁6が開き、ボトムバルブ12の伸び側逆止弁15が閉じる。ボトムバルブ12(ディスクバルブ16)の開弁前には、ボトム側油室Cの油液がロッド側油室Bに流入する。これと共に、ピストンロッド8が内筒4内に浸入した分に相当する油液が、ロッド側油室Bから内筒4の油穴4Aを通じて流路21内に流入する。
いずれの場合も(伸び行程時も縮み行程時も)、流路21内に流入した油液は、流路21の電位差(電極筒17と内筒4との間の電位差)に応じた粘度で流路21内を出口側(下側)に向けて通過し、流路21から保持部材14の油路14Aを介してリザーバ室Aに流れる。このとき、緩衝器1は、流路21内を通過する油液の粘度に応じた減衰力(圧力損失)が発生し、車両の上下振動を緩衝(減衰)することができる。
ここで、内筒4の油穴4Aから内筒4と電極筒17との間に流入した油液である作動流体20は、リング状部材22によって形成された蛇行する流路21を上端側から下端側に向けて流れる。即ち、作動流体20は、流路21の流入路21D→時計回り路21A→折り返し路21C→反時計回り路21B→折り返し路21C→(途中省略)→時計回り路21A→流出路21Eの順に流れる。このとき、上流側では、作動流体20は、軸方向に隣り合う時計回り路21Aと反時計回り路21Bとの間を折り返し路21Cだけでなく切欠き23も通じて流通する。この場合、切欠き23は、軸方向に隣り合う時計回り路21Aと反時計回り路21Bとの間の近道の油路となるため、切欠き23を設けていない構成と比較して、例えば、減衰力特性をソフトな特性とすることができる。
かくして、第1の実施形態では、リング状部材22には、流路21のうち軸方向に隣接した時計回り路21Aと反時計回り路21Bとを互いに連通する切欠き23が形成されている。このため、例えば、第1の実施形態の緩衝器1は、この緩衝器1に対して切欠きが形成されていない点だけが異なる緩衝器に対して、減衰力特性を異ならせることができる。また、緩衝器1は、切欠き23の数を異ならせることで、減衰力特性を異ならせることもできる。即ち、切欠き23の有無、切欠き23の数、位置、大きさ、断面形状、延びる方向等のうちの少なくとも何れかを異ならせることで、緩衝器1の減衰力特性を様々に変更(調整、チューニング)することができる。この場合に、切欠き23の有無、数、位置、大きさ、断面形状、延びる方向等の違いを目視で判断(判別、区別)することは、例えば螺旋部材の角度違いを目視で判断する場合と比較して、容易に行うことができる。これにより、部品管理を容易に行うことができる。
しかも、減衰力特性を様々に変更することを、リング状部材22に形成する切欠き23の数、位置、大きさ、断面形状、延びる方向等のうちの少なくとも何れかを異ならせることにより行うことができる。このため、減衰力特性を様々に変更(調整)することを容易に行うことができる。さらに、切欠きが形成されていないリング状部材を製造してから、そのリング状部材に後から所望の減衰力特性となるように切欠き23を形成することで、減衰力特性を様々に変更(調整)することができる。このため、部品を共通化することができ、量産コストを抑えることができる。
第1の実施形態では、切欠き23は、リング状部材22のうち作動流体20が流動する上流側にのみ設けられている。このため、作動流体20の圧力が高い位置に設けられる切欠き23によって、減衰力特性を様々に変更(調整)することができる。これにより、例えば、切欠き23の数等を大きく異ならせなくても(例えば、切欠き23の数の差を1個としても)、減衰力特性を異ならせることができる。この結果、減衰力特性の変更(調整)の自由度を向上することができる(変更できる範囲を大きくできる)。
第1の実施形態では、リング状部材22は、絶縁体からなる。このため、リング状部材22が電極筒17と内筒4との両方に当接していても、電極筒17と内筒4との間を電気的に絶縁することができる。
第1の実施形態では、切欠き23は、軸方向に延びて形成されている。このため、作動流体20を切欠き23内で軸方向に向けて流通させることができる。即ち、作動流体20を軸方向の上側から下側に直線的に流通させることができる切欠き23によって、減衰力特性を様々に変更(調整)することができる。この場合も、例えば、切欠き23の数等を大きく異ならせなくても(例えば、切欠き23の数の差を1個としても)、減衰力特性を異ならせることができる。これにより、減衰力特性の変更(調整)の自由度を向上することができる(変更できる範囲を大きくできる)。
第1の実施形態では、流路21を、周方向に延びる部分となる時計回り部22Bと反時計回り部22Cとを有する蛇行する流路としている。より具体的には、流路21は、第1の周方向に延びる時計回り路21Aと、この第1の周方向とは逆の第2の周方向に延びる反時計回り路21Bとを有している。このため、流路21を流れる作動流体20からリング状部材22、内筒4および電極筒17が受ける回転力が、時計回り路21Aと反時計回り路21Bとで互いに逆方向となる。これにより、流路21を流れる作動流体20から受ける回転力を低減できる。
この場合に、第1の実施形態では、時計回り路21Aで受ける力と反時計回り路21Bで受ける力とを同じ大きさに近付けるようにしている。また、折り返し路21Cで受ける力も時計回り方向と反時計回り方向とで同じ大きさに近付けるようにしている。このため、第1の周方向(時計方向)の回転力と第2の周方向(反時計方向)の回転力とが互いに打ち消し合い、流路21を流れる流体から受ける回転力を相殺(キャンセル)できる(全体としてほぼゼロにできる)。
次に、図6および図7は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、流路形成部材を複数の部材(隔壁)により構成したことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第2の実施形態の流路31も、第1の実施形態の流路21と同様に、周方向に延びる部分を有する蛇行した流路となっている。この場合、第2の実施形態の流路31は、内筒4と電極筒17との間で周まわりに(斜めに)延びる複数、即ち、4本の流路31A,31B,31C,31Dからなっている。
これら各流路31A,31B,31C,31Dは、一の部分では第1の周方向(例えば、外筒2のかしめ部2A側から見て時計回りの方向)に(斜めに)延び、他の部分では第1の周方向とは逆の第2の周方向(例えば、外筒2のかしめ部2A側から見て反時計回りの方向)に(斜めに)延びている。これにより、第1の周方向の流路を(斜めに)流れる流体力に対し第2の周方向の流路を(斜めに)流れる流体力がキャンセルさせる方向に働くため、作動流体20から内筒4および電極筒17に加わる(合計の)回転力(トルク、モーメント)を低減できる。
即ち、第2の実施形態の流路31(31A,31B,31C,31D)も、第1の実施形態の流路21と同様に、第1の周方向に延びる部分となる第1の周方向路としての時計回り路と、第2の周方向に延びる部分となる第2の周方向路としての反時計回り路と、これら時計回り路と反時計回り路とを接続する折り返し路とを含んで構成されている。なお、図6および図7では、図面が煩雑になることを避けるため、各流路31A,31B,31C,31Dの時計回り路、反時計回り路、折り返し路に符号を付すことを省略した。
流路31A,31B,31C,31Dは、流路形成部材としての4本の隔壁32A,32B,32C,32Dによって形成されている。隔壁32A,32B,32C,32Dは、内筒4と電極筒17との間に設けられている。隔壁32A,32B,32C,32Dは、内筒4と電極筒17との間で周まわりに斜めに延びることにより、電極筒17と内筒4との間に蛇行する流路31A,31B,31C,31Dを形成している。
即ち、隔壁32A,32B,32C,32Dは、内筒4と電極筒17との間で流路31A,31B,31C,31Dを仕切るもので、内筒4に固定されている(内筒4に一体的に設けられている)。これにより、隔壁32A,32B,32C,32Dは、軸方向の上端側から下端側に向けてピストンロッド8の進退動により作動流体20が流動する流路31A,31B,31C,31Dを形成している。
各隔壁32A,32B,32C,32Dの高さ(径方向厚さ)寸法は、例えば、内筒4の外周面のうち各隔壁32A,32B,32C,32Dから外れた部分と電極筒17の内周面との離間寸法以下に設定されている。好ましくは、高さ寸法と離間寸法とを同じにすることにより、4本の流路31A,31B,31C,31Dを流れる作動流体20が周方向に隣り合う流路31A,31B,31C,31Dに各隔壁32A,32B,32C,32Dを超えて流出しないようにする。
各隔壁32A,32B,32C,32Dは、図7に展開図として示すように、サイン曲線、コサイン曲線の如き波線(例えば、電極筒17の周囲を時計方向に一回りする前に逆方向となる反時計方向に折り返す曲線または直線、これとは逆に、電極筒17の周囲を反時計方向に一回りする前に逆方向となる時計回りに折り返す曲線または直線)のように、一の部分では第1の方向(例えば、時計方向または反時計方向)に斜めに延び、他の部分では第1の周方向とは逆の第2の周方向(例えば、反時計方向または時計方向)に斜めに延びている。
即ち、各隔壁32A,32B,32C,32Dは、第1の周方向に斜めに延び一の部分となる第1の時計回り(右回り)部32A1,32B1,32C1,32D1と、第1の周方向とは逆の第2の周方向に斜めに延び他の部分となる反時計回り(左回り)部32A2,32B2,32C2,32D2と、第1の周方向に斜めに延び一の部分となる第2の時計回り(右回り)部32A3,32B3,32C3,32D3とを有している。なお、時計回り(右回り)と反時計回り(左回り)は、第1の実施形態と同様に、電極筒17(緩衝器1)を軸方向の上端側(一端側)からみたときの作動流体20の流通方向に対応する。
また、第1の時計回り部32A1,32B1,32C1,32D1と反時計回り部32A2,32B2,32C2,32D2は、第1の繋がり部(第1の折り返し部)32A4,32B4,32C4,32D4により接続されている。さらに、反時計回り部32A2,32B2,32C2,32D2と第2の時計回り部32A3,32B3,32C3,32D3は、第2の繋がり部(第2の折り返し部)32A5,32B5,32C5,32D5により接続されている。
ここで、各隔壁32A,32B,32C,32Dは、流路31A,31B,31C,31D内の作動流体20の粘度分布に応じて周方向の向きが異なっている。具体的には、各隔壁32A,32B,32C,32Dは、作動流体20が各隔壁32A,32B,32C,32Dに沿って流れたときに、各隔壁32A,32B,32C,32D、内筒4、および、電極筒17に作用するせん断抵抗によるモーメント(トルク、回転力)が打ち消されるように設定されている。即ち、第1の周方向に流れる作動流体20により生じる第1の相対回転力(例えば、時計回りの力)と、第2の周方向に流れる作動流体20により生じる第1の相対回転力とは逆向きの第2の相対回転力(例えば、反時計回りの力)とを、同じ大きさに近付けている。換言すれば、第1の相対回転力と第2の相対回転力とがほぼ同じとなるように、各隔壁32A,32B,32C,32Dの形状を設定している。
この場合、各隔壁32A,32B,32C,32Dの2方向(時計回りと反時計回り)の軸方向長さは、同じ長さにする必要はない。例えば、圧力(せん断抵抗)の高い上流側(上端側)で一方向(時計回りまたは反時計回り)の軸方向長さを短くし(短い流路とし)、圧力の低い下流側(下端側)で他方向(反時計回りまたは時計回り)の軸方向長さを長くする(長い流路とする)ことができる。一の部分(第1の周方向に延びる部分)の軸方向長さと周方向長さと傾き(傾斜量)、および、他の部分(第2の周方向に延びる部分)の軸方向長さと周方向長さと傾き(傾斜量)は、流路31(31A,31B,31C,31D)を流れる作動流体20から内筒4、電極筒17等に加わる回転力が所望の値(例えば、合計がゼロないしほぼゼロ)となるように、例えば、実験、シミュレーション、計算式等に基づいて調整することができる。
ここで、各隔壁32A,32B,32C,32Dは、絶縁体、例えば、電気絶縁性を有する高分子材料(合成樹脂を含む樹脂材料、合成ゴムを含むゴム材料等)により形成することができる。この場合、各隔壁32A,32B,32C,32Dは、例えば、内筒4の外周面を周方向に4分割した型枠で覆い、内筒4に対して高分子材料を射出成型することにより一体的に形成することができる。
切欠き33は、流路31A,31B,31C,31Dのうち軸方向に隣接した部位(隣り合う部位)となる流路31A,31B,31C,31Dの一部同士を互いに連通させるものである。具体的には、切欠き33は、軸方向に隣り合う流路31Bと流路31Cとの間、および、流路31Cと流路31Dとの間を連通して、作動流体20が流通するための油路を形成するものである。切欠き33は、隔壁32C,32Dのうち流路31の上流側に対応する位置にのみ設けられている。具体的には、切欠き33は、隔壁32Cの第1の時計回り部32C1、および、隔壁32Dの第1の時計回り部32D1に設けられている。切欠き33は、隔壁32C,32Dの表面に切削加工を施すことにより、軸方向に延びる凹溝として形成されている。これにより、作動流体20は、切欠き33を介して、隣り合う流路31Bと流路31Cとの間および流路31Cと流路31Dとの間を流通する。
第2の実施形態による緩衝器1は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
内筒4の油穴4A(4個の油穴4A)を通じて流路31内に流入した作動流体20は、内筒4と電極筒17との間で各隔壁32A,32B,32C,32Dの間の流路31A,31B,31C,31Dを上端側から下端側に向けて流れる。このとき、各隔壁32A,32B,32C,32D、内筒4、および、電極筒17には、流路31A,31B,31C,31Dを流れる作動流体20のせん断抵抗に基づいて回転力(トルク、モーメント)が加わる。しかし、各隔壁32A,32B,32C,32Dの第1の時計回り部32A1,32B1,32C1,32D1の間および第2の時計回り部32A3,32B3,32C3,32D3の間を流れる作動流体20から受ける力と、反時計回り部32A2,32B2,32C2,32D2の間を流れる作動流体20から受ける力とが互いに逆方向となる(互いに打ち消し合う)。これにより、流路31A,31B,31C,31Dを流れる作動流体20から受ける力を、全体として小さく(周方向でキャンセル)することができる。
この場合、隔壁32Cと隔壁32Dとには切欠き33を設けている。これにより、流路31Bを流れる作動流体の一部は、隔壁32Cに設けた切欠き33を介して流路31Cに流入する。また、流路31Cを流れる作動流体の一部は、隔壁32Dに設けた切欠き33を介して流路31Dに流入する。これにより、切欠き33を設けていない構成と比較して、例えば、減衰力特性をソフトな特性とすることができる。
かくして、第2の実施形態でも、第1の実施形態とほぼ同様な作用効果を得ることができる。即ち、切欠き33の有無、切欠き33の数、位置、大きさ、断面形状、延びる方向等のうちの少なくとも何れかを異ならせることで、緩衝器1の減衰力特性を様々に変更(調整、チューニング)することができる。これにより、減衰力特性の変更、区別(判別)を容易に行うことができる。
なお、第1の実施形態では、内筒4と電極筒17との間に、リング状部材22を用いて一の流路21を形成する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、リング状部材の形状を変えて複数の流路を設ける構成としてもよい。
第1の実施形態では、流路21が蛇行する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、流路を螺旋状に形成して、作動流体が一方向(時計回り方向または反時計回り方向)にのみ流れる構成としてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
第1の実施形態では、切欠き23を、流路21の上流側にのみ設ける構成を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、切欠きを下流側に設ける構成としてもよい。具体的には、例えば切欠きを、流路の上流側から下流側まで全体に設けてもよいし、下流側にのみ設ける構成としてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
第1の実施形態では、切欠き23を、全部で3個設ける場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、切欠きを1または2個設ける構成としてもよいし、4個以上設ける構成としてもよい。また、複数の切欠きを設ける場合は、1個の時計回り部22Bまたは1個の反時計回り部22Cに複数の切欠きを設けてもよい。さらに、複数の切欠きの厚さ寸法(径方向寸法)、幅寸法(周方向寸法)を異ならせて設けてもよい。この場合、切欠きの位置、数、寸法等は、必要な性能(減衰性能)、製造コスト、仕様等に応じて適宜設定することができる。このことは、第2の実施形態の各隔壁32A,32B,32C,32Dに設ける切欠き33についても同様である。
第1の実施形態では、切欠き23を軸方向に延びる構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、切欠きを軸方向(軸中心線)に対して斜めに延びる構成としてもよい。また、例えば、切欠きを周方向に延びる構成としてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
第1の実施形態では、切欠き23を時計回り部22Bと反時計回り部22Cに設ける場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、切欠きを柱部に設ける構成としてもよい。
第1の実施形態では、流路形成部材としてのリング状部材22を絶縁体からなる構成とした。しかし、これに限らず、例えば、リング状部材を絶縁体以外からなる構成としてもよい。例えば、リング状部材を、導電体、磁性体、非磁性体等からなる構成としてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
第1の実施形態では、予め形成したリング状部材22を、軽圧入と接着とにより内筒4に固着する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、リング状部材は、内筒の外周面を周方向に4分割した型枠で覆い、内筒に対して高分子材料を射出成型することにより一体的に形成する構成としてもよい。この場合に、例えば、内筒の外周面には、リング状部材が固着される部位を他の部位よりも凹ます等により位置決め溝を設け、この位置決め溝に熱硬化性樹脂等の高分子材料を射出成型する構成としてもよい。
第1の実施形態では、切欠き23をリング状部材22の表面に切削加工(コイニング)を施すことにより形成する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、切欠きを、リング状部材の表面を押圧して形成する構成としてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
第1の実施形態では、作動流体20は、軸方向の上端側から下端側に向けて流動する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、軸方向の下端側から上端側に向けて流動する構成、軸方向の左端側(または右端側)から右端側(または左端側)に向けて流動する構成、軸方向の前端側(または後端側)から後端側(または前端側)に向けて流動する構成等、軸方向の一端側から他端側に向けて流動する構成としてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
第1の実施形態では、電極筒17の軸方向の両端をそれぞれ保持部材10,14により保持する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、電極筒の軸方向の一端のみを保持部材により保持する(例えば、上端側の保持部材10のみにより保持し、電極筒17の下端側を作動流体20の流出口となる開口とする)構成としてもよい。このことは、第2の実施形態についても同様である。
第2の実施形態では、流路31A,31B,31C,31Dの方向を規制する隔壁32A,32B,32C,32Dを内筒4(の外周側)に設ける(固定する)構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、隔壁を電極筒(の内周側)に設ける(固定する)構成としてもよい。また、隔壁を外筒に設ける(固定する)構成としてもよい。
第2の実施形態では、流路31A,31B,31C,31Dの方向を規制する隔壁32A,32B,32C,32Dを4本設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、隔壁を2本または3本設ける構成としてもよいし、5本以上設ける構成としてもよい。その場合、隔壁の本数は、必要な性能(減衰性能)、製造コスト、仕様等に応じて適宜設定することができる。
第2の実施形態では、各隔壁32A,32B,32C,32Dは、例えば、内筒4の外周面を周方向に4分割した型枠で覆い、内筒4に対して高分子材料を射出成型することにより一体的に形成する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、予め成形した隔壁を、内筒に対して接着する構成としてもよい。この場合に、例えば、内筒の外周面には、隔壁が接着される部位を他の部位よりも凹ます等により位置決め溝を設け、この位置決め溝に隔壁を接着する構成としてもよい。さらに、内筒の外周側を全周に亘って覆うことができるシート状(板状)の部材に隔壁を突出して設けた覆い部材を予め形成し、その覆い部材を内筒に巻きつける構成としてもよい。
各実施形態では、緩衝器1を上下方向に配置する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、エアレーションを起こさない範囲で傾けて配置する等、取付対象に応じて所望の方向に配置することができる。
各実施形態では、機能性流体としての作動流体20を、電気粘性流体(ER流体)により構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば磁界により流体の性状が変化する磁性流体(MR流体)を用いて機能性流体としての作動流体を構成してもよい。磁性流体を用いる場合には、筒部材としての電極筒17を電極に代えて磁極とする。この場合は、例えば、内筒4と筒部材(磁極筒)との間に磁界を発生させ、発生減衰力を可変に調整するときには、外部から磁界を可変に制御する構成とすればよい。また、絶縁用の保持部材10,14等は、例えば、非磁性材料により形成することができる。
各実施形態では、シリンダ装置としての緩衝器1を4輪自動車に用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、2輪車に用いる緩衝器、鉄道車両に用いる緩衝器、一般産業機器を含む各種の機械機器に用いる緩衝器、建築物に用いる緩衝器等、緩衝すべき対象を緩衝する各種の緩衝器(シリンダ装置)として広く用いることができる。
さらに、各実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
以上の実施形態によれば、減衰力特性の変更、区別(判別)を容易に行うことができる。
即ち、実施形態によれば、流路形成部材には、流路のうち軸方向に隣接した部位を互いに連通させる切欠きを形成する構成としている。このため、例えば、切欠きが形成された流路形成部材が組込まれたシリンダ装置は、このシリンダ装置に対して切欠きが形成されていない点だけが異なるシリンダ装置に対して、減衰力特性を異ならせることができる。また、シリンダ装置は、切欠きの数を異ならせることで、減衰力特性を異ならせることもできる。
即ち、切欠きの有無、切欠きの数、位置、大きさ、断面形状、延びる方向等のうちの少なくとも何れかを異ならせることで、シリンダ装置の減衰力特性を様々に変更(調整、チューニング)することができる。この場合に、切欠きの数、位置、大きさ、断面形状、延びる方向等の違いを目視で判断(判別、区別)することは、例えば螺旋部材の角度違いを目視で判断する場合と比較して、容易に行うことができる。これにより、部品管理を容易に行うことができる。
しかも、減衰力特性を様々に変更することを、流路形成部材に形成する切欠きの数、位置、大きさ、断面形状、延びる方向等のうちの少なくとも何れかを異ならせることにより行うことができる。このため、減衰力特性を様々に変更(調整)することを容易に行うことができる。さらに、切欠きが設けられていない流路形成部材を製造してから、その流路形成部材に後から所望の減衰力特性となるように切欠きを形成することで、減衰力特性を様々に変更(調整)することができる。このため、部品を共通化することができ、量産コストを抑えることができる。
実施形態によれば、切欠きは、流路形成部材の機能性流体が流動する上流側にのみ設ける構成としている。この場合は、機能性流体の圧力が高い位置に設けられる切欠きによって、減衰力特性を様々に変更(調整)することができる。このため、例えば、切欠きの数等を大きく異ならせなくても(例えば、切欠きの数の差を1個としても)、減衰力特性を異ならせることができる。これにより、減衰力特性の変更(調整)の自由度を向上することができる(変更できる範囲を大きくできる)。
実施形態によれば、流路形成部材は、絶縁体からなる。このため、流路形成部材が電極筒となる筒部材と内筒との両方に当接していても、筒部材と内筒との間を電気的に絶縁することができる。
実施形態によれば、切欠きは、軸方向に延びて形成される構成としている。この場合は、機能性流体を切欠き内で軸方向に向けて流通させることができる。即ち、機能性流体を軸方向の一側から他側に直線的に流通させることができる切欠きによって、減衰力特性を様々に変更(調整)することができる。この場合も、例えば、切欠きの数等を大きく異ならせなくても(例えば、切欠きの数の差を1個としても)、減衰力特性を異ならせることができる。これにより、減衰力特性の変更(調整)の自由度を向上することができる(変更できる範囲を大きくできる)。
以上の実施形態に基づくシリンダ装置としては、例えば以下に記載する態様のものがあげられる。第1の態様のシリンダ装置は、電界または磁界により流体の性状が変化する機能性流体が封入され、内部にロッドが挿入される内筒と、該内筒の外側に設けられ、電極または磁極として機能する筒部材と、前記内筒と前記筒部材との間に設けられた流路形成部材であって、前記ロッドの進退動により前記機能性流体が前記シリンダ装置の軸方向の一端側から他端側に向けて流動する一つまたは複数の流路を形成する流路形成部材と、を備える。前記流路は、周方向に延びる部分を有する螺旋状または蛇行する流路である。前記流路形成部材には、前記流路のうち前記軸方向に隣接した部位を互いに連通させる切欠きが形成される。
上記第2の態様によれば、第1の態様において、前記切欠きは、前記流路形成部材のうち、前記機能性流体が流動する上流側にのみ設けられる。
上記第3の態様によれば、第1または第2の態様において、前記流路形成部材は、絶縁体から形成される。
上記第4の態様によれば、第1ないし第3のいずれかの態様において、前記切欠きは、前記軸方向に延びて形成される。
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明してきたが、上述した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
本願は、2015年9月30日出願の日本特許出願番号2015−192850号に基づく優先権を主張する。2015年9月30日出願の日本特許出願番号2015−192850号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書を含む全ての開示内容は、参照により全体として本願に組み込まれる。