JPWO2016129033A1 - マルチチャンネル分光光度計及びマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法 - Google Patents

マルチチャンネル分光光度計及びマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、複数の受光素子で各波長の光を受光する場合に各受光素子に入射する迷光の影響を低減することを課題とする。本発明に係るマルチチャンネル分光光度計は、試料からの光を分光素子(16)に導入し、該分光素子(16)により波長分散させることにより得られた波長分散光を一斉に検出する検出器であって、前記分光素子(16)の波長分散方向に一次元状に配置された複数の受光素子(PD)を備えるマルチチャンネル型の検出器(17)と、複数の受光素子(PD)の検出信号から波長分散光の光量を算出する光量算出部(221)と、該光量算出部(221)が算出した光量から波長と光量の関係を示すスペクトルを作成するスペクトル作成部(222)と、スペクトルから各受光素子(PD)に入射した迷光の光量を推定し、この迷光の光量を、各受光素子に入射した波長分散光の光量から減算して前記スペクトルを補正する演算部(224)とを備える。

Description

本発明は、分光素子により波長分散された光をフォトダイオードアレイ検出器やCCDリニアイメージセンサ等のマルチチャンネル検出器で検出するマルチチャンネル分光光度計及びそのデータ処理方法に関する。
マルチチャンネル分光光度計は、光源から発した光を試料に照射したときに該試料と相互作用した後の光(透過光、蛍光発光光等)を分光素子により波長分散して波長毎の強度を検出する装置であり、例えば液体クロマトグラフの検出部において用いられる(特許文献1参照)。図7に液体クロマトグラフの検出部において用いられるマルチチャンネル分光光度計の一例を示す。光源1から発せられた光は凹面ミラー2により集光され、試料セル3に照射される。試料セル3には図示しないカラムにおいて時間的に分離された試料中の成分が移動相と共に流れ込み、特定波長の光を吸収した後、ドレインに排出される。試料セル3を透過した光は、凹面ミラー4により反射され、スリット5を通過した後、凹面回折格子6により波長分散されてフォトダイオードアレイ検出器(PDA検出器)やCCDリニアイメージセンサ等のマルチチャンネル検出器7(以下、「検出器7」という)で検出される。
検出器7は、多数の微小な受光素子を1次元状に配列して構成されており、凹面回折格子6により波長分散された光が検出器7に入射すると、該波長分散光は各受光素子で一斉に検出され、光強度に応じた電気信号に変換される。検出器7からの検出信号に基づいて所定波長範囲の吸光スペクトルを作成することができる。
上記構成の分光光度計においては、凹面回折格子6で分散された同一波長幅で且つ波長領域が異なる光が各受光素子で検出される。また、検出器7の両端に位置する1番目の受光素子とn番目の受光素子には、それぞれ分光光度計の測定可能波長範囲の上下端の波長λ1、λnの光が当たるように設計されている。これにより、波長毎の光強度を精度良く検出することができ、得られた吸光スペクトルのピーク波長及びピーク強度から試料成分の同定及び濃度の測定を行うことができる。
本来、検出器7の検出信号から得られる吸光スペクトルのピーク強度の大きさと試料成分の濃度の間には直線性がある。しかしながら、各受光素子で受光される光は、必ずしも試料から発せられ、凹面回折格子6で波長分散された光に限らない。例えば、分光光度計の各種光学部品において反射した光が迷光として受光素子に入射する。このような場合、各受光素子が受光する光量が、本来の波長領域の光量よりも多くなる。特に試料成分の濃度が高い場合には、特定の波長領域において吸光度が大きくなり、本来受光すべき光量に対する迷光の光量の比率が大きくなるため、迷光の影響が顕著になる。そこで、従来より、このような迷光が分光分析に与える影響を除去するための様々な方法が提案されている。
例えば特許文献1には、分光分析装置において、セパレータ窓によって分離されたサンプル系セルと参照サンプル系セルからなるセルを用いてサンプル系セル中の成分濃度を演算する方法が開示されている。この方法では、セパレータ窓を移動させながらサンプル系セル及び参照サンプル系セルの吸光度を検出し、セパレータ窓の変位量、サンプル系セルの吸光度及び参照サンプル系セルの吸光度から成分濃度を求める。これにより、セル表面の反射成分やセルの傷や汚れによる散乱成分、サンプル中に浮遊するゴミや懸濁物質等による散乱成分に起因する迷光の影響を除去している。
特許文献2には、光源から発せられた光をミラーやハーフミラーを通してサンプルに照射し、サンプルから発せられた光をミラーやハーフミラーを通して受光器に入射させるスキャニングレ型レンジセンサにおいて、光源からの光をセンサ内に取り込むための窓部の表面で発生する反射光や散乱光等の迷光成分の影響を除去する方法が開示されている。文献2では、センサ内に光吸収体を配置し、迷光成分が光吸収体に向かうようにミラーやハーフミラーの傾き等を調整することにより、受光器に迷光が入射することを防止している。
特開平6-88782号公報 特開2005-221336号公報
Michaek E. Feinholz, et al. "Stray Light Correction of the Marine Optical System", Journal of Atomospheric and Oceanic Technology, January 2009, pp. 57-73
上述のマルチチャンネル分光光度計では、装置内に入射し、試料セル3を透過した光はスリット5を通過した後、凹面回折格子6に入射する。凹面回折格子6に入射した光の多くは該凹面回折格子6により波長分散されてPDA検出器7に入射するが、一部の光は凹面回折格子6の表面に付着した塵埃等によって散乱され、迷光としてPDA検出器7の各受光素子に入射する。特許文献1、2に記載された方法では、凹面回折格子6に入射する迷光は低減するが、凹面回折格子6の表面で発生する迷光を除去することができない。
また、複数の受光素子で波長分散光を一斉に検出するマルチチャンネル分光光度計においては、各受光素子に入射する波長分散光の一部が該受光素子の受光面で反射された後、別の受光素子で検出される場合がある。このように、本来入射すべき受光素子とは異なる受光素子で検出される波長分散光も一種の迷光であるが、従来のマルチチャンネル分光光度計では、このような迷光は考慮されていない。
本発明が解決しようとする課題は、複数の受光素子で波長分散光を一斉に検出する場合に、各受光素子に入射する様々な迷光の影響を低減することができるマルチチャンネル分光光度計及びそのデータ処理方法を提供することである。
上記課題を解決するために成された本出願の第1態様に係る発明は、試料からの光を分光素子に導入し、該分光素子により波長分散させることにより得られた波長分散光を一斉に検出するマルチチャンネル分光光度計であって、
a) 前記分光素子の波長分散方向に一次元状に配置された複数の受光素子を備えるマルチチャンネル型の検出器と、
b) 前記複数の受光素子の各々の検出信号から光量を算出する光量算出手段と、
c) 前記光量算出手段が算出した光量から、波長と光量の関係を示すスペクトルを作成するスペクトル作成手段と、
d) 前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定する迷光光量推定手段と、
e) 各受光素子に入射した波長分散光の光量から、その受光素子に入射したと推定された迷光の光量を減算して前記スペクトルを補正するスペクトル補正手段と
を備えることを特徴とする。
本発明に係るマルチチャンネル分光光度計においては、検出器の複数の受光素子は、それぞれ波長領域が異なる、同一波長幅の波長分散光が入射するように分光素子の波長分散方向に一次元状に配置される。分光素子からの波長分散光は、それぞれその波長領域に対応する受光素子に受光され、その光量に応じた検出信号が受光素子から出力される。このような検出器として、フォトダイオードアレイ検出器(PDA検出器)やCCDリニアイメージセンサ等を用いることができる。
光量算出手段は各受光素子から出力される検出信号から光量を算出し、スペクトル作成手段は、算出された光量から、波長と光量の関係を示すスペクトルを作成する。このとき、スペクトル作成手段は、光量の元となる検出信号を出力した受光素子の位置から波長を特定する。このような検出器においては、受光素子に本来入射するはずの波長領域とは異なる波長領域の光が入射しても、これらの光を区別することができない。従って、分光素子からの波長分散光の一部が、その波長領域に対応する本来の受光素子とは別の受光素子に入射した場合には、本来の受光素子では実際よりも少ない光量が、当該別の受光素子では実際よりも多い光量が検出されることになる。
所定の波長領域の波長分散光が、本来入射すべき受光素子とは別の受光素子に入射すると、別の受光素子にとってその波長分散光は迷光となる。このような現象は、近傍に位置する複数の受光素子同士で生じる可能性が高く、近傍に位置する複数の受光素子に入射する光の一部は、互いに別の受光素子の迷光となる可能性がある。つまり、本来の受光素子と別の受光素子は近傍に位置し、別の受光素子に入射した迷光の光量は、本来の受光素子に入射した波長分散光の光量に依存する。本来の受光素子に入射した波長分散光の光量は、複数の受光素子の各々の検出信号から算出された各波長分散光の光量と波長との関係を示すスペクトルから求められることから、本発明では、迷光光量推定手段は、前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定する。
前記検出器が、前記複数の受光素子を収容する筐体と、該筐体に設けられた前記分光素子からの光を筐体内に取り入れるための窓部とを備える場合、前記窓部を通して前記筐体内に入射した分光素子からの波長分散光は、その波長領域に対応する本来の受光素子に入射する他、受光素子の受光面と前記窓部との間で1回ないし複数回反射した後、本来の受光素子とは別の受光素子に迷光として入射する。このような現象は、分光素子により波長分散された光だけでなく、分光素子の表面に付着した塵埃等によって散乱し、窓部を通して筐体内の受光素子に入射した光についても、同様に生じる。
そこで、本発明に係るマルチチャンネル分光光度計が上述の構成の検出器を備える場合は、前記迷光光量推定手段は、窓部を通して筐体内に入射した分光素子からの光が、前記受光素子の受光面と前記窓部との間で1回ないし複数回反射した後、迷光として前記受光素子で検出される光量を表す迷光モデルを求めると共にこの迷光モデルを記憶する記憶部を備え、該迷光モデルと前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定する。
前記迷光モデルは、分光素子で波長分散された光の波長とその強度、該波長分散光が受光素子の受光面に入射する角度及び受光面の反射率、窓部の透過率及び反射率等をパラメータとする数式で表すことができる。また、分光素子で波長分散された光の波長及びその強度と各受光素子で検出される迷光の光量との関係を表すテーブルを迷光モデルとしても良い。
さらに、例えば単色光を前記分光素子に導入したときに複数の受光素子の各々から得られる検出信号に基づいて、単色光が迷光として入射した受光素子の位置、及び受光素子に入射した単色光の総光量に対する各受光素子に入射した迷光の光量の比率を、波長が異なる複数の単色光についてそれぞれ求め、前記複数の単色光について求めた、迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率をパラメータとする近似式を迷光モデルとすることもできる。
また、吸光スペクトルが既知の試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づいて波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、当該吸光スペクトルの形状と前記既知の吸光スペクトルの形状の差から、迷光が入射した受光素子の位置及び受光素子に入射した総光量に対する迷光の光量の比率を推定し、該推定された、迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率をパラメータとする近似式を迷光モデルとしても良い。
本来、成分濃度が異なる試料の吸光スペクトルは、目的とするピークの高さは異なるが、形状は同じになる。しかしながら、受光素子で検出される波長分散光に迷光が含まれる場合、ピークの高さだけでなく形状も異なる。特に、成分濃度が高く、吸光度が大きい試料ほど、受光素子で検出される波長分散光の光量に対する迷光の光量の比率が大きくなるため、その傾向は顕著である。
そこで、成分濃度が異なる複数の試料の各々について、該試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに前記複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づき波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、これら吸光スペクトルの形状と成分濃度との関係から、迷光が入射した受光素子の位置及び受光素子に入射した総光量に対する迷光の光量の比率を推定し、該推定された迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率をパラメータとする近似式を迷光モデルとしても良い。
また、本出願の第2態様に係る発明は、分光素子により波長分散された光の光量を、前記分光素子の波長分散方向に一次元状に配置された複数の受光素子で検出するマルチチャンネル分光光度計のデータ処理方法であって、
前記複数の受光素子の各々の検出信号から光量を算出して、波長と光量の関係を示すスペクトルを作成し、
前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定し、
各受光素子に入射した波長分散光の光量から、その受光素子に入射したと推定された迷光の光量を減算して前記スペクトルを補正することを特徴とする。
前記マルチチャンネル分光光度計が、複数の受光素子を収容する筐体と、該筐体に設けられた分光素子からの光を前記筐体内に取り入れるための窓部とを有するマルチチャンネル型の検出器を備える場合、窓部を通して筐体内に入射した分光素子からの光が、受光素子の受光面と窓部との間で1回ないし複数回反射した後、迷光として受光素子で検出される光量を数式で表現した迷光モデルを求め、該迷光モデルと前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定すると良い。
また、単色光を前記分光素子に導入したときに複数の受光素子の各々から得られる検出信号に基づいて、単色光が迷光として入射した受光素子の位置、及び受光素子に入射した単色光の総光量に対する各受光素子に入射した迷光の光量の比率を、波長が異なる複数の単色光についてそれぞれ求め、
複数の単色光について求めた、迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率と、スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定することも可能である。
さらに、吸光スペクトルが既知の試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づいて波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、当該吸光スペクトルの形状と前記既知の吸光スペクトルの形状の差から、迷光が入射した受光素子の位置及び受光素子に入射した総光量に対する迷光の光量の比率を推定し、該推定された迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率と前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定しても良い。
さらにまた、成分濃度が異なる複数の試料の各々について、該試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づき波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、これら吸光スペクトルの形状と成分濃度との関係から、迷光が入射した受光素子の位置及び受光素子に入射した総光量に対する迷光の光量の比率を推定し、該推定された迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率と、前記スペクトルから各受光素子に入射する迷光の光量を推定しても良い。
本発明によれば、分光素子により波長分散された光を複数の受光素子で検出し、その検出結果に基づき、波長と光量の関係を示すスペクトルを得る場合に、分光素子の表面で生じた散乱光や、分光素子により波長分散された光が本来入射すべき受光素子とは別の受光素子に入射したことにより生じる迷光等、様々な迷光の光量を前記スペクトルから推定して前記スペクトルを補正することができるため、迷光が分光分析に与える影響を低減することができる。
本発明の一実施形態に係るマルチチャンネル分光光度計の要部構成図。 凹面回折格子からの光が受光素子に入射するまでの経路の説明図。 波長が250nmの単色光を分光素子に入射させたときの各受光素子で検出された光量を示すグラフ(a)、及び(a)の縦軸を拡大して示すグラフ(b)。 迷光モデルを示す近似式の説明図。 波長が254nmの輝線を用いて迷光補正を行った結果を示す図。 本実施例に係る方法と、従来の方法により迷光補正の結果を示す図。 従来のマルチチャンネル分光光度計の要部構成図。
以下、本発明に係る分光分析装置について具体的な実施例を挙げて説明する。図1は、本実施例に係る分光分析装置の要部構成を示す図、図2は図1中、波線Aで囲んだ部分の拡大図である。なお、既に説明した図7と同一又は対応する構成要素については下1桁が共通する符号を付し、適宜説明を省略する。
本実施例に係る分光分析装置の大きな特徴は、フォトダイオードアレイ検出器17からの信号の処理方法にある。すなわち、図1に示すように、受光素子アレイ172を構成する各受光素子の検出信号はA/D変換器21によりデジタル信号に変換された後、制御・処理部22に入力される。光量算出部221は、制御・処理部22に入力された信号に基づき各受光素子が受光した光量を算出する。光量算出部221で算出された光量は波長と対応づけて光量算出部221に記憶され、スペクトル作成部222は、記憶された光量に基づき、波長と光量との関係を示すスペクトルを作成する。
記憶部223には、各受光素子で検出される迷光の光量を表す迷光モデルが記憶されている。迷光モデルについては後述する。演算部224は、スペクトル作成部222が作成したスペクトルと迷光モデルに基づき、各受光素子に入射した迷光の光量を推定し、該スペクトルを補正する。本実施例では、演算部が迷光光量推定手段及びスペクトル補正手段として機能する。
図2に示すように、フォトダイオードアレイ検出器17は、筐体171内に収容された受光素子アレイ172と、筐体171の開口を塞ぐ石英製の窓板173とから構成されている。凹面回折格子16で波長分散された光は窓板173を通して受光素子アレイ172の受光面に入射する。受光素子アレイ172は、凹面回折格子16の波長分散方向にn個の受光素子PD(PD1〜PDn)を並べて構成されている。1番目の受光素子PD1には、凹面回折格子16で波長分散された光のうち最短の波長を中心波長とする波長領域の光が、n番目の受光素子PDnには最長の波長を中心波長とする波長領域の光が入射する。また、各受光素子PDには、同一の波長幅の光が入射する。
例えば図2に矢印L1で示すように、凹面回折格子16で波長分散された所定の波長領域の光は、窓部173を通して筐体171内に導入され、その波長領域に応じた位置にある受光素子PDの受光面に入射する。このとき、受光素子PDの受光面に入射した波長分散光の一部はその受光面で反射され、さらに、窓板173で反射されることにより、本来入射すべき受光素子PDとは異なる受光素子PDに迷光として入射し、検出される。
なお、凹面回折格子16で波長分散された光が迷光として本来の受光素子PDとは異なる受光素子PDに入射する現象は、受光素子PDの受光面及び窓板173でそれぞれ1回ずつ反射した場合に限らず、2回以上反射した場合にも生じる。
凹面回折格子16で波長分散された光が迷光として入射する受光素子PDの位置は、凹面回折格子16から窓板173を通って受光素子アレイ172の受光面に入射する角度(入射角)、窓板173と受光素子アレイ172の受光面との間の距離等により決まる。また、各受光素子PDに入射する迷光の光量は、凹面回折格子16からの光の光量、窓板173の透過率や反射率、受光素子アレイ172の受光面の反射率等によって決まる。
例えば、図3の(a)及び(b)は、試料セル13に試料を収容しない状態で、波長が250nmの単色光を発する光源11からの光を凹面ミラー12、試料セル13、凹面ミラー14、スリット15を通して、凹面回折格子16に導入したときに受光素子PDで検出された結果を示す。図3の(a)及び(b)の縦軸は光量を、横軸はその光量が検出された受光素子PDに本来入射する波長分散光の波長領域の中心波長を示し、図3(b)は、図3(a)の破線で囲んだ領域Aを拡大した図である。波長250nmの単色光を凹面回折格子16に導入すると、その光は本来は中心波長が250nmの受光素子PDの検出信号として出力される。従って、単色光の光量は横軸を「250nm」とする位置にのみ現れるはずであるが、図3(a)及び(b)から分かるように、実際は、250nm以外の波長にも分布する(図3(b)に破線で囲んだ円形領域B内に現れる小さなピーク)。
このようなピークが示す光量が、受光素子PDの受光面や窓板173による不所望の反射によって本来の受光素子PDとは異なる受光素子PDに入射した迷光の光量に相当する。なお、以下の説明では、円形領域B内の光量分布を迷光スペクトルと呼ぶ。本実施例では、まずは、このような迷光スペクトルを様々な波長の単色光について求め、その結果から、下記の情報(A)〜(C)を求めた。そして、これらの情報から迷光分布を数式(迷光分布行列)で表現した迷光モデルを求めた。
(A)凹面回折格子16からの入射光の波長と迷光の発生位置との関係
(B)凹面回折格子16からの入射光の光量に対する迷光の光量の比率
(C)凹面回折格子16からの入射光の波長と迷光の拡がり方
ここで、単色光の波長が入射光の波長となる。また、入射光の光量は、単色光の波長を中心波長とする受光素子の検出信号から求めることができる。迷光の発生位置、迷光の光量、及び迷光の広がり方は、迷光が検出された受光素子PDの位置やその検出信号、つまり迷光スペクトルから求めることができる。
例えば、下記の式(1)は、測定されたスペクトルをYmeas、迷光がない場合のスペクトルをY、迷光スペクトルをYslと定義したときのこれらの関係を示す式である。迷光スペクトルYslは、迷光がない場合のスペクトルYに迷光分布行列Dを乗じて得られる。
Ymeas =Y + Ysl =Y + D・Y = [I + D]・Y ・・・ (1)
ここで、Iは単位行列を示す。また、迷光分布行列Dは下記で表され、上述した情報(A)〜(C)から求めた迷光モデルの一例である。
Figure 2016129033
なお、上記の行列Dにおいて「M」及び「Λ」は、その部分に1又は複数の行又は列が含まれることを示す。
図4に示すように、迷光分布行列Dのj列(d1,j,…,di,j,…,dn,j)が、受光素子アレイ172のj番目の受光素子PDjに対応する波長λjの単色光を試料セル13に照射したときの迷光分布を示す。つまり、「dj,j」の値が、波長λjの単色光が本来入射すべき受光素子PDjで検出された光量の大きさを示し、それ以外の値は迷光として検出された光量の大きさを示す。また、各迷光の光量は、凹面回折格子16に入射した単色光の光量を1としたときの比率で表す。
上記行列式(1)より、迷光の光量を補正したスペクトルは、下記式(2)
Ymeas = [I + D]・Y ・・・(2)
を、Yについて解いた下記式(3)より求めることができる。
Y = [I + D]−1・Ymeas ・・・(3)
本実施例に係るマルチチャンネル分光光度計では、記憶部223に迷光分布行列D及び上記式(3)が記憶されており、演算部224はスペクトル作成部222が作成したスペクトルと迷光分布行列及び式(3)から補正後のスペクトルを求める。
上記式(3)を用いて実際に迷光補正を行った結果を図5及び図6に示す。
図5は波長が254nmの水銀ランプの輝線にて迷光補正を行った結果を示す。実線L2は補正前の、実線L3は補正後のスペクトルを示す。図5から分かるように、補正前は、波長254nmの他、波長240nm付近にピークが見られたが、補正によりこのピークが小さくなった(矢印Pで示す。)。
図6は、本実施例の方法で補正したスペクトルからサンプル中の成分濃度を求めた結果、及びスペクトルを補正せずにサンプル中の成分濃度を求めた結果(従来法)を示す。図中、実線L4が本実施例、実線L5が従来法の結果を示す。ここではサンプルとしてカフェインのメタノール溶液を用いた。カフェイン濃度は11mg/L、22mg/L、44mg/Lの3点、それぞれの濃度の波長272nmの吸光度は理想的には0.5AU、1AU、2AUとなる。
カフェイン濃度が11mg/L、22mg/Lのサンプルでは、従来及び実施例のいずれの方法でも吸光度は0.5AU、1.0AUとなったが、44mg/Lの濃度では、本実施例の補正方法では2.0AUとなったのに対して従来の補正方法では1.9AUとなった。このことから、成分濃度が高く、吸光度が高い領域においても、本実施例では正確に濃度を求めることができることが確認された。
なお、本発明は上記した実施例に限定されない。
例えば、上記実施例では、迷光モデルとして行列式を用いた例を示したが、様々な波長の単色光について求めた迷光スペクトルを記憶部223に記憶し、得られたスペクトルから迷光スペクトルを減ずる処理を行ってスペクトルを補正しても良い。また、迷光スペクトルから上述の情報(A)〜(C)を求め、これら情報をパラメータとする近似式を迷光モデルとしても良い。
吸光スペクトルが既知の試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに前記複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づいて波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、当該吸光スペクトルの形状と前記既知の吸光スペクトルの形状の差から、上記の情報(A)〜(C)を求め、これら情報をパラメータとする近似式を迷光モデルとしても良い。
成分濃度が異なる複数の試料の各々について、該試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づき波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、これら吸光スペクトルの形状と成分濃度との関係から上述の情報(A)〜(C)を求め、これら情報をパラメータとする近似式を迷光モデルとしても良い。
1、11…光源
2、12…凹面ミラー
3、13…試料セル
4、14…凹面ミラー
5、15…スリット
6、16…凹面回折格子
7…マルチチャンネル検出器
17…フォトダイオードアレイ検出器
172…受光素子アレイ
173…窓板
PD…受光素子

Claims (11)

  1. 試料からの光を分光素子に導入し、該分光素子により波長分散させることにより得られた波長分散光を一斉に検出するマルチチャンネル分光光度計において、
    a) 前記分光素子の波長分散方向に一次元状に配置された複数の受光素子を備えるマルチチャンネル型の検出器と、
    b) 前記複数の受光素子の各々の検出信号から光量を算出する光量算出手段と、
    c) 前記光量算出手段が算出した光量から、波長と光量の関係を示すスペクトルを作成するスペクトル作成手段と、
    d) 前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定する迷光光量推定手段と、
    e) 各受光素子に入射した波長分散光の光量から、その受光素子に入射したと推定された迷光の光量を減算して前記スペクトルを補正するスペクトル補正手段と
    を備えることを特徴とするマルチチャンネル分光光度計。
  2. 請求項1に記載のマルチチャンネル分光光度計において、
    前記検出器が、前記複数の受光素子を収容する筐体と、該筐体に設けられた前記分光素子からの光を筐体内に取り入れるための窓部とを備え、
    前記迷光光量推定手段が、前記窓部を通して前記筐体内に入射した前記分光素子からの光が、前記受光素子の受光面と前記窓部との間で1回ないし複数回反射した後、迷光として前記受光素子で検出される光量を数式で表現した迷光モデルを記憶する記憶部を備え、該迷光モデルと前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定することを特徴とするマルチチャンネル分光光度計。
  3. 請求項2に記載のマルチチャンネル分光光度計において、
    前記迷光モデルが、
    単色光を前記分光素子に導入したときに前記複数の受光素子の各々から得られる検出信号に基づいて、前記単色光が迷光として入射した受光素子の位置、及び前記受光素子に入射した単色光の総光量に対する各受光素子に入射した迷光の光量の比率を、波長が異なる複数の単色光についてそれぞれ求め、前記複数の単色光について求めた、迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率をパラメータとする近似式であることを特徴とするマルチチャンネル分光光度計。
  4. 請求項2に記載のマルチチャンネル分光光度計において、
    前記迷光モデルが、
    吸光スペクトルが既知の試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに前記複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づいて波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、当該吸光スペクトルの形状と前記既知の吸光スペクトルの形状の差から、迷光が入射した受光素子の位置及び受光素子に入射した総光量に対する迷光の光量の比率を推定し、該推定された、迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率をパラメータとする近似式であることを特徴とするマルチチャンネル分光光度計。
  5. 請求項2に記載のマルチチャンネル分光光度計において、
    前記迷光モデルが、
    成分濃度が異なる複数の試料の各々について、該試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに前記複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づき波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、これら吸光スペクトルの形状と成分濃度との関係から、迷光が入射した受光素子の位置及び受光素子に入射した総光量に対する迷光の光量の比率を推定し、該推定された迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率をパラメータとする近似式であることを特徴とするマルチチャンネル分光光度計。
  6. 分光素子により波長分散された光の光量を、一次元状に配置された複数の受光素子で検出するマルチチャンネル分光光度計用のデータ処理方法において、
    前記複数の受光素子の各々の検出信号から各波長分散光の光量を算出して、波長と光量の関係を示すスペクトルを作成し、
    前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定し、
    各受光素子に入射した波長分散光の光量から、その受光素子に入射したと推定された迷光の光量を減算して前記スペクトルを補正することを特徴とするマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法。
  7. 請求項6に記載のマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法において、
    前記マルチチャンネル分光光度計が、前記複数の受光素子を収容する筐体と、該筐体に設けられた前記分光素子からの光を前記筐体内に取り入れるための窓部とを有するマルチチャンネル型の検出器を備え、
    前記窓部を通して前記筐体内に入射した前記分光素子からの光が、前記受光素子の受光面と前記窓部との間で1回ないし複数回反射した後、迷光として前記受光素子で検出される光量を数式で表現した迷光モデルを求め、
    該迷光モデルと前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定することを特徴とするマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法。
  8. 請求項6に記載のマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法において、
    単色光を前記分光素子に導入したときに前記複数の受光素子の各々から得られる検出信号に基づいて、前記単色光が迷光として入射した受光素子の位置、及び前記受光素子に入射した単色光の総光量に対する各受光素子に入射した迷光の光量の比率を、波長が異なる複数の単色光についてそれぞれ求め、
    前記複数の単色光について求めた、迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率と、前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定することを特徴とするマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法。
  9. 請求項6に記載のマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法において、
    吸光スペクトルが既知の試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに前記複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づいて波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、
    当該吸光スペクトルの形状と前記既知の吸光スペクトルの形状の差から、迷光が入射した受光素子の位置及び受光素子に入射した総光量に対する迷光の光量の比率を推定し、
    該推定された迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率と前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定することを特徴とするマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法。
  10. 請求項6に記載のマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法において、
    成分濃度が異なる複数の試料の各々について、該試料を透過した多波長光を分光素子に導入したときに前記複数の受光素子の各々から得られた信号値に基づき波長と吸光度の関係を示す吸光スペクトルを作成し、
    これら吸光スペクトルの形状と成分濃度との関係から、迷光が入射した受光素子の位置及び受光素子に入射した総光量に対する迷光の光量の比率を推定し、
    該推定された迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率と、前記スペクトルから各受光素子に入射する迷光の光量を推定することを特徴とするマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法。
  11. 請求項8〜10のいずれかに記載のマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法において、
    前記迷光が入射した受光素子の位置及び迷光の光量の比率をパラメータとする近似式を求め、前記近似式と前記スペクトルから各受光素子に入射した迷光の光量を推定することを特徴とするマルチチャンネル分光光度計用データ処理方法。
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