以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネットで用いる酸化物超電導バルク体(以下、単に「超電導バルク体」ともいう。)は、単結晶状のREBa2Cu3O7−x中にRE2BaCuO5相(211相)等に代表される非超電導相が分散した組織を有するもので、特に微細分散した組織を有するバルク材(所謂QMG(登録商標)材料)が望ましい。ここで、単結晶状というのは、完璧な単結晶でなく、小傾角粒界等の実用に差支えない欠陥を有するものも包含するという意味である。REBa2Cu3O7−x相(123相)及びRE2BaCuO5相(211相)におけるREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる希土類元素及びそれらの組み合わせで、La、Nd、Sm、Eu、Gdを含む123相は1:2:3の化学量論組成から外れ、REのサイトにBaが一部置換した状態になることもある。また、非超電導相である211相においても、La、Ndは、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luとは幾分異なり、金属元素の比が非化学量論的組成であったり、結晶構造が異なっていることが知られている。
前述のBa元素の置換は、臨界温度を低下させる傾向がある。また、より酸素分圧の小さい環境においては、Ba元素の置換が抑制される傾向にある。
123相は、211相とBaとCuとの複合酸化物からなる液相との包晶反応、
211相+液相(BaとCuの複合酸化物) → 123相
によりできる。そして、この包晶反応により、123相ができる温度(Tf:123相生成温度)は、ほぼRE元素のイオン半径に関連し、イオン半径の減少に伴いTfも低くなる。また、低酸素雰囲気及びAg添加に伴い、Tfは低下する傾向にある。
単結晶状の123相中に211相が微細分散した材料は、123相が結晶成長する際、未反応の211粒が123相中に取り残されるためにできる。即ち、上記バルク材は、
211相+液相(BaとCuの複合酸化物) → 123相+211相
で示される反応によりできる。
バルク材中の211相の微細分散は、臨界電流密度Jc向上の観点から極めて重要である。Pt、Rh又はCeの少なくとも一つを微量添加することで、半溶融状態(211相と液相からなる状態)での211相の粒成長が抑制され、結果的に材料中の211相が約1μm程度に微細化される。211相の微細分散状況は、試料を鏡面研磨した後、光学顕微鏡で確認できる。
添加量は、微細化効果が現れる量及び材料コストの観点から、Ptで0.2〜2.0質量%、Rhで0.01〜0.5質量%、Ceで0.5〜2.0質量%が望ましい。添加されたPt、Rh、Ceは123相中に一部固溶する。また、固溶できなかった元素は、BaやCuとの複合酸化物を形成し、材料中に点在することになる。
また、マグネットを構成するバルク酸化物超電導体は、磁場中においても高い臨界電流密度(Jc)を有する必要がある。この条件を満たすには、超電導的に弱結合となる大傾角粒界を含まない単結晶状の123相である必要がある。さらに高いJc特性を有するためには、磁束の動きを止めるためのピンニングセンターが必要となる。このピンニングセンターとして機能するものが微細分散した211相であり、より細かく多数分散していることが望ましい。先に述べたように、Pt、RhやCeは、この211相の微細化を促進する働きがある。また、ピンニングサイトとして、BaCeO3、BaSiO3、BaGeO3、BaSnO3等の可能性が知られている。また、211相等の非超電導相は、劈開し易い123相中に微細分散することによって、超電導体を機械的に強化し、バルク材料として成り立たす重要な働きをも担っている。
123相中の211相の割合は、Jc特性及び機械強度の観点から、5〜35体積%が望ましい。また、材料中には、50〜500μm程度のボイド(気泡)を5〜20体積%含むことが一般的であり、さらにAg添加した場合、添加量によって1〜500μm程度のAg又はAg化合物を0体積%超25体積%以下含む。
また、結晶成長後の材料の酸素欠損量(x)は、0.5程度で半導体的な抵抗率の温度変化を示す。これを各RE系により350℃〜600℃で100時間程度、酸素雰囲気中においてアニールすることにより酸素が材料中に取り込まれ、酸素欠損量(x)は0.2以下となり、良好な超電導特性を示す。この時、超電導相中には双晶構造ができる。しかしながら、この点を含めここでは単結晶状と呼ぶことにする。
以下に、本発明の実施形態について、図に沿って説明する。
図1は、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット100の一例を示す概略分解斜視図である。本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット100は、図1に示すように、円板状の酸化物超電導バルク体110と、円板状の高強度補強部材120と、外周補強リング130とからなる。
本実施形態では、酸化物超電導バルク体110として、3つの超電導バルク体111、113、115が設けられており、高強度補強部材120として、2つの高強度補強部材121、123が設けられている。酸化物超電導バルク体110と高強度補強部材120とは、円板の中心軸線方向に、交互に積層される。
例えば図1に示すように、超電導バルク体111、113の間に高強度補強部材121が配置され、超電導バルク体113、115の間に高強度補強部材123が配置されている。積層された酸化物超電導バルク体110と高強度補強部材120とは結合または接着されていることが好ましい。こうして酸化物超電導バルク積層体(110+120)が形成される。また、その外周に中空の外周補強部材である外周補強リング130が設けられ、嵌合された状態となっている。外周補強リング130は高強度補強部材120と結合または接着されていることが好ましい。さらに外周補強リング130は酸化物超電導バルク体110と結合または接着されていてもよい。こうして酸化物超電導バルクマグネット100が形成される。
超電導バルク体113は、セラミックスであるため、圧縮力に対しては比較的耐力が強いが、引張力に対する耐力が弱い。このため、引張力に対する耐力が強い高強度補強部材120と結合又は接着させて複合構造化し、酸化物超電導バルク積層体(110+120)とすることで、圧縮力と引張力の両方に高耐力となる。そして、この積層体の更に外周に、外周補強リング130が配置されることで、より一層、高耐力となり、高い磁場強度条件下でも、電磁気的な応力およびクエンチによる超電導バルク体の破損を防止できるようになる。
中心軸線方向に積層された酸化物超電導バルク体110と高強度補強部材120とを結合または接着させるとき、例えば樹脂またはグリース等で行ってもよく、より望ましくは、より強固な結合力が得られる半田付けで行うのがよい。半田付けの場合、酸化物超電導バルク体110の表面にAg薄膜をスパッタ処理等により製膜し、さらに100℃〜500℃でアニール処理することが望ましい。これにより、Ag薄膜とバルク材料表面とがよくなじむ。半田自身にも熱伝導性を向上さる働きがあるため、半田付け処理は、バルクマグネット全体熱伝導性を向上させバルクマグネット全体の温度を均一化させる観点からも望ましい。
また、このとき、電磁気的な応力に対しての補強方法として、高強度補強部材120としては、半田付けが可能なアルミ合金、Ni基合金、ニクロム、ステンレス等の金属が望ましい。熱膨張率差による酸化物超電導バルク体と高強度補強部材との界面近傍での剥離・へき開割れ抑制の観点からは、さらには、高強度補強部材120として、線膨脹係数が酸化物超電導体と比較的近く、室温からの冷却の際に僅かに酸化物超電導バルク体110に圧縮応力を作用させるニクロムを用いることが望ましい。一方、クエンチによる破壊防止の観点からは、高強度補強部材120として、高熱伝導度および高電気伝導度を有する銅、銅合金、アルミニウム、アルミ合金、銀、銀合金等の金属が望ましい。なおこれらの金属は半田付けが可能である。さらには、無酸素銅、アルミニウム、銀が熱伝導度および電気伝導度の観点から望ましい。
このような高強度金属からなる高強度補強部材120による補強により、全体としての熱伝導率化により、バルクマグネットとしての熱的安定性が増し、クエンチが発生しにくくなり、より低温領域すなわち高臨界電流密度Jc領域での高磁場着磁が可能となる。銅、アルミニウム、銀等の金属は、電気伝導度も高いことから、磁束の移動に伴い局所的な温度上昇により超電導特性の劣化が発生した場合、超電導電流を迂回させる作用が期待でき、クエンチ抑制効果があると考えられる。また、このとき、クエンチ抑制効果を高めるためには、酸化物超電導バルクと高電気伝導の高強度材料との界面の接触抵抗が小さいことが望ましく、酸化物超電導バルクの表面に銀皮膜を形成した後、半田等で接合することが望ましい。
半田等で結合する際、気泡の巻き込み等を抑制し半田を均一に浸透させるため、細孔を有する高強度補強部材120を用いることは有効である。高強度補強部材120および外周補強リング130の加工は、一般的な金属の機械加工で加工される。バルクマグネットの実際上の設計では、高強度金属からなる高強度補強部材120を挿入する分、超電導材料の割合が減少するため、目的とする使用条件に合わせて、高強度補強部材120の割合を決めればよく、また、上記の観点から、強度が高い高強度金属と熱伝導率が高い高強度金属とを複数それぞれの割合を決め組み合わせて用いることが望ましい。
また、超電導バルク体110の常温引っ張り強度は60MPa程度であり、また、高強度補強部材120を超電導バルク体110に貼り付けるための半田の常温引っ張り強度は、通常80MPa未満である。このことから、常温引っ張り強度が80MPa以上の高強度補強部材120は、補強部材として有効である。そのため、高強度補強部材120の強度は、常温引っ張り強度が80MPa以上であることが好ましい。さらにまた、熱伝導度が高い高強度金属の熱伝導率としては、超電導材料内で発生した熱の伝達・吸収の観点から、20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。また、高強度補強部材120として、複数の円板が酸化物超電導バルク体110の間に配置されている場合、当該円板のうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
また、外周補強リング130についても、クエンチ抑制効果を高めるために、高い熱伝導率を有する材質から形成してもよい。この場合、外周補強リング130には、例えば、高い熱伝導率を有する銅、アルミニウム、銀等の金属を主成分として含む材質を用いることができる。高い熱伝導率を有する外周補強リング130の熱伝導率は、超電導材料内で発生した熱の伝達・吸収の観点から、冷凍機冷却等により安定して強磁場を発生できる20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。
また、外周補強リング130は、同心円状に複数のリングを配置して構成することも可能である。すなわち、対向するリングの周面同士を接するようにして全体として1つの外周補強リングを構成する。この場合、外周補強リングを構成するリングのうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
また、図1〜図3Dには3枚の酸化物超電導バルク体からなるバルクマグネットの例を示したが、本発明の要旨は、比較的強度が低い酸化物超電導バルク体と高強度の補強部材との複合材料化による高強度化であるため、より多く多層化することで複合化の効果がより発揮される。酸化物超電導体の厚さは、直径(外径)にも依存するが、10mm以下が望ましく、さらに望ましくは6mm以下であり、0.3mm以上である。0.3mm未満の場合、酸化物超電導体の結晶性の揺らぎによる超電導特性の劣化が起こる。
以上、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット100について説明した。本実施形態によれば、少なくとも積層された酸化物超電導バルク体110の間に、高強度補強部材120が配置される。特に引っ張り応力に対し、比較的低強度である酸化物超電導バルク体110と高強度補強部材120とを交互に積層させて複合材料化することで、その強度を高めることができる。さらに、高強度補強部材120および外周補強リング130として熱伝導率の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。これにより、高い磁場強度条件下でも、酸化物超電導バルク体110の破損を防止することができ、十分な総磁束量を得ることができる。
また、本実施形態に係る酸化物超電導バルク積層体は、図2〜図4に示すような構成であってもよい。
例えば、図2に示す酸化物超電導バルクマグネット100Aは、酸化物超電導バルクマグネット100Aの中心線軸方向の最上面及び最下面に高強度補強部材120が配置されている。すなわち、図1に示す構成の酸化物超電導バルク積層体の最上面及び最下面に、高強度補強部材125、127が設けられ、それぞれ対向する酸化物超電導バルク体111、115と結合または接着されている。
また、例えば図3Aに示す酸化物超電導バルクマグネット100Bのように、図2に示す構成の酸化物超電導バルク積層体において、最上面または最下面のうち少なくともいずれか一方の高強度補強部材125B、127Bの厚さを、他の高強度補強部材121、123の厚さに比べ厚くしてもよい。着磁過程においては酸化物超電導バルク積層体の上面および下面の表面に最大応力がかかる。このため、この部分を十分に補強する必要がある。そこで、図3Aに示すように、最上面または最下面のうち少なくともいずれか一方の高強度補強部材125B、127Bの厚さを他の高強度補強部材121、123よりも厚くすることで、酸化物超電導バルクマグネット100Bの端部の強度を高めることができる。
また、図3Bに示す酸化物超電導バルクマグネット100B−2のように、最上面および最下面の高強度補強部材125B−2、127B−2の外径を外周補強リング130の外径と概ね等くし、各高強度補強部材125B−2、127B−2を外周補強リング130の上面および下面と接合させてもよい。これにより、より強固に最上面および最下面の高強度補強部材125B−2、127B−2を外周補強リング130に接合することもできる。さらに、高強度補強部材120および外周補強リング125B−2、127B−2として熱伝導率の高い材料を用いることでクエンチの発生も抑制できる。
また、図3Cに示すように高強度補強部材320(321〜325)の外周端部が、高強度補強部材と結合する酸化物超電導バルク体310(311〜314)の外径よりも大きく、分割された複数の外周リング330(331〜334)と強固に結合しており、高強度補強部材が比較的薄い場合は特に有用である。
また、さらに図3Dに示すように外周補強リングが径方向に二重構造を有し、内側の外周補強リング330(331〜335)の内径が高強度補強部材の外径より小さく、高強度補強部材の外周端が外側の外周補強リング(340)と結合されている場合は、高強度補強部材の外周端は外周補強リングにより強固に接合されており、より大きな補強効果を発揮する。
さらに、本実施形態に係る酸化物超電導バルク積層体を構成する超電導バルク体110および高強度補強部材120の形状は、必ずしも円板状である必要はない。例えば図4に示す酸化物超電導バルクマグネット100Cのように、超電導バルク体110および高強度補強部材120の形状を矩形にしてもよい。このとき、外周補強部材130Cも、超電導バルク体110および高強度補強部材120の形状に対応して、矩形の貫通孔の形成された中空部材として形成される。
あるいは図5に示す酸化物超電導バルクマグネット100Dのように、超電導バルク体110および高強度補強部材120の形状を六角形にしてもよい。このとき、外周補強部材130Dも、超電導バルク体110および高強度補強部材120の形状に対応して、六角形の貫通孔の形成された中空部材として形成される。
次に、単結晶状の酸化物超電導材料をリング形状とした場合についての第1〜8の実施形態について、図面を参照して説明する。
<第1の実施形態>
まず、第1の実施形態について、図9A〜図9Eを用いて説明する。図9Aは、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット900の一例を示す概略分解斜視図である。図9Bは、図9Aに示す酸化物超電導バルクマグネット900の部分断面図である。図9C〜図9Eは、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット900の変形例であって、酸化物超電導バルクマグネット900の中心軸線に沿って切断したときの部分断面図を示す。
本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット900は、円板の中央部に貫通孔を有するリング形状の酸化物超電導バルク体910と、円板の中央部に貫通孔を有するリング形状の高強度補強部材920と、外周補強リング930とからなる。本実施形態では、酸化物超電導バルク体910として、3つの超電導バルク体912、914、916が設けられており、高強度補強部材920として、2つの高強度補強部材922、924が設けられている。酸化物超電導バルク体910と高強度補強部材920とは、リングの中心軸線方向に、交互に積層される。例えば図9Aに示すように、超電導バルク体912、914の間に高強度補強部材922が配置され、超電導バルク体914、916の間に高強度補強部材924が配置されている。積層された酸化物超電導バルク体910と高強度補強部材920とは結合または接着され、その外周に中空の金属製の外周補強リング930が嵌合される。こうして中央が貫通した、有孔の酸化物超電導バルク積層体が形成される。外周補強リング930は高強度補強部材920と結合または接着されていることが好ましい。さらに外周補強リング930は酸化物超電導バルク体910と結合または接着されていてもよい。こうして酸化物超電導バルクマグネット900が形成される。
リング形状の超電導バルク体910は、セラミックスであるため、圧縮力に対しては比較的耐力が強いが、引張力に対する耐力が弱い。このため、引張力に対する耐力が強い高強度補強部材920と結合又は接着させて複合構造化し、酸化物超電導バルク積層体(910+920)とすることで、圧縮力と引張力の両方に高耐力となる。そして、この積層体の更に外周に、外周補強リング930が配置されることで、より一層、高耐力となり、高い磁場強度条件下でも、電磁気的な応力およびクエンチによる超電導バルク体の破損を防止できるようになる。
中心軸線方向に積層された酸化物超電導バルク体910と高強度補強部材920との結合または接着は、例えば樹脂またはグリース等で行ってもよく、より望ましくは、より強固な結合力が得られる半田付けで行うのがよい。半田付けの場合、リング形状の酸化物超電導バルク体910の表面にAg薄膜をスパッタ処理等により製膜し、さらに100℃〜500℃でアニール処理することが望ましい。これにより、Ag薄膜とバルク材料表面とがよくなじむ。半田自身にも熱伝導性を向上さる働きがあるため、半田付け処理は、熱伝導性を向上させバルクマグネット全体の温度を均一化させる観点からも望ましい。
また、このとき、電磁気的な応力に対しての補強方法として、高強度補強部材920としては、半田付けが可能なアルミ合金、Ni基合金、ニクロム、ステンレス等の金属が望ましい。熱膨張率差による酸化物超電導バルク体と高強度補強部材との界面近傍での剥離・へき開割れ抑制の観点からは、さらには、線膨脹係数が酸化物超電導バルク体910と比較的近く、室温からの冷却の際に僅かに酸化物超電導バルク体910に圧縮応力を作用させるニクロムがさらに望ましい。一方、クエンチによる破壊防止の観点からは、高強度補強部材920として、高熱伝導度および高電気伝導度を有する銅、銅合金、アルミニウム、アルミ合金、銀、銀合金等の金属が望ましい。なおこれらの金属は半田付けが可能である。さらには、無酸素銅、アルミニウム、銀が熱伝導度および電気伝導度の観点から望ましい。また、半田等で結合する際、気泡の巻き込み等を抑制し半田を均一に浸透させるため、細孔を有する高強度補強部材920を用いることは有効である。
このような高強度金属からなる高強度補強部材920による補強により、全体としての熱伝導率化により、バルクマグネットとしての熱的安定性が増し、クエンチが発生しにくくなり、より低温領域すなわち高臨界電流密度Jc領域での高磁場着磁が可能となる。銅、アルミニウム、銀等の金属は、電気伝導度も高いことから、局所的に超電導特性を劣化させる揺籃が発生した場合、超電導電流を迂回させる作用が期待でき、クエンチ抑制効果があると考えられる。また、このとき、クエンチ抑制効果を高めるためには、酸化物超電導バルクと高電気伝導の高強度材料との界面の接触抵抗が小さいことが望ましく、酸化物超電導バルクの表面に銀皮膜を形成した後、半田等で接合することが望ましい。
バルクマグネットの実際上の設計では、高強度金属からなる高強度補強部材920を挿入する分、超電導材料の割合が減少するため、目的とする使用条件に合わせて、高強度補強部材920の割合を決定すればよい。また、上記の観点から、高強度補強部材920を、強度が高い高強度金属と熱伝導率が高い高強度金属とを複数それぞれの割合を決めて、組み合わせて構成することが望ましい。
また、超電導バルク体910の常温引っ張り強度は60MPa程度であり、また、高強度補強部材920を超電導バルク体910に貼り付けるための半田の常温引っ張り強度は、通常80MPa未満である。このことから、常温引っ張り強度が80MPa以上の高強度補強部材920は、補強部材として有効である。そのため、高強度補強部材920の強度は、常温引っ張り強度が80MPa以上であることが好ましい。さらに、熱伝導度が高い高強度金属の熱伝導率としては、超電導材料内で発生した熱の伝達、吸収の観点から、20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。また、高強度補強部材920として、複数のリング状の板が酸化物超電導バルク体910の間に配置されている場合、当該板のうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
また、外周補強リング930についても、クエンチ抑制効果を高めるために、高い熱伝導率を有する材質から形成してもよい。この場合、外周補強リング930には、例えば、高い熱伝導率を有する銅、アルミニウム、銀等の金属を主成分として含む材質を用いることができる。高い熱伝導率を有する外周補強リング930の熱伝導率は、超電導材料内で発生した熱の伝達・吸収の観点から、冷凍機冷却等により安定して強磁場を発生できる20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。
また、外周補強リング930は、同心円状に複数のリングを配置して構成することも可能である。すなわち、対向するリングの周面同士を接するようにして全体として1つの外周補強リングを構成する。この場合、外周補強リングを構成するリングのうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
高強度補強部材920および外周補強リング930の加工は、一般的な機械加工法で加工される。各リング形状の酸化物超電導バルク体910の内外周の中心軸は、発生磁場強度向上および均一度(または対称性)向上のため必要である。また、各リング形状の酸化物超電導バルク体910の外周の直径および内周の直径は、設計事項であり、必ずしも一致させる必要はない。例えば、NMRまたはMRI用のバルクマグネットの場合、中心付近に磁場均一度を高めるためのシムコイル等を配置する必要が生じる場合がある。その際には、中心付近の内径を大きくし、シムコイル等を配置し易くすることが望ましい。また、外周の直径に関しても、中心部の磁場強度を増したり、均一度を向上させるため、外周部の直径を変化させ目的とする磁場強度や均一度を調整することは、有効である。
外周補強リング930の形状(外周および内周)は、リング形状の酸化物超電導バルク体910の外周面が外周補強リング930の内周面に密着していればよい。例えば、図9Bに示すように、酸化物超電導バルク体910の外径がすべて同一であれば、外周補強リング130の内径も同一となる。あるいは、図9C、図9D、図9Eに示すように、超電導バルク体912の外径が他の超電導バルク体914、916の外径より大きい場合もある。このとき、外周補強リング931、932、933は、内周面が各超電導バルク体912、914、916の外周面に接するように段差が設けられる。
外周補強リング930の外周面の形状については、特に限定されず、例えば図9Cに示すように、中心軸線方向の各位置で同一の外径となるようにしてもよい。また、図9Dに示すように、径方向の厚みが同一となるように、外周面に段差を有する外周補強リング931としてもよい。あるいは、図9Eに示すように、径方向の厚みが略同一となるように、外周面がテーパ形状の外周補強リング932としてもよい。
また、高強度補強部材920の外径は、図9Bに示すように、リング形状の超電導バルク体910の外径に必ずしも一致させる必要はない。例えば、図9C〜図9Eに示すように、超電導バルク体912と高強度補強部材920との外径が相違していてもよい。さらに、複数の外周補強リング930を積層する場合などは、ネジ穴を有する各外周補強リング930にネジを挿入し中心軸を合わせることは有効である。
また、図9A〜9Eには3枚の酸化物超電導バルク体からなるバルクマグネットの例を示したが、本発明の要旨は、比較的強度が低い酸化物超電導バルク体と高強度の補強部材との複合材料化による高強度化であるため、より多く多層化することで複合化の効果がより発揮される。酸化物超電導体の厚さは、直径(外径)にも依存するが、10mm以下が望ましく、さらに望ましくは6mm以下であり、0.3mm以上である。0.3mm未満の場合、酸化物超電導体の結晶性の揺らぎによる超電導特性の劣化が起こる。(層数は、3枚以上が望ましく、さらに望ましくは、5枚以上である。)
以上、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット900について説明した。本実施形態によれば、少なくとも積層されたリング形状の酸化物超電導バルク体910の間に、リング状の高強度補強部材920が配置される。特に引っ張り応力に対し、比較的低強度である酸化物超電導バルク体910と高強度補強部材920とを交互に積層させて複合材料化することで、その強度を高めることができる。さらに、高強度補強部材920および外周補強リング930として熱伝導率の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。これにより、高い磁場強度条件下でも、酸化物超電導バルク体910の破損を防止することができ、リング内部において十分な総磁束量を得ることができ、さらに、磁場の均一性が高い酸化物超電導バルクマグネット900を提供することができる。
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について、図10A〜図10Cを用いて説明する。図10Aは、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1000の一例を示す概略分解斜視図である。図10Bは、図10Aに示す酸化物超電導バルクマグネット1000の部分断面図である。図10Cは、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1000の変形例であって、酸化物超電導バルクマグネット1000の中心軸線に沿って切断したときの部分断面図を示す。
本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1000は、第1の実施形態と比較して、中心軸線方向の端部に、高強度補強部材1020が設けられる点で相違する。図10Aに示すように、酸化物超電導バルクマグネット1000は、リング形状の酸化物超電導バルク体1010と、リング形状の高強度補強部材1020と、外周補強リング1030とからなる。本実施形態では、酸化物超電導バルク体1010として、3つの超電導バルク体1012、1014、1016が設けられており、高強度補強部材1020として、4つの高強度補強部材1021、1023、1025、1027が設けられている。酸化物超電導バルク体1010と高強度補強部材1020とは、リングの中心軸線方向に、交互に積層される。例えば図10Aに示すように、超電導バルク体1012、1014の間に高強度補強部材1023が配置され、超電導バルク体1014、1016の間に高強度補強部材1025が配置されている。
また、超電導バルク体1012には、高強度補強部材1023が配置された側と反対側の面に高強度補強部材1021が設けられる。同様に、超電導バルク体1016には、高強度補強部材1025が配置された側と反対側の面に高強度補強部材1027が設けられる。このとき、最上面の高強度補強部材1021および最下面の高強度補強部材1027と、外周補強リング1030との位置関係は、図10Bに示すように、高強度補強部材1021、1027が外周補強リング1030内に収まるようにしてもよい。あるいは、図10Cに示すように、高強度補強部材1021、1027の外径を外周補強リング1030の外形と略同一として、外周補強リング1030の端面を高強度補強部材1021、1027で覆うようにしてもよい。
積層された酸化物超電導バルク体1010と高強度補強部材1020とは結合または接着され、その外周に中空の金属製の外周補強リング1030が嵌合される。こうして中央が貫通した、有孔の酸化物超電導バルク積層体が形成される。なお、中心軸線方向に積層された酸化物超電導バルク体1010と高強度補強部材1020との結合または接着は、第1の実施形態と同様に行ってもよい。
図10A〜図10Eでは、酸化物超電導バルクマグネット1000の中心軸線方向の両端部に、高強度補強部材1021、1027を設ける例を示したが、必ずしも最上面および最下面の両方に高強度補強部材1021、1027を配置する必要はない。例えば図10Aの最上面にのみ高強度補強部材1021を配置した「有孔の酸化物超電導バルク積層体」の下に、図10Aの最下面にのみ高強度補強部材1027を配置した「有孔の酸化物超電導バルク積層体」を配置することによって、全体として最上面および最下面の両方に高強度補強部材1021、1027を配置した「有孔の酸化物超電導バルク積層体」を構成してもよい。
以上、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1000について説明した。本実施形態によれば、積層されたリング形状の酸化物超電導バルク体1010の間および中心軸線方向の端部に、リング状の高強度補強部材1020が配置される。このような酸化物超電導バルク体1010と高強度補強部材1020とを交互に積層させて複合材料化することで、その強度を高めることができる。さらに、高強度補強部材1020および外周補強リング1030として熱伝導度の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。これにより、高い磁場強度条件下でも、酸化物超電導バルク体1010の破損を防止することができ、リング内部において十分な総磁束量を得ることができ、さらに、磁場の均一性が高い酸化物超電導バルクマグネット1000を提供することができる。また、図10Dに外周補強リングが分割されている場合を示す。
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態について、図11を用いて説明する。図11は、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1100の一例を示す概略分解斜視図である。酸化物超電導バルクマグネット1100は、リング形状の酸化物超電導バルク体1110と、リング形状の高強度補強部材1120と、外周補強リング1130とからなる。本実施形態では、酸化物超電導バルク体1110として、3つの超電導バルク体1112、1114、1116が設けられており、高強度補強部材1120として、4つの高強度補強部材1121、1123、1125、1127が設けられている。
酸化物超電導バルク体1110と高強度補強部材1120とは、リングの中心軸線方向に、交互に積層される。例えば図11に示すように、超電導バルク体1112、1114の間に高強度補強部材1123が配置され、超電導バルク体1114、1116の間に高強度補強部材1125が配置されている。また、超電導バルク体1112には、高強度補強部材1123が配置された側と反対側の面に高強度補強部材1121が設けられる。同様に、超電導バルク体1116には、高強度補強部材1125が配置された側と反対側の面に高強度補強部材1127が設けられる。なお、中心軸線方向に積層された酸化物超電導バルク体1110と高強度補強部材1120との結合または接着は、第1の実施形態と同様に行ってもよい。
本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1100は、第2の実施形態と比較して、最上面または最下面の高強度補強部材1121、1127のうち少なくともいずれか一方の厚みが、他の高強度補強部材1123、1125の厚さに比べ厚くなっている。これは、着磁過程において酸化物超電導バルクマグネット1100の上面および下面の表面に最大応力がかかるためであり、この部分を十分に補強する必要がある。特に、図11に示す「有孔の酸化物超電導バルク積層体」を単体として使用する場合は、その必要性が高くなる。そこで、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1100のように、酸化物超電導バルクマグネット1100の最上面または最下面の高強度補強部材1121、1127の厚みを大きくすることで、最大応力に耐え得る十分な強度を確保することができる。
なお、第2の実施形態と同様、例えば図11の最上面にのみ高強度補強部材1121を配置した「有孔の酸化物超電導バルク積層体」の下に、図11の最下面にのみ高強度補強部材1127を配置した「有孔の酸化物超電導バルク積層体」を配置することによって、全体として最上面および最下面の両方に高強度補強部材1121、1127を配置した「有孔の酸化物超電導バルク積層体」を構成してもよい。
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態について、図12を用いて説明する。図12は、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1200の一例を示す概略分解斜視図である。酸化物超電導バルクマグネット1200は、リング形状の酸化物超電導バルク体1210と、リング形状の高強度補強部材1220と、外周補強リング1230とからなる。本実施形態では、酸化物超電導バルク体1210として、4つの超電導バルク体1212、1214、1216、1218が設けられており、高強度補強部材1220として、5つの高強度補強部材1221、1223、1225、1227、1229が設けられている。
本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1200は、第1〜第3の実施形態と比較して、高強度補強部材1220の内径が酸化物超電導バルク体1210の内径より小さくなっている。リング形状の酸化物超電導バルク体1210の内周面は、着磁過程において応力が集中する部分である。酸化物超電導バルクマグネット1200に割れが発生する場合、この部分から発生することが多い。高強度補強部材1220の内径を小さくすることにより、酸化物超電導バルク体1210の内周面からの亀裂の発生を抑制する効果を高めることができる。また、高強度補強部材1220の内径は、その上下の各リング形状の酸化物超電導バルク体1210の内径が異なる場合は、より小さい方の内径より小さくする必要がある。亀裂の起点となる部分を補強することによって亀裂に対する補強効果を高めることができる。リング形状の酸化物超電導バルク体1210の亀裂の起点は内周面にあり、特に上面あるいは下面と内周面との交点線部分を補強することが望ましい。したがって、高強度補強部材1220の内径を、内径が小さい方の酸化物超電導バルク体1210より小さくすることで、内径が小さい酸化物超電導バルク体1210を補強することができる。さらに、高強度補強部材1220および外周補強リング1230として熱伝導度の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。
<第5の実施形態>
次に、第5の実施形態について、図13A〜図13Eを用いて説明する。図13Aは、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1300の一例を示す概略分解斜視図である。図13B〜図13Eは、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1300の変形例であって、酸化物超電導バルクマグネット1300の中心軸線に沿って切断したときの部分断面図を示す。
酸化物超電導バルクマグネット1300は、リング形状の酸化物超電導バルク体1310と、リング形状の高強度補強部材1320と、外周補強リング1330と、内周補強リング1340とからなる。図13Aに示す例では、酸化物超電導バルク体1310として、2つの超電導バルク体1312、1314が設けられており、高強度補強部材1320として、3つの高強度補強部材1321、1323、1325が設けられている。また、内周補強リング1340として、2つの内周補強リング1342、1344が設けられている。
本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1300は、第1〜第4の実施形態と比較して、酸化物超電導バルク体1310の内周面を補強するための内周補強リング1340が、酸化物超電導バルク体1310の内周面に結合または接着されている点で相違する。内周補強リング1340は、高強度補強部材1320とも結合または接着しているため、線膨脹係数が酸化物超電導バルク体1310より大きな素材である場合にも、酸化物超電導バルク体1310および高強度補強部材1320の内周面と強固に結合することができる。したがって、これらの内周面を補強することができ、割れを抑制する効果を有する。
さらに、高強度補強部材1320、内周補強リング1340および外周補強リング1330として熱伝導度の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。このとき、高強度補強部材1320および外周補強リング1330は、上記第1の実施形態と同様に構成することができる。また、内周補強リング1340についても、クエンチ抑制効果を高めるために、例えば、高い熱伝導率を有する銅、アルミニウム、銀等の金属を主成分として含む材質を用いることができる。高い熱伝導率を有する内周補強リング1340の熱伝導率は、超電導材料内で発生した熱の伝達・吸収の観点から、冷凍機冷却等により安定して強磁場を発生できる20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。また、内周補強リング1340は、同心円状に複数のリングを配置して構成することも可能である。すなわち、対向するリングの周面同士を接するようにして全体として1つの内周補強リングを構成する。この場合、内周補強リングを構成するリングのうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
また、このとき、リング形状の酸化物超電導バルク体1310の内周面と内周補強リング1340の外周面とを密着させることが望ましい。また、内周補強リング1340と高強度補強部材1320との基本的な位置関係としては、例えば図13Bに示すように、酸化物超電導バルク体1310および高強度補強部材1320の内径を同一にして、1つの内周補強リング1341を設けてもよい。
あるいは、図13Cに示すように、高強度補強部材1320の内径を酸化物超電導バルク体1310の内径よりも僅かに小さくし、各酸化物超電導バルク体1312、1314、1316の内周面にそれぞれ内周補強リング1341、1343、1345を設け、各高強度補強部材1321、1323、1325、1327の内径と内周補強リング1341、1343、1345の内径とを同一とするようにしてもよい。内周補強リング1340の肉厚が高強度補強部材1320の肉厚に対して大きい場合には、強度の観点から図13Cが望ましい。これにより、内周補強リング1340と高強度補強部材1320との接触面積を大きくすることができ、内周補強リング1340と高強度補強部材1320との接続部分の強度を高めることができる。また、リング形状の酸化物超電導バルク体1310の内周径が異なる場合には、作業性の観点から、図13Dに示すように内周補強リング1340が内周補強リング1341、1343、1345のように分割されている方が望ましい。図13Eに外周補強リングが分割されている場合を示す。
<第6の実施形態>
次に、第6の実施形態について、図14A〜図14Cを用いて説明する。図14A〜Cは、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1400の例を示す中心軸線に沿って切断したときの部分断面図である。
酸化物超電導バルクマグネット1400は、リング形状の酸化物超電導バルク体1410と、リング形状の高強度補強部材1420と、外側の外周補強リング1430と内側の外周補強リング1440、内側の内周補強リング1450と外側の内周補強リング1460からなる。図14Aに示す例では、酸化物超電導バルク体1410として、5つの超電導バルク体1411〜1415が設けられており、高強度補強部材1420として、6つの高強度補強部材1421〜1426が設けられている。
図14Aに示す例では内側の5つの外周補強リング1440(1441〜1445)、外側の5つの内周補強リング1460(1461〜1465)からなる。酸化物超電導バルク体1410として、5つの超電導バルク体1411〜1415が設けられており、高強度補強部材1420として、6つの高強度補強部材1421〜1426が設けられている。
本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1400は、第1〜第5の実施形態と比較して、高強度補強部材1420の外周端部が内側の外周補強リング1440と外側の外周補強リング1430とで結合されている点で異なり、さらに、高強度補強部材1420の内周端部が内側の内周補強リング1450と外側の内周補強リング1460とで結合されている点で相違する。
各外周および内周補強リングは、金属を使用できるため、金属の高強度補強部材と半田等により強固に接続することが可能であり、二重の内周および外周リングにより側面および上下面のニ方向から強固に結合することができる。この効果により酸化物超電導バルク体1410は、周囲の補強部材と強固に結合することができ、割れを抑制する顕著な効果を有する。
さらに、高強度補強部材1420、二重の内周補強リング(1450、1460)および二重の外周補強リング(1430、1440)として熱伝導度の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。このとき、高強度補強部材1420および外周補強リング(1430、1440)は、上記第1の実施形態と同様に構成することができる。また、内周補強リング(1450、1460)についても、クエンチ抑制効果を高めるために、例えば、高い熱伝導率を有する銅、アルミニウム、銀等の金属を主成分として含む材質を用いることができる。高い熱伝導率を有する内周補強リング(1450、1460)の熱伝導率は、超電導材料内で発生した熱の伝達・吸収の観点から、冷凍機冷却等により安定して強磁場を発生できる20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。また、内周補強リング(1450、1460)は、同心円状に複数のリングを配置して構成することも可能である。すなわち、対向するリングの周面同士を接するようにして全体として1つの内周補強リングを構成する。この場合、内周補強リングを構成するリングのうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
図14Bに外周のみ二重リング構造による高強度補強板の外周端部の側面および上下面からの結合した場合の一例を示す。設計上、内径を確保する必要がある場合等、内周補強高強度補強板の内周端部は内周リングによる上下面からの結合のみの場合も考えられる。
図14Cに内周のみ二重リング構造による高強度補強板の外周端部の側面および上下面からの結合した場合の一例を示す。設計上、外径の制約をある場合等、補強高強度補強板の外周端部は外周リングによる上下面からの結合のみの場合も考えられる。
<第7の実施形態>
次に、第7の実施形態について、図15を用いて説明する。図15は、超電導バルク体1510の結晶学的方位の揺らぎを示す説明図である。
酸化物超電導バルク体1510は単結晶材料であることから、結晶方位の異方性が捕捉磁束密度分布の乱れ(軸対称性からのズレ)として現れる。この結晶方位の異方性を平均化するために、酸化物超電導バルク体1510の結晶方位をずらしながら酸化物超電導バルク体1510を積層してもよい。
複数のリング形状の酸化物超電導バルク体1510を積層する際、相対的な結晶軸に関し、c軸方向が各リングの内周軸と略一致するように配置すると同時にa軸の方位をずらすことが望ましい。単結晶状のRE1Ba2Cu3Oy中にRE2BaCuO5が微細分散されたリング形状の酸化物超電導バルク体1510は、一般に単結晶状のRE1Ba2Cu3Oyの結晶方位に揺らぎを有している。c軸方向の揺らぎの大きさは、±15°程度あり、ここでいうc軸方向が各リングの内周軸と略一致するとは、単結方位のずれが±15°程度あることを意味する。a軸をずらす角度は積層枚数にもよるが、180°、90°等、4回対称にならない角度が望ましい。
このように、酸化物超電導バルク体1510の結晶方位をずらしながら酸化物超電導バルク体1510を積層することで、結晶方位の異方性を平均化することができる。
<第8の実施形態>
次に、第8の実施形態について、図16A〜図16Dを用いて説明する。図16Aは、本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1600の一例を示す概略分解斜視図である。図16B〜図16Dは、本実施形態に係る酸化物超電導バルク体1610の構成例であって、酸化物超電導バルク体1610の平面図を示す。
本実施形態に係る酸化物超電導バルクマグネット1600は、第1〜第6の実施形態と比較して、酸化物超電導バルク体1610が径方向に多重リング構造を有する点で相違する。多重リング構造とは、径方向に単一のリングではなく、複数のリングが同心円状に配置された構造をいう。例えば図16Bに示すように、酸化物超電導バルク体1610は、内径および外径の異なる、径方向の幅が略同一であるリング1610a〜1610eを、径方向に所定の隙間1613を設けて同心円状に配置した五重リング構造としてもよい。
また、例えば図16Cに示すように、酸化物超電導バルク体1610は、内径および外径の異なるリング1610a〜1610cを、径方向に所定の隙間1613を設けて同心円状に配置した四重リング構造としてもよい。このとき、リング1610cの径方向の幅が、他のリング1610a、1610bの径方向の幅よりも大きくともよい。各リングの幅は設計事項である。
このような多重リング構造のリング形状の酸化物超電導バルク体1610を積層することによって、酸化物超電導バルク体1610は、4回対称性を伴う結晶成長により超電導電流分布にも4回対称性が僅かに反映される傾向があるが、同心円の多重リング形状とすることで、着磁によって誘起される超電導電流の流路を軸対称に近づけるという作用が生ずる。この効果により、捕捉した磁場の均一性が向上する。このような特性を有する酸化物超電導バルクマグネット1600は、特に高い磁場均一度が求められるNMRやMRI応用に適している。
また、酸化物超電導バルク体1610は、例えば図16Dに示すように、1つのリングに、同心円の円弧形状の隙間1613を形成し、同一円周上にある隙間1613の周方向に複数の継ぎ目1615を設けるようにしてもよい。これにより、酸化物超電導バルクマグネット1600の組み立て作業を簡便にすることができる。
(実施例1)
図6Aに、実施例1の酸化物超伝導バルクマグネットを示す。実施例1の酸化物超電導バルクマグネット600では、Gd−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体を用いた。まず、市販されている純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Gd:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、それに白金を0.5質量%及び銀を10質量%加えた。この秤量粉を1時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1278K〜1252Kの温度領域を180時間かけて徐冷し結晶成長させ、直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を得た。この単結晶状の酸化物超電導バルク体を外径65.0mm、高さ8.0mmに加工した。この時、加工によりできた端材を鏡面研磨し微細組織を光学顕微鏡で確認したところ、1μm程度の211相が分散していた。
さらに、スパッタリングより超電導バルク体の表面に銀を約2μmのコーティングをした。これを酸素気流中において703Kで100時間熱処理した。同様に処理を行い、超電導バルク体610(611〜615)を5個作製した。
また、厚さ1.0mmのニクロムの板を外径65.0mmに加工し、同様に4枚の高強度補強部材620(621〜624)を作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リング630にはSUS316L製の外径73.0mm、内径65.05mm、高さ44.5mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング630中に、超電導バルク体610とニクロム(高強度補強部材620)とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、酸化物超電導バルクマグネット600を作製した。図6Aに得られた有孔の酸化物超電導バルクマグネットの積層状態を示す。また、図6Cに図6Aの断面図を示す。
得られた酸化物超電導バルクマグネット600を室温で9Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い45Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、酸化物超電導バルクマグネット600の軸上表面で7.92Tの捕捉磁束密度を確認し、この着磁によって超電導バルク体610が割れることなく着磁できることが確かめられた。
図6Bに、比較材として作製した酸化物超伝導バルクマグネットを示す。比較材として、上記と同様に作製した単結晶状の酸化物超電導バルク体から、外径65.0mm、高さ22.2mmの超電導バルク体651(651a、651b)を2個、上記と同様に作製した。これらを上記と同様に作製したSUS316L製の外径73.0mm、内径65.05mm、高さ44.5mmの外周補強リング653中に配置し同様に半田により結合することで比較材の酸化物超電導バルクマグネット650を作製した。すなわち、比較材には高強度補強部材が設けられていない。図6Bに得られた比較材の状態を示す。また、図6Dに図6Bの断面図を示す。
比較材を上記と同様に室温で9Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い45Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この着磁過程において4.9Tまで減磁した段階で、酸化物超電導バルクマグネット650の軸上中心部で磁束密度の急激な低下が確認された。ゼロ磁場に減磁した時の軸上表面部での捕捉磁束密度は2.65Tであった。着磁実験の後、室温で超電導バルク体651を調べたところ、超電導バルク体651に割れが確認された。
これらの実験により酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、上下の酸化物超電導バルク体と結合または接着することによって、超電導バルク体に割れが発生することなく高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルク積層体が得られることが明らかになった。
表1に、上記実施例1についての着磁試験結果を示す。着磁試験に際して、表1に記載の各試験の本発明または比較例として用いる酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを作製した。酸化物超電導バルク体については、上記実施例1と同様に作製した直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を用いて、表1の各試験の製造条件に基づき、厚さの異なる外径65.0mmの円柱形状に加工し、円柱状の酸化物超電導バルク体を作製した。また、各高強度部材に関しても、表1に記載の材質および厚さの板から外径65.0mmの円盤状の板に加工した。さらに、外周補強リングに関しても、表1に記載の材質およびサイズのリングに加工した。
これらの円柱状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを結合し、各試験で用いる酸化物超電導バルクマグネットを作製した。本発明および比較例のバルクマグネットの組み立てには半田を用いた。半田による組み立ての場合、上記実施例1と同様に、それぞれの部材をホットプレート上で半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング中に、超電導バルク体と各高強度補強部材とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、超電導バルクマグネットを作製した。
また、外周補強リングの材質として、表1中の試験No.1−5の「内周:無酸素銅、外周:SUS316Lの接合材」は、外径87.6mm、内径76.35mm、高さ53.6mmのSUS316Lリング中に、外径76.3mm、内径65.05mm、高さ53.6mmの無酸素銅リングをSn−Zn系半田で接合した接合材を意味する。また、高強度補強部材の材質として、表1中の試験No.1−6の「ニクロムの無酸素銅クラッド材」は、厚さ0.5mmのニクロム板の両面を厚さ0.5mmの無酸素銅板でSn−Zn系の半田で半田付けし積層化した材料を意味する。
性能評価のための着磁試験に関しては、表1に示す各着磁条件で行った。着磁試験の結果は、表1に示すように、高強度補強部材を交互に積層した超電導バルクマグネットは割れが発生していないのに対し、高強度補強部材を交互に積層していない比較材では割れが発生する結果となった。このことから、高強度補強部材による補強が有効に機能し、強い磁場を発生できることが明らかになった。
(実施例2)
図7Aに、実施例2の酸化物超伝導バルクマグネットを示す。実施例2の酸化物超電導バルクマグネット700では、Gd−Dy−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体を用いた。まず、市販されている純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Gd:Dy:Ba:Cu=4.5:0.5:7:10のモル比で秤量し、それにBaCeO3を1.0質量%及び銀を10質量%加えた。この秤量粉を1時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1275K〜1248Kの温度領域を180時間かけて徐冷し結晶成長させ、直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を得た。このようにして得られた単結晶状の酸化物超電導バルク体を加工して、外径65.0mmであって、高さ4.0mmの円板状の超電導バルク体710(711、715)を2個、高さ6.0mmの円板状の超電導バルク体710(712、714)を2個および高さ10.0mmの円板状の超電導バルク体710(713)を1個得た。さらに、スパッタリングより超電導体の表面に銀を約2.5μmのコーティングをした。これを酸素気流中において703Kで100時間熱処理することで、酸化物超電導バルク体710(合計5個)を作製した。
また、厚さ1.5mmのニクロムの板から外径65.0mmの円板状の高強度補強部材720(725、726)を2枚、厚さ1.0mmのニクロムの板から外径65.0mmの円板状の高強度補強部材720(721、724)を2枚、厚さ0.5mmのニクロムの板から外径65.0mmの円板状の高強度補強部材720(722、723)を2枚作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リング730にはSUS316L製の外径73.0mm、内径65.05mm、高さ36.5mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング730中に、ニクロム(高強度補強部材720)と超電導バルク体710とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、酸化物超電導バルクマグネット700を作製した。なお、超電導バルク体710については、酸化物超電導バルクマグネット700の中心軸線方向の中央に配置されるものほど肉厚の部材が配置されるようにし、高強度補強部材720については、中心軸線方向の中央に配置されるものほど薄肉の部材が配置されるようにした。この酸化物超電導バルクマグネット700の積層状態を図7Aに示す。また、図7Cに図7Aの断面図を示す。
得られた酸化物超電導バルクマグネットを室温で9.5Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、酸化物超電導バルクマグネット700の軸上表面で8.85Tの捕捉磁束密度を確認し、この着磁によって超電導バルク体710が割れることなく着磁できることが確かめられた。
図7Bに、比較材として作製した酸化物超伝導バルクマグネットを示す。比較材として、上記と同様に作製した単結晶状の酸化物超電導バルク体から、外径65.0mm、高さ18.0mmの超電導バルク体751を2個、上記と同様に作製した。これらを上記と同様に作製したSUS316L製の外径73.0mm、内径65.05mm、高さ36.5mmの外周補強リング753中に配置し同様に半田により結合することで比較材の酸化物超電導バルクマグネット750を作製した。すなわち、比較材には高強度補強部材が設けられていない。図7Bに得られた比較材の状態を示す。また、図7Dに図7Bの断面図を示す。
これを同様に室温で9.5Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この着磁過程において5.6Tまで減磁した段階で、酸化物超電導バルクマグネット750の軸上中心部で磁束密度の急激な低下が確認された。ゼロ磁場に減磁した時の軸上表面部での捕捉磁束密度は2.65Tであった。着磁実験の後、室温で超電導バルク体751を調べたところ、超電導バルク体751に割れが確認された。
これらの実験により、酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、上下の酸化物超電導バルク体と結合または接着することによって、超電導バルク体に割れが発生することなく高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルク積層体が得られることが明らかになった。
表2に、上記実施例2についての着磁試験結果を示す。着磁試験に際して、表2に記載の各試験の本発明または比較例として用いる酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを作製した。酸化物超電導バルク体については、上記実施例2と同様に作製した直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を用いて、表2に記載した種々の厚さの異なる外径65.0mmの円柱形状に加工し、酸化物超電導バルク体を作製した。また、各高強度補強部材に関しても、表2に記載の材質および厚さの板から、外径65.0mmの円板状の板に加工した。さらに、外周補強リングに関しても、表2に記載の材質およびサイズのリングに加工した。
これらの円柱状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを結合し、各試験で用いる酸化物超電導バルクマグネットを作製した。本発明および比較例のバルクマグネットの組み立てには半田を用いた。半田による組み立ての場合、上記実施例2と同様に、それぞれの部材をホットプレート上で半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング中に、超電導バルク体と各高強度補強部材とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させて、超電導バルクマグネットを作製した。また、最上面および最下面の高強度補強材を外周補強リングの上面および下面に貼り付けた超電導バルクマグネットも作製した。
なお、表2中の試験No.2−2、No.2−3、No.2−4、No.2−6の最上面および最下面の高強度補強材については、強固に最上面および最下面の高強度補強材と外周補強リングとを接合させるため、その外径を外周補強リングの外径に等くし、外周補強リングの上面および下面と接合させた。図7Eおよび図7Fに、試験No.2−2に対応する酸化物超電導バルクマグネットの構成を示す。
また、高強度補強部材の材質として、表2中の試験No.2−5の「ニクロムの無酸素銅クラッド材」は、厚さ0.5mmのニクロム板の両面を厚さ0.5mmの無酸素銅板でSn−Zn系の半田で半田付けし積層化した材料を意味する。外周補強リングの材質については、表2中の試験No.2−6の「内周:無酸素銅、外周:SUS316Lの接合材」は、外径87.6mm、内径76.35mm、高さ53.6mmのSUS316Lリング中に外径76.3mm、内径65.05mm、高さ53.6mmの無酸素銅リングをSn−Zn系半田で接合した接合材を意味する。
性能評価のための着磁試験に関しては、表2に示す各着磁条件で行った。着磁試験の結果は、表2に示すように、本発明のように高強度補強部材を交互に積層し、かつ、上面および下面に高強度部材を接合した超電導バルクマグネットでは割れは発生しなかった。これに対し、高強度補強部材を交互に積層していない比較材では割れが発生する結果となった。このことから、高強度補強部材による補強が有効に機能し、強い磁場を発生できることが明らかになった。
(実施例3)
図8Aに、実施例3の酸化物超伝導バルクマグネットを示す。実施例3の酸化物超電導バルクマグネット800では、Eu−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体を用いた。まず市販されている純度99.9質量%のユーロビウム(Eu)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Eu:Ba:Cu=9:12:17のモル比で秤量し、それにBaCeO3を1.0質量%及び銀を16質量%加えた。この秤量粉を1時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1288K〜1258Kの温度領域を200時間かけて徐冷し結晶成長させ、直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を得た。この単結晶状の酸化物超電導バルク体を一辺が50.0mm、高さ1.8mmの四角形状に加工した。さらに、スパッタリングより超電導バルク体の表面に銀を約1.5μmコーティングした。これを酸素気流中において713Kで100時間熱処理した。同様に処理を行い、超電導バルク体810を20枚作製した。
また、厚さ1.0mmのニクロムの板から一辺50.0mmの四角形状の高強度補強部材820(820a、820b)を2枚、厚さ0.3mmのニクロムの板から一辺が50.0mmの四角形状の高強度補強部材820を19枚作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リング830にはアルミ合金製の外周の一辺70.0mm、内周は一辺が50.05mm、高さ44.2mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した矩形の外周補強リング830中に、ニクロム(高強度補強部材820)と超電導バルク体810とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させた。このとき、酸化物超電導バルクマグネット800の最上面および最下面には1.0mm厚のニクロムの高強度補強部材820a、820bを配置した。この酸化物超電導バルクマグネット800の積層状態を図8Aに示す。
得られた酸化物超電導バルクマグネット800を室温で9.5Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い45Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、酸化物超電導バルクマグネット800の軸上表面で7.34Tの捕捉磁束密度を確認し、この着磁によって超電導バルク体810が割れることなく着磁できることが確かめられた。
図8Bに、比較材として作製した酸化物超伝導バルクマグネットを示す。比較材として、上記と同様に作製した単結晶状の酸化物超電導バルク体から一辺50.0mm、高さ1.8mmの矩形の超電導バルク体851を24枚、上記と同様に作製した。これらを同様に作製したアルミ合金製の外周の一辺70.0mm、内周は一辺が50.05mm、高さ44.2mmの外周補強リング853を用い半田により結合することで比較材の酸化物超電導バルクマグネット850を作製した。
比較材を上記と同様に室温で9.5Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い45Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この着磁過程において5.1Tまで減磁した段階で、酸化物超電導バルクマグネット850の軸上表面で磁束密度の急激な低下が確認された。ゼロ磁場に減磁した時の軸上表面での捕捉磁束密度は2.41Tであった。着磁実験の後、室温で超電導バルク体851を調べたところ、超電導バルク体851に割れが確認された。
これらの実験により矩形の酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、上下の酸化物超電導バルク体と結合または接着することによって、超電導バルク体に割れが発生することなく高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルク積層体が得られることが明らかになった。
(実施例4)
実施例1で作製した直径70mmの単結晶状の白金添加のGd系酸化物超電導バルク体を加工して、外径65.0mm、高さ4.0mmの円板状の超電導バルク体を6個作製した。さらに、スパッタリングより超電導体の表面に銀を約2.5μmのコーティングをした。これを酸素気流中において703Kで100時間熱処理することで、酸化物超電導バルク体6個を作製した。
また、厚さ1.0mmのニクロムの板から外径69.0mmの円板状の高強度補強部材を2枚、厚さ0.3mmのニクロムの板から外径69.0mmの円板状の高強度補強部材を5枚作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。内側の外周補強リングにはSUS314製の外径69.0mm、内径65.05mm、高さ4.0mmのリングを用い、その表面にも薄く半田を付けた。また、外側の外周補強リングにはSUS316L製の外径79.0mm、内径69.05mm、高さ28.5mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外側の外周補強リング(7300)中に、ニクロム製の高強度補強部材、内側の外周補強リングと超電導バルク体とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、酸化物超電導バルクマグネット(本発明(1))を作製した。この酸化物超電導バルクマグネットの断面図を図7Gに示す。積層された酸化物超電導バルク体710(711〜716)と高強度補強部材720(721〜727)の外周に分割された内側の外周補強リング7310(7311〜7316)、その外側に外側の外周リング7300が備えられている。
また、同様に、外径65.0mm、高さ4.0mmの円板状の超電導バルク体を6個作製した。厚さ0.6mmのニクロムの板から外径69.0mmの円板状の高強度補強部材を7枚作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リングにはSUS316L製の外径79.0mm、内径65.05mm、高さ28.5mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング中に、ニクロム製の高強度補強部材と超電導バルク体とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、酸化物超電導バルクマグネット(本発明(2))を作製した。この酸化物超電導バルクマグネットの断面図を図7Hに示す。積層された酸化物超電導バルク体710(711〜716)と高強度補強部材720(721〜727)の外周に外周補強リング730が備えられている。
次に比較材として、上記と同様に作製した単結晶状の酸化物超電導バルク体から、外径65.0mm、高さ14.2mmの超電導バルク体を2個、上記と同様に作製した。これらを上記と同様に作製したSUS314製の外径86.0mm、内径65.05mm、高さ28.8mmの外周補強リング中に配置し同様に半田により結合することで比較材の酸化物超電導バルクマグネットを作製した。すなわち、比較材には高強度補強部材が設けられていない。
得られた酸化物超電導バルクマグネット[本発明(1)、本発明(2)、比較例]を室温で8.5Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却し、外部磁場を0.05T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、酸化物超電導バルクマグネットの軸上表面で、本発明(1)、本発明(2)は割れることなく、7.2Tの捕捉磁束密度を確認した。しかしながら、比較材は、着磁過程において磁束密度の急激な低下が確認された。着磁実験の後、室温で超電導バルク体を調べたところ、超電導バルク体に割れが確認された。
次に本発明(1)、本発明(2)を室温で12.0Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却し、外部磁場を0.05T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、酸化物超電導バルクマグネットの軸上表面で、本発明(1)は割れることなく、9.5Tの捕捉磁束密度を確認した。しかしながら、本発明(2)は、着磁過程において磁束密度の急激な低下が確認された。着磁実験の後、室温で超電導バルク体を調べたところ、超電導バルク体に割れが確認された。
これらの実験により、酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、上下の酸化物超電導バルク体と結合または接着することによって、超電導バルク体の割れ抑制効果を有することが明らかになった。また、さらに外周補強リングをニ重構造にし、高強度補強部材を外周端部で上下面および側面で強固に接合することによって、さらに割れの発生を抑えより高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルク積層体が得られることが明らかになった。
表3(表3−1と表3−2を総称して表3とよぶ。)に、上記実施例4についての着磁試験結果を示す。着磁試験に際して、表3に記載の各試験の本発明または比較例として用いる酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを作製した。酸化物超電導バルク体については、上記実施例4と同様に作製した直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を用いて、表3に記載した種々の厚さの異なる円柱形状に加工し、酸化物超電導バルク体を作製した。また、各高強度補強部材に関しても、表3に記載の材質および厚さの板から、円板状の板に加工した。さらに、外周補強リングに関しても、表3に記載の材質およびサイズのリングに加工した。
これらの円柱状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを結合し、各試験で用いる酸化物超電導バルクマグネットを作製した。本発明および比較例のバルクマグネットの組み立てには半田を用いた。半田による組み立ての場合、上記実施例4と同様に、それぞれの部材をホットプレート上で半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング中に、超電導バルク体、内側の外周補強リングと各高強度補強部材とを挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させて、超電導バルクマグネットを作製した。
性能評価のための着磁試験に関しては、表3に示す各着磁条件で行った。着磁試験の結果は、表3に示すように、酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、上下の酸化物超電導バルク体と結合または接着することによって、超電導バルク体の割れ抑制効果を有することが明らかになった。また、さらに外周補強リングを二重構造にし、高強度補強部材を外周端部で上下面および側面で強固に接合することによって、さらに割れの発生を抑えより高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルク積層体が得られることが明らかになった。
(実施例5)
実施例5の超電導バルクマグネット1700では、Gd−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体1710を用いた。まず、市販されている純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Gd:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、それに白金を0.5質量%及び銀を10質量%加えた。この秤量粉を1時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1278K〜1252Kの温度領域を180時間かけて徐冷し結晶成長させ、超電導相の結晶学的方位のc軸が略円板平面の法線と平行な円板形状の直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を得た。この単結晶状の酸化物超電導バルク体を、外径65.0mm、内径35.0mm、高さ8.0mmのリング形状に加工した。加工によりできた端材を鏡面研磨し微細組織を光学顕微鏡で確認したところ、1μm程度の211相が分散していた。さらに、スパッタリングより超電導体の表面に銀を約2μmのコーティングした。これを酸素気流中において723Kで100時間熱処理した。同様に処理を行い、リング状の酸化物超電導バルク体1710(1711〜1716)を6個作製した。
また、厚さ1.0mmのニクロムの板を外径65.0mm、内径35.0mmに加工し、同様に5枚の高強度補強部材1720(1721〜1725)を作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リング1730にはSUS316L製の外径73.0mm、内径65.05mm、高さ53.6mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング1730中に、超電導バルク体とニクロムリングとを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、超電導バルクマグネット1700を作製した。図17Aに得られた有孔の酸化物超電導バルク積層体の積層状態を示す。また、図17Cに図17Aの断面図を示す。
得られた酸化物超電導バルクマグネット1700を室温で7Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、酸化物超電導バルクマグネット1700の軸上中心部で6.85Tの捕捉磁束密度を確認し、この着磁によって酸化物超電導バルク体1710が割れることなく着磁できることが確かめられた。
次に比較材として、上記と同様に作製した単結晶状の酸化物超電導バルク体11から、外径65.0mm、内径35.0mm、高さ17.0mmのリング2個、高さ19mmのリング1個を上記と同様に作製した。図17Bに得られた比較材の状態を示す。また、図17Dに図17Bの断面図を示す。これらを上記と同様に作製したSUS316L製の外径73.0mm、内径65.05mm、高さ53.6mmの外周補強リング13中に配置し、上記と同様に半田により結合することで比較材の酸化物超電導バルクマグネット1750を作製した。すなわち、比較材には高強度補強部材が設けられていない。
比較材を上記と同様に室温で7Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この着磁過程において5.1Tまで減磁した段階で、酸化物超電導バルクマグネット1750の軸上中心部で磁束密度の急激な低下が確認された。ゼロ磁場に減磁したときの軸上中心部での捕捉磁束密度は0.23Tであった。着磁実験の後、室温で超電導バルク体1751を調べたところ、超電導バルク体1751に割れが確認された。
これらの実験によりリング形状の酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、上下のリング形状の酸化物超電導バルク体と結合または接着することによって、超電導体に割れが発生することなく高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルクマグネットが得られることが明らかになった。
表4(表4−1と表4−2を総称して表4とよぶ。)に、上記実施例5についての着磁試験結果を示す。着磁試験に際して、表4に記載の各試験の本発明または比較例として用いるリング状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを作製した。リング状の酸化物超電導バルク体については、上記実施例5と同様に作製した直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を用いて、表4の各試験の製造条件に基づき、厚さの異なる外径65.0mm、内径35.0mmのリング形状に加工し、リング状の酸化物超電導バルク体を作製した。また、各高強度補強部材に関しても、表4に記載の材質および厚さの板から外径65.0mm、内径35.0mm〜35.2mmのリングに加工した。さらに、外周補強リングに関しても表4記載の材質およびサイズのリングに加工した。
これらのリング状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを結合し、各試験で用いる酸化物超電導バルクマグネットを作製した。本発明および比較例の酸化物超電導バルクマグネットの組み立てには半田を用いた。半田による組み立ての場合、上記実施例5と同様に、それぞれの部材をホットプレート上で半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング1730中に、超電導バルク体と各高強度補強部材とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、超電導バルクマグネット1700を作製した。
なお、高強度補強部材の材質として、表4中の試験No.1−5の「ニクロムの無酸素銅クラッド材」は、厚さ0.5mmのニクロム板の両面を厚さ0.5mmの無酸素銅板でSn−Zn系の半田で半田付けし、積層化した材料を意味する。また、表1中の試験No.1−8の「ニクロムのアルミクラッド材」は、厚さ0.5mmのニクロム板の両面を厚さ0.5mmのアルミ板でSn−Zn系の半田で半田付けし、積層化した材料を意味する。
また、外周補強リングの材質として、表4中の試験No.1−6の「内周:無酸素銅、外周:SUS316Lの接合材」は、外径87.6mm、内径76.05mm、高さ53.6mmのSUS316Lリング中に外径76.0mm、内径65.05mm、高さ53.6mmの無酸素銅リングをSn−Zn系半田で接合した接合材を意味する。試験No.1−8の「内周:Cu合金、外周:SUS304Lの接合材」は、外径87.6mm、内径76.35mm、高さ53.6mmのSUS304Lリング中に外径76.3mm、内径65.05mm、高さ53.6mmのCu合金リングをSn−Zn系半田で接合した接合材を意味する。
性能評価のための着磁試験に関しては、表4に示す各着磁条件で行った。着磁試験の結果は、表4に示すように、本発明のように高強度補強部材を交互に積層した超電導バルクマグネットは割れが発生していないのに対し、高強度補強部材を交互に積層していない比較材では割れが発生する結果となった。このことから、高強度補強部材による補強が有効に機能し、強い磁場を発生できることが明らかになった。
(実施例6)
実施例6の超電導バルクマグネット1800では、Eu−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体1810を用いた。まず、市販されている純度99.9質量%のユーロビウム(Eu)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Eu:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、それにCeO2を1.0質量%及び銀を10質量%加えた。この秤量粉を1時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1288K〜1262Kの温度領域を180時間かけて徐冷し結晶成長させ、超電導相の結晶学的方位のc軸が略円板平面の法線と平行な円板形状の直径70mmの単結晶状の超電導バルク体を得た。これらの単結晶状の酸化物超電導バルク体を加工し、外径65.0mm、内径32.0mm、高さ8.0mmのリング1個、外径65.0mm、内径32.0mm、高さ10.0mmのリング1個、外径65.0mm、内径36.0mm、高さ10.0mmのリング2個を得た。さらに、スパッタリングより超電導体の表面に銀を約2μmのコーティングをした。これを酸素気流中において723Kで100時間熱処理した。同様に処理を行い、リング状の酸化物超電導バルク体1810(1811〜1814)を4個作製した。
また、ニクロムの板から、外径65.0mm、内径31.8mm厚さ1.5mmのリング状の高強度補強部材1枚、外径65.0mm、内径31.8mm厚さ0.8mmのリング状の高強度補強部材2枚、外径65.0mm、内径35.8mm厚さ0.8mmのリング状の高強度補強部材1枚の、4つの高強度補強部材1820(1821〜1824)を作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リング1830にはSUS316L製の外径73.0mm、内径65.05mm、高さ42.2mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。
つぎに、半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング1830中に、酸化物超電導バルク体および高強度補強部材を以下のように配置し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、有孔の酸化物超電導バルク積層体を作製した。この有孔の酸化物超電導バルク積層体の積層状態を図18Aに示す。また、図18Cに図18Aの断面図を示す。
1)ニクロム製リング(高強度補強部材1821、最上面)
:外径65.0mm、内径31.8mm、厚さ1.5mm
2)酸化物超電導バルク体1811
:外径65.0mm、内径32.0mm、高さ8.0mm
3)ニクロム製リング(高強度補強部材1822)
:外径65.0mm、内径31.8mm、厚さ0.8mm
4)酸化物超電導バルク体1812
:外径65.0mm、内径32.0mm、高さ10.0mm
5)ニクロム製リング(高強度補強部材1823)
:外径65.0mm、内径31.8mm、厚さ0.8mm
6)酸化物超電導バルク体1813
:外径65.0mm、内径36.0mm、高さ10.0mm
7)ニクロム製リング(高強度補強部材1824)
:外径65.0mm、内径35.8mm、厚さ0.8mm
8)酸化物超電導バルク体1814
:外径65.0mm、内径36.0mm、高さ10.0mm
さらに、同様の方法でもう一組の有孔の酸化物超電導バルク積層体を作製した。そして、ニクロム製の高強度補強部材がある側を上面および下面となるように積層し、樹脂接着し、一つの有孔の酸化物超電導バルク積層体とした。
得られた有孔の酸化物超電導バルク積層体を室温で8Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、超電導バルクマグネットの軸上中心部で7.85Tの捕捉磁束密度を確認し、この着磁によって超電導バルク体1810が割れることなく着磁できることが確かめられた。
次に、比較材として、上記と同様に作製した単結晶状超電導バルク体から、外径65.0mm、内径32.0mm、高さ21.0mmのリング1個と、外径65.0mm、内径36.0mm、高さ21.0mmのリング1個とを、上記と同様に作製した(符号1851a、1851b)。これらを上記と同様に作製したSUS316L製の外径73.0mm、内径65.05mm、高さ42.2mmの外周補強リング1853中に配置し、上記と同様に半田により結合することで有孔の酸化物超電導バルク積層体を得た。この積層状態を図18Bに示す。また、図18Bの断面図を図18Dに示す。
さらに、同様にして作製した有孔の酸化物超電導バルク積層体を、超電導バルク体の内径が小さい方をそれぞれ上面および下面になるように配置し、樹脂で接着することによって、一つの比較材の超電導バルクマグネットを作製した。これを上記と同様に室温で8Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この着磁過程において5.1Tまで減磁した段階で、超電導バルクマグネットの軸上中心部で磁束密度の急激な低下が確認された。ゼロ磁場に減磁した時の軸上中心部での捕捉磁束密度は0.23Tであった。着磁実験の後、室温で超電導バルク体1851を調べたところ、超電導バルク体1851に割れが確認された。
これらの実験によりリング形状の酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置して、上下の前記リング形状の酸化物超電導バルク体と結合または接着し、さらに、酸化物超電導バルク積層体の最上面および最下面に配置された高強度補強部材の厚さが、酸化物超電導バルク体の間に配置された高強度補強部材の厚さよりも厚く、かつ、高強度補強部材の内径が酸化物超電導バルク体の内径よりも小さくすることにより、超電導バルク体に割れが発生することなく高い捕捉磁束密度を有する有孔の酸化物超電導バルク積層体が得られることが明らかになった。
表5(表5−1と表5−2を総称して表5とよぶ。)に、上記実施例6についての着磁試験結果を示す。着磁試験に際して、表5に記載の各試験の本発明または比較例として用いるリング状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを作製した。リング状の酸化物超電導バルク体については、上記実施例6と同様に作製した直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を用いて、表5の各試験の製造条件に基づき、厚さの異なる外径65.0mm、内径35.0mmのリング形状に加工し、リング状の酸化物超電導バルク体を作製した。また、各高強度補強部材に関しても、表5に記載の材質および厚さの板から外径65.0mm、内径35.0mm〜35.4mmのリングに加工した。さらに、外周補強リングに関しても、表5記載の材質およびサイズのリングに加工した。
これらのリング状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを結合し、各試験で用いる酸化物超電導バルクマグネットを作製した。本発明および比較例の酸化物超電導バルクマグネットの組み立てには、半田、または表5中に記載のように樹脂を用いた。半田による組み立ての場合、上記実施例6と同様に、それぞれの部材をホットプレート上で半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング1830中に、超電導バルク体と各高強度補強部材とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、超電導バルクマグネット1800を作製した。
なお、高強度補強部材の材質として、表5中の試験No.2−5の「ニクロムの無酸素銅クラッド材」は、厚さ0.5mmのニクロム板の両面を厚さ0.5mmの無酸素銅板でSn−Zn系の半田で半田付けし積層化した材料を意味する。また、表5中の試験No.2−7の「ニクロムのアルミクラッド材」は、厚さ0.5mmのニクロム板の両面を厚さ0.5mmのアルミ板でSn−Zn系の半田で半田付けし積層化した材料を意味する。
また、外周補強リングの材質として、表5中の試験No.2−6の「内周:無酸素銅、外周:SUS316Lの接合材」は、外径87.6mm、内径76.05mm、高さ53.6mmのSUS316Lリング中に外径76.0mm、内径65.05mm、高さ53.6mmの無酸素銅リングをSn−Zn系半田で接合した接合材を意味する。表5中の試験No.2−7の「内周:銅合金、外周:SUS304Lの接合材」は、外径87.6mm、内径76.05mm、高さ53.6mmのSUS304Lリング中に外径76.0mm、内径65.05mm、高さ53.6mmの銅合金リングをSn−Zn系半田で接合した接合材を意味する。
性能評価のための着磁試験に関しては、表5に示す各着磁条件で行った。着磁試験の結果は、表5に示すように、本発明のように高強度補強部材を交互に積層し、かつ、上面および下面に高強度補強部材を接合した超電導バルクマグネットは割れが発生していないのに対し、高強度補強部材を交互に積層していない比較材では割れが発生する結果となった。このことから、高強度補強部材による補強が有効に機能し、強い磁場を発生できることが明らかになった。
(実施例7)
実施例7の超電導バルクマグネット1900では、Gd−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体を用いた。まず、市販されている純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Gd:Ba:Cu=9:12:17のモル比で秤量し、それにBaCeO3を1.0質量%及び銀を10質量%加えた。この秤量粉を1時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1278K〜1245Kの温度領域を200時間かけて徐冷し結晶成長させ、超電導相の結晶学的方位のc軸が略円板平面の法線と平行な円板形状の直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を得た。このようにして得られた単結晶状の酸化物超電導バルク体から、外径65.0mm、内径35.0mm、高さ6.0mmのリング2個、および、高さ7.5mmのリング2個を作製した。さらに、スパッタリングよりこれらの酸化物超電導バルク体の表面に銀を約2μmのコーティングした。これを酸素気流中において723Kで100時間熱処理した。同様に処理を行い、リング状の酸化物超電導バルク体1910(1911〜1914)を4個作製した。
また、厚さ1.5mmおよび厚さ0.5mmのニクロムをそれぞれ2枚加工し、各板から外径65.0mm、内径31.0mmのリング状の高強度補強部材1920(1921〜1924)を作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リング1930にはアルミ合金製の外径77.0mm、内径65.05mm、高さ30.2mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。さらにFe−36Ni合金製の内周補強リング(外径34.95mm、内径31.0mm、高さ6.0mmのリング2個、および外径34.95mm、内径31.0mm、高さ15.0mmのリング1個)1940(1941〜1943)を作製し、その外周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング1930中に高強度補強部材としてのニクロムリング、リング状の超電導バルク体、内周補強リングを順に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させた。このとき各超電導バルク体は、超電導相の結晶学的方位のa軸を約7°ずらしながら積層させた。図19Aに、得られた有孔の酸化物超電導バルク積層体の積層状態を示す。また、図19Cに図19Aの断面図を示す。
得られた超電導バルクマグネット1000を室温で9.5Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い45Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、超電導バルクマグネットの軸上中心部で8.9Tの捕捉磁束密度を確認し、この着磁によって超電導バルク体1910が割れることなく着磁できることが確かめられた。
次に比較材として、上記と同様に作製した単結晶状の酸化物超電導バルク体から、外径65.0mm、内径35.0mm、高さ30.2mmのリング1個を、上記と同様に作製した。これらを上記と同様に作製したアルミ合金製の外径77.0mm、内径65.05mm、高さ30.2mmの外周補強リング1953中に配置した。さらにFe−36Ni合金製の外径34.95mm、内径31.0mm、高さ30.2mmの内周補強リング1954を超電導バルク体1951の内部に配置し、上記と同様に半田により結合することで比較材の有孔の酸化物超電導バルク積層体を作製した。この積層状態を図19Bに示す。また、図19Dに図19Bの断面図を示す。
これを上記と同様に室温で9.5Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い45Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この着磁過程において5.8Tまで減磁した段階で、超電導バルクマグネットの軸上中心部で磁束密度の急激な低下が確認された。ゼロ磁場に減磁した時の軸上中心部での捕捉磁束密度は1.89Tであった。着磁実験の後、室温で超電導バルク体1951を調べたところ、超電導バルク体1951に割れが確認された。
これらの実験によりリング形状の酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、さらに、内周補強リングを配置し、上下の酸化物超電導バルク体と結合または接着され、強度補強部材の内径が酸化物超電導バルク体の内径に対して同一または小さく、それぞれの内周軸が一致した有孔の酸化物超電導バルク積層体が形成される。有孔の酸化物超電導バルク積層体の内周面に内周補強リングが結合または接着されて配置されていることによって、超電導バルク体に割れが発生することなく高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルクマグネットが得られることが明らかになった。
表6(表6−1と表6−2を総称して表6とよぶ。)に、上記実施例7についての着磁試験結果を示す。着磁試験に際して、表6に記載の各試験の本発明または比較例として用いるリング状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを作製した。リング状の酸化物超電導バルク体については、上記実施例7と同様に作製した直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を用いて、表6に記載した種々の厚さの異なる外径65.0mm、内径35.0mmのリング形状に加工し、リング状の酸化物超電導バルク体を作製した。また、各高強度補強部材に関しても、表6に記載の材質および厚さの板から外径65.0mm、内径31.0mmのリングに加工した。さらに、外周補強リングに関しても、表6に記載の材質およびサイズのリングに加工した。
これらのリング状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを結合し、各試験で用いる酸化物超電導バルクマグネットを作製した。各実施例の本発明および比較例のバルクマグネットの組み立てには、半田を用いた。半田による組み立ての場合、上記実施例と同様に、それぞれの部材をホットプレート上で半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング1930中に、超電導バルク体と各高強度補強部材とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、超電導バルクマグネット1900を作製した。
性能評価のための着磁試験に関しては、表6に示す各着磁条件で行った。着磁試験の結果は、表6に示すように、内周補強リングを有するバルクマグネットにおいて、高強度補強部材を交互に積層し接合した超電導バルクマグネットは割れが発生していないのに対し、高強度補強部材を交互に積層していない比較材では割れが発生する結果となった。このことから、高強度補強部材による補強が有効に機能し、強い磁場を発生できることが明らかになった。
(実施例8)
本実施例の超電導バルクマグネット2000では、Gd(Dy)−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体を用いた。まず、市販されている純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Gd:Dy:Ba:Cu=8:1:12:17のモル比で秤量し、それにCeO2を1.0質量%及び銀を12質量%加えた。この秤量粉を1時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1278K〜1245Kの温度領域を200時間かけて徐冷し結晶成長させ、直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を得た。この単結晶状の酸化物超電導バルク体を、外径65.0mm、内径35.0mm、高さ10.0mmのリング形状に加工した。さらに、スパッタリングより超電導バルク体の表面に銀を約2μmのコーティングをした。これを酸素気流中において723Kで100時間熱処理した。同様に処理を行い、リング状の酸化物超電導バルク体2010(2011〜2014)を4個作製した。
また、厚さ1.5mmのニクロムの板2枚および厚さ1.0mmのニクロムの板3枚を加工して、外径65.0mm、内径31.0mmのリング状の高強度補強部材2020(2021〜2025)をそれぞれ作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リング2030にはアルミ合金製の外径77.0mm、内径65.05mm、高さ46.5mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。さらにFe−36Ni合金製の外径34.95mm、内径31.0mm、高さ10.0mmの内周補強リング2040(2041〜2044)を作製し、その外周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング2030中に高強度補強部材としてのニクロムリング、リング状の超電導バルク体、内周補強リングを順に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させた。このとき、酸化物超電導バルク体の最上面および最下面には、1.5mm厚のニクロムリングを配置した。このとき各超電導バルク体2041〜2044は、超電導相の結晶学的方位のa軸を約9°ずらしながら積層された。図20Aに得られた有孔の酸化物超電導バルク積層体の積層状態を示す。また、図20Cに図20Aの断面図を示す。
得られた超電導バルクマグネット2000を室温で9Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、超電導バルクマグネットの軸上中心部で8.85Tの捕捉磁束密度を確認し、この着磁によって超電導バルク体2010が割れることなく着磁できることが確かめられた。
次に比較材として、上記と同様に作製した単結晶状の酸化物超電導バルク体から外径65.0mm、内径35.0mm、高さ23.1mmのリング2個を、上記と同様に作製した(符号2051(2051a、2051b))。これらを上記と同様に作製したアルミ合金製の外径77.0mm、内径65.05mm、高さ46.5mmの外周補強リング2053中に配置し、さらにFe−36Ni合金製の外径34.95mm、内径31.0mm、高さ46.5mmの内周補強リング2054に、上記と同様に半田により結合し、比較材の有孔の酸化物超電導バルク積層体を作製した。この積層状態を図20Bに示す。また、図20Dに図20Bの断面図を示す。
これを、上記と同様に室温で9Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この着磁過程において5.8Tまで減磁した段階で、超電導バルクマグネットの軸上中心部で磁束密度の急激な低下が確認された。ゼロ磁場に減磁した時の軸上中心部での捕捉磁束密度は1.89Tであった。着磁実験の後、室温で超電導バルク体2051を調べたところ、超電導バルク体2051に割れが確認された。
これらの実験により、リング形状の酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、さらに、内周補強リングを配置し、上下の酸化物超電導バルク体と結合または接着され、強度補強部材の内径が酸化物超電導バルク体の内径に対して小さく、それぞれの内周軸が一致した有孔の酸化物超電導バルク積層体が形成される。有孔の酸化物超電導バルク積層体の内周に金属リングが結合または接着されて配置されていることによって、超電導バルク体に割れが発生することなく高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルクマグネットが得られることが明らかになった。
(実施例9)
本実施例の超電導バルクマグネット2100では、Eu−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体を用いた。まず、市販されている純度99.9質量%のユーロビウム(Eu)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Eu:Ba:Cu=9:12:17のモル比で秤量し、それにBaCeO3を1.0質量%及び銀を16質量%加えた。この秤量粉を1時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。
次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1288K〜1258Kの温度領域を200時間かけて徐冷し結晶成長させ、直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を得た。この単結晶状の酸化物超電導バルク体を、外径65.0mm、内径35.0mm、高さ1.8mmのニ重リング形状に加工した。二重リング形状の超電導バルク体2110の溝は、中心から23.5mmの位置に約1.0mmの幅で、サンドブラスト法により加工して形成した。このとき、酸化物超電導バルク体2110の内側リング2111と外側リング2112とを結ぶ継ぎ目(図16Dの継ぎ目1615に対応)は2個所設けた。さらに、スパッタリングより超電導バルク体の表面に銀を約2μmコーティングした。これを酸素気流中において723Kで100時間熱処理した。同様に処理を行い、リング状の酸化物超電導バルク体2110を20枚作製した。
また、厚さ1.0mmのニクロムの板2枚および厚さ0.3mmのニクロムの板19枚を加工して、外径65.0mm、内径31.0mmのリング状の高強度補強部材2120をそれぞれ作製した。ニクロムの表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リング2130にはアルミ合金製の外径77.0mm、内径65.05mm、高さ44.0mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。さらにニクロム製の外径34.95mm、内径31.0mm、高さ1.8mmの内周補強リング2140を作製し、その表面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング2130中に高強度補強部材としてのニクロムリング、リング状の超電導バルク体、内周補強リングを順に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させた。このとき、酸化物超電導バルク体の最上面および最下面には、1.0mm厚のニクロムリングの高強度補強部材を配置した。また、このとき各超電導バルク体2110は、超電導相の結晶学的方位のa軸を約4°ずらしながら積層された。図21Aに得られた有孔の酸化物超電導バルク積層体の積層状態を示す。
得られた超電導バルクマグネット2140を室温で7Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、超電導バルクマグネットの軸上中心部で6.85Tの捕捉磁束密度を確認し、この着磁によって超電導バルク体が割れることなく着磁できることが確かめられた。
次に比較材として、上記と同様に作製した単結晶状の酸化物超電導バルク体から、外径65.0mm、内径35.0mm、高さ1.8mmの二重リング形状の超電導バルク体22枚を同様に作製した(符号2151)。これらを、上記と同様に作製したアルミ合金製の外径77.0mm、内径65.05mm、高さ44.0mmの外周補強リング2153中に配置し、さらにGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)製の外径34.95mm、内径31.0mm、高さ44.0mmの内周補強リング2154を同様に配置し、半田により結合することで比較材の有孔の酸化物超電導バルク積層体を作製した。この積層状態を図21Bに示す。
これを、上記と同様に室温で7Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.1T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この着磁過程において4.8Tまで減磁した段階で、超電導バルクマグネットの軸上中心部で磁束密度の急激な低下が確認された。ゼロ磁場に減磁した時の軸上中心部での捕捉磁束密度は1.35Tであった。着磁実験の後、室温で超電導バルク体2151を調べたところ、超電導バルク体2151に割れが確認された。
これらの実験により、リング形状の酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、さらに、内周補強リングを配置し、上下の酸化物超電導バルク体と結合または接着することによって、超電導バルク体に割れが発生することなく高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルクマグネットが得られることが明らかになった。
(実施例10)
実施例5で作製した白金添加Gd系の直径70mmの酸化物超電導体を用い、外径62.0mm、内径32.0mm、高さ3.0mmのリング8個を作製した。さらに、スパッタリングよりこれらの酸化物超電導バルク体の表面に銀を約2μmのコーティングをした。これを酸素気流中において723Kで100時間熱処理した。同様に処理を行い、リング状の酸化物超電導バルク体2210(2211〜2218)を8個作製した。
また、厚さ1.0mmを2枚、厚さ0.3mmのSUS316を7枚加工し、各板から外径66.0mm、内径29.0mmのリング状の高強度補強部材2220(2221〜2227)を作製し、表面には予め半田を薄く付けた。内側の外周補強リング22310(22311〜22318)にはSUS314製の外径66.0mm、内径62.05mm、高さ3.0mmのリングを8個用い、また、外側の外周補強リング22300にはSUS314製の外径86.0mm、内径66.05mm、高さ28.8mmのリングを用いその内周面にも薄く半田を付けた。さらに外側のニクロム製内周補強リング(外径31.95mm、内径29.0mm、高さ3.0mm)を8個作製し、内側のSUS314製内周リングには外径28.95mm、内径27.0mm、高さ28.8mmのリング1個作製し、その外周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外側の外周補強リング22300中に高強度補強部材としてのSUS316リング、内側の外周補強リング、リング状の超電導バルク体、外側の内周補強リング、内側の内周補強リングを挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させた。このとき各超電導バルク体は、超電導相の結晶学的方位のa軸を約7°ずらしながら積層させた。図22Aに、得られた有孔の酸化物超電導バルク積層体[本発明(1)]の断面図を示す。
また、さらに、厚さ1.0mmを2枚、厚さ0.3mmのSUS316を7枚加工し、各板から外径62.0mm、内径32.0mmのリング状の高強度補強部材を作製し、表面には予め半田を薄く付けた。外周補強リングにはSUS314製の外径86.0mm、内径62.05mm、高さ28.8mmのリングを用い、その内周面にも薄く半田を付けた。さらにSUS314製内周リングには外径31.95mm、内径27.0mm、高さ28.8mmのリング1個作製し、その外周面にも薄く半田を付けた。
次に、半田が溶融する温度に加熱した外側の外周補強リング2230中に高強度補強部材としてのSUS316リング、リング状の超電導バルク体、内周補強リングを挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させた。このとき各超電導バルク体は、超電導相の結晶学的方位のa軸を約7°ずらしながら積層させた。図22Bに、得られた有孔の酸化物超電導バルク積層体[本発明(2)]の断面図を示す。
次に比較材として、上記と同様に作製した単結晶状の酸化物超電導バルク体から、外径62.0mm、内径32.0mm、高さ14.3mmのリング2個を、上記と同様に作製した。これらを上記と同様に作製したSUS314製の外径86.0mm、内径62.05mm、高さ28.8mmの外周補強リング中に配置した。さらにSUS314製の外径31.95mm、内径27.0mm、高さ28.8mmの内周補強リングを超電導バルク体の内部に配置し、上記と同様に半田により結合することで比較材の有孔の酸化物超電導バルク積層体[比較材]を作製した。この断面図を図22Cに示す。
得られた超電導バルクマグネット[本発明(1)、本発明(2)、比較材]を室温で8.0Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.05T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、超電導バルクマグネットの軸上中心部で、本発明(1)および本発明(2)は、割れることなく、7.95Tを捕捉していたが、比較材は、着磁実験の後、室温で超電導バルク体を調べたところ、超電導バルク体に割れが確認された。
次に、本発明(1)および本発明(2)を11.0Tの磁場中に配置した後、冷凍機を用い40Kに冷却した後、外部磁場を0.05T/分の速度でゼロ磁場まで減磁した。この結果、超電導バルクマグネットの軸上中心部で、本発明(1)は、割れることなく、10.9Tを捕捉していたが、本発明(2)は、着磁実験の後、室温で超電導バルク体を調べたところ、超電導バルク体に割れが確認された。
これらの実験によりリング形状の酸化物超電導バルク体間に高強度補強部材を配置し、さらに、二重の内周および外周補強リングを配置し、上下の酸化物超電導バルク体と結合または接着されることによって、超電導バルク体に割れが発生することなく高い捕捉磁束密度を有する酸化物超電導バルクマグネットが得られることが明らかになった。
表7(表7−1と表7−2、表7−3を総称して表7とよぶ。)に、上記実施例10についての着磁試験結果を示す。着磁試験に際して、表7に記載の各試験の本発明(1)、本発明(2)または比較例として用いるリング状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを作製した。リング状の酸化物超電導バルク体については、上記実施例10と同様に作製した直径70mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を用いて、表4に記載した種々の厚さの異なるリング形状に加工し、リング状の酸化物超電導バルク体を作製した。また、各高強度補強部材に関しても、表7に記載の材質および厚さの板から加工した。さらに、外周補強リングに関しても、表7に記載の材質およびサイズのリングに加工した。
これらのリング状の酸化物超電導バルク体、高強度補強部材および外周補強リングを結合し、各試験で用いる酸化物超電導バルクマグネットを作製した。各実施例の本発明および比較例のバルクマグネットの組み立てには、半田を用いた。半田による組み立ての場合、上記実施例と同様に、それぞれの部材をホットプレート上で半田が溶融する温度に加熱した外周補強リング2230中に、超電導バルク体と各高強度補強部材とを交互に挿入し、それぞれに半田を馴染ませた後、全体を室温に冷却することでそれぞれを結合させ、超電導バルクマグネット2200を作製した。
性能評価のための着磁試験に関しては、表7に示す各着磁条件で行った。着磁試験の結果は、表7に示すように、内周補強リングを有するバルクマグネットにおいて、10T以下の着磁条件では、高強度補強部材を交互に積層し接合した超電導バルクマグネットは割れが発生していないのに対し、高強度補強部材を交互に積層していない比較材では割れが発生する結果となった。また、11T以上の着磁条件では、二重の外周および内周リング構造を有し高強度補強部材をより強固に結合した超電導バルクマグネットにおいても割れが発生せず、より強い磁場を発生できることが明らかになった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。