以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<酸化物超電導バルク体の構成>
まず、本発明の実施形態で用いる酸化物超電導バルク体に関して説明する。本実施形態で用いる酸化物超電導バルク体は、単結晶状のREBa2Cu3O7−x中にRE2BaCuO5相(211相)等に代表される非超電導相が分散した組織を有するものであり、好ましくは、非超電導相が微細分散した組織を有するもの(所謂QMG(登録商標)材料)が望ましい。ここで、単結晶状というのは、完璧な単結晶でなく、小傾角粒界等の実用に差し支えない欠陥を有するものも包含するという意味である。REBa2Cu3O7−x相(123相)及びRE2BaCuO5相(211相)におけるREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる希土類元素及びそれらの組み合わせで、La、Nd、Sm、Eu、Gdを含む123相は1:2:3の化学量論組成から外れ、REのサイトにBaが一部置換した状態になることもある。また、非超電導相である211相においても、La、Ndは、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luとは幾分異なり、金属元素の比が非化学量論的組成であったり、結晶構造が異なっていたりすることが知られている。
前述のBa元素の置換は、臨界温度を低下させる傾向がある。また、より酸素分圧の小さい環境においては、Ba元素の置換が抑制される傾向にある。
123相は、211相とBaとCuとの複合酸化物からなる液相との包晶反応、
211相+液相(BaとCuの複合酸化物) → 123相
によりできる。そして、この包晶反応により、123相ができる温度(Tf:123相生成温度)は、ほぼRE元素のイオン半径に関連し、イオン半径の減少に伴いTfも低くなる。また、低酸素雰囲気及びAg添加に伴い、Tfは低下する傾向にある。
単結晶状の123相中に211相が微細分散した材料は、123相が結晶成長する際、未反応の211粒が123相中に取り残されるためにできる。すなわち、酸化物超電導バルク体は、
211相+液相(BaとCuの複合酸化物) → 123相+211相
で示される反応によりできる。
酸化物超電導バルク体中の211相の微細分散は、Jc向上の観点から極めて重要である。Pt、Rh又はCeの少なくとも一つを微量添加することで、半溶融状態(211相と液相からなる状態)での211相の粒成長を抑制し、結果的に材料中の211相が約1μm程度に微細化される。添加量は、微細化効果が現れる量及び材料コストの観点から、Ptで0.2〜2.0質量%、Rhで0.01〜0.5質量%、Ceで0.5〜2.0質量%が望ましい。添加されたPt、Rh、Ceは123相中に一部固溶する。また、固溶できなかった元素は、BaやCuとの複合酸化物を形成し、材料中に点在することになる。
また、マグネットを構成するバルク酸化物超電導体は、磁場中においても高い臨界電流密度(Jc)を有する必要がある。この条件を満たすには、超電導的に弱結合となる大傾角粒界を含まない単結晶状の123相である必要がある。さらに高いJc特性を有するためには、磁束の動きを止めるためのピンニングセンターが必要となる。このピンニングセンターとして機能するものが微細分散した211相であり、より細かく多数分散していることが望ましい。先に述べたように、Pt、RhやCeは、この211相の微細化を促進する働きがある。また、ピンニングサイトとして、BaCeO3、BaSiO3、BaGeO3、BaSnO3等の可能性が知られている。また、211相等の非超電導相は、劈開し易い123相中に微細分散することによって、超電導体を機械的に強化し、バルク材料として成り立たす重要な働きをも担っている。
123相中の211相の割合は、Jc特性及び機械強度の観点から、5〜35体積%が望ましい。また、材料中には、50〜500μm程度のボイド(気泡)を5〜20体積%含むことが一般的であり、さらにAg添加した場合、添加量によって1〜500μm程度のAg又はAg化合物を0体積%超25体積%以下含む。
また、結晶成長後の材料の酸素欠損量(x)は、0.5程度で半導体的な抵抗率の温度変化を示す。これを各RE系により350℃〜600℃で100時間程度、酸素雰囲気中においてアニールすることにより酸素が材料中に取り込まれ、酸素欠損量(x)は0.2以下となり、良好な超電導特性を示す。この時、超電導相中には双晶構造ができる。しかしながら、この点を含めここでは単結晶状と呼ぶことにする。
なお、本明細書における「超電導バルク体」とは、上述した超電導体の特性を発現するための酸化物の微細組織を有する酸化物超電導バルク体を一部または全部に含む超電導バルク体を意味する。例えば、当該「超電導バルク体」は、全体が酸化物超電導体からなるバルク体(すなわち「バルク体」)、および酸化物超電導バルク体と非超電導バルク体との組み合わせからなる積層体(すなわち「積層体」)を含み得る。
本明細書において「バルク体」は原則として酸化物超電導バルク体を意味するものとして説明するが、「バルク体」と「積層体」とを特に区別する必要がない場合、これらを総称して「バルク体」と記載することもある。なお、単に「バルク体」等と記載する場合、これらの形状(円柱状またはリング状)については限定されない。
次に、本実施形態に係るバルクマグネット構造体を用いたNMR用バルクマグネットシステムについて説明する。
<NMR用バルクマグネットシステムの構成>
図1は、本実施形態に係るNMR用バルクマグネットシステム1(以下、単に「システム1」とも記載する)の概略構成を示す説明図である。図1に示すように、本実施形態に係るシステム1は、内部にバルクマグネット構造体50が収容される真空断熱容器10と、冷却装置20と、温度制御装置30とを含んで構成される。
バルクマグネット構造体50は、冷却装置20のコールドヘッド21上に載置された状態で、真空断熱容器10内に配置されている。これにより、バルクマグネット構造体50は、冷却装置20と熱的に接続され、冷却装置20により冷却可能な状態とされている。また、コールドヘッド21には、バルクマグネット構造体50の温度を上昇させるためのヒーター23が設けられている。さらに、真空断熱容器10内には、容器内温度を測定する1または複数の温度センサ(図示せず。)を設置してもよい。温度センサは、例えば、真空断熱容器10上部や、バルクマグネット構造体50が載置されるコールドヘッド21付近に設置してもよい。また、バルクマグネット構造体50をコールドヘッド21の上に配置後、バルクマグネット構造体50の周囲に輻射断熱シート(例えば、アルミ蒸着フィルムおよびスペーサーの積層体等)を巻きつけることは、断熱条件の向上の観点から望ましい(図示せず)。
冷却装置20は、バルクマグネット構造体50を冷却する装置である。冷却装置20としては、例えば、液体ヘリウムもしくは液体ネオン等の冷媒、GM冷凍機(Gifford-McMahon cooler)、またはパルスチューブ冷凍機等を用いることができる。冷却装置20は、温度制御装置30により制御され駆動する。温度制御装置30は、着磁の各工程に応じてバルクマグネット構造体50の温度が所望の温度となるように冷却装置20を制御する。
<着磁プロセス>
次に、本実施形態に係るバルクマグネット構造体50の着磁プロセスの例について、図2および図3A〜図3Cを用いて説明する。なお、バルクマグネット構造体50に対する着磁は、例えば、筒状の超電導マグネットを収容してなる磁場発生装置により行われ得る。このような磁場発生装置は、いわゆる着磁ステーションに設けられており、上記のシステム1に含まれるバルクマグネット構造体50が着磁ステーションにおいて着磁された後に、システム1は使用者に供給される。
ここでは、例えば図2に示すようなリング状の酸化物超電導バルク体70についての着磁状態を、いくつかの着磁条件で考える。図3A〜図3Cは、それぞれの着磁条件において、常伝導状態のバルクマグネット構造体に印加されていた磁場をバルクマグネット構造体が超電導状態となるまで冷却し、その後、印加磁場を取り除く基本的な着磁工程でのバルクマグネット構造体内の着磁状態を示している。図3A〜図3Cには、図2に示した軸方向及び半径方向での酸化物超電導バルク体70の断面72を用いて、超電導電流が流れていない領域72aと超電導電流が流れている領域72bとを示しており、合わせてその断面での臨界電流密度分布及び磁場分布を示している。
ここで、磁場分布の均一性評価指標としては、ある領域における平均磁場強度に対する最大磁場強度と最小磁場強度との差分の割合を、ppmで表示したものを用いる。MRI用マグネットでは、磁場分布を均一化したい領域(すなわち、磁場均一化領域)において、印加磁場分布の均一性評価指標としてppmオーダー程度と高い磁場均一度を要求されることが多い。これに対して、NMRやMRIの高均一度の磁場発生を主な目的としない磁場発生装置が発生可能な磁場の均一度は比較的不均一であり、磁場均一化領域において要求される磁場均一度は、印加磁場分布の均一性評価指標として100ppm以上であることが多い。
なお、ある点の磁場強度は、ホール素子、または、高感度の磁場測定装置(例えば、テスラメーター(Metrolab社製))、及びNMR信号の半値幅等に基づき、概ね求めることができる。また、最大磁場強度及び最小磁場強度は、ある領域における最も高い磁場強度値、及び、最も低い磁場強度値であり、平均磁場強度は、最大磁場強度と最小磁場強度の平均値である。
(着磁条件1:T=Ts、Ba=B1)
まず、着磁条件1として、常伝導状態のリング状酸化物超電導バルク体を磁場B1中に置き、超電導転移温度(Tc)以下の温度Tsに冷却した後、印加磁場を徐々に減らすようにした。このときの酸化物超電導バルク体内の超電導電流の分布および磁場分布を図3Aに示す。状態Aは減磁前の状態であり、酸化物超電導バルク体内には超電導電流は流れていない。印加磁場を徐々に低下させると、状態Bに示すように、リング状酸化物超電導バルク体内には、臨界電流密度Jc(Ts)の値を有する超電導電流が流れる領域72bが外周部分から現れる。さらに印加磁場を低下させた後、印加磁場をゼロとすると、状態Cに示すように、臨界電流密度Jc(Ts)値を有する超電導電流が流れる領域72bがさらに内側に広がる。着磁条件1では、状態Cに示すように、印加磁場がゼロになったときにも酸化物超電導バルク体断面の内側に超電導電流が流れていない領域72aが存在する。このような状態を、以下、「非フル着磁状態」と称する。
(着磁条件2:T=Th(Th>TS)、Ba=B1)
次に、着磁条件2は、印加磁場は着磁条件1と同一であるが、酸化物超電導バルク体を着磁条件1での温度TSよりも高い温度Thとした。着磁条件1に対し温度が高く、臨界電流密度Jcが低い着磁条件2では、図3Bに示すように、減磁前の状態である状態Aでは、着磁条件1と同様、酸化物超電導バルク体内には超電導電流は流れていない。印加磁場を徐々に低下させると、状態Bに示すように、リング状酸化物超電導バルク体内には、臨界電流密度Jc(Ts)の値を有する超電導電流が流れる領域72bが外周部分から現れる。このとき、着磁条件1よりも早く内側まで超電導電流が流れる領域72bが現れる。そして、さらに印加磁場を低下させた後、印加磁場をゼロとした状態Cでは、酸化物超電導バルク体の断面全体に超電導電流が流れるようになる。このような状態を、以下、「フル着磁状態」と称する。
(着磁条件3:T=TS、Ba=B2(B2>B1))
一方、着磁条件3は、着磁温度は着磁条件1と同一であるが、印加磁場を着磁条件1よりも高くした。このような着磁条件では、図3Cに示すように、減磁前の状態である状態Aでは、着磁条件1、2と同様、酸化物超電導バルク体内には超電導電流は流れていない。印加磁場を徐々に低下させると、状態Bに示すように、リング状酸化物超電導バルク体内には、臨界電流密度Jc(Ts)の値を有する超電導電流が流れる領域72bが外周部分から現れる。このとき、着磁条件2と同様、着磁条件1よりも早く内側まで超電導電流が流れる領域72bが現れる。そして、さらに印加磁場を低下させた後、印加磁場をゼロとした状態Cでは、酸化物超電導バルク体の断面全体に超電導電流が流れ、フル着磁状態となっている。
また、酸化物超電導バルク体断面内の磁束密度の勾配に着目すると、図3B及び図3Cより、磁束密度の勾配は臨界電流密度Jcに比例することがわかる。
なお、図3A〜図3Cでは、臨界電流密度Jcは温度に対し一定(すなわち、変化しない)ものとして3つの着磁条件を示したが、実際には、対数的に時間と共に低下し得る。そのため、リング状酸化物超電導バルク体内に捕捉された磁束は、時間と共に低下することになる。このように時間と共に徐々に低下する現象はクリープと呼ばれている。
しかしながら、着磁条件1のように非フル着磁状態になっている場合は、クリープにより臨界電流密度Jcが低下していく場合においても、臨界電流密度Jcが低下する分、まだ超電導電流が流れていない領域に超電導電流が流れるようになる。そのため、酸化物超電導バルク体内部の磁束は、電流分布が変化する分、極僅かに低下するに留まる。
一方、着磁条件2、3の場合では、クリープによって臨界電流密度Jcが低下した分がすべて酸化物超電導バルク体内の磁束密度の変化に繋がり、磁場のクリープが大きく表れる。
さらに、図3A〜図3Cでは、軸方向に十分に長いリング状酸化物超電導バルク体の概念図を示したが、実際の軸方向の長さは有限である。そのため、軸方向の端部に位置するバルクマグネットの一方は、隣接するバルクマグネットが存在しないため、急激に磁場が低下するとともに、磁場勾配が大きくなる。そうすると、大きな臨界電流が流れ、これにより臨界電流が流れる領域が内周側に流れるようになり、酸化物超電導バルク体断面内の臨界電流密度Jc分布は上下の端部でより内側に入り込んだ分布になり、また、上下の端部で捕捉された磁場強度も低下する。
バルクマグネット構造体50に対する実際の着磁プロセスにおいては、上述したクリープ、並びに断面端部における臨界電流密度Jcの分布の変化および磁場強度の低下減少を考慮したうえで、所望の着磁状態となるように着磁プロセスが制御される。
以上、本実施形態に係るバルクマグネット構造体50の着磁プロセスの例について説明した。
以下、本実施形態に係るバルクマグネット構造体50の具体的な構成例について説明する。
<第1の実施形態>
図4は、本発明の第1の実施形態に係るバルクマグネット構造体50Aの一例を示す断面図である。図4に示すように、本実施形態に係るバルクマグネット構造体50Aは、複数のリング状バルク体51a〜51dおよび複数の円柱状バルク体51e、51fからなるバルク体部51Aと、各バルク体51a〜51fの外周にそれぞれ嵌合された外周補強リング53a〜53fからなる外周補強リング部53Aとを含んでなる。各外周補強リング53a〜53fと各バルク体51a〜51fとの接合には、半田を用いることが好ましい。この場合、予め各バルク体51a〜51fの外周面上に銀を成膜して、半田の乗りを良くするとともに電気的な接触抵抗を低減させておくことがさらに好ましい。なお、以下の説明では、バルク体と外周補強リングとが一体となった構成を「バルクマグネット」と記載することがある。
バルクマグネット構造体50Aは、各バルク体51a〜51fの中心軸を揃えて積層し構成されている。各バルク体51a〜51fの外径は同一であり、各リング状バルク体51a〜51dの内径は同一であることが、設計上望ましい。また、バルクマグネット構造体50Aのバルク体の軸方向(積層方向と同義)の一端にはリング状バルク体51aが配置されており、リング状バルク体51a〜51dが連続的に積層されている。そして、リング状バルク体51a〜51dの内側には、外部空間と連通する空間が形成されている。一方で、バルクマグネット構造体50Aのバルク体の軸方向の他端には円柱状バルク体51eおよび51fが積層して配置されている。
図4に示すバルクマグネット構造体50Aを構成するバルク体として、リング状バルク体だけではなく円柱状バルク体を用いることにより、リング状バルク体のみによる構成と比較して以下の利点が挙げられる。すなわち、円柱状バルク体を用いることにより、リング状バルク体のように穴あけ加工をする必要がないため、低コストでバルクマグネット構造体50Aを作成することができる。また、円柱状バルク体は、電磁気応力による割れの起点となり得る内周面を有しないため、割れによる破損が生じにくくなる。
また、図4に示すように、バルクマグネット構造体50Aの軸方向の一端には、少なくとも1のリング状バルク体が配置され得る(図4では4つのリング状バルク体が積層されて配置されている)。かかる構成により、リング状バルク体の内側に形成される磁場空間に対して、Z軸方向から試料等を挿入することが可能となる。このような磁場空間に磁場補正コイル、信号検出コイルおよび電磁波照射コイル等を含むプローブ等を設けることにより、試料等についてのNMR信号を検出することが可能となる。すなわち、NMR用のマグネットとしての応用が可能となる。
また、図4に示すように、バルクマグネット構造体50Aの軸方向の一端から中央部分にかけて、複数のリング状バルク体が連続して積層されている。かかる構成により、均一磁場空間が形成されやすいバルクマグネット構造体50Aの中央部分の空間を利用することができる。例えば、かかるバルクマグネット構造体50AをNMR用のマグネットとして応用する場合、試料等を均一磁場空間に載置することが可能となる。
また、図4に示すように、バルクマグネット構造体50Aの軸方向の他端には、少なくとも1の円柱状バルク体が配置され得る(図4では2つの円柱状バルク体が積層されて配置されている)。かかる構成により、バルクマグネット構造体50Aの端部により多くかかり得る磁場応力による割れへの耐性を高めることが可能となる。したがって、バルクマグネット構造体50Aの破損を防止することが可能となる。
なお、このような図4に示すバルクマグネット構造体50Aは、冷媒または冷凍機により冷却される。例えば、バルクマグネット構造体50Aは図1に示したようなコールドヘッド21上に据え付けられ、真空断熱層を形成するための真空断熱容器10が、バルクマグネット構造体50Aの周囲に設けられてもよい。バルクマグネット構造体50Aは、超電導体の臨界温度以上で外部磁場が印加された後、バルクマグネット構造体50Aが超電導状態となる所定の冷却温度まで冷却され、当該冷却温度に達した後、印加している外部磁場を下げることで、その内部に超電導電流が誘起されて着磁される。
通常、印加磁場の磁場中心をバルクマグネット構造体50Aの積層方向の中心に合わせるように着磁することで、印加磁場の磁場分布をバルクマグネット構造体50Aに再現することができる。この場合、着磁条件として、各バルク体の断面がフル着磁状態にならないような条件を用いることにより、印加磁場とほぼ等しい磁場分布をコピーすることが可能となる。したがって、上記条件に従って高均一度の高磁場を印加した場合、バルクマグネット構造体50A内に高均一度の高磁場が再現され得るので、NMR用のマグネットとしての応用が可能となる。
<第2の実施形態>
また、強磁場の着磁により強磁場をバルクマグネット構造体内に発生させる場合、リング状バルク体および円柱状バルク体のいずれにも大きな電磁気力が作用し、その結果リング状バルク体や円柱状バルク体が割れるという問題も生じ得る。この場合、複数のバルクマグネットが積層されたバルクマグネット構造体では、端部に配置されたバルクマグネットの積層方向両端表面中央付近や内周表面付近に最も大きな応力が作用し得るので、破損が当該部分から最も生じやすい。そこで、このような最も大きな応力が作用する積層方向両端の超電導バルク体を、軸方向の厚みが小さい酸化物超電導バルク体と平面補強部材とを交互に積層させた積層体により構成し、これらをバルクマグネット構造体の端部に配置してもよい。
図5は、本発明の第2の実施形態に係るバルクマグネット構造体50Bの一例を示す断面図である。図5に示すように、本実施形態に係るバルクマグネット構造体50Bは、リング状積層体51a、複数のリング状バルク体51b〜51fおよび円柱状積層体51gからなるバルク体部51Bと、各バルク体51a〜51gの外周にそれぞれ嵌合された外周補強リング53a〜53gからなる外周補強リング部53Bとを含んでなる。バルクマグネット構造体50Bは、各バルク体51a〜51gの中心軸を揃えて積層し構成されている。また、図5に示すように、各バルク体51a〜51gの外径は同一であるが、リング状積層体51aの内径は、他のリング状バルク体51b〜51fの内径よりも小さくてもよい。また、図5に示すように、リング状バルク体51b、51dおよび51fの軸方向の厚みは、リング状バルク体51cおよび51eの軸方向の厚みより大きくてもよいが、かかる厚みは特に限定されない。
リング状積層体51aは、軸方向の厚みが小さいリング状酸化物超電導バルク体51a1と、平面補強リング51a2とが交互に積層して構成されている。リング状積層体51aが配置されるバルクマグネット構造体50Bの積層方向両端は、上述したように最も大きな応力が作用する部分であり、この中でも、特に、これらの内周表面部分および積層方向両端表面付近に大きな応力が作用する。このため、少なくともバルクマグネット構造体の端部に配置するバルクマグネットは十分な機械的強度を有することが望ましい。そのため、バルクマグネット構造体50Aの積層方向両端にはリング状積層体(または円柱状積層体)が配置されることが望ましい。
なお、さらに高い機械的強度を得るために、積層方向両端に以外に配置されているリング状バルク体も、軸方向の厚みが小さいリング状酸化物超電導バルク体と平面補強リングが交互に積層されたリング状積層体を用いることが望ましい。
また、円柱状積層体51gは、軸方向の厚みが小さい円柱状酸化物超電導バルク体51g1と、平面補強板51g2とが交互に積層して構成されている。かかる円柱状積層体51gがバルクマグネット構造体50Bの端部に配置されることにより、大きな応力が作用し得る積層方向両端表面付近における機械的強度を十分に保持することが可能となる。また、さらに高い機械的強度を得るために、積層方向両端に以外に円柱状バルク体が配置される場合においても、軸方向の厚みが小さい円柱状酸化物超電導バルク体と平面補強板が交互に積層された円柱状積層体を用いることが望ましい。
<積層体の構成例>
(リング状積層体の構成例)
以下、図5に示した第2の実施形態に係るバルクマグネット構造体50Bを構成するリング状積層体51a、さらにリング状バルク体51b〜51fのいずれかを軸方向の厚みが小さいリング状酸化物超電導バルク体と平面補強リングとを交互に配置したときのリング状積層体の具体的構成例を、図6〜図13Dに基づき説明する。
(第1構成例)
まず、図6に基づいて、リング状積層体の第1構成例を説明する。図6は、第1構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット100を示す概略分解斜視図である。
本構成例に係るバルクマグネット100は、円板の中央部に貫通孔を有するリング状バルク体110と、円板の中央部に貫通孔を有するリング形状の平面補強リング120と、外周補強リング130とからなる。本実施形態では、リング状バルク体110として、3つのリング状バルク体112、114、116が設けられており、平面補強リング120として、2つの平面補強リング122、124が設けられている。リング状バルク体110と平面補強リング120とは、バルクマグネットのリングの中心軸線方向に、交互に積層される。例えば、超電導バルク体112、114の間に平面補強リング122が配置され、リング状バルク体114、116の間に平面補強リング124が配置されている。積層されたリング状バルク体110と平面補強リング120とは結合または接着され、その外周に中空の金属製の外周補強リング130が嵌合される。こうして中央が貫通した、バルクマグネットが形成される。
中心軸線方向に積層されたリング状バルク体110と平面補強リング120との結合または接着は、例えば樹脂またはグリース等で行ってもよく、より望ましくは、より強固な結合力が得られる半田付けで行うのがよい。半田付けの場合、リング状バルク体110の表面にAg薄膜をスパッタ処理等により製膜し、さらに100℃〜500℃でアニール処理することが望ましい。これにより、Ag薄膜とリング状バルク体表面とがよくなじむ。半田自身にも熱伝導性を向上さる働きがあるため、半田付け処理は、熱伝導性を向上させバルクマグネット全体の温度を均一化させる観点からも望ましい。
また、このとき、電磁気的な応力に対しての補強方法として、平面補強リング120としては、半田付けが可能なアルミ合金、Ni基合金、ニクロム、ステンレス等の金属が望ましい。さらには、線膨脹係数がリング状バルク体110と比較的近く、室温からの冷却の際に僅かにリング状バルク体110に圧縮応力を作用させるニクロムがさらに望ましい。一方、クエンチによる破壊防止の観点からは、平面補強リング120として、高熱伝導度および高電気伝導度を有する銅、銅合金、アルミニウム、アルミ合金、銀、銀合金等の金属が望ましい。なおこれらの金属は半田付けが可能である。さらには、無酸素銅、アルミニウム、銀が熱伝導度および電気伝導度の観点から望ましい。また、半田等で結合する際、気泡の巻き込み等を抑制し半田を均一に浸透させるため、細孔を有する平面補強リング120を用いることは有効である。
このような高強度金属からなる平面補強リング120による補強により、全体としての熱伝導率化により、バルクマグネットとしての熱的安定性が増し、クエンチが発生しにくくなり、より低温領域すなわち高臨界電流密度Jc領域での高磁場着磁が可能となる。銅、アルミニウム、銀等の金属は、電気伝導度も高いことから、局所的に超電導特性を劣化させる揺籃が発生した場合、超電導電流を迂回させる作用が期待でき、クエンチ抑制効果があると考えられる。また、このとき、クエンチ抑制効果を高めるためには、リング状バルク体と高電気伝導の平面補強リングとの界面の接触抵抗が小さいことが望ましく、リング状バルク体の表面に銀皮膜を形成した後、半田等で接合することが望ましい。
バルクマグネットの実際上の設計では、高強度金属からなる平面補強リング120を挿入する分、超電導材料の割合が減少するため、目的とする使用条件に合わせて、平面補強リング120の割合を決定すればよい。また、上記の観点から、平面補強リング120を、強度が高い高強度金属と熱伝導率が高い高強度金属とを複数それぞれの割合を決めて、組み合わせて構成することが望ましい。
また、リング状バルク体110の常温引っ張り強度は60MPa程度であり、また、平面補強リング120をリング状バルク体110に貼り付けるための半田の常温引っ張り強度は、通常80MPa未満である。このことから、常温引っ張り強度が80MPa以上の平面補強リング120は、補強部材として有効である。そのため、平面補強リング120の強度は、常温引っ張り強度が80MPa以上であることが好ましい。
さらに、熱伝導度が高い高強度金属の熱伝導率としては、超電導材料内で発生した熱の伝達、吸収の観点から、20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。また、平面補強リング120として、複数の種類の平面補強リングがリング状バルク体110の間に配置されている場合、当該平面補強リングのうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
また、外周補強リング130についても、クエンチ抑制効果を高めるために、高い熱伝導率を有する材質から形成してもよい。この場合、外周補強リング130には、例えば、高い熱伝導率を有する銅、アルミニウム、銀等の金属を主成分として含む材質を用いることができる。高い熱伝導率を有する外周補強リング130の熱伝導率は、超電導材料内で発生した熱の伝達・吸収の観点から、冷凍機冷却等により安定して強磁場を発生できる20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。
また、外周補強リング130は、同心円状に複数のリングを配置して構成することも可能である。すなわち、対向するリングの周面同士を接するようにして全体として1つの外周補強リングを構成する。この場合、外周補強リングを構成するリングのうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
平面補強リング120および外周補強リング130の加工は、一般的な機械加工法で加工される。各リング形状のリング状バルク体110の内外周の中心軸は、発生磁場強度向上および均一性(または対称性)向上のため必要である。また、各リング状バルク体110の外周の直径および内周の直径は、設計事項であり、必ずしも一致させる必要はない。例えば、NMRまたはMRI用のバルクマグネットの場合、中心付近に磁場均一性を高めるためのシムコイル等を配置する必要が生じる場合がある。その際には、中心付近の内径を大きくし、シムコイル等を配置し易くすることが望ましい。また、外周の直径に関しても、中心部の磁場強度を増したり、均一性を向上させるため、外周部の直径を変化させ目的とする磁場強度や均一性を調整することは、有効である。
外周補強リング130の形状(外周および内周)は、リング状バルク体110の外周面が外周補強リング130の内周面に密着していればよい。また、図6には3枚のリング状バルク体からなるバルクマグネットの例を示したが、本発明の要旨は、比較的強度が低いリング状バルク体と高強度の平面補強リングとの複合材料化による高強度化であるため、より多く多層化することで複合化の効果が発揮される。リング状バルク体の厚さは、直径(外径)にも依存するが、10mm以下が望ましく、さらに望ましくは6mm以下であり、0.3mm以上である。バルクマグネット構造体内の端部に配置されるバルクマグネット100の厚さは概ね30mm以下である。リング状バルク体の厚さが0.3mm未満となると、酸化物超電導体の結晶性の揺らぎによる超電導特性の劣化が起こる。また、バルクマグネット構造体内の端部に配置されるバルクマグネット100の厚さは概ね30mm以下であり、仕様されるリング状バルク体の厚さは10mm以下が望ましいため、リング状バルク体の枚数は、3枚以上が望ましく、さらに望ましくは5枚以上である。
また、平面補強リングは、当該平面補強リングを含むバルクマグネット中の平面補強リングとリング状バルク体との割合を調整することにより当該バルクマグネットの強度を調整するものである。したがって、平面補強リングの厚みは、要求されるバルクマグネットの強度に応じて調整され得るものであり、2mm以下が望ましく、さらに望ましくは1mm以下である。
以上、本実施形態に係るリング状積層体の第1構成例について説明した。本構成例によれば、少なくとも積層されたリング状バルク体110の間に、平面補強リング120が配置される。特に引っ張り応力に対し、比較的低強度であるリング状バルク体110と平面補強リング120とを交互に積層させて複合材料化することで、その強度を高めることができる。さらに、平面補強リング120および外周補強リング130として熱伝導率の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。これにより、高い磁場強度条件下でも、リング状バルク体110の破損を防止することができ、バルクマグネット内部において十分な総磁束量を得ることができ、さらに、磁場の均一性が優れたバルクマグネット構造体を提供することができる。
(第2構成例)
次に、図7A〜図7Cに基づいて、本実施形態に係るリング状積層体の第2構成例を説明する。図7Aは、本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット200を示す概略分解斜視図である。図7Bは、図7Aに示すバルクマグネット200の部分断面図を示す。図7Cは、本構成例に係るバルクマグネットの変形例であって、バルクマグネット200の中心軸線に沿って切断したときの部分断面図を示す。
本構成例に係るリング状積層体は、第1構成例に係るリング状積層体と比較して、中心軸線方向の端部に、平面補強リング220が設けられる点で相違する。図7Aに示すように、バルクマグネット200は、リング状バルク体210と、平面補強リング220と、外周補強リング230とからなる。本構成例では、リング状バルク体210として、3つのリング状バルク体212、214、216が設けられており、平面補強リング220として、4つの平面補強リング221、223、225、227が設けられている。リング状バルク体210と平面補強リング220とは、リングの中心軸線方向に、交互に積層される。例えば図7Aに示すように、リング状バルク体212、214の間に平面補強リング223が配置され、リング状バルク体214、216の間に平面補強リング225が配置されている。
また、リング状バルク体212には、平面補強リング223が配置された側と反対側の面に平面補強リング221が設けられる。同様に、リング状バルク体216には、平面補強リング225が配置された側と反対側の面に平面補強リング227が設けられる。このとき、最端部の平面補強リング221およびもう一方の最端部の平面補強リング227と、外周補強リング230との位置関係は、図7Bに示すように、平面補強リング221、227が外周補強リング230内に収まるようにしてもよい。あるいは、図7Cに示すように、平面補強リング221、227の外径を外周補強リング230の外径と略同一として、外周補強リング230の端面を平面補強リング221、227で覆うようにしてもよい。
積層されたリング状バルク体210と平面補強リング220とは結合または接着され、その外周に中空の金属製の外周補強リング230が嵌合される。こうして中央が貫通したバルクマグネットが形成される。なお、中心軸線方向に積層されたリング状バルク体210と平面補強リング220との結合または接着は、第1構成例に係るリング状積層体の場合と同様に行ってもよい。
また、図7A〜図7Cでは、バルクマグネット200の中心軸線方向の両端部に、平面補強リング221、227を設ける例を示したが、必ずしも両端部に平面補強リング221、227を配置する必要はない。例えば図7Aの最上面にのみ平面補強リング221を配置したバルクマグネットの下に、図7Aの最下面にのみ高強度補強部材227を配置したバルクマグネットを配置することによって、全体として最上面および最下面の両方に平面補強リング221、227を配置したバルクマグネットを構成してもよい。
以上、本実施形態に係るリング状積層体の第2構成例について説明した。本構成例によれば、積層されたリング状バルク体210の間および中心軸線方向の端部に、平面補強リング220が配置される。このようなリング状バルク体210と平面補強リング220とを交互に積層させて複合材料化することで、その強度を高めることができる。さらに、平面補強リング220および外周補強リング230として熱伝導度の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。これにより、高い磁場強度条件下でも、リング状バルク体210の破損を防止することができ、バルクマグネット内部において十分な総磁束量を得ることができ、さらに、磁場の均一性が優れたバルクマグネット構造体を提供することができる。
なお、図7A〜図7Cでは、1つの外周補強リング230を設けた場合を示したが、本発明はかかる例に限定されず、例えば図7Dに示すように、3つのリング状バルク体212、214、216に対応して分割された3つの外周補強リング231、232、233を設けてもよい。このとき平面補強リング221、223、225、227は、外周補強リング231、232、233と外径が揃うように、リング状バルク体212、214、216よりも半径方向に延設される。
(第3構成例)
次に、図8に基づいて、本実施形態に係るリング状積層体の第3構成例を説明する。図8は、本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット300を示す概略分解斜視図である。
本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット300は、図8に示すように、リング状バルク体310と、平面補強リング320と、外周補強リング330とからなる。本構成例では、リング状バルク体310として、3つのリング状バルク体312、314、316が設けられており、平面補強リング320として、4つの平面補強リング321、323、325、327が設けられている。
リング状バルク体310と平面補強リング320とは、リングの中心軸線方向に、交互に積層される。例えば図8に示すように、リング状バルク体312、314の間に平面補強リング323が配置され、リング状バルク体314、316の間に平面補強リング325が配置されている。また、リング状バルク体312には、平面補強リング323が配置された側と反対側の面に平面補強リング321が設けられる。同様に、リング状バルク体316には、平面補強リング325が配置された側と反対側の面に平面補強リング327が設けられる。なお、中心軸線方向に積層されたリング状バルク体310と平面補強リング320との結合または接着は、第1構成例に係るリング状積層体と同様に行ってもよい。
本構成例に係るバルクマグネット300を構成するリング状積層体は、第2構成例に係るリング状積層体と比較して、図8の最上面または最下面の平面補強リング321、327のうち少なくともいずれか一方の厚みが、他の平面補強リング323、325の厚さに比べ厚くなっている。これは、着磁過程においてバルクマグネット300の上面および下面の表面に最大応力がかかるためであり、この部分を十分に補強する必要がある。本実施形態に係るバルクマグネット300のように、バルクマグネット300の最上面または最下面の高強度補強部材321、327の厚みを大きくすることで、最大応力に耐え得る十分な強度を確保することができる。
なお、第2構成例に係るリング状積層体と同様、例えば図8の最上面にのみ平面補強リング321を配置したバルクマグネットおよび図8の最下面にのみ高強度補強部材327を配置したバルクマグネットをバルクマグネット構造体に配置することによって、バルクマグネット構造体全体として最上面および最下面の両方に平面補強リング321、327を配置したバルクマグネット構造体を構成してもよい。
(第4構成例)
次に、図9に基づいて、本実施形態に係るリング状積層体の第4構成例を説明する。図9は、本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット400を示す概略分解斜視図である。
本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット400は、リング状バルク体410と、平面補強リング420と、外周補強リング430とからなる。第4のリング状積層体では、リング状バルク体410として、4つのリング状バルク体412、414、416、418が設けられており、平面補強リング420として、5つの平面補強リング421、423、425、427、429が設けられている。
本構成例に係るバルクマグネット400を構成するリング状積層体は、第1構成例〜第3構成例に係るリング状積層体と比較して、平面補強リング420の内径がリング状バルク体410の内径より小さくなっている。リング状バルク体410の内周面は、着磁過程において応力が集中する部分である。バルクマグネット400に割れが発生する場合、この部分から発生することが多い。平面補強リング420の内径を小さくすることにより、リング状バルク体410の内周面からの亀裂の発生を抑制する効果を高めることができる。また、平面補強リング420の内径は、その上下の各リング状バルク体410の内径が異なる場合は、より小さい方の内径より小さくする必要がある。亀裂の起点となる部分を補強することによって亀裂に対する補強効果を高めることができる。リング状バルク体410の亀裂の起点は内周面にあり、特に上面あるいは下面と内周面との交点線部分を補強することが望ましい。したがって、平面補強リング420の内径を、内径が小さい方のリング状バルク体410より小さくすることで、内径が小さいリング状バルク体410を補強することができる。さらに、平面補強リング420および外周補強リング430として熱伝導度の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。
(第5構成例)
次に、図10A〜図10Eに基づいて、本実施形態に係るリング状積層体の第5構成例を説明する。図10Aは、本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット500を示す概略分解斜視図である。図10B〜図10Eは、本構成例に係るバルクマグネットの変形例であって、バルクマグネット500の中心軸線に沿って切断したときの部分断面図を示す。
本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット500は、リング状バルク体510と、平面補強リング520と、外周補強リング530と、内周補強リング540とからなる。図10Aに示す例では、リング状バルク体510として、2つのリング状バルク体512、514が設けられており、平面補強リング520として、3つの平面補強リング521、523、525が設けられている。また、内周補強リング540として、2つの内周補強リング542、544が設けられている。
本構成例に係るバルクマグネット500を構成するリング状積層体は、第1構成例〜第4構成例に係るリング状積層体と比較して、リング状バルク体510の内周面を補強するための内周補強リング540が、リング状バルク体510の内周面に結合または接着されている点で相違する。内周補強リング540は、平面補強リング520とも結合または接着しているため、線膨脹係数がリング状バルク体510より大きな素材である場合にも、リング状バルク体510および平面補強リング520の内周面と強固に結合することができる。したがって、これらの内周面を補強することができ、割れを抑制する効果を有する。
さらに、平面補強リング520、内周補強リング540および外周補強リング530として熱伝導度の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。このとき、平面補強リング520および外周補強リング530は、第1構成例に係るリング状積層体と同様に構成することができる。また、内周補強リング540についても、クエンチ抑制効果を高めるために、例えば、高い熱伝導率を有する銅、アルミニウム、銀等の金属を主成分として含む材質を用いることができる。高い熱伝導率を有する内周補強リング540の熱伝導率は、超電導材料内で発生した熱の伝達・吸収の観点から、冷凍機冷却等により安定して強磁場を発生できる20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。また、内周補強リング540は、同心円状に複数のリングを配置して構成することも可能である。すなわち、対向するリングの周面同士を接するようにして全体として1つの内周補強リングを構成する。この場合、内周補強リングを構成するリングのうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
また、このとき、リング状バルク体510の内周面と内周補強リング540の外周面とを密着させることが望ましい。また、内周補強リング540と平面補強リング520との基本的な位置関係としては、例えば図10Bに示すように、リング状バルク体510および平面補強リング520の内径を同一にして、1つの内周補強リング541を設けてもよい。
あるいは、図10Cに示すように、平面補強リング520の内径をリング状バルク体510の内径よりも僅かに小さくし、各リング状バルク体512、514、516の内周面にそれぞれ内周補強リング541、543、545を設け、各平面補強リング521、523、525の内径と内周補強リング541、543、545の内径とを同一とするようにしてもよい。内周補強リング540の肉厚が平面補強リング520の肉厚に対して大きい場合には、強度の観点から図10Cに示す構成であることが望ましい。これにより、内周補強リング540と平面補強リング520との接触面積を大きくすることができ、内周補強リング540と平面補強リング520との接続部分の強度を高めることができる。また、リング状バルク体510の内周径が異なる場合には、作業性の観点から、図10Dに示すように内周補強リング540が内周補強リング541、543、545のように分割されている方が望ましい。
なお、図10A〜図10Dでは、1つの外周補強リング530を設けた場合を示したが、本発明はかかる例に限定されず、例えば図10Eに示すように、3つのリング状バルク体512、514、516に対応して分割された3つの外周補強リング531、532、533を設けてもよい。このとき平面補強リング521、523、525、527は、外周補強リング531、532、533と外径が揃うように、リング状バルク体512、514、516よりも半径方向に延設される。
(第6構成例)
次に、図11A〜図11Cに基づいて、本実施形態に係るリング状積層体の第6構成例を説明する。図11A〜図11Cは、本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット600およびその変形例の中心軸線に沿って切断したときの部分断面図を示す。
本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット600は、リング状バルク体610と、平面補強リング620と、外周補強リング6300と、第2外周補強リング6310と、内周補強リング6400と、第2内周補強リング6410とからなる。図11Aに示す例では、リング状バルク体610として、5つのリング状バルク体611〜615が設けられており、平面補強リング620として、6つの平面補強リング621〜626が設けられている。さらに、各リング状バルク体611〜615の内周面および外周面には、第2外周補強リング6311〜6315および第2内周補強リング6411〜6415が設けられている。
本構成例に係るバルクマグネット600を構成するリング状積層体は、第1構成例〜第5構成例に係るリング状積層体と比較して、平面補強リング620の外周端部が第2外周補強リングと外周補強リングとで結合されている点、及び、平面補強リング620の内周端部が第2内周補強リングと内周補強リングとで結合されている点で相違する。ここで、第2外周補強リング、外周補強リング、第2内周補強リング及び内周補強リングは、金属を使用できるため、金属の平面補強リングと半田等により強固に接続することが可能である。したがって、二重構造を有する第2内周補強リング、内周補強リング、第2外周補強リング、外周補強リングにより側面および上下面の二方向からリング状バルク体611〜615を挟み込んで強固に結合することができる。この効果によりリング状バルク体610は、周囲の平面補強リング、第2内周補強リング、第2外周補強リングと強固に結合することができ、割れを抑制する顕著な効果を有する。
さらに、平面補強リング620、二重構造の第2内周補強リング6410、内周補強リング6400および二重構造の外周補強リング6300、第2外周補強リング6310として熱伝導度の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。このとき、平面補強リング620および外周補強リング6300、第2外周補強リング6310は、第1構成例に係るリング状積層体と同様に構成することができる。また、第2内周補強リング6410、内周補強リング6400についても、クエンチ抑制効果を高めるために、例えば、高い熱伝導率を有する銅、アルミニウム、銀等の金属を主成分として含む材質を用いることができる。高い熱伝導率を有する第2内周補強リング6410、内周補強リング6400の熱伝導率は、超電導材料内で発生した熱の伝達・吸収の観点から、冷凍機冷却等により安定して強磁場を発生できる20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。
また、第2内周補強リング6410、内周補強リング6400は、同心円状に複数のリングを配置して構成することも可能である。すなわち、対向するリングの周面同士を接するようにして全体として1つの第2内周補強リング6410、内周補強リング6400を構成する。この場合、第2内周補強リング6410、内周補強リング6400を構成する素材のうち少なくとも1つが20W/(m・K)以上の熱伝導率を有していればよい。
図11Bに、図11Aの変形例として、外周のみ二重リング構造による平面補強リングの外周端部の側面および上下面からの結合した場合の一例を示す。設計上、内径を確保する必要がある場合等、平面補強リングの内周端部は内周補強リング内による上下面からのみ結合する場合も考えられるためである。また、同様に、図11Cに内周のみ二重リング構造による平面補強リングの内周端部の側面および上下面からの結合した場合の一例を示す。設計上、外径の制約をある場合等、平面補強リングの外周端部は外周補強リングによる上下面からのみ結合する場合も考えられるためである。
(第7構成例)
次に、図12に基づいて、本実施形態に係るリング状積層体の第7構成例を説明する。図12は、リング状バルク体650の結晶学的方位の揺らぎを示す説明図である。
リング状バルク体650は単結晶材料であることから、結晶方位の異方性が捕捉磁束密度分布の乱れ(軸対称性からのズレ)として現れる。この結晶方位の異方性を平均化するために、リング状バルク体650の結晶方位をずらしながらリング状バルク体650を積層してもよい。
複数のリング状バルク体650を積層する際、相対的な結晶軸に関し、c軸方向が各リングの内周軸と略一致するように配置すると同時にa軸の方位をずらすことが望ましい。単結晶状のRE1Ba2Cu3Oy中にRE2BaCuO5が微細分散されたリング状バルク体650は、一般に単結晶状のRE1Ba2Cu3Oyの結晶方位に揺らぎを有している。c軸方向の揺らぎの大きさは、±15°程度あり、ここでいうc軸方向が各リングの内周軸と略一致するとは、単結方位のずれが±15°程度あることを意味する。a軸をずらす角度は積層枚数にもよるが、180°、90°等、4回対称にならない角度が望ましい。
このように、リング状バルク体650の結晶方位をずらしながらリング状バルク体650を積層することで、結晶方位の異方性を平均化することができる。
(第8構成例)
次に、図13A〜図13Dに基づいて、本実施形態に係るリング状積層体の第8構成例を説明する。図13Aは、本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット700の一例を示す概略分解斜視図である。図13B〜図13Dは、本構成例に係るリング状積層体を構成するリング状バルク体710の一例の平面図を示す。
本構成例に係るリング状積層体により構成されるバルクマグネット700は、第1構成例〜第7構成例に係るリング状積層体と比較して、酸化物超電導バルク体710が径方向に多重リング構造を有する点で相違する。多重リング構造とは、径方向に単一のリングではなく、複数のリングが同心円状に配置された構造をいう。例えば図13Bに示すように、リング状バルク体710は、内径および外径の異なる、径方向の幅が略同一であるリング状バルク体710a〜710eを、径方向に所定の隙間713を設けて同心円状に配置した五重リング構造としてもよい。
また、例えば図13Cに示すように、リング状バルク体710は、内径および外径の異なるリング状バルク体710a〜710cを、径方向に所定の隙間713を設けて同心円状に配置した四重リング構造としてもよい。このとき、リング状バルク体710cの径方向の幅が、他のリング状バルク体710a、710bの径方向の幅よりも大きくともよい。各リングの幅は設計事項である。
このような多重リング構造のリング状バルク体710を積層することによって、リング状バルク体710は、4回対称性を伴う結晶成長により超電導電流分布にも4回対称性が僅かに反映される傾向があるが、同心円の多重リング形状とすることで、着磁によって誘起される超電導電流の流路を軸対称に近づけるという作用が生ずる。この効果により、捕捉した磁場の均一性が向上する。このような特性を有するバルクマグネット700は、特に高い磁場均一性が求められるNMRやMRI応用に適している。
また、リング状バルク体710は、例えば図13Dに示すように、1つのリングに、同心円の円弧形状の隙間713を形成し、同一円周上にある隙間713の周方向に複数の継ぎ目715を設けるようにしてもよい。これにより、バルクマグネット700の組み立て作業を簡便にすることができる。
(円柱状積層体の構成例)
以上、本実施形態に係るリング状積層体の構成例について説明した。なお、本実施形態に係る円柱状積層体は、上述したリング状積層体の各構成例と同様の構成を取ることができる。具体的には、図6〜図13Dに示したような構成(内周補強リング、第2内周補強リングを除く)を円柱状積層体に対して適用することができる。以下、円柱状積層体の主な構成例について説明する。
(第1構成例)
まず、図14に基づいて、本実施形態に係る円柱状積層体の第1構成例を説明する。図14は、本構成例に係る円柱状積層体により構成されるバルクマグネット800の中心軸線に沿って切断したときの部分断面図を示す。図14に示す円柱状積層体の積層構造は、図7Bに示すリング状積層体の積層構造(すなわち、リング状積層体の第2構成例)に対応する。
本構成例に係るバルクマグネット800は、酸化物超電導体からなる円柱状バルク体810として3つの円柱状バルク体812、814、816が設けられており、平面補強板820として、4つの平面補強板821、823、825、827が設けられている。円柱状バルク体810と平面補強板820とは、円柱の中心軸線方向に、交互に積層される。例えば図14に示すように、円柱状バルク体812、814の間に平面補強板823が配置され、円柱状バルク体814、816の間に平面補強板825が配置されている。
また、円柱状バルク体812には、平面補強板823が配置された側と反対側の面に平面補強板821が設けられる。同様に、円柱状バルク体816には、平面補強板825が配置された側と反対側の面に平面補強板827が設けられる。このとき、最端部の平面補強板821およびもう一方の最端部の平面補強板827と、外周補強リング830との位置関係は、図14に示すように、平面補強板821、827が外周補強リング830内に収まるようにしてもよい。あるいは、平面補強板821、827の外径を外周補強リング830の外径と略同一として、外周補強リング830の端面を平面補強板821、827で覆うようにしてもよい。
本構成例によれば、積層された円柱状バルク体810の間および中心軸線方向の端部に、平面補強板820が配置される。このような円柱状バルク体810と平面補強板820とを交互に積層させて複合材料化することで、リング状積層体と同様に、その強度を高めることができる。さらに、平面補強板820および外周補強リング830として熱伝導度の高い材料を用いることで、クエンチの発生も抑制できる。これにより、高い磁場強度条件下でも、円柱状バルク体810の破損を防止することができ、バルクマグネット内部において十分な総磁束量を得ることができ、さらに、磁場の均一性が優れたバルクマグネット構造体を提供することができる。
なお、図14では、1つの外周補強リング830を設けた場合を示したが、本発明はかかる例に限定されず、例えば、複数の円柱状バルク体に対応して分割された複数の外周補強リングが設けられてもよい(図7D参照)。このとき平面補強板は、外周補強リングと外径が揃うように、円柱状バルク体よりも半径方向に延設される。
(第2構成例)
次に、図15に基づいて本実施形態に係る円柱状積層体の第2構成例を説明する。図15は、本構成例に係る円柱状積層体により構成されるバルクマグネット900の中心軸線に沿って切断したときの部分断面図を示す。
本構成例に係る円柱状積層体により構成されるバルクマグネット900は、円柱状バルク体910と、平面補強板920と、外周補強リング9300と、第2外周補強リング9310とからなる。図15に示す例では、円柱状バルク体910として、3つの円柱状バルク体912、914、916が設けられており、平面補強板920として、4つの平面補強板921、923、925、927が設けられている。また、円柱状バルク体912、914、916の外周面には、第2外周補強リング9312、9314、9316が設けられている。
本構成例に係るバルクマグネット900を構成する円柱状積層体は、第1構成例に係る円柱状積層体と比較して、平面補強板920の外周端部が第2外周補強リングと外周補強リングとで結合されている点で相違する。ここで、第2外周補強リングおよび外周補強リングは、金属を使用できるため、金属の平面補強板と半田等により強固に接続することが可能である。したがって、二重構造を有する第2外周補強リングおよび外周補強リングにより側面および上下面の二方向から円柱状バルク体912、914、916を挟み込んで強固に結合することができる。この効果により円柱状バルク体910は、周囲の平面補強板および第2外周補強リングと強固に結合することができ、割れを抑制する顕著な効果を有する。
(その他)
なお、リング状積層体と同様に、円柱状積層体を構成する平面補強板、外周補強リングおよび第2外周補強リングとして、熱伝導度の高い材料を用いることにより、クエンチの発生を抑制することができる。クエンチ抑制効果を高めるために、例えば、各部材として、高い熱伝導率を有する銅、アルミニウム、銀等の金属を主成分として含む材質を用いることができる。高い熱伝導率を有する平面補強板、外周補強リングおよび第2外周補強リングの熱伝導率は、超電導材料内で発生した熱の伝達・吸収の観点から、冷凍機冷却等により安定して強磁場を発生できる20K〜70Kの温度領域で20W/(m・K)以上が望ましく、さらに望ましくは、100W/(m・K)以上が望ましい。
また、円柱状バルク体の常温引張強度は60MPa程度であり、また、平面補強板を円柱状バルク体に貼り付けるための半田の常温引張強度は、通常80MPa未満である。このことから、常温引張強度が80MPa以上の平面補強板は、補強部材として有効である。そのため、平面補強板の強度は、常温引張強度が80MPa以上であることが好ましい。バルクマグネットの実際上の設計では、高強度金属からなる平面補強板を挿入する分、超電導材料の割合が減少するため、目的とする使用条件に合わせて、平面補強板の割合を決定すればよい。また、上記の観点から、平面補強板を、強度が高い高強度金属と熱伝導率が高い高強度金属とを複数それぞれの割合を決めて、組み合わせて構成することが望ましい。
以下に本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明の効果を実証するために行った例示にすぎず、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、上記の第1の実施形態に係るバルクマグネット構造体を作製し、当該バルクマグネット構造体を超電導マグネットにより着磁し、着磁させたバルクマグネット構造体の中心軸上の磁場分布を測定した。
まず、単結晶状のEuBa2Cu3Oy中にEu2BaCuO5が微細分散された組織を有する外径60mm、内径35mm、厚さ20mmのリング状バルク体を4個、および、同様の組織を有する外径60mm、厚さ20mmの円柱状バルク体を2個作製した。これらの6個のバルク体をステンレス(SUS316L)製の外径72mm、内径60mmの外周補強リングに嵌め込み、図4に示すように積層してバルクマグネット構造体を作製した。このとき、ステンレス製の外周補強リングと各バルク体との隙間にグリースを入れ、これらを接着した。
得られたバルクマグネット構造体は、冷却装置のコールドヘッド上に当該バルクマグネット構造体の円柱状バルク体とコールドヘッドとが接触するように固定され、真空断熱容器のカバーを装着した後、100Kに冷却した。そして、バルクマグネット構造体の中心軸が不図示の超電導マグネットの中心軸に一致するように、冷却装置のコールドヘッド部分を超電導マグネットの室温ボアに挿入した。その後、超電導マグネットの中心磁場が約5Tとなるように通電し、超電導マグネットを励磁した。
超電導マグネットの励磁完了後、バルクマグネット構造体を40Kに冷却し、温度が安定した後、超電導マグネットの印加磁場を0.05T/分でゼロ磁場まで減磁し、着磁を行った。着磁後、バルクマグネット構造体が固定された冷却装置のコールドヘッド部分を超電導マグネットの室温ボアから引き抜き、さらにバルクマグネット構造体を40Kから30Kに冷却した。その後、バルクマグネット構造体の中心軸上の磁場分布を測定した。
その結果、バルクマグネット構造体の積層方向の中心から10mmの範囲において、4ppmの磁場均一性が得られていることが確認された。また、バルクマグネット構造体に破損は全く生じなかった。以上から、バルクマグネット構造体の一部にリング加工を不要とし安価で得られる円柱状の超電導バルク体を用いた場合においても、高い磁場均一性を有する強磁場をバルクマグネット構造体に着磁させることが可能であることが確認された。
(実施例2)
実施例2では、上記の第2の実施形態に係るバルクマグネット構造体を作製し、当該バルクマグネット構造体を超電導マグネットにより着磁し、着磁させたバルクマグネット構造体の中心軸上の磁場分布を測定した。
まず、単結晶状のGdBa2Cu3Oy中にGd2BaCuO5が微細分散された組織を有する外径60mm、内径35mm、厚さ20mmのリング状バルク体を3個、および、同様の組織を有する外径60mm、内径35mm、厚さ10mmのリング状バルク体を2個作製した。そして、各リング状バルク体をステンレス(SUS316L)製の外径72mm、内径60mmの外周補強リングに嵌め込んだ。なお、各リング状バルク体と外周補強リングとの接合には半田を用いた。
また、同様の組織を有する外径60mm、内径30mm、厚さ2mmのリング状バルク体を8枚作製し、9枚の外径60mm、内径30mm、厚さ0.35mmのステンレス製平面補強リングをリング状バルク体と交互に積層してリング状積層体を作製し、外径72mm、内径60mm、厚さ20mmのステンレス(SUS316L)製の外周補強リング嵌め込んだ。このとき、外周補強リング、リング状バルク体および平面補強リングとは、半田によりそれぞれ接着した。
さらに、同様の組織を有する外径60mm、厚さ2mmの円柱状バルク体を8枚作製し、9枚の外径60mm、厚さ0.35mmのステンレス製平面補強板を円柱状バルク体と交互に積層して円柱状積層体を作製し、外径72mm、内径60mm、厚さ20mmのステンレス(SUS316L)製の外周補強リング嵌め込んだ。このとき、ステンレス製外周補強リング、円柱状バルク体およびステンレス板とは、半田によりそれぞれ接着した。
これらのリング状バルク体、リング状積層体および円柱状積層体のそれぞれからなるバルクマグネットを図5に示すように積層して、バルクマグネット構造体を作製した。
得られたバルクマグネット構造体は、冷却装置のコールドヘッド上に当該バルクマグネット構造体の円柱状積層体とコールドヘッドが接触するように固定され、真空断熱容器のカバーを装着した後、100Kに冷却した。そして、バルクマグネット構造体の中心軸が不図示の超電導マグネットの中心軸に一致するように、冷却装置のコールドヘッド部分を超電導マグネットの室温ボアに挿入した。その後、超電導マグネットの中心磁場が約5.5Tとなるように通電し、超電導マグネットを励磁した。
超電導マグネットの励磁完了後、バルクマグネット構造体を40Kに冷却し、温度が安定した後、超電導マグネットの印加磁場を0.05T/分でゼロ磁場まで減磁し、着磁を行った。着磁後、バルクマグネット構造体が固定された冷却装置のコールドヘッド部分を超電導マグネットの室温ボアから引き抜き、さらにバルクマグネット構造体を40Kから30Kに冷却した。その後、バルクマグネット構造体の中心軸上の磁場分布を測定した。
その結果、バルクマグネット構造体の積層方向の中心から10mmの範囲において、5ppmの磁場均一性が得られていることが確認された。また、バルクマグネット構造体に破損は全く生じなかった。以上から、高い磁場均一性を有し、かつさらに強力な磁場をバルクマグネット構造体に安定して着磁させることが可能であることが確認された。
(実施例3)
実施例3では、図16に示すバルクマグネット構造体50Cを作製し、当該バルクマグネット構造体を超電導マグネットにより着磁し、着磁させたバルクマグネット構造体の中心軸上の磁場分布を測定した。
ここで、実施例3に係るバルクマグネット構造体50Cの構成の一例について説明する。図16は、実施例3に係るバルクマグネット構造体50Cの一例を示す断面図である。図16に示すように、バルクマグネット構造体50Cは、リング状積層体51a、複数のリング状バルク体51b〜51e、円柱状バルク体51f、および円柱状積層体51gからなるバルク体部51Cと、各バルク体51a〜51gの外周にそれぞれ嵌合された外周補強リング53a〜53gからなる外周補強リング部53Cと、リング状積層体51aの内側に嵌合される内周補強リング55を含んでなる。バルクマグネット構造体50Cは、各バルク体51a〜51gの中心軸を揃えて積層し構成されている。また、図16に示すように、各バルク体51a〜51gの外径は同一であるが、リング状積層体51aの内径は、他のリング状バルク体51b〜51eの内径よりも小さくてもよい。また、図5に示すように、リング状バルク体51bおよび円柱状バルク体51fの軸方向の厚みは、リング状バルク体51c〜51eの軸方向の厚みより大きくてもよいが、かかる厚みは特に限定されない。
リング状積層体51aは、軸方向の厚みが小さいリング状酸化物超電導バルク体51a1と、平面補強リング51a2とが交互に積層して構成されている。さらに、リング状酸化物超電導バルク体51a1と外周補強リング53aの間には第2外周補強リング57aが配置され、リング状酸化物超電導バルク体51a1と内周補強リング55との間には、第2内周補強リング59が配置されている。かかるリング状積層体51aは、上記の第2実施形態のリング状積層体の第6構成例に係る構成と同一である。
また、円柱状積層体51gは、軸方向の厚みが小さい円柱状酸化物超電導バルク体51g1と、平面補強板51g2とが交互に積層して構成されている。さらに、円柱状酸化物超電導バルク体51g1と外周補強リング53gの間には第2外周補強リング57gが配置されている。かかる円柱状積層体51gは、上記の第2実施形態の円柱状積層体の第2構成例に係る円柱状積層体と同一である。
なお、図16に示すリング状積層体を構成するリング状バルク体および平面補強リングの積層数は例示であり、その数は特に限定されない。
本実施例の説明に戻ると、まず、単結晶状のGdBa2Cu3Oy中にGd2BaCuO5が微細分散された組織を有する外径68mm、内径40mm、厚さ20mmのリング状バルク体を3個、同様の組織を有する外径68mm、内径40mm、厚さ10mmのリング状バルク体を1個、および同様の組織を有する外径68mm、厚さ10mmの円柱状バルク体を1個作製した。そして、各リング状バルク体をステンレス(SUS316L)製の外径72mm、内径60mmの外周補強リングに嵌め込んだ。なお、各リング状バルク体と外周補強リングとの接合には半田を用いた。
また、同様の組織を有する外径68mm、内径40mm、厚さ2mmのリング状バルク体を8枚、外径72mm、内径37mm、厚さ0.4mmのステンレス製平面補強リングを9枚、外径72mm、内径68mm、厚さ2mmのステンレス製第2外周補強リングを8個、外径40mm、内径37mm、厚さ2mmのステンレス製第2内周補強リングを8個作製し、これらを外径84mm、内径74mm、厚さ20mmのステンレス(SUS316L)製外周補強リングおよび外径33mm、内径31mm、厚さ20mmのステンレス製内周補強リングの間に図16に示す構成となるよう配置した。このとき、リング状バルク体、平面補強リング、外周補強リング、内周補強リング、第2外周補強リングおよび内周補強リングは、半田によりそれぞれ接着した。
さらに、同様の組織を有する外径68mm、厚さ2mmの円柱状バルク体を8枚、外径72mm、厚さ0.4mmのステンレス製平面補強板を9枚、外径72mm、内径68mm、厚さ2mmのステンレス製第2外周補強リングを8個作製し、これらを外径84mm、内径74mm、厚さ20mmのステンレス(SUS316L)製外周補強リングの内側に図16に示す構成となるように配置した。このとき、円柱状バルク体、平面補強板、外周補強リング、および第2外周補強リングは、半田によりそれぞれ接着した。
これらのリング状バルク体、円柱状バルク体、リング状積層体および円柱状積層体のそれぞれからなるバルクマグネットを図16に示すように積層して、バルクマグネット構造体を作製した。
得られたバルクマグネット構造体は、冷却装置のコールドヘッド上に当該バルクマグネット構造体の円柱状積層体とコールドヘッドが接触するように固定され、真空断熱容器のカバーを装着した後、100Kに冷却した。そして、バルクマグネット構造体の中心軸が不図示の超電導マグネットの中心軸に一致するように、冷却装置のコールドヘッド部分を超電導マグネットの室温ボアに挿入した。その後、超電導マグネットの中心磁場が約6Tとなるように通電し、超電導マグネットを励磁した。
超電導マグネットの励磁完了後、バルクマグネット構造体を45Kに冷却し、温度が安定した後、超電導マグネットの印加磁場を0.05T/分でゼロ磁場まで減磁し、着磁を行った。着磁後、バルクマグネット構造体が固定された冷却装置のコールドヘッド部分を超電導マグネットの室温ボアから引き抜き、さらにバルクマグネット構造体を40Kから30Kに冷却した。その後、バルクマグネット構造体の中心軸上の磁場分布を測定した。
その結果、バルクマグネット構造体の積層方向の中心から10mmの範囲において、12ppmの磁場均一性が得られていることが確認された。また、バルクマグネット構造体に破損は全く生じなかった。以上から、高い磁場均一性を有し、かつさらに強力な磁場をバルクマグネット構造体に安定して着磁させることが可能であることが確認された。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。