JPWO2016076070A1 - 樹脂フィルムの製造方法 - Google Patents
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Abstract
本発明の一局面は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜を形成する流延工程と、流延膜を支持体から剥離する剥離工程とを備え、流延工程において、流延ダイからの樹脂溶液の吐出速度に対する支持体の走行速度の比であるドラフト比に応じて、流延ダイの吐出口と支持体との間隔を、樹脂溶液を流延させながら変更する樹脂フィルムの製造方法を用いることを特徴とする樹脂フィルムの製造方法である。
Description
本発明は、樹脂フィルムの製造方法に関する。
樹脂フィルムは、その化学的特性、機械的特性、及び電気的特性等に鑑み、様々な分野、例えば、液晶表示装置等に用いられている。具体的には、液晶表示装置の画像表示領域には、偏光板の偏光素子を保護するための透明保護フィルム等の、種々の樹脂フィルムが光学フィルムとして配置されている。このような樹脂フィルムとしては、例えば、セルロースエステルフィルム等の透明性に優れた樹脂フィルムが広く用いられている。
セルロースエステルフィルム等の樹脂フィルムは、例えば、セルロースエステル系樹脂等の原料樹脂を溶媒に溶解させた樹脂溶液(ドープ)を用いて製造することができる。このようなドープを用いた樹脂フィルムの製造方法としては、具体的には、例えば、溶液流延製膜法等が挙げられる。溶液流延製膜法とは、走行する支持体上にドープを流延して流延膜(ウェブ)を形成し、剥離可能な程度まで乾燥させた後、フィルムとして前記支持体から剥離し、剥離したフィルムを搬送ローラで搬送しながら、乾燥させたり、延伸させたりして、長尺状の樹脂フィルムを製造する方法である。
上記のような溶液流延製膜法により樹脂フィルムを製造すると、流延ダイの吐出口付近の外表面に、ドープに基づく皮膜、いわゆる、かわばりが形成されることがある。このような皮膜は、流延するドープの流れを乱し、樹脂フィルムの製造を阻害することがある。具体的には、製造された樹脂フィルムに、ダイすじと呼ばれる、前記皮膜を原因としたすじが形成される場合がある。さらに、流延ダイから皮膜が離脱し、その皮膜が、形成される樹脂フィルムに不具合を発生させることもある。
溶液流延製膜法による樹脂フィルムの製造方法において、上述したような皮膜の形成を抑制する方法としては、例えば、特許文献1に記載の流延ダイを用いる方法等が挙げられる。
特許文献1には、ポリマー及び溶媒を含むドープをスリットから流出する流延ダイにおいて、前記スリットの長手方向流路面をなす一対の第1スリット部材と、前記スリットの幅方向流路面をなす一対の第2スリット部材とを有し、前記ドープの流出方向における、前記第1スリット部材に対する前記第2スリット部材の突出量、或いは、前記第2スリット部材に対する前記第1スリット部材の突出量が、9μm以下である流延ダイが記載されている。
特許文献1によれば、スリットから流出したドープの径がスリットの流出口の径よりも大きくなるダイスウェル現象による、流出口におけるドープの滞留が抑制されるため、ドープの皮張りの発生を防ぐことができる旨が開示されている。
また、画像表示装置は、薄型軽量化、大型画面化、及び高精細化等が求められている。画像表示装置に適用される樹脂フィルムである光学フィルムも、これらの要求に伴って、薄膜化、幅広化、及び高品質化等がますます求められるようになってきている。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、高品質な樹脂フィルムを製造できる樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
本発明の一局面は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程とを備え、前記流延工程において、前記流延ダイからの前記樹脂溶液の吐出速度に対する前記支持体の走行速度の比に応じて、前記流延ダイの吐出口と前記支持体との間隔を、前記樹脂溶液を流延させながら変更することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法である。
上記並びにその他の本発明の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な記載と添付図面とから明らかになるだろう。
本発明者の検討によれば、引用文献1に記載の流延ダイを用いても、ドープに基づく皮膜であるかわばりの発生を充分に抑制できない場合があった。
また、画像表示装置に適用される樹脂フィルムは、上述したように、薄膜化、幅広化、及び高品質化等がますます求められるようになってきている。本発明者の検討によれば、薄膜化した樹脂フィルムを製造する場合、流延ダイの吐出口付近の外表面に、ドープに基づく皮膜であるかわばりが発生しやすかった。例えば、このような膜厚の薄い樹脂フィルムを製造する場合、引用文献1に記載の流延ダイを用いても、ドープに基づく皮膜であるかわばりの発生の抑制が不充分になることが多かった。このような膜厚の薄い樹脂フィルムを製造するために、流延ダイのスリット間隔を狭くした場合であっても、上述したような皮膜が形成されにくく、好適な樹脂フィルムを製造できることが求められている。
また、本発明者の検討によれば、流延ダイの吐出口付近の外表面に、ドープに基づく皮膜であるかわばりが発生しやすい状況は、以下のような状況であることを見出した。
まず、流延ダイからの樹脂溶液の吐出速度に対する支持体の走行速度の比であるドラフト比が低いときに、ドープが吐出口から吐出された後に減速するため、流延ダイの吐出口付近の外表面に、ドープに基づく皮膜であるかわばりが発生しやすいことを見出した。また、膜厚の薄い樹脂フィルム、例えば、膜厚40μm以下の樹脂フィルムを製造する場合、かわばりの発生は顕著である。
そこで、本発明者は、流延ダイの吐出口と支持体との間隔を広げると、上記のようなかわばりが発生しにくいことを見出した。
一方で、薄膜化した樹脂フィルムを製造するため、ドラフト比を高めた場合、流延ダイの吐出口と支持体との間隔が広いと、外部環境に影響を受けやすくなる。例えば、支持体の走行に伴って、支持体の表面近傍に、流延リボンに向かって吹く風によって、流延リボンが揺れ、そのことにより、製造された樹脂フィルムにむらが発生することがある。
以上のことから、本発明者は、樹脂フィルムの製造時において、ドラフト比に応じて、流延ダイの吐出口と支持体との間隔を変更することに着目し、以下のような本発明に想到するに到った。
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液(ドープ)を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜(ウェブ)を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体からフィルムとして剥離する剥離工程とを備える、いわゆる溶液流延製膜法による製造方法である。また、樹脂フィルムの製造方法としては、上記各工程に加えて、剥離したフィルムを延伸させる延伸工程や剥離したフィルムを乾燥させる乾燥工程を備えていてもよい。そして、樹脂フィルムの製造方法としては、例えば、図1に示すような溶液流延製膜法による樹脂フィルムの製造装置等によって行う方法等が挙げられる。なお、樹脂フィルムの製造装置は、図1に示すもの限定されず、他の構成のものであってもよい。また、図1は、本発明の実施形態における、樹脂フィルムの製造装置の基本的な構成の一例を示す概略図である。また、ここでのフィルムとは、支持体上に流延されたドープからなる流延膜(ウェブ)が支持体上で乾燥され、支持体から剥離しうる状態となった以後のものをいう。
樹脂フィルムの製造装置は、無端ベルト支持体11、流延ダイ20、剥離ローラ13、延伸装置16、乾燥装置17、及び巻取装置19等を備える。流延ダイ20は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液(ドープ)14をリボン状に吐出して、無端ベルト支持体11の表面上に流延する。前記無端ベルト支持体11は、一対のローラ12によって駆動可能に支持され、流延ダイ20から流延された樹脂溶液14からなる流延膜(ウェブ)を形成し、搬送しながら、前記剥離ローラ13で剥離可能な程度まで乾燥させる。そして、前記剥離ローラ13は、ある程度乾燥した流延膜を前記無端ベルト支持体11から剥離して、フィルム15を得る。剥離されたフィルム15は、延伸装置16によって、幅方向等の所定の方向に延伸される。また、延伸されたフィルム15は、乾燥装置17によって、さらに乾燥され、乾燥されたフィルムFを樹脂フィルムとして巻取装置19によって、ロール状に巻き取る。
前記流延ダイ20は、ドープ14をリボン状に吐出して、無端ベルト支持体11の表面上に流延することができれば、特に限定されない。また、前記流延ダイ20は、図2に示すように、流延ダイ本体21とドープ供給管22とを備えている。前記ドープ供給管22は、前記流延ダイ本体21の上端部に接続され、流延ダイ本体21内にドープ26(14)を供給する。前記流延ダイ本体21は、ドープを前記無端ベルト支持体11に安定して流延させるためのマニホールド部21a、ドープ26を吐出することによりドープ26を無端ベルト支持体11に流延させるための吐出口21b、及び前記マニホールド部21aと前記吐出口21bとの間に形成され、前記マニホールド部21aから前記吐出口21bに向かって、ドープ26を通過させるためのスリット部21cを備える。なお、図2は、図1に示す樹脂フィルムの製造装置に備えられた流延ダイの概略断面図である。
そして、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、前記流延工程において、前記流延ダイ20からの前記樹脂溶液14の吐出速度に対する前記無端ベルト支持体11の走行速度の比であるドラフト比(走行速度/吐出速度)に応じて、前記吐出口21bと前記無端ベルト支持体11との間隔Aを、前記樹脂溶液を流延させながら変更する。すなわち、前記吐出口21bと前記無端ベルト支持体11との間隔Aは、ドラフト比に応じて、前記樹脂溶液14を流延しながら変更される。なお、このドラフト比は、上述したように、流延ダイ20からの樹脂溶液14の吐出速度に対する無端ベルト支持体11の走行速度の比であり、無端ベルト支持体11上の乾燥前の流延膜の厚みCに対するスリット間隔Bの比(B/C)に近似される。なお、スリット間隔Bは、スリット部を構成する一対の面の間の距離である。
また、スリット間隔Bは、樹脂フィルムの製造中に変更しにくいので、膜厚の厚い樹脂フィルムを製造するためには、スリット間隔Bを変えないことが多い。これらのことから、スリット間隔Bを変えずに、流延膜の厚みCを厚くし、膜厚の厚い樹脂フィルムを製造するためには、ドラフト比を低くする必要がある。一方で、スリット間隔Bを変えずに、膜厚の薄い樹脂フィルムを製造するためには、ドラフト比を高くする必要がある。このように、ドラフト比によって、得られる樹脂フィルムの膜厚を変更することがある。このような場合等に、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法のように、樹脂フィルムの製造中に、ドラフト比に応じて、前記間隔Aを変更できると、前記間隔Aをドラフト比に応じた好適な間隔にすることができる。これらのことから、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によれば、膜厚の薄い樹脂フィルムが得られるように、スリット間隔Bが狭い状態で樹脂フィルムを製造する場合であっても、高品質な樹脂フィルムが得られる。
また、間隔Aが狭すぎると、前記流延ダイ20の吐出口21b付近の外表面に、ドープに基づく皮膜であるかわばりが発生しやすい。これは、樹脂フィルムの製造を開始してから、安定して樹脂フィルムを製造できるまでの間、具体的には、樹脂フィルムの製造条件を調整している間等のドラフト比が低い場合に、流延ダイ20の吐出口21b付近の外表面に、ドープに基づく皮膜であるかわばりが発生しやすい。このようなときに、前記間隔Aを広げると、ドラフト比が低いときに発生しうる不具合の発生を抑制できる。一方で、安定して樹脂フィルムを製造できるようになった後、具体的には、樹脂フィルムが所定の条件で製造できるようになった後等のドラフト比が高い場合に、流延リボンの揺れによる樹脂フィルムのむらが発生しやすい。そして、前記間隔Aが広すぎると、流延リボンが風等の外的な要因の影響を受けやすいため、このようなときに、前記間隔Aを狭くすると、ドラフト比が高いときに発生しうる不具合の発生を抑制できる。以上のように、前記間隔Aを、前記ドープ14の流延中に、ドラフト比に応じて、変更することによって、上記不具合の発生を好適に抑制でき、高品質な樹脂フィルムを製造できる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、ドラフト比の増加に伴い、前記間隔Aが小さくなるように、前記間隔Aを変更することが好ましい。そうすることによって、まず、前記間隔Aを小さくすることによって、上述した、ドラフト比が高くなった際に発生しうる不具合、例えば、風によるむらの発生を抑制することができる。また、前記間隔Aを大きくすることによって、ドラフト比が低くなった際に発生しうる不具合、例えば、流延ダイの吐出口付近の外表面に、ドープに基づく皮膜の発生を、充分に抑制できる。この皮膜の発生を充分に抑制できることから、得られた樹脂フィルムに、この皮膜によるすじであるダイすじが発生することを充分に抑制できる。これらのことから、より高品質な樹脂フィルムを製造できる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法は、樹脂フィルムの製造開始直後から、樹脂フィルムを製造するための所定の条件にならないことが多い。このため、前記流延工程としては、前記樹脂フィルムを製造するための所定の条件で流延する製造時流延工程と、前記製造時流延工程の前に、前記所定の条件になるように調整しながら流延する調整時流延工程とを備え、それらの工程が連続して行われるようにすることが多い。すなわち、前記流延工程は、調整時流延工程で、ドープ14を流延しながら、流延条件を調整した後に、製造時流延工程で、前記樹脂フィルムを製造するための所定の条件でドープ14を流延する。そして、樹脂フィルムの製造開始直後は、前記無端ベルト支持体11上に形成されたフィルムを、手で剥離し、その後の延伸工程や乾燥工程等に、手動で移動させる。このため、樹脂フィルムを製造するための所定の条件になるように、条件を調整しながら、樹脂溶液を流延する調整時流延工程で得られたフィルムは、厚いことが多い。このため、ドラフト比が低くする必要がある。そして、前記支持体の走行速度は、徐々に高めることが多い。そうすることで、膜厚の薄い樹脂フィルムを得る。このため、製造時流延工程では、ドラフト比が高いことが多い。このような状況から、前記製造時流延工程時の前記間隔Aが、前記調整時流延工程時の前記間隔Aより小さくなるように、前記間隔Aを変更することが好ましい。そうすることによって、より高品質な樹脂フィルムを製造できる。
また、前記間隔Aは、0.3〜10mmであることが好ましく、0.4〜8mmであることがより好ましく、0.5〜7mmであることがより好ましい。すなわち、前記間隔Aが、この範囲内で、変更することが好ましい。ドラフト比が高くなった際に発生しうる不具合の発生を抑制するためでも、前記間隔Aが狭すぎると、無端ベルト支持体11の走行中に、無端ベルト支持体11の走行位置が変動し、無端ベルト支持体11と流延ダイ20との接触が起こりやすくなる。また、前記間隔Aが0.3mm程度で、ドラフト比が高くなった際に発生しうる不具合の発生を充分に抑制できる。また、ドラフト比が低くなった際に発生しうる不具合の発生を抑制するためでも、前記間隔Aが広すぎると、流延リボンが、無端ベルト支持体11に到達する前に、すだれ状に分割される等、ドープの流延が好適に行われにくくなる。また、前記間隔Aが10mm程度で、ドラフト比が低くなった際に発生しうる不具合の発生を充分に抑制できる。また、ドラフト比が0.9未満のときには、前記間隔Aは、5mm以上であることが好ましい。すなわち、前記間隔Aが5〜10mmであることが好ましい。また、ドラフト比が0.9以上のときには、前記間隔Aは、5mm未満であることが好ましい。すなわち、前記間隔Aが0.3mm以上5mm未満であることが好ましい。
また、前記間隔Aは、前記流延ダイ20の吐出口21bと無端ベルト支持体11との最短距離である。この前記間隔Aは、前記流延ダイ20の位置を変更することによって、変更してもよいし、無端ベルト支持体11の位置を変更することによって、変更してもよいし、両者を変更することによって、変更してもよい。この中でも、前記間隔Aは、前記流延ダイ20の位置を変更することによって、変更することが好ましい。すなわち、前記間隔Aは、前記流延ダイ20の位置を調整する位置調整部を用いて変更することが好ましい。走行している無端ベルト支持体11を移動させるより、前記流延ダイ20を移動させたほうが、前記間隔Aを容易に変更させることができる。また、前記流延ダイ20の移動方法は、特に限定されない。具体的には、くさび状部材であるコッタを用いた移動方法が挙げられる。まず、流延ダイ20には、図3及び図4に示すように、その長手方向両端部外側に、それぞれ、一対のくさび状部材31,32が備えられる。そして、一方のくさび状部材31は、前記流延ダイ20が、前記無端ベルト支持体11に近接又は離間する方向に移動可能となるように、流延ダイ20の長手方向端部外側に固定されている。そして、他方のくさび状部材32は、一方のくさび状部材31の斜面に接する斜面を有する。この他方のくさび状部材32は、図4に示すように、ねじ33で、一方のくさび状部材31の移動方向に直交する方向に移動する。この他方のくさび状部材32の移動によって、前記一方のくさび状部材が、前記無端ベルト支持体11に近接又は離間する方向に移動し、よって、流延ダイ20が、前記無端ベルト支持体11に近接又は離間する方向に移動する。位置調整部として、このようなくさび状部材であるコッタを用いることによって、前記間隔Aをより容易に変更させることができる。なお、図3は、流延ダイの上面図である。また、図4は、流延ダイの移動を説明するための図であり、流延ダイの側面図である。
また、ドラフト比は、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法では、そのドラフト比に応じて、前記間隔Aを変更するものであるので、特に限定されない。ドラフト比としては、具体的には、0.5〜2.5程度であることが好ましい。また、前記製造時流延工程におけるドラフト比としては、例えば、1〜2程度であることが好ましい。また、前記調整時流延工程におけるドラフト比としては、例えば、0.7〜1.5程度であることが好ましい。前記ドラフト比がこの範囲内であると、安定して流延膜を形成させることができる。例えば、ドラフト比が大きすぎると、流延膜が幅方向に縮小されるネックインという現象を発生させるため、広幅のフィルムを形成できなくなる。
無端ベルト支持体11は、図1に示すように、無限に走行する無端ベルトであり、例えば、表面が鏡面の、無限に走行する金属製の無端ベルト等が好ましく用いられる。無端ベルトとしては、流延膜の剥離性の点から、例えば、ステンレス鋼等からなるベルトが好ましく用いられる。流延ダイ20によって流延する流延膜の幅は、無端ベルト支持体11の幅を有効活用する観点から、無端ベルト支持体11の幅に対して、80〜99%とすることが好ましい。そして、例えば、最終的に1500〜4000mmの幅の樹脂フィルムを得るためには、無端ベルト支持体11の幅は、1800〜4500mmであることが好ましい。また、無端ベルト支持体の代わりに、図5に示すような、ドラム支持体41を用いてもよい。このドラム支持体41としては、例えば、表面が鏡面の、回転する金属製のドラム等が好ましく用いられる。
そして、無端ベルト支持体11は、その表面上に形成された流延膜(ウェブ)を搬送しながら、ドープ中の溶媒を乾燥させる。前記乾燥は、例えば、無端ベルト支持体11を加熱したり、加熱風をウェブに吹き付けることによって行う。
また、無端ベルト支持体11の走行速度は、前記ドラフト比と前記間隔Aとの上記関係を満たすような走行速度であれば、特に限定されない。無端ベルト支持体11の走行速度としては、例えば、1〜150m/分程度であることが好ましい。また、前記製造時流延工程における無端ベルト支持体11の走行速度としては、例えば、50〜150m/分程度であることが好ましい。また、前記調整時流延工程における無端ベルト支持体11の走行速度としては、例えば、1〜50m/分程度であることが好ましい。
剥離ローラ13は、無端ベルト支持体11のドープが流延される側の表面近傍に配置されており、無端ベルト支持体11と剥離ローラ13との距離は、1〜100mmであることが好ましい。また、剥離ローラ13は、無端ベルト支持体11上の、ある程度乾燥したウェブを剥離する際に用いる。この剥離ローラ13を支点として、乾燥されたウェブに張力をかけて引っ張ることによって、乾燥されたウェブがフィルム15として剥離される。また、無端ベルト支持体11からフィルムを剥離する際に、剥離張力及びその後の搬送張力によってフィルム15は、フィルムの搬送方向(Machine Direction:MD方向)に延伸される。
延伸装置16は、無端ベルト支持体11から剥離されたフィルム15を、ウェブの搬送方向と直交する方向(Transverse Direction:TD方向)に延伸させる。具体的には、フィルムの搬送方向に垂直な方向の両端部をクリップ等で把持して、対向するクリップ間の距離を大きくすることによって、TD方向に延伸する。
乾燥装置17は、複数の搬送ローラを備え、そのローラ間をフィルムを搬送させる間にフィルムを乾燥させる。その際、図1に示すように、加熱空気18を、乾燥装置17内に流通させることによって乾燥してもよいし、赤外線等を用いて乾燥してもよいし、または、加熱空気と赤外線とを併用して乾燥してもよい。簡便さの点から加熱空気を用いることが好ましい。
巻取装置19は、乾燥装置17で所定の残留溶媒率となったフィルムFを、巻き芯に巻き取る。また、フィルムFを巻き芯に巻き取る前に、フィルムの幅方向両端部にホットエンボス機構によりエンボス加工を施してもよい。なお、巻き取る際の温度は、巻き取り後の収縮によるすりきず、巻き緩み等を防止するために室温まで冷却することが好ましい。使用する巻取装置は、特に限定なく使用でき、一般的に使用されている巻取装置でよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の巻き取り方法で巻き取ることができる。
また、樹脂フィルムの製造装置は、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法を実施できれば、特に限定されない。具体的には、樹脂フィルムの製造装置は、延伸装置や乾燥装置を備えていなくてもよく、また、それぞれが1つずつではなく、複数個ずつ備えられたものであってもよい。
また、樹脂フィルムの製造装置は、上記で説明した態様では、支持体として、無端ベルト支持体を備えたものを例示したが、図5に示すような、ドラム支持体41を備えたものであってもよい。なお、図5は、本発明の実施形態における、樹脂フィルムの製造装置の基本的な構成の他の一例を示す概略図である。具体的には、図5は、ドラム支持体41を使用した溶液流延製膜法による樹脂フィルムの製造装置の基本的な構成を示す概略図である。この樹脂フィルムの製造装置は、無端ベルト支持体11の代わりに、ドラム支持体41を備えたこと以外、図1に示す樹脂フィルムの製造装置と同様である。また、ドラム支持体41としては、例えば、表面にハードクロムめっき処理を施したステンレス鋼製の回転駆動ドラム等が挙げられる。
以下、本実施形態で使用する樹脂溶液(ドープ)の組成について説明する。
本実施形態で使用する樹脂溶液(ドープ)は、透明性樹脂を溶媒に溶解させたものである。
前記透明性樹脂は、溶液流延製膜法等によって基板状に成形したときに透明性を有する樹脂であればよく、特に制限されないが、溶液流延製膜法等による製造が容易であること、ハードコート層等の他の機能層との接着性に優れていること、光学的に等方性であること等が好ましい。なお、ここで透明性とは、可視光の透過率が60%以上であることであり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
前記透明性樹脂としては、具体的には、例えば、セルロースジアセテート樹脂、セルローストリアセテート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリメチルメタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂;ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、セロファン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、シンジオタクティックポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等のビニル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルケトンイミド樹脂;ポリアミド系樹脂;フッ素系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、セルロースエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)系樹脂が好ましい。さらに、セルロースエステル系樹脂が好ましく、セルロースエステル系樹脂の中でも、セルロースアセテート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、セルロースブチレート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルローストリアセテート樹脂が好ましく、セルローストリアセテート樹脂が特に好ましい。また、前記透明性樹脂は、上記例示した透明性樹脂を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
次に、前記セルロースエステル系樹脂について説明する。
セルロースエステル系樹脂の数平均分子量は、30000〜200000であることが、樹脂フィルムに成型した場合の機械的強度が強く、かつ、溶液流延製膜法において適度なドープ粘度となる点で好ましい。また、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が、1〜5の範囲内であることが好ましく、1.4〜3の範囲内であることがより好ましい。
また、セルロースエステル系樹脂等の樹脂の平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用い測定できる。よって、これらを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を算出し、その比を計算することができる。
セルロースエステル系樹脂は、置換基として、アシル基、具体的には、炭素数が2〜4のアシル基を有しているものが好ましい。このアシル基の置換度としては、例えば、2.2〜2.95であることが好ましい。また、その置換度としては、例えば、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、XとYとの合計値が2.2以上2.95以下であって、Xが0より大きく2.95以下であることが好ましい。
また、アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらのセルロースエステル系樹脂は、公知の方法で合成することができる。アシル基の置換度の測定方法は、ASTM−D817−96の規定に準じて測定することができる。
本実施形態で使用される溶媒は、前記透明性樹脂に対する良溶媒を含有する溶媒を用いることができる。前記良溶媒は、使用する透明性樹脂によって異なる。例えば、透明性樹脂がセルロースエステル系樹脂の場合、セルロースエステルのアシル基置換度によって、良溶媒と貧溶媒とが変わり、例えばアセトンを溶媒として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶媒になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶媒となる。したがって、使用する透明性樹脂により、良溶媒及び貧溶媒が異なってくるので、一例としてセルロースエステル系樹脂の場合について説明する。
セルロースエステル系樹脂に対する良溶媒としては、例えば、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、ジオキソラン誘導体、シクロヘキサノン、蟻酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等が挙げられる。これらの中でも、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン誘導体、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン等が好ましい。これらの中でも、メチレンクロライドが好ましい。これらの良溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、ドープには、透明性樹脂が析出してこない範囲で、貧溶媒を含有させてもよい。セルロースエステル系樹脂に対する貧溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸プロピル、モノクロルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルセルソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、エタノールが好ましい。これらの貧溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、本実施形態で使用される樹脂溶液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記透明性樹脂、及び前記溶媒以外の他の成分(添加剤)を含有してもよい。前記添加剤としては、例えば、微粒子、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、導電性物質、難燃剤、滑剤、及びマット剤等が挙げられる。
次にドープを調製する方法の一例として、透明性樹脂としてセルロースエステル系樹脂を用いた場合について説明する。
ドープを調製する時の、セルロースエステル系樹脂の溶解方法としては、特に限定なく、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせることによって、常圧における溶媒の沸点以上に加熱できることを利用し、常圧における沸点以上で溶媒にセルロースエステル系樹脂を溶解させることが、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止する点から好ましい。また、セルロースエステル系樹脂を貧溶媒と混合して湿潤又は膨潤させた後、さらに良溶媒を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
次に、得られたセルロースエステル系樹脂の溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。
以上のような、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によれば、膜厚の薄い樹脂フィルムが得られるように、スリット間隔が狭い状態で樹脂フィルムを製造する場合であっても、高品質な樹脂フィルムを製造することができる。すなわち、膜厚の薄い樹脂フィルムであっても、高品質な樹脂フィルムを製造することができる。よって、得られた樹脂フィルムは、膜厚が薄くても、高品質なものである。
また、前記樹脂フィルムの厚み(膜厚)は、40μm以下であることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましく、15〜30μmであることがさらに好ましい。このような膜厚であれば、液晶表示装置の薄型化や樹脂フィルムの安定生産性等から好ましい。一方で、膜厚の薄い樹脂フィルムを製造しようとすると、ドラフト比が低い場合における不具合も、ドラフト比が高い場合における不具合も発生しやすい。そうであったとしても、本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法であれば、これらの不具合の発生を充分に抑制できる。よって、液晶表示装置の薄型化等を好適に実現できる樹脂フィルムが得られる。なお、ここでの膜厚とは、平均膜厚のことである。この測定方法としては、例えば、株式会社ミツトヨ製の接触式膜厚計により、光学フィルムの幅方向に20〜200箇所、膜厚を測定し、その測定値の平均値を膜厚として算出する。
また、ここで得られる樹脂フィルムの幅は、大型の液晶表示装置への使用、偏光板加工時の樹脂フィルムの使用効率、生産効率の点から、1000〜4000mmであることが好ましい。
(偏光板)
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によって得られた樹脂フィルムは、偏光板の保護フィルムとして用いることができる。このように樹脂フィルムを保護フィルムとして用いた偏光板は、偏光素子と、前記偏光素子の表面上に配置された透明保護フィルムとを備え、前記透明保護フィルムが、前記樹脂フィルムである。前記偏光素子とは、入射光を偏光に変えて射出する光学素子である。
本実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法によって得られた樹脂フィルムは、偏光板の保護フィルムとして用いることができる。このように樹脂フィルムを保護フィルムとして用いた偏光板は、偏光素子と、前記偏光素子の表面上に配置された透明保護フィルムとを備え、前記透明保護フィルムが、前記樹脂フィルムである。前記偏光素子とは、入射光を偏光に変えて射出する光学素子である。
前記偏光板としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬して延伸することによって作製される偏光素子の少なくとも一方の表面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて、前記樹脂フィルムを貼り合わせたものが好ましい。また、前記偏光素子のもう一方の表面にも、前記樹脂フィルムを積層させてもよいし、別の偏光板用の透明保護フィルムを積層させてもよい。
前記偏光板は、上述のように、偏光素子の少なくとも一方の表面側に積層する保護フィルムとして、前記樹脂フィルムを使用したものである。その際、前記樹脂フィルムが位相差フィルムとして働く場合、樹脂フィルムの遅相軸が偏光素子の吸収軸に実質的に平行または直交するように配置されていることが好ましい。
このような偏光板は、透明保護フィルムとして、本実施形態に係る樹脂フィルムを用いている。この樹脂フィルムは、薄くても、高品質である。このため、得られた偏光板も、薄くても、高品質である。よって、得られた偏光板は、例えば、液晶表示装置に適用した際に、液晶表示装置の高画質化を実現できるものである。
(液晶表示装置)
また、前記偏光板は、液晶表示装置の偏光板として用いることができる。前記偏光板を備えた液晶表示装置は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板とを備え、前記2枚の偏光板のうち少なくとも一方が、前記偏光板である。なお、液晶セルとは、一対の電極間に液晶物質が充填されたものであり、この電極に電圧を印加することで、液晶の配向状態が変化され、透過光量が制御される。このような液晶表示装置は、偏光板用の透明保護フィルムとして、前記偏光板を用いる。そうすることによって、コントラスト等が向上された、高画質な液晶表示装置が得られる。
また、前記偏光板は、液晶表示装置の偏光板として用いることができる。前記偏光板を備えた液晶表示装置は、液晶セルと、前記液晶セルを挟むように配置された2枚の偏光板とを備え、前記2枚の偏光板のうち少なくとも一方が、前記偏光板である。なお、液晶セルとは、一対の電極間に液晶物質が充填されたものであり、この電極に電圧を印加することで、液晶の配向状態が変化され、透過光量が制御される。このような液晶表示装置は、偏光板用の透明保護フィルムとして、前記偏光板を用いる。そうすることによって、コントラスト等が向上された、高画質な液晶表示装置が得られる。
本明細書は、上述したように、様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
本発明の一局面は、透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程とを備え、前記流延工程において、前記流延ダイからの前記樹脂溶液の吐出速度に対する前記支持体の走行速度の比に応じて、前記流延ダイの吐出口と前記支持体との間隔を、前記樹脂溶液を流延させながら変更することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法である。
このような構成によれば、前記流延ダイからの前記樹脂溶液の吐出速度に対する前記支持体の走行速度の比であるドラフト比に応じて、前記流延ダイの吐出口と前記支持体との間隔を、樹脂フィルムの製造中に、適宜、変更できる。このため、前記流延ダイの吐出口と前記支持体との間隔を、ドラフト比に応じた好適な間隔にすることができる。よって、高品質な樹脂フィルムを製造できる樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。すなわち、膜厚の薄い樹脂フィルムが得られるように、スリット間隔が狭い状態で樹脂フィルムを製造する場合であっても、高品質な樹脂フィルムを製造できる樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記比の増加に伴い、前記間隔が小さくなるように、前記間隔を変更することが好ましい。
このような構成によれば、まず、ドラフト比が高くなった際に発生しうる不具合、例えば、風によるむらの発生を、前記間隔を小さくすることにより、抑制することができる。また、ドラフト比が低くなった際に発生しうる不具合、例えば、流延ダイの吐出口付近の外表面に、ドープに基づく皮膜の発生を、充分に抑制できる。この皮膜の発生を充分に抑制できることから、得られた樹脂フィルムに、この皮膜によるすじであるダイすじが発生することを充分に抑制できる。これらのことから、より高品質な樹脂フィルムを製造できる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記流延工程が、前記樹脂フィルムを製造するための所定の条件で流延する製造時流延工程と、前記製造時流延工程の前に、前記所定の条件になるように調整しながら流延する調整時流延工程とを備え、前記製造時流延工程と前記調整時流延工程とを連続して行い、前記製造時流延工程時の前記間隔が、前記調整時流延工程時の前記間隔より小さくなるように、前記間隔を変更することが好ましい。
まず、樹脂フィルムの製造開始直後は、条件変更時にしわの入りにくい厚いフィルムで搬送を行う。また、このドラフト比は、流延ダイからの樹脂溶液の吐出速度に対する支持体の走行速度の比であり、前記支持体上の乾燥前の流延膜の厚みに対するスリット間隔の比に近似される。このため、スリット間隔を変えずに、支持体上の乾燥前の流延膜の厚みを厚くし、厚いフィルムを得るためには、ドラフト比が低くする必要がある。これらのことから、調整時流延工程では、ドラフト比が低いことが多い。
そして、前記支持体の走行速度は、徐々に高めることが多い。そうすることで、膜厚の薄い樹脂フィルムを得る。このため、製造時流延工程では、ドラフト比が高いことが多い。
このような状況であるので、前記製造時流延工程時の前記間隔が、前記調整時流延工程時の前記間隔より小さくなるように、前記間隔を変更することによって、より高品質な樹脂フィルムを製造できる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記間隔が、0.3〜10mmであることが好ましい。
このような構成によれば、前記流延ダイの吐出口と前記支持体との間隔を、ドラフト比に応じた好適な間隔にすることができる。よって、より高品質な樹脂フィルムを製造できる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記比が0.9未満のときには、前記間隔が5mm以上10mm以下、前記比が0.9以上のときには、前記間隔が0.3mm以上5mm未満となるように、前記間隔を変更することが好ましい。
まず、前記比が0.9未満で、樹脂フィルムの製造を継続すると、ドラフト比が低くなった際に発生しうる不具合、例えば、流延ダイの吐出口付近の外表面に、ドープに基づく皮膜であるかわばりが発生しやすい。また、前記比が0.9以上で、樹脂フィルムの製造を継続すると、ドラフト比が高くなった際に発生しうる不具合、例えば、風によるむらが発生した樹脂フィルムが得られやすい。これらのことから、前記比が0.9未満での樹脂フィルムの製造の際には、前記間隔が5mm以上10mm以下となるように、前記間隔を変更することによって、ドラフト比が低くなった際に発生しうる不具合を充分に抑制できる。また、前記比が0.9以上での樹脂フィルムの製造の際には、前記間隔が0.3mm以上5mm未満となるように、前記間隔を変更することによって、ドラフト比が高くなった際に発生しうる不具合を充分に抑制できる。これらのことから、より高品質な樹脂フィルムを製造できる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記間隔の変更は、前記流延ダイの位置を調整する位置調整部を用いて変更することが好ましい。
このような構成によれば、走行している支持体を移動させるのではなく、位置調整部で、流延ダイの位置を調整することによって、前記間隔の変更を容易に実現できる。すなわち、樹脂フィルムを製造しながらの、前記間隔の調整を容易にできる。よって、高品質な樹脂フィルムの製造を容易に行うことができる。
また、前記樹脂フィルムの製造方法において、前記位置調整部は、前記流延ダイの長手方向両端部外側に備えられた、一対のくさび状部材を備え、一方のくさび状部材が、前記流延ダイの長手方向両端部外側に備えられ、前記流延ダイが、前記支持体に近接又は離間する方向に移動可能であり、他方のくさび状部材が、所定の方向に移動させることにより、前記一方のくさび状部材を、前記支持体に近接又は離間する方向に移動させることが好ましい。
このような構成によれば、他方のくさび状部材を移動させるだけで、樹脂フィルムを製造しながらの、前記間隔の調整を容易に実現できる。よって、高品質な樹脂フィルムの製造をより容易に行うことができる。
また、前記樹脂フィルムの厚みが10〜40μmであることが好ましい。
樹脂フィルムの厚みが薄いと、ドラフト比が低い場合における不具合、例えば、流延ダイの吐出口付近の外表面に、ドープに基づく皮膜であるかわばりが発生しやすい。また、ドラフト比が高い場合における不具合、例えば、風によるむらの発生が発生しやすい。このような不具合の発生しやすい厚みの薄い樹脂フィルムであっても、上記構成の樹脂フィルムの製造方法によれば、高品質な樹脂フィルムを製造することができる。
本発明によれば、高品質な樹脂フィルムを製造できる樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
(ドープの調製)
まず、メチレンクロライド418質量部及びエタノール23質量部を入れた溶解タンクに、透明性樹脂としてセルローストリアセテート樹脂(アセチル基の置換度2.88)100質量部を添加し、さらに、トリフェニルホスフェート8質量部、エチルフタリルエチルグリコール2質量部、チヌビン326(BASFジャパン株式会社製)1質量部、及びアエロジル200V(日本アエロジル株式会社製)0.1質量部を添加した。そして、液温が80℃になるまで昇温させた後、3時間攪拌した。そうすることによって、樹脂溶液が得られた。その後、攪拌を終了し、液温が43℃になるまで放置した。そして、放置後の樹脂溶液を、濾過精度0.005mmの濾紙を使用して濾過した。濾過後の樹脂溶液を一晩放置することにより、樹脂溶液中の気泡を脱泡させた。このようにして得られた樹脂溶液を、ドープとして使用して、以下のように、樹脂フィルムを製造した。
(ドープの調製)
まず、メチレンクロライド418質量部及びエタノール23質量部を入れた溶解タンクに、透明性樹脂としてセルローストリアセテート樹脂(アセチル基の置換度2.88)100質量部を添加し、さらに、トリフェニルホスフェート8質量部、エチルフタリルエチルグリコール2質量部、チヌビン326(BASFジャパン株式会社製)1質量部、及びアエロジル200V(日本アエロジル株式会社製)0.1質量部を添加した。そして、液温が80℃になるまで昇温させた後、3時間攪拌した。そうすることによって、樹脂溶液が得られた。その後、攪拌を終了し、液温が43℃になるまで放置した。そして、放置後の樹脂溶液を、濾過精度0.005mmの濾紙を使用して濾過した。濾過後の樹脂溶液を一晩放置することにより、樹脂溶液中の気泡を脱泡させた。このようにして得られた樹脂溶液を、ドープとして使用して、以下のように、樹脂フィルムを製造した。
(樹脂フィルムの製造)
まず、得られたドープの温度を35℃に、無端ベルト支持体の温度を20℃に調整した。そして、図1に示すような樹脂フィルムの製造装置を用い、まず、走行速度5m/分の無端ベルト支持体に流延ダイ(コートハンガーダイ)からドープを流延した。このとき、ドラフト比は、0.8であった。そして、このときの流延ダイの吐出口と無端ベルト支持体との間隔Aは、7mmとなるように、流延ダイの位置を調整した。その後、無端ベルト支持体の走行速度を徐々に上げ、10m/分のときに、ドープを流延させながら、前記間隔Aが1mmとなるように、流延ダイの位置を調整した。その後、前記間隔Aを1mmのままで、無端ベルト支持体の走行速度を100m/分まで上げた。このとき、ドラフト比は、1.8であった。このときの条件が、所定の樹脂フィルムを得るための生産条件である。
まず、得られたドープの温度を35℃に、無端ベルト支持体の温度を20℃に調整した。そして、図1に示すような樹脂フィルムの製造装置を用い、まず、走行速度5m/分の無端ベルト支持体に流延ダイ(コートハンガーダイ)からドープを流延した。このとき、ドラフト比は、0.8であった。そして、このときの流延ダイの吐出口と無端ベルト支持体との間隔Aは、7mmとなるように、流延ダイの位置を調整した。その後、無端ベルト支持体の走行速度を徐々に上げ、10m/分のときに、ドープを流延させながら、前記間隔Aが1mmとなるように、流延ダイの位置を調整した。その後、前記間隔Aを1mmのままで、無端ベルト支持体の走行速度を100m/分まで上げた。このとき、ドラフト比は、1.8であった。このときの条件が、所定の樹脂フィルムを得るための生産条件である。
また、無端ベルト支持体としては、ステンレス鋼(SUS316製)、かつ走査型原子間力顕微鏡(AFM)による3次元表面粗さ(Ra)が、平均1.0nmの超鏡面に研磨したエンドレスベルトからなる無端ベルト支持体を用いた。
そして、無端ベルト支持体側の乾燥機から、30℃の乾燥風を、無端ベルト支持体上のウェブに送ることによって、ウェブを乾燥させる。その乾燥したウェブを、無端ベルト支持体からフィルムとして剥離した。
剥離したフィルムを、搬送ローラで搬送しながら、残留溶媒率が80質量%まで乾燥した。その乾燥したフィルムを、延伸装置(テンター)を用いて、100℃の環境下で、フィルムの両端をクリップで把持しながら、TD方向に6%延伸した後、クリップを解放した。そして、延伸されたフィルムを、搬送ローラで搬送しながら、乾燥装置を用いて125℃で乾燥させた。その後、乾燥したフィルムを巻取装置で巻き取ることによって、ロール状に巻き取られた樹脂フィルムが得られた。
このようにして得られた樹脂フィルムは、膜厚25μm、幅2000mm、巻取長3000mのセルローストリアセテートフィルムであった。
[実施例2〜5、比較例1,2]
実施例2〜5、比較例1,2は、無端ベルト支持体の走行速度が、5m/分、100m/分であるときの、それぞれの間隔Aとドラフト比とが、下記表1の値に変更したこと以外、実施例1と同様である。
実施例2〜5、比較例1,2は、無端ベルト支持体の走行速度が、5m/分、100m/分であるときの、それぞれの間隔Aとドラフト比とが、下記表1の値に変更したこと以外、実施例1と同様である。
上記実施例及び比較例を、以下の方法で評価した。
[ダイすじ]
得られた樹脂フィルムを目視で観察した。その結果、樹脂フィルムに、流延ダイの外表面に形成された、ドープに基づく皮膜が原因と思われるすじ(ダイすじ)が確認されなければ、「○」と評価し、ダイすじが確認されるが、製品として使用可能な程度であれば、「△」と評価し、製品として使用できない程度のダイすじが確認されれば、「×」と評価した。
得られた樹脂フィルムを目視で観察した。その結果、樹脂フィルムに、流延ダイの外表面に形成された、ドープに基づく皮膜が原因と思われるすじ(ダイすじ)が確認されなければ、「○」と評価し、ダイすじが確認されるが、製品として使用可能な程度であれば、「△」と評価し、製品として使用できない程度のダイすじが確認されれば、「×」と評価した。
[むら]
得られた樹脂フィルムを目視で観察した。その結果、樹脂フィルムに、流延リボンにあった風が原因と思われる、搬送方向に垂直に延びる段が確認されなければ、「○」と評価し、前記段が確認されるが、製品として使用可能な程度であれば、「△」と評価し、製品として使用できない程度の前記段が確認されれば、「×」と評価した。
得られた樹脂フィルムを目視で観察した。その結果、樹脂フィルムに、流延リボンにあった風が原因と思われる、搬送方向に垂直に延びる段が確認されなければ、「○」と評価し、前記段が確認されるが、製品として使用可能な程度であれば、「△」と評価し、製品として使用できない程度の前記段が確認されれば、「×」と評価した。
これらの結果を、間隔Aとドラフト比とともに、表1に示す。
表1からわかるように、ドラフト比に応じて、前記間隔Aを変更した場合(実施例1〜5)は、変更しなかった場合(比較例1,2)と比較して、ダイすじの発生も、むらの発生も抑制された、高品質な樹脂フィルムを製造することができた。具体的には、ドラフト比にかかわらず、間隔Aを3mmと狭くした場合(比較例1)は、ダイすじが発生した。これは、間隔Aが3mmでは、流延ダイの外表面にドープに基づく皮膜が形成されたことによると考えられる。また、ドラフト比にかかわらず、間隔Aを7mmと広くした場合(比較例2)は、ドラフト比が高くなり、流延リボンが薄くなったにもかかわらず、間隔Aが広く、風の影響を受けたためと考えられる。
また、ドラフト比に応じて、前記間隔Aを変更した場合でも、ドラフト比が0.9未満のときは、間隔Aが5mm以上10mm以下であり、ドラフト比が0.9以上のときは、間隔Aが0.3mm以上5mm未満である場合(実施例1〜3)は、そうでない場合(実施例4,5)よりも、ダイすじの発生も、むらの発生もより抑制された、より高品質な樹脂フィルムを製造することができた。このことから、ドラフト比が0.9未満のときは、間隔Aが5mm以上10mm以下、ドラフト比が0.9以上のときは、間隔Aが0.3mm以上5mm未満となるように、間隔Aを変更することが好ましいことがわかる。
この出願は、2014年11月12日に出願された日本国特許出願特願2014−229957号を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
本発明によれば、高品質な樹脂フィルムを製造できる樹脂フィルムの製造方法が提供される。
Claims (8)
- 透明性樹脂を含有する樹脂溶液を、走行する支持体上に流延ダイから流延して流延膜を形成する流延工程と、
前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程とを備え、
前記流延工程において、
前記流延ダイからの前記樹脂溶液の吐出速度に対する前記支持体の走行速度の比に応じて、前記流延ダイの吐出口と前記支持体との間隔を、前記樹脂溶液を流延させながら変更することを特徴とする樹脂フィルムの製造方法。 - 前記比の増加に伴い、前記間隔が小さくなるように、前記間隔を変更する請求項1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
- 前記流延工程が、前記樹脂フィルムを製造するための所定の条件で流延する製造時流延工程と、前記製造時流延工程の前に、前記所定の条件になるように調整しながら流延する調整時流延工程とを備え、
前記製造時流延工程と前記調整時流延工程とを連続して行い、
前記製造時流延工程時の前記間隔が、前記調整時流延工程時の前記間隔より小さくなるように、前記間隔を変更する請求項1又は請求項2に記載の樹脂フィルムの製造方法。 - 前記間隔が、0.3〜10mmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
- 前記比が0.9未満のときには、前記間隔が5mm以上10mm以下、前記比が0.9以上のときには、前記間隔が0.3mm以上5mm未満となるように、前記間隔を変更する請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂フィルムの製造方法。
- 前記間隔の変更は、前記流延ダイの位置を調整する位置調整部を用いて変更する請求項1〜5に記載の樹脂フィルムの製造方法。
- 前記位置調整部は、前記流延ダイの長手方向両端部外側に備えられた、一対のくさび状部材を備え、
一方のくさび状部材が、前記流延ダイの長手方向両端部外側に備えられ、前記流延ダイが、前記支持体に近接又は離間する方向に移動可能であり、
他方のくさび状部材が、所定の方向に移動させることにより、前記一方のくさび状部材を、前記支持体に近接又は離間する方向に移動させる請求項6に記載の樹脂フィルムの製造方法。 - 前記樹脂フィルムの厚みが10〜40μmである請求項1〜7に記載の樹脂フィルムの製造方法。
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JP2014229957 | 2014-11-12 | ||
JP2014229957 | 2014-11-12 | ||
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Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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