以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔光学フィルムの製造方法〕
図1は、本実施形態で用いる光学フィルムの製造装置の概略の構成を示す説明図である。本実施形態の光学フィルムの製造方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを、走行する支持体上に流延ダイから流延し、その後、フィルムとして剥離する溶液流延法を用いるものである。
図1に用いて溶液流延法の概略を説明する。まず、溶解釜1で、例えばセルロースエステル等の樹脂を、良溶媒および貧溶媒の混合溶媒に溶解し、これに可塑剤や紫外線吸収剤等の添加剤を添加して樹脂溶液(ドープ)を調製する。なお、良溶媒および貧溶媒については後述する。
ついで、溶解釜1で調整されたドープを、加圧型定量ギヤポンプ2を通して、導管によって流延ダイ3に送液し、無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体6上の流延位置に、流延ダイ3からドープを流延し、これにより支持体6上に流延膜としてのウェブ9を形成する。このとき、流延ダイ3に対して、走行する支持体6の移動方向の上流側には減圧室(減圧チャンバ)4が配置されていてもよく、減圧室4によって流延ダイ3の上流側(特に流延ダイ3から支持体6までの流延リボンの上流側)の空間を減圧しながら、流延ダイ3から支持体6上にドープを流延する。
流延ダイ3によるドープの流延には、流延されたウェブをブレードで膜厚調節するドクターブレード法、流延されたウェブを逆回転するロールで膜厚調節するリバースロールコーターによる方法、加圧ダイを用いる方法等がある。その中でも、口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい等の理由から加圧ダイを用いる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガーダイやTダイ等があり、何れも好ましく用いることができる。
支持体6は、前後一対のドラム5・5および中間の複数のロール(不図示)により保持されている。ドラム5・5の一方または両方に、支持体6に張力を付与する駆動装置(不図示)が設けられており、これによって支持体6は張力が掛けられて張った状態で使用される。
支持体6の幅は1000〜3000mm、巻き取り後のフィルムの幅は1000〜2500mmであることが好ましい。これにより、金属支持体方式によって幅の広い液晶表示装置用光学フィルムを製造することができる。
支持体6としてエンドレスベルトを用いる場合の製膜時のベルト温度は、一般的な温度範囲では0℃〜溶媒の沸点未満の温度であるが、混合溶媒では最も沸点の低い溶媒の沸点未満の温度であることが好ましく、さらには5℃〜溶媒沸点−5℃の範囲がより好ましい。このとき、周囲の雰囲気湿度は露点以上に制御する必要がある。なお、生産条件時の支持体6の移動速度は80m/分〜200m/分であることが好ましい。
このようにして支持体6上に流延されたドープは、剥ぎ取りまでの間で乾燥が促進されることによってもゲル膜の強度(フィルム強度)が増加する。
支持体6上では、支持体6から剥離ロール8によって剥離可能な膜強度となるまでウェブ9を乾燥固化させる。
支持体6からウェブ9を剥離するときのウェブ温度は、0〜30℃であることが好ましい。また、ウェブ9は、支持体6からの剥離直後に、支持体6との密着面側からの溶媒蒸発で温度が一旦急速に下がり、雰囲気中の水蒸気や溶媒蒸気など揮発性成分がコンデンスしやすいため、剥離時のウェブ温度は5〜30℃がさらに好ましい。
支持体6上に流延されたドープにより形成されたウェブ9を、支持体6上で加熱し、支持体6から剥離ロール8によってウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。
溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法や、支持体6の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、適宜、単独であるいは組み合わせて用いればよい。
支持体6とウェブ9とを剥離ロール8によって剥離する際の剥離張力は、JIS Z 0237のような剥離力測定で得られる剥離力よりも大きいが、これは高速製膜時に、剥離張力をJIS測定法で得られた剥離力と同等にすると、剥離位置が下流側に持っていかれたりする場合があるため、安定化のため高めで行っている。なお、工程で同じ剥離張力で製膜していても、JIS測定方法による剥離力が下がると、フィルムのクロスニコル透過率(CNT)のバラツキが大きく低減することも確かめられている。
工程での剥離張力値としては、通常、20〜400N/mであるが、従来よりも薄膜化して作製する光学フィルムでは、剥離の際にウェブ9の残留溶媒量が多く、搬送方向に伸びやすいために、幅手方向にフィルムは縮みやすく、乾燥と縮みが重なると、端部がカールし、折れ込むことにより、シワが入りやすい。このため、剥離張力は、剥離できる最低張力〜300N/mであることが好ましく、さらに好ましくは、最低張力〜200N/mである。
なお、図1では、支持体としてベルト状の支持体を例示しているが、本実施形態の支持体はベルト状のものに限定されず、例えば、ドラム状の支持体を使用してもよい。
支持体6上でウェブ9が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化させた後に、ウェブ9を剥離ロール8によって剥離し、ついで、延伸工程のテンター10においてウェブ9を延伸する。
延伸工程では、液晶表示装置用フィルムとしては、ウェブ9の両側縁部をクリップ等で固定して延伸するテンター方式が、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。
延伸工程のテンター10に入る直前のウェブ9の残留溶媒量は5〜50質量%が好ましく、10〜35質量%であることがさらに好ましい。また、延伸工程のテンター10におけるウェブの延伸率が3〜100%であり、5〜80%であることが好ましく、さらに5〜60%であることが望ましい。
また、テンター10における温風吹出しスリット口から吹き出す温風の温度が70〜200℃であり、110〜190℃であることが好ましく、さらに115〜185℃であることが望ましい。
延伸工程のテンター10の後には、乾燥装置11を設けることが好ましい。乾燥装置11内では、側面から見て千鳥状に配置された複数の搬送ロールによってウェブ9が蛇行させられ、その間にウェブ9が乾燥されるものである。また、乾燥装置11でのフィルム搬送張力は、ドープの物性、剥離時およびフィルム搬送工程での残留溶媒量、乾燥温度等に影響を受けるが、乾燥時のフィルム搬送張力は、10〜400N/m幅であり、20〜300N/m幅が、より好ましい。
なお、ウェブ9を乾燥させる手段は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行う。簡便さの点から熱風で乾燥するのが好ましい。例えば、乾燥装置11の温風入口から乾燥風12を吹き込み、乾燥装置11の出口から排気風を排出することでウェブ9を乾燥させ、光学フィルムFとすることができる。乾燥風12の温度は40〜160℃であることが好ましく、50〜160℃であることが、平面性、寸法安定性を良くするためさらに好ましい。
これら流延から搬送乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。この場合、乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
搬送乾燥工程を終えた光学フィルムFに対し、巻取工程に導入する前に、巻取工程での巻きずれやブロッキング(フィルム同士の貼り付き)を防止するために、光学フィルムFの端部に多数の凹凸を有するエンボス部を形成するのが好ましい。
つぎに、エンボス部の形成加工が終了したフィルムを、巻き取り装置13によって巻き取り、光学フィルムFの元巻を得る。乾燥終了時点でのフィルムの残留溶媒量を、0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下とすることにより、寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
フィルムの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。巻取りコア(巻芯)へのフィルムの接合は、両面接着テープでも、片面接着テープでもどちらでもよい。光学フィルムFは、巻き取り後のフィルムの幅が、1000〜2500mmであることが好ましい。
以下、本実施形態の製造方法の特徴部分について、より詳細に説明する。
本実施形態に係る光学フィルムの製造方法は、上述したような溶液流延製膜法において、支持体上に光学フィルムの原料溶液であるドープを流延し、支持体上にウェブ(流延膜)を形成し、前記支持体からウェブを剥離して光学フィルムを製造する方法であり、前記ドープを流延ダイから支持体に流延する際の下記式(1)で示される流延ドロー比が3〜6であることを大きな特徴の一つとする。
式(1) 流延ドロー比=支持体速度/吐出流速
このような構成によれば、製造時の破断や表示ムラなどの故障を発生することなく、効率よく、高品質な薄膜光学フィルムを安定して得ることができると考えられる。
発明者らは鋭意精査した結果、特にフィルムが薄膜になった際に、上記のような特定範囲のドロー比にすることによって、ドロー直後のウェブに対して搬送方向に配向させることにより、ウェブ物性、ひいてはフィルムの品質を高めることができると考えられる。そのため、薄膜フィルムの製造においても、延伸工程における延伸倍率を下げることが可能となり、延伸工程等におけるフィルムの破断を防ぐことができ、かつフィルムの光学性能をも達成できると考える。
なお、本実施形態では、ドープはフィルム原料となる樹脂溶液で、支持体上で流延後はゲル化し膜としての固さを持ったものをウェブ(流延膜)と称する。すなわち、出来上がりの光学フィルムまでの乾燥過程中のフィルムをウェブと称することとする。しかしながら、ドープで形成されるドーム膜とウェブとフィルムとの境界は厳密には定かでないことを断っておく。また、上述の通り、流延ドロー比とは、吐出流速に対する支持体速度の比、つまり(支持体速度/吐出流速)のことであるが、吐出流速はダイのスリット(以降、ダイスリットという)内を通過するドープの速度であり、支持体速度はエンドレスに走行する支持体の走行速度である。
また、本実施形態でドロー直後とは、ウェブがダイから吐出された直後のことをさし、上記のように流延ドロー比を調整することによって、ウェブが支持体に着地するまでに引き延ばして配向させることができると考えられる。
前記流延ドロー比のより好ましい範囲は、3〜5である。それにより、上述したような効果がより確実に得られると考えられる。
好ましい実施態様では、支持体上にドープを流延する際に、ウェブを冷却することによってさらに分子配向させることが望ましい。
このようなウェブを支持体上で冷却する手段としては、例えば、冷却装置を用いることもできるが、支持体上にドープを流延した状態において、支持体1周全長に対し、支持体上にウェブ(流延膜)が存在していない非流延範囲の割合が3〜50%となるように、流延開始位置とウェブ剥離位置とを調整することによっても実施可能である。
より具体的には、図2に、ドープの流延からウェブ9が剥離されてテンター10まで運ばれる工程を拡大した概略図を示す。この図で示される7の部分が非流延範囲を示しており、この非流延領域7が上記範囲内であれば、延伸工程より前にウェブを配向させることができ、その分、延伸工程において達成すべき延伸倍率を抑えることができる。ひいては、それにより、フィルム破断のリスクをより低下させることができると考えられる。
より好ましくは、前記非流延範囲は30〜45%であることが望ましい。
本実施形態における前記非流延範囲は、例えば、流延ダイ3の位置を調整することによって制御することができる。
本実施形態の光学フィルムの乾燥後の膜厚(最終膜厚)は、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして、5〜40μmの範囲が好ましい。ここで、乾燥後のフィルム膜厚とは、フィルム中の残留溶媒量が0.5質量%以下の状態のフィルムを言うものである。
本実施形態の製造方法によれば、このような薄膜フィルムの製造において上述したような効果をより発揮することができ、高品質な光学フィルムを提供することができる。
本実施形態の溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法においては、主材としてセルロースエステル等の樹脂を含む樹脂溶液(ドープ)に、可塑剤、リタデーション調整剤、紫外線吸収剤、微粒子(マット剤)、及び低分子量物質のうちの少なくとも1種以上の物質、及び溶媒が含くまれていることが好ましい。以下、これらの材料について説明する。
本実施形態では、フィルム材料として使用する樹脂は特に限定はなく、一般に溶液流延法で使用する樹脂の使用が可能である。光学フィルムを製造する樹脂材料としては、例えば偏光子との接着性がよいこと、光学的に透明であること等が好ましい要件として挙げられる。可視光の透過率60%以上であることを言い、好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
上記の性質を有している光学フィルムを形成する樹脂であれば特に限定はなく使用でき、例えば、セルロースジアセテート樹脂、セルローストリアセテート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂等のセルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、セロファン、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、シンジオタクティックポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂等を挙げることが出来る。中でも、セルロースエステル系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンを含む)系樹脂が好ましく、本発明においては、特にセルロースエステル系樹脂が、製造上、コスト面、透明性、接着性等の観点から好ましく用いられる。
セルロースエステルは、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステルである。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の方法に用いられるセルロースエステルには、その他の置換基が含まれていてもよい。
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が2.0以上、3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
本実施形態に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステルは、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
セルロースエステルの数平均分子量は、20000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに40000〜200000が好ましい。セルロースエステルには、種々の添加剤を配合することができる。
また、本実施形態で使用されるドープには、上述したようなセルロースエステル系樹脂に加えてマット剤として微粒子を含有させてもよい。
その際、使用される微粒子は、使用目的に応じて適宜選択されるが、透明性樹脂中に含有することによって、可視光を散乱させることができる微粒子であることが好ましい。前記微粒子としては、酸化珪素等の無機微粒子であってもよいし、アクリル系樹脂等の有機微粒子であってもよい。
さらに、酸化珪素で代表される微粒子は、有機物により表面処理されていることが、製造される光学フィルムのヘイズを低下出来る点で好ましい。表面処理に好ましい有機物としては、例えば、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどが挙げられる。微粒子の平均粒径は、大きいほうがマット効果は大きく、平均粒径が小さいほう
は透明性に優れるため、好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5nmから50nmで、より好ましくは7nmから14nmである。
酸化珪素の微粒子としては、例えば、アエロジル(株)製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,OX50、TT600などが挙げられ、好ましくはAEROSIL 200、200V、R972、R972V、R974、R202、R812などである。
本実施形態で使用される溶媒は、前記透明性樹脂に対する良溶媒を含有する溶媒を用いることができ、透明性樹脂が析出してこない範囲で、貧溶媒を含有させてもよい。セルロースエステル系樹脂に対する良溶媒としては、例えば、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物等が挙げられる。また、セルロースエステル系樹脂に対する貧溶媒としては、例えば、メタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール等が挙げられる。
本実施形態で使用されるドープは、本発明の効果を阻害しない範囲で、透明性樹脂、微粒子及び溶媒以外の他の成分(添加剤)を含有してもよい。前記添加剤としては、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤、導電性物質、難燃剤、滑剤、及びマット剤等が挙げられる。
本実施形態で用いることの出来る可塑剤として、特に限定はないが、例えば、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤などを好ましく用いることが出来る。
リン酸エステル系としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系としては、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等、トリメリット酸系可塑剤としては、例えば、トリブチルトリメリテート、トリフェニルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等、ピロメリット酸エステル系可塑剤としては、例えば、テトラブチルピロメリテート、テトラフェニルピロメリテート、テトラエチルピロメリテート等、グリコール酸エステル系としては、例えば、トリアセチン、トリブチリン、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等、クエン酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリ−n−(2−エチルヘキシル)シトレート等を好ましく用いることが出来る。
また、ポリエステル系可塑剤としては、例えば、脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸、芳香族二塩基酸等の二塩基酸とグリコールの共重合ポリマー等を用いることが出来、脂肪族二塩基酸としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸などを用いることが出来る。
また、グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコールなどを用いることが出来る。これらの二塩基酸及びグリコールは、各々単独で用いても良いし、二種以上混合して用いても良い。ポリエステルの分子量は、重量平均分子量として500から2000の範囲にあることが、セルロース樹脂との相溶性の点から好ましい。
さらに、本実施形態のセルロースエステルフィルムには、液晶材料の保護などのために紫外線吸収剤を用いることが好ましく、紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、更に良好な液晶表示性の点より、波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましく用いられる。
本実施形態では、膜厚が20μmから200μmのセルロースエステルフィルムにおいて、波長370nmでの透過率を10%以下にすることによって、偏光板の耐久性を劣化させることなく、好ましい偏光板を提供することができる。波長370nmの透過率は、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることが特に好ましい。
また、上記各組成を混合させることによってセルロースエステル系樹脂の溶液が得られる。また、得られたセルロースエステル系樹脂の溶液は、濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過することが好ましい。
本実施形態の製造方法によって製造される光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種ディスプレイ、特に液晶ディスプレイに用いられる機能フィルムであり、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルムを含むものである。
本実施形態の光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
また、本実施形態の光学フィルムを備えた偏光板を用いることにより、高画質の液晶表示装置などを実現することができる。特に、本実施形態の光学フィルムは薄膜であるため、スマートホンやタブレットなどの用途にも好ましく使用される。
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
以下に示す方法により光学フィルムを製造した。
(ドープの調製)
セルロースアセテートプロピオネート 100質量部
(アセチル基置換度+プロピオニル基置換度=2.45、 数平均分子量(Mn)=60000、重量平均分子量(Mw)=180000、Mw/Mn=3.00)
トリフェニルホスフェート 8質量部
エチルフタリルエチルグリコレート 2質量部
メチレンクロライド 360質量部
エタノール 60質量部
チヌビン109(チバ・ジャパン(株)製) 0.5質量部
チヌビン171(チバ・ジャパン(株)製) 0.5質量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2質量部
上記のドープ組成1の材料を、密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過した。濾過は、フィルタープレスによる濾過の後、金属焼結フィルター(捕捉粒子径=10ミクロン)を通過させた。尚、二酸化珪素微粒子(アエロジルR972V)は、エタノールに分散した後添加した。
(光学フィルムの製造)
図1に示す溶液流延成膜装置により、セルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造した。なお、ドープを流延する支持体(6)としては、SUS316製、走査型原子間力顕微鏡(AFM)による3次元表面粗さ(Ra)が、平均1.0nmの超鏡面に研磨したエンドレスベルトを用いた。
上記濾過したドープを、ドープ温度35℃で、温度20℃のSUS316製のエンドレスベルト支持体(6)上にコートハンガーダイよりなる流延ダイ(3)により均一に流延した。支持体とダイス先端の距離は1mmに設定した。支持体(6)上にウェブ(9)を形成する際、ウェブ(9)が支持体(6)上に密着して形成されるように流延上流側から減圧する手段としての下方に開口した減圧室(4)を設けた(減圧室の平均圧力−400Pa)。
また、実施例1における、ダイからの吐出流速は23m/min、支持体速度は80m/min、流延ドロー比は3.5とした。さらに、非流延範囲の割合は2%とした。
こうして、支持体(6)上に形成されたウェブ(9)を、該支持体(6)上で搬送しながら温度25℃で一定とした乾燥風により乾燥した後、支持体(6)から剥離ロール(8)によって剥離し、その後、テンター(10)で、残留溶媒量10%のとき100℃の雰囲気内で幅方向に1.28倍(28%)延伸した後、幅保持を解放して、ロール搬送しながら125℃の乾燥装置(11)で乾燥を終了させ、巻き取り装置(13)により巻き取った。
得られたセルローストリアセテートプロピオネートフィルム(F)の最終膜厚は20μm、フィルム幅は1300mm、およびフィルムの巻取り長は4000mであった。
[実施例2〜5および比較例1〜3]
吐出流速、支持体速度、流延ドロー比、非流延範囲、延伸倍率、最終膜厚を表2となるように調整した以外は、実施例1と同様にしてセルロースアセテートプロピオネートフィルムを得た。なお、非流延範囲の調整は、ダイス位置を変更することによって行った。
(評価)
上述のようにして得られた光学フィルム(実施例1〜5および比較例1〜3)について、以下の評価試験を行った。
[工程適性]
工程については、以下の基準で評価を行った:
○:問題なく膜が作製できワインダーで巻き取れる
×:延伸時に裂け込み膜が破断
[表示ムラ]
作製したフィルム試料をクロスニコル状態にした偏光板と偏光板との間に挟み、透過光下で光りが通る状態までクロスニコルをずらして透過光の濃淡を目視で観察した。
尚、偏光板は、以下のようにして作製した偏光板を使用した。
(偏光膜を作製)
上記実施例および比較例で作製したセルロースエステルフィルムを用いて液晶表示装置を作製するために、まず、偏光膜を作製した。すなわち、厚さ、120μmのポリビニルアルコールフィルムを、温度110℃、延伸倍率5倍で一軸延伸した。これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、ついでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光膜を得た。
(偏光板の作製)
ついで、下記の工程1から工程5に従って、上記の偏光膜に、コニカミノルタ製KC4UY 40μmのセルローストリアセテートフィルム(偏光板保護フィルム:T−1)と、各実施例で作製したセルロースアセテートプロピオネートフィルム(位相差フィルム:T−2)とを貼り合わせて偏光板を作製した。
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、ついで水洗し乾燥して、偏光膜と貼合する側を鹸化した偏光板保護フィルムと、位相差フィルムを得た。
工程2:偏光膜を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1秒から2秒浸漬した。
工程3:工程2で偏光膜に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、この偏光膜の両側に、工程1で処理した偏光板保護フィルム及び位相差フィルムを積層して配置した。
工程4:工程3で積層した位相差フィルムと、偏光膜と、裏面側偏光板保護フィルムを、圧力20N/cm2から30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程5:工程4で作製した偏光膜と位相差フィルム及び偏光板保護フィルムとを貼合わせた試料を、80℃の乾燥機中に5分間乾燥し、偏光板を作製した。
偏光板評価でムラが確認できないサンプルは、以下の様に作製したパネル評価で確認した。
VAモード型液晶表示装置であるSONY製40型ディスプレイKLV−40J3000の予め貼合されていた視認側の偏光板を剥がして、偏光板の吸収軸が一致する様に上記作製した偏光板を液晶セルのガラス面に貼合しVAモード型液晶表示装置を作製した。その際、位相差フィルムT−2が液晶セル側になる様に貼合した。ムラの評価基準は以下の通りである:
◎:パネルによる評価でもムラは認められない
○:透過光の濃淡が認められない
△:僅かながら透過光の濃淡が認められる
×:透過光の濃淡が認められる
結果を表1に示す。
[考察]
表1からわかるように、本発明の製造方法によって得られた実施例1〜5においては、延伸倍率をさげても位相差が得られるため、製造工程中における破断等もなく工程適性を満たしていた。またこれらの実施例で得られた光学フィルムでは、いずれも表示ムラもなく、高品質であった。
特に、非流延範囲の割合が比較的多かった実施例4においては、非常に高品質なフィルムを得ることができた。一方、非流延範囲の割合が比較的少なかった実施例1や、最終膜厚を大きくした実施例5では、表示ムラの結果にやや劣っていた。
実施例に対し、流延ドロー比が本発明の範囲を満たしていない比較例1では、延伸倍率を上げることにより位相差は得られるが、延伸時に破断を起こす結果となった。また、比較例1と同じ流延ドロー比で、延伸倍率を下げると(比較例2)、今度は十分な位相差が得られず、表示ムラが生じた。さらに、流延ドロー比を本発明の範囲より大きくした比較例3では、流延時にリップ被膜付着が起こり、ダイスジが生じて結果的に判断してしまった。