以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。ここでは、本発明をコードレスタイプのインパクトドライバに適用した場合を例に、説明を行う。
以下の説明において、具体的な数値に言及した場合、例えば、電気角度について「90°」等のように言及した場合、当該数値と完全に一致する場合だけでなく、当該数値と略同一である場合も含むものとする。また、位置関係等に言及した場合、例えば、平行、直交、反対等のように言及した場合、完全に平行、直交、反対等である場合だけでなく、略平行、略直交、略反対等である場合を含むものとする。
図1に示されているように、本発明の実施の形態による電動機器の一例であるインパクトドライバ1は、ハウジング2、モータ3、駆動回路部4、冷却ファン5、動力伝達部6及び制御基板部7を備えている。図1は、インパクトドライバ1の部分断面側面図であり、電池パックPを装着した状態のインパクトドライバ1を示す図である。なお、図1においてモータ3に対して動力伝達部6が設けられている方向を前方向、前方向と逆の方向を後方向と定義する。また、モータ3に対して制御基板部7が設けられている方向を下方向と定義し、下方向と逆の方向を上方向と定義する。さらに、インパクトドライバ1を後方から見た場合の左を左方向、右を右方向と定義する。
ハウジング2は、インパクトドライバ1の外郭をなしており、モータハウジング21と、ハンドルハウジング22と、基板収容部23とを備えている。
モータハウジング21は、前後方向に延びる略筒形状をなし、その内部にモータ3、駆動回路部4、冷却ファン5、動力伝達部6を収容している。また、モータハウジング21の前側内部には、ハンマケース21Aが配置されている。ハンマケース21Aは、前方に向かうに従って徐々に径が細くなる略漏斗形状をなしており、その前端部分には開口21aが形成されている。
モータ3は、モータハウジング21の後側内部に収容されており、回転軸31と、ロータ32と、ステータ33とを有している。回転軸31は、前後方向に延びる軸であって、軸受を介してモータハウジング21に回転可能に支承されている。ロータ32は、複数の永久磁石32Aを有する回転子であり、回転軸31に固定されて回転軸31と一体に回転するように構成されている。ステータ33は、ステータ巻線33Aを有する固定子である。ステータ巻線33Aは、ロータ32を囲むように対向配置されている。
駆動回路部4は、モータ3のステータ巻線33Aに駆動電流を通電するためのインバータ回路であり、ステータ33の後面に位置している。駆動回路部4の詳細については、後述する。
冷却ファン5は、遠心ファンであり、回転軸31の前側部において回転軸31と同軸的に固定されている。冷却ファン5は、その回転によってモータハウジング21内に冷却風を発生させ、モータ3、駆動回路部4等を冷却する。
動力伝達部6は、ハンマケース21Aの内部に収容されており、減速機構61、インパクト機構62、アンビル部63を備えている。減速機構61、インパクト機構62、アンビル部63は、回転軸31の軸方向(前後方向)において、モータ3側から当該順に並んで配置されている。
減速機構61は、回転軸31と一体回転するサンギヤ61Aと、サンギヤ61Aに噛合する遊星ギヤ61Bと、遊星ギヤ61Bと噛合するリングギア61Cとを備えている。サンギヤ61Aが回転することによって、遊星ギヤ61Bはサンギヤ61Aの周りを周回する。
インパクト機構62は、スピンドル62A及びハンマ62Bを有している。スピンドル62Aは、遊星ギヤ61Bの周回運動によって回転軸31と同軸の位置で回転する。ハンマ62Bは、スピンドル62A上に前後摺動可能に配され、その前端に一対の衝突部62Cを備えている。またハンマ62Bは、スプリング62Dによって前方に付勢された状態で回転打撃力が与えられ、さらにスプリング62Dの付勢力に反して後方に移動することも可能に構成されている。
アンビル部63は、ハンマ62Bの前方に配置され、ハンマケース21Aにスピンドル62Aと同軸の位置で回転可能に支持されており、先端工具保持部63A及びアンビル63Bを備えている。先端工具保持部63Aは、略円筒形状に形成されており、ハンマケース21Aの開口21aから前方に突出している。先端工具保持部63Aには、図示せぬ先端工具が挿入される保持孔63aが前後方向へ穿設されており、先端工具保持部63Aの前端部分には、図示せぬビットを保持するチャック63Cが設けられている。ここで、先端工具は例えば、ドライバビットやボルト締付用ビット等である。
アンビル63Bは、先端工具保持部63Aの後方であってハンマケース21A内に先端工具保持部63Aと一体に構成されている。またアンビル63Bは、アンビル63B及び先端工具保持部63Aの回転中心に対して対称の位置に配置された一対の被衝突部63Dを有している。
ハンドルハウジング22は、上下方向に延びる略筒形状をなし、その上端がモータハウジング21に接続されている。ハンドルハウジング22は、スイッチトリガ22A及びスイッチ機構22Bを備えている。スイッチトリガ22Aは、ハンドルハウジング22の上端部前側に設けられており、ハンドルハウジング22内部においてスイッチ機構22Bと接続されている。スイッチトリガ22Aが押込まれた場合、モータ3が起動する。すなわち、スイッチトリガ22Aは、モータ3の起動を指示するトリガとして機能する。スイッチ機構22Bは、制御基板部7に接続されており、スイッチトリガ22Aが押込まれた場合、スイッチトリガ22Aの押込量(操作量)に応じたトリガ信号を制御基板部7に出力する。
基板収容部23は、ハンドルハウジング22の下端に接続されており、その内部にはスイッチ機構22B及び駆動回路部4に接続された制御基板部7が収容されている。制御基板部7は、スイッチ機構22B等から入力される各種信号に基づいて駆動回路部4にモータ3を制御するための駆動信号を出力し、モータ3を制御する。また、基板収容部23の下端部は、電池パックPを着脱可能に構成されている。制御基板部7の詳細については後述する。
電池パックPは、基板収容部23の下端部に着脱可能に装着されており、モータ3、駆動回路部4及び制御基板部7の電源となるリチウムイオン二次電池、ニッケル・カドミウム二次電池等からなる電池組を収容している。電池組は、電池パックPが基板収容部23に装着された状態で、駆動回路部4等に電気的に接続されるように構成されている。
次に、インパクトドライバ1の動作についてネジを締める場合について説明する。作業者がスイッチトリガ22Aを引くと、スイッチ機構22Bから制御基板部7に信号が出力され、制御基板部7はモータ3の駆動制御を開始する。モータ3が制御基板部7によって駆動制御されると、モータ3の回転軸31及びロータ32はスイッチトリガ22Aの押込量に応じた回転数で一体に回転する。これと同時に冷却ファン5も回転して、モータハウジング21に形成された図示せぬ吸気孔からモータハウジング21内に外気が取込まれる。この外気は、モータ3や駆動回路部4を冷却し、モータハウジング21に形成された図示せぬ排気孔から外部に排出される。
回転軸31が回転すると、回転軸31の回転力は、その回転速度が減速機構61によって減速されてスピンドル62Aに伝達される。回転力がスピンドル62Aに伝達されると、スピンドル62A及びハンマ62Bが一体に回転する。ハンマ62Bが回転すると、一方の衝突部62Cとアンビル部63の一方の被衝突部63Dとが衝突し、当該衝突と同時に、他方の衝突部62Cと他方の被衝突部63Dとが衝突する。これにより、ハンマ62Bの回転力がアンビル63Bに伝達され、アンビル63Bに打撃が与えられる。
また、衝突部62Cと被衝突部63Dとの衝突後、衝突部62Cと被衝突部63Dとが当接した状態でスピンドル62Aとハンマ62Bとが一体に回転し、ハンマ62Bの回転トルクが所定値を超えるとハンマ62Bに対してスピンドル62Aが相対回転を開始する。スピンドル62Aとハンマ62Bとが相対回転を開始すると、ハンマ62Bはスプリング62Dの付勢力に抗して回転しながら後退する。そして、衝突部62Cが被衝突部63Dを乗り越えると、スプリング62Dに蓄えられた弾性エネルギーの解放によって、ハンマ62Bは、回転しながら前方に高速で移動する。ハンマ62Bの当該移動によって、衝突部62Cと被衝突部63Dとが再び衝突する。このように、衝突部62Cと被衝突部63Dとの衝突及びハンマ62Bの後退を繰り返すことで、アンビル部63の先端工具保持部63Aに装着されている先端工具に回転打撃力を与えてネジを締め付ける。なお、作業者がスイッチトリガ22Aを離すことによりモータ3は停止する。
次に、モータ3及びモータ3の駆動制御系の構成について図2に基づいて説明する。図2は、インパクトドライバ1の駆動制御系を示すブロック図を含む回路図である。
図2に示されているように、モータ3はDCブラシレスモータであり、モータ3のロータ32は、N極及びS極を1組とした永久磁石32Aを2組備えている。また、ステータ33のステータ巻線33Aは、スター結線された3相のコイルU、V、Wを有し、コイルU、V、Wはそれぞれ駆動回路部4に接続されている。ステータ巻線33Aは、本発明の巻線の一例である。
駆動回路部4は、3相ブリッジ形式に接続された6個のFETQ1〜Q6を備えている。FETQ1のソースとFETQ4のドレインとの接続点4aはコイルUの一端と接続され、FETQ2のソースとFETQ5のドレインとの接続点4bはコイルVの一端と接続され、FETQ3のソースとFETQ6のドレインとの接続点4cはコイルWの一端と接続されており、6個のFETQ1〜Q6の各ゲートは制御基板部7に接続されている。6個のFETQ1〜Q6は、制御基板部7から当該各ゲートに入力された駆動信号によってオン/オフを繰り返すスイッチング動作を行う。また、接続点4a、接続点4b及び接続点4cは、それぞれ接続線4A、接続線4B及び接続線4Cによって制御基板部7に接続されている。
制御基板部7は、スイッチ機構22B及び駆動回路部4に接続されており、誘起電圧検出回路部71と、制御信号出力回路75と、制御部76とを備えている。
誘起電圧検出回路部71は、接続線4A、接続線4B及び接続線4Cによってステータ巻線33AのコイルU、V、Wのそれぞれの一端と接続されており、ロータ32の回転によってステータ巻線33Aに発生する誘起電圧を検出し、当該誘起電圧に応じたアナログ信号(誘起電圧アナログ信号)及び当該誘起電圧に応じたデジタル信号(誘起電圧デジタル信号)を制御部76に出力する回路部である。誘起電圧検出回路部71は、本発明の誘起電圧検出手段として機能する。
誘起電圧検出回路部71は、U相信号出力回路72と、V相信号出力回路73と、W相信号出力回路74とを備えている。U相信号出力回路72は、コイルUに発生する誘起電圧(U相誘起電圧)を検出し、U相誘起電圧に応じたアナログ信号(U相アナログ信号)及びU相誘起電圧に応じたデジタル信号(U相デジタル信号)を制御部76に出力する回路である。V相信号出力回路73は、コイルVに発生する誘起電圧(V相誘起電圧)を検出し、V相誘起電圧に応じたアナログ信号(V相アナログ信号)及びV相誘起電圧に応じたデジタル信号(Vデジタル信号)を制御部76に出力する回路である。W相信号出力回路74は、コイルWに発生する誘起電圧(W相誘起電圧)を検出し、W相誘起電圧に応じたアナログ信号(W相アナログ信号)及びW相誘起電圧に応じたデジタル信号(W相デジタル信号)を制御部76に出力する回路である。
ここで、図3に基づいて誘起電圧検出回路部71の構成及び同回路部が備えるU相信号出力回路72、V相信号出力回路73及びW相信号出力回路74の構成について説明する。なお、U相信号出力回路72、V相信号出力回路73及びW相信号出力回路74のそれぞれの構成は互いに略同一であるため、以下の説明においてU相信号出力回路72の構成を例にとって説明し、V相信号出力回路73及びW相信号出力回路74の構成についての説明は簡略化する。図3は、誘起電圧検出回路部71及び同回路部が備えるU相信号出力回路72の構成を示す図である。なお、図3において、V相信号出力回路73及びW相信号出力回路74は、図面の煩雑を避けるため省略している。
図3に示されているように誘起電圧検出回路部71は、抵抗71A、抵抗71B、抵抗71C、抵抗71D及び抵抗71Eを備えている。抵抗71A、抵抗71B及び抵抗71Cのそれぞれの一端は中性点71aにおいて共通接続されている、言い換えれば、抵抗71A、抵抗71B及び抵抗71Cはスター結線されている。また、抵抗71Aの他端は接続線4A及び接続点4aを介してステータ巻線33AのコイルUの一端に接続され、抵抗71Bの他端は接続線4B及び接続点4bを介してコイルVの一端に接続され、抵抗71Cの他端は接続線4C及び接続点4cを介してステータ巻線33AのコイルWの一端に接続されている。
このように、抵抗71A、抵抗71B及び抵抗71Cはスター結線され、抵抗71A、抵抗71B及び抵抗71Cのそれぞれの他端はコイルU、V、Wのそれぞれの一端にそれぞれ接続されているため、抵抗71Aの電圧降下分はU相誘起電圧に相当し、抵抗71Bの電圧降下分はV相誘起電圧に相当し、抵抗71Cの電圧降下分はW相誘起電圧に相当する。言い換えれば、抵抗71A、抵抗71B及び抵抗71Cのそれぞれの一端を接続している接続点すなわち中性点71aと抵抗71Aの他端に設けられたU相電圧点71bとの電位差は、U相誘起電圧に相当し、中性点71aと抵抗71Bの他端に設けられたV相電圧点71cとの電位差はV相誘起電圧に相当し、中性点71aと抵抗71Cの他端に設けられたW相電圧点71dとの電位差はW相誘起電圧に相当する。
抵抗71D及び抵抗71Eは、中性点71aとグランドとの間に直列に接続されており、中性点71aの電圧を分圧する。抵抗71Dと抵抗71Eとの間の接続点すなわち中性点分圧点71eの電圧は、中性点71aの電圧を抵抗71D及び抵抗71Eで分圧した値である。
U相信号出力回路72は、U相アナログ信号を出力するU相アナログ信号出力回路8と、U相デジタル信号を出力するU相デジタル信号出力回路9とを備えている。
U相アナログ信号出力回路8は、分圧回路81と差動増幅回路82とを備えている。分圧回路81は、U相電圧点71bの電圧を分圧する回路であり、U相電圧点71bとグランドとの間に直列に接続された抵抗81A及び抵抗81Bを有している。抵抗81Aと抵抗81Bとの間の接続点すなわちU相分圧点81aの電圧は、U相電圧点71bの電圧を抵抗81Aと抵抗81Bとで分圧した値である。また、抵抗81Aの抵抗値は抵抗71Dの抵抗値と同一の値に設定され、且つ抵抗81Bの抵抗値は抵抗71Eの抵抗値と同一の値に設定されている。このため、中性点分圧点71eとU相分圧点81aとの電位差、すなわち中性点分圧点71eを基準としたU相分圧点81aの電圧は、U相誘起電圧に比例する電圧(U相対応電圧)となる。
差動増幅回路82は、オペアンプ82A、抵抗82B、抵抗82C、抵抗82D及びコンデンサ82Eを備えている。オペアンプ82Aの非反転入力端子は抵抗82Bを介してU相分圧点81aに接続され、反転入力端子は抵抗82Cを介して中性点分圧点71eに接続されている。またオペアンプ82Aの出力端子は、制御部76のA/Dポート及びU相デジタル信号出力回路9に接続されており、当該出力端子と反転入力端子との間には、抵抗82Dとノイズを低減するローパスフィルタの役割を果たすコンデンサ82Eとが並列に接続されている。
差動増幅回路82は、中性点分圧点71eを基準としたU相分圧点81aの電圧、すなわちU相対応電圧を制御部76の入力レベルに増幅且つオフセットするとともにノイズを低減して、制御部76のA/D入力ポート及びU相デジタル信号出力回路9にアナログ信号(U相アナログ信号)として出力する。すなわち、差動増幅回路82は、U相誘起電圧に応じたアナログ信号(U相アナログ信号)を制御部76及びU相デジタル信号出力回路9に出力する。
U相デジタル信号出力回路9は、分圧回路91とコンパレータ92とを備えている。分圧回路91は、基準電圧Vccを分圧する回路であり、基準電圧Vccとグランドとの間に直列に接続された抵抗91A及び抵抗91Bを有している。抵抗91Aの抵抗値と抵抗91Bの抵抗値とは同一の値に設定されており、抵抗91Aと抵抗91Bとの間の接続点すなわち基準分圧点91aの電圧は、基準電圧Vccの二分の一の電圧である。本実施の形態においては、基準電圧Vccは5Vであり、基準分圧点91aの電圧は2.5Vである。
コンパレータ92は、反転入力端子及び非反転入力端子に入力された電圧(電圧信号)を比較する回路である。コンパレータ92の反転入力端子は、分圧回路91の基準分圧点91aに接続されており、当該反転入力端子には基準分圧点91aの電圧(基準電圧信号)が入力される。コンパレータ92の非反転入力端子は、オペアンプ82Aの出力端子に接続されており、当該非反転入力端子にはU相アナログ信号が入力される。コンパレータ92の出力端子は、制御部76の入力ポートに接続されている。
コンパレータ92は、基準電圧信号とU相アナログ信号とを比較し、U相誘起電圧の向きに応じたデジタル信号(二値信号)を制御部76に出力する。具体的には、U相アナログ信号が基準電圧信号よりも大きい場合に制御部76の入力ポートにハイ信号を出力し、U相アナログ信号が基準電圧信号以下である場合は、制御部76にロー信号を出力する(電圧信号を出力しない)。言い換えれば、コンパレータ92は、U相誘起電圧に応じたデジタル信号(U相デジタル信号)を制御部76に出力する。
なお、V相信号出力回路73は、V相電圧点71c及び中性点分圧点71eに接続されており、当該接続構成以外はU相アナログ信号出力回路8と同様の構成であるV相アナログ信号出力回路、及びU相デジタル信号出力回路9と同様の構成であるV相デジタル信号出力回路を有している。また、W相信号出力回路74は、W相電圧点71d及び中性点分圧点71eに接続されており、当該接続構成以外はU相アナログ信号出力回路8と同様の構成であるW相アナログ信号出力回路、及びU相デジタル信号出力回路9と同様の構成であるW相デジタル信号出力回路を有している。すなわち、制御部76には、U相アナログ信号、U相デジタル信号、V相アナログ信号、V相デジタル信号、W相アナログ信号及びW相デジタル信号の合計6系統の信号が入力される。U相アナログ信号出力回路8、V相アナログ信号出力回路及びW相アナログ信号出力回路は、本発明のアナログ信号出力手段として機能する。また、U相デジタル信号出力回路9、V相デジタル信号出力回路及びW相デジタル信号出力回路は、本発明のデジタル信号出力手段として機能する。
ここで、U相対応電圧、U相アナログ信号及びU相デジタル信号について図4に基づいて説明する。なお、U相誘起電圧は、ロータ32の回転が回転することによって略正弦波を描く。これは、ロータ32が回転することで、コイルUの近傍をロータ32の永久磁石32AのN極及びS極が交互に通過してコイルUを貫く磁力が周期的に変化するためである。図4は、ロータ32が最大回転数で回転している状態での各電圧信号及び電圧の波形を示す図であり、(a)はU相対応電圧の波形を示す図、(b)はU相アナログ信号の波形を示す図、(c)はU相デジタル信号の波形を示す図である。
図4(a)に示されているようにU相対応電圧は、0Vを中心として上下に振動する略正弦波である。本実施の形態においては、2組4極の永久磁石32Aを備えているため、U相対応電圧の1周期分すなわち電気角で360°分はロータ32の半回転に相当し、2周期分すなわち電気角で720°分はロータ32の1回転に相当する。
U相対応電圧が0Vを通過する点であるゼロクロスポイントは、U相対応電圧の半周期毎すなわち電気角で180°毎に存在し、ロータ32の1回転(電気角で720°分)の間にゼロクロスポイントは4点存在する。なお、ゼロクロスポイントの中でもU相対応電圧が0Vよりも小さい値から0Vを通過して0Vよりも大きな値に変化する「立ち上がり」のゼロクロスポイントは、1周期毎すなわち電気角で360°毎に存在し、ロータ32の1回転の間に2点存在する。
またU相対応電圧は、U相誘起電圧と比例関係にあるため、U相誘起電圧はU相対応電圧に同期した略正弦波であり、U相誘起電圧のゼロクロスポイントのタイミングもU相対応電圧のゼロクロスポイントのタイミングと同期する。なお、V相誘起電圧はU相誘起電圧よりも電気角で120°遅れた略正弦波であり、W相誘起電圧はU相誘起電圧よりも電気角で240°遅れた略正弦波である。
U相誘起電圧、V相誘起電圧及びW相誘起電圧の3相分全てのゼロクロスポイントの数は、ロータ32の一回転の間に12点存在し、ロータ32が30°回転する毎(電気角で60°毎)にU相誘起電圧、V相誘起電圧、W相誘起電圧のいずれかの誘起電圧がゼロクロスポイントを通過する。なお、3相分全ての「立ち上がり」のゼロクロスポイントの数は6点存在し、ロータ32が60°回転する毎(電気角で120°毎)にU相誘起電圧、V相誘起電圧、W相誘起電圧の順に「立ち上がり」のゼロクロスポイントを通過する。
図4(b)に示されているようにU相アナログ信号は、差動増幅回路82によってU相対応電圧が増幅且つオフセットされた信号であり、本実施の形態においては、2.5Vを中心として振動し、振幅が1.3V、最大値3.8V、最小値1.2Vである略正弦波である。また、U相アナログ信号が2.5Vを通過するタイミングは、U相誘起電圧(又はU相対応電圧)のゼロクロスポイントに相当する。また、図4(b)の破線Bは、基準電圧信号を示しており、本実施の形態においては2.5Vである。
図4(c)に示されているようにU相デジタル信号は、コンパレータ92による比較結果であるハイ信号(5V)及びロー信号(0V)を組み合わせた矩形波である。U相デジタル信号は、基準電圧信号よりもU相アナログ信号が大きい期間(電気角で0°から180°の間、360°から540°の間等)、ハイ信号を出力し続ける。また、U相アナログ信号が基準電圧信号以下である期間(電気角で180°から360°の間、540°から720°の間等)は、ロー信号を出力し続ける。また、U相デジタル信号の出力がハイ信号からロー信号に切り換わるタイミング、又はロー信号からハイ信号に切り換わるタイミングは、U相誘起電圧のゼロクロスポイントのタイミングに相当する。なお、U相デジタル信号の出力がロー信号からハイ信号に切り換わるタイミングは、U相誘起電圧の「立ち上がり」のゼロクロスポイントのタイミングに相当する。
図2に戻り、制御信号出力回路75は、6個のFETQ1〜Q6の各ゲートに接続され、制御部76から入力される駆動信号に基づいて6個のFETQ1〜Q6の各ゲートに電圧信号(H1〜H6)を出力する回路である。6個のFETQ1〜Q6のうち、ゲートに電圧信号が入力されたFETはオン状態となりモータ3のステータ巻線33Aへの通電を許容し、ゲートに当該電圧信号が入力されていないFETはオフ状態となりステータ巻線33Aの通電を遮断する。
制御部76は、処理プログラム及び各種データに基づいて駆動信号を出力するための演算、比較等を行う図示せぬ中央処理装置(CPU)と、処理プログラム、制御データ、各種閾値等を記憶するための図示せぬROMと、各種データを一時記憶するための図示せぬRAMと、時間を測定することができる計時機能とを備えている。また制御部76は、アナログ信号をデジタル情報に変換するA/D入力ポート、デジタル信号が入力される入力ポート、各種信号を出力する出力ポートをそれぞれ複数有している。本実施の形態において制御部76は、マイコンである。
制御部76は、各種ポートに入力されるステータ巻線33Aに発生する誘起電圧に応じた信号(誘起電圧アナログ信号又は誘起電圧デジタル信号)に基づいてロータ32の回転位置(回転角度)を算出し、当該回転位置の情報に基づいてモータ3を制御する。すなわちホール素子を用いることなくステータ巻線33Aに発生する誘起電圧に基づいてロータ32の回転制御を行うセンサレス方式でモータ3を制御する。また制御部76は、ロータ32の回転数を算出し、当該回転数及びスイッチトリガ22Aの引き量に基づいてロータ32の回転数を制御する。
制御部76による回転位置の算出は、ステータ巻線33AのコイルU、V、Wに発生する誘起電圧(U相誘起電圧、V相誘起電圧、W相誘起電圧)のゼロクロスポイントを検出することで行う。制御部76は、各相の誘起電圧に応じた各アナログ信号(U相アナログ信号、V相アナログ信号及びW相アナログ信号)、又は、各デジタル信号(U相デジタル信号、V相デジタル信号及びW相デジタル信号)のゼロクロスポイントを検出することで、U相誘起電圧、V相誘起電圧及びW相誘起電圧のそれぞれのゼロクロスポイントを検出し、当該ゼロクロスポイントに基づいてロータ32の回転位置を算出する。上述したようにゼロクロスポイントは、ロータ32が一回転する間に12点存在し、ロータ32が30°回転する毎に検出されるため、ロータ32の回転位置を30°毎に検出可能である。
制御部76による各アナログ信号のゼロクロスポイントの検出は、各アナログ信号のゼロクロスポイントに対応する電圧信号閾値を用い、各アナログ信号が当該電圧閾値を通過するタイミングを検出することで行う。本実施の形態における電圧信号閾値は2.5Vである。また、制御部76による各デジタル信号のゼロクロスポイントの検出は、各デジタル信号のハイ信号及びロー信号の切替わるタイミングを検出することで行う。
このように制御部76は、ゼロクロスポイントの検出により、ロータ32の回転位置を検出し、当該回転位置に基づいて、所定のFETQ1〜Q6を交互にスイッチングするための駆動信号を形成し、その駆動信号を制御信号出力回路75に出力する。これによってコイルU、V、Wのうちの所定のコイルに交互に通電し、ロータ32を所定の回転方向に回転させる。この場合、負電源側に接続されているFETQ4〜Q6をスイッチングさせるための駆動信号は、パルス幅変調信号(PWM信号)として出力される。なお、PWM信号は、FETをオン/オフさせるスイッチング周期(所定時間)における信号出力時間(パルス幅)を変更することができる信号である。
制御部76による回転数の算出は、ゼロクロスポイントの時間間隔を検出し、この時間間隔に基づき、ロータ32の1分間あたりの回転数値(rpm)を算出する。例えば、ゼロクロスポイントの時間間隔をT(ms)とすると、ロータ32の1回転あたりに要する時間は、T×12(ms)となり、ロータ32の1秒間の回転数は、1000/(T×12)(回)となり、回転数N(rpm)は、N=(1000/(T×12))×60と算出される。
制御部76によるロータ32の回転数の制御は、スイッチトリガ22Aから出力される押込量に応じたトリガ信号に基づいて行われる。制御部76は、トリガ信号に応じた目標回転数を設定し、当該目標回転数と検出したロータ32の回転数とを比較し、当該比較結果に基づいてPWM信号のデューティ比を変化させるフィードバック制御を行い、モータ3への電力供給量を調整し、ロータ32の回転数を制御する。制御部76は、本発明のモータ制御手段、駆動状態検出手段及び回転数検出手段として機能する。
次に、制御部76によるモータ3の制御について説明する。制御部76は、誘起電圧アナログ信号に基づいてロータ32の回転位置を算出してモータ3を制御するアナログ信号制御モードと、誘起電圧デジタル信号に基づいてロータ32の回転位置を算出してモータ3を制御するデジタル信号制御モードとを有しており、駆動状態(駆動開始状態であるか否か、ロータ32の回転数が低回転数状態であるか否か)に応じて当該2つの制御モードを切替えてモータ3を制御する。すなわち、制御部76は、誘起電圧アナログ信号及び誘起電圧デジタル信号のいずれか一方を駆動状態に応じて選択し、選択された一方の信号に基づいてモータ3を制御する。
ここで、デジタル信号制御モードの特性及びアナログ信号制御モードの特性について説明する。
最初に、デジタル信号制御モードの特性、すなわち誘起電圧デジタル信号に基づくモータ3の制御の特性について説明する。デジタル信号制御モードの場合、制御部76が演算処理する対象は、二値信号である誘起電圧デジタル信号であるため、制御部76は高速にロータ32の回転位置を算出することができる。このため、ロータ32が高回転数状態であっても算出されたロータ32の回転位置と実際の回転位置とのずれは僅かにしか生じず、安定してモータ3を制御することができる。しかしながら、デジタル信号制御モードにおいてロータ32が低回転数状態である場合、ステータ巻線33Aに発生する誘起電圧が低くなり、回転時に発生するトルクリプル等に起因した逆転が発生し易く、誘起電圧アナログ信号が基準電圧信号付近で上下するため、誘起電圧デジタル信号を出力するコンパレータ(例えば、U相デジタル信号を出力するコンパレータ92)がチャタリングを起こす可能性が高く、安定してモータ3を制御することができない虞がある。また、ロータ32が低回転数状態である場合、ステータ巻線33Aに発生する誘起電圧が低くなり、誘起電圧アナログ信号と基準電圧信号との差が僅かとなるため、コンパレータ(例えば、U相デジタル信号を出力するコンパレータ92)の分解能の程度、ヒステリシス特性によっては、誤作動を起こす虞もある。当該誤作動は、例えば、誘起電圧アナログ信号が基準電圧信号よりも大きいが、その差が僅かであるため、コンパレータがロー信号を出力してしまうといった誤作動である。
図7を参照しながら、誘起電圧に応じたデジタル信号に基づいたモータの制御における低回転数状態でのチャタリングについて従来の電動機器を例にとって説明する。図7は、誘起電圧に応じたデジタル信号に基づいてモータを制御する従来の電動機器におけるロータが低回転数状態である場合の各部の電圧信号を示す図であり、(a)はコンパレータに入力される誘起電圧に応じた信号の波形を示す図、(b)はコンパレータが出力するデジタル信号の波形を示す図である。
図7(a)に示されているように、一般に、ロータが低回転数状態である場合、モータのコイルに発生する誘起電圧が低いため、回転時に発生するトルクリプル等に起因した逆転が発生し易く、コンパレータに入力される誘起電圧に応じた信号がゼロクロスポイント近傍(電気角で180°、360°近傍)で0Vを跨いで高速で上下する現象が起こる場合がある。このような場合、従来の電動機器におけるコンパレータは、図7(b)に示されているように、ゼロクロスポイント近傍で誘起電圧に応じたデジタル信号としてハイ信号とロー信号と交互に高速に繰り返して出力するチャタリングを起こす可能性が高まる。当該コンパレータがチャタリングを起こすと、当該デジタル信号に基づいたゼロクロスポイントの検出が正確性を欠き、ロータの回転位置検出(回転位置算出)が不正確となり、ひいてはモータの制御が不安定となる。このように誘起電圧に応じたデジタル信号に基づいてモータを制御する従来の電動機器においてはロータが低回転数状態である場合、モータの制御が不安定となる虞があった。
このように、デジタル信号制御モードは、ロータ32が低回転数状態である場合にはモータ3の制御が不安定となる虞があるが、ロータ32が高回転数状態である場合にはモータ3の制御に好適であるという特性を持つ。
次に、アナログ信号制御モードの特性、すなわち誘起電圧アナログ信号に基づくモータ3の制御の特性について説明する。アナログ信号制御モードの場合、A/D入力ポートでA/D変換された誘起電圧アナログ信号は、ROMに予め記憶されたチャタリング成分を除去するプログラムに基づいて制御部76によって処理される。このため、低回転数状態であっても正確にゼロクロスポイントを算出することができる。これにより、ロータ32が低回転数状態であっても、制御部76は正確にゼロクロスポイントを検出(算出)することができ、安定してモータ3を制御することができる。しかしながら、一般にA/D入力ポートの分解能はコンパレータ(例えば、U相デジタル信号を出力するコンパレータ92)の分解能よりも高く誘起電圧アナログ信号のA/D変換は、当該コンパレータでの比較処理よりも時間を要し、さらに制御部76による上記プログラムに基づいた処理にも時間を要するため、アナログ信号制御モードにおけるロータ32の回転位置の算出速度は、デジタル信号制御モードにおける当該算出速度よりも遅くなる。このため、アナログ信号制御モードにおける高回転数状態では、算出されたロータ32の回転位置と実際の回転位置とずれが大きくなり、安定してモータ3を制御することができない虞がある。なお、当該回転位置の算出に要する時間は、低回転数状態においてモータ3の制御が不安定となる程度のものではない。
このように、アナログ信号制御モードは、ロータ32が高回転数状態である場合にはモータ3の制御が不安定となる虞があるが、ロータ32が低回転数状態である場合にはモータ3の制御に好適であるという特性を持つ。
上述した各制御モードの特性に鑑みて、本実施の形態における制御部76は、駆動開始状態である場合又は低回転数状態である場合は、誘起電圧デジタル信号に基づいてモータ3を制御(アナログ信号制御モードを選択)し、駆動開始状態でなく且つ低回転数状態でない場合には、誘起電圧デジタル信号に基づいてモータ3を制御(デジタル信号制御モードを選択)する。言い換えると、アナログ信号制御モードを実行した後にデジタル信号制御モードに移行する。これにより、センサレス方式における低回転数状態での安定したモータ3の制御と高回転数状態での安定したモータ3の制御とを両立させることができる。
図5に基づいて制御部76によるモータ3の制御フローの一例を説明する。図5は制御部76の制御フローを示すフローチャート図である。
図5に示されているように、電池パックPがインパクトドライバ1に装着されると、制御部76はモータ3の制御を開始する(S201)。制御部76は、モータ3の制御を開始した後にモータ3を停止状態とする(S202)。これにより、例えば、電池パックPがインパクトドライバ1に装着された瞬間にモータ3が駆動して先端工具が駆動してしまう、といった作業者の意図しないタイミングでの先端工具の駆動を防止することができる。特にスイッチトリガ22Aがオン状態となっている状態で電池パックPが装着された場合に有効である。
次に、スイッチトリガ22Aがオン状態であるか否か(押込まれたか否か)を判断する。オン状態であるか否かの判断は、スイッチトリガ22Aからトリガ信号が制御部76に入力されているか否かで判断する。スイッチトリガ22Aがオン状態でないと判断した場合(S203:No)、モータ3を停止状態とし(S202)、再び、スイッチトリガ22Aがオン状態であるか否かを判断する(S203)。すなわち、ステップ202でスイッチトリガ22Aがオン状態であると判断するまで、ステップ202及びステップ203を繰り返しながらモータ3の駆動停止状態を維持する。
スイッチトリガ22Aがオン状態であると判断した場合(S203:Yes)、制御モードとしてアナログ信号制御モードを選択し、モータ3の駆動を開始する(S204)。モータ3の駆動開始時(駆動開始状態)は、ロータ32が低回転数状態であるため、誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御する。
モータ3の駆動が開始されると、算出されたロータ32の回転数Nが回転数閾値A以下であるか否かを判断する(ステップ205)。回転数Nが回転数閾値A以下であると判断した場合(S206:Yes)、ロータ32の回転数が低回転数状態(低回転数域)であるため、制御部76はアナログ信号制御モードを選択し、誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御する。これにより、低回転数状態であっても安定してモータ3を制御することができる。なお、制御部76は、低回転数状態であるか否かの判断は、算出されたロータ32の回転数Nが制御部76のROMに予め記憶された回転数閾値A以下であるか否かで判断する。本実施の形態において回転数閾値Aは、当該値よりも高い回転数であればコンパレータ(例えば、U相デジタル信号を出力するコンパレータ92)がチャタリングを起こす可能性が低いと判断される回転数の値に設定されている。
その後、スイッチトリガ22Aがオン状態であるか否かを判断する(S208)。スイッチトリガ22Aがオン状態であると判断した場合(S208:Yes)、再び回転数Nが回転数閾値A以下であるか否かを判断する(S205)。すなわち、制御部76は、スイッチトリガ22Aがオン状態であり、且つ回転数Nが回転数閾値A以下である状態(低回転数状態)である限り、ステップ205、ステップ206、ステップ208の順に繰り返しながらアナログ信号制御モードでモータ3を制御する。
ステップ205で回転数Nが回転数閾値A以下でないと判断した場合(ステップ205:No)、ロータ32の回転数が低回転数状態ではないため、制御部76はデジタル信号制御モードを選択し、誘起電圧デジタル信号に基づいてモータ3を制御する。これにより、センサレス方式のモータ3の制御において、低回転数状態での安定したモータ3の制御と高回転数状態での安定したモータ3の制御とを両立させることができる。
その後、スイッチトリガ22Aがオン状態であるか否かを判断する(S208)。スイッチトリガ22Aがオン状態であると判断した場合(S208:Yes)、再び回転数Nが回転数閾値A以下であるか否かを判断する(S205)。すなわち、制御部76は、スイッチトリガ22Aがオン状態であり、且つ回転数Nが回転数閾値A以下でない状態である限り、ステップ205、ステップ207、ステップ208の順に繰り返しながらデジタル信号制御モードでモータ3を制御する。なお、ステップ205、ステップ207、ステップ208を繰り返しながらデジタル信号制御モードでモータ3を制御している間に、ロータ32の回転数が低下し、ステップ205で回転数Nが回転数閾値A以下であると判断した場合(S205:Yes)、デジタル信号制御モードからアナログ信号制御モードに切替えて誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御する。
ステップ208において、スイッチトリガ22Aがオン状態でないと判断した場合(S208:No)、上述したステップ202に戻り、モータ3の駆動を停止する。その後は、上述したように、再びスイッチトリガ22Aがオン状態となるまでステップ202及びステップ203を繰り返しながらモータ3の停止状態を維持する。
次に、図6に基づいて上述した制御部76による制御フローを用いてモータ3を制御した場合の各部の電圧、電圧信号、回転数及びデューティ比について説明する。図6は、制御部76による制御フローを用いてモータ3を制御した場合の各部の電圧、電圧信号、回転数及びデューティ比のタイミングチャートを示す図であり、(a)はU相対応電圧の波形を示す図、(b)はU相アナログ信号の波形を示す図、(c)はU相デジタル信号の波形を示す図、(d)はロータ32の回転数を示す図、(e)はデューティ比を示す図である。なお、図6(a)〜(e)の横軸は、時間(時刻)及び電気角を示しており、図6(b)における破線Bは図4と同様に基準電圧信号を示し、図6(d)における破線は回転数閾値Aを示している。
図6(a)〜(e)に示されているように、時刻t0で制御部76はアナログ信号制御モードでモータ3の駆動を開始している(図5のS203のYes、S204に相当)。図6(d)及び(e)に示されているように時刻t0〜時刻t1の間は、制御部76は回転数制御に基づいてデューティ比を時間に関する一次関数的に増加させており、回転数もデューティ比に比例して増加している。また図6(a)〜(c)に示されているように、時刻t0〜時刻t1の間(電気角で0°〜360°)は、ロータ32は低回転数状態であり、U相対応電圧及びU相アナログ信号の振幅も小さく、U相アナログ信号と基準電圧信号との差も僅かである。このため、電気角で0°〜180°の間においてU相アナログ信号は基準電圧信号よりも大きい値であるにもかかわらず、コンパレータ92はU相デジタル信号としてロー信号を出力する誤作動を起こしている。しかしながら、時刻t0〜時刻t1の間では、回転数が回転数閾値Aを超えていないため制御部76は、アナログ信号制御モードでモータ3を制御しており、安定したモータ3の制御が維持されている。
時刻t1〜時刻t2の間(電気角で360°から720°)では、制御部76は回転数制御に基づいてデューティ比をさらに増加させており、回転数もさらに増加している。またU相対応電圧及びU相アナログ信号の振幅は時刻t1よりも大きくなり、周期は短くなっている。さらに、当該期間ではU相アナログ信号と基準電圧信号との差も時刻t1より大きくなっているため、U相デジタル信号は正確に出力されている(図6(c))。なお、時刻t0〜時刻t2までの間は、図5のS205のYes、S206、S208のYesの繰り返しに相当する。
図6(d)に示されているように時刻t2を超えると、回転数が回転数閾値Aを超え、制御部76は制御モードをデジタル信号制御モードに切替える(図5のS205のNo及びS207に相当)。時刻t2を超え、回転数が回転数閾値Aを超えると、アナログ信号制御モードでは、安定してモータ3を制御できない虞があるが、制御部76はデジタル信号制御モードでモータ3を制御するため安定してモータ3を制御することができる。
時刻t3以降となると制御部76はデューティ比を最大まで増加させており、それに伴って回転数も最高となっている。時刻t3以降は、回転数が最高となり、U相対応電圧及びU相アナログ信号の振幅も最大となり、且つU相アナログ信号と基準電圧信号との差も最大とあるため、より正確にU相デジタル信号が出力される。この状態で、制御部76はロータ32の回転位置を高速算出可能なデジタル信号制御モードでモータ3を制御しているため、より安定してモータ3を制御することができる。なお、時刻t2を超えてからは、図5のS205のNo、S207、S208のYesの繰り返しに相当する。
上述したように、本発明の実施の形態による電動機器の一例であるインパクトドライバ1は、ステータ巻線33Aを有するステータ33とロータ32とを有するモータと、ステータ巻線33Aに発生する誘起電圧を検出する誘起電圧検出回路部71と、当該誘起電圧に基づいてモータ3を制御し、モータ3の駆動状態(駆動開始状態であるか等)を検出する制御部76と、を備えており、誘起電圧検出回路部71は、誘起電圧に応じたデジタル信号(誘起電圧デジタル信号)を出力するU相デジタル信号出力回路9、V相デジタル信号出力回路及びW相デジタル信号出力回路と、誘起電圧に応じたアナログ信号(誘起電圧アナログ信号)を出力するU相アナログ信号出力回路8、V相アナログ信号出力回路及びW相アナログ信号出力回路と、を有し、制御部76は、該駆動状態に応じて誘起電圧デジタル信号及び誘起電圧アナログ信号のいずれか一方を選択し、選択されたいずれか一方の信号に基づいてモータ3を制御する。
上記構成により、インパクトドライバ1は、誘起電圧に応じた信号に基づいてモータ3を制御する構成であるため、インパクトドライバ1にホール素子を設ける必要がない。これにより、部品点数を減らし組立性を向上させることができる。さらに、インパクトドライバ1の誘起電圧検出回路部71は、誘起電圧に応じたデジタル信号(誘起電圧デジタル信号)を制御部76に出力するU相デジタル信号出力回路9、V相デジタル信号出力回路及びW相デジタル信号出力回路と、誘起電圧に応じたアナログ信号(誘起電圧アナログ信号)を制御部76に出力するU相アナログ信号出力回路8、V相アナログ信号出力回路及びW相アナログ信号出力回路とを有しているため、モータ3の制御に用いる信号を適宜選択することができる。これにより、モータ3をより安定して良好に制御することができ、操作性を向上させることができる。すなわち、センサレス駆動方式において、安定してモータ3を制御することができる。
また制御部76は、モータ3の制御に用いる誘起電圧に応じた信号として誘起電圧アナログ信号及び誘起電圧デジタル信号のいずれか一方を駆動状態に応じて選択可能である。これにより、誘起電圧デジタル信号に基づいてモータ3を制御すると当該制御が不安定になる虞のある駆動状態の場合(例えば、モータ3の駆動開始時等)、モータ3の制御に誘起電圧デジタル信号を用いず、誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御することが可能となる。このため、駆動状態に応じて両信号の中からモータの制御に用いる信号を適宜選択することができない構成と比較して、より安定して良好にモータを制御することができ、操作性を向上させることができる。
また、インパクトドライバ1における制御部76は、ロータ32の回転数を検出する機能を備えており、駆動状態の中でも特にモータ3の制御の安定性に大きな影響を与える要素であるロータ32の回転数状態(ロータ32の回転数)に応じて、誘起電圧デジタル信号及び誘起電圧アナログ信号のいずれか一方を選択し、選択されたいずれか一方の信号に基づいてモータ3を制御することができるため、モータ3の制御をより安定させることができる。
また、制御部76は、ロータ32の回転数が回転数閾値A以下である場合、誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御し、当該回転数が回転数閾値Aよりも大きい場合、誘起電圧デジタル信号に基づいてモータ3を制御することができる。これにより、誘起電圧デジタル信号に基づいてモータ3を制御した場合に当該制御が不安定になる虞のある駆動状態すなわちロータ32の回転数が低い状態(低回転数状態)では、誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御し、誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御すると当該制御が不安定になる虞のある駆動状態すなわち回転数が高い状態(高回転数状態)では、誘起電圧デジタル信号に基づいてモータ3を制御することができる。したがって、より安定してモータ3を制御することができる。
また、制御部76は、モータ3の駆動開始時に誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御するため、モータ3の駆動開始時の低回転数状態において確実に誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御することができる。すなわち、モータ3の駆動開始時の低回転数状態において、モータ3の制御が不安定になる虞のある誘起電圧デジタル信号に基づくモータ3の制御を確実に回避することができる。したがって、モータ3をより安定して制御することが可能となる。
また、制御部76は、誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御(アナログ信号制御モード)した後に誘起電圧デジタル信号に基づいてモータ3を制御(デジタル信号制御モード)する。このため、例えば、モータ3の起動時(駆動開始時)の低回転数状態において、当該状態でモータ3の制御が不安定になる虞のある誘起電圧デジタル信号に基づくモータ3の制御をより確実に回避することができる。したがって、モータ3をより安定して良好に制御することが可能となる。
また、インパクトドライバ1は、モータ3の起動を指示するスイッチトリガ22Aを備えており、制御部76は、スイッチトリガ22Aが操作されると誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御し(アナログ信号制御モード)、その後、誘起電圧デジタル信号に基づいてモータ3を制御する(デジタル信号制御モード)。このため、例えば、モータ3の起動時(駆動開始時)の低回転数状態において、当該状態でモータ3の制御が不安定になる虞のある誘起電圧デジタル信号に基づくモータ3の制御をより確実に回避することができる。したがって、モータ3をより安定して良好に制御することが可能となる。
なお、上記した実施の形態では、本発明をインパクトドライバに適用した場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。特許請求の範囲に記載した範囲で、種々の変形や改良が可能である。例えば、本発明はインパクトドライバ以外にもDCブラシレスモータを備えた電動機器(電動工具、電気作業機等)に適用可能である。さらに、好ましくはハンマドリル、ドライバドリル、コンプレッサ等に代表されるロータ(回転軸)がロックしない構成の電動工具又は電気作業機等に適用可能である。また、モータとしてはDCブラシレスモータに限らず、誘導モータにも適用可能である。
また、本実施の形態における制御部76は、駆動状態として、駆動開始状態であるか否か、低回転数状態であるか否か、を判断して制御モードを切替える構成としたが、駆動状態として、駆動開始からの経過時間を判断して制御モードを切替える構成としても良い。
例えば、駆動開始からの経過時間が所定時間未満である場合は、ロータ32の回転数の状態が低回転数状態であることを考慮して、モータの駆動開始時から所定時間が経過するまでの間の誘起電圧アナログ信号に基づいてモータ3を制御する構成としても良い。この場合、モータ3の駆動開始時の低回転数状態において、当該状態でモータ3の制御が不安定になる虞のある誘起電圧デジタル信号に基づくモータ3の制御をより確実に回避することができ、モータをより安定して良好に制御することが可能となる。
また、スイッチトリガ22Aの引き量に応じたトリガ信号の状態(目標回転数の状態)等トリガ信号の状態を判断して制御モードを切替える構成としてもよい、すなわちトリガ信号によって定まる目標回転数が所定の閾値以下である場合(目標回転数からロータ32が低回転数状態であると判断できる場合)、アナログ信号制御モードでモータ3を制御する構成とすれば本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、本実施の形態においては、制御部76が回転数を算出する構成であったが、回転数検出のための回路を制御部76とは別に設けてもよい。
また、本実施の形態においては、U相誘起電圧を検出するために、中性点71aを抵抗71Dと抵抗71Eとによって分圧した中性点分圧点71eの電圧を基準としたU相分圧点81aの電圧を差動増幅回路82で増幅且つオフセットする構成であったが、中性点71aをノイズ除去のためのコンデンサを介してグランドに接続し、中性点71aを基準としたU相分圧点81aの電圧を差動増幅回路82で制御部76の入力レベルに増幅且つオフセットする構成であってもよい。