JPWO2015178479A1 - 正極材料、二次電池、正極材料の製造方法および二次電池の製造方法 - Google Patents

正極材料、二次電池、正極材料の製造方法および二次電池の製造方法 Download PDF

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Abstract

従来のリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料の複合体は、80C未満の放電レートにおいては良好な放電容量を示すものの、80C以上の放電レートにおける放電容量が低い、という課題があった。リチウムイオンの脱挿入により3価から5価の間で価数が変化するバナジウムを含むリン酸バナジウムリチウムと、導電性炭素材料と、を含み、前記リン酸バナジウムリチウムは、前記導電性炭素材料の表面に結合しており、前記リン酸バナジウムリチウムにおける全重量の90%以上は、直径が10から200nmの粒子形状の結晶体である正極材料。

Description

本発明は、正極材料、二次電池、正極材料の製造方法および二次電池の製造方法に関する。
二次電池や電気化学キャパシタ等の蓄電デバイスの電極材料にナシコン構造(Na Super Ionic Conductor)を有するリン酸バナジウムリチウム(Li(PO)と導電性炭素材料の複合体を用いることが知られている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)。
非特許文献1 X.Rui,et al., J. PowerSources, 214, 171 (2012)
非特許文献2 L.Zhang, et al., J. Power Sources, 203, 121 (2012)
非特許文献3 A.Pan et al., 「Nano−structured Li(PO/carbon composite forhigh−rate lithium−ion batteries」,Electrochemistry Communications, 12, 1674−1677(2010)
しかしながら、従来のリン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料の複合体は、80C未満の放電レートにおいては良好な放電容量を示すものの、80C以上の放電レートにおける放電容量が低い、という課題があった。
本発明の第1の態様における正極材料は、リチウムイオンの脱挿入により3価から5価の間で価数が変化するバナジウムを含むリン酸バナジウムリチウムと、導電性炭素材料と、を含み、リン酸バナジウムリチウムは、前記導電性炭素材料の表面に結合しており、リン酸バナジウムリチウムにおける全重量の90%以上は、直径が10から200nmの粒子形状の結晶体である正極材料。
本発明の第2の態様における正極材料の製造方法は、バナジウム源と、導電性炭素材料と、複数のカルボキシル基を有する有機化合物と、複数の水酸基を有するアルコールと、を含む混合物の水溶液を、旋回する反応容器内でずり応力と遠心力を加えて、酸化バナジウムを導電性炭素材料の表面に結合させるステップを含む第1の処理と、前記混合物にリン酸源とリチウム源とを加えて、旋回する反応容器内でずり応力と遠心力を加えて、前記導電性炭素材料の表面に粒子形状で結合したリン酸バナジウムリチウムを生成するステップを含む第2の処理と、を含む正極材料の製造方法。
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
本実施形態の正極材料を正極に含むリチウム二次電池10を模式的に示した断面図である。 UC処理に用いられる反応容器を示す部分断面図である。 アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム複合体の第1の処理の製造手順を示すフローチャートである。 アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム複合体の第2の処理の製造手順を示すフローチャートである。 アルミニウムが固溶した酸化バナジウム複合体のXRDプロファイルを示す。 アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムのEDX面分析結果を示す。 CNF表面に結合し、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム複合体のHRTEM像である。 リン酸バナジウムリチウムのHRTEM像と粒径分布を示す。 アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム複合体を含む正極材料の充放電特性を示すグラフである。 参考例1のリン酸バナジウムリチウム複合体のアルカリ凝集沈殿法による製造方法における第1の処理を示す。 参考例1のリン酸バナジウムリチウム複合体のアルカリ凝集沈殿法による製造方法における第2の処理を示す。 アルカリ凝集沈殿法にて製造したリン酸バナジウムリチウムの全体像を示すHRTEM像である。 アルカリ凝集沈殿法にて製造したリン酸バナジウムリチウムの部分拡大図を示すHRTEM像である。 放電レート特性を示す。 アルミニウムを含むリン酸バナジウムリチウムの結晶構造を示す模式図である。 充放電前後の格子パラメータ変化と、当該格子パラメータから算出される体積変化を示した表である。 放電のサイクル特性を示す。 リン酸バナジウムリチウム複合体を含む正極材料の充放電特性を示す。 充電レート特性を示す。 放電レート特性を示す。 放電のサイクル特性を示す。 ガリウムまたはインジウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム複合体の第1の処理の製造手順を示すフローチャートである。 充放電特性を示す。 放電レート特性を示す。 充電レート特性を示す。 金属イオンのイオン半径を説明する図である。 アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの理論容量を示すグラフである。 ペチーニ法で製造したアルミニウムが固溶していないリン酸バナジウムリチウム複合体のHRTEM像である。 放電のサイクル特性を示す。
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、本実施形態の正極材料を正極に含むリチウム二次電池10を模式的に示した断面図である。リチウム二次電池10は、電槽12と、イオン伝導体14と、セパレータ16と、正極18と、負極20とを含む。リチウム二次電池10において、イオン伝導体14を挟んで正極18と負極20が積層される。露点温度が管理された乾燥空気または乾燥不活性化ガス雰囲気下で、正極18と負極20とを電槽12に挿入する。そして、正極18と接続する正極端子22と、負極と接続する負極端子24とを負荷26に接続し、電槽12を密閉することで、リチウム二次電池10が組み立てられる。
本実施形態に係る正極材料は、アルミニウムを含み、リチウムイオンの脱挿入により3価から5価の間で価数が変化するバナジウムを含むリン酸バナジウムリチウムと、導電性炭素材料とを含み、アルミニウムはリン酸バナジウムに固溶している。そして、アルミニウムを含むリン酸バナジウムリチウムは、導電性炭素材料の表面に結合しており、アルミニウムを含むリン酸バナジウムリチウムの全重量の90%以上は、直径が10から200nmの粒子形状の結晶体である。
ここで、固溶とは、アルミニウム原子が酸化バナジウムの結晶構造におけるバナジウム原子に置換されて含まれる状態である。すなわち、Li3(PO43とLi3Al2(PO43という2つの同じ結晶構造を有するものが、例えば、1.8:0.2(=9:1)で交じり合っている(Solid Solution)状態である。また、結合とは、単にアルミニウムを含むリン酸バナジウムリチウムが導電性炭素材料の表面に物理的に添着しているのではなく、リン酸バナジウムリチウムと導電性炭素材料とが電気的にもつながっており、導電性が高い状態である。例えば、導電性炭素材料の表面にリン酸バナジウムリチウムが原子レベルで接合している状態である。なお、多くのアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムが導電性炭素材料の表面に結合していることが好ましいが、必ずしも全てのアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムが導電性炭素材料の表面に結合していなくてもよい。
アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムは、導電性炭素材料の表面に結合することで、高Cレートにおいても高い放電容量特性が得られるが、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの全重量の90%以上を、直径が10から200nmの粒子形状の結晶体とすることで、高い放電容量特性が得られる。そして、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの全重量の90%以上を、直径が10から100nmの粒子形状の結晶体とすることで、さらに高い放電容量特性が得られる。
なお、アルミニウムは、バナジウムと同じ価数であって、リチウムイオンの脱挿入で価数が変化しない金属の一例である。バナジウムと同じ価数であって、リチウムイオンの脱挿入で価数が変化しない金属は、ガリウムおよびインジウムであってもよく、当該金属は、アルミニウム、ガリウムおよびインジウムから選択される少なくとも1種であってよい。
本実施形態における正極材料において、リチウム源、バナジウム源、アルミニウム源およびリン酸源を含む混合物は、旋回する反応容器等を用いてナノケミカル処理される。これにより、リン酸バナジウムリチウム前駆体のナノ粒子化および導電性炭素材料との結合が促進される。ここで、ナノケミカル処理とは、旋回する反応容器等を用いてずり応力や遠心力等の機械的エネルギーを与える処理をいう。ナノケミカル処理は、超遠心力処理(Ultra−Centrifugal force processing method:以後、UC処理という場合がある)により、ずり応力、遠心力、その他の機械的エネルギーを加えることができればよい。要するに、機械的エネルギーによって、導電性炭素材料にアルミニウムを含むバナジウム化合物を付着させ、導電性炭素材料の表面上でリン酸バナジウムリチウムの前駆体を生成できればよい。ナノケミカル処理は、リチウム源、バナジウム源、アルミニウム源、リン酸源、及び導電性炭素材料の微細化処理と高分散化処理を兼ねる。
図2は、UC処理に用いられる反応容器を示す部分断面図である。図2に示す反応器100は、開口部にせき板112を有する外筒110と、貫通孔122を有し旋回する内筒120とを含んで構成される。この反応器100の内筒120内部に反応物が投入される。
投入された反応物は、内筒120を旋回することによって発生した遠心力によって、内筒120の貫通孔122を通って外筒110の内壁114に衝突する。この衝突により、反応物は、薄膜状となって内壁114の上部へずり上がる。この状態において、反応物には内壁114との間のずり応力と内筒120からの遠心力の双方が同時に加えられる。すなわち、反応物には、反応器100により、大きな機械的エネルギーが加えられる。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと考えられる。これにより、短時間で反応が進行する。十分な機械的エネルギーを反応物へ付与するためには、1500N(kgms−2)以上の遠心力を発生させることが好ましく、60000N(kgms−2)以上の遠心力を発生させることがより好ましい。
UC処理は、2回の処理に分けて実行される。第1回目のUC処理では、バナジウム源と、アルミニウム源と、導電性炭素材料とに、ずり応力と遠心力を加えて、導電性炭素材料にバナジウム源およびアルミニウム源を付着させる。第2回目のUC処理では、リチウム源と、リン酸源と、導電性炭素材料の表面上に形成されたアルミニウムが固溶されたバナジウムとに、ずり応力と遠心力を加えて、アルミニウムが固溶されたバナジウムの基礎を基点にリン酸バナジウムリチウムを生成することができる。
本実施形態における正極材料は、ペチーニ法を用いて、粒子形状で分散し、導電性炭素材料の表面に結合したアルミニウム固溶の酸化バナジウム複合体を得ている。その製造方法は、バナジウム源におけるバナジウム1モルに対して、アルミニウム源におけるアルミニウムのモル数の範囲が0より多く0.33以下となるように混合する。この混合物に水を加えて、バナジウムイオンと、アルミニウムイオンとを含む水溶液とし、複数のカルボキシル基を有する有機化合物を添加して金属錯体とする。この金属錯体と複数の水酸基を有するアルコールとのエステル反応により高分子化する。この混合物に、導電性炭素材料を加えてUC処理し、乾燥、焼成する第1の処理を行うことにより、粒子形状で分散し、導電性炭素材料の表面に結合したアルミニウム固溶の酸化バナジウム複合体が得られた。このように粒子形状で分散した酸化バナジウム複合体が得られた要因は、高分子化反応により形成されたポリマーが、金属錯体の間に入り込むスペーサの役割を果たし、これにより、金属錯体が、高い分散状態で維持されたからと考えられる。
アルミニウムが固溶した酸化バナジウムと、リチウム源およびリン酸源とを加えた混合物をUC処理し、乾燥、焼成する第2の処理により、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムにおける全重量の90%以上が10から100nmの粒子形状であって、電性炭素材料の表面に結合したアルミニウム固溶のリン酸バナジウムリチウム複合体が得られる。
バナジウム源としては、NHVOが挙げられるが、V、金属バナジウム、V、バナジウム(III)アセチルアセトネートおよびバナジウム(IV)オキシアセチルアセトナートであってもよい。アルミニウム源としては、Al(NOが挙げられるが、金属アルミニウム、アルミナ、他のアルミニウムの無機酸塩および有機酸塩であってもよい。
リチウム源としては、CHCOOLiが挙げられるが、LiNO、LiCO、LiOH、LiOH・HO、LiCl、LiSOおよびLICであってもよい。リン酸源としては、HPOが挙げられるが、NHPO、(NHHPO、PおよびLiPO 等のPO含有化合物であってもよい。
導電性炭素材料としては、カーボンナノファイバおよび中空シェル状の構造を有する導電性のカーボンブラック(例えば、ケッチェンブラック(登録商標))が好適であるが、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック等のカーボンブラック、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、メソポーラス炭素、又はこれらの複数の混合物も適用可能である。
複数のカルボキシル基を有する有機化合物としては、トリカルボン酸のクエン酸が挙げられるが、シュウ酸、マロン酸、コハク酸などのジカルボン酸であってもよい。また、複数の水酸基を有するアルコールとしては、エチレングリコールが挙げられるが、プロピレングリコールなどの他の2価のアルコール、またはグリセリンなどの3価のアルコールであってもよい。
このように、本実施形態に係るリチウム二次電池10は、正極18に含まれる正極材料により、良好な放電容量、特に高いCレートでの高放電容量特性および耐劣化性に優れるという効果を得る。なお、本実施形態の正極材料を含む正極を、リチウム二次電池の正極として用いた場合について説明したが、本実施形態の正極材料は、キャパシタの電極にも適用できる。
(実施例1)
本実施例1では、下記に示す製造手順により、モル比で10%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムとカーボンナノファイバ(以後、CNFという場合がある)の複合体からなる正極材料を生成した。
リン酸バナジウムリチウムの材料源は、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)、硝酸アルミニウム水和物(Al(NO・9HO)、酢酸リチウム(LiOAc)、リン酸(HPO)である。CNFの平均繊維径は、10から20nmである。リン酸バナジウムリチウムの各材料源とCNFの重量比率は、70:30である。
図3は、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム複合体の第1の処理の製造手順を示すフローチャートである。図3に示すように、まず、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)0.9当量と、クエン酸1.0当量と、エチレングリコール4.0当量と、硝酸アルミニウム0.1当量と、CNFと、を蒸留水(HO)に加えた混合溶液を作成した。これにより、バナジウムイオンおよびアルミニウムイオンとクエン酸とで金属錯体が形成され、さらにクエン酸は、エチレングリコールとのエステル反応によりポリマーを形成する。この高分子化反応により形成されたポリマーは、金属錯体の間に入り込むことによって、金属錯体を分散させるとともにその分散状態を維持する。この混合液を80℃の環境下において、図2に示した反応器を用いてUC処理した。UC処理として、内筒120を50m/sの回転速度で回転させて、5分間にわたって66000N(kgms−2)の遠心力を混合液に与えた。このUC処理では、金属錯体の微粒子化及び高分散化、CNFの解し、及び金属錯体のCNF表面への結合が促進される。
そして、混合溶液から不純物を濾過し、130℃で真空乾燥した後、300℃にて1時間熱処理した。この300℃での熱処理により、クエン酸およびエチレングリコールおよびクエン酸とエチレングリコールとのエステル化により形成されたポリマーを除去する。その後、窒素雰囲気中で800℃、5分間焼成した。この焼成で、アルミニウムおよびバナジウムが凝集することなく酸化される。これにより、CNFの表面に結合し、アルミニウムが固溶した酸化バナジウム(V1.8Al0.2)が形成される。これが、第1の処理である。
図4は、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム複合体の第2の処理の製造手順を示すフローチャートである。図4に示すように、アルミニウムが固溶したが酸化バナジウム(V1.8Al0.2)とCNFの結合体が1.0当量存在する溶液に対して、蒸留水と酢酸リチウム(LiOAc)1.5当量を加えて撹拌し、更に、蒸留水とリン酸(HPO)1.5当量を加えて、50m/sの回転速度で5分間のUC処理を行った。この処理では、酢酸リチウムとリン酸がCNFの表面に結合したアルミニウムが固溶した酸化バナジウム(V1.8Al0.2)に付着するものと考えられる。
そして、次に、得られた混合溶液を真空中において80℃で12時間、真空乾燥させた後、窒素雰囲気中で900℃、0分間焼成した。焼成の過程では、室温から3分で900℃まで昇温させ、その後自然冷却される。このように、急加熱によって、リン酸バナジウムリチウムの凝集が防止され、粒径の小さなナノ粒子を維持できると考えられる。急加熱は、酸素濃度が1000ppm程度の低酸素濃度の雰囲気下で行うことが望ましい。これにより、CNFの酸化を阻止できる。この焼成により、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの結晶化が進行し、ナノ粒子のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム(Li1.8Al0.2(PO)がCNFに担持された複合体粉末が得られる。これが、第2の処理である。
なお、アルミニウムの固溶量は、第1の処理で使用した混合溶液におけるメタバナジン酸アンモニウムと硝酸アルミニウムとの混合比率により定まる。すなわち、図3に示した例においては、メタバナジン酸アンモニウム0.9当量に対して、硝酸アルミニウムを0.1当量混合しているので、V1.8Al0.2が生成される。したがって、例えば、メタバナジン酸アンモニウム0.95当量に対して、硝酸アルミニウムを0.05当量混合するとV1.9Al0.1が生成する。そして、V1.9Al0.1を用いて第2の処理を実行することで、Li1.9Al0.1(POがCNFに担持された複合体粉末が得られる。
図5は、第1の処理により得られたアルミニウムが固溶した酸化バナジウム複合体のXRDプロファイルを示す。図5に示すように、アルミニウムが固溶した酸化バナジウムのXRDプロファイルにおいて、ICDDの酸化バナジウム(V)のXRDプロファイルと同じ位置にピークが観測され、第1の処理により、アルミニウムが固溶した酸化バナジウム(V1.8Al0.2)が酸化バナジウム(V2)と同じ結晶構造であり、且つ、不純物が形成されていないことを確認している。
図6は、第2の処理により得られたアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムのEDX面分析結果を示す。図6において図中の着色領域は、O、P、C、VおよびAlの分布状態を示している。図6から、リン酸バナジウムリチウムを示すO、PおよびVと、Alとが同じように分散していることが観測できる。このように、第1の処理および第2の処理によって得られたアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムにおいて、アルミニウムは、リン酸バナジウムに偏在することなくほぼ均一に分散して、固溶していることがわかる。
図7は、CNF表面に結合し、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム複合体のHRTEM像である。図7において、矢印で示したのが、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの粒子であり、棒状の物質がCNFである。図7に示すように、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムは、10nmから100nmの粒子形状で分散されていることが観測できる。また、当該粒子とCNFとに合焦している画像が得られていることから、粒子とCNFが同じ高さになっていることが確認でき、このことから、当該粒子はCNFの表面に結合していることがわかる。このように、図7から、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムは、10nmから100nmの粒子形状でCNFの表面に結合している状態で存在していることがわかる。
図8は、リン酸バナジウムリチウムのHRTEM像と粒径分布を示す。図8(a)は、V/CNF、(b)は、V1.8Al0.2/CNF、(c)は、Li(PO/CNF、(d)はLi1.8Al0.2(PO/CNFの複合体のHRTEM像と、粒径分布を示している。本実施例において、CNFに担持されたリン酸バナジウムリチウムの粒径は、HRTEM像におけるリン酸バナジウムリチウム像の粒子の粒子径を測定することによって取得している。さらに、粒子個数も、当該HRTEM像におけるリン酸バナジウムリチウムの個数をカウントすることによって取得している。図8に示した粒度分布は、HRTEM像から測定した粒径と、カウントした粒子個数とから作成している。
この複合体粉末をバインダーとしてのポリフッ化ビニリデンPVDFと共にSUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入し、作用電極W.E.とした。投入比率は、重量比にしてLi1.8Al0.2(PO:CNF:PVDF=63:27:10であった。作用電極W.E.上にはセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せた。電解液は、1.0M六フッ化リン酸リチウム(LiPF)/炭酸エチレン(EC)と炭酸ジメチル(DEC)とし、これらを浸透させてセルとした。尚、重量比率でLiPF/EC:DEC=1:1である。
このセルを作用電圧2.5〜4.3Vとして、放電レートを1CとするC.Cモード(定電流モード)にて、その充放電特性を調べた。尚、Cレートは、理論容量117.9mAhg−1を用いて計算した。図9は、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充放電特性を示すグラフである。図9において、横軸は放電容量を示し、縦軸は電位を示す。図9に示すように、実施例1のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムとCNFの複合体を電極材料に用いた結果、充電容量は、アルミニウムを添加した分だけ理論容量が減るとして算出した理論容量117.9mAhg−1に対し、若干増えて126mAhg−1となり、容量発現率は107%であった。また、放電容量は、理論容量117.9mAhg−1に対し、若干増えて124mAhg−1となり、容量発現率は、105%であった。
(参考例1)
図10は、参考例1のリン酸バナジウムリチウム複合体のアルカリ凝集沈殿法による製造方法における第1の処理を示す。図10に示すように、まず、CNFと塩化バナジウム(III)を蒸留水(HO)に加え、混合液をUC処理した。次に、水酸化ナトリウム(NaOH)を加えて混合液をpH=7に調整することで、塩化バナジウム(III)を加水分解し、水酸化バナジウム(III)(V(OH))を生成した。このとき、UC処理を2分間行う。そして、溶液から不純物を濾過し、80℃で真空乾燥した後、窒素雰囲気中、800℃で5分間焼成した。この焼成で、水酸化バナジウム(III)に脱水縮合反応が生じ、CNFの表面に結合した酸化バナジウム(III)(V)を形成した。
図11は、参考例1のリン酸バナジウムリチウム複合体のアルカリ凝集沈殿法による製造方法における第2の処理を示す。図11に示すように、酸化バナジウム(III)(V)とCNFの結合体が1.0当量存在する溶液に対して、蒸留水と酢酸リチウム(LiOAc)を1.5当量加えて撹拌し、更に蒸留水とリン酸(HPO)を1.5当量加えて5分間のUC処理を行った。そして、得られた溶液を真空中において80℃で終夜乾燥させた後、窒素雰囲気中で800℃、5分間焼成した。この焼成により、リン酸バナジウムリチウムの結晶化が進行し、リン酸バナジウムリチウムがCNFに結合した複合体粉末が得られる。
図12は、アルカリ凝集沈殿法にて製造したリン酸バナジウムリチウムの全体像を示すHRTEM像である。図13は、アルカリ凝集沈殿法にて製造したリン酸バナジウムリチウムの部分拡大図を示すHRTEM像である。図12、図13に示すように、アルカリ凝集沈殿法で製造したリン酸バナジウムリチウムは、50から500nmのプレート形状の結晶体と3から6nm粒子形状の結晶体が混在してCNFに結合している。
この複合体粉末をバインダーとしてのポリフッ化ビニリデンPVDFと共にSUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入し、作用電極W.E.とした。投入比率は、重量比にしてLi(PO:CNF:PVDF=63:27:10であった。作用電極W.E.上にはセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せた。電解液は、1.0M六フッ化リン酸リチウム(LiPF)/炭酸エチレン(EC)と炭酸ジメチル(DEC)とし、これらを浸透させてセルとした。尚、重量比率でLiPF/EC:DEC=1:1である。
実施例1の正極材料を用いて作成したセルと、参考例1の正極材料を用いて作成したセルを用いて放電レート特性を比較した。図14は、放電レート特性を示す。図14において、横軸はCレートを示し、縦軸は放電容量を示す。従来例との比較のために、従来までに報告されている放電レート特性をグラフ上に載せてある。図14に示すように、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムとCNFの複合体からなる正極材料は、480Cという高いCレートでの放電容量は85mAhg−1であり、X.Rui,et alにより報告されているCレートでの放電容量および、L.Zhang, et alにより報告されているCレートでの放電容量よりも大幅に良化している。また、参考例に係る正極材料は、480Cでの放電容量は80mAhg−1であり、実施例に示した正極材料は、参考例1よりも高い放電容量を確保できた。
このような結果を得られた要因を考察した。図15は、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの結晶構造を示す模式図である。図15において、紙面左側は、リン酸バナジウムリチウムの結晶構造を示し、紙面右側は、アルミニウムを含むリン酸バナジウムリチウムの結晶構造を示す。
リン酸バナジウムリチウムは、VOの八面体とPOの四面体とが頂点を共有して三次元的に配列したナシコン構造を有する。アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムは、バナジウム原子のサイトにアルミニウムが置換したAlOの八面体を一部に含み、リン酸バナジウムリチウムと同様のナシコン構造を有する。
アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムは、一般式Li(2−x)Al(POで表され、xは0<x≦0.5である。リチウム二次電池の正極材料として用いた場合、充放電に伴うリチウムイオンの脱挿入により、バナジウムの価数は、3価から4価または5価へ変化する。一方、固溶したアルミニウムは、電気化学反応には関与しない。そのため、充放電に伴うリチウムイオンの脱挿入が起きても、アルミニウムの価数は、3価のまま変化しない。
リン酸バナジウムリチウムの結晶構造において、二次電池の充放電に伴うリチウムイオンの脱挿入により、バナジウムの価数が変化し、リン酸バナジウムリチウムの結晶構造は収縮または膨張すると考えられる。このリチウムイオンの脱挿入に伴う結晶構造の体積変化により、リチウムイオンの拡散速度は遅くなると考えられる。これにより、高Cレートにおける放電容量が低下したと推測できる。
一方、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの結晶構造において、バナジウム原子のサイトにアルミニウム原子が置換した結晶構造は、リチウムの脱挿入によりアルミニウムの価数が変わらないので、体積変化を起こさないと考えられる。このように、体積変化を起こさない結晶構造を一部に含むリン酸バナジウムの結晶構造は、二次電池の充放電に伴うリチウムの脱挿入が起きても、アルミニウムが他の結晶構造における体積変化を抑制すると考えられる。これにより、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムは、アルミニウムが固溶されていないリン酸バナジウムリチウムよりもリチウムイオンの拡散速度を速くでき、高Cレートにおける放電容量特性が高められたものと推測できる。
図16は、充放電前後の正極材料の格子パラメータ変化と、当該格子パラメータから算出される体積変化を示した表である。充放電前と、充放電後における正極材料のXRD測定を行い、格子パラメータの変化および体積変化(Volume Strain)を算出した所、参考例1のリン酸バナジウムリチウムの体積変化は6.4%であり、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの体積変化は4.4%であった。このように、アルミニウムを固溶させることによって、二次電池の充放電に伴うリチウムの脱挿入による結晶構造の体積変化を抑制できていることを確認している。
図17は、放電サイクル特性を示すグラフである。図17は、アルミニウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電サイクル特性を示している。図17において、横軸はサイクル回数を示し、縦軸は放電容量を示す。図17に示すように、放電レートを10Cとして充放電を9500サイクル行った後であっても、アルミニウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、100mAhg−1の放電容量を維持し、容量維持率は89%であった。このことから、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は耐劣化性に優れていることがわかる。
(実施例2)
本実施例2では、第1の処理で使用した混合溶液におけるメタバナジン酸アンモニウム0.95当量に対し硝酸アルミニウム0.05当量混合させて、5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム(LiV1.9Al0.1(PO)とカーボンナノファイバの複合体粉末からなる正極材料を生成した。
この複合体粉末を用いて、実施例1と同じ手順で、作用電極W.E.およびセルを作成した。このセルを作用電圧2.5〜4.3Vとして、放電レートを1CとするC.Cモード(定電流モード)にて、その充放電特性を調べた。
図18は、リン酸バナジウムリチウム複合体を含む正極材料の充放電特性を示す。図18は、実施例2の5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料を有するセルの充放電特性と、参考例1のリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料を有するセルの充放電特性を示している。
図18において、横軸は放電容量を示し、縦軸は電位を示す。5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電容量は、アルミニウムを添加した分だけ理論容量が減るとして算出した理論容量125mAhg−1に対し、若干減って123mAhg−1となり、容量発現率は95.2%であった。一方、参考例1のリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電容量は、理論容量131mAhg−1に対し、若干減って123mAhg−1となり、容量発現率は90.8%であった。このように、アルミニウムを固溶していないリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料に対して、5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の方が高い容量発現率を示した。
図19は、充電レート特性を示す。図19は、5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充電レート特性と、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充電レート特性を示している。
図19において、横軸はCレートを示し、縦軸は充電容量を示す。図19に示すように、5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、50Cから480Cという高いCレートにおいて、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも高い充電容量を示した。このように、5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、アルミニウムが固溶されていないリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも高Cレートでの高い充電容量特性が得られることがわかる。
図20は、放電レート特性を示す。図20は、5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電レート特性と、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電レート特性を示している。
図20において、横軸はCレートを示し、縦軸は放電容量を示す。図20に示すように、5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、50Cから480Cという高いCレートにおいて、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも高い放電容量を示した。このように、5%のアルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、アルミニウムが固溶されていないリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも高Cレートでの高い放電容量特性が得られることがわかる。
図21は、放電のサイクル特性を示す。図21は、5%のアルミニウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料のサイクル特性と、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料のサイクル特性を示している。
図21において、横軸はサイクル回数を示し、縦軸は放電容量を示す。図21に示すように、5%のアルミニウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、放電レートを10Cとした充放電を4500サイクル行った後において100mAhg−1の放電容量を維持し、容量維持率は92.4%であった。一方、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、放電レートを10Cとした充放電を4500サイクル行った後において96mAhg−1の放電容量を維持し、容量維持率は89.4%であった。このように、アルミニウムを固溶していないリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料に対して、5%のアルミニウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の方が耐劣化性に優れることがわかる。
以上説明したように、5%のアルミニウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、アルミニウムが固溶されていないリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも、容量発現率、充電レート特性、放電レート特性および耐劣化性に優れる。このように、リン酸バナジウムリチウムへのアルミニウムが固溶量を5%であっても、アルミニウムは、リチウムの脱挿入によるリン酸バナジウムの結晶構造の体積変化を抑制でき、結晶構造を安定化できる。これにより、5%のアルミニウムを固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、容量発現率、充電レート特性、放電レート特性および耐劣化性に優れたものとなった。
(実施例3)
本実施例3では、アルミニウムに代えて、リチウムの脱挿入により価数の変化しない金属としてガリウムまたはインジウムを固溶させたリン酸バナジウムリチウム(LiV1.90.13、M=Ga、In)とカーボンナノファイバの複合体粉末からなる正極材料を生成した。
図22は、ガリウムまたはインジウムが固溶したリン酸バナジウムリチウム複合体の第1の処理の製造手順を示すフローチャートである。図22に示すように、メタバナジン酸アンモニウム(NHVO)0.95当量と、クエン酸1.0当量と、エチレングリコール4.0当量と、硝酸ガリウム0.05当量または硝酸インジウム0.05当量と、CNFとを蒸留水(HO)に加えた混合溶液を作成した。次に、作成した混合液を80℃の環境下において、UC処理した。UC処理として、内筒120を50m/sの回転速度で回転させて、5分間にわたって66000N(kgms−2)の遠心力を混合液に与えた。
その後、混合溶液から不純物を濾過し、130℃で12時間真空乾燥した後、300℃にて3時間熱処理した。その後、窒素雰囲気中で800℃、30分間焼成した。これにより、CNFの表面に結合し、インジウムまたはバナジウムが固溶した酸化バナジウム(V1.90.1)が形成される。なお、第2の処理については、図4に示した処理と同じなので、詳細な説明は省略する。
上記処理により得られた複合体粉末を用いて、実施例1と同じ手順で、作用電極W.E.およびセルを作成した。このセルを作用電圧2.5〜4.3Vとして、放電レートを1CとするC.Cモード(定電流モード)にて、その充放電特性を調べた。
図23は、充放電特性を示す。図23は、ガリウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充放電特性と、インジウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充放電特性を示している。
図23において、縦軸は電位を示し、横軸は放電容量を示す。図23に示すように、ガリウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムおよびインジウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムともに、電気化学的に活性であることを確認できた。
図24は、放電レート特性を示す。図24は、ガリウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムと、インジウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムと、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電レート特性を示している。
図24において、横軸はCレートを示し、縦軸は放電容量を示す。図24より、ガリウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電容量は、1Cという低いCレートにおいては、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも低い。これは電気化学反応に関与しないガリウムを固溶させたことで、理論容量が減ったことが原因である。しかしながら、480Cという高いCレートにおいては、ガリウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電容量は、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも高い。このように、ガリウムが固溶されたン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、高Cレートでの高い放電容量特性が得られることがわかる。
同様にインジウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電容量は、1Cという低いCレートにおいては、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも低い。しかしながら、480Cという高いCレートにおいて、インジウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の放電容量は、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも高い。このように、インジウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、高Cレートでの高い放電容量特性が得られることがわかる。
図25は、充電レート特性を示す。図25は、ガリウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムと、インジウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムと、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充電レート特性を示している。
図25において、横軸はCレートを示し、縦軸は充電容量を示す。図25より、ガリウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充電容量は、1Cという低いCレートにおいては、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも低い。しかしながら、480Cという高いCレートにおいては、ガリウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充電容量は、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも高い。このように、ガリウムが固溶されたン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、高Cレートでの高い充電容量特性が得られることがわかる。
また、同様にインジウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充電容量は、1Cという低いCレートにおいては、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも低い。しかしながら、480Cという高いCレートにおいては、インジウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料の充電容量は、リン酸バナジウムリチウムを含む正極材料よりも高い。このように、インジウムが固溶されたリン酸バナジウムリチウムを含む正極材料は、高Cレートでの高い充電容量特性が得られることがわかる。
図26は、金属イオンのイオン半径を説明する図である。図26において、棒グラフの高さは、イオン半径の大きさを示している。すなわち、棒グラフが高いことは、イオン半径が大きいことを示し、棒グラフが低いことは、イオン半径が小さいことを示す。
図26に示したように、充電によりバナジウムの価数が3価から4価に変化すると、イオン半径は、0.64Åから0.58Åに小さくなる。また、放電によりバナジウムの価数が4価から3価に変化すると、イオン半径は、0.58Åから0.64Åに大きくなる。このイオン半径の変化により、リン酸バナジウムリチウムの結晶は膨張および収縮する。
バナジウムに固溶したアルミニウムのイオン半径は、0.54Åである。また、バナジウムに固溶させたガリウムのイオン半径は、0.62Åであり、インジウムのイオン半径は、0.80Åである。3価のバナジウムのイオン半径0.64Åに対して、小さいイオン半径を有するアルミニウム、3価のバナジウムのイオン半径とほぼ同じイオン半径を有するガリウムおよび3価のバナジウムのイオン半径よりも大きいイオン半径を有するインジウムの何れであっても、バナジウムに固溶させることにより、当該金属を含む正極材料の高Cレートにおける容量特性を高めることができる。すなわち、本実施例においてバナジウムに固溶させた金属は、いずれもバナジウムイオンと同じ3価であって、リチウムイオンの脱挿入によって価数の変化しない金属であるが、当該金属のイオン半径の大小に関わらず、高Cレート条件における容量特性を向上できる。
図27は、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの理論容量を示すグラフである。アルミニウムは、電気化学反応に関与しないので、アルミニウムを添加した分だけ理論容量が減るとして、正極材料の理論容量を算出した。図27に示すように、アルミニウムの固溶量の上限を25%以下とすることで、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムは、理論容量100mAhg−1以上を確保できる。
また、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムを、一般式Li(2−x)Al(POで表した場合に、xは0<x≦0.5であることが好ましい。xを0より大きくすることで、リン酸バナジウムリチウムは、アルミニウムを含むので、上述したピラー構造により、高Cレートにおける放電容量特性を高めることができる。一方、アルミニウムを含むと理論容量が低下するが、xを0.5以下とすることで、アルミニウムの固溶量の上限を25%以下とできる。これにより、アルミニウムが固溶したリン酸バナジウムリチウムの理論容量を、100mAhg−1以上確保できる。
なお、本実施例において、アルミニウム等を固溶したリン酸バナジウムリチウムの例を示したが、アルミニウム等を固溶させなくてもよい。アルミニウムを固溶していないリン酸バナジウムリチウムは、本実施例と同じくペチーニ法を用いて製造されるが、アルミニウム源である、硝酸アルミニウムは含まない。
図28は、ペチーニ法で製造したアルミニウムが固溶していないリン酸バナジウムリチウム複合体のHRTEM像である。図28において、黒い部分がリン酸バナジウムリチウムの複合体を示し、薄い灰色部分がCNFを示している。図28に示すように、本実施例に示した製造方法に示したリン酸バナジウムリチウムは、10nmから200nmの粒子形状の結晶体で分散されており、それぞれCNFと結合している。このように、アルミニウムが固溶していないリン酸バナジウムリチウム複合体は、10nmから200nmの粒子形状で分散してCNFに結合しており、この分散状態が、高Cレートでの高い放電容量特性および耐劣化特性をもたらしている。
アルミニウムを固溶していないリン酸バナジウムリチウムとCNFの複合材料においても、上記に示した方法でセルを作成した。このセルにおいて10Cにおける充放電サイクル特性を調べた。図29は、放電のサイクル特性を示す。図29は、ペチーニ法で製造したアルミニウムを固溶していないリン酸バナジウムリチウム複合体の放電のサイクル特性を示している。
図29に示すように、ペチーニ法で製造した10nmから200nmの粒子形状の結晶体が分散されたリン酸バナジウムリチウム複合体から構成された正極材料は、9500サイクル充放電を行った後においても放電容量99mAhg−1を維持できた。一方、参考例1に示したアルカリ凝集沈殿法で製造したリン酸バナジウムリチウム複合体から構成された正極材料は、9500サイクル充放電を行った後においては、放電容量が95mAhg−1となった。この結果から、10nmから200nmの粒子形状の結晶体が分散されたリン酸バナジウムリチウム複合体から構成された正極材料の方が高い放電容量を維持でき、耐劣化性に優れることが示された。
また、参考例1で示したアルカリ凝集沈殿法は、塩化バナジウムの分解により塩素や塩化水素が発生するVClまたは導電性炭素材料の表面にダメージを与えることにより、不可逆容量を与えるNaOHを使用する必要がある。これに対し、実施例1に示した製造方法は、VClを用いていないので、塩素や塩化水素が発生せず、より環境に配慮した製造方法である。また、NaOHを加えることなく製造できるので、導電性炭素材料の表面にダメージを与えることがない。これにより、初期の不可逆容量の増加を抑制でき、良好な耐劣化性が達成できる。
なお、本実施例において、導電性炭素材料としてCNFを用いた例を示した。しかしながら、導電性炭素材料は、CNFに限られず、ケッチェンブラック(登録商標)であってもよい。ケッチェンブラック(登録商標)は、中空シェル状の構造を有する導電性カーボンブラックであり、CNF同様に導電性炭素材料として適している。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
10 リチウム二次電池、12 電槽(ハウジング)、14 イオン伝導体、16 セパレータ、18 正極、20 負極、22 正極端子、24 負極端子、26 負荷、100 反応器、110 外筒、112 せき板、114 内壁、120 内筒、122 貫通孔

Claims (14)

  1. リチウムイオンの脱挿入により3価から5価の間で価数が変化するバナジウムを含むリン酸バナジウムリチウムと、
    導電性炭素材料と、
    を含み、
    前記リン酸バナジウムリチウムは、前記導電性炭素材料の表面に結合しており、
    前記リン酸バナジウムリチウムにおける全重量の90%以上は、直径が10から200nmの粒子形状の結晶体である正極材料。
  2. 前記リン酸バナジウムリチウムの直径は、10から100nmである請求項1に記載の正極材料。
  3. 前記導電性炭素材料は、カーボンナノファイバである請求項1または2に記載の正極材料。
  4. 前記導電性炭素材料は、中空シェル状の構造を有する導電性カーボンブラックである請求項1から3の何れか1項に記載の正極材料。
  5. 前記リン酸バナジウムリチウムは、さらにアルミニウムを含み、
    前記アルミニウムは、前記リン酸バナジウムリチウムに固溶している請求項1から4の何れか1項に記載の正極材料。
  6. 前記アルミニウムを含む前記リン酸バナジウムリチウムは、一般式L2―xAl(POで表され、xは0<x≦0.5である請求項5に記載の正極材料。
  7. 請求項1から6の何れか1項に記載の前記正極材料を含む正極と、負極と、イオン伝導体と、セパレータとを有する二次電池。
  8. バナジウム源と、
    導電性炭素材料と、
    複数のカルボキシル基を有する有機化合物と、
    複数の水酸基を有するアルコールと、
    を含む混合物の水溶液を、旋回する反応容器内でずり応力と遠心力を加えて、酸化バナジウムを導電性炭素材料の表面に結合させるステップを含む第1の処理と、
    前記混合物にリン酸源とリチウム源とを加えて、旋回する反応容器内でずり応力と遠心力を加えて、前記導電性炭素材料の表面に粒子形状で結合したリン酸バナジウムリチウムを生成するステップを含む第2の処理と、
    を含む正極材料の製造方法。
  9. 前記第1の処理は、酸化バナジウムを導電性炭素材料の表面に結合させるステップに続いて、
    前記混合物を乾燥するステップと、
    前記混合物を焼成するステップと、
    をさらに含む請求項8に記載の正極材料の製造方法。
  10. 前記混合物を乾燥するステップは、
    前記複数のカルボキシル基を有する有機化合物と、
    前記複数の水酸基を有するアルコールと、
    前記複数のカルボキシル基を有する有機化合物と前記複数の水酸基を有するアルコールとのエステル化反応により生成する有機化合物と、
    を蒸発させるステップをさらに含む請求項9に記載の正極材料の製造方法。
  11. 前記第2の処理は、前記導電性炭素材料の表面に粒子形状で結合したリン酸バナジウムリチウムを生成するステップに続いて、
    前記リン酸バナジウムリチウムを乾燥するステップと、
    前記リン酸バナジウムリチウムを焼成するステップと、
    をさらに含む請求項8から10の何れか1項に記載の正極材料の製造方法。
  12. 酸化バナジウムを導電性炭素材料の表面に結合させるステップにおける混合物は、さらにアルミニウム源を含む請求項8から11の何れか1項に記載の正極材料の製造方法。
  13. バナジウム源とアルミニウム源は、バナジウム源におけるバナジウム1モルに対して、アルミニウム源におけるアルミニウムのモル数の範囲が0より多く0.33以下となるように混合する請求項8から12の何れか1項に記載の正極材料の製造方法。
  14. 請求項8から13の何れか1項に記載の正極材料の製造方法を含む、二次電池の製造方法。
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