JPWO2015170757A1 - 医薬組成物 - Google Patents

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Abstract

バイオ系薬物の血中での安定性と標的細胞内での放出性を両立し得るキャリアを提供する。本発明の医薬組成物は、親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有するポリマーユニットαと、親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有するポリマーユニットβと、薬物とを含む。ポリマーユニットαおよびβは、カチオン性ポリマー鎖セグメントが内側となり親水性ポリマー鎖セグメントが外側となるようにして放射状に配列してミセルを形成し、ミセルに薬物が内包されている。ポリマーユニットαのカチオン性ポリマー鎖セグメントは側鎖にフェニルボロン酸基を有し、ポリマーユニットβのカチオン性ポリマー鎖セグメントは側鎖にフェニルボロン酸結合部位を有し、フェニルボロン酸基とフェニルボロン酸結合部位とは、酸性環境下あるいは競合的に結合可能な物質の存在下で崩壊し得る架橋構造を形成している。

Description

本発明は、医薬組成物に関する。より詳細には、本発明は、薬物を内包したミセル形態を有する医薬組成物に関する。
タンパク質や核酸といった生体高分子を利用するバイオ医薬品は、低分子化合物を利用する従来型の医薬品に比べ、酵素で分解されたり免疫系によって排除されたりしやすい。こうしたバイオ系薬物の患部への到達性を向上させる観点から、ポリアミノ酸系のブロックコポリマーを利用したドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が進められている。当該開発の目標の一つは、血中での安定性(バイオ系薬物の保持性)と標的細胞内での薬物放出性を両立するキャリアの提供にあり、優れた両立性を実現するためにさらなる改善を図る必要がある。
特開2011−140537号公報 特開2002−179683号公報
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、バイオ系薬物の血中での安定性と標的細胞内での放出性を両立し得るキャリアを提供することにある。
本発明の医薬組成物は、親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有するポリマーユニットαと、親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有するポリマーユニットβと、薬物とを含み、該ポリマーユニットαおよびβが、該カチオン性ポリマー鎖セグメントが内側となり該親水性ポリマー鎖セグメントが外側となるようにして放射状に配列してミセルを形成し、該ミセルに該薬物が内包されている。ポリマーユニットαのカチオン性ポリマー鎖セグメントは側鎖にフェニルボロン酸基を有し、ポリマーユニットβのカチオン性ポリマー鎖セグメントは側鎖にフェニルボロン酸結合部位を有し、該フェニルボロン酸基と該フェニルボロン酸結合部位とは、酸性環境下あるいは競合的に結合可能な物質の存在下で崩壊し得る架橋構造を形成している。
1つの実施形態においては、上記フェニルボロン酸基のフェニル環の少なくとも1つの水素は、生理的pH付近にpKaを有するように置換されている。
1つの実施形態においては、上記フェニルボロン酸結合部位はcis−ジオール構造を含む。
1つの実施形態においては、上記薬物は核酸である。1つの実施形態においては、上記核酸はpDNAまたはmRNAである。
本発明によれば、バイオ系薬物の血中での安定性と標的細胞内での放出性を両立し得るキャリアが提供される。
A/P=6の場合に、ポリマーミセルにおいてポリオール構造の導入数を40に固定してFPBA基の導入数を変化させた場合のポリアニオンに対する置き換わり耐性を比較して示す電気泳動結果である。 A/P=8の場合に、ポリマーミセルにおいてポリオール構造の導入数を40に固定してFPBA基の導入数を変化させた場合のポリアニオンに対する置き換わり耐性を比較して示す電気泳動結果である。 ポリマーミセルにおいてFPBA基の導入数を44に固定してポリオール構造の導入数を変化させた場合のポリアニオンに対する置き換わり耐性を比較して示す電気泳動結果である。 実施例のポリマーミセルのATP濃度応答性を示す電気泳動結果である。 実施例のポリマーミセルのグルコース耐性を示す電気泳動結果である。 実施例のポリマーミセルと比較例1〜3のポリマーミセルについて細胞取り込み評価を比較して示す図である。 (a)は、実施例のポリマーミセルと比較例1〜3のポリマーミセルについて遺伝子発現評価を示す図であり、(b)は、当該ポリマーミセルを構成するポリマーの細胞毒性評価を示す図である。 実施例のポリマーミセルと比較例3のポリマーミセルについて血中滞留性評価を示す図である。 実施例のポリマーミセルと比較例のポリマーミセルについて遺伝子発現評価を示す図である。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.医薬組成物の概要
本発明の実施形態による医薬組成物は、親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有するポリマーユニットαと、親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有するポリマーユニットβと、薬物とを含む。ポリマーユニットαおよびβは、カチオン性ポリマー鎖セグメントが内側となり親水性ポリマー鎖セグメントが外側となるようにして放射状に配列してミセルを形成し、当該ミセルに薬物が内包されている。ポリマーユニットαのカチオン性ポリマー鎖セグメントは側鎖にフェニルボロン酸基を有し、ポリマーユニットβのカチオン性ポリマー鎖セグメントは側鎖にフェニルボロン酸結合部位を有し、該ミセル内部において当該フェニルボロン酸基とフェニルボロン酸結合部位とは、酸性環境下あるいは競合的に結合可能な物質の存在下で崩壊し得る架橋構造を形成している。以下、医薬組成物の詳細について説明する。
B.ポリマーユニットα
ポリマーユニットαは、親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有する。
B−1.親水性ポリマー鎖セグメント
親水性ポリマー鎖セグメントは、任意の適切な親水性ポリマーによって構成され得る。該親水性ポリマーとしては、例えば、ポリ(エチレングリコール)、ポリサッカライド、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリアミノ酸、ポリ(リンゴ酸)、またはこれらの誘導体が挙げられる。ポリサッカライドの具体例としては、デンプン、デキストラン、フルクタン、ガラクタン等が挙げられる。これらの中でも、ポリ(エチレングリコール)は、末端に種々の官能基を有する末端反応性ポリエチレングリコールが市販されており、また、種々の分子量のものが市販されており、容易に入手できることから、好ましく用いられ得る。
B−2.カチオン性ポリマー鎖セグメント
カチオン性ポリマー鎖セグメントは、任意の適切なカチオン性ポリマーによって構成され得る。カチオン性ポリマーの代表例としては、ポリアミノ酸が挙げられる。カチオン性ポリマー鎖セグメントは、側鎖にフェニルボロン酸(PBA)基を含む。1つの実施形態においては、PBA基は、血液に代表される生体環境(pH7.5未満)に適合させる観点から、生理的pH付近にpKaを有するように、PBA基を構成するフェニル環の少なくとも1つの水素が任意の置換基によって置換されている。上記置換PBA基のpKaは8未満であることが好ましく、7.5未満であることがより好ましい。置換PBA基のpKaがこのような範囲であれば、後述するポリマーユニットβのフェニルボロン酸(PBA)結合部位との間で所望のpH範囲で崩壊し得る架橋構造を容易に形成することができる。例えば、置換PBA基のpKaを制御することにより、pHが約7の細胞外では構造を維持しpHが5〜6の細胞内後期エンドソーム内では容易に崩壊する架橋構造を形成することができる。置換される水素の数は、1、2、3、または4であり、水素が1つのみ置換されるときの置換基およびB(OH)の導入箇所は、オルト、メタ、パラのいずれでもよい。置換基としては、例えば、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、ニトロ基等が挙げられる。なかでも、ブロックコポリマーの親水性を高める観点及びpKaを7.5未満にする観点から、置換PBA基は、下記の式(I)で示されるフッ素化フェニルボロン酸基(以下、「FPBA基」と称する場合がある)であることが好ましい。上記置換PBA基のpKaは、単量体として合成した置換PBA基含有アミノ酸から特定するものとする。上記置換PBA基のpKaの下限値は特に制限されないが、例えば2、また例えば3、であってよい。
(式(I)中、Fは独立に存在し、nは1、2、3または4のいずれかであり、nが1のときのFおよびB(OH)の導入箇所は、オルト、メタ、パラのいずれでもよい。)
さらに、ポリマーユニットαのカチオン性ポリマー鎖セグメントの側鎖部分に置換PBA基を有することにより、水性媒体(好ましくは、中性近傍の水性媒体)中で極めて安定なポリマーミセルが形成され得るという効果が得られ得る。具体的には、負の電荷を有する薬物(代表的には、核酸)と正の電荷を有するカチオン性ポリマー鎖セグメントとが静電相互作用により結合することにより、ポリマーユニットαおよびβのカチオン性ポリマー鎖セグメントが内側となるようなポリマーミセルが形成される。形成されたポリマーミセルにおいては、ポリマーユニットαおよびβのカチオン性ポリマー鎖セグメントが近接しているので、ポリマーユニットαのカチオン性ポリマー鎖セグメントの置換PBA基とポリマーユニットβのカチオン性ポリマー鎖セグメントのPBA結合部位との間の架橋が促進され、結果として、水性媒体中で極めて安定なポリマーミセルが形成され得る。上記のとおり、形成されたポリマーミセルにおいては、ポリマーユニットα(および後述のポリマーユニットβ)は、カチオン性ポリマー鎖セグメントを内側に、親水性ポリマー鎖セグメントを外側に向けて放射状に配列している。水性媒体としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッドバッファー(Good’s buffers)等の水性緩衝液が挙げられる。
以下、代表例として、ポリアミノ酸で構成され、PBA基として置換PBA基を有するカチオン性ポリマー鎖セグメント(ポリアミノ酸鎖セグメント)について説明する。
ポリアミノ酸鎖セグメントは、代表的には、PBA基に加えて、側鎖にカチオン性基を有する。ポリアミノ酸鎖セグメントの側鎖部分にカチオン性基を有することによりカチオン性ポリマー鎖セグメントが形成され、当該カチオン性ポリマー鎖セグメントが生体高分子(例えば、核酸)と会合して複合体、例えば、ポリイオンコンプレックス(PIC)を形成し得る。したがって、1つの実施形態においては、ポリアミノ酸鎖セグメントは、側鎖にカチオン性基を有するカチオン性アミノ酸残基と側鎖に置換PBA基を有する置換PBA基含有アミノ酸残基とを含む。ここで、カチオン性アミノ酸残基と置換PBA基含有アミノ酸残基とは、異なるアミノ酸残基であってもよく、同一のアミノ酸残基であってもよい。具体的には、当該ポリアミノ酸鎖セグメントは、側鎖に置換PBA基を有さないカチオン性アミノ酸残基と側鎖にカチオン性基を有さない置換PBA基含有アミノ酸残基とを含んでもよいし、これらの一方または両方に代えて、あるいは、これらに加えて、側鎖にカチオン性基と置換PBA基との両方を有するアミノ酸残基を含んでもよい。
上記カチオン性アミノ酸残基としては、側鎖にアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基が好ましい。側鎖にアミノ基を有することにより、水性媒体中において、該アミノ基が置換PBA基のホウ素に配位し得る。その結果、置換PBA基の導入によるポリマーユニットαの疎水化が回避されて、高い親水性が維持され得る。
上記側鎖にアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基が由来するアミノ酸としては、例えば、リシン、オルニチン、アルギニン、ホモアルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸および酸性アミノ酸に任意の適切なアミン化合物が導入されたアミノ酸誘導体が挙げられる。なかでも、リシンおよび酸性アミノ酸のカルボキシル基(−C(=O)OH)の−OH部が下記式(i)〜(iv)のいずれかの基で置換されたアミノ酸誘導体が好ましく、リシンおよびアスパラギン酸のα位もしくはβ位またはグルタミン酸のα位もしくはγ位のカルボキシル基(−C(=O)OH)の−OH部が下記式(i)〜(iv)のいずれかの基で置換されたアミノ酸誘導体がより好ましく、リシンおよびアスパラギン酸のα位もしくはβ位またはグルタミン酸のα位もしくはγ位のカルボキシル基(−C(=O)OH)の−OH部が下記式(i)の基で置換されたアミノ酸誘導体がさらに好ましい。
−NH−(CHp1−〔NH−(CHq1−〕r1NH (i);
−NH−(CHp2−N〔−(CHq2−NH (ii);
−NH−(CHp3−N{〔−(CHq3−NH〕〔−(CHq4−NH−〕r2H} (iii);および
−NH−(CHp4−N{−(CHq5−N〔−(CHq6−NH (iv)
(式(i)〜(iv)において、p1〜p4、q1〜q6、およびr1〜r2は、それぞれ相互に独立して、1〜5の整数である。)
上記式(i)〜(iv)において、p1〜p4およびq1〜q6は、それぞれ相互に独立して、好ましくは2または3であり、より好ましくは2である。また、r1〜r2は、それぞれ相互に独立して、好ましくは1〜3の整数である。
上記カチオン性アミノ酸残基がリシン残基である場合には、ポリアミノ酸鎖の合成が容易であり、かつ、得られたブロックコポリマーが生体適合性に非常に優れるという利点がある。また、上記カチオン性アミノ酸残基が酸性アミノ酸のカルボキシル基(−C(=O)OH)の−OH部が上記式(i)〜(iv)のいずれかの基で置換されたアミノ酸残基である場合、これらの残基は、異なる複数のアミン官能基を有するので、pKaが複数段階を示し、生理条件であるpH7.4においては複数のアミン官能基は部分的にプロトン化状態にあり、細胞に対するダメージが低いことが明らかにされている。また、核酸等と相互作用することによりPIC等の複合体を好適に形成することができるという利点がある。さらに、こうして形成された複合体がエンドソーム内(pH5.5)へ取り込まれてpHが下がると、ポリアミノ酸鎖セグメントのプロトン化がさらに進行し、バッファー効果(またはプロトンスポンジ効果)、或いは膜傷害活性が高まることによりエンドソームエスケープを促進させ得る。その結果、細胞質への薬物送達効率が向上し得る。
上記置換PBA基含有アミノ酸残基において、置換PBA基は、代表的には、連結基を介してその側鎖に導入されている。当該連結基としては、例えば、アミド結合、カルバモイル結合、アルキル結合、エーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、チオエーテル結合、スルホンアミド結合、ウレタン結合、スルホニル結合、チミン結合、ウレア結合、チオウレア結合およびこれらの組み合わせが挙げられる。当該連結基はこれらの結合の間に任意の適切なスペーサーを含んでいてもよい。スペーサーとしては、例えば、炭素数1〜27、好ましくは炭素数2〜5の直鎖状または分岐状アルキレン基、短鎖のエチレングリコール鎖(-OCHCH-)等が挙げられる。
上記置換PBA基が導入されるアミノ酸残基としては、上記連結基を介して置換PBA基が導入され得る限りにおいて、任意の適切なアミノ酸残基が選択され得る。合成の容易さの観点から、置換PBA基は、上記側鎖にアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基に導入されることが好ましい。具体例としては、置換PBA基は、上記の側鎖にアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基に、当該アミノ基とフェニル環の少なくとも1つの水素が置換されたカルボキシフェニルボロン酸またはそのエステル等との反応によって生じるアミド結合を介して導入され得る。別の具体例としては、置換PBA基は、2つのアミド結合とその間に含まれるプロピレン基とからなる連結基を介して上記の側鎖にアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基のアミノ基に導入され得る。ここで、側鎖に複数のアミノ基を有するカチオン性アミノ酸残基に対しては、置換PBA基を1つのみ導入してもよく、複数導入してもよい。1つのみ導入する場合、導入後の置換PBA基含有アミノ酸残基は、側鎖にアミノ基と置換PBA基との両方を有するのでカチオン性アミノ酸残基でもある。したがって、本発明においては、このようなアミノ酸残基のみを含むポリアミノ酸鎖セグメントもまた、カチオン性アミノ酸残基と置換PBA基含有アミノ酸残基との両方を含んでいると理解される。ただし、このようなアミノ酸残基を含むポリアミノ酸鎖セグメント中のカチオン性アミノ酸残基の数と置換PBA基含有アミノ酸残基の数との和を求める際には、当該アミノ酸残基については、どちらか一方としてのみ数えることとする。
上記ポリアミノ酸鎖セグメントは、上記カチオン性アミノ酸残基および置換PBA基含有アミノ酸残基に加えて、側鎖に疎水性基を有するアミノ酸残基(以下、「疎水性アミノ酸残基」と称する場合がある)をさらに含み得る。当該疎水性アミノ酸残基を含むことにより、水性媒体中において、ポリマーユニットα間に働く疎水性相互作用が大きくなり、その結果、より安定なポリマーミセルが形成され得る。さらに、疎水性アミノ酸残基が細胞膜の疎水性部分に突き刺さり、当該ポリマーミセルを細胞膜に固定するアンカーとして機能し得る。そのため、当該ポリマーミセルに核酸等の生体高分子を内包させた場合に、該生体高分子の細胞内への導入率が向上し得る。
上記疎水性アミノ酸残基が由来するアミノ酸としては、好ましくは25℃の水100gに対する溶解度が5g以下、より好ましくは4g以下であるアミノ酸が挙げられる。このようなアミノ酸としては、例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン等の非極性天然アミノ酸や、側鎖に疎水性基が導入されたアミノ酸の疎水性誘導体が挙げられる。当該アミノ酸の疎水性誘導体としては、好ましくはアスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸の側鎖、アミン化合物が導入された酸性アミノ酸の側鎖、およびリシン、オルニチン、アルギニン、ホモアルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸の側鎖に疎水性基が導入された誘導体が挙げられる。
上記導入される疎水性基としては、炭素数6〜27の飽和もしくは不飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜27の芳香族炭化水素基あるいはステリル基(ステロイドに由来する残基)が好ましく例示され得る。
上記炭素数6〜27の飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基としては、例えば、ヘキシル基(例えば、n−ヘキシル基)、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、エイコシル基、ヘンイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、およびヘプタコシル基が挙げられる。上記炭素数6〜27の不飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基としては、例えば、上記に例示したアルキル基の鎖中の炭素−炭素結合の1個〜5個が、炭素−炭素二重結合となっている基が挙げられる。
上記炭素数6〜27の芳香族炭化水素基としては、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。これらの好ましい具体例としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
上記ステリル基が由来するステロイドとしては、例えばステロールが挙げられる。ステロールとは、シクロペンタノンヒドロフェナントレン環(C1728)をベースとする天然、半合成または合成の化合物、さらにはそれらの誘導体を意味し、例えば、天然のステロールとしては、限定されるものではないが、コレステロール、コレスタノール、ジヒドロコレステロール、コール酸、カンペステロール、シストステロール等が挙げられ、その半合成または合成の化合物としては、これら天然物の例えば、合成前駆体(必要により、存在する場合には、一定の官能基、ヒドロキシ基の一部もしくは全部が当該技術分野で既知のヒドロキシ保護基により保護されているか、またはカルボキシル基がカルボキシル保護基により保護されている化合物を包含する)であることができる。また、ステロール誘導体とは、本発明の目的に悪影響を及ぼさない範囲内で、シクロペンタノンヒドロフェナントレン環にC1−12アルキル基、ハロゲン原子、例えば、塩素、臭素、フッ素、が導入されていてもよく、該環系は飽和、部分不飽和、であることができること等を意味する。上記ステリル基が由来し得るステロールとしては、好ましくはコレステロール、コレスタノール、ジヒドロコレステロール、コール酸、カンペステロール、シストステロール等の動植物油起源のステロールであり、さらに好ましくはコレステロール、コレスタノール、ジヒドロキシコレステロールであり、特に好ましくはコレステロールである。
上記ポリアミノ酸鎖セグメントは、カチオン性アミノ酸残基、置換PBA基含有アミノ酸残基および疎水性アミノ酸残基として、それぞれ一種のみのアミノ酸残基を含んでもよく、二種以上のアミノ酸残基を含んでもよい。また、ポリアミノ酸鎖セグメントにおけるカチオン性アミノ酸残基、置換PBA基含有アミノ酸残基および疎水性アミノ酸残基の結合順は任意であり、ランダム構造であってもよく、ブロック構造であってもよい。
上記ポリアミノ酸鎖セグメントに含まれるカチオン性アミノ酸残基、置換PBA基含有アミノ酸残基および疎水性アミノ酸残基の数は、各アミノ酸残基の種類等によって適切に調整され得る。
B−3.ポリマーユニットαを構成し得るブロックコポリマーの具体例
ポリマーユニットαを構成し得るブロックコポリマーの具体例を式(1)または(2)に示す。当該式(1)または(2)のブロックコポリマーにおいては、置換PBA基は、カチオン性アミノ酸残基の側鎖に導入される。代表的には、置換PBA基は、式(1)または(2)のブロックコポリマーのQ部分、あるいは、R6aおよび/またはR6b部分と反応することにより導入され得る。
(式(1)または(2)中、
の基は、水素原子あるいは未置換もしくは置換された炭素数1〜12の直鎖または分枝状のアルキル基であり、
の基は、水素原子、炭素数1〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキル基あるいは炭素数1〜24の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキルカルボニル基であり、
の基は、ヒドロキシル基、炭素数1〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキルオキシ基、炭素数2〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルケニルオキシ基、炭素数2〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキニルオキシ基あるいは炭素数1〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキル置換イミノ基であり、
4a、R4b、R5aおよびR5bの基は、相互に独立して、メチレン基またはエチレン基であり、
6aおよびR6bの基は、相互に独立して、上記(i)〜(iv)の基から選択される基であり、
6cおよびR6dの基は、相互に独立して、上記(i)〜(iv)の基から選択される基のアミノ基に炭素数6〜27の飽和もしくは不飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜27の芳香族炭化水素基あるいはステリル基が導入された基であり、
7aおよびR7bの基は、相互に独立して、−O−または−NH−であり、
8aおよびR8bの基は、相互に独立して、炭素数6〜27の飽和もしくは不飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜27の芳香族炭化水素基あるいはステリル基であり、
1の基は、−NH、−NHC(=NH)NH、または以下の式(II)で表される基であり、
の基は、−NH、−NHC(=NH)NH、または上記式(II)で表される基のアミノ基に炭素数6〜27の飽和もしくは不飽和の直鎖または分枝状の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜27の芳香族炭化水素基あるいはステリル基が導入された基であり、
Pの基は、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニンまたはトリプトファンの側鎖であり、
およびLは、相互に独立して、−S−S−または原子価結合であり、
は、−NH−、−O−、−O(CHp1−NH−、または−L2a−(CHq1−L2b−であり、ここで、p1およびq1は、相互に独立して、1〜5の整数であり、L2aはOCO、OCONH、NHCO、NHCOO、NHCONH、CONHまたはCOOであり、L2bはNHまたはOであり、
は、−OCO−(CHp2−CO−、−NHCO−(CHp3−CO−、または−L4a−(CHq2−CO−であり、ここで、p2、p3、およびq2は、相互に独立して、1〜5の整数であり、L4aは、OCONH、−CHNHCO−、NHCOO、NHCONH、CONHまたはCOOであり、
kは、30〜20,000の整数であり、
sは、1〜6の整数であり、
mは、0〜300の整数であり、
nは、0〜mの整数であり、
aは、0〜300の整数であり、
bは、0〜aの整数であり、
vは、0〜300の整数であり、
cは、0〜300の整数であり、
xは、0〜300の整数であり
yは、0〜xの整数であり
zは、0〜300の整数であり、
ただし、mが0のときzは2以上の整数であり;
zが0のときmは1以上の整数であり;
z個のQの基に含有される1級アミノ基および2級アミノ基の総数と(m−n)個のR6aの基とn個のR6bの基とに含有される1級アミノ基および2級アミノ基の総数との合計をwとしたとき、1以上w未満の当該アミノ基の水素原子が置換PBA基(例えば、上記式(I)で示されるFPBA基)を有する有機基(例えば、アシル基)で置換されている。)
上記式(1)または(2)において、LおよびLの組み合わせ、ならびに、LおよびLの組み合わせは、一緒になって一つの連結基となり得るように組み合わされる必要がある。例えば、Lが−NH−である場合、Lは−S−S−でなく、原子価結合である。
上記式(1)または(2)において、エチレングリコール(またはオキシエチレン)の繰り返し数を表すkは、30〜20,000、好ましくは40〜2,000、より好ましくは50〜1,500の整数である。
上記R〜Rの基で定義する、炭素数1〜12の直鎖または分枝状のアルキルオキシ基、アルキル置換イミノ基、およびアルキル基のアルキル部分としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、デシル基、およびウンデシル基等を挙げることができる。炭素数2〜12の直鎖または分枝状のアルケニルオキシ基または炭素数2〜12の直鎖または分枝状のアルキニルオキシ基における、アルケニルまたはアルキニル部分は、炭素数が2以上の上記に例示したアルキル基中に二重結合または三重結合を含むものを挙げることができる。
このような基または部分について、「置換された」場合の置換基としては、限定されるものでないが、C1−6アルコキシ基、アリールオキシ基、アリールC1−3オキシ基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基、C1−6アルコキシカルボニル基、C2−7アシルアミド基、トリ−C1−6アルキルシロキシ基、シロキシ基、シリルアミノ基を示すか、またはアセタール化ホルミル基、ホルミル基、塩素またはフッ素等のハロゲン原子を挙げることができる。ここで、例えば、C1−6のごとき表示は、炭素数1〜6を意味し、以下同様な意味を表すものとして使用する。さらに、炭素数1〜24の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキルカルボニル基の内の炭素数1〜12の未置換もしくは置換された直鎖または分枝状のアルキル部分は上述した例示を参考にでき、炭素数13以上のアルキル部分は、例えば、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ノナデシル基、ドコサニル基およびテトラコシル基等を挙げることができる。
別の実施形態において、Rの基は、標的結合部位を含む基で置換されてもよい。標的結合部位をポリマーの末端に導入することにより、標的となる所望の部位への薬物(例えば、核酸)の到達性を向上できる。標的結合部位を含む基としては、標的となる組織に対する指向性または機能性を有する限りにおいて任意の適切な基であり得、例えば、抗体もしくはその断片、またはその他の機能性もしくは標的指向性を有するタンパク質、ペプチド、アプタマー、ラクトース等の糖、葉酸といった生理活性物質およびその誘導体に由来する基であり得る。
標的結合部位を含む基で置換されたRの基の一例を、以下の式(III)に示す。
ここで、vは1〜5の整数を表し、Dは標的結合部位を表す。
Dは、好ましくは重量平均分子量が50〜20,000のペプチドであり、より好ましくは重量平均分子量が100〜10,000のペプチドであり、さらに好ましくは重量平均分子量が150〜3,000のペプチドである。
また、Dは、1〜200個のアミノ酸残基を有するペプチドであることが好ましく、1〜100個のアミノ酸残基を有するペプチドであることがより好ましく、1〜30個のアミノ酸残基を有するペプチドであることがさらに好ましい。
上記ペプチドとしては、例えば、血管新生や内膜肥厚、悪性腫瘍の増殖に関与するインテグリンと特異的に結合することができるペプチドが挙げられ、具体的には、RGDペプチドが挙げられる。RGDペプチドを標的結合部位として用いることにより、疾患部分を特異的に認識可能な粒子および該粒子を用いた医薬組成物が得られる。ここで、RGDペプチドとは、アルギニン−グリシン−アスパラギン酸(RGD)配列を含むペプチドをいう。好ましくは、RGDペプチドは環状RGD(cRGD)ペプチドである。具体的には、Dは、下記式(IV)で表わされ得る。
上記式(1)または(2)において定義する上記式(i)〜(iv)の基ならびに炭化水素基またはステリル基については、上述した通りである。Q、Q、R6a、R6b、R6c、R6d、R8aおよびR8bの基については、属する繰り返し単位全てについて同一の基が選択されてもよく、異なる基が選択されてもよい。また、sは、例えば、1、3、または4である。
、R6cまたはR6dの基に導入される疎水性基は、任意の適切な連結基を介して導入されていてもよい。該連結基の具体例としては、置換PBA基の導入の際に適用可能な連結基として上述したものが挙げられる。
式(1)または(2)において、R4aおよびR4bの基の両者がエチレン基を表す場合には、代表的には、nおよびbが整数0であるか、またはm−nおよびa−bが整数0であるポリアミノ酸を表すことになる。前者は、例えば、グルタミン酸γ−ベンジルエステルのN−カルボン酸無水物の重合により得られるポリ−α−グルタミン酸を表し、後者は、例えば、納豆菌をはじめとする細菌バチルス(Bacillus)属の菌株が生産するポリ−γ−グルタミン酸を表す。一方、R4aおよびR4bの基の両者ともメチレン基を表す場合には、これらの基を有するそれぞれの反復単位は共存し得るものと理解されている。式(1)または(2)におけるR5aおよびR5bの基についても同様である。製造効率の観点からは、好ましくはR4aおよびR4bの基がメチレン基であり、R5aおよびR5bの基がエチレン基である。
ポリマーユニットαを構成するポリアミノ酸鎖セグメントに含まれるカチオン性アミノ酸残基および置換PBA基含有アミノ酸残基の総数は、1以上である。形成されるポリマーミセルの安定性の観点から、カチオン性アミノ酸残基および置換PBA基含有アミノ酸残基の総数は、好ましくは10以上、より好ましくは20以上の整数(例えば、30以上、40以上または50以上の整数)であり、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、さらに好ましくは150以下、さらにより好ましくは100以下の整数である。当該ポリアミノ酸鎖セグメントが疎水性アミノ酸残基を含む場合、カチオン性アミノ酸残基の数は、疎水性アミノ酸残基の数に応じて上記の好適な範囲から適切に調整され得る。当該ポリアミノ酸鎖セグメントが疎水性アミノ酸残基を含む場合、ミセルがより安定化し得ることから、カチオン性アミノ酸残基、置換PBA基含有アミノ酸残基および疎水性アミノ酸残基の総数は、好ましくは10〜150、より好ましくは20〜100の整数であり得る。
ポリマーユニットαを構成するポリアミノ酸鎖セグメントにおいて、置換PBA基含有アミノ酸残基の数は、カチオン性アミノ酸残基の種類または数等によって適切に調整され得る。具体的には、ポリマーミセルが安定して形成され得る限りにおいて、置換PBA基含有アミノ酸残基の数または導入率は、任意の適切な値に設定され得る。例えば、置換PBA基含有アミノ酸残基の導入率(ポリマーユニットαにおけるカチオン性アミノ酸残基の総数に対する置換PBA基含有アミノ酸残基の数)は、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上であり、また、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である(ポリアミノ酸鎖セグメントが疎水性アミノ酸残基を含まない場合、該導入率は、例えば30%〜90%、40%〜80%、または50%〜70%であり得る)。置換PBA基含有アミノ酸残基の導入率がこのような範囲であれば、所望の架橋密度の架橋構造が形成され、結果として、血中では安定性および薬物保持性に優れ、かつ、細胞内では崩壊性および薬物放出性に優れたポリマーミセルを実現することができる。
B−4.ポリマーユニットαの作製方法
1つの実施形態においては、ポリマーユニットαは、任意の適切な合成方法によって作製され得る。1つの実施形態におけるポリマーユニットαの合成方法の一例は次の通りである。すなわち、Rを付与できる開始剤を用いてアニオンリビング重合を行うことによりポリエチレングリコール鎖を形成すること、当該ポリエチレングリコール鎖の成長末端側にアミノ基を導入すること;当該アミノ末端からNCA−Lys(TFA)等の保護されたアミノ酸誘導体を重合させてポリアミノ酸鎖セグメントを形成すること;当該ポリアミノ酸の側鎖を脱保護してアミノ基を露出させること;および、当該露出したアミノ基とフッ素化カルボキシフェニルボロン酸のカルボキシル基とを反応させて、アミド結合により所望の数のFPBA基を当該側鎖に導入することによって作製され得る。
別の実施形態においては、ポリマーユニットαは、例えば、以下のようにして作製され得る。すなわち、Rを付与できる開始剤を用いてアニオンリビング重合を行うことによりポリエチレングリコール鎖を形成すること、当該ポリエチレングリコール鎖の成長末端側にアミノ基を導入すること;当該アミノ末端からβ−ベンジル−L−アスパルテート、γ−ベンジル−L−グルタメート等の保護されたアミノ酸のN−カルボン酸無水物を重合させてポリアミノ酸鎖セグメントを形成すること;次いで、当該ポリアミノ酸とジエチレントリアミン(DET)等のアミン化合物とを反応させて、エステルアミド交換反応により当該アミノ酸側鎖にDET基等のアミン残基を導入すること;次いで、当該アミン残基のアミノ基とフッ素化カルボキシフェニルボロン酸のカルボキシル基とを反応させて、アミド結合により所望の数のFPBA基を当該側鎖に導入すること;によって作製され得る。このとき、β−ベンジル−L−アスパルテートとγ−ベンジル−L−グルタメートとを併用してポリアミノ酸鎖セグメントを形成すると、その後のエステルアミド交換反応がβ−ベンジル−L−アスパルテートに対して優先的に生じる。その結果、γ−ベンジル−L−グルタメート由来のアミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基として含むブロックコポリマーが得られ得る。
なお、上記合成の過程でアミノ酸エステル残基の一部にアミンの求核攻撃に起因した構造変化(例えば、アミノ酸エステル残基の脱アルコールによるイミド環の形成)が生じる場合がある。本発明に用いられるポリアミノ酸鎖セグメントは、このような構造変化を経た残基もさらに含み得るものとする。この場合、上記構造変化を経た残基は、カチオン性アミノ酸残基、置換PBA基含有アミノ酸残基、および疎水性アミノ酸残基のいずれにも含めないものとする。また、カチオン性アミノ酸残基における一部のNH基およびNH基が合成過程での酸(主に塩酸)の使用に起因して塩(主に塩酸塩)になる場合があるが、本発明においては、ポリアミノ酸鎖セグメントは、こうした構造を含み得るものとする。すなわち、Q、R6aおよびR6bの基における一部のNH基およびNH基は塩(例えば、塩酸塩)となっていてもよい。
また、α末端に標的結合部位を有するポリエチレングリコールを用いて上記のようなブロックコポリマーの合成を行うか、またはα末端に後から標的結合部位を含む基を導入できるような官能基を有するポリエチレングリコールを用いて上記のようなブロックコポリマーの合成を行った後に標的結合部位を含む基を導入することにより、親水性ポリマー(ポリエチレングリコール)の末端に標的結合部位を持つブロックコポリマーを合成することができる。標的結合部位を含む基を導入する方法としては種々の方法が用いられるが、例えばα末端がアセタール化されたポリエチレングリコール鎖を有するブロックコポリマーとシステイン末端を有する所望の標的結合部位を有する化合物とを酸性溶液中で混合することにより、ポリエチレングリコール鎖側の末端に上記標的結合部位を付与することができる。
C.ポリマーユニットβ
ポリマーユニットβは、ポリマーユニットαと同様に、親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有する。親水性ポリマー鎖セグメントは、ポリマーユニットαに関して上記B−1項で説明したとおりである。以下、ポリマーユニットβのカチオン性ポリマー鎖セグメントについて、ポリマーユニットβにおいて特徴的な部分のみを説明する。それ以外の部分については、ポリマーユニットαに関して上記B−2項で説明したとおりである。
ポリマーユニットβのカチオン性ポリマー鎖セグメントは側鎖にPBA結合部位を有する。PBA結合部位としては、PBA基と結合して架橋構造を形成し得る任意の適切な化学構造が採用され得る。PBA結合部位を構成し得る化学構造としては、例えば、ポリオール(特に、cis−ジオール)、ジアミン、ヒドロキシアミン、ヒドロキサム酸、アルコキシカルボキシアミドが挙げられる。PBA結合部位とPBA基との反応は代表的には脱水反応であり、したがって、PBA結合部位とPBA基との結合は代表的には共有結合である。PBA結合部位となり得る化学構造を有する化合物としては、例えば下記の化合物1〜43およびこれらの誘導体が挙げられる。
上記のような化合物には、任意の適切な反応を用いて任意の適切な位置にアミノ基と反応し得る官能基(例えば、カルボキシル基)が導入され得る。このような官能基を導入することにより、カチオン性ポリマー鎖セグメントの側鎖のアミノ基との反応が容易であり、結果として、PBA結合部位の導入が容易となる。
PBA結合部位がポリオール構造である場合、当該ポリオール構造の由来となるポリオール化合物に含まれる水酸基の数は、目的等に応じて適切に選択され得る。好ましくは、ポリオール構造はcis−ジオール構造を含む。cis−ジオール構造はPBA基との間にエステル結合を形成しやすいので、ポリマーユニットαのPBA基とポリマーユニットβのポリオール構造との間でエステル結合が容易に形成され、結果として、非常に安定なポリマーミセルが形成され得る。また、上記のとおり、ポリオール化合物には、任意の適切な反応を用いて任意の適切な位置に例えばカルボキシル基が導入され得る。カルボキシル基を導入することにより、カチオン性ポリマー鎖セグメントの側鎖(実質的には、当該側鎖のアミノ基)との反応が容易であり、結果として、ポリオール構造の導入が容易となる。上記のような観点から、化合物1(グルコン酸誘導体)が好ましい。また、このような化合物からのポリオール構造は、ポリマーユニットαのPBA基との反応性にも優れ、所望の架橋構造を形成し得る。
ポリマーユニットβへのPBA結合部位(例えば、ポリオール構造)の導入方法は、ポリマーユニットαへのPBA基の導入方法と同様である。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)鎖セグメントとポリアミノ酸鎖セグメントとを有するブロックコポリマーにおけるポリアミノ酸鎖セグメントの側鎖のアミノ基と、PBA結合部位を有する化合物(例えば、化合物1のグルコン酸誘導体のようなポリオール化合物)のカルボキシル基とを反応させることにより、ポリオール構造を当該側鎖に導入することができる。なお、PBA結合部位を導入する前のブロックコポリマーの主鎖および側鎖の構造は、PBA基を導入する前のブロックコポリマーの主鎖および側鎖の構造と同様であるので、ポリマーユニットαについての上記B−2〜B−4項の説明が参照され得る。
上記のとおり、ポリマーユニットβを構成し得るブロックコポリマーは、ポリマーユニットαを構成し得るブロックコポリマーと同様であり、具体例として上記式(1)または(2)で表されるブロックコポリマーが挙げられる(ただし、z個のQの基に含有される1級アミノ基および2級アミノ基の総数と(m−n)個のR6aの基とn個のR6bの基とに含有される1級アミノ基および2級アミノ基の総数との合計をwとしたとき、1以上w未満の当該アミノ基の水素原子がPBA結合部位を有する残基で置換されている)。ポリマーユニットβを構成するポリアミノ酸鎖セグメントに含まれるカチオン性アミノ酸残基およびPBA結合部位含有アミノ酸残基の総数は、それぞれ、ポリマーユニットαにおける場合と同様である。具体的には、該総数は、1以上であり、好ましくは10以上、より好ましくは20以上の整数(例えば、30以上、40以上または50以上の整数)であり、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、さらに好ましくは150以下、さらにより好ましくは100以下の整数である。ポリアミノ酸鎖セグメントが疎水性アミノ酸残基を含む場合、カチオン性アミノ酸残基の数は、疎水性アミノ酸残基の数に応じて上記の好適な範囲から適切に調整され得る。当該ポリアミノ酸鎖セグメントが疎水性アミノ酸残基を含む場合、ミセルがより安定化し得ることから、カチオン性アミノ酸残基、PBA結合部位含有アミノ酸残基および疎水性アミノ酸残基の総数は、好ましくは10〜150、より好ましくは20〜100であり得る。
ポリマーユニットβを構成するポリアミノ酸鎖セグメントにおいて、PBA結合部位含有アミノ酸残基の数は、カチオン性アミノ酸残基の種類または数等によって適切に調整され得る。具体的には、ポリマーミセルが安定して形成され得る限りにおいて、PBA結合部位含有アミノ酸残基の数または導入率は、任意の適切な値に設定され得る。例えば、PBA結合部位含有アミノ酸残基の導入率(ポリマーユニットβにおけるカチオン性アミノ酸残基の総数に対するPBA基結合部位含有アミノ酸残基の数)は、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上であり、また、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である(ポリアミノ酸鎖セグメントが疎水性アミノ酸残基を含まない場合、該導入率は、例えば30%〜90%、40%〜80%、または50%〜70%であり得る)。PBA結合部位含有アミノ酸残基の導入率がこのような範囲であれば、所望の架橋密度の架橋構造が形成され、結果として、血中では安定性および薬物保持性に優れ、かつ、細胞内では崩壊性および薬物放出性に優れたポリマーミセルを実現することができる。
D.ポリマーミセルおよび架橋構造
D−1.ポリマーミセル
上記のとおり、本発明の実施形態による医薬組成物は、上記ポリマーユニットαおよびβが、カチオン性ポリマー鎖セグメントが内側となり親水性ポリマー鎖セグメントが外側となるようにして放射状に配列し、ポリマーミセルを形成している。ポリマーミセルの平均粒径は、好ましくは20nm〜200nmであり、より好ましくは30nm〜150nmであり、さらに好ましくは30nm〜120nmである。
ポリマーミセルにおけるポリマーユニットαおよびβの含有量は、薬物のアニオンに対するポリマーユニットαおよびβのカチオンの電荷比が1以上であればよい。例えば薬物が核酸である場合、ポリマーミセルにおいて、pH7.4における[カチオン性ポリマー鎖セグメントの正電荷数]/[核酸の負電荷数]が、例えば1/1〜20/1、好ましくは1/1〜10/1であり得る。ポリマーミセルにおけるポリマーユニットαとポリマーユニットβとの含有比は、好ましくは2:3〜3:2であり、より好ましくは1:1近傍である。
D−2.架橋構造
ポリマーミセルにおいては、ポリマーユニットαのフェニルボロン酸基とポリマーユニットβのPBA結合部位とが、下記のような架橋構造を形成している。なお、下記のイメージは、架橋構造とともにポリマーミセルに内包された薬物も模式的に示している。
上記架橋構造は、酸性環境下、好ましくはpHが6以下、より好ましくはpHが4〜6の範囲で崩壊し得る。このような架橋構造を形成することにより、細胞への高い薬物(例えば、核酸)送達能を達成することができる。具体的には、生体内においては、細胞外のpHは約7であるのに対し、細胞内後期エンドソーム内のpHは5〜6である。したがって、上記のような架橋構造は、細胞外では構造を維持し、細胞内後期エンドソーム内では容易に崩壊する。その結果、本発明の実施形態による医薬組成物(例えば、ポリマーミセル)は、標的細胞に達するまでは薬物(例えば、核酸)を内包した形態を安定して維持することができ、かつ、標的細胞に取り込まれた後は、当該薬物を標的細胞内にスムーズかつ効率的に放出することができる。より詳細には、薬物の放出は以下のようにして実現され得る。標的細胞に取り込まれたポリマーミセルは、後期エンドソーム内の酸性(代表的には、pHが5〜6)環境下において架橋構造が崩壊する。その結果、薬物との相互作用が相対的に強いポリマーユニットが会合する。一方、薬物との相互作用が相対的に弱いポリマーユニットはミセルから離脱し、エンドソーム膜に対して膜障害活性を示すことにより、薬物はエンドソーム脱出を達成する。エンドソーム内の薬物(例えば、核酸)会合体は、細胞内に高濃度で存在するアデノシン三リン酸(ATP)の作用により、静電結合および疎水性相互作用が弱められ、同様に細胞内に高濃度で存在する核酸やたんぱく質などのアニオン性物質との置き換わり反応により、薬物は細胞に放出され得る。あるいは、上記架橋構造は、競合的に結合可能な物質の存在下で崩壊し得る。本明細書において「競合的に結合可能な物質」とは、PBA基とPBA結合部位との結合(架橋構造)よりも、PBA基またはPBA結合部位との間でより容易に結合を形成し得る官能基を有する物質をいう。すなわち、このような物質の存在下において、PBA基またはPBA結合部位が優先的に当該物質の官能基と結合することにより、架橋構造が崩壊し得る。架橋構造崩壊後の薬物放出のメカニズムは上記と同様である。競合的に結合可能な物質の具体例としては、RNA、ATP等のリボヌクレオチドまたはリボヌクレオシド、NADH、NADP、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンが挙げられる。なお、リボヌクレオチド、リボヌクレオシド、NADHおよびNADPはcis−ジオール構造を有するので、PBA結合部位を有する化合物でもある。競合的に結合可能な物質の一例として、ATPについて説明する。すなわち、細胞外ではポリマーユニットαのPBA基とポリマーユニットβのPBA結合部位との結合がポリマーミセルの安定化に大きく寄与している一方、細胞内(PBA基と結合可能な分子であるATPが豊富に存在する)では、ポリマーミセル内のPBA基とPBA結合部位との結合がPBA基とATPとの結合に置き換わる。その結果、PBA基とPBA結合部位の結合が切断されて架橋構造が崩壊し、ポリマーミセルが崩壊し得る。競合的に結合可能な物質は、好ましくは、高いPBA結合能を有する。例えば、血中に豊富にあるグルコースはPBA基との結合能を有するものの結合能は非常に低いので、ポリマーミセル内のPBA基とPBA結合部位との結合が維持され、血中のポリマーミセルも安定して維持される。
さらに、上記の架橋構造は、中性環境下においてきわめて容易に形成され得るという効果を有する。すなわち、ポリマーユニットαとポリマーユニットβとを中性の水性媒体中で単純に混合するだけで、架橋構造が形成されたポリマーミセルが容易に形成され得る。したがって、ポリマーユニットαとポリマーユニットβと薬物とを中性の水性媒体中で単純に混合するだけで、優れた薬物保持特性を有する薬物内包ポリマーミセルが容易に形成され得る。具体例としては、ポリマーユニットαとポリマーユニットβとを中性溶媒中で混合し、次いで、薬物を添加してさらに混合する、ポリマーユニットαとポリマーユニットβと薬物とを中性溶媒中で混合する、ポリマーユニットαと薬物とを中性溶媒中で混合し、次いで、ポリマーユニットβを添加してさらに混合する、ポリマーユニットβと薬物とを中性溶媒中で混合し、次いで、ポリマーユニットαを添加してさらに混合する等の形成方法が挙げられる。
E.薬物
薬物としては、ポリマーミセルに内包され得る限り任意の適切な薬物が用いられ得る。上記のようなポリマーミセルに好適に内包され得る薬物としては、核酸が挙げられる。好ましい核酸は長鎖(すなわち、高分子量の)核酸であり、より好ましくはmRNAおよびpDNAである。mRNAは3’末端におけるPBA基との結合が困難であり、結果としてポリマーユニットαへの結合が困難であるので、上記のようなポリマーミセルの架橋構造による内包および保持が非常に有用である。pDNAはPBA基との結合が実質的に不可能であるので、mRNAと同様に上記のようなポリマーミセルの架橋構造による内包および保持が非常に有用である。なお、上記のような核酸に含有されるヌクレオチドは天然型であっても、化学修飾された非天然型のものであってもよく、またアミノ基、チオール基、蛍光化合物などの分子が付加されたものであってもよい。
ポリマーミセルにおける薬物の含有量は、目的および用途等に応じて適切に設定され得る。薬物が核酸である場合、N/P比は、好ましくは1〜100であり、より好ましくは1〜50であり、さらに好ましくは1〜10である。このような範囲であれば、生理的条件下での安定性に優れ、かつ、毒性が抑制され得る。なお、N/P比とは、[ポリマーミセルに含有されるポリマーユニット中のポリアミノ酸側鎖のアミノ基]/[核酸中のリン酸基]を意味する。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、例えば「PEG−PAsp(DET/FPBA4475」という表記は、ポリアミノ酸鎖セグメントが重合度(アミノ酸残基数)75のポリアスパラギン酸誘導体にFPBA基を44個導入したものであることを示す。また、実施例において合成されたポリマーユニットのPEGの分子量は12000である。
<製造例1:ポリマーユニットαの合成>
(1−i)PEG−PBLAの合成
PEG−PBLA(ポリ(β−ベンジル−L−アスパラギン酸エステル))を以下のスキームで合成した。
ベンゼンで一晩凍結乾燥したMethoxy(MeO)−PEG−NH(日油株式会社製、Mw=12000)505mgを、DMF:ジクロロメタン(1:10)混合溶媒5.1mlに完全に溶解させた。Ar雰囲気下で、β−ベンジル−L−アスパラギン酸エステル(BLA)のN−カルボキシ酸無水物(BLA−NCA、中央化成品株式会社製)920mgを、上記と同様の混合溶媒9.2mlに溶解させた。BLA−NCA溶液をPEG溶液に加え、25℃の水浴で72時間撹拌した。IR測定により反応が終了していることを確認した後、当該反応液を撹拌されている酢酸エチル:ヘキサン(4:6)混合溶媒300mlに滴下し、PEG−PBLAの白色沈殿を得た。吸引ろ過にて溶媒を除去し、減圧乾燥を経て白色粉末のPEG−PBLA (1.11g)を得た。PBLAの重合度(アミノ酸残基数)は75であった。
(1−ii)PEG−PAsp(DET)の合成
次に、PEG−PBLAとジエチレントリアミン(DET)とのエステルアミド交換反応により、PEG−PAsp(DET)を合成した。合成スキームは以下のとおりである。
PEG−PBLA 600mgを少量のジクロロメタンに溶解し、ベンゼンを加えて一晩凍結乾燥させた。凍結乾燥したPEG−PBLAを、Ar雰囲気下で、チオウレア0.5Mを含有する脱水N−メチルピロリドン(NMP)30mlに溶解させた。他のフラスコにPBLAに対して50当量の脱水DET(9ml)をとり、脱水NMP(9ml)に溶解した。PEG−PBLA溶液とDET溶液を共に10℃に冷却し、PEG−PBLA溶液をDET溶液にゆっくり滴下し、2時間程度反応させた。反応後、反応溶液を撹拌中の5M塩酸水溶液中に塩氷で冷却しながら滴下した。この際、溶液が5℃を越えないようにした。滴下終了後速やかに、0.01M塩酸水溶液で4℃にて透析を開始した。透析は0.01M塩酸水溶液で3回、純水で2回行った。透析後に一晩凍結乾燥し、少量の純水に再溶解して0.2μmのシリンジフィルターでろ過し、再度一晩凍結乾燥を行った。このようにして、PEG−PAsp(DET)(551mg)を得た。
(1−iii)PEG−PAsp(DET)へのPBA基の導入
次に、トリアジン系縮合剤DMT−MMを用いた脱水縮合反応により、PEG−PAsp(DET)の側鎖にPBA基(本製造例ではFPBA基)を導入した。反応スキームは以下のとおりである。
PEG−PAsp(DET)40mg、DMT−MM(和光純薬社製)155mg、およびマンニトール102mgを、20mM NaHCO溶液7.5mlに溶解した。一方、下記表1に示すように所定の導入率に応じた量のFPBA(和光純薬社製)をメタノールに溶解させた。FPBAの質量が10mg以下の場合はメタノール2mlに溶解させ、FPBAの質量が10mgを超える場合はメタノール7.5mlに溶解させた。PEG−PAsp(DET)とFPBA溶液とを混合し、1時間ごとにDMT−MM(和光純薬社製)155mgを加えながら、4℃で3時間、攪拌しながら反応させた。反応後速やかに、0.01M塩酸水溶液で4℃にて透析を開始した。透析は0.01M塩酸水溶液で3回、純水で2回行った。透析後に0.2μmのシリンジフィルターでろ過して凍結乾燥し、PEG−PAsp(DET/FPBA)を得た。H−NMRにより解析したところ、実際のFPBA基導入数は表1の通りであった。
<製造例2:ポリマーユニットβの合成>
(2−i)PEG−PAsp(DET)の合成
製造例1と同様にしてPEG−PAsp(DET)を合成した。
(2−ii)グルコン酸誘導体(ポリオール)の合成
グルコノラクトンをγ-アミノ酪酸と反応させて開環し、グルコン酸誘導体(ポリオール)を合成した。合成スキームは以下のとおりである。
グルコノラクトン89mg(0.5mmol、東京化成社製)とγ-アミノ酪酸52mg(0.5mmol、東京化成社製)とを混合し、当該混合物をメタノール14ml/トリエチルアミン1.5ml混合溶媒に溶解させた。溶液を75℃で還流しながら一晩放置して反応させた。反応終了後、酢酸エチル:ヘキサン( 1:1)混合溶媒で再結晶させ、減圧乾燥してグルコン酸誘導体を得た。
(2−iii)PEG−PAsp(DET)へのポリオール構造の導入
次に、トリアジン系縮合剤DMT−MMを用いたPEG−PAsp(DET)とグルコン酸誘導体との脱水縮合反応により、PEG−PAsp(DET)の側鎖にポリオール構造を導入した。反応スキームは以下のとおりである。
PEG−PAsp(DET)40mg、DMT−MM(和光純薬社製)155mg、および、下記表2に示すように所定の導入率に応じた量のグルコン酸誘導体を、10mM NaHCO溶液に溶解した。予定導入数が75の系は−20℃で凍結および融解させて反応させた(凍結融解法)。他の3つの系は4℃で3時間、攪拌しながら反応させた。反応後速やかに、0.01M塩酸水溶液で4℃にて透析を開始した。透析は0.01M塩酸水溶液で3回、純水で2回行った。透析後に0.2μmのシリンジフィルターでろ過して凍結乾燥し、PEG−PAsp(DET/polyol)を得た。H−NMRにより解析したところ、実際のポリオール構造導入数は表2の通りであった。
<実施例A:pDNA内包ポリマーミセルの調製>
上記の製造例1A〜1Fで得られたポリマーユニットαと上記の製造例2A〜2Dで得られたポリマーユニットβとを組み合わせで用いてポリマーミセル溶液を調製した。具体的には、以下の手順でポリマーミセル溶液を調製した。ポリマーユニットαおよびポリマーユニットβをそれぞれ、10mMのHEPES溶液(pH7.4)に1mg/mlとなるように溶解させた。これらの溶液をN/P比に応じて濃度を調整し、ポリマーユニットαの溶液5μlとポリマーユニットβの溶液5μlとを混合した後、50μg/ml(1OD)のpDNAを20μl加えてpDNA内包ポリマーミセルの溶液を調製した。なお、以下の評価において、血中滞留評価においてのみpDNAとしてpCAG−Luc2を用い、それ以外はpDNAとしてpCAG−Lucを用いてpDNA内包ポリマーミセルの溶液を調製した。具体的には、pCAG−Lucは、pCAGGSベクター(Niwa et al., Gene 108, 193-200, 1991)のCAG promoter下流にLucifarase遺伝子(配列番号:1)を組み込んで得られる発現ベクターを意味する。pCAG−Luc2は、pCAGGSベクター(Niwa et al., Gene 108, 193-200, 1991)のCAG promoter下流にLucifarase遺伝子(配列番号:3)を組み込んで得られる発現ベクターを意味する。
<比較例1>
製造例1において合成されたポリマーユニットα(50%)およびPEG−PAsp(DET)(50%)を用いたこと以外は実施例と同様にして、pDNA内包ポリマーミセルの溶液を調製した。
<比較例2>
製造例2において合成されたポリマーユニットβ(50%)および製造例1において合成されたPEG−PAsp(DET)(50%)を用いたこと以外は実施例と同様にして、pDNA内包ポリマーミセルの溶液を調製した。
<比較例3>
製造例1において合成されたPEG−PAsp(DET)のみを用いたこと以外は実施例と同様にして、pDNA内包ポリマーミセルの溶液を調製した。
<ポリマーミセルの粒径>
上記の製造例1A〜1Fで得られたポリマーユニットαと上記の製造例2A〜2Dで得られたポリマーユニットβとのすべての組み合わせについてポリマーミセルを調製した。得られたポリマーミセル溶液を4℃で一晩放置した後、Zetasizer Nano−ZS(Malvern)を使用してDLS測定を行い、ポリマーミセルの粒径を測定した。その結果、すべての組み合わせについてポリマーミセルが形成されていることを確認した。例えば、製造例1Cのポリマーユニットα[PEG−PAsp(DET/FPBA4475]と製造例2Cのポリマーユニットβ[PEG−PAsp(DET/polyol2075]との組み合わせのポリマーミセルは、平均粒径103.2nm、多分散度0.172であった。
<ポリアニオン耐性試験>
まず、製造例2Dのポリマーユニットβ[PEG−PAsp(DET/polyol4075]と製造例1A〜1Fのポリマーユニットαとの組み合わせを用いて、ポリオール構造の導入数を40に固定してFPBA基の導入数を変化させた場合のポリアニオンに対する置き換わり耐性を比較した。手順は以下のとおりである。Trisが3.3mM、酢酸ナトリウムが1.7mM, EDTA・2Naが1mMとなるように1×TAE weakバッファーを調製し、電気泳動用バッファーとした。アガロース0.54gにTAEバッファーを加えて総量を60gとし、純水を15g加えた後、電子レンジで加熱してそれを冷却することで0.9重量%アガロースゲルを作成した。N/P比を3に調整した各ポリマーミセル溶液にA/P比(アニオン電荷とpDNAのリン酸基のモル比)に応じたデキストラン硫酸10μlと750mMのNaCl溶液10μlを加えた後、37℃で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、ローディングバッファーを加えて100Vで60分間電気泳動を行い、pDNAの放出の有無を確認した。A/P=6およびA/P=8の結果をそれぞれ図1Aおよび図1Bに示す。図1Aおよび図1Bから、ポリオール構造の導入数を40に固定した場合には、FPBA基の導入数が44であるポリマーミセルが最も高い安定性(ポリアニオンに対する置き換わり耐性)を示すことがわかる。
上記の結果をふまえ、FPBA基の導入数を44に固定してポリオール構造の導入数を変化させた場合のポリアニオンに対する置き換わり耐性を比較した。すなわち、製造例1Cのポリマーユニットα[PEG−PAsp(DET/FPBA4475]と製造例2A〜2Dのポリマーユニットβとを組み合わせて用いた。手順は上記と同様である。結果を図1Cに示す。図1Cから、製造例1Cのポリマーユニットα[PEG−PAsp(DET/FPBA4475]と製造例2Cのポリマーユニットβ[PEG−PAsp(DET/polyol2075]とから得られるポリマーミセルが最も高い安定性(ポリアニオンに対する置き換わり耐性)を示すことがわかる。したがって、このようなポリマーミセルは、生体内に多く存在するアニオン性分子の静電相互作用等により崩壊しづらく、生体内における安定性および薬物保持性に優れることが示唆される。
<ATP濃度応答性>
上記の「ポリアニオン耐性試験」において最も高い安定性を示した、製造例1Cのポリマーユニットα[PEG−PAsp(DET/FPBA4475]と製造例2Cのポリマーユニットβ[PEG−PAsp(DET/polyol2075]とから得られるポリマーミセルを用いた(ただし、N/P比を3.5とした)。上記の「ポリアニオン耐性試験」と同様にしてアガロースゲルを作成した。混合後0.3mM、0.5mM、1.0mM、3.0mM、および5.0mMとなるように調製したATP溶液5μlと750mMのNaCl溶液5μlとをポリマーミセル溶液15μlに加え、37℃で2時間インキュベーションした。インキュベーション後、100Vで60分間電気泳動を行い、pDNAの放出の有無を確認した。結果を図2に示す。図2から、ATP濃度が0.3mM〜1.0mMではpDNAは放出されず、ATP濃度が3.0mM以上でpDNAが放出されることがわかる。細胞外ATP濃度は約0.3mMであり細胞内ATP濃度は約3mMであるので、ポリマーミセルが細胞内ATP濃度に対する応答性を有していることが示唆される。
<グルコース耐性>
上記の「ATP濃度応答性」と同様のポリマーミセルを用い、および、同様のアガロースゲルを作成した。混合後に5.0mMおよび10mMとなるようにA/P比=3のデキストラン硫酸で調製したグルコース溶液5μlと750mMのNaCl溶液5μlとをポリマーミセル溶液15μlに加え、37℃で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、100Vで60分間電気泳動を行い、pDNAの放出の有無を確認した。結果を図3に示す。血中グルコース濃度は健常者で約5.6mMであり糖尿病患者で約10mMであるので、図3から、ポリマーミセル中のグルコン酸誘導体部分(ポリオール構造)とグルコースとの置き換わり反応によるポリマーミセルの崩壊は生じないことが示唆される。
<細胞取り込み評価>
ヒト肝がん(Huh−7)細胞を6wellプレートに50,000細胞/1ml/wellとなるように播種して37℃で24時間培養した。新しい培地と交換後、Cy−5でラベル化されたpDNAを用いてN/P比に応じてpDNA濃度が2/3ODとなるように調製したポリマーミセルを75μl/wellで添加し、37℃で24時間培養した。培養後に培地を取り除き、D−PBS(−)で細胞表面を3回洗浄して10倍希釈したTrypsin−EDTA溶液を1ml/well加え、well全体になじませた後Trypsin−EDTA溶液を取り除き、37℃で3分間インキュベーションした。D−PBS(−)を1ml/wellずつ加えて細胞を剥がし、得られた細胞懸濁液をフローサイトメーターにより評価した。なお、ポリマーミセルを形成するポリマーユニットとして、製造例1Cのポリマーユニットα[PEG−PAsp(DET/FPBA4475]と製造例2Cのポリマーユニットβ[PEG−PAsp(DET/polyol2075]とを用いた。以降のin vitroおよびin vivoの評価において、製造例1Cのポリマーユニットα[PEG−PAsp(DET/FPBA4475]と製造例2Cのポリマーユニットβ[PEG−PAsp(DET/polyol2075]とから形成されるポリマーミセルを実施例とする。なお、上記のとおり、比較例1は対応するポリマーユニットα50%とPEG−PAsp(DET)50%とから形成されたポリマーミセル、比較例2は対応するポリマーユニットβ50%とPEG−PAsp(DET)50%とから形成されたポリマーミセル、比較例3はPEG−PAsp(DET)のみから形成されたポリマーミセルを用いた。
本評価の結果を図4に示す。図4から、実施例のポリマーミセルにおいてのみ高い細胞取り込みが確認された。具体的には、実施例のポリマーミセルは、比較例1〜3のポリマーミセルの約10倍の取り込み量を示した。これは、実施例のポリマーミセルが比較例1〜3のポリマーミセルとは異なり、内部の架橋構造(PBA基とポリオール構造による架橋構造)により安定したことに起因するものと推察される。
<ルシフェラーゼアッセイによる遺伝子発現試験>
Huh−7細胞を24wellプレートに20,000細胞/400μl/wellとなるように播種して37℃で24時間培養した。新しい培地と交換後、pCAG−Lucを用いてN/P比に応じてpCAG−Luc濃度が2/3ODとなるように調製したポリマーミセルを30μl/wellで添加し、37℃で24時間培養した。その後、新しい培地と交換して再び37℃で24時間培養した。その後、培地を取り除き、D−PBS(−)で細胞表面を数回洗浄して5倍希釈したCell Culture Lysis Bufferを200μl/wellで加え、室温で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、得られた細胞溶解液を96wellプレートに20μl/wellで加え、Luciferase Assay System Kitを100μl/wellずつ加えた後、ルミノメーターによりルシフェラーゼ発光量を評価した。
並行して、ポリマーユニットα[PEG−PAsp(DET/FPBA4475]、ポリマーユニットβ[PEG−PAsp(DET/polyol2075]、およびPEG−PAsp(DET)のそれぞれについて、細胞毒性試験を行った。具体的には以下のとおりである。Huh−7細胞を96wellプレートに5,000細胞/100μl/wellとなるように播種して37℃で24時間培養した後、10mMのHEPES溶液(pH7.4)に溶解させたポリマーを添加し、37℃で48時間培養した。その後、Cell Counting Kitを10μl/well加え、37℃で1.5時間培養し、450nmの吸光度を測定した。
ポリマーの細胞毒性評価とポリマーミセルの遺伝子発現評価を図5に示す。図5(b)から明らかなように、ポリマーミセルを構成するポリマーユニットのいずれにおいても、顕著な細胞毒性は確認されず、ポリマーミセルは細胞毒性を有さないことが示唆される。図5(a)から明らかなように、遺伝子発現試験においては、実施例のポリマーミセルは、比較例1〜3のいずれのポリマーミセルに対しても約8倍以上、比較例3のポリマーミセルに対して約20倍の発現効率を示した。これは、取り込まれたポリマーミセルが細胞内で実際にpDNAを放出していることを示している。また、上記の細胞取り込み量の差が実施例と比較例で約10倍程度であるのに対し、約20倍の発現効率を示しているということは、ポリマーミセルが細胞内に取り込まれてから発現に至るまでに差異が存在することを示しており、実施例のポリマーミセルが細胞内ATP濃度に応答している可能性が示唆される。
<血中滞留性評価>
pDNA濃度が2.0ODとなるように調製したポリマーミセル溶液200μlをマウス尾静脈より投与した(N=4)。5分、10分、20分、および40分後に尾静脈から血液を2μl採取し、PBS/EDTA/Proteinase Kからなる混合溶液と混合した。また、pDNA濃度を1/5ODとしたミセル溶液を上記の混合溶液と混合し、これを0分でのコントロール値とした。採取した血液サンプルからDNeasy blood & tissue Kitを用いてDNAを抽出した。抽出したDNA溶液2 μlをSYBR Greenとプライマーと超純水からなる溶液18μlと混合し、PCR測定を行なった。
本評価の結果を図6に示す。図6から明らかなように、実施例のポリマーミセルは、比較例3のポリマーミセルに比べて血中滞留性が大幅に向上していることがわかる。すなわち、実施例のポリマーミセルは、生体内環境においても優れた安定性を有することが確認された。これは、PBA基とポリオール構造との架橋効果が生体内環境においても有用であることを示している。
<実施例B:mRNA内包ポリマーミセルの調製>
製造例1Cのポリマーユニットα[PEG−PAsp(DET/FPBA4475]と製造例2Cのポリマーユニットβ[PEG−PAsp(DET/polyol2075]とを組み合わせで用いてポリマーミセル溶液を調製した。具体的には、以下の手順でポリマーミセル溶液を調製した。ポリマーユニットαおよびポリマーユニットβをそれぞれ、10mMのHEPES溶液(pH7.4)に1mg/mlとなるように溶解させた。これらの溶液をN/P比に応じて濃度を調整し、ポリマーユニットαの溶液5μlとポリマーユニットβの溶液5μlとを混合した後、ルシフェラーゼをコードするmRNAを0.25μg加えて実施例のmRNA内包ポリマーミセルの溶液を調製した(N/P比=3、mRNA濃度=2/3OD)。また、ポリマーユニットαとして[PEG−PAsp(DET)75]を用いたこと以外は同様にして、比較例のmRNA内包ポリマーミセルの溶液を調製した。なお、ルシフェラーゼをコードするmRNAは、pCAG−Luc2を鋳型とし、RNA合成キット(ライフテクノロジーズジャパン社製、製品名「mMESSAGE mMACHINE@Kit」)を用いて調製した。
<ルシフェラーゼアッセイによる遺伝子発現試験>
Huh−7細胞を48wellプレートに10,000細胞/200μl/wellとなるように播種して37℃で24時間培養した。新しい培地と交換後、実施例または比較例のポリマーミセルを15μl/wellで添加し、37℃で24時間培養した。その後、培地を取り除き、D−PBS(−)で細胞表面を数回洗浄して5倍希釈したCell Culture Lysis Bufferを200μl/wellで加え、室温で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、得られた細胞溶解液を96wellプレートに20μl/wellで加え、Luciferase Assay System Kitを100μl/wellずつ加えた後、ルミノメーターによりルシフェラーゼ発光量を評価した(N=4)。結果を図7に示す。
図7から明らかなように、遺伝子発現試験においては、実施例のポリマーミセルは、比較例のポリマーミセルに対して約10倍の発現効率を示した。これは、取り込まれたポリマーミセルが細胞内で実際にmRNAを放出していることを示している。
本発明の医薬組成物は、DDSの分野において好適に適用され得る。

Claims (5)

  1. 親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有するポリマーユニットαと、親水性ポリマー鎖セグメントおよびカチオン性ポリマー鎖セグメントを有するポリマーユニットβと、薬物とを含み、
    該ポリマーユニットαおよびβが、該カチオン性ポリマー鎖セグメントが内側となり該親水性ポリマー鎖セグメントが外側となるようにして放射状に配列してミセルを形成し、該ミセルに該薬物が内包されており、
    該ポリマーユニットαのカチオン性ポリマー鎖セグメントが側鎖にフェニルボロン酸基を有し、該ポリマーユニットβのカチオン性ポリマー鎖セグメントが側鎖にフェニルボロン酸結合部位を有し、
    該フェニルボロン酸基と該フェニルボロン酸結合部位とが、酸性環境下あるいは競合的に結合可能な物質の存在下で崩壊し得る架橋構造を形成している、
    医薬組成物。
  2. 前記フェニルボロン酸基のフェニル環の少なくとも1つの水素が、生理的pH付近にpKaを有するように置換されている、請求項1に記載の医薬組成物。
  3. 前記フェニルボロン酸結合部位がcis−ジオール構造を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
  4. 前記薬物が核酸である、請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
  5. 前記核酸がpDNAおよびmRNAから選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
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