JPWO2015156369A1 - 変異酵素及び前記変異酵素を用いたテルペノイドの製造方法 - Google Patents

変異酵素及び前記変異酵素を用いたテルペノイドの製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明の目的は、有用なテルペノイド化合物を効率よく生産することであり、特にはテルペノイドの重要な中間体であるスクアレンの製造方法を提供することである。前記課題は、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMGR)の(a)Sα2アミノ酸配列における第10番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、(b)HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のプロリン(P)以外のアミノ酸、(c)Lα2アミノ酸配列における第1番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、及び(d)Lα2アミノ酸配列における第6番目のグルタミン酸(E)以外のアミノ酸、を含むヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼによって解決することができる。

Description

本発明は、変異酵素及び前記変異酵素を用いたテルペノイドの製造方法に関する。本発明によれば、メバロン酸経路を経て産生されるスクアレンを大量に生産することができる。
テルペノイドは、5万種を超える天然化合物群の総称であり、炭素数5のイソプレン単位を基本骨格に有する。テルペノイドは炭素数によりヘミテルペン(C5)、モノテルペン(C10)、セスキテルペン(C15)、ジテルペン(C20)、セスタテルペン(C25)、トリテルペン(C30)、テトラテルペン(C40)及びその他のポリテルペンに分類することができ、生合成においてはまず、イソペンテニルピロリン酸(IPP)、及びイソペンテニル二リン酸が異性化で生成したジメチルアリル二リン酸(DMAPP)の縮重合によって数の異なる各種プレニル二リン酸が作られる。炭素数10のゲラニル二リン酸からはモノテルペン(C10)が、炭素数15のファルネシル二リン酸からはセスキテルペン(C15)、炭素数20のゲラニルゲラニル二リン酸からはジテルペン等が生合成されていく。
テルペノイドの生合成に不可欠なIPPとDMAPPは、長い間メバロン酸を経由するいわゆる「メバロン酸経路」のみから生合成されると信じられてきたが、瀬戸、及び葛山らにより、「メバロン酸経路」以外に、多くの真正細菌や植物の色素体に存在するメチルエリスリトールリン酸(MEP)経路を経由して生合成されることが明らかとなっている(非特許文献1)。
テルペノイドの中には、(C5H8)nの不飽和炭化水素以外に、それらの酸化還元生成物(アルコール、ケトン、酸等)、又は炭素の脱離した化合物などが多くの植物及び動物体内に見いだされており、これらの中には生理活性を有するものが数多く含まれる。例えば、アブシジン酸、ジベレリン、ブラシノステロイド等の植物ホルモン、幼若ホルモンといった生体内で極めて重要な働きを担う化合物や、構造の一部にイソプレン構造を有する複合テルペンとしてクロロフィル、ビタミンK、ユビキノン、tRNA等の有用な生理活性を示す化合物が含まれる。このうち、ビタミンKは血液凝固系に関与する重要なビタミンであり、止血剤として利用されているほか、最近では骨代謝への関与が示唆され、骨粗鬆症治療への応用が期待されており、フィロキノンとメナキノンは医薬品として許可されている。また、ユビキノンやビタミンK類には船体や橋脚等の建造物への貝類の付着阻害作用が在り、貝類付着防止塗料への応用が期待される。更に、カロチノイドには抗酸化作用があり、β−カロチン、アスタキサンチン、及びクリプトキサンチン等は、がん予防、又は免疫賦活活性を有するものとして期待されている。
特表2011−520471号公報 特表2009−538601号公報 特表2010−539902号公報
「バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry)」(日本)2002年、第66巻、p1691−1627 「化学と生物」(日本)2012年、第50巻、p163−174 「ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(Journal of Bacteriology)」(米国)1999、第181巻、p.1256−1263 「ザ・エンボ・ジャーナル(The EMBO Journal)」(英国)2000年、第19巻、p819−830 「アプライド・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー(Applied Microbiology and Biotechnology)」(1998)49:p66−71
テルペノイド合成に関わる経路が明らかになるにつれ、これらを改良し、テルペノイドの生産量を向上させるための検討が行われてきた(非特許文献2)。これらのテルペノイド中でもスクアレンはファルネシル二リン酸から直接生合成され多様なトリテルペンへと続く主要な中間体に位置づけられることから、スクアレンの生産量向上を目的とした検討が、各種行われている。例えば、特許文献1では、増加した濃度のイソプレノイドを生成するように修飾された遺伝的に改変された酵母を含む組成物について開示されており、その中でヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMGR)の膜結合領域を削除することでスクアレンの生産量が増加することが述べられている。また、特許文献2及び特許文献3では、スクアレンを含むイソプレノイド化合物を生産する方法が開示されている。
しかし、特許文献1に記載のスクアレンの生産量は多くても菌体乾重量の5%程度であり、十分とはいえないものであった。また特許文献2及び3に開示されている技術は、製造条件を調整するためのものであり、従来技術を大きく超えるものではなかった。
本発明の目的は、有用なテルペノイド化合物を効率よく生産することであり、特にはテルペノイドの重要な中間体であるスクアレンの製造方法を提供することである。
本発明者は、テルペノイド化合物の生産方法について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、メバロン酸経路の酵素の1つであるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼとして、特定のアミノ酸配列を有するヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼを用いることによって、メバロン酸経路の下流の化合物、特にはスクアレンの生産量が飛躍的に増加することを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMGR)の(a)Sα2アミノ酸配列における第10番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、(b)HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のプロリン(P)以外のアミノ酸、(c)Lα2アミノ酸配列における第1番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、及び(d)Lα2アミノ酸配列における第6番目のグルタミン酸(E)以外のアミノ酸、を含むヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ、
[2]前記Sα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸がセリン(S)であり、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸がアラニン(A)であり、Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸がセリン(S)であり、そしてLα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸がアスパラギン(N)である、[1]に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ、
[3]前記ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMGR)が、更に(e)Sα2アミノ酸配列における第7番目のイソロイシン(I)以外のアミノ酸、(f)Lα2アミノ酸配列における第5番目のイソロイシン(I)以外のアミノ酸、及び(g)Sα2アミノ酸配列における第6番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、からなる群から選択される1つ又は2つ以上のアミノ酸を、含む[1]又は[2]に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ、
[4]前記Sα2アミノ酸配列における第7番目のアミノ酸がロイシンであり、Lα2アミノ酸配列における第5番目のアミノ酸がトレオニンであり、Sα2アミノ酸配列における第6番目のアミノ酸がロイシンである、[3]に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ、
[5]下記(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、且つヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ活性を有するポリペプチドである、[1]〜[4]のいずれかに記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ:(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番のアミノ酸配列、(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番からなるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列、又は(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番からなるアミノ酸配列との相同性が80%以上であるアミノ酸配列、
[6]下記(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、且つヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ活性を有するポリペプチドである、[1]〜[5]のいずれかに記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ:(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列、(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列、又は(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列との相同性が80%以上であるアミノ酸配列、
[7]膜結合領域を含まない、[1]〜[6]のいずれかに記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ、
[8][1]〜[7]のいずれかに記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼをコードするポリヌクレオチド、
[9][8]に記載のポリヌクレオチドを有する微生物、
[10][8]に記載のポリヌクレオチドを持つDNAを含むベクター、
[11][10]に記載のベクターを有する形質転換体、又は
[12][11]に記載の形質転換体を培養することを特徴とするテルペノイドの製造方法、
に関する。
前記[1]に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、
[13]ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMGR)のSα2アミノ酸配列における第10番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸であり、Lα2アミノ酸配列のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって第2番目のアミノ酸がプロリン(P)以外のアミノ酸であり、Lα2アミノ酸配列における第1番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸であり、Lα2アミノ酸配列における第5番目のアミノ酸がイソロイシン(I)以外のアミノ酸であり、そしてLα2アミノ酸配列における第6番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)以外のアミノ酸であるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼであって、且つSα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸がアラニン(A)であり、Lα2アミノ酸配列のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって第2番目のアミノ酸がプロリン(P)であり、Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸がアラニン(A)であり、Lα2アミノ酸配列の第5番目のアミノ酸がイソロイシン(I)であり、Lα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)であり、そして他のアミノ酸配列が同一であるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼと比較して活性が向上しているヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ、又は
[14]前記Sα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸がセリン(S)であり、Lα2アミノ酸配列のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって第2番目のアミノ酸がアラニン(A)であり、Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸がセリン(S)であり、Lα2アミノ酸配列の第5番目のアミノ酸がトレオニン(T)であり、そしてLα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸がアスパラギン(N)である、[1]に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ、
に置き換えることができる。
本発明の変異酵素及び前記変異酵素を用いたテルペノイドの製造方法によれば、有用なテルペノイド化合物を効率よく生産することが可能である。例えば、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼを用いることによって、メバロン酸経路において、メバロン酸の産生量を増加させることができる。また、テルペノイドの重要な中間体であるスクアレンを大量に効率よく産生することができる。
メバロン酸経路、及びその下流のテルペノイド化合物の産生経路を示した概略図である。 本発明のADK4653HMGR及び現在報告されているHMGRのSα2近傍のアミノ酸配列をアラインした図である。凡例記号は以下の通り。ADK_HMGR:本発明の酵素のアミノ酸配列/HMG1:Saccharomyces cerevisiae(DDBJのアクセッション番号M22002)/HMG2:Saccharomyces cerevisiae(DDBJアクセッション番号M22255)由来酵素のアミノ酸配列/AF273765:Homo sapiens(ヒト)由来酵素のアミノ酸配列を示す。(DDBJ:DNA Data Bank of Japan<www.ddbj.nig.ac.jp/>) また、以下の凡例記号はUniProt(Universal Protein Resource<www.uniprot.org/>)のアクセッション番号を示す。Q6BSE8:Debaryomyces hansenii(ATCC 36239)/G3AY61:Candida tenuis(ATCC 10573)/J8PYR1:Saccharomyces arboricola(strain H-6)/G8B666:Candida parapsilosis(ATCC MYA-4646)/A3LX63:Scheffersomyces stipitis(ATCC 58785)/H2AW26:Kazachstania africana(ATCC 22294)/G8Y9W2:Pichia sorbitophila(ATCC MYA-4447)/F2QRB0:Komagataella pastoris(ATCC 76273)由来酵素のアミノ酸配列を示す。 本発明のADK4653HMGR及び現在報告されているHMGRのHMG−CoA結合サイトのDKK領域及びLα2近傍のアミノ酸配列をアラインした図である。凡例記号は上記図2の説明と同じ。 全長ADK4653遺伝子を含む清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会701号)によるメバロン酸の産生の増加を示したグラフである。 全長ADK4653遺伝子を含む清酒酵母によるスクアレン産生を示したグラフである。(SQ:スクアレン、ERG:エルゴステロールを表す。) 短縮型ADK4653遺伝子、及び清酒酵母の短縮型HMGR遺伝子を含む清酒酵母によるスクアレン産生を示したグラフである。(SQ:スクアレン、ERG:エルゴステロールを表す。) ADK4653HMGRのアミノ酸配列及び清酒酵母HMGRのアミノ酸配列、ヒト由来の酵素タンパク質のアミノ酸配列を比較した図である。凡例記号は以下の通り。ADK_HMGR:本発明の酵素のアミノ酸配列/K7 HMG1:Saccharomyces cerevisiae 協会7号由来の酵素のアミノ酸配列(DDBJのアクセッション番号 DG000049、CDS 114719..117883)/AF273765:Homo sapiens(ヒト)由来の酵素タンパク質のアミノ酸配列(DDBJのアクセッション番号AF273765) ADK4653HMGRのアミノ酸配列及び清酒酵母HMGRのアミノ酸配列、ヒト由来の酵素タンパク質のアミノ酸配列を比較した図である。凡例記号は上記図7−1の説明と同じ。 全長ADK4653遺伝子又は短縮型ADK4653遺伝子を含む清酒酵母によるスクアレン産生の経時的変化を示したグラフである。 ADK4653HMGRのLα2アミノ酸配列における第1番目のアミノ酸(c)をセリンからアラニンに置換するか、第5番目のアミノ酸(f)をトレオニンからイソロイシンに置換するか、又はその組み合わせの置換を行って、スクアレン生産量を検討したグラフである。 ADK4653HMGRのSα2アミノ酸配列における第10番目のアミノ酸(a)をセリンからアラニンに置換してスクアレン生産量を検討したグラフである。 HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(b)(Lα2領域のN末端側からN末端側へ2番目の位置に存在するアミノ酸)をアラニンからプロリンに置換してスクアレン生産量を検討したグラフである。 ADK4653HMGRのLα2アミノ酸配列における第6番目のアミノ酸(d)をアスパラギンからグルタミン酸に置換してスクアレン生産量を検討したグラフである。 清酒酵母(K701株)の短縮型HMGRのアミノ酸配列においてSα2を構成するアミノ酸3残基、HMG−CoA結合サイトとLα2の間に位置するアミノ酸1残基及びLα2を構成するアミノ酸3残基に変異を導入した変異酵素(K701_Mutant)を発現させた酵母のスクアレン生産量を検討したグラフである。具体的には、清酒酵母(K701株)の短縮型HMGRのアミノ酸配列におけるSα2領域の第7番目のアミノ酸(e)をイソロイシンからロイシンに、Sα2領域の第10番目のアミノ酸(a)をアラニンからセリンに、Sα2領域の第6番目のアミノ酸(g)をアラニンからロイシンに、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(b)(Lα2領域のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって2番目に存在するアミノ酸)をプロリンからアラニンに、Lα2領域の第1番目のアミノ酸(c)をアラニンからセリンに、Lα2領域の第5番目のアミノ酸(f)をイソロイシンからトレオニンに、Lα2領域の第6番目のアミノ酸(d)をグルタミン酸からアスパラギンに、置換してスクアレン生産量を検討した。 ADK4653HMGRのSα2アミノ酸配列における第6番目のアミノ酸(g)をロイシンからアラニン(実施例7)に、Sα2アミノ酸配列における第7番目のアミノ酸(e)をロイシンからイソロイシン(実施例8)に置換してスクアレン生産量を検討したグラフである。 清酒酵母(K701株)の短縮型HMGRのアミノ酸配列におけるSα2領域の第7番目のアミノ酸(e)をイソロイシンからロイシンに、Sα2領域の第10番目のアミノ酸(a)をアラニンからセリンに、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(b)(Lα2領域のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって2番目に存在するアミノ酸)をプロリンからアラニンに、Lα2領域の第1番目のアミノ酸(c)をアラニンからセリンに、Lα2領域の第5番目のアミノ酸(f)をイソロイシンからトレオニンに、Lα2領域の第6番目のアミノ酸(d)をグルタミン酸からアスパラギンに置換してスクアレン生産量を検討したグラフである(実施例9)。 清酒酵母(K701株)の短縮型HMGRのアミノ酸配列におけるSα2領域の第7番目のアミノ酸(e)をイソロイシンからロイシンに、Sα2領域の第10番目のアミノ酸(a)をアラニンからセリンに、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(b)(Lα2領域のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって2番目に存在するアミノ酸)をプロリンからアラニンに、Lα2領域の第1番目のアミノ酸(c)をアラニンからセリンに、Lα2領域の第6番目のアミノ酸(d)をグルタミン酸からアスパラギンに置換してスクアレン生産量を検討したグラフである(実施例10)。また、清酒酵母(K701株)の短縮型HMGRのアミノ酸配列におけるSα2領域の第7番目のアミノ酸(e)をイソロイシンからロイシンに、Sα2領域の第10番目のアミノ酸(a)をアラニンからセリンに、Sα2領域の第6番目のアミノ酸(g)をアラニンからロイシンに、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(b)(Lα2領域のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって2番目に存在するアミノ酸)をプロリンからアラニンに、Lα2領域の第1番目のアミノ酸(c)をアラニンからセリンに、Lα2領域の第6番目のアミノ酸(d)をグルタミン酸からアスパラギンに置換してスクアレン生産量を検討したグラフである(実施例11)。
[1]ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、(a)Sα2アミノ酸配列における第10番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、(b)HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のプロリン(P)以外のアミノ酸、(c)Lα2アミノ酸配列における第1番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、及び(d)Lα2アミノ酸配列における第6番目のグルタミン酸(E)以外のアミノ酸、を含む。また、前記Sα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸(a)は好ましくはセリン(S)であり、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(b)は好ましくはアラニン(A)であり、Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸(c)は好ましくはセリン(S)であり、そしてLα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸(d)が好ましくはアスパラギン(N)である。
ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMGR)は、更に(e)Sα2アミノ酸配列における第7番目のイソロイシン(I)以外のアミノ酸、(f)Lα2アミノ酸配列における第5番目のイソロイシン(I)以外のアミノ酸、及び(g)Sα2アミノ酸配列における第6番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、からなる群から選択される1つ又は2つ以上のアミノ酸を、含んでもよい。前記Sα2アミノ酸配列における第7番目のアミノ酸は好ましくはロイシンであり、Lα2アミノ酸配列における第5番目のアミノ酸は好ましくはトレオニンであり、Sα2アミノ酸配列における第6番目のアミノ酸は好ましくはロイシンである。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、Sα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸(a)がアラニン(A)であり、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(b)がプロリン(P)であり、Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸(c)がアラニン(A)であり、Lα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸(d)がグルタミン酸(E)であり、Sα2アミノ酸配列における第7番目のアミノ酸(e)がイソロイシンであり、Lα2アミノ酸配列の第5番目のアミノ酸(f)がイソロイシンであり、Sα2アミノ酸配列における第6番目のアミノ酸(g)がアラニンであるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼと比較して活性が向上している。
なお、前記「HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(b)」は、「Lα2領域のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって2番目に存在するアミノ酸」と同じに位置に存在するアミノ酸である。
《ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ》
ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(以下、HMGRと称することがある)は、膜結合タンパク質であり、膜結合部位と活性部位からなる。HMGRは、メバロン酸経路において、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタルCoA(以下、HMGCoAと称することがある)を還元して、メバロン酸(MVA)に変換する酵素である。活性部位には、モチーフA〜Gと呼ばれる領域が真核生物から真正細菌、古細菌にわたって高度に保存されている(非特許文献3)。また、ヒトのHMGRの結晶解析により、Lα1〜9、Lβ1〜6、Sα1〜3、及びSβ1〜4の領域が同定されている(非特許文献4)。
本発明においては、使用するHMGRとして真核生物又は古細菌由来であることが好ましく、真核生物由来であることがより好ましい。上述のように、HMGRは活性領域が高度に保存されているものであるが、真核生物又は古細菌由来のHMGRであることにより、より大きな効果が期待できる。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおける、特徴的なアミノ酸の1つは、図2に示す(a)Sα2の領域の第10番目に存在し、アラニン(A)以外のアミノ酸である。限定されるものではないが、好ましくはαへリックスの構造を壊すアミノ酸、例えばセリン、チロシン、グリシン、又はプロリン、又はαへリックスの構造に影響しないアミノ酸、例えばイソロイシン、バリン、システイン、トレオニン、又はアスパラギンであり最も好ましくはセリン(S)である。また、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおける、特徴的なアミノ酸の1つは、図3に示す(b)HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸であって、Lα2領域のN末端からHMGRのN末端側へ2番目の位置に存在するアミノ酸がプロリン(P)以外のアミノ酸である。プロリン(P)以外のアミノ酸としては特に限定されるものではないが、好ましくはαへリックス構造を強固に形成するアミノ酸、例えばグルタミン酸、アラニン、メチオニン、ロイシン、リシン、ヒスチジン、グルタミン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、又はαへリックス構造を形成しやすい傾向を示すアミノ酸、例えばトリプトファン、アルギニンであり、最も好ましくはアラニンである。
また、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおける、特徴的なアミノ酸の1つは、図3に示す(c)Lα2の領域の第1番目に存在し、アラニン(A)以外のアミノ酸である。限定されるものではないが、好ましくはαへリックスの構造を壊すアミノ酸、例えばセリン、チロシン、グリシン、又はプロリン、又はαへリックスの構造に影響しないアミノ酸、例えばイソロイシン、バリン、システイン、トレオニン、又はアスパラギンであり、最も好ましくはセリン(S)である。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおける、特徴的なアミノ酸の1つは、図3に示す(d)Lα2の領域の第6番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)以外のアミノ酸である。グルタミン酸(E)以外のアミノ酸としては特に限定されるものではないが、好ましくはαへリックスの構造を壊すアミノ酸、例えばセリン、チロシン、グリシン、又はプロリン、又はαへリックスの構造に影響しないアミノ酸、例えばイソロイシン、バリン、システイン、トレオニン、又はアスパラギンであり、最も好ましくはアスパラギン(N)である。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおける、好ましいアミノ酸の1つは、(e)前記Sα2領域の第7番目のアミノ酸がイソロイシン(I)以外のアミノ酸である。イソロイシン(I)以外のアミノ酸としては特に限定されるものではないが、セリン、チロシン、グリシン、プロリン、イソロイシン、バリン、システイン、トレオニン、アスパラギン、又はロイシンを挙げることができ、特にはαへリックス構造を形成する性質があるアミノ酸が好ましく、最も好ましくはロイシン(L)である。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおける、好ましいアミノ酸の1つは、図3に示す(f)Lα2の領域の第5番目に存在し、イソロイシン(I)以外のアミノ酸である。限定されるものではないが、好ましくはαへリックスの構造を壊すアミノ酸、例えばセリン、チロシン、グリシン、又はプロリン、又はαへリックスの構造に影響しないアミノ酸、例えばバリン、システイン、トレオニン、又はアスパラギンであり、最も好ましくはトレオニン(T)である。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおける、好ましいアミノ酸の1つは、図2に示す(g)Sα2領域の第6番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸である。アラニン(A)以外のアミノ酸としては、特に限定されるものではないが、好ましくはセリン、チロシン、グリシン、プロリン、イソロイシン、バリン、システイン、トレオニン、アスパラギン、又はロイシンであり、最も好ましくはロイシン(L)である
表1に示すように、前記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、及び(g)の位置の7つのアミノ酸のうち、特に(a)、(b)、(c)、(d)の4つの位置のアミノ酸が、それぞれアラニン(A)以外のアミノ酸、プロリン(P)以外のアミノ酸、アラニン(A)以外のアミノ酸、及びグルタミン酸(E)以外のアミノ酸であることが重要である。具体的には、比較例3〜比較例6の結果からわかるように、ADK4653_tHMGRの(a)、(b)、(c)、及び(d)の位置のアミノ酸のいずれか1つをK701_tHMGRのアミノ酸に置換するとスクアレンの生産量の相対値は、0〜13.9と急激に低下した。従って、これらの(a)、(b)、(c)、及び(d)の位置のアミノ酸が、特にヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼのスクアレンの産生において重要である。
更に、実施例6〜11の結果からわかるように、(e)、(f)、及び(g)の位置の3つのアミノ酸のいずれかが、イソロイシン(I)以外のアミノ酸、イソロイシン(I)以外のアミノ酸、又はアラニン(A)以外のアミノ酸であることにより、K701_tHMGRよりも優れたスクアレンの生産量を示す。
比較例2及び実施例3から明らかなように、K701_tHMGR(a=A、b=P、c=A、d=E、e=I、f=I、g=A)と比較して、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、及び(g)の位置の7つのアミノ酸が異なるADK4653_tHMGR(a=S、b=A、c=S、d=N、e=L、f=T、g=L)は、スクアレンの生産量が顕著に優れていた。更に、実施例5からわかるように、K701_tHMGRの(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、及び(g)の位置の7つのアミノ酸をADK4653_tHMGRの7つのアミノ酸に置換することによって、スクアレンの生産量の相対値は92.1と、ADK4653_tHMGRとほぼ同等になった。ADK4653_tHMGRとK701_tHMGRとは、アミノ酸配列の長さも異なり、短縮型HMGR(tHMGR)のアミノ酸配列の同一性も78%である。K701_tHMGRのアミノ酸のうち、わずか7アミノ酸をADK4653_tHMGRのアミノ酸に置換することによって、スクアレンの生産量がADK4653_tHMGRと同等となることは、驚くべきことである。
前記Sα2の領域は、12アミノ酸の長さを有している。現在までに報告されているSα2のアミノ酸配列は、順番に(E/I/S)、E、G、(Q/S/F)、(N/K/S/A)、(L/A/S/T/V)、(I/V/M)、K、(K/N/E)、A、F、(N/D)である。本発明者らの知る限りにおいて、Sα2の第10番目のアミノ酸として現在まで報告されているアミノ酸は、アラニン(A)のみであり、アラニン以外のアミノ酸を有するヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは報告されていない。
また、前記Lα2の領域は、6アミノ酸の長さを有している。現在までに報告されているLα2のアミノ酸配列は、順番にA、I、N、W、(I/L)、(E/N)である。Lα2の第1番目のアミノ酸として現在まで報告されているアミノ酸は、アラニン(A)のみであり、アラニン以外のアミノ酸を有するヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは報告されていない。また、Lα2の第5番目のアミノ酸として報告されているアミノ酸は、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)のみであり、ロイシン及びイソロイシン以外のアミノ酸を有するヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは報告されていない。更に、Lα2の第6番目のアミノ酸として報告されているアミノ酸は、ほとんどがグルタミン酸(E)であるが、アスパラギン(N)を有するヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、本発明者らの知る限りにおいて、1種のみである。更に、Lα2アミノ酸配列のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって第2番目のアミノ酸として報告されているアミノ酸は、ほとんどがプロリン(P)であり、バリン(V)、アラニン(A)、又はセリン(S)を有する1つずつのヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼが報告されているのみである。
前記HMG−CoA結合サイトは、HMGRの活性において重要な役割を果たしている領域である。HMG−CoA結合サイトの一部は上記Lα2領域からN末端側へ数アミノ酸のところに位置し、アスパラギン酸(D)、リシン(K)、リシン(K)の配列が高度に保存されている(非特許文献4)。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおいては、前記の(a)〜(g)の7つのアミノ酸が、それぞれ(a)アラニン(A)以外のアミノ酸、(b)プロリン(P)以外のアミノ酸、(c)アラニン(A)以外のアミノ酸、(d)グルタミン酸(E)以外のアミノ酸、(e)イソロイシン(I)以外のアミノ酸、(f)イソロイシン(I)以外のアミノ酸、及び(g)アラニン(A)以外のアミノ酸、であることが最も好ましい。しかしながら、(a)〜(d)の4つのアミノ酸が、それぞれの前記アミノ酸以外のアミノ酸であってもよい。更に、(a)〜(d)の4つのアミノ酸に加え、(e)〜(g)のいずれか1つのアミノ酸(すなわち5つのアミノ酸)が前記のアミノ酸以外のアミノ酸であってもよい。更に、(a)〜(d)の4つのアミノ酸に加え、(e)〜(g)の2つのアミノ酸(すなわち6つのアミノ酸)が前記のアミノ酸以外のアミノ酸であってもよい。
更に、(a)〜(g)のアミノ酸から選択される、6つ以上のアミノ酸がそれぞれのアミノ酸以外であってもよい。例えば、(a)、(b)、(c)、(d)、(f)、及び(g)の6つのアミノ酸が、それぞれのアミノ酸以外であってもよく、(a)〜(f)の6つのアミノ酸が、それぞれのアミノ酸以外であってもよい。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、Sα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸がアラニン(A)であり、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸がプロリン(P)であり、Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸がアラニン(A)であり、Lα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)であり、そして他のアミノ酸配列が同一であるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼと比較して活性が向上している。すなわち、Sα2アミノ酸配列における第10番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸であり、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸がプロリン(P)以外であり、Lα2アミノ酸配列における第1番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸であり、そしてLα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)以外のアミノ酸であることによって、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの活性が向上する。
また、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、Sα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸がアラニン(A)であり、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸がプロリン(P)であり、Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸がアラニン(A)であり、Lα2アミノ酸配列の第5番目のアミノ酸がイソロイシン(I)であり、Lα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)であり、そして他のアミノ酸配列が同一であるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼと比較して活性が向上している。すなわち、Sα2アミノ酸配列における第10番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸であり、Lα2アミノ酸配列のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって第2番目のアミノ酸がプロリン(P)以外であり、Lα2アミノ酸配列における第1番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸であり、Lα2アミノ酸配列における第5番目のアミノ酸がイソロイシン(I)以外のアミノ酸であり、そしてLα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)以外のアミノ酸であることによって、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの活性が向上する。
本明細書において、「ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの活性」とは、基本的にはHMGCoAを還元してメバロン酸(MVA)に変換することを意味する。しかしながら、活性の測定方法としてはメバロン酸の産生を測定することに限定されず、メバロン酸経路の下流の各種テルペノイドの産生を測定することが含まれる。例えば、実施例に記載のように、スクアレンの蓄積を測定することによって、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの活性を測定することが可能である。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、公知の遺伝子組換え技術などを用いて取得することができる。例えば、酵母のmRNAを取得し、適当なプライマーを用いて、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの遺伝子を、PCRなどによって増幅する。得られた遺伝子を、適当なベクターに組み込み、遺伝子配列を決定する。(a)Sα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸がアラニン、(b)HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸がプロリン、(c)Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸がアラニン、(d)Lα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸がグルタミン酸である場合は、それ以外のアミノ酸への変異を導入することによって、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼをコードする遺伝子を取得することができる。更に、(e)Sα2領域の第7番目のアミノ酸がイソロイシン、(f)Lα2アミノ酸配列の第5番目のアミノ酸がイソロイシン、(g)Sα2領域の第6番目のアミノ酸がアラニンである場合には、それ以外のアミノ酸への変異を導入してもよい。その遺伝子を、酵母等の宿主に組み込み、発現させることによって、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼを得ることが可能である。
また、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼをコードする遺伝子は、公知の合成遺伝子の合成方法、例えば、Khoranaらの方法(Gupta et al.,1968)、Narangらの方法(Scarpulla et al.,1982)、又はRossiらの方法(Rossi et al.,1982)によって合成することも可能である。そして、合成された遺伝子を発現させることにより、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼを得ることができる。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、好ましくは(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番のアミノ酸配列を含むポリペプチドからなるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼである。配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、実施例に記載のように、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの優れた活性を示す。従って、配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番のアミノ酸配列を含むポリペプチドも、同様にヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの優れた活性を示すものである。例えば、配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番のアミノ酸配列を含むポリペプチドとしては、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの発現を上昇させるために、前記ポリペプチドのN末側又はC末側にグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)又はHisタグなどを融合させた融合タンパク質を挙げることができる。このような融合タンパク質は、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの機能を損なうことなく、精製などを容易にすることができる。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、好ましくは(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番からなるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、且つヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ活性を有するポリペプチドからなるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼである。
本明細書において、「アミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸」とは、アミノ酸の置換等により改変がなされたことを意味する。アミノ酸の改変の個数は、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜10個、更に好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜2個である。本発明に用いることのできる変異ペプチドの改変アミノ酸配列の例は、好ましくは、そのアミノ酸が、1又は数個(好ましくは、1、2、3又は4個)の保存的置換を有するアミノ酸配列であることができる。
ここで、「保存的置換」とは、1若しくは数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置き換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことでできる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。非極性(疎水性)アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、例えば、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。正電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおける(a)Sα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸のアラニン(A)以外のアミノ酸への置換(変異)、(b)HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(Lα2アミノ酸配列のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって第2番目のアミノ酸)のプロリン(P)以外のアミノ酸への置換(変異)、(c)Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸のアラニン(A)以外のアミノ酸への置換(変異)、(f)Lα2アミノ酸配列の第5番目のアミノ酸のイソロイシン(I)以外のアミノ酸への置換(変異)、(d)Lα2アミノ酸配列における第6番目のアミノ酸のグルタミン酸(E)以外のアミノ酸への置換(変異)、(g)Sα2領域の第6番目のアミノ酸のアラニン(A)以外のアミノ酸への置換(変異)、及び(e)Sα2領域の第7番目のアミノ酸のイソロイシン(I)以外のアミノ酸への変異(置換)からなる群から選択される4つ以上の変異(置換)、好ましくは5つ以上の変異(置換)、より好ましくは6つ以上の変異(置換)、最も好ましくは7つの変異(置換)は、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの活性を向上させるための、積極的な置換(変異)であるが、前記保存的置換はヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの活性を維持するための置換であり、当業者であれば容易に実施することのできるものである。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、好ましくは(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番からなるアミノ酸配列との相同性が80%以上であるアミノ酸配列、を含むポリペプチドであって、且つヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ活性を有するポリペプチドからなるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼである。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、好ましくは(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼである。配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、実施例に記載のように、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの優れた活性を示す。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、好ましくは(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、且つヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ活性を有するポリペプチドからなるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼである。ここで、「アミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸」とは、前記と同じようにアミノ酸の置換等により改変がなされたことを意味する。例えば、配列番号1で表されるアミノ酸からなるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼにおいて、第1番〜513番のアミノ酸が欠失しても、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼを示すことができる。従って、特に第1番〜513番においては、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの活性を阻害しない限りにおいて欠失、置換、又は挿入が入っていてもよい。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、好ましくは(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列との相同性が80%以上であるアミノ酸配列、より好ましくは該相同性が90%以上であるアミノ酸配列、最も好ましくは該相同性が95%以上であるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、且つヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ活性を有するポリペプチドからなるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼである。なお、ここでいう相同性とはアミノ酸配列の同一性を意味する。
本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼの好ましい態様においては、膜結合領域を含まない。ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼは、膜結合(貫通)ドメイン、リンカー部位、及び活性ドメインからなるタンパク質であることが知られ、例えば、S.cerevisiaeの膜結合領域については(非特許文献5)等に記載されている。
なお、本発明において「膜結合領域を含まない」とは、膜結合領域のみを含まない場合のほか、一部のリンカー領域を合わせて含まない場合も意味するものとする。配列番号1に記載のアミノ酸配列においては、上記膜結合領域は、第1〜第513番のアミノ酸配列としている。
[2]ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼをコードするポリヌクレオチドである限りにおいて、特に限定されるものではない。すなわち、(a)Sα2アミノ酸配列における第10番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸であり、(b)HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸(Lα2アミノ酸配列のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって第2番目のアミノ酸)がプロリン以外のアミノ酸であり、(c)Lα2アミノ酸配列における第1番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸であり、そして(d)Lα2アミノ酸配列における第6番目のアミノ酸がグルタミン酸(E)以外のアミノ酸であるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。本発明のポリヌクレオチドとして、更に好ましくは、前記のアミノ酸に加えて、(e)Sα2領域の第7番目のアミノ酸がイソロイシン(I)以外のアミノ酸、(f)Lα2アミノ酸配列における第5番目のアミノ酸がイソロイシン(I)以外のアミノ酸、及び(g)Sα2領域の第6番目のアミノ酸がアラニン(A)以外のアミノ酸からなる群から選択される1つまたは2つ以上のアミノ酸であるヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。
具体的には、配列番号2で表される塩基配列からなる配列を含むポリヌクレオチド、又は配列番号2で表される塩基配列における1540番〜3066番の塩基からなる配列を含むポリヌクレオチドを挙げることができる。
更には、配列番号2で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号2で表される塩基配列における1540番〜3066番の塩基からなる配列を含むポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、しかも、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ活性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。なお、本明細書における用語「ポリヌクレオチド」には、DNA及びRNAの両方が含まれる。
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、90%以上の相同性、好ましくは95%以上の相同性、より好ましくは97%以上の相同性が配列間に存在するときのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。具体的には、ストリンジェントな条件としてハイブリダイゼーションを65℃で一晩実施し、非特異反応を除去するための洗浄を2×SSCを用いて室温で5分間行った後、0.1%SDSを含む0.2×SSCを用いて65℃で30分間の洗浄を2回繰り返すことなどが挙げられる。2XSSCの組成は、0.3mol/L NaCl及び30mmol/Lクエン酸ナトリウム(pH7.0)である。
[3]微生物
本発明の微生物は、本発明のポリヌクレオチドを有する微生物である。すなわち、本発明のポリヌクレオチドを細胞内に含む限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば、大腸菌、枯草菌、放線菌、パン酵母、又はアカパンカビを挙げることができる。
[4]ベクター
本発明のベクターは、本発明のポリヌクレオチドを持つDNAを含むベクターである。すなわち、本発明のベクターは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、本発明による前記ポリヌクレオチドを挿入することにより得られるベクターを挙げることができる。
発現ベクターとしては、宿主である大腸菌、パン酵母等において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、外来タンパク質の発現効率の高いものが好ましい。前記ポリヌクレオチドを発現させるための発現ベクターは、微生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、前記DNA及び転写終結配列より構成された組換えベクターであることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
より具体的には、発現ベクターとして、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233−2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX−1(Promega社製)、pQE−8(QIAGEN社製)、pQE−30(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58−110600)、pKYP200〔Agricultural Biological Chemistry,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescriptII SK+、pBluescriptII SK(−)(Stratagene社製)、pTrS30(FERMBP−5407)、pTrS32(FERM BP−5408)、pGEX(Pharmacia社製)、pET−3(Novagen社製)、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pUC18〔gene,33,103(1985)〕、pUC19〔Gene,33,103(1985)〕、pSTV28(宝酒造社製)、pSTV29(宝酒造社製)、pUC118(宝酒造社製)、pPA1(特開昭63−233798号公報)、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕等を例示することができる。
プロモーターとしては、宿主である大腸菌、パン酵母等の細胞中で発現することができるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、Pプロモーター、Pプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrpx2)、tacプロモーター、letIプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。本発明においては、上記プロモーターの中でも組織を問わず常時目的遺伝子を発現させるプロモーター、すなわち構成的プロモーターであることがより好ましい。構成的プロモーターとしては、アルコールデヒドロゲナーゼ1遺伝子(ADH1)、翻訳伸長因子TF−1α遺伝子(TEF1)、ホスホグリセリン酸キナーゼ遺伝子(PGK1)、トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子(TPI1)、トリオースリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)、ピルビン酸キナーゼ遺伝子(PYK1)のプロモーターが挙げられる。
[5]形質転換体
本発明の形質転換体も、本発明による前記ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、例えば、本発明による前記ポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドを含むベクターの形で含有する形質転換体であることもできる。また、本発明によるポリペプチドを発現している形質転換体であることもできるし、あるいは、本発明によるポリペプチドを発現していない形質転換体であることもできる。本発明の形質転換体は、例えば、本発明による前記ベクターにより、あるいは、本発明による前記ポリヌクレオチドそれ自体により、所望の宿主細胞を形質転換することにより得ることができる。
宿主細胞は、特に限定されないが、大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母、アカパンカビ等取り扱いが容易な菌株が好ましいが、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞などを用いることも可能である。しかしながら、最も好ましくは酵母である。最も好ましい酵母株としては、清酒酵母が挙げられる。特に好ましくは、清酒酵母協会7号又は701号が挙げられる。協会701号酵母は、協会7号から育種された泡なし酵母で高泡を形成しない特長があるが、他の性質は同じである。
[6]テルペノイドの製造方法及びスクアレンの製造方法
発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培養することによって、テルペノイド又はスクアレンを製造することができる。例えば、酵母について記載すると、酵母は通常用いられるYPD培地などで培養すればよい。相同組換えにより遺伝子導入された酵母、又は発現ベクターを有する酵母を前培養し、更にYPD培地などに植菌し、そして24〜240時間、好ましくは72〜120時間程度培養する。培地中に分泌されたテルペノイド又はスクアレンは、そのまま、又は公知の方法により精製して用いることができる。細胞中に蓄積されたテルペノイド又はスクアレンは、以下のように取得することができる。すなわち、慣用の技術、例えば、細胞の酵素処理、超音波による細胞破砕後に適当な有機溶媒で抽出することができ、更に遠心分離、各種クロマトグラフィーなどを用いて精製することができる。
本発明によれば、テルペノイド生合成経路において上流に位置するHMGRの活性を高めることで各種テルペノイド化合物を効率よく生産できるが、中でもスクアレン、更にスクアレンを経由して生合成されるエルゴステロール、コレステロールといった各種ステロール化合物等を特に効率よく生産することが可能である。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1:HMGR遺伝子のクローニング》
本実施例では、HMGR遺伝子のクローニングを行った。
酵母(Saccharomycopsis fibuligera)を、ML−236Bを含む培地を用いて培養して得られた、ML−236B耐性株からHMGR遺伝子を取得した(以下、該ML−236B耐性株から得られたHMGR遺伝子を「ADK4653」又は「ADK4653遺伝子」と呼ぶこともある)。
(1)ML−236B耐性株からの全長HMGRの取得
ML−236B耐性株のゲノムDNAを鋳型として、PCR法によりHMGR遺伝子を増幅した。ゲノムDNAの調製は、Zymolyase 20T(キリン協和フーズ社)による細胞壁消化後に定法で行い、NucleoBond AXG 20カラム(MACHEREY−NAGEL社)を使用して精製した。PCRは、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社)、下記のプライマー(配列番号3及び4)、サーマルサイクラー(TP240、タカラバイオ社)を使用して行った。
5´−AATCAACTGGTACCCGGGATGTTTAGCCTTAGTAATTATGT−3´
(配列番号3)
5´−TTAGTTAACCTCTAGAGCTCTTAAGATTTGATACAGATCTTTGA−3´
(配列番号4)
PCRは、3ステップでの反応(98℃:10秒間、55℃:5秒間、72℃:15秒間)を35サイクル行った。プライマーの5’末端には、クローニングに使用するベクターのクローニングサイトの相同配列が付加されている。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動により目的サイズのDNA、及びエキストラバンドの有無を確認後に、NucleoSpin Gel and PCR Clean−upカラム(MACHEREY−NAGEL社)を使用して精製を行った。
(2)発現ベクターの構築
クローニングには、発現用ベクターpAUR123(タカラバイオ社)を使用した。ベクターは、制限酵素(SacI、タカラバイオ社)及び制限酵素(SmaI、タカラバイオ社)処理後に、アガロースゲル電気泳動により目的のDNA断片を切り出し、NucleoSpin Gel and PCR Clean−upカラム(MACHEREY−NAGEL社)を使用して精製した。HMGR遺伝子のベクターへのクローニングは、GemeArt Seamless Clonig and Assembly Enzyme Mix(Inbitrogen社)を使用し、取り扱い説明書に従って、反応を行った。反応液は、そのまま大腸菌コンピテントセル(HST08、タカラバイオ社)による形質転換に使用した。陽性クローンは、コロニーPCRにより目的遺伝子が導入されていることを確認後に、NucleoSpin Plasmid(MACHEREY−NAGEL社)を使用しプラスミドを調製した。コロニーPCRは、TaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社)、プライマー(配列番号5及び6)を使用した。形質転換により得られた大腸菌コロニーを、チップ又は楊枝で極微量ピックアップし、PCR反応液に懸濁させた。PCR反応は、94℃で1分間の変性処理後に、98℃:10秒間、61℃:30秒間、72℃:3分間からなる反応工程を30サイクル行った後、72℃で3分間の伸張反応を付加した。PCR後に、アガロースゲル電気泳動によりインサートの有無を確認し、ML−236B耐性株の全長HMGR(以下、「ADK4653_HMGR」ということもある)発現ベクターを取得した。
5´−TCTGCACAATATTTCAAGC−3´
(配列番号5)
5´−TTCGTTTTAAAACCTAAGAGTCAC−3´
(配列番号6)
(3)短縮型HMGR(tHMGR)遺伝子のクローニング
上記ML−236B耐性株のゲノムDNAを鋳型として、PCR法により短縮型HMGR遺伝子を増幅した。ゲノムDNAの調製は定法によるDNA抽出後に、NucleoBond AXG20カラム(MACHEREY−NAGEL社)を使用して精製した。PCRは、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社)を使用し、3ステップでの反応(98℃:10秒間、55℃:5秒間、72℃:10秒間)を35サイクル行った。PCRプライマーは、配列番号7及び8を使用した。
5´−AATCAACTGGTACCCGGGATGTCTCAACGTCTTAGCAAGGCTATT−3´
(配列番号7)
5´−TTAGTTAACCTCTAGAGCTCTTAAGATTTGATACAGATCTTTGA−3´
(配列番号8)
プライマーの5’末端には、クローニングに使用するベクターのクローニングサイトの相同配列を付加している。
PCR産物は、アガロースゲル電気泳動による確認後に、NucleoSpin Gel and PCR Clean−upカラム(MACHEREY−NAGEL社)を使用して精製を行った。クローニングには、発現用ベクターpAUR123(タカラバイオ社)を使用し、GemeArt Seamless Clonig and Assembly Enzyme Mix(Inbitrogen社)による反応を行った。反応液は、そのまま大腸菌コンピテントセル(HST08、タカラバイオ社)による形質転換に使用した。陽性クローンは、コロニーPCRにより目的遺伝子が導入されていることを確認後に、NucleoSpin Plasmid(MACHEREY−NAGEL社)を使用しプラスミドを調製した。クローニングされた短縮型HMGR遺伝子に、PCR反応によるエラーが含まれていないことをシーケンス解析により確認した。シーケンス解析は、精製されたプラスミドを鋳型とし、配列番号5及び6に示したプライマーを用いてDNAシーケンサー(Applied Biosystems社、3730xl)により解析し、ML−236B耐性株の短縮型HMGR(以下、「ADK4653_tHMGR」ということもある)の発現ベクターを取得した。
《比較例1》
本比較例では、清酒酵母から短縮型HMGR(tHMGR)遺伝子のクローニングを行った。
ML−236B耐性株に代えて、清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会701号)を用いたこと、及びプライマーとして配列番号9及び10のプライマーを用いたことを除いては、実施例1(3)の操作を繰り返して、清酒酵母の短縮型HMGR(以下、「K701_tHMGR」ということもある)の発現ベクターを構築した。
5´−AATCAACTGGTACCCGGGATGGACCAATTGGTGAAAACT−3´
(配列番号9)
5´−TTAGTTAACCTCTAGAGCTCTTAGGATTTAATGCA−3´
(配列番号10)
《実施例2》
本実施例では、実施例1(2)で得られたベクターを用いて、酵母の形質転換体を取得した。その形質転換体を用いて、メバロン酸の産生、及びスクアレン又はエルゴステロールの産生を行った。
(1)酵母の形質転換
実施例1(2)で得られた全長HMGR発現ベクターを用いて清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会701号)を形質転換した。ベクターは、あらかじめ制限酵素(EcoO65I(BstEII、BstPI)、タカラバイオ社)により耐性マーカー遺伝子内の一箇所で切断し、直鎖状にして使用することで相同組換えによる遺伝子導入を行った。つまりベクターの耐性マーカーであるオーレオバシジン耐性遺伝子(AUR−C)と相同性を示す宿主酵母の感受性遺伝子部位で相同組換えが起こり、宿主酵母の感受性遺伝子部位にベクター遺伝子が挿入された。酵母の形質転換は、Frozen−EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESARCH社)を使用し、定法である酢酸リチウム法に準じた方法で行った。形質転換体は、抗生物質(オーレオバシジンA、タカラバイオ社)を0.5μg/mL含有するYPD培地で選抜した。得られたクローンは、コロニーPCRにより目的遺伝子が導入されていることを確認した。コロニーPCRには、Tks Gflex DNA Pplymerase(タカラバイオ社)、プライマー(配列番号5及び6)を使用した。酵母コロニーを極微量ピックアップし、細胞壁消化酵素液(Zymolyase 20T、キリン協和フーズ社、3mg/mL、pH7.4)に懸濁し、37℃15分間反応させ、細胞壁を消化した。酵素処理反応液を鋳型DNAとしてPCR反応を行った。PCR反応は、94℃で1分間の変性処理後に、98℃:10秒間、60℃:15秒間、68℃:90秒間からなる反応工程を30サイクル行った後、68℃で2分間の伸張反応を付加した。PCR後に、アガロースゲル電気泳動によりインサートを確認した。
(2)メバロン酸、スクアレン又はエルゴステロールの産生の確認
ADK4653遺伝子は、発現用ベクターpAUR123(タカラバイオ社)の構成発現プロモーター(ADH1遺伝子のプロモーター)により構成的に発現された。清酒酵母が本来有しているHMGR遺伝子に加え、形質転換により導入されたADK4653遺伝子の過剰発現によりメバロン酸経路が増強されることを、当該経路の代謝産物であるメバロン酸、スクアレン又はエルゴステロールを測定することで確認した。対照試験区は、インサートが挿入されていないベクターによる形質転換により得られた形質転換体をコントロールとした。
培養は、容量500mLのバッフル付き三角フラスコを使用し、YPD培地(グルコース5%)50mLに24時間前培養した菌体を培地の1%量添加し、28℃、250rpmで旋回攪拌しながら培養した。所定の時間にサンプリングを行った。メバロン酸、スクアレン、及びエルゴステロールの定量は以下のように行った。
(メバロン酸の定量)
メバロン酸は、培地中に分泌生産されたメバロン酸濃度を測定した。培養液の遠心上清を、直接HPLCにより分析した。HPLCは、HITACHI社 LaChrom(Column Oven L−2300、Pump L−2130、Autosampler L−2200、UV Detector L−2400)により、カラム(Thermo SCIENTIFIC社、AQUASIL C18)を使用した。溶離液は、水:トリエチルアミン:酢酸=1000:1:1のアイソクラティック、カラム温度40℃、流量1.0mL/minに設定し、検出はUV(210nm)で分析した。
(スクアレン及びエルゴステロールの定量)
スクアレン、エルゴステロールは、菌体を破砕後にクロロホルム・メタノール抽出して測定した。培養液2mLを遠心して上清を除いた後、菌体に破砕用のジルコニアビーズ(ニッカトー社、YTZボール、φ0.5mm)を容積で0.6mL、メタノールを0.4mL添加し、ビーズクラッシャー(タイテック社、uT−12)で5分間粉砕(3200r/min)した。破砕液にクロロホルム0.8mLを加え、均一になるまで転倒攪拌した。5分間超音波処理により懸濁した後に、遠心分離(16000rpm、5min)し、有機層を回収した。サンプルは、フィルター(ADVANTEC社、DISMIC−13HP)処理後にHPLC分析に供した。HPLCは、日本分光工業社のシステム(JASCO Intelligent HPLC Pump 880−PU、Ternary Gradient Umit 880−02、Intelligent UV/VIS Detector 870−UV、Senshu Scientific社SSC−2100、GL Sciences Degassing Unit DG660B)により、カラム(SIGMA−ALDRICH社、SUPELCOSIL LC−18)を使用した。溶離液はアセトニトリル:THF=8:2のアイソクラティック、カラム温度30℃、流量1.0mL/minに設定し、検出はUV(220nm)で分析した。
メバロン酸の産生の結果を図4に示す。ADK4653_HMGRを発現させた宿主では、コントロールの2−2.8倍(185−355mg/L)のメバロン酸を蓄積した。
また、スクアレン及びエルゴステロールの産生の結果を図5に示す。ADK4653_HMGRを発現させた清酒酵母のエルゴステロール量には顕著な変化は認められなかった。一方で、スクアレンの生産量は、顕著な増加を示し、メバロン酸経路の増強効果が確認できた。
なお、図4、5の「no insert」は、外部遺伝子を含まないpAUR123ベクターを導入し、外部遺伝子が発現しない条件であることを示す。また、ADKはADK4653を示すものとする。(以下の図表で同じ。)
《実施例3》
本実施例では、実施例1(3)で得られたベクターを用いて、酵母の形質転換体を取得した。その形質転換体を用いて、スクアレン又はエルゴステロールの産生を行った。
ADK4653_HMGR発現ベクターに代えて、ADK4653_tHMGR発現ベクターを用いたことを除いては、実施例2(1)及び(2)の操作を繰り返した。結果を図6に示す。
《比較例2》
本比較例では、比較例1で得られたK701_tHMGR発現ベクターを用いて、スクアレンの生産性を検討した。ADK4653_tHMGR発現ベクターに代えて、K701_tHMGR発現ベクターを用いたことを除いては、実施例3の操作を繰り返して、スクアレンの産生を確認した(培養時間は5日間)。結果を図6に示す。
図6に示すように、ADK4653_HMGRに代えてADK4653_tHMGRを発現させると、ADK4653_HMGRと比較して、12倍のスクアレン生産性を示した。培地中のスクアレン生産量は、1.66g/Lに達し、乾燥菌体あたりの生産量は、102mg/g(10.2%)を示した。一方、比較例2のK701_tHMGRでは、スクアレンの増産効果は認められなかった。
前記ADK4653_HMGR及び清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会7号)のHMGR、ヒト(Homo sapiens、AF273765)HMGRのアミノ酸配列の比較を図7−1及び図7−2に示す。図7−1及び図7−2に示すように、清酒酵母から得られたHMGRでは、Sα2アミノ酸配列における第10番目のアミノ酸がアラニンであるのに対して、ADK4653_HMGRはセリンであった。また、清酒酵母から得られたHMGRではLα2アミノ酸配列のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって第2番目のアミノ酸がプロリンであるのに対して、ADK4653_HMGRはアラニンであった。また、清酒酵母から得られたHMGRではLα2アミノ酸配列における第1番目のアミノ酸がアラニンであり、第5番目のアミノ酸がイソロイシンであり、第6番目のアミノ酸がグルタミン酸であるのに対して、ADK4653_HMGRでは、それぞれセリン及びトレオニン及びアスパラギンであった。
なお、上記清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会7号)と清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会701号)の短縮型HMGR部分におけるアミノ酸配列は同一である。
《実施例4》
本実施例では、ADK4653_tHMGRによるスクアレン生産量の経時変化を検討した。
培養時間を、3日、4日、5日、6日、7日、若しくは10日、又は3日、5日、7日、若しくは10日としたことを除いては、実施例3の操作を繰り返して、スクアレンの生産量を測定した。また、同時に細胞の重量の変化を測定した。結果を図8に示す。
ADK4653_tHMGRを発現させた酵母では、コントロール(No insert)と比較して著しいスクアレン生産量を示した。また細胞が定常期に達した3日以降のスクアレン量の変化は少なく、3日間以内の培養で十分な収量が得られた。一方で、エルゴステロールの含量は、コントロール(No insert)と短縮型の遺伝子(ADK4653_tHMGR)を発現させた酵母での差異は認められなかった。
《比較例3》
本比較例では、実施例1(3)で得られたADK4653_tHMGR発現ベクターを用いて、Lα2アミノ酸配列における第1番目のアミノ酸のセリンからアラニンへの置換、又はLα2アミノ酸配列における第1番目のアミノ酸のセリンからアラニンへの置換と第5番目のアミノ酸のトレオニンからイソロイシンへの置換の組み合わせを行って、スクアレン生産量を検討した。また、K701_tHMGRを比較対象とした(以下、比較例4〜6でも同じ)。
スクアレン生産量の測定は、実施例2(2)に準じた方法で行った。培養は、バッフル付き三角フラスコを使用し、YPD培地(グルコース5%)に前培養した菌体を添加し、28℃、250rpmで旋回攪拌しながら培養した。2日間の培養後に、培養菌体を回収し、スクアレン生産量を測定した。
前記ADK4653_tHMGR発現ベクターを鋳型として、アミノ酸置換変異を導入した。具体的には、Lα2領域の第1番目のアミノ酸をセリンからアラニンに置換したS820Aベクター、及び第1番目のアミノ酸をセリンからアラニンに置換し、そして第5番目のアミノ酸をトレオニンからイソロイシンに置換したS820A/T824Iベクターを作製した。得られたS820Aベクター、又はS820A/T824Iベクターを、清酒酵母を宿主として導入し、過剰発現させたS820A株、又はS820A/T824I株を取得した。それぞれの株のスクアレン生産量を指標として、メバロン酸経路の増強効果を比較した。結果を図9に示す。スクアレンの生産量は、培養液あたりの生産量をもとに、変異を導入していないADK4653_tHMGRの生産量を100%として相対値で示した(図10〜図16も同じ)。
なお、変異を導入した発現ベクターの調製は、PrimeSTAR DNA Polymerase(タカラバイオ社)を使用し、PCR法により取扱説明書(PrimeSTAR Mutagenesis Basal Kit 製品コードR046A)に従って行った。変異を導入するプラスミドを滅菌蒸留水で希釈し反応液中2pg/μLになるよう添加した。プライマーは、最終濃度0.2μMとなるように添加し、PCRは3ステップ(98℃:10秒間、55℃:15秒間、72℃:45秒間)を40サイクル行い、アガロースゲル電気泳動により目的サイズの増幅産物を確認した。PCR反応液0.4μLをコンピテントセル20μL(JM109、タカラバイオ社)に添加し形質転換を行った。形質転換により得られた大腸菌から変異が導入されたプラスミドを精製し、HMGRをコードする構造遺伝子の塩基配列を解析した。塩基配列の解析により、変異導入の正確性(目的とする変異が導入されていること、意図しないPCRエラーが存在しないこと)を検証した。変異を導入した発現ベクターにより、清酒酵母を宿主とした形質転換を実施し、スクアレンの生産性を解析した。変異導入用プライマーは、下記のプライマーを合成して使用した(配列番号11、12、15、及び16)。
Lα2アミノ酸配列における第1番目のアミノ酸のセリンからアラニンへ置換した場合スクアレン生産量は低下し、同時に2アミノ酸を置換した変異体では、ほとんど高生産性を示さなくなった。
以上の結果から、HMG−CoA結合部位に隣接するモチーフ(Lα2)に存在するセリン及びトレオニンは、スクアレンの高生産性に関与する重要なアミノ酸残基であることが明らかとなった。
変異酵素(S820A)
5´−GCCATTAACTGGACCAATGGTCGTGGTAAGAGT−3´
(配列番号11)
5´−GGTCCAGTTAATGGCAGCGGCTTTCTTATCAGT−3´
(配列番号12)
変異酵素(S820A/T824I)
5´−GCCATTAACTGGATCAATGGTCGTGGTAAGAGT−3´
(配列番号15)
5´−GATCCAGTTAATGGCAGCGGCTTTCTTATCAGT−3´
(配列番号16)
《比較例4》
本比較例では、実施例1(3)で得られたADK4653_tHMGR発現ベクターを用いて、Sα2アミノ酸配列における第10番目のアミノ酸をセリンからアラニンに置換して、スクアレン生産量を検討した。培養は、比較例3の操作を繰り返して、その後スクアレンの生産量を測定した。結果を図10に示す。その結果、第10番目のアミノ酸をセリンからアラニンに置換した変異体では、ほとんど高生産性を示さなくなった。
変異酵素(S744A)
5´−TGAAAAAAGCTTTCAATTCTACTTCTA−3´
(配列番号17)
5´−ATTGAAAGCTTTTTTCAACAAGTTTTG−3´
(配列番号18)
《比較例5》
本比較例では、実施例1(3)で得られたADK4653_tHMGR発現ベクターを用いて、HMG−CoA結合サイトとLα2の間に位置する第818位のアミノ酸をアラニンからプロリンに置換して、スクアレン生産量を検討した。培養は、培養時間を3日間とした以外は比較例3の操作を繰り返して、その後スクアレンの生産量を測定した。結果を図11に示す。その結果、第818位のアミノ酸をアラニンからプロリンに置換した変異体では、ほとんど高生産性を示さなくなった。
変異酵素(A818P)
5´−TGATAAGAAACCAGCTTCTATTAACTG−3´
(配列番号19)
5´−GCTGGTTTCTTATCAGTACAGTAGTTA−3´
(配列番号20)
《比較例6》
本比較例では、実施例1(3)で得られたADK4653_tHMGR発現ベクターを用いて、第825位のアミノ酸をアスパラギンからグルタミン酸に置換して、スクアレン生産量を検討した。培養は、培養時間を3日間とした以外は比較例3の操作を繰り返して、その後スクアレンの生産量を測定した。結果を図12に示す。その結果、第825位のアミノ酸をアスパラギンからグルタミン酸に置換した変異体では、ほとんど高生産性を示さなくなった。
変異酵素(N825E)
5´−TGGACCGAAGGTCGTGGTAAGAGTATTG−3´
(配列番号21)
5´−ACGACCTTCGGTCCAGTTAATAGAAGCG−3´
(配列番号22)
《実施例5》
本実施例では、比較例1で得られたK701_tHMGR発現ベクターを用いて、Sα2領域を構成するアミノ酸3残基、HMG−CoA結合サイトとLα2領域の間に位置するアミノ酸1残基及びLα2領域を構成するアミノ酸3残基に変異を導入した変異酵素を作製し、スクアレン生産量を検討した。
以下、変異導入について具体的に説明する。なお、本実施例において変異箇所を特定する番号は、図7−1及び図7−2に示した清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会7号)の配列番号で代用した。上述のように、本願で使用しているのは清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会701号)であるが、活性部位(短縮型HMGR部分)におけるアミノ酸配列は清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会7号)と同一であることから、本願では位置特定のために利用しているものである。
図7−1及び図7−2に示すように、清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae 協会701号)のSα2領域のアミノ酸配列は、EEGQNAIKKAFNであり、HMG−CoA結合サイト〜Lα2領域のアミノ酸配列は、DKKPAAINWIEである。
K701_tHMGR発現ベクターにおいて、Sα2領域のアミノ酸配列がEEGQNLLKKSFN、またHMG−CoA結合サイト〜Lα2領域のアミノ酸配列がDKKAASINWTNとなるようにアミノ酸置換変異を導入した。すなわち、Sα2領域の第6番目に存在するアラニン(第772位)をロイシンに、Sα2領域の第7番目に存在するイソロイシン(第773位)をロイシンに、Sα2領域の第10番目に存在するアラニン(第776位)をセリンに置換した。またHMG−CoA結合サイトの直後であって、Lα2領域のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって2番目に存在するプロリン(第850位)をアラニンに置換し、更にLα2領域の第1番目に存在するアラニン(第852位)をセリンに、Lα2領域の第5番目に存在するイソロイシン(第856位)をトレオニンに、Lα2領域の第6番目に存在するグルタミン酸(第857位)をアスパラギンに置換した。
アミノ酸置換変異の導入は、前記K701_tHMGR発現ベクターを鋳型として、比較例3と同様な方法で、プライマーを変えた操作を繰り返しながら、順次変異を導入することで7アミノ酸残基を置換したベクターを構築した。変異導入用プライマーは、下記のプライマーを合成して使用した(配列番号23〜32)。
構築したベクターを、清酒酵母を宿主として導入し、K701_Mutant株を取得した。それぞれの株のスクアレン生産量を指標として、メバロン酸経路の増強効果を比較した。スクアレン生産量の測定は、実施例2(2)に準じた方法で行った。培養は、バッフル付き三角フラスコを使用し、YPD培地(グルコース5%)に前培養した菌体を添加し、28℃、250rpmで旋回攪拌しながら培養した。2日間の培養後に、培養菌体を回収し、スクアレン生産量を測定した。また、ADK4653_tHMGR及びK701_tHMGRを比較対象とした。結果を図13に示す。7残基のアミノ酸を置換した変異酵素を発現した酵母のスクアレン生産量は、K701_tHMGRに比べ著しく増加し、ADK4653_tHMGRと同等の生産量を示した。
以上の結果から、NADP(H)結合部位に隣接するモチーフ(Sα2)及びHMG−CoA結合部位に隣接するモチーフ(Lα2)近辺に存在する7残基のアミノ酸は、スクアレンの高生産性に関与する重要なアミノ酸であり、当該変異を導入した変異酵素の発現により、メバロン酸経路の増強が可能になることが明らかとなった。
変異酵素(K701_Mutant:A852S/I856T)
5´−TCTATCAACTGGACCGAAGGTCGTGGTAAGAGT−3´
(配列番号23)
5´−GGTCCAGTTGATAGAAGCTGGTTTTTTGTCGGT−3´
(配列番号24)
変異酵素(K701_Mutant:A776S)
5´−AAAAAATCATTTAACTCTACATCAAGA−3´
(配列番号25)
5´−GTTAAATGATTTTTTAATTTGCGTTTTG−3´
(配列番号26)
変異酵素(K701_Mutant:E857N)
5´−TGGACCAATGGTCGTGGTAAGAGTGTC−3´
(配列番号27)
5´−ACGACCATTGGTCCAGTTGATAGAAGC−3´
(配列番号28)
変異酵素(K701_Mutant:P850A)
5´−CGACAAAAAAGCCGCTTCTATCAACTG−3´
(配列番号29)
5´−GCGGCTTTTTTGTCGGTACAGTAGTTA−3´
(配列番号30)
変異酵素(K701_Mutant:A772L/I773L)
5´−AAAACTTGTTGAAAAAATCATTTAACTC−3´
(配列番号31)
5´−TTTTCAACAAGTTTTGTCCCTCTTCTG−3´
(配列番号32)
《実施例6》
本実施例では、実施例1(3)で得られたADK4653_tHMGR発現ベクターを用いて、Lα2アミノ酸配列における第5番目のアミノ酸のトレオニンからイソロイシンへの置換を行って、スクアレン生産量を検討した。
変異導入用プライマーとして、下記の配列番号13及び14のプライマーを用いた以外は、比較例3の操作を繰り返して、T824Iベクターを得た。T824Iベクターを、清酒酵母に導入し、T824I株を取得した。スクアレン生産量を指標として、メバロン酸経路の増強効果を比較した。結果を図9に示す。
Lα2アミノ酸配列における第5番目のアミノ酸のトレオニンからイソロイシンへの置換した場合、スクアレン生産量はADK4653_tHMGRの50.3%であったが、K701_tHMGRと比較して顕著に高いものであった。
変異酵素(T824I)
5´−TCTATTAACTGGATCAATGGTCGTGGTAAGAGT−3´
(配列番号13)
5´−GATCCAGTTAATAGAAGCGGCTTTCTTATCAGT−3´
(配列番号14)
《実施例7及び8》
本実施例では、実施例1(3)で得られたADK4653_tHMGR発現ベクターを用いて、第740位のアミノ酸をロイシンからアラニンに置換、または第741位のアミノ酸をロイシンからイソロイシンに置換してスクアレン生産量を測定した。変異の導入は、比較例3と同様な方法により、下記のプライマーを用いて行った。
培養は、比較例3の操作を繰り返して、スクアレンの生産量を測定した。結果を図14に示す。その結果、第740位のアミノ酸をロイシンからアラニンに置換した場合、スクアレン生産量はADK4653_tHMGRの54.2%であったが、K701_tHMGRと比較して顕著に高いものであった。また、第741位のアミノ酸をロイシンからイソロイシンに置換した場合、スクアレン生産量はADK4653_tHMGRの18.8%であったが、K701_tHMGRと比較して顕著に高いものであった。
変異酵素(L740A)
5´−AAAACGCATTGAAAAAATCATTCAATTC−3´
(配列番号33)
5´−TTTTCAATGCGTTTTGACCTTCTTCAGTA−3´
(配列番号34)
変異酵素(L741I)
5´−ACTTGATTAAAAAATCATTCAATTCTA−3´
(配列番号35)
5´−ATTTTTTAATCAAGTTTTGACCTTCTTCA−3´
(配列番号36)
《実施例9》
本実施例では、比較例1で得られたK701_tHMGR発現ベクターを用いて、Sα2領域を構成するアミノ酸に導入する変異を3残基から2残基とした以外、実施例5と同様にして変異酵素を作製し、スクアレン生産量を検討した。(変異箇所を特定する番号の定義は実施例5と同様である。)
すなわち、K701_tHMGR発現ベクターにおいて、Sα2領域のアミノ酸配列がEEGQNALKKSFN、またHMG−CoA結合サイト〜Lα2領域のアミノ酸配列がDKKAASINWTNとなるようにアミノ酸置換変異を導入した。すなわち、Sα2領域の第7番目に存在するイソロイシン(第773位)をロイシンに、Sα2領域の第10番目に存在するアラニン(第776位)をセリンに置換した。またHMG−CoA結合サイトの直後であって、Lα2領域のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって2番目に存在するプロリン(第850位)をアラニンに置換し、更にLα2領域の第1番目に存在するアラニン(第852位)をセリンに、Lα2領域の第5番目に存在するイソロイシン(第856位)をトレオニンに、Lα2領域の第6番目に存在するグルタミン酸(第857位)をアスパラギンに置換した。
アミノ酸置換変異の導入は、前記K701_tHMGR発現ベクターを鋳型として、比較例3と同様な方法で、プライマーを変えた操作を繰り返しながら、順次変異を導入することで6残基のアミノ酸を置換したベクターを構築した。変異導入用プライマーは、実施例5で使用したプライマー(配列番号23〜30)、および下記のプライマーを合成して使用した(配列番号37〜38)。
構築したベクターを、清酒酵母を宿主として導入し、K701_Mutant2株を取得した。それぞれの株のスクアレン生産量を指標として、メバロン酸経路の増強効果を比較した。スクアレン生産量の測定は、実施例2(2)に準じた方法で行った。培養は、バッフル付き三角フラスコを使用し、YPD培地(グルコース5%)に前培養した菌体を添加し、28℃、250rpmで旋回攪拌しながら培養した。2日間の培養後に、培養菌体を回収し、ADK4653_tHMGR、K701_tHMGRを比較対象としてスクアレン生産量を測定した。結果を図15に示す。6残基のアミノ酸を置換した変異酵素(K701_Mutant2)を発現した酵母のスクアレン生産量は、K701_tHMGRに比べ著しく増加した。
変異酵素(K701_Mutant:I773L)
5´−ACGCATTGAAAAAATCATTTAACTCTA−3´
(配列番号37)
5´−ATTTTTTCAATGCGTTTTGTCCCTCTTC−3´
(配列番号38)
《実施例10》
本実施例では、比較例1で得られたK701_tHMGR発現ベクターを用いて、Sα2領域を構成するアミノ酸に導入する変異を3残基から2残基へ、またLα2領域を構成するアミノ酸に導入する変異を3残基から2残基へとした以外、実施例5と同様にして変異酵素を作製し、スクアレン生産量を検討した。(変異箇所を特定する番号の定義は実施例5と同様である。)
すなわち、K701_tHMGR発現ベクターにおいて、Sα2領域のアミノ酸配列がEEGQNALKKSFN、またHMG−CoA結合サイト〜Lα2領域のアミノ酸配列がDKKAASINWINとなるようにアミノ酸置換変異を導入した。すなわち、Sα2領域の第7番目に存在するイソロイシン(第741位)をロイシンに置換し、Sα2領域の第10番目に存在するアラニン(第776位)をセリンに置換した。またHMG−CoA結合サイトの直後であって、Lα2領域のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって2番目に存在するプロリン(第850位)をアラニンに置換し、更にLα2領域の第1番目に存在するアラニン(第852位)をセリンに、Lα2領域の第6番目に存在するグルタミン酸(第857位)をアスパラギンに置換した。
変異導入は、前記プライマー(配列番号23〜29および37〜38)により変異を導入し、さらに下記のプライマー(配列番号39〜40)により復帰変異を導入した。
アミノ酸置換変異の導入は、前記K701_tHMGR発現ベクターを鋳型として、比較例3と同様な方法で、プライマーを変えた操作を繰り返しながら、順次変異を導入することで5残基のアミノ酸を置換したベクターを構築した。
構築したベクターを、清酒酵母を宿主として導入し、K701_Mutant3株を取得した。それぞれの株のスクアレン生産量を指標として、メバロン酸経路の増強効果を比較した。スクアレン生産量の測定は、実施例2(2)に準じた方法で行った。培養は、バッフル付き三角フラスコを使用し、YPD培地(グルコース5%)に前培養した菌体を添加し、28℃、250rpmで旋回攪拌しながら培養した。2日間の培養後に、培養菌体を回収し、ADK4653_tHMGR、K701_tHMGRを比較対象としてスクアレン生産量を測定した。結果を図16に示す。5残基のアミノ酸を置換した変異酵素(K701_Mutant3)を発現した酵母のスクアレン生産量は、K701_tHMGRに比べ著しく増加した。
変異酵素(K701_Mutant:T856I)
5´−AACTGGATCAATGGTCGTGGTAAGAGT−3´
(配列番号39)
5´−ACCATTGATCCAGTTGATAGAAGCGGC−3´
(配列番号40)
《実施例11》
本実施例では、比較例1で得られたK701_tHMGR発現ベクターを用いて、Lα2領域を構成するアミノ酸に導入する変異を3残基から2残基へとした以外、実施例5と同様にして変異酵素を作製し、スクアレン生産量を検討した。(変異箇所を特定する番号の定義は実施例5と同様である。)
すなわち、K701_tHMGR発現ベクターにおいて、Sα2領域のアミノ酸配列がEEGQNLLKKSFN、またHMG−CoA結合サイト〜Lα2領域のアミノ酸配列がDKKAASINWINとなるようにアミノ酸置換変異を導入した。すなわち、Sα2領域の第6番目に存在するアラニン(第772位)をロイシンに、Sα2領域の第7番目に存在するイソロイシン(第773位)をロイシンに、Sα2領域の第10番目に存在するアラニン(第776位)をセリンに置換した。またHMG−CoA結合サイトの直後であって、Lα2領域のアミノ末端からHMGRのアミノ末端へ向かって2番目に存在するプロリン(第850位)をアラニンに置換し、更にLα2領域の第1番目に存在するアラニン(第852位)をセリンに、Lα2領域の第6番目に存在するグルタミン酸(第857位)をアスパラギンに置換した。
アミノ酸置換変異の導入は、前記K701_tHMGR発現ベクターを鋳型として、比較例3と同様な方法で、プライマーを変えた操作を繰り返しながら、順次変異を導入することで6残基のアミノ酸を置換したベクターを構築した。
変異導入は、前記プライマー(配列番号23〜32)により変異を導入し、さらに上記のプライマー(配列番号39〜40)により復帰変異を導入した。
構築したベクターを、清酒酵母を宿主として導入し、K701_Mutant4株を取得した。それぞれの株のスクアレン生産量を指標として、メバロン酸経路の増強効果を比較した。スクアレン生産量の測定は、実施例2(2)に準じた方法で行った。培養は、バッフル付き三角フラスコを使用し、YPD培地(グルコース5%)に前培養した菌体を添加し、28℃、250rpmで旋回攪拌しながら培養した。2日間の培養後に、培養菌体を回収し、ADK4653_tHMGR、K701_tHMGRを比較対象としてスクアレン生産量を測定した。結果を図16に示す。6残基のアミノ酸を置換した変異酵素(K701_Mutant4)を発現した酵母のスクアレン生産量は、K701_tHMGRに比べ著しく増加した。
実施例3及び5〜11、並びに比較例2〜6の(a)〜(g)の位置のアミノ酸(ADK4653_tHMGR、又はK701_tHMGRからのアミノ酸の置換)及びADK4653_tHMGRを100とした各実施例及び比較例のスクアレンの生産量の相対値を表1にまとめる。なお、アミノ酸は一文字表記で示している。
比較例2及び実施例3から明らかなように、K701_tHMGR(a=A、b=P、c=A、d=E、e=I、f=I、g=A)と比較して、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、及び(g)の位置の7つのアミノ酸が異なるADK4653_tHMGR(a=S、b=A、c=S、d=N、e=L、f=T、g=L)は、スクアレンの生産量が顕著に優れていた。更に、実施例5からわかるように、K701_tHMGRの(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、及び(g)の位置の7つのアミノ酸をADK4653_tHMGRの7つのアミノ酸に置換することによって、スクアレンの生産量の相対値は92.1と、ADK4653_tHMGRとほぼ同等になった。ADK4653_tHMGRとK701_tHMGRとは、アミノ酸配列の長さも異なり、短縮型HMGR(tHMGR)のアミノ酸配列の同一性も78%である。K701_tHMGRのアミノ酸のうち、わずか7塩基のアミノ酸をADK4653_tHMGRのアミノ酸に置換することによって、スクアレンの生産量がADK4653_tHMGRと同等となることは、驚くべきことである。すなわち、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼのスクアレンの産生において、これらの(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、及び(g)の位置の7つのアミノ酸が重要な役割を果たしていると考えられる。
更に、比較例3〜比較例6の結果からわかるように、ADK4653_tHMGRの(a)、(b)、(c)、及び(d)の位置のアミノ酸のいずれか1つをK701_tHMGRのアミノ酸に置換するとスクアレンの生産量の相対値は、0〜13.9と急激に低下した。すなわち、これらの(a)、(b)、(c)、及び(d)の位置のアミノ酸が、特にヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼのスクアレンの産生において重要であると考えられる。
また、実施例6〜11の結果からわかるように、(e)、(f)、及び(g)の位置の3つのアミノ酸のいずれかが、K701_tHMGRのアミノ酸の場合は、スクアレンの生産量の相対値は18.2〜54.2である。すなわち、(a)、(b)、(c)、及び(d)の位置のアミノ酸と比較すると、(e)、(f)、及び(g)の位置のアミノ酸がK701_tHMGRのものであっても、高いスクアレンの生産性を示す。
本発明によれば、テルペノイド化合物の生産において、メバロン酸の産生、及びスクアレンの産生を向上させることができる。従って、本発明によって得られる、メバロン酸、及びスクアレンは、例えば医薬品の生産の原料として用いることができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。

Claims (12)

  1. ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMGR)の
    (a)Sα2アミノ酸配列における第10番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、
    (b)HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のプロリン(P)以外のアミノ酸、
    (c)Lα2アミノ酸配列における第1番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、及び
    (d)Lα2アミノ酸配列における第6番目のグルタミン酸(E)以外のアミノ酸、を含むヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ。
  2. 前記Sα2アミノ酸配列の第10番目のアミノ酸がセリン(S)であり、HMG−CoA結合サイトのDKK領域のC末端から第1番目のアミノ酸がアラニン(A)であり、Lα2アミノ酸配列の第1番目のアミノ酸がセリン(S)であり、そしてLα2アミノ酸配列の第6番目のアミノ酸がアスパラギン(N)である、請求項1に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ。
  3. 前記ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ(HMGR)が、更に
    (e)Sα2アミノ酸配列における第7番目のイソロイシン(I)以外のアミノ酸、
    (f)Lα2アミノ酸配列における第5番目のイソロイシン(I)以外のアミノ酸、及び
    (g)Sα2アミノ酸配列における第6番目のアラニン(A)以外のアミノ酸、からなる群から選択される1つ又は2つ以上のアミノ酸を、含む請求項1又は2に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ。
  4. 前記Sα2アミノ酸配列における第7番目のアミノ酸がロイシンであり、Lα2アミノ酸配列における第5番目のアミノ酸がトレオニンであり、Sα2アミノ酸配列における第6番目のアミノ酸がロイシンである、請求項3に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ。
  5. 下記(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列を含むポリペプチドであって、且つヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ活性を有するポリペプチドである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ:
    (1)配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番のアミノ酸配列、
    (2)配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番からなるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
    (3)配列番号1で表されるアミノ酸配列の514番〜1022番からなるアミノ酸配列との相同性が80%以上であるアミノ酸配列。
  6. 下記(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、且つヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ活性を有するポリペプチドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ:
    (1)配列番号1で表されるアミノ酸配列、
    (2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
    (3)配列番号1で表されるアミノ酸配列との相同性が80%以上であるアミノ酸配列。
  7. 膜結合領域を含まない、請求項1〜6のいずれか一項に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載のヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼをコードするポリヌクレオチド。
  9. 請求項8に記載のポリヌクレオチドを有する微生物。
  10. 請求項8に記載のポリヌクレオチドを持つDNAを含むベクター。
  11. 請求項10に記載のベクターを有する形質転換体。
  12. 請求項11に記載の形質転換体を培養することを特徴とするテルペノイドの製造方法。
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