以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るユビキノンの製造方法は、ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子と、ユビキノンの生合成に関与する他の酵素遺伝子との発現量を増大させたユビキノン産生細胞を培養し、培養物からユビキノンを回収する。本方法によれば、ユビキノン産生細胞におけるユビキノン生産能を大幅に向上させることができるため、効率よくユビキノンを製造することができる。また、本発明に係るユビキノンの製造方法では、ポリプレニルトランスフェラーゼ及びユビキノンの生合成に関与する他の酵素に加え、HMG-CoA還元酵素遺伝子の発現量を増大させることが望ましい。これによりユビキノン産生細胞におけるユビキノン生産能を更に向上させることができる。例えば、ユビキノン産生細胞としてユビキノン10を産生する酵母を使用した場合、当該酵母におけるユビキノン10生産能を向上させることができる。
なお、本発明に係るユビキノンの製造方法は、ポリプレニル鎖長が異なるユビキノン6〜13のいずれのユビキノンを対象とすることができる。本発明では、既に医薬品や機能性食品等に利用されているユビキノン10を製造することが好ましい。
なお、ユビキノン産生細胞内において、ポリプレニルトランスフェラーゼと、ユビキノンの生合成に関与する他の酵素との活性を向上させても、本発明に係るユビキノンの製造方法と同様に、ユビキノン産生細胞におけるユビキノン生産能を大幅に向上させることができる。従って、ポリプレニルトランスフェラーゼと、ユビキノンの生合成に関与する他の酵素との活性が向上したユビキノン産生細胞によってユビキノンを高生産することができる。
ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子
ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子は、サッカロマイセス・セルビシエにおいてCoq2遺伝子と呼称され、サッカロマイセス・セルビシエにおけるユビキノン生合成経路に関与している。より具体的には、ポリプレニルトランスフェラーゼは、4-ヒドロキシ安息香酸及びポリプレニル二リン酸から3-ポリプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸の合成に寄与する。Coq2遺伝子は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしている。なお、Coq2遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。
Coq2遺伝子としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものに限定されず、配列番号2で表されるアミノ酸配列における1つ若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ポリプレニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であっても良い。
複数のアミノ酸とは、2〜30個のアミノ酸、好ましくは2〜20個のアミノ酸、より好ましくは2〜10個のアミノ酸を意味する。特に、欠失、置換若しくは付加するアミノ酸は、本タンパク質におけるポリプレニルトランスフェラーゼ活性に関与する領域を除く領域のアミノ酸であることが好ましい。
ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子としては、サッカロマイセス・セルビシエ由来のCoq2遺伝子に限定されず、各種細胞由来のCoq2遺伝子に相当する遺伝子を使用することができる。例えば、アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)のAtPP1遺伝子(AB052553)、バチルス・ファーマス(Bacillus firmus)のUbiA遺伝子(U61168)、ブルセラ・スイス(Brucella suis)のUbiA遺伝子(AE014352)、セノラブディティス・エレガンス(Caenorhabitis elegans)のF57B9.4遺伝子(U13876)、ドロソフィラ・メラノガスター(Dorosophila melanogaster)のCG9613遺伝子(AE003678)、大腸菌(Escherichia coli)のUbiA遺伝子(M96268)、ヒト(Homo sapiens)のUbiA遺伝子(BC008804)、マウス(Mus)のUbiA遺伝子(AK009092)、オリザ・サティバ(Oriza sativa)のPGT-2遺伝子(AP004661)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)のUbiA遺伝子(AE004947)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)のppt1遺伝子(AB053168)を挙げることができる。なお、括弧内の数字はGenBankへのアクセッション番号を示す。
また、上記以外の真核細胞からcoq2遺伝子に相当する遺伝子を単離するには、例えば、対象の真核細胞に由来するcDNAライブラリーを定法に従って作製し、当該cDNAライブラリーから目的とする遺伝子をスクリーニングする方法を挙げることができる。スクリーニングの際には、配列番号1で表される塩基配列に基づいて設計したプローブ或いはプライマーを用いることができる。当該プローブを用いてスクリーニングする際には、ストリンジェントな条件で当該プローブとハイブリダイズするcDNAを選抜する。ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成される条件をいう。より具体的にストリンジェントな条件は、例えば、ナトリウム濃度が300〜2000mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が40〜75℃、好ましくは55〜65℃での条件をいう。
換言すれば、本発明で使用するポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子は、配列番号1で表す塩基配列からなるDNAを含むものに限定されず、例えば、配列番号1で表される塩基配列と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、4-ヒドロキシ安息香酸及びポリプレニル二リン酸から3-ポリプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸を合成する機能を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子も含まれる。
さらに、本発明で使用するポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子としては、配列番号1で表される塩基配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有する塩基配列を含み、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子を挙げることができる。ここで相同性とは、例えば、配列解析ソフトウェアであるDNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング)を用いて、例えば、マキシムマッチング法のコマンドを実行することにより求められる値である。
さらにまた、本発明で使用するポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列を含むDNAに変異を導入することで作製される変異型の遺伝子も含まれる。なお、DNAに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-KやMutant-G(TaKaRa社製))などを用いて、あるいはTaKaRa社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異を導入することができる。
なお、ある遺伝子が本発明にて使用するポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子に含まれるか否かは、当該検査対象の遺伝子を発現、もしくは機能的に破壊した細胞株を作製し、当該細胞株における4-ヒドロキシ安息香酸及びポリプレニル二リン酸から3-ポリプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸への合成反応を検出することによって判定することができる。
ユビキノン生合成に関与する他の酵素遺伝子
ユビキノン生合成に関与する他の酵素遺伝子とは、上述したポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子以外であって、図8に示したユビキノンの生合成経路における各反応に関与する酵素をコードする遺伝子を意味する。当該酵素としては、3-ポリプレニル-4-ヒドロキシ安息香酸から3,4-ジヒドロキシ-5-ポリプレニル安息香酸を合成する活性を有する酵素(モノオキシゲナーゼ)、3,4-ジヒドロキシ-5-ポリプレニル安息香酸から3-メトキシ-4-ヒドロキシ-5-ポリプレニル安息香酸を合成する活性を有する酵素(メチルトランスフェラーゼ)、3-メトキシ-4-ヒドロキシ-5-ポリプレニル安息香酸から2-ポリプレニル-6-メトキシフェノールを合成する活性を有する酵素(デカルボキシラーゼ)、2-ポリプレニル-6-メトキシフェノールから2-ポリプレニル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンを合成する活性を有する酵素(モノオキシゲナーゼ)、2-ポリプレニル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンから2-ポリプレニル-3-メチル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンを合成する活性を有する酵素(メチルトランスフェラーゼ)、2-ポリプレニル-3-メチル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンから2-ポリプレニル-3-メチル-5-ヒドロキシ-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンを合成する活性を有する酵素(モノオキシゲナーゼ)、2-ポリプレニル-3-メチル-5-ヒドロキシ-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンからユビキノンを合成する活性を有する酵素(メチルトランスフェラーゼ)を挙げることができる。
3,4-ジヒドロキシ-5-ポリプレニル安息香酸から3-メトキシ-4-ヒドロキシ-5-ポリプレニル安息香酸を合成する活性を有する酵素遺伝子(メチルトランスフェラーゼ遺伝子)は、サッカロマイセス・セルビシエにおいてCoq3遺伝子として知られている。2-ポリプレニル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンから2-ポリプレニル-3-メチル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンを合成する活性を有する酵素遺伝子(メチルトランスフェラーゼ遺伝子)は、サッカロマイセス・セルビシエにおいてCoq5遺伝子として知られている。2-ポリプレニル-6-メトキシフェノールから2-ポリプレニル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンを合成する活性を有する酵素遺伝子(モノオキシゲナーゼ遺伝子)は、サッカロマイセス・セルビシエにおいてCoq6遺伝子として知られている。2-ポリプレニル-3-メチル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンから2-ポリプレニル-3-メチル-5-ヒドロキシ-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンを合成する活性を有する酵素遺伝子(モノオキシゲナーゼ遺伝子)は、サッカロマイセス・セルビシエにおいてCoq7遺伝子として知られている。なお、Coq4遺伝子及びCoq8遺伝子は、ユビキノン生合成に関与することが知られているが、具体的な機能は未知である。
サッカロマイセス・セルビシエ由来のCoq3〜8遺伝子の塩基配列情報は、Saccharomyces cerevisiae genome database(SGD:http://www.yeastgenome.org/index.html)に登録されている。当該データベースからCoq3〜8遺伝子の塩基配列情報及び、これら遺伝子によりコードされる酵素のアミノ酸配列情報を取得することができる。
Coq3遺伝子の塩基配列及びCoq3遺伝子がコードするCoq3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3及び4に示す。Coq4遺伝子の塩基配列及びCoq4遺伝子がコードするCoq4のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5及び6に示す。Coq5遺伝子の塩基配列及びCoq5遺伝子がコードするCoq5のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号7及び8に示す。Coq6遺伝子の塩基配列及びCoq6遺伝子がコードするCoq6のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号9及び10に示す。Coq7遺伝子の塩基配列及びCoq7遺伝子がコードするCoq7のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11及び12に示す。Coq8遺伝子の塩基配列及びCoq8遺伝子がコードするCoq8のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号13及び14に示す。
なお、ユビキノン生合成に関与する酵素としては、サッカロマイセス・セルビシエ由来のCoq3〜8遺伝子にコードされる酵素に限定されず、各種細胞由来のCoq3〜8遺伝子に相当する遺伝子を使用することができる。例えば、各種細胞由来のCoq3、5、6及び7遺伝子に相当する遺伝子の塩基配列は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)データベース、EMBL(European Molecular Biology Laboratory)-EBI(European Bioinformatics Institute)データベース、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)データベース等から表1〜4に示すアクセッション番号(Accession No)をキーとして検索し、取得することができる。
ユビキノン生合成に関与する酵素としては、上述したデータベースから取得されたアミノ酸配列と完全には一致しないアミノ酸配列からなるタンパク質(以下、相同タンパク質と称する。)であっても、ユビキノン生合成に関与する機能を有するタンパク質をコードするものであればよい。
相同タンパク質としては、例えば、上述したデータベースから取得されたアミノ酸配列において、1つ若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。複数のアミノ酸とは、2〜30個のアミノ酸、好ましくは2〜20個のアミノ酸、より好ましくは2〜10個のアミノ酸を意味する。特に、欠失、置換若しくは付加するアミノ酸は、本タンパク質におけるユビキノン生合成活性に関与する領域を除く領域のアミノ酸であることが好ましい。
相同タンパク質をコードする遺伝子は、例えば、サッカロマイセス・セルビシエ以外の真核細胞から単離することができる。サッカロマイセス・セルビシエ以外の真核細胞としては、酵母細胞、例えばキャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)。糸状菌細胞、例えばポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)。昆虫細胞、例えばドロソフィラ・メラノガスター(Dorosophila melanogaster)。線虫細胞、例えばセノラブディティス・エレガンス(Caenorhabitis elegans)。植物細胞、例えばアラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)。魚細胞、例えばゼブラフィッシュ。両生類細胞、例えばアフリカツメガエル。鳥類細胞、例えばニワトリ。爬虫類細胞、例えばヘビ。哺乳類細胞、例えばヒト、サル、ウサギ、イヌ、ハムスター、マウス、ラット。および、これらの細胞から樹立された細胞株、例えばHeLa細胞、VELO細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、MDCK細胞を挙げることができる。
ユビキノン産生細胞
本発明に係るユビキノンの製造方法では、ユビキノン産生細胞を使用する。ユビキノン産生細胞とは、ユビキノン生産能を本来的に備える細胞及びユビキノン生産能を本来的に有しない細胞系統にユビキノン生産能を付与した細胞を含む意味である。例えば、サッカロマイセス・セルビシエ等の酵母は、ユビキノン6を生産するがユビキノン10を本来的に生産しない。しかしながら、酵母における、ユビキノンのイソプレン単位が6である側鎖を作る酵素の遺伝子を破壊するとともに、イソプレン単位が10である側鎖を作る酵素を導入することによって、ユビキノン10を生産する酵母を作出することができる。本発明においては、このように本来的に生産するユビキノンとは異なるユビキノンを生産するように人為的な改変がなされた細胞もユビキノン産生細胞として使用することができる。
ここで、イソプレン単位が10である側鎖を作る酵素としては、例えば、パラコッカス・デニトリフィカンス由来のデカプレニル二リン酸合成酵素(特開平11−178590号公報参照)を使用することができる。この他にも、イソプレン単位が10である側鎖を作る酵素をコードする遺伝子としては、アグロバクテリウム(Agrobacterium sp.)のデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(特開2000-228987号公報)、アスペルギルス・クラバタス(Asprergillus clavatus)のデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(特開2002-191367号公報)、ブレオマイセス・アルバス(Bulleomyces albus)のデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(特開2002-345469号公報)、グルコノバクター・サブオキシダンス(Gliconobacter suboxydans)のddsA遺伝子(AB006850)、ヒト(Homo Sapiens)のTrans-prenyltransferase遺伝子(AF118395)、ロイコスポリディウム・スコティ(Leucosporidium scotii)のデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(特開2002-191367号公報)、ロドバクター・カプスラタス(Rhodobacter capsulatus)のデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(特開平11-056372号公報)、サイトエラ・コンプリカータ(Saitoella complicata)のデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(特開2001-061478号公報)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)のdps1遺伝子(D84311)を使用することができる。なお、括弧内の数字はGenBankへのアクセッション番号或いは関連する公報を示す。
これらイソプレン単位が10である側鎖を作る酵素を酵母内で機能的に発現させるためには、例えば、当該酵素のN末端にミトコンドリア移行シグナルを付加した融合タンパク質として発現させることが好ましい。すなわち、当該酵素をコードする遺伝子の上流にミトコンドリア移行シグナルをコードする配列を付加し、融合タンパク質をコードする遺伝子を構築する。そして、当該融合タンパク質をコードする遺伝子をユビキノン10産生酵母に導入することによって、イソプレン単位が10である側鎖を作る酵素を当該酵母内で機能的に発現させることができる。
ミトコンドリア移行シグナルとしては、例えば、特開平9−173076号公報に開示されている配列を使用することができる。また、ミトコンドリア移行シグナルとしては、これに限定されず、例えば、上述したCoq2遺伝子がコードするポリプレニルトランスフェラーゼにおけるN末端側35アミノ酸残基からなるポリペプチド(Coq2(N35))、サッカロマイセス・セルビシエのユビキノン生合成に関与するメチルトランスフェラーゼ遺伝子(Coq3遺伝子)によりコードされるメチルトランスフェラーゼにおけるN末端側36アミノ酸残基からなるポリペプチド(Coq3(N36))を使用することができる。
ユビキノン10生産能を本来的に有しない細胞系統としては、サッカロマイセス・セルビシエ以外に、例えば、細菌細胞、例えばバチルス属(bacillus属)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium属)、エシェリキア属(Escherichia属)、ヘリコバクター属(Helicobacter属)、ミクロコッカス属(Micrococcus属)、サルモネラ属(Salmonella属)、シネコシスティス属(Synechocystis属)を使用することができる。また、好熱性菌、例えばスルホロバス属(Sulfolobus属)を使用することができる。さらに、酵母細胞、例えばハンセヌラ属(Hansenula属)を使用することができる。さらに、線虫細胞、例えばセノラブディティス・エレガンス(Caenorhabitis elegans)を使用することができる。さらに、植物細胞、例えばタバコ(Tabacco)を使用することができる。さらに、動物細胞、例えばマウス(Mus)等を使用することができる。
一方、ユビキノン10生産能を本来的に備える細胞系統としては、ロドトルラ属(Rhodotorula属)、ロイコスポリディウム属(Leucosporidium属)、キャンディダ属(Candida属)、トルロプシス属(Torulopsis属)、クリプトコッカス属(Cryptococcus属)、ロドスポリディウム属(Rhodosporidium属)、シゾサッカスマイセス属(Shizosaccharomyces属)、ヤフリナ属(Japhrina属)、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces属)、ウスティラゴ属(Usitilago属)、ブレオマイセス属(Bulleromyces属)、スポリディオボラス属(Sporidiobolus属)、オオスポリディウム属(Oosporidium属)等の酵母細胞を使用することができる。また、アスペルギルス属(Aspergillus属)、サイトエラ属(Saitoella属)等の子嚢菌細胞を使用することができる。さらに、ロドバクター属(Rhodobacter属)、ロドミクロビウム属(Rhodomicrobium属)、ロドピラ属(Rhodopila属)、ロドスピリラム属(hodospirillum属)、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas属)等の光合成細菌細胞を使用することができる。さらに、グルコノバクター属(Gluconobacter属)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium属)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium属)、シュードモナス属(Pseudomonas属)等の細菌細胞を使用することができる。さらに、ヒト等の動物細胞を使用することができる。ユビキノン10生産能を本来的に備える細胞系統の場合には、当該細胞系統に含まれる細胞株を、ユビキノン10産生細胞としてそのまま使用することができる。
また、ユビキノン10以外のユビキノン6〜13を製造する場合には、本来的に、対象とするユビキノンを本来的に生産する細胞株を使用することもできるし、対象とするユビキノンを生産するように人工的に改変された細胞株を使用することもできる。
ユビキノンの製造
本発明に係るユビキノンの製造方法では、上記ユビキノン産生細胞内において、上述したポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子と、ユビキノンの生合成に関与する他の酵素をコードする遺伝子の発現量を増大させる。すなわち、本発明に係るユビキノンの製造方法では、上述したポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子と、ユビキノンの生合成に関与する他の酵素をコードする遺伝子の発現量を増大させたユビキノン産生細胞を培養し、培養物からユビキノンを回収する。
本方法において、ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子と、ユビキノンの生合成に関与する他の酵素をコードする遺伝子の発現量を増大させる方法とは、これらの遺伝子と当該遺伝子の恒常的発現を制御するプロモーターとを有するベクターを用いてユビキノン産生細胞を形質転換する方法を挙げることができる。これら両遺伝子は、それぞれ異なる発現ベクターに組み込まれ、これら発現ベクターを用いて形質転換を行っても良いし、同一の発現ベクターに組み込まれ、この発現ベクターを用いて形質転換を行っても良い。
また、ユビキノン産生細胞が本来的にポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子やユビキノンの生合成に関与する他の酵素遺伝子を有している場合には、これら遺伝子のプロモーター領域等を改変して、これら遺伝子を恒常的に発現させてもよい。
本発明に係るユビキノンの製造方法においては、ユビキノン産生細胞中に導入可能なものであれば特に限定されず、ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子やユビキノンの生合成に関与する他の酵素遺伝子を有する発現ベクターを使用することができる。各遺伝子を挿入するためのベクターとしては、ベクター自体に宿主中での複製能を持たず、ゲノムDNA挿入目的に用いられるDNA、例えば酵母ゲノム挿入用のpRS404やトランスポゾン配列を含むベクターなどが挙げられる。また、本発明に係るDNAを挿入するためのベクターとしては、宿主中で自律複製可能なベクター、例えばプラスミドベクター、シャトルベクター、ウイルスベクター(ファージベクター)などが挙げられる。
プラスミドベクターとしては、E. coli由来のプラスミド(例えばpET30bなどのpET系、pBR322及びpBR325などのpBR系、pUC118、pUC119、pUC18及びpUC19などのpUC系、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、pYES2などのYEp系、YCp50、pRS414などのYCp系等)などが挙げられる。またファージベクターとしては、λファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、カリフラワーモザイクウイルスなどの植物ウイルス、又はバキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
本発明において組換えベクターは、各遺伝子の他にさらに転写プロモーター、リボソーム結合配列及び転写ターミネーターにより構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。転写プロモーターとしては、例えば恒常発現型プロモーター又は誘導発現型プロモーターが挙げられる。ここで、恒常発現型プロモーターとは、主要代謝経路に関わる遺伝子の転写プロモーターを意味し、どの生育条件でも転写活性を有するプロモーターである。一方、誘導発現型プロモーターとは、特定の生育条件で転写活性があり、その他の生育条件では活性が抑えられるプロモーターを意味する。本発明に使用可能な転写プロモーターは、ユビキノン産生細胞中で活性を持つものであればいずれを用いてもよい。例えば、ユビキノン産生細胞が酵母である場合には、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、TDH3(GAP)プロモーター、ADH1プロモーター、TEF2プロモーター等を用いることができる。また、ユビキノン産生細胞がE. coliである場合には、trp、lac、trc、tacなどのプロモーターを用いることができる。
また、転写ターミネーターは、ユビキノン産生細胞中で活性を持つものであればいずれの遺伝子に由来する転写ターミネーターを用いてもよい。例えばユビキノン産生細胞が酵母である場合には、ADH1ターミネーター、CYC1ターミネーター等を用いることができる。また、ユビキノン産生細胞がE. coliである場合には、rrnBターミネーターを用いることができる。
さらに、本発明において組換えベクターは、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカーなどを含むことができる。なお、選択マーカーとしては、URA3、LEU2、TRP1、HIS3などの栄養非要求性の表現型を指標とするマーカー遺伝子や、Ampr、Tetr、Cmr、Kmr、AUR1-C等の抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
また、本発明において組換えベクターは、ユビキノン産生細胞がバクテリアである場合には、遺伝子発現のため、効率的翻訳のためのリボソーム結合部位として開始コドン上流にSD配列 (5'-AGGAGG-3'で代表される)を組み込むこともできる。
ベクターに遺伝子を挿入するには、当該遺伝子を含むDNA断片を適当な制限酵素で切断し、次いで適当なベクターDNAの制限酵素部位に挿入してベクターに連結する方法が用いられる。
ユビキノン産生細胞の培地及び培養条件としては、特に限定されず、ユビキノン産生細胞の基となる細胞系統及び栄養要求特性等を考慮して適宜設定することができる。また、ユビキノンの産生は、公知の手法によって確認することができる。例えば、Hagermanらの方法(Analytical Biochemistry 296、 141-143 (2001))等を適用してユビキノンの産生を確認することができる。
ユビキノン産生細胞を培養した後、培養物からユビキノンを回収することができる。ここで、培養物とは、培地及び培養されたユビキノン産生細胞を意味する。ユビキノンを回収する際には、主として培養されたユビキノン産生細胞を集菌し、集菌した細胞を粉砕して定法に従って回収することができる。
具体的に、ユビキノン回収法の一例として、ユビキノン10の回収方法は、培養液から、有機溶媒による抽出、各種クロマトグラフィー、結晶化等、通常の有機合成化学で用いられる採取方法、例えば、特開昭56-124390号公報、特開昭56-154994号公報、特開昭56-154995号公報、特開昭56-154996号公報、特開昭57-102192号公報、特開昭58-89193号公報、特開昭58-146285号公報、特開昭61-25490号公報、特開昭61-141891号公報、特開昭63-102691号公報に記載の方法を用いて、ユビキノン10を採取することができる。
即ち、培養後の菌液にメタノールもしくはエタノール、水酸化ナトリウムおよびピロガロールを添加し、60から90℃で1〜2時間還流過熱後、液相をn-ヘキサン、石油エーテル等の有機溶媒で抽出する。有機溶媒相を水洗し、脱水処理後濃縮する。濃縮物をシリカゲル、アルミナ等を用いる吸着クロマトグラフィーに供し、ベンゼンなどで展開する。ユビキノンを含む画分を濃縮凝固し、エタノール可溶部分を冷却放置すると黄色のユビキノンの粗結晶が得られる。更に再結晶を繰り返すとユビキノンの純粋な結晶が得られる。また、包接化合物による分離、分子蒸留を行うことも効果的である。
本発明に係るユビキノンの製造方法によれば、ユビキノン産生細胞におけるユビキノンの生産量が非常に高いため、優れた効率でユビキノンを製造することができる。すなわち、本発明に係るユビキノンの製造方法では、ユビキノン産生細胞をそのまま使用してユビキノンを生産した場合と比較して、ユビキノンの生産量を大幅に増加させることができる。
特に、本発明に係るユビキノンの製造方法においては、ポリプレニルトランスフェラーゼとともに活性を向上させる、ユビキノンの生合成に関与する他の酵素としては、2-ポリプレニル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンから2-ポリプレニル-3-メチル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンを合成する活性を有する酵素(メチルトランスフェラーゼ)及び2-ポリプレニル-3-メチル-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンから2-ポリプレニル-3-メチル-5-ヒドロキシ-6-メトキシ-1,4-ベンゾキノンを合成する活性を有する酵素(モノオキシゲナーゼ)であることが好ましい。このメチルトランスフェラーゼはサッカロマイセス・セルビシエにおいてCoq5遺伝子によってコードされ、このモノオキシゲナーゼはサッカロマイセス・セルビシエにおいてCoq7遺伝子によってコードされる。また、サッカロマイセス・セルビシエ由来のCoq8遺伝子によりコードされる酵素活性を、ポリプレニルトランスフェラーゼ活性とともに向上させることも好ましい。
さらに、本発明に係るユビキノンの製造方法では、ポリプレニルトランスフェラーゼと、ユビキノンの生合成に関与する他の酵素との活性を向上させることに加え、HMG-CoA(3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A)還元酵素の活性を向上させることがより好ましい。すなわち、本発明に係るユビキノンの製造方法では、ポリプレニルトランスフェラーゼと、ユビキノンの生合成に関与する他の酵素と、HMG-CoA還元酵素との活性を向上させたユビキノン産生細胞から、より優れた生産性でユビキノン産生を製造することができる。
ここで、HMG-CoA還元酵素とは、メバロン酸を合成するコレステロール合成における律速酵素である。HMG-CoA還元酵素としては、サッカロマイセス・セルビシエ由来のHMG1遺伝子を挙げることができる。サッカロマイセス・セルビシエ由来のHMG1遺伝子は、Saccharomyces cerevisiae genome database(SGD:http://www.yeastgenome.org/index.html)に登録されている。当該データベースからHMG1遺伝子の塩基配列情報及び、これら遺伝子によりコードされる酵素のアミノ酸配列情報を取得することができる。HMG1遺伝子の塩基配列及びHMG1遺伝子がコードするHMG1のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号15及び16に示す。
なお、本発明に係るユビキノンの製造方法では、サッカロマイセス・セルビシエ由来のHMG1遺伝子にコードされる酵素に限定されず、各種細胞由来のHMG1遺伝子に相当する遺伝子を使用することができる。例えば、各種細胞由来のHMG1遺伝子に相当する遺伝子の塩基配列は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)データベース、EMBL(European Molecular Biology Laboratory)-EBI(European Bioinformatics Institute)データベース、DDBJ(DNA Data Bank of Japan)データベース等から表5に示すアクセッション番号(Accession No)をキーとして検索し、取得することができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例で使用したベクターは以下の通りである。
・pRS433GAP(特開2002-199883号公報に記載):Staratagene社より購入したpRS403を由来とし、転写プロモーターとしてTDH3p、転写ターミネーターとしてCYC1t、複製開始点として2μ originを挿入したものである。また、マーカー遺伝子として、HIS3を持つ。
・pRS434GAP(特開2002-199883号公報に記載):Staratagene社より購入したpRS403を由来とし、転写プロモーターとしてTDH3p、転写ターミネーターとしてCYC1t、複製開始点として2μ originを挿入したものである。また、マーカー遺伝子として、LEU2を持つ。
・pT7 Blue T-vector:Novagen社より購入したT/Aクローニング用ベクター
・pBlueScript SK+ II:Stratagene社より購入したクローニングベクター
各培地は製造元が指定する組成となるように調製した。出芽酵母Saccharomyces cerevisiae はYM培地あるいはYPD培地(共にDifco社より購入)で通常に維持される。栄養非要求性マーカー遺伝子(URA3、HIS3、TRP1)を指標とした形質転換体の選抜の際には、ウラシル、ヒスチジン、トリプトファンを欠如させた完全合成培地であるSD-Ura、SD-Ura His(DOB + CSM-Ura His、BIO101社より購入)、SD-Ura His Trp(DOB + CSM-Ura His Trp、BIO101社より購入)を使用した。大腸菌は、LB-lennox培地(Difco社より購入)で通常に維持され、必要に応じて50μg/mlの最終濃度となるようにアンピシリンを添加し、形質転換体を選抜した。寒天培地を調製するときは、2%の寒天を添加した。
また、本実施例においてS. cerevisiaeからのゲノムDNAの単離は、宝酒造から購入したDNA調製キット「Genとるくん」を用い、製造元が提供する方法に従っておこなった。本実施例において形質転換した大腸菌からのプラスミドDNAの調製は、QIAGEN plasmid miniprep kit(QIAGEN社より購入)を用い、製造元が提供する方法に従っておこなった。本実施例において、アガロースゲルからのDNA断片の単離と精製はMini Elute Gel Extraction Kit(QIAGEN社より購入)を用い、製造元が提供する方法に従っておこなった。
本実施例において、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、宝酒造より購入したPCR Thermalcycler MPでおこなった。各々のPCRの条件は実施例に記載した。PCRプライマーは市販の供給業者(QIAGEN社)より購入した。大腸菌のコロニーPCRに関しては、ポリメラーゼとしてrTaq polymerase(宝酒造より購入)、プライマーとして20pmol T7プライマー/20pmol T3プライマーならびに、楊枝でコロニーの一部を回収したものを鋳型として、94℃で1分、58℃で1分、72℃で2分を25サイクル反応させた。なお、プライマーの配列は実施例に記入した。酵母のコロニーPCRは、細胞壁が存在する為に単なる熱処理では細胞が壊れにくいため、細胞そのものを鋳型として用いるとPCRの増幅効率が非常に悪くなる。そこで、コロニーの一部を10μlの20mMの水酸化ナトリウム溶液に懸濁し、100℃で10分間熱処理したものを40μl Tris-EDTA bufferで希釈したものの上清を鋳型として用いた。ポリメラーゼとしてEx Taq polymerase(宝酒造より購入)を用い、96℃で5分の熱変性の後、96℃で1分、60℃で1分、72℃で3分の30サイクル反応させた。なお、使用したプライマーの配列は実施例に記入した。
本実施例において、DNA塩基配列決定は8μlのBigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社より購入)に3.2pmolのプライマーおよび鋳型となるDNAを加え、滅菌水で全量を20μlとした反応液を用い、96℃で反応させ、QIAGEN社より購入したDye Exを用いて、製造元の提供する方法により、未反応のDyeを除去した。これに15μlのHi-Di formamido(Applied Biosystems社より購入)に再溶解させ、100℃で熱変性させた後、自動蛍光DNAシーケンサーABI PRISM(R) 3100 Genetic Analyzerおよび、Sequence Analysisソフトウェア(共にApplied Biosystems社より購入)を用いて解析おこなった。使用したプライマーの配列は実施例に記入した。
〔実施例1〕 pRS433GAPベクターの作製
実施例1では、ユビキノン10産生酵母を作出するための発現ベクター(pRS433GAP)を調製した。
(1) 大腸菌−酵母(サッカロマイセス・セレビジエ)・シャトルベクター
ストラタジーン社よりプラスミドpRS403を購入した。インビトロジェン社からプラスミドpYES2を購入した。
(2) 染色体DNA
酵母の染色体DNAは、「Genとるくん」(宝酒造社製)を購入し、添付のプロトコルに従って酵母YPH499(ストラタジーン社から入手)から調製した。大腸菌からのプラスミドDNAは、Wizard PureFection Plasmid DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて調製した。
(3) pRSベクターへCYC1t断片の挿入
CYC1転写ターミネーター(CYC1t)断片はPCRで調製した。pYES2を鋳型とし、XhoI−Tcyc1FW:5’-TGCATCTCGAGGGCCGCATCATGTAATTAG-3’(配列番号17)とApaI−Tcyc1RV:5’-CATTAGGGCCCGGCCGCAAATTAAAGCCTTCG-3’(配列番号18)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはPfu DNAポリメラーゼ(プロメガ社製)を用い、反応液にはPerfect Matchポリメラーゼエンハンサー(ストラタジーン社製)を加えた。PCR条件は95℃で2分の変性反応後、95℃で45秒、60℃で30秒、72℃で1分のサイクルを30回実施し、CYC1t断片の増幅を行った。増幅した遺伝子断片は制限酵素XhoIおよびApaI(宝酒造社製)で切断後、pRS403ベクターのXhoI-ApaI部位にクローニングした。このようにしてpRS403Tcycベクターを作製した。
(4) 転写プロモーターの調製
PCRにより転写プロモーターを含むDNA断片を調製した。酵母染色体DNAを鋳型とし、SacI−Ptdh3FW:5’-CACGGAGCTCCAGTTCGAGTTTATCATTATCAA-3’(配列番号19)とSacII−Ptdh3RV:5’-CTCTCCGCGGTTTGTTTGTTTATGTGTGTTTATTC-3’(配列番号20)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはExTaq DNAポリメラーゼ(宝酒造社製)を用い、反応液にはPerfect Matchポリメラーゼエンハンサー(ストラタジーン社製)を加えた。PCR条件は95℃で2分の変性反応後、95℃で45秒、60℃で1分、72℃で2分のサイクルを30回実施し、増幅を行った。増幅した遺伝子断片を制限酵素SacIおよびSacII(宝酒造社製)で切断後、アガロースゲル電気泳動でDNA断片を精製しTDH3pとした。
(5) 2μ DNA複製開始領域の調製
pYES2をSspIとNheI(宝酒造社製)で切断後、2μ DNA複製開始点(2μ ori)を含む1.5kbp断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、Klenow酵素で平滑末端化し、このDNA断片を2μOriSNとした。
(6) pRS433GAPベクターの作製
pRS403TcycをBAP(bacterial alkaline phosphatase:宝酒造社製)処理したNaeI部位に2μOriSNを挿入し、大腸菌SURE2に形質転換した後、プラスミドDNAを調製した。これを、DraIII及びEcoRI、HpaI又は、PstI及びPvuIIにより切断後、アガロースゲル電気泳動し、2μ Oriの挿入とその向きをチェックした。作製したpRS403TcycにpYES2と同じ向きで2μ Oriが挿入されたプラスミドをpRS433Tcyc2μ Oriとした。
pRS433Tcyc2μ OriのSacI-SacII部位に、転写プロモーターを含む断片TDH3p(GAPp)を挿入しDNAをクローン化した。その結果pRS433GAPが得られた。作製したpRS433GAPを図1に示す。
〔実施例2〕 ユビキノン10産生酵母の作製
実施例2では、実施例1で調製した発現ベクターを用いてユビキノン10産生酵母を作成した。
(1) ヘキサプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(YBR003W)破壊用遺伝子断片の作製
まず、酵母の持つヘキサプレニル二リン酸合成酵素遺伝子Coq1(YBR003W)を破壊することを目的とした。酵母YPH499(ストラタジーン社より入手)をYPD培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から染色体DNAを単離した。単離には「Genとるくん」(宝酒造社製)を使用した。
このようにして単離した染色体DNAを鋳型とし、YBR003W/F:5’-CGGGATCCATGTTTCAAAGGTCTGGCGCTG-3’(配列番号21)とYBR003W/R:5’-GCGTCGACTTCAAGGTTTACTTTCTTCTTGTTAGTAT-3’(配列番号22)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plus(東洋紡社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP(宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃で2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で50秒のサイクルを25回実施し、YBR003Wの増幅を行った。増幅した遺伝子断片は0.8%アガロースゲル電気泳動に供した後、GENECLEAN IIキット(Q-BIOGENE社製)を用いてゲルから精製し、pT7Blue-2 T-ベクター(ノバジェン社製)にクローニングした。
得られたYBR003W/pT7Blue-2を制限酵素SpeIおよびEcoRV(宝酒造社製)によって切断し、この間に、両端にXbaIおよびSmaIサイトを有するURA3遺伝子を挿入した。このようにしてybr003WΔURA3/pT7Blue-2を作製した(図2)。
次に、ybr003WΔURA3/pT7Blue-2を鋳型とし、YBR003W/F:5’-CGGGATCCATGTTTCAAAGGTCTGGCGCTG-3’(配列番号23)とYBR003W/R:5’-GCGTCGACTTCAAGGTTTACTTTCTTCTTGTTAGTAT-3’(配列番号24)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plusを用いた。PCR条件は94℃で2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で2分のサイクルを25回実施しybr003WΔURA3断片の増幅を行った。このようにしてYBR003W破壊用遺伝子断片を作製した。
(2) YBR003W欠損酵母の作製
YBR003W遺伝子の破壊は1ステップ遺伝子破壊法(大嶋泰治ら、蛋白質核酸酵素、Vol.35、No.14、2523-2541(1990))によって行った。まず、酵母YPH499(ストラタジーン社より入手)をYPD培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体からFrozen-EZ Yeast Transformation IIキット(ザイモリサーチ社製)を用いてコンピテントセルを作製した。作製したコンピテントセル10μLに(1)で作製したYBR003W破壊用遺伝子断片ybr003WΔURA3 1μgを加えた後、キット付属の手順書に従い調製した菌液をSDA(-URA)培地に塗布した。菌液を塗布したSDA(-URA)培地は菌がコロニーを形成するまで4日間30℃で静置培養した。このようにしてYBR003W欠損株:Y03Wd株を作製した。
Y03Wd株は、YPDA培地では生育可能であるが、YPGA培地では生育できない呼吸欠損の表現型を示した。
(3) デカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(DPS)のサブクローニング
パラコッカス・デニトリフィカンス IFO14907株(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター生物遺伝資源センターより入手)を702培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から染色体DNAを単離した。単離にはDNeasyキット(キアゲン社製)を使用した。
このようにして単離した染色体DNAを鋳型とし、DPS/F:5’-CGGGATCCATGGGCATGAACGAAAACG-3’(配列番号25)とDPS/R:5’-GCGTCGACTCAGGACAGGCGCGAG-3’(配列番号26)をプライマーとしてPCRを行った。PCR反応液にはAdvantage-GC2 PCR Kit (BDバイオサイエンス社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP (宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃で3分の変性反応後、94℃で30秒、68℃で1分のサイクルを30回実施し、デカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(DPS)(特開平11−178590号公報参照)の増幅を行った。PCR産物を0.8%アガロースゲル電気泳動に供した後、増幅したDPS遺伝子断片をGENECLEAN IIキット(Q-BIOGENE社製)を用いてゲルから精製した。精製したDPS遺伝子はpT7Blue-2 T-ベクターにクローニングし、DPS/pT7Blue-2を構築した。
次にDPS/pT7Blue-2を制限酵素BamHIおよびSalI(宝酒造社製)によって切断した後、0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、両端にBamHIおよびSalIサイトを有するDPS遺伝子断片を分離し、当該断片をGENECLEAN IIキット(Q-BIOGENE社製)を用いてゲルから精製した。精製した当該断片を発現ベクターpRS433GAP(実施例1に記載)のBamHI-SalIサイトに挿入し、DPS/pRS433GAPベクターを作製した。
(4) ミトコンドリア移行シグナルをコードする遺伝子のサブクローニング
酵母YPH499(ストラタジーン社製)をYPD培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から染色体DNAを単離した。単離には「Genとるくん」(宝酒造社製)を使用した。
このようにして単離した染色体DNAを鋳型とし、Coq2/F:GGACTAGTATGTTTATTTGGCAGAGAAAGAGTATTTTAC-3‘(配列番号27)とCoq2/R105:5’-CGGGATCCCGTATATCTCTTTCTGCTGCTTC-3‘(配列番号28)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plus(東洋紡社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP(宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃で2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で20秒のサイクルを25回実施し、Coq2のミトコンドリア移行シグナルをコードする遺伝子断片Coq2(N35)の増幅を行った。増幅した遺伝子断片は2%アガロースゲル電気泳動に供した後、GENECLEAN IIキット(Q-BIOGENE社製)を用いてゲルから精製し、pT7Blue-2 T-ベクター(ノバジェン社製)にクローニングし、Coq2(N35)/pT7Blue-2を構築した。
(5) DPS発現ベクターの作製
(4)で作製したCoq2(N35)/pT7Blue-2ベクターを制限酵素SpeIおよびBamHI(宝酒造社製)によって切断した後、2%アガロースゲル電気泳動を行い、両端にSpeIおよびBamHIサイトを有するCoq2(N35)遺伝子断片を分離し、当該断片をGENECLEAN IIキット(Q-BIOGENE社製)を用いてゲルから精製した。精製した当該断片をDPS/pRS433GAPベクターのSpeI-BamHIサイトに挿入し、Coq2(N35)-DPS/pRS433GAPベクターを作製した。
(6) ユビキノン10生産酵母の作製
(2)で作製したY03Wd株をSD(-URA)培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から、Frozen-EZ Yeast Transformation IIキット(ザイモリサーチ社製)を用いてコンピテントセルを作製した。作製したコンピテントセル10μLにCoq2(N35)-DPS/pRS433ベクターを1μg加え、SDA(-HIS、-URA)培地に塗布した。菌液を塗布したSDA(−HIS、−URA)培地は菌がコロニーを形成するまで4日間30℃で静置培養した。このようにしてユビキノン10生産酵母(Y2N14907株と称する)を作製した。
ベクターを導入する前のY03Wd株がYPGA培地で生育できない呼吸欠損の表現系を示したのに対し、Y2N14907株はYPGA培地で生育可能な、呼吸機能の回復した表現型を示した。
以上のようにして、ヘキサプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(Coq1遺伝子)座の一部をオロチジン-5-リン酸でカルボキシラーゼ遺伝子(URA3遺伝子)に置換することによりCoq1遺伝子を欠失させ、パラコッカス・デニトリフィカンス由来のデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子を導入することで、ユビキノン10を産生することができる出芽酵母YPH499株由来の細胞株(Y2N14907株)を樹立することができた。
〔実施例3〕
実施例3では、S.cerevisiae YPH499株のゲノムDNAからCoq2〜Coq8遺伝子を単離して、これらCoq2〜Coq8遺伝子の発現ベクターを構築した。具体的には、Coq2〜Coq8遺伝子につき下記表6のプライマーを合成し、95℃で15秒、55℃で30秒、68℃で1分30秒を25サイクルからなるPCR反応をおこなった。
各PCR後、アガロースゲル電気泳動により目的の位置(COQ2/1.1kbp、COQ3/0.95kbp、COQ4/1.0kbp、COQ5/0.92kbp、COQ6/1.4kbp、COQ7/0.82kbp、COQ8/1.5kbp)に断片が確認された。目的の長さの各DNA断片を、製造元が提供する方法に従ってMini Elute Gel Purification Kit(QIAGEN社より購入)を用いて精製した。それら精製DNA断片をT/Aクローニング可能なpT7Blue2 T ベクター(Novagen社より購入)にLigation-Convenience Kit(Nippon gene社より購入)と混和し、16℃で5分間反応させた後、宝酒造より購入した大腸菌JM109コンピテントセルへ導入した。次に、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地でユビキノン生合成経路関連遺伝子が挿入されたプラスミドを保持する形質転換体を集積培養し、プラスミドDNAを調製した。得られた各プラスミドをCOQ2/pT7Blue2、COQ3/pT7Blue2、COQ4/pT7Blue2、COQ5/pT7Blue2、COQ6/pT7Blue2、COQ7/pT7Blue2、COQ8/pT7Blue2とした。
次に、得られた各プラスミドを宝酒造より購入した制限酵素SacII/XhoIで処理し、ユビキノン生合成経路関連遺伝子を含むDNA断片をアガロースゲル電気泳動により精製した後、恒常発現型転写プロモーターGAP(=TDH3p)をもつpRS434GAP(特開2002−199883号公報参照)のSacII/XhoI部位にLigation-Convenience Kit(Nippon gene社より購入)を用いて反応後、宝酒造より購入したJM109コンピテントセルへ導入した。次に、50μg/mlのアンピシリンを含むLB培地上で37℃で生育させた。形質転換体より任意に数個コロニーを選び、プライマーT7 primer(5’-CTAATACgACTCACTATAgg-3’(センスプライマー:配列番号43))およびT3 Primer(5’-AATTAACCCTCACTAAAggg-3’アンチセンスプライマー:配列番号44)を用いてコロニーPCRをおこなった。ユビキノン生合成経路関連遺伝子が挿入されたプラスミドを保持することが確認された形質転換体を集積培養し、プラスミドDNAを調製した。作製した各プラスミドを(A) pRS434GAP-COQ2、(B) pRS434GAP-COQ3、(C) pRS434GAP-COQ4、(D) pRS434GAP-COQ5、(E) pRS434GAP-COQ6、(F) pRS434GAP-COQ7、(G) pRS434GAP-COQ8とした(図1)。
〔実施例4〕
実施例4では、ユビキノン10産生酵母Y2N14907株を実施例3で作製したプラスミドで形質転換し、ユビキノン10の生産能を検討した。
ここで、実施例1で調製したユビキノン10産生酵母Y2N14907株には、栄養非要求性マーカー遺伝子であるURA3とHIS3が含まれているのでウラシルおよびヒスチジンの欠如した培地で生育させることができる。さらに、計画どおり上記プラスミドが導入されると、プラスミド上にある栄養非要求性マーカー遺伝子であるTRP1が導入され、トリプトファンの欠如した培地で生育させることができる。そこで、Y2N14907株の表現型を持ち、プラスミドが導入された株を選抜するために、ウラシル、トリプトファン及びヒスチジンの欠如した合成培地であるSD-UHW寒天培地(DOB+CSM(-Ura,His,Trp)、BIO101社より購入)上、30℃で培養し、生育してくるコロニーを調べた。具体的には、プライマーとして上記表6に示されるCOQ増幅用プライマー(配列番号27〜40)を用いた酵母コロニーPCRにより、計画どおりユビキノン生合成関連遺伝子が導入されたことを確認した。プラスミドの導入が確認された各組換え体を、それぞれCOQ2/Y2N14907、COQ3/Y2N14907、COQ4/Y2N14907、COQ5/Y2N14907、COQ6/Y2N14907、COQ7/Y2N14907、COQ8/Y2N14907とした。
次に、これら形質転換酵母について、任意に選択した3個のクローンを、マーカー遺伝子URA3、HIS3、TRP3に応じたSD選択培地であるSD-UHW液体培地(DOB+CSM(-URA, HIS, TRP)、BIO101社製)に接種し、30℃で2日間、前培養を行った。その後、前培養液1mlを100ml/300ml flaskのSG-UHW(SD-UHW培地のグルコース成分をカラクトースに置き換えたもの)、1mM p-ヒドロキシ安息香酸を含有する液体培地に接種し、30℃で4日間、130r.p.mの回転振盪培養で培養した。培養後、3,500r.p.m、5分間の遠心により分離した菌体画分を回収し、湿重量を測定した。回収した菌体画分にGlass beads(SIGMA社より購入)、滅菌水を下記計算式に従って添加した。
Glassbeads(g)=(菌体の湿重量)x10
滅菌水(ml)=1.5−0.875 x(菌体の湿重量)
さらに、内部標準として70μlの100μM ユビキノン9(SIGMA社より購入)を添加した。これを、ボルテックスミキサーを用いて2分間激しく攪拌することにより菌体を破砕した。この懸濁液にメタノールを6ml加えて混合後、ペンタンを4ml加えて30秒間激しく攪拌し、2000r.p.mで10分間遠心した。有機層(上層)を新しいガラス試験管にとり、残った水層(下層)にペンタンを4ml加え、再抽出した。回収した有機層をドラフト内でペンタンを気化させ溶質成分を濃縮後、500μLのメタノール/エタノール(9:1)溶液に再溶解させたものの一部を高速液体クロマトグラフィ−(High Performance Liqid Chromatography:HPLC)を用いて解析した。信頼標準として用いたユビキノン10(SIGMA社より購入)の溶出位置により抽出物中のユビキノン10を同定した。また、内部標準としてユビキノン9(SIGMA社より購入)濃度および算出した抽出効率を参照して、ユビキノン10の生産量を測定した。HPLCはHEWLETT PACKARDから購入したSERIES 1100を用いた。カラムは野村科学より購入したODS-UG-3 4.6x150を用いた。分析条件は以下の通りである。
Injection volume:10μl
Flow:0.5ml / min
Run time:30min
Solvent:100% EtOH
Column temparature:25℃
Lamp:UV
内部標準:ユビキノン9
信頼標準:ユビキノン10、ユビキノン9
ユビキノン10生産性について解析した結果を図2に示す。本結果では、ユビキノン10の抽出効率が実験区ごとに異なることが分かっているため、絶対量ではなくユビキノン生合成経路関連遺伝子未導入株であるY2N14907に対する相対量によって評価した。図2に示すように、ユビキノン生合成経路関連遺伝子の活性を単独で強化したものでは、ユビキノン10の生産性が顕著に向上するものは確認することができなかった。
そこで、複数のユビキノン生合成経路関連遺伝子の活性を強化した形質転換酵母におけるユビキノン10の生産性を検討した。まず、ユビキノン生合成経路関連遺伝子を複数導入した発現ベクターを以下のように作製した。
恒常発現型転写プロモーターGAP(=TDH3p)をもつE.coli-S.cerevisiae YEp型シャトルベクターであるpRS433GAP(特開2002−199883号公報参照)からプロモーターTDH3p、マルチクローニングサイトおよびターミネーターCYC1pを含む断片をPCRにより取得した。PCRは、DNAポリメラーゼとしてKOD Plus(東洋紡より購入)、プライマーとしてGAP/SpeI-SacI(5’- GGACTAGTGAGCTCCAGTTCGAGTTTATC-3’(センスプライマー:配列番号45))及びCYC/ApaI-BlnI(5’- TTGGGCCCTTCCTAGGCCGCAAATTAAAGCCTTCG-3’(アンチセンスプライマー:配列番号46))、鋳型としてpRS433GAPを用い、94℃で15秒、58℃で30秒、72℃で2分を25サイクルおこなった。
PCR反応産物をアガロースゲル電気泳動した後、目的の大きさ(1.1kbp)のDNA断片をMini Elute Gel Extraction Kit(QIAGEN社より購入)精製後、pT7 Blue T-vector(Novagen社)へLigation-Convenience Kit(Nippon gene社より購入)を用いてT/Aライゲーションにより挿入した。50μg/mlアンピシリンを含むLB培地上で形質転換体を選抜した後、コロニーPCRにて目的の配列を含むプラスミドを保持していることが確認された大腸菌からプラスミドを精製した。作製したプラスミドをPT/pT7 Blueとした。
次に、COQ2/pT7Blue2を宝酒造より購入した制限酵素SacII/XhoIで処理し、得られた各ユビキノン生合成経路関連遺伝子を含むDNA断片をPT/pT7 BlueのSacII/XhoI部位にLigation-Convenience Kit(Nippon gene社より購入)を用いて挿入した。得られたプラスミドをCOQ2 P/T /pT7Blueとした。これを宝酒造より購入した制限酵素SacI/ApaIで処理し、pBluscript SK+ II(Stratagene社より購入)のSacI/ApaI部位にLigation-Convenience Kit(Nippon gene社より購入)を用いて挿入した。得られたプラスミドをCOQ2 P/T /pBSKとした。
次に、プラスミドCOQ2 P/T /pBSKを宝酒造より購入した制限酵素SacI/KpnIで処理し、得られたプロモーター/ターミネーターおよび、ユビキノン生合成遺伝子(COQ2)を含むDNA断片をpRS434GAPのSacI/KpnI部位に挿入した。得られたプラスミドのBlnI/ApaI部位に、実施例3で作製したプラスミドをSpeI/ApaIで処理し得られたCOQ3〜8遺伝子および転写プロモーター TDH3p、転写ターミネーターCYC1tを含むDNA断片を順次挿入した。このようにして得られたプラスミドをそれぞれ、(A) pRS434GAP-COQ2,3(図3A)、(B) pRS434GAP-COQ2,4(図3B)、(C) pRS434GAP-COQ2,5(図3C)、(D) pRS434GAP-COQ2,6(図3D)、(E) pRS434GAP-COQ2,7(図3E)、(F) pRS434GAP-COQ2,8(図3F)、(G) pRS434GAP-COQ2,5,7(図3G)、(H) pRS434GAP-COQ2,5,8(図3H)、(I) pRS434GAP-COQ2,5,7,8、とした(図3I)。
次に、Frozen Yeast Transformation Kit II(Zymo research社より購入)を用い、製造元が提供する方法に従って、得られたプラスミドをY2N14907株に導入した。これらを、SD-HUW寒天培地上で30℃で培養し、目的の表現型を示す形質転換体を選抜した。次に、酵母コロニーPCRにより目的遺伝子を含むプラスミドが導入されていることが確認された組換え体をCOQ2,3/Y2N14907、COQ2,4/Y2N14907、COQ2,5/Y2N14907、COQ2,6/Y2N14907、COQ2,7/Y2N14907、COQ2,8/Y2N14907、COQ2,5,7/Y2N14907、COQ2,5,8/Y2N14907 、COQ2,5,7,8/Y2N14907とした。
得られた組換え体について、任意に3つのコロニーを選択した。選択したコロニーをマーカー遺伝子URA3、HIS3、TRP1に応じた合成培地であるSD-UHW液体培地(DOB+CSM(-URA、HIS、TRP)、BIO101社より購入)に接種し、30℃で2日間振盪培養した。その後、前培養液1mlを、100ml / 300ml flaskのSG-UHW培地、1mM p-ヒドロキシ安息香酸を含む培地に加え、30℃で4日間130r.p.mの回転振盪培養で培養した。培養後、上述した方法と同様な条件で、培養液のペンタン抽出画分をHPLC解析し、ユビキノン10生産量の測定をした。
結果を図4に示す。ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子(COQ2)と共に、他のユビキノン生合成遺伝子(COQ3〜8)を複数導入した酵母では、ユビキノン10の生産性向上が確認された。特に、COQ2遺伝子と共にCOQ5遺伝子、COQ7遺伝子あるいはCOQ8遺伝子を導入した酵母において高い生産性を示していた。
〔実施例5〕
実施例5では、E.coli-S.cerevisiae YEp型シャトルベクターであるpRS434GAP(特開2002-199883号公報)に挿入されているHMG-CoA還元酵素遺伝子(HMG1遺伝子)をpRS435GAP(特開2002-199883号公報)に挿入した。
具体的には、まず、HMG-CoA還元酵素遺伝子を含むpRS434GAPを宝酒造より購入したSmaIとSalIで処理した後、アガロースゲル電気泳動で確認された3.2kbpのHMG-CoA還元酵素遺伝子を含むDNA断片をMini Elute Gel Extraction Kit(QIAGEN社より購入)を用いて精製した。これをLigation Kit Ver2(宝酒造社より購入)を用い、製造元の提供する方法に従って、pRS435GAP発現ベクターのSmaI-SalI部位へのライゲーション反応をおこなった後、E. coli JM109コンピテントセル(宝酒造社より購入)に導入した。これを50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地上で37℃で生育させた。得られたアンピシリン耐性の表現型を持つ形質転換体より、数個のコロニーを選択してコロニーPCRを実施した。コロニーPCRでは、宝酒造より購入したrTaqポリメラーゼ、T7 primerおよびT3 primerならびに鋳型として形質転換体コロニーの一部を用い、94℃で1分、58℃で1分、72℃で2分を25サイクルで反応した。その後、アガロースゲル電気泳動によりHMG-CoA還元酵素遺伝子を含む3.4 kbpのDNA断片を確認できたものより5検体を選抜した。
次に、これらクローンを50μg/mlのアンピシリンを含む5ml LB液体培地に接種し、37℃で1晩振盪培養した。次に、製造元の提供する方法に従い、QIAGEN Prasmid miniprep kit(QIAGEN社より購入)を用いて、培養した菌体からプラスミドを抽出した。次に、これらプラスミドに挿入されているHMG-CoA還元酵素遺伝子を含む領域の塩基配列を決定した。BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems社より購入)、下記表7に示す13種類のプライマーPtdh-1、SeHMG1-F1、SeHMG1-F2、SeHMG1-F3、SeHMG1-F4、SeHMG1-F5、SeHMG1-F6、SeHMG1-R1、SeHMG1-R2、SeHMG1-R3、SeHMG1-R4、SeHMG1-R5、SeHMG1-R6ならびに鋳型として精製したプラスミドを用い、96℃で2分の変性反応の後、96℃で1分、60℃で1分、72℃で3分を30サイクルおこない、72℃で10分反応させたものをABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社より購入)を用いて解析した。操作方法などは、製造元より提供された方法に従った。
その結果、本配列によりコードされるアミノ酸配列は野生型HMG1によりコードされるアミノ酸配列と一致しており、サイレント変異のみが残った遺伝子であった。このHMG-CoA還元酵素遺伝子の塩基配列はSaccharomyces cerevisiae genome database(http://www.yeastgenome.org/)に登録されている配列(YML075C)とは一部異なるが、野生型酵素と同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするので遺伝子名をHMG1とし、以下、本実施例では野生型遺伝子HMG1と区別せずに使用した。作製できたプラスミドは、pRS435GAP-HMG1とした。(図5)
得られたプラスミドpRS435GAP-HMG1を、Frozen EZ yeast transformation kit II(Zymo Research社より購入)を用いて製造元より提供された方法に従い、ユビキノン10生産酵母Saccharomyces cerevisiae Y2N14907(実施例1参照)に導入した。
ユビキノン10生産量を測定した結果を図6に示す。本結果では、ユビキノンの抽出効率が実験区ごとに異なることが分かっているため、絶対量ではなくHMG-CoA還元酵素遺伝子を含まないY2N14907に対する相対量を用いて評価した。この結果により、HMG-CoA還元酵素遺伝子を外来遺伝子として導入した株HMG1/Y2N14907では、ユビキノン10の生産性がY2N14907に対して1.7倍向上した。このことから、イソプレノイド側鎖生合成経路を強化することが、ユビキノン10生産に有効であることが分かった。
次に、実施例4で作製したプラスミドを導入した形質転換酵母に、更にpRS435GAP-HMG1を用いて形質転換し、ユビキノン10の生産性を確認した。すなわち、実施例4で作製したプラスミド(A) pRS434GAP-COQ2,3、(B) pRS434GAP-COQ2,4、(C) pRS434GAP-COQ2,5、(D) pRS434GAP-COQ2,6、(E) pRS434GAP-COQ2,7、(F) pRS434GAP-COQ2,8、(G) pRS434GAP-COQ2,5,7、(H) pRS434GAP-COQ2,5,8、(I) pRS434GAP-COQ2,5,7,8を、Frozen Yeast Transformation Kit II(Zymo research社より購入)を用いて、製造元の提供する方法に従い、Y2N14907に導入した。pRS434GAPには栄養非要求性遺伝子マーカーであるTRP1を含む。よって、ウラシル、ヒスチジン、トリプトファンを欠如した培地で生育させることで、Y2N14907株に該プラスミドが導入された目的の形質転換体を効率よく選抜することが可能となる。そこで、マーカー遺伝子URA3、HIS3、TRP1に応じたSD-UHW寒天培地(DOB+CSM(-URA、HIS、TRP), BIO101社より購入)上で、30℃で生育させた。生育したコロニーの一部を選抜し、酵母コロニーPCRにより計画どおり遺伝子が導入された組換え体酵母をSD-HUW液体培地に接種し、30℃で1晩培養し、Frozen Yeast Transformation Kit II(Zymo research社)を用い、製造元が提供する方法に従って、コンピテント細胞を作製した。
次に、作製したコンピテント細胞にpRS435GAP-HMG1を、Frozen Yeast Transformation Kit II(Zymo research社より購入)を用いて導入した。pRS435GAPには栄養非要求性マーカーであるLEU2を含むため、マーカー遺伝子URA3、HIS3、TRP1、LEU2に応じたSD-UHWL寒天培地(DOB+CSM(-URA、HIS、TRP、Leu), BIO101社より購入)で目的とする形質転換体を選抜した。コロニーPCRにより、HMG1遺伝子が新たに導入されたことが確認された組換え株を(A) COQ2,COQ3,HMG1/Y2N14907、(B) COQ2,COQ4,HMG1/Y2N14907、(C) COQ2,COQ5,HMG1/Y2N14907、(D) COQ2,COQ6,HMG1/Y2N14907、(E) COQ2,COQ7,HMG1/Y2N14907、(F) COQ2,COQ8,HMG1/Y2N14907、(G) COQ2,COQ5,COQ7,HMG1/Y2N14907、(H) COQ2,COQ5,COQ8,HMG1/Y2N14907、(I) COQ2,COQ5,COQ7,COQ8,HMG1/Y2N14907とした。
次に、作製した各組換え株から任意に3個のコロニーを選び、マーカー遺伝子URA3、HIS3、TRP1、LEU2に応じたSD-UHWL液体培地(DOB+CSM(-Ura、His、Trp、Leu), BIO101社より購入)に接種し、30℃で2日間 振盪培養した。その後、前培養液1mlを100ml / 300ml flaskのSG-UHWL(SD-UHWL培地のグルコース成分をカラクトースに置き換えたもの。)、1mM p-ヒドロキシ安息香酸培地に加え、30℃で4日間、130rpmの回転振盪培養で培養した。
培養後、培養液のペンタン抽出画分をHPLC解析し、ユビキノン10生産量の測定をした。
結果を図7に示す。上記全ての組換え体において、ユビキノン10の生産性の向上が確認された。特に、HMG-CoA還元酵素遺伝子と共にユビキノン生合成遺伝子(COQ2、COQ5)の活性を強化した株では、遺伝子未強化株 Y2N14907に対して約2.5倍のユビキノン10生産性の向上が確認された。以上のことから、ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子(COQ2)と他のユビキノン生合成遺伝子(COQ3〜8)とを複数導入した酵母に対して更にHMG-CoA還元酵素遺伝子を導入することで、酵母におけるユビキノン10の生産性がより向上することが確認された。