JP2005211020A - ユビキノン10の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】真核細胞におけるユビキノン生合成系に関与する新規遺伝子を用いて、高効率でユビキノンを製造する。
【解決手段】ユビキノン10産生能を有する細胞に、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子Aとポリプレニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子Bを共発現する工程と、(a)特定のアミノ酸配列からなるタンパク質(b)前記タンパク質を構成するアミノ酸において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質。得られた細胞を培養してユビキノン10を産生させ、培地及び培養細胞を含む培養物からユビキノン10を回収する工程とを含む。
【選択図】 なし

Description

本発明は、医薬用途等において有用な物質として知られるユビキノン10の製造方法に関する。
ユビキノンは、補酵素(CoQ)とも称される重要な役割を果たしている生体成分である。ユビキノンは、動植物の組織、微生物の菌体成分として広く生物界に存在し、電子伝達系の必須成分として生理的、生化学的に重要な機能を果たしている。天然には側鎖のイソプレノイド単位の数により主にユビキノン6からユビキノン10までの同族体が存在している。
ユビキノンは、その薬理、臨床効果についても研究され、うっ血性心不全、筋ジストロフィー、貧血症等に効果があるとされ、医薬品としても価値の高い物質である。ところが、ユビキノンの生合成経路は、大腸菌等の原核生物と酵母やヒト等の真核生物とでは一部異なっていると考えられている。図7に大腸菌におけるユビキノン生合成系と酵母におけるユビキノン生合成系とを示す。図7において、化合物1はisopentenyl diphosphateであり、化合物2はdimethylallyl diphosphateであり、化合物3はpolyprenyl diphosphateであり、化合物4は4-hydroxybenzoateであり、化合物5は3-polyprenyl-4-hydroxybenzoateであり、化合物6は2-polyprenylphenolであり、化合物7は2-polyprenyl-6-hydroxyphenolであり、化合物8は3,4-dihydroxy-5-polyprenylbenzoateであり、化合物9は3-methoxy-4-hydroxy-5-polyprenylbenzoateであり、化合物10は2-polyprenyl-6-methoxyphenolであり、化合物11は2-polyprenyl-6-methoxy-1,4-benzoquinoneであり、化合物12は2-polyprenyl-3-methyl-6-methoxy1,4-benzoquinoneであり、化合物13は2-polyprenyl-3-methyl-5-hydroxy-6-methoxy-1,4-benzoquinoneであり、化合物14はubiquinone-nである。
図7に示すように、大腸菌におけるユビキノン生合成系では化合物5から化合物6、その後化合物7に進むのに対して、酵母におけるユビキノン生合成系では化合物5から化合物8、その後化合物9に進む。このように、大腸菌におけるユビキノン生合成系と酵母におけるユビキノン生合成系とは異なっており、大腸菌のユビキノン生合成系に関する研究で得られた知見を、酵母のユビキノン生合成系に関する研究に適応することはできない。
大腸菌及びサッカロマイセス酵母において、ユビキノン生合成系に関与する遺伝子としては、表1に示す遺伝子および、機能未確定の遺伝子として、Coq4、Coq8が現在知られている。
Figure 2005211020
表1に示すように、サッカロマイセス酵母に代表される酵母においては、ユビキノン生合成系に関与する遺伝子として未解明の遺伝子が少なくない。
ところで、ユビキノン10はヒトの補酵素Q(CoQ)と側鎖長が同一であることより、例えばパラコッカス・デニトリフィカンスから工業的に抽出され、医薬品として利用されている。ユビキノン10は以前より慢性心臓疾患に対し有効であることが知られており、抗不整脈剤としても有効であるため、アントラサイクリン抗ガン剤投与による不整脈防止等にも利用されている(非特許文献1)。
ユビキノン10の生合成について述べた先行文献としては、特許文献1及び2を挙げることができる。しかしながら、これら特許文献1及び2に開示された方法では、真核細胞のユビキノン生合成系に関与する新規遺伝子を提供するものではなく、また、ユビキノン10生合成の効率を十分に向上させることができなかった。
Fujioka, T. et al., Tohoku J. Exp. Med. (1983) 141 suppl. 453-463 特開平8−107789号公報 WO01/027286
そこで、本発明は、上述したような実状に鑑み、真核細胞におけるユビキノン生合成系に関与する新規遺伝子を用いて、高効率でユビキノン10を製造することができるユビキノン10の製造方法を提供することを目的とする。
上述した目的を達成した本発明に係るユビキノン10の製造方法は以下の工程(1)及び(2)を有するものである。
(1)ユビキノン10産生能を有する細胞に、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子Aとポリプレニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子Bを共発現する工程。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質
(2)得られた細胞を培養してユビキノン10を産生させ、培地及び培養細胞を含む培養物からユビキノン10を回収する工程。
上記工程(1)では、遺伝子A及び遺伝子Bをユビキノン10産生能を有する細胞に導入することによって、上記遺伝子A及び上記遺伝子Bを共発現させることができる。また、遺伝子Aはとしては、以下の(a)、(b)又は(c)のDNAを含む遺伝子を使用することができる。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1で表される塩基配列において、1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号1で表される塩基配列と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNA
さらに、本発明に係るユビキノン10の製造方法においては、遺伝子Bとして、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコード遺伝子を使用することができる。
(a)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号3で表されるアミノ酸において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、ポリプレニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
特に、ユビキノン10産生能を有する細胞としてはサッカロマイセス・セルビシエ由来の細胞を使用することが好ましい。さらに、ユビキノン10産生能を有する細胞としては、ヘキサプレニル二リン酸合成酵素遺伝子を欠損させたサッカロマイセス・セルビシエにデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子を導入したユビキノン10産生酵母を使用することができる。
本発明に係るユビキノン10の製造方法においては、デカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子としてパラコッカス・デニトリフィカンス由来の遺伝子を使用することができる。デカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子としては以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子を使用することができる
(a)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号4で表されるアミノ酸において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、デカプレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質
特に、パラコッカス・デニトリフィカンス由来のデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子は、ミトコンドリア移行シグナルをコードするポリヌクレオチドを付加した構造であることが好ましい。
本発明により、真核細胞におけるユビキノン生合成経路に関与する新規遺伝子を利用して、ユビキノン10を優れた効率で製造することができユビキノン10の製造方法を提供することができる。これにより、医薬品等において有用なユビキノン10を効率よく得ることが可能となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るユビキノン10の製造方法は、ユビキノン10産生細胞内において、従来機能未知の新規遺伝子(「遺伝子A」)とポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子(「遺伝子B」)とを共発現させることによって、ユビキノン10産生細胞におけるユビキノン10産生能を向上させるものである。
新規遺伝子(「遺伝子A」)
先ず、新規遺伝子について説明する。本発明に係る新規遺伝子は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子である。
ここで、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子は、従来機能未知であり、本願発明によって初めてユビキノンの生合成に必須な機能を有するタンパク質をコードする遺伝子として同定されたものである(後述の実施例参照)。例えば、サッカロマイセス・セルビシエから単離された新規遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAを含んでいる。
本発明に係る新規遺伝子は、配列番号2で表されるアミノ酸配列に一致しないアミノ酸配列からなるタンパク質(以下、相同タンパク質と称する。)であっても、ユビキノン生合成に関与する機能を有するタンパク質をコードするものであればよい。
相同タンパク質としては、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を挙げることができる。複数のアミノ酸とは、2〜30個のアミノ酸、好ましくは2〜20個のアミノ酸、より好ましくは2〜10個のアミノ酸を意味する。特に、欠失、置換若しくは付加するアミノ酸は、本タンパク質におけるユビキノン生合成活性に関与する領域を除く領域のアミノ酸であることが好ましい。
相同タンパク質をコードする遺伝子は、例えば、サッカロマイセス・セルビシエ以外の真核細胞から単離することができる。サッカロマイセス・セルビシエ以外の真核細胞としては、酵母細胞、例えばキャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)。糸状菌細胞、例えばポドスポラ・アンセリナ(Podospora anserina)。昆虫細胞、例えばドロソフィラ・メラノガスター(Dorosophila melanogaster)。線虫細胞、例えばセノラブディティス・エレガンス(Caenorhabitis elegans)。植物細胞、例えばアラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)。魚細胞、例えばゼブラフィッシュ。両生類細胞、例えばアフリカツメガエル。鳥類細胞、例えばニワトリ。爬虫類細胞、例えばヘビ。哺乳類細胞、例えばヒト、サル、ウサギ、イヌ、ハムスター、マウス、ラット。および、これらの細胞から樹立された細胞株、例えばHeLa細胞、VELO細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、MDCK細胞を挙げることができる。
サッカロマイセス・セルビシエ以外の真核細胞から本発明に係る新規遺伝子を単離するには、例えば、対象の真核細胞に由来するcDNAライブラリーを定法に従って作製し、当該cDNAライブラリーから目的とする新規遺伝子をスクリーニングする方法を挙げることができる。スクリーニングの際には、配列番号1で表される塩基配列に基づいて設計したプローブ或いはプライマーを用いることができる。当該プローブを用いてスクリーニングする際には、ストリンジェントな条件で当該プローブとハイブリダイズするcDNAを選抜する。ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成される条件をいう。より具体的にストリンジェントな条件は、例えば、ナトリウム濃度が300〜2000mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が40〜75℃、好ましくは55〜65℃での条件をいう。
換言すれば、本発明に係る新規遺伝子は、配列番号1で表す塩基配列からなるDNAを含むものに限定されず、例えば、配列番号1で表される塩基配列と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子(以下、相同型新規遺伝子と称する。)も含まれる。
相同型新規遺伝子としては、例えば、配列番号1で表される塩基配列において、1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子を挙げることができる。複数の塩基とは、2〜60個の塩基、好ましくは2〜40個の塩基、より好ましくは2〜20個の塩基を意味する。特に、欠失、置換若しくは付加する塩基は、配列番号2で表されるアミノ酸配列を改変しないものであっても良いし、改変するものであっても良い。欠失、置換若しくは付加する塩基としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列を改変する場合にはユビキノン生合成活性に関与する領域を除く領域のアミノ酸のコード領域であることが好ましい。
さらに、相同型新規遺伝子としては、配列番号1で表される塩基配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有する塩基配列を含み、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNAを含む遺伝子を挙げることができる。ここで相同性とは、例えば、配列解析ソフトウェアであるDNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング)を用いて、例えば、マキシムマッチング法のコマンドを実行することにより求められる値である。
さらにまた、本発明に係る新規遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列を含むDNAに変異を導入することで作製される変異型の遺伝子も含まれる。なお、DNAに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-KやMutant-G(TaKaRa社製))などを用いて、あるいはTaKaRa社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて変異を導入することができる。
相同タンパク質及び相同型新規遺伝子並びに変異型の遺伝子において、ユビキノン生合成に関与する機能とは、具体的に、イソペンテニル二リン酸を出発物質として最終的にユビキノンを合成する過程に含まれる化学反応に直接的に又は間接的に関与し、当該反応を正に制御する機能を意味する。したがって、ある遺伝子が本発明に係る新規遺伝子に含まれるか否かは、当該検査対象の遺伝子を発現、もしくは機能的に破壊した細胞株を作製し、当該細胞株におけるユビキノン生合成を検討することによって判定することができる。
ところで、本発明に係る新規遺伝子を所望のベクターに挿入してなる組換えベクターも本発明に含まれる。組換えベクターは、宿主中に導入可能なものであれば特に限定されず、また、宿主中で複製不可能なものや複製可能なもののいずれも含まれる。例えば、本発明に係る新規遺伝子を挿入するためのベクターとしては、ベクター自体に宿主中での複製能を持たず、ゲノムDNA挿入目的に用いられるDNA、例えば酵母ゲノム挿入用のpRS404やトランスポゾン配列を含むベクターなどが挙げられる。また、本発明に係るDNAを挿入するためのベクターとしては、宿主中で自律複製可能なベクター、例えばプラスミドベクター、シャトルベクター、ウイルスベクター(ファージベクター)などが挙げられる。
プラスミドベクターとしては、E. coli由来のプラスミド(例えばpET30bなどのpET系、pBR322及びpBR325などのpBR系、pUC118、pUC119、pUC18及びpUC19などのpUC系、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、pYES2などのYEp系、YCp50、pRS414などのYCp系等)などが挙げられる。またファージベクターとしては、λファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、カリフラワーモザイクウイルスなどの植物ウイルス、又はバキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
本発明に係る組換えベクターは、さらに転写プロモーター、リボソーム結合配列、転写ターミネーター及び本発明に係るDNAにより構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。転写プロモーターとしては、例えば恒常発現型プロモーター又は誘導発現型プロモーターが挙げられる。ここで、恒常発現型プロモーターとは、主要代謝経路に関わる遺伝子の転写プロモーターを意味し、どの生育条件でも転写活性を有するプロモーターである。一方、誘導発現型プロモーターとは、特定の生育条件で転写活性があり、その他の生育条件では活性が抑えられるプロモーターを意味する。本発明に係るDNAコンストラクトに含むことができる転写プロモーターは、本発明に係るDNAコンストラクトが導入される宿主細胞中で活性を持つものであればいずれを用いてもよい。例えば、宿主細胞が酵母である場合には、GAL1プロモーター、GAL10プロモーター、TDH3(GAP)プロモーター、ADH1プロモーター、TEF2プロモーター等を用いることができる。また、宿主細胞がE. coliである場合には、trp、lac、trc、tacなどのプロモーターを用いることができる。
また、転写ターミネーターは、本発明に係る新規遺伝子が導入される宿主細胞中で活性を持つものであればいずれの遺伝子に由来する転写ターミネーターを用いてもよい。例えば宿主細胞が酵母である場合には、ADH1ターミネーター、CYC1ターミネーター等を用いることができる。また、宿主細胞がE. coliである場合には、rrnBターミネーターを用いることができる。
さらに、本発明に係る組換えベクターは、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカーなどを含むことができる。なお、選択マーカーとしては、URA3、LEU2、TRP1、HIS3などの栄養非要求性の表現型を指標とするマーカー遺伝子や、Ampr、Tetr、Cmr、Kmr、AUR1-C等の抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。
また、本発明に係る組換えベクターは、宿主細胞がバクテリアである場合には、遺伝子発現のため、効率的翻訳のためのリボソーム結合部位として開始コドン上流にSD配列 (5'-AGGAGG-3'で代表される)を組み込むこともできる。
ベクターに新規遺伝子を挿入するには、当該新規遺伝子を含むDNA断片を適当な制限酵素で切断し、次いで適当なベクターDNAの制限酵素部位に挿入してベクターに連結する方法が用いられる。
本発明に係る組換えベクターを用いて形質転換体を得ることができる。宿主細胞としては、特に限定されるものではなく、酵母などの単細胞真核微生物を含む真菌、原核生物(バクテリアとアーキア)、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞などが挙げられる。
真菌としては、変形菌類(Myxomycota)、藻菌類(Phycomycetes)、子嚢菌類(Ascomycota)、担子菌類(Basidiomycota)、不完全菌類(Fungi Imperfecti)が挙げられる。なお、真菌として、工業上利用上重要な酵母が良く知られている。そこで、宿主細胞として、例えば、子嚢菌類の子嚢菌酵母、担子菌類の担子菌酵母又は不完全菌類の不完全菌酵母等を用いることができる。より具体的には、子嚢菌酵母、特に、S. cerevisiae、クルヴェロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の出芽酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)等の分裂酵母が挙げられる。酵母の株は、プレニルアルコールを生産することができる限り特に限定されるものではない。S. cerevisiaeの場合、例えばA451、YPH499、YPH500、W303-1A、W303-1B、ATCC28382などが挙げられる。
バクテリアとしては、大腸菌(Escherichia coli)等のエシェリキア属、バシラス・サティラス(Bacillus subtilis)等のバシラス属、又はシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)やアグロバクテリウム・リゾジェネス(Agrobacterium rhizogenes)等のアグロバクテリウム属、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacerium glutamicum)等のコリネバクテリウム属、ラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)等のラクトバシラス属、アクチノマイセス属(Actinomyces)やストレプトマイセス属(Storeptomyces)等の放線菌類(Actinomycetes)が挙げられる。
また、アーキアとしては、メタノバクテリウム属(Metanobacterium)などのメタン生産菌、ハロバクテリウム属(Halobacterium)などの好塩菌、スルフォロバス属(Sulfolobus)等の好熱好酸性菌が挙げられる。
本発明に係る細胞を得るためには、上記宿主細胞のいずれも用いることができるが、特に酵母、その中でも出芽酵母、特にS. cerevisiaeが好ましい。
ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子(「遺伝子B」)
次に、ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子は、サッカロマイセス・セルビシエにおいてCoq2遺伝子と呼称され、サッカロマイセス・セルビシエにおけるユビキノン生合成経路に関与している。Coq2遺伝子は、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードしている。
Coq2遺伝子としては、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものに限定されず、配列番号3で表されるアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ポリプレニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であっても良い。
複数のアミノ酸とは、2〜30個のアミノ酸、好ましくは2〜20個のアミノ酸、より好ましくは2〜10個のアミノ酸を意味する。特に、欠失、置換若しくは付加するアミノ酸は、本タンパク質におけるポリプレニルトランスフェラーゼ活性に関与する領域を除く領域のアミノ酸であることが好ましい。
ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子としては、サッカロマイセス・セルビシエ由来のCoq2遺伝子に限定されず、各種細胞由来のCoq2遺伝子に相当する遺伝子を使用することができる。例えば、アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)のAtPP1遺伝子(AB052553)、バチルス・ファーマス(Bacillus firmus)のUbiA遺伝子(U61168)、ブルセラ・スイス(Brucella suis)のUbiA遺伝子(AE014352)、セノラブディティス・エレガンス(Caenorhabitis elegans)のF57B9.4遺伝子(U13876)、ドロソフィラ・メラノガスター(Dorosophila melanogaster)のCG9613遺伝子(AE003678)、大腸菌(Escherichia coli)のUbiA遺伝子(M96268)、ヒト(Homo sapiens)のUbiA遺伝子(BC008804)、マウス(Mus)のUbiA遺伝子(AK009092)、オリザ・サティバ(Oriza sativa)のPGT-2遺伝子(AP004661)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)のUbiA遺伝子(AE004947)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)のppt1遺伝子(AB053168)を挙げることができる。なお、括弧内の数字はGenBankへのアクセッション番号を示す。
ユビキノン10産生細胞
ユビキノン10産生細胞は、ユビキノン10産生能を本来的に備える細胞系統を使用してもよいが、ユビキノン10産生能を本来的に有しない細胞系統にユビキノン10産生能を付与した細胞系統を使用してもよい。例えば、サッカロマイセス・セルビシエ等の酵母は、ユビキノン6を産生するがユビキノン10を本来的に産生しない。しかしながら、酵母における、ユビキノンのイソプレン単位が6である側鎖を作る酵素の遺伝子を破壊するとともに、イソプレン単位が10である側鎖を作る酵素を導入することによって、ユビキノン10を産生する酵母を作出することができる。
ここで、イソプレン単位が10である側鎖を作る酵素としては、例えば、パラコッカス・デニトリフィカンス由来のデカプレニル二リン酸合成酵素(特開平11−178590号公報参照)を使用することができる。この他にも、イソプレン単位が10である側鎖を作る酵素をコードする遺伝子としては、アグロバクテリウム(Agrobacterium sp.)のデカプレニル2燐酸合成酵素遺伝子(特開2000-228987号公報)、アスペルギルス・クラバタス(Asprergillus clavatus)のデカプレニル2燐酸合成酵素遺伝子(特開2002-191367号公報)、ブレオマイセス・アルバス(Bulleomyces albus)のデカプレニル2燐酸合成酵素遺伝子(特開2002-345469号公報)、グルコノバクター・サブオキシダンス(Gliconobacter suboxydans)のddsA遺伝子(AB006850)、ヒト(Homo Sapiens)のTrans-prenyltransferase遺伝子(AF118395)、ロイコスポリディウム・スコティ(Leucosporidium scotii)のデカプレニル2燐酸合成酵素遺伝子(特開2002-191367号公報)、ロドバクター・カプスラタス(Rhodobacter capsulatus)のデカプレニル2燐酸合成酵素遺伝子(特開平11-056372号公報)、サイトエラ・コンプリカータ(Saitoella complicata)のデカプレニル2燐酸合成酵素遺伝子(特開2001-061478号公報)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Shizosaccharomyces pombe)のdps1遺伝子(D84311)を使用することができる。なお、括弧内の数字はGenBankへのアクセッション番号或いは関連する公報を示す。
これらイソプレン単位が10である側鎖を作る酵素を酵母内で機能的に発現させるためには、例えば、当該酵素のN末端にミトコンドリア移行シグナルを付加した融合タンパク質として発現させることが好ましい。すなわち、当該酵素をコードする遺伝子の上流にミトコンドリア移行シグナルをコードする配列を付加し、融合タンパク質をコードする遺伝子を構築する。そして、当該融合タンパク質をコードする遺伝子をユビキノン10産生酵母に導入することによって、イソプレン単位が10である側鎖を作る酵素を当該酵母内で機能的に発現させることができる。
ミトコンドリア移行シグナルとしては、例えば、特開平9−173076号公報に開示されている配列を使用することができる。また、ミトコンドリア移行シグナルとしては、これに限定されず、例えば、上述したCoq2遺伝子がコードするポリプレニルトランスフェラーゼにおけるN末端側35アミノ酸残基からなるポリペプチド(Coq2(N35))、サッカロマイセス・セルビシエのユビキノン生合成に関与するメチルトランスフェラーゼ遺伝子(Coq3遺伝子)によりコードされるメチルトランスフェラーゼにおけるN末端側36アミノ酸残基からなるポリペプチド(Coq3(N36))を使用することができる。
ユビキノン10産生能を本来的に有しない細胞系統としては、サッカロマイセス・セルビシエ以外に、例えば、細菌細胞、例えばバチルス属(bacillus属)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium属)、エシェリキア属(Escherichia属)、ヘリコバクター属(Helicobacter属)、ミクロコッカス属(Micrococcus属)、サルモネラ属(Salmonella属)、シネコシスティス属(Synechocystis属)を使用することができる。また、好熱性菌、例えばスルホロバス属(Sulfolobus属)を使用することができる。さらに、酵母細胞、例えばハンセヌラ属(Hansenula属)を使用することができる。さらに、線虫細胞、例えばセノラブディティス・エレガンス(Caenorhabitis elegans)を使用することができる。さらに、植物細胞、例えばタバコ(Tabacco)を使用することができる。さらに、動物細胞、例えばマウス(Mus)等を使用することができる。
一方、ユビキノン10産生能を本来的に備える細胞系統としては、ロドトルラ属(Rhodotorula属)、ロイコスポリディウム属(Leucosporidium属)、キャンディダ属(Candida属)、トルロプシス属(Torulopsis属)、クリプトコッカス属(Cryptococcus属)、ロドスポリディウム属(Rhodosporidium属)、シゾサッカスマイセス属(Shizosaccharomyces属)、ヤフリナ属(Japhrina属)、スポロボロマイセス属(Sporobolomyces属)、ウスティラゴ属(Usitilago属)、ブレオマイセス属(Bulleromyces属)、スポリディオボラス属(Sporidiobolus属)、オオスポリディウム属(Oosporidium属)等の酵母細胞を使用することができる。また、アスペルギルス属(Aspergillus属)、サイトエラ属(Saitoella属)等の子嚢菌細胞を使用することができる。さらに、ロドバクター属(Rhodobacter属)、ロドミクロビウム属(Rhodomicrobium属)、ロドピラ属(Rhodopila属)、ロドスピリラム属(hodospirillum属)、ロドシュードモナス属(Rhodopseudomonas属)等の光合成細菌細胞を使用することができる。さらに、グルコノバクター属(Gluconobacter属)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium属)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium属)、シュードモナス属(Pseudomonas属)等の細菌細胞を使用することができる。さらに、ヒト等の動物細胞を使用することができる。ユビキノン10産生能を本来的に備える細胞系統の場合には、当該細胞系統に含まれる細胞株を、ユビキノン10産生細胞としてそのまま使用することができる。
ユビキノン10の製造
本発明に係るユビキノン10の製造方法では、上記ユビキノン10産生細胞内において上記新規遺伝子及び上記ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子を共発現させ、その後、ユビキノン10産生細胞を培養し、培養物からユビキノン10を回収する。
本方法において共発現とは、ユビキノン10産生細胞内における狭い領域で、上記新規遺伝子及び上記ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子が恒常的に発現することを意味する。例えば、新規遺伝子及びポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子をユビキノン10産生細胞内で発現しうる状態で有する発現ベクターを構築し、当該ベクターを用いてユビキノン10産生細胞を形質転換する方法が挙げられる。両遺伝子は、それぞれ異なる発現ベクターに組み込まれ、これら発現ベクターを用いて形質転換を行っても良い。
また、ユビキノン10産生細胞が本来的にポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子を有している場合には、ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーター領域等を改変して、ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子を恒常的に発現させ、新規遺伝子と共発現するようにしても良い。
ユビキノン10産生細胞の培地及び培養条件としては、特に限定されず、ユビキノン10産生細胞の基となる細胞系統及び栄養要求特性等を考慮して適宜設定することができる。また、ユビキノン10の産生は、公知の手法によって確認することができる。例えば、Hagermanらの方法(Analytical Biochemistry 296、 141-143 (2001))等を適用してユビキノン10の産生を確認することができる。
新規遺伝子及びポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子を共発現するユビキノン10産生細胞を培養した後、培養物からユビキノン10を回収することができる。ここで、培養物とは、培地及び培養されたユビキノン10産生細胞を意味する。ユビキノン10を回収する際には、主として培養されたユビキノン10産生細胞を集菌し、集菌した細胞を粉砕して定法に従って回収することができる。
具体的に、ユビキノン10の回収方法としては、培養液から、有機溶媒による抽出、各種クロマトグラフィー、結晶化等、通常の有機合成化学で用いられる採取方法、例えば、特開昭56-124390号公報、特開昭56-154994号公報、特開昭56-154995号公報、特開昭56-154996号公報、特開昭57-102192号公報、特開昭58-89193号公報、特開昭58-146285号公報、特開昭61-25490号公報、特開昭61-141891号公報、特開昭63-102691号公報に記載の方法を用いて、ユビキノン10を採取することができる。
即ち、培養後の菌液にメタノールもしくはエタノール、水酸化ナトリウムおよびピロガロールを添加し、60から90℃で1〜2時間還流過熱後、液相をn-ヘキサン、石油エーテル等の有機溶媒で抽出する。有機溶媒相を水洗し、脱水処理後濃縮する。濃縮物をシリカゲル、アルミナ等を用いる吸着クロマトグラフィーに供し、ベンゼンなどで展開する。ユビキノンを含む画分を濃縮凝固し、エタノール可溶部分を冷却放置すると黄色のユビキノンの粗結晶が得られる。更に再結晶を繰り返すとユビキノンの純粋な結晶が得られる。また、包接化合物による分離、分子蒸留を行うことも効果的である。
本発明に係るユビキノン10の製造方法によれば、ユビキノン10を非常に効率よく製造することができる。すなわち、本発明に係るユビキノン10の製造方法では、ユビキノン10産生細胞をそのまま使用してユビキノン10を生産した場合と比較して、ユビキノン10の生産量を大幅に増加させることができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において使用した培地等の組成は以下の通りである。
YPD培地
グルコース(和光純薬社製) 20g/L
ポリペプトン(Difco社製) 20g/L
酵母エキス(Difco社製) 10g/L
YPDA培地
グルコース(和光純薬社製) 20g/L
ポリペプトン(Difco社製) 20g/L
酵母エキス(Difco社製) 10g/L
寒天(フナコシ社製) 20g/L
YPGA培地
グリセロール(ナカライテスク社製) 30g/L
ポリペプトン(Difco社製) 20g/L
酵母エキス(Difco社製) 10g/L
寒天(フナコシ社製) 20g/L
SD(-URA)培地
SD Medium-URA(Q-BIOGENE社製) 27.4g/L
SDA(-URA)培地
SD Medium-URA(Q-BIOGENE社製) 27.4g/L
寒天(フナコシ社製) 20g/L
SD(-HIS、-URA)培地
SD Medium-HIS-URA(Q-BIOGENE社製) 27.5g/L
SDA(-HIS、-URA)培地
SD Medium-HIS-URA(Q-BIOGENE社製) 27.5g/L
寒天 (フナコシ社製) 20g/L
SD(-URA、-HIS、-TRP)培地
SD Medium-HIS-TRP-URA(Q-BIOGENE社製) 27.4g/L
SDA(-URA、-HIS、-TRP)培地
SD Medium-HIS-TRP-URA(Q-BIOGENE社製) 27.4g/L
寒天(フナコシ社製) 20g/L
SDA(-URA、-HIS、-TRP、-LEU)培地
SD Medium-HIS-LEU-TRP-URA(Q-BIOGENE社製) 27.4g/L
寒天(フナコシ社製) 20g/L
SC-Gal(-URA、-HIS、-TRP)/0.1mMPHB培地
ガラクトース(ナカライテスク社製) 20g/L
イーストナイトロジェンベース(Difco社製) 1.7g/L
硫酸アンモニウム(ナカライテスク社製) 5g/L
CSM-HIS-TRP-URA(Q-BIOGENE社製) 0.7g/L
パラヒドロキシ安息香酸(ナカライテスク社製) 0.0138g/L
SC-Gal(-URA、-HIS、-TRP、 -LEU)/0.1mMPHB培地
ガラクトース(ナカライテスク社製) 20g/L
イーストナイトロジェンベース(Difco社製) 1.7g/L
硫酸アンモニウム(ナカライテスク社製) 5g/L
CSM-HIS-LEU-TRP-URA(Q-BIOGENE社製) 0.6g/L
パラヒドロキシ安息香酸(ナカライテスク社製) 0.0138g/L
702培地
ポリペプトン(Difco社製) 10g/L
酵母エキス(Difco社製) 2g/L
硫酸マグネシウム・7水和物(ナカライテスク社製) 1g/L
本実施例では、実施例1で作製したベクター(pRS433GAP)を用いて、実施例2でユビキノン10産生酵母を作製した。次に、実施例3では、新規遺伝子(YLR201C)を有するベクター及びポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子(Coq2遺伝子)を有するベクターを作製するとともに、実施例2で作製したユビキノン10産生酵母にこれらベクターを単独で導入した。次に、実施例4では、実施例3で作製した形質転換体におけるユビキノン10産生能を検討した。次に、実施例5では、実施例2で作製したユビキノン10産生酵母に実施例3で作製した2つのベクターを導入した。次に、実施例6では、実施例5で作製した形質転換体におけるユビキノン10産生能を検討した。
〔実施例1〕 pRS433GAPベクターの作製
(1) 大腸菌−酵母(サッカロマイセス・セレビジエ)・シャトルベクター
ストラタジーン社よりプラスミドpRS403を購入した。インビトロジェン社からプラスミドpYES2を購入した。
(2) 染色体DNA
酵母の染色体DNAは、「Genとるくん」(宝酒造社製)を購入し、添付のプロトコルに従って酵母YPH499(ストラタジーン社から入手)から調製した。大腸菌 からのプラスミドDNAは、Wizard PureFection Plasmid DNA Purification System(プロメガ社製)を用いて調製した。
(3) pRSベクターへCYC1t断片の挿入
CYC1転写ターミネーター(CYC1t)断片はPCRで調製した。pYES2を鋳型とし、XhoI−Tcyc1FW:5‘−TGCATCTCGAGGGCCGCATCATGTAATTAG−3’ (配列番号21)とApaI−Tcyc1RV:5‘−CATTAGGGCCCGGCCGCAAATTAAAGCCTTCG−3’(配列番号22)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはPfu DNAポリメラーゼ(プロメガ社製)を用い、反応液にはPerfect Matchポリメラーゼエンハンサー(ストラタジーン社製)を加えた。PCR条件は95℃で2分の変性反応後、95℃で45秒、60℃で30秒、72℃で1分のサイクルを30回実施し、CYC1t断片の増幅を行った。増幅した遺伝子断片は制限酵素XhoIおよびApaI(宝酒造社製)で切断後、pRS403ベクターのXhoI−ApaI部位にクローニングした。このようにしてpRS403Tcycベクターを作製した。
(4) 転写プロモーターの調製
PCRにより転写プロモーターを含むDNA断片を調製した。酵母染色体DNAを鋳型とし、SacI−Ptdh3FW:5‘−CACGGAGCTCCAGTTCGAGTTTATCATTATCAA−3’ (配列番号23)とSacII−Ptdh3RV:5‘−CTCTCCGCGGTTTGTTTGTTTATGTGTGTTTATTC−3’(配列番号24)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはExTaq DNAポリメラーゼ(宝酒造社製)を用い、反応液にはPerfect Matchポリメラーゼエンハンサー(ストラタジーン社製)を加えた。PCR条件は95℃ 2分の変性反応後、95℃ 45秒、60℃ 1分、72℃ 2分のサイクルを30回実施し、増幅を行った。増幅した遺伝子断片を制限酵素SacIおよびSacII(宝酒造社製)で切断後、アガロースゲル電気泳動でDNA断片を精製しTDH3pとした。
(5) 2μ DNA複製開始領域の調製
pYES2をSspIとNheI(宝酒造社製)で切断後、2μ DNA複製開始点(2μ ori)を含む1.5kbp断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、Klenow酵素で平滑末端化し、このDNA断片を2μOriSNとした。
(6) pRS433GAPベクターの作製
pRS403TcycをBAP(bacterial alkaline phosphatase:宝酒造社製)処理したNaeI部位に2μOriSNを挿入し、大腸菌SURE2に形質転換した後、プラスミドDNAを調製した。これを、DraIII及びEcoRI、HpaI又は、PstI及びPvuIIにより切断後、アガロースゲル電気泳動し、2μ Oriの挿入とその向きをチェックした。作製したpRS403TcycにpYES2と同じ向きで2μ Oriが挿入されたプラスミドをpRS433Tcyc2μ Oriとした。
pRS433Tcyc2μ OriのSacI−SacII部位に、転写プロモーターを含む断片TDH3p(GAPp)を挿入しDNAをクローン化した。その結果pRS433GAPが得られた。作製したpRS433GAPを図1に示す。
〔実施例2〕 ユビキノン10生産酵母の作製
(1) ヘキサプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(YBR003W)破壊用遺伝子断片の作製
まず、酵母の持つヘキサプレニル二リン酸合成酵素遺伝子Coq1(YBR003W)を破壊することを目的とした。酵母YPH499(ストラタジーン社より入手)をYPD培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から染色体DNAを単離した。単離には「Genとるくん」(宝酒造社製)を使用した。
このようにして単離した染色体DNAを鋳型とし、YBR003W/F:5‘−CGGGATCCATGTTTCAAAGGTCTGGCGCTG−3’(配列番号25)とYBR003W/R:5‘−GCGTCGACTTCAAGGTTTACTTTCTTCTTGTTAGTAT−3’(配列番号26)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plus(東洋紡社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP(宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃で2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で50秒のサイクルを25回実施し、YBR003W(配列番号1)の増幅を行った。増幅した遺伝子断片は0.8%アガロースゲル電気泳動に供した後、GENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製し、pT7Blue−2 T−ベクター(ノバジェン社製)にクローニングした。
得られたYBR003W/pT7Blue−2を制限酵素SpeIおよびEcoRV (宝酒造社製)によって切断し、この間に、両端にXbaIおよびSmaIサイトを有するURA3遺伝子を挿入した。このようにしてybr003WΔURA3/pT7Blue−2を作製した(図2)。
次に、ybr003WΔURA3/pT7Blue−2を鋳型とし、YBR003W/F:5‘−CGGGATCCATGTTTCAAAGGTCTGGCGCTG−3’(配列番号25)とYBR003W/R:5‘−GCGTCGACTTCAAGGTTTACTTTCTTCTTGTTAGTAT−3’(配列番号26)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plusを用いた。PCR条件は94℃で2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で2分のサイクルを25回実施しybr003WΔURA3断片の増幅を行った。このようにしてYBR003W破壊用遺伝子断片を作製した。
(2) YBR003W欠損酵母の作製
YBR003W遺伝子の破壊は1ステップ遺伝子破壊法(大嶋泰治ら 蛋白質核酸酵素 Vol.35 No.14 2523−2541(1990))によって行った。まず、酵母YPH499(ストラタジーン社より入手)をYPD培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体からFrozen−EZ Yeast Transformation IIキット(ザイモリサーチ社製)を用いてコンピテントセルを作製した。作製したコンピテントセル10μLに(1)で作製したYBR003W破壊用遺伝子断片ybr003WΔURA3 1μgを加えた後、キット付属の手順書に従い調製した菌液をSDA(−URA)培地に塗布した。菌液を塗布したSDA(−URA)培地は菌がコロニーを形成するまで4日間30℃で静置培養した。このようにしてYBR003W欠損株:Y03Wd株を作製した。
Y03Wd株は、YPDA培地では生育可能であるが、YPGA培地では生育できない呼吸欠損の表現型を示した。
(3) デカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(DPS)のサブクローニング
パラコッカス・デニトリフィカンス IFO14907株(独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター生物遺伝資源センターより入手)を702培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から染色体DNAを単離した。単離にはDNeasyキット(キアゲン社製)を使用した。
このようにして単離した染色体DNAを鋳型とし、DPS/F:5‘−CGGGATCCATGGGCATGAACGAAAACG−3’(配列番号27)とDPS/R:5‘−GCGTCGACTCAGGACAGGCGCGAG−3’(配列番号28)をプライマーとしてPCRを行った。PCR反応液にはAdvantage−GC2 PCR Kit (BDバイオサイエンス社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP (宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃で3分の変性反応後、94℃で30秒、68℃で1分のサイクルを30回実施し、デカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子(DPS)(特開平11−178590号後方参照)の増幅を行った。PCR産物を0.8%アガロースゲル電気泳動に供した後、増幅したDPS遺伝子断片をGENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製した。精製したDPS遺伝子はpT7Blue−2 T−ベクターにクローニングした。
このようにして作製したDPS/pT7Blue−2の塩基配列を決定した。塩基配列決定には、T7:5’−CTAATACGACTCACTATAGG−3’(配列番号29)もしくはU19:5’−GTTTTCCCAGTCACGACGT−3’(配列番号30)をプライマーとして、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、DNAシークエンサー 3100 Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ社製)で決定した。決定した塩基配列を配列番号3に、塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号4に示す。
次にDPS/pT7Blue−2を制限酵素BamHIおよびSalI(宝酒造社製)によって切断した後、0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、両端にBamHIおよびSalIサイトを有するDPS遺伝子断片を分離し、当該断片をGENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製した。精製した当該断片を発現ベクターpRS433GAP(実施例1に記載)のBamHI−SalIサイトに挿入し、DPS/pRS433GAPベクターを作製した。
(4) ミトコンドリア移行シグナルをコードする遺伝子のサブクローニング
酵母YPH499(ストラタジーン社製)をYPD培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から染色体DNAを単離した。単離には「Genとるくん」(宝酒造社製)を使用した。
このようにして単離した染色体DNAを鋳型とし、Coq1/F:5‘−GGACTAGTATGTTTCAAAGGTCTGGCGCTG−3’(配列番号31)とCoq1/R159:5‘−CGGGATCCCATCTCCTTCGAGACTAATGATATG−3’(配列番号32)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plus(東洋紡社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP(宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃で2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で20秒のサイクルを25回実施し、Coq1のミトコンドリア移行シグナルをコードする遺伝子断片Coq1(N53)の増幅を行った。増幅した遺伝子断片は2%アガロースゲル電気泳動に供した後、GENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製し、pT7Blue−2 T−ベクター(ノバジェン社製)にクローニングした。
このようにして作製したCoq1(N53)/pT7Blue−2の塩基配列を決定した。塩基配列決定には、T7:5’−CTAATACGACTCACTATAGG−3’(配列番号29)もしくはU19:5’−GTTTTCCCAGTCACGACGT−3’(配列番号30)をプライマーとして、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、DNAシークエンサー 3100 Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ社製)で決定した。決定した塩基配列を配列番号5に、塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号6に示す。
次に、染色体DNAを鋳型とし、Coq2/F:GGACTAGTATGTTTATTTGGCAGAGAAAGAGTATTTTAC−3‘(配列番号33)とCoq2/R105:5’−CGGGATCCCGTATATCTCTTTCTGCTGCTTC−3‘(配列番号34)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plus(東洋紡社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP(宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃で2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で20秒のサイクルを25回実施し、Coq2のミトコンドリア移行シグナルをコードする遺伝子断片Coq2(N35)の増幅を行った。増幅した遺伝子断片は2%アガロースゲル電気泳動に供した後、GENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製し、pT7Blue−2 T−ベクター(ノバジェン社製)にクローニングした。
このようにして作製したCoq2(N35)/pT7Blue−2の塩基配列を決定した。塩基配列決定には、T7:5’−CTAATACGACTCACTATAGG−3’(配列番号29)もしくはU19:5’−GTTTTCCCAGTCACGACGT−3’(配列番号30)をプライマーとして、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、DNAシークエンサー 3100 Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ社製)で決定した。決定した塩基配列を配列番号7に、塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号8に示す。
更に、染色体DNAを鋳型とし、Coq3/F:5‘−GGACTAGTATGGGATTCATAATGTTGTTAAGATCTAG−3’(配列番号35)とCoq3/R108:5‘−CGGGATCCCTTACATCTCGTTTGTGTTTGAATTGCA−3’(配列番号36)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plus(東洋紡社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP (宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃ 2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で20秒のサイクルを25回実施し、Coq3のミトコンドリア移行シグナルをコードする遺伝子断片Coq3(N108)の増幅を行った。増幅した遺伝子断片は2%アガロースゲル電気泳動に供した後、GENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製し、pT7Blue−2 T−ベクター(ノバジェン社製)にクローニングした。
このようにして作製したCoq3(N36)/pT7Blue−2の塩基配列を決定した。塩基配列決定には、T7:5’−CTAATACGACTCACTATAGG−3’(配列番号29)もしくはU19:5’−GTTTTCCCAGTCACGACGT−3’(配列番号30)をプライマーとして、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、DNAシークエンサー 3100 Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ社製)で決定した。決定した塩基配列を配列番号9に、塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号10に示す。
(5) DPS発現ベクターの作製
(4)で作製したCoq1(N53)/pT7Blue−2ベクター、Coq2(N35)/pT7Blue−2ベクターおよびCoq3(N36)/pT7Blue−2ベクターをそれぞれ制限酵素SpeIおよびBamHI(宝酒造社製)によって切断した後、2%アガロースゲル電気泳動を行い、両端にSpeIおよびBamHIサイトを有するCoq1(N53)、Coq2(N35)およびCoq3(N36)遺伝子断片を分離し、当該断片をGENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製した。精製した当該断片をDPS/pRS433GAPベクターのSpeI−BamHIサイトに挿入し、Coq1(N53)−DPS/pRS433GAPベクター、Coq2(N35)―DPS/pRS433GAPベクターおよびCoq3(N36)―DPS/pRS433GAPベクターを作製した。その結果を図3A,B及びCに示す。また、Coq1(N53)−DPSの塩基配列を配列番号11に示し、塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号12に示す。Coq2(N35)―DPSの塩基配列を配列番号13に示し、塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号14に示す。Coq3(N36)―DPSの塩基配列を配列番号15に示し、塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号16に示す。
(6) ユビキノン10生産酵母の作製
(2)で作製したY03Wd株をSD(−URA)培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から、Frozen−EZ Yeast Transformation IIキット(ザイモリサーチ社製)を用いてコンピテントセルを作製した。作製したコンピテントセル10μLにCoq1(N53)−DPS/pRS433ベクター、Coq2(N35)―DPS/pRS433ベクターおよびCoq3(N36)―DPS/pRS433ベクターをそれぞれ1μg加え、SDA(−HIS、 −URA)培地に塗布した。菌液を塗布したSDA(−HIS −URA)培地は菌がコロニーを形成するまで4日間30℃で静置培養した。このようにしてユビキノン10生産酵母:Y1N14907,Y2N14907およびY3N14907株を作製した。
各ベクターを導入する前のY03Wd株がYPGA培地で生育できない呼吸欠損の表現系を示したのに対し、Y1N14907,Y2N14907およびY3N14907株はいずれもYPGA培地で生育可能な、呼吸機能の回復した表現型を示した。
〔実施例3〕 Coq2、YLR201C導入酵母の作製
(1) Coq2発現ベクターの作製
酵母YPH499をYPD培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から染色体DNAを単離した。単離には「Genとるくん」(宝酒造社製)を使用した。
このようにして単離した染色体DNAを鋳型とし、Coq2/F/SacII:5‘−TCCCCGCGGATGTTTATTTGGCAGAGAAAGAGTATTTTAC−3’(配列番号37)とCoq2/R/XhoI:5‘−CCGCTCGAGCTACAAGAATCCAAACAGTCTCAAG−3’(配列番号38)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plus(東洋紡社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP (宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃で2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で1分30秒のサイクルを25回実施し、Coq2遺伝子の増幅を行った。このようにして増幅したPCR増幅産物を0.8%アガロースゲル電気泳動に供し、GENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてCoq2遺伝子断片をゲルから精製し、pT7Blue−2 T−ベクター(ノバジェン社製)にクローニングした。
このようにして作製したCoq2/pT7Blue−2の塩基配列を決定した。決定した塩基配列を配列番号17に、塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号18に示す。塩基配列決定には、T7:5’−CTAATACGACTCACTATAGG−3’(配列番号29)もしくはU19:5’−GTTTTCCCAGTCACGACGT−3’(配列番号30)をプライマーとして、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、DNAシークエンサー 3100 Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ社製)で決定し、PCRエラーのないことを確認した。
次にCoq2/pT7Blue−2を制限酵素SacIIおよびXhoI(宝酒造社製)によって切断した後、0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、両端にSacIIおよびXhoIサイトを有するCoq2遺伝子断片を分離し、当該断片をGENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製した。精製した当該断片を発現ベクターpRS434GAP(特開2002−199883号公報及び特開2003−088368号公報参照)のSacII−XhoIサイトに挿入し、Coq2/pRS434GAPベクターを作製した(図4−A)。
(2) Coq2発現ベクター導入株の作製
ユビキノン10生産酵母:Y2N14907株をSD(−URA、−HIS)培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から、Frozen−EZ Yeast Transformation IIキット(ザイモリサーチ社製)を用いてコンピテントセルを作製した。作製したコンピテントセル10μLにCoq2/pRS434GAPベクター1μgを加え、SDA(−URA、−HIS、−TRP)培地に塗布した。菌液を塗布したSDA(−URA、−HIS、−TRP)培地は菌がコロニーを形成するまで4日間30℃で静置培養した。このようにしてCoq2発現ベクター導入株:Y2N14907/2を作製した。
また、同様の方法にて、Coq2/pRS434GAPの代わりにpRS434GAPを導入したY2N14907/−を作製した。
(3) YLR201C発現ベクターの作製
酵母YPH499(ストラタジーン社より購入)をYPD培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から染色体DNAを単離した。単離には「Genとるくん」(宝酒造社製)を使用した。
このようにして単離した染色体DNAを鋳型とし、YLR201C/F:5‘−CGGGATCCATGCTTTGTCGCAATACTGCCAGAA−3’(配列番号39)とYLR201C/R:5‘−CGGAATTCTTAACCCCTAACTAATTGAGATTTGATTAAATTTACC−3’(配列番号40)をプライマーとしてPCRを行った。DNAポリメラーゼにはKOD plus(東洋紡社製)を用い、サーマルサイクラーはTaKaRa PCR ThermalCycler MP(宝酒造社製)を使用した。PCR条件は94℃で2分の変性反応後、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で50秒のサイクルを25回実施しYLR201Cの増幅を行った。増幅した遺伝子断片をDNA精製キット(MiniElute PCR Purification Kit、キアゲン社製)を用いて精製した後、pT7Blue T−ベクター(ノバジェン社製)にクローニングした。
このようにして作製したYLR201C/pT7Blueの塩基配列を決定した。決定した塩基配列を配列番号19に、塩基配列から予測されるアミノ酸配列を配列番号20に示す。塩基配列決定には、T7:5’−CTAATACGACTCACTATAGG−3’(配列番号29)もしくはU19:5’−GTTTTCCCAGTCACGACGT−3’(配列番号30)をプライマーとして、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)を用い、DNAシークエンサー 3100 Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ社製)で決定し、PCRエラーのないことを確認した。
次にYLR201C/pT7Blueを制限酵素BamHIおよびEcoRI(宝酒造社製)によって切断した後、0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、両端にBamHIおよびEcoRIサイトを有するYLR201C遺伝子断片を分離し、当該断片をGENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製した。精製した当該断片を発現ベクターpRS434GAP(特開2002−199883および特開2003−088368に記載)のBamH I−EcoR Iサイトに挿入し、YLR201C/pRS434GAPベクターを作製した(図4−B)。
次にYLR201C/pT7Blueを制限酵素SacIIおよびXhoI(宝酒造社製)によって切断した後、0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、両端にSacIIおよびXhoIサイトを有するYLR201C遺伝子断片を分離し、当該断片をGENECLEAN IIキット(Q−BIOGENE社製)を用いてゲルから精製した。精製した当該断片を発現ベクターpRS435GAP(特開2003−088368号公報参照)SacII−XhoIサイトに挿入し、YLR201C/pRS435GAPベクターを作製した。
(4) YLR201C発現ベクター導入株の作製
ユビキノン10生産酵母:Y2N14907株をSD(−URA、 −HIS)培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から、Frozen−EZ Yeast Transformation IIキット(ザイモリサーチ社製)を用いてコンピテントセルを作製した。作製したコンピテントセル10μLにYLR201C/pRS434GAPベクター 1μgを加え、SD(−URA、−HIS、−TRP)A培地に塗布した。菌液を塗布したSDA(−URA、−HIS、−TRP)培地は菌がコロニーを形成するまで4日間30℃で静置培養した。このようにしてYLR201C発現ベクター導入株:Y2N14907/201を作製した。
〔実施例4〕 ユビキノン10の分析
以下のユビキノンの分析値は、分析に供する各株についてそれぞれ4検体ずつ分析を実施し、得られた値を平均して求めた。
(1) ユビキノン10の抽出
酵母のユビキノンの分析はHagermanらの方法(Analytical Biochemistry 296、 141−143 (2001))に若干の修飾を加えて実施した。まず、実施例3によって作製したY2N14907/−株、Y2N14907/2株およびY2N14907/201株をそれぞれ5mLのSD( ―URA、−HIS、−TRP )培地に播種し、30℃、130rpmで30時間振とう培養した。培養後、培養液1mLをSC−Gal(−URA、−HIS、−TRP)/0.1mMPHB培地100mLに加え、更に30℃、130rpmで100時間振とう培養した。培養終了後、菌体を3500rpm、5分の遠心操作によって回収し、菌体の湿重量を測定した。
回収した菌体に、菌体湿重量の10倍量のガラスビーズ(シグマ社製)および水分含量が1.5mLとなるように無菌水を加えた。更に内部標準物質として100μMのコエンザイムQ9(シグマ社製)を70μL添加し、ボルテックスミキサーで2分間攪拌した。攪拌後、98%メタノール(ナカライテスク社製)6mLとペンタン(ナカライテスク社製)4mLを加え、更にボルテックスミキサーで30秒間攪拌した。攪拌後、2000rpm、10分の遠心操作によって有機相(上相)と水相(下相)に分離し、パスツールピペットを用いて、有機相を定量的に別の試験管に回収した。残った水相にペンタン4mLを加え、同様の抽出操作によって有機相を回収し、これを先に回収した有機相に加えた。次に、スピードバック(サーバント社製)を用いて、回収した有機相を蒸発乾固した。
(2) ユビキノン10の分析
蒸発乾固させた有機相に含まれている抽出物を、メタノール/エタノール(9/1)(共にナカライテスク社製)0.5mLで再溶解し、HPLC分析用サンプルとした。
HPLC分析装置としてはHP1100(ヒューレットパッカード社製)を使用し、分析用カラムにはデベロシルODS−UG−3(野村化学社製)を用いた。移動相としてエタノールを0.5mL/分の流速で流通させ、ユビキノンの検出はUV275nmの吸収を追跡することによって行った。Y2N14907/−株、Y2N14907/2株およびY2N14907/201株それぞれのユビキノン10の生産量はユビキノン10の溶出ピーク面積から、検量線を用いて求めた。得られた各株の菌体あたりのユビキノン生産量をY2N14907/−株の菌体あたりのユビキノン10生産量の相対値として表した結果を図5に示す。
図5から分かるように、Coq2もしくはYLR201C遺伝子をそれぞれ単独で導入したY2N14907/2株およびY2N14907/201株のユビキノン10生産量はこれらの遺伝子を導入していないY2N14907/−株とほとんど変化がなかった。
〔実施例5〕 Coq2およびYLR201C発現ベクター導入株の作製
Coq2発現ベクター導入ユビキノン10生産酵母:Y2N14907/2株をSD(−URA、−HIS、−TRP)培地に播種し、30℃、130rpmで15時間振とう培養した。培養終了後、菌体を5000rpm、5分の遠心操作によって回収した。回収した菌体から、Frozen−EZ Yeast Transformation IIキット(ザイモリサーチ社製)を用いてコンピテントセルを作製した。作製したコンピテントセル10μLにYLR201C/pRS435GAPベクター 1μgを加え、SDA(−URA、−HIS、−TRP、−LEU)培地に塗布した。菌液を塗布したSDA(−URA、−HIS、−TRP、−LEU)培地は菌がコロニーを形成するまで4日間30℃で静置培養した。このようにしてCoq2およびYLR201C発現ベクター導入株:Y2N14907/2,201株を作製した。
また、同様の方法にて、Y2N14907/−株にpRS435GAPを導入したY2N14907/−,−株を作製した。
〔実施例6〕 ユビキノン10の分析
以下のユビキノンの分析値は、分析に供する各株についてそれぞれ4検体ずつ分析を実施し、得られた値を平均して求めた。
(1) ユビキノン10の抽出
酵母のユビキノンの分析はHagermanらの方法(Analytical Biochemistry 296、 141−143 (2001))に若干の修飾を加えて実施した。まず、実施例5によって作製したY2N14907/−,−株およびY2N14907/2,201株をそれぞれ5mLのSD( ―URA、−HIS、−TRP、−LEU )培地に播種し、30℃、130rpmで30時間振とう培養した。培養後、培養液1mLをSC−Gal(−URA、−HIS、−TRP、−LEU)/0.1mMPHB培地100mLに加え、更に30℃、130rpmで100時間振とう培養した。培養終了後、菌体を3500rpm、5分の遠心操作によって回収し、菌体の湿重量を測定した。
回収した菌体に、菌体湿重量の10倍量のガラスビーズ(シグマ社製)および水分含量が1.5mLとなるように無菌水を加えた。更に内部標準物質として100μMのコエンザイムQ9(シグマ社製)を70μL添加し、ボルテックスミキサーで2分間攪拌した。攪拌後、98%メタノール(ナカライテスク社製)6mLとペンタン(ナカライテスク社製)4mLを加え、更にボルテックスミキサーで30秒間攪拌した。攪拌後、2000rpm、10分の遠心操作によって有機相(上相)と水相(下相)に分離し、パスツールピペットを用いて、有機相を定量的に別の試験管に回収した。残った水相にペンタン4mLを加え、同様の抽出操作によって有機相を回収し、これを先に回収した有機相に加えた。次に、スピードバック(サーバント社製)を用いて、回収した有機相を蒸発乾固した。
(2) ユビキノン10の分析
蒸発乾固させた有機相に含まれている抽出物を、メタノール/エタノール(9/1)(共にナカライテスク社製)0.5mLで再溶解し、HPLC分析用サンプルとした。
HPLC分析装置としてはHP1100(ヒューレットパッカード社製)を使用し、分析用カラムにはデベロシルODS−UG−3(野村化学社製)を用いた。移動相としてエタノールを0.5mL/分の流速で流通させ、ユビキノンの検出はUV275nmの吸収を追跡することによって行った。Y2N14907/−,−株およびY2N14907/2,201株それぞれのユビキノン10の生産量はユビキノン10の溶出ピーク面積から、検量線を用いて求めた。得られたY2N14907/2,201株の菌体あたりのユビキノン生産量をY2N14907/−,−株の菌体あたりのユビキノン10生産量の相対値として表した結果を図6に示す。
図6から分かるように、Coq2及びYLR201C遺伝子を同時に導入して共発現させてY2N14907/2,201株のユビキノン10生産量は、これらの遺伝子を導入していないY2N14907/−,−株に比べて1.5倍に向上していた。
図6に示す結果及び図6に示す結果より、ユビキノン10産生酵母内において新規遺伝子(YLR201C遺伝子)及ポリプレニルトランスフェラーゼ遺伝子(Coq2遺伝子)を共発現させた場合には、これら遺伝子を単独で発現させた時よりもユビキノン10の再生能を向上できることが明らかとなった。
プラスミドpRS433GAPの構造を示す模式図である。 サッカロマイセス・セレビジエのYBR003W遺伝子の破壊用プラスミド:YBR003WΔURA3/pT7Blue−2の構築を示す模式図である。 AはプラスミドCoq1(N53)−DPS/pRS433GAPの構造、BはプラスミドCoq2(N35)−DPS/pRS433GAPの構造、CはプラスミドCoq3(N36)−DPS/pRS433GAPの構造を示す模式図である。 AはプラスミドCoq2/pRS434GAPの構造、BはプラスミドYLR201C/pRS434GAPの構造、CはプラスミドYLR201C/pRS435GAPの構造を示す模式図である。 酵母組換え株:Y2N14907/2株およびY2N14907/201株の菌体あたりのユビキノン10生産量をY2N14907/−株の菌体あたりのユビキノン10生産量の相対値(%)として示す特性図である。 酵母組換え株:Y2N14907/2,201株の菌体あたりのユビキノン10生産量をY2N14907/−,−株の菌体あたりのユビキノン10生産量の相対値(%)として示す特性図である。 大腸菌等の原核生物のユビキノン生合成経路および酵母等の真核生物のユビキノン生合成経路を示す反応経路図である。

Claims (9)

  1. ユビキノン10産生能を有する細胞に、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子Aとポリプレニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子Bを共発現する工程と、
    (a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号2で表されるアミノ酸において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質
    得られた細胞を培養してユビキノン10を産生させ、培地及び培養細胞を含む培養物からユビキノン10を回収する工程と
    を含むユビキノン10の製造方法。
  2. 上記遺伝子A及び上記遺伝子Bを上記ユビキノン10産生能を有する細胞に導入することによって、上記遺伝子A及び上記遺伝子Bを共発現させることを特徴とする請求項1記載のユビキノン10の製造方法。
  3. 上記遺伝子Aは、以下の(a)、(b)又は(c)のDNAを含むことを特徴とする請求項1記載のユビキノン10の製造方法。
    (a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
    (b)配列番号1で表される塩基配列において、1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含み、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNA
    (c)配列番号1で表される塩基配列と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、ユビキノン生合成に必須な機能を有するタンパク質をコードするDNA
  4. 上記遺伝子Bは、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードすることを特徴とする請求項1記載のユビキノン10の製造方法。
    (a)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号3で表されるアミノ酸において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、ポリプレニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質
  5. 上記ユビキノン10産生能を有する細胞は、サッカロマイセス・セルビシエ由来であることを特徴とする請求項1記載のユビキノン10の製造方法。
  6. 上記ユビキノン10産生能を有する細胞は、ヘキサプレニル二リン酸合成酵素遺伝子を欠損させたサッカロマイセス・セルビシエにデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子を導入したユビキノン10産生酵母であることを特徴とする請求項1記載のユビキノン10の製造方法。
  7. 上記デカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子は、パラコッカス・デニトリフィカンス由来であることを特徴とする請求項6記載のユビキノン10の製造方法。
  8. 上記デカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子は、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードすることを特徴とする請求項6記載のユビキノン10の製造方法。
    (a)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号4で表されるアミノ酸において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、デカプレニル二リン酸合成活性を有するタンパク質
  9. 上記パラコッカス・デニトリフィカンス由来のデカプレニル二リン酸合成酵素遺伝子は、ミトコンドリア移行シグナルをコードするポリヌクレオチドを付加した構造であることを特徴とする請求項7記載のユビキノン10の製造方法。
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