JPWO2015064530A1 - クロマトグラフを用いたマルチ定量分析方法 - Google Patents

クロマトグラフを用いたマルチ定量分析方法 Download PDF

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Abstract

多数の分析対象物質を、同一条件の下でのシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる溶出位置、又はヘキサン/アセトニトリル分配法における分配率の少なくともいずれかに基づいて複数にグループ分けし、グループ毎に該グループ内の1つの化合物を重水素及び/又は炭素13で標識した化合物をサロゲート物質として割り当てる。それらサロゲート物質を内部標準物質として検量線作成用標準試料に添加してGC/MS分析し、分析対象物質毎に検量線を作成してデータベース(35)を作成しておく。未知試料測定時には、同じ多種類のサロゲート物質を試料に添加してGC/MS分析し、定量処理部(34)ではその結果から求めたピーク面積比をデータベース(35)から読み出した検量線に照らし、分析対象物質毎に定量を行う。これにより、多成分一斉分析における定量精度を確保しつつ、用意すべき標準物質の種類を少なくするとともに分析者による煩雑な作業を軽減することができる。

Description

本発明は、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフ等のクロマトグラフを用いて試料中の化合物の濃度を定量する定量分析方法に関し、さらに詳しくは、試料に含まれる多数の化合物の濃度を1回のクロマトグラフ分析結果に基づいて定量する多成分一斉分析のためのマルチ定量分析方法に関する。
ガスクロマトグラフ(GC)や液体クロマトグラフ(LC)などのクロマトグラフを用いて試料中の化合物の濃度を定量する際には、一般に検量線法が利用されている。検量線法は予め作成しておいた検量線に照らして分析結果から濃度を算出する定量法であり、外部標準法、内部標準法などの手法がある。
外部標準法では、分析対象物質が含まれる標準試料を用意し、分析対象物質の濃度が相違する複数の標準試料を調製して、該標準試料をそれぞれ測定しデータを収集する。このデータに基づいて作成されるクロマトグラムには分析対象物質由来のピークが現れるから、このピークの面積(又は高さ)を求め、ピーク面積値と濃度との関係を示す検量線を作成する。そして、未知試料を測定して得られたクロマトグラムに現れる分析対象物質由来のピークの面積値を求め、この面積値を検量線に照らして未知試料中の分析対象物質の濃度を算出する。外部標準法では、夾雑物の影響等がない限り、高精度の定量が可能である。その反面、分析対象物質毎に標準試料を用意し、その実測結果に基づいてそれぞれ検量線を作成する必要がある。
一方、内部標準法では、クロマトグラフによって(検出器として質量分析計を用いる場合には、さらに質量電荷比の相違によって)分析対象物質と分離可能であって保持時間が分析対象物質にできるだけ近い内部標準物質を検量線作成用の標準試料に一定量添加し、これを測定してデータを収集する。このデータに基づいて作成されるクロマトグラムには、内部標準物質由来のピークと検量線作成用物質由来のピークとが現れるから、これらピークの面積(又は高さ)をそれぞれ求め、ピーク面積比と濃度との関係を示す検量線を作成する。未知試料測定時にも、同じ内部標準物質を未知試料に一定量添加し、それを測定して得られたクロマトグラムからピーク面積比を求める。この面積比を検量線に照らして未知試料中の分析対象物質の濃度を算出する。内部標準法では、クロマトグラフへの試料の注入量のばらつきや試料溶媒の揮発等による測定誤差を回避することができる。
残留農薬や環境汚染物質の検査、薬毒物スクリーニングなどにおいては、物性の相違する数十種類から数百種類もの化合物を1回の測定結果に基づいて定量する必要があり、こうした多成分一斉分析には、クロマトグラフによる時間的な成分分離だけでなく質量電荷比に応じた成分分離も行えるガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)や液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)が利用されている。こうした多成分一斉分析の場合、全ての分析対象物質についてそれぞれ標準試料を用意し、それぞれ測定を行って検量線を作成するのは、コストや分析効率の点から実質的に不可能である。そのため、外部標準法による定量は採用できない。
また、内部標準法による定量、つまり半定量を行うにしても、分析対象物質毎に内部標準物質を用意するのはかなり困難である。そのため、従来一般には、保持時間が近い複数の分析対象物質をグルーピングし、そうしたグループ毎にそれぞれ適当な、具体的にはそれらグループと保持時間ができるだけ近く物理的、化学的に安定である化合物を内部標準物質として割り当て、その内部標準物質を用いて内部標準法による定量を行うという作業が行われている。
ところで、例えばGC/MSでは、カラム入口に設けられた注入口インサート、カラム、或いはイオン源等の装置の状態によっては、分析の途中段階で或る種の分析対象物質の吸着や分解が起こり易い。物理的、化学的に安定な内部標準物質はそうした吸着や分解などが起こりにくいため、これら内部標準物質を用いた内部標準法による定量では、上記のような要因による定量値の変動を補正することができないことが多い。特に、極性を始めとする物性が様々である農薬等の多成分一斉分析では、こうした現象が顕著である。また、上述したような装置の状態に依存する要因だけでなく、試料からの分析対象物質の抽出、精製、濃縮或いは定容といった試料前処理操作によっても分析対象物質の一部が失われ、定量値が変動してしまうこともよくある。
上述した様々な要因、特に試料前処理操作の際の要因による定量値の変動を補正する手法としてサロゲート法が従来用いられている。サロゲート法では、分析対象物質と物性が類似する物質をサロゲート物質として選択し、既知量のサロゲート物質を試料前処理操作前の試料に添加して前処理操作を行い、得られたサロゲート物質の回収率と同じだけ分析対象物質も回収されていると判断して定量値を補正する手法である(特許文献1など参照)。サロゲート物質としては、分析対象物質と分離可能であって且つ物性ができるだけ類似している化合物が望ましく、一般には、分析対象物質と同構造で安定同位体(一般には重水素)で標識された化合物が用いられる。
また、通常、上述した内部標準物質は前処理操作後の試料に添加されるが、前処理操作前に添加されるサロゲート物質自体を内部標準物質として用い、検量線を作成して内部標準法による定量を行うことも行われている。これにより、試料前処理操作の段階での化合物の損失まで反映した精度の高い定量が可能である。
しかしながら、多成分一斉分析の際に、数百を超えるような数の分析対象物質に対してそれぞれ個別にサロゲート物質を用意することは実質的に不可能である。サロゲート物質を内部標準物質として用いる場合にも、上述した一般的な多成分一斉分析の際の内部標準物質の割り当てと同様に、複数の分析対象物質をグルーピングし、そうしたグループ毎にそれぞれ適切なサロゲート物質を割り当てることが考えられるものの、割り当てを適切に行うのは容易ではない。
特開2003−342291号公報(段落[0003])
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、数百を超えるような数の分析対象物質を定量するような多成分一斉分析においても、それら分析対象物質全てにそれぞれ個々に対応する内部標準物質やサロゲート物質を用意する必要がなく、試料前処理操作の段階や分析の途中での化合物の損失の影響などを補正した精度のよい定量が可能なマルチ定量分析方法を提供することにある。
上記課題を解決するためになされた本発明は、試料に含まれる多数の化合物をクロマトグラフを用いて定量するマルチ定量分析方法であって、
分析対象とされる試料に含まれる可能性のある多数の分析対象物質の少なくとも一部を、同一条件の下でのシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる溶出位置又はヘキサン/アセトニトリル分配法における分配率の少なくともいずれかに基づいて複数にグループ分けし、グループ毎にそれぞれ異なるサロゲート物質を定め、
そのサロゲート物質を、各グループに含まれる分析対象物質に共通の内部標準物質として検量線作成用の標準試料に添加し、該標準試料をクロマトグラフ分析してその結果に基づいて前記分析対象物質を内部標準法により定量するための検量線を作成しておき、
未知試料中の分析対象物質を定量する際に、該未知試料に前記複数のサロゲート物質を添加し、該試料をクロマトグラフ分析してその結果を、対応する前記検量線に照らして該分析対象物質を定量することを特徴としている。
ここで「クロマトグラフ」はガスクロマトグラフ又は液体クロマトグラフであり、検出器として質量分析装置を用いたクロマトグラフ質量分析装置も含む。
また、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいて極性の異なる溶媒を連続して流下し、カラムから溶出する各画分を分取する場合には、上記「溶出位置」とは「溶出画分」を意味する。
また、上記「多数の化合物」、「多数の分析対象物質」との記載における「多数」とは、特にその下限を制限するものではないが、一般的な多成分一斉分析の対象となる化合物の数から考えれば、常識的には最低でも十以上、通常、数十以上である。
本発明に係るクロマトグラフを用いたマルチ定量分析方法では、分析対象とされる試料に含まれる可能性のある多数の分析対象物質を、極性、揮発性、分解性といった物性の類似性、相違性に応じてグルーピングするが、オクタノール/水分配係数LogPowや水溶解度などの文献値に拠るのではなく、実際に同一条件の下でシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行ったときの溶出位置、又はヘキサン/アセトニトリル分配法における分配率を測定した結果の少なくともいずれかを用いて、分析対象物質をグルーピングする。これは、物性の中でも極性を重視したグルーピングであり、特にガスクロマトグラフ分析に有用である。何故なら、ガスクロマトグラフ分析では、極性の高い化合物がカラム固定相のシラノール基等の活性点に吸着され易く、それが定量値変動の主な要因となっているからである。
一般に、上記文献値は取得条件が同一でないことが多いため、適切なグルーピングができない場合がよくある。これに対し、上述したような同一条件の下での溶出位置及び/又は分配率の実測値に基づいてグルーピングを行うと、極性に基づく適切なグルーピングが可能である。
より具体的には、本発明に係るマルチ定量分析方法では、分析対象とされる試料に含まれる可能性のある多数の分析対象物質の少なくとも一部を、各分析対象物質の溶出位置とサロゲート物質の溶出位置との相対値、及び/又は、各分析対象物質の分配率とサロゲート物質の分配率との相対値に基づいてグループ分けするとともに、グループ毎のサロゲート物質を定めるようにするよい。これによれば、主として極性に応じてグルーピングした各グループに対し、そのグループに含まれる複数の分析対象物質を定量するのに適切な、つまりはそのグループに含まれる分析対象物質と試料前処理操作における回収率がほぼ等しく、分析途中での吸着等による損失も同程度となるようなサロゲート物質が選定され、該サロゲート物質を内部標準物質とする検量線が作成される。それにより、分析対象物質毎ではなくグループ毎にそれぞれサロゲート物質を割り当てても、高い定量精度を実現することができる。
また本発明に係るマルチ定量分析方法では、前記サロゲート物質として、それが割り当てられたグループに含まれる分析対象物質のうちの1つの化合物が安定同位体標識された化合物を用いるとよい。
なお、本発明に係るマルチ定量分析方法において、検量線作成時及び未知試料の測定時における試料へのサロゲート物質の添加は、シリンジスパイク(Syringe Spike)としての添加、又はクリーンアップスパイク(Clean-up Spike)として添加、のいずれかとすればよい。ただし、未知試料の測定時にサロゲート物質をクリーンアップスパイクとして添加する場合には、サロゲート物質をクリーンアップスパイクとして添加したときに作成された検量線を用いて定量を行い、未知試料の測定時にサロゲート物質をシリンジスパイクとして添加する場合には、サロゲート物質をシリンジスパイクとして添加したときに作成された検量線を用いて定量を行う必要がある。
本発明に係るクロマトグラフを用いたマルチ定量分析方法によれば、1回のクロマトグラフ分析の結果に基づいて定量したい分析対象物質の総数よりも遙かに少ない数のサロゲート物質、例えば分析対象物質の数が数百を超えるような場合でも数十種程度のサロゲート物質を用意するだけで、装置状態の変化等に起因する分析対象物質の信号強度の変動を補正して、高い精度の定量を実現することができる。また、サロゲート物質を試料前処理操作前に試料に添加する、つまりはサロゲート物質をクリーンアップスパイクとすれば、試料前処理操作の段階での試料の損失などに起因する定量値の変動も補正することができ、より一層高い精度の定量が可能となる。
本発明に係るマルチ定量分析方法を実施するGC/MSの一実施例の概略構成図。 本実施例のGC/MSにおける検量線データベース作成時の手順を示すフローチャート。 本実施例のGC/MSを用いて実試料中の分析対象物質を定量する際の手順を示すフローチャート。 サロゲート物質としてダイアジノン-d10を用い、ダイアジノン(Diazinon)を定量したときの実測結果の表示画面を示す図。 サロゲート物質としてダイアジノン-d10を用い、ピリダベン(Pyridaben)を定量したときの実測結果の表示画面を示す図。
以下、本発明に係るマルチ定量分析方法について、添付図面を参照して詳述する。
図1は本発明に係るマルチ定量分析方法を実施するGC/MSの一実施例の概略構成図である。
このGC/MSは、ガスクロマトグラフ(GC)1と、質量分析計2と、データ処理部3と、分析制御部4と、中央制御部5と、入力部6と、表示部7と、を備える。GC1は、微量の液体試料を気化させる試料気化室10と、試料気化室10中に液体試料を注入するマイクロシリンジ11と、試料成分を時間方向に分離するカラム13と、カラム13を温調するカラムオーブン12と、を備える。質量分析計2は、図示しない真空ポンプにより真空排気される分析室20の内部に、測定対象である化合物を電子イオン化法などのイオン化法によりイオン化するイオン源21と、イオンを収束しつつ輸送するイオンレンズ22と、4本のロッド電極から成る四重極マスフィルタ23と、入射したイオンの量に応じたイオン強度信号を検出信号として出力する検出器24と、を備える。
検出器24によるイオン強度データが入力されるデータ処理部3は、データ格納部30、クロマトグラム作成部31、ピーク検出部32、ピーク面積比計算部33、定量処理部34、及び検量線データベース35、を機能ブロックとして含み、後述するように試料に含まれる多数の分析対象物質の濃度をそれぞれ定量する。
分析制御部4は中央制御部5の指示の下に、GC1及び質量分析計2の動作をそれぞれ制御する機能を有する。中央制御部5は、入力部6や表示部7を通したユーザインターフェイスのほか、システム全体の統括的な制御を担う。この中央制御部5に含まれる記憶装置には、後述する多成分一斉分析を行うための特徴的な制御を実施する多成分一斉定量制御プログラム8が格納されており、CPU等がこのプログラム8に従って分析制御部4を通して各部を制御することで、試料に含まれる多くの分析対象物質を一斉に定量するために必要な測定やデータ処理が実行される。
なお、中央制御部5やデータ処理部3は例えばパーソナルコンピュータをハードウエア資源として、該コンピュータに予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを該コンピュータ上で実行することによりそれぞれの機能を実現する構成とすることができる。この場合、入力部6はコンピュータに付設されたキーボードやポインティングデバイス(マウス等)であり、表示部7はコンピュータのディスプレイモニタである。
次に、図1に示した本実施例のGC/MSにおける基本的なGC/MS分析動作を概略的に説明する。
マイクロシリンジ11から試料気化室10内に少量の液体試料が滴下されると、液体試料は試料気化室10内で短時間に気化し、該試料中の各種物質はヘリウム等のキャリアガスの流れに乗ってカラム13中に送り込まれる。カラム13を通過する間に、試料中の各物質はそれぞれ異なる時間だけ遅れてカラム13出口に達する。カラムオーブン12は略一定温度を保つように或いは予め決められた温度プロファイルに従って昇温するように制御される。質量分析計2においてイオン源21は、カラム13出口から供給されるガス中の物質を順次イオン化する。
分析制御部4により、四重極マスフィルタ23の各ロッド電極には、特定の質量電荷比を有するイオンを通過させるような電圧が印加される。これにより、イオン源21に導入された化合物由来の各種イオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンが四重極マスフィルタ23を通り抜けて検出器24に到達し、該イオンの量に応じた信号がデータ処理部3に出力される。ここでは、分析対象物質自体は既知である(ただし、実際に試料に含まれるかどうかは分からない)。例えば、食品中の残留農薬についての一般的な検査では、ポジティブリストに挙げられている全ての農薬が分析対象物質である。したがって、分析対象物質に由来する検出対象のイオンの質量電荷比は既知であり、またその物質の保持時間も既知である。そのため、質量分析計2では、分析対象物質毎に保持時間近傍の所定の測定時間範囲内で検出する質量電荷比を定めたSIM(選択イオンモニタリング)測定を実施すれば、分析対象物質由来のイオンを漏れなく検出することができる。
本実施例のGC/MSにおいて、未知試料に含まれる、上述したような既知の多数の分析対象物質を一斉に定量するためには、内部標準法による定量を行うための検量線データベース35を予め構築しておく必要がある。この検量線データベース35は、通常、本装置を使用するユーザ側で作成されるのではなく、本装置を販売するメーカ側において作成される。図2は検量線データベース35作成時の手順を示すフローチャートである。
本実施例のGC/MSにおいて実施される定量では、多数の分析対象物質が複数のグループにグルーピングされ、そのグループ毎にサロゲート物質が内部標準物質として定められる。一般にガスクロマトグラフでは極性の高い化合物がカラムの固定相であるシラノール基等の活性点に吸着し易く、この吸着が定量値の変動の主な要因となっている。そのため、定量値の変動度合いは吸着の度合い、つまりは極性に主として依存する。そこで、多数の分析対象物質をグループ分けする際に、極性の相違に専ら着目したグループ分けを行うと、定量値の補正が容易であり、且つ精度の高い補正が可能である。各種化合物の極性を示す指標値にはオクタノール/水分配係数LogPowや水溶解度などがあり、それらの値は各種の文献に記載されている。しかしながら、そうした文献値は取得条件が必ずしも一定ではないため、相互に比較するのは適切でない。また、そうした文献値が与えられていないような物質も数多くある。
そこで、全ての分析対象物質について主として極性に基づくグループ分けを適切に行うように、全ての分析対象物質について同一条件の下でシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる測定を行い、溶出位置(又は溶出画分)をそれぞれ求める。また、全ての分析対象物質について、ヘキサン/アセトニトリル分配法における分配率を測定する(ステップS1)。
なお、ヘキサン/アセトニトリル分配法における分配率は、既知量の分析対象物質を含む試料液に所定量のヘキサンとアセトニトリルとを加えて振とうし、アセトニトリル層(及び/又はヘキサン層)を分取して該アセトニトリル層(及び/又はヘキサン層)に含まれる分析対象物質の量を調べ、その結果から算出することができる。具体的に本実施例の方法では、100mL容の分液漏斗を用い、アセトニトリル飽和n−ヘキサン25mL、標準溶液0.2mL、n−ヘキサン飽和アセトニトリル50mLを順に加え、30分間振とうのあと、30分間静止状態とする。そのあとに、下層をアセトニトリル画分1として分取する。一方、上層にはn−ヘキサン飽和アセトニトリル50mLをさらに加え、30分間振とうのあと、30分間静止状態とする。そして、下層をアセトニトリル画分2として分取し、残った上層をヘキサン画分とする。こうして得られたアセトニトリル画分1、アセトニトリル画分2、及びヘキサン画分をそれぞれ定量分析し、その結果からヘキサン/アセトニトリル分配法における分配率を求める。
一方、極性等の物性が類似した物質をまとめた各グループに対応付けるサロゲート物質を或る程度定め、サロゲート物質についてもシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる溶出位置とヘキサン/アセトニトリル分配法における分配率を実測する。サロゲート物質としては、分析対象物質のうちから選択した化合物の安定同位体標識された化合物、具体的には重水素や炭素13で標識された化合物を用いればよく、入手のし易さや価格の安さなどを考慮して適宜に決めればよい。そして、個々の分析対象物質の溶出位置とサロゲート物質の溶出位置の相対値、個々の分析対象物質の分配率とサロゲート物質の分配率の相対値、などに基づいて、多数の分析対象物質をグループ分けするとともに、各グループに適当なサロゲート物質を割り当てる(ステップS2)。
実際には、ステップS2の作業は或る程度試行錯誤的に行われる。グループ分けを細かくすればそれだけ定量精度を上げるのが容易になるが、実試料の測定に際してサロゲート物質をそれだけ多種類用意しなければならず、ユーザのコスト的な負担が大きい。また、一部のサロゲート物質が入手できないと、一部の物質の定量が行えないことになる。そこで、一般的には、1つのグループに10〜数十程度の種類の分析対象物質が含まれるようにグループ分けすることで、例えば数百種程度の分析対象物質の一斉分析を行う際には、10〜数十程度のグループ数になるようにすればよい。グループ分けがこの程度の細かさであれば、サロゲート物質の用意もユーザにとってそれほど負担にならず、また或る分析対象物質そのものを重水素置換した化合物ではなく別の化合物を重水素置換した化合物を内部標準物質として定量を実施した場合でも高い定量精度を確保することができる。
上記ステップS2において多数の分析対象物質のグループ分けと各グループに対するサロゲート物質とが決まったならば、そのサロゲート物質を内部標準物質として検量線作成用標準試料に添加し、該試料についてGC/MS分析を実行して、全ての分析対象物質に対する検量線をそれぞれ作成する(ステップS3)。このGC/MS分析は実際にユーザに提供する装置そのものでなく、例えば同機種の別の装置を用いて行えばよい。
検量線作成用標準試料へのサロゲート物質の添加には、シリンジスパイクとして添加する場合と、クリーンアップスパイクとして添加する場合の2つがあり、いずれとするかによって同一分析対象物質に対する検量線が異なる。そこで、シリンジスパイク、クリーンアップスパイクのそれぞれについてGC/MS分析を実行し、分析対象物質毎に検量線を作成する。
具体的にいうと、シリンジスパイクでは、試料前処理操作が行われた後の試料溶液に全種類のサロゲート物質を添加し(図1中に「サロゲート物質(B)」として示した段階での添加)、該試料溶液をマイクロシリンジにより試料気化室へと注入してGC/MS分析を行う。これに対し、クリーンアップスパイクでは、試料前処理操作を実施する前の試料溶液、つまり試料からの抽出液や精製前の試料液に全種類のサロゲート物質を添加し(図1中に「サロゲート物質(A)」として示した段階での添加)、該試料を試料前処理操作することで得られた試料溶液をマイクロシリンジにより試料気化室へと注入してGC/MS分析を行う。ただし、クリーンアップスパイクでは、試料前処理操作の内容によって検量線が異なるため、実際の定量分析時に実施される試料前処理操作の内容毎にそれぞれGC/MS分析を実行して検量線を作成する。
上述したように、シリンジスパイク、クリーンアップスパイクそれぞれについて全ての分析対象物質に対する検量線を作成したならば、これをデータベース化し、検量線データベース35を構築する(ステップS4)。検量線データベース35は、シリンジスパイクとクリーンアップスパイクとのいずれかの選択指示、クリーンアップスパイクの場合には試料前処理操作の内容の指定、及び分析対象物質の種類の指定に対して、対応する検量線が出力されるようなデータ構造としておけばよい。
次に、上述したような適切な検量線データベース35を保有しているGC/MSを用い、ユーザ側において目的とする未知試料中の分析対象物質の定量を行う際の手順と装置の動作について、図3に示すフローチャートを参照して説明する。
例えば残留農薬の一斉スクリーニングなどの際には、添加すべきサロゲート物質の種類が予め指定されている。そこで、分析者はこれらサロゲート物質を用意し、クリーンアップップスパイク又はシリンジスパイクのいずれかとして、用意した多種のサロゲート物質を未知試料に添加する。クリーンアップスパイクの場合には、未知試料に多種のサロゲート物質を添加(図1中に「サロゲート物質(A)」として示した段階での添加)したあとに所定の試料前処理操作、例えば一部の分析対象物質の抽出、精製、濃縮、或いは定容などを実行することで分析対象の試料を調製し、その調製された試料をマイクロシリンジ11に用意する。一方、シリンジスパイクの場合には、上述した試料前処理操作が行われたあとの試料に多種のサロゲート物質を添加(図1中に「サロゲート物質(B)」として示した段階での添加)し、最終的に分析対象である試料を調製してマイクロシリンジ11に用意する(ステップS11)。
分析者は入力部6においてクリーンアップスパイク又はシリンジスパイクの選択を測定条件の1つとして入力設定する。また、クリーンアップスパイクの場合には、使用する(実施した)試料前処理操作の内容も入力設定する(ステップS12)。これらの入力設定は、予め用意された選択肢の中から分析者が1つを選択できるような形式としておくと簡便である。また、分析者はそれ以外の様々な測定条件も入力設定し、分析実行開始を指示する。なお、例えばポジティブリストに従った残留農薬の一斉スクリーニングなどを行う場合には、質量分析計2におけるSIM測定の対象(質量電荷比及び保持時間)も決まっているから、例えば「残留農薬一斉スクリーニング」など定量分析の種類を分析者が指定するだけで測定条件の殆どを自動的に設定する構成とすることができる。
分析実行開始が指示されると、多成分一斉定量制御プログラム8に従って分析制御部4がGC1及び質量分析計2に対し所定の制御信号等を送ることでGC/MS分析が開始される。即ち、多種のサロゲート物質が混じっている試料溶液がマイクロシリンジ11から試料気化室10に注入され、該試料中の化合物がカラム13に導入される。異なるサロゲート物質同士やサロゲート物質と分析対象物質とはカラム13を通過する過程で時間方向に分離される。また、或る2つの物質がカラム13では十分に分離されない場合であっても、それら物質をそれぞれ検出するための対象となるイオンの質量電荷比は相違しているので、質量電荷比によって十分に区別することができる。
GC1及び質量分析計2によるGC/MS分析によって得られたデータ、つまり試料に含まれる物質に由来するイオンの量を反映したイオン強度データはデータ格納部30に一旦格納される。分析が終了すると、データ処理部3においてクロマトグラム作成部31はデータ格納部30から処理対象のデータを読み出し、該データに基づいて、サロゲート物質や分析対象物質に特徴的である特定の質量電荷比におけるマスクロマトグラムを作成する。ピーク検出部32はそれらマスクロマトグラムにおいて予め設定されている保持時間付近のピークを検出し、検出したピークの面積値を計算する。さらにピーク面積比計算部33は、分析対象物質毎に、その分析対象物質に対応するマスクロマトグラム上のピークのピーク面積値と、該物質が含まれるグループに割り当てられているサロゲート物質に対応するマスクロマトグラム上のピークのピーク面積値との比を計算する。
定量処理部34は、ステップS12において分析者により指定されたスパイク及び試料前処理操作の内容(クリーンアップスパイクの場合)に対応し、且つ分析対象物質に対応した検量線を検量線データベース35から読み出す。そして、上記計算されたピーク面積比の値をその検量線に照らして、目的とする分析対象物質の濃度を求める。目的とする分析対象物質毎に同様に、検量線に照らして濃度を求めることで、全ての分析対象物質を定量する(ステップS14)。そして、最終的に、各分析対象物質の定量結果をGC/MS分析の結果、例えばマスクロマトグラムなどとともに表示部7の画面上に表示する。
上述した定量分析方法によれば、定量すべき分析対象物質が数百種以上になる場合でも、全ての分析対象物質が含まれる標準試料を用意する必要はなく、分析者(ユーザ)はたかだか数十種程度のサロゲート物質を用意すればよい。そのため、コスト的な負担が大きく軽減される。また、サロゲート物質はシリンジスパイク又はクリーンアップスパイクとして添加されるので、GC/MS分析の実行過程での物質の損失や試料前処理操作の段階での物質の損失(クリーンアップスパイクの場合のみ)が生じても、そうした損失を補正した精度の高い定量値を得ることができる。また、上記実施例のGC/MSでは、定量に必要な検量線は全て検量線データベース35に格納されているので、分析者自身が検量線を作成する手間が省け、効率的に定量分析作業を進めることができる。
[残留農薬の実測例]
上述したGC/MSを用いたマルチ定量分析方法により、残留農薬として規制対象であるダイアジノン及びピリダベンを実測した例について説明する。
ダイアジノンは有機リン系農薬、ピリダベンは含窒素系農薬に分類されるが、いずれも、ベンゼン環において隣接する2個の炭素が窒素に置換された環構造を含み、極性は近い。具体的には、ダイアジノンとピリダベンはシリカゲルカラムクロマトグラフィーにおける溶出位置が同じであり、そのため両者は同じグループに区分され、該グループに対するサロゲート物質としては、ダイアジノンを重水素化したダイアジノン-d10が選ばれる。
即ち、この場合、ダイアジノンはそのものを重水素化した化合物を内部標準物質として定量され、一方、ピリダベンはそのものではなく物性が類似した別の化合物を重水素化した化合物を内部標準物質として定量される。
図4はダイアジノン-d10を内部標準物質としてダイアジノンを定量分析した結果である。一方、図5はダイアジノン-d10を内部標準物質としてピリダベンを定量分析した結果である。図4及び図5はいずれも定量分析結果の表示画面であり、表示画面50内で、上段にはクロマトグラム(トータルイオンクロマトグラム、マスクロマトグラム)表示欄51が設けられ、中段左方にはクロマトグラム上の任意の時点におけるマススペクトルが表示されるスペクトル表示欄52が設けられ、下段左方にはクロマトグラム拡大表示欄53が設けられ、下段中央には定量に使用される検量線表示欄54が設けられ、中下段右方には分析対象物質の定量結果の一覧を示す定量結果テーブル55が設けられている。
図4中の定量結果テーブル55を見ると、サロゲート物質(内部標準物質)であるダイアジノン-d10と分析対象物質であるダイアジノンが同定されていることが分かる。また、図4において検量線表示欄54に表示されている検量線では、濃度比と面積比とが直線的な関係になっていることが分かる。これは、分析対象物質であるダイアジノンを重水素化した化合物(つまりは実質的にはダイアジノン自体)を内部標準物質として使用していることから、当然であるといえる。実測結果であるピーク面積比をこの検量線に照らして濃度を求めることで、高い精度で定量を行うことができる。
一方、図5中の定量結果テーブル55を見ると、分析対象物質であるピリダベンが同定されていることが分かる。また、図5において検量線表示欄54に表示されている検量線では、濃度比と面積比との関係が図4に示した検量線と比較すると若干非線形となっているものの、特に濃度比が低い領域ではほぼ直線的になっており、全体としても十分に高い直線性を有しているといえる。したがって、ピリダベンについても、実測結果であるピーク面積比をこの検量線に照らして濃度を求めることで、高い精度で定量を行うことができる。
また、ポジティブリストによる規制の対象となっているそのほかの様々な残留農薬についても、同じグループに含まれる他の化合物を重水素化した化合物をサロゲート物質として内部標準法による定量を行ったときに、十分に高い定量精度を確保できることを確認した。以上のように、上述したGC/MSによるマルチ定量分析方法によって、多くの化合物の高精度の定量を簡便に行うことができる。
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
例えば上記実施例ではGC/MSを用いたマルチ定量分析方法について説明したが、GCのカラムによって全ての物質の分離が可能であれば、検出器として質量分析計を用いないガスクロマトグラフにも本発明を適用することができる。また、主として極性の相違により成分分離を行う液体クロマトグラフや液体クロマトグラフ質量分析装置にも本発明を適用することができる。
1…ガスクロマトグラフ
10…試料気化室
11…マイクロシリンジ
12…カラムオーブン
13…カラム
2…質量分析計
20…分析室
21…イオン源
22…イオンレンズ
23…四重極マスフィルタ
24…検出器
3…データ処理部
30…データ格納部
31…クロマトグラム作成部
32…ピーク検出部
33…ピーク面積比計算部
34…定量処理部
35…検量線データベース
4…分析制御部
5…中央制御部
6…入力部
7…表示部
8…多成分一斉定量制御プログラム
50…表示画面
51…クロマトグラム表示欄
52…スペクトル表示欄
53…クロマトグラム拡大表示欄
54…検量線表示欄
55…定量結果テーブル

Claims (3)

  1. 試料に含まれる多数の化合物をクロマトグラフを用いて定量するマルチ定量分析方法であって、
    分析対象とされる試料に含まれる可能性のある多数の分析対象物質の少なくとも一部を、同一条件の下でのシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる溶出位置、又はヘキサン/アセトニトリル分配法における分配率の少なくともいずれかに基づいて複数にグループ分けし、グループ毎にそれぞれ異なるサロゲート物質を定め、
    そのサロゲート物質を、各グループに含まれる分析対象物質に共通の内部標準物質として検量線作成用の標準試料に添加し、該標準試料をクロマトグラフ分析してその結果に基づいて前記分析対象物質を内部標準法により定量するための検量線を作成しておき、
    未知試料中の分析対象物質を定量する際に、該未知試料に前記複数のサロゲート物質を添加し、該試料をクロマトグラフ分析してその結果を、対応する前記検量線に照らして該分析対象物質を定量することを特徴とするクロマトグラフを用いたマルチ定量分析方法。
  2. 請求項1に記載のクロマトグラフを用いたマルチ定量分析方法であって、
    分析対象とされる試料に含まれる可能性のある多数の分析対象物質の少なくとも一部を、各分析対象物質の溶出位置とサロゲート物質の溶出位置との相対値、及び/又は、各分析対象物質の分配率とサロゲート物質の分配率との相対値に基づいてグループ分けすることを特徴とするクロマトグラフを用いたマルチ定量分析方法。
  3. 請求項1又は2に記載のクロマトグラフを用いたマルチ定量分析方法であって、
    前記サロゲート物質は、それが割り当てられたグループに含まれる分析対象物質のうちの1つの化合物が安定同位体標識された化合物であることを特徴とするクロマトグラフを用いたマルチ定量分析方法。
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