JPWO2014208418A1 - ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法 - Google Patents

ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】より平均粒子径の小さいニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその簡便かつ汎用的な製造方法を提供することを課題とする。さらに、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化に際し、ポリアリーレンスルフィドを安定に低温、短時間で得ることのできる製造方法を提供することを課題とする。【解決手段】環式ポリアリーレンスルフィドを、(i)、(ii)および(iii)から選ばれる少なくとも1種の存在下で加熱し、平均粒子径が0.5〜20nmであるニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造する。

Description

本発明はニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。より詳しくは、平均粒子径0.5〜20nmのニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略する場合もある)に代表されるポリアリーレンスルフィドは優れた耐熱性、バリア性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性、難燃性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有する樹脂である。また、射出成形、押出成形により各種成形部品、フィルム、シート、繊維などに成形可能であり、各種電気・電子部品、機械部品及び自動車部品など耐熱性、耐薬品性の要求される分野に幅広く用いられている。
しかし、ポリアリーレンスルフィド樹脂はこれらの性質を有する一方で靭性に乏しい欠点があり、靭性改良を目的としてポリアリーレンスルフィド樹脂に金属を分散させる方法が開示されており、靭性改良のためにはポリアリーレンスルフィドと金属との接触面積が大きいことが好ましく、金属の粒子質量あたりの表面積が大きい、つまり、金属の粒径が小さいことが望まれている。
例えば特許文献1では、無機金属塩を溶媒に溶解させ、本溶液をポリアリーレンスルフィドと混合したのちに溶媒を除去し、得られたポリアリーレンスルフィドおよび金属塩からなる固溶体または混合物を溶融混練することで、無機金属塩を金属へ還元するとともにポリアリーレンスルフィド中に平均粒径0.5〜30nmの大きさで分散させたポリアリーレンスルフィド複合材料を製造する方法が開示されている。
特許文献2では、熱可塑性プラスチックに対し、導電性付与の目的で鉄、ニッケル、鉄合金の金属繊維、さらに金属粉末を充填し分散させたプラスチック組成物が開示されている。
特許文献3では、金属酸化物または金属有機化合物と樹脂の混合物を、該金属酸化物または金属有機化合物の熱分解開始温度以上かつ樹脂の劣化温度未満の温度で加熱成型して、平均粒径1〜100nmの金属超微粒子を樹脂成型物中で生成させることによる、金属超微粒子を含む樹脂組成物またはその成型物、およびそれらの製造方法が開示されている。
特許文献4では、ポリアリーレンスルフィド樹脂を溶解可能な有機溶剤に、ポリアリーレンスルフィド樹脂と有機金属化合物とを溶解させた後、析出させることによる、金属元素含有ナノ粒子が分散されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法、特許文献5では、ポリアリーレンスルフィド樹脂が溶解されかつ無機微粒子が分散された有機溶剤溶液から、ポリアリーレンスルフィド樹脂を析出させることによる、ポリアリーレンスルフィド樹脂と無機微粒子との複合体の製造方法が開示されており、いずれも溶融混練を行うことなくポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造することができる。
また、ポリアリーレンスルフィドの具体的な製造方法として、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機アミド溶媒中で硫化ナトリウムなどのアルカリ金属硫化物とp−ジクロロベンゼンなどのポリハロ芳香族化合物とを反応させる方法が提案されており、この方法はポリアリーレンスルフィドの工業的製造方法として幅広く利用されている(例えば特許文献6)。しかしながら、この製造方法は高温、高圧、かつ強アルカリ条件下で反応を行うことが必要であり、N−メチル−2−ピロリドンのような高価な高沸点極性溶媒を必要とし、溶媒回収に多大なコストがかかるエネルギー多消費型で、多大なプロセスコストを必要とする。さらに、高沸点極性溶媒を用いることから、得られるポリアリーレンスルフィドを加熱した際に溶媒由来のガスが発生しやすい傾向があった。
上記のごときポリアリーレンスルフィドの製造方法の課題を解決するポリアリーレンスルフィドの別の製造方法として、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱することによるポリアリーレンスルフィドの製造方法が開示されている(例えば特許文献7)。
また、モノマー源として環式ポリフェニレンスルフィドと線状ポリフェニレンスルフィドの混合物を加熱するポリフェニレンスルフィドの重合方法も知られている(非特許文献1)。
また、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化に際し、転化を促進する方法として、各種触媒成分(ラジカル発生能を有する化合物、イオン性化合物、有機カルボン酸など)を使用する方法が知られている。
特許文献8、非特許文献2には、ラジカル発生能を有する化合物として、例えば加熱により硫黄ラジカルを発生する化合物が開示されており、具体的にはジスルフィド結合を含有する化合物が開示されている。
特許文献9及び10には、アニオン重合において開環重合触媒になり得るイオン性化合物が開示されており、具体的には例えばチオフェノールのナトリウム塩のようなアニオン種を生成する硫黄のアルカリ金属塩を用いる方法が開示されている。
また、特許文献11には、アニオン重合において開環重合触媒となり得るイオン性化合物とルイス酸を共存させる方法が開示されており、具体的にはチオフェノールのナトリウム塩と塩化銅(II)を共存させる方法が開示されている。
環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化に際し、転化を促進する触媒として遷移金属化合物(0価遷移金属化合物や低原子価鉄化合物)を使用する方法も報告されている(例えば特許文献12〜13)。
特許文献12には、0価遷移金属化合物として、具体的には例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルなどを用いる方法が開示されている。
特許文献13には、低原子価鉄化合物として、具体的には例えば、塩化鉄などを用いる方法が開示されている。
また、特許文献14には、開始剤としてカルボアニオンを用いる方法が開示されており、具体的には例えば4−クロロフェニル酢酸ナトリウム塩、4−クロロフェニル酢酸を用いる方法が開示されている。
特開平8−208849号公報 特開昭57−65754号公報 特開2006−348213号公報 特開2010−184964号公報 特開2010−275464号公報 特開昭52−12240号公報 国際公開第2007/034800号 米国特許第5869599号明細書 特開平5−163349号公報 特開平5−105757号公報 特開平5−301962号公報 国際公開第2011/013686号 特開2012−92315号公報 特開2011−173953号公報
ポリマー(Polymer), vol. 37, no. 14, 1996年(第3111〜3116ページ) マクロモレキュールズ(Macromolecules), 30巻, 1997年(第4502〜4503ページ)
しかしながら、特許文献1には、ニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物については何ら実施例がない。また、溶媒除去工程において、溶解していた金属塩が粗大に凝集、析出し、溶融混練後の複合材料中に粗大粒子が残存する恐れもある。さらに、溶融混練操作においても、剪断発熱や空気酸化によるポリアリーレンスルフィドの劣化、異常架橋や主鎖切断が起こる恐れ、無機金属塩の金属カチオンに対するカウンターアニオン成分、残留溶媒成分に由来するガス(塩化物の場合の塩素ガス、硫化物の場合のSOxガス、硝化物の場合のNOxガスなど)が発生する恐れがある。
また、特許文献2には、ポリアリーレンスルフィドに関する具体的な例示はなく、また、充填する金属粉末の粒度は記載されているもののプラスチック組成物中での粒径に関する情報もないが、一般的に金属粉末は溶融状態のプラスチック中で二次凝集しやすい傾向があり、充填する際の粒度に対して粗大化しやすい。
また、特許文献3にも、ポリアリーレンスルフィドに関する具体的な例示はなく、ニッケル微粒子についても何ら実施例がない。また、熱可塑性樹脂中に金属超微粒子を生成させるためには、金属酸化物または金属有機化合物の熱分解開始温度が、熱可塑性樹脂の溶融温度より高くなければならず、ポリアリーレンスルフィドのような耐熱性に優れる樹脂を用いる場合、熱分解開始温度が極めて高い金属酸化物または金属有機化合物を用いる必要がある。
また、特許文献4においてはニッケル含有ナノ粒子については何ら実施例がなく、また特許文献5においては無機微粒子種として金属ニッケルを用いた実施例があるものの、分散粒径が200nmより大きい例のみであり、無機微粒子種として用いた金属ニッケルナノ粒子の粒径(平均一次粒径200nm)に対し、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中での分散粒径は220nmと、二次凝集を抑制できない傾向にあることから、分散粒径を小さくするためには無機微粒子種として用いる金属ニッケルナノ粒子の粒径を小さくすることが必須、すなわち高価な金属ナノ粒子が必須となる。また、いずれもN−メチル−2−ピロリドンのような高価な高沸点極性溶媒を用いることに加え、沸点以上での加熱が好ましいため、高価な加圧容器が必要となる。さらに、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に有機溶剤が残留する恐れもある。
上述のように、ニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造するには、利便性や汎用性に欠き、樹脂の劣化の可能性をともない、平均粒子径が20nm以下のニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の具体的な例示はなく、製造が困難である。
また、特許文献7において提案されている方法では、高分子量で、狭い分子量分布を有し、加熱した際の重量減少が少ないポリアリーレンスルフィドを得ることが期待できるが、環式ポリアリーレンスルフィドの反応が完結するには反応に高温、長時間を要するため、より低温、より短時間でのポリアリーレンスルフィドの製造方法が望まれる。
また、非特許文献1において提案されている方法は、ポリフェニレンスルフィドの安易な重合法であるが、得られるポリフェニレンスルフィドの重合度は低く実用に適さないポリフェニレンスルフィドである。該文献では加熱温度を高くすることで重合度の向上が見られることが開示されているが、それでもなお実用に適した分子量には到達しておらず、また、この場合は架橋構造の生成が回避できず、熱的特性の劣るポリフェニレンスルフィドしか得られず、より実用に適した品質の高いポリフェニレンスルフィドの重合方法が望まれる。
また、特許文献8、非特許文献2、特許文献9及び特許文献10において提案されている方法を用いても、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の促進効果としては不十分で、環式ポリアリーレンスルフィドの反応が完結するには高温、長時間を有するという課題がある。
また、特許文献9には、カチオン重合において開環重合触媒となり得るイオン性化合物として、塩化鉄(III)などのルイス酸、プロトン酸、トリアルキルオキソニウム塩、カルボニウム塩、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、アルキル化剤またはシリル化剤などを用いる方法も挙げられているが、これら開環重合触媒の効果に関する具体的な開示はなく、効果は明らかでない。さらに、例えば塩化鉄(III)を開環重合触媒として用いた際の、開環重合触媒の作用機構についても明らかでなく、環式ポリアリーレンスルフィドへの触媒の添加方法、重合条件に関する具体的な開示もない。
また、特許文献11において提案されている方法を用いても、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の促進効果としては不十分で、環式ポリアリーレンスルフィドの反応が完結するには高温、長時間を有するという課題がある。
また、特許文献12には、特許文献12に記載の方法を用いた場合、低温、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られることが記載されているが、遷移金属化合物の分散状態については何ら記載がない。
また、特許文献13に記載の方法を用いた場合も、低温、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるが、さらに高重合度のポリアリーレンスルフィドの製造方法が望まれる。また、遷移金属化合物の分散状態については何ら記載がない。
また、特許文献14に記載の方法を用いた場合も、低温、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるが、さらに低温、短時間でポリアリーレンスルフィドを得る方法が望まれる。
このように、従来の技術による環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化においては触媒の促進効果、ポリアリーレンスルフィドの高重合度化が十分ではなく、より低温、短時間で、より高重合度のポリアリーレンスルフィドを製造する方法が望まれる。
本発明は、上記の背景技術における、ニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法の課題、すなわち、より平均粒子径の小さいニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその簡便かつ汎用的な製造方法を提供することを課題とするものである。
さらに、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化に際し、高温、長時間を要し、高重合度化が困難であるという前記課題を解決し、より高重合度のポリアリーレンスルフィドを低温、短時間で得ることのできる製造方法を提供することを課題とするものである。特に、特許文献12に記載されるようなテトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケルなどの0価ニッケル化合物は、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の促進効果が高いものの、安定性が低い傾向があり、より安定性が高く取り扱い性の良好な触媒を用いる製造方法を提供することを課題とする。また、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形加工品の機械強度や耐薬品性などの特性をより高めるため、さらに高重合度のポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供することを課題とする。
本発明は、ニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物およびその製造方法である。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)平均粒子径が0.5〜20nmであるニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(2)ポリアリーレンスルフィド樹脂の、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であることを特徴とする(1)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(3)加熱した際の重量減少が下記式を満たすことを特徴とする(1)または(2)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
ΔWr=(W1−W2)/W1×100≦0.20(%)
(ここでΔWrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である)
(4)ポリアリーレンスルフィド樹脂中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%のニッケル原子を含むことを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
(5)環式ポリアリーレンスルフィドを、(i)、(ii)および(iii)からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下で加熱することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(i)一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物
(ここで、Rは水素、炭素数6〜24のアリール基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭炭素数1〜12のアルキニル基、および式(B)で表される構造(置換基)からなる群より選ばれる置換基を表し、前記の各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよく、式(B)中のkは0〜6の整数を表し、mは0または1の整数を表し、nは0〜6の整数を表す。)
(ii)一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体
(ここで、RおよびRは水素もしくは炭素数が1〜12の炭化水素基を表し、RおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。)
(iii)一般式(D)で示されるニッケル化合物
(ここで、mは0〜10の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基、およびハロゲン基からなる群より選ばれる置換基を表し、該アルキル基、該アルコキシ基、該アリール基の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。)
(6)環式ポリアリーレンスルフィドを、(i)のうち、Rが水素または式(B)で表される構造中のmが0である構造から選ばれる置換基であるカルボン酸ニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、(5)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(7)環式ポリアリーレンスルフィドを、(i)のうち、Rが水素または式(B)で表される構造中のkおよびnが0である構造から選ばれる置換基であるカルボン酸ニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、(5)または(6)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(8)環式ポリアリーレンスルフィドを、ギ酸ニッケルの存在下で加熱することを特徴とする、(5)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(9)環式ポリアリーレンスルフィドを、(ii)のうち、Rが水素または炭素数が1〜8の炭化水素基であり、Rが水素または炭素数が1〜8の炭化水素基であるカルボン酸ニッケルアミン錯体の存在下で加熱することを特徴とする、(5)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(10)環式ポリアリーレンスルフィドを、(ii)のうち、第1級アミンが脂肪族アミンであるカルボン酸ニッケルアミン錯体の存在下で加熱することを特徴とする、(5)または(9)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(11)加熱を脱揮条件下で行うことを特徴とする、(5)から(10)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(12)環式ポリアリーレンスルフィドを、(iii)のうち、Rが炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、および炭素数6〜24のアリール基からなる群より選ばれる置換基であり、Rが炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、および炭素数6〜24のアリール基からなる群より選ばれる置換基であるニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、(5)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法(ここで、該アルキル基、該アルコキシ基、該アリール基の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい)。
(13)環式ポリアリーレンスルフィドを、(iii)のうち、RおよびRがメチル基であるニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、(5)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(14)環式ポリアリーレンスルフィドを、(iii)のうち、mが0であるニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、(5)、(12)、(13)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(15)得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物がニッケル微粒子を含み、当該ニッケル微粒子の平均粒子径が0.5〜20nmであることを特徴とする、(5)から(14)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(16)実質的に溶媒を含まない条件下で加熱することを特徴とする、(5)から(15)のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
(17)得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物がニッケル微粒子を含むことを特徴とする、(5)から(14)のいずれか、または(16)に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
本発明によれば、溶融混練や溶媒混合を行うことなく、平均粒子径0.5〜20nmのニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を提供することができ、当該組成物を製造する方法を提供することができる。
本発明のニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、樹脂フィルムとして電子材料(プリント配線、導電性材料等)、磁性材料(磁気記録媒体、電磁波吸収体、電磁波共鳴体等)、触媒材料(高速反応触媒、センサー等)、構造材料(遠赤外材料、複合皮膜形成材等)、光学材料(特定波長光遮蔽フィルター、熱線吸収材料、紫外線遮蔽材料、波長変換材料、偏光材料、高屈折率材料、防眩材料、発光素子等)、セラミックス・金属材料(焼結助剤、コーティング材料等)、医療材料(抗菌材料、浸透膜等)などの各種用途への展開が期待できる。
さらに、環式ポリアリーレンスルフィドを、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体および一般式(D)で示されるニッケル化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の存在下で加熱することで、ニッケル微粒子が数nmから数十nmのオーダーで分散し、それによりポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械特性(例えば引張試験における引張伸度など)、および環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際の触媒活性を大きく向上することができる。
実施例1で得られたニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 実施例2で得られたニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 実施例3で得られたニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 実施例4で得られたニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 実施例5で得られたニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 比較例1で得られたニッケル粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 比較例2で得られたニッケル粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 実施例6で得られたニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 実施例7で得られたニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 実施例8で得られたニッケル微粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。 比較例11で得られたニッケル粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のTEM像を示す図である。
以下に、本発明実施の形態を説明する。
<ポリアリーレンスルフィド>
本発明におけるポリアリーレンスルフィドとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーである。Arとしては下記の式(E)〜式(O)などで表される単位などがあるが、なかでも式(E)が特に好ましい。
(R、Rは水素、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリーレン基、およびハロゲン基からなる群より選ばれる置換基であり、RとRは同一でも異なっていてもよい。)
この繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(P)〜(R)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。つまり、これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モル部に対して0〜0.01モル部の範囲であることが好ましい。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィドは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
本発明のポリアリーレンスルフィドの分子量は、重量平均分子量で10,000以上であり、20,000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましく、40,000以上であることがさらに好ましく、50,000以上であることがよりいっそう好ましく、60,000以上であることがさらにいっそう好ましい。重量平均分子量が10,000以上では加工時の成形性が良好で、また成形品の機械強度や耐薬品性などの特性が高くなる。重量平均分子量の上限に特に制限は無いが、1,000,000未満を好ましい範囲として例示でき、より好ましくは500,000未満、さらに好ましくは200,000未満であり、この範囲内では高い成形加工性を得ることができる。
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィドは、分子量分布の広がり、すなわち重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度が狭い特長を有する傾向にある。本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドの分散度は2.5以下が好ましく、2.3以下がより好ましく、2.1以下がさらに好ましい。分散度が2.5以下ではポリアリーレンスルフィドに含まれる低分子成分の量が少なくなる傾向が強く、このことはポリアリーレンスルフィドを成形加工用途に用いた場合の機械特性向上、加熱した際のガス発生量の低減及び溶剤と接した際の溶出成分量の低減などの効果を奏する。なお、前記重量平均分子量及び数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。分散度の下限は理論上1であり、本発明の製法で得られるポリアリーレンスルフィドにおいて通常は1.5以上の範囲が例示できる。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、N−メチルピロリドンのような溶媒を必要とせず、溶融混練も必要としない製造方法により得られることから、残留溶媒成分に由来するガス、溶融混練時の剪断発熱などによる劣化から生じる主鎖切断に由来するガスなどが発生しにくく、加熱加工時のガス発生量が少ない特長を有する。
このガス発生量は、一般的な熱重量分析によって求められる、下記式で表される、加熱した際の重量減少率ΔWrから評価できる。
ΔWr=(W1−W2)/W1×100(%)
なお、ΔWrは常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
この熱重量分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101.3kPa近傍の大気圧条件のことである。測定の雰囲気が前記以外では、測定中のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の酸化などが起こったり、実際にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形加工で用いられる雰囲気と大きく異なるなど、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の実使用に即した測定になり得ない可能性が生じる。
また、ΔWrの測定においては、50℃で1分間ホールドした後に、50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを実使用する際に頻用される温度領域であり、また、固体状態のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融させ、その後任意の形状に成形する際に頻用される温度領域でもある。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分量などに関連する。したがって、このような温度範囲における重量減少率が少ないポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の方が品質の高い優れたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であるといえる。ΔWrの測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は上記にて加熱した際の重量減少率ΔWrが0.20%以下であることが好ましく、0.16%以下がより好ましく、0.13%以下がさらに好ましく、0.10%以下がよりいっそう好ましい。
ΔWrが前記範囲の場合、例えばポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形加工する際に発生ガス量が少ない傾向があり、また、押出成形時の口金やダイス、また射出成形時の金型への付着物が少なく生産性が良好となる傾向があり好ましい。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は、環式ポリアリーレンスルフィドを前記一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体および一般式(D)で示されるニッケル化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種の存在下で加熱することを特徴とし、この方法によれば、本発明の、平均粒子径が0.5〜20nmであるニッケル微粒子を含み、前述した特性を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を容易に得ることができる。
本発明の製法における、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率は70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。転化率が70%以上では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる。
環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率は、加熱前の原料に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの重量、および、加熱により得られる生成物に含まれる未反応の環式ポリアリーレンスルフィドの重量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量し、その値から算出することができる。具体的には、
転化率=(加熱前の原料に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの重量−未反応の環式ポリアリーレンスルフィドの重量)/加熱前の原料に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの重量
のように算出することができる。
<ニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物>
本発明によって、平均粒子径0.5〜20nmのニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が得られる。
また、ニッケル微粒子の平均粒子径の上限は、ポリアリーレンスルフィドとニッケル微粒子との接触面積が大きい、すなわちニッケル微粒子の粒子径が小さいことにより上記特性が得られる観点から、20nm以下であり、15nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
さらに、ニッケル微粒子の平均粒子径が上記の好ましい範囲にあるとき、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際に、高い触媒活性を発現する傾向にある。
なお、本発明における平均粒子径とは、特に断りがない限り、以下の方法によって算出される。
すなわち、得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を、透過型電子顕微鏡(TEM)(装置:日立製H−7100)を用いて2万倍にて観察し、略1μm角(1μm×1μm)の大きさの領域(観察対象領域)が観察された観察像を得る。
次いで、前記の観察像において、前記の略1μm角(1μm×1μm)の領域(観察対象領域)が略20cm角(20cm×20cm)以上、略40cm角(40cm×40cm)以下の大きさになるように、前記の観察像を拡大する。
次いで、拡大された観察像の中から無作為に100個の粒子を抽出し、それぞれの粒子について長径と短径の和を平均化した値を代表粒子径とし、代表粒子径の数平均値を平均粒子径として算出する。
ただし、略1μm角(1μm×1μm)の観察対象領域を略20cm角(20cm×20cm)以上略40cm角(40cm×40cm)以下に拡大せしめた像から、100個の粒子を抽出できない場合には、より広い領域を観察し、観察像を得るものとする。そして、当該観察像において、観察された領域が略20cm角(20cm×20cm)以上略40cm角(40cm×40cm)以下の大きさになるように、前記の観察像を拡大する。そして、拡大された観察像の中から無作為に100個の粒子を抽出し、代表粒子径の数平均値を平均粒子径として算出する。より具体的には、略1μm角(1μm×1μm)の領域を観察しても、そこから100個の粒子を抽出できなかった場合には、略2μm角(2μm×2μm)の領域を観察し、そこから100個の粒子を抽出することを試みる。略2μ角(2μm×2μm)の領域を観察しても100以上の粒子を抽出できなかった場合には、略4μm角(4μm×4μm)の領域を観察して、そこから100個の粒子を抽出することを試みる。このような要領で、100個の粒子を抽出可能となるよう観察対象領域を広げ、平均粒子径を算出する。
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中の透過型電子顕微鏡観察像の微粒子がニッケルであることは、例えばエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を具備した透過型電子顕微鏡を用いて確認できる。したがって、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物がニッケル微粒子以外の粒子を含有する場合は、透過型電子顕微鏡(装置:日立製H−7100)に替えて、エネルギー分散型X線分光装置(EDS)を備えた透過型電子顕微鏡を用いて、ニッケル微粒子の粒子径を選択的に確認することができる。
また、透過型電子顕微鏡観察で得られるのは局所的な情報であるため、ニッケル粒子の分散状態を正確に評価するためには、目視や光学顕微鏡などにより観察可能な粗大粒子の有無を確認する必要がある。目視や光学顕微鏡などにより観察可能な粗大粒子の中でも、特に目視観察可能(代表粒子径50μm以上)な粗大粒子が存在した場合には、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の機械特性(例えば引張試験における引張伸度など)を向上する効果が小さい、あるいは向上する効果を発現しない傾向にあるため、ポリアリーレンスルフィド樹脂中に目視観察可能な粗大粒子が存在することは好ましくない。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のニッケル微粒子の、粒子径のばらつきは、変動係数(CV)を用いて評価することが可能である。変動係数は、前記の方法に基づき算出される平均粒子径と、平均粒子径を導出するために用いられた100個のニッケル微粒子の代表粒子径の標準偏差から、下記の式により算出できる。
変動係数=標準偏差/平均粒子径×100(%)
粒子径のばらつき(変動係数)は、小さいほうが好ましい。変動係数が小さいと、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の熱安定性が高くなり、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形加工品の機械特性(強度、伸びに優れる高靭性など)や熱伝導性がより安定し、特性のばらつきが小さくなる。変動係数の上限としては100%以下が例示でき、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下がさらに好ましく、40%以下がよりいっそう好ましく、30%以下がさらにいっそう好ましい。変動係数の下限は理論上0%であるが、通常は1%以上の範囲が例示できる。
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のニッケル含有量は、例えばポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を灰化し、灰化物を硝酸、ふっ化水素酸で加熱分解したのち、希硝酸に溶かし得た定容液をICP質量分析装置およびICP発光分光分析装置で分析することで定量できる。
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のニッケル量の下限としては、ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して0.001モル%以上が好ましく、より好ましくは0.004モル%以上、さらに好ましくは0.005モル%以上、最も好ましくは0.01モル%以上が例示できる。つまり、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のニッケル原子の含有量(ニッケル原子の個数)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中の硫黄原子の含有量(硫黄原子の個数)100モル部に対して、0.001モル部以上が好ましく、より好ましくは0.004モル部以上、さらに好ましくは0.005モル部以上、最も好ましくは0.01モル部以上である。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のニッケル原子の含有量としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物100重量部に対して、0.0005重量部以上が好ましく、より好ましくは0.002重量部以上、さらに好ましくは0.003重量部以上、よりいっそう好ましくは0.005重量部以上である。この範囲であれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に高い熱安定性を付与したり、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形加工品に高い機械特性(強度、伸びに優れる高靭性など)や優れた熱伝導性を付与することができる。本発明のニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物においては、ニッケル微粒子の平均粒子径が小さいため、ニッケル微粒子とポリアリーレンスルフィドとの接触面積が大きい傾向にあり、従来の溶融混練や溶媒混合を用いる方法により得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物におけるニッケル量に対し、比較的少ないニッケル量であってもポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形加工品の機械特性や熱伝導性が得られやすい傾向にある。
さらに、前記好ましい範囲であれば、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法において、より低温、短時間で環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化が進行し、ニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる傾向にある。
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のニッケルの含有量(ニッケル原子の個数)の上限としては、ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して20モル%以下が好ましく、より好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下が例示できる。つまり、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のニッケル原子の含有量(ニッケル原子の個数)は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中の硫黄原子の含有量(硫黄原子の個数)100モル部に対して、20モル部以下が好ましく、より好ましくは15モル部以下、さらに好ましくは10モル部以下である。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のニッケル原子の含有量としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物100重量部に対して、11重量部以下が好ましく、より好ましくは8重量部以下、さらに好ましくは5重量部以下である。この範囲であれば、ニッケル微粒子の分散は良好であり、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に高い熱安定性を付与したり、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形加工品に高い機械特性(強度、伸びに優れる高靭性など)や優れた熱伝導性を付与することができる。
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中のニッケル微粒子は、加熱加工時のガス発生量を減少させる目的で、無機ニッケル化合物が主であることが好ましく、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に含まれる全ニッケル原子の個数100モル%に対して、無機ニッケル化合物に由来するニッケル原子の個数は50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
無機ニッケル化合物としては、例えば0価ニッケル、酸化ニッケル、硫化ニッケルなどがあるが、中でも0価ニッケルが主であることが好ましく、全ニッケル化合物中の0価ニッケル量が50モル%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。この範囲であれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を加熱した際の重量減少率が小さく、成形加工する際に発生ガス量が少なく、また、押出成形時の口金やダイス、また射出成形時の金型への付着物が少なく生産性が良好となる。
<環式ポリアリーレンスルフィド>
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法における環式ポリアリーレンスルフィドとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とし、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(S)のごとき環式化合物を、少なくとも50重量%以上含むものであり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含むものが好ましい。Arとしては前記式(E)〜式(O)などで表される単位などがあるが、なかでも式(E)が特に好ましい。
なお、環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(S)式の環式化合物においては前記式(E)〜式(O)などの繰り返し単位をランダムに含んでもよいし、ブロックで含んでもよく、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい前記(S)式の環式化合物としては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式化合物が挙げられる。
環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(S)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、4〜50が好ましい。ここで下限は4以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上がさらに好ましく、7以上がよりいっそう好ましく、8以上がさらにいっそう好ましい。mが小さい環式化合物は反応性が低い傾向があるため、短時間でポリアリーレンスルフィドが得られるようになるとの観点ではmを前記範囲にすることが好ましい。一方上限は50以下が好ましく、25以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。後述するように環式ポリアリーレンスルフィドの加熱によるポリアリーレンスルフィドへの転化は環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度以上で行うことが好ましいが、mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度が高くなる傾向にある。そのため、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化をより低い温度で行うためには、mを前記範囲にすることが好ましい。
また、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(S)式の環式化合物は、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物のいずれでもよいが、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも融解する温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の使用はポリアリーレンスルフィドへの転化を行う際の加熱温度をより低くできるため好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(S)式の環式化合物以外の成分はポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここでポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記した式(E)〜式(O)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(E)が特に好ましい。ポリアリーレンスルフィドオリゴマーはこれら繰り返し単位を主要構成単位とする限り、前記した式(P)〜式(R)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。つまり、これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モル部に対して0〜0.01モル部の範囲であることが好ましい。また、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの分子量としては、ポリアリーレンスルフィドよりも低分子量のものが例示でき、具体的には重量平均分子量で10,000未満であることが好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマー量は、環式ポリアリーレンスルフィドが含有する前記(S)式の環式化合物よりも少ないことが特に好ましい。すなわち環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(S)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比(前記(S)式の環式化合物/ポリアリーレンスルフィドオリゴマー)は1を超えることが好ましく、2.3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましく、9以上がよりいっそう好ましく、このような環式ポリアリーレンスルフィドを用いることで重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。
したがって、環式ポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドオリゴマーに対する前記(S)式の環式化合物の重量比の値が大きいほど、本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法により得られるポリアリーレンスルフィドの重量平均分子量は大きくなる傾向にある。この重量比に特に上限は無いが、該重量比が100を超えるためには、環式ポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィドオリゴマー含有量を著しく低減する必要があり、これには多大の労力を要する。本発明のポリアリーレンスルフィド製造方法によれば該重量比が100以下の環式ポリアリーレンスルフィドを用いても重量平均分子量が10,000以上のポリアリーレンスルフィドを容易に得ることが可能である。
環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(S)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比は、HPLCを用いて定量した環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(S)式の環式化合物量から算出することができる。例えば環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(S)式の環式化合物以外の成分がポリアリーレンスルフィドオリゴマーである場合には、
重量比=前記(P)式の環式化合物量(%)/(100−前記(S)式の環式化合物量(%))
のように算出できる。
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造に用いる環式ポリアリーレンスルフィドの分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000以下が好ましく、5,000以下が好ましく、3,000以下がさらに好ましく、一方、下限値は重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上がさらに好ましい。
<重合触媒およびニッケル微粒子源となるニッケル化合物>
環式ポリアリーレンスルフィドを加熱することにより、本発明のニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得るためには、(i)、(ii)および(iii)からなる群より選ばれる少なくとも1種のニッケル化合物を重合触媒かつニッケル微粒子源として用いる。
(i)一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物
(ここで、Rは水素、炭素数6〜24のアリール基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、および式(B)で表される構造(置換基)からなる群より選ばれる置換基を表し、前記の各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよく、式(B)中のkは0〜6の整数を表し、mは0または1の整数を表し、nは0〜6の整数を表す。)
(ii)一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体
(ここで、RおよびRは水素もしくは炭素数が1〜12の炭化水素基を表し、RおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。)
(iii)一般式(D)で示されるニッケル化合物
(ここで、mは0〜10の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基、およびハロゲン基からなる群より選ばれる置換基を表し、該アルキル基、該アルコキシ基、該アリール基の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい)。
<(i)一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物>
一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物について、Rは水素、炭素数6〜24のアリール基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基、および式(B)で表される構造(置換基)からなる群より選ばれる置換基であれば重合触媒およびニッケル微粒子源として有効であり、各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよい。例えば、水素;
アリール基としてフェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ビフェニル、およびナフチル;
アルケニル基としてメテニル、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、およびドデセニル;ならびに
アルキニル基としてメチニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、およびオクチニルなどが例示できる。また例えば、前記式(B)で表される構造からなるカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、フタル酸などが例示できる。
また、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物は無水物であってもよく、水和物であってもよい。
本発明におけるカルボン酸ニッケル化合物の重合触媒としての作用機構は現時点不明であるが、配位子や還元剤などの存在や添加を必要とせず、加熱による分解反応時に活性ニッケル化合物が生成していると推測しており、その活性ニッケル化合物としては、加熱による分解反応時にニッケル原子が還元されることで生成する0価ニッケル化合物の可能性を考えている。さらに、その活性ニッケル化合物生成時に活性ニッケル化合物は微粒子として分散し、それにより環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際の触媒活性が高くなると考えている。
前記カルボン酸ニッケル化合物の中でも、カルボン酸ニッケル化合物の構造中に炭素−炭素間の多重結合を含まないカルボン酸ニッケル化合物では、前記した活性ニッケル化合物の生成以外の反応が生じにくい傾向にあると考えられ、Rは水素または前記式(B)で表される構造のうちmが0である構造から選ばれる置換基であることがより好ましい。つまり、本発明では、(i)一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物が、以下の(1)または(2)の条件を満足することが、上記の観点から、好ましい。
(1) Rが水素であること。
(2) Rが、前記式(B)で表される構造(置換基)であって、mが0であること。
具体的には、例えば、Rが水素であるギ酸、ならびに、前記式(B)で表される構造からなるカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、およびアジピン酸などが例示できる。
さらに、カルボン酸ニッケル化合物におけるカルボン酸構造中の炭素数が少ない方が、添加した重合触媒量に対する環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の促進効果が高い傾向にあり、前記した活性ニッケル化合物の生成以外の反応が生じにくい傾向にあると考えられ、Rは水素または前記式(B)で表される構造のうちk、nが0である構造から選ばれる置換基であることがより好ましい。つまり、本発明では、(i)一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物が、以下の(1)または(3)の条件を満足することが、上記の観点から、好ましい。なお、本発明では、上記の(2)と下記の(3)が同時に満たされる態様も好ましい態様の一つである。つまり、本発明においては、Rが、前記式(B)で表される構造(置換基)であって、k、mおよびnが0であることも、好ましい態様の一つである。
(1) Rが水素であること。
(3) Rが、前記式(B)で表される構造(置換基)であって、kおよびnが0であること。
例えば、ギ酸、シュウ酸などが例示できる。
これらの中でも、ギ酸ニッケルが、加熱による分解反応がより低温で生じる傾向にあるためより好ましい。
また、ニッケル化合物が有効である理由は現時点で明らかではないが、遷移金属原子の中でも比較的原子半径が小さい傾向にあり、ニッケル原子とカルボン酸構造との距離が近づきやすく、加熱による分解反応時にニッケル原子とカルボン酸構造間での作用が生じやすく、活性ニッケル化合物を生成しやすいため、あるいは環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用が比較的強い傾向にあるため、あるいはニッケル原子は環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい化合物を形成可能であるためと推測している。
本発明では、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物存在下で加熱することが特徴であり、カルボン酸ニッケル化合物を原料として添加してもよいし、系内でカルボン酸ニッケル化合物を生成させてもよい。また、1種単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。ここで後者のように系内でカルボン酸ニッケル化合物を生成させるには、例えば一般的な溶液中でのカルボン酸ニッケル化合物合成方法で用いられるような、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、ハロゲン化ニッケルなどのニッケル塩とカルボン酸とから生成させる方法などが挙げられる。
<(ii)一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体>
一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体について、RおよびRは、水素または炭素数が1〜12の炭化水素基であれば重合触媒およびニッケル微粒子源として有効であり、各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよい。例えば、RおよびRは、水素、アルキル基、アリール基、アルケニル基、またはアルキニル基であれば重合触媒かつニッケル微粒子源として好ましい(なお、RおよびRは、同一でもそれぞれ異なっていてもよい)。より具体的には、水素;
アルキル基としてメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、s−ヘキシル、t−ヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、s−ヘプチル、t−ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、s−オクチル、t−オクチル、n−ノニル、イソノニル、s−ノニル、t−ノニル、n−デカニル、イソデカニル、s−デカニル、t−デカニル、n−ウンデカニル、イソウンデカニル、s−デカニル、t−デカニル、n−ドデカニル、イソドデカニル、s−ドデカニル、t−ドデカニル;
アリール基としてフェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ビフェニル、およびナフチル;
アルケニル基としてメテニル、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、およびドデセニル;
アルキニル基としてメチニル、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、およびオクチニル;ならびに
アリール基としてフェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ビフェニル、およびナフチル
などが例示できる。
また、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物は無水物であってもよく、水和物であってもよい。
本発明におけるカルボン酸ニッケルアミン錯体の重合触媒としての作用機構は現時点不明であるが、特開2010−64983号公報や国際公開第2011/115213号にカルボン酸ニッケルのアミン錯体の加熱により0価ニッケルが生成することが開示されている。カルボン酸ニッケルアミン錯体の加熱による分解反応時に活性ニッケル化合物が生成していると推測しているが、その活性ニッケル化合物としては、加熱による分解反応時にニッケル原子が還元されることで生成する0価ニッケル化合物の可能性を考えている。さらに、その活性ニッケル化合物生成時に活性ニッケル化合物は微粒子として分散し、それにより環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の際の触媒活性が高くなると考えている。
前記カルボン酸ニッケルアミン錯体の中でも、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物の構造中に炭素−炭素間の多重結合を含まないカルボン酸ニッケル化合物では、前記した活性ニッケル化合物の生成以外の反応が生じにくい傾向にあると考えられ、RおよびRは水素またはアルキル基から選ばれる置換基であることがより好ましい。
さらに、カルボン酸ニッケルアミン錯体におけるカルボン酸構造中の炭素数が少ない方が、添加した重合触媒量に対する環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化の促進効果が高い傾向にあり、前記した活性ニッケル化合物の生成以外の反応が生じにくい傾向にあると考えられ、RおよびRは水素または炭素数が1〜12の炭化水素基であることが好ましく、水素もしくは炭素数が1〜8の炭化水素基であることがより好ましい。
つまり、本発明では、(ii)一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体に含まれるRは、水素もしくは炭素数が1〜12の炭化水素基であることが好ましい。中でもRが水素であることが最も好ましい。一方で、Rが、炭素数が1〜12の炭化水素基である場合、炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。また、Rが炭化水素基である場合、その炭素数は1〜8であることが好ましい。
同様に、本発明では、(ii)一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体に含まれるRは、水素もしくは炭素数が1〜12の炭化水素基であることが好ましい。中でもRが水素であることが最も好ましい。一方で、Rが、炭素数が1〜12の炭化水素基である場合、炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。また、Rが炭化水素基である場合、その炭素数は1〜8であることが好ましい。
また、本発明では、RおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよいが、RおよびRが水素の場合であることが特に好ましい。なお、RおよびRが水素の場合、一般式(C)中のカルボン酸ニッケル化合物は、ギ酸ニッケルになる。
これらの中でも、ギ酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるギ酸ニッケルアミン錯体が、加熱による分解反応がより低温で生じる傾向にあるためより好ましい。
カルボン酸ニッケルアミン錯体中のアミンは、第1級アミンでニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば特に限定するものではなく、常温常圧で固体または液体のものが使用できる。ここで、常温常圧とは、25℃1気圧の状態をいう。常温で液体の第1級アミンは、カルボン酸ニッケルアミン錯体を形成する際の溶媒としても機能する。なお、常温常圧で固体の第1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、または有機溶媒を用いて溶解するものであれば、用いてもよい。
第1級アミンは、分散剤としても作用し、ニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得る際の粒子同士の凝集を抑えることができる。
第1級アミンは、芳香族第1級アミンであってもよいが、カルボン酸ニッケルアミン錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンがより好ましい。例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミンなどを挙げることができる。
第1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(またはニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一方、第2級アミンは立体障害が大きいため、カルボン酸ニッケルアミン錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、第3級アミンはニッケルイオンの還元能を有しないため、いずれも使用できない。
第1級アミンは、ニッケル微粒子の生成時に表面修飾剤としても機能する可能性があるため、第1級アミンの除去後においても二次凝集を抑制できる傾向にある。
さらに、第1級アミンは、カルボン酸ニッケルアミン錯体を還元してニッケルナノ粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、第1級アミンは、沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましい。また、脂肪族第1級アミンは、炭素数が8以上であることが好ましい。ここで、例えば炭素数が8である脂肪族アミンのC17NH(オクチルアミン)の沸点は185℃である。
2価のニッケルイオンは配位子置換活性種として知られており、形成する錯体の配位子は温度、濃度によって容易に配位子交換し、錯体が変化する可能性がある。例えば一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物および第1級アミンの混合物を加熱して錯化反応液を得る際、用いるアミンの炭素鎖長等の立体障害を考慮すると、例えば、下記式に示すように、カルボン酸イオン(RCOO)および(RCOO)が二座配位(T)または単座配位(U)のいずれかで配位する可能性があり、さらにアミンの濃度が大過剰の場合は外圏にカルボン酸イオンが存在する構造(V)をとる可能性がある。目的とする反応温度(還元温度)において均一溶液とするにはL、L、L、L、L、Lで示したような配位子のうち、少なくとも一つは第1級アミンであり、第1級アミンがニッケルイオンに配位した構造をとる必要がある。その状態をとるには、第1級アミンが過剰に反応溶液内に存在している必要があり、少なくともニッケルイオン1モルに対し、第1級アミンが2モル以上存在していることが好ましく、2.2モル以上存在していることがより好ましく、4モル以上存在していることがさらに好ましい。
一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンの反応によって生成するカルボン酸ニッケルアミン錯体の合成は、例えば、特開2010−64983号公報や国際公開第2011/115213号などに記載された公知の方法で行うことが例示できる。
この錯形成反応は、大気圧下で行うことも、大気圧よりも高い加圧条件下で行うことも、減圧条件下あるいは脱揮条件下で行うことも可能である。一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物、第1級アミン、生成するカルボン酸ニッケルアミン錯体の酸化を抑制する観点からは、非酸化性雰囲気下であることが好ましい。
この錯形成反応の温度は、錯形成反応を行う系内の条件により異なるが、例えば大気圧下での錯形成反応において、室温でも進行させることが可能であり、反応を確実かつより効率的に行うためには100℃以上の温度で加熱を行うことが好ましい。
このように錯形成反応を確実より効率的に行うという観点からは、加熱温度の下限は100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましく、125℃以上がさらに好ましく、140℃以上がよりいっそう好ましい。
この加熱は、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物として、例えばギ酸ニッケル2水和物や酢酸ニッケル4水和物のようなカルボン酸ニッケル化合物の水和物を用いた場合に特に有利である。
これにより、例えば一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物に配位した配位水と第1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、この錯体配位子としての水分子を解離させることができ、さらにその水分子を系外に出すことができるため、効率よくカルボン酸ニッケルアミン錯体を形成させることができる。例えば、ギ酸ニッケル2水和物は、室温では2個の配位水と2座配位子である2個のギ酸イオンが存在した錯体構造をとっており、加熱によりこの2つの錯体配位子としての水分子を解離させやすく、第1級アミンとの配位子置換による錯形成を効率よく進めることができる。
また、加熱温度の上限は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)の加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、175℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。
加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができるが、錯形成反応を確実に完結させるという観点から、15分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特にないが、長時間加熱することは、エネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンとの錯形成反応の進行の程度は、例えば赤外吸収スペクトルや紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いて確認することができる。例えば、ギ酸ニッケル2水和物とステアリルアミンの錯形成反応において、赤外吸収スペクトル測定を行うと、反応終了後にはギ酸ニッケル2水和物の水和水のO−Hに由来する3100−3400cm−1のピークが消失し、かわりに、脂肪族C−H基の伸縮振動に基づく2950−2850cm−1、N−H伸縮振動に基づく3325cm−1、3283cm−1およびN−H基の変角振動に基づく1630cm−1の位置にそれぞれ鋭いピークが認められ、ニッケルにアミンが配位していることを確認できる。また、紫外・可視吸収スペクトル測定装置にて、300nm〜750nmの波長領域において観測される吸収スペクトルの極大吸収波長測定を行うと、原料の極大吸収波長(例えば酢酸ニッケル4水和物ではその極大吸収波長は710nm)に対する反応液の極大吸収波長のシフトを観測することによって、ニッケルにアミンが配位していることを確認できる。
<(iii)一般式(D)で示されるニッケル化合物>
一般式(D)で示されるニッケル化合物について、mは0〜10の整数であれば重合触媒およびニッケル微粒子源として有効であるが、ニッケル化合物構造の立体的な安定性の観点からは0〜5であることが好ましく、さらにニッケル化合物構造の電子的な安定性の観点からは共鳴構造をとることができるため0であることがより好ましい。
nは1〜3の整数を表し、ニッケルの価数と同一の整数である。
およびRは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基、およびハロゲン基からなる群より選ばれる置換基であれば重合触媒およびニッケル微粒子源として有効である。また、アルキル基、アルコキシ基、アリール基中の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ブチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルおよびそれらのハロゲン置換体;
メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシおよびそれらのハロゲン置換体;
フェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチルおよびそれらのハロゲン置換体;ならびに
フッ素、塩素、臭素およびヨウ素などが例示できる。ニッケル化合物として具体的には、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル、ビス(トリフルオロ−2,4−ペンタンジオナト)ニッケルなどが例示できる。
中でも、RおよびRが電子供与性基であれば環式ポリアリーレンスルフィドの転化を促進する効果が大きい傾向にあるため炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、および炭素数6〜24のアリール基からなる群より選ばれる置換基であることが好ましい(ここで、該アルキル基、該アルコキシ基、該アリール基の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい)。
つまり、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、および炭素数6〜24のアリール基からなる群より選ばれる置換基であることがより好ましい。ここで、該アルキル基、該アルコキシ基、該アリール基の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。
また、Rは、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、および炭素数6〜24のアリール基からなる群より選ばれる置換基であることがより好ましい。ここで、該アルキル基、該アルコキシ基、該アリール基の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよい。
また、RおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。
このようなRおよびRとして、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ブチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルおよびそれらのハロゲン置換体;
メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシおよびそれらのハロゲン置換体;ならびに
フェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチルおよびそれらのハロゲン置換体などが例示できる。この理由は現時点で明らかではないが、電子供与性基を有することでニッケル原子が電子供与性を有し、その電子状態により、ニッケル原子と環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用が比較的強い傾向にあるためと推測している。
さらに、ニッケル化合物構造の立体的な安定性の観点からは炭素数1〜12のアルキル基であることがより好ましく、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ブチル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルおよびそのハロゲン置換体などが例示できる。
これらの中でも、電子供与性、ニッケル化合物構造の立体的な安定性を両立可能であり、さらに遷移金属化合物の入手性、取り扱い性にも優れるメチル基が最も好ましい。つまり、本発明では、RおよびRがメチル基であることが特に好ましい。
ニッケル化合物として具体的には、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルなどが例示できる。
なお、一般式(D)で示されるニッケル化合物は無水物であってもよく、水和物であってもよい。
また、ニッケル化合物が有効である理由は現時点で明らかではないが、遷移金属原子の中でも比較的原子半径が小さい傾向にあり、またニッケル原子は環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用が比較的強い傾向にあるため、あるいはニッケル原子は環式ポリアリーレンスルフィド中に分散しやすい化合物を形成可能であるためと推測している。
本発明では、一般式(D)で示されるニッケル化合物存在下で環式ポリアリーレンスルフィドを加熱することが特徴であり、一般式(D)で示されるニッケル化合物を原料として添加してもよいし、系内で一般式(D)で示されるニッケル化合物を生成させてもよい。また、1種単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。ここで後者のように系内で一般式(D)で示されるニッケル化合物を生成させるには、例えば一般的な溶液中でのアセチルアセトナート化合物合成方法で用いられるような、ニッケル塩とアセチルアセトンから生成させる方法などが挙げられる。
<ニッケル化合物の価数・結合・分散状態評価>
ニッケル原子の価数状態、ニッケル原子の周辺原子との結合または配位状態などは、例えばX線吸収微細構造(XAFS)解析、ESRスペクトル解析などにより把握が可能である。
例えばXAFS解析では、本発明において触媒として用いられる、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物、または、それらを含む環式ポリアリーレンスルフィド、または、それらを含む環式ポリアリーレンスルフィドの加熱により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物にX線を照射し、その吸収スペクトルを比較することで、ニッケル原子の状態把握およびその定量が可能である。
また例えばESRスペクトル解析では、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物、または、それらを含む環式ポリアリーレンスルフィド、または、それらを含む環式ポリアリーレンスルフィドの加熱により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のESR測定を行い、そのスペクトルの形状および線幅を比較することで、ニッケル原子の価数状態、ニッケル微粒子の分散状態を把握できる。
<重合触媒およびニッケル微粒子源となるニッケル化合物の添加量および添加方法>
本発明において使用される、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、および、一般式(D)で示されるニッケル化合物の濃度は、目的とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の分子量、ニッケル微粒子の粒子径、用いられるニッケル化合物の種類により異なるが、通常、下限としては、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して0.001モル%以上が好ましく、より好ましくは0.005モル%以上、さらに好ましくは0.01モル%以上が例示できる。0.001モル%以上では環式ポリアリーレンスルフィドはポリアリーレンスルフィドへ十分に転化する。一方、上限としては、ニッケル含有量が多くなると、ニッケル粒子の分散が不十分になりニッケル粒子同士の凝集が生じやすくなるため、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して20モル%以下が好ましく、より好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下が例示できる。20モル%以下では前述した特性を有するポリアリーレンスルフィドおよびポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる。
つまり、本発明において用いられる、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、および、一般式(D)で示されるニッケル化合物の濃度は、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子の存在量(個数)100モル部に対して、それぞれ、0.001モル部以上が好ましく、より好ましくは0.005モル部以上、さらに好ましくは0.01モル部以上であることが好ましく、また、20モル部以下が好ましく、より好ましくは15モル部以下、さらに好ましくは10モル部以下である。
なお、ここでいう一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物の濃度とは、これらを原料として添加する場合は、その濃度をいう。一方、系内で各ニッケル化合物を生成させる場合は、原料として添加するニッケル塩などの濃度をいう。
一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物、または系内で各ニッケル化合物を生成させるためのニッケル塩の添加に際しては、そのまま添加してもよいが、環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法、環式ポリアリーレンスルフィドを溶融し分散させる方法、あらかじめ重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内に分散させる方法、あるいは環式ポリアリーレンスルフィドの加熱時に繊維状物質を共存させる場合にはあらかじめ繊維状物質上に分散させる方法などが挙げられる。
機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。
溶媒を用いて分散させる方法として、具体的には環式ポリアリーレンスルフィドを適宜な溶媒に溶解または分散し、これにニッケル化合物を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。
環式ポリアリーレンスルフィドを溶融し分散させる方法としては、固体状態の環式ポリアリーレンスルフィドに各ニッケル化合物、ニッケル塩を添加した後、加熱により環式ポリアリーレンスルフィドを溶融させる方法、あらかじめ環式ポリアリーレンスルフィドを溶融した後に各ニッケル化合物、ニッケル塩を添加する方法などが例示できる。
あらかじめ重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内に分散させる方法としては、そのまま分散させる方法、適宜な溶媒に各ニッケル化合物、ニッケル塩を所定量加えた後、重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内で溶媒を除去することで分散させる方法などが例示できる。
あらかじめ繊維状物質上に分散させる方法としては、そのまま分散させる方法、適宜な溶媒に各ニッケル化合物、ニッケル塩を所定量加えた後、繊維状物質に塗布するか散布するか含浸させるなどした後、溶媒を除去することで分散させる方法などが例示できる。
また、2種以上の化合物を添加する場合には、添加する化合物の安定性、反応性にもよるが、一度に添加してもよいし、別々に添加した後に、重合反応装置、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などの装置内外で混合してもよい。
また、各ニッケル化合物、ニッケル塩が固体である場合、より均一な分散が可能となるため、それらの平均粒径は1mm以下であることが好ましいが、0.5〜20nmの範囲であることは必須ではない。
また、本発明で用いる一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物は、例えば重合触媒として知られている0価ニッケル化合物に対して安定性が高い傾向にある。そのため、例えば0価ニッケル化合物であるビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルは非酸化性雰囲気下で取り扱わない場合に環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果が低下する傾向にあるが、本発明で用いる一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物は非酸化性雰囲気下で添加することも好ましいが、大気中で添加することも可能である。
本発明で用いる一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物、または系内で各ニッケル化合物を生成させるためのニッケル塩を添加する際の温度は、添加に用いる方法が実施可能な温度範囲であれば特に制限はないが、上限としては、環式ポリアリーレンスルフィドがポリアリーレンスルフィドへ転化しにくい温度領域であることが好ましく、例えば300℃以下、好ましくは260℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは220℃以下、よりいっそう好ましくは200℃以下、さらにいっそう好ましくは180℃以下が例示できる。また、使用するニッケル化合物の種類によって異なるが、ニッケル化合物が環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化を促進しにくい温度領域であることが好ましい。
<ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造条件>
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を製造する際の加熱温度は、環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度であることが好ましく、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物から、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化を促進し、かつ微粒子として分散する活性ニッケル化合物が生成する温度であれば特に制限はない。ただし、加熱温度が環式ポリアリーレンスルフィドの融解温度未満では、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化に長時間が必要となる傾向がある。
なお、環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度は、環式ポリアリーレンスルフィドの組成や分子量、また、加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えば環式ポリアリーレンスルフィドを示差走査型熱量計で分析することで把握することが可能である。ただし、一般に融解する温度には幅があり、融点以上でも融解にともなう吸熱が継続する傾向があるため、均一に融解させるためには、加熱温度は環式ポリアリーレンスルフィドの融点以上であることが好ましく、環式ポリアリーレンスルフィドの融点よりも10℃以上高い温度が好ましく、20℃以上高い温度がより好ましい。なお、融点は示差走査熱量計により測定することができる。また、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物から活性ニッケル化合物が生成する温度についても、各ニッケル化合物の種類や加熱時の環境により変化するため、一意的に示すことはできないが、例えば各ニッケル化合物を熱重量測定装置で分析することで把握することが可能である。
加熱温度の下限としては、180℃以上が例示でき、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、さらに好ましくは240℃以上である。この温度範囲では、環式ポリアリーレンスルフィドが融解し、各ニッケル化合物と環式ポリアリーレンスルフィドが相溶しやすく、各ニッケル化合物の分解反応がより容易すなわち活性ニッケル化合物の生成が良好に進行し、短時間で環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化が進行し、ニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる。一方、温度が高すぎると環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などでの架橋反応や分解反応に代表される好ましくない副反応が生じやすくなる傾向にあり、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の特性が低下する場合があるため、このような好ましくない副反応が顕著に生じる温度は避けることが望ましい。加熱温度の上限としては、400℃以下が例示できる。この温度以下では、好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の特性への悪影響を抑制できる傾向にあり、前述した特性を有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得ることができる。また加熱温度は、加熱あるいは冷却に要するエネルギー低減や時間短縮が可能になり生産性が向上することから低い方がより好ましい。このことから、好ましい加熱温度として400℃以下、より好ましくは360℃以下、さらに好ましくは320℃以下、よりいっそう好ましくは300℃以下といった温度が例示できる。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱の際の雰囲気は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気とは環式ポリアリーレンスルフィドが接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応、各ニッケル化合物、生成した活性ニッケル化合物の酸化反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は、非酸化性雰囲気下であれば、大気圧下で行うことも、大気圧よりも高い加圧条件下で行うことも、減圧条件下あるいは脱揮条件下で行うことも可能である。
大気圧よりも高い加圧条件は、加熱時に、重合触媒かつニッケル微粒子源であるニッケル化合物が揮散しにくいという観点で好ましく、加圧条件の上限としては特に制限はないが、反応装置の取り扱いの容易さの面からは0.2MPa以下が好ましい。また、加熱を50kPa以上の条件下で行う場合、反応系内の雰囲気を一度非酸化性雰囲気としてから目的の圧力条件にすることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応、各ニッケル化合物、生成した活性ニッケル化合物の酸化反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
減圧条件下とは反応を行う系内が大気圧よりも低いことを指し、上限として50kPa以下が好ましく、20kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。下限としては0.1kPa以上が例示でき、0.2kPa以上がより好ましい。減圧条件が好ましい下限以上では、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる分子量の低い前記(S)式の環式化合物が揮散しにくい傾向にある。一方好ましい上限以下では、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマー、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物から加熱による分解反応時に生成する成分、各ニッケル化合物が水和物である場合にはニッケル化合物に含まれる水和水、ニッケル化合物が一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体である場合にはアミン化合物などを加熱系内から除去しやすい。また、融解した原料中のポリアリーレンスルフィドオリゴマー、分解生成成分、水和水、アミン化合物などの濃度が低下し、より効率よく加熱による分解反応、それにともなう活性ニッケル化合物の生成、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの加熱系内からの除去が可能になる。そして、それにより、より重量平均分子量が大きいポリアリーレンスルフィド樹脂が得られるたり、副反応の発生を抑制できる。
脱揮条件下とは環式ポリアリーレンスルフィドを一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体、一般式(D)で示されるニッケル化合物の存在下に加熱する際に発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する条件のことである。上記気体状態の成分としては、例えば、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーやそれぞれのニッケル化合物の特性、および脱揮条件の詳細により発生の有無やその程度は異なるが、例えばニッケル化合物から加熱による分解反応時に生成する成分、各ニッケル化合物が水和物である場合にはニッケル化合物に含まれる水和水、ニッケル化合物が一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体である場合にはアミン化合物などが例示できる。
上記条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であれば特に限定はされないが、例えば連続的な減圧条件下での脱揮や、連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件、発生した気体状態の成分を冷却し系外に捕集する条件などが挙げられる。脱揮条件下で加熱することにより、例えば、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマー、ニッケル化合物から加熱による分解反応時に生成する成分、各ニッケル化合物が水和物である場合にはニッケル化合物に含まれる水和水、ニッケル化合物が一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体である場合にはアミン化合物などを加熱系内からより除去しやすくなり、さらに、融解した原料中のポリアリーレンスルフィドオリゴマー、分解生成成分、水和水、アミン化合物などの濃度が低下する。そして、その結果、より効率よく加熱による分解反応、それにともなう活性ニッケル化合物の生成、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの加熱系内からの除去が促進される。そして、その結果、より重量平均分子量が大きいポリアリーレンスルフィド樹脂が得られたり、副反応の発生を抑制できる。
連続的な減圧条件下での脱揮における、連続的な減圧条件としては、発生した気体状態の成分を加熱系内から除去可能であればよく、例えば反応を行う系内全体が連続的に減圧されていてもよいし、成形品を製造する型、押出機や溶融混練機などを用いて加熱する場合には、常圧あるいは加圧条件下にある型内、押出機内、溶融混練機内などから一部が減圧装置に連結され連続的に減圧されていてもよい。ただし、例えば重合系内を減圧条件下で密封し加熱するよりも、連続的に減圧し脱揮を行うことで、融解した原料中のポリアリーレンスルフィドオリゴマー、分解生成成分、水和水、アミン化合物などの濃度がより低下しやすくなり、さらに、加熱による分解反応、それにともなう活性ニッケル化合物の生成、環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの加熱系内からの除去がより効率よく可能になる。そして、その結果、より重量平均分子量が大きいポリアリーレンスルフィド樹脂が得られたり、副反応の発生を抑制できる。
また、連続的に減圧する場合、反応系内の雰囲気は一度非酸化性雰囲気としてから減圧条件にすることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応、各ニッケル化合物、生成した活性ニッケル化合物の酸化反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。
連続的にガスを系内へ流入し、流入したガスとともに、発生した気体状態の成分を加熱系外に流出させる条件においては、反応系内の雰囲気は非酸化性雰囲気であることが好ましい。これにより環式ポリアリーレンスルフィド間、加熱により生成したポリアリーレンスルフィド間、及びポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィド間などで架橋反応や分解反応、各ニッケル化合物、生成した活性ニッケル化合物の酸化反応などの好ましくない副反応の発生を抑制できる傾向にある。用いるガスは窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスが好ましく、この中でも特に、経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素ガスが好ましい。
系内へ流入するガスの温度は、流入するガスの流量、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。ただし、安定なガス温度制御の面から0℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、安定な系内の加熱温度制御の面からはさらに、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、系内の加熱温度と同温度であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
また、系内へ流入するガスの流量は、流入するガスの温度、系内の加熱温度、反応系の構造にもよるが、環式ポリアリーレンスルフィドを各ニッケル化合物存在下に加熱する際に発生する気体状態の成分を加熱系内から除去可能であり、系内の加熱温度を安定に制御できる範囲であれば特に制限はない。ただし、環式ポリアリーレンスルフィドを各ニッケル化合物存在下に加熱する際に発生する気体状態の成分を、加熱系内から除去する効果の面からは、1分間に系内へ流入するガスの流量は、系内の容積の1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがよりいっそう好ましい範囲として例示できる。
脱揮による発生した気体状態の成分の加熱系内からの除去量は、加熱系外に除去された成分を回収し秤量する方法、加熱前後の重量差から算出する方法、得られたポリアリーレンスルフィドの加熱時重量減少により残存成分量を算出し差し引く方法などにより把握することができる。
本発明においては、加熱を脱揮条件下で行うことによって、上記の効果(以下、「加熱を脱揮条件下で行うことによって得られる共通の効果」と称することがある。)が奏される。加えて、環式ポリアリーレンスルフィドが(i)または(ii)の存在下で加熱される場合は、上記の効果に加えて以下の効果が奏される。
つまり、環式ポリアリーレンスルフィドを(i)または(ii)の存在下で加熱し、かつ当該加熱を脱揮条件下で行うことによって、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率をより高めることができる。
したがって、本発明において、環式ポリアリーレンスルフィドが、(i)または(ii)の存在下で加熱される場合は、加熱は脱揮条件下で行われることが好ましい。
一方、環式ポリアリーレンスルフィドを(iii)の存在下で加熱する場合は、加熱を脱揮条件下で行っても、常圧(大気圧)以上の圧力条件下で行っても、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率はほぼ同じである。したがって、本発明において、環式ポリアリーレンスルフィドを(iii)の存在下で加熱する態様の一つの特長は、加熱時の圧力条件によらず、高い転化率を保つことができることである。ただし、環式ポリアリーレンスルフィドを(iii)の存在下で加熱する態様であっても、加熱を脱揮条件下で行うことによって「加熱を脱揮条件下で行うことによって得られる共通の効果」が奏されるところ、加熱を脱揮条件下で行うことが妨げられるものではない。
反応時間は、使用する環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(S)式の環式化合物の含有率や繰り返し数m、および分子量などの各種特性、使用する重合触媒かつニッケル微粒子源であるニッケル化合物の種類、ニッケル微粒子の粒子径、加熱の温度などの条件によって異なるため一様には規定できないが、前記した好ましくない副反応がなるべく起こらないように設定することが好ましい。加熱時間の下限としては0.01時間以上が例示でき、好ましくは0.05時間以上が例示できる。0.01時間以上であれば環式ポリアリーレンスルフィドをポリアリーレンスルフィドへ転化させることができる。一方上限としては100時間以下が例示でき、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下が例示できる。本発明の好ましい製造方法によれば、環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は2時間以下で行うことも可能である。加熱時間としては2時間以下、さらには1時間以下、0.5時間以下、0.3時間以下、0.2時間以下が例示できる。100時間以下では好ましくない副反応による得られるポリアリーレンスルフィドの特性への悪影響を抑制できる傾向にある。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は、実質的に溶媒を含まない条件下で行うことも可能である。このような条件下で行う場合、短時間での昇温が可能であり、反応速度が高く、短時間でポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得やすくなる傾向がある。したがって、本発明においては、実質的に溶媒を含まない条件下で加熱することが好ましい。ここで実質的に溶媒を含まない条件とは、環式ポリアリーレンスルフィド中の溶媒が10重量%以下であることを指し、3重量%以下がより好ましい。
前記加熱は、通常の重合反応装置を用いる方法で行うのはもちろんのこと、成形品を製造する型内で行ってもよいし、押出機や溶融混練機を用いて行うなど、加熱機構を具備した装置であれば特に制限なく行うことが可能であり、バッチ方式、連続方式など公知の方法が採用でき、脱揮機構を具備した装置であればより好ましい。
上記した環式ポリアリーレンスルフィドの加熱は繊維状物質の共存下で行うことも可能である。ここで繊維状物質とは細い糸状の物質のことであって、天然繊維のごとく細長く引き延ばされた構造である任意の物質が好ましい。繊維状物質存在下で環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化を行うことで、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物と繊維状物質からなる複合材料構造体を容易に作成する事ができる。このような構造体は、繊維状物質によって補強されるため、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物単独の場合に比べて、例えば機械物性に優れる傾向にある。
ここで、各種繊維状物質の中でも長繊維からなる強化繊維を用いることが好ましく、これによりポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を高度に強化する事が可能になる。一般に樹脂と繊維状物質からなる複合材料構造体を作成する際には、樹脂が溶融した際の粘度が高いことに起因して、樹脂と繊維状物質のぬれが悪くなる傾向にあり、均一な複合材料ができないなど、期待通りの機械物性が発現しないことが多い。ここでぬれとは、溶融樹脂のごとき流体物質と、繊維状化合物のごとき固体基質との間に実質的に空気または他のガスが捕捉されないようにこの流体物質と固体基質との物理的状態の良好かつ維持された接触があることを意味する。ここで流体物質の粘度が低い方が繊維状物質とのぬれは良好になる傾向にある。本発明の環式ポリアリーレンスルフィドは融解した際の粘度が、一般的な熱可塑性樹脂、例えばポリアリーレンスルフィドと比べて著しく低いため、繊維状物質とのぬれが良好になりやすい。環式ポリアリーレンスルフィドと繊維状物質が良好なぬれを形成した後、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法によれば環式ポリアリーレンスルフィドがポリアリーレンスルフィドに転化するので、繊維状物質とポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が良好なぬれを形成した複合材料構造体を容易に得ることができる。
繊維状物質としては長繊維からなる強化繊維が好ましいことを前述したとおりであり、本発明に用いられる強化繊維に特に制限はないが、好適に用いられる強化繊維としては、一般に、高性能強化繊維として用いられる耐熱性及び引張強度の良好な繊維があげられる。例えば、その強化繊維には、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維が挙げられる。この内、比強度、比弾性率が良好で、軽量化に大きな寄与が認められる炭素繊維や黒鉛繊維が最も良好なものとして例示できる。炭素繊維や黒鉛繊維は用途に応じて、あらゆる種類の炭素繊維や黒鉛繊維を用いることが可能であるが、引張強度450kgf/mm、引張伸度1.6%以上の高強度高伸度炭素繊維が最も適している。長繊維状の強化繊維を用いる場合、その長さは、5cm以上であることが好ましい。この長さの範囲では、強化繊維の強度を複合材料として十分に発現させることが容易となる。また、炭素繊維や黒鉛繊維は、他の強化繊維を混合して用いてもかまわない。また、強化繊維は、その形状や配列を限定されず、例えば、単一方向、ランダム方向、シート状、マット状、織物状、組み紐状であっても使用可能である。また、特に、比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、強化繊維が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も本発明には適している。
また、上記した環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化は充填剤の存在下で行うことも可能である。充填剤としては、例えば非繊維状ガラス、非繊維状炭素や、無機充填剤、例えば炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミナなどを例示できる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<分子量の測定>
ポリアリーレンスルフィドおよび環式ポリアリーレンスルフィドの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
<転化率の測定>
環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化率の算出は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
環式ポリアリーレンスルフィドの加熱により得られた生成物約10mgを250℃で1−クロロナフタレン約5gに溶解させた。室温に冷却すると沈殿が生成した。孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて1−クロロナフタレン不溶成分を濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分のHPLC測定により、未反応の環式ポリアリーレンスルフィド量を定量し、環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化率を算出した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
<加熱時重量減少率の測定>
ポリアリーレンスルフィドの加熱時重量減少率は熱重量分析機を用いて下記条件で行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件:
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から350℃まで昇温(昇温速度20℃/分)。
ΔWrは(b)の昇温において、下記式を用い、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である。
ΔWr=(W1−W2)/W1×100(%)。
<透過型電子顕微鏡(TEM)観察によるニッケル微粒子の粒子径と変動係数の算出>
ウルトラミクロトーム(装置:Leica製EM UC 7)にてポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の超薄切片を作製、透過型電子顕微鏡(装置:日立製H−7100)を用いて観察し、ポリフェニレンスルフィド樹脂中のニッケル微粒子の分散状態を確認した。すなわち、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を、2万倍にて観察し、略1μm角(1μm×1μm)の大きさの領域が観察された観察像を得た。得られた観察像において、前記の略1μm角(1μm×1μm)の領域(観察対象領域)が略20cm角(20cm×20cm)以上、略40cm角(40cm×40cm)以下の大きさになるように、前記の観察像を拡大した。そして、当該拡大された観察像から無作為に100個の粒子を抽出し、それぞれの粒子について長径と短径の和を平均化した値を代表粒子径とし、その数平均値を平均粒子径とした。
ただし、略1μm角の観察対象領域を略20cm角以上40cm角以下に拡大せしめた像から100個の粒子を抽出できない場合には、より広い領域を観察し、観察像を得た。そして、当該観察像において、観察された領域が略20cm角以上略40cm角以下の大きさになるように、前記の観察像を拡大した。そして、当該拡大された観察像から無作為に100個の粒子を抽出し、代表粒子径の数平均値を平均粒子径として算出した。
また、ニッケル微粒子の粒子径のばらつきを示す変動係数は、前記の通り算出した平均粒子径と、平均粒子径の算出に用いた100個のニッケル微粒子の代表粒子径の標準偏差から、下記の式により算出した。
変動係数=標準偏差/平均粒子径×100(%)。
<赤外分光分析>
装置 :Perkin Elmer System 2000 FT−IR
サンプル調製:KBr法。
<引張伸度(破断点伸度)の測定>
引張伸度の測定は、下記方法で行った。
340℃に設定したプレス機の金型間に、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物またはポリアリーレンスルフィド、およびスペーサーを配置し、340℃で4分間、約40kgf/cmの圧力をかけ加熱した。その後、150℃に設定したプレス機の金型間に直ちにポリアリーレンスルフィド樹脂組成物またはポリアリーレンスルフィドの溶融物を移し、5分間アニール処理を実施し、結晶化フィルムを得た。
打抜装置を用い、結晶化フィルムから、幅5mm、標点間距離10mm、全長50mm、厚み約0.2mmのダンベル形状のサンプルを作成した。サンプルの引張伸度を引張試験により求めた。引張試験の測定条件を以下に示す。なお、5回の測定結果から最大値および最小値を除き、3回の測定結果の平均値を算出した。
装置:オリエンテック社製 引張試験機(テンシロンUTA−2.5T)
引張速度:10%/分(1mm/分)
チャック間距離:25mm。
参考例1 環式ポリアリーレンスルフィドの調製
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を28.06g(0.240モル)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液21.88g(0.252モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20モル)、及びp−ジクロロベンゼン(p−DCB)36.16g(0.246モル)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素ガス下に密封した。
400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約1時間かけて昇温した。次いで200℃から250℃まで約30分かけて昇温した。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
得られた内容物500gを約1500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16μmのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥し、乾燥固体を得た。
得られた固形物を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことで固形分に含まれる低分子量成分を分離した。
クロロホルム抽出操作にて得られた抽出液から溶媒を除去した後、約5gのクロロホルムを加えてスラリーを調製し、これを約600gのメタノールに攪拌しながら滴下した。これにより得られた沈殿物を濾過回収し、70℃で5時間真空乾燥を行い、白色粉末を得た。この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜13の環式化合物を約96重量%含み、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造に好適に用いられる環式ポリフェニレンスルフィドであることが判明した。なお、GPC測定を行った結果、環式ポリフェニレンスルフィドは室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。
参考例2 ポリフェニレンスルフィド樹脂の合成
オートクレーブに、47%水硫化ナトリウム水溶液118g(1モル)、96%水酸化ナトリウム42.9g(1.03モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)162g(1.64モル)、酢酸ナトリウム28.8g(0.35モル)、及びイオン交換水150gを仕込み、常圧で窒素を通じながら235℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水213g及びNMP4.0g(40.4ミリモル)を留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。硫化水素の飛散量は25ミリモルであった。
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)148g(1.01モル)、NMP131g(1.33モル)を追添加し、反応容器を窒素ガス下に密封した。400rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温して、270℃で反応を140分間継続した。その後、240℃まで20分かけて冷却しながら、水33.3g(1.85モル)を系内に注入し、次いで240℃から210℃まで 0.4℃/分の速度で冷却した。その後室温近傍まで急冷した。
内容物を取り出し、400ミリリットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。得られた粒子を再度NMP480ミリリットルで85℃で洗浄した。その後840ミリリットルの温水で5回洗浄、濾別し、顆粒状のPPSポリマーを得た。これを、窒素気流下150℃で5時間加熱後、150℃で一晩減圧乾燥した。
得られたPPSの重量平均分子量は55,000、分散度は3.8であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.25%であった。
参考例3 無水ギ酸ニッケルの調製
大気下でギ酸ニッケル2水和物(Ni(HCOO)・2HO(和光純薬工業製)) 300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、150℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら30分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、淡緑色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、ギ酸ニッケル2水和物の水和水のO−Hに由来する3100−3400cm−1のピークが消失し、無水ギ酸ニッケルであることを確認した。
参考例4 ビス(ステアリルアミン)ギ酸ニッケルの調製
ここでは、特開2010−64983号公報および国際公開第2011/115213号に記載のビス(ステアリルアミン)ギ酸ニッケルの調製について記す。20mL試験管に、ギ酸ニッケル2水和物(Ni(HCOO)・2HO(和光純薬工業製))を0.553g(2.99ミリモル)、ステアリルアミンを1.6133g(5.99ミリモル)、順にはかり取りとった後、20mL試験管に三方コックを取り付けた。試験管内を真空ポンプで減圧後、窒素置換する操作を3回繰り返し行った。あらかじめ140℃に加熱しておいたオイルバスに、試験管を入れて、30分間加熱した後、試験管をオイルバスから取り出し、窒素下のまま放冷し、淡青色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、ギ酸ニッケル2水和物の水和水のO−Hに由来する3100−3400cm−1のピークが消失し、かわりに、脂肪族C−H基の伸縮振動に基づく2950−2850cm−1、N−H伸縮振動に基づく3325cm−1、3283cm−1、N−H基の変角振動に基づく1630cm−1の位置にそれぞれ鋭いピークが認められ、ニッケルにアミンが配位していることを確認した。
参考例5 ビス(ドデシルアミン)ギ酸ニッケルの調製
参考例4と同様の方法で、ビス(ドデシルアミン)ギ酸ニッケルを調製した。20mL試験管に、ギ酸ニッケル2水和物(Ni(HCOO)・2HO(和光純薬工業製))を0.932g(5.04ミリモル)、ドデシルアミンを1.870g(10.08ミリモル)、順にはかり取りとった後、20mL試験管に三方コックを取り付けた。試験管内を真空ポンプで減圧後、窒素置換する操作を3回繰り返し行った。あらかじめ140℃に加熱しておいたオイルバスに、試験管を入れて、30分間加熱した後、試験管をオイルバスから取り出し、窒素下のまま放冷し、淡青色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、ギ酸ニッケル2水和物に由来する水和水のO−Hに由来する3100−3400cm−1のピークが消失し、かわりに、脂肪族C−H基の伸縮振動に基づく2950−2850cm−1の位置、N−H伸縮振動に基づく3325cm−1、3283cm−1に鋭いピーク及びN−H基の変角振動に基づく1630cm−1の位置にそれぞれ鋭いピークが認められ、ニッケルにアミンが配位していることを確認した。
参考例6 ビス(オクチルアミン)ギ酸ニッケルの調製
参考例4と同様の方法で、ビス(ドデシルアミン)ギ酸ニッケルを調製した。20mL試験管に、ギ酸ニッケル2水和物(Ni(HCOO)・2HO(和光純薬工業製))を0.766g(4.14ミリモル)、オクチルアミンを1.07g(8.28ミリモル)、順にはかり取りとった後、20mL試験管に三方コックを取り付けた。試験管内を十分に窒素置換した。あらかじめ140℃に加熱しておいたオイルバスに、試験管を入れて、30分間加熱した後、試験管をオイルバスから取り出し、窒素下のまま放冷し、淡緑色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、ギ酸ニッケル2水和物に由来する水和水のO−Hに由来する3100−3400cm−1のピークが消失し、かわりに、脂肪族C−H基の伸縮振動に基づく2950−2850cm−1の位置、N−H伸縮振動に基づく3325cm−1、3283cm−1に鋭いピーク及びN−H基の変角振動に基づく1630cm−1の位置にそれぞれ鋭いピークが認められ、ニッケルにアミンが配位していることを確認した。
実施例1
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、窒素雰囲気下で保管のギ酸ニッケル2水和物(和光純薬工業製、表中にNi(HCOO)・2HOと記載、以下同様)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%、窒素雰囲気下で混合し(つまり、環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子の存在量(硫黄原子の個数)100モル部に対して、1モル部のギ酸ニッケル2水和物を窒素雰囲気下で混合した)、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら10分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は70%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は9.0万、分散度は2.2であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.04%であった。さらに、得られた固体のTEM像(観察対象領域の大きさ:1μm×1.2μm)は図1のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は11.7nm、変動係数は53.1%であった。結果を表1に示した。
なお、ガラス製アンプル内を約0.4kPaに保った状態で、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置した場合の、アンプル内温度を別途測定したところ、電気炉内にアンプルを設置してから約3分後に260℃に、約4分後に290℃に到達し、約5分後以降300℃で安定することがわかった。
実施例2
実施例1で用いたギ酸ニッケル2水和物にかえて、参考例3の無水ギ酸ニッケルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は84%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は10.3万、分散度は2.5であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.12%であった。さらに、得られた固体のTEM像(観察対象領域の大きさ:1μm×1.2μm)は図2のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は13.5nm、変動係数は37.1%であった。結果を表1に示した。
実施例3
実施例1で用いたギ酸ニッケル2水和物にかえて、参考例4のビス(ステアリルアミン)ギ酸ニッケルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は93%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は7.1万、分散度は2.5であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.10%であった。さらに、得られた固体のTEM画像(観察対象領域の大きさ:1μm×1.2μm)は図3のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は9.0nm、変動係数は43.5%であった。結果を表1に示した。
実施例4
実施例1で用いたギ酸ニッケル2水和物にかえて、参考例5のビス(ドデシルアミン)ギ酸ニッケルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は83%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は8.0万、分散度は2.2であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.03%であった。さらに、得られた固体のTEM画像(観察対象領域の大きさ:1μm×1μm)は図4のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は10.4nm、変動係数は64.8%であった。結果を表1に示した。
実施例5
実施例1で用いたギ酸ニッケル2水和物にかえて、不活性雰囲気下で密栓された未開封のビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(表中にNi(acac)と記載、以下同様)を用い、加熱時間を60分とした以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は89%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は11.0万、分散度は2.5であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.09%であった。さらに、得られた生成物のTEM像(観察対象領域の大きさ:1μm×1μm)は図5のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は8.2nm、変動係数は44.6%であった。結果を表1に示した。
比較例1
実施例5で用いたビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルにかえて、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(表中にNi(tpp)と記載、以下同様)を用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は72%であることがわかった。さらに、観察像から100個以上の粒子を抽出することができるように、得られた固体を1万倍にて観察したTEM像(観察対象領域の大きさ:2μm×2.4μm)は図6のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は23.0nm、変動係数は60.4%であった。結果を表1に示した。
比較例2
実施例5で用いたビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルにかえて、塩化ニッケルを用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、黒色凝集物を含む茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であり、特に黒色凝集物が不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は44%であることがわかった。さらに、観察像から100個以上の粒子を抽出することができるように、得られた固体を1万倍にて観察したTEM像(観察対象領域の大きさ:2μm×2.4μm)は図7のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は28.8nm、変動係数は60.1%であった。また、得られた固体中には目視観察可能な粗大なニッケル凝集物が存在した。結果を表1に示した。
比較例3
ここでは、特開2010−275464に記載のニッケル微粒子を含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に準じた合成について記す。樹脂溶融混練装置であるラボプラストミル(装置:東洋精機製作所社製、50C150型)を用いて、以下の条件で溶融混練法により、参考例2で作製したポリフェニレンスルフィド樹脂とニッケル微粒子とを混練した。加熱温度320℃に加熱した混練室にミキサー回転数10rpmで混練刃を回転させつつ、ドライブレンドした参考例2のポリフェニレンスルフィド樹脂粉末50.0gと金属ニッケルナノ粒子10.0g(JFEミネラル株式会社製、NFP201、平均一次粒径200nm)とを導入した。混練室に粉末を完全に導入したのち、ミキサー回転数を装置上限である150rpmに高め10分間溶融混練処理を行って、ニッケル粒子含有ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を回収した。TEM像から算出したニッケル粒子の平均粒子径は500nmであった。結果を表2に示した。
比較例4
ここでは、特開2010−275464に記載のニッケル微粒子を含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に準じた合成について記す。温度センサーおよび窒素ガスライン(入口、出口各1)を連結した内容積1.5Lの攪拌翼付SUS316釜中に、有機溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)800gを入れた後、金属ニッケルナノ粒子(JFEミネラル株式会社製、NFP201、平均一次粒径200nm)40.0gと、参考例2で作製したポリフェニレンスルフィドを200g仕込み、完全に密閉した。その後、窒素ガス用の入口、出口を開け、窒素ガスを1L/分の流量で10分間流通させることで容器中の空気を置換した後、窒素ガス用の入口、出口を閉じた。300回転/分の速度で槽内を攪拌しつつ4℃/分で昇温し250℃に到達したあと30分間保持した。その後、攪拌を維持しつつ加熱を停止し、槽内を4℃/分で70℃まで冷却したところで攪拌を停止し釜を開放した。釜の内容物を2Lのイオン交換水中にいれ室温下で30分間攪拌することで分散洗浄を行い、この分散スラリーを90mmφのヌッチェに桐山ロート5B濾紙を敷いた上から注ぎ減圧濾過を行った。濾紙上の樹脂組成物を2Lのイオン交換水で分散洗浄する操作をもう2回繰り返すことで洗浄濾過液が透明になった。ここで回収した濾紙上の樹脂組成物を金属バット上に広げ、120℃で14時間熱風乾燥することで、ニッケル粒子含有ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を回収した。TEM像から算出したニッケル粒子の平均粒子径は220nmであった。結果を表2に示した。
比較例5
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドを用いたこと以外は、比較例3と同様の操作を行い、黒色固体を得た。TEM像から算出したニッケル粒子の平均粒子径は350nmであった。結果を表2に示した。
実施例1から5の結果から、環式ポリフェニレンスルフィドを一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物であるギ酸ニッケル2水和物および無水ギ酸ニッケル、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体であるビス(ステアリルアミン)ギ酸ニッケル、ビス(ドデシルアミン)ギ酸ニッケル、一般式(D)で示されるニッケル化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルの存在下で加熱することで簡便に得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、平均粒子径が0.5〜20nmであるニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であることがわかった。
比較例1および2の結果から、環式ポリフェニレンスルフィドを、0価ニッケル化合物、弱ルイス酸であるニッケル化合物の存在下で加熱しても、平均粒子径0.5〜20nmのニッケル微粒子を含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は得られないことがわかった。
比較例3から5の結果から、溶融混練や溶液混合によるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法では、ニッケル粒子同士の凝集が起こり、平均粒子怪が大きくなり、平均粒子径0.5〜20nmのニッケル微粒子を含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は得られないことがわかった。
実施例6
ガラス製アンプルに仕込む、環式ポリフェニレンスルフィドとギ酸ニッケル2水和物を混合した粉末の量を5gに、加熱時間を60分に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は91%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は9.2万、分散度は2.4であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.04%であった。さらに、得られた固体のTEM像(観察対象領域の大きさ:1μm×1μm)は図8のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は10.3nm、変動係数は48.0%であった。引張伸度は30.8%であった。結果を表3に示した。
実施例7
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、不活性雰囲気下で密栓された未開封のビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルを環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%、窒素雰囲気下で開封、混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、アンプル内を常圧の窒素雰囲気下に保ったまま60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は90%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は8.6万、分散度は2.5であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.15%であった。さらに、得られた固体のTEM像(観察対象領域の大きさ:1μm×1μm)は図9のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は11.3nm、変動係数は45.5%であった。結果を表3に示した。
実施例8
実施例7で用いたビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルにかえて、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル2水和物を用いた以外は実施例7と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は87%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は9.0万、分散度は2.4であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.12%であった。さらに、得られた固体のTEM像(観察対象領域の大きさ:1μm×1μm)は図10のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は8.3nm、変動係数は21.0%であった。結果を表3に示した。
比較例6
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィド300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は35%であることがわかった。結果を表3に示した。
比較例7
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィド300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、アンプル内を常圧の窒素雰囲気下に保ったまま60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は37%であることがわかった。結果を表3に示した。
比較例8
実施例5で用いたビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルにかえて、不活性雰囲気下で密栓された未開封のビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(表中にNi(cod)と記載、以下同様))を用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は78%であることがわかった。結果を表3に示した。
比較例9
実施例7で用いたビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルにかえて、不活性雰囲気下で密栓された未開封のビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルを用いた以外は実施例7と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は58%であることがわかった。結果を表3に示した。
比較例10
ガラス製アンプルに仕込む環式ポリフェニレンスルフィドの量を5gに、加熱温度を340℃に、加熱時間を120分に変更した以外は比較例6と同様の操作を行い、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は95%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は10.2万、分散度は2.4であることがわかった。引張伸度は23.0%であった。結果を表3に示した。
比較例11
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、金属ニッケルナノ粒子(平均一次粒径100nmを環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%、窒素雰囲気下で混合し、混合した粉末5gをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら180分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は94%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は10.7万、分散度は2.3であることがわかった。さらに、100個以上の粒子を抽出可能な、得られた固体の2,000倍にて観察したTEM像(観察対象領域の大きさ:1μm×1μm)は図11のようになり、ニッケル粒子の平均粒子径は110.3nm、変動係数は53.1%であった。引張伸度は22.3%であった。結果を表3に示した。
実施例5から8の結果と、比較例6および7の結果との比較から、環式ポリフェニレンスルフィドを一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物であるギ酸ニッケル2水和物、一般式(D)で示されるニッケル化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(無水物および2水和物)の存在下で加熱することで、より短時間で環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が進行することがわかった。
また、実施例5および6の結果と、比較例8の比較から、一般式(D)で示されるニッケル化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルを用いる場合には、0価遷移金属化合物であるビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルを用いる場合に比べ、より短時間で環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を進行可能なことがわかった。
また、実施例5と実施例7の比較から、一般式(D)で示されるニッケル化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルが環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果は、脱揮条件下と常圧の窒素雰囲気下とで同等であることがわかった。
一方で、比較例8と比較例9の比較から、0価遷移金属化合物であるビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルを添加する場合には、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果は、脱揮条件下に対して常圧の窒素雰囲気下では低下することがわかった。
また、実施例6、比較例10、11の比較から、本発明にかかるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(実施例6)を用いてなるフィルムの引張伸度が、比較例10および11のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を用いてなるフィルムの引張伸度よりも優れることがわかった、また、粗大なニッケル粒子を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(比較例11)を用いてなるフィルムの引張伸度は、ニッケル化合物を有しないポリアリーレンスルフィド樹脂(比較例10)を用いてなるフィルムの引張伸度と同等であることがわかった。
実施例9
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、窒素雰囲気下で保管のギ酸ニッケル2水和物を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%、窒素雰囲気下で混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、アンプル内を常圧の窒素雰囲気下に保ったまま10分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は38%であることがわかった。結果を表4に示した。
実施例10
実施例1で用いたギ酸ニッケル2水和物にかえて、参考例6のビス(オクチルアミン)ギ酸ニッケルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は81%であることがわかった。GPC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドに由来するピークと生成したポリマー(PPS)のピークが確認でき、得られたPPSの重量平均分子量は8.1万、分散度は2.1であることがわかった。得られた生成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔWrは0.03%であった。結果を表4に示した。
実施例11
実施例1で用いたギ酸ニッケル2水和物にかえて、不活性雰囲気下で密栓された未開封のビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(表中にNi(acac)と記載、以下同様)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は64%であることがわかった。結果を表4に示した。
実施例12
実施例9で用いたギ酸ニッケル2水和物にかえて、不活性雰囲気下で密栓された未開封のビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルを用いた以外は実施例9と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は61%であることがわかった。結果を表4に示した。
比較例12
加熱時間を10分に変更した以外は比較例6と同様の操作を行い、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は11%であることがわかった。結果を表4に示した。
比較例13
加熱時間を10分に変更した以外は比較例7と同様の操作を行い、茶色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は12%であることがわかった。結果を表4に示した。
比較例14
実施例1で用いたギ酸ニッケル2水和物にかえて、不活性雰囲気下で密栓された未開封の酸化ニッケルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は8%であることがわかった。結果を表4に示した。
実施例1、2、3、4、9、10、11、12の結果と、比較例12および13の結果との比較から、環式ポリフェニレンスルフィドを一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物であるギ酸ニッケル2水和物および無水ギ酸ニッケル、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体であるビス(ステアリルアミン)ギ酸ニッケル、ビス(ドデシルアミン)ギ酸ニッケル、ビス(オクチルアミン)ギ酸ニッケル、一般式(D)で示されるニッケル化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルの存在下で加熱することで、より短時間で環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が進行することがわかった。
実施例1と実施例9の比較から、環式ポリフェニレンスルフィドを一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物であるギ酸ニッケル2水和物の存在下で加熱する際、脱揮条件下で加熱することで、より短時間で環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が進行することがわかった。
実施例1と実施例2の比較から、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物であるギ酸ニッケルの中でも、無水ギ酸ニッケルを用いた場合、ギ酸ニッケル2水和物を用いた場合に比べて、より短時間で環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が進行することがわかった。
実施例1から4の比較から、一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体であるビス(ステアリルアミン)ギ酸ニッケル、ビス(ドデシルアミン)ギ酸ニッケル、ビス(オクチルアミン)ギ酸ニッケル、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物のうち無水ギ酸ニッケルを用いた場合には、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物のうちギ酸ニッケル2水和物を用いた場合に比べて、より短時間で環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化が進行することがわかった。
また、実施例11と実施例12の比較から、一般式(D)で示されるニッケル化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルが環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果は、脱揮条件下と常圧の窒素雰囲気下とで同等であることがわかった。
比較例14と比較例12の比較から、環式ポリフェニレンスルフィドを(i)、(ii)および(iii)以外のニッケル化合物である酸化ニッケルの存在下で加熱しても、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化は促進されないことがわかった。
実施例13
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、大気下で2ヶ月保管のギ酸ニッケル2水和物を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%、大気下で混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は91%であることがわかった。結果を表5に示した。
実施例14
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、大気下で2ヶ月保管のビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルを環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%、大気下で混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら10分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は60%であることがわかった。結果を表5に示した。
実施例15
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、大気下で2ヶ月保管のビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルを環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%、大気下で混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、アンプル内を常圧の窒素雰囲気下に保ったまま10分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は58%であることがわかった。結果を表5に示した。
比較例15
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、窒素雰囲気下で2ヶ月保管のビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルを環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%、窒素雰囲気下で混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は62%であることがわかった。結果を表5に示した。
比較例16
加熱時間を10分に変更した以外は比較例8と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は49%であることがわかった。結果を表5に示した。
比較例17
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、窒素雰囲気下で2ヶ月保管のビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルを環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%、窒素雰囲気下で混合し、混合した粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ち脱揮をしながら10分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であることがわかり、生成したPPS成分は可溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は21%であることがわかった。結果を表5に示した。
実施例6と実施例13の比較から、一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物であるギ酸ニッケル2水和物は、大気下で保管しても、環式ポリフェニレンスルフィドへの添加を大気下で行っても、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果が保たれており、高い安定性を有し、取り扱い性に優れることがわかった。
比較例8と比較例15の比較から、0価遷移金属化合物であるビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルは、窒素雰囲気下(酸素濃度1体積%以下)で保管しても、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果が低下する傾向にあり、安定性が低いことがわかった。
実施例11と実施例14の比較、実施例12と実施例15の比較から、一般式(D)で示されるニッケル化合物であるビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケルは、大気下で保管しても、環式ポリフェニレンスルフィドへの添加を大気下で行っても、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果はほとんど低下せず保たれており、高い安定性を有し、取り扱い性に優れることがわかった。
比較例16と比較例17の比較から、0価遷移金属化合物であるビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルは、窒素雰囲気下(酸素濃度1体積%以下)で保管しても、環式ポリフェニレンスルフィドのポリフェニレンスルフィドへの転化を促進する効果が低下する傾向にあり、安定性が低いことがわかった。

Claims (16)

  1. 平均粒子径が0.5〜20nmであるニッケル微粒子を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  2. ポリアリーレンスルフィド樹脂の、重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  3. 加熱した際の重量減少が下記式を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
    ΔWr=(W1−W2)/W1×100≦0.20(%)
    (ここでΔWrは重量減少率(%)であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から330℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際に、100℃到達時点の試料重量(W1)を基準とした330℃到達時の試料重量(W2)から求められる値である)
  4. ポリアリーレンスルフィド樹脂中の硫黄原子に対し0.001〜20モル%のニッケル原子を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
  5. 環式ポリアリーレンスルフィドを、(i)、(ii)および(iii)からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下で加熱することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
    (i)一般式(A)で示されるカルボン酸構造とニッケルとからなるカルボン酸ニッケル化合物
    (ここで、Rは水素、炭素数6〜24のアリール基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭炭素数1〜12のアルキニル基、および式(B)で表される構造(置換基)からなる群より選ばれる置換基を表し、前記の各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよく、式(B)中のkは0〜6の整数を表し、mは0または1の整数を表し、nは0〜6の整数を表す。)
    (ii)一般式(C)で示されるカルボン酸ニッケル化合物と第1級アミンからなるカルボン酸ニッケルアミン錯体
    (ここで、RおよびRは水素もしくは炭素数が1〜12の炭化水素基を表し、RおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。)
    (iii)一般式(D)で示されるニッケル化合物
    (ここで、mは0〜10の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基、およびハロゲン基からなる群より選ばれる置換基を表し、該アルキル基、該アルコキシ基、該アリール基の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい。)
  6. 環式ポリアリーレンスルフィドを、(i)のうち、Rが水素または式(B)で表される構造中のmが0である構造から選ばれる置換基であるカルボン酸ニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、請求項5に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  7. 環式ポリアリーレンスルフィドを、(i)のうち、Rが水素または式(B)で表される構造中のkおよびnが0である構造から選ばれる置換基であるカルボン酸ニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、請求項5または6に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  8. 環式ポリアリーレンスルフィドを、ギ酸ニッケルの存在下で加熱することを特徴とする、請求項5に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  9. 環式ポリアリーレンスルフィドを、(ii)のうち、Rが水素または炭素数が1〜8の炭化水素基であり、Rが水素または炭素数が1〜8の炭化水素基であるカルボン酸ニッケルアミン錯体の存在下で加熱することを特徴とする、請求項5に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  10. 環式ポリアリーレンスルフィドを、(ii)のうち、第1級アミンが脂肪族アミンであるカルボン酸ニッケルアミン錯体の存在下で加熱することを特徴とする、請求項5または9に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  11. 加熱を脱揮条件下で行うことを特徴とする、請求項5〜10のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  12. 環式ポリアリーレンスルフィドを、(iii)のうち、Rが炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、および炭素数6〜24のアリール基からなる群より選ばれる置換基であり、Rが炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、および炭素数6〜24のアリール基からなる群より選ばれる置換基であるニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、請求項5に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法(ここで、該アルキル基、該アルコキシ基、該アリール基の水素原子はハロゲン原子で置換されていてもよく、またRおよびRは同一でもそれぞれ異なっていてもよい)。
  13. 環式ポリアリーレンスルフィドを、(iii)のうち、RおよびRがメチル基であるニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、請求項5に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  14. 環式ポリアリーレンスルフィドを、(iii)のうち、mが0であるニッケル化合物の存在下で加熱することを特徴とする、請求項5、12、13のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  15. 得られるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物がニッケル微粒子を含み、当該ニッケル微粒子の平均粒子径が0.5〜20nmであることを特徴とする、請求項5から14のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
  16. 実質的に溶媒を含まない条件下で加熱することを特徴とする、請求項5から15のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
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