JPWO2013180238A1 - 認知症治療剤又は予防剤 - Google Patents
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Abstract
Description
したがって、以上のような状況から、特に認知機能の改善に対して強い効果を有する治療剤又は予防剤が求められている。
また、本発明は、Ser413周辺に相当するアミノ酸残基がリン酸化されたタウに対して特異的に抗原抗体反応する抗体や、Ser413周辺のアミノ酸配列を有し少なくとも1つのアミノ酸残基がリン酸化されたペプチドを有効成分として含有する認知症治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、高い認知機能改善効果を有するモノクローナル抗体を提供し、さらにそのモノクローナル抗体の構造の解析からヒト化抗体等の、さらに認知症治療に適した抗体の作製方法を提供することを目的とする。
(2)該抗体が、認知症に特徴的なリン酸化を受けたタウタンパク質に抗原抗体反応する抗体である、(1)に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(3)該抗体が、Ser412、Ser413、Thr414、及びSer416から選ばれる1つ以上の部位がリン酸化されたタウタンパク質に抗原抗体反応することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(4)該抗体が、タウタンパク質に対する結合において、配列番号20に記載のアミノ酸からなるVH及び配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるVLを含む抗体と結合競合する抗体である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(5)該抗体が、配列番号20に記載のアミノ酸からなるVH及び配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるVLを含む抗体である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(6)該抗体が、Ser413の部位に相当するアミノ酸残基がリン酸化されたタウタンパク質に抗原抗体反応する抗体である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(7)該抗体が、配列番号7から13で表されるH鎖のCDR配列、配列番号7から13の少なくとも1つで表されるH鎖のCDR配列、又は配列番号7から13で表されるH鎖のCDR配列の少なくとも1つと85%以上の相同性を有するH鎖のCDR配列、及び/あるいは、配列番号14から17で表されるL鎖のCDR配列、配列番号14から17の少なくとも1つで表されるL鎖のCDR配列、又は配列番号14から17で表されるL鎖のCDR配列の少なくとも1つと85%以上の相同性を有するL鎖のCDR配列を有する抗体である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(8)該抗体が、配列番号18から24のいずれかで表されるH鎖可変領域、もしくは配列番号18から24のいずれかと85%以上の相同性の配列を有するH鎖可変領域、及び/又は配列番号25から30のいずれかで表されるL鎖可変領域、もしくは配列番号25から30のいずれかと85%以上の相同性の配列を有するL鎖可変領域を有する抗体である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(9)該抗体が、ヒト化抗体又はキメラ抗体である、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(10)配列番号1のアミノ酸番号410〜421に相当するアミノ酸残基からなるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続する8つのアミノ酸配列を含むペプチドであり、当該ペプチドに含まれる少なくとも1つのアミノ酸残基がリン酸化されたペプチドを有効成分として含有する、認知症治療剤又は予防剤。
(11)該ペプチドに含まれるリン酸化されたアミノ酸残基の少なくとも一つが、配列番号1のSer412、Ser413、Thr414、又はSer416のアミノ酸残基に相当するペプチドである、(10)に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(12)該ペプチドに含まれるリン酸化されたアミノ酸残基が、少なくとも配列番号1のSer413に相当するアミノ酸残基である、(10)又は(11)に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(13)認知症が、タウオパチーである、(1)から(12)のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(14)タウオパチーが、アルツハイマー病、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、ピック病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀性顆粒病)、Multiple system tauopathy with dementia(MSTD)、17番染色体に連鎖するパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP−17)、神経原線維変化型認知症、石灰沈着を伴うび慢性神経原線維変化病(DNTC)、球状グリア封入体を伴う蛋白質タウオパチー(WMT−GGI)、又はタウ陽性封入体を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD−tau)である、(13)に記載の認知症治療剤又は予防剤。
(15)配列番号1のアミノ酸番号410〜421からなるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続する8つのアミノ酸配列を有するペプチドであり、当該ペプチドに含まれる配列番号1のSer413に相当するアミノ酸残基がリン酸化されたペプチドに、抗原抗体反応するモノクローナル抗体。
(16)リン酸化されたタウタンパク質に対する抗体であって、当該抗体が、配列番号20に記載のアミノ酸からなるVH及び配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるVLを含む抗体との間で抗原への結合が競合的である抗体。
(17)リン酸化されたタウタンパク質に対する抗体であって、当該抗体が、配列番号20に記載のアミノ酸からなるVH及び配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるVLを含む抗体。
(18)配列番号7から13で表されるH鎖のCDR配列、配列番号7から13の少なくとも1つで表されるH鎖のCDR配列、又は配列番号7から13で表されるH鎖のCDR配列の少なくとも1つと85%以上の相同性を有する配列をCDR配列に有するH鎖、及び/あるいは、配列番号14から17で表されるL鎖のCDR配列、配列番号14から17の少なくとも1つで表されるL鎖のCDR配列、又は配列番号14から17で表されるL鎖のCDR配列の少なくとも1つと85%以上の相同性を有する配列をCDR配列に有するL鎖を有するモノクローナル抗体。
(19)配列番号18から24のいずれかで表されるH鎖可変領域、もしくは配列番号18から24のいずれかと85%以上の相同性を有するH鎖可変領域、及び/又は配列番号25から30のいずれかで表されるL鎖可変領域、もしくは配列番号25から30のいずれかと85%以上の相同性を有するL鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
(20)抗体が、ヒト化抗体又はキメラ抗体である、(15)から(19)のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
(21)配列番号1のアミノ酸番号410〜421に相当するアミノ酸残基からなるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続する8つのアミノ酸配列からなるペプチドであり、当該ペプチドに含まれる少なくとも1つのアミノ酸残基がリン酸化されたペプチド。
(22)配列番号1のSer412、Ser413、Thr414、及び
Ser416のアミノ酸に相当するアミノ酸残基の少なくとも一つがリン酸化されたことを特徴とする、(21)に記載のペプチド。
(23)リン酸化されたアミノ酸残基が、配列番号1のSer413に相当するアミノ酸残基である(21)又は(22)に記載のペプチド。
また、本発明は、高い認知機能改善効果を有するモノクローナル抗体を提供し、さらにそのモノクローナル抗体の構造の解析からヒト化抗体等のさらに認知症治療に適した抗体の作製方法を提供するものである。
本発明におけるタウ(タンパク質)とは、配列番号1〜6に示したヒトタウタンパク質に加えて、それらの遺伝子変異体を含む。上記の背景技術で示したように、認知症に関連する家族性神経変性疾患であるFTDP−17では、40箇所以上の変異が知られているが、変異の部位においてはそれに限定されるものではない。また、変異の数は配列番号1〜6に対して1から50箇所、好ましくは1から30箇所、より好ましくは1から10箇所のアミノ酸の変異があるものも本発明でのタウとして扱われる。さらに、配列番号1に示したヒトのタウタンパク質に対してBLAST法(NCBIのPBLASTのデフォルト条件)で80%以上の相同性(Identities)を示すタンパク質及びそのアイソフォームも含まれる。そのようなものには、チンパンジー、アカゲザル、ウマ、ブタ、イヌ、マウス、ウサギ、ラット等ヒト以外の種におけるタウが含まれ、そのような動物の認知機能改善の目的でそのようなタウを標的とした治療剤又は予防剤の作製も可能である。
上記のCDR−H1、CDR−H2、CDR−H3のアミノ酸配列、及び/又はそれをコードする遺伝子の塩基配列、CDR−L1、CDR−L2、CDR−L3のアミノ酸配列、及び/又はそれをコードする遺伝子の塩基配列の情報を基に、当業者であればヒト化抗体等、目的の種に治療目的で投与するのに適した組換え体抗体をデザインすることが可能であり、H鎖可変領域のアミノ酸配列及び/又はそれをコードする遺伝子の塩基配列、L鎖可変領域のアミノ酸配列及び/又はそれをコードする遺伝子の塩基配列の情報を基に、当業者であれば目的に応じたキメラ抗体等をデザインすることができる。また、さらにCDR−H1、CDR−H2、CDR−H3のアミノ酸配列、及び/又はそれをコードする遺伝子の塩基配列、CDR−L1、CDR−L2、CDR−L3のアミノ酸配列、及び/又はそれをコードする遺伝子の塩基配列の情報や、H鎖可変領域のアミノ酸配列及び/又はそれをコードする遺伝子の塩基配列、L鎖可変領域のアミノ酸配列及び/又はそれをコードする遺伝子の塩基配列の情報を基に、低分子抗体やスキャフォールド抗体を作製することは、公知の技術を用いることで、当業者であれば適宜実施することができる。
本発明には、タウのアミノ酸配列の一部を含み、その1つ以上のアミノ酸残基がリン酸化されたペプチドも含まれる。アミノ酸残基がリン酸化されたとは、アミノ酸残基の側鎖に対してリン酸基がエステル結合した状態をいい、リン酸化されるアミノ酸残基の代表的なものとしては、セリン、スレオニン、チロシン等が挙げられる。当該リン酸化ペプチドは配列番号1のアミノ酸番号410〜421に相当するアミノ酸残基からなるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続する3アミノ酸を含む長さが8アミノ酸長以上のペプチド、好ましくは少なくとも連続する5アミノ酸を含む長さが8アミノ酸長以上のペプチド、より好ましくは少なくとも連続する8アミノ酸を含む長さが8アミノ酸長以上のペプチドである。さらに、当該リン酸化ペプチドにおいてリン酸化されるアミノ酸残基は、配列番号1のアミノ酸番号410〜421に相当するアミノ酸残基のいずれか、好ましくは配列番号1のSer412、Ser413、Thr414、Ser416のアミノ酸に相当するアミノ酸残基のいずれか、より好ましくは配列番号1のSer413に相当するアミノ酸残基である。このようなリン酸化ペプチドの代表的なものとしては、実施例1で抗体作製で用いているリン酸化ペプチド(配列番号31)が挙げられるが、これに限定されない。
ヒトにおける認知症とは、いったん発達した、あるいは獲得された知的機能が低下する状態をいい、知能障害の一つとされるが(上島国利、丹羽真一編、NANKODO’s ESSENTIALWELL-ADVANCED SERIES New精神医学、p69−70、2008年)、広い意味においては知能障害及び/又は記憶障害を呈する疾患と考えられる。AD等の神経変性疾患においては、「神経変性」を確定するには死後に組織学的な解析を行うことで神経原線維変化(NFT)の存在を確認すること等で行うことができるが、医師は神経変性疾患の診断として、神経心理学的検査として質問によるもの/長谷川式簡易知能評価スケール改訂版(HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE) 等、観察によるものClinical Dementia Rating(CDR) やFunctinal Assessment Staging(FAST) 等、生化学検査として脳脊髄液中でのタウやリン酸化タウの存在量の上昇やAβの存在量の上昇、画像検査として頭部CT、頭部MRI、SPECTやPET等での得られた情報を基に、認知症、特に神経変性疾患としての認知症を診断する。従って、本発明の認知症治療剤又は予防剤は医師が認知症として診断した患者に投与され、上記の神経変性疾患における診断の項目の1以上において、投与前と比較して改善する効果、又は病状が進行する程度を投与によって抑制又は投与前の状態に維持又は回復させる効果を有するものである。
本発明の認知症治療剤又は予防剤を研究するための動物としては、認知症のモデル動物が挙げられ、その中でも特にタウオパチーのモデル動物が挙げられる。また、タウオパチーの動物モデルとしては、正常型又は遺伝子変異型のタウを脳で発現する動物であり、特に認知機能の障害をおこす動物モデルである。このような正常型又は遺伝子変異型のタウを脳で発現する動物は遺伝子操作により作製することが可能であり、その代表的なものとしてはトランスジェニックマウス(Tgマウス)が挙げられる。遺伝子変異型のタウを発現するTgマウス等の動物モデルは、遺伝的な家族性のタウオパチーのモデルとしては有用であるが、ヒトでの大多数をしめる孤発性のタウオパチーに対して治療剤又は予防剤の効果をみるためには正常型のタウを発現するTgマウスで効果を示すことが望ましい。そのような正常型のタウを発現するTgマウスとしては、本発明の製造例で作製しているマウスが最も適しているが、その他には神戸ら(Neurobiology of Disease, Vol.42, P404-414, 2011年)や木村ら(The EMBO J. vol.26. P5143-5152, 2007年)が報告しているTgマウス等を用いることができる。しかしながら、神戸らのマウス及び木村らのマウスにおいては、認知機能障害が認められるのが、それぞれ14ヶ月齢及び20ヶ月齢以降であることから、かなり老齢になってからの発症となり、加齢による影響も含んでいる可能性や、長期飼育による影響や手間の問題がある。それに対して、本発明の製造例で作製しているマウスは、ヒトの正常型のタウを発現し、6ヶ月齢程度と比較的早期に認知機能障害を発症するマウスであることから、加齢などの要因を排除できる認知症モデルとして最も適したものであり、このようなモデルを用いることでより明確に認知機能の改善効果を有する認知症治療剤又は予防剤を評価することが可能である。
本発明の認知症治療剤又は予防剤の形態としては、抗リン酸化タウ抗体を含有するものであり、好ましくはタウタンパク質の配列番号1の410位から421位に相当するアミノ酸残基の少なくとも一つがリン酸化を受けたタウタンパク質と特異的に抗原抗体反応する抗体であり、配列番号1のSer412、Ser413、Thr414、及びSer416に相当するアミノ酸残基から選ばれる1つ以上の部位がリン酸化されたタウタンパク質と抗原抗体反応する抗体であり、より望ましくはVHのアミノ酸配列が配列番号20であり、VLのアミノ酸配列が配列番号26である(1505)抗体と競合結合する抗体であり、さらに望ましくは配列番号1のSer413に相当するアミノ酸残基の部位がリン酸化されたタウタンパク質に抗原抗体反応する抗体である。そのような抗体についての説明は、上述の[抗リン酸化タウ抗体]の部分に記載されている。
また本発明における治療剤又は予防剤は、短い投与期間で効果を得ることが可能である。
pSer413ペプチドに対する抗体作製のために、抗原として、ヒトタウタンパク質の配列番号1のアミノ酸配列の413番目に相当するSerがリン酸化された410番目のAsnから416番目のSerまでに相当するアミノ酸配列のC末端部位にCysをつけた合成ペプチド(配列番号31.株式会社医学生物学研究所[MBL]で合成)を用いた(以下、該ペプチドをpSer413(S)ペプチドと呼ぶ)。
精製した抗体は図3に示すよう、pSer413(L)ペプチドに特異性が高く、nonP(L)ペプチドには殆ど反応しないことが判った。従って、当該抗体はpSer413(L)に特異的に抗原抗体反応する抗体である(本明細書では、「pSer413認識ウサギポリクローナル抗体」又は「pS413AB」と記載する場合もある)。
抗原として、配列番号1に示されるヒトタウタンパク質のアミノ酸配列の413番目のSerに相当するアミノ酸残基がリン酸化された403番目Thrから423番目のProまでに相当する配列のN末端部位に、GlyCysSerGlyをつけた合成ペプチドpSer413(Im)ペプチド(配列番号35)を用いた。pSer413(Im)ペプチドは合成後、HPLCにて精製し、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)と共有結合させた。得られたコンジュゲートはマウス1匹に対して0.04mgを1回分の免疫に用いた。免疫はコンジュゲート溶液0.4ml(ペプチド換算で1.1mg/ml)とSaline0.7mL及び1.1mLのフロイントのコンプリートアジュバントを混合し、200μLずつ10匹に腹腔内注射することで行った。同様の免疫(免疫箇所、抗原量は同じも、フロイントのインコンプリートアジュバンドを用いた)を2週間おきに、さらに3回行った。10匹中、抗原に対する血清抗体価が唯一上昇した1匹に対して、最後の免疫から1ヶ月後に、ペプチド換算で0.5mg/mLの抗原溶液(Salineに溶解)100μLを尾静脈内注射し、3日後に動物を屠殺して脾臓を採取した。18G注射針2本を使用して脾臓を切りほぐした後、ゴム栓面で、切りほぐした脾臓を、緩やかに押しつぶした。押しつぶした脾細胞は、冷RPMI1640培地10mL程度で懸濁し、その上澄みを40μmセルストレナーで濾過し、濾液を50mL遠心管に採取した。脾臓細胞のDebrisをさらにゴム栓面で押しつぶし、冷RPMI1640培地で同様に懸濁、濾過し、濾液を採取した。最終的に脾臓細胞懸濁液を40mLになるように冷RPMI1640培地(又は冷PBS)を加えた。血球計算盤にて、懸濁液中のリンパ球濃度を測定し、最終的に2×107Cellsに相当するリンパ球を50mLの遠心チューブに移した。ここに、培養液B(RPMI1640+10%胎児牛血清+2mMグルタミン+100μg/mLストレプトマイシン+100単位/mLペニシリン)で培養しておいた4×107Cellsに相当する対数増殖期のマウス・ミエローマ細胞P3X63Ag8・U1株(P3・U1と略記する)を加え、1500rpmで5分間遠心し、上清を捨てた。細胞ペレットを、試験管をたたくことによって、よく分散させた。これに0.5mLのポリエチレングリコール液(RPMI1640(2.3mL)+ポリエチレングリコール2000(1.4mL)+ジメチルスルホキサイド(0.3mL)より構成:以下「PEG液」と略記する)を加えて、細胞をゆるやかに浮遊させた。1分後に0.5mLのPEG液を1分かけてゆっくり滴下し、更に1.0mLのRPMI1640を1分かけてゆっくり滴下し、更にRPMI1640を2mL、2分かけてゆっくり滴下した。その後、4mLのHAT/GIT培養液(GIT培地[日本製薬]+5%胎児牛血清+100μg/mLストレプトマイシン+100単位/mLペニシリン+95μMヒポキサンチン+0.4μMアミノプテリン+16μMチミジン)を2分かけて滴下し、更に4mLのHAT/GIT培養液を2分かけて滴下した。最後に、HAT/GIT培養液を加え40−50mLの細胞浮遊液とした。37℃、30分間恒温槽でインキュベーションした後、これを培養プレート(96穴)7枚に播いた。なお、培養プレートとして、マウス(ICR系)の腹腔マクロファージ(フィーダー細胞)を数日間培養した(>1×105/well)96wellプレート(フィーダープレート)を用いた。その後、このプレートを37℃、5%CO2下で7〜10日間培養した。
抗体のスクリーニングは以下の方法によった。pSer413(L)ペプチドをPBSで1μg/mLに希釈後、96wellプレートに50μL/wellで分注し、4℃で一晩静置した。溶液を除去後、ブロッキングバッファー(3%BSA−PBS)を250μL/wellで分注し、室温で1時間以上放置した。ブロッキングバッファー(3%BSA−PBS)を吸引し、ハイブリドーマの上清を30〜50μL/wellで加え、25℃で60分間反応させた。0.05%Tween20を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS−Tween)で洗浄後、2次抗体(ブロッキングバッファーに2000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識 ヤギ抗マウス IgG−Fc 抗体[SouthernBiotech社]を添加した溶液)を100μL/wellで加え、25℃で60分間反応させた。洗浄後、基質溶液(2.5mM MgCl2含有0.1M Diethanolamine buffer,pH9.8に0.7〜1.2mg/mL PNPP[パラニトロ・フェニルフォスフェート]を添加した溶液)100μL/wellを加え、25℃で60分間発色させた後、測定波長405nmで吸光度を測定した。
各種タウペプチド(pS46[配列番号36],pS199[配列番号37],pS202[配列番号38],pT212[配列番号39],pS214[配列番号40],pT212/pS214[配列番号41],pT217[配列番号42],pS413[配列番号33], non pS413[配列番号34])の10%DMSO溶液あるいはペプチドをBSAコンジュゲートしたもの(pS400[配列番号43]−BSA,pS412[配列番号44]−BSA)のPBS溶液をPBS(pH7)にて1μg/mLに希釈して50μL/wellで96wellプレート(MaxiSorp:Nunc社)に添加し、4℃で終夜インキュベートし固定化した。その後、ペプチド溶液を除去して0.05%Tween20を含むTBSで3回洗浄後、3%BSA/PBSを280μL/wellにて添加し、37℃、1時間ブロッキングをおこなった。
Ta15シリーズ抗体と抗原ペプチド(pSer413ペプチド(Im):実施例2参照)との結合親和性を評価するために、表面プラズモン共鳴(SPR)システム ビアコア(GEヘルスケア・ジャパン株式会社、BIACORE3000、code#BR−1100−45)及び各ビアコア製品を用い、取扱説明書に準拠し測定した。測定の一つの方法はCM5チップ(カルボキシメチルデキストラン層形成済みチップ,code#BR−1100−14)に抗マウス抗体(code#BR−1008−38)をアミンカップリング反応による共有結合により固定化(code#BR−1006−33)し、固定化された抗マウス抗体にTa15シリーズ抗体を結合し、結合したTa15シリーズ抗体に対し、抗原ペプチドの結合動態を測定する方法であった。
<結果>
抗原として、配列番号1で示されるヒトタウタンパク質のアミノ酸配列の396番目、404番目のSerに相当するアミノ酸残基がリン酸化された379番目Argから408番目のLeuまでの配列のN末端部位にGlyCysをつけた合成ペプチド(配列番号47:Biosynthesis社で合成)を用いた(以下、該ペプチドをpSer396/pSer404ペプチドと呼ぶ)。
1週間毎に半量の培養液を新しいHT培養液(HAT/GIT培養液からアミノプテリンを除去したもの)で交換していき、ハイブリドーマを得た。
Ta9抗体のpSer396/pSer404ペプチドに対するKD値を実施例3に記載した方法に準じて測定したところ、1.08×10−10であり、ペプチドへの親和性はTa15シリーズ抗体よりも高かった。
以下の3種類の抗体の投与が、記憶学習障害マウス(Tau−Tg)に及ぼす影響を調べた。
(1)pSer413認識ウサギポリクローナル抗体:Tau−Tg(line609)マウスあるいはnon−Tgマウス(正常コントロール)9−11か月齢を使用、n=9−10/群
(2)Ta1505(pSer413認識モノクローナル抗体):Tau−Tg(line784)マウスあるいはnon−Tgマウス14か月齢を使用、n=9−10/群
(3)Ta9(pSer396認識モノクローナル抗体)、Tau−Tg(line609)マウスあるいはnon−Tgマウス14か月齢を使用、n=9−10/群
(1)<使用マウス>:変異Tau−Tg(line 609),9−11mo(9−11か月齢)
<群構成>
評価抗体群:Anti−tau pSer413ウサギポリクローナル抗体1.6mg/mL in PBS(n=10)
Control抗体群:PBS(n=9)
non−Tg群:PBS(n=9)
(2)<使用マウス>:変異Tau−Tg(line 784),14mo(14か月齢)
<群構成>
評価抗体群:Anti−tau pSer413マウスモノクローナル抗体 Ta1505 in 0.1 M citrate buffer(pH5) 3.84 mg/ml(n=10)
Control抗体群:Anti−Pseudomonas Aeruginosa マウスモノクローナル抗体 4C10F4 in 0.1 M citrate buffer(pH5) 4.28 mg/ml(n=9)
non−Tg群:0.1M citrate buffer(pH5)(n=9)
(3)<使用マウス>:変異Tau−Tg(line 609),14mo(14か月齢)
<群構成>
評価抗体群:Anti−tau pSer396マウスモノクローナル抗体 Ta9 in 0.02M citrate buffer(pH6)(n=10)2.66mg/ml
Control抗体群:Anti−Pseudomonas aeruginosa monoclonal antibody 6F11 in 0.02M citrate buffer(pH6)(n=9)4.50 mg/ml
non−Tg群:0.02M citrate buffer(pH6)(n=9)
最終投与の翌週月曜日からモリス水迷路を用いて空間参照記憶(spatial reference memory)試験を行った(水迷路試験)。水迷路試験終了翌日からオープンフィールド装置を用いてマウスの自発運動量を測定した(Open Field 試験)。
準備:内径100cm、高さ45cmの黒色プール内に16cm深の水をはった。水温21〜23度に調整し、酸化チタン等による着色は行わず無色透明に保った。塩素の添加も行わず、毎trial day後に糞の排除と、水の入れ替えを約10Lずつ行った。Trial(獲得)試験:15cm高の透明なプラットフォームを壁から20cm(中心より30cm)の位置に沈めた。プラットフォームを沈めた場所を含め4象限に区切り、マウスはプラットフォームのない3象限のいずれかからのみランダムに投入した。1試行60秒を限度とし、5試行/日で行った。1試行の間隔は約5分。プラットフォームへ辿り着くまでのescape timeをデータとして記録した。60秒以内に逃避しないマウスについては、オペレーターの手によってプラットフォームへ誘導し、escape timeは60秒として扱った。プラットフォーム上のマウスは10秒後にプールから取り除き、次の試行まで自由に行動させ、体を乾燥させた。日毎のマウスの成績には、5試行のescape timeの平均秒数を用いた。
Control群(nonTg)の成績が安定した時点で獲得試験を終了し、翌日probe試験を行った。
Probe試験:最終日の翌日、プラットフォームをプールから取り除き、60秒間の自由遊泳をビデオカメラで撮影した。撮影されたビデオを観察し、自由遊泳中のマウスが4象限のうち、プラットフォームの存在した象限(target quadrant)内を泳いでいる時間を測定し、60秒間におけるパーセンテージで表した。この時、プール投入後30秒までの泳ぎについても同様に解析した。
Trial(獲得)試験の有意差検定はrepeated measure,Fisher’s PLSD、Probe testの有意差検定はFisher’s PLSDにより行った。
装置:5mm厚の透明アクリル板を用いて30×30×30cmの正方形の箱を作製し、防音環境に格納した。格納環境上部には40wの白熱灯を設置し、床面を照度110luxで照らした。
行動量:(i)アクリル箱の側面外側、床面より1.5cmの位置に、赤外線ビームを10cm間隔で設置した。マウスが2個のビームを連続して遮断した際に、locomotionとして検出し、カウントした。
(ii)向かい合う2側面の、床面より3.5cmの位置に赤外線ビーム面を設けた。マウスがビーム面の一部を遮断した際に、rearingとして検出しカウントした。
試験:マウスには20分間のセッションを1回与えた。マウスをアクリル箱中央部に投入し、速やかにドアを閉じ防音環境にしたうえで、セッションを開始した。
セッションの前半10分は明条件での自由行動、後半10分は照明を消して暗条件での自由行動を測定した。
解析:マウスの1分毎の行動量をlocomotion、rearingそれぞれについて折れ線グラフで示す。
セッション開始から10分後の暗条件への環境変化に反応し、マウスの行動量に変化が現われていることが確認できた場合、視覚は正常であったと定義する。
明条件、暗条件それぞれの総行動量、及び20分間の総行動量を棒グラフで示した。
Locomotion、rearingの総行動量について群間の有意差検定を行った。
Locomotionは主に自発行動量、rearingは主に探査行動量と解釈されるが、実際には両方の指標が互いに影響しあう(例:locomotionが低下しているように見えても、その時間には実際にはrearingが上昇していれば、行動量が低下しているとは言えない)。
行動試験終了後、各グループから5匹ずつ選び、ホリマリンで還流固定した。パラフィン包埋後、脳から薄切切片をミクロトームで作成し、キシレン、エタノールで各10分間、4回処理し、脱パラフィン処理した。クエン酸バッファー(pH6)で30分間煮沸処理し(抗原賦活化処理)、室温に戻した後、トリス緩衝生理食塩水(TS)で10分間、2回洗浄した。20%牛血清含有TSで室温、60分間ブロッキング後、マウス抗ヒトシナプトフィジン抗体(SIGMA社SVP−38を10%牛血清含有TSで200倍希釈したもの)をマウントし、4℃で一晩処理した。TSで10分間、2回洗浄した後、FITC標識抗マウスIgG抗体(VECTOR社の当該抗体を10%牛血清含有TSで20倍希釈したもの)をマウントし、室温で60分間処理した。TSで10分間、2回洗浄した後、VECTASHIELD(VECTOR社)をマウントし、顕微鏡観察した。蛍光強度をNIH imageJで定量・数値化し、arbitrary unitで表した。
1.各抗体の投与による記憶障害への影響
(1)pSer413ウサギポリクローナル抗体
(1−1)〜(1−3)の結果を図4〜図7に示す。総合すると、抗pSer413ポリクローナル抗体の受動免疫によリ、モデルマウス(Tau−Tg)での記憶障害がnon‐Tgと同レベルにまで顕著に改善された。なお、(1−3)では、各群間の自発運動・視覚に有意差は見出されなかった。
(2)pSer413マウスモノクローナル抗体(1505抗体)(2−1)〜(2−3)の結果を図8〜図11に示す。総合すると、抗pSer413モノクローナル抗体の受動免疫によリ、モデルマウスでの記憶障害がnon Tgと同レベルにまで顕著に改善された。なお、(2−3)では、各群間の自発運動・視覚に有意差は見出されなかった。
(2−1)及び(2−2)の結果より、pSer413エピトープはポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれについても、受動免疫療法の標的として良好なエピトープと考えられた。
(3)pSer396マウスモノクローナル抗体(Ta9抗体)
(3−1)〜(3−3)の結果を図12〜図15に示す。総合すると、Ta9投与により記憶障害が有意に、non−Tgと同じレベルにまで改善された。なお、(3−3)では、各群間の自発運動・視覚に有意差は見出されなかった。
しかしながら、Ta9はTa1505に比べると、薬効が弱かった。抗原親和性はTa9>Ta1505である(実施例2、3参照)にも関わらず、薬効はTa9<Ta1505である(実施例5)ことから、リン酸化エピトープの違いによる薬効の差異が示唆された。
神経機能を反映するマーカーとして知られているシナプトフィジン量に及ぼすTa1505抗体投与の影響を記憶の中枢である海馬CA3領域の抗シナプトフィジン抗体の免疫染色により調べた。蛍光強度はNIH-Image Jで定量化した。
結果を図16に示す。Ta1505抗体投与により、有意ではないが、海馬シナプトフィジン量の回復がみられた。
(1)ハイブリドーマ全RNAの精製
各種モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを培養し、6ウエルプレートの1wellあたり1mLのISOGENを使用し、細胞を溶解した。この溶解液に0.2mLのクロロホルムを加え、ボルテックスで混和し、室温で2〜3分間放置した。12000rpmで10分間4℃で遠心し、上層を新しいチュ−ブに移した。これに0.5mLのイソプロピルアルコールを加え、混合し、室温で10分間放置した。これを15000rpm、4℃で15分間遠心して全RNAを沈殿させた。ペレットに75%エタノールを1mL加え、よく混和した後、10000rpm、5分間4℃で遠沈した。ペレットを風乾し、DNase、RNaseフリーの水に溶解し、−80℃で保存した。
既知のマウスIgG2a及びIgG2bのH鎖のConstant領域のcDNA配列をもとに5’−RACE(Rapid Amplified of cDNA Ends)及び3’−RACE用のプライマーを合成した。同様にマウスL鎖のConstant領域のcDNA配列をもとに5’−RACE(Rapid Amplified of cDNA Ends)及び3’−RACE用のプライマーを合成した。
一方、ハイブリドーマから採取したTotal RNAを1μg使用して、SMART−RACE Kit(Clonetech社製)を用いて、5’−RACE、3’−RACE用cDNAの合成をおこない、5’−RACE及び3’−RACEを施行した。PCR反応はAdvantage 2 Polymerase Mix(Clonetech社製)を用い、添付のプロトコールに従って行った。5’−RACE、3’−RACEによって得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動し、メインの増幅DNAフラグメントをアガロースゲルより切り出し、TAクローニングベクター(Invitrogen社
製)に挿入し、大腸菌に形質転換してそれぞれ数クローンを得た。これらの形質転換体よりプラスミドを定法に従って調製し、挿入DNAフラグメントの塩基配列を決定した。
塩基配列情報を基に、H鎖及びL鎖のN末端、及びC末端をコードするcDNA配列を決定して、全長の配列を増幅するためのForward及びReverse Primerを設計した。このPrimerを使用し、Prime STAR MaxPCR(TaKaRa社製)によりH鎖、L鎖の全長を増幅して、そのPCRフラグメントをpEF4ベクターにクローニングした。これを使用して、全長のcDNAの配列を最終的に決定した。
得られた塩基配列情報から、アミノ酸配列に翻訳し、さらにIgBLAST(NCBI, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)を用いて、KABATの方法(Kabat,E.A. and Wu,T.T.、 J. Immunol., 147, 1709-1719、1991年)でCDR領域の同定をおこなった。
得られたCDR領域の配列を配列番号14〜に示した。
これらの配列の相同性から、pSer413を特異的に認識するための抗体のCDR配列に関する情報を得た(表4〜表6)。
以下の2抗体の投与が、記憶学習障害マウスに及ぼす影響を0.1mg投与において調べた。
(4)Ta1505(pSer413認識モノクローナル抗体):Tau Tg(line784)マウスあるいはnon−Tgマウス10か月齢を使用、n=9−10/群
(5)Ta9(pSer396認識モノクローナル抗体)、Tau Tg(line784)マウスあるいはnon−Tgマウス11か月齢を使用、n=8−10/群
実験には10−11か月齢のオスのヘテロ変異Tau−Tgマウス(line 784)、及びそのnon−Tg littermatesを用いた。グループ間で平均体重に差がないようにグループ分けした。ヘテロ変異Tau−Tgマウスに対して、PBSで希釈された抗体を1週間に1回、計5回、毎回1匹当り0.1mgを腹腔に投与した。陰性対照群として、抗体を調製する際に用いたPBSあるいはタウに反応性を有しないマウスIgGモノクローナル抗体を同用量、腹腔に投与した。陽性対照として、non−Tg littermatesに対して、抗体を調製する際に用いたPBSを同用量、腹腔に投与した。
(4)<使用マウス>:変異Tau−Tg(line 784),10mo
<群構成>
評価抗体群:Anti−tau pSer413マウスモノクローナル抗体 Ta1505 in PBS 0.25 mg/ml(n=10)
Control抗体群:Anti−Pseudomonas Aeruginosa マウスモノクローナル抗体 4C10F4 in PBS 0.25 mg/ml(n=10)non−Tg群:PBS(n=9)
(5)<使用マウス> :変異Tau−Tg(line 784),11mo
<群構成>
評価抗体群:Anti−tau pSer396マウスモノクローナル抗体 Ta9 in PBS(n=10)0.25mg/ml
Control抗体群:Anti−Pseudomonas aeruginosa monoclonal antibody 6F11 in PBS(n=8) 0.25 mg/ml non−Tg群:PBS(n=8)
最終投与の翌週月曜日からモリス水迷路を用いて空間参照記憶(spatial reference memory)試験を行った(水迷路試験)。水迷路試験は実施例5と同様に行った。
1.各抗体の投与による記憶障害への影響
(4)pSer413マウスモノクローナル抗体(1505抗体)
Trial試験(4−1)、Probe試験(4−2)の結果を図18及び図19に示す。総合すると、抗pSer413モノクローナル抗体の受動免疫によリ、モデルマウスでの記憶障害がnon Tgと比較して50%以上のレベルで改善された。
(4−1)及び(4−2)の結果より、pSer413エピトープモノクローナル抗体の薬効が0.1mg投与においても確認された。
(5)pSer396マウスモノクローナル抗体(Ta9抗体)
Trial試験(5−1)、Probe試験(5−2)の結果を図20及び図21に示す。総合すると、Ta9投与においては0.1mg投与において記憶障害は改善されなかった。
これらの試験から、リン酸化エピトープの違いによる薬効の差異が0.1mg投与においてさらに明確に示唆された。
なお、マウス1匹あたり0.1mgの抗体投与は、約2.5mg/kgの用量の投与に相当する。
Tau−Tgマウスの脳内におけるリン酸化Tauの量に及ぼすTa1505抗体投与の影響を記憶の中枢である海馬領域に関して、pSer413認識Ta1505抗体およびAT8抗体(PHF認識pSer202/pThr205エピトープ)の免疫組織染色により調べた。
行動試験終了後、各グループから5匹ずつ選び、4%パラホルムアルデヒド/PBSで還流固定した。脳を取り出してパラフィン包埋し、5μm薄切切片をミクロトームで作成した。キシレンおよびエタノールで各10分間、4回処理し、脱パラフィン処理し、切片をpH2で室温10分間煮沸処理(抗原賦活化処理)した。室温に戻した後、トリス緩衝生理食塩水(TS)で10分間、2回洗浄した。20%牛血清含有TSで室温、60分間ブロッキングした。
10%牛血清含有TSで1ug/mLに希釈した抗タウ抗体(Ta1505、AT8)をマウントし、4℃で一晩処理した。TSで10分間、2回洗浄した後、10%牛血清含有TSで500倍希釈したビオチン標識抗マウス抗体(VECTOR社)をマウントし、室温で60分間処理した。
TSで10分間、2回洗浄した後、HRP標識ABC液(VECTOR社)をマウントし、室温で30分間反応させ、再び洗浄後、ジアミノベンチジン(DAB)で発色させた。エンテラン(Merck)で封入し、観察、撮影した。
図22では、コントロールIgG投与群5個体の海馬CA3領域(左から1列目)および海馬CA23領域(左から2列目)においてTa1505陽性Tauの染色が認められたが、Ta1505投与群5個体の海馬CA3領域(左から3列目)および海馬CA23領域(左から4列目)の染色レベルは、コントロールIgG投与群より明らかに低下していることが認められた。このことからTa1505投与により、海馬CA3領域および海馬CA23領域においてTa1505陽性TauつまりSer413リン酸化Tauの減少が確認された。さらに詳細には、ControlIgG群は、茶色の細かい点が集まりCA3では左から右へ太い線状に染色されている。CA23では右上から左横へ太い曲線状に染まっている。Ta1505投与群は、非常に薄い茶色の細かい点が集まりCA3では左上から右下へ太い線状に染色されている。CA23では右上から左横へ太い曲線状に染まっている。CA3の4個体とCA23の3個体では染色がほとんど認められない。
図23及び24では、コントロールIgG投与群5個体のCortex領域(Perirhinal Cortex(図23左から1列目)、Lateral Entrhinal Cortex(図23左から2列目)、Medial Entrhinal Cortex(図23左から3列目))においてAT8陽性Tauの染色が認められた。(図23において茶色い斑点のように染まっている)
Ta1505投与群5個体のCortex領域(Perirhinal Cortex(図24左から1列目)、Lateral Entrhinal Cortex(図24左から2列目)、Medial Entrhinal Cortex(図24左から3列目))においての染色レベルは、コントロールIgG投与群より明らかに低下しており染色は認められないレベルであることが確認された。
このことからTa1505投与により、Cortex領域(Perirhinal Cortex、Lateral Entrhinal Cortex、Medial Entrhinal Cortex)においてTa1505陽性TauつまりSer413リン酸化Tauの減少が確認された。
図23では、茶色の斑点状に染まっているが、図24では、ほとんど茶色い斑点状の染色が確認できなかった。
脳内(=海馬CA3領域、海馬CA23領域、PRh、Ent(Lateral、Medial))において、Ta1505抗体投与により、Ser413リン酸化Tau量の減少が確認された。
PRh=Perirhinal Cortex
Ent=Entrhinal Cortex
AT8による免疫組織染色結果を図25〜図27に示す。
図25では、コントロールIgG投与群5個体の海馬CA3領域(左から1列目)および海馬CA23領域(左から2列目)においてAT8陽性Tauの染色が認められたが、Ta1505投与群5個体の海馬CA3領域(左から3列目)および海馬CA23領域(左から4列目)の染色レベルは、コントロールIgG投与群より明らかに低下していることが認められた。このことからTa1505投与により、海馬CA3領域および海馬CA23領域においてAT8陽性TauつまりSer202/Thr205リン酸化Tauの減少が確認された。具体的には、図25では、ControlIgG群は、茶色の細かい点が集まりCA3では左上から右下へ太い線状に染色されている。CA23では右上から左横へ太い曲線状に染まっている。Ta1505投与群は、非常に薄い茶色の細かい点が集まりCA3では左上から右下へ太い線状に染色されている。CA23では右上から左横へ太い曲線状に染まっている。
図26では、コントロールIgG投与群5個体のCortex領域(Perirhinal Cortex(図26左から1列目)、Lateral Entrhinal Cortex(図26左から2列目)、Medial Entrhinal Cortex(図26左から3列目))においてAT8陽性Tauの染色が認められた。(図26において茶色い斑点のように染まっている)
図27では、Ta1505投与群5個体のCortex領域(Perirhinal Cortex(図27左から1列目)、Lateral Entrhinal Cortex(図27左から2列目)、Medial Entrhinal Cortex(図27左から3列目))においての染色レベルは、コントロールIgG投与群より明らかに低下していることが認められた。(図27において薄く茶色い斑点のように染まっている)
このことからTa1505投与により、Cortex領域(Perirhinal Cortex、Lateral Entrhinal Cortex、Medial Entrhinal Cortex)においてAT8陽性TauつまりSer202/Thr205リン酸化Tauの減少が確認された。脳内(=海馬CA3領域、海馬CA23領域、PRh、Ent(Lateral、Medial))において、Ta1505抗体投与により、AT8認識のSer202/Thr205リン酸化Tau量の減少傾向が確認された。
この結果は、抗体の投与によって脳内での病態の改善を示すものであり、上記の記憶障害の改善効果を裏付けるものである。また、この結果は腹腔内に投与した抗体が脳内で作用することを示している。
PHFを構成する過リン酸化Tauを認識すると考えられているAT8抗体(pSer202/pThr205認識マウスモノクローナル抗体、INNAX社製)、G2(抗ヒト特異的N末端領域認識抗体:ウサギポリクローナル抗体)、PHF1(PHFを構成する過リン酸化Tauを認識すると考えられているpSer396/pSer404認識マウスモノクローナル抗体)およびTa1505を使用して、脳ホモジェネートにおけるTauおよび過リン酸化Tau量に及ぼす1505抗体投与の影響を抗体投与後のTau−Tgマウス脳ホモジェネートを使用してウエスタンブロッティングにより調べた。
マウス大脳半球100−200mgを5倍量のTBS(プロテアーゼ阻害剤カクテル、フォスファターゼ阻害剤カクテルを含有)にてソニケーションをおこなった。これを100,000gで15分間、4℃にて遠心分離して上清をTBS可溶性画分として回収した。
さらに沈殿を1%sarkosyl/TBS(プロテアーゼ阻害剤カクテル、フォスファターゼ阻害剤カクテルを含有)に懸濁して、1時間、室温でインキュベートした。これを100,000gで15分間、室温にて遠心分離し、上清をザルコシル可溶性画分とした。
このTBS可溶性画分、ザルコシル可溶性画分を7%Tris―Acetate Gelにより電気泳動を行い分離し、PVDF膜に転写を行い、1%BSA/3%SkimMilk/0.05%Tween20/TBSにて室温で終夜、ブロッキングを行った。その後、抗体溶液を反応させ、2次抗体としてHRPコンジュゲート抗体を使用して、ECL法にて反応を行い、LAS3000 イメージアナライザーにて解析を行い定量化した。
TBS可溶性画分においては、Ta1505抗体投与により、Tau−Tgマウス脳内のヒトTau(G2抗体で認識)および過リン酸化Tau(AT8(pS202/pT205エピトープ)、PHF1(pS396/pS404エピトープ)にて認識)、pS413Tau(Ta1505認識)が有意に減少していることが確認された。
ザルコシル可溶性画分においては、Ta1505抗体投与により、Tau−Tgマウス脳内の過リン酸化Tau(AT8にて認識)が有意に減少していることが確認された。
この結果は、抗体の投与によって脳内での病態の改善を示すものであり、上記の記憶障害の改善の効果を裏付けるものである。また、この結果は腹腔内に投与した抗体が脳内で作用することを示している。
本発明での抗体による認知機能改善の薬理効果の検討は、ヒトの正常型タウ、特に胎生期においては3R型のタウのみを発現し、成長に伴い3R型と4R型の両方のタウが発現するというヒトでの個体発生と同様の発現パターンを示し、生後6ヶ月齢程度で認知機能障害を発症する特徴を有するTgマウスを用いた。当該Tgマウスは以下のような方法で作製した。
トタウをコードするcDNAからエクソン1から9に相当する部分の塩基配列、イントロン9の最初の18塩基と最後の3kbの部分の塩基配列、エクソン10の塩基配列、イントロン10の最初の3kbと最後の38塩基の部分(但し、イントロン10の5’端方向から16番目の塩基シトシンをチミンに置換している)、エクソン11から13に相当するcDNAの塩基配列を順番に含む7.3kbの長さの遺伝子である。このタウ遺伝子をSV40の5’イントロン、3’イントロン及びpoly(A)シグナル配列を有するベクターであるpNN265(Choi T等、Mol.Cell.Biol.vol.11、pp3070−3074、1991年)の制限酵素EcoRVサイトにクローニングした。得られたプラスミドから制限酵素XhoIとNotIでSV40の5’イントロン、タウ遺伝子、SV40の3’イントロンとpoly(A)シグナル配列を含むDNA断片を切り出し、そのDNA断片をCaMKIIプロモーターを有するpMM403ベクター(Mayford M等、Cell vol.81 pp891−904 1995年)にクローニングした。そして、得られたプラスミドから制限酵素SfiIでタウ遺伝子が含まれる図17に示した構造の遺伝子断片(17.2kb)を切り出してアガロース電気泳動で分離し、対応するゲルの部位からQIAGEN(R) QIAquick Gel Extraction Kit(Cat.No.28704)を用いて精製した。得られた遺伝子(DNA)断片は公知の方法[Hogan,B等、“Manipulating the mouse embryo. A LaboratoryManual” Cold Spring Harbor Laboratory(1986)]に従い、C57BL/6系マウスの雌雄を掛け合わせて得られた前核期胚にインジェクションした。インジェクションを行なった偽妊娠させたメスのC57BLマウスの卵管に注入した。生まれた仔マウスについて尾を一部切断し、PCR法によって導入した遺伝子が組み込まれているかを確認し、導入した遺伝子が組み込まれた雌又は雄のマウスを正常の雌又は雄とを掛け合わせることで、導入されたタウ遺伝子をヘテロで持つTgマウスとして維持し、実験に用いた。なお、実施例中に記載があるline 609およびline 784と記載されているTau−Tgマウスは同様の方法で作製され、同等の形質を示すマウスである(または実施例でlineの記載は削除する)。
Claims (23)
- 配列番号1で示されるタウタンパク質の410位から421位に存在するアミノ酸残基の少なくとも一つがリン酸化を受けたタウタンパク質と抗原抗体反応する抗体を有効成分として含有する、認知症治療剤又は予防剤。
- 該抗体が、認知症に特徴的なリン酸化を受けたタウタンパク質に抗原抗体反応する抗体である、請求項1に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 該抗体が、Ser412、Ser413、Thr414、及びSer416から選ばれる1つ以上の部位がリン酸化されたタウタンパク質に抗原抗体反応することを特徴とする、請求項1又は2に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 該抗体が、タウタンパク質に対する結合において、配列番号20に記載のアミノ酸からなるVH及び配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるVLを含む抗体と結合競合する抗体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 該抗体が、配列番号20に記載のアミノ酸からなるVH及び配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるVLを含む抗体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 該抗体が、Ser413の部位がリン酸化されたタウタンパク質に抗原抗体反応する抗体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 該抗体が、配列番号7から13で表されるH鎖のCDR配列、配列番号7から13の少なくとも1つで表されるH鎖のCDR配列、又は配列番号7から13で表されるH鎖のCDR配列の少なくとも1つと85%以上の相同性を有するH鎖のCDR配列、及び/あるいは、配列番号14から17で表されるL鎖のCDR配列、配列番号14から17の少なくとも1つで表されるL鎖のCDR配列、又は配列番号14から17で表されるL鎖のCDR配列の少なくとも1つと85%以上の相同性を有するL鎖のCDR配列を有する抗体である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 該抗体が、配列番号18から24のいずれかで表されるH鎖可変領域、もしくは配列番号18から24のいずれかと85%以上の相同性の配列を有するH鎖可変領域、及び/又は配列番号25から30のいずれかで表されるL鎖可変領域、もしくは配列番号25から30のいずれかと85%以上の相同性の配列を有するL鎖可変領域を有する抗体である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 該抗体が、ヒト化抗体又はキメラ抗体である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 配列番号1のアミノ酸番号410〜421からなるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続する8つのアミノ酸配列を含むペプチドであり、当該ペプチドに含まれる少なくとも1つのアミノ酸残基がリン酸化されたペプチドを有効成分として含有する、認知症治療剤又は予防剤。
- 該ペプチドに含まれるリン酸化されたアミノ酸残基の少なくとも一つが、配列番号1のSer412、Ser413、Thr414、又はSer416のアミノ酸残基に相当するペプチドである、請求項10に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 該ペプチドに含まれるリン酸化されたアミノ酸残基が、少なくとも配列番号1のSer413に相当するアミノ酸残基である、請求項10又は11に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 認知症が、タウオパチーである、請求項1から12のいずれか1項に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- タウオパチーが、アルツハイマー病、皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、ピック病、嗜銀顆粒性認知症(嗜銀性顆粒病)、Multiple system tauopathy with dementia(MSTD)、17番染色体に連鎖するパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTDP−17)、神経原線維変化型認知症、石灰沈着を伴うび慢性神経原線維変化病(DNTC)、球状グリア封入体を伴う蛋白質タウオパチー(WMT−GGI)、又はタウ陽性封入体を伴う前頭側頭葉変性症(FTLD−tau)である、請求項13に記載の認知症治療剤又は予防剤。
- 配列番号1のアミノ酸番号410〜421からなるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続する8つのアミノ酸配列を有するペプチドであり、当該ペプチドに含まれる配列番号1のSer413に相当するアミノ酸残基がリン酸化されたペプチドに、抗原抗体反応するモノクローナル抗体。
- リン酸化されたタウタンパク質に対する抗体であって、当該抗体が、配列番号20に記載のアミノ酸からなるVH及び配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるVLを含む抗体との間で抗原への結合が競合的である抗体。
- リン酸化されたタウタンパク質に対する抗体であって、当該抗体が、配列番号20に記載のアミノ酸からなるVH及び配列番号26に記載のアミノ酸配列からなるVLを含む抗体。
- 配列番号7から13で表されるH鎖のCDR配列、配列番号7から13の少なくとも1つで表されるH鎖のCDR配列、又は配列番号7から13で表されるH鎖のCDR配列の少なくとも1つと85%以上の相同性を有する配列をCDR配列に有するH鎖、及び/あるいは、配列番号14から17で表されるL鎖のCDR配列、配列番号14から17の少なくとも1つで表されるL鎖のCDR配列、又は配列番号14から17で表されるL鎖のCDR配列の少なくとも1つと85%以上の相同性を有する配列をCDR配列に有するL鎖を有するモノクローナル抗体。
- 配列番号18から24のいずれかで表されるH鎖可変領域、もしくは配列番号18から24のいずれかと85%以上の相同性を有するH鎖可変領域、及び/又は配列番号25から30のいずれかで表されるL鎖可変領域、もしくは配列番号25から30のいずれかと85%以上の相同性を有するL鎖可変領域を有するモノクローナル抗体。
- 抗体が、ヒト化抗体又はキメラ抗体である、請求項15から19のいずれか1項に記載のモノクローナル抗体。
- 配列番号1のアミノ酸番号410〜421からなるアミノ酸配列のうち、少なくとも連続する8つのアミノ酸配列からなるペプチドであり、当該ペプチドに含まれる少なくとも1つのアミノ酸残基がリン酸化されたペプチド。
- 配列番号1のSer412、Ser413、Thr414、及びSer416のアミノ酸に相当するアミノ酸残基の少なくとも一つがリン酸化されたことを特徴とする、請求項21に記載のペプチド。
- リン酸化されたアミノ酸残基が、配列番号1のSer413に相当するアミノ酸残基である請求項21又は22に記載のペプチド。
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