以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。
<実施例1>
図1は、本実施例に係るバイオセンサ基板10の構成を模式的に示す図である。バイオセンサ基板10は、たとえば、人の血液中においてマラリア原虫に感染した赤血球を検出するために用いられる。
図1の上側の斜視図に示すように、バイオセンサ基板10は、光ディスク(CDやDVD等)と同様に円盤形状を有しており、中心に円形状の孔10aが形成されている。また、バイオセンサ基板10は、ベース基板11の上面にウエル層12が積層された構造となっている。
図1の上側の斜視図および下側の断面図に示すように、ウエル層12は、径方向に内周側から順に、蛍光領域A1と、無蛍光領域A2と、ウエル領域A3に区分されている。各領域は使用前にあらかじめ設定されており、蛍光領域A1にはあらかじめ蛍光材料が塗布され(後述)、無蛍光領域A2には蛍光材料は塗布されていない。また、バイオセンサ基板10を使用する際に、蛍光領域A1と無蛍光領域A2には試料を滴下せず、ウエル領域A3に試料を滴下することにより、使用時にウエル13内に試料が保持され、試料から生じる蛍光が検出される。
ウエル領域A3には、図1の右端の拡大図に示すように、円柱形状の窪みからなる微小なウエル13が複数形成されている。ウエル13は、バイオセンサ基板10の内周から外周に向かって略同心円状に並んでいる。ウエル13は、ウエル層12の上面よりも一段低い底面部13aを有しており、試料が滴下されたときにその試料を収容することができるよう直径と高さが設定されている。なお、蛍光領域A1と無蛍光領域A2には、ウエル13は形成されておらず、溝15が螺旋状に形成されている。溝15については、追って図2(a)を参照して説明する。
図2(a)は、図1の斜視図の破線部分の拡大図であり、図2(b)は、図2(a)の破線部分の拡大図である。
図2(b)に示すように、ベース基板11の上面(ウエル層12側の面)には、光ディスクと同様の螺旋状のトラックが形成されている。トラックは、蛇行した溝であるグルーブから形成されており、バイオセンサ基板10の面上の位置を特定するためのアドレス情報を、グルーブの蛇行形状によって保持している。CDやDVDと同様、線速度一定でトラックが励起光(後述)により走査されることにより、アドレス情報が再生される。トラックは、バイオセンサ基板10の最内周から最外周まで、螺旋状に延びている。ベース基板11とウエル層12との間には、反射膜14が配されている。ベース基板11の上面のトラック上に反射膜14が形成されることにより、ベース基板11の上面に、反射膜14とベース基板11との界面である反射面11aが形成される。
ウエル13は、ウエル領域A3の上面側において、所定の間隔を開けて形成されている。ウエル13の底面部13aは、反射膜14よりも僅かに上側に位置付けられており、反射膜14の上面に対して離間している。蛍光領域A1と無蛍光領域A2の上面側には、径方向に所定の間隔を開け、且つ、螺旋状に溝15が形成されている。径方向に隣り合う溝15の間には、平面部16が形成されている。蛍光領域A1に含まれる溝15の蛍光底面部15aには、蛍光材料が塗布されており、無蛍光領域A2に含まれる溝15の無蛍光底面部15bには、蛍光材料は塗布されていない。蛍光底面部15aと無蛍光底面部15bは、何れも、反射膜14よりも僅かに上側に位置付けられており、反射膜14の上面に対して離間している。このとき、蛍光底面部15a、無蛍光底面部15b、ウエル13の底面部13aは、反射膜14の上面と同じ距離だけ離れて形成されるようにする。それにより、それぞれの領域での蛍光検出位置を揃えることができ、領域同士の相関関係を高めることができる。
なお、蛍光領域A1は、マラリア原虫に感染した赤血球から生じる蛍光を適正なレベルに増幅させるための蛍光信号ゲイン倍率Gを設定する際に用いられる。無蛍光領域A2は、マラリア原虫に感染した赤血球から生じる蛍光を適正に検出するための閾値Vshを設定する際に用いられる。蛍光信号ゲイン倍率Gと閾値Vshの設定については、追って図8(a)〜(c)を参照して説明する。なお、バイオセンサ基板10の内周部に蛍光領域A1を配置することにより、バイオセンサ基板10の面ぶれやチルトなど形状変化の小さい箇所において安定して蛍光検出を行うことができ、蛍光領域A1に基づく蛍光検出誤差を小さくすることができる。
ここで、ウエル13の直径と高さを、それぞれd1、d2とし、底面部13aと反射面11aとの間隔をd3とし、ウエル13の間隔をd4とする。同様に、溝15の幅と高さを、それぞれd1’、d2’とし、蛍光底面部15aと反射面11aとの間隔および無蛍光底面部15bと反射面11aとの間隔をd3’とし、溝15の間隔をd4’とする。ベース基板11の厚みをd5とし、反射面11aのトラックピッチをd6とする。本実施例では、d1〜d6は、それぞれ、100μm、50μm、2μm、300μm、0.6mm、1μmに設定されている。また、d1’〜d4’は、それぞれd1〜d4と同じく、100μm、50μm、2μm、300μmに設定される。なお、平面部16と反射面11aとの間隔は(d2’+d3’)である。また、反射膜14の励起光(後述)に対する反射率は、3〜4%に設定されている。
また、本実施例では、ベース基板11はポリカーボネートから構成されており、ウエル層12は紫外線硬化樹脂から構成されており、反射膜14はアルミニウム、銀合金等の金属、あるいは、酸化ニオブ等の誘電体、波長選択膜等から構成されている。なお、ベース基板11は、ポリカーボネートの他、ポリメチルメタクリレート、非晶質ポリオレフィン等から構成されても良い。ウエル層12は、シリコーン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、非晶質ポリオレフィン、生分解性材料等の透光性材料から構成されても良い。反射膜14の膜厚は、励起光に対し所望の反射率になるよう、たとえば5nm〜20nmに設定される。また、反射膜14の材料と膜厚は、励起光の波長に対し反射率が高く、蛍光の波長に対し反射率が低くなるように設定されることが好ましい。
また、本実施例では、被検体である赤血球がマラリア原虫に感染しているかを調べるために、赤血球に施す蛍光標識として、“Pacific Blue”、“SYTO40”、“Cascade Yellow”、“Fluolid−W Yellow”等の蛍光材料が用いられる。蛍光標識として用いられる蛍光材料は、マラリア原虫の核に蛍光材料が接触した状態で励起光(後述)が照射されると、蛍光を生じるように構成されている。また、蛍光底面部15aには、“BaMgAl1O17:Eu”、“Ba2SiO4:Eu”、“ZnS:Cu,Al”等の無機の蛍光材料が用いることが望ましい。これは、生体に反応する蛍光材料“Pacific Blue”、“SYTO40”、“Cascade Yellow”、“Fluolid−W Yellow”等をあらかじめ塗布した場合は経時変化や感光による劣化が生じてしまう可能性があるためである。無機の蛍光材料は、劣化が生じにくく、劣化速度も非常に遅いため、保存期間や保存方法が管理しやすい。生体に反応する蛍光材料に劣化がない場合や劣化速度が管理できる場合は蛍光底面部15aに無機材料だけでなく、被検体に用いるものと同様の蛍光材料を用いてもよい。蛍光底面部15aに塗布される蛍光材料は、励起光(後述)が照射されると、マラリア原虫の核から生じる蛍光と同様の波長の蛍光を生じるように構成されている。また、蛍光底面部15aから生じる蛍光の強度が、マラリア原虫の核から生じる蛍光の強度と同程度となるように、蛍光底面部15aに塗布される蛍光材料が選択される。なお、蛍光底面部15aに上記の蛍光材料を塗布することにより、ウエル13の底面部13aと同じ高さ位置から蛍光を検出することが可能となり、各領域間での蛍光強度の相関性を保ちやすくなる。
図3(a)〜(d)は、バイオセンサ基板10の作成方法を示す図である。
まず、図3(a)に示すように、ベース基板11が射出成型により形成される。これにより、ベース基板11の厚みはd5となり、ベース基板11の上面に、一連のトラックが形成される。続いて、図3(b)に示すように、ベース基板11の上面に、反射膜14が形成され、これにより、ベース基板11の上面のトラックに反射面11aが形成される。続いて、図3(c)に示すように、反射膜14の上面に、スピンコートにより底面層12aが積層される。続いて、図3(d)に示すように、底面層12aの上面に、2P成型により厚さd2の上面層12bが形成される。これにより、ウエル13と溝15が複数形成され、ウエル層12は、底面層12aと上面層12bが合わせられて形成されることになる。そして、蛍光領域A1に対応する溝15の底面に蛍光材料が塗布され、蛍光材料を塗布された底面が蛍光底面部15aとなる。
なお、底面層12aの上面に上面層12bを2P成型により形成する場合、ウエル13と溝15に対してトラックのアドレス情報が対応するように、2P成型のためのスタンパ(ウエルスタンパ)をベース基板11に対して適正に配置する必要がある。
図4(a)、(b)は、ベース基板11に対するウエルスタンパWSの位置調整方法を説明する図である。
この位置調整方法では、ベース基板11に、位置調整時にマーカーとなる2つの微小な回折エリアM1が、ベース基板11の中心に対して互いに対称な位置に形成されている。これらの回折エリアM1は、射出成型時にベース基板11上面のグルーブが形成されていない外周領域に回折パターンを形成することにより設けられる。また、ウエルスタンパWSには、回折エリアM1にそれぞれ対応する位置に、マーカーとなる2つの微小な回折エリアM2が形成されている。そして、ベース基板11が適正な位置に位置付けられたときに2つの回折エリアM1にレーザ光が入射する位置に2つのレーザ光源が配置され、これらレーザ光源からレーザ光を上向きに出射させる。また、回折エリアM1、M2によって回折されたレーザ光(回折光)を受光する位置に光センサLSが配置される。
2P成型時には、まず、図4(a)に示すように、2つの回折エリアM1によって生じた回折光がそれぞれ光センサLSによって受光されるよう、ベース基板11の周方向の位置が調整される。このとき、レーザ光の一部(0次回折光:非回折光)は、回折エリアM1によって回折されずにそのまま回折エリアM1を透過する。次に、ウエルスタンパWSをベース基板11の上面に接近させ、同時に、回折エリアM1を透過した非回折光が、それぞれ、回折エリアM2に入射するよう、ウエルスタンパWSの周方向の位置が調整される。すなわち、非回折光が入射することにより2つの回折エリアM2によって生じた回折光がそれぞれ光センサLSによって受光されるよう、ウエルスタンパWSの周方向の位置が調整される。こうして、ベース基板11とウエルスタンパWSが位置調整された状態で、ウエルスタンパWSがベース基板11の上面に押し付けられる。この状態で、紫外線が照射され、紫外線硬化樹脂が硬化することにより、上面層12bが形成される。
なお、ベース基板11とウエルスタンパWSとの間の位置決めは、上記以外の方法によって行われても良い。たとえば、ウエルスタンパWSとベース基板11に、それぞれ、凸部と凹部を設けておき、両者を嵌合させることによって、ベース基板11とウエルスタンパWSとの間の位置決めが行われても良い。
図5は、本実施例に係る蛍光検出装置1の構成を示す図である。蛍光検出装置1は、たとえば、上記バイオセンサ基板10のウエル13に収容された赤血球がマラリア原虫に感染しているかを判定するために用いられる。
なお、蛍光検出装置1を使用する際、予め、被検体を蛍光標識することにより作成した試料を、バイオセンサ基板10のウエル13に収容させておく。本実施例では、被検体である直径約10μm、厚さ約2μmの赤血球がマラリア原虫に感染していた場合にその内部が蛍光標識され、感染している赤血球と感染していない赤血球とが共に直径100μmのウエル13の底面部13aに並列的に複数配される。このように試料が収容されたバイオセンサ基板10の孔10a(図1参照)が、蛍光検出装置1の回転装置123(ターンテーブル)にセットされ、測定が開始される。
蛍光検出装置1の光学系は、半導体レーザ101と、アパーチャ102と、偏光ビームスプリッタ(PBS)103と、コリメータレンズ104と、1/4波長板105と、ダイクロイックプリズム106と、対物レンズ107と、アナモレンズ108と、光検出器109と、集光レンズ110と、蛍光検出器111を備えている。また、蛍光検出装置1は、上記光学系の他、ホルダ121と、対物レンズアクチュエータ122と、回転装置123と、信号演算回路201と、サーボ回路202と、再生回路203と、信号増幅回路204と、コントローラ205を備えている。
なお、蛍光検出装置1の光学系と、ホルダ121および対物レンズアクチュエータ122は、CDやDVDの記録/再生に用いる既存の光ピックアップ装置と同様、ハウジングに設置される。また、このハウジングは、所定のガイド機構によって、バイオセンサ基板10の径方向に移動可能となっている。サーボ回路202は、かかるハウジングの移動制御をも行う。この制御は、既存のCDプレーヤやDVDプレーヤにおける制御と同様のアクセス制御であり、ここでは、その詳細な説明は省略する。
半導体レーザ101は、波長405nm程度のレーザ光(以下、「励起光」という)を出射する。なお、本実施例における励起光は、特許請求の範囲に記載の照射光の一例である。図5には、半導体レーザ101から出射される励起光のうち、バイオセンサ基板10に導かれる励起光、すなわち、アパーチャ102を通過する励起光が、破線で示されている。アパーチャ102には、所定の口径を有する円形の開口が形成されており、このアパーチャ102により励起光の口径が制限される。また、半導体レーザ101の位置は、半導体レーザ101から出射される励起光がPBS103に対してS偏光となるよう調整されている。これにより、半導体レーザ101から出射された励起光は、アパーチャ102により口径を制限された後、PBS103によって反射され、コリメータレンズ104に入射する。
コリメータレンズ104は、PBS103側から入射する励起光を平行光に変換する。これにより、コリメータレンズ104を通過した励起光は、所定径の平行光となる。1/4波長板105は、コリメータレンズ104側から入射する励起光を円偏光に変換するとともに、ダイクロイックプリズム106側から入射する励起光を、コリメータレンズ104側から入射する際の偏光方向に直交する直線偏光に変換する。これにより、コリメータレンズ104側からPBS103に入射する励起光は、PBS103を透過する。
ダイクロイックプリズム106は、波長405nm程度のレーザ光を反射し、波長450〜540nm程度のレーザ光を透過するよう構成されている。これにより、1/4波長板105側から入射する励起光は、ダイクロイックプリズム106によって反射され、対物レンズ107に入射する。
対物レンズ107は、励起光をバイオセンサ基板10に対して適正に収束させるよう構成されている。具体的には、対物レンズ107は、ダイクロイックプリズム106側から入射する励起光が所定のNA(開口数、ここでは、0.34)で収束するよう構成されている。対物レンズ107に対する励起光の入射口径は、アパーチャ102の口径によって決められる。対物レンズ107により収束される励起光の焦点深度は、励起光のNAによって決まる。励起光の焦点深度については、追って図7(a)、(b)を参照して説明する。
対物レンズ107は、ホルダ121に保持された状態で、対物レンズアクチュエータ122により、フォーカス方向(バイオセンサ基板10に垂直な方向)とトラッキング方向(バイオセンサ基板10の径方向)に駆動される。すなわち、対物レンズ107は、励起光が、バイオセンサ基板10の反射面11aに合焦された状態で、グルーブからなるトラックを追従するよう、駆動される。反射面11aに合焦された励起光は、一部が反射面11aによって反射され、大部分が反射面11aを透過する。
反射面11aによって反射された励起光(以下、「反射励起光」という)は、ダイクロイックプリズム106によって反射され、1/4波長板105により直線偏光に変換され、コリメータレンズ104により収束光となる。そして、コリメータレンズ104側からPBS103に入射する反射励起光は、上述したようにPBS103を透過する。
アナモレンズ108は、PBS103側から入射する反射励起光に非点収差を導入する。アナモレンズ108を透過した反射励起光は、光検出器109に入射する。光検出器109は、受光面上に反射励起光を受光するための4分割センサを有している。光検出器109の検出信号は、信号演算回路201に入力される。
対物レンズ107によって収束された励起光がウエル13に対応する位置を走査するとき、バイオセンサ基板10に照射された励起光のうち、反射面11aを透過した励起光は、ウエル13の底面部13aに到達する。底面部13aに並列的に配されている蛍光標識されたマラリア原虫に感染している赤血球に励起光が照射されると、マラリア原虫から蛍光が発生する。かかる蛍光は、図5において一点鎖線で示されるように、NA(開口数)が励起光のNAよりも大きい。このため、対物レンズ107とダイクロイックプリズム106との間において、蛍光のビーム径は励起光のビーム径よりも大きくなっている。蛍光のNAは、たとえば、0.65である。また、蛍光の波長は励起光の波長と異なっており、本実施例では450〜540nmとなっている。
一方でマラリア原虫に感染していない赤血球は蛍光標識されていないので蛍光を発生しない。このようにして、マラリア原虫に感染している赤血球と感染していない赤血球とを区別することができる。
また、対物レンズ107によって収束された励起光が蛍光領域A1または無蛍光領域A2の溝15に対応する位置を走査するとき、バイオセンサ基板10に照射された励起光のうち、反射面11aを透過した励起光は、蛍光底面部15aまたは無蛍光底面部15bに到達する。蛍光底面部15aに励起光が照射されると、蛍光底面部15aに塗布されている蛍光材料から蛍光が発生する。かかる蛍光の波長は、上述のマラリア原虫から発生する蛍光と同様、450〜540nmである。蛍光材料から発生する蛍光も、マラリア原虫から発生した蛍光と同様、図5において一点鎖線で示されている。
対物レンズ107側からダイクロイックプリズム106に入射する蛍光は、ダイクロイックプリズム106を透過する。集光レンズ110は、ダイクロイックプリズム106側から入射する蛍光を集光して、蛍光検出器111に導く。蛍光検出器111は、受光面上に蛍光を受光するためのセンサを有している。蛍光検出器111の検出信号は、信号増幅回路204に入力される。
信号演算回路201は、光検出器109の検出信号から、後述するフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEを生成し、光検出器109の検出信号から、トラック(グルーブ)の蛇行形状に応じたウォブル信号を生成する。サーボ回路202は、信号演算回路201から出力されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEを用いて、対物レンズアクチュエータ122の駆動を制御する。また、サーボ回路202は、信号演算回路201から出力されたウォブル信号を用いて、線速度一定でバイオセンサ基板10が回転されるよう、回転装置123を制御する。再生回路203は、信号演算回路201から出力されたウォブル信号を復調して再生データを生成する。
信号増幅回路204は、蛍光検出器111からの検出信号を蛍光信号ゲイン倍率Gに従って増幅し、増幅された信号をコントローラ205に出力する。信号増幅回路204の蛍光信号ゲイン倍率Gは、後述のように、コントローラ205によって設定される。
コントローラ205は、信号演算回路201と、サーボ回路202と、再生回路203の他、蛍光検出装置1の各部を制御する。コントローラ205は、信号増幅回路204の出力信号に基づいて、ウエル領域A3と蛍光領域A1から生じる蛍光を検出すると共に、検出した蛍光と、再生回路203から出力される再生データ(アドレス情報)に基づいて、蛍光の生じた位置を判定する。また、コントローラ205は、ウエル領域A3から蛍光の生じた位置に対応するアドレス情報を内部メモリに保持する。
さらに、コントローラ205は、信号増幅回路204の出力信号に基づいて、信号増幅回路204の蛍光信号ゲイン倍率Gを設定し、また、信号増幅回路204から入力された信号から、マラリア原虫から生じた蛍光に対応する信号を抽出するための閾値Vshを設定する。
図6は、信号演算回路201の回路構成を示す図である。
光検出器109は、上述したように受光面上に反射励起光を受光するための4分割センサを有しており、4分割センサの左上、右上、右下、左下のセンサは、それぞれ受光した反射励起光のビームスポットに基づいて検出信号S1〜S4を出力する。なお、図6の光検出器109の受光面上において、ディスクの径方向に対応する方向は、左右方向である。また、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEは、既存の光ディスク装置において用いられる非点収差法と1ビームプッシュプル法に従って生成される。
信号演算回路201は、加算器301〜304と、減算器305、306を備えている。加算器301は、検出信号S1、S3を加算した信号を減算器305に出力し、加算器302は、検出信号S2、S4を加算した信号を減算器305に出力する。加算器303は、検出信号S1、S4を加算した信号を減算器306に出力し、加算器304は、検出信号S2、S3を加算した信号を減算器306に出力する。
減算器305は、加算器301、302の出力信号を減算して、フォーカスエラー信号FEを出力する。減算器306は、加算器303、304の出力信号を減算して、トラッキングエラー信号TEを出力する。すなわち、フォーカスエラー信号FEと、トラッキングエラー信号TEは、それぞれ以下の式(1)、(2)の演算により取得することができる。
FE=(S1+S3)−(S2+S4) …(1)
TE=(S1+S4)−(S2+S3) …(2)
ここで、対物レンズ107の焦点位置が反射面11aに位置付けられているとき、光検出器109の4分割センサ上のビームスポットは最小錯乱円となり、上記式(1)のフォーカスエラー信号FEの値が0となる。また、対物レンズ107の焦点位置が反射面11aのトラック(グルーブ)の真上に位置付けられているとき、光検出器109の4分割センサ上のビームスポットは、左側の2つのセンサと右側の2つのセンサに対して等しく掛かり、上記式(2)のトラッキングエラー信号TEの値が0となる。
なお、トラック(グルーブ)の蛇行形状に応じた波形信号(ウォブル信号)は、トラッキングエラー信号TEに基づいて取得される。具体的には、トラッキングエラー信号TEから、ウォブル信号に応じた周波数成分を抽出することにより、ウォブル信号が取得される。ウォブル信号の生成方法は、既存のDVDプレーヤ等において用いられる技術と同様である。
図7(a)、(b)は、励起光の焦点深度を説明するための図である。
上述したように、励起光の波長は405nmであり、励起光のNA(開口数)は0.34である。また、一般に焦点深度は、波長/(NA×NA)により算出することができる。よって、本実施例の励起光の焦点深度は、約3.5μmとなる。図2(a)、(b)に示す底面部13aと反射面11aとの間隔d3は、励起光の焦点深度よりも小さくなるよう設定され、ここでは、2.0μmに設定されている。
上記のように、励起光のNAが設定されると、焦点位置におけるスポット径は約1μmとなる。図2(b)に示すトラックピッチの間隔d6は、かかるスポット径と略同じとなるよう、1μmに設定されている。これに対し、マラリア原虫の核は励起光により1μm程度の大きさの蛍光輝点を発する。したがって、励起光のスポットをマラリア原虫の核のサイズに収束させながら、隙間無く、試料が励起光のスポットで走査されるため、マラリア原虫の核を確実に検出することができる。
図7(a)は、励起光の焦点深度の範囲の最下点が反射膜14と一致している状態を示し、図7(b)は、励起光の焦点深度の範囲の最上点が底面部13aと一致している状態を示している。なお、サーボ回路202から対物レンズアクチュエータ122に出力されるオフセット電圧を調整することで、励起光の焦点深度を、図7(a)よりも奥方向(図中の上方向)にシフトさせることもでき、図7(a)、(b)の間にシフトさせることもできる。
図7(a)、(b)の状態のとき、ウエル13の底面部13aと反射面11aとの間隔d3は2μmであり、励起光の焦点深度は3.5μmであるため、励起光の焦点深度に対応する範囲に、底面部13aと反射面11aの両方が含まれるようになる。したがって、フォーカスサーボにより、励起光の焦点位置を反射面11aに位置付けると、底面部13aに配されている試料にも焦点が合わせられることとなる。また、底面部13aと同様、蛍光底面部15aの位置の反射面11aに励起光が合焦されると、蛍光底面部15aが励起光の焦点深度の範囲に含まれ、また、無蛍光底面部15bの位置の反射面11aに励起光が合焦されると、無蛍光底面部15bが焦点深度の範囲に含まれるようになる。
図8(a)は、コントローラ205による蛍光信号ゲイン倍率Gと閾値Vshの設定を示すフローチャートである。なお、図8(a)のフローチャートを実行する前に、コントローラ205は、図5の信号増幅回路204に蛍光信号ゲイン倍率Gのデフォルト値を設定する。
まず、コントローラ205は、対物レンズ107の焦点位置を蛍光領域A1へと送り、さらに、対物レンズアクチュエータ122を駆動して、励起光を蛍光領域A1の反射面11aに合焦させる(S11)。焦点位置の蛍光領域A1への移動は、たとえば、既存のCDプレーヤやDVDプレーヤにおけるアドレスサーチの技術を用いて行われる。こうして励起光を蛍光領域A1の反射面11aに合焦させると、図7(a)、(b)を参照して説明したように、励起光は、蛍光領域A1の蛍光底面部15aにも合焦するようになる。また、蛍光底面部15aに励起光が照射されることにより、蛍光底面部15aから生じた蛍光が蛍光検出器111に入射する。
続いて、コントローラ205は、蛍光底面部15aから生じる蛍光に基づく蛍光検出器111の検出信号の最大値V1を取得する(S12)。具体的には、コントローラ205は、図8(b)に示すような蛍光底面部15aに基づく検出信号を、信号増幅回路204を介して取得し、取得した検出信号の最大値をV1として取得する。
なお、この状態で、対物レンズ107の焦点位置が、蛍光領域A1中の平面部16または無蛍光領域A2中の平面部16に対応する位置に送られると、蛍光検出器111の検出信号の最大値は、図8(b)に示すようにV2となる。また、対物レンズ107の焦点位置が、無蛍光領域A2の無蛍光底面部15bに対応する位置に送られると、蛍光検出器111の検出信号の最大値は、図8(b)に示すように、V3となる。このように、焦点位置が平面部16と無蛍光底面部15bに対応する位置に送られた場合も、暗電流等のノイズ成分により、蛍光検出器111の検出信号が出力されるが、その信号レベルはかなり小さい。
続いて、コントローラ205は、取得した最大値V1を予め設定した目標値Vtまで増幅させるための蛍光信号ゲイン倍率G(=Vt/V1)を算出する(S13)。そして、コントローラ205は、算出した蛍光信号ゲイン倍率Gを信号増幅回路204に設定する(S14)。これにより、図8(c)に示すように、蛍光底面部15aの検出信号の最大値が目標値Vtに合わせられる。
次に、コントローラ205は、対物レンズ107の焦点位置を無蛍光領域A2へと送り、励起光を無蛍光領域A2の反射面11aに合焦させる(S15)。これにより、S11と同様、励起光が無蛍光底面部15bにも合焦される。このとき、信号増幅回路204の出力信号の最大値は、図8(c)に示すように、V2に蛍光信号ゲイン倍率Gを掛けたV2’となっている。コントローラ205は、最大値V2’を取得する(S16)。なお、この状態で、対物レンズ107の焦点位置が、平面部16に対応する位置に送られると、信号増幅回路204の出力信号の最大値は、図8(c)に示すように、V3に蛍光信号ゲイン倍率Gを掛けたV3’となる。
ここで、上述したように、蛍光底面部15aから生じる蛍光の強度は、マラリア原虫から生じる蛍光と同程度となるように、蛍光底面部15aが設定されている。このため、上記のように蛍光信号ゲイン倍率Gが設定されると、対物レンズ107の焦点位置がウエル13内のマラリア原虫の核に位置付けられた場合の信号増幅回路204の出力信号も、目標値Vt付近に合わせられる。また、対物レンズ107の焦点位置がウエル13内のマラリア原虫を含まない試料に位置付けられた場合の信号増幅回路204の出力信号は、最大値V2’付近に合わせられる。また、対物レンズ107の焦点位置がウエル領域A3のウエル13のない部分に位置付けられた場合の信号増幅回路204の出力信号は、最大値V3’付近に合わせられる。
続いて、コントローラ205は、目標値Vtと最大値V2’とに基づいて、閾値Vshを決定する(S17)。具体的には、最大値V2’よりも所定の割合だけ大きく、且つ、目標値Vtよりも小さい値を閾値Vshとする(S18)。これにより、図8(c)に示すような、増幅された蛍光検出器111の検出信号のうち、閾値Vsh以上の値のみ、すなわち、蛍光底面部15aに基づく増幅された検出信号のみが、コントローラ205によって検出される。
なお、平面部16と無蛍光底面部15bにおいて蛍光検出器111から出力される検出信号が、上記のように、暗電流等の回路的なノイズ信号である場合、かかる検出信号の大きさは、ある程度固定される。これに対し、蛍光底面部15aにおいて蛍光検出器111から出力される検出信号は、蛍光材料の劣化具合やバイオセンサ基板10の反り等、バイオセンサ基板10側の要因によって大きく変わり得る。このため、図8(b)においては、平面部16と無蛍光底面部15bにおいて蛍光検出器111から出力される検出信号のレベルと、蛍光底面部15aにおいて蛍光検出器111から出力される検出信号のレベルとが接近することも想定され得る。この場合、S13において最大値V1をもとに蛍光信号ゲイン倍率Gが設定されると、平面部16と無蛍光底面部15bにおいて蛍光検出器111から出力される検出信号(ノイズ)も大きく増幅される。しかし、この場合も、S17において、目標値Vtと、増幅後の最大値V2’との間に、閾値Vshが設定されるため、閾値Vshが最大値V2’を下回ることがない。よって、この場合も、マラリア原虫から生じる蛍光を適正に検出することができる。すなわち、図8(a)のフローチャートでは、閾値Vshが、固定ではなく、増幅後の最大値V2’に基づいて動的に設定されるため、閾値Vshをバイオセンサ基板10の状況に応じて適正なものとすることができ、マラリア原虫から生じる蛍光を適正に検出することができる。
また、S17では、無蛍光底面部15bに基づく検出信号の最大値V2’に従って、閾値Vshが設定されたが、無蛍光底面部15bに基づく検出信号の最大値V2’と平面部16に基づく検出信号の最大値V3’のうち、大きい方の最大値よりも所定の割合だけ大きく、且つ、目標値Vtよりも小さい値を閾値Vshとしても良い。
以上、本実施例によれば、バイオセンサ基板10には、試料を収容するためのウエル13と共に、マラリア原虫に感染した赤血球と同様に蛍光を生じる蛍光底面部15aが設けられる。これにより、図8(a)に示すように、蛍光検出装置1において蛍光信号ゲイン倍率Gが設定されると、マラリア原虫に感染した赤血球に基づく蛍光検出器111の検出信号の最大値を、目標値Vt付近まで増幅させることができる。これにより、マラリア原虫から生じた蛍光を、漏れなく、適正に、検出できるとの効果が奏され得る。
たとえば、蛍光検出装置1ごとに光学系の設定にバラつきが生じている場合、マラリア原虫に感染した赤血球に基づく蛍光検出器111の検出信号の大きさにも、各装置によってバラつきが生じてしまう。この場合、マラリア原虫から生じる蛍光の検出信号が小さいと、検出すべき蛍光が検出されずに埋もれてしまうことが起こり得る。
しかしながら、本実施例によれば、予め、必ず蛍光が生じる蛍光底面部15aがバイオセンサ基板10に設けられているため、蛍光検出装置1側において、この蛍光底面部15aに励起光を照射することにより、当該バイオセンサ基板10において検出されるべき蛍光の信号レベルを把握することができる。すなわち、蛍光底面部15aに励起光を照射したときの蛍光の検出信号が小さい場合には、マラリア原虫から生じる蛍光の蛍光信号も同様に小さいということを予め把握することができる。そして、蛍光検出装置1側において、検出信号の大きさが適正なレベルになるように、信号増幅回路204の蛍光信号ゲイン倍率Gを設定することにより、マラリア原虫に基づく蛍光検出器111の検出信号の最大値を、検出に最適な目標値Vtまで増幅させることができる。本実施の形態は蛍光検出後の増幅率の調整によりキャリブレーションを行う方法について記載したが、励起光の強度調整を行うことでも同様のキャリブレーションを実施することができる。つまり、励起光の出射強度を大きくすることで、蛍光信号量を大きくし、検出に最適な目標値Vtになるようにしてもよい。但し、この場合は、蛍光材料や試料が励起光により劣化しないように充分に配慮しなければならない。このため、光学系の設定やバイオセンサ基板10の状態等に起因してマラリア原虫から生じる蛍光の検出信号が小さいような場合にも、蛍光の検出漏れを抑制することができ、赤血球がマラリア原虫に感染しているか否かの判定の精度を高めることができる。
また本実施例によれば、バイオセンサ基板10には、試料を収容するためのウエル13と共に、マラリア原虫に感染した赤血球と同様に蛍光を生じる蛍光底面部15aが設けられる。これに限らず、蛍光底面部15aの蛍光強度が一定程度大きくても良い。強度が大きいと蛍光検出器で検出が容易になる。その場合、蛍光底面部15aで検出した信号強度がマラリアからの強度に対して一定の大きさになるよう設定するようにし、マラリア原虫に基づく蛍光検出器111の検出信号強度を想定する。つまり蛍光底面部15aで一定強度になるように蛍光信号ゲインGを設定することで、マラリア原虫からの蛍光強度が所定強度以上になるように設定することもできる。
また、本実施例によれば、溝15の蛍光底面部15aとウエル13の底面部13aが、反射面11aから略同じ距離だけ離れているため、蛍光底面部15aと底面部13aに対する励起光の照射条件を一致させることができる。このため、蛍光底面部15aに励起光を照射したときの蛍光の発生強度をもとに、ウエル13に励起光を照射したときの蛍光の発生強度を適正に把握することができ、蛍光検出装置1側において、ウエル13に励起光を照射したときの蛍光の検出信号を、適正なレベルに調整し易くなる。
また、本実施例によれば、蛍光底面部15aに付される材料は、励起光が照射されると試料から生じる蛍光と略同じ強度の蛍光が生じるものが用いられる。これにより、蛍光底面部15aに励起光を照射したときの蛍光の発生強度が、ウエル13に収容された試料から生じる蛍光の発生強度と略同じとなるため、蛍光検出装置1において、ウエル13に励起光を照射したときの蛍光の検出信号を、適正なレベルに容易に調整できるようになる。蛍光底面部15aに付される材料において、試料から生じる蛍光と略同じ強度の蛍光を生じるものが得られない場合は、試料からの蛍光よりも強い強度の材料を使用し、濃度や不純物を調整することで、略同じ強度の蛍光が得られるように調整することもできる。
また、本実施例によれば、溝15の無蛍光底面部15bとウエル13の底面部13aが、反射面11aから略同じ距離だけ離れているため、無蛍光底面部15bと底面部13aに対する励起光の照射条件を一致させることができる。このため、無蛍光底面部15bに励起光を照射したときに蛍光検出器111から出力される検出信号をノイズ成分として取得することができ、この検出信号を超えるレベルに、試料からの蛍光を検出するための閾値を設定することにより、試料からの蛍光を精度よく検出することができる。よって、図8(c)に示すように、蛍光検出装置1において閾値Vshが動的に設定されることにより、マラリア原虫に感染した赤血球に基づく蛍光検出器111の検出信号のみを、適正に検出することができる。これにより、マラリア原虫に感染した赤血球から生じた蛍光の検出精度を高めることができる。
<実施例2>
図9は、本実施例に係る蛍光検出装置2の構成を示す図である。
蛍光検出装置2は、図5に示す蛍光検出装置1において、コリメータレンズ104を励起光の光軸方向に移動させるレンズアクチュエータ124と、集光レンズ110を蛍光の光軸方向に移動させるレンズアクチュエータ125と、レンズアクチュエータ124、125を駆動させるレンズ駆動回路206が追加された構成となっている。レンズアクチュエータ124、125は、それぞれ、レンズ駆動回路206を介してコントローラ205により駆動される。
なお、本実施例においても、コリメータレンズ104によって励起光が平行光とされたときに、励起光が対物レンズ107によって所定の位置に合焦し、この焦点位置から反射された励起光が、光検出器109の受光面上で円形(最小錯乱円)のビームスポットとなるよう光学系が構成されている。この光学系では、フォーカスサーボを行いながらコリメータレンズ104を光軸方向に移動させることにより、対物レンズ107を透過した光線の焦点位置を光軸方向にずらすことができる。これにより、バイオセンサ基板10上における励起光の焦点位置を、深さ方向に変化させることができる。また、集光レンズ110を光軸方向に移動させることにより、蛍光検出器111に集光される蛍光の、バイオセンサ基板10上における発生位置を深さ方向に変化させることができる。
図10は、コントローラ205によるレンズアクチュエータ124、125の駆動処理を示すフローチャートである。この駆動処理は、図8(a)に示す蛍光信号ゲイン倍率Gと閾値Vshの設定処理の前に実行される。
まず、コントローラ205は、レンズ駆動回路206を介して、コリメータレンズ104と集光レンズ110を初期位置に移動させる(S21)。なお、コリメータレンズ104の初期位置は、コリメータレンズ104の移動範囲のうち最も左端の位置(1/4波長板105に近い位置)であり、集光レンズ110の初期位置は、集光レンズ110の移動範囲のうち最も奥側の位置(ダイクロイックプリズム106に近い位置)である。なお、コリメータレンズ104が初期位置に位置付けられると、PBS103側から入射する励起光が、コリメータレンズ104により平行光に変換される。
続いて、コントローラ205は、対物レンズ107の焦点位置を蛍光領域A1へと送り、さらに、対物レンズアクチュエータ122を駆動して、励起光を蛍光領域A1の反射面11aに合焦させる(S22)。
次に、コントローラ205は、コリメータレンズ104を1段階右に(PBS103に近づく方向に)移動させ(S23)、蛍光検出器111の検出信号が増加したかを判定する(S24)。蛍光検出器111の検出信号が増加していると(S24:YES)、処理がS23に戻される。蛍光検出器111の検出信号が増加していないと(S24:NO)、コントローラ205は、コリメータレンズ104を1段階左に(1/4波長板105に近づく方向に)移動させる(S25)。これにより、蛍光が最も検出される位置に、コリメータレンズ104が移動される。すなわち、励起光の焦点位置が、蛍光底面部15aに合わせられる。
バイオセンサ基板10の製造時に、図7(a)、(b)に示す幅d3にバラつきが生じると、上記実施例1のように、励起光を反射面11aに合焦させても、焦点深度の範囲にウエル13の底面部13aが含まれないことが起こり得る。このような場合でも、上記のようにコリメータレンズ104を移動させることにより、励起光の焦点位置を底面部13aに位置付けることができる。これにより、蛍光検出装置2によるマラリア原虫の検出精度を向上させることができる。
次に、コントローラ205は、集光レンズ110を1段階手前に(蛍光検出器111に近づく方向に)移動させ(S26)、蛍光検出器111の検出信号が増加したかを判定する(S27)。蛍光検出器111の検出信号が増加していると(S27:YES)、処理がS26に戻される。蛍光検出器111の検出信号が増加していないと(S27:NO)、コントローラ205は、集光レンズ110を1段階奥側(ダイクロイックプリズム106に近づく方向に)移動させる(S28)。これにより、蛍光が最も検出される位置に、集光レンズ110が移動される。すなわち、蛍光検出器111に集光される蛍光の、バイオセンサ基板10上における発生位置を、蛍光底面部15aに設定することができる。
このように、集光レンズ110の位置が調整されると、マラリア原虫に感染した赤血球から生じる蛍光に基づく蛍光検出器111の検出信号を高めることができるため、蛍光検出装置2によるマラリア原虫の検出精度を向上させることができる。
以上のようにしてコリメータレンズ104の位置と集光レンズ110の位置を設定した後、図8(a)に示す蛍光信号ゲイン倍率Gと閾値Vshの設定処理が行われ、さらに、ウエル領域A3に対する蛍光検出動作が実行される。図10における設定処理は、蛍光材料が塗布された蛍光底面部15aについて行われるが、蛍光底面部15aの深さ位置は、ウエル13の底面部13aの深さ位置と略同じであるため、図10の処理により設定されたコリメータレンズ104の位置と集光レンズ110の位置は、ウエル13の底面部13aの深さ位置にも適合するものとなる。
すなわち、バイオセンサ基板10毎に、反射面11aとウエル13の底面部13aとの距離が変化しても、適宜、励起光の焦点位置を変化させることにより(S23〜S25)、励起光を試料に適正に照射することができ、蛍光検出器111から出力される信号を増大させることができる。また、バイオセンサ基板10毎に、反射面11aとウエル13の底面部13aとの距離が変化しても、適宜、集光レンズ110の位置を変化させることにより(S26〜S28)、適正な深さからの蛍光を蛍光検出器111に集めることができ、蛍光検出器111から出力される信号を増大させることができる。よって、図10の処理により設定された位置にコリメータレンズ104と集光レンズ110を位置付けてウエル領域A3に対する蛍光検出動作を実行することにより、マラリア原虫に感染した赤血球から生じる蛍光を、上記実施例1に比べてさらに精度良く検出することができる。
また、コリメータレンズ104と集光レンズ110を位置付けてウエル領域A3に対する蛍光検出動作を実行した後で、蛍光信号ゲインGの大きさでバイオセンサ基板の状態を管理することもできる。バイオセンサ基板にあらかじめ塗布された蛍光指標が劣化して信号強度が低下していく場合、蛍光底面部15aで検出する信号強度は劣化によって低下していく。その信号強度が小さくなっていくと、蛍光信号ゲインGは劣化によって大きくなっていく。そこで、蛍光信号ゲインGの大きさの上限値を設定し、上限を超えたバイオセンサ基板は使用に制限を与えるよう装置にあらかじめ設定しておいてもよい。蛍光信号ゲインGの値が設定値を超えた場合、バイオセンサ基板に異常がある旨表示してユーザに表示して装置から基板を排出するようにしてもよい。
あるいは、あらかじめ塗布された蛍光指標からの信号強度が一定以上小さくなった場合にバイオセンサ基板に異常がある旨表示してユーザに表示して装置から基板を排出するようにしてもよい。
<変更例>
上記実施例1、2では、蛍光底面部15aと無蛍光底面部15bは、溝15の底面に形成されたが、図11(a)に示すように、ウエル13と同様の円柱形状のウエル17の底面に形成されても良い。この場合も、蛍光領域A1に含まれるウエル17の底面が、上記蛍光底面部15aと同様に蛍光底面部17aとされ、無蛍光領域A2に含まれるウエル17の底面が、上記無蛍光底面部15bと同様に無蛍光底面部17bとされる。無蛍光領域A2のウエル17の直径はd’’である。なお、図11(a)中のd1〜d5、d1’〜d4’は実施例1と同じであり、d1=d1’=d1’’である。
また、図11(a)に示すように、蛍光領域A1と無蛍光領域A2にウエル17が形成される場合、ウエル17の蛍光底面部17aに塗布される蛍光材料の濃度が、図11(b)に示すように、マラリア原虫による感染の進行度合いに応じて段階的に異なるように設定されても良い。赤血球がマラリア原虫に感染すると、感染の進行度合いに応じて赤血球中の原虫の量が増え、赤血球から生じる蛍光の大きさが変化する。そこで、図11(b)に示すように、蛍光底面部17aに塗布される蛍光材料の濃度を、たとえば3段階に設定する。この場合、最も低い濃度が、上記実施の形態の蛍光底面部15aと同様の濃度に設定される。
たとえば、複数のウエル17が形成された同心円状の領域を、バイオセンサ基板10の蛍光領域A1に、径方向に3つ配置し、それぞれの同心円状の領域に、互いに異なる濃度の蛍光材料を適用する。同じ同心円の領域のウエル17には、同じ濃度の蛍光材料が塗布され、径方向に隣り合う同心円の領域のウエル17には、異なる濃度の蛍光材料が塗布される。
この場合、コントローラ205は、3つの同心円の領域のうち最も濃度が低い領域のウエル17を走査して上記図8(a)の処理を実行し、蛍光信号ゲイン倍率Gと閾値Vshを設定する。次に、コントローラ205は、最も高濃度の蛍光材料が適用された同心円の領域のウエル17と、中間濃度の蛍光材料が適用された同心円の領域のウエル17を順次走査し、各領域について、蛍光の検出信号の最大値V1a、V1bを取得し、取得した最大値V1a、V1bに蛍光信号ゲイン倍率Gを乗じた値V1a’、V1b’を取得する。そして、コントローラ205は、目標値Vtと値V1b’との間に閾値Vshbを設定し、値V1b’と値V1a’との間に閾値Vshaを設定する。コントローラ205は、励起光でウエル領域A3を走査したときの蛍光の検出信号に蛍光信号ゲイン倍率Gを乗じた乗算値が、閾値Vshを超えていると、この蛍光がマラリア原虫から生じたものであると判定する。さらに、コントローラ205は、取得した乗算値が、閾値Vshと閾値Vshbとの間にあれば、マラリア原虫による感染の進行度合いを初期レベルと判定し、乗算値が、閾値Vshbと閾値Vshaとの間にあれば、マラリア原虫による感染の進行度合いを中期レベルと判定し、乗算値が、閾値Vshaを超えていると、マラリア原虫による感染の進行度合いを後期レベルと判定する。
このように、本変更例によれば、試料から生じた蛍光の大きさに応じて、マラリア原虫の感染の進行度合いを把握することができる。また、検出対象がマラリア原虫以外であっても、検出強度の違いによる状態把握が可能となる。
また、上記実施例1、2では、蛍光領域A1と無蛍光領域A2は、図1に示すように、バイオセンサ基板10の内周側に形成されたが、これに限らず、バイオセンサ基板10の外周側に形成されても良く、内周側と外周側の間に形成されても良い。また、蛍光領域A1と無蛍光領域A2からなる領域と、ウエル領域A3とが、図12(a)に示すように、径方向に所定の間隔を開けて形成されても良い。また、蛍光領域A1と、無蛍光領域A2と、ウエル領域A3とが、図12(b)に示すように、バイオセンサ基板10の中心に対して所定の角度だけ分布するように形成されても良い。
この際、蛍光領域A1をウェルの場所特定領域として使用することもできる。蛍光検出装置はシステム情報等を読み出して蛍光領域A1の位置を特定する。そして蛍光領域A1を検出して所定の距離はなれた位置にあるウェルを特定できるようにしてもよい。この蛍光材が埋め込まれた蛍光領域A1は、ウエル底面とは反射面から略同じ距離で形成されていることで、励起光の焦点位置を底面部13aに位置付けることができ、より確実にウエル位置を特定できる。
さらには、蛍光領域A1に対し1個のウェルを配置することもできる。このようにすれば、蛍光領域A1とウェルが1対1で出現するためウェルの位置を検出しやすくなる効果も有する。
なお、バイオセンサ基板10に反りが生じている場合、径方向の位置に応じて試料から生じる蛍光の大きさが異なるものとなる。しかしながら、図12(a)のようにバイオセンサ基板10が構成されると、試料から生じる蛍光の大きさを、近傍の蛍光領域A1から生じる蛍光と同レベルに増幅することができるため、径方向に異なる位置の試料から生じた蛍光の大きさを揃えることが可能となる。
また、図12(a)のようにバイオセンサ基板10が構成されると、内周から外周へのバイオセンサ基板10の反りを検出できるため、対物レンズ107または対物レンズ107を含む光学系を傾ける等、光学的補正も可能となる。たとえば、図12(a)の3つの蛍光領域A1から生じる蛍光が、内周から外周の方向に小さくなる場合、中央と外周の蛍光領域A1から生じる蛍光が大きくなるように、対物レンズ107を傾ける。このとき、中央と外周の蛍光領域A1における対物レンズ107の傾き角に基づいて、バイオセンサ基板10の各位置における対物レンズ107の傾き角を取得する。そして、取得した傾き角に応じてウエル領域A3における対物レンズ107の傾き角を設定する。これにより、バイオセンサ基板10に反りが生じていても、ウエル領域A3から生じる蛍光を精度良く検出することができる。
<実施例3>
図13は、本実施例に係るバイオセンサ基板10の構成を模式的に示す図である。バイオセンサ基板10は、たとえば、人の血液中においてマラリア原虫に感染した赤血球を検出するために用いられる。
図13の上側の斜視図に示すように、バイオセンサ基板10は、光ディスク(CDやDVD等)と同様に円盤形状を有しており、中心に円形状の孔10aが形成されている。また、バイオセンサ基板10は、ベース基板11の上面にウエル層12が積層された構造となっている。
図13の上側の斜視図および下側の断面図に示すように、ウエル層12は、径方向に内周側から順に、システム・キャリブレーション領域A11とウエル領域A12に区分されている。各領域は使用前にあらかじめ設定されている。また、バイオセンサ基板10を使用する際に、システム・キャリブレーション領域A11には試料を滴下せず、ウエル領域A12に試料を滴下することにより、使用時にウエル13内に試料が保持され、試料から生じる蛍光が検出される。
ウエル領域A12には、図13の右端の拡大図に示すように、円柱形状の窪みからなる微小なウエル13が複数形成されている。ウエル13は、バイオセンサ基板10の内周から外周に向かって略同心円状に並んでいる。ウエル13は、ウエル層12の上面よりも一段低い底面部13aを有しており、試料が滴下されたときにその試料を収容することができるよう直径と高さが設定されている。なお、システム・キャリブレーション領域A11には、ウエル13は形成されておらず、凹部15が円環状に形成されている。凹部15については、追って図14(a)を参照して説明する。
図14(a)は、図13の斜視図の破線部分の拡大図であり、図14(b)は、図14(a)の破線部分の拡大図である。
図14(b)に示すように、ベース基板11の上面(ウエル層12側の面)には、光ディスクと同様の螺旋状のトラックが形成されている。トラックは、蛇行した溝であるグルーブから形成されており、バイオセンサ基板10の面上の位置を特定するためのアドレス情報を、グルーブの蛇行形状(ウォブル)によって保持している。また、システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラック部分には、アドレス情報とともに、バイオセンサ基板10に固有の情報であって、被検体である細胞から生じる蛍光を検出する際に適宜利用される情報(以下、「システム情報」という)が、グルーブの蛇行形状によって保持されている。
システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラック部分に保持される情報のデータフォーマットは、図14(c)のように構成される。図14(c)に示すように、1フレーム中には、同期信号と、アドレス情報と、システム情報と、誤り訂正符号(ECC:Error Correction Code)のデータエリアが設定される。システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラック部分には、全領域にわたって、図14(c)に示すフレームが、連続的に繰り返し保持されている。ここで、同期信号はアドレスの始まりを識別できるように付与され、たとえば、4T信号の連続等によって構成される。
システム情報は、たとえば、あらかじめ蛍光塗料が塗布されているエリアの情報とバイオセンサ基板10上で最初にトラックがウエル13に入る位置と最後にウエル13から抜ける位置とに関する情報と、バイオセンサ基板10上に配置されたウエル13の個数と、バイオセンサ基板10の製造日と、バイオセンサ基板10の使用期限と、バイオセンサ基板10を製造したメーカーを識別するための情報などと、このバイオセンサ基板10が対象とする被検体を示す情報を含んでいる。あらかじめ蛍光塗料が塗布されているエリアの情報はアドレス情報により特定される。蛍光塗料が塗布されているエリアにアクセスし、再生信号レベルを設定したり、バイオセンサ基板の状態を検出できる。ウエル13の開始位置と終了位置は、これらの位置に対応するアドレス情報によって特定されている。ウエル13の開始位置は、たとえば、ウエル13に対する走査の際に、励起光の走査位置を当該開始位置にアクセスさせるために用いられ、システム・キャリブレーション領域A11と未使用領域A13からなる領域を特定するためにも用いられる。また、ウエル13の終了位置は、たとえば、全てのウエル13に対する走査が終了したか否かを判別する際に用いられる。ウエル13の個数に関する情報は、たとえば、走査すべきウエル13の残りの数を取得する際に用いられる。アドレスの開始位置と終了位置から検出所要時間を計算し、計測の進捗をユーザに知らせることに使ってもよい。バイオセンサ基板10の製造日と、バイオセンサ基板10の使用期限は、当該バイオセンサ基板10が蛍光検出の対象とされるべきかを判定する際に用いられる。たとえば、ウエル13の底面部13aに予め被検体を蛍光標識させるための蛍光試薬が塗布されている場合、使用期限を超えると蛍光試薬の感度が劣化し、適正な検出ができなくなる可能性がある。製造メーカーを識別するための情報は、たとえば、当該バイオセンサ基板10の信頼性を確認したり、製造メーカー毎のパラメータを設定したりする際に用いられる。対象被検体を示す情報は、装置側において、当該バイオセンサ基板10に対する蛍光検出が実行可能か、実行できない場合には排出したりユーザに警告するかなどの制御を行う、または、対象被検体に応じて、たとえば後述する励起光の波長を変えるなど、検出手段を切りかえるか否かを判定する際に用いられる。かかるシステム情報は、1フレーム中のシステム情報エリアに纏めて保持される。
CDやDVDと同様、線速度一定でトラックが励起光(後述)により走査されることにより、アドレス情報とシステム情報が再生される。トラックは、バイオセンサ基板10の最内周から最外周まで、螺旋状に延びている。トラックにはアドレス情報が連続的に記録されており、アドレス情報によって位置が特定できるようになっている。図14(a)に示すように、ベース基板11とウエル層12との間には、反射膜14が配されている。ベース基板11の上面のトラック上に反射膜14が形成されることにより、ベース基板11の上面に、反射膜14とベース基板11との界面である反射面11aが形成される。
ウエル13は、ウエル領域A12の上面側において、所定の間隔を開けて形成されている。ウエル13の底面部13aは、反射膜14よりも僅かに上側に位置付けられており、反射膜14の上面に対して離間している。システム・キャリブレーション領域A11の上面側には、径方向に所定の幅を有する凹部15が形成されている。凹部15の底面部15aは、ウエル13の底面部13aと同様、反射膜14よりも僅かに上側に位置付けられており、反射膜14の上面に対して離間している。
また、システム・キャリブレーション領域A11とウエル領域A12の間(凹部15の外周側)には、未使用領域A13が設けられている。未使用領域A13に対応するトラック部分には、アドレス情報とともに、ダミー情報が、グルーブの蛇行形状によって保持されている。図14(d)は、未使用領域A13に対応するトラック部分のデータフォーマットである。未使用領域A13のデータフォーマットは、図14(c)に示すシステム・キャリブレーション領域A11のデータフォーマットのシステム情報領域がダミー情報領域に置き換えられた構成となっており、ダミー情報領域に、所定のダミー情報が保持される。ここで、具体的には、ダミー情報として“0”を用いる。
未使用領域A13は、バイオセンサ基板10の製造バラつきや偏心を考慮して、システム情報がウエル領域A12に重ならないよう設定されるものであり、特に情報を取得するために、アクセスが必要な領域ではない。また、ウエル領域A12の端部は、基板形状の精度が低く、ノイズ成分が生じ易いため、緩衝領域として未使用領域A13が機能する。具体的には、製造バラつきや偏心を考慮して、未使用領域A13の径方向の幅は、50μm〜500μm幅で設定される。
図14(a)を参照して、ウエル13の直径と高さを、それぞれd1、d2とし、底面部13aと反射面11aとの間隔をd3とし、ウエル13の間隔をd4とする。同様に、凹部15の高さをd2’とし、底面部15aと反射面11aとの間隔をd3’とする。ベース基板11の厚みをd5とし、反射面11aのトラックピッチをd6とする。また、未使用領域A13の径方向の幅をd7とする。本実施例では、d1〜d7は、それぞれ、100μm、50μm、2μm、300μm、0.6mm、1μm、100μmに設定されている。また、d2’、d3’は、それぞれd2、d3と同じく、50μm、2μmに設定される。また、反射膜14の励起光(後述)に対する反射率は、3〜4%に設定されている。
また、本実施例では、ベース基板11はポリカーボネートから構成されており、ウエル層12は紫外線硬化樹脂から構成されており、反射膜14はアルミニウム、銀合金等の金属、あるいは、酸化ニオブ等の誘電体、波長選択膜等から構成されている。なお、ベース基板11は、ポリカーボネートの他、ポリメチルメタクリレート、非晶質ポリオレフィン、生分解性材料等の透光性材料から構成されても良い。ウエル層12は、シリコーン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、非晶質ポリオレフィン等から構成されても良い。反射膜14の膜厚は、励起光の波長に対し所望の反射率になるよう、たとえば5nm〜20nmに設定される。また、反射膜14の材料と膜厚は、励起光の波長に対し反射率が高く、蛍光の波長に対し反射率が低くなるように設定されることが好ましい。
図15(a)〜(d)は、バイオセンサ基板10の作成方法を示す図である。
まず、図15(a)に示すように、ベース基板11が射出成型により形成される。これにより、ベース基板11の厚みはd5となり、ベース基板11の上面に、一連のトラックが形成される。続いて、図15(b)に示すように、ベース基板11の上面に、反射膜14が形成され、これにより、ベース基板11の上面のトラックに反射面11aが形成される。続いて、図15(c)に示すように、反射膜14の上面に、スピンコートにより底面層12aが積層される。続いて、図15(d)に示すように、底面層12aの上面に、2P成型により厚さd2の上面層12bが形成される。これにより、ウエル13が複数形成されると共に凹部15が形成され、ウエル層12は、底面層12aと上面層12bが合わせられて形成されることになる。
ここで、図15(d)に示すように上面層12bが形成される際に、2P成型の誤差により上面層12bが径方向にずれると、システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラックがウエル領域A12のウエル13と重なる惧れがある。しかしながら、本実施例では、システム・キャリブレーション領域A11とウエル領域A12との間に未使用領域A13が設定されているため、上面層12bが径方向にずれたとしても、システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラックの部分がウエル13と重なることが回避され得る。
図16は、本実施例に係る蛍光検出装置1の構成を示す図である。蛍光検出装置1は、たとえば、上記バイオセンサ基板10のウエル13に収容された赤血球がマラリア原虫に感染しているかを判定するために用いられる。
なお、蛍光検出装置1を使用する際、予め、被検体を蛍光標識することにより作成した試料を、バイオセンサ基板10のウエル13に収容させておく。本実施例では、被検体である直径約10μm、厚さ約2μmの赤血球がマラリア原虫に感染していた場合にその内部が蛍光標識され、感染している赤血球と感染していない赤血球とが共に直径100μmのウエル13の底面部13aに並列的に複数配される。このように試料が収容されたバイオセンサ基板10の孔10a(図13参照)が、蛍光検出装置1の回転装置123(ターンテーブル)にセットされ、測定が開始される。
蛍光検出装置1の光学系は、半導体レーザ101と、アパーチャ102と、偏光ビームスプリッタ(PBS)103と、コリメータレンズ104と、1/4波長板105と、ダイクロイックプリズム106と、対物レンズ107と、アナモレンズ108と、光検出器109と、集光レンズ110と、蛍光検出器111を備えている。また、蛍光検出装置1は、上記光学系の他、ホルダ121と、対物レンズアクチュエータ122と、回転装置123と、信号演算回路201と、サーボ回路202と、再生回路203と、信号増幅回路204と、コントローラ205を備えている。
なお、蛍光検出装置1の光学系と、ホルダ121および対物レンズアクチュエータ122は、CDやDVDの記録/再生に用いる既存の光ピックアップ装置と同様、ハウジングに設置される。また、このハウジングは、所定のガイド機構によって、バイオセンサ基板10の径方向に移動可能となっている。サーボ回路202は、かかるハウジングの移動制御をも行う。
半導体レーザ101は、波長405nm程度のレーザ光(以下、「励起光」という)を出射する。なお、本実施例における励起光は、特許請求の範囲に記載の照射光の一例である。図16には、半導体レーザ101から出射される励起光のうち、バイオセンサ基板10に導かれる励起光、すなわち、アパーチャ102を通過する励起光が、破線で示されている。アパーチャ102には、所定の口径を有する円形の開口が形成されており、このアパーチャ102により励起光の口径が制限される。また、半導体レーザ101の位置は、半導体レーザ101から出射される励起光がPBS103に対してS偏光となるよう調整されている。これにより、半導体レーザ101から出射された励起光は、アパーチャ102により口径を制限された後、PBS103によって反射され、コリメータレンズ104に入射する。
コリメータレンズ104は、PBS103側から入射する励起光を平行光に変換する。これにより、コリメータレンズ104を通過した励起光は、所定径の平行光となる。1/4波長板105は、コリメータレンズ104側から入射する励起光を円偏光に変換するとともに、ダイクロイックプリズム106側から入射する励起光を、コリメータレンズ104側から入射する際の偏光方向に直交する直線偏光に変換する。これにより、コリメータレンズ104側からPBS103に入射する励起光は、PBS103を透過する。
ダイクロイックプリズム106は、波長405nm程度のレーザ光を反射し、波長450〜540nm程度のレーザ光を透過するよう構成されている。これにより、1/4波長板105側から入射する励起光は、ダイクロイックプリズム106によって反射され、対物レンズ107に入射する。
対物レンズ107は、励起光をバイオセンサ基板10に対して適正に収束させるよう構成されている。具体的には、対物レンズ107は、ダイクロイックプリズム106側から入射する励起光が所定のNA(開口数、ここでは、0.34)で収束するよう構成されている。対物レンズ107に対する励起光の入射口径は、アパーチャ102の口径によって決められる。対物レンズ107により収束される励起光の焦点深度は、励起光のNAによって決まる。励起光の焦点深度については、追って図18(a)、(b)を参照して説明する。
対物レンズ107は、ホルダ121に保持された状態で、対物レンズアクチュエータ122により、フォーカス方向(バイオセンサ基板10に垂直な方向)とトラッキング方向(バイオセンサ基板10の径方向)に駆動される。すなわち、対物レンズ107は、励起光が、バイオセンサ基板10の反射面11aに合焦された状態で、グルーブからなるトラックを追従するよう、駆動される。反射面11aに合焦された励起光は、一部が反射面11aによって反射され、大部分が反射面11aを透過する。
ここで、対物レンズ107によって収束された励起光がウエル領域A12に対応する位置を走査するとき、反射面11aを透過した励起光は、ウエル領域A12に対応するウエル層12に照射される。ウエル領域A12に対応するウエル層12には、図14(a)に示すように、ウエル13が形成されている部分と、ウエル13が形成されていない部分が含まれる。ウエル層12のウエル13に励起光が照射されると、バイオセンサ基板10が周方向に回転することにより、励起光は、ウエル13の底面部13aとウエル13の形成されていないウエル層12の上面とで反射されることになる。また、底面部13aとウエル層12の上面との境界の段差部分を励起光が走査する際に、散乱や反射光の指向の変化等が起こり得る。
他方、対物レンズ107によって収束された励起光がシステム・キャリブレーション領域A11に対応する位置を走査するとき、反射面11aを透過した励起光は、システム・キャリブレーション領域A11に対応するウエル層12に照射される。システム・キャリブレーション領域A11に対応するウエル層12には、図14(a)に示すように、凹部15のみが含まれる。この場合、励起光の照射位置に拘わらず、ウエル層12によって反射される励起光の強度は略一定となる。また、凹部15には、励起光の走査方向に段差がないため、散乱や反射光の指向の変化等が略起こらず、光学的に安定した反射光が生じる。
反射面11aによって反射された励起光とウエル層12によって反射された励起光(以下、併せて「反射励起光」という)は、ダイクロイックプリズム106によって反射され、1/4波長板105により直線偏光に変換され、コリメータレンズ104により収束光となる。そして、コリメータレンズ104側からPBS103に入射する反射励起光は、上述したようにPBS103を透過する。
アナモレンズ108は、PBS103側から入射する反射励起光に非点収差を導入する。アナモレンズ108を透過した反射励起光は、光検出器109に入射する。光検出器109は、受光面上に反射励起光を受光するための4分割センサを有している。光検出器109の検出信号は、信号演算回路201に入力される。
対物レンズ107によって収束された励起光がウエル13に対応する位置を走査するとき、バイオセンサ基板10に照射された励起光のうち、反射面11aを透過した励起光は、ウエル13の底面部13aに到達する。底面部13aに並列的に配されている蛍光標識されたマラリア原虫に感染している赤血球に励起光が照射されると、マラリア原虫から蛍光が発生する。かかる蛍光は、図16において一点鎖線で示されるように、NA(開口数)が励起光のNAよりも大きい。このため、対物レンズ107とダイクロイックプリズム106との間において、蛍光のビーム径は励起光のビーム径よりも大きくなっている。蛍光のNAは、たとえば、0.65である。また、蛍光の波長は励起光の波長と異なっており、本実施例では450〜540nmとなっている。
一方でマラリア原虫に感染していない赤血球は蛍光標識されていないので蛍光を発生しない。このようにして、マラリア原虫に感染している赤血球と感染していない赤血球とを区別することができる。
対物レンズ107側からダイクロイックプリズム106に入射する蛍光は、ダイクロイックプリズム106を透過する。集光レンズ110は、ダイクロイックプリズム106側から入射する蛍光を集光して、蛍光検出器111に導く。蛍光検出器111は、受光面上に蛍光を受光するためのセンサを有している。蛍光検出器111の検出信号は、信号増幅回路204に入力される。
信号演算回路201は、光検出器109の検出信号から、後述するフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEを生成し、光検出器109の検出信号から、トラックの蛇行形状に応じたウォブル信号を生成する。サーボ回路202は、信号演算回路201から出力されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEを用いて、対物レンズアクチュエータ122の駆動を制御する。また、サーボ回路202は、信号演算回路201から出力されたウォブル信号を用いて、線速度一定でバイオセンサ基板10が回転されるよう、回転装置123を制御する。再生回路203は、信号演算回路201から出力されたウォブル信号を復調して再生データを生成する。信号増幅回路204は、蛍光検出器111の検出信号を増幅する。
コントローラ205は、信号演算回路201と、サーボ回路202と、再生回路203の他、蛍光検出装置1の各部を制御する。コントローラ205は、信号増幅回路204の出力信号に基づいて、ウエル領域A12から生じる蛍光を検出すると共に、検出した蛍光と、再生回路203から出力されるトラックの再生データ(アドレス情報)に基づいて、蛍光の生じた位置を判定する。また、コントローラ205は、ウエル領域A12から蛍光の生じた位置に対応するアドレス情報を内部メモリに保持する。また、コントローラ205は、再生回路203から出力される再生データ(システム情報)を取得して内部メモリに保持する。
図17(a)は、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEを生成する回路の構成を示す図である。この回路は、信号演算回路201に含まれる。
光検出器109は、上述したように受光面上に反射励起光を受光するための4分割センサを有しており、4分割センサの左上、右上、右下、左下のセンサは、それぞれ受光した反射励起光のビームスポットに基づいて検出信号S1〜S4を出力する。なお、図17(a)の光検出器109の受光面上において、ディスクの径方向に対応する方向は、左右方向である。また、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEは、既存の光ディスク装置において用いられる非点収差法と1ビームプッシュプル法に従って生成される。
信号演算回路201は、加算器301〜304と、減算器305、306を備えている。加算器301は、検出信号S1、S3を加算した信号を減算器305に出力し、加算器302は、検出信号S2、S4を加算した信号を減算器305に出力する。加算器303は、検出信号S1、S4を加算した信号を減算器306に出力し、加算器304は、検出信号S2、S3を加算した信号を減算器306に出力する。
減算器305は、加算器301、302の出力信号を減算して、フォーカスエラー信号FEを出力する。減算器306は、加算器303、304の出力信号を減算して、トラッキングエラー信号TEを出力する。すなわち、フォーカスエラー信号FEと、トラッキングエラー信号TEは、それぞれ以下の式(1)、(2)の演算により取得することができる。
FE=(S1+S3)−(S2+S4) …(1)
TE=(S1+S4)−(S2+S3) …(2)
ここで、対物レンズ107の焦点位置が反射面11aに位置付けられているとき、光検出器109の4分割センサ上のビームスポットは最小錯乱円となり、上記式(1)のフォーカスエラー信号FEの値が0となる。また、対物レンズ107の焦点位置が反射面11aのトラックの真上に位置付けられているとき、光検出器109の4分割センサ上のビームスポットは、左側の2つのセンサと右側の2つのセンサに対して等しく掛かり、上記式(2)のトラッキングエラー信号TEの値が0となる。
こうして生成されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEは、コントローラ205に出力される。コントローラ205は、入力されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEに基づいて、これら信号の振幅と、ゼロレベルに対するシフト量を取得する。そして、コントローラ205は、取得した振幅に基づいて、これら信号に適用されるフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEに対するサーボ信号ゲイン(増幅率)を決定し、また、取得したシフト量に基づいて、これら信号に適用されるオフセットを決定する。決定されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEに対するサーボ信号ゲインとオフセットは、それぞれ、図17(b)のサーボ信号ゲイン調整回路311、312とオフセット調整回路313、314に設定される。
図17(b)は、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEのサーボ信号ゲインおよびオフセットを調整する回路の構成を示す図である。この回路は、信号演算回路201に含まれる。
信号演算回路201は、図17(a)に示す回路に加えて、サーボ信号ゲイン調整回路311、312とオフセット調整回路313、314を備えている。サーボ信号ゲイン調整回路311、312は、それぞれ、コントローラ205からの制御に応じて、減算器305の出力信号(フォーカスエラー信号FE)と、減算器306の出力信号(トラッキングエラー信号TE)とに対するサーボ信号ゲイン(増幅率)を調整する。フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEは、それぞれ、調整されたサーボ信号ゲインに応じて増幅され、オフセット調整回路313、314に出力される。オフセット調整回路313、314は、それぞれ、コントローラ205からの制御に応じて、サーボ信号ゲイン調整回路311、312によって増幅されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEのオフセットを調整する。これにより、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEの、ゼロレベルに対するシフトが除去される。こうしてオフセットが除去されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEが生成される。
オフセットが調整されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEは、サーボ回路202に出力される。サーボ回路202は、入力されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEに基づいて、対物レンズアクチュエータ122を制御する。
また、信号演算回路201は、オフセット調整回路314から出力されるトラッキングエラー信号TEに基づいてトラックの蛇行形状に応じた波形信号(ウォブル信号)を生成する回路部(図示せず)を備えている。ウォブル信号の生成方法は、既存のDVDプレーヤ等において用いられる技術と同様である。生成されたウォブル信号は、図16に示すサーボ回路202と再生回路203に出力され、バイオセンサ基板10の回転制御とシステム情報およびアドレス情報の再生に供される。
本実施例では、励起光がシステム・キャリブレーション領域A11に対応するトラックを走査する間に、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEのサーボ信号ゲインとオフセットが調整される。サーボ信号ゲインとオフセットは、各信号の波形と振幅が所望の状態となるよう、コントローラ205により設定される。こうしてサーボ信号ゲインとオフセットが調整されたフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEを用いて、システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラックが走査され、システム・キャリブレーション領域A11のトラックからシステム情報が取得される。ここで、設定されたサーボ信号ゲインとオフセットは、励起光がウエル領域A12に対応するトラックを走査する間にも用いられる。
図18(a)、(b)は、励起光の焦点深度を説明するための図である。
上述したように、励起光の波長は405nmであり、励起光のNA(開口数)は0.34である。また、一般に焦点深度は、波長/(NA×NA)により算出することができる。よって、本実施例の励起光の焦点深度は、約3.5μmとなる。図14(a)、(b)に示す底面部13aと反射面11aとの間隔d3は、励起光の焦点深度よりも小さくなるよう設定され、ここでは、2.0μmに設定されている。
上記のように、励起光のNAが設定されると、焦点位置におけるスポット径は約1μmとなる。図14(b)に示すトラックピッチの間隔d6は、かかるスポット径と略同じとなるよう、1μmに設定されている。これに対し、マラリア原虫の核は励起光により1μm程度の大きさの蛍光輝点を発する。したがって、励起光のスポットをマラリア原虫の核のサイズに収束させながら、隙間無く、試料が励起光のスポットで走査されるため、マラリア原虫の核を確実に検出することができる。
図18(a)は、励起光の焦点深度の範囲の最下点が反射膜14と一致している状態を示し、図18(b)は、励起光の焦点深度の範囲の最上点が底面部13aと一致している状態を示している。なお、サーボ回路202から対物レンズアクチュエータ122に出力されるオフセット電圧を調整することで、励起光の焦点深度を、図18(a)よりも奥方向(図中の上方向)にシフトさせることもでき、図18(a)、(b)の間にシフトさせることもできる。
図18(a)、(b)の状態のとき、ウエル13の底面部13aと反射面11aとの間隔d3は2μmであり、励起光の焦点深度は3.5μmであるため、励起光の焦点深度に対応する範囲に、底面部13aと反射面11aの両方が含まれるようになる。したがって、フォーカスサーボにより、励起光の焦点位置を反射面11aに位置付けると、底面部13aに配されている試料にも焦点が合わせられることとなる。また、底面部13aと同様、底面部15aの位置の反射面11aに励起光が合焦されると、底面部15aが励起光の焦点深度の範囲に含まれるようになる。
<実施例3の効果>
本実施例によれば、以下の効果が奏され得る。
図14(a)に示すように、システム・キャリブレーション領域A11に対応するウエル層12には、ウエル13のない平面状の凹部15が形成されており、この領域では、ウエル層12において励起光の走査方向に段差や反射率の変化が生じることがない。このため、励起光がシステム・キャリブレーション領域A11を走査する際には、ウエル層12で散乱や反射光の指向の変化等が生じることがなく、底面部15aから、光学的に安定した反射光が生じることとなる。このような反射光が迷光として光検出器109に入射しても、この迷光は、所定の広がりをもって光検出器109の受光面に略均一に照射されるため、光検出器109の出力信号に大きな影響を与えない。また、この迷光による各センサからの信号成分は、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEの演算過程(減算処理)で相殺される。したがって、この迷光は、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEに殆ど影響を与えず、また、トラッキングエラー信号TEから生成されるウォブル信号にも略影響を与えない。よって、高品質のウォブル信号を取得することができ、結果、システム情報の再生精度を高めることができる。
これに対し、ウエル領域A12には、ウエル13の境界部分に段差が存在する。このため、励起光がウエル領域A12を走査する場合には、この段差部分に励起光が入射することにより、散乱や指向の変化等が起こり得る。また、段差部分において、励起光は、一部がウエル13に入射し、他の部分がウエル13のない領域に入射するため、励起光が段差部分に入射する間は、アンバランスな反射光が生じることとなる。このように、段差部分で散乱された散乱光や、指向が変化する光、および、アンバランスな反射光が光検出器109に迷光として入射すると、光検出器109の各センサからの、迷光による信号成分が、不安定かつ大きく乱れることとなる。すなわち、かかる迷光は、光検出器109の出力信号に大きなノイズとして現れ、また、このノイズは、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEの演算過程においても相殺されない。したがって、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEにも、迷光によるノイズが生じ、サーボが不安定となり得る。また、トラッキングエラー信号TEにノイズが重畳するため、この信号から生成されるウォブル信号も劣化し、システム情報の再生精度が低下する惧れがある。
上記のように、本実施例によれば、このような問題が生じることがない。よって、システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラックに保持されているシステム情報を、精度良く安定に取得することが可能となる。
また、凹部15の底面部15aと反射面11aとの間隔d3’は、ウエル13の底面部13aと反射面11aとの間隔d3と同じとなっている。このため、システム・キャリブレーション領域A11に励起光が照射されたときに、底面部15aによって反射された反射励起光の強度と、ウエル領域A12に励起光が照射されたときに、底面部13aによって反射された反射励起光の強度とを、略同じにすることができる。よって、光検出器109の検出信号に対する上記2つの反射励起光の影響を略同じとすることができるため、励起光をシステム・キャリブレーション領域A11に照射することによって、光検出器109の検出信号の調整を、円滑に行うことができる。
また、本実施例によれば、図15(d)に示すように未使用領域A13が設定されているため、上面層12bが径方向にずれたとしても、システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラックがウエル13と重なることが回避され得る。これにより、システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラックに保持されているシステム情報を、全て精度良く取得することが可能となる。
<実施例4>
図19(a)は、本実施例に係るバイオセンサ基板20の構成を示す断面図である。バイオセンサ基板20は、上記実施例3のバイオセンサ基板10において、システム・キャリブレーション領域A11に替えて、システム領域A21と、キャリブレーション領域A22と、空ウエル領域A23が追加された構成となっている。
バイオセンサ基板20は、径方向に内周側から順に、システム領域A21と、キャリブレーション領域A22と、空ウエル領域A23と、未使用領域A25と、ウエル領域A24に区分されている。システム領域A21とキャリブレーション領域A22に含まれるウエル層12には、上記システム・キャリブレーション領域A11と同様、ウエル13は形成されておらず、これら2つの領域に跨って形成された凹部15が円環状に形成されている。空ウエル領域A23とウエル領域A24に含まれるウエル層12には、上記バイオセンサ基板10と同様のウエル13が複数形成されている。
キャリブレーション領域A22は、上記実施例3においてシステム・キャリブレーション領域A11で行われた、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEのサーボ信号ゲインとオフセットの調整を行うための領域である。空ウエル領域A23は、フォーカスサーボとトラッキングサーボが適正に行われるかを判定すると共に、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEのサーボ信号ゲインを調整するための領域である。かかる判定と調整については、追って図20を参照して説明する。
図19(b)は、バイオセンサ基板20の一部を示す斜視図である。図19(b)は、図19(a)の断面図の破線部分の拡大図である。
ベース基板11の上側(ウエル層12側)に形成されたトラックは、上記実施例3と同様、バイオセンサ基板20の面上の位置を特定するためのアドレス情報を保持している。また、システム領域A21に対応するトラック部分には、上記実施例3のシステム・キャリブレーション領域A11と同様、図14(c)に示すデータフォーマットで、システム情報が保持されている。キャリブレーション領域A22と空ウエル領域A23に対応するトラック部分には、上記実施例3の未使用領域A25と同様、図14(d)に示すデータフォーマットで、ダミー情報が保持されている。ここでのダミー情報は、具体的には“0”など特別な意味を有さない情報とする。システム領域A21に対応するトラック部分には、全領域に亘って、図14(c)のフレームが繰り返し保持されている。また、キャリブレーション領域A22と空ウエル領域A23のトラック部分には、全領域に亘って、図14(d)のフレームが繰り返し保持されている。
なお、本実施例のシステム領域A21は、空ウエル領域A23内のウエル13の開始位置と終了位置に関する情報と、ウエル領域A24内のウエル13の開始位置と終了位置に関する情報をさらに保持している。
図20は、コントローラ205によるフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEに対するサーボ信号ゲインとオフセットの設定処理を示すフローチャートである。
まず、コントローラ205は、バイオセンサ基板10を回転させた後、対物レンズ107をキャリブレーション領域A22へと送り、さらに、対物レンズアクチュエータ122を駆動して、励起光をキャリブレーション領域A22に対応する反射面11a上のトラックに合焦させる(S11)。
このとき、コントローラ205は、対物レンズ107に対してフォーカスサーチ動作を行い、フォーカスサーチ動作が終了すると、フォーカスサーボをONし、さらに、トラッキングサーボをONする。そして、コントローラ205は、フォーカスサーチ動作時に得られたフォーカスエラー信号FEと、フォーカスサーボをONした後、トラッキングサーボをONするまでの間に得られたトラッキングエラー信号TEとに基づいて、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEのサーボ信号ゲインとオフセットを設定する(S12)。具体的には、フォーカスエラー信号FEのS字カーブの振幅およびゼロレベルに対するシフト量に基づいて、フォーカスエラー信号FEのサーボ信号ゲインとオフセットを決定し、トラッキングエラー信号TEの振幅およびゼロレベルに対するシフト量に基づいて、トラッキングエラー信号TEのサーボ信号ゲインとオフセットを決定する。コントローラ205は、決定したサーボ信号ゲインとオフセットを、図17(b)に示すサーボ信号ゲイン調整回路311、312およびオフセット調整回路313に設定する。
こうしてサーボ信号ゲインとオフセットが設定された後、システム領域A21のトラックからウォブル信号が再生され、再生されたウォブル信号から、システム情報が取得される。
次に、コントローラ205は、対物レンズ107を外周方向へと送り、S12で設定したサーボ信号ゲインとオフセットでもって、空ウエル領域A23上の、ウエル13を含む所定の径方向範囲を励起光で走査する(S13)。そして、コントローラ205は、この走査の間に、フォーカスサーボまたはトラッキングサーボが外れたか否かを判定する(S14)。フォーカスサーボが外れたか否かは、たとえば、所定時間、フォーカスサーボが不能となったか否かによって判定される。また、トラッキングサーボが外れたか否かは、たとえば、所定時間、所望のアドレス情報(サーボが外れる前に取得されたアドレス情報に連続するアドレス情報)が得られなかったか否かによって判定される。
フォーカスサーボまたはトラッキングサーボが外れた場合(S14:YES)、コントローラ205は、再び、キャリブレーション領域A22上の、ウエル13を含む所定の径方向範囲を励起光で走査し、その間に、フォーカスサーボとトラッキングサーボが外れないように、S12で設定したサーボ信号ゲインを調整する(S15)。具体的には、コントローラ205は、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEに設定するサーボ信号ゲイン(サーボ信号ゲイン調整回路311、312によるゲイン)を、S12で設定した値よりも所定の割合だけ小さく再設定する。そして、処理がS14に戻され、再度フォーカスサーボとトラッキングサーボが外れたかが判定される。S14の判定は、十分に長いトラックを走査することによって行われる。たとえば、走査開始からのアドレス情報の変化が所定の値になるまで実行され、その間にサーボが外れなければ、S14の判定はNOとされる。
S14においてNOと判定すると、コントローラ205は、S12で設定されたサーボ信号ゲインと、S12またはS15で設定されたサーボ信号ゲインでもって、ウエル領域A24を励起光で走査し(S16)、ウエル13に収容されている試料の測定を開始する。これにより、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEに対するサーボ信号ゲインとオフセットの設定処理が終了する。
<実施例4の効果>
本実施例によれば、上記実施例3と同様、システム領域A21に対応するトラックに保持されているシステム情報を精度良く取得することができる。これにより、蛍光検出装置1にセットされたバイオセンサ基板10の状態、検出すべきウエル13やアクセスする場所等、システム上必要な情報を正しく取得することができる。特にシステム領域に記録された内容を適正に読み出すことができることから、使用期限の切れたバイオセンサ基板を装置において排除したり、ユーザに警告することが可能となる。また、システム情報を正しく認識できれば装置に対応したバイオセンサ基板であるが否かを判定することが容易となり不適正なバイオセンサ基板の使用を制限することも可能となる。
また、キャリブレーション領域A22においてサーボ信号ゲインとオフセットが設定された後、実際に試料の測定が開始される前に、ウエル領域A24と同様に構成された空ウエル領域A23において、キャリブレーション領域A22において設定されたサーボ信号ゲインとオフセットによってサーボが外れないかがテストされ、サーボが外れる場合には、空ウエル領域A23における走査において、サーボが外れないように、サーボ信号ゲインが再調整される。これにより、実際に試料を測定する間にサーボが外れることが抑制されるため、試料の測定が円滑に行われ得る。また、試料の測定中にサーボが外れることが抑制されるため、試料の測定をやり直すことにより必要以上に強い光が試料に照射されたり、試料に励起光が長時間照射されたりすることがない。これにより、励起光による試料の劣化を避けることができる。
また、上記実施例3、4のように円盤状のバイオセンサ基板10、20では、相対的に内周側の方が面ブレ等が少なく、信号の取得が容易である。このため、上記実施例3のシステム・キャリブレーション領域A11と、上記実施例4のシステム領域A21とキャリブレーション領域A22は、図13と図19(a)に示すように、バイオセンサ基板10、20の内周側に形成された。しかしながら、これに限らず、これらの領域は、バイオセンサ基板10、20の外周側に形成されても良く、内周側と外周側の間に形成されても良い。また、上記実施例4のシステム領域A21とキャリブレーション領域A22からなる領域と、空ウエル領域A23とは、必ずしも隣り合わなくても良く、たとえば、システム領域A21とキャリブレーション領域A22からなる領域と、ウエル領域A24と、空ウエル領域A23が、この順に内周側から外周側に形成されても良い。
なお、励起光がシステム・キャリブレーション領域A11またはキャリブレーション領域A22を走査する間は、光検出器109から出力される検出信号にノイズが重畳しにくいため、この検出信号を用いて、上述のサーボ信号ゲインおよびオフセットの設定以外の調整が行われても良い。たとえば、この検出信号を用いて、バイオセンサ基板10、20の反りを検出し、対物レンズ107または対物レンズ107を含む光学系を、反りに応じて傾ける調整が行われても良い。この場合、外周に向かうほど反りが大きくなるため、たとえば、キャリブレーション領域A22を内周、中周、外周にそれぞれ設け、それぞれのキャリブレーション領域A22において検出された反りに応じて、適応的に、全領域における傾き調整を行うようにすると良い。
また、上記実施例3、4では、システム・キャリブレーション領域A11とシステム領域A21をバイオセンサ基板10、20の内周側に設けたが、この理由は、バイオセンサ基板10、20の形状により、内周の方がバイオセンサ基板10、20の反りと面ブレを小さくできるためである。しかしながら、これら領域は、内周側に限らず任意の場所であっても良い。その際、システム・キャリブレーション領域A11とシステム領域A21のウエル層12には、ウエルからの影響を抑えるため、ウエルを作らない、または凹部を設けることが好ましい。
また、上記実施例3、4では、トラックがグルーブによって形成されたが、既存のCDのようなピット列によって形成されても良く、ピット列とグルーブの組合せによって形成されても良い。たとえば、上記実施例3のシステム・キャリブレーション領域A11と、上記実施例4のシステム領域A21とキャリブレーション領域A22からなる領域に対応するトラックがピット列とされ、ウエル領域A12、A24に対応するトラックがグルーブとされても良い。また、上記実施例3のシステム・キャリブレーション領域A11と、上記実施例4のシステム領域A21とキャリブレーション領域A22からなる領域に対応するトラックがグルーブとされ、ウエル領域A12、A24に対応するトラックがピット列とされても良い。
なお、図19(b)の空ウエル領域A23に対応するトラックは、ウエル領域A24と同様の方式で形成されるのが望ましい。たとえば、システム領域A21に対応するトラックとウエル領域A24に対応するトラックが、それぞれ、ピット列とグルーブで形成される場合、空ウエル領域A23のトラックはグルーブで形成されるのが望ましい。このように空ウエル領域A23とウエル領域A24のトラックの方式を揃えることで、空ウエル領域A23において調整されたサーボ信号ゲインとオフセットがウエル領域A24においても適正なものとなり易くなる。
また、上記実施例3、4では、システム・キャリブレーション領域A11とシステム領域A21のウエル層12に凹部15が形成されたが、このウエル層12に凹部15が形成されずに、システム・キャリブレーション領域A11とシステム領域A21のウエル層12の上面が、他の領域のウエル層12の上面と同一平面であっても良い。ただし、上記実施例3のように、システム・キャリブレーション領域A11においてシステム情報の取得と、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEの調整が行われる場合、システム・キャリブレーション領域A11のウエル層12には、図14(a)に示すように、反射面11aとの間隔がd3である底面部15aを設け、この底面部15aを、ウエル13の底面部13aと同じ高さに設定する方が、ウエル13を検出する際のノイズ分を加味することができ、最適な調整が可能となる。
また、上記実施例3では、図14(a)に示すように、未使用領域A13のウエル層12には底面部15aが形成されたが、これに限らず、ウエル領域A12の上面と同様の平面が形成されても良い。
また、上記実施例3では、図19(b)に示すように、未使用領域A25のウエル層12にはウエル領域A24の上面と同様の平面が形成されたが、これに限らず、底面部15aと同様の底面部が形成されても良い。
また、上記実施例3、4では、システム・キャリブレーション領域A11とシステム領域A21のウエル層12に、一周に亘って円環状に凹部15が形成されたが、これに限らず、円環状の凹部15の一部にのみ凹部が形成されても良い。たとえば、所定の径方向の位置に、同心円状に配置されるウエル13群の一部が省略され、このウエル13が省略された領域に底面部15aを有する凹部15が形成されるようにしても良い。
また、上記実施例4では、ウエル層12の空ウエル領域A23には、ウエル領域A24に形成されたウエル13と同様のウエルが形成されたが、これに限らず、ウエル領域A24のウエル13と異なるウエルが形成されても良い。たとえば、空ウエル領域A23のウエルの径が、ウエル領域A24のウエル13の径と異なっていても良い。ただし、空ウエル領域A23に対して励起光を走査する場合に生じるノイズ成分が、ウエル領域A24に対して励起光を走査する場合に生じるノイズ成分と略同様となるのが望ましい。このため、空ウエル領域A23のウエルの境界部分の形状はウエル領域A24のウエルと同様であるのが望ましく、たとえば、空ウエル領域A23のウエルの底面部の高さ(反射面11aとの間隔)は、ウエル領域A24のウエル13の底面部13aの高さ(反射面11aとの間隔)と同じであるのが望ましい。
空ウエル領域A23とウエル領域A24で異なるウエルを形成する場合、空ウエル領域A23を走査した場合に生じるノイズ成分がウエル領域A24より大きくなるように、空ウエル領域A23のウエルを形成しても良い。これにより、ノイズ成分の大きい空ウエル領域A23で調整したサーボ信号ゲイン等のパラメータでウエル領域A24を走査することができるため、確実にウエル領域A24のウエルからの信号を検出することができる。
また、上記実施例4では、図20に示すように、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEのサーボ信号ゲインとオフセットが、キャリブレーション領域A22において設定され(S12)、空ウエル領域A23においてサーボ信号ゲインが再度設定された(S15)。しかしながら、これに限らず、コントローラ205は、S12において、予め記憶しているサーボ信号ゲインとオフセットに基づいてフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEのサーボ信号ゲインとオフセットを設定し、S15において、設定されたサーボ信号ゲインを空ウエル領域A23において設定し直すようにしても良い。
また、上記実施例4では、図20のS14、S15に示すように、空ウエル領域A23における走査において、サーボが外れないようにフォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEに設定するサーボ信号ゲインが再設定された。しかしながら、これに限らず、空ウエル領域A23における走査において、サーボが外れない場合でも、フォーカスエラー信号FEとトラッキングエラー信号TEの波形と振幅が所望の状態となるよう、コントローラ205により、これら信号に設定されるサーボ信号ゲインが微調整されても良い。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。
たとえば、上記実施の形態では、ウエル13に赤血球を収容させて、赤血球がマラリア原虫に感染しているか否かが判定されたが、ウエル13に収容させる試料および判定対象となる事象は、これに限らない。
たとえば、特定の遺伝子を発現している細胞や、核酸、タンパク質、脂質、糖等の生体物質が通常より過剰である、または不足している細胞を、特定の細胞として種々の細胞群から検出しても良い。このような特定の細胞は自然界に存在する細胞であってもよいし、人為的処理が施された細胞であってもよい。自然界に存在する細胞としては、特に限定されないが、たとえば病原細胞、病変細胞、病原菌または病原生物に感染された細胞、突然変異した細胞、特定の性質を有する未知の細胞等が挙げられる。また、人為的処理は、特に限定されないが、たとえば物理的処理(例:電磁波照射)、化学的処理(例:薬剤処理)、遺伝子工学的処理(例:遺伝子組み換え処理)等が挙げられる。
また、このような人為的処理のうち、細胞に与える影響が既知である処理を細胞群に施し、当該影響が表れない細胞または当該影響がより強く表れる細胞を特定の細胞として検出することもできる。たとえば、薬剤処理へ耐性または高感受性を示す細胞を特定の細胞として検出することができる。
また、細胞群の種類も特に限定されるものではない。単細胞生物の群の他、多細胞生物由来の細胞の群であってもよい。多細胞生物由来の細胞としては、たとえば生物の正常組織または病態組織から得られた細胞や、これらの細胞に由来する培養細胞等が挙げられる。また、これらの細胞を得る生物も、特に限定されない。たとえば、動物から採取した細胞または植物から採取した細胞であってよい。より具体的には、たとえば脊椎動物(特に哺乳類および鳥類)から採取した細胞、昆虫から採取した細胞、植物培養細胞等を検出対象の細胞として挙げることができるが、検出対象の細胞はこれらに限定されるものではない。また、同一の細胞の群であっても、複数種の細胞が混在する群であってもよい。
また、上記実施の形態では、反射膜14は金属から構成されているが、これに限らず、透光性の誘電体材料であってもよい。この場合、ベース基板11の屈折率と誘電体材料の屈折率とを異なるものとすることにより、反射を生じさせることが可能となる。具体的には、ベース基板11の材料としてポリカーボネート(屈折率:1.59)を用い、反射膜14の材料としてTiO2(屈折率:2.65)、ZnO(屈折率:2.2)等を用いることができる。これら誘電体材料を使用する場合は、十分な反射率を得るために10nm〜150nmとするほうが好ましく製造コストや反射膜とウェル底面との位置関係から10〜45nmとするのが好適である。また、反射膜14の材料として、二酸化ニオブ(Nb2O5)を用いることにより、波長400nm近傍の反射率を高くする一方、波長500nm近傍の反射率を低くすることができ、励起光に対する反射率R1を高く、蛍光に対する反射率R2を抑える反射膜14とすることができる。このように、反射率R1>R2とすることにより、サーボ特性をより高くでき、蛍光検出を精度良く行うことができる。また、反射膜14として、誘電体膜と金属膜の積層膜としてもよい。
また、上記実施の形態では、図1、図13に示すように、ウエル13の形状は円柱形状に設定されたが、これに限らず、試料を収容できる形状であれば円柱形状以外に、四角柱、楕円柱、錐形等に設定されても良い。また、d1〜d7は、上記実施の形態の値に限られず、適宜設定されても良い。また、反射面11aのアドレス長は、ウエル13の位置が特定できれば良く、種々の設定方法を用いることができる。
また、上記実施の形態では、半導体レーザ101から出射される励起光の波長は405nmに設定されたが、これに限らず、測定対象となる試料で用いられる蛍光標識の種類に応じて適宜設定されれば良い。励起光および蛍光の波長の変更に伴い、ダイクロイックプリズム106の透過波長帯域等、光学系の種々のパラメータが適宜変更される。また、上記実施の形態では、励起光のNAは0.34に設定されたが、これに限らず、測定対象となる試料の大きさに応じて適宜設定されても良い。なお、対物レンズ107のNAを大きくすることで検出光量を増加させることができるため、対物レンズ107のNAは大きい方が望ましい。また、蛍光標識の種類を変更する際は、励起光に対して蛍光の波長が30nm以上はなれているほうがよい。これは蛍光波長と励起波長が近すぎると、励起光をダイクロイックプリズムなどで完全に分離できなくなり、蛍光検出の際に励起光がノイズとなってしまうからである。
また、上記実施の形態では、トラックがグルーブによって形成されたが、ピット列によって形成されても良く、ピット列とグルーブの組合せによって形成されても良い。
また、上記実施の形態では、ベース基板11が射出成型により成型され、反射面11aの上面に反射膜14が蒸着され、底面層12aがスピンコートにより積層され、上面層12bが2P成型に形成されて、バイオセンサ基板10が作成された。しかしながら、バイオセンサ基板10の作成方法は、これに限らず、適宜別の方法により作成されても良い。
また、上記実施の形態において、バイオセンサ基板10を回転装置123により回転させる際に、ウエル13の上部にふたを設けても良い。これにより、ウエル13からの試料の不所望な流出(意図しない流出)、蒸発または移動を防ぐことができる。
また、上記実施の形態では、反射膜14上に配置されたウエル層12の構成を記載したが、反射膜14自体をウエル層12としても良い。すなわち、図21(a)に示すように、ベース基板11の上面に形成された反射膜14に微小なウエル13と溝15を複数形成しても良い。この場合、反射膜14としては、ベース基板11と異なる屈折率を有する材料であればよく、屈折率の異なる樹脂材料を用いることができる。また、図21(a)に示す反射膜14を、図21(b)に示すように、底面層14aと上面層14bとで構成しても良い。この場合、底面層14aと上面層14bとで材料を変えて形成しても良い。
また、試料はウエルに直接滴下しても良いが、別途注入孔を設けて滴下するようにしてもよい。その際はウエル層もしくはその上方に形成されたマイクロ流路などの試料導入部に沿って試料がウエルに流れ込む構造とし、蛍光領域や空ウエルなどには試料は流入しないよう構成する。
また、上記実施の形態では、反射膜14上に配置されたウエル層12に、底面部13aを有するウエル13と、蛍光底面部15aを有する溝15と、無蛍光底面部15bを有する溝15とを備えた構成を記載したが、底面部13aと、蛍光底面部15aと、無蛍光底面部15bとが反射膜14の上面となる構成としても良い。すなわち、図21(c)に示すように、ウエル13はウエル層12の貫通穴で構成され、反射膜14上に形成されても良い。このような場合、ウエル層は紫外線硬化樹脂のみに限らず、PMMAの樹脂シートなどに穴を開けたものを接着してもよい。
また、上記実施例2では、コリメータレンズ104を励起光の光軸方向に移動させることにより、励起光の焦点位置を蛍光底面部15aに合わせたが、これに限らず、図7(a)、(b)を参照して説明したように、対物レンズアクチュエータ122に出力されるオフセット電圧を調整することで、励起光の焦点位置を蛍光底面部15aに合わせるようにしても良い。
また、上記実施例1、2では、バイオセンサ基板10の形状は円盤形状とされたが、これに限らず、方形形状の輪郭であっても良い。
図22は、バイオセンサ基板20の輪郭が方形形状であるときの構成例を模式的に示す図である。図22は、バイオセンサ基板20を上面側から見た図である。この構成例では、図22に示すように、バイオセンサ基板20に、複数本の直線状のトラック(グルーブ)が、一定のピッチで形成されている。また、ウエル13と溝15が、トラックに平行な方向に並ぶように配置されている。バイオセンサ基板20のその他の構成は、上記実施の形態と同じである。A―A’線で切断したときのバイオセンサ基板20の断面構造は、図2(a)と同じである。上記実施の形態と同様、グルーブには、アドレス情報が保持されている。
この構成例では、バイオセンサ基板20と対物レンズ107がトラックに平行な方向に相対的に移動される。このとき、たとえば、バイオセンサ基板20は固定され、半導体レーザ101〜蛍光検出器111からなる光学系と、ホルダ121と、対物レンズアクチュエータ122と、レンズアクチュエータ124、125とを保持するハウジングが、ガイドシャフトに沿って、トラックに平行な方向に移動される。その間、対物レンズ107に対し、上記実施の形態と同様、フォーカス制御とトラッキング制御が行われ、励起光のビームスポットが一本のトラックに沿って移動される。ビームスポットが1本のトラックの終端まで移動すると、対物レンズ107がトラックに垂直な方向にトラックピッチ分だけ移動され、隣のトラックに対するトラックジャンプが行われる。その後、ハウジングがトラックに平行な方向に移動されて、隣のトラックに対する走査が行われる。こうして、所定本数のトラックに対する走査が行われると、その走査位置において対物レンズ107が中立位置に戻るように、バイオセンサ基板20がトラックに垂直な方向に移動される。以後、上記と同様の動作が繰り返され、全てのトラックに対する走査が行われる。
この構成例においても、上記実施の形態と同様、蛍光信号ゲイン倍率Gと閾値Vshが設定される。これにより、赤血球がマラリア原虫に感染しているか否かの判定の精度を高めることができ、マラリア原虫に感染した赤血球から生じた蛍光のみを精度良く取得することができる。
また、上記実施例3、4では、バイオセンサ基板10の形状は円盤形状とされたが、これに限らず、方形形状の輪郭であっても良い。
図23は、バイオセンサ基板20の輪郭が方形形状であるときの構成例を模式的に示す図である。図23は、バイオセンサ基板30を上面側から見た図である。
この構成例では、図23に示すように、バイオセンサ基板30に、複数本の直線状のトラックが、一定のピッチで形成されている。また、ウエル13と凹部15が、トラックに平行な方向に並ぶように配置されている。バイオセンサ基板30のその他の構成は、上記実施例3と同じである。A―A’線で切断したときのバイオセンサ基板30の断面構造は、図14(a)と同じである。上記実施例3と同様、トラックには、アドレス情報が保持されており、システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラックには、システム情報が保持されている。
この構成例では、バイオセンサ基板30と対物レンズ107がトラックに平行な方向に相対的に移動される。このとき、たとえば、バイオセンサ基板30は固定され、半導体レーザ101〜蛍光検出器111からなる光学系と、ホルダ121と、対物レンズアクチュエータ122とを保持するハウジングが、ガイドシャフトに沿って、トラックに平行な方向に移動される。その間、対物レンズ107に対し、上記実施の形態と同様、フォーカス制御とトラッキング制御が行われ、励起光のビームスポットが一本のトラックに沿って移動される。ビームスポットが1本のトラックの終端まで移動すると、対物レンズ107がトラックに垂直な方向にトラックピッチ分だけ移動され、隣のトラックに対するトラックジャンプが行われる。その後、ハウジングがトラックに平行な方向に移動されて、隣のトラックに対する走査が行われる。こうして、所定本数のトラックに対する走査が行われると、その走査位置において対物レンズ107が中立位置に戻るように、バイオセンサ基板30がトラックに垂直な方向に移動される。以後、上記と同様の動作が繰り返され、全てのトラックに対する走査が行われる。
この構成例においても、上記実施例3と同様、システム・キャリブレーション領域A11に対応するトラックに保持されているシステム情報を精度良く取得することができる。また、A−A’線で切断したときのバイオセンサ基板30の断面構造が、図19(b)と同じとなるよう、バイオセンサ基板30が構成されても良い。この場合も、上記実施例4と同様、システム領域A21に対応するトラックに保持されているシステム情報を精度良く取得することができると共に、キャリブレーション領域A22においてサーボが外れないかがテストされるため、試料に余分な励起光が照射されることなく、また、安定したサーボを実現することができるため、試料の測定が円滑に行われ得る。
上記実施の形態では、励起光をベース基板11の下面側から照射する構成としたが、これに限らず、励起光をベース基板11の上面側から照射する構成としてもよい。すなわち、励起光は、ベース基板11を透過して試料に照射されるのではなく、ウエル13内の試料に直接照射される。この場合、ウエル13に照射された励起光が、ウエル13内に収容された試料によって減衰されても反射膜14に届く程度に、ウエル13の高さd2を小さく設定することが好ましい。また、蛍光領域A1において、蛍光材料は、被検体の種類とウエル13の高さに応じて、底面部13aの高さと平面部16の高さの間に適宜形成された面に塗布されることが好ましい。
また本実施例1、2においては蛍光信号ゲインGの上限値は装置にあらかじめ設定されていることとした。しかしながら、バイオセンサ基板の作製ばらつきも考慮する場合、基板のシステム領域に蛍光信号ゲインGの上限値もしくは所定の値をあらかじめ記録しておいてもよい。
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
なお、図19(a)、(b)に示す構成からは、システム領域A21(特許請求の範囲に記載の第1の領域に相当)に関する限定を除いた以下の発明を抽出することもできる。
(1) 基板と、
前記基板の一方の面側に形成されたトラックと、
前記基板の前記一方の面側に配置される複数の試料収容部と、を備え、
前記試料収容部が形成された領域とは別に設けられ試料を収容しない構造部が複数形成された構造部領域が設けられている、試料保持担体。
(2) 蛍光標識が施された試料を保持する試料保持担体に対し照射光を照射するとともに、当該照射光の照射により前記試料から生じる蛍光を検出する蛍光検出装置であって、
前記試料保持担体は、基板と、前記基板の一方の面側に形成されたトラックと、前記基板の前記一方の面側に配置される複数の試料収容部と、を備え、前記試料収容部が形成された領域とは別に設けられ試料を収容しない構造部が複数形成された構造部領域が設けられており、
前記照射光を出射する光源と、
前記照射光を前記試料保持担体上に収束させる対物レンズと、
前記試料保持担体によって反射された前記照射光を受光する光検出器と、
前記照射光が照射されることにより前記試料から生じる蛍光を受光する蛍光検出器と、
前記照射光を前記構造部領域に照射したときに前記光検出器から出力される信号に基づいて、前記試料収容部を走査するときに用いられる所定のパラメータの値を設定するパラメータ設定部をさらに備える、蛍光検出装置。
上記(1)、(2)の発明によれば、構造部領域に照射光を照射することにより、試料収容部を走査するときに用いられるパラメータの値を適正に設定することができる。