JPWO2013021506A1 - 熱化学水分解用レドックス材料及び水素製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明では、熱化学水分解のために用いることができる改良されたレドックス材料、及びこのレドックス材料を用いた水素製造方法を提供する。本発明の熱化学水分解用レドックス材料は、ペロフスカイト型複合金属酸化物、蛍石型複合金属酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるレドックス金属酸化物、並びに金属酸化物担体を有し、且つレドックス金属酸化物が金属酸化物担体に分散して担持されている。本発明の水素製造方法では、本発明のレドックス材料の酸化還元を用いて、水を水素と酸素とに分解する。

Description

本発明は、熱化学水分解のためのレドックス材料に関する。
〈関連技術〉
近年、クリーンエネルギーである水素をエネルギー源として用いることが多く提案されている。水素の製造のためには、炭化水素燃料を用いた水蒸気改質が一般的に行われている。また、近年では、水の分解、特に熱化学水分解によって、水から水素を得ることも考慮されている。
熱化学水分解法は、化学反応を組み合わせることによって水の直接熱分解の場合よりも低い温度で水の分解を行わせる方法である。具体的には例えば、熱化学水分解法では、下記のように酸化状態の異なる金属酸化物間の酸化還元反応を用いて、水を水素と酸素とに分解する(MOは金属酸化物):
MO(高酸化状態) → MO(低酸化状態) + O (吸熱反応)
MO(低酸化状態) + HO → MO(高酸化状態) + H (発熱反応)
全反応 HO→H+1/2O
このような熱化学水分解法では、反応に必要とされる温度、特に高酸化状態の金属酸化物を低酸化状態の金属酸化物と酸素とに分解する反応に必要とされる温度を低下させることが重要な課題となっている。
これに関して例えば、”Reactive ceramics of CeO −MO (M=Mn, Fe, Ni, Cu) for H generation by two−step water splitting using concentrated solar thermal energy”、H. Kaneko等、Energy、Volume 32、Issue 5、May 2007、pp.656−663では、CeO−MO(MO=MnO、Fe、NiO、CuO)等の蛍石構造を有する複合金属酸化物が、熱化学水分解法のために良好に用いられるとしている。具体的には、この文献では、このような複合金属酸化物を用いる場合、1500℃前後の温度で高酸化状態の金属酸化物から低酸化状態の金属酸化物への還元を行えるとしている。
また、特開2008−94636では、80℃/分よりも大きい加熱速度を用いることによって高酸化状態の金属酸化物から低酸化状態の金属酸化物への還元を比較的低い温度で効率的に行えるとしている。具体的には、この文献では、このような大きい加熱速度の使用によって、1500℃前後の温度で高酸化状態の金属酸化物から低酸化状態の金属酸化物への還元を効率的に行えるとしている。
なお、自動車等の排ガス浄化の分野においては、貴金属等の触媒成分を担持する多孔質金属酸化物担体として、アルミナ、多孔質シリカ等を用いることが知られている。
例えば、本件発明者による特開2008−12382(米国特許出願公開US2009/286677A1に対応)で提案されている排ガス浄化触媒は、内部細孔構造を有するシリカからなる多孔質シリカ担体、及び多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持されているペロフスカイト型複合金属酸化物の粒子を有し、且つ多孔質シリカ担体の細孔分布において、シリカの一次粒子間の間隙に起因するピークが、3〜100nmの範囲にある。
本発明では、熱化学水分解のために用いることができる改良された熱化学水分解用レドックス材料、特に比較的低い温度での熱化学水分解のために用いることができる改良された熱化学水分解用レドックス材料を提供する。
本発明の熱化学水分解用レドックス材料は、ペロフスカイト型複合金属酸化物、蛍石型複合金属酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるレドックス金属酸化物、並びに金属酸化物担体を有し、且つレドックス金属酸化物が金属酸化物担体に分散して担持されている。なお、本発明に関してシリカの「内部細孔構造」とは、シリカを構成するケイ素原子及び酸素原子によって形成される規則的に配列した分子レベルの細孔を意味している。
また本発明では、本発明の熱化学水分解用レドックス材料を用いて水を分解して、水素を生成する方法を提供する。熱化学水分解によって水素を製造するこの方法は、(a)高酸化状態のレドックス金属酸化物を有する本発明のレドックス材料を加熱して、高酸化状態のレドックス金属酸化物から酸素を脱離させ、それによって低酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料、及び酸素を得ること、及び(b)低酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料に水を接触させて、低酸化状態のレドックス金属酸化物を酸化し且つ水を還元し、それによって高酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料、及び水素を得ることを含む。
実施例3で得たレドックス材料のHAADF−STEM像である。
〔熱化学水分解用レドックス材料〕
本発明の熱化学水分解用レドックス材料は、ペロフスカイト型複合金属酸化物、蛍石型複合金属酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるレドックス金属酸化物、並び金属酸化物担体を有し、且つレドックス金属酸化物が金属酸化物担体に分散して担持されている。なお、本発明に関しては、熱化学水分解のために酸化・還元される金属酸化物を「レドックス酸化物」として言及する。
本発明の熱化学分解用レドックス材料では、ペロフスカイト型複合金属酸化物等のレドックス金属酸化物が金属酸化物担体に分散して担持されており、それによってレドックス金属酸化物が単独で存在する場合と比較して、レドックス金属酸化物の粒子径を小さく維持することができる。このような比較的小さい粒子径は、予想外に、比較的低い温度で、熱化学水分解のためのレドックス金属酸化物の酸化還元反応、特に高酸化状態のレドックス金属酸化物から低酸化状態のレドックス金属酸化物への還元反応を可能にする。
理論に限定されるものではないが、比較的小さい粒子径を有するレドックス金属酸化物では、表面エネルギーが大きく、それによって高酸化状態のレドックス金属酸化物を加熱した際に酸素が不安定化しやすく、したがって比較的低温においても低酸化状態のレドックス金属酸化物への還元が行われるものと考えられる。
このような本発明のレドックス材料は、それ自体を成形して用いるだけでなく、モノリス基材、例えばセラミックハニカムにコートして用いることもできる。
(金属酸化物担体)
レドックス金属酸化物を担持するための金属酸化物担体としては、任意の金属酸化物担体を用いることができる。ただし、金属酸化物担体は、レドックス金属酸化物の高分散担持を可能にする担体であることが好ましい。
このような金属酸化物担体としては、内部細孔構造を有するシリカからなる多孔質シリカ担体を用い、且つレドックス金属酸化物を、多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持することができる。この場合、レドックス金属酸化物が多孔質シリカ担体の内部細孔構造内で固定されることによって、高温状態においてレドックス金属酸化物が移動してシンタリングし、それによって粒子径が大きくなることを抑制できる。これに関して例えば、シリカの内部細孔構造に起因するピークは、多孔質シリカ担体の細孔分布において、1〜5nmの範囲であってよい。
特にこのような多孔質シリカ担体としては、細孔分布におけるシリカの一次粒子間の間隙に起因するピークが3〜100nm、特に5〜50nmの範囲にある多孔質シリカ担体を用いることができる。
このように、内部細孔構造を有する多孔質シリカ担体の細孔分布において、シリカの一次粒子間の間隙に起因するピークが、上記の範囲にあること、すなわち多孔質シリカ担体が比較的小さい一次粒子を有していることは、多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持されているレドックス金属酸化物と雰囲気との接触を増加させ、それによってレドックス酸化物の酸化還元を促進すると考えられる。
このような多孔質シリカ担体は例えば、水性溶媒中において、アルキルアミンを自己配列させ、この溶液にアルコキシシラン及び随意の塩基を加えて、自己配列しているアルキルアミンをテンプレートとして用いて、その周囲で多孔質シリカ担体前駆体を析出させ、これを焼成することによって得ることができる。
したがって例えば、この方法では、水性溶媒としてエタノール水溶液を用い、アルキルアミンとしてヘキサデシルアミンを用い、アルコキシシランとしてテトラエトキシシランを用い、且つ随意の塩基としてアンモニアを用いることができる。
多孔質シリカ担体の製造方法で用いるアルキルアミン及びアルコキシシランは、意図する多孔質シリカ担体の一次粒子径、細孔分布等に従って選択することができる。例えば、多孔質シリカ担体の製造において使用するアルキルアミンのアルキル鎖の長さを長くすると、内部細孔構造の細孔径を大きくすることができる。
具体的には、アルキルアミンとして、セチル(すなわちC1633)トリメチルアンモニウムクロリドを用いると、内部細孔構造の細孔径を約2.7nmにすることができ、ラウリル(すなわちC1225)トリメチルアンモニウムクロリドを用いると、内部細孔構造の細孔径を約2.0nmにすることができ、テトラコシル(すなわちC2449)トリメチルアンモニウムクロリドを用いると、内部細孔構造の細孔径を約4.0nmにすることができる。
(レドックス金属酸化物)
本発明のレドックス材料において用いられるレドックス金属酸化物は、ペロフスカイト型複合金属酸化物、蛍石型複合金属酸化物、又はそれらの組み合わせである。
レドックス金属酸化物は、20nm以下、15nm以下、10nm以下、又は5nm以下の平均粒子径、例えば1.5nm〜5nmの平均粒子径で、金属酸化物担体に分散して担持されていてよい。
また、金属酸化物担体に対するレドックス金属酸化物の担持量は、レドックス金属酸化物の粒成長を抑制し、且つ熱化学水分解に関する十分な性能を提供できる範囲で選択することができる。したがって例えば、レドックス金属酸化物の担持量は、金属酸化物担体の質量に対して、レドックス金属酸化物における遷移金属のモル数が、0.01mol/g以上、又は0.05mol/g以上であって、100mol/g以下、10mol/g以下、又は1mol/g以下、又は0.5mol/g以下となるようにすることができる。
具体的には、ペロフスカイト型複合金属酸化物は、希土類及び遷移金属の複合金属酸化物であってよい。この場合には、遷移金属の酸化数が変化することによって、ペロフスカイト型複合金属酸化物がレドックス金属酸化物として機能すると考えられる。より具体的には、ペロフスカイト型複合金属酸化物は、下記の式で表されるペロフスカイト型複合金属酸化物であってよい:

(Aは、希土類元素、特にランタンLa、ストロンチウムSr、セリウムCe、バリウムBa、カルシウムCa、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され;
Bは、遷移金属元素、特にコバルトCo、鉄Fe、ニッケルNi、クロムCr、マンガンMn、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され;
Oは酸素であり;
a+b=2であり;且つ
a:b=1.2:0.8〜0.8〜1.2、特に1.1:0.9〜0.9:1.1である)。
すなわち例えば、ペロフスカイト型複合金属酸化物は、下記の式で表される複合金属酸化物であってよい(x=0.1〜0.4):
LaMn;又は、
LaMnb−xFe
ここで、ランタンのような希土類と並んで、遷移金属としてのマンガンを含有し、このマンガンの一部が鉄によって置換されているペロフスカイト型複合金属酸化物は、比較的低温で効率的に酸化還元させることができ、したがって熱化学水分解特性に関して特に好ましい。
また具体的には、蛍石型複合金属酸化物は、希土類及び遷移金属の複合金属酸化物であってよい。この場合には、遷移金属の酸化数が変化することによって、蛍石型複合金属酸化物がレドックス金属酸化物として機能すると考えられる。より具体的には、蛍石型複合金属酸化物は、下記の式で表される蛍石型複合金属酸化物であってよい:
a1 a2
(Aは、希土類元素、特にランタンLa、ストロンチウムSr、セリウムCe、バリウムBa、カルシウムCa、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され;
は、遷移金属元素、特にコバルトCo、鉄Fe、ニッケルNi、クロムCr、マンガンMn、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され;
Oは酸素であり;
a1+a2=2であり;且つ
a1:a2=1.3:0.7〜0.7:1.3、特に1.2:0.8〜0.8:1.2、より特に1.1:0.9〜0.9:1.1である)。
すなわち例えば、蛍石型複合金属酸化物は、下記の式で表される複合金属酸化物であってよい(x=0.1〜0.4であり、且つδは、酸素欠陥による酸素の減少分):
Cea1Mna2;又は
CeMnb−xFe4−δ
ここで、セリウムのような希土類と並んで、遷移金属としてのマンガンを含有し、このマンガンの一部が鉄によって置換されている蛍型複合金属酸化物は、比較的低温で効率的に酸化還元させることができ、したがって熱化学水分解特性に関して特に好ましい。
金属酸化物担体へのレドックス金属酸化物の担持は、レドックス金属酸化物を構成する金属の塩の溶液を金属酸化物担体に含浸させ、得られた金属酸化物担体を乾燥及び焼成することによって達成できる。レドックス金属酸化物を構成する金属の塩としては、硝酸塩、塩酸塩のような無機酸塩、酢酸塩のような有機酸塩を挙げることができる。
この塩溶液からの溶媒の除去及び乾燥は、任意の方法及び任意の温度で行うことができる。これは例えば、塩溶液を含浸させた金属酸化物担体を120℃のオーブンに入れて達成できる。このようにして溶媒を除去及び乾燥した金属酸化物担体を焼成して、本発明のレドックス材料を得ることができる。この焼成は、金属酸化物の合成において一般的に用いられる温度、例えば500〜1100℃の温度で行うことができる。
なお、上記のような多孔質シリカ担体、及びこのような多孔質シリカ担体へのレドックス金属酸化物の担持に関しては、特開2008−12382(米国特許出願公開US2009/286677A1に対応)の記載を参照することができる。この文献及び本明細書で引用している他の文献の記載は、ここで参照して本明細書の記載に含める。
〔本発明の水素製造方法〕
本発明の水素製造方法では、本発明のレドックス材料を用いる熱化学水分解によって、水素を製造する。具体的には、熱化学水分解によって水素を製造する本発明の方法では、(a)高酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料を加熱して、高酸化状態のレドックス金属酸化物から酸素を脱離させ、それによって低酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料、及び酸素を得ること、及び(b)低酸化状態のレドックス金属酸化物を有する本発明のレドックス材料に水を接触させて、低酸化状態のレドックス金属酸化物を酸化し且つ水を還元し、それによって高酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料及び水素を得ることを含む。
また、本発明の水素製造方法では、本発明のレドックス材料を用いていることによって、比較的低い温度で高酸化状態のレドックス金属酸化物からの酸素の脱離を達成することができ、これは例えばレドックス金属酸化物を1300℃以下、1200℃以下、1100℃以下、又は1000℃以下の温度で達成することができる。ここで、この加熱は、不活性雰囲気、特に窒素雰囲気、又はアルゴン雰囲気のような希ガス雰囲気において行って、酸素の脱離を促進することができる。
本発明の水素製造方法では、本発明のレドックス材料を用いていることによって、比較的低い温度で低酸化状態のレドックス金属酸化物と水を反応させて水素を生成することができ、これは例えばレドックス金属酸化物を1100℃以下、1000℃以下、900℃以下、又は800℃以下の温度で達成することができる。
以下、本発明を実施例に基づき更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〜5〕
(多孔質シリカ担体の合成)
金属酸化物担体としての多孔質シリカの合成は、下記のようにして行った。
水に対して、セチルトリメチルアンモニウムクロリドを0.5mol/L溶解した。得られた水溶液を2時間にわたって撹拌して、セチルトリメチルアンモニウムクロリドを自己配列させた。次に、セチルトリメチルアンモニウムクロリドを自己配列させた溶液に、テトラエトキシシランとアンモニア水を添加して、溶液のpHを9.5にした。
この溶液中において、テトラエトキシシランを30時間にわたって加水分解して、配列したセチルトリメチルアンモニウムクロリドの周りにシリカを析出させて、ナノサイズの細孔を有する一次粒子からなる二次粒子を形成した。次にこの水溶液に少量の硝酸を加えてpH7にし、1時間にわたって二次粒子を更に凝集及び熟成させて、多孔質シリカ担体前駆体を得た。
その後、得られた多孔質シリカ担体前駆体を、エタノール水で洗浄し、ろ過し、乾燥し、800℃の空気中で2時間にわたって焼成して、本発明において用いる多孔質シリカ担体を得た。なお、得られた多孔質シリカ担体におけるシリカの内部細孔構造に起因する細孔の径は、約2.7nmであった。また、得られた多孔質シリカ担体は、シリカの内部細孔構造に起因する細孔だけでなく、シリカの一次粒子間の間隙に起因する10nm強の細孔も有していた。
(レドックス金属酸化物の担持)
レドックス金属酸化物として、LaMnO(実施例1)、LaMn0.8Fe0.2(実施例2)、及びCeFeO(実施例3)の組成のペロフスカイト型、並びにCeMnO(実施例4)、及びCeMn0.8Fe0.24−δ(実施例5)の組成の蛍石構造複合金属酸化物を、多孔質シリカ担体に担持した。ここで、担持は、レドックス金属酸化物おける遷移金属のモル数が0.12mol/100g−担体であるようにして、レドックス金属酸化物おける全金属のモル数が0.24mol/100g−担体であるようにして行った。また、多孔質シリカ担体へのレドックス金属酸化物の担持は、自動車触媒において一般に行われている吸水担持法によって行った。
具体的には、実施例1については、約0.5mol/Lの硝酸ランタン、約0.5mol/Lの硝酸マンガン、及び約1.2mol/Lの安定化剤としてのクエン酸を、蒸留水に加えて、溶液を得、この溶液を2時間にわたって保管した。その後、この溶液に、乾燥状態の多孔質シリカ担体を加え、超音波を提供しながら多孔質シリカ担体から泡が出なくなるまで撹拌した。
吸水させた多孔質シリカ担体をろ過によって溶液から分離し、250℃で乾燥し、800℃で2時間にわたって焼成して、レドックス金属酸化物としてのペロフスカイト型ランタン−マンガン複合金属酸化物を担持している多孔質シリカ担体を得た。ここで、ランタン及びマンガンの担持量は、それぞれ0.12mol/100g−担体であった。
(レドックス金属酸化物の担持状態の評価)
ペロフスカイト型複合金属酸化物を多孔質シリカ担体に担持して得た実施例3のレドックス材料についてのHAADF−STEM像を図1に示す。図1のHAADF−STEM像では、多孔質シリカ担体の内部細孔構造に対応する部分が白く写っており、したがってレドックス金属酸化物としてのペロフスカイト型複合金属酸化物が、多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持されたことが理解される。また、図1のHAADF−STEM像からは、ペロフスカイト型複合金属酸化物が、約2〜3nmの大きさの粒子として、多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持されていることが理解される。なお、HAADF−STEMは、元素質量の二乗に比例して電子線が散乱する現象により画像を形成するものである。
(酸素脱離及び水素生成について特性評価)
実施例1〜5のレドックス材料について、それぞれ、窒素雰囲気において1000℃に加熱して酸素を脱離させ、そしてその後、水蒸気雰囲気において800℃に加熱して水素を生成させた。得られた結果を、表1に示す。なお、表1において、酸素脱離量及び水素生成量はそれぞれ、ペロフスカイト型複合金属酸化物等のレドックス金属酸化物の質量に対する量(μmol/g−レドックス金属酸化物)である。
〔比較例1及び2〕
レドックス金属酸化物としてのCe0.9Fe0.11.5(比較例1)の組成の複合金属酸化物、及びCe0.9Mn0.1(比較例1)の組成の蛍石型複合金属酸化物を、共沈法によって得た。得られたレドックス金属酸化物は、2〜3nm程度の粒子状の形状であった。
これらのレドックス金属酸化物について、実施例1と同様にして、酸素脱離反応及び水素生成反応を行わせた。ただし、比較例1及び2では、酸素脱離反応を1000℃で行い、且つ水素生成反応を800℃で行ったときには観察可能な程度に反応が進行しなかったので、酸素脱離反応を1400℃で行い、且つ水素生成反応を1000℃で行った。得られた結果を表1に示す。
Figure 2013021506
表1からは実施例1〜5のレドックス材料は、比較例1及び2のレドックス材料と比較して低温においてさえも、優れた熱化学水分解特性を示すことが理解される。
本発明は、熱化学水分解のためのレドックス材料に関する。
近年、クリーンエネルギーである水素をエネルギー源として用いることが多く提案されている。水素の製造のためには、炭化水素燃料を用いた水蒸気改質が一般的に行われている。また、近年では、水の分解、特に熱化学水分解によって、水から水素を得ることも考慮されている。
熱化学水分解法は、化学反応を組み合わせることによって水の直接熱分解の場合よりも低い温度で水の分解を行わせる方法である。具体的には例えば、熱化学水分解法では、下記のように酸化状態の異なる金属酸化物間の酸化還元反応を用いて、水を水素と酸素とに分解する(MOは金属酸化物):
MO(高酸化状態) → MO(低酸化状態) + O (吸熱反応)
MO(低酸化状態) + HO → MO(高酸化状態) + H (発熱反応)
全反応 HO→H+1/2O
このような熱化学水分解法では、反応に必要とされる温度、特に高酸化状態の金属酸化物を低酸化状態の金属酸化物と酸素とに分解する反応に必要とされる温度を低下させることが重要な課題となっている。
これに関して例えば、”Reactive ceramics of CeO−MO (M=Mn, Fe, Ni, Cu) for H generation by two−step water splitting using concentrated solar thermal energy”、H. Kaneko等、Energy、Volume 32、Issue 5、May 2007、pp.656−663では、CeO−MO(MO=MnO、Fe、NiO、CuO)等の蛍石構造を有する複合金属酸化物が、熱化学水分解法のために良好に用いられるとしている。具体的には、この文献では、このような複合金属酸化物を用いる場合、1500℃前後の温度で高酸化状態の金属酸化物から低酸化状態の金属酸化物への還元を行えるとしている。
また、特開2008−94636では、80℃/分よりも大きい加熱速度を用いることによって高酸化状態の金属酸化物から低酸化状態の金属酸化物への還元を比較的低い温度で効率的に行えるとしている。具体的には、この文献では、このような大きい加熱速度の使用によって、1500℃前後の温度で高酸化状態の金属酸化物から低酸化状態の金属酸化物への還元を効率的に行えるとしている。
なお、自動車等の排ガス浄化の分野においては、貴金属等の触媒成分を担持する多孔質金属酸化物担体として、アルミナ、多孔質シリカ等を用いることが知られている。
例えば、本件発明者による特開2008−12382(米国特許出願公開US2009/286677A1に対応)で提案されている排ガス浄化触媒は、内部細孔構造を有するシリカからなる多孔質シリカ担体、及び多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持されているペロフスカイト型複合金属酸化物の粒子を有し、且つ多孔質シリカ担体の細孔分布において、シリカの一次粒子間の間隙に起因するピークが、3〜100nmの範囲にある。
本発明では、熱化学水分解のために用いることができる改良された熱化学水分解用レドックス材料、特に比較的低い温度での熱化学水分解のために用いることができる改良された熱化学水分解用レドックス材料を提供する。
本発明の熱化学水分解用レドックス材料は、ペロフスカイト型複合金属酸化物、蛍石型複合金属酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるレドックス金属酸化物、並びに金属酸化物担体を有し、且つレドックス金属酸化物が金属酸化物担体に分散して担持されている。なお、本発明に関してシリカの「内部細孔構造」とは、シリカを構成するケイ素原子及び酸素原子によって形成される規則的に配列した分子レベルの細孔を意味している。
また本発明では、本発明の熱化学水分解用レドックス材料を用いて水を分解して、水素を生成する方法を提供する。熱化学水分解によって水素を製造するこの方法は、(a)高酸化状態のレドックス金属酸化物を有する本発明のレドックス材料を加熱して、高酸化状態のレドックス金属酸化物から酸素を脱離させ、それによって低酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料、及び酸素を得ること、及び(b)低酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料に水を接触させて、低酸化状態のレドックス金属酸化物を酸化し且つ水を還元し、それによって高酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料、及び水素を得ることを含む。
実施例3で得たレドックス材料のHAADF−STEM像である。
〔熱化学水分解用レドックス材料〕
本発明の熱化学水分解用レドックス材料は、ペロフスカイト型複合金属酸化物、蛍石型複合金属酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるレドックス金属酸化物、並び金属酸化物担体を有し、且つレドックス金属酸化物が金属酸化物担体に分散して担持されている。なお、本発明に関しては、熱化学水分解のために酸化・還元される金属酸化物を「レドックス酸化物」として言及する。
本発明の熱化学分解用レドックス材料では、ペロフスカイト型複合金属酸化物等のレドックス金属酸化物が金属酸化物担体に分散して担持されており、それによってレドックス金属酸化物が単独で存在する場合と比較して、レドックス金属酸化物の粒子径を小さく維持することができる。このような比較的小さい粒子径は、予想外に、比較的低い温度で、熱化学水分解のためのレドックス金属酸化物の酸化還元反応、特に高酸化状態のレドックス金属酸化物から低酸化状態のレドックス金属酸化物への還元反応を可能にする。
理論に限定されるものではないが、比較的小さい粒子径を有するレドックス金属酸化物では、表面エネルギーが大きく、それによって高酸化状態のレドックス金属酸化物を加熱した際に酸素が不安定化しやすく、したがって比較的低温においても低酸化状態のレドックス金属酸化物への還元が行われるものと考えられる。
このような本発明のレドックス材料は、それ自体を成形して用いるだけでなく、モノリス基材、例えばセラミックハニカムにコートして用いることもできる。
(金属酸化物担体)
レドックス金属酸化物を担持するための金属酸化物担体としては、任意の金属酸化物担体を用いることができる。ただし、金属酸化物担体は、レドックス金属酸化物の高分散担持を可能にする担体であることが好ましい。
このような金属酸化物担体としては、内部細孔構造を有するシリカからなる多孔質シリカ担体を用い、且つレドックス金属酸化物を、多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持することができる。この場合、レドックス金属酸化物が多孔質シリカ担体の内部細孔構造内で固定されることによって、高温状態においてレドックス金属酸化物が移動してシンタリングし、それによって粒子径が大きくなることを抑制できる。これに関して例えば、シリカの内部細孔構造に起因するピークは、多孔質シリカ担体の細孔分布において、1〜5nmの範囲であってよい。
特にこのような多孔質シリカ担体としては、細孔分布におけるシリカの一次粒子間の間隙に起因するピークが3〜100nm、特に5〜50nmの範囲にある多孔質シリカ担体を用いることができる。
このように、内部細孔構造を有する多孔質シリカ担体の細孔分布において、シリカの一次粒子間の間隙に起因するピークが、上記の範囲にあること、すなわち多孔質シリカ担体が比較的小さい一次粒子を有していることは、多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持されているレドックス金属酸化物と雰囲気との接触を増加させ、それによってレドックス酸化物の酸化還元を促進すると考えられる。
このような多孔質シリカ担体は例えば、水性溶媒中において、アルキルアミンを自己配列させ、この溶液にアルコキシシラン及び随意の塩基を加えて、自己配列しているアルキルアミンをテンプレートとして用いて、その周囲で多孔質シリカ担体前駆体を析出させ、これを焼成することによって得ることができる。
したがって例えば、この方法では、水性溶媒としてエタノール水溶液を用い、アルキルアミンとしてヘキサデシルアミンを用い、アルコキシシランとしてテトラエトキシシランを用い、且つ随意の塩基としてアンモニアを用いることができる。
多孔質シリカ担体の製造方法で用いるアルキルアミン及びアルコキシシランは、意図する多孔質シリカ担体の一次粒子径、細孔分布等に従って選択することができる。例えば、多孔質シリカ担体の製造において使用するアルキルアミンのアルキル鎖の長さを長くすると、内部細孔構造の細孔径を大きくすることができる。
具体的には、アルキルアミンとして、セチル(すなわちC1633)トリメチルアンモニウムクロリドを用いると、内部細孔構造の細孔径を約2.7nmにすることができ、ラウリル(すなわちC1225)トリメチルアンモニウムクロリドを用いると、内部細孔構造の細孔径を約2.0nmにすることができ、テトラコシル(すなわちC2449)トリメチルアンモニウムクロリドを用いると、内部細孔構造の細孔径を約4.0nmにすることができる。
(レドックス金属酸化物)
本発明のレドックス材料において用いられるレドックス金属酸化物は、ペロフスカイト型複合金属酸化物、蛍石型複合金属酸化物、又はそれらの組み合わせである。
レドックス金属酸化物は、20nm以下、15nm以下、10nm以下、又は5nm以下の平均粒子径、例えば1.5nm〜5nmの平均粒子径で、金属酸化物担体に分散して担持されていてよい。
また、金属酸化物担体に対するレドックス金属酸化物の担持量は、レドックス金属酸化物の粒成長を抑制し、且つ熱化学水分解に関する十分な性能を提供できる範囲で選択することができる。したがって例えば、レドックス金属酸化物の担持量は、金属酸化物担体の質量に対して、レドックス金属酸化物における遷移金属のモル数が、0.01mol/100g以上、又は0.05mol/100g以上であって、100mol/100g以下、10mol/100g以下、又は1mol/100g以下、又は0.5mol/100g以下となるようにすることができる。
具体的には、ペロフスカイト型複合金属酸化物は、希土類及び/又はストロンチウムSr、バリウムBa及びカルシウムCaから選ばれるアルカリ土類金属と遷移金属の複合金属酸化物であってよい。この場合には、遷移金属の酸化数が変化することによって、ペロフスカイト型複合金属酸化物がレドックス金属酸化物として機能すると考えられる。より具体的には、ペロフスカイト型複合金属酸化物は、下記の式で表されるペロフスカイト型複合金属酸化物であってよい:

(Aは、希土類元素、特にランタンLa及びセリウムCeと、ストロンチウムSr、バリウムBa及びカルシウムCaから選ばれるアルカリ土類金属、並びにこれらの組み合わせからなる群より選択され;
Bは、遷移金属元素、特にコバルトCo、鉄Fe、ニッケルNi、クロムCr、マンガンMn、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され;
Oは酸素であり;
a+b=2であり;且つ
a:b=1.2:0.8〜0.81.2、特に1.1:0.9〜0.9:1.1である)。
すなわち例えば、ペロフスカイト型複合金属酸化物は、下記の式で表される複合金属酸化物であってよい(x=0.1〜0.4):
LaMn;又は、
LaMnb−xFe
ここで、ランタンのような希土類と並んで、遷移金属としてのマンガンを含有し、このマンガンの一部が鉄によって置換されているペロフスカイト型複合金属酸化物は、比較的低温で効率的に酸化還元させることができ、したがって熱化学水分解特性に関して特に好ましい。
また具体的には、蛍石型複合金属酸化物は、希土類及び/又はストロンチウムSr、バリウムBa及びカルシウムCaから選ばれるアルカリ土類金属と遷移金属の複合金属酸化物であってよい。この場合には、遷移金属の酸化数が変化することによって、蛍石型複合金属酸化物がレドックス金属酸化物として機能すると考えられる。より具体的には、蛍石型複合金属酸化物は、下記の式で表される蛍石型複合金属酸化物であってよい:
a1 a2
(Aは、希土類元素、特にランタンLa及びセリウムCeと、ストロンチウムSr、バリウムBa及びカルシウムCaから選ばれるアルカリ土類金属、並びにこれらの組み合わせからなる群より選択され;
は、遷移金属元素、特にコバルトCo、鉄Fe、ニッケルNi、クロムCr、マンガンMn、及びこれらの組み合わせからなる群より選択され;
Oは酸素であり;
a1+a2=2であり;且つ
a1:a2=1.3:0.7〜0.7:1.3、特に1.2:0.8〜0.8:1.2、より特に1.1:0.9〜0.9:1.1である)。
すなわち例えば、蛍石型複合金属酸化物は、下記の式で表される複合金属酸化物であってよい(x=0.1〜0.4であり、且つδは、酸素欠陥による酸素の減少分):
Cea1Mna2;又は
CeMnb−xFe4−δ
ここで、セリウムのような希土類と並んで、遷移金属としてのマンガンを含有し、このマンガンの一部が鉄によって置換されている蛍型複合金属酸化物は、比較的低温で効率的に酸化還元させることができ、したがって熱化学水分解特性に関して特に好ましい。
金属酸化物担体へのレドックス金属酸化物の担持は、レドックス金属酸化物を構成する金属の塩の溶液を金属酸化物担体に含浸させ、得られた金属酸化物担体を乾燥及び焼成することによって達成できる。レドックス金属酸化物を構成する金属の塩としては、硝酸塩、塩酸塩のような無機酸塩、酢酸塩のような有機酸塩を挙げることができる。
この塩溶液からの溶媒の除去及び乾燥は、任意の方法及び任意の温度で行うことができる。これは例えば、塩溶液を含浸させた金属酸化物担体を120℃のオーブンに入れて達成できる。このようにして溶媒を除去及び乾燥した金属酸化物担体を焼成して、本発明のレドックス材料を得ることができる。この焼成は、金属酸化物の合成において一般的に用いられる温度、例えば500〜1100℃の温度で行うことができる。
なお、上記のような多孔質シリカ担体、及びこのような多孔質シリカ担体へのレドックス金属酸化物の担持に関しては、特開2008−12382(米国特許出願公開US2009/286677A1に対応)の記載を参照することができる。この文献及び本明細書で引用している他の文献の記載は、ここで参照して本明細書の記載に含める。
〔本発明の水素製造方法〕
本発明の水素製造方法では、本発明のレドックス材料を用いる熱化学水分解によって、水素を製造する。具体的には、熱化学水分解によって水素を製造する本発明の方法では、(a)高酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料を加熱して、高酸化状態のレドックス金属酸化物から酸素を脱離させ、それによって低酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料、及び酸素を得ること、及び(b)低酸化状態のレドックス金属酸化物を有する本発明のレドックス材料に水を接触させて、低酸化状態のレドックス金属酸化物を酸化し且つ水を還元し、それによって高酸化状態のレドックス金属酸化物を有するレドックス材料及び水素を得ることを含む。
また、本発明の水素製造方法では、本発明のレドックス材料を用いていることによって、比較的低い温度で高酸化状態のレドックス金属酸化物からの酸素の脱離を達成することができ、これは例えばレドックス金属酸化物を1300℃以下、1200℃以下、1100℃以下、又は1000℃以下の温度で達成することができる。ここで、この加熱は、不活性雰囲気、特に窒素雰囲気、又はアルゴン雰囲気のような希ガス雰囲気において行って、酸素の脱離を促進することができる。
本発明の水素製造方法では、本発明のレドックス材料を用いていることによって、比較的低い温度で低酸化状態のレドックス金属酸化物と水を反応させて水素を生成することができ、これは例えばレドックス金属酸化物を1100℃以下、1000℃以下、900℃以下、又は800℃以下の温度で達成することができる。
以下、本発明を実施例に基づき更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〜5〕
(多孔質シリカ担体の合成)
金属酸化物担体としての多孔質シリカの合成は、下記のようにして行った。
水に対して、セチルトリメチルアンモニウムクロリドを0.5mol/L溶解した。得られた水溶液を2時間にわたって撹拌して、セチルトリメチルアンモニウムクロリドを自己配列させた。次に、セチルトリメチルアンモニウムクロリドを自己配列させた溶液に、テトラエトキシシランとアンモニア水を添加して、溶液のpHを9.5にした。
この溶液中において、テトラエトキシシランを30時間にわたって加水分解して、配列したセチルトリメチルアンモニウムクロリドの周りにシリカを析出させて、ナノサイズの細孔を有する一次粒子からなる二次粒子を形成した。次にこの水溶液に少量の硝酸を加えてpH7にし、1時間にわたって二次粒子を更に凝集及び熟成させて、多孔質シリカ担体前駆体を得た。
その後、得られた多孔質シリカ担体前駆体を、エタノール水で洗浄し、ろ過し、乾燥し、800℃の空気中で2時間にわたって焼成して、本発明において用いる多孔質シリカ担体を得た。なお、得られた多孔質シリカ担体におけるシリカの内部細孔構造に起因する細孔の径は、約2.7nmであった。また、得られた多孔質シリカ担体は、シリカの内部細孔構造に起因する細孔だけでなく、シリカの一次粒子間の間隙に起因する10nm強の細孔も有していた。
(レドックス金属酸化物の担持)
レドックス金属酸化物として、LaMnO(実施例1)、LaMn0.8Fe0.2(実施例2)、及びCeFeO(実施例3)の組成のペロフスカイト型、並びにCeMnO(実施例4)、及びCeMn0.8Fe0.24−δ(実施例5)の組成の蛍石構造複合金属酸化物を、多孔質シリカ担体に担持した。ここで、担持は、レドックス金属酸化物おける遷移金属のモル数が0.12mol/100g−担体であるようにして、レドックス金属酸化物おける全金属のモル数が0.24mol/100g−担体であるようにして行った。また、多孔質シリカ担体へのレドックス金属酸化物の担持は、自動車触媒において一般に行われている吸水担持法によって行った。
具体的には、実施例1については、約0.5mol/Lの硝酸ランタン、約0.5mol/Lの硝酸マンガン、及び約1.2mol/Lの安定化剤としてのクエン酸を、蒸留水に加えて、溶液を得、この溶液を2時間にわたって保管した。その後、この溶液に、乾燥状態の多孔質シリカ担体を加え、超音波を提供しながら多孔質シリカ担体から泡が出なくなるまで撹拌した。
吸水させた多孔質シリカ担体をろ過によって溶液から分離し、250℃で乾燥し、800℃で2時間にわたって焼成して、レドックス金属酸化物としてのペロフスカイト型ランタン−マンガン複合金属酸化物を担持している多孔質シリカ担体を得た。ここで、ランタン及びマンガンの担持量は、それぞれ0.12mol/100g−担体であった。
(レドックス金属酸化物の担持状態の評価)
ペロフスカイト型複合金属酸化物を多孔質シリカ担体に担持して得た実施例3のレドックス材料についてのHAADF−STEM像を図1に示す。図1のHAADF−STEM像では、多孔質シリカ担体の内部細孔構造に対応する部分が白く写っており、したがってレドックス金属酸化物としてのペロフスカイト型複合金属酸化物が、多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持されたことが理解される。また、図1のHAADF−STEM像からは、ペロフスカイト型複合金属酸化物が、約2〜3nmの大きさの粒子として、多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持されていることが理解される。なお、HAADF−STEMは、元素質量の二乗に比例して電子線が散乱する現象により画像を形成するものである。
(酸素脱離及び水素生成について特性評価)
実施例1〜5のレドックス材料について、それぞれ、窒素雰囲気において1000℃に加熱して酸素を脱離させ、そしてその後、水蒸気雰囲気において800℃に加熱して水素を生成させた。得られた結果を、表1に示す。なお、表1において、酸素脱離量及び水素生成量はそれぞれ、ペロフスカイト型複合金属酸化物等のレドックス金属酸化物の質量に対する量(μmol/g−レドックス金属酸化物)である。
〔比較例1及び2〕
レドックス金属酸化物としてのCe0.9Fe0.11.5(比較例1)の組成の複合金属酸化物、及びCe0.9Mn0.1(比較例)の組成の蛍石型複合金属酸化物を、共沈法によって得た。得られたレドックス金属酸化物は、2〜3nm程度の粒子状の形状であった。
これらのレドックス金属酸化物について、実施例1と同様にして、酸素脱離反応及び水素生成反応を行わせた。ただし、比較例1及び2では、酸素脱離反応を1000℃で行い、且つ水素生成反応を800℃で行ったときには観察可能な程度に反応が進行しなかったので、酸素脱離反応を1400℃で行い、且つ水素生成反応を1000℃で行った。得られた結果を表1に示す。
Figure 2013021506
表1からは実施例1〜5のレドックス材料は、比較例1及び2のレドックス材料と比較して低温においてさえも、優れた熱化学水分解特性を示すことが理解される。

Claims (10)

  1. ペロフスカイト型複合金属酸化物、蛍石型複合金属酸化物、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるレドックス金属酸化物、並びに金属酸化物担体を有し、且つ前記レドックス金属酸化物が前記金属酸化物担体に分散して担持されている、熱化学水分解用レドックス材料。
  2. 前記レドックス金属酸化物が、20nm以下の平均粒子径で、前記金属酸化物担体に分散して担持されている、請求項1に記載のレドックス材料。
  3. 前記金属酸化物担体が、内部細孔構造を有するシリカからなる多孔質シリカ担体であり、前記レドックス金属酸化物が、前記多孔質シリカ担体の内部細孔構造内に担持されている、請求項1又は2に記載のレドックス材料。
  4. 前記多孔質シリカ担体の細孔分布において、シリカの一次粒子間の間隙に起因するピークが、3〜100nmの範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載のレドックス材料。
  5. シリカの一次粒子間の間隙に起因する前記ピークが、5〜50nmの範囲にある、請求項1〜4のいずれかに記載のレドックス材料。
  6. 前記多孔質シリカ担体の細孔分布において、シリカの内部細孔構造に起因するピークが、1〜5nmの範囲にある、請求項1〜5のいずれかに記載のレドックス材料。
  7. 前記ペロフスカイト型複合金属酸化物及び/又は蛍石型複合金属酸化物が、希土類及び遷移金属の複合金属酸化物である、請求項1〜6のいずれかに記載のレドックス材料。
  8. (a)高酸化状態の前記レドックス金属酸化物を有する請求項1〜7のいずれかに記載の前記レドックス材料を加熱して、高酸化状態の前記レドックス金属酸化物から酸素を脱離させ、それによって低酸化状態の前記レドックス金属酸化物を有する前記レドックス材料、及び酸素を得ること、及び
    (b)低酸化状態の前記レドックス金属酸化物を有する前記レドックス材料に水を接触させて、低酸化状態の前記レドックス金属酸化物を酸化し且つ水を還元し、それによって高酸化状態の前記レドックス金属酸化物を有する前記レドックス材料、及び水素を得ること、
    を含む、熱化学水分解によって水素を製造する方法。
  9. 前記工程(a)において、前記レドックス材料を1300℃以下の温度に加熱して、低酸化状態の前記レドックス金属酸化物を有する前記レドックス材料、及び酸素を得る、請求項8に記載の方法。
  10. 前記工程(b)において、前記レドックス材料を1100℃以下の温度で水と反応させて、高酸化状態の前記レドックス金属酸化物を有する前記レドックス材料、及び水素を得る、請求項8又は9に記載の方法。
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