JPWO2012091054A1 - リポソーム組成物およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は高封入量で薬物を導入することができ、臨床上十分な有効濃度を維持した持続徐放性を有する、皮下投与等に適したリポソーム組成物を提供することを目的とし、本発明のリポソーム組成物は複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する第1のリポソームと、該外膜によって規定される第1のリポソーム内部領域に収容された複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する複数の第2のリポソームとを有し、該第2のリポソームの外膜によって規定される第2のリポソーム内部領域を有するとともに、少なくとも該第2のリポソーム内部領域と前記第1のリポソームの外部との間にイオン勾配が形成されたリポソーム組成物である。

Description

本発明は薬物などの有効成分を含有する持続徐放性リポソーム組成物に関する。
頻回投与を必要とする薬剤は、頻回の通院や穿刺などの苦痛が患者にとって大きな負担となっている。また、嚥下困難を伴う患者は口から薬を飲むことが困難であるため、経口投与以外の投与方法が求められる。認知症患者や脳疾患、パーキンソン病などの介護者を必要とする患者においても、自分で薬を飲む管理が困難であるため、経口投与以外の投与方法や、頻回投与を必要としない治療法の選択肢が求められる。さらに、自律神経失調症など、薬の効果が切れると直ちに日常生活に支障をきたす患者においても、薬の効果が短時間で切れずに長期的に効き続けられる治療法が求められる。あるいは、手術後の痛みに関しても、薬の効果が切れると直ちに我慢できないほどの痛みに襲われるため、リハビリに影響を及ぼし、退院を延ばす要因になりかねない。従って、術後5〜7日間、薬の効果がずっと現れ、痛みを抑制することができれば、術後のリハビリも促進でき、退院を早めるきっかけになると考えられる。
これらのことから、薬の効果を長期的に持続させることができる徐放製剤は、あらゆる疾患領域において、患者のQOLを向上させるものとして非常に期待されている。
これまでに検討されている徐放製剤の多くは、ポリ乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)を用いたマイクロスフェアである。例えば、アルツハイマー型認知症治療剤として知られているアリセプト(登録商標 エーザイ株式会社)の有効成分である塩酸ドネペジルを用いたPLGAマイクロスフェアが検討されており、持続的な放出性が得られている(非特許文献1)。しかしながら、PLGAを用いる場合、特に水溶性薬物を高濃度でかつ高効率で封入することは難しく、高い薬物封入量を得るためには未だ課題が残されている。また、PLGAを用いると、調製工程において有機溶媒を使用するため有機溶媒の除去が必須となる点(例えば特許文献1、2)や、分解とともに局所的に酸が強まるため炎症を引き起こす点も大きな課題とされている。
その他、ブピバカインなどの局所麻酔薬を用いた徐放製剤のアプローチもいくつか検討されているが、術後、5〜7日間続く痛みを十分な期間、緩和できるだけの持続性についてはまだ課題がある(非特許文献2)。また、多胞状リポソーム(MVL)は、局所または全身的薬物送達のための脂質ベースの徐放性薬物担体として開発されているが(特許文献1、2)、これに関しても未だ薬物封入量や徐放時間において十分とは言えない。
特表2001−505224号公報 特表2001−522870号公報
Biomaterials 28(2007)1882−1888 Anesthesiology 101(2004)133−137
本発明は、薬物がイオン勾配にそって外部から内部へ移動することで、高効率で、かつ高封入量で薬物を導入することができ、さらに臨床上十分な有効濃度を維持した持続徐放性を有するリポソーム組成物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記課題は以下の本発明によって解決される。
(1)複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する第1のリポソームと、該外膜によって規定される第1のリポソーム内部領域に収容された、複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する複数の第2のリポソームとを有し、該第2のリポソームの外膜によって規定される第2のリポソーム内部領域を有するとともに、少なくとも該第2のリポソーム内部領域と前記第1のリポソームの外部との間にイオン勾配が形成されたリポソーム組成物。
(2)前記イオン勾配はプロトン濃度勾配であり、前記第2のリポソーム内部領域のpH、もしくは前記第2リポソーム内部領域および前記第1リポソームの内部領域のpHが、前記第1のリポソームの外部のpHよりも低くなっている上記(1)に記載のリポソーム組成物。
(3)前記第1のリポソームが1〜20μmの範囲内の平均粒子径を有する上記(1)または(2)に記載のリポソーム組成物。
(4)前記第2のリポソーム内部領域、もしくは前記第2のリポソームおよび前記第1のリポソームの内部領域に薬物を含有する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のリポソーム組成物。
(5)前記薬物を総脂質に対するモル比(mol/mol)で0.05以上含有している上記(4)に記載のリポソーム組成物。
(6)前記第1のリポソームおよび前記第2のリポソームの脂質膜は、リン脂質とコレステロールを含む脂質により構成されている上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のリポソーム組成物。
(7)前記リン脂質は飽和リン脂質である上記(6)に記載のリポソーム組成物。
(8)外膜の内部と外部との間にイオン勾配が形成されたリポソーム組成物の製造方法であって、脂質を含む水混和性溶媒に対して、該イオン勾配を形成するための化合物を含む第1内水相溶液を体積比0.7〜2.5で混合して第1エマルジョンを調製する工程と、該第1エマルジョンに対し第2内水相溶液を体積比0.7以上で混合して第2エマルジョンを調製する工程と、該第2エマルジョンの外水相を、少なくとも該第1内水相溶液より該イオン勾配を形成するための化合物濃度が低い水溶液で置換する工程とを有するリポソーム組成物の製造方法。
(9)前記該イオン勾配はプロトン濃度勾配である上記(8)に記載のリポソーム組成物の製造方法。
(10)前記第1内水相溶液は硫酸塩を含む水溶液である上記(8)又は(9)に記載のリポソーム組成物の製造方法。
(11)前記硫酸塩は硫酸アンモニウムである上記(10)に記載のリポソーム組成物の製造方法。
(12)さらに前記イオン勾配による駆動力によって前記リポソーム組成物内部に薬物を導入する工程を有する上記(8)ないし(11)のいずれかに記載のリポソーム組成物の製造方法。
本発明は、複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する第1のリポソームと、該外膜によって規定される第1のリポソーム内部領域に収容された、複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する複数の第2のリポソームとを有し、該第2のリポソームの外膜によって規定される第2のリポソーム内部領域を有するとともに、少なくとも該第2のリポソーム内部領域と前記第1のリポソームの外部との間にイオン勾配が形成されたリポソーム組成物である。本発明のリポソーム組成物は、薬物を高効率で封入し、かつ長期的な薬物の持続徐放が可能である。
本発明のリポソーム組成物の製造方法によれば、薬物を高効率で封入し、かつ長期的な薬物の持続徐放が可能なリポソーム組成物を得ることができる。
図1は本願実施例において調製例2で製造された、薬物導入後のリポソーム組成物の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した写真である。(倍率:32000倍) 図2はエクストルージョン法−1によって調製されたドネペジルリポソーム(比較例2)等の経時的な血中動態の結果を表すグラフである。 図3は本発明による調製例2、3、4で得られたリポソーム組成物等の経時的な血中動態の結果を表すグラフである。 図4は本発明による調製例5、6で得られたリポソーム組成物等の経時的な血中動態の結果を表すグラフである。 図5は本発明による調製例12で調製したリポソーム組成物の薬物動態の結果を表すグラフである。
<リン脂質>
本発明のリポソーム組成物の脂質二重膜(以下、単に脂質膜、あるいはリポソーム膜ということもある)を構成する主要な脂質であるリン脂質は、生体膜の主要構成成分であり、一般的に、分子内に長鎖アルキル基より構成される疎水性基と、リン酸基より構成される親水性基とをもつ両親媒性物質である。リン脂質としては、ホスファチジルコリン(=レシチン)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールなどのグリセロリン酸;スフィンゴミエリン(SM)などのスフィンゴリン脂質;カルジオリピンなどの天然または合成のジホスファチジルリン脂質およびこれらの誘導体;これらの水素添加物たとえば水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、水素添加卵黄ホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリンが好ましい。リン脂質は単一種または複数種の組合せで用いることができる。
<リン脂質以外の添加物>
本発明のリポソーム組成物は、上記主構成成分とともに他の膜成分を含んでいても良く、たとえば、リン脂質以外の脂質もしくはその誘導体、膜安定化剤、酸化防止剤などを必要に応じて含むことができる。リン脂質以外の脂質とは、分子内に長鎖アルキル基等の疎水性基を有し、リン酸基を分子内に含まない脂質であり、特に限定されないがグリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、コレステロールなどのステロール誘導体およびこれらの水素添加物などの誘導体を挙げることができる。コレステロール誘導体としては、シクロペンタノヒドロフェナントレン環を有するステロール類が挙げられる。これらの中でも、本発明のリポソーム組成物はコレステロールを含むことが好ましい。酸化防止剤としては、たとえばアスコルビン酸、尿酸あるいはトコフェロール同族体すなわちビタミンEなどが挙げられる。トコフェロールには、α、β、γ、δの4個の異性体が存在するが、本発明ではいずれも使用できる。
なお、本発明のリポソーム組成物の脂質二重膜組成は、リン脂質100〜50mol%およびコレステロール0〜50mol%が好ましく、より好まくは、リン脂質70〜50mol%およびコレステロール30〜50mol%である。
本発明のリポソーム組成物は、複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する第1のリポソームと、該外膜によって規定される第1のリポソーム内部領域に収容された、複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する複数の第2のリポソームとを有し、該第2のリポソームの外膜によって規定される第2のリポソーム内部領域を有する。
本発明のリポソーム組成物は、その態様として、薬物が内封されていない空リポソームおよび薬物が内封されているリポソームを含む。
第1のリポソームの外径は、徐放性能に優れ、また細い針でも容易に投与可能であるという点から、1〜20μmであるのが好ましく、3〜10μmであるのがさらに好ましい。また第2のリポソームの外径は特に限定されないが、薬物封入量および徐放性能に優れるという点から、100〜800nmであるのが好ましい。
本発明において、複数の第2のリポソームはそれぞれ独立して第1のリポソームの中に存在し、その数は特に限定されない。
本発明のリポソーム組成物は、少なくとも該第2のリポソーム内部領域と前記第1のリポソームの外部との間にイオン勾配が形成される。以下、単に「イオン」と言う場合には、当該イオン勾配を形成するイオンを意味するものとする。本発明において、第2のリポソーム内部領域と第1のリポソームの外部との間にイオン勾配が形成されるとは、(1)第2のリポソームが有する外膜を挟んで、第2のリポソーム内部領域と、第1のリポソーム内部領域及び第1のリポソームの外部との間にイオン濃度に差があること、(2)第1のリポソームが有する外膜を挟んで、第2のリポソーム内部領域及び第1のリポソーム内部領域と、第1のリポソームの外部との間にイオン濃度に差があること、(3)第2のリポソームが有する外膜を挟んで、第2のリポソーム内部領域と第1のリポソーム内部領域との間にイオン濃度に差があり、かつ第1のリポソームが有する外膜を挟んで第1のリポソーム内部領域と第1のリポソームの外部との間にイオン濃度に差があること(この場合、第1のリポソーム内部領域のイオン濃度は、第2のリポソーム内部領域のイオン濃度と第1のリポソームの外部のイオン濃度との間の値となる。)、のうちのいずれかであることをいう。
本発明において、イオン勾配は、薬剤を多く導入する観点から、第2のリポソーム内部領域のイオン濃度が最も高いのが好ましい。また、第2のリポソーム内部領域のイオン濃度≧第1のリポソーム内部領域のイオン濃度>第1のリポソームの外部のイオン濃度とすることができる。また、第2のリポソーム内部領域のイオン濃度>第1のリポソーム内部領域のイオン濃度≧第1のリポソームの外部のイオン濃度とすることができる。また、第2のリポソーム内部領域のイオン濃度>第1のリポソーム内部領域のイオン濃度>第1のリポソームの外部のイオン濃度とすることができる。第2のリポソーム内部領域のイオン濃度=第1のリポソーム内部領域のイオン濃度=第1のリポソームの外部のイオン濃度である場合は本願発明から除かれる。イオン勾配としてプロトン勾配(pH勾配)を用いる場合には、イオン濃度(プロトン濃度)が高いことはpHが低いことに対応する。すなわち、この場合には第2のリポソーム内部領域のpHが最も低いのが好ましい。
空リポソームに対する薬物の導入前後において、第1のリポソームの形状及び外径、第2のリポソームの形状及び外径はほぼ同じである。薬物が導入されたリポソームにおいて、第1のリポソームの外径、第2のリポソームの外径は薬物が内封されていない空リポソームと同様である。
本発明のリポソーム組成物が薬物を内包する場合、このようなリポソーム組成物は、前記第2のリポソーム内部領域、もしくは前記第2のリポソームおよび前記第1のリポソームの内部領域に薬物を含有することができる。
リポソーム組成物に含有される薬物の量は特に限定されず、用途に応じて適宜調整し得るが、リポソーム組成物が有する総脂質(リポソーム組成物を製造する際に使用される総脂質)に対するモル比[薬剤(mol)/総脂質(mol)]で0.05以上であるのが好ましく、0.06〜0.14とすることができる。
<イオン勾配法>
イオン勾配法は、リポソーム膜の内側/外側にイオン勾配を形成し、外部に添加された薬物がこのイオン勾配に従いリポソーム膜を透過することで薬物をリポソーム内部に封入する方法であり、イオン勾配としてはプロトン勾配(pH勾配)が好ましい。イオン勾配法では、薬物が内封されていない空リポソームを製造し、空リポソームの外液に薬物を添加することにより、リポソームに薬物を導入することができる。
本発明は、イオン勾配法により薬物を封入するためのリポソーム組成物、およびイオン勾配法により薬物を封入したリポソーム組成物である。なかでも、イオン勾配としてpH勾配を用いるpH勾配法が最も好ましく適用される。
pH勾配を形成する方法としては、第1内水相及び/または第2内水相として酸性pHの緩衝液(例えばpH2〜3のクエン酸溶液)を用いてリポソームを形成し、次いで第1リポソームの外部pHを中性付近(例えばpH6.5〜7.5の緩衝液)に調整することで、第2リポソーム及び第1リポソームの内部がより低く、第1リポソームの外部がより高いpH勾配を形成する様態とすることができる。
また、アンモニウムイオン勾配を介してpH勾配を形成することもできる。この場合、例えば、第1内水相及び/または第2内水相として硫酸アンモニウム溶液を用いてリポソームを形成し、次いで第1リポソームの外部水相の硫酸アンモニウムを除去するか、または希釈することによって少なくとも第2リポソーム及び第1リポソームの内側と第1リポソームの外側にアンモニウムイオンの勾配を形成する。すると、生成したアンモニウムイオン勾配によって、第1リポソーム及び第2リポソームの内水相から第1リポソームの外水相へアンモニアの流出が起こり、結果的に内水相にアンモニアが残したプロトンが蓄積することによってpH勾配が形成され、第1リポソーム及び第2リポソームの内水相は第1リポソームの外水相より酸性になる。
<封入される薬物>
本発明のリポソーム組成物に封入する薬物は、イオン勾配法でリポソーム内に封入可能な薬物であれば特に限定されずに用いることができる。このような薬物は、イオン化可能な両親媒性薬物であることが好ましく、両親媒性弱塩基性薬物であることがさらに好ましい。また、効果の面からは局所投与において持続徐放性が望まれる薬物が好ましく、特に脳血管障害、パーキンソン病、認知症等の治療薬や、鎮痛薬、局所麻酔薬、抗悪性腫瘍剤であることが好ましい。これらの薬物としては、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、フィソスチグミン、ヘプチルフィソスチグミン、フェンセリン、トリセリン、シムセリン、チアトルセリン、チアシムセリン、ネオスチグミン、フペルジン、タクリン、メトリフォネート、ミノサイクリン、塩酸ファスジル、ニモジン、モルヒネ、ブピバカイン、ロピバカイン、レボブピバカイン、トラマドール、リドカイン、ドキソルビシンなどが挙げられる。その他、ドーパミン、L−DOPA、セロトニン、エピネフリン、コデイン、メペリジン、メタドン、モルフィン、アトロピン、デシクロミン、メチキセン、プロパンテリン、イミプラミン、アミトリプチリン、ドキセピン、デシプラミン、キニジン、プロプラノロール、クロルプロマジン、プロメタジン、ペルフェナジンなどが挙げられる。
<リポソーム第1内水相溶液>
本発明のリポソーム組成物の製造方法において、第1エマルジョンを調製する工程で使用される第1内水相溶液は、イオン勾配を形成するための化合物を含む。
イオン勾配を形成するイオンとしては、上記の通りプロトンが好ましい。また、イオン勾配(pH勾配)を形成するための化合物としては、例えば、電離してプロトン、アンモニウムイオン、プロトン化したアミノ基を発生させる化合物が挙げられる。具体的には例えば、硫酸アンモニウム、硫酸デキストラン、コンドロイチン硫酸のような硫酸塩;水酸化物;燐酸、グルクロン酸、クエン酸、炭酸、炭酸水素、硝酸、シアン酸、酢酸、安息香酸、これらの塩;臭化物、塩化物のようなハロゲン化物;無機または有機アニオン類;アニオン性重合体が挙げられる。
pH勾配法により弱塩基性薬物(例えば上記のものが挙げられる。)を本発明のリポソーム組成物の内水相(少なくとも第2内水相)に封入した場合、薬物は内水相に存在するプロトンによってプロトン化され、電荷を帯びる。その結果、薬物がリポソーム外へ拡散してゆくことが妨げられ、薬物はリポソーム内水相に保持される。
また、イオン勾配を形成するための化合物が電離した場合、プロトン等のイオン勾配を形成するイオン(カチオン)とともに、硫酸イオン等のアニオンを生じるが、当該アニオンがプロトン化された弱塩基性薬物と塩又はコンプレックスを形成すると、さらに薬物を安定的に内水相に保持することができる。すなわち、イオン勾配を形成するための化合物は、塩基性薬物と塩又はコンプレックスを形成することができる塩基性薬物に対する対イオン(アニオン)を電離により生じるものとすることができる。このような対イオンは、薬学的に許容されるアニオンであれば特に限定されないが、硫酸イオンが最もが好ましい。硫酸イオンを生じる化合物としては硫酸アンモニウムが一般的であるが、その他、硫酸デキストランやコンドロイチン硫酸などからも選択できる。また、その他の対イオンとしては、水酸化物、燐酸塩、グルクロン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硝酸塩、シアン酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、臭化物、塩化物、および他の無機または有機アニオン類、またはアニオン性重合体などから電離して生じるアニオンが挙げられる。
本発明においては、第1内水相溶液中のイオン勾配を形成するための化合物の濃度は、50〜500mMであることが好ましく、100〜300mMであることがさらに好ましい。
本発明のリポソーム組成物の製造方法において、第1エマルジョンを調製する工程で、脂質を含む溶液を調製する際に使用される溶媒は水混和性溶媒である。水混和性溶媒とは、本発明のリポソーム組成物の製造に用いられるリン脂質およびその他の膜成分を溶解し、かつ水と混和することができる溶媒をいう。水混和性溶媒としては例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールが挙げられる。
水に混和しない溶媒(水不混和性溶媒ともいう。例えば、クロロホルムのような水不混和性の有機溶媒が挙げられる。)は本願発明において使用されない。第1エマルジョンを調製する工程で水不混和性溶媒を使用した場合、得られるリポソームは大きなリポソームの中に複数の小さなリポソーム及び第1内水相を収容した形態とはならず、単に発泡スチロールのように個々のリポソームが集合した形態[いわゆる多胞状リポソーム(MVL)]となるにすぎない。
リポソーム原料としての脂質の量(リン脂質その他の脂質の合計量)は水混和性溶媒の20〜100質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがさらに好ましい。
第1エマルジョン(脂質を含む水混和性溶媒とイオンを含む第1内水相溶液との混合物)中、脂質二重膜を構成し得る成分以外の成分が、本発明のリポソーム組成物を構成する第2のリポソームの内部領域を満たすことができる。第2のリポソームの内部領域には他に後述する第2内水相溶液の一部が混合してもよい。
第1エマルジョンを調製する方法は特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。
pH勾配法を用いる場合、内水相(第1及び/又は第2のリポソーム内部領域)のpHは、適宜調整し得る。例えば、第1内水相溶液に、イオン勾配を形成するための化合物としてクエン酸を用いた場合、あらかじめ内水相(第2のリポソーム内部領域)と外水相(第1のリポソーム内部領域及び/又は第1のリポソームの外部)のpH勾配を形成しておく必要があり、その場合は内水相と外水相のpHの差が3以上であることが好ましい。
また、硫酸アンモニウムを用いた場合は、化学平衡によってpH勾配が形成されるため、予め内水相溶液のpHを調整する必要はない。この場合、第2内水相に外水相と同じ溶液を使用した場合は、第2エマルジョン形成時からイオン勾配の形成が始まり、外液置換でさらに勾配が形成される。第2内水相に第1内水相と同じ硫酸アンモニウム溶液を用いた場合は、外液置換のときにイオン勾配が形成されると考えられる。
本発明のリポソーム組成物の調製において、脂質を含む水混和性溶媒とそこに加える第1内水相溶液は、体積比(第1内水相溶液/水混和性溶媒)として0.7〜2.5とすることができ、1.0〜2.0が好ましい。
<リポソーム第2内水相溶液>
本発明において、脂質を含む水混和性溶媒に第1内水相溶液を加えて第1エマルジョンを調製後、さらに該第1エマルジョンに第2内水相溶液を加える工程において、第2内水相溶液は特に限定されるものでない。例えば、第1内水相と同じ溶液、HEPES溶液やNaCl溶液、グルコースやショ糖などの糖類水溶液が挙げられ、好ましくは第1内水相と同じ溶液である。また、第1内水相および第2内水相が共に硫酸アンモニウム水溶液であるのが最も好ましい。第1エマルジョンとそこに加える第2内水相溶液は、体積比[第2内水相溶液/(第1エマルジョン=第1内水相溶液+水混和性溶媒)]として0.7以上とすることができ、0.7〜2.5が好ましく、1.0〜1.5が特に好ましい。
第2エマルジョン中、脂質二重膜を構成し得る成分以外の成分が本発明のリポソーム組成物を構成する第1のリポソームの内部領域(但し第2のリポソームを除く。)を満たすことができる。第1のリポソームの内部領域(但し第2のリポソームを除く。)は第1エマルジョンの一部を含んでもよい。
第2エマルジョンを調製する方法は特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。
<リポソーム外水相溶液>
本発明のリポソーム組成物の製造方法は、第2エマルジョンの外水相を該第1内水相溶液よりイオン勾配を形成するための化合物濃度が低い水溶液で置換する工程を有する。
第2エマルジョンを調製した後の第1のリポソームの外水相を、リポソーム第2内水相溶液、又は、リポソーム第1内水相溶液及びリポソーム第2内水相溶液を含む混合液から、少なくとも該第1内水相溶液よりイオン勾配を形成するための化合物濃度が低い水溶液で置換することによって、少なくとも第2のリポソーム内部領域と第1のリポソームの外部との間にイオン勾配を形成し、且つ、リポソーム組成物系内から水混和性溶媒が除去され、得られるリポソームに本発明のリポソーム組成物が有する形態を与えることができる。
本発明のリポソーム組成物の製造方法に使用される、置換するための外水相としては、少なくとも第1内水相溶液よりイオン勾配を形成するための化合物濃度が低い水溶液が用いられ、具体的にはHEPES溶液やNaCl溶液、グルコースやショ糖などの糖類水溶液が用いられる。外水相のpHについては緩衝剤によって調整されていることが望ましく、脂質の分解および生体内投与時のpH格差を考慮してpH5.5から8.5の範囲で調整されることが好適であり、より好ましくはpH6.5〜7.5の範囲である。リポソームの内水相と外水相の浸透圧については、両者の浸透圧差でリポソームが破壊されることのない範囲の浸透圧で調整されていればよく特に限定はされないが、リポソームの物理的安定性を考慮すると該浸透圧差は少ないほど望ましい。
置換するための外水相は、第1内水相溶液及び第2内水相溶液よりイオン勾配を形成するための化合物濃度が低い水溶液であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
本発明のリポソーム組成物の製造方法はさらに前記イオン勾配による駆動力によって前記リポソーム組成物内部に薬物を導入する工程を有することができる。イオン勾配による駆動力によって前記リポソーム組成物内部に薬物を導入する工程においては、例えば、前記の薬物を例えば水等に溶解させ、得られた薬物溶液をリポソーム外水相がリポソーム外水相溶液で置換された後のリポソーム混合物に加えてこれらを混合し、リポソーム膜の相転移温度以上に加熱して撹拌することで、薬物を封入したリポソームを製造することができる。
<投与方法>
本発明のリポソーム組成物の投与方法は特に制限されないが、非経口的、かつ局所的に投与することが好ましい。たとえば、皮下、筋肉内、腹腔内、髄腔内、硬膜外、脳室内を選択することができ、症状により適宜投与方法を選択することができる。具体的な投与方法としては、リポソーム組成物をシリンジやスプレー式デバイスよって投与することができる。また、カテーテルを体内、たとえば管腔内、たとえば血管内に挿入して、当該カテーテルを通して投与することも可能である。
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各例で調製された薬物封入リポソームの各濃度および粒子径は、以下のように求めた。
リン脂質濃度(mg/mL):高速液体クロマトグラフィーまたはリン脂質定量を用いて定量されるリポソーム懸濁液中でのリン脂質濃度。
コレステロール濃度(mg/mL):高速液体クロマトグラフィーを用いて定量されるリポソーム懸濁液中でのコレステロール濃度。
総脂質濃度(mol/L):上記リン脂質濃度およびコレステロール濃度から算出される膜構成成分である脂質の合計モル濃度(mM)。
薬物濃度(mg/mL):上記で得られた、製剤の総脂質濃度が約20〜30mg/mLとなるようにRO水(逆浸透膜浄水)でリポソーム組成物を希釈した後、これをさらにメタノールで20倍希釈してリポソームを崩壊した。この溶液において、315nmでの吸光度を、紫外吸光光度計を用いて高速液体クロマトグラフィーにて定量した。内封された塩酸ドネペジル濃度を薬剤量(mg)/製剤全量(mL)で示す。
薬剤担持量(薬物/総脂質のモル比):リポソームに内封された塩酸ドネペジル濃度を上記総脂質濃度に対する上記薬剤濃度の比から、薬剤/総脂質のモル比で示す。
血漿中塩酸ドネペジル濃度(mg/mL):採取した血漿を処理し、最終的に遠心分離にて得られた上清を、励起波長(Ex)322nm、検出波長(Em)385nmでの蛍光を、蛍光光度計を用いて高速液体クロマトグラフィーにて定量した。
粒子径(μm):光散乱回折式粒度分布計ベックマンコールターLS230で測定した第1のリポソームの平均粒子径。
以下に使用した各成分の略称および分子量を示す。
HSPC:水素添加大豆フォスファチジルコリン(分子量790、リポイド(Lipoid)社製SPC3)
SPC:大豆フォスファチジルコリン(分子量779、日油株式会社)
DMPC:ジミリストイルフォスファチジルコリン(分子量677.9、日油株式会社)
Chol:コレステロール(分子量388.66、Solvay社製)
PEG5000‐DSPE:ポリエチレングリコール(分子量5000)−フォスファチジルエタノールアミン(分子量6081、日油株式会社)
塩酸ドネペジル(分子量415.95、UINAN CHENGHUI−SHUANFDA Chemical Co.Itd)
<異なる内水相による調製>
(調製例1〜4)
(1)空リポソーム調製
HSPC/Chol=54/46(モル比。以下同様)となるようにHSPCおよびコレステロールをそれぞれ1.41gおよび0.59g秤量し、無水エタノール4mLを添加して加温溶解した。溶解した脂質エタノール溶液に、約70℃に加温した100mM(調製例1)、150mM(調製例2)、250mM(調製例3)の硫酸アンモニウム水溶液もしくは300mMクエン酸水溶液(pH3.0)(調製例4)を、エタノールと同量(4mL)添加し、約10分間加温撹拌しながらエマルジョンを形成した。さらに、このエマルジョンに約70℃に加温した20mM HEPES/0.9%塩化ナトリウム(pH7.5)10mLを加え、引き続き約10分間加温攪拌した。加温終了後のリポソームは、速やかに氷冷した。
(2)pH勾配形成
上記得られたリポソームに20mM HEPES/0.9%塩化ナトリウム(pH7.5)を加えて分散し、3500rpmで15分間遠心分離することでリポソームを沈殿させた。その後、上清を除き、引き続き、pH7.5の20mM HEPES/0.9%塩化ナトリウムを添加し分散させ、同様に遠心分離した。これを3回繰り返した後にpH7.5の20mM HEPES/0.9%塩化ナトリウムに再分散し、pH勾配を形成した。
(3)pH勾配による薬物導入
イオン勾配形成後のリポソームのHSPCおよびコレステロールを定量し、総脂質濃度を求めた。算出した総脂質濃度をもとに、塩酸ドネペジル(DNP,分子量415.95)/総脂質(mol/mol)比が0.16となるように塩酸ドネペジル量を計算し、必要量のDNPを秤量後、RO水により20mg/mLのDNP溶液(薬物溶液)を調製した。65℃で加温したリポソーム溶液に、あらかじめ65℃に加温したDNP溶液を所定量添加後、引き続き、65℃で60分間、加温攪拌することで薬物導入を行った。薬物導入後のリポソームは速やかに氷冷した。
(4)未封入薬物除去
薬物導入後のリポソームに20mM HEPES/0.9%塩化ナトリウム溶液(pH7.5)を添加し分散させて、3500rpmで15分間遠心分離することでリポソームを沈殿させた。その後上清を除き、引き続き、20mM HEPES/0.9%塩化ナトリウム(pH7.5)を添加し分散させ、同様に遠心分離した。これを3回繰り返すことで未封入薬物除去を行った。
上記、本発明による製造法で得られた調製例1〜4のリポソーム組成物について、第1内水相、膜組成比、薬剤担持量(薬剤/総脂質モル比)および粒子径を表1に示す。電子顕微鏡観察の結果、本発明によるリポソーム組成物は図1に示すように、各リポソーム(第1のリポソーム)の中に多数のベシクル(第2のリポソーム)が存在し、かつ、それぞれのリポソームの外膜は複数層の脂質二重膜で形成されている。しかも、このように厚い複数層の脂質二重膜を有し、かつ内部には同じく複数層の脂質二重膜を有する多数のベシクルを含有しているにも関わらず、リポソーム形成後に内部と外部の間に、薬物導入に十分なpH勾配を形成することが可能であり、該pH勾配に伴い薬物を高効率で封入できる。
図1は本願実施例において調製例2で製造された、薬物導入後のリポソームの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した写真である。倍率は3万2千倍である。図1において示されるリポソームはリポソームのほぼ中央で分割されている。図1に示すリポソームは、複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する第1のリポソームと、該外膜によって規定される第1のリポソーム内部領域に収容された、複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する複数の第2のリポソームとを有する。図1において、第1のリポソームの外径は約4μmであり、第2のリポソームの外径は100〜800nmである。
また上記、本発明による製造法で得られた調製例1〜4のリポソーム組成物について、内水相の硫酸アンモニウム濃度の増加に依存して薬物の封入量が向上することが明らかとなった。これは、内水相に残存するプロトン量に伴い、薬物の保持能力が高まったためだと考えられる。従って、より高い薬物封入量を得るためには、150mM以上の硫酸アンモニウム濃度が好ましいと考えられる。また、硫酸アンモニウムの代わりにpH3.0のクエン酸溶液を内水相に用いた場合も同様に高い薬物封入量のリポソームが得られた。
<異なる内水相容量の検討>
(調製例5)
HSPC/Chol=54/46となるように、HSPCおよびコレステロールをそれぞれ1.41gおよび0.59g秤量し、4mLのエタノール溶液に溶かした。溶解後、この脂質エタノール溶液に対して2倍量(8mL)の150mM硫酸アンモニウム水溶液を加え、約10分間加温攪拌した。その後、19mLの150mM硫酸アンモニウム水溶液を加え、引き続き、約10分間加温攪拌した。その後、調製例1〜4と同様にpH勾配を形成し薬物導入および未封入薬物除去を行なった。その結果、表1に示すように、調製例1〜4と同様に高い薬物封入量が得られた。
(調製例6)
リン脂質としてアルキル基鎖長の短いDMPCを用いた。DMPC/Chol=54/46となるようにDMPCおよびコレステロールをそれぞれ2.70gおよび1.30g秤量し、4mLのエタノール溶液に溶かした。その後、4mLの150mM硫酸アンモニウム水溶液を加え、約10分間加温攪拌した。その後、10mLの150mM硫酸アンモニウム水溶液を加え、引き続き、約10分間、加温攪拌した。その後、調製例1〜4と同様にpH勾配を形成し薬物導入および未封入薬物除去を行なった。
その結果、表1に示すように、リン脂質のアルキル基鎖長が短い場合でも調製例1〜4と同様に高い薬物封入量が得られることが明らかとなった。
<イオン勾配法以外の方法(パッシブ法)によるDNPリポソームの調製>
(比較例1)
薬物導入において、イオン勾配法の代わりに従来法であるパッシブ法を用いた。パッシブ法とは、あらかじめ内水相に薬物を溶解してリポソームを調製する方法である。第1内水相溶液の生理食塩水にあらかじめ所定量の塩酸ドネペジルを溶解させ、その後、調製例1〜4と同様にしてリポソームを調製した。尚、外水相にも生理食塩水を用いた。
その結果、表2に示すように、本発明法によるリポソームと比較して、封入効率および薬物封入量が著しく低下することが明らかとなった。さらに、比較例1と本発明によるリポソーム組成物の薬物放出性をin vitro評価系で比較した結果、比較例1は本発明よりも著しく放出が速いことが明らかとなった。
以上のことから、臨床上、十分な薬物封入量を確保し、かつ長期持続徐放性を得るためには、薬物をイオン勾配法、特にpH勾配法で導入することが重要であり、かつイオン勾配法、特にpH勾配法で導入されることで薬物が内部でプロトン化され、かつリポソームが図1に示すような層状構造を有することで、より長期的な持続放出性が得られることが明らかとなった。
<異なる製造法によるドネペジルリポソームの調製>
(比較例2)エクストルージョン法−1(粒子径300nm付近)
HSPC/Chol=54/46となるようにHSPCおよびコレステロールをそれぞれ0.71gおよび0.29g秤量し、無水エタノール1mLを添加して加温溶解した。得られた脂質エタノール溶液1mLに、約70℃に加温した250mM硫酸アンモニウム水溶液(内水相)9mLを添加し、加温しながら超音波装置にて攪拌して粗リポソーム懸濁液を調製した。この粗リポソーム懸濁液を、約70℃に加温したエクストルーダー(The Extruder T.10、Lipexbiomembranes Inc.)に取り付けたフィルター(孔径0.4μm×5回Whatman社)を順次、通し、300nm付近の空リポソームを調製した。引き続き、リポソームを加温状態で維持したまま、PEG5000−DSPEの水溶液(37.7mg/mL)を総脂質に対して0.75mol%となるように直ちに添加し、加温攪拌することで、リポソームの膜表面(外表面)をPEG修飾した。加温終了後のリポソームは、速やかに氷冷した。上記氷冷したPEG修飾後のリポソームを、外水相溶液(20mMHEPES/0.9%塩化ナトリウム溶液(pH7.5))で充分に置換したゲルろ過を用いて外液置換を行った。その後、総脂質に対して薬物/総脂質(mol/mol)=0.16となるように薬物導入を行った。引き続き、20mMHEPES/0.9%塩化ナトリウム溶液(pH7.5)で充分に置換したゲルろ過を用いて未封入薬物除去を行った。
(比較例3)エクストルージョン法−2(粒子径1〜2μm付近)
比較例2と同様にエクストルーダーを用いて調製したが、エクストルーダーには孔径2μmのフィルターを用いて該フィルターを5回通して空リポソームを得た。薬物導入および未封入薬物除去は比較例2と同様に調製し、1〜2μm付近のマルチラメラリポソームを得た。
(比較例4)脂質膜導入法
HSPCおよびドネペジルを溶解したエタノール溶液に第1内水相溶液としてpH6.5のクエン酸塩酸水溶液を加え、脂質膜内に塩酸ドネペジルを封入した。それ以外は比較例1と同様にして調製しドネペジルリポソームを得た。
比較例2〜4で得られたドネペジルリポソームの第1内水相、膜組成比、薬剤担持量(薬剤/総脂質モル比)および粒子径を表3に示す。
その結果、エクストルージョン法で調製した粒子径の小さなリポソーム組成物(比較例2および3)については、高い薬物封入量が得られた。一方、脂質膜に薬物を封入した製剤(比較例4)は、薬物/総脂質比が比較的低く、封入効率は33%程度であった。
<ドネペジルリポソームの薬物動態1>
調製例2、3、4および比較例2、3、4で調製したドネペジルリポソーム組成物およびドネペジル単体の薬物動態試験を行った。塩酸ドネペジル量として表4に示す容量でラット背部皮下にドネペジルリポソーム組成物を投与した。尚、塩酸ドネペジル単体においては、皮下投与ならびに静脈内投与も行った。投与後、1、4、8、24、48、72、96、168、192、216、240、264、336時間経過後、尾静脈より採血し、遠心分離(6,000rpm、10分、4℃)して血漿を分取した。得られた血漿を処理し、励起波長(Ex)322nm、検出波長(Em)385nmでの蛍光強度を高速液体クロマトグラフィーにて定量し、各血漿中の塩酸ドネペジル濃度を求めた。その結果を図2ならびに図3に示す。
図2に示すように、塩酸ドネペジル単体を静脈内投与もしくは皮下投与したときの血中塩酸ドネペジル濃度は、投与後急激に減少し、それぞれ投与後8時間および48時間までしか検出されなかった。比較例2において調製した300nm付近のリポソーム組成物は、ドネペジル単体に比べて初期バーストがなく、48時間まで徐放が認められたが、投与後48時間で既に10ng/mlを下回った。おそらく、粒子径が約300nmと比較的小さいと、投与部位において拡散しやすく、リポソームごとリンパ節や血中に移行することが予想されるため、リポソームとしての消失が早く、期待される徐放性が得られないと考えられる。また、脂質膜に薬物を封入した比較例4については、初期の放出量が多く、その後、急激に血中濃度が低下し持続的な徐放性は得られなかった。おそらく、塩酸ドネペジルは脂質膜透過性が高いため、膜に封入すると安定に保持されず、その結果、速い放出性を示したと考えられる。
一方、本発明による調製例2、3、4で得られたリポソーム組成物は、図3に示すように、初期バーストもなく、顕著な徐放時間の延長が認められ、約2週間にわたる徐放性を得ることができた。本発明によるリポソーム組成物は図1に示すように、各リポソーム内に多数のベシクルを含有し、かつ該リポソームは、何層にもわたる層状構造を有する厚い脂質膜で覆われているため、それらの構造によって薬物の脂質膜透過性が抑制され、さらにpH勾配法により薬物が保持されていることで、より放出性が抑制され、その結果、著しく長い持続徐放性が得られたと考えられる。特に、内水相に硫酸イオンが存在することで(調製例2、3)、より徐放時間が延びるため、内水相溶液には硫酸アンモニウムを用いることが、好ましいと示唆された。これは、内水相においてプロトン化した薬物が硫酸イオンとインターラクションすることで、より放出速度が抑えられ長期的な持続徐放性を達成できたためと考えられる。
以上のことから、初期バーストを抑え、より長期的な持続徐放性を達成するためには、リポソームが図1のような形態を有し、かつpH勾配法で薬物が封入され、より好ましくは内水相に硫酸イオンが存在することが重要であることが明らかとなった。
また、比較例3のエクストルーダーで調製した約1.7μmのリポソーム組成物については、4日間まで高い血中濃度を維持し、その後、急激に低下した。
<ドネペジルリポソームの薬物動態2>
本発明によるリポソーム組成物は、高い薬物封入量を得ることができるため、皮下投与における薬物投与量を上げることが可能である。そこで、調製例5、6で調製されたドネペジルリポソーム組成物について、塩酸ドネペジル量として50mg/kgとしてラット背部皮下にドネペジルリポソーム組成物を投与した。さらに、比較としてドネペジル単体を5mg/kgでラット背部皮下に投与した。ドネペジル単体については、投与後、0.5、1、5、10、30、120、480、1440、2880分経過後に尾静脈より採血した。一方、リポソーム組成物については、投与後、1、3、4、8、24、48、72、96、120、144、168、192、216、264、288、312、336時間経過後に尾静脈より採血した。採血後、<ドネペジルリポソームの薬物動態1>と同様に処理し、各血漿中の塩酸ドネペジル濃度を求めた。その結果を図4に示す。
図4に示すように、ドネペジル単体は、投与後0.5時間で最大血中濃度を示し、その後、急激に減少した。48時間後は既に検出限界以下であった。
一方、調製例5、6で調製した本発明によるリポソーム組成物は初期バーストもなく、臨床上、十分な有効濃度を14日間にわたり持続することが可能であった。特に、調製例5については、血中濃度20〜30ng/mLを14日間、一定に保つことができた。さらに、14日以上の持続徐放性も期待されるプロファイルを示したことから、持続徐放製剤として優れた製剤であることが明らかとなった。
<第1内水相/エタノール比率および第2内水相/(第1内水相+エタノール)比率の検討>
(調製例7〜11および比較例5〜7)
HSPC/Chol=54/46となるようにHSPCおよびコレステロールをそれぞれ1.41gおよび0.59g秤量し、無水エタノール4mLを添加して加温溶解した。溶解後、この脂質エタノール溶液に対して約70℃に加温した150mM硫酸アンモニウム水溶液(第1内水相)を表1に示す比率でそれぞれ添加し、約10分間加温攪拌した。引き続き、第2内水相(20mM HEPES/0.9%塩化ナトリウム緩衝液(pH7.5))を、(第1内水相+エタノール)の容量に対して表1に示す比率でそれぞれ加え、さらに、約10分間加温攪拌した。その後、調製例1,2と同様にpH勾配を形成し薬物導入および未封入薬物除去を行った。
表1に、調製例7〜11および比較例5〜7で調製したリポソーム組成物の、第1内水相/エタノール比率および第2内水相/(第1内水相+エタノール)比率、薬剤担持量(薬剤/総脂質モル比)および粒子径を示す。
また表6は、調製例2、5、7〜11および比較例5〜7の薬剤担持量について比較したものである。
その結果、調製例7〜11は、調製例2や5と同等の薬剤担持量が得られ、比較的高い薬物封入量が得られることが明らかとなった。また、In vitroの放出性もほぼ同じ挙動を示した。
一方、比較例5は薬物封入量が著しく低かった。これは、第1内水相/エタノールの比率が低いため、第1エマルジョンがきれいに形成されず、その影響によって脂質玉(脂質の凝集体)のようなものが形成されたためだと考えられる。また、比較例6および7については、第1内水相/エタノール比率が高いため、この時点で安定な1つの大きなリポソームのようなものを形成し、第2内水相はこれらの構造に影響を及ぼしにくいと考えられる。さらに、これら比較例5、6、7のin vitro放出性は、調製例2や5、7〜11と比較して初期の放出速度が高い傾向がみられた。これらの結果より、比較例5、6、7は、内水相がきれいに形成された構造になっておらず、その結果、十分な量の薬物が内水相に安定に封入されないために、薬物封入量がやや低下し、初期の放出が速いと想定される。一方、比較例3は、多層膜を有するものの、内側に1個の大きな内水相を有する構造をとるため脂質膜の層が非常に薄いと考えられる。その結果、薬物封入量が非常に高く、かつ、放出も非常に高いと考えられる。
<本発明による塩酸ブピバカインリポソームの調製>
(調製例12、13)
調製例1〜4と同様に、HSPC/Chol=54/46となるように、HSPCおよびコレステロールをそれぞれ4.23gおよび1.76g秤量し、24mLのエタノール溶液に溶かした。溶解後、この脂質エタノール溶液に対して等量(24mL)の150mMあるいは250mM硫酸アンモニウム水溶液を加え、約10分間加温攪拌した。その後、76.8mLの150mMあるいは250mM硫酸アンモニウム水溶液を加え、約10分間加温攪拌し、その後、速やかに氷冷した。引き続き、遠心分離にて外水相をpH6.5の10mM クエン酸/0.9%塩化ナトリウムに変換しイオン勾配を形成した。
その後、薬物導入も調製例1〜4と同様に行った。薬物として塩酸ブピバカインを用いた。必要量の塩酸ブピバカイン(BPV)を秤量後、RO水により10mg/mLのBPV溶液(薬物溶液)を調製し、65℃で60分間、加温攪拌することで薬物導入を行った。薬物導入後のリポソームは速やかに氷冷した。引き続き、未封入薬物除去も調製例1〜4と同様に行った。
その結果、表1に示すように、塩酸ブピバカインを用いた場合もドネペジルリポソームと同様に、比較的高い薬物封入量が得られることが明らかとなった。これらのことから、図1の構造を有するリポソームに塩酸ブピバカインもpH勾配法で導入できることが明らかとなった。
<塩酸ブピバカインリポソームの薬物動態>
調製例12で調製した塩酸ブピバカインリポソームおよび塩酸ブピバカイン単体の薬物動態試験を行った。投与量は、塩酸ブピバカイン量として表7に示す容量でラット背部皮下に投与した。塩酸ブピバカインリポソーム組成物は、投与後、1、24、72、120、168時間経過後に、一方、塩酸ブピバカイン単体は、投与後、0.5、4、24時間経過後、投与部位の背部皮下組織を採取しホモジネイト処理を行った。引き続きホモジネイト溶液を処理し、得られた試料溶液を高速液体クロマトグラフィーにて定量し(紫外可視吸光光度計、測定波長210nm)、投与部位の背部皮下組織に残存する塩酸ブピバカイン濃度を求めた。その結果を図5に示す。塩酸ブピバカイン単体の投与部位残存率は、投与後4時間で1%を下回った。このことから、塩酸ブピバカイン単体は数時間で投与部位から消失することが明らかとなり、持続的な血中濃度は得られないことが示唆された。一方、塩酸ブピバカインリポソームは、投与部位からの持続的な消失プロファイルが得られ、投与後、7日目において約35%の塩酸ブピバカインが残存していた。これらのことから、投与したリポソームは、投与部位で持続的に塩酸ブピバカインを放出することが示唆された。以上のことから、本発明で得られた塩酸ブピバカインリポソームは、1週間以上の長期徐放能を有していることが明らかとなった。
<本発明による塩酸ロピバカインリポソームの調製>
(調製例14)
薬物として塩酸ロピバカインを用いる他は調製例2と同様にリポソーム組成物を作製し、塩酸ロピバカインリポソームを得た。
その結果、表1に示すように、塩酸ロピバカインを用いた場合も同様にpH勾配法で導入でき、比較的高い薬物封入量を有するリポソーム組成物が得られることが明らかとなった。また、in vitroでの放出性も、持続的な放出性を示した塩酸ドネペジルリポソームおよび塩酸ブピバカインリポソームと同等な放出プロファイルを示したことから、同様に徐放性能を有することが示唆された。
<本発明による塩酸トラマドールリポソームの調製>
(調製例15)
薬物として塩酸トラマドールを用いる他は調製例3と同様にリポソーム組成物を作成し、塩酸トラマドールリポソームを得た。
その結果、表1に示すように、塩酸トラマドールを用いた場合も同様にpH勾配法で導入でき、比較的高い薬物封入量を有するリポソーム組成物が得られることが明らかとなった。

Claims (8)

  1. 複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する第1のリポソームと、該外膜によって規定される第1のリポソーム内部領域に収容された、複数層の脂質二重膜で形成された外膜を有する複数の第2のリポソームとを有し、該第2のリポソームの外膜によって規定される第2のリポソーム内部領域を有するとともに、少なくとも該第2のリポソーム内部領域と前記第1のリポソームの外部との間にイオン勾配が形成されたリポソーム組成物。
  2. 前記イオン勾配はプロトン濃度勾配であり、前記第2のリポソーム内部領域のpH、もしくは前記第2のリポソーム内部領域および前記第1リポソームの内部領域のpHが、前記第1のリポソームの外部のpHよりも低くなっている請求項1に記載のリポソーム組成物。
  3. 前記第1のリポソームが1〜20μmの範囲内の平均粒子径を有する請求項1または2に記載のリポソーム組成物。
  4. 前記第2のリポソーム内部領域、もしくは前記第2のリポソームおよび前記第1のリポソームの内部領域に薬物を含有する請求項1ないし3のいずれかに記載のリポソーム組成物。
  5. 前記薬物を、総脂質に対するモル比(mol/mol)で0.05以上含有している請求項4に記載のリポソーム組成物。
  6. 外膜の内部と外部との間にイオン勾配が形成されたリポソーム組成物の製造方法であって、
    脂質を含む水混和性溶媒に対して、該イオン勾配を形成するための化合物を含む第1内水相溶液を体積比0.7〜2.5で混合して第1エマルジョンを調製する工程と、
    該第1エマルジョンに対し第2内水相溶液を体積比0.7以上で混合して第2エマルジョンを調製する工程と、
    該第2エマルジョンの外水相を、該第1内水相溶液より該イオン勾配を形成するための化合物濃度が低い水溶液で置換する工程とを有するリポソーム組成物の製造方法。
  7. 前記イオン勾配はプロトン濃度勾配である請求項6に記載のリポソーム組成物の製造方法。
  8. さらに前記イオン勾配による駆動力によって前記リポソーム組成物内部に薬物を導入する工程を有する請求項6又は7に記載のリポソーム組成物の製造方法。
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