本発明は、リポソームおよびその作製方法に関する。
ベシクルとは、両親媒性分子が形成する二分子膜が閉鎖小胞構造を形成した分子集合体である。特に、両親媒性分子として脂質、主としてリン脂質を用いて形成されるベシクルはリポソームと呼ばれ、親水性物質および疎水性物質を担持させることが可能であり、またその高い生体適合性から、医薬品や化粧品、食品などの産業分野における生理活性物質のキャリアとして幅広く利用されている。また、細胞の形質転換を行う際の遺伝子キャリアとして生化学研究において利用されているほか、リン脂質は細胞膜やオルガネラ膜の主要な構成要素であるため、細胞機能を模倣したモデルとしての利用が期待されている。
リポソームは通常、多層の脂質二重膜からなる多重膜ベシクルと、一層の脂質二重膜によって形成された単膜ベシクルの2種類に大きく分類され、前者は疎水性の薬剤や物質を、後者は親水性物質を担持する場合において、それぞれより効率的である。
リポソームのキャリアとしての特性はそのサイズに大きく影響されるため、サイズが均一な単分散リポソームを簡便に生成する手法が求められている。
多重膜ベシクルを調製するための最も一般的な手法として、下記非特許文献1に示されるように、容器壁に堆積させた脂質二分子膜の薄膜を、水を加えて膨潤させ、さらに機械的振動を加えることによりせん断し、ベシクルを生成する、薄膜膨潤法と呼ばれる手法が挙げられる。より具体的には、まずクロロホルムなどの有機溶媒に脂質分子を溶解させた脂質溶液を調製し、ガラス製の容器内において調製した脂質溶液に窒素ガスなどの不活性ガスを吹き付けることにより溶媒を蒸発させ、容器壁に脂質二分子膜の多重薄膜を形成させる。次に、形成させた薄膜に水溶液を添加し、脂質膜を膨潤させ、さらに容器に機械的振動を加えることにより、脂質分子が水中で自己集合し、多重膜ベシクルが生成される、というものである。この手法を利用することによって、直径0.05〜100μm程度の多重膜ベシクルを作製することが可能である。
この手法によって得られた多重膜リポソームは通常広い粒径分布を有するため、下記非特許文献2に示されるように、濾過膜を用いたフィルトレーションを行うことによって、粒径分布の狭い、つまり単分散な多重膜ベシクルを得ることができる。
一方、単膜ベシクルを得るための従来手法としては、下記非特許文献3に示されるように、有機溶媒注入法、界面活性剤除去法凍結融解法、逆相蒸発法などが挙げられる。また、薄膜膨潤法を用いて調製した多重膜ベシクルに対し、超音波処理を行う、あるいは凍結・融解処理を行うことによっても、単膜ベシクルを得ることが可能である。これらの手法を利用することで、直径0.02〜1μm程度の比較的小さな単膜ベシクルの作製が可能である。
さらにまた、下記非特許文献3に示されるように、静置水和法、ヘキサン−span 80透析法、有機溶媒小球蒸発法、前転移−界面活性剤除去法、糖−メタノール透析法、凍結融解透析法などを用いた場合、直径1〜100μm程度の比較的大きな単膜ベシクルを作製がすることも可能である。
また近年、微細加工技術を利用して作製したマイクロ流路を用いることによって、単分散な単膜ベシクルを作製する手法も提案されており、比較的サイズの大きい単膜ベシクル(直径数〜数百?m)を得ることができる。例として、下記特許文献1に示されるように、マイクロ流路を用いて単分散w/o(水滴/油相)エマルションを形成し、単膜ベシクルを得る手法が挙げられる。この手法では、マイクロ流路を多数有する基板を利用し、この基板を介して脂質分子を含む油相中に水相を圧入することで単分散なw/oエマルションを調製し、調製したw/oエマルションを液体窒素によって凍結させた後、0℃以下に保つことで、水相の液滴が固体化した氷滴が、液体状態の油相に分散した懸濁液を得る。この懸濁液を0℃以下に保ったまま、油相の有機溶媒を蒸発・除去することによって、脂質分子を氷滴の周囲に析出させ氷滴の周囲を脂質膜の層で覆い、さらに氷滴に外水相溶液を添加して脂質膜を水和させることで、単膜ベシクルを調製することができる。
また、下記非特許文献4に示されるように、インクジェット技術を用いて、脂質二分子膜を形成する界面に単分散な液滴を射出し、単膜ベシクルを作製する手法が報告されている。この手法では、タンパク質やナノ粒子をベシクル内にカプセル化した単分散な単膜ベシクルの作製が可能となる。
Journal of Molecular Biology,13,238−252(1965)
PLoS ONE,4 Issue4 e5009(2009)
ライフサイエンスにおけるリポソーム実験マニュアル,シュプリンガー・フェアラーク東京,60−96(1992)
Lab on a Chip,9,2003−2009(2009)
しかしながら、上記非特許文献1に示される薄膜膨潤法では、脂質溶液を一度乾燥させた後に水溶液を加え脂質膜を膨潤させる、という多段階の操作が必要となるため、産業上の応用においてリポソームを調製する際には不利である。
さらに、薄膜膨潤法では、疎水性薬剤を担持させる際に有用な多重膜リポソームを作製することが可能であるものの、得られるリポソームの粒径分布は広く多分散なものとなる、という問題がある。一般的にリポソームをドラッグデリバリーなどのためのキャリアとして用いる場合には、キャリアのサイズによって目的とする組織への到達効率や、内包物の内包量および徐放性能が異なるため、物理・化学的性質が均一な、単分散なベシクルを調製することが望ましい。そのため、単分散なリポソームを作製するためには、フィルトレーションのような複雑なプロセスを行う必要があり、操作が非常に煩雑になり製造コストが増加するほか、産業上の応用において大量調製を行う場合に限界がある、といった問題点がある。また、任意の大きさのリポソームを一段階の操作によって調製することは不可能である。
また、上記特許文献1および上記非特許文献4に記載の手法では、単分散な単膜リポソームを比較的容易に作製することが可能であるものの、その形態は単膜であることから、疎水性薬剤を担持する用途において不利である、という問題点がある。
さらにまた、親水性、疎水性物質を同時に担持可能とする新規形態のベシクルは、副作用の少ない抗がん剤の調製や複数種の薬剤を個別に担持したキャリアのような、ドラッグデリバリーのための高機能性新規材料として、極めて有用であると考えられるが、単膜・多重膜リポソームの両者の利点を兼ね備えた複合型リポソームおよびその作製法については、現時点で報告されていない。
以上本発明は、従来の技術の有する上記した問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的の一つは、単分散な多重膜リポソームを作製するための薄膜膨潤法およびフィルトレーション操作を用いることなく、簡便な操作のみで、少なくとも部分的に多重膜部分を有する単分散なリポソームの作製を可能とする新規手法を提供しようとすることにある。
また本発明の目的の一つは、親水性、疎水性物質を必要に応じて同時に担持可能な、単分散複合型リポソームを提供することにある。
上記目的を達成するための、本発明の一観点に係る発明は、水溶性有機溶媒に脂質を溶解させた脂質溶液からなる脂質液滴を形成し、前記脂質液滴を水溶液中に分散させ、前記脂質液滴中に含まれる前記水溶性有機溶媒を前記水溶液中に溶解させるリポソームの作製方法である。このようにすることで、従来の多重膜リポソームの調製法である薄膜膨潤法、あるいは単膜リポソームの調製のための既存の手法を用いることなく、リポソームを調製することが可能となるほか、形成された脂質液滴よりもはるかに小さなリポソームを得ることが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、マイクロ流路構造を用いて、前記水溶液中に前記脂質液滴を形成することが好ましい。このようにすることで、単分散な脂質液滴を簡便かつ再現性よく形成することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記マイクロ流路構造は、前記マイクロ流路構造は、少なくとも2つの入口と、少なくとも1つの出口と、前記入口にそれぞれ接続される少なくとも2つの入口流路と、前記少なくとも2つの入口流路が同時又は段階的に合流することによって形成され、前記出口に接続される流路部分と、を有しており、前記入口の一つから前記脂質溶液を、他の前記入口から前記水溶液をそれぞれ連続的に導入することによって、前記流路部分において前記脂質液滴を形成することが望ましい。このようにすることで、マイクロ流路内部において単分散な液滴を簡便かつ連続的に、また再現性よく形成することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記マイクロ流路構造は、少なくとも3つの入口と、少なくとも1つの出口と、前記入口にそれぞれ接続される少なくとも3つの入口流路と、前記少なくとも3つの入口流路が同時又は段階的に合流することによって形成され、前記出口に接続される流路部分と、を有しており、前記入口の一つから前記脂質溶液を、他の前記入口の一つから前記水溶液を、更に他の入口一つから脂質を含まない水溶性有機溶媒を、それぞれ連続的に導入することによって、前記入口流路が合流する地点において前記脂質溶液と前記水溶液の接触を防止しつつ、前記流路部分において前記脂質液滴を形成することが望ましい。このようにすることで、入口流路が合流する地点において前記脂質溶液と前記水溶液の直接の接触を防止することができ、生成される液滴径の安定性を向上することが可能となるほか、析出による流路壁面への脂質の付着および流路の閉塞を防止することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記マイクロ流路構造は、更に、前記入口流路が合流した後の流路部分に接続される入口流路及び入口流路に接続される入口と、前記入口から前記水溶液を連続的に導入することによって、前記水溶液を流路の途中から供給することが望ましい。このようにすることで、流路部分内部において形成された液滴同士の合一を防ぐことが可能となるほか、水溶性有機溶媒をより効率的かつ迅速に溶解させることが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記マイクロ流路構造は、流路構造を形成した平板を複数接着して構成されたものであることが好ましい。このようにすることで、たとえばガラス、金属、あるいはポリマー基板を素材として用いて作製した、比較的安価な流路構造を利用することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記マイクロ流路構造は、その深さ、幅、直径等のうち少なくともいずれかが、少なくとも部分的に1μm以上500μm以下の範囲にあることが望ましい。このようにすることで、直径数十μm以下の、サイズの小さいリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、多孔質膜を利用した膜乳化によって、前記水溶液中に前記脂質液滴を形成することも可能である。このようにすることによっても、単分散なリポソームを比較的大量かつ簡便に調製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、液滴吐出ノズルを用いて前記脂質液滴を形成し、前記水溶液中に滴下することによって、前記脂質液滴を前記水溶液中に分散させることも可能である。このようにすることで、単分散な液滴を比較的大量かつ簡便に調製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、リポソームを形成した後に水溶液を用いて希釈することにより前記水溶性有機溶媒を除去することが望ましい。このようにすることで、リポソーム中に含まれる水溶性有機溶媒を完全に除去することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記脂質液滴は、形成された時点でその直径が0.1μm以上100μm以下の範囲にあることが望ましい。このようにすることで、サイズが数十μm以下のリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記水溶性有機溶媒とは、室温において、純水に対し1から30重量%の範囲で溶解する有機溶媒であることが望ましい。このようにすることで、形成された液滴中の溶媒が徐々に連続相である水溶液中に溶解するため、少なくとも部分的に多重膜を有するリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記水溶性有機溶媒とは、溶解パラメーターが15以上25以下(M
Pa1/2)の範囲にある有機溶媒であることが望ましい。このようにすることで、形成された液滴中の溶媒が徐々に連続相である水溶液中に溶解するため、少なくとも部分的に多重膜を有するリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記水溶性有機溶媒とは、ギ酸、酢酸、及び、プロピオン酸の少なくともいずれかのカルボン酸と、メタノール、エタノール、プロパノール、及び、イソプロパノールの少なくともいずれかのアルコールによって形成されたエステルを含むことが望ましい。このようにすることで、形成された液滴中の溶媒が徐々に連続相である水溶液中に溶解するため、少なくとも部分的に多重膜を有するリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記脂質は、リン脂質、糖脂質、スルホ脂質、リポタンパク質、油脂、ステロイド、テルペノイド、カロテノイド、脂肪酸、及び、人工の脂質類似化合物の少なくともいずれかを含むことが望ましい。このようにすることで、産業上有用なリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記リン脂質は、フォスファチジルコリン、レシチン、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン、及び、ホスファチジルエタノールアミンの少なくともいずれかを含むことも可能である。このようにすることで、リン脂質を主成分とする、産業上有用なリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記フォスファチジルコリンは、1,2−ジパルミトイル−3−sn−ホスファチジルコリン、1,2−ジミリストイル−3−sn−ホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−ホスファチジルコリン、1−ステアロイル−2−アラキドニル−3−sn−ホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジオレオイル−3−sn−フォスファチジルコリン、1,2−ジパルミトイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジステアリル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、及び、1,2−ジリノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリンの少なくともいずれかを含むことも可能である。このようにすることで、産業上有用な、生体適合性の高いリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記脂質溶液中に含まれる脂質の濃度は10重量%以下であることが望ましい。このようにすることで、形成された液滴と比べて、遥かにサイズの小さいリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記水溶液は電解質を含んでおり、そのイオン強度は0.9%塩化ナトリウム水溶液相当以上であることが望ましい。このようにすることで、液滴中の脂質が連続相へ溶出することを防ぐことができるため、より球形に近く、形態が安定なリポソームを作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記脂質溶液あるいは前記脂質を含まない水溶性有機溶媒中には、あらかじめ疎水性薬剤が溶解されていることが望ましい。このようにすることで、薬剤を内包したリポソームをワンステップかつ高効率に作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記脂質溶液あるいは前記脂質を含まない水溶性有機溶媒中には、あらかじめ、水に不溶な有機溶媒が溶解されていてもよい。このようにすることで、前記脂質溶液に含まれる脂質以外の水に不溶な有機溶媒を主成分として形成された相を、内部に相分離した状態で内包するリポソームを、ワンステップかつ高効率に作製することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、前記リポソームとは、水中において前記脂質によって構成され、液晶相転移を示し、有機小分子の担持を可能とする微小な人工小胞である。このようにすることで、ドラッグデリバリー等の応用において有用な材料を提供することが可能となる。
また、本発明の他の一観点の係るリポソームは、上記第一の観点に係るリポソームの作製方法を利用することで得られる、リポソームである。本観点は、従来技術で得られる単分散単膜リポソームに比べ、疎水性の高い多重膜部分を多く有しているため、ドラッグデリバリーシステムのキャリアとして用いる場合、疎水性物質の担持に非常に有利である。
また、前記リポソームは親水部分も有しているため、同様に親水性物質の担持も可能である。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記リポソームは、脂質によって形成されたコアと、脂質の多重膜によって構成され前記コアの周囲を覆うシェルと、を有する、コア−シェル型の形態であることが望ましい。このようにすることで、親水性、疎水性両者の物質をより効率的に担持することが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記リポソームは、前記コアの内側に、前記脂質溶液に含まれる脂質以外の成分を主成分とするコアを有していてもよい。このようにすることで、複数種の疎水性物質、薬剤、あるいは化合物を、必要に応じて内側あるいは外側のコアにそれぞれ効率よく担持させることが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記リポソームは、コア部とシェル部を分離し、シェル部を除去することによって調製されたものであってもよい。このようにすることで、より単分散で、かつ脂質分子密度の大きなリポソームを得ることが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記コアの平均直径は、50μm以下であることが望ましい。このようにすることで、産業上有用な、ドラッグデリバリーシステムのキャリアとして、あるいは生体物質を包埋した微小リアクターとして、より幅広い応用を行うことが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記コアの直径の変動係数は10%以下であることが望ましい。このようにすることで、リポソームの物理・化学的性質が均一になるため、薬剤を包埋した場合にその徐放特性が均一になるという優れた効果が発揮される。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記シェルの平均直径は、100μm以下であることが望ましい。このようにすることで、産業上有用な、ドラッグデリバリーシステムのためのキャリアとして、あるいは生体物質を包埋した微小リアクターとして、より幅広い応用を行うことが可能となる。
また、本発明の他の一観点に係るリポソームは、脂質によって形成されたコアと、脂質の多重膜によって構成され前記コアの周囲を覆うシェルと、を有するコア−シェル型である。本観点は、従来技術で得られる単分散単膜リポソームに比べ、疎水性の高い多重膜部分を多く有しているため、ドラッグデリバリーシステムのキャリアとして用いる場合、疎水性物質の担持に非常に有利である。また、前記リポソームは親水部分を有しているため、同様に親水性物質の担持も可能である。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記リポソームは、脂質によって形成されたコアの内側に、前記脂質溶液に含まれる脂質以外の成分を主成分とするコアを有していてもよい。このようにすることで、内側あるいは外側のコアに、必要に応じて別々の薬剤をそれぞれ担持させることができるため、産業上有用な、ドラッグデリバリーシステムのためのキャリアとして、あるいは生体物質を包埋した微小リアクターとして、より幅広い応用を行うことが可能となる。
また、本観点に係る発明において、限定されるわけではないが、前記コアの平均直径は50μm以下であることが望ましい。このようにすることで、産業上有用な、ドラッグデリバリーシステムのためのキャリアとして、あるいは生体物質を包埋した微小リアクターとして、より幅広い応用を行うことが可能となる。
本発明は、以上に述べられたように構成されているため、従来の多重膜リポソームを作製するための手法である薄膜膨潤法を用いることなく、少なくとも部分的に多重膜部分を有するリポソームを、簡便な操作によって容易に作製することが可能となる。
また本発明は、以上に述べられたように構成されているため、フィルトレーションのような複雑な分級操作を用いることなく、少なくとも部分的に多重膜部分を有するリポソームを、簡便な操作によって容易に作製することが可能となる。
また本発明は、以上に述べられたように構成されているため、脂質二分子膜の多重膜をシェルとして有し、脂質によって形成されたコアを有する、従来法では作製することが不可能であった複合型リポソームを調製することが可能となる。
また本発明は、以上に述べられたように構成されているため、疎水性および親水性の薬剤を、同時かつ高効率に担持した機能性リポソームを提供することが可能となり、ドラッグデリバリーのための有用な新規材料を提供することが可能となる。
図1は、実施形態に係るリポソームの作製のための最も基本的な原理図である。
図2は、実施形態に係る、単分散なリポソームを作製するための最も基本的なマイクロ流路構造と、その内部における溶液の流れ、液滴の挙動、およびリポソームの形成挙動を模式的に示した概略図である。
図3実施形態に係る、単分散なリポソームを作製するための、図2に示されるマイクロ流路構造とは異なる形態を有するマイクロ流路構造と、その内部における溶液の流れ、液滴の挙動、およびリポソームの形成挙動を模式的に示した概略図である。
実施形態に係る、単分散なリポソームを作製するための、図2および図3に示されるマイクロ流路構造とは異なる形態を有するマイクロ流路構造と、その内部における溶液の流れ、液滴の挙動、およびリポソームの形成挙動を模式的に示した概略図である。
実施形態に係る、脂質液滴を形成するために膜乳化法を用いる場合の、液滴形成の様子を示した概略図である。
実施形態に係る、脂質液滴を形成するために液滴射出ノズルを利用する場合の、液滴形成の様子を示した概略図である。
実施例に係る、リポソームを作製するための、マイクロ流路構造を含むデバイスの概略図である。図7(a)は、平面的に構成された、マイクロ流路構造を含むデバイスを上面から観察した様子を示した概略図であると同時に、図7(b)におけるB矢視図である。図7(b)は、図7(a)におけるA0−A1線における、マイクロ流路構造を含むデバイスの断面図であり、図7(c)は、図7(a)における部分Dの拡大図である。
実施例に係る、図7に示したマイクロ流路構造を用いて作製したリポソームの顕微鏡写真であり、図8(a)および(b)は、連続相として純水を用いて作製したリポソームの顕微鏡写真であり、(c)および(d)は、連続相として、PBS、濃度5倍のPBSをそれぞれ用いて作製したリポソームの顕微鏡写真であり、図8(e)は、連続相としてPBSを用い、かつ脂質溶液に疎水性蛍光物質を加えて作製したリポソームの顕微鏡写真であり、図8(f)は、連続相としてPBSを用い、かつ脂質溶液にシリコンオイルを加えて作製したリポソームの顕微鏡写真であり、図8(g)は、連続相としてPBSを用い、かつ脂質溶液にシリコンオイルおよび疎水性蛍光物質を加えて作製したリポソームの顕微鏡写真である。
以下、本発明に係るリポソームの作製方法及びリポソームの最良の形態を詳細に説明するものとする。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ限定されるものではない。
図1は、実施形態に係るリポソームの作製方法(以下単に「本方法」という。)の最も基本的な原理図である。
図1で示されるように、本方法では、水溶液を保持した容器中に脂質を溶解させた水溶性有機溶媒を分散させることで脂質溶液の液滴を形成させる。液滴に含まれる水溶性有機溶媒が水溶液中に徐々に溶解していく一方で、脂質分子は水溶液中にほとんど溶解しないため、液滴内における脂質濃度が増加し、それに伴い脂質分子同士が自己集合して安定な二分子膜構造へと配向することによって、リポソームが作製される。
ここで、作製されるリポソームの大きさは、最初に形成される液滴の大きさ及び、液滴中の脂質分子の濃度を調整することによって任意に調整することが可能である。つまり、例えば水溶性有機溶媒中の脂質分子の濃度が十分に低い場合、初期液滴径に対してはるかに小さなリポソームを作製することが可能となる。
水溶性有機溶媒としては、限定されるわけではないが、例えば純水に対し室温で1以上30重量%以下の範囲で溶解するものを用いることが望ましい。ただし、水溶性有機溶媒が脂質を溶解できる必要があり、また、脂質を溶解した水溶性有機溶媒が、水溶液を連続相として、少なくとも瞬間的に液滴を形成する必要がある。そのため、水溶性有機溶媒の溶解パラメーターは15から25(M
Pa1/2)の範囲にあることが望ましい。水溶性有機溶媒の代表的な例としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸メチル等のエステルを使用することができ、これらの少なくともいずれかを含む任意の混和物を必要に応じて用いることも可能である。
脂質分子としては、水溶性有機溶媒に可溶であって、さらに水に対して溶解度が低いものであれば、任意の脂質分子を使用することが可能である。限定されるわけではないが、代表的な例としては、リン脂質、糖脂質、スルホ脂質、リポタンパク質、油脂、ステロイド、テルペノイド、カロテノイド、脂肪酸、及び、人工の脂質類似化合物等を使用することが可能であり、それらの中でもリン脂質としては、フォスファチジルコリン、レシチン、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン、及び、ホスファチジルエタノールアミン等を使用することが可能であり、さらにそれらの中でもフォスファチジルコリンとしては、1,2−ジパルミトイル−3−sn−ホスファチジルコリン、1,2−ジミリストイル−3−sn−ホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−ホスファチジルコリン、1−ステアロイル−2−アラキドニル−3−sn−ホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジオレオイル−3−sn−フォスファチジルコリン、1,2−ジパルミトイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジステアリル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、及び、1,2−ジリノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン等を使用することが可能である。なお、これらの少なくともいずれかを含む任意の混合物を溶解させた水溶性有機溶媒を用いることで、それらの混合物によって構成されるリポソームを作製することも可能である。
水溶液としては、水溶性有機溶媒を溶解でき、脂質を溶解しないものであればどのようなものを用いることも可能である。ただし、液滴中の脂質が連続相へ溶出することを防ぎ、より球形に近く、形態が安定なリポソームを作製するためには、水溶液が電解質を含んでいることが好ましく、そのイオン強度は0.9%塩化ナトリウム水溶液相当以上であることが望ましい。具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムイオン等の電解質を含み、イオン強度が0.9%塩化ナトリウム水溶液相当以上のバッファー溶液等を用いることができる。
リポソームが作製された後に、水溶液中には液滴由来の水溶性有機溶媒が混在することとなる。そのために、必要に応じて水溶性有機溶媒を除去することが望ましい。そのための操作として、水溶液を用いて希釈し、沈降、遠心、フィルトレーション、あるいは透析操作を利用することによって、水溶液に含まれる水溶性有機溶媒を除去することが可能となる。
なお、水溶液中に脂質溶液を分散させ液滴を形成する方法としては、滴下、噴霧、単純撹拌、ノズルからの押出し等の操作の少なくともいずれかが挙げられる。しかしながら、比較的容易な操作によって単分散な液滴を正確に形成するためには、以下に説明するように、マイクロ流路による液滴形成、あるいは、多孔質膜を利用した膜乳化技術、さらにはインクジェットのような液滴射出ノズルを利用した液滴生成技術を利用することが好ましい。
図2は、本方法における、単分散なリポソームを作製するための最も基本的なマイクロ流路構造と、その内部における溶液の流れ、液滴の挙動、およびリポソームの形成挙動を模式的に示した概略図である。
図2は、断面が矩形であり、深さの均一なマイクロ流路構造を上部から観察した様子を示している。このマイクロ流路構造は、2つの入口I1およびI2、1つの出口O、入口I1およびI2にそれぞれ接続される入口流路C1およびC2、入口流路C1、C2が合流するよう形成され、出口Oに接続される流路部分J、を有しており、入口I1から水溶性有機溶媒に脂質を溶解させた脂質溶液を、入口I2から水溶液をそれぞれ連続的に一定の流速で導入することにより、流路部分Jにおいて一定の大きさの前記脂質液滴が形成される。
なお流路の形状としては、図2に示す合流部は、必ずしも直交したT字型である必要はなく、合流部がY字型であるもの、複数の分岐部および合流部を備えることで並列的に液滴を形成することの可能なものなど、水溶液と脂質溶液が合流する構造であって、単分散な脂質溶液の液滴を形成することのできる構造であれば、どのような流路構造を用いても構わない。ただし、流路デザインの都合上、深さが均一なマイクロ流路構造の場合には、合流部における流路の合流角度は15°以上であることが望ましい。また、深さが均一な構造ではなく、部分的に深さが異なっていてもよく、またキャピラリー管等を多重にすることによって形成した多重管を用いても構わない。ただし、流路構造が少なくとも部分的に平面的に構成されているものの方が、流路構造の作製プロセスが容易になり、また、より精密な流路の作製を可能とする、という観点から、より好ましい。
なお、平面的に構成されたマイクロ流路構造を用いる場合、例えば、モールディングやエンボッシングといった鋳型を利用して作製された流路構造は、比較的安価であるという点において好ましいが、その他にも、ウェットエッチング、ドライエッチング、レーザー加工、電子線直接描画、機械加工等によって作製された流路構造を用いることも可能である。
また、平面的に構成された流路構造を用いる場合、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、アクリル等の各種ポリマー材料、ガラス、シリコン、セラミクス、ステンレスなどの各種金属、などの素材によって形成された流路構造を用いることができるほか、また、これらの材料のうち、任意の2種類以上の組み合わせによって形成された流路構造を用いることも可能である。
また、本方法においては、水溶液中に脂質を含む水溶性有機溶媒の液滴を形成する必要があるため、流路部分Jの内部表面は、少なくとも部分的に、液滴を安定的に形成するための適当な濡れ性を有することが好ましい。そのために、必要に応じて化学的な表面処理を行うことが好ましい。
流路部分J内部において、形成された液滴は、マイクロ流路下流部を流れる間に、徐々に水溶性有機溶媒が水溶液中に溶解することによって、縮小していく。そして、水溶液に不溶な脂質が液滴内で自己集合し、リポソームが形成される。
さらに、形成されたリポソームを含む混合溶液を、必要に応じて流路外部に設置した希釈水溶液中に導入することで、水溶性有機溶媒をさらに希釈することが可能である。なお、混合溶液を希釈水溶液に導入するためには、流路出口に管あるいはチューブを接続し、一端を希釈水溶液中に浸してもよく、あるいは重力によって滴下してもよく、さらには、流路出口付近に設けた溶液溜めに一旦リポソームを含む混合溶液を保持した後に、希釈水溶液中に導入してもよい。
図3は、本方法における単分散なリポソームを作製するための、図2に示されるマイクロ流路構造とは異なる形態を有するマイクロ流路構造と、その内部における溶液の流れ、液滴の挙動、およびリポソームの形成挙動を模式的に示した概略図である。
図3に示したマイクロ流路構造は、5つの入口I1、I2、I2’、I3、I3’と、出口Oと、入口I1、I2、I2’、I3、I3’にそれぞれ接続される入口流路C1、C2、C2’、C3、C3’を有している。
図3に示したマイクロ流路構造において、入口I1から脂質溶液を、入口I2およびI2’から水溶液を、入口I3およびI3’から脂質を含まない水溶性有機溶媒をそれぞれ連続的に導入する。このように軸対称な流路構造を用いることによって、図2に示す流路構造と比較して、合流部に置いてより高効率に液滴を形成することが可能になる。また、脂質を含まない水溶性有機溶媒を導入することによって、脂質溶液と水溶液の直接的な接触を防ぐことが可能となり、マイクロ流路内の脂質の析出と、それによる流路の閉塞を防ぐことが可能となる。さらに、脂質溶液および水溶性有機溶媒の流量を調節することによって、形成された脂質液滴中の脂質濃度を任意に調節することが可能となるほか、水溶液の流量を調節することによって、形成される脂質液滴のサイズを調節することも可能となる。
なお、図3に示したマイクロ流路構造において、合流部下流における流路部分Jが、一部分くびれたオリフィス構造(オリフィス部)を有しているが、このような構造を形成することによって、より単分散かつより小さい液滴を安定的に形成することが可能となる。そのため、必要に応じてこのようなオリフィス構造を設けておくことが望ましい。
図4は、単分散なリポソームを作製するための、図2および図3に示されるマイクロ流路構造とは異なる形態を有するマイクロ流路構造と、その内部における溶液の流れ、液滴の挙動、およびリポソームの形成挙動を模式的に示した概略図である。
図4に示すマイクロ流路構造は、図3に示したマイクロ流路構造に加え、更に離れた位置に入口IaおよびIa’を有しており、水溶液を入口IaおよびIa’から連続的に導入することで、流路部分Jの途中から水溶液を追加供給することが可能となり、液滴中の水溶性有機溶媒の連続相への溶解を促進するとともに、流路内における液滴同士の合一をより効率的に防ぐことが可能となる。
なお、図2乃至図4に示したマイクロ流路構造において、安定な層流を保持する必要がある。つまりこの場合のマイクロ流路構造とは、具体的には、レイノルズ数を1000以下にすることが容易な流路構造である。
図5は、脂質液滴を形成するために膜乳化法を用いる場合の、液滴形成の様子を示した概略図である。具体的には、容器に水溶液を充填するとともに、多孔質膜を介して脂質を溶解させた水溶性有機溶媒を水溶液中に分散させ、脂質液滴中に含まれる水溶性溶媒を水溶液中に溶解させることでリポソームを作製することができる。
図5に示すように、多孔質膜を介して脂質溶液を水溶液中に連続的に導入することによっても、単分散な液滴を形成することができ、単分散なリポソームを作製することが可能である。この場合、マイクロ流路構造を用いた場合と比較して、一般的には、より小さなリポソームを形成することが可能である。なお、多孔質膜における細孔の径を選択することにより、形成される脂質液滴およびリポソームの径を調節することが可能となる。
図6は、脂質液滴を形成するために液滴射出ノズルを利用する場合の、液滴形成の様子を示した概略図である。具体的には、本図で示すように、容器に水溶液を充填する一方、液滴射出ノズルには脂質を溶解させた水溶性有機溶媒を充填し、液滴射出ノズルの先から液滴を射出させて水溶液に分散させ、脂質液滴中に含まれる水溶性溶媒を水溶液中に溶解させることでリポソームを作製することができる。
図6に示すように、インクジェットシステム等を利用した液滴射出ノズルを利用することによって、単分散な脂質液滴を作製し、さらにそれらを水溶液中に分散させることによっても、単分散なリポソームを作製することが可能である。
以上、上記したマイクロ流路構造、多孔質膜、あるいはインクジェットシステムを利用することによって、単分散多重膜リポソームの調製に関する従来法において必須であった、フィルトレーション等の煩雑な分級操作が不要となる。
なお、上記の手法を用いて作製されるリポソームは、コア−シェル型の形態を示す場合が多い。この場合のコア部分は脂質分子からなり、シェル部分は多重の脂質二分子膜によって形成されている。コア部分は、脂質分子が脂質液滴中で濃縮される過程において高密度にパッキングされることによって形成されたものである。
また、用いる水溶液中のイオン強度を調節することによって、コア−シェル型リポソームにおけるシェル部の膨潤度合いを調節することが可能であり、イオン強度の高い水溶液を用いて形成されたリポソームは、イオン強度の低い水溶液を用いて形成されたリポソームと比較して、膨潤度合いが低くなる。
さらに、導入する脂質溶液中に含まれる脂質の濃度を調節することによって、リポソームのサイズを任意に制御することが可能である。また、脂質濃度が低い脂質溶液を用いることによって、形成された液滴よりもはるかに小さいリポソームを形成することが可能であるため、脂質溶液中の脂質濃度は10重量%以下であることが好ましい。
なお、作製されたリポソームのサイズは、薬剤のキャリアとしての応用、あるいは生物学的研究における応用を行うという観点から、シェル部の直径は100μm以下であることが望ましく、50μm以下であることがより好ましい。また、コア部の直径は50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがより一層好ましい。さらに、その物理・化学的性質を均一にするという観点から、コア部の直径の変動係数は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
また、上記の手法を用いて作製されたリポソームの用途に応じて、脂質溶液にあらかじめ、任意の機能を持つ分子を混合することも可能である。たとえば、リポソームをドラッグデリバリーシステムのための担体として用いる場合、脂質溶液中に、あらかじめパクリタキセル等の抗がん剤を混合し、リポソームを作製すると、多重脂質膜部に薬剤を担持したリポソームを容易に調製することが可能である。また、特にマイクロ流路構造を用いてリポソームを作製する場合は、水溶液中に水溶性の薬剤をあらかじめ溶解させておくことによって、水溶性の薬剤を担持したリポソームを作製することが可能である。よって、リポソームに、必要に応じて水溶性の薬剤および疎水性の薬剤の両者を担持させた高機能リポソームを調製することも可能である。
以上、本実施形態により、従来の多重膜リポソームを作製するための手法である薄膜膨潤法を用いることなく、少なくとも部分的に多重膜部分を有するリポソームを、簡便な操作によって容易に作製することが可能となる。
また本方法では、フィルトレーションのような複雑な分級操作を用いることなく、少なくとも部分的に多重膜部分を有するリポソームを、簡便な操作によって容易に作製することが可能となる。
また本方法では、脂質二分子膜の多重膜をシェルとして有し、脂質によって形成されたコアを有する、従来法では作製することが不可能であった複合型リポソームを調製することが可能となる。
また本方法では、導入する脂質溶液あるいは脂質を含まない水溶性有機溶媒中に、あらかじめ水に不溶な有機溶媒を加えることによって、脂質によって形成されたコアの内側に有機溶媒のコアを有する、単膜・多重膜リポソームの両者の利点を兼ね備えた複合型リポソームを作製することも可能となる。
更に本方法では、疎水性および親水性の薬剤を、同時かつ高効率に担持した機能性リポソームを提供することが可能となり、ドラッグデリバリーのための有用な新規材料を提供することが可能となる。
以下、本発明に係るリポソームおよびその作製方法の具体的な実施例を詳細に説明する。
図7は、実施例に係る、ポソームを作製するための、マイクロ流路構造を含むデバイスの概略図である。図7(a)は、平面的に構成された、マイクロ流路構造を含むデバイスを上面から観察した様子を示した概略図であると同時に、図7(b)におけるB矢視図である。図7(b)は、図7(a)におけるA0−A1線における、マイクロ流路構造を含むデバイスの断面図であり、図7(c)は、図7(a)における部分Dの拡大図である。
本実施例に係るリポソームを作製するためのマイクロ流路構造を含むデバイスは、微細な溝構造を有する平板状の基板と、溝構造を有さない平板状の基板を上下にボンディングすることにより形成されている。なお、基板の素材は、たとえば上側はPDMS(ポリジメチルシロキサン)、下側はガラスを用いることが可能であるが、用いる水溶性有機溶媒に溶解しない素材であれば、ガラス、金属、ポリマー、セラミクス、あるいはこれらの任意の組み合わせであってもよい。
脂質液滴を水溶液中に安定的に形成するために、マイクロ流路内部は、相対的に水に濡れやすく、水溶性有機溶媒に濡れにくい表面であることが望ましい。そのため、必要に応じて化学処理をあらかじめ施しておくことが望ましく、シラン化剤(たとえば1%ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラヒドロデシルトリクロロシランを含むメタノール溶液)を導入することなどによって、表面処理を施しておいてもよい。
図7に示したマイクロ流路構造を有するデバイスの大きさは、2.5×7.5cm程度であるが、必要に応じて、より大きい、あるいは小さいデバイスを使用することができる。
本デバイスにおいて、上部のポリマー基板の下面には、断面が矩形なマイクロ流路構造が形成されており、その深さは約100μmであり、幅は50〜200μmである。これらの値が大きいほど大きい液滴が形成され、この値が小さいほど小さい液滴が形成される傾向がある。従って、作製するリポソームの大きさに応じて、これらの値が最小1μmから最大1cmまでの任意の値のマイクロ流路構造を採用することが可能である。また、下部の基板の上面にも同様の加工が施されていてもよく、流路構造は部分的に深さが異なっていてもよい。
図7示したマイクロ流路構造において、各溶液を連続的に供給するために、入口I1、I2、I2’、I3、I3’、Iaにおける各貫通孔に対して、外径2mm、内径1mmのシリコーンチューブが接続されている。また、生成されたリポソームを連続的に回収するために、出口Oの貫通孔に対して、外径1.5mm、内径1mmのシリコーンチューブが接続されている。出口側のシリコーンチューブの先端を、希釈用の水溶液の入った容器に入れることで、生成されたリポソームを容器内に回収できるようにした。
なお、入口Iaに接続されている入口流路Caは、途中で分岐し、流路部分Jに対し両側の側面から合流する形態となっているが、入口CaおよびCa’を独立に形成し、それぞれ独立に水溶液を導入するような流路構造であってもよい。また、入口流路C2およびC2’、あるいは入口流路C3およびC3’についても、それぞれ一つの入り口I2、I3を共有して途中で分岐する構造であってもよい。ただし、合流点において、脂質溶液と水溶液が直接接触しないような入口および入口流路の配置が好ましい。
さらに、図7に示したマイクロ流路構造において、合流点の直下流において、部分的に流路幅の狭いオリフィス部が形成されており、その幅は30〜50μm程度である。オリフィス構造を用いることによって、よりサイズの小さい液滴を安定的に形成することが可能となるが、オリフィス部は形成されていなくてもよく、あるいはより細いオリフィス部が形成されていてもよく、さらには部分的に深さの浅いオリフィス部が形成されていてもよい。
以上の構成を有する、リポソームを作製するためのマイクロ流路構造を含むデバイスを用いて、リポソームを作製する方法を説明する。
脂質としては、リン脂質の一種である1,2−ジオレオイル−3−sn−ホスファチジルコリン(DOPC)を用い、水溶性有機溶媒としては酢酸エチル(純度99.9%以上)を用いた。水溶性有機溶媒に対するDOPCの濃度は1〜10重量%の範囲で変化させた。また、連続相としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、あるいは濃度5倍のPBSを用いた。
水溶性有機溶媒としては、上記のもの以外にも、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸エチルなどを用いることができる。ただし、脂質の濃度が10重量%以下であることが好ましいことから、これらの溶媒に含まれる不純物の濃度はなるべく低いほうが望ましい。そのため、これらの溶媒の純度は、97%以上であることが望ましく、99%以上であることがより望ましく、99.9%であることがより一層望ましい。
また、水溶液としては、上記のもの以外にも、塩化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液などを用いることができる。また、水溶液のイオン強度が高いほど得られるリポソームのシェル部の膨潤を抑制することが可能である。
脂質溶液を入口I1から、脂質を含まない水溶性有機溶媒を入口I3およびI3’から、連続相となる水溶液を入口I2、I2’から、さらに、流路Jの途中から流路Jに加える水溶液を入口Iaから、それぞれシリンジポンプを用いて導入した。これらの溶液の導入流量は、例えばそれぞれ、2μL毎分、4μL毎分、40μL毎分、および120μL毎分であったが、これらの値に関しては、脂質溶液および水溶液が合流点において合流し、単分散な液滴が安定して形成される条件であればよいため、流路スケールおよび作製目的となるリポソームの大きさに応じて、適切な値に設定することが可能である。なお、入口I2、I2’、およびIaからは同じ組成の水溶液を導入したが、異なる組成の水溶液を導入することも可能である。
図8は、実施例に係る、図7に示したマイクロ流路構造を用いて作製したリポソームの顕微鏡写真であり、図8(a)および(b)は、連続相として純水を用いて作製したリポソームの顕微鏡写真であり、(c)および(d)は、連続相として、PBS、濃度5倍のPBSをそれぞれ用いて作製したリポソームの顕微鏡写真であり、図8(e)は、連続相としてPBSを用い、かつ脂質溶液に疎水性蛍光物質を加えて作製したリポソームの顕微鏡写真である。
図8に示されたように、これらの条件において得られたリポソームは、中心に脂質によって形成されたコア部を有し、そのコアの周囲が、多重の脂質二重膜によって形成されたシェル部によって覆われた、コア−シェル型の形態を有していることが確認された。
図8に示したリポソームの形態は、連続相の塩濃度に大きく影響を受け、塩濃度、つまりイオン強度が大きくなるにしたがって周囲のシェル部の直径が小さくなり、球形に近づくことが確認された。また、図8(c)に示したリポソームの場合には、コアの平均直径は14.5μmであり、またその変動係数は5.9%であり、シェルの平均直径は22.3μmであり、またその変動係数は12.9%であったため、単分散なリポソームが形成されたことが確認された。
さらに、DOPC濃度を5%にし、同様の流速条件で実験を行ったところ、コアの平均直径が18.0μm(変動係数7.3%)、シェルの平均直径が25.1μm(変動係数11.7%)のコア−シェル型リポソームが得られ、脂質濃度を調整することで、作製されるリポソームのサイズ制御が可能であることが示された。
なお、他の水溶性有機溶媒(酢酸Nプロピルなど)を用いた場合にも、同様の形態を有するリポソームの作製が可能であった。
さらに、図8(e)に示すように、疎水性薬剤のモデルとして、疎水性蛍光物質(ナイルレッド)を脂質溶液に0.2%溶解させ、図7に示したマイクロ流路構造を用いてリポソームを作製したところ、多重の脂質二重膜によって構成されたシェル部から赤色の蛍光を発するリポソームを作製することが可能であり、少なくとも数日に渡ってシェル部に保持されることが確認され、薬剤の徐放性キャリアとしての応用可能性を実証することが可能であった。
さらにまた、親水性薬剤のモデルとして、親水性蛍光物質(ウラニン)を水溶液に0.1mM溶解させ、図7に示したマイクロ流路構造を用いて同様にリポソームを作製したところ、緑色の蛍光を発するリポソームを作製することが可能であり、少なくとも数日に渡って蛍光物質が保持されることが確認され、親水性薬物の担体としての応用可能性を実証することが可能であった。
また、図8(f)に示すように、水に不溶な有機溶媒として、シリコンオイルを脂質溶液に0.5%溶解させ、図7に示したマイクロ流路構造を用いて同様にリポソームを作製したところ、脂質によって形成されるコアの内側に、シリコンオイルを主成分とするコアを有するリポソームを作製することが可能であった。
さらにまた、図8(g)に示すように、水に不溶な有機溶媒のモデルとしてシリコンオイルを、疎水性薬剤のモデルとして疎水性蛍光物質(ナイルレッド)を、脂質溶液にそれぞれ0.5および0.2%ずつ溶解させ、図7に示したマイクロ流路構造を用いてリポソームを作製したところ、シリコンオイルを主成分とした有機溶媒コア部から赤色の蛍光を発するリポソームを作製することが可能であり、蛍光物質が少なくとも数日に渡って保持されることが確認され、単膜・多重膜リポソームの性質を兼ね備えた薬物担体としての応用可能性を実証することが可能であった。
本発明によるリポソームの作製手法は、既存の多重膜リポソームを作製するための薄膜膨潤法、w/oエマルションを利用した単膜リポソームの作製法などとは全く異なる手法でありながら、多重膜・単膜リポソームの両者の特徴を併せ持つリポソームをより簡便に作製することが可能であるため、製薬、食品、化粧品分野等において有用な、新規リポソーム調製法として広く利用可能であると考えられる。
また、本発明によるリポソームの作製手法は、従来法では煩雑な操作を必要とする、少なくとも部分的に多重膜部分を有する単分散なリポソームの作製を、より簡便に行うことを可能とする。そのため、物理化学的性質が均一なリポソーム材料を容易に得ることできる新規プロセスとして、幅広い産業応用が可能であると期待される。
また、本発明によって作製されたリポソームと同様の形態を有する、単膜および多重膜リポソームの両方の性質を兼ね備えた複合型リポソームについては、現在までにその作製法が報告されていない。このようなコア−シェル型リポソームは、従来技術で得られる単分散単膜リポソームに比べ、特に疎水性薬剤を効率よく担荷でき、また同時に親水性薬剤の担持も可能とすることから、DDSのためのキャリア等として用いる場合に有用な、生体親和性の高い、新規材料として幅広い応用が可能であると考えられる。
さらに、DDSのキャリアとしてリポソームを用いる際、生体には外来異物に対する排出機構があるため、通常のリポソームは肝臓や脾臓を中心とする細網内皮系組織の貪食細胞に捕捉され排除されやすい。そのため目的の組織のみをターゲティングするためには、サイズのコントロールを行うと同時にリポソームの膜表面の改質を行う必要がある。本手法によって作製したコア−シェル型リポソームは、サイズの制御が容易である上、表面のシェルが多重膜の脂質相によって構成されているため、単膜のリポソームに比べ、より表面修飾のバリエーションが豊富である。そのため、例えば抗体や磁気微粒子などをシェル部に修飾した、高機能なリポソームを作製することが可能であり、より高効率なドラッグターゲティングを可能とする新規材料として広く利用されうるものと期待される。