JP5080779B2 - リポソーム製剤の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、リポソーム内に所望薬物の封入されたリポソーム製剤の製造方法に関する。
近年、薬物の持続的な放出(徐放)、体内半減期の短い薬物の寿命の延長、種々の病巣部位での薬物の吸収促進あるいは薬物を目的とする標的組織や細胞にのみ送達することを目的としたドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System:DDS)が盛んに研究されている。DDS技術には、製剤から薬物を徐々に放出させることによって薬物の血中濃度を長期間一定に保ち、効果を持続するようにさせる徐放化技術と、炎症部位やがん細胞を標的として薬物を選択的に効率よく送達する標的化技術がある。このようなDDS技術を達成するための薬物運搬体(ドラッグキャリア)として、リポソーム、エマルジョン、リピッドマイクロスフェア、ナノパーテイクルなどの閉鎖小胞の利用が考えられる。しかしその実用化に際しては克服すべき様々な課題がある。
リポソームをDDSに用いる際には、薬物の封入効率および保存安定性などが求められる。薬物の高封入効率を達成しうる方法として、予めリポソームを生成させ、リポソームの内水相と外水相との間に生じるイオン勾配やpH勾配を利用してリポソーム内に薬物を封入するリモートローディング(Remote loading)法がある(特許文献1など参照)。
このリモートローディング法によるリポソームへの薬物導入は、リポソーム膜を構成するリン脂質の相転移点以上の加熱下で行われ、薬物を導入しようとするリポソームの懸濁液と、薬物溶液との混合液を、65℃程度で30分間加温するのが一般的である(特許文献2など参照)。
特許第2659136号公報 国際公開2005/092388号パンフレット
リポソーム製剤の製造工程において、上記のようなリモートローディング法による薬物導入工程を工程内に有するリポソーム製剤の製造について工業的レベルでの実施を図ると、薬物導入工程における加温が課題となる。すなわち一般的にリモートローディング法では、内水相と外水相との間にイオン勾配やpH勾配を生じさせたリポソーム懸濁液と、薬物溶液とを、リポソーム脂質膜の相転移点以上の温度で混合することにより薬物をリポソームに封入している。このような薬物導入工程では、リポソーム懸濁液と薬物溶液は、それぞれ、リポソーム脂質膜の相転移点以上の温度に予め昇温した後混合し、また混合後も封入が完了するまで加温状態で一定時間保持する。しかしながら、スケールが上がれば上がるほど、混合前の予め昇温する時間が長くなる。さらに、スケールが大きくなると、混合時においても、全体を均一に加温するためには長時間にわたって加温することが必要であり、リポソームおよび封入される薬物の物理化学的安定性に影響を及ぼすことが懸念される。とりわけ、pH勾配を形成した薬物封入前リポソームは薬物導入後リポソームと比べて脂質分解物の生成(リゾ化)が起こりやすいという知見が得られており、この観点からも薬物導入前にリポソーム懸濁液を予め昇温する工程は好ましくない。また、スケールが大きい場合は、各リポソーム粒子に均一に薬物を封入させるために、少量ずつ薬物をリポソーム懸濁液に混合する必要があるので、混合に長い時間を要する。すなわち、リポソームが薬剤と接触する前の未封入の状態のリポソームが混合中に長時間にわたって存在することからも好ましくない。さらに、薬物導入を完了した後においては、リポソームの熱安定性は向上するものの、不必要な熱履歴は避けるべきであり、すみやかに降温させる必要があるが、やはりスケールが大きいと降温にも時間が掛かってしまう。
一方、前述したようにリポソームの製造工程は多段階の工程を経るため、製造に必要とされる時間が長い。例えば、実験室レベルでの小規模の製造においては、昇温及び降温などで費やされる時間は短いため時間の観点はそれほど重要ではないが、中・大規模製造法を想定した場合、昇温及び降温に費やされる時間は無視できないものであり、製造コストの観点からも製造時間短縮が必須となる。また、中・大規模製造法においては、製造工程設備についても考慮する必要がある。例えば温度を維持するためにはジャケット加温設備を有したタンクを用いて製造する必要があり、設備投資の費用がかかるため、予め綿密な設計のもと、これらの工程を最少にする検討が必要となってくる。リポソームの製造は一般的に脂質膜の相転移点以上の温度で製造する工程を含むため、昇温や温度を維持する装置が必要となる。しかし、相転移温度以上の加温が望ましくない工程も含まれることから、全工程としては昇温を行った後、降温を行う工程が必要となり、製造工程が長い理由の一つとなっている。
さらに、リモートローディング法を工業化する際、薬物導入工程における均一性が懸案事項として存在する。
本発明の目的は、中・大規模製造法においてリポソームの製造時間を大幅に短縮し大幅なコスト削減を達成し、また、品質面の観点から薬物導入量の均一な製剤を製造し、更に、熱暴露時間の大幅な短縮により脂質分解の抑制を可能にする簡便な製造法を構築することである。
特に、リモートローディング法による薬物導入工程について、本発明者らが検討したところ、実施例として後述するように小規模の反応では、脂質膜の相転移点以上の温度に加熱すると1分で終了することを見出した(図3参照)。しかしこの事実は、スケールが上ればリポソーム懸濁液と薬物溶液を混合する工程において1分間以上の時間を要してしまう(後述の比較例参照)ことから、製剤中のリポソーム粒子間での薬物導入量の不均一化が懸念されることを示すものであることがわかった。すなわち、上述したように少量ずつ薬物をリポソーム懸濁液に添加するようにしても、薬物溶液がはじめに接触したリポソーム懸濁液中の一部のリポソームに対しては、薬物は過剰量存在することになり、充分にリポソーム内に導入(封入)されるが、順次薬物量は減少しかつリポソーム懸濁液中に分散するのでリポソームに接触する薬物濃度は減少し、以降新たに接触するリポソーム懸濁液中のリポソーム内に導入される薬物量は次第に減少していってしまう。あるいは、投入された薬物がすべてのリポソーム粒子に行き渡る前に一部のリポソームによって全量消費(導入)されてしまい、残余のリポソームに導入されない、または導入されても導入量の少ないリポソーム粒子が発生してしまう。
薬物量を大過剰に投入すれば、全てのリポソーム粒子に可能な限りの量の薬物が封入(導入)されるので均一な製剤が得られる可能性はあるが、大量の未封入薬物を発生させることになり、まったく現実的でない。リポソーム内に封入された薬物が薬効を示すためにはリポソーム自身の体内動態に起因するところが大きく、薬物導入量の違いなどの製剤間での不均一化は、薬効に大きく影響を及ぼす可能性があることから均一性を担保することができる製造法を選択する必要がある。
前述したように現状実施されている方法では、実験室レベルの小スケール製造では均一で安定な製剤化が可能な場合があるが、中・大規模製造への移行に伴い、膨大な時間を要するプロセスとなり、また、熱暴露時間の増加により製剤の物理化学的安定性が懸念される。さらに、薬物導入工程において、薬物導入時間の観点から製剤間の薬物導入量の不均一化が懸念される。以上の三点、すなわち、コスト面の観点、製剤の物理化学的安定性の観点及び品質面の観点から、実用化のための中・大規模製造への薬物導入工程の適用が懸念されるが、これらの課題を解決した方法は存在せず、不十分な製造条件下で薬物導入工程を実施せざるを得ないのが現状である。
上記知見に基づいて、以下のような本発明を提供する。
(1)リモートローディング法を用いるリポソーム製剤の製造方法であって、予め調製されたリポソームの懸濁液と、薬物との混合液を急速加熱手段により、該リポソームの膜相転移点以上の温度ないし80℃以下の温度に加熱して前記リポソーム内に前記薬物を導入する薬物導入工程を含む、リポソーム製剤の製造方法。
前記薬物導入工程に先立って、前記リポソームの懸濁液と前記薬物とを前記リポソームの膜相転移点以下の温度で混合する工程をさらに含むことができる。
本発明の薬物導入工程はリモートローディング法に基づく。具体的に、
(2)前記薬物がイオン勾配法によりリポソーム内に導入される(1)に記載のリポソーム製剤の製造方法。
(3)前記急速加熱手段が熱交換器である(1)または(2)に記載のリポソーム製剤の製造方法。
熱交換器はキャピラリー型熱交換器であることが好ましく、キャピラリーの管径(内径)は、通常、0.5〜15mmである。
(4)前記熱交換器による熱交換器内滞留時間が3〜120秒である(3)に記載のリポソーム製剤の製造方法。
(5)前記急速加熱手段がマイクロ波照射である(1)または(2)に記載のリポソーム製剤の製造方法。
(6)前記薬物導入工程の後に、未封入薬物の除去工程を行う(1)〜(5)のいずれかに記載のリポソーム製剤の製造方法。
本発明によれば、実用化のための中・大規模製造への適用を考えた本発明の製造方法は、従来の封入量及び封入効率を維持したまま製造時間を大幅に短縮することができる方法であり、製造コスト観点から充分満足することができる。また、本発明の製造方法は、薬物導入の起こらない温度でリポソーム懸濁液と薬物溶液を均一に混合し、その後、熱交換器を用いて微小時間で均一混合溶液を相転移点以上まで昇温し、送液中に薬物を導入できるため製剤間の薬物導入量の不均一化が起こらない方法である。このため品質面の観点からも充分満足することのできる方法である。さらに、熱暴露時間の大幅な短縮により脂質の分解を抑制することも可能である。以上のことから、本発明の製造方法は、製造時間の観点、薬物導入量の均一性などの品質面の観点、製剤の安定性の観点から充分満足することができる。
以下、本発明をより詳細に説明する。
リポソーム製剤は、リポソーム内に薬物を封入したものである。リポソーム製剤の製造方法はいくつかあるが、本発明は、薬物を封入しようとするリポソームを予め調製し、該リポソーム内に薬物を導入するいわゆるリモートローディング法によるリポソーム製剤の製造方法である。特に、本発明は、後述するような特定の薬物導入工程(2)を行うことを特徴としている。
このような薬物導入工程(2)に供されるリポソームは、薬物をリモートローディングできるものであれば特に制限されないが、まず、薬物を封入しようとするリポソームおよびその調製工程(1)について説明する。
<リポソーム>
リポソームは、リン脂質二重膜で形成される閉鎖小胞であり、膜を隔てて、閉鎖空間内の内水相と外水相とが存在する懸濁液の状態で存在する。したがって、本明細書において、リポソームの語は、このリポソーム懸濁液を含む意味で使用されることがある。リポソームの膜構造は、脂質二重膜の1枚層からなるユニラメラ小胞(Unilamellar Vesicle)および多重ラメラ小胞(Multilamellar Vesicle,MLV)、またユニラメラ小胞としてSUV(Small Unilamellar Vesicle)、LUV(Large Unilamellar Vesicle)などが知られている。本発明では、膜構造は特に制限されない。
リン脂質は、一般的に、分子内に長鎖アルキル基より構成される疎水性基と、リン酸基より構成される親水性基とをもつ両親媒性物質である。リン脂質としては、ホスファチジルコリン(=レシチン)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールなどのグリセロリン酸;スフィンゴミエリン(SM)などのスフィンゴリン脂質;カルジオリピンなどの天然または合成のジホスファチジルリン脂質およびこれらの誘導体;これらの水素添加物たとえば水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)などを挙げることができる。リン脂質は単一種または複数種組合せであってもよい。
本発明において、リポソームを安定的に形成できるものであれば、リン脂質以外の膜成分を含むこともできるが、リン脂質は、主膜材としての観点から、封入された薬物が、保存時に、または血液などの生体中で容易に漏出しないようにするため、相転移点が生体内温度(35〜37℃)より高い主膜材を用いることが望ましい。主膜材の相転移点は、40℃以上であることが好ましい。このような相転移点をもつリン脂質として、上記のうちでも、HSPCなどの水素添加リン脂質、SMなどが好ましい。
上記他の膜成分としては、たとえばリン酸を含まない脂質(他の膜脂質)、膜安定化剤、酸化防止剤などを必要に応じて含むことができる。他の脂質としては、脂肪酸などが挙げられる。膜安定化剤としては、たとえば膜流動性を低下させるコレステロールなどのステロール、グリセロール、スクロースなどの糖類が挙げられる。酸化防止剤としては、たとえばアスコルビン酸、尿酸あるいはトコフェロール同族体すなわちビタミンEなどが挙げられる。トコフェロールには、α、β、γ、δの4個の異性体が存在するが、本発明ではいずれも使用できる。
なお、本発明では、リポソーム膜成分の脂質とは、主膜材のリン脂質、他の膜脂質および上記膜安定化剤であるステロールなどの脂質、さらには後述の膜修飾剤に含まれる脂質など、薬物以外の脂質をすべて含む意味で用いられる。
このような膜成分の脂質全量を100mol%とするとき、リン脂質は、通常20〜100mol%であり、好ましくは40〜100mol%であり、他の脂質は、通常0〜80mol%であり、好ましくは0〜60mol%である。
また本発明では、リポソームの膜構造を保持しうるものであって、リポソーム製剤に含むことができる他の膜修飾成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含むことができる。
膜修飾成分としては、たとえば親水性高分子、および他の表面修飾剤が挙げられる。これら膜修飾成分の使用時期は、リポソーム調製工程であれば特に制限されないが、これらのうち、親水性高分子による膜修飾は、分布の効率ならびに親水性高分子が内水相に存在する薬物の影響を受けにくいなどの面から、親水性高分子をリポソーム膜の外表面、特に脂質二重膜の外膜から外液側に選択的に分布させることが好ましい。このため、本発明では、リポソームを生成させた後、特に整粒化工程後に添加することが望ましい。
親水性高分子は、その脂質誘導体として用いると、疎水性部分である脂質部分が膜中に保持されることで、親水性高分子鎖を安定に外表面に分布させることができる。
親水性高分子は、特に制限されないが、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアスパルトアミド、合成ポリアミノ酸などが挙げられる。さらに、グルクロン酸、シアル酸、デキストラン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどの水溶性多糖類およびその誘導体、たとえば糖脂質が挙げられる。
これらの中でも、ポリエチレングリコール(PEG)は、血中滞留性を向上させる効果があり、好ましい。PEGの分子量は、特に限定されないが、通常、500〜10,000ダルトン、好ましくは1,000〜7,000ダルトン、より好ましくは2,000〜5,000である。
なお本発明において、「血中滞留性」とは、リポソーム製剤を投与した宿主において、リポソームに封入された状態の薬物が血液中に存在する性質を意味する。
親水性高分子脂質誘導体の脂質(疎水性部分)としては、たとえばリン脂質、長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロピレンアルキル、またはグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。具体的に、親水性高分子がPEGである場合には、PEGのリン脂質誘導体またはコレステロール誘導体が挙げられる。このリン脂質は、ホスファチジルエタノールアミンが好ましく挙げられ、そのアシル鎖は通常、C14−C20程度の飽和脂肪酸、たとえばジパルミトイル、ジステアロイルあるいはパルミトイルステアロイルなどが挙げられる。たとえばPEGのジステアロイルホスファチジルエタノールアミン誘導体(PEG-DSPE)などは、入手容易な汎用化合物である。
親水性高分子によるリポソーム修飾率は、膜(総脂質)に対する親水性高分子量の割合として、通常0.1〜10mol%、好ましくは0.1〜5mol%、より好ましくは0.2〜3mol%である。なお、この総脂質には、親水性高分子の脂質誘導体中の脂質も含まれる。
本発明において、上記のような外表面選択的な親水性高分子による表面修飾率は、リポソーム膜成分の脂質全量に対する比率で、通常0.1〜20mol%、好ましくは0.1〜5mol%、より好ましくは0.5〜5mol%である。
他の表面修飾剤としては、たとえばグルクロン酸、シアル酸、デキストラン、プルラン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどの水溶性多糖類;酸性官能基を有する化合物;アミノ基、アミジノ基、グアジニノ基などの塩基性官能基を有する塩基性化合物などが挙げられる。塩基性化合物としては、特開昭61−161246号に開示されたDOTMA、特表平5−508626号に開示されたDOTAP、特開平2−292246号に開示されたトランスフェクタム(Transfectam)、特開平4−108391号に開示されたTMAG、国際公開第97/42166号に開示された3,5-ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩、DOSPA、TfxTM-50、DDAB、DC-CHOL、DMRIEなどの化合物が挙げられる。
上記他の表面修飾剤が、脂質に、塩基性官能基を有する化合物が結合した物質である場合には、カチオン化脂質と称される。カチオン化脂質の脂質部分はリポソームの脂質二重膜中に安定化され、塩基性官能基部分は担体の脂質二重層の膜表面上(外膜表面上および/または内膜表面上)に存在することができる。カチオン化脂質で膜を修飾することにより、リポソーム膜と細胞との接着性等を高めることができる。
(1)リポソーム懸濁液の調製工程
リポソーム懸濁液の調製方法としては、水和法(Bangham法)、超音波処理法、逆相蒸発法(Reverse phase evapolation vesicles)、加温法、脂質溶解法、DRV法(Dehydrated/Rehydrated Vesicles)、凍結融解法、エタノール注入法、薄膜法、エクストリュージョン法、高圧吐出型乳化機による高圧乳化法(「ライフサイエンスにおけるリポソーム」寺田、吉村ら編;シュプリンガー・フェアラーク東京(1992))などの各種の技術が知られている。これら手法についての文献中の記載は引用することにより本明細書に記載されているものとすることができる。
また近年開発された技術として、超高圧による圧縮からの速度変換を利用し、液相下でのジェット流により剪断乳化を行うジェット流乳化法、超臨界二酸化炭素を利用したリポソーム調製技術、後段の整粒工程を簡便化する改良型エタノール注入法などもある。
本発明において、リポソームの調製工程(1)は、典型的に、リポソームを生成させてリポソーム粗懸濁液を得る工程(i)、リポソーム粗懸濁液の整粒工程(ii)および外液置換してリポソーム懸濁液を得る工程(iv) を含み、好ましくは工程(ii)と(iv)の間にさらに親水性高分子による表面修飾工程(iii) を含む。
これら工程を行うにあたり、上記に示すような調製方法を必要に応じて適宜に採用することができる。また1方法だけでなく、2以上の方法を選択することもでき、同じまたは別の方法を重複ないし追加することもできる。
上記のうちでも、脂質溶解法は、実用化指向の方法として、またDRV法は、内水相に薬物を多く保持するための方法として有用である。たとえばエタノールを用いて脂質を加温溶解させる方法は広く用いられている。一般的にリポソームは相転移点をもつため、リポソームの調製のための外液置換工程(iii) の前段各工程を主膜材の相転移点以上の温度で実施することが好ましい。
なお、以下の各工程で、加温温度とは、通常、脂質、特に主膜材の相転移点以上であり、たとえば主膜材のリン脂質としてHSPCを用いる場合には、相転移温度が50℃付近であるため、50〜80℃、好ましくは60〜70℃である。しかし、HSPCに加えてコレステロールを含む処方を用いた場合、相転移温度は低下し不確かになる。例えば、HSPCとコレステロールを50mol%ずつ含む処方では、40℃付近に相転移温度を持つため、40〜70℃、より好ましくは40〜50℃である。この時、脂質膜の物理化学的安定性を考慮する必要があるため、加温温度は相転移温度の少し高め程度が望ましい。
また、リポソーム懸濁液の調製工程(1)のうちでも、リポソーム生成工程(i)における脂質均一化工程、整粒工程(ii)および表面修飾工程(iii) 、さらに後段の薬物導入工程(2)はリポソームの変形及び脂質膜の液晶化を利用して行われる工程であるため、上記加温温度が求められる。しかし、これらの工程以外では、リポソームの変形による粒子径変動を避けるため、外液置換工程(iv)、薬物導入工程(2)における未封入薬物除去工程、および最後段の無菌化工程は、主膜材の相転移点以下の低温で行うことが望ましい。
以下、この低温とは、たとえば、主膜材の相転移点が50℃付近である場合、0〜40℃程度が好ましく、典型的には、5〜25℃程度をいう。
以下に好ましい態様例に基づいて説明するが、特にこの例に限定されるものではない。
リポソーム生成工程(i)では、上記のような膜成分と水相とを混合してリポソームを生成させ、リポソーム粗懸濁液を得る。膜成分と混合する水相は、通常、浸透圧調整剤、pH調整剤などを必要に応じて注射用水に溶解した水性溶液が用いられる。
工程(i)において、膜安定化剤などとして他の脂質をリン脂質とともに用いてリポソームを生成させる場合には、膜成分と水相との混合に先立って、複数種の脂質による不均一化を避けるための均一化工程を行うことが望ましい。この均一化方法は、特に限定されないが、通常、膜成分の特に脂質を有機溶媒に完全溶解して脂質溶液を調製する。有機溶媒は、通常、たとえばクロロホルム、エタノールなどの揮発性のものが使用される。産業レベルでの実用化の観点からは、エタノール、特に無水エタノールが好ましい。この溶解を、上記した主膜材の相転移点以上の加温温度下で行えば、均質な脂質溶液が得られやすい。
膜成分と水相との混合は、たとえば上記水性溶液および均一化した脂質溶液を予め上記加温温度にして撹拌することができる。撹拌は、通常、プロペラ式撹拌機などの撹拌装置を用いることができるが、この撹拌も、必要に応じて上記加温温度で行うことができる。
次いで、リポソーム粗懸濁液の粒子径制御すなわち整粒化工程(ii)を行い、リポソーム整粒液を得る。リポソームを所望サイズにサイジングするために、膜乳化および剪断力の持続を含む様々な公知の技術が利用可能である。たとえば、先に例示した高圧乳化法、フィルターを複数回強制通過させる膜乳化法などがある。これらいずれの方法も、G.Gregoriadis編「Liposome Technology Liposome Preparation and Related Techniques」2ndedition,Vol.I-III、CRC Pressに記載されており、この記載を引用して本明細書の記載されているものとすることができる。
整粒工程をたとえば、上記膜乳化法により行う場合には、市販されているポリカーボネート製などのメンブランフィルターを用いて粒子径をコントロールすることができる。たとえば、粒子径100nmに整粒する場合には、通常、400nm、200nm、100nmなどのメンブレンフィルターを組み合わせて段階的に整粒することができる。
整粒工程において、リポソーム粗懸濁液が上記主膜材の相転移点以上であれば、粒子径制御が容易である。
整粒後のリポソームの大きさは特に限定されないが、球状またはそれに近い形態をとる場合には、粒子外径の直径が、通常、0.02〜2μmであり、好ましくは0.05〜0.25μmである。この粒子径は、Zetasizer(Malvern Instruments. 3000HS)を用いて動的光散乱法により全粒子の直径平均値として測定される。
上記で整粒されたリポソームは、好ましくは外液置換工程(iv)に先だって表面修飾される。上述したとおり、表面修飾工程(iii) は、リポソーム外表面に機能を付与することを目的として行うものであり、たとえば、ターゲテイングの機能を付与する抗体などのリガンド、または血中滞留性を向上させる機能を有する親水性高分子などをリポソーム外表面に修飾することにより行われる。親水性高分子などの表面修飾剤によって外表面が修飾されたリポソームは、製造工程中の物理化学的安定性を向上させ、製造中の加温、冷却などの条件においても安定に処理することができる。このため表面修飾工程(iii) は、外液置換工程(iv) 、さらには薬物導入工程(2)などの後段工程において、リポソーム粒子径などの物理化学的安定性を得る観点から、これら工程前、すなわちリポソーム整粒工程(ii)の直後に実施することが望ましい。
表面修飾は、具体的には、リポソーム整粒液と、表面修飾剤溶液とを混合し、上記加温温度で混合する。以下には、便宜上、表面修飾剤溶液を親水性高分子溶液と称して、表面修飾剤として典型的に親水性高分子の脂質誘導体を用いる例について説明するが、他の表面修飾を行う場合も同様である。リポソーム整粒液と親水性高分子溶液の混合は、整粒工程終了直後から可能であり、混合までの時間は、工程上、許容される限り短い時間であることが好ましい。好ましくは、前工程終了直後から遅くとも180分以内である。
親水性高分子は、必要に応じて水性溶液として用いることができる。親水性高分子およびリポソーム整粒は、混合するまで、通常、整粒化を実施した際の温度、すなわち主膜材の相転移点以上に加温状態で保持されていることが好ましい。
混合方法は、リポソーム整粒液に親水性高分子溶液を添加してもよく、その逆でもよい。混合は、撹拌しながら行うことが好ましい、撹拌は、通常、プロペラ式撹拌機などの撹拌装置を用いることができる。
表面修飾工程(iii) は、熱交換器を用いて行うこともできる。整粒後のリポソームは不安定であるため、加温は、粒子径などの物理化学的安定性を損なわない時間で行うことが望ましい。この時間短縮の点でも熱交換器を用いて行うことが望ましい。熱交換器を用いて表面処理する方法の詳細は、たとえば特許第2766691号公報に記載されており、ここの記載を引用することにより、本明細書に記載されてされているものとすることができる。整粒直後のリポソームは不安定であるため、熱交換器を用いてリポソーム整粒液を一旦相転移点以下に冷却し、再び熱交換器を用いて昇温し、加温による表面修飾工程を行うことができる。
上記のとおり、表面修飾工程は、通常、上記主膜材の相転移点以上の加温温度で行う。しかしながら、本発明者らは、表面修飾工程において、アルコールが存在している場合、親水性高分子の導入時間を著しく短縮し、かつ導入温度条件を低くすることができることを見出している。表面修飾工程後のリポソームは、脂質の安定性の観点から、温度条件はできるだけ低く、かつ加温時間はできるだけ短くすることが望まれることから、表面修飾工程を低温で行えることは大きな利点がある。表面修飾工程にアルコールを存在させるには、リポソーム生成工程で脂質の均一化するためにアルコールを用いることが、脂質の均一化を最も簡便に行えることも含めて最も望ましい。
表面修飾工程(iii) 以降は、粒子径などの物理化学的安定性は担保することができるが、脂質の加水分解などの化学的安定性については担保することはできない。化学的安定性を確保する観点から、リポソームおよびリポソーム製剤の製造における全ての工程において熱暴露時間を減らすことが望ましい。この脂質の安定性の観点から、加温時間は短いことが望ましく、表面修飾後のリポソームも速やかに冷却することが望ましい。より簡便に冷却する方法としては氷冷が好ましい。また、表面修飾工程終了後にリポソームを速やかに冷却冷却する方法としても上記熱交換器を用いる方法は好適である。
なお、結合されなかった表面修飾剤は、後段の未封入薬物除去工程において除去することができる。この点からも、未封入薬物除去工程は、表面修飾工程以降にあることが望ましい。
外液置換工程(iv)では、リモートローディングのための外液置換が行われる。
整粒および表面修飾されたリポソームは、以降の工程を安定的に実施することができ、通常知られている条件下で実施することができる。外液置換工程(iv)は、無用な熱をかけないように上記した低温で行うことが好ましい。すなわちたとえば、主膜材の相転移点が50℃付近である場合には、0〜40℃程度が好ましく、典型的には5〜25℃程度である。この工程において、リポソーム生成工程(i) から持ち込まれるアルコール、表面修飾工程(iii) でリポソーム内に導入されなかった親水性高分子の除去を行うことができる。なお、リポソーム製剤を病棟で要事調製する際には、リポソーム製剤の製造としては、本工程(iii) 後、無菌化工程を経て最終製剤となり、この最終製剤について、薬物導入工程(2)を病棟の要事調製時に行う。
外液置換工程(iv)は、リポソーム生成工程(i)で使用された水相からなるリポソームの内,外水相のうち、外水相を置換してリポソーム懸濁液を得る工程であり、外水相置換方法としては、透析法、超遠心分離法及びゲルろ過法などがある。いずれの方法も、G.Gregoriadis編「Liposome Technology Liposome Preparation and Related Techniques」2ndedition,Vol.I-III、CRC Pressに記載されており、この記載を引用して本明細書の記載されているものとすることができる。特に、実用化を目的とした中・大規模の設備を用いた製造方法としては、ダイアライザーなどの中空糸を用いた方法、限外ろ過膜を用いたタンジェンシャルフローおよびダイアフィルトレーションなどが挙げられる。
本発明における外液置換工程(iv)の主な目的は、生成工程(i)で持ち込まれた有機溶媒の除去とともに、薬物導入工程(2)において、リモートローディングを可能にするリポソーム内外相のイオン勾配などの形成である。さらに、前段として表面修飾工程(iii) を行った場合には、リポソームに結合されなかった表面修飾剤の除去工程としても有用である。
リモートローディング法は、適切な水性媒体に溶解された場合に、荷電状態で存在し得る慣用的薬物に用い得る。典型的には、リポソームの内側/外側に、イオン勾配を形成することで、薬物は形成された勾配に従いリポソーム膜を透過し、リポソーム内に封入し得
る。本発明では、予め調製されたリポソーム内に、所望の薬物を導入するリモートローディングが実施できれば、その勾配の種類は特に限定されない。以下に、いくつかリモートローディングの具体例を挙げる。
リポソーム膜を隔てて形成されるイオン勾配としてNa/K濃度勾配がある。Na/K濃度勾配に対するリモートローディング法により予め形成されているリポソーム中に薬物を添加する技術は、特公平07−112968号公報などに記載されており、これを参照して行うことができる。なおこの記載を引用して本明細書に記載されているものとすることができる。
本発明では、イオン勾配としてプロトン濃度勾配が好ましく挙げられ、リポソーム膜の内側(内水相)pHが外側(外水相)pHよりも低いpH勾配をもつ態様が挙げられる。pH勾配は、具体的に、アンモニウムイオン濃度勾配および/またはプロトン化しうるアミノ基を有する有機化合物の濃度勾配などにより形成することができる。
アンモニウムイオン濃度勾配により、薬物をリポソーム内に封入する方法の具体例としては、まず0.1〜0.3Mのアンモニウム塩を含有する水性緩衝液中で予めリポソームを形成し、外部媒体をアンモニウムイオンを含有していない媒質、たとえばスクロース溶液と交換することでリポソーム膜の内/外にアンモニウムイオン勾配を形成する。内部アンモニウムイオンはアンモニアおよびプロトンにより平衡化し、アンモニアは脂質膜を透過して拡散することでリポソーム内部から消失する。アンモニアの消失に伴ってリポソーム内の平衡がプロトン生成の方向に連続的に移動する。その結果、リポソーム内にプロトンが蓄積され、リポソームの内側/外側にpH勾配が形成される。このpH勾配を有するリポソーム懸濁液に薬物を添加することによって薬物がリポソーム中に内封される。
上記アンモニウムイオン濃度勾配を形成しうるアンモニウム塩は、特には限定されないが、硫酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、コハク酸アンモニウム、アンモニウムラクトビオネート、炭酸アンモニウム、酒石酸アンモニウムおよびシュウ酸アンモニウムなどが挙げられる。
なお、アンモニウムイオン濃度勾配に対するリモートローディング法により予め形成されているリポソーム中に薬物を導入する技術そのものは、米国特許第5192549号明細書に記載されており、これを参照して行うことができ、またこの記載を引用して本明細書に記載されているものとすることができる。
プロトン化しうるアミノ基を有する有機化合物としては、低分子量のものが望ましく、具体的にはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、アミノエタノールなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
(2)薬物導入工程
本発明では、上記外液置換工程(iv)後のリポソーム懸濁液を用いて、リモートローディング法により薬物を導入する。薬物は、通常、薬物溶液で導入される。
なお、リポソームに薬物を封入するとは、内水相として、または内水相中に薬物を含ませることをいい、リポソーム製剤とは、この薬物が封入されたリポソームをいう。この封入とは、薬物が膜に付着などにより保持されたものあるいは膜中に保持されたものも含むことを意味し、この場合には薬物が必ずしも内水相に溶解した状態で存在するとは限らない。
本発明における薬物導入工程(2)は、リポソーム脂質膜の相転移点以上で行われる工程である。本発明の特徴は、この薬物導入工程(2)を急速加温手段を用いて実施することにある。すなわち、リポソーム懸濁液と薬物溶液との混合液を短時間でかつ脂質膜の相転移点以上に充分に加温することにある。製造時間の観点、均一性などの品質の観点、製剤の物理化学的安定性の観点から急速加温手段が選択されるものである。
従来法においては、相転移点以上に加温したリポソーム懸濁液と薬物溶液の2液を容器内で撹拌混合する方法をとっていた。しかし、中・大規模製造法においては、これら2液を予備加熱し混合するだけで膨大な時間を要してしまうことから、薬物およびリポソームの物理化学的安定性の観点から好ましくない。また、予備加熱を行った2液を混合する場合、スケールが上がれば上がるほど、混合に要する時間が長くなってしまう。またpH勾配を形成した薬物導入前リポソームは、薬物導入後リポソームと比べてリゾ化が起こりやすいという知見を得た。この観点から考えても、薬物導入前リポソームを予備的に加温する工程の存在は好ましくない。さらに本発明に至るに当たり、本発明者らは脂質膜の相転移点以上に加温すると1分以内で薬物導入が起こるという知見を得た。この観点から、従来法を用いて脂質膜の相転移点以上に加温した2液を混合すると、混合開始時点から薬物導入が始まってしまい、製剤間で均一な薬物導入率を得ることが困難であることが判明した。
本発明の薬物導入工程では、具体的に、リポソーム懸濁液を、リポソーム膜構成脂質の相転移点以下のまま貯液タンクに移行する。好ましくは、急速加熱手段に供する前に、脂質膜の相転移点以下の温度のまま、薬物溶液と混合撹拌し、薬物溶液とリポソーム懸濁液とを予め均一化する。この混合は、脂質膜の相転移点以下であるため、薬物導入はおきない。そのため、この混合液では、薬物はリポソーム外液に均一に分布することができる。この混合液の温度は、あまり低いと温度管理が難しく作業が煩雑になり、一方あまり高いと脂質膜の相転移点未満であってもリポソームへの薬物の導入が起こることがあるので、好ましくは5〜35℃であり、より好ましくは10〜30℃である。
急速加温装置は、上記混合液を急速に所定の温度まで加温することができるものであれば、特に制限されない。昇温速度としては、1〜20℃/秒、好ましくは、3〜10℃/秒である。急速加温装置として、熱交換器を用いることができる。熱交換器は、急速に所定温度まで加温できると共に所定時間にわたって加温した温度を容易に維持することができる。また、熱交換器の代わりにマイクロ波などを用いて急速に昇温させることも可能である。マイクロ波または高周波による加温方法とは、電磁波エネルギーを照射してそのエネルギー吸収によって発熱させる方法である。マイクロ波によって発生する分子内での双極子の回転、振動による内部発熱のことであり、一般的な熱伝導による加熱とはその原理が大きく異なる。
具体的には、混合液の送液中の微小時間に瞬間的に加温し薬物を封入する方法である。
加温工程において用いられる熱交換器は、隔壁を通じて2つの流体間で熱の授受を行わせて、加熱、蒸発、冷却、凝縮などの用途に使用されるものもある。
本発明において、薬物導入工程の加温手段として熱交換器の利用は、この特性を有効に利用したものである。一般的には、多管円筒形(キャピラリー型)熱交換器、二重管式熱交換器、プレート式熱交換器、コイル式熱交換器、渦巻き式熱交換器、ジャケット熱交換器、非金属熱交換器などがよく知られている。また、一方の流体が開放系である加熱炉、蓄熱式熱交換器(固体に低温、高温流体を交互に接触させ、熱交換させる)などがある。
熱交換器は特に限定されないが、多管円筒形熱交換器、二重管式熱交換器、プレート式熱交換器などが好ましい。熱交換器における伝熱面積(m2)は、広ければ広いほど熱効率がよいが、たとえば、多管円筒形熱交換器の場合では、配管が細くなりすぎるという点で洗浄などの観点から考慮する必要がある。
好ましい態様としては、加温すべき薬物導入工程の前には昇温を目的として熱交換器を設置し、引き続き冷却工程として降温を目的として熱交換器を設置することが挙げられる。この降温を目的とした熱交換器としては、上記で例示した熱交換器の他、エアクーラ(空気によって冷却)、イリゲーションクーラ(散水により冷却)を用いることができる。薬物導入工程に熱交換器などの急速加温装置を用いると、時間短縮、製造における均一性向上及び物理化学的安定性向上を達成することができるため効果的である。
本発明の薬物導入工程においては、このような熱交換器を用いて、膜脂質の相転移点以下に保持されている薬物−リポソーム混合液の温度を相転移点以上の設定温度に急激に立ち上げ、リポソーム膜の薬物透過性を生じさせ、前述のリモートローディング法により薬物をリポソーム内に導入させる。加温に熱交換器などの急速加温手段を用いるため、極めて短時間での加温が可能となり、また、むらなく充分に加温することができ、加温時に各リポソーム粒子の周囲には同量の薬物が存在していることから均質な薬物充填量のリポソーム製剤を得ることができる。
急速加温手段による加温の温度は、本発明においてはリポソームを構成する膜脂質の相転移温度以上とされ、好ましくは相転移温度より0〜40℃高くすることであり、より好ましくは5〜30℃、さらには10〜20℃高くすることである。高さが5℃以上であればリポソームの薬物透過性が十分に生じるので急速加温手段による薬物導入が効率的に行われ、高さが40℃以下であれば膜脂質あるいは薬物の安定性が得られる。より具体的な温度の値は、使用される膜脂質の相転移温度によって異なるが、血中に投与することを目的としたリポソームの場合は体温で容易に漏れ出さないように設計されているので相転移温度が35〜40℃程度であることから、40〜80℃に設定することが好ましく、45〜70℃であることがより好ましく、さらには50〜60℃である。なお温度が40℃より低いとリポソーム膜の薬物透過性が充分に生じにくい。一方、80℃より高い温度とすると、例え短時間であっても、膜脂質あるいは薬物に悪影響を及ぼすおそれがある。また、熱交換器による加温時間、すなわち熱交換器内滞留時間としては、3〜120秒であることが好ましく、より好ましくは5〜30秒である。
「熱交換器内滞留時間」とは、熱交換器の入口から出口までの通過時間のことをいう。この熱交換器内滞留時間は、管内有効断面積と流速に依存して変化する。
また、本発明の急速加熱手段が熱交換器である場合には、従来の方法と異なり連続的に薬物導入をすることができる。つまり、薬物溶液均一化工程で用いた貯液タンクから別の貯液タンクへの送液中に、送液パイプ中に熱交換器を介在させることにより薬物導入が可能であり、従来法と比べて時間を大きく短縮することが可能である。
リモートローディング法の場合は、通常、内水相のpHが低いことから、熱暴露による脂質の加水分解が起こりやすい。この観点からも、熱暴露を極力抑えるため、降温工程を用いることが望ましい。降温工程における設定温度は、脂質膜の相転移点以下、好ましくは1〜25℃、より好ましくは5〜10℃である。あまり低いと温度管理が難しく作業が煩雑になり、一方あまり高いと脂質膜の相転移点未満であってもリポソームへの薬物の導入が起こることがある。降温工程の一例としては、熱交換器から排出されるリポソーム懸濁液を収容する貯液タンクを氷水中に漬け、氷冷することでリポソーム懸濁液の温度を下げることができる。また、薬物や脂質膜の熱暴露時間を極力抑えるためには、加温後の余熱時間の短縮も大きな課題となることから、より積極的な余熱時間の短縮を目的として、昇温のためだけでなく降温のためにも熱交換器を用いることができる。たとえば、薬物導入のための熱交換器の下流側の送液パイプ中にさらに降温用の熱交換器を介在させることによって薬物導入後のリポソーム懸濁液を速やかに冷却できる。
なお、ここでは、薬物導入工程(2)を、外液置換工程(iv)に次いで行う例に基づいて説明したが、場合によって、他の適切な時期に行っても良い。たとえば、病棟における用事調製時に適用してもよい。病棟における用事調製で使用する際の製剤は、リモートローディング法における外液置換工程を終了し、イオン勾配を形成したものが望ましい。
すなわち、薬物の熱安定性及び水溶液中の安定性が極端に低い場合、熱交換器を用いた薬物導入は、病棟における用事調製に用いることができる。たとえば、外液置換後のリポソーム懸濁液にて薬物を相転移温度未満で溶解し、点滴ルートへ送液する途中工程に熱交換器を内在させ相転移温度以上に加温する方法である。この場合の熱交換器は、たとえば病棟で使用する観点から小型で、使い捨てのタイプが望ましい。この場合の、溶解混合方法は、薬物を他溶解剤に溶解させてから混合してもよく、空リポソーム懸濁液で直接溶解しても良い。また、上述したように加温により薬物導入を行った後、降温して速やかに温度を下げることができる。
本発明は、種々の薬物に適用することができる。たとえば治療のための薬物としては、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子およびその類縁体、抗ガン剤、抗生物質、酵素剤、抗酸化剤、脂質取り込み阻害剤、ホルモン剤、抗炎症剤、ステロイド剤、血管拡張剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体括抗剤、平滑筋細胞の増殖・遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、抗凝固剤、ケミカルメデイエータtの遊離阻害剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤、アルドース還元酵素阻害剤、メサンギウム細胞増殖阻害剤、リポキシゲナーゼ阻害剤、免疫抑制剤、免疫賦活剤、抗ウイルス剤、メイラード反応抑制剤、アミロイド-シス阻害剤、一酸化窒素合成阻害剤、 AGFs(Advanced glycation endproducts)阻害剤、ラジカルスカベンジャー、タンパク質、ペプチド、グリコサミノグリカンおよびその誘導体、オリゴ糖および多糖などが挙げられる、具体的には、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾンなどの副腎皮質ステロイドやその誘導体、アスピリン、インドメタシン、イブプロフェン、メフエナム酸、フエニルブタゾンなどの非ステロイド抗炎症剤、ヘパリン、低分子ヘパリンなどのメザンギウム細胞増殖阻害剤、シクロスポリンなどの免疫抑制剤、カブトプリルなどのACE(angiotensin converting enzyme)阻害剤、メチルグアニジンなどのAGE(advanced glycation endoproduct)阻害剤、バイグリカン、デコリンなどのβ括抗薬、PKC(protein kinase C)阻害剤、PGEおよびPGIなどプロスタグランジン製剤、パパベリン系薬、ニコチン酸系薬、トコフェロール系薬、およびCa括抗薬などの末梢血管拡張薬、ホスフォジエステラーゼ阻害剤、チクロピジン、アスピリンなどの抗血栓薬、ワーフアリン、ヘパリン、抗トロンビン剤などの抗凝固剤、ウロキナーゼなどの血栓溶解薬、ケミカルメディエータ-遊離抑制剤、抗生物質、抗酸化剤、酵素剤、脂質取込抑制剤、ホルモン剤、ビタミンC、ビタミンE、SODなどのラジカルスキヤベンジャー、メサンギウム細胞の増殖抑制作用を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド、デコイあるいは遺伝子などが挙げられる。
また、診断のための薬物としては、X線造影剤、超音波診断剤、放射性同位元素標識核医学診断薬、核磁気共鳴診断用診断薬などの体内診断薬が挙げられる。中でも、水溶液中で不安定な薬物、核酸、ポリヌクレオチド、遺伝子等を内封する際に本発明の工程を用いることが好適である。
上記のような薬物は、その種類によっても所望封入率が異なるが、一般的には高封入率であることが望ましい。リモートローディング方法による薬物導入によれば、高い薬物/脂質を達成でき、臨床に有効な高封入率のリポソーム製剤を得ることができる。
本発明のリポソーム製剤において、好ましくは80%以上、好ましくは90%以上の高い薬物封入率を達成することができる。この薬物封入率は、平均値として得られる値であるが、このような高い封入率であれば、個々のリポソーム製剤間のバラツキが少なく、製剤全体で均質な封入率であることを意味する。
上記薬物導入工程後のリポソーム懸濁液は、未封入薬物除去工程、無菌化工程などは通常知られている工程が付される。
未封入薬物除去工程は、薬物導入工程後の未封入薬物の除去を目的とした工程であり、基本的には外液置換工程と同様の操作を行うが、外水相に残留する薬物を除去するという目的の点で異なっている。
無菌化工程は、リポソーム形成工程後に滅菌する工程である。滅菌の方法は特に限定されず、たとえば、ろ過滅菌、高圧蒸気滅菌法、乾式加熱滅菌法、エチレンオキサイドガス滅菌法、放射線(たとえば、電子線、x線、γ線など)滅菌法、オゾン水による滅菌法、過酸化水素水を用いる滅菌法を用いることができる、
本発明では、無菌化工程としては、ろ過滅菌が最も好ましい。ろ過滅菌法においては、リポソームは透過するが、指標菌として用いられるBrevundimonas diminuta(サイズ、約0.3×0.8μm)は濾過されないことが要求されるため、Brevundimonas diminutaに較べ充分に小さい粒子であることが必要である。粒径が100nm付近であることは、ろ過滅菌工程をより確実にする上でも重要である。
なお、製造方法によっては、この無菌化工程を設定しなくてもよい。
上記工程を経た最終製剤は、脂質の安定性および粒子径など物理化学的安定性などの観点から、室温(一般的に21℃〜25℃)、好ましくは0〜8℃での冷蔵で保存することができる。
本発明のリポソーム製剤は、製造工程における熱履歴が極力抑えられているので、リポソーム製剤の脂質の分解を抑制することができ、保存時の安定性が優れている。この保存安定性は、脂質リゾ体の生成率により評価することができる。
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるべきものではない。
(調製例1〜8)リポソーム製剤の調製
(1)リポソーム懸濁液の調製
<リポソームの形成>
水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC,分子量790,リポイド(Lipoid)社製SPC3)70.53gおよびコレステロール(Chol,分子量386.65,ソルベイ(Solvay)社製)29.50gを秤量し、無水エタノール100mLを添加し、加温溶解した。
得られた脂質のエタノール溶液100mLに、約70℃に加温した250mMの硫酸アンモニウム溶液900mLを添加し、撹拌して粗リポソーム懸濁液を調製した。この粗リポソーム懸濁液を、約65℃に加温したエクストルーダー(Lipex Biomembranes社製)を用いて孔径100nmのフィルター(ポリカーボネートメンブラン)を5回通過させ、リポソーム懸濁液を得た。
<表面修飾>
得られたリポソーム懸濁液を加温状態で維持したまま、ポリエチレングリコール5000−ホファチジルエタノールアミン(PEG5000-DSPE,分子量5938,日本油脂社製)の7.69g/200mL−注射用水溶液を、PEG導入率=0.75mol%となる量で、直ちに添加し、加温撹拌することで、リポソームの膜表面(外表面)をPEG修飾した。加温終了後のリポソーム懸濁液は、速やかに氷冷した。
なお、上記PEG導入率(mol%)=(PEG5000-DSPE/Total Lipid)×100
である。ここでのTotal Lipidは、リポソーム膜を形成する脂質成分の総量(HSPC+Chol+PEG5000-DSPE)である。各脂質成分は高速液体クロマトグラフ(HPLC)によって定量した。
<外液置換>
ろ過装置(ザルトリウス社製メンブレンクロスフロー:ザルトコン スライス(分画分子量300K)を用い、上記PEGで修飾されたリポソーム懸濁液の分散媒(外水相)を、10%スクロース/10mMトリス溶液(pH9.0)にて外液置換した。このとき、リポソーム懸濁液の濃度が常に一定になるように排出される液量と等量の外水相を供給した。外液置換後のリポソーム懸濁液は氷冷した。
(2)薬物導入工程
この調製例では、急速加熱手段として熱交換器を用いて薬物導入を行った。この態様例における薬物導入工程を説明するための模式図を図1に示す。ここでは、熱交換器1として、ステンレススチール製多管円筒形熱交換器(キャピオックス(登録商標)カーディオプレギアCX−CP50,テルモ社製,管内径:1mm,管内有効断面積:640cm2)を用いた。
ガラス瓶4中のリポソーム懸濁液と薬物溶液との混合液は、熱交換器1内を一定速度で流れるようにポンプ2を介して熱交換器1内に送液した。熱交換器1は恒温槽3で加温した。熱交換器1から送出される薬物封入リポソーム懸濁液はガラス瓶5で受液した。
<薬物溶液の調製>
高速液体クロマトグラフにて外液置換後のリポソームの脂質(HSPC)を定量分析し、定量されたHSPCから算出した総脂質濃度をもとに、塩酸ドキソルビシン(Dox,分子量579.99)/総脂質(mol/mol)が0.16となるようにDox量を計算した。計算結果をもとに必要量のDoxを秤量し、10% スクロース/10mMトリス(pH9.0)溶液を用いて10mg/mLのDox溶液(薬物溶液)を調製した。
<リモートローディング法による薬物導入の検討1>
上記リポソーム懸濁液および薬物溶液を用いて、リモートローディング法による各温度(25、35、37.5、40、45、50℃)における薬物導入速度を小容量の反応容器で模式的に検討した。
50mLのガラス容器中、予め各温度に加温したリポソーム懸濁液15mLに、予め予め各温度に加温した8mLのDox溶液(塩酸ドキソルビシン/総脂質=0.16mol/mol,10mg/mL)を加え、1,2.5,5,7.5,10,20分間インキュベートした。各温度における未封入薬物濃度を求めた。また、薬物の透過は一次速度式に従うと仮定し、次式で示される関数を求め、その傾きを薬物導入速度定数とした。
C=C・EXP(−k・t)
式中、C:未封入薬物(Dox)の濃度(mg/mL)
:未封入薬物(Dox)の初期濃度(mg/mL)
t:時間(min)
k:薬物導入速度定数(mg/mL/min)
各温度に対する薬物導入速度定数の結果を図2に示す。薬物導入速度は35℃付近を境に急激に増加することが明らかとなった。従って、本実施例で用いるリポソーム膜の相転移温度は35℃付近であると想定されるため、薬物導入工程は35℃以上で行う必要がある。
<リモートローディング法による薬物導入の検討2>
上記検討1において、インキュベート温度50℃での各インキュベート時間における薬物導入率を求め、薬物導入の所要時間を調べた。
薬物導入率(Dox封入効率)は、薬物封入リポソームに生理食塩水を加えて20倍希釈した後、超遠心(1×10g,2時間,10℃)し、薬物封入リポソームを沈降させ、上清中の薬物濃度(mg/mL)から下記式により求めた。
50℃におけるインキュベート時間に対する薬物導入率を図3に示す。インキュベート温度50℃において、薬物導入率は、試験したうちの最短時間(図中、矢印)でほぼ飽和していることがわかった。
Figure 0005080779
上記検討における上清中(未封入)および全量中のDox濃度(mg/mL)は、蛍光(Ex480nm,Em580nm)測定による定量分析値である。検量線はDoxを各所定濃度(mg/mL)で含む生理食塩水から作成した。
<薬物導入>
図1に示すとおり、ガラス瓶4中、リポソーム懸濁液と薬物溶液とを約25℃で混合した。この混合液400mLを、ポンプ2を介して、表1に示す各流速で熱交換器1内に送液した。この流速は、下記式により求めた。
Figure 0005080779

熱交換器1から送出された薬物封入リポソーム懸濁液を含むガラス瓶5を氷冷した。
その後、10% スクロース/10mMトリス(pH9.0)溶液で充分に置換したカラム(Sepharose 4 Fast Flow,φ2.8cm×20cm)を用いて未封入薬物除去を行い、リポソームに封入されていない薬物を除去した。
最後に、未封入薬物除去後のリポソーム懸濁液を0.2μmのろ過滅菌用フィルターを通過させる無菌化工程を行った。
熱交換器1内の混合液の流速、滞留時間、恒温槽3の設定温度、熱交換器1の出口温度および薬物導入率を表1に示す。また、熱交換器1の出口温度に対する薬物導入率を図4に示す。熱交換器の出口温度を以って急速加熱手段である熱交換器による加温温度、すなわち熱交換器内の温度とした。
Figure 0005080779
表1に示すとおり、流速4.0〜11.5g/sに対応する熱交換器内滞留時間は、9.9〜3.4秒である。熱交換器の出口温度が45℃より高いと、滞留時間が3.4秒でも薬物(Dox)の封入効率は90%を上回った。後述の比較例1に示されるような長時間の予備加温時間を必要とする従来法に対し、本発明によれば、薬物溶液とリポソーム懸濁液との接触前の予備加熱なしで、かつ極めて短時間で高い封入効率が達成できることが示された。
一方、同じ3.4秒の滞留時間でも、熱交換器出口温度が40℃より低いと、薬物封入効率は20%台と低く、充分な封入効率が得られなかった。また、熱交換器出口温度が40℃以上であれば、熱交換器内の滞留時間を比較的長く設定することにより、50〜60%台の薬物(Dox)の封入効率を得ることができた。
上記から、本実施例で調製したリポソーム懸濁液および薬物溶液を薬物導入が起きにくい温度にて混合したものを熱交換器を利用して瞬時に45℃より高く加温すれば、極めて短時間(約3〜10秒)でも90%以上の高い封入効率が得られ、換言すれば、予備加熱なしの短時間での熱交換器内の送液中に所望濃度の薬物導入を終了することができることが確かめられた。
このように極めて短い時間で薬物を導入することができるため、薬物導入工程に要する時間を大幅に短縮することができ、さらには熱暴露の大幅な低減が可能である。これにより保存時のリゾ体の生成率が低く保存安定性に優れることは後述の試験例1に示される。
また、リポソーム懸濁液と薬物溶液を薬物導入の起きにくい低温(25℃付近)で混合後、高い封入効率が得られる高温まで直に上昇させることが可能であるため、薬物がリポソームに均一に導入されると考えられる。
以上の結果より、本発明によれば、熱交換器出口部のサンプル温度が45℃以上であれば極めて短い全加熱時間(約3〜10秒)で臨床効果上充分な薬物(Dox)封入リポソーム製剤を得ることが可能であることが分かった。
(比較例1〜3)
調製例1の薬物導入工程(4)に代えて、リポソーム懸濁液と薬物溶液の全量(15L)を従来の加熱撹拌混合工程を行った以外は、調製例1の同様の他の工程を行ってDox封入リポソーム製剤を得た。加熱撹拌混合は、外液置換工程(3)で外液置換したリポソーム懸濁液9.8Lを20Lタンク内に入れ、予め室温から20分かけて60℃に加温し(うち、40℃以上は10分間)、そこに、上記調製例と同じDox溶液(10mg/mL)の所定量を予め60℃に加温して加え、混合後、60℃で、60分(比較例1)、10秒(比較例2)、20秒(比較例3)間、撹拌することにより薬物を導入した。得られたDox封入リポソーム製剤の薬物導入率を表2に示す。
Figure 0005080779
本比較例において実施した加熱撹拌混合においては、薬物導入率としては各例とも90%以上の値を示しているが、これは、本比較例のスケールではリポソーム懸濁液と薬物溶液を混合するのに1分以上の時間を要し、予備加熱された状態で接触しているためリポソーム懸濁液に接触した薬物から順次導入されるため、結果的に薬物導入工程における加温時間が10秒あるいは20秒以上となり充分な導入率が得られたと考えられる。還元すれば加熱時間は全体でみれば、予備加熱も含めて10分以上を要して上記導入率を達成している。また、この導入率は全リポソーム粒子の平均値であり、本実験系では、混合したリポソーム懸濁液中のリポソームの導入可能な薬物量に対し、充分に少ない量の薬物を添加しているため、薬物が全てのリポソーム粒子と接触する前に一部のリポソーム粒子に導入されてしまい、リポソーム粒子間における薬物導入率のバラツキが生じている可能性があると推定される。
(試験例1)Dox封入リポソーム製剤の保存安定性
調製例2および比較例1で調製した各Dox封入リポソーム製剤を40℃で、所定時間加温した。1週間ごとに加温したDox封入リポソーム製剤を採取し、高速液体クロマトグラフで脂質分解物(リゾ体)の生成率を求めた。結果を表3および図5に示す。また、各時点でのリポソーム製剤の粒子径の測定結果を表3に示す。
脂質分解物(リゾ体)の測定方法:高速液体クロマトグラフィー
粒子径は、動的光散乱粒子測定装置(Zetasizer 3000,Malvern Instruments)で測定した平均粒子径である。
Figure 0005080779
本発明の方法を用いることにより、脂質分解物の生成率が抑制されることが示された。すなわち、本発明の方法では、極めて短時間で、リポソームと薬物とを含む混合液の温度を上昇させることができ、熱交換器内の送液中に薬物導入を終了することができるため、調製した薬物封入前の空リポソームの全量に対して予備加熱を行う必要のある従来法と比べて熱暴露の大幅な短縮が可能であった。それにより脂質の安定性の向上がみられ、脂質分解物の生成率が抑制されたと考えられる。また、40℃での保存期間において、粒子径の変化は認められず、製剤の物理化学的安定性も優れていることが示唆された。
以上の結果より、本発明は物理化学的安定性を確保しながら極めて短い時間で薬物を導入することができ、また脂質の安定性も向上できる方法である。製造時間の観点、薬物導入量の均一性などの品質の観点、製剤の安定性の観点から充分満足することができる方法であることがわかった。
本発明の方法における薬物導入工程の一態様例の模式的な説明図である。 各温度における薬物導入速度を示す図である。 薬物導入率の検討における50℃での薬物導入時間に対する薬物導入率を示す図である。 熱交換器を用いる薬物導入工程における出口温度に対する薬物導入率の関係をグラフで示す図である。 本発明の方法および比較例で得られた各リポソーム製剤の保存安定性(リゾ体生成率)を示す図である。

Claims (7)

  1. リモートローディング法を用いるリポソーム製剤の製造方法であって
    ポソームの懸濁液と薬物とを前記リポソームの膜相転移点以下の温度でタンク中で撹拌混合し、前記薬物がリポソーム内に導入されることなく前記リポソームの外液に均一に分布した均一混合液を得る混合工程、および
    前記混合液を、急速加熱手段を備えた送液パイプを介して前記タンクから送液することにより、前記リポソームの膜相転移点以上の温度ないし80℃以下の温度に加熱して前記リポソーム内に前記薬物を導入する薬物導入工程を含む、リポソーム製剤の製造方法。
  2. 前記薬物がイオン勾配法によりリポソーム内に導入される請求項1に記載のリポソーム製剤の製造方法。
  3. 前記急速加熱手段が熱交換器である請求項1または2に記載のリポソーム製剤の製造方法。
  4. 前記熱交換器による熱交換器内滞留時間が3〜120秒である請求項3に記載のリポソーム製剤の製造方法。
  5. 前記急速加熱手段がマイクロ波照射である請求項1または2に記載のリポソーム製剤の製造方法。
  6. 前記薬物導入工程の後に、未封入薬物の除去工程を行う請求項1〜5のいずれかに記載のリポソーム製剤の製造方法。
  7. 前記薬物導入工程が、前記加熱した混合物を前記リポソームの膜相転移点以下の温度に冷却する工程を含む、請求項1〜6のいずれかに記載のリポソーム製剤の製造方法。
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