以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(実施の形態)
本発明の実施の形態にかかる半導体装置を、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を例に説明する。本実施の形態にかかる半導体装置は、IGBTに限らず、公知のユニポーラ・デバイスである絶縁ゲート型トランジスタ(MOSFET)にも適用が可能である。また、本実施の形態では、第1導電型をn型とし、第2導電型をp型として説明するが、n型とp型とを入れ替えても同様に動作させることが可能である。また、本発明の実施の形態および実施例では、半導体装置について、デバイス、素子、チップもしくは半導体チップという表現も用いているが、いずれも同じ対象を示している。
また、本発明の実施の形態および実施例におけるウェハーとは、チップに断片化する前のシリコン基板(半導体基板)である。半導体チップにおいて、「活性領域」とは、例えばIGBTのエミッタ電極が形成されていて、且つ電流を流すことができる領域である。「終端構造領域」とは、前記活性領域の端部からチップの外周側端部までの領域であり、素子に電圧が印加されたときに発生するチップ表面の電界強度を緩和させる構造部である。まず、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の基本的な構造について説明する。
(基本構造)
図1は、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の平面構造の要部(以下、基本構造部とする)を示す平面図である。本発明の基本構造は、以下の通りである。図1に示すように、n型ドリフト領域11となるウェハーの一方の主面(紙面に相当し、以下、おもて面と呼ぶ)に、ゲートトレンチ13がストライプ状に形成されている。図1にはストライプ状に配置された複数のゲートトレンチ13のうちの、隣り合う2本のゲートトレンチ13をゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bとして図示する。
ゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bの内壁にはゲート酸化膜14が形成され、さらにゲート酸化膜14の内側には導電性のゲート電極15が形成されている。隣り合うゲートトレンチ13の間には、p型ベース領域12aが形成されている。p型ベース領域12aは、ゲートトレンチ13aの側壁およびゲートトレンチ13bの側壁にそれぞれ形成されたゲート酸化膜14に接するように配置されている。
p型ベース領域12a表面層には、ゲートトレンチ13aに接するように、n型エミッタ領域16aが形成されている。ゲートトレンチ13aの長手方向に沿ったn型エミッタ領域16aの端部は、p型ベース領域12aの内側に収まるように配置されている。また、p型ベース領域12aの表面層には、ゲートトレンチ13aとは離間するように、p型ベース領域12aよりも高濃度のp型コンタクト領域17aが形成されている。n型エミッタ領域16aは、ゲートトレンチ13aに接している縁部とは反対側の縁部がp型コンタクト領域17aの内部にて終端するように配置されている。
本発明の実施の形態にかかる半導体装置(以下、本発明にかかるIGBTとする)を構成する上で必要な構成について説明する。p型ベース領域12aおよびn型ドリフト領域11の表面には、絶縁膜が形成されている。この絶縁膜により、n型エミッタ領域16aおよびp型コンタクト領域17aはゲート電極15と絶縁されている。そして、これらのn型エミッタ領域16aおよびp型コンタクト領域17aをエミッタ電極とコンタクトさせるために、絶縁膜にコンタクト開口部が形成されている。
n型ドリフト領域11となるウェハーの他方の主面(紙面の裏側に相当し、以下、裏面と呼ぶ)にはp型コレクタ領域が形成されている。n型ドリフト領域11とp型コレクタ領域との間には、n型ドリフト領域11およびp型コレクタ領域に接するn型フィールドストップ領域が形成されている。そして、ウェハーの裏面には、p型コレクタ領域と接するコレクタ電極が形成されている。図1においては、絶縁膜、エミッタ電極、p型コレクタ領域、n型フィールドストップ領域およびコレクタ電極は図示を省略する。
(本発明の基本構造の作用効果)
次に、本発明の基本構造の特徴とそれに伴う作用効果について説明する。図1に示した本発明の基本構造の特徴を、以下の(1)〜(3)に示す。(1)n型エミッタ領域16aは、p型ベース領域12aに接する2本のゲートトレンチ13a,13bのうち一方のゲートトレンチ13aにのみ接している。(2)n型エミッタ領域16aにおいて、他方のゲートトレンチ13bの側の縁部の全体もしくは一部が、p型コンタクト領域17aの内部にて終端している。(3)ゲートトレンチ13aの長手方向において、p型コンタクト領域17aの長さはn型エミッタ領域16aの長さよりも長い。以上、上記3つの特徴(1)〜(3)により、以下の4つの作用効果がある。
一つ目の作用効果は、少数キャリアの注入促進効果(IE効果)の増強である。まず、上記特徴(1)のように、n型エミッタ領域16aを一方のゲートトレンチ13aにのみ接するよう配置する。そして、上記特徴(2)のように、他方のゲートトレンチ13bの側におけるn型エミッタ領域16aの縁部を、p型コンタクト領域17aの内部にて終端するようにする。このような特徴(1)〜(3)を有するIGBTのゲート電極をオンの状態とし電流を流したときの動作を、上述した各特許文献に示す従来のIGBT(以下、従来のIGBTとする)と対比させて説明する。
p型コレクタ領域から注入されたホールは、ゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bに向かって流れる。このとき、従来のIGBTでは、ゲートトレンチ13bに向かうホールはp型ベース領域12aからn型エミッタ領域16aの下部を通る。一方、本発明にかかるIGBTにおいては、ホールがn型エミッタ領域16aの下部を通るだけではなく、p型ベース領域12aから直接p型コンタクト領域17aへと流れる。
また、後述するように、ゲートトレンチ13aの短手方向において、n型ドリフト領域11の幅が、従来のIGBTにおけるn型ドリフト領域の幅に比べて狭くなる。そのため、p型ベース領域12aの中心部分から、ホール電流の集まりが少ない部分(ホール電流が疎な領域)がなくなる。その結果、ホール電流の平面分布を平坦的にすることができ、IE効果が全体的に増加するので、オン電圧が低くなる。
上記の作用の中で重要な点は、MOSゲートの反転層チャネルの面積を従来のIGBTよりも小さくすることができ、且つIE効果を増強することができることである。本発明にかかるIGBTの上記特徴(1)のようにn型エミッタ領域16aが2本のゲートトレンチ13a,13bのうち片方のゲートトレンチ13aにのみ接している場合、従来のIGBTでは、上記課題にて述べたように、MOSゲートにより形成されるキャリアの反転層チャネルの面積が小さくなる。
そのため、従来のIGBTでは、活性領域全面における総チャネル長(あるいはチャネル密度)が小さくなり、オン電圧が増加するのが普通である。それに対して、本発明にかかるIGBTにおいては、少数キャリアによる電流の平面分布の平坦化により、総チャネル長が小さくなるとともに、IE効果を増強させることができる。総チャネル長が小さくなることにより、後述するように、飽和電流の低減とそれによる短絡耐量の向上を実現することができるという効果を奏する。
二つ目の作用効果は、寄生サイリスタ部分のラッチアップの抑制である。IGBTの寄生サイリスタは、n型エミッタ領域16a、p型ベース領域12a、n型ドリフト領域11およびp型コレクタ領域にて構成される。上述のようにn型ドリフト領域11に注入されたホールは、n型エミッタ領域16aの下部よりも、p型ベース領域12aを通りp型コンタクト領域17aへと流れるようになる。これにより、n型エミッタ領域16aの下部を通過するホール電流が減少し、p型ベース領域12aにおける電圧降下が小さくなる。そのため、寄生サイリスタがオンせず、ラッチアップが大きく抑制される。
三つ目の作用効果は、IGBTのターンオフ時にp型ベース領域とゲートトレンチ底部とに集中する電界強度の緩和である。まず、一般的なIGBTのターンオフ時における素子内部状態の変化について簡単に説明し、次に本発明にかかるIGBTの構造においてその変化がどのように改善されるのかを説明する。一般的に、IGBTは、ターンオフ時に、空間電荷領域がn型ドリフト領域とp型ベース領域とのpn接合からn型ドリフト領域の内部にわたって広がる。このとき、電界強度は空間電荷密度の空間勾配に比例するので、p型ベース領域のpn接合近傍およびゲートトレンチのn型ドリフト領域側の底部近傍において電界強度が増大する。
さらに、一般的なIGBTでは、ターンオフ時に、n型ドリフト領域に蓄積されていたホールが静電ポテンシャルの傾きに沿って空間電荷領域を駆け下りp型ベース領域に向かう。このとき、電磁気学にて知られるポアソンの式に従い、ホール密度が高い領域にて電界強度の空間勾配が増加する。すなわち、p型ベース領域のpn接合近傍およびp型ベース領域に隣接するゲートトレンチの底部において、これらのホールが電界強度を増強する。
一方、本発明にかかるIGBTでは、上記の一つ目の作用により、ホール電流の平面分布を平坦にし、且つ二つ目の作用により、ゲートトレンチ側壁の反転層チャネル近傍に集まっていた少数キャリアを、p型コンタクト領域の方に分散させている。すなわち、p型ベース領域のpn接合近傍およびp型ベース領域に隣接するゲートトレンチの底部において、ホール電流の密度を緩和することができる。その結果、ホールによる電界強度の増強を抑えることができる。さらに、例えば従来のIGBTにおいて課題としていた電界強度の正帰還も抑えられるので、定格より大きい電流と高電圧におけるターンオフにてトレンチの底部で破壊が生じる可能性を小さくすることができる。
四つ目の作用効果は、ミラー容量の低減である。このミラー容量の低減と飽和電流は密接な関係がある。本発明にかかるIGBTは、n型エミッタ領域16aが隣り合うゲートトレンチ13a,13bのうちの片側のゲートトレンチ13aの側壁部にのみ接する構造であるため、n型エミッタ領域16aが接するゲートトレンチ13の側壁部の長さが従来のIGBTに比べて半分になる。
一方、IGBTの短絡耐量を維持するためには、一定の面積(例えば活性領域全体の面積)の中に収まる総エミッタ長を従来のIGBTと同一にして、飽和電流値を同一にする必要がある。本発明にかかるIGBTの場合、ゲートトレンチ13の短手方向のピッチ(繰り返し周期の長さ)が約半分となるから、活性領域全体におけるn型エミッタ領域16aの面積(≒反転層チャネルの面積)は、従来のIGBTの2倍となる。
このようにn型エミッタ領域16aの長さが倍増することにより、p型ベース領域12aとゲートトレンチ13の側壁部との接触面積と、p型ベース領域12aとゲートトレンチ13の側壁との接触面積との比率が、従来のIGBTに対して約2倍になる。その結果、入力容量(Cies)と帰還容量(Cres)との比率(Cies/Cres)が、従来のIGBTと比較して約2倍となり、実効的にCresを半減させることと同等の効果を奏することが可能となる。このミラー容量低減の結果、ターンオン波形とターンオン損失とが改善される。
ターンオン初期段階では、IGBTのCres成分は、ゲート電極に対してゲート電圧を高める方向に、変位電流を発生させる。Cies/Cresの比が小さい場合、この変位電流によってゲート電圧が大きく上昇し、Cies/Cres比が大きい場合はゲート電圧の上昇は小さくなる。ターンオン初期段階のゲート電圧上昇は、ターンオンピーク電流の増加を誘発するため、ソフトスイッチングの観点に鑑みれば、Cies/Cres比は大きい方が望ましい。
然るに、本発明にかかるIGBTでは、従来のIGBTに対して、Cies/Cres比を約2倍にすることが可能であり、ターンオンのソフトスイッチングを実現することが可能となる。さらには、Cresの低減効果により、ターンオン時の、いわゆるミラー期間が短くなり、ターンオンを素早く終了させることが可能となる。
ここで図1を用いて、本発明にかかるIGBTの特徴(2),(3)について、2点補足をしておく。本発明にかかるIGBTの特徴(2),(3)についての1つ目の補足は、n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとの位置関係である。p型ベース領域12aの表面に形成されているn型エミッタ領域16aのうち、ゲートトレンチ13bとは接していない縁部の一部あるいは全てが、隣接するp型コンタクト領域17aの内部にて終端していることが必要である。
仮に、n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとが離間している場合、n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとが離間している部分(n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとの間)には、p型ベース領域12aがウェハー表面に露出する。このp型ベース領域12は、p型コンタクト領域17aよりも不純物濃度が低いため、n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとが離間した部分は高抵抗領域となる。そのため、ターンオフ過程において、ホールはp型コンタクト領域17aに集まり難くなる。その結果、前述のホールの分散効果が弱まってしまうので、n型エミッタ領域16aはp型コンタクト領域17aの内部にて終端している必要がある。
本発明にかかるIGBTの特徴(2),(3)についての2つ目の補足は、ゲートトレンチ13の長手方向における、n型エミッタ領域16aの長さとp型コンタクト領域17aの長さとの相互関係である。具体的には、ゲートトレンチ13の長手方向において、n型エミッタ領域16aの長さは、p型コンタクト領域17aの長さよりも短いことが好ましい。その理由は、次の通りである。本発明にかかるIGBTにおいて、ホールは2つの経路を流れる(以下、第1経路および第2経路とする)。n型エミッタ領域16aの長さをp型コンタクト領域17aの長さよりも短くすることで、この第2経路にてより一層効率よくホールを引き抜くことができるからである。
ホールの第1経路は、p型ベース領域12aの下部と、それに隣接するn型ドリフト領域11、およびゲートトレンチ13aの下部から、MOSゲートの反転層チャネルに向かって集まる経路である。以下、下部に第1経路が形成されるp型ベース領域12aを、主たるp型ベース領域12aとする。第2経路は、主たるp型ベース領域12aの近隣のp型ベース領域に形成されたp型コンタクト領域17aからエミッタ電極(不図示)に抜け出る経路である。ホールの第2経路にてより一層効率よくホールを引き抜くには、主たるp型ベース領域12aの第1経路に流れるホールがp型コンタクト領域17aを流れるようにシフトさせるとよい。
そのためには、反転層チャネルに近づくホールについて、n型エミッタ領域16aの下を通らずにp型ベース領域12aを通って、p型コンタクト領域17aに抜けるようにすればよい。このとき、ゲートトレンチ13の長手方向において、仮に、n型エミッタ領域16aの長さがp型コンタクト領域17aの長さよりも長い場合、反転層チャネルに近づくホールは常にn型エミッタ領域16aの下を通らないと、p型コンタクト領域17aに抜けることができない。
一方、ゲートトレンチ13の長手方向において、n型エミッタ領域16aの長さがp型コンタクト領域17aの長さよりも短い場合には、n型エミッタ領域16aの下部を通らないホールの割合が増える。その結果、上記のホールの第2経路にてより一層、ホールを引き抜くことができ、ホールの分散効果を強くすることが可能となる。したがって、n型エミッタ領域16aの長さをp型コンタクト領域17aの長さよりも短くすることで、この第2経路にてより一層効率よくホールを引き抜くことができる。
次に、本発明の基本構造をゲートトレンチの長手方向に2つ並列に配置した構造を有するIGBTについて説明する。本発明の基本構造を構成するp型ベース領域をゲートトレンチの長手方向に隣り合うように配置する場合、例えば、2本のゲートトレンチに対して、本発明の基本構造を構成する各n型エミッタ領域をそれぞれ異なるゲートトレンチに接するように配置してもよいし、本発明の基本構造を構成する各n型エミッタ領域を2本のゲートトレンチのどちらか一方のゲートトレンチのみに接するように配置してもよい。
(n型エミッタ領域の交互配置構造)
まず、本発明の基本構造を構成する各n型エミッタ領域を異なるゲートトレンチに接するように配置した構造(以下、n型エミッタ領域の交互配置構造とする)について説明する。図2は、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の基本構造部および電流経路を示す平面図である。図2(a)は、図1に示す本発明の基本構造をゲートトレンチ13の長手方向に並べて配置した平面図であり、後述する実施例1にかかるIGBTの構造である。図1に示す本発明の基本構造に対して追加した点は、下記の通りである。
まず、ゲートトレンチ13の長手方向において、p型ベース領域12bが、n型ドリフト領域11を介してp型ベース領域12aと隣り合うように配置されている。p型ベース領域12bは、図1に示すようなp型ベース領域12aを構成部とする1つの本発明の基本構造の、ゲートトレンチ13の長手方向に隣り合う他の本発明の基本構造を構成する。このp型ベース領域12bには、p型ベース領域12aと同様にn型エミッタ領域16bおよびp型コンタクト領域17bが形成されている。
後述する本願発明の実施例1にかかる半導体装置(以下、実施例1にかかるIGBTとする。本発明の他の実施例にかかる半導体装置についても同様に実施例にかかるIGBTとする)では、n型エミッタ領域16bを、ゲートトレンチ13bの側壁に設けられたゲート酸化膜14に接触させる。すなわち、n型エミッタ領域16bは、p型ベース領域12aおよびp型ベース領域12bに隣接するゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bに対して、n型エミッタ領域16aが接するゲートトレンチとは反対側のゲートトレンチに接するように配置している。
このようなn型エミッタ領域16a,16bの配置は、隣り合うゲートトレンチ13a,13bの対向する側壁に、n型エミッタ領域を「交互に」接するように配置した構造といえる。以降、図2(a)に示すIGBTの構造を「交互配置構造」とする。このようにn型エミッタ領域を交互に配置したことにより、p型ベース領域12a,12bと接するゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bのいずれの側壁においても、反転層チャネルが形成されるようになる。
図2(b)は、図2(a)に示す本発明の交互配置構造のIGBTの平面図に、ホール電流のフロー40およびホール電流が集まる領域41を模式的に図示した平面図である。交互配置構造のIGBTにおいては、ターンオフ時に裏面のp型コレクタ領域からn型ドリフト領域11に流入し例えばあるp型ベース領域12aに向うホールは、通常、図2(b)に示すように、それ自身の主たるp型ベース領域12aに向って流れ、このp型ベース領域12aに引き抜かれる。この引き抜きの機構は、他のp型ベース領域12bについても当然なりたつ。
(n型エミッタ領域の片側配置構造)
次に、n型エミッタ領域を隣り合うゲートトレンチのうちのどちらか一方(片側)のゲートトレンチにのみ接するように配置する構造(片側配置構造)について説明する。図3は、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の基本構造部およびの電流経路を示す平面図である。図3(a)は、後述する実施例5にかかるIGBTの基本構造を示す平面図である。n型エミッタ領域16aとn型エミッタ領域16bとが、一方の同じゲートトレンチ13aにのみ接している。すなわち、一つのメサ領域47において、n型エミッタ領域16aが、隣り合うゲートトレンチ13a,13bのうちの片側のゲートトレンチ13aにのみ配置されている。以降、図3(a)に示すIGBTの構造を、「片側配置構造」とする。
n型エミッタ領域を片方のゲートトレンチにのみ接するように配置したことで、反転層チャネルは、p型ベース領域12aの、片方のゲートトレンチ13aの側壁に接する領域にのみ形成される。図3(b)は、図3(a)に示す本発明の片側配置構造のIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40と、ホール電流が集まる領域41とを模式的に図示した平面図である。図3(b)に示すように、片側配置構造のIGBTは、前述の交互配置構造のIGBTとは異なり、片方のゲートトレンチ13aにのみ、ホール電流が集まる領域41が形成される。
(最隣接の基本構造との相互作用)
本発明の構造では、上述の作用効果だけではなく、図1、図2あるいは図3に示す基本構造により、もしくは基本の配置構造を複数にわたり規則的に配置することにより、本発明のみに見られる新たな効果を奏する。図4は、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の基本構造部および電流経路を示す平面図である。図4(a)は、図2(a)に示す交互配置構造のIGBTにおいて、ゲートトレンチ13bを介してp型ベース領域12aに隣り合うメサ領域47まで広げて図示した平面図である。あるメサ領域47に配置されたp型ベース領域12cは、このメサ領域47にゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47の、p型ベース領域12aとp型ベース領域12b間のn型ドリフト領域11に隣り合うように配置されている(以下、市松模様状の配置とする)。
図4(b)は、図4(a)に示す本発明の基本構造の平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40と、ホール電流が集まる領域41とを模式的に図示した平面図である。図4(b)に示すように、本発明にかかるIGBTの場合、近隣のp型ベース領域12bに向うホールも、主たるp型ベース領域12aに設けられたp型コンタクト領域17aから引き抜くことができる。近隣とは、以下の通りである。まず、主たるp型ベース領域12aを考える。この主たるp型ベース領域12aが接しているゲートトレンチ13bを介して隣のメサ領域47にある複数のp型ベース領域(p型ベース領域12c以外のp型ベース領域は図示省略)のうち、主たるp型ベース領域12aから最隣接のp型ベース領域12cまでの長さの範囲にある領域のことである。
このような、最隣接あるいは近隣のp型ベース領域12cに集まるホールの一部も主たるp型ベース領域12aから引き抜くという作用効果について、図4および図33を用いて詳細に説明する。上述したように、図33(a)は、従来のIGBTを示す平面図であり、図33(b)は、図33(a)に示す従来のIGBTの平面図に、ホール電流のフロー40およびホール電流が集まる領域41を模式的に図示した平面図である。本発明にかかるIGBTでは、上述したように、p型コレクタ領域からn型ドリフト領域11に注入されたホールがp型コンタクト領域17aに至る経路が主に2つある(ホールの第1,2経路)。
ホールの第1経路は、主たるp型ベース領域12aの下部と、それに隣接するn型ドリフト領域11、およびゲートトレンチ13aの下部から、MOSゲートの反転層チャネルに向かって集まる経路である。この第1経路は、一般的なトレンチゲート型IGBTにおけるホールの経路と同じである。本発明にかかるIGBTの場合、例えば主たるp型ベース領域12aに着目すると、注入されたホールは、p型ベース領域12aに接するゲートトレンチ13aの側壁に向かって集まる。ホールの多くはゲートトレンチ13aの底部に向ってホール電流のフロー40のように流れて、反転層チャネルに接するp型ベース領域12aの側壁を経由する。
このようにして、ホール電流が集まる領域41aが形成される。ホール電流が集まる領域41aに集まったホールは、n型エミッタ領域16aの下部を経由してp型コンタクト領域17aに流れる。一方、従来のIGBTの場合も、図33(b)に示すように、ホールの多くはゲートトレンチ13の底部に向って集まり、反転層チャネルに接するp型ベース領域12の側壁を経由する。このようにして、ホール電流が集まる領域41が形成される。これらの集まったホールは、n型エミッタ領域16の下部を経由してp型コンタクト領域17に流れる。
ホールの第2経路は、p型ベース領域12cに流入するホールがそのp型ベース領域12cではなく、近隣のp型ベース領域12aに形成されたp型コンタクト領域17aから図示しないエミッタ電極に抜け出る経路である。この第2経路は、図4(b)にホール電流のフロー40aで示す経路であり、本発明にかかるIGBTでのみ得られる経路である。その理由は、次のとおりである。従来のIGBTの場合、上述のようにホールの多くは反転層チャネルに引き寄せられる。さらに、従来のIGBTの場合、ゲートトレンチ13に接するp型ベース領域の2つの側壁にはいずれもn型エミッタ領域が形成されている。このため、従来のIGBTでは、本願発明にかかるIGBTに形成されるホールの第2経路と同じ経路を経由して引き抜かれるホールは極めて少なく、ホールの第2経路は形成されないに等しい。
一方、本発明にかかるIGBTは、図4(b)に示すように、主たるp型ベース領域12aに、n型エミッタ領域16aと離間するゲートトレンチ13bが接している。このゲートトレンチ13bのp型ベース領域12aと接する側壁には、電子の反転層チャネルは形成されない。そのため、ホールはゲートトレンチ13bと接する別の最隣接のp型ベース領域12cに形成された反転層チャネルに向うようになる。これにより、ゲートトレンチ13bの底部に集まるホールは、ゲートトレンチ13cに隣接するn型ドリフト領域11の表面に一度蓄積された後に、この最隣接のp型ベース領域12cだけではなく、主たるp型ベース領域12aにも流入するからである(ホール電流のフロー40a)。
そして、ホールは、p型コンタクト領域17aを経由してエミッタ電極に引き抜かれるようになる。すなわち、ゲートトレンチ13bの近傍に集まっていたホール(ホール電流が集まる領域41c)は、最隣接のp型ベース領域12cだけでなく(ホール電流のフロー40c)、主たるp型ベース領域12aにも分散される。このような最隣接あるいは近隣のp型ベース領域同士のホールのやり取り(相互作用)を、以降、ホールの分散効果とよぶことにする。このホールの分散効果は、周期的に配置されたすべてのp型ベース領域においても生じる。
結果として、任意のp型ベース領域においても、n型エミッタ領域の下部に集中していたホールは分散される。そのため、寄生サイリスタのラッチアップが生じにくくなる。なお、上記のホール分散効果は、図4にて示した交互配置構造のIGBTのみならず、図3に示す片側配置構造のIGBTにおいても奏することは明らかである。その理由は、例えば、仮に、図4に示す交互配置構造のIGBTのn型エミッタ領域16cがゲートトレンチ13bではなくゲートトレンチ13aに接しているとしても、ホール電流のフロー40aは、n型エミッタ領域16cがゲートトレンチ13bに接している場合と同様に生じるからである。
さらに上記ホールの分散効果は、後述するようにp型ベース領域12cがゲートトレンチ13bを介してp型ベース領域12aとp型ベース領域12bの間に位置している場合においても(図4に示すIGBT)、または、これらのp型ベース領域の隣に位置している場合においても(例えば後述する図12に示すIGBT)、変わらず奏することは明らかである。すなわち、主たるp型ベース領域12aからみて、近隣のp型ベース領域12cは十分近い(最隣接)ので、近隣のp型ベース領域12cに向うホールも主たるp型ベース領域12aにて引き抜くことができる。
以上の効果、すなわち、最隣接のp型ベース領域12bに向って流れるホールをも主たるp型ベース領域12aから引き抜くことができる、という効果は、本発明の基本構造を有するIGBTにて初めて見出された効果である。換言すれば、本発明の基本構造は、従来のIGBTのいずれからも予想することのできない効果を奏する。
次に、本発明の実施例1にかかるIGBTについて、図5を用いて説明する。図5は、本発明の実施例1にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。図5は、図2(a)にて示した交互配置構造を複数にわたり周期的に配置したときの平面図である。実施例1にかかるIGBTの構造は、以下の通りである。ゲートトレンチ13とp型ベース領域12とを単位構造とする。この単位構造を、ゲートトレンチ13の短手方向および長手方向に周期的に繰り返し配置し、本発明にかかるIGBTの活性領域が形成される。図5に示すように、この単位構造(図5において点線で囲む領域。以下、単位胞とする)42内には、所定個数のp型ベース領域12が規則的に配置されている。
実施例1にかかるIGBTの単位胞42内には、図4(a)に示す交互配置構造となるようにp型ベース領域12a,12bが配置されている。ゲートトレンチ13を挟んで互いに隣り合うメサ領域47aとメサ領域47bとで、p型ベース領域12a,12bの配置が異なるので、実施例1にかかるIGBTの単位胞42の、ゲートトレンチ13の短手方向の長さ(以下、短周期とする)は、メサ領域47aおよびメサ領域47bのゲートトレンチ短手方向のそれぞれの幅と、ゲートトレンチ13の短手方向の幅2つ分とを足し合わせた寸法となる。実施例1にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、10μm以下程度であり、例えば5μmであってもよい。
そして、実施例1にかかるIGBTの単位胞42の、ゲートトレンチ13の長手方向の長さ(以下、長周期とする)は、p型ベース領域12aおよびp型ベース領域12bのゲートトレンチ長手方向のそれぞれの長さと、ゲートトレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域12aおよびp型ベース領域12b間の距離2つ分とを足し合わせた寸法となる。
このため、実施例1にかかるIGBTの単位胞42内には、メサ領域47a内に配置されゲートトレンチ長手方向に隣り合う2つのp型ベース領域12a,12bと、これらメサ領域47a内の2つのp型ベース領域12a,12bに挟まれたn型ドリフト領域11にゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47b内のp型ベース領域と、このメサ領域47b内のp型ベース領域のゲートトレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域との計4つのp型ベース領域12が含まれている。
p型ベース領域12のゲートトレンチ長手方向の長さは50μm以下程度であり、例えば8μmであってもよい。p型ベース領域12の寸法は、IGBTの特性と設計デザインルールに依存する。ゲートトレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域12aおよびp型ベース領域12b間の距離は10〜100μm程度であり、例えば30μmであってもよい。
図5では単位胞42を示す破線がメサ領域47a内のp型ベース領域12aを横切るように図示されているが、メサ領域47a内のp型ベース領域12bのゲートトレンチ長手方向の一方の端部側および他方の端部側にそれぞれ隣り合うp型ベース領域の、単位胞42内の部分のゲートトレンチ長手方向の長さを足し合わせた長さが、p型ベース領域12aのゲートトレンチ長手方向の長さとなっている(以下、図7,9,12,23,25,27,29に示す単位胞内に図示された、単位胞42を示す破線が横切るp型ベース領域12のゲートトレンチ長手方向の長さも同様である)。
実施例1にかかるIGBTにおける作用効果の要点は2つある。実施例1にかかるIGBTの一つ目の作用効果の要点は、ホール濃度およびその電流密度の分布を、2本のゲートトレンチ13の間において均一に分布させることができる点である。この一つ目の作用効果について、図6および図37を用いて説明する。図6は、図5に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図6は、図5に示す実施例1にかかるIBGTの平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。
図37に示す従来のIGBTの場合、上述したように、ホール電流が集まる領域41は、ゲートトレンチ13の短手方向に連続的に分布せず、p型ベース領域12およびホール電流が疎な領域43にて分断されている。一方、実施例1にかかるIGBTの場合、図6に示すように、ホール電流が集まる領域41とホール電流が疎な領域43は、活性領域において分散している。すなわち、実施例1にかかるIGBTにおいては、ホール電流が集まる領域41は、ゲートトレンチ13の短手方向において、ホール電流が疎な領域43に分断されていない。あるメサ領域47aにおいて、それぞれのp型ベース領域12に形成されているn型エミッタ領域16は、両サイドに接するゲートトレンチ13に対して、交互に接する。そのため、反転層チャネルも、n型エミッタ領域16の配置と同様に交互に分布する。
このように、実施例1にかかるIGBTにおいては、図6に矢印で示すホール電流のフロー40のようにホール電流が流れるので、ホール電流が集まる領域41は、規則的に分散される。また、ホール電流が疎な領域43も規則的に分散し、ゲートトレンチ長手方向に隣り合う2つのホール電流が集まる領域41、およびゲートトレンチ短手方向に隣り合う4つのホール電流が集まる領域41の、計6つのホール電流が集まる領域41で囲まれる部分に制限される。
すなわち、ホール電流が集まる領域41は、ホール電流が疎な領域43に囲まれないのでホール電流が疎な領域43によっては分断されず、ゲートトレンチ13の短手方向にて連続的に分布するようになる。その結果、実施例1にかかるIGBTは、従来のIGBTとは異なり、ゲートトレンチ13を跨いで、隣り合うホール電流が集まる領域41が相互にホールを供給するようになり、ホール濃度が高くなる。すなわち、IE効果を最大限に高くすることができる。
このような、ホール電流が集まる領域41がゲートトレンチ13の短手方向にて連続的に分布するようになる効果は、従来のIGBTのいずれからも得られない効果である。また、このホール濃度およびホール電流密度の均一分布は、上述した本発明の基本構造における特徴(2)の作用効果とも関連している。すなわち、任意のp型ベース領域において、その近隣のp型ベース領域からもホール電流が流れる第2経路ができることで、ホールを近隣のp型ベース領域と相互に供給しあう経路ができる。
実施例1にかかるIGBTの2つ目の作用効果の要点は、ターンオフ時の電界強度の緩和である。上述したように、従来のIGBTでは、ターンオフ時には反転層チャネルの付近にホールが集まり、且つホールが集まるところの電界強度が増強される。すなわち、従来のIGBTの場合、図37に示すように、ホール電流が集まる領域41がゲートトレンチ13の長手方向に沿って集中的且つ連続的に形成される。そのため、ゲートトレンチ13の底部のホール電流密度は増加し、電界強度がさらに増強される。また、増加した電界強度の値がアバランシェ電流を発生する臨界電界強度程度に達すると、ホールの増加により電界強度の正帰還も生じる可能性がある。
一方、実施例1にかかるIGBTの構造では、n型エミッタ領域16aを交互配置構造とし、且つ複数の交互配置構造を周期的に配置することで、前述のホールの分散効果が得られる。さらに、図6に示すように、ゲートトレンチ13の長手方向において、ホール電流が集まる領域41が形成されない部分を形成することができる。その結果、ホール電流が集まる領域41を近隣のp型ベース領域に分散することができるため、ゲートトレンチ13の底部へ集中していたホール電流の密度が緩和される。以上のように、実施例1にかかるIGBTは、ホール電流の集中に起因した電界強度の増強とその正帰還も、十分抑えることが可能となる。
つぎに実施例1にかかるIGBTの構造における、その他の特徴を説明する。その一つ目の特徴は、複数のp型ベース領域12の配置方法である。図5において、あるp型ベース領域12aおよびp型ベース領域12bが形成されているメサ領域47aと、このメサ領域47aにゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47bとを考える。メサ領域47aのp型ベース領域12aが形成されている領域に対して、メサ領域47bの、ゲートトレンチ13を介してp型ベース領域12aと隣り合う領域には、n型ドリフト領域11が形成されている。
すなわち、図5に示すように、複数のp型ベース領域12が、市松模様のように配置されていることが好ましい。このようにp型ベース領域12を市松模様状に配置することで、図6に示すように、ホール電流の集まる領域41が、ホール電流が疎な領域43に分断されずに、ゲートトレンチ13の長手方向および短手方向の両方向に連続的に分布するようになる。これにより、IE効果を最大限に高くすることができ、且つホール電流が集まる領域41も適度に分散させることが可能となる。
次に、本発明の実施例2にかかるIGBTについて、図7を用いて説明する。図7は、本発明の実施例2にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。実施例2にかかるIGBTの構造は、以下の通りである。実施例2にかかるIGBTの実施例1に対する相違点は、2つ隣りのメサ領域におけるn型エミッタ領域の位相である。n型エミッタ領域16の位相とは、ゲートトレンチ13の長手方向において、n型エミッタ領域16が交互に且つ周期的に接するゲートトレンチ13の、左右の順番のあらわれ方である。
n型エミッタ領域16の位相の、左右の順番の具体例について、隣り合う2本のゲートトレンチ13間に形成されるn型エミッタ領域16が、紙面右側に隣り合う一方のゲートトレンチ13に接する場合を右側の順番とし、紙面左側に隣り合う他方のゲートトレンチ13に接する場合を左側の順番として説明する。
例えば、ある1つのメサ領域47aのn型エミッタ領域が接するゲートトレンチ13の左右の順番が、最初が右側で次が左側であるとする。そのとき、隣のメサ領域47bにおいて、n型エミッタ領域が接するゲートトレンチ13の左右の順番も、最初が右側で次が左側であれば、その位相は同じである(同位相)とする。一方、隣のメサ領域47bにおいて、逆に最初が左側で次が右側であれば、その位相は逆である(逆位相)とする。
より具体的には、図7に示す実施例2にかかるIGBTについては、あるメサ領域47aのp型ベース領域12aにおけるn型エミッタ領域16aが、例えば右側のゲートトレンチ13aに接しているとする。このとき、メサ領域47aからみて、ゲートトレンチ13a、メサ領域47bおよびゲートトレンチ13bを介して隣り合うメサ領域47c(2つ隣のメサ領域47c)における、p型ベース領域12cのn型エミッタ領域16cは、n型エミッタ領域16aとは反対に左側のゲートトレンチ13bに接している。
この場合、実施例2にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、実施例1にかかるIGBTの単位胞の短周期よりも、メサ領域のゲートトレンチ短手方向の幅とゲートトレンチの短手方向の幅とをそれぞれ2つ分ずつ足し合わせた幅だけ長くなる。すなわち、実施例2にかかるIGBTの単位胞42は、実施例1にかかるIGBTの単位胞をゲートトレンチ短手方向に2つ隣接させた構造を単位構造としている。このため、実施例2にかかるIGBTの単位胞42内には、8つのp型ベース領域12が含まれている。
実施例2にかかるIGBTの作用効果を、図8を用いて説明する。図8は、図7に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図8は、図7に示す実施例2にかかるIGBTの平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。実施例2にかかるIGBTの実施例1(図4)との相違点は、ホール電流が集まる領域41とホール電流が疎な領域43とがゲートトレンチ13の長手方向に対して斜めの状態で周期的に分布する点である。
ゲートトレンチ13の短手方向におけるホール電流が疎な領域43の周期は、図7に示す単位胞42の繰り返し周期と同じである。そのため、実施例2にかかるIGBTは、実施例1にかかるIGBTとは異なり、ホール電流が集まる領域41はホール電流が疎な領域43で分断される。しかし、実施例2にかかるIGBTは、従来のIGBTに比べると、ホール電流が疎な領域43の周期は長くなるので、ホール電流が集まる領域41が分断されたとしても、実施例1と同様の効果が得られる。
図9は、本発明の実施例2にかかる半導体装置の別の一例の要部を示す平面図である。図9に示すIGBTは、図7に示すIGBTと等価な構造を有する変形例である。図9に示す構造のIGBTも実施例2にかかるIGBTの一例である。図9に示す実施例2にかかるIGBTの、図7に示すIGBTとの相違点は、p型ベース領域12aの隣のメサ領域47bにおける、p型ベース領域12bのn型エミッタ領域16bの位相が、図7に示すp型ベース領域12bのn型エミッタ領域16bの位相とは逆になっている点である。
この図9に示す実施例2にかかるIGBTの作用効果を、図10を用いて説明する。図10は、図9に示す半導体装置の電流経路について示す平面図である。図10は、図9に示す実施例2にかかるIGBTの変形例の平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。図10に示すIGBTの電流経路の、図8に示すIGBTの電流経路との相違点は、ホール電流が集まる領域41およびホール電流が疎な領域43が、ゲートトレンチ13の長手方向に対して線対称に分布する点である。ゲートトレンチ13の短手方向におけるホール電流が疎な領域43の周期は、図8に示すIGBTの場合と同じである。そのため、図9,10に示すIGBTは、図7,8に示すIGBTと同じ効果が得られ、構造的に図7,8に示すIGBTと等価である。
次に、本発明の実施例3にかかるIGBTについて、図11、図12、および図13を用いて説明する。図11は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の要部を示す説明図である。図11(a)は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。図11(b)は、図11(a)の切断線A−A’における断面図である。実施例3にかかるIGBTの実施例1に対する相違点は、p型ベース領域12の配置が市松模様状ではなく、ストライプ状であるという点である。すなわち、実施例3にかかるIGBTでは、あるp型ベース領域12からみて、ゲートトレンチ13を介して隣のメサ領域には、n型ドリフト領域ではなくp型ベース領域12が形成されている。
図11(b)に示すように、図11(a)の切断線A−A’における断面において、隣り合うゲートトレンチ13の間にはすべてp型ベース領域12が形成されている。ゲートトレンチ13の内壁にはゲート酸化膜14が形成され、さらにゲート酸化膜14の内側にはゲート電極15(例えば、導電性多結晶シリコン)が形成されている。隣り合うゲートトレンチ13の間には、p型ベース領域12がゲートトレンチ13よりも浅く形成されている。隣り合うゲートトレンチ13のうち片方のゲートトレンチ13のみに接するようにn型エミッタ領域16が形成されている。
n型エミッタ領域16のゲートトレンチ13に接していない側は、p型コンタクト領域17の内側にて終端している。n型エミッタ領域16は、p型コンタクト領域17よりも浅く形成されている。ゲートトレンチ13の上面と半導体基板のおもて面には、絶縁膜18が形成され、コンタクト開口部46にて開口されている。半導体基板のおもて面と絶縁膜18の上面には、エミッタ電極19が形成され、コンタクト開口部46を介してp型コンタクト領域17およびn型エミッタ領域16と電気的に接続している。
n型ドリフト領域11となる基板の裏面側(紙面の下方)には、n型ドリフト領域11と接するようにn型フィールドストップ領域50と、n型フィールドストップ領域50と接するp型コレクタ領域51とが形成されている。そして、基板の裏面には、p型コレクタ領域51と接するコレクタ電極22が形成されている。
図12は、図11に示す半導体装置の平面構造の要部を示す平面図である。図12は、図11(a)に示す半導体装置の平面構造を縮小した平面図である。図12に示すように、p型ベース領域12はストライプ状に形成されている。実施例3にかかるIGBTの単位胞42の面積は、実施例1および実施例2にかかるIGBTの単位胞よりも小さい。具体的には、実施例3にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅と、ゲートトレンチ13の短手方向の幅とを1つ分ずつ足し合わせた寸法となる。実施例3にかかるIGBTの単位胞42の長周期は、実施例1,2にかかるIGBTの長周期と同様である。このため、実施例1にかかるIGBTの単位胞42内には、1つのメサ領域47内のゲートトレンチ長手方向に隣り合う2つのp型ベース領域12が含まれ、実施例1にかかるIGBTの単位胞42内のp型ベース領域12の個数は計2つとなる。
図12に示す実施例3にかかるIGBTおける作用効果を、図13を用いて説明する。図13は、図12に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図13は、図12に示す実施例3にかかるIGBTの平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。
図12に示す実施例3にかかるIGBTの、図4に示すIGBTとの相違点は、ホール電流が集まる領域41がゲートトレンチ13の短手方向にて連続的に分布しているが、同じくホール電流が疎な領域43も短手方向にて連続的に分布している点である。すなわち、ホール電流が集まる領域41は、ゲートトレンチ13の長手方向において、ホール電流が疎な領域43によって分断されている。しかし、ゲートトレンチの短手方向にはホール電流が集まる領域41が連続しているので、実施例3にかかるIGBTにおいてもIE効果は十分強くなる。また、実施例3にかかるIGBTは、ゲートトレンチ13にはホール電流が疎な領域43が形成されているので、前述のようなターンオフ時の電界強度増加も抑えることができる。
(製造方法)
次に、実施例3にかかるIGBTの製造方法について説明する。図14は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の製造途中の断面構造の要部を示す断面図である。図15〜18は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の製造途中の断面構造の要部を示す説明図である。本発明にかかるIGBTの製造工程の多くは、基本的には従来のIGBTと同じである。まず、図14(a)に示すように、例えば比抵抗が約50Ωcmのn型の半導体シリコンからなる半導体基板を用意する。この半導体基板は、後にIGBTのn型ドリフト領域11となる。半導体基板のおもて面の面方位は例えば(100)面である。
そして、半導体基板のおもて面に、図示省略する公知のガードリング層(セル領域の周囲に形成されて基板おもて面での電界緩和機能を有する終端構造の一種)を形成する。ガードリング層を形成するための熱処理の際に、図14(b)に示すように酸化膜30を形成する。そして、ホトリソグラフィの工程により、この酸化膜30に開口部を形成する。
次に、酸化膜30をマスクとして所定の深さまで半導体基板(後のn型ドリフト領域11)をエッチングすることにより、ゲートトレンチ13を形成する。実施例3にかかるIGBTの作製(製造)では、例えば、酸化膜30に開口幅が0.8μmの開口部を5μm間隔で設け、異方性のRIE(Reactive Ion Etching)エッチングをすることでゲートトレンチ13を形成する。
次に、図14(c)に示すように、酸化処理によりゲートトレンチ13の内部に図示しない犠牲酸化膜を形成する。この犠牲酸化膜は、半導体基板へのゲートトレンチ13形成に伴って形成される内表面欠陥層を除去するために形成される。次に、この犠牲酸化膜を除去することによりゲートトレンチ13形成により形成される内表面欠陥層を除去する。そして、一旦、活性領域の酸化膜を全て除去し、その後、ゲート酸化膜14の形成を行う。この酸化工程により、ゲートトレンチ13の内部に膜厚が80〜120nmのゲート酸化膜14が形成される。
次に、ゲート電極15となる多結晶シリコン膜を、減圧CVD法により半導体基板上の全面に形成する。多結晶シリコン膜の膜厚は、例えば0.5〜1.0μmである。多結晶シリコン膜の成長時に、リン(P)やボロン(B)等の不純物原子をドープし、多結晶シリコン膜の電気抵抗を小さくする。この多結晶シリコン膜形成の結果、ゲートトレンチ13の内部にゲート電極15が埋め込まれる。
次に、異方性または等方性のガスエッチングにより、多結晶シリコン膜(ゲート電極15)をエッチバックする。半導体基板(n型ドリフト領域11)の表面にゲート酸化膜14が露出した段階で、多結晶シリコン膜のエッチングを停止する。多結晶シリコン膜のエッチバックにより、図14(c)に示すようにゲートトレンチ13の内部に埋め込まれたゲート電極15が形成される。
多結晶シリコン膜のエッチバックでは、半導体基板上に堆積した多結晶シリコン膜の膜厚と同程度の量をエッチバックするので、ゲート電極15はゲートトレンチ13の頂部(開口部)から100〜150nm程度深くエッチングされる。次に、図14(d)に示すように、半導体基板(n型ドリフト領域11)おもて面側のゲート酸化膜14のみを除去して半導体基板のおもて面を露出させる。このとき、ゲート酸化膜14の除去方法として、例えば異方性エッチングを用いる。
異方性エッチングによって半導体基板おもて面のゲート酸化膜14を除去することにより、ゲートトレンチ13の側壁部上部のゲート酸化膜14がエッチングされることなく、厚さが厚いままゲート酸化膜14が残るので、好ましい。さらに、この後の工程で形成される図示省略するp型ベース領域、p型コンタクト領域、およびn型エミッタ領域のイオン注入面が同一面となるほか、p型ベース領域の形成がゲートトレンチ13の形成後に行われる。その結果、p型ベース領域の拡散深さをゲートトレンチ13よりも浅くすることが可能となる。さらには、ボロンが熱酸化膜形成中に酸化膜に取り込まれることも防ぐことができるため都合がよい。
次に、図15(a)に示すように、半導体基板のおもて面に厚さが20〜50nmのスクリーン酸化膜14aを形成する。このスクリーン酸化膜14aの厚さは、イオン注入のときにボロンイオンあるいは砒素(As)イオンが十分に透過しうる厚さである。ここで、図15(a)は、図15(b)に示す製造途中のIGBTの平面図における切断線X−X’に沿った断面構造を示す断面図である。
次に、半導体基板のおもて面をレジスト(不図示)で覆う。次に、ホトリソグラフ法によりレジストをパターニングし、半導体基板のp型ベース領域12形成領域が露出するレジストマスク(不図示)を形成する。そして、このレジストマスクをマスクとして、加速電圧が例えば50keV程度、ドーズ量が例えば1×1013/cm2〜5×1014/cm2程度のイオン注入条件で、ボロンイオン注入を行う。次に、レジストマスクを除去した後に、1100℃程度の熱拡散処理を行う。
前記の熱拡散処理の結果、図15(b)に示すように、ゲートトレンチ13に直交するパターンで、ストライプ状にp型ベース領域12が形成される。実施例3にかかるIGBTのp型ベース領域12の寸法は、ゲートトレンチ13の長手方向において、ボロンイオンが注入される半導体基板のおもて面幅を例えば約6μm、ボロンイオンが注入されない幅(熱処理による拡散後の幅)を例えば約14μmとしてもよい。図15(b)においてハッチングで図示するp型ベース領域12は熱拡散後の幅を有するp型ベース領域である。
次に、図16(a)に示すように、p型コンタクト領域17を、前記p型ベース領域12の表面層に形成する。図16(a)は、図16(b)に示す製造途中のIGBTの平面図における切断線X−X’に沿った断面構造を示す断面図である。具体的には、次のようにp型コンタクト領域17を形成する。半導体基板のおもて面をレジスト(不図示)で覆う。次に、ホトリソグラフ法によりレジストをパターニングし、メサ領域47のp型コンタクト領域17形成領域が開口するレジストマスク25を形成する。
そして、レジストマスク25をマスクとして、加速電圧が例えば100keV程度、ドーズ量が例えば1×1015/cm2〜5×1015/cm2程度のイオン注入条件で、ボロンイオン注入を行う。次に、レジストマスク25を除去した後に、1000℃程度の熱拡散処理を行う。その結果、図16(a),16(b)に示すように、隣り合うゲートトレンチ13の間に形成されたp型ベース領域12の表面層に選択的に、例えば紙面右側のゲートトレンチ13に接するp型コンタクト領域17が形成される。
ここで、ゲートトレンチ13の長手方向におけるp型コンタクト領域17の寸法は、ボロンイオンが注入される半導体基板のおもて面幅を例えば約5.5μmとしてもよい。また、ゲートトレンチ13の短手方向におけるp型コンタクト領域17の寸法は、ボロンイオンが注入される半導体基板のおもて面幅を例えば約2μmとしてもよい。
次に、図17(a)に示すように、n型エミッタ領域16を、前記p型ベース領域12の表面に形成する。図17(a)は、図17(b)に示す製造途中のIGBTの平面図における切断線X−X’に沿った断面構造を示す断面図である。具体的には、次のようにn型エミッタ領域16を形成する。半導体基板のおもて面をレジスト(不図示)で覆う。次に、ホトリソグラフ法により、レジストをパターニングし、メサ領域47の表面のn型エミッタ領域16形成領域が開口するレジストマスク25を形成する。
そして、レジストマスク25をマスクとして、加速電圧が例えば100〜200keV程度、ドーズ量が例えば1×1015 /cm2 〜5×1015 /cm2 程度のイオン注入条件で、砒素イオン注入を行う。次に、レジストマスク25を除去した後に、1000℃程度の熱拡散処理を行う。その結果、図17(a),17(b)に示すように、p型コンタクト領域17の一部からp型ベース領域12の表面層にわたって、p型コンタクト領域17が接していない紙面左側のゲートトレンチ13に接するn型エミッタ領域16が形成される。
次に、図18(a)に示すように、半導体基板のおもて面に絶縁膜18を形成し、絶縁膜18にコンタクト開口部46を形成する。図18(a)は、図18(b)に示す製造途中のIGBTの平面図における切断線X−X’に沿った断面構造を示す断面図である。具体的には、BPSG(Boron Phospho Silicate Glass)等の絶縁膜18を基板全面に被着した後に、ホトリソグラフィの工程と異方性エッチングにより、コンタクト開口部46を形成する。
このコンタクト開口部46を形成する目的は、半導体基板のおもて面側に形成されたn型エミッタ領域16とp型コンタクト領域17とを、半導体基板のおもて面上に形成される金属電極(エミッタ電極)19に接触させるためである。絶縁膜18にコンタクト開口部46を形成することで、n型エミッタ領域16およびp型コンタクト領域17とエミッタ電極19とを接触させるとともに、ゲートトレンチ13内のゲート電極15は絶縁膜18により被覆される。
このとき、ゲートトレンチ13の長手方向において、コンタクト開口部46の開口幅が、n型エミッタ領域16の長さよりも長くなるようにする。コンタクト開口部46の寸法は、例えば、ゲートトレンチ13の長手方向において、n型エミッタ領域16の長さ5.0μmに対して、コンタクト開口部46の開口幅を4.5μmとしてもよい。ゲートトレンチ13の短手方向において、コンタクト開口部の長さは2μmとしてもよい。
その後、スパッタリングなどにより図示しないアルミニウム等の金属膜で半導体基板のおもて面を被着し、ホトリソグラフィの工程によりパターニングして、アロイ化することで、活性領域の全面にエミッタ電極となる金属電極層を形成する。さらに必要に応じてチップ全面にパッシベーション膜(不図示)を被着することも好ましい。
なお、上述した半導体基板のおもて面の形成工程の他に、半導体基板の裏面側の加工が必要である。この半導体基板裏面の形成工程は、公知の工程で行ってもよい。例えば下記のようになる(図示省略)。半導体基板の裏面側から半導体基板を耐圧によって決まる所要の厚さ(たとえば80〜120μm程度)になるように研磨する。次に、半導体基板の裏面に、n型バッファ層(または、n型フィールドストップ層)およびp型コレクタ層を、イオン注入ならびに熱処理によって形成する。その後、コレクタ電極を形成することにより、ウェハー段階の縦型IGBTが完成する。
次に、図19〜21を用いて、実施例3にかかるIGBTの特性によって得られる効果について説明する。図19は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の電気的特性を示す説明図である。図20,21は、実施例3にかかる半導体装置の電気的特性を示す特性図である。図19(a)には、実施例3にかかるトレンチゲート型IGBTのトレンチピッチ(Trench Pitch)と耐圧(Breakdown Voltage)との相関に関して調査した結果を示す。縦軸は、pn接合の理想耐圧値(Ideal pn junction=1)にて規格化した耐圧である。半導体基板(n型ドリフト領域11)として抵抗率が50Ωcmで厚さが120μmのFZ(Floating Zone)−N基板を適用した。
図19(b)に、図19(a)の結果を得るために適用したIGBTの断面構造を模式的に示す。図19(b)に示すIGBTは、半導体基板のコレクタ層側にn型フィールドストップ領域50を有する、FS−IGBT構造である。図19(a)において、トレンチピッチ24は、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23を0.8μmに固定し、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48を種々変更することで、例えば2〜6μmの間で種々変更している。また、ゲートトレンチ13の深さと、ゲートトレンチ13のp型ベース領域12内部にある部分の深さとの比m:nを、1:0.6としている。
図19(a)に示す結果から明らかなように、トレンチピッチ24が狭くなるほど耐圧が上昇し、pn接合の理想耐圧値(図19(a)の縦軸が1の場合)に近づいていることがわかる。実際のIGBTでは、半導体基板の比抵抗が50Ωcmで厚さが120μmのときの理想耐圧まで耐圧を大きくする必要はなく、一定以上の所定耐圧を出すことができれば実使用に耐え得る。このため、ある所定耐圧よりも大きくすることができた耐圧と所定耐圧との差分は、半導体基板の比抵抗を低くするか、または、最終の半導体基板の厚さを薄くすることに還元することができる。
半導体基板の比抵抗を低くすることは、IGBTのターンオフ振動を抑制するという効果を奏する。また、最終の半導体基板の厚さを薄くすることは、オン電圧かターンオフ損失のどちらかもしくは双方を小さくすることができ、両者のトレードオフの関係を改善できるという効果を奏する。特に、1200VクラスのFS−IGBTでは、トレンチピッチ24が3μm以下となる構成のおもて面構造を適用することで、比抵抗が50Ωcmで厚さが120μmの半導体基板の代わりに、同じく比抵抗が45Ωcmで厚さが115μmの半導体基板を用いることが可能である。
トレンチピッチ24を小さくすることは従来のIGBTでは難しい。例えばトレンチピッチ24を3μmとする場合を、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23が0.8μmであるので、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅を2.2μmとする必要がある。しかしながら、従来のIGBTのおもて面構造でメサ領域47のゲートトレンチの短手方向の幅を狭くするには、課題にて前述したように、より高価で微細加工可能な露光装置を適用するか、または複雑なプロセス工程(たとえば、前述のトレンチコンタクト)を適用する必要がある。すなわち、従来のIGBTでは、デザインルールが変わらない場合、トレンチピッチ24の最小値が5μmとなるから、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅の最小値は4.2μmとなってしまう。
一方、実施例3にかかるIGBTの場合、n型エミッタ領域を片方のゲートトレンチにのみ接するようにすればよいから、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅を短くすることができる。具体的には、実施例3にかかるIGBTのメサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅は、例えば従来のIGBTのメサ領域のゲートトレンチの短手方向の幅の1/3程度にあたる2.7μmとなり、トレンチピッチ24は3.5μmまで低減することが可能である。
実際には、p型コンタクト領域17のゲートトレンチ短手方向の幅も、従来のIGBTのp型コンタクト領域17のゲートトレンチ短手方向の幅より若干短くできるので、メサ領域47のゲートトレンチの短手方向の幅は、従来のIGBTのメサ領域のゲートトレンチ短手方向の幅の1/3よりもさらに短くすることができる。これよって、実施例3にかかるIGBTは、デザインルールが変わらない場合でも、3.0μmのトレンチピッチ24が可能となる。なお、実施例3にかかるIGBTでは、トレンチピッチ24が3μmの例を用いて説明を行ったが、トレンチピッチ24を4μm以下としてもよい。
トレンチピッチ24を4μm以下とすることが好ましい理由は、図19に示すトレンチピッチ24と耐圧との相関を示す図において、トレンチピッチ24が4μm以下の領域において、耐圧の上昇の度合いが鈍っているからである。トレンチピッチ24を4μm以下とすることで、耐圧が高いだけでなく、トレンチピッチ24の仕上がり長さに対して耐圧の変動を鈍感にすることができるので、トレンチピッチ24の仕上がり長さの誤差によって耐圧が大きく変わることを回避することができ効果的である。
さらに、ゲートトレンチの短手方向の幅23により、トレンチピッチ24も適宜変更可能である。例えば、実施例3にかかるIGBTでトレンチピッチ24が4μmの場合でゲートトレンチ13の短手方向の幅23が0.8μmであるとする。このとき、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23をトレンチピッチ24で割った値をγとおくと、γは、0.2である。露光装置等の製造装置によりゲートトレンチ13の短手方向の幅23を0.8μmよりも狭くすることができる場合には、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48もともに狭くする必要がある。
このようにメサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48を狭くする必要がある理由は、トレンチピッチ24に対するメサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48の比が増加し、γが0.2よりも大きくなると、ゲートトレンチ13の底部の電界強度が増加し易くなるからである。したがって、少なくともこのγが0.2以上であればよく、ゲートトレンチの短手方向の幅23に応じてトレンチピッチ24も適宜変更し、トレンチピッチ24に対するメサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48を維持するか、またはより狭くすることができるので、耐圧の低下を防ぐことができる。
例えば、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23が1.5μmであれば、γが0.2以上となるように、トレンチピッチ24を7.5μm以下とすればよい。また、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23が0.5μmであれば、γが0.2以上となるように、トレンチピッチ24を2.5μm以下とすればよい。さらにその上で、前述のようにトレンチピッチ24が4μm以下、好ましくは3μm以下とすることも可能である。
次に、実施例3にかかるIGBTのトレードオフ特性について説明する。図20は、実施例3にかかる半導体装置のオン電圧とターンオフ損失との関係について示す特性図である。図20には、実施例3にかかるIGBTと2種類の従来のIGBTにおいて、よく知られているオン電圧(On−State Voltage Drop)とターンオフ損失(Turn−off Energy)とのトレードオフ特性を比較した特性図を示す。実施例3にかかるIGBTの構造は、トレンチピッチ24が3μmであり、半導体基板の比抵抗および厚さがそれぞれ45Ωcmおよび115μmである(図20には実施例と示す。図21,40においても同様に実施例と示す)。
従来のIGBTについては、一つの従来のIGBTはトレンチピッチが3μmであり、半導体基板の比抵抗および厚さがそれぞれ45Ωcmおよび115μmである(以下、第1従来例のIGBTとする、図20には第1従来例と示す。図21,40においても同様に第1従来例と示す)。もう一つの従来のIGBTは、トレンチピッチが5μmであり、半導体基板の比抵抗および厚さがそれぞれ50Ωcmおよび120μmである(以下、第2従来例のIGBTとする、図20には第2従来例と示す)。
図20から明らかなように、まずトレンチピッチが5μmの第2従来例のIGBTは、他の2つのIGBT(実施例3にかかるIGBTおよび第1従来例のIGBT)と比べて、同一のオン電圧に対してターンオフ損失が30〜40%程度高い。すなわち、トレードオフ特性曲線は座標原点から最も遠く、トレードオフ特性が最も悪い。一方、実施例3にかかるIGBTは、同じトレンチピッチ(3μm)の第1従来例のIGBTよりも、ターンオフ損失において10%程度、トレードオフ特性曲線が原点側にあることが分かる。すなわち、本発明にかかるIGBTは、従来のIGBTよりも電気的損失を低減するという効果を奏する。
さらに、同じトレンチピッチ(3μm)の場合、第1従来例のIGBTを製造するには、本発明にかかるIGBT(例えば実施例3にかかるIGBT)よりも一層高価な半導体製装置や半導体プロセスなどを適用することが必要である。すなわち、第1従来例のIGBTは、プロセスコストが増大する。一方、本発明にかかるIGBTによれば、プロセスコストを増大させることなく、電気的損失を低減するという効果が得られる。以上の理由から、本発明にかかるIGBTは、従来のIGBTよりも電気的損失が小さくなるだけでなく、チップコストも安価に提供できることが可能となる。
次に、実施例3にかかるIGBTのターンオン特性について説明する。図21は、実施例3にかかる半導体装置のターンオフ特性について示す特性図である。図21(a)および図21(b)に、前述の実施例3にかかるIGBT(実施例)とトレンチピッチが3μmの従来のIGBT(第1従来例)についての、インダクタンス負荷条件でのターンオン波形例を示す。図21(a)にはターンオン初期のターンオン波形を示し、図21(b)にはターンオン後期のターンオン波形を示す。
また、図21(a)において、左側縦軸には、コレクタ電圧VCE(Collector Voltage)およびコレクタ電流IC(Collector Current)を示し、右側縦軸には、ゲート電圧VGE(Gate Voltage)を示す。図21(b)において、左側縦軸には、コレクタ電圧VCE(Collector Voltage)を示し、右側縦軸には、ゲート電圧VGE(Gate Voltage)を示す。
図21(a)に示すように、実施例3にかかるIGBTでは、ターンオン時のターンオン電流変化率(di/dt)が小さく抑制されている。そのため、ターンオンピーク電流も小さく、ソフトなターンオン波形となっている。ここでソフトなターンオンとは、ターンオン電流変化率(di/dt)とターンオンピーク電流が小さいことを示す。一方で、第1従来例のIGBTでは、ターンオン時のターンオン電流変化率(di/dt)が急激に大きくなっており、且つ、ターンオンピーク電流も大きく、いわばハードなターンオン波形となっている。
このようなIGBTのターンオン特性は、対抗アームのフリーホイーリングダイオード(FWD)の特性に影響を及ぼす。すなわち、実施例3にかかるIGBTを適用した場合には、FWDはソフトリカバリになり、第1従来例のIGBTを適用した場合には、FWDはハードリカバリとなる。ここでソフトリカバリとは、逆回復ピーク電流(絶対値がほぼターンオンピーク電流と同じ)が小さく、それ以降にて電流が減少するときの時間的な電流変化率も小さいことを示す。さらにダイオードのアノード・カソード間電圧のオーバーシュートも小さいことを示す。
ハードリカバリとは、これらの傾向とは逆の傾向を示す逆回復現象のことである。一般的に、FWDはハードリカバリになるほど破壊や波形の振動現象が発生しやすいため、ソフトリカバリであることが望まれる。この点に鑑みれば、実施例3にかかるIGBTの適用が好ましいことが分かる。なお当然、実施例3にかかるIGBTのみならず、本発明の他の実施例にかかるIGBTにおいても同様のFWDのソフトリカバリ効果を確認している。
次に、本発明にかかるIGBTのターンオン特性が向上した理由を説明する。本発明にかかるIGBT(例えば実施例3にかかるIGBT)のターンオン波形が、従来のIGBT(例えば第1従来例のIGBT)よりもソフトな波形となるのは、p型ベース領域がゲートトレンチ側壁と接している面積(Cies)と、エミッタ領域を除くn型領域(主としてn型ドリフト領域)がゲートトレンチ側壁と接している面積(Cres)との比率(以下、Cies/Cres比とする)の違いによる。
ターンオン初期の、コレクタ電流ICが増加している期間では、n型エミッタ領域を除くn型領域(主としてn型ドリフト領域)がゲートトレンチ側壁と接している領域に、ホール電流が流入する。その結果、前記ホールの流入領域の電位が上昇する。この電位の上昇量はゲート電位の上昇量より大きい。その結果、ゲート電位の増加によりゲート電極にチャージされる電荷量Qは、下記(1)式であらわされる。
ここで、Cox:ゲート酸化膜容量、V:電圧、である。Coxが時間的に一定であることを考慮して、上記(1)式の両辺を時間で微分し、微分した式に、I=dQ/dt、および、d(CoxV)/dt=Cox(dV/dt)、を代入すると、下記(2)式となる。
すなわち、電位変化による変位電流が、ゲート電極に流れ込むことになる。この変位電流はMOSチャネルを開ける方向に作用するため、Cies/Cres比の小さいIGBTほどゲート電圧VGEが上昇しやすくなる。その結果、(2)式において、dV/dtが増加する。すなわち、Cies/Cres比が小さくなれば、ゲート電圧VGEの上昇は抑えられる。一方で、一般的にIGBTは、短絡耐量を満足させるために、MOSゲートが持つ電流制限機能を利用し、IGBTの飽和電流値を制御している。飽和電流値Isatは、下記(3)式であらわされる。
ここで、μns:電子の表面移動度、Z:総エミッタ幅、αpnp:電流増幅率、LCH:総チャネル長、VG:ゲート電圧、Vth:しきい値、である。他の電気的特性(オン電圧、ターンオフ損失等)を変化させないように、飽和電流を一定にするためには、総チャネル長LCH、ゲートしきい値Vthを一定にし、総エミッタ幅Zを一定にする必要がある。
上記(3)式に対する条件を本発明にかかるIGBTに適用し、従来のIGBTの電気的特性を変化させないようにする場合、活性領域全体におけるn型エミッタ領域の面積(≒反転層チャネルの面積)は、従来のIGBTの2倍となる。そのため、入力容量(Cies)と帰還容量(Cres)との比率(Cies/Cres比)をβとしたときに、本発明にかかるIGBTのβは従来のIGBTと比較して約2倍となり、実効的にCresをほぼ半減させることができる。
Cies/Cres比であるβの低減が、ターンオン波形に良好な効果を及ぼす。一つは、上記(2)式において、ゲート電極に流入する電流を抑えることができるので、ゲート電圧VGEの上昇が抑えられる。もう一つは、ターンオン後期のコレクタ電圧VCEの終息を早くできることである。図21(b)に示すように、コレクタ電圧VCEは、実施例3にかかるIGBTの方が早く減少しており、素早く定常オン状態に近づいている。この理由は、図21(b)に示すゲート電圧(VGE)にあらわれているように、実施例3にかかるIGBTの方が第1従来例のIGBTよりも早くミラー期間が終了し、ゲート電圧VGEが駆動電圧である15Vに近づいているからである。
ミラー期間は、IGBTのCresに依存している。よってターンオンの早い終息は、本発明にかかるIGBTのβが、従来のIGBTよりも小さくなったことに起因する効果である。すなわち、本発明にかかるIGBTのβの低減効果は、n型エミッタ領域を除くn型領域(主としてn型ドリフト領域)がゲートトレンチ側壁と接している領域において、その接している領域の面積を小さくすることができたために奏する効果である。
次に、実施例3にかかるIGBTのターンオフ耐量について説明する。図40は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の電気的特性を示す特性図である。図40に、前述の実施例3にかかるIGBT(実施例)とトレンチピッチが3μmの従来のIGBT(第1従来例)についての、インダクタンス負荷条件でのターンオフ耐量の比較を示す。ターンオフ耐量とは、ある電源電圧にてターンオフできる最大のコレクタ電流値(図40には、最大ターンオフ電流値:Turn−off Current Capabilityと示す)のことである。
実施例3にかかるIGBTおよび第1従来例のIGBTともに、ゲート電圧は15Vであり、電源電圧は600Vであり、浮遊のインダクタンスは80nHである。図40に示すように、実施例3にかかるIGBTの方が、第1従来例のIGBTよりも1.2倍以上の電流を遮断することができることが分かった。この実施例3にかかるIGBTにおける効果は、前述のように、ゲートトレンチの底部に集中していたホール電流を分散させて、ターンオフ時の電界強度の増加を抑えたことにより奏する効果である。
次に、本発明の実施例4にかかるIGBTについて、図22を用いて説明する。図22は、本発明の実施例4にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。前記した本発明の基本構造に対する実施例4にかかるIGBTの変更点は、n型エミッタ領域16が左右両側のゲートトレンチ13と交互に接する周期を、p型ベース領域12を2つ分にしたことである。すなわち、1つのメサ領域内にそれぞれn型ドリフト領域11を介してゲートトレンチ長手方向に並列された4つのp型ベース領域12において、1つ目のp型ベース領域12内のn型エミッタ領域16を左側のゲートトレンチ13に接触させ、このp型ベース領域12の長手方向に隣り合う2つ目のp型ベース領域12内のn型エミッタ領域16を左側のゲートトレンチ13に接触させる。さらに、2つ目のp型ベース領域12に隣り合う3つ目のp型ベース領域12内のn型エミッタ領域16を右側のゲートトレンチ13に接触させ、この3つ目のp型ベース領域12に隣り合う4つ目のp型ベース領域12内のn型エミッタ領域16を右側のゲートトレンチ13に接触させる。このため、実施例4にかかるIGBTの単位胞の長周期は、p型ベース領域12のゲートトレンチ長手方向の長さ4つ分と、トレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域12間のn型ドリフト領域11のゲートトレンチ長手方向の長さ3つ分とを足し合わせた寸法となる。実施例4にかかるIGBTの単位胞の短周期は、実施例3にかかるIGBTの短周期と同様である。
したがって、実施例4にかかるIGBTの単位胞42内には、1つのメサ領域47内のゲートトレンチ長手方向に並ぶ4つのp型ベース領域12が含まれ、実施例4にかかるIGBTの単位胞42内のp型ベース領域12の個数は計4つとなる。このような単位胞42の構成としても、前述の実施例1にかかるIGBTと同様の効果を奏することができる。さらに、n型エミッタ領域16が左右両側のゲートトレンチ13と交互に接する周期を、p型ベース領域12を3つ以上としてもよい。
次に、好ましい実施の形態として、本発明の実施例5にかかるIGBTについて説明する。図23は、本発明の実施例5にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。図23は、図3(a)に示す片側配置構造を周期的に配置した場合の平面図である。図23に示すように、実施例5にかかるIGBTは、片側配置構造のIGBTである。片側配置構造のIGBTとすることで、実施例5にかかるIGBTの単位胞42の長周期は、p型ベース領域12のゲートトレンチ長手方向の長さと、ゲートトレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域12間の距離とを1つ分ずつ足し合わせた寸法である。実施例5にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、実施例3にかかるIGBTの短周期と同様である。このため、単位胞42内のp型ベース領域12の個数は1つとなる。メサ領域47に挟まれたゲートトレンチ13の両側壁のうち、一方の側壁にはn型エミッタ領域16が接触しないので、各ゲートトレンチ13において反転層チャネルが形成されない側壁が必ず存在するようになる。
図24は、図23に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図24は、図23に示す実施例5にかかるIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。図24に示すように、実施例5にかかるIGBTでは、ゲートトレンチ13の長手方向において、ホール電流が集まる領域41が、ホール電流が疎な領域43にて分断されているが、実施例3にかかるIGBTと同様に、ゲートトレンチの短手方向では、ホール電流が集まる領域41が連続的に形成されている。これによって、実施例3にかかるIGBTと同様の効果(IE効果の増強、ターンオフ時の電界強度分布とその正帰還の抑制、等)を奏する。
次に、本発明の実施例5にかかるIGBTの変形例である実施例6にかかるIGBTについて、図25,26を用いて説明する。図25は、本発明の実施例6にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。実施例6にかかるIGBTの、実施例5にかかるIGBTとの相違点は、隣り合うメサ領域47において、n型エミッタ領域16が接するゲートトレンチ13の紙面上の左右が逆になる点である。
図25に示すように、実施例6にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、p型ベース領域12のゲートトレンチ短手方向の幅と、ゲートトレンチ13の短手方向の幅とを2つ分ずつ足し合わせた長さである。実施例6にかかるIGBTの単位胞42の長周期は、実施例5にかかるIGBTの長周期と同様である。すなわち、実施例6にかかるIGBTの単位胞42は、実施例5にかかるIGBTの単位胞をゲートトレンチ短手方向に2つ隣接させた構造を単位構造としている。このため、実施例2にかかるIGBTの単位胞42内には、計2つのp型ベース領域12が含まれている。
図26は、図25に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図26は、図25に示す実施例6にかかるIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に示す平面図である。図26に示すように、実施例6にかかるIGBTにおいては、ゲートトレンチ13の長手方向と短手方向との両方において、ホール電流が集まる領域41が、ホール電流が疎な領域43にて分断されている。そのため、実施例6にかかるIGBTは、実施例5にかかるIGBTと比べてIE効果の増強度合いが若干弱くなる。しかし、実施例6にかかるIGBTは、従来のIGBTと比べると、ゲートトレンチ13のトレンチピッチが短くなり、且つ活性領域における反転層チャネルの面積も2倍程度大きくなっている。その結果、従来のIGBTよりもオン電圧が小さくなる。また、実施例6にかかるIGBTにおけるターンオフ時の電界強度の分散と正帰還の抑制の効果は、実施例5にかかるIGBTと同様である。
次に、本発明の実施例5にかかるIGBTの変形例である実施例7にかかるIGBTについて、図27および図28を用いて説明する。図27は、本発明の実施例7にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。実施例7にかかるIGBTの、実施例5にかかるIGBTとの相違点は、隣り合うメサ領域47において、p型ベース領域12が交互に配置された、市松模様状の配置になっている点である。このため、図27に示すように、実施例7にかかるIGBTの単位胞42内では、あるメサ領域47に配置されたp型ベース領域12は、このメサ領域47にゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47のn型ドリフト領域11に隣り合うように配置されている。
図28は、図27に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図28は、図27に示す実施例7にかかるIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41を模式的に図示した平面図である。図28に示すように、ゲートトレンチ13の長手方向と短手方向の両方において、ホール電流が集まる領域41が均等に配置されている。
すなわち、実施例7にかかるIGBTでは、ホール電流が疎な領域が形成されず、ホール電流が集まる領域41は、ホール電流が疎な領域に分断されない。そのため、実施例7にかかるIGBTは、実施例1にかかるIGBTと同様の、IE効果の増強の効果が得られ、その結果、十分小さいオン電圧が得られる。また、実施例7にかかるIGBTのターンオフ時の電界強度の分散と正帰還の抑制の効果は、実施例1にかかるIGBTと同様である。
次に、本発明の実施例7にかかるIGBTの変形例である実施例8にかかるIGBTについて、図29,30を用いて説明する。図29は、本発明の実施例8にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。実施例8にかかるIGBTの、実施例7にかかるIGBTとの相違点は、隣り合うメサ領域47において、n型エミッタ領域16が接するゲートトレンチ13の紙面上の左右が逆になる点である。図29に示すように、実施例8にかかるIGBTの単位胞42内では、ゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47内にそれぞれ配置されているn型エミッタ領域16が、それぞれ左側のゲートトレンチ13および右側のゲートトレンチ13に接触している。
図30は、図29に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図30は、図29に示す実施例8にかかるIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。図30に示すように、実施例8にかかるIGBTでは、ゲートトレンチ13の短手方向において、ホール電流が集まる領域41が、ホール電流が疎な領域43にて分断されている。一方、ゲートトレンチ13の長手方向では、ホール電流が集まる領域41が連続的に形成されている。
このような実施例8にかかるIGBTにおけるホール電流が集まる領域41とホール電流が疎な領域43との分布は、従来のIGBTに近いものである。しかし、実施例8にかかるIGBTは、従来のIGBTと比べると、ゲートトレンチ13のトレンチピッチが短くなり、且つ活性領域における反転層チャネルの面積も2倍程度大きくなっている。その結果、従来のIGBTよりもオン電圧が小さくなる。
また、実施例8にかかるIGBTは、ターンオフ時の電界強度の分散と正帰還の抑制の効果が従来のIGBTよりも格段に抑えられる。その理由は、ホール電流が疎な領域43がp型ベース領域ではなく、ゲートトレンチ13(1本おき)に形成されているためである。すなわち、従来のIGBTが全てのゲートトレンチ13にホール電流が集まる領域41が形成されるのに対し、実施例8にかかるIGBTは、1本おきのゲートトレンチ13にホール電流が集まる領域41が形成される。その結果、実施例8にかかるIGBTは、ホールの集中が緩和され、ゲートトレンチ13の底部における、ホールによる電界強度の増強が抑えられる。
ここで、実施例8にかかるIGBTと、実施例7実施例8にかかるIGBTおよび実施例1にかかるIGBTとにおけるオン電圧の相違について説明する。図31は、本発明の実施例1,7,8にかかる半導体装置の電気的特性を示す特性図である。図31は、上記3つの実施例1,7,8にかかるIGBTにおけるオン電圧(Collector Voltage)とコレクタ電流(Collector Current Density)曲線(I−V曲線)である。図31において、実施例1にかかるIGBTのI−V曲線は直線(交互配置)で示す。実施例7にかかるIGBTのI−V曲線は長点線(一方配置2)で示す。実施例8にかかるIGBTのI−V曲線は短点線(一方配置1)で示す。
実施例1,7,8にかかるIGBTのうち最もオン電圧が小さいのは、実施例1にかかるIGBTである。また、実施例7にかかるIGBTおよび実施例8にかかるIGBTは、オン電圧が近いが、実施例7にかかるIGBTのオン電圧の方が実施例8にかかるIGBTのオン電圧よりも小さい。実施例7にかかるIGBTのオン電圧が実施例1にかかるIGBTよりも大きいのは、全てのゲートトレンチ13において、ゲートトレンチ13の側壁のうち片方の側壁には反転層チャネルが形成されないためである。
すなわち、図28にて模式的に示した実施例7にかかるIGBTのホール電流が集まる領域41の分布において、ホールの集まり具合が実施例1にかかるIGBTのホール電流が集まる領域の分布よりも弱くなっている。このことから、n型エミッタ領域16のゲートトレンチ13への接し方は、どちらかといえば、左右のゲートトレンチ13に対して交互に接すること(例えば実施例1にかかるIGBT)が好ましい。勿論、実施例7,8にかかるIGBTのように、片側のゲートトレンチ13に接する場合も、従来のIGBTよりは好ましい作用効果が生じる。
次に、実施例9にかかるIGBTについて、図32を用いて説明する。図32は、本発明の実施例9にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。この実施例9にかかるIGBTは、これまで述べた全ての本発明の実施例にかかるIGBTに適用されるものである。実施例9にかかるIGBTは、図32(a)に示すようにp型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bに接している構造であってもよいし、図32(b)に示すようにp型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bとは若干の離間領域45を介して離間した構造であってもよい。
図32(a),32(b)に示す実施例9にかかるIGBTの構造のうちのどちらの構造においても、本発明の実施例にかかるIGBTにて上述したような様々な効果を奏する。特に、図32(a)に示すように、p型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bと接する構造は、ターンオフ時のホールの引き抜き(ホールが、p型ベース領域からp型コンタクト領域17を通ってエミッタ電極に抜けること)の効果を奏しやすい。
すなわち、図32(b)に示すようにp型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bから離れた構造は、p型コンタクト領域17とゲートトレンチ13bとの離間領域45に若干の抵抗分が発生するので、ゲートトレンチ13bに向うホールの割合が若干減少する。図32(a)に示すp型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bと接する構造は、p型コンタクト領域17とゲートトレンチ13bとの離間領域45に発生する抵抗分がないため、ラッチアップ耐量が少し高くなるので好ましい。
なお、これまでの実施例にかかるIGBTでは、定格電圧が1200Vの場合について説明したが、これに限らず、他の定格電圧、例えば600V、1700V、3300V、6500Vにおいても同様の効果を奏する。特に、3300V以上の所謂高耐圧クラスでは半導体基板の比抵抗が高い(100Ωcm以上)ため、ターンオフ時のホール濃度の増加が直接的に電界強度の増加を引き起こす。そこで、本発明にかかるIGBTを用いれば、ホール電流の集まる領域を均等に分散させて、特にゲートトレンチの底部において、ターンオフ時の電界強度の増加を抑えることができるので、より好ましくなる。
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(実施の形態)
本発明の実施の形態にかかる半導体装置を、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)を例に説明する。本実施の形態にかかる半導体装置は、IGBTに限らず、公知のユニポーラ・デバイスである絶縁ゲート型トランジスタ(MOSFET)にも適用が可能である。また、本実施の形態では、第1導電型をn型とし、第2導電型をp型として説明するが、n型とp型とを入れ替えても同様に動作させることが可能である。また、本発明の実施の形態および実施例では、半導体装置について、デバイス、素子、チップもしくは半導体チップという表現も用いているが、いずれも同じ対象を示している。
また、本発明の実施の形態および実施例におけるウェハーとは、チップに断片化する前のシリコン基板(半導体基板)である。半導体チップにおいて、「活性領域」とは、例えばIGBTのエミッタ電極が形成されていて、且つ電流を流すことができる領域である。「終端構造領域」とは、前記活性領域の端部からチップの外周側端部までの領域であり、素子に電圧が印加されたときに発生するチップ表面の電界強度を緩和させる構造部である。まず、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の基本的な構造について説明する。
(基本構造)
図1は、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の平面構造の要部(以下、基本構造部とする)を示す平面図である。本発明の基本構造は、以下の通りである。図1に示すように、n型ドリフト領域11となるウェハーの一方の主面(紙面に相当し、以下、おもて面と呼ぶ)に、ゲートトレンチ13がストライプ状に形成されている。図1にはストライプ状に配置された複数のゲートトレンチ13のうちの、隣り合う2本のゲートトレンチ13をゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bとして図示する。
ゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bの内壁にはゲート酸化膜14が形成され、さらにゲート酸化膜14の内側には導電性のゲート電極15が形成されている。隣り合うゲートトレンチ13の間には、p型ベース領域12aが形成されている。p型ベース領域12aは、ゲートトレンチ13aの側壁およびゲートトレンチ13bの側壁にそれぞれ形成されたゲート酸化膜14に接するように配置されている。
p型ベース領域12a表面層には、ゲートトレンチ13aに接するように、n型エミッタ領域16aが形成されている。ゲートトレンチ13aの長手方向に沿ったn型エミッタ領域16aの端部は、p型ベース領域12aの内側に収まるように配置されている。また、p型ベース領域12aの表面層には、ゲートトレンチ13aとは離間するように、p型ベース領域12aよりも高濃度のp型コンタクト領域17aが形成されている。n型エミッタ領域16aは、ゲートトレンチ13aに接している縁部とは反対側の縁部がp型コンタクト領域17aの内部にて終端するように配置されている。
本発明の実施の形態にかかる半導体装置(以下、本発明にかかるIGBTとする)を構成する上で必要な構成について説明する。p型ベース領域12aおよびn型ドリフト領域11の表面には、絶縁膜が形成されている。この絶縁膜により、n型エミッタ領域16aおよびp型コンタクト領域17aはゲート電極15と絶縁されている。そして、これらのn型エミッタ領域16aおよびp型コンタクト領域17aをエミッタ電極とコンタクトさせるために、絶縁膜にコンタクト開口部が形成されている。
n型ドリフト領域11となるウェハーの他方の主面(紙面の裏側に相当し、以下、裏面と呼ぶ)にはp型コレクタ領域が形成されている。n型ドリフト領域11とp型コレクタ領域との間には、n型ドリフト領域11およびp型コレクタ領域に接するn型フィールドストップ領域が形成されている。そして、ウェハーの裏面には、p型コレクタ領域と接するコレクタ電極が形成されている。図1においては、絶縁膜、エミッタ電極、p型コレクタ領域、n型フィールドストップ領域およびコレクタ電極は図示を省略する。
(本発明の基本構造の作用効果)
次に、本発明の基本構造の特徴とそれに伴う作用効果について説明する。図1に示した本発明の基本構造の特徴を、以下の(1)〜(3)に示す。(1)n型エミッタ領域16aは、p型ベース領域12aに接する2本のゲートトレンチ13a,13bのうち一方のゲートトレンチ13aにのみ接している。(2)n型エミッタ領域16aにおいて、他方のゲートトレンチ13bの側の縁部の全体もしくは一部が、p型コンタクト領域17aの内部にて終端している。(3)ゲートトレンチ13aの長手方向において、p型コンタクト領域17aの長さはn型エミッタ領域16aの長さよりも長い。以上、上記3つの特徴(1)〜(3)により、以下の4つの作用効果がある。
一つ目の作用効果は、少数キャリアの注入促進効果(IE効果)の増強である。まず、上記特徴(1)のように、n型エミッタ領域16aを一方のゲートトレンチ13aにのみ接するよう配置する。そして、上記特徴(2)のように、他方のゲートトレンチ13bの側におけるn型エミッタ領域16aの縁部を、p型コンタクト領域17aの内部にて終端するようにする。このような特徴(1)〜(3)を有するIGBTのゲート電極をオンの状態とし電流を流したときの動作を、上述した各特許文献に示す従来のIGBT(以下、従来のIGBTとする)と対比させて説明する。
p型コレクタ領域から注入されたホールは、ゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bに向かって流れる。このとき、従来のIGBTでは、ゲートトレンチ13bに向かうホールはp型ベース領域12aからn型エミッタ領域16aの下部を通る。一方、本発明にかかるIGBTにおいては、ホールがn型エミッタ領域16aの下部を通るだけではなく、p型ベース領域12aから直接p型コンタクト領域17aへと流れる。
また、後述するように、ゲートトレンチ13aの短手方向において、n型ドリフト領域11の幅が、従来のIGBTにおけるn型ドリフト領域の幅に比べて狭くなる。そのため、p型ベース領域12aの中心部分から、ホール電流の集まりが少ない部分(ホール電流が疎な領域)がなくなる。その結果、ホール電流の平面分布を平坦的にすることができ、IE効果が全体的に増加するので、オン電圧が低くなる。
上記の作用の中で重要な点は、MOSゲートの反転層チャネルの面積を従来のIGBTよりも小さくすることができ、且つIE効果を増強することができることである。本発明にかかるIGBTの上記特徴(1)のようにn型エミッタ領域16aが2本のゲートトレンチ13a,13bのうち片方のゲートトレンチ13aにのみ接している場合、従来のIGBTでは、上記課題にて述べたように、MOSゲートにより形成されるキャリアの反転層チャネルの面積が小さくなる。
そのため、従来のIGBTでは、活性領域全面における総チャネル長(あるいはチャネル密度)が小さくなり、オン電圧が増加するのが普通である。それに対して、本発明にかかるIGBTにおいては、少数キャリアによる電流の平面分布の平坦化により、総チャネル長が小さくなるとともに、IE効果を増強させることができる。総チャネル長が小さくなることにより、後述するように、飽和電流の低減とそれによる短絡耐量の向上を実現することができるという効果を奏する。
二つ目の作用効果は、寄生サイリスタ部分のラッチアップの抑制である。IGBTの寄生サイリスタは、n型エミッタ領域16a、p型ベース領域12a、n型ドリフト領域11およびp型コレクタ領域にて構成される。上述のようにn型ドリフト領域11に注入されたホールは、n型エミッタ領域16aの下部よりも、p型ベース領域12aを通りp型コンタクト領域17aへと流れるようになる。これにより、n型エミッタ領域16aの下部を通過するホール電流が減少し、p型ベース領域12aにおける電圧降下が小さくなる。そのため、寄生サイリスタがオンせず、ラッチアップが大きく抑制される。
三つ目の作用効果は、IGBTのターンオフ時にp型ベース領域とゲートトレンチ底部とに集中する電界強度の緩和である。まず、一般的なIGBTのターンオフ時における素子内部状態の変化について簡単に説明し、次に本発明にかかるIGBTの構造においてその変化がどのように改善されるのかを説明する。一般的に、IGBTは、ターンオフ時に、空間電荷領域がn型ドリフト領域とp型ベース領域とのpn接合からn型ドリフト領域の内部にわたって広がる。このとき、電界強度は空間電荷密度の空間勾配に比例するので、p型ベース領域のpn接合近傍およびゲートトレンチのn型ドリフト領域側の底部近傍において電界強度が増大する。
さらに、一般的なIGBTでは、ターンオフ時に、n型ドリフト領域に蓄積されていたホールが静電ポテンシャルの傾きに沿って空間電荷領域を駆け下りp型ベース領域に向かう。このとき、電磁気学にて知られるポアソンの式に従い、ホール密度が高い領域にて電界強度の空間勾配が増加する。すなわち、p型ベース領域のpn接合近傍およびp型ベース領域に隣接するゲートトレンチの底部において、これらのホールが電界強度を増強する。
一方、本発明にかかるIGBTでは、上記の一つ目の作用により、ホール電流の平面分布を平坦にし、且つ二つ目の作用により、ゲートトレンチ側壁の反転層チャネル近傍に集まっていた少数キャリアを、p型コンタクト領域の方に分散させている。すなわち、p型ベース領域のpn接合近傍およびp型ベース領域に隣接するゲートトレンチの底部において、ホール電流の密度を緩和することができる。その結果、ホールによる電界強度の増強を抑えることができる。さらに、例えば従来のIGBTにおいて課題としていた電界強度の正帰還も抑えられるので、定格より大きい電流と高電圧におけるターンオフにてトレンチの底部で破壊が生じる可能性を小さくすることができる。
四つ目の作用効果は、ミラー容量の低減である。このミラー容量の低減と飽和電流は密接な関係がある。本発明にかかるIGBTは、n型エミッタ領域16aが隣り合うゲートトレンチ13a,13bのうちの片側のゲートトレンチ13aの側壁部にのみ接する構造であるため、n型エミッタ領域16aが接するゲートトレンチ13の側壁部の長さが従来のIGBTに比べて半分になる。
一方、IGBTの短絡耐量を維持するためには、一定の面積(例えば活性領域全体の面積)の中に収まる総エミッタ長を従来のIGBTと同一にして、飽和電流値を同一にする必要がある。本発明にかかるIGBTの場合、ゲートトレンチ13の短手方向のピッチ(繰り返し周期の長さ)が約半分となるから、活性領域全体におけるn型エミッタ領域16aの面積(≒反転層チャネルの面積)は、従来のIGBTの2倍となる。
このようにn型エミッタ領域16aの長さが倍増することにより、p型ベース領域12aとゲートトレンチ13の側壁部との接触面積と、p型ベース領域12aとゲートトレンチ13の側壁との接触面積との比率が、従来のIGBTに対して約2倍になる。その結果、入力容量(Cies)と帰還容量(Cres)との比率(Cies/Cres)が、従来のIGBTと比較して約2倍となり、実効的にCresを半減させることと同等の効果を奏することが可能となる。このミラー容量低減の結果、ターンオン波形とターンオン損失とが改善される。
ターンオン初期段階では、IGBTのCres成分は、ゲート電極に対してゲート電圧を高める方向に、変位電流を発生させる。Cies/Cresの比が小さい場合、この変位電流によってゲート電圧が大きく上昇し、Cies/Cres比が大きい場合はゲート電圧の上昇は小さくなる。ターンオン初期段階のゲート電圧上昇は、ターンオンピーク電流の増加を誘発するため、ソフトスイッチングの観点に鑑みれば、Cies/Cres比は大きい方が望ましい。
然るに、本発明にかかるIGBTでは、従来のIGBTに対して、Cies/Cres比を約2倍にすることが可能であり、ターンオンのソフトスイッチングを実現することが可能となる。さらには、Cresの低減効果により、ターンオン時の、いわゆるミラー期間が短くなり、ターンオンを素早く終了させることが可能となる。
ここで図1を用いて、本発明にかかるIGBTの特徴(2),(3)について、2点補足をしておく。本発明にかかるIGBTの特徴(2),(3)についての1つ目の補足は、n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとの位置関係である。p型ベース領域12aの表面に形成されているn型エミッタ領域16aのうち、ゲートトレンチ13bとは接していない縁部の一部あるいは全てが、隣接するp型コンタクト領域17aの内部にて終端していることが必要である。
仮に、n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとが離間している場合、n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとが離間している部分(n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとの間)には、p型ベース領域12aがウェハー表面に露出する。このp型ベース領域12aは、p型コンタクト領域17aよりも不純物濃度が低いため、n型エミッタ領域16aとp型コンタクト領域17aとが離間した部分は高抵抗領域となる。そのため、ターンオフ過程において、ホールはp型コンタクト領域17aに集まり難くなる。その結果、前述のホールの分散効果が弱まってしまうので、n型エミッタ領域16aはp型コンタクト領域17aの内部にて終端している必要がある。
本発明にかかるIGBTの特徴(2),(3)についての2つ目の補足は、ゲートトレンチ13の長手方向における、n型エミッタ領域16aの長さとp型コンタクト領域17aの長さとの相互関係である。具体的には、ゲートトレンチ13の長手方向において、n型エミッタ領域16aの長さは、p型コンタクト領域17aの長さよりも短いことが好ましい。その理由は、次の通りである。本発明にかかるIGBTにおいて、ホールは2つの経路を流れる(以下、第1経路および第2経路とする)。n型エミッタ領域16aの長さをp型コンタクト領域17aの長さよりも短くすることで、この第2経路にてより一層効率よくホールを引き抜くことができるからである。
ホールの第1経路は、p型ベース領域12aの下部と、それに隣接するn型ドリフト領域11、およびゲートトレンチ13aの下部から、MOSゲートの反転層チャネルに向かって集まる経路である。以下、下部に第1経路が形成されるp型ベース領域12aを、主たるp型ベース領域12aとする。第2経路は、主たるp型ベース領域12aの近隣のp型ベース領域に形成されたp型コンタクト領域17aからエミッタ電極(不図示)に抜け出る経路である。ホールの第2経路にてより一層効率よくホールを引き抜くには、主たるp型ベース領域12aの第1経路に流れるホールがp型コンタクト領域17aを流れるようにシフトさせるとよい。
そのためには、反転層チャネルに近づくホールについて、n型エミッタ領域16aの下を通らずにp型ベース領域12aを通って、p型コンタクト領域17aに抜けるようにすればよい。このとき、ゲートトレンチ13の長手方向において、仮に、n型エミッタ領域16aの長さがp型コンタクト領域17aの長さよりも長い場合、反転層チャネルに近づくホールは常にn型エミッタ領域16aの下を通らないと、p型コンタクト領域17aに抜けることができない。
一方、ゲートトレンチ13の長手方向において、n型エミッタ領域16aの長さがp型コンタクト領域17aの長さよりも短い場合には、n型エミッタ領域16aの下部を通らないホールの割合が増える。その結果、上記のホールの第2経路にてより一層、ホールを引き抜くことができ、ホールの分散効果を強くすることが可能となる。したがって、n型エミッタ領域16aの長さをp型コンタクト領域17aの長さよりも短くすることで、この第2経路にてより一層効率よくホールを引き抜くことができる。
次に、本発明の基本構造をゲートトレンチの長手方向に2つ並列に配置した構造を有するIGBTについて説明する。本発明の基本構造を構成するp型ベース領域をゲートトレンチの長手方向に隣り合うように配置する場合、例えば、2本のゲートトレンチに対して、本発明の基本構造を構成する各n型エミッタ領域をそれぞれ異なるゲートトレンチに接するように配置してもよいし、本発明の基本構造を構成する各n型エミッタ領域を2本のゲートトレンチのどちらか一方のゲートトレンチのみに接するように配置してもよい。
(n型エミッタ領域の交互配置構造)
まず、本発明の基本構造を構成する各n型エミッタ領域を異なるゲートトレンチに接するように配置した構造(以下、n型エミッタ領域の交互配置構造とする)について説明する。図2は、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の基本構造部および電流経路を示す平面図である。図2(a)は、図1に示す本発明の基本構造をゲートトレンチ13の長手方向に並べて配置した平面図であり、後述する実施例1にかかるIGBTの構造である。図1に示す本発明の基本構造に対して追加した点は、下記の通りである。
まず、ゲートトレンチ13の長手方向において、p型ベース領域12bが、n型ドリフト領域11を介してp型ベース領域12aと隣り合うように配置されている。p型ベース領域12bは、図1に示すようなp型ベース領域12aを構成部とする1つの本発明の基本構造の、ゲートトレンチ13の長手方向に隣り合う他の本発明の基本構造を構成する。このp型ベース領域12bには、p型ベース領域12aと同様にn型エミッタ領域16bおよびp型コンタクト領域17bが形成されている。
後述する本願発明の実施例1にかかる半導体装置(以下、実施例1にかかるIGBTとする。本発明の他の実施例にかかる半導体装置についても同様に実施例にかかるIGBTとする)では、n型エミッタ領域16bを、ゲートトレンチ13bの側壁に設けられたゲート酸化膜14に接触させる。すなわち、n型エミッタ領域16bは、p型ベース領域12aおよびp型ベース領域12bに隣接するゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bに対して、n型エミッタ領域16aが接するゲートトレンチとは反対側のゲートトレンチに接するように配置している。
このようなn型エミッタ領域16a,16bの配置は、隣り合うゲートトレンチ13a,13bの対向する側壁に、n型エミッタ領域を「交互に」接するように配置した構造といえる。以降、図2(a)に示すIGBTの構造を「交互配置構造」とする。このようにn型エミッタ領域を交互に配置したことにより、p型ベース領域12a,12bと接するゲートトレンチ13aおよびゲートトレンチ13bのいずれの側壁においても、反転層チャネルが形成されるようになる。
図2(b)は、図2(a)に示す本発明の交互配置構造のIGBTの平面図に、ホール電流のフロー40およびホール電流が集まる領域41を模式的に図示した平面図である。交互配置構造のIGBTにおいては、ターンオフ時に裏面のp型コレクタ領域からn型ドリフト領域11に流入し例えばあるp型ベース領域12aに向うホールは、通常、図2(b)に示すように、それ自身の主たるp型ベース領域12aに向って流れ、このp型ベース領域12aに引き抜かれる。この引き抜きの機構は、他のp型ベース領域12bについても当然なりたつ。
(n型エミッタ領域の片側配置構造)
次に、n型エミッタ領域を隣り合うゲートトレンチのうちのどちらか一方(片側)のゲートトレンチにのみ接するように配置する構造(片側配置構造)について説明する。図3は、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の基本構造部およびの電流経路を示す平面図である。図3(a)は、後述する実施例5にかかるIGBTの基本構造を示す平面図である。n型エミッタ領域16aとn型エミッタ領域16bとが、一方の同じゲートトレンチ13aにのみ接している。すなわち、一つのメサ領域47において、n型エミッタ領域16aが、隣り合うゲートトレンチ13a,13bのうちの片側のゲートトレンチ13aにのみ配置されている。以降、図3(a)に示すIGBTの構造を、「片側配置構造」とする。
n型エミッタ領域を片方のゲートトレンチにのみ接するように配置したことで、反転層チャネルは、p型ベース領域12aの、片方のゲートトレンチ13aの側壁に接する領域にのみ形成される。図3(b)は、図3(a)に示す本発明の片側配置構造のIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40と、ホール電流が集まる領域41とを模式的に図示した平面図である。図3(b)に示すように、片側配置構造のIGBTは、前述の交互配置構造のIGBTとは異なり、片方のゲートトレンチ13aにのみ、ホール電流が集まる領域41が形成される。
(最隣接の基本構造との相互作用)
本発明の構造では、上述の作用効果だけではなく、図1、図2あるいは図3に示す基本構造により、もしくは基本の配置構造を複数にわたり規則的に配置することにより、本発明のみに見られる新たな効果を奏する。図4は、本発明の実施の形態にかかる半導体装置の基本構造部および電流経路を示す平面図である。図4(a)は、図2(a)に示す交互配置構造のIGBTにおいて、ゲートトレンチ13bを介してp型ベース領域12aに隣り合うメサ領域47まで広げて図示した平面図である。あるメサ領域47に配置されたp型ベース領域12cは、このメサ領域47にゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47の、p型ベース領域12aとp型ベース領域12b間のn型ドリフト領域11に隣り合うように配置されている(以下、市松模様状の配置とする)。
図4(b)は、図4(a)に示す本発明の基本構造の平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40と、ホール電流が集まる領域41とを模式的に図示した平面図である。図4(b)に示すように、本発明にかかるIGBTの場合、近隣のp型ベース領域12cに向うホールも、主たるp型ベース領域12aに設けられたp型コンタクト領域17aから引き抜くことができる。近隣とは、以下の通りである。まず、主たるp型ベース領域12aを考える。この主たるp型ベース領域12aが接しているゲートトレンチ13bを介して隣のメサ領域47にある複数のp型ベース領域(p型ベース領域12c以外のp型ベース領域は図示省略)のうち、主たるp型ベース領域12aから最隣接のp型ベース領域12cまでの長さの範囲にある領域のことである。
このような、最隣接あるいは近隣のp型ベース領域12cに集まるホールの一部も主たるp型ベース領域12aから引き抜くという作用効果について、図4および図33を用いて詳細に説明する。上述したように、図33(a)は、従来のIGBTを示す平面図であり、図33(b)は、図33(a)に示す従来のIGBTの平面図に、ホール電流のフロー40およびホール電流が集まる領域41を模式的に図示した平面図である。本発明にかかるIGBTでは、上述したように、p型コレクタ領域からn型ドリフト領域11に注入されたホールがp型コンタクト領域17aに至る経路が主に2つある(ホールの第1,2経路)。
ホールの第1経路は、主たるp型ベース領域12aの下部と、それに隣接するn型ドリフト領域11、およびゲートトレンチ13aの下部から、MOSゲートの反転層チャネルに向かって集まる経路である。この第1経路は、一般的なトレンチゲート型IGBTにおけるホールの経路と同じである。本発明にかかるIGBTの場合、例えば主たるp型ベース領域12aに着目すると、注入されたホールは、p型ベース領域12aに接するゲートトレンチ13aの側壁に向かって集まる。ホールの多くはゲートトレンチ13aの底部に向ってホール電流のフロー40のように流れて、反転層チャネルに接するp型ベース領域12aの側壁を経由する。
このようにして、ホール電流が集まる領域41aが形成される。ホール電流が集まる領域41aに集まったホールは、n型エミッタ領域16aの下部を経由してp型コンタクト領域17aに流れる。一方、従来のIGBTの場合も、図33(b)に示すように、ホールの多くはゲートトレンチ13の底部に向って集まり、反転層チャネルに接するp型ベース領域12の側壁を経由する。このようにして、ホール電流が集まる領域41が形成される。これらの集まったホールは、n型エミッタ領域16の下部を経由してp型コンタクト領域17に流れる。
ホールの第2経路は、p型ベース領域12cに流入するホールがそのp型ベース領域12cではなく、近隣のp型ベース領域12aに形成されたp型コンタクト領域17aから図示しないエミッタ電極に抜け出る経路である。この第2経路は、図4(b)にホール電流のフロー40aで示す経路であり、本発明にかかるIGBTでのみ得られる経路である。その理由は、次のとおりである。従来のIGBTの場合、上述のようにホールの多くは反転層チャネルに引き寄せられる。さらに、従来のIGBTの場合、ゲートトレンチ13に接するp型ベース領域の2つの側壁にはいずれもn型エミッタ領域が形成されている。このため、従来のIGBTでは、本願発明にかかるIGBTに形成されるホールの第2経路と同じ経路を経由して引き抜かれるホールは極めて少なく、ホールの第2経路は形成されないに等しい。
一方、本発明にかかるIGBTは、図4(b)に示すように、主たるp型ベース領域12aに、n型エミッタ領域16aと離間するゲートトレンチ13bが接している。このゲートトレンチ13bのp型ベース領域12aと接する側壁には、電子の反転層チャネルは形成されない。そのため、ホールはゲートトレンチ13bと接する別の最隣接のp型ベース領域12cに形成された反転層チャネルに向うようになる。これにより、ゲートトレンチ13bの底部に集まるホールは、ゲートトレンチ13cに隣接するn型ドリフト領域11の表面に一度蓄積された後に、この最隣接のp型ベース領域12cだけではなく、主たるp型ベース領域12aにも流入するからである(ホール電流のフロー40a)。
そして、ホールは、p型コンタクト領域17aを経由してエミッタ電極に引き抜かれるようになる。すなわち、ゲートトレンチ13bの近傍に集まっていたホール(ホール電流が集まる領域41c)は、最隣接のp型ベース領域12cだけでなく(ホール電流のフロー40c)、主たるp型ベース領域12aにも分散される。このような最隣接あるいは近隣のp型ベース領域同士のホールのやり取り(相互作用)を、以降、ホールの分散効果とよぶことにする。このホールの分散効果は、周期的に配置されたすべてのp型ベース領域においても生じる。
結果として、任意のp型ベース領域においても、n型エミッタ領域の下部に集中していたホールは分散される。そのため、寄生サイリスタのラッチアップが生じにくくなる。なお、上記のホール分散効果は、図4にて示した交互配置構造のIGBTのみならず、図3に示す片側配置構造のIGBTにおいても奏することは明らかである。その理由は、例えば、仮に、図4に示す交互配置構造のIGBTのn型エミッタ領域16cがゲートトレンチ13bではなくゲートトレンチ13aに接しているとしても、ホール電流のフロー40aは、n型エミッタ領域16cがゲートトレンチ13bに接している場合と同様に生じるからである。
さらに上記ホールの分散効果は、後述するようにp型ベース領域12cがゲートトレンチ13bを介してp型ベース領域12aとp型ベース領域12bの間に位置している場合においても(図4に示すIGBT)、または、これらのp型ベース領域の隣に位置している場合においても(例えば後述する図12に示すIGBT)、変わらず奏することは明らかである。すなわち、主たるp型ベース領域12aからみて、近隣のp型ベース領域12cは十分近い(最隣接)ので、近隣のp型ベース領域12cに向うホールも主たるp型ベース領域12aにて引き抜くことができる。
以上の効果、すなわち、最隣接のp型ベース領域12bに向って流れるホールをも主たるp型ベース領域12aから引き抜くことができる、という効果は、本発明の基本構造を有するIGBTにて初めて見出された効果である。換言すれば、本発明の基本構造は、従来のIGBTのいずれからも予想することのできない効果を奏する。
次に、本発明の実施例1にかかるIGBTについて、図5を用いて説明する。図5は、本発明の実施例1にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。図5は、図2(a)にて示した交互配置構造を複数にわたり周期的に配置したときの平面図である。実施例1にかかるIGBTの構造は、以下の通りである。ゲートトレンチ13とp型ベース領域12とを単位構造とする。この単位構造を、ゲートトレンチ13の短手方向および長手方向に周期的に繰り返し配置し、本発明にかかるIGBTの活性領域が形成される。図5に示すように、この単位構造(図5において点線で囲む領域。以下、単位胞とする)42内には、所定個数のp型ベース領域12が規則的に配置されている。
実施例1にかかるIGBTの単位胞42内には、図4(a)に示す交互配置構造となるようにp型ベース領域12a,12bが配置されている。ゲートトレンチ13を挟んで互いに隣り合うメサ領域47aとメサ領域47bとで、p型ベース領域12a,12bの配置が異なるので、実施例1にかかるIGBTの単位胞42の、ゲートトレンチ13の短手方向の長さ(以下、短周期とする)は、メサ領域47aおよびメサ領域47bのゲートトレンチ短手方向のそれぞれの幅と、ゲートトレンチ13の短手方向の幅2つ分とを足し合わせた寸法となる。実施例1にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、10μm以下程度であり、例えば5μmであってもよい。
そして、実施例1にかかるIGBTの単位胞42の、ゲートトレンチ13の長手方向の長さ(以下、長周期とする)は、p型ベース領域12aおよびp型ベース領域12bのゲートトレンチ長手方向のそれぞれの長さと、ゲートトレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域12aおよびp型ベース領域12b間の距離2つ分とを足し合わせた寸法となる。
このため、実施例1にかかるIGBTの単位胞42内には、メサ領域47a内に配置されゲートトレンチ長手方向に隣り合う2つのp型ベース領域12a,12bと、これらメサ領域47a内の2つのp型ベース領域12a,12bに挟まれたn型ドリフト領域11にゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47b内のp型ベース領域と、このメサ領域47b内のp型ベース領域のゲートトレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域との計4つのp型ベース領域12が含まれている。
p型ベース領域12のゲートトレンチ長手方向の長さは50μm以下程度であり、例えば8μmであってもよい。p型ベース領域12の寸法は、IGBTの特性と設計デザインルールに依存する。ゲートトレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域12aおよびp型ベース領域12b間の距離は10〜100μm程度であり、例えば30μmであってもよい。
図5では単位胞42を示す破線がメサ領域47a内のp型ベース領域12aを横切るように図示されているが、メサ領域47a内のp型ベース領域12bのゲートトレンチ長手方向の一方の端部側および他方の端部側にそれぞれ隣り合うp型ベース領域の、単位胞42内の部分のゲートトレンチ長手方向の長さを足し合わせた長さが、p型ベース領域12aのゲートトレンチ長手方向の長さとなっている(以下、図7,9,12,23,25,27,29に示す単位胞内に図示された、単位胞42を示す破線が横切るp型ベース領域12のゲートトレンチ長手方向の長さも同様である)。
実施例1にかかるIGBTにおける作用効果の要点は2つある。実施例1にかかるIGBTの一つ目の作用効果の要点は、ホール濃度およびその電流密度の分布を、2本のゲートトレンチ13の間において均一に分布させることができる点である。この一つ目の作用効果について、図6および図37を用いて説明する。図6は、図5に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図6は、図5に示す実施例1にかかるIBGTの平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。
図37に示す従来のIGBTの場合、上述したように、ホール電流が集まる領域41は、ゲートトレンチ13の短手方向に連続的に分布せず、p型ベース領域12およびホール電流が疎な領域43にて分断されている。一方、実施例1にかかるIGBTの場合、図6に示すように、ホール電流が集まる領域41とホール電流が疎な領域43は、活性領域において分散している。すなわち、実施例1にかかるIGBTにおいては、ホール電流が集まる領域41は、ゲートトレンチ13の短手方向において、ホール電流が疎な領域43に分断されていない。あるメサ領域47aにおいて、それぞれのp型ベース領域12に形成されているn型エミッタ領域16は、両サイドに接するゲートトレンチ13に対して、交互に接する。そのため、反転層チャネルも、n型エミッタ領域16の配置と同様に交互に分布する。
このように、実施例1にかかるIGBTにおいては、図6に矢印で示すホール電流のフロー40のようにホール電流が流れるので、ホール電流が集まる領域41は、規則的に分散される。また、ホール電流が疎な領域43も規則的に分散し、ゲートトレンチ長手方向に隣り合う2つのホール電流が集まる領域41、およびゲートトレンチ短手方向に隣り合う4つのホール電流が集まる領域41の、計6つのホール電流が集まる領域41で囲まれる部分に制限される。
すなわち、ホール電流が集まる領域41は、ホール電流が疎な領域43に囲まれないのでホール電流が疎な領域43によっては分断されず、ゲートトレンチ13の短手方向にて連続的に分布するようになる。その結果、実施例1にかかるIGBTは、従来のIGBTとは異なり、ゲートトレンチ13を跨いで、隣り合うホール電流が集まる領域41が相互にホールを供給するようになり、ホール濃度が高くなる。すなわち、IE効果を最大限に高くすることができる。
このような、ホール電流が集まる領域41がゲートトレンチ13の短手方向にて連続的に分布するようになる効果は、従来のIGBTのいずれからも得られない効果である。また、このホール濃度およびホール電流密度の均一分布は、上述した本発明の基本構造における特徴(2)の作用効果とも関連している。すなわち、任意のp型ベース領域において、その近隣のp型ベース領域からもホール電流が流れる第2経路ができることで、ホールを近隣のp型ベース領域と相互に供給しあう経路ができる。
実施例1にかかるIGBTの2つ目の作用効果の要点は、ターンオフ時の電界強度の緩和である。上述したように、従来のIGBTでは、ターンオフ時には反転層チャネルの付近にホールが集まり、且つホールが集まるところの電界強度が増強される。すなわち、従来のIGBTの場合、図37に示すように、ホール電流が集まる領域41がゲートトレンチ13の長手方向に沿って集中的且つ連続的に形成される。そのため、ゲートトレンチ13の底部のホール電流密度は増加し、電界強度がさらに増強される。また、増加した電界強度の値がアバランシェ電流を発生する臨界電界強度程度に達すると、ホールの増加により電界強度の正帰還も生じる可能性がある。
一方、実施例1にかかるIGBTの構造では、n型エミッタ領域16aを交互配置構造とし、且つ複数の交互配置構造を周期的に配置することで、前述のホールの分散効果が得られる。さらに、図6に示すように、ゲートトレンチ13の長手方向において、ホール電流が集まる領域41が形成されない部分を形成することができる。その結果、ホール電流が集まる領域41を近隣のp型ベース領域に分散することができるため、ゲートトレンチ13の底部へ集中していたホール電流の密度が緩和される。以上のように、実施例1にかかるIGBTは、ホール電流の集中に起因した電界強度の増強とその正帰還も、十分抑えることが可能となる。
つぎに実施例1にかかるIGBTの構造における、その他の特徴を説明する。その一つ目の特徴は、複数のp型ベース領域12の配置方法である。図5において、あるp型ベース領域12aおよびp型ベース領域12bが形成されているメサ領域47aと、このメサ領域47aにゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47bとを考える。メサ領域47aのp型ベース領域12aが形成されている領域に対して、メサ領域47bの、ゲートトレンチ13を介してp型ベース領域12aと隣り合う領域には、n型ドリフト領域11が形成されている。
すなわち、図5に示すように、複数のp型ベース領域12が、市松模様のように配置されていることが好ましい。このようにp型ベース領域12を市松模様状に配置することで、図6に示すように、ホール電流の集まる領域41が、ホール電流が疎な領域43に分断されずに、ゲートトレンチ13の長手方向および短手方向の両方向に連続的に分布するようになる。これにより、IE効果を最大限に高くすることができ、且つホール電流が集まる領域41も適度に分散させることが可能となる。
次に、本発明の実施例2にかかるIGBTについて、図7を用いて説明する。図7は、本発明の実施例2にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。実施例2にかかるIGBTの構造は、以下の通りである。実施例2にかかるIGBTの実施例1に対する相違点は、2つ隣りのメサ領域におけるn型エミッタ領域の位相である。n型エミッタ領域16の位相とは、ゲートトレンチ13の長手方向において、n型エミッタ領域16が交互に且つ周期的に接するゲートトレンチ13の、左右の順番のあらわれ方である。
n型エミッタ領域16の位相の、左右の順番の具体例について、隣り合う2本のゲートトレンチ13間に形成されるn型エミッタ領域16が、紙面右側に隣り合う一方のゲートトレンチ13に接する場合を右側の順番とし、紙面左側に隣り合う他方のゲートトレンチ13に接する場合を左側の順番として説明する。
例えば、ある1つのメサ領域47aのn型エミッタ領域が接するゲートトレンチ13の左右の順番が、最初が右側で次が左側であるとする。そのとき、隣のメサ領域47bにおいて、n型エミッタ領域が接するゲートトレンチ13の左右の順番も、最初が右側で次が左側であれば、その位相は同じである(同位相)とする。一方、隣のメサ領域47bにおいて、逆に最初が左側で次が右側であれば、その位相は逆である(逆位相)とする。
より具体的には、図7に示す実施例2にかかるIGBTについては、あるメサ領域47aのp型ベース領域12aにおけるn型エミッタ領域16aが、例えば右側のゲートトレンチ13aに接しているとする。このとき、メサ領域47aからみて、ゲートトレンチ13a、メサ領域47bおよびゲートトレンチ13bを介して隣り合うメサ領域47c(2つ隣のメサ領域47c)における、p型ベース領域12cのn型エミッタ領域16cは、n型エミッタ領域16aとは反対に左側のゲートトレンチ13bに接している。
この場合、実施例2にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、実施例1にかかるIGBTの単位胞の短周期よりも、メサ領域のゲートトレンチ短手方向の幅とゲートトレンチの短手方向の幅とをそれぞれ2つ分ずつ足し合わせた幅だけ長くなる。すなわち、実施例2にかかるIGBTの単位胞42は、実施例1にかかるIGBTの単位胞をゲートトレンチ短手方向に2つ隣接させた構造を単位構造としている。このため、実施例2にかかるIGBTの単位胞42内には、8つのp型ベース領域12が含まれている。
実施例2にかかるIGBTの作用効果を、図8を用いて説明する。図8は、図7に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図8は、図7に示す実施例2にかかるIGBTの平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。実施例2にかかるIGBTの実施例1(図4)との相違点は、ホール電流が集まる領域41とホール電流が疎な領域43とがゲートトレンチ13の長手方向に対して斜めの状態で周期的に分布する点である。
ゲートトレンチ13の短手方向におけるホール電流が疎な領域43の周期は、図7に示す単位胞42の繰り返し周期と同じである。そのため、実施例2にかかるIGBTは、実施例1にかかるIGBTとは異なり、ホール電流が集まる領域41はホール電流が疎な領域43で分断される。しかし、実施例2にかかるIGBTは、従来のIGBTに比べると、ホール電流が疎な領域43の周期は長くなるので、ホール電流が集まる領域41が分断されたとしても、実施例1と同様の効果が得られる。
図9は、本発明の実施例2にかかる半導体装置の別の一例の要部を示す平面図である。図9に示すIGBTは、図7に示すIGBTと等価な構造を有する変形例である。図9に示す構造のIGBTも実施例2にかかるIGBTの一例である。図9に示す実施例2にかかるIGBTの、図7に示すIGBTとの相違点は、p型ベース領域12aの隣のメサ領域47bにおける、p型ベース領域12bのn型エミッタ領域16bの位相が、図7に示すp型ベース領域12bのn型エミッタ領域16bの位相とは逆になっている点である。
この図9に示す実施例2にかかるIGBTの作用効果を、図10を用いて説明する。図10は、図9に示す半導体装置の電流経路について示す平面図である。図10は、図9に示す実施例2にかかるIGBTの変形例の平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。図10に示すIGBTの電流経路の、図8に示すIGBTの電流経路との相違点は、ホール電流が集まる領域41およびホール電流が疎な領域43が、ゲートトレンチ13の長手方向に対して線対称に分布する点である。ゲートトレンチ13の短手方向におけるホール電流が疎な領域43の周期は、図8に示すIGBTの場合と同じである。そのため、図9,10に示すIGBTは、図7,8に示すIGBTと同じ効果が得られ、構造的に図7,8に示すIGBTと等価である。
次に、本発明の実施例3にかかるIGBTについて、図11、図12、および図13を用いて説明する。図11は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の要部を示す説明図である。図11(a)は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。図11(b)は、図11(a)の切断線A−A’における断面図である。実施例3にかかるIGBTの実施例1に対する相違点は、p型ベース領域12の配置が市松模様状ではなく、ストライプ状であるという点である。すなわち、実施例3にかかるIGBTでは、あるp型ベース領域12からみて、ゲートトレンチ13を介して隣のメサ領域には、n型ドリフト領域ではなくp型ベース領域12が形成されている。
図11(b)に示すように、図11(a)の切断線A−A’における断面において、隣り合うゲートトレンチ13の間にはすべてp型ベース領域12が形成されている。ゲートトレンチ13の内壁にはゲート酸化膜14が形成され、さらにゲート酸化膜14の内側にはゲート電極15(例えば、導電性多結晶シリコン)が形成されている。隣り合うゲートトレンチ13の間には、p型ベース領域12がゲートトレンチ13よりも浅く形成されている。隣り合うゲートトレンチ13のうち片方のゲートトレンチ13のみに接するようにn型エミッタ領域16が形成されている。
n型エミッタ領域16のゲートトレンチ13に接していない側は、p型コンタクト領域17の内側にて終端している。n型エミッタ領域16は、p型コンタクト領域17よりも浅く形成されている。ゲートトレンチ13の上面と半導体基板のおもて面には、絶縁膜18が形成され、コンタクト開口部46にて開口されている。半導体基板のおもて面と絶縁膜18の上面には、エミッタ電極19が形成され、コンタクト開口部46を介してp型コンタクト領域17およびn型エミッタ領域16と電気的に接続している。
n型ドリフト領域11となる基板の裏面側(紙面の下方)には、n型ドリフト領域11と接するようにn型フィールドストップ領域50と、n型フィールドストップ領域50と接するp型コレクタ領域51とが形成されている。そして、基板の裏面には、p型コレクタ領域51と接するコレクタ電極22が形成されている。
図12は、図11に示す半導体装置の平面構造の要部を示す平面図である。図12は、図11(a)に示す半導体装置の平面構造を縮小した平面図である。図12に示すように、p型ベース領域12はストライプ状に形成されている。実施例3にかかるIGBTの単位胞42の面積は、実施例1および実施例2にかかるIGBTの単位胞よりも小さい。具体的には、実施例3にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅と、ゲートトレンチ13の短手方向の幅とを1つ分ずつ足し合わせた寸法となる。実施例3にかかるIGBTの単位胞42の長周期は、実施例1,2にかかるIGBTの長周期と同様である。このため、実施例3にかかるIGBTの単位胞42内には、1つのメサ領域47内のゲートトレンチ長手方向に隣り合う2つのp型ベース領域12が含まれ、実施例3にかかるIGBTの単位胞42内のp型ベース領域12の個数は計2つとなる。
図12に示す実施例3にかかるIGBTおける作用効果を、図13を用いて説明する。図13は、図12に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図13は、図12に示す実施例3にかかるIGBTの平面図に、ゲートがオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。
図12に示す実施例3にかかるIGBTの、図4に示すIGBTとの相違点は、ホール電流が集まる領域41がゲートトレンチ13の短手方向にて連続的に分布しているが、同じくホール電流が疎な領域43も短手方向にて連続的に分布している点である。すなわち、ホール電流が集まる領域41は、ゲートトレンチ13の長手方向において、ホール電流が疎な領域43によって分断されている。しかし、ゲートトレンチの短手方向にはホール電流が集まる領域41が連続しているので、実施例3にかかるIGBTにおいてもIE効果は十分強くなる。また、実施例3にかかるIGBTは、ゲートトレンチ13にはホール電流が疎な領域43が形成されているので、前述のようなターンオフ時の電界強度増加も抑えることができる。
(製造方法)
次に、実施例3にかかるIGBTの製造方法について説明する。図14は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の製造途中の断面構造の要部を示す断面図である。図15〜18は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の製造途中の断面構造の要部を示す説明図である。本発明にかかるIGBTの製造工程の多くは、基本的には従来のIGBTと同じである。まず、図14(a)に示すように、例えば比抵抗が約50Ωcmのn型の半導体シリコンからなる半導体基板を用意する。この半導体基板は、後にIGBTのn型ドリフト領域11となる。半導体基板のおもて面の面方位は例えば(100)面である。
そして、半導体基板のおもて面に、図示省略する公知のガードリング層(セル領域の周囲に形成されて基板おもて面での電界緩和機能を有する終端構造の一種)を形成する。ガードリング層を形成するための熱処理の際に、図14(b)に示すように酸化膜30を形成する。そして、ホトリソグラフィの工程により、この酸化膜30に開口部を形成する。
次に、酸化膜30をマスクとして所定の深さまで半導体基板(後のn型ドリフト領域11)をエッチングすることにより、ゲートトレンチ13を形成する。実施例3にかかるIGBTの作製(製造)では、例えば、酸化膜30に開口幅が0.8μmの開口部を5μm間隔で設け、異方性のRIE(Reactive Ion Etching)エッチングをすることでゲートトレンチ13を形成する。
次に、図14(c)に示すように、酸化処理によりゲートトレンチ13の内部に図示しない犠牲酸化膜を形成する。この犠牲酸化膜は、半導体基板へのゲートトレンチ13形成に伴って形成される内表面欠陥層を除去するために形成される。次に、この犠牲酸化膜を除去することによりゲートトレンチ13形成により形成される内表面欠陥層を除去する。そして、一旦、活性領域の酸化膜を全て除去し、その後、ゲート酸化膜14の形成を行う。この酸化工程により、ゲートトレンチ13の内部に膜厚が80〜120nmのゲート酸化膜14が形成される。
次に、ゲート電極15となる多結晶シリコン膜を、減圧CVD法により半導体基板上の全面に形成する。多結晶シリコン膜の膜厚は、例えば0.5〜1.0μmである。多結晶シリコン膜の成長時に、リン(P)やボロン(B)等の不純物原子をドープし、多結晶シリコン膜の電気抵抗を小さくする。この多結晶シリコン膜形成の結果、ゲートトレンチ13の内部にゲート電極15が埋め込まれる。
次に、異方性または等方性のガスエッチングにより、多結晶シリコン膜(ゲート電極15)をエッチバックする。半導体基板(n型ドリフト領域11)の表面にゲート酸化膜14が露出した段階で、多結晶シリコン膜のエッチングを停止する。多結晶シリコン膜のエッチバックにより、図14(c)に示すようにゲートトレンチ13の内部に埋め込まれたゲート電極15が形成される。
多結晶シリコン膜のエッチバックでは、半導体基板上に堆積した多結晶シリコン膜の膜厚と同程度の量をエッチバックするので、ゲート電極15はゲートトレンチ13の頂部(開口部)から100〜150nm程度深くエッチングされる。次に、図14(d)に示すように、半導体基板(n型ドリフト領域11)おもて面側のゲート酸化膜14のみを除去して半導体基板のおもて面を露出させる。このとき、ゲート酸化膜14の除去方法として、例えば異方性エッチングを用いる。
異方性エッチングによって半導体基板おもて面のゲート酸化膜14を除去することにより、ゲートトレンチ13の側壁部上部のゲート酸化膜14がエッチングされることなく、厚さが厚いままゲート酸化膜14が残るので、好ましい。さらに、この後の工程で形成される図示省略するp型ベース領域、p型コンタクト領域、およびn型エミッタ領域のイオン注入面が同一面となるほか、p型ベース領域の形成がゲートトレンチ13の形成後に行われる。その結果、p型ベース領域の拡散深さをゲートトレンチ13よりも浅くすることが可能となる。さらには、ボロンが熱酸化膜形成中に酸化膜に取り込まれることも防ぐことができるため都合がよい。
次に、図15(a)に示すように、半導体基板のおもて面に厚さが20〜50nmのスクリーン酸化膜14aを形成する。このスクリーン酸化膜14aの厚さは、イオン注入のときにボロンイオンあるいは砒素(As)イオンが十分に透過しうる厚さである。ここで、図15(a)は、図15(b)に示す製造途中のIGBTの平面図における切断線X−X’に沿った断面構造を示す断面図である。
次に、半導体基板のおもて面をレジスト(不図示)で覆う。次に、ホトリソグラフ法によりレジストをパターニングし、半導体基板のp型ベース領域12形成領域が露出するレジストマスク(不図示)を形成する。そして、このレジストマスクをマスクとして、加速電圧が例えば50keV程度、ドーズ量が例えば1×1013/cm2〜5×1014/cm2程度のイオン注入条件で、ボロンイオン注入を行う。次に、レジストマスクを除去した後に、1100℃程度の熱拡散処理を行う。
前記の熱拡散処理の結果、図15(b)に示すように、ゲートトレンチ13に直交するパターンで、ストライプ状にp型ベース領域12が形成される。実施例3にかかるIGBTのp型ベース領域12の寸法は、ゲートトレンチ13の長手方向において、ボロンイオンが注入される半導体基板のおもて面幅を例えば約6μm、ボロンイオンが注入されない幅(熱処理による拡散後の幅)を例えば約14μmとしてもよい。図15(b)においてハッチングで図示するp型ベース領域12は熱拡散後の幅を有するp型ベース領域である。
次に、図16(a)に示すように、p型コンタクト領域17を、前記p型ベース領域12の表面層に形成する。図16(a)は、図16(b)に示す製造途中のIGBTの平面図における切断線X−X’に沿った断面構造を示す断面図である。具体的には、次のようにp型コンタクト領域17を形成する。半導体基板のおもて面をレジスト(不図示)で覆う。次に、ホトリソグラフ法によりレジストをパターニングし、メサ領域47のp型コンタクト領域17形成領域が開口するレジストマスク25を形成する。
そして、レジストマスク25をマスクとして、加速電圧が例えば100keV程度、ドーズ量が例えば1×1015/cm2〜5×1015/cm2程度のイオン注入条件で、ボロンイオン注入を行う。次に、レジストマスク25を除去した後に、1000℃程度の熱拡散処理を行う。その結果、図16(a),16(b)に示すように、隣り合うゲートトレンチ13の間に形成されたp型ベース領域12の表面層に選択的に、例えば紙面右側のゲートトレンチ13に接するp型コンタクト領域17が形成される。
ここで、ゲートトレンチ13の長手方向におけるp型コンタクト領域17の寸法は、ボロンイオンが注入される半導体基板のおもて面幅を例えば約5.5μmとしてもよい。また、ゲートトレンチ13の短手方向におけるp型コンタクト領域17の寸法は、ボロンイオンが注入される半導体基板のおもて面幅を例えば約2μmとしてもよい。
次に、図17(a)に示すように、n型エミッタ領域16を、前記p型ベース領域12の表面に形成する。図17(a)は、図17(b)に示す製造途中のIGBTの平面図における切断線X−X’に沿った断面構造を示す断面図である。具体的には、次のようにn型エミッタ領域16を形成する。半導体基板のおもて面をレジスト(不図示)で覆う。次に、ホトリソグラフ法により、レジストをパターニングし、メサ領域47の表面のn型エミッタ領域16形成領域が開口するレジストマスク25を形成する。
そして、レジストマスク25をマスクとして、加速電圧が例えば100〜200keV程度、ドーズ量が例えば1×1015/cm2〜5×1015/cm2程度のイオン注入条件で、砒素イオン注入を行う。次に、レジストマスク25を除去した後に、1000℃程度の熱拡散処理を行う。その結果、図17(a),17(b)に示すように、p型コンタクト領域17の一部からp型ベース領域12の表面層にわたって、p型コンタクト領域17が接していない紙面左側のゲートトレンチ13に接するn型エミッタ領域16が形成される。
次に、図18(a)に示すように、半導体基板のおもて面に絶縁膜18を形成し、絶縁膜18にコンタクト開口部46を形成する。図18(a)は、図18(b)に示す製造途中のIGBTの平面図における切断線X−X’に沿った断面構造を示す断面図である。具体的には、BPSG(Boron Phospho Silicate Glass)等の絶縁膜18を基板全面に被着した後に、ホトリソグラフィの工程と異方性エッチングにより、コンタクト開口部46を形成する。
このコンタクト開口部46を形成する目的は、半導体基板のおもて面側に形成されたn型エミッタ領域16とp型コンタクト領域17とを、半導体基板のおもて面上に形成される金属電極(エミッタ電極)19に接触させるためである。絶縁膜18にコンタクト開口部46を形成することで、n型エミッタ領域16およびp型コンタクト領域17とエミッタ電極19とを接触させるとともに、ゲートトレンチ13内のゲート電極15は絶縁膜18により被覆される。
このとき、ゲートトレンチ13の長手方向において、コンタクト開口部46の開口幅が、n型エミッタ領域16の長さよりも長くなるようにする。コンタクト開口部46の寸法は、例えば、ゲートトレンチ13の長手方向において、n型エミッタ領域16の長さ5.0μmに対して、コンタクト開口部46の開口幅を4.5μmとしてもよい。ゲートトレンチ13の短手方向において、コンタクト開口部の長さは2μmとしてもよい。
その後、スパッタリングなどにより図示しないアルミニウム等の金属膜で半導体基板のおもて面を被着し、ホトリソグラフィの工程によりパターニングして、アロイ化することで、活性領域の全面にエミッタ電極となる金属電極層を形成する。さらに必要に応じてチップ全面にパッシベーション膜(不図示)を被着することも好ましい。
なお、上述した半導体基板のおもて面の形成工程の他に、半導体基板の裏面側の加工が必要である。この半導体基板裏面の形成工程は、公知の工程で行ってもよい。例えば下記のようになる(図示省略)。半導体基板の裏面側から半導体基板を耐圧によって決まる所要の厚さ(たとえば80〜120μm程度)になるように研磨する。次に、半導体基板の裏面に、n型バッファ層(または、n型フィールドストップ層)およびp型コレクタ層を、イオン注入ならびに熱処理によって形成する。その後、コレクタ電極を形成することにより、ウェハー段階の縦型IGBTが完成する。
次に、図19〜21を用いて、実施例3にかかるIGBTの特性によって得られる効果について説明する。図19は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の電気的特性を示す説明図である。図20,21は、実施例3にかかる半導体装置の電気的特性を示す特性図である。図19(a)には、実施例3にかかるトレンチゲート型IGBTのトレンチピッチ(Trench Pitch)と耐圧(Breakdown Voltage)との相関に関して調査した結果を示す。縦軸は、pn接合の理想耐圧値(Ideal pn junction=1)にて規格化した耐圧である。半導体基板(n型ドリフト領域11)として抵抗率が50Ωcmで厚さが120μmのFZ(Floating Zone)−N基板を適用した。
図19(b)に、図19(a)の結果を得るために適用したIGBTの断面構造を模式的に示す。図19(b)に示すIGBTは、半導体基板のコレクタ層側にn型フィールドストップ領域50を有する、FS−IGBT構造である。図19(a)において、トレンチピッチ24は、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23を0.8μmに固定し、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48を種々変更することで、例えば2〜6μmの間で種々変更している。また、ゲートトレンチ13の深さと、ゲートトレンチ13のp型ベース領域12内部にある部分の深さとの比m:nを、1:0.6としている。
図19(a)に示す結果から明らかなように、トレンチピッチ24が狭くなるほど耐圧が上昇し、pn接合の理想耐圧値(図19(a)の縦軸が1の場合)に近づいていることがわかる。実際のIGBTでは、半導体基板の比抵抗が50Ωcmで厚さが120μmのときの理想耐圧まで耐圧を大きくする必要はなく、一定以上の所定耐圧を出すことができれば実使用に耐え得る。このため、ある所定耐圧よりも大きくすることができた耐圧と所定耐圧との差分は、半導体基板の比抵抗を低くするか、または、最終の半導体基板の厚さを薄くすることに還元することができる。
半導体基板の比抵抗を低くすることは、IGBTのターンオフ振動を抑制するという効果を奏する。また、最終の半導体基板の厚さを薄くすることは、オン電圧かターンオフ損失のどちらかもしくは双方を小さくすることができ、両者のトレードオフの関係を改善できるという効果を奏する。特に、1200VクラスのFS−IGBTでは、トレンチピッチ24が3μm以下となる構成のおもて面構造を適用することで、比抵抗が50Ωcmで厚さが120μmの半導体基板の代わりに、同じく比抵抗が45Ωcmで厚さが115μmの半導体基板を用いることが可能である。
トレンチピッチ24を小さくすることは従来のIGBTでは難しい。例えばトレンチピッチ24を3μmとする場合を、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23が0.8μmであるので、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅を2.2μmとする必要がある。しかしながら、従来のIGBTのおもて面構造でメサ領域47のゲートトレンチの短手方向の幅を狭くするには、課題にて前述したように、より高価で微細加工可能な露光装置を適用するか、または複雑なプロセス工程(たとえば、前述のトレンチコンタクト)を適用する必要がある。すなわち、従来のIGBTでは、デザインルールが変わらない場合、トレンチピッチ24の最小値が5μmとなるから、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅の最小値は4.2μmとなってしまう。
一方、実施例3にかかるIGBTの場合、n型エミッタ領域を片方のゲートトレンチにのみ接するようにすればよいから、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅を短くすることができる。具体的には、実施例3にかかるIGBTのメサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅は、例えば従来のIGBTのメサ領域のゲートトレンチの短手方向の幅の1/3程度にあたる2.7μmとなり、トレンチピッチ24は3.5μmまで低減することが可能である。
実際には、p型コンタクト領域17のゲートトレンチ短手方向の幅も、従来のIGBTのp型コンタクト領域17のゲートトレンチ短手方向の幅より若干短くできるので、メサ領域47のゲートトレンチの短手方向の幅は、従来のIGBTのメサ領域のゲートトレンチ短手方向の幅の1/3よりもさらに短くすることができる。これよって、実施例3にかかるIGBTは、デザインルールが変わらない場合でも、3.0μmのトレンチピッチ24が可能となる。なお、実施例3にかかるIGBTでは、トレンチピッチ24が3μmの例を用いて説明を行ったが、トレンチピッチ24を4μm以下としてもよい。
トレンチピッチ24を4μm以下とすることが好ましい理由は、図19に示すトレンチピッチ24と耐圧との相関を示す図において、トレンチピッチ24が4μm以下の領域において、耐圧の上昇の度合いが鈍っているからである。トレンチピッチ24を4μm以下とすることで、耐圧が高いだけでなく、トレンチピッチ24の仕上がり長さに対して耐圧の変動を鈍感にすることができるので、トレンチピッチ24の仕上がり長さの誤差によって耐圧が大きく変わることを回避することができ効果的である。
さらに、ゲートトレンチの短手方向の幅23により、トレンチピッチ24も適宜変更可能である。例えば、実施例3にかかるIGBTでトレンチピッチ24が4μmの場合でゲートトレンチ13の短手方向の幅23が0.8μmであるとする。このとき、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23をトレンチピッチ24で割った値をγとおくと、γは、0.2である。露光装置等の製造装置によりゲートトレンチ13の短手方向の幅23を0.8μmよりも狭くすることができる場合には、メサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48もともに狭くする必要がある。
このようにメサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48を狭くする必要がある理由は、トレンチピッチ24に対するメサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48の比が増加し、γが0.2よりも大きくなると、ゲートトレンチ13の底部の電界強度が増加し易くなるからである。したがって、少なくともこのγが0.2以上であればよく、ゲートトレンチの短手方向の幅23に応じてトレンチピッチ24も適宜変更し、トレンチピッチ24に対するメサ領域47のゲートトレンチ短手方向の幅48を維持するか、またはより狭くすることができるので、耐圧の低下を防ぐことができる。
例えば、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23が1.5μmであれば、γが0.2以上となるように、トレンチピッチ24を7.5μm以下とすればよい。また、ゲートトレンチ13の短手方向の幅23が0.5μmであれば、γが0.2以上となるように、トレンチピッチ24を2.5μm以下とすればよい。さらにその上で、前述のようにトレンチピッチ24が4μm以下、好ましくは3μm以下とすることも可能である。
次に、実施例3にかかるIGBTのトレードオフ特性について説明する。図20は、実施例3にかかる半導体装置のオン電圧とターンオフ損失との関係について示す特性図である。図20には、実施例3にかかるIGBTと2種類の従来のIGBTにおいて、よく知られているオン電圧(On−State Voltage Drop)とターンオフ損失(Turn−off Energy)とのトレードオフ特性を比較した特性図を示す。実施例3にかかるIGBTの構造は、トレンチピッチ24が3μmであり、半導体基板の比抵抗および厚さがそれぞれ45Ωcmおよび115μmである(図20には実施例と示す。図21,40においても同様に実施例と示す)。
従来のIGBTについては、一つの従来のIGBTはトレンチピッチが3μmであり、半導体基板の比抵抗および厚さがそれぞれ45Ωcmおよび115μmである(以下、第1従来例のIGBTとする、図20には第1従来例と示す。図21,40においても同様に第1従来例と示す)。もう一つの従来のIGBTは、トレンチピッチが5μmであり、半導体基板の比抵抗および厚さがそれぞれ50Ωcmおよび120μmである(以下、第2従来例のIGBTとする、図20には第2従来例と示す)。
図20から明らかなように、まずトレンチピッチが5μmの第2従来例のIGBTは、他の2つのIGBT(実施例3にかかるIGBTおよび第1従来例のIGBT)と比べて、同一のオン電圧に対してターンオフ損失が30〜40%程度高い。すなわち、トレードオフ特性曲線は座標原点から最も遠く、トレードオフ特性が最も悪い。一方、実施例3にかかるIGBTは、同じトレンチピッチ(3μm)の第1従来例のIGBTよりも、ターンオフ損失において10%程度、トレードオフ特性曲線が原点側にあることが分かる。すなわち、本発明にかかるIGBTは、従来のIGBTよりも電気的損失を低減するという効果を奏する。
さらに、同じトレンチピッチ(3μm)の場合、第1従来例のIGBTを製造するには、本発明にかかるIGBT(例えば実施例3にかかるIGBT)よりも一層高価な半導体製装置や半導体プロセスなどを適用することが必要である。すなわち、第1従来例のIGBTは、プロセスコストが増大する。一方、本発明にかかるIGBTによれば、プロセスコストを増大させることなく、電気的損失を低減するという効果が得られる。以上の理由から、本発明にかかるIGBTは、従来のIGBTよりも電気的損失が小さくなるだけでなく、チップコストも安価に提供できることが可能となる。
次に、実施例3にかかるIGBTのターンオン特性について説明する。図21は、実施例3にかかる半導体装置のターンオン特性について示す特性図である。図21(a)および図21(b)に、前述の実施例3にかかるIGBT(実施例)とトレンチピッチが3μmの従来のIGBT(第1従来例)についての、インダクタンス負荷条件でのターンオン波形例を示す。図21(a)にはターンオン初期のターンオン波形を示し、図21(b)にはターンオン後期のターンオン波形を示す。
また、図21(a)において、左側縦軸には、コレクタ電圧VCE(Collector Voltage)およびコレクタ電流IC(Collector Current)を示し、右側縦軸には、ゲート電圧VGE(Gate Voltage)を示す。図21(b)において、左側縦軸には、コレクタ電圧VCE(Collector Voltage)を示し、右側縦軸には、ゲート電圧VGE(Gate Voltage)を示す。
図21(a)に示すように、実施例3にかかるIGBTでは、ターンオン時のターンオン電流変化率(di/dt)が小さく抑制されている。そのため、ターンオンピーク電流も小さく、ソフトなターンオン波形となっている。ここでソフトなターンオンとは、ターンオン電流変化率(di/dt)とターンオンピーク電流が小さいことを示す。一方で、第1従来例のIGBTでは、ターンオン時のターンオン電流変化率(di/dt)が急激に大きくなっており、且つ、ターンオンピーク電流も大きく、いわばハードなターンオン波形となっている。
このようなIGBTのターンオン特性は、対抗アームのフリーホイーリングダイオード(FWD)の特性に影響を及ぼす。すなわち、実施例3にかかるIGBTを適用した場合には、FWDはソフトリカバリになり、第1従来例のIGBTを適用した場合には、FWDはハードリカバリとなる。ここでソフトリカバリとは、逆回復ピーク電流(絶対値がほぼターンオンピーク電流と同じ)が小さく、それ以降にて電流が減少するときの時間的な電流変化率も小さいことを示す。さらにダイオードのアノード・カソード間電圧のオーバーシュートも小さいことを示す。
ハードリカバリとは、これらの傾向とは逆の傾向を示す逆回復現象のことである。一般的に、FWDはハードリカバリになるほど破壊や波形の振動現象が発生しやすいため、ソフトリカバリであることが望まれる。この点に鑑みれば、実施例3にかかるIGBTの適用が好ましいことが分かる。なお当然、実施例3にかかるIGBTのみならず、本発明の他の実施例にかかるIGBTにおいても同様のFWDのソフトリカバリ効果を確認している。
次に、本発明にかかるIGBTのターンオン特性が向上した理由を説明する。本発明にかかるIGBT(例えば実施例3にかかるIGBT)のターンオン波形が、従来のIGBT(例えば第1従来例のIGBT)よりもソフトな波形となるのは、p型ベース領域がゲートトレンチ側壁と接している面積(Cies)と、エミッタ領域を除くn型領域(主としてn型ドリフト領域)がゲートトレンチ側壁と接している面積(Cres)との比率(以下、Cies/Cres比とする)の違いによる。
ターンオン初期の、コレクタ電流ICが増加している期間では、n型エミッタ領域を除くn型領域(主としてn型ドリフト領域)がゲートトレンチ側壁と接している領域に、ホール電流が流入する。その結果、前記ホールの流入領域の電位が上昇する。この電位の上昇量はゲート電位の上昇量より大きい。その結果、ゲート電位の増加によりゲート電極にチャージされる電荷量Qは、下記(1)式であらわされる。
ここで、Cox:ゲート酸化膜容量、V:電圧、である。Coxが時間的に一定であることを考慮して、上記(1)式の両辺を時間で微分し、微分した式に、I=dQ/dt、および、d(CoxV)/dt=Cox(dV/dt)、を代入すると、下記(2)式となる。
すなわち、電位変化による変位電流が、ゲート電極に流れ込むことになる。この変位電流はMOSチャネルを開ける方向に作用するため、Cies/Cres比の小さいIGBTほどゲート電圧VGEが上昇しやすくなる。その結果、(2)式において、dV/dtが増加する。すなわち、Cies/Cres比が小さくなれば、ゲート電圧VGEの上昇は抑えられる。一方で、一般的にIGBTは、短絡耐量を満足させるために、MOSゲートが持つ電流制限機能を利用し、IGBTの飽和電流値を制御している。飽和電流値Isatは、下記(3)式であらわされる。
ここで、μns:電子の表面移動度、Z:総エミッタ幅、αpnp:電流増幅率、LCH:総チャネル長、VG:ゲート電圧、Vth:しきい値、である。他の電気的特性(オン電圧、ターンオフ損失等)を変化させないように、飽和電流を一定にするためには、総チャネル長LCH、ゲートしきい値Vthを一定にし、総エミッタ幅Zを一定にする必要がある。
上記(3)式に対する条件を本発明にかかるIGBTに適用し、従来のIGBTの電気的特性を変化させないようにする場合、活性領域全体におけるn型エミッタ領域の面積(≒反転層チャネルの面積)は、従来のIGBTの2倍となる。そのため、入力容量(Cies)と帰還容量(Cres)との比率(Cies/Cres比)をβとしたときに、本発明にかかるIGBTのβは従来のIGBTと比較して約2倍となり、実効的にCresをほぼ半減させることができる。
Cies/Cres比であるβの低減が、ターンオン波形に良好な効果を及ぼす。一つは、上記(2)式において、ゲート電極に流入する電流を抑えることができるので、ゲート電圧VGEの上昇が抑えられる。もう一つは、ターンオン後期のコレクタ電圧VCEの終息を早くできることである。図21(b)に示すように、コレクタ電圧VCEは、実施例3にかかるIGBTの方が早く減少しており、素早く定常オン状態に近づいている。この理由は、図21(b)に示すゲート電圧(VGE)にあらわれているように、実施例3にかかるIGBTの方が第1従来例のIGBTよりも早くミラー期間が終了し、ゲート電圧VGEが駆動電圧である15Vに近づいているからである。
ミラー期間は、IGBTのCresに依存している。よってターンオンの早い終息は、本発明にかかるIGBTのβが、従来のIGBTよりも小さくなったことに起因する効果である。すなわち、本発明にかかるIGBTのβの低減効果は、n型エミッタ領域を除くn型領域(主としてn型ドリフト領域)がゲートトレンチ側壁と接している領域において、その接している領域の面積を小さくすることができたために奏する効果である。
次に、実施例3にかかるIGBTのターンオフ耐量について説明する。図40は、本発明の実施例3にかかる半導体装置の電気的特性を示す特性図である。図40に、前述の実施例3にかかるIGBT(実施例)とトレンチピッチが3μmの従来のIGBT(第1従来例)についての、インダクタンス負荷条件でのターンオフ耐量の比較を示す。ターンオフ耐量とは、ある電源電圧にてターンオフできる最大のコレクタ電流値(図40には、最大ターンオフ電流値:Turn−off Current Capabilityと示す)のことである。
実施例3にかかるIGBTおよび第1従来例のIGBTともに、ゲート電圧は15Vであり、電源電圧は600Vであり、浮遊のインダクタンスは80nHである。図40に示すように、実施例3にかかるIGBTの方が、第1従来例のIGBTよりも1.2倍以上の電流を遮断することができることが分かった。この実施例3にかかるIGBTにおける効果は、前述のように、ゲートトレンチの底部に集中していたホール電流を分散させて、ターンオフ時の電界強度の増加を抑えたことにより奏する効果である。
次に、本発明の実施例4にかかるIGBTについて、図22を用いて説明する。図22は、本発明の実施例4にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。前記した本発明の基本構造に対する実施例4にかかるIGBTの変更点は、n型エミッタ領域16が左右両側のゲートトレンチ13と交互に接する周期を、p型ベース領域12を2つ分にしたことである。すなわち、1つのメサ領域内にそれぞれn型ドリフト領域11を介してゲートトレンチ長手方向に並列された4つのp型ベース領域12において、1つ目のp型ベース領域12内のn型エミッタ領域16を左側のゲートトレンチ13に接触させ、このp型ベース領域12の長手方向に隣り合う2つ目のp型ベース領域12内のn型エミッタ領域16を左側のゲートトレンチ13に接触させる。さらに、2つ目のp型ベース領域12に隣り合う3つ目のp型ベース領域12内のn型エミッタ領域16を右側のゲートトレンチ13に接触させ、この3つ目のp型ベース領域12に隣り合う4つ目のp型ベース領域12内のn型エミッタ領域16を右側のゲートトレンチ13に接触させる。このため、実施例4にかかるIGBTの単位胞の長周期は、p型ベース領域12のゲートトレンチ長手方向の長さ4つ分と、トレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域12間のn型ドリフト領域11のゲートトレンチ長手方向の長さ3つ分とを足し合わせた寸法となる。実施例4にかかるIGBTの単位胞の短周期は、実施例3にかかるIGBTの短周期と同様である。
したがって、実施例4にかかるIGBTの単位胞42内には、1つのメサ領域47内のゲートトレンチ長手方向に並ぶ4つのp型ベース領域12が含まれ、実施例4にかかるIGBTの単位胞42内のp型ベース領域12の個数は計4つとなる。このような単位胞42の構成としても、前述の実施例1にかかるIGBTと同様の効果を奏することができる。さらに、n型エミッタ領域16が左右両側のゲートトレンチ13と交互に接する周期を、p型ベース領域12を3つ以上としてもよい。
次に、好ましい実施の形態として、本発明の実施例5にかかるIGBTについて説明する。図23は、本発明の実施例5にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。図23は、図3(a)に示す片側配置構造を周期的に配置した場合の平面図である。図23に示すように、実施例5にかかるIGBTは、片側配置構造のIGBTである。片側配置構造のIGBTとすることで、実施例5にかかるIGBTの単位胞42の長周期は、p型ベース領域12のゲートトレンチ長手方向の長さと、ゲートトレンチ長手方向に隣り合うp型ベース領域12間の距離とを1つ分ずつ足し合わせた寸法である。実施例5にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、実施例3にかかるIGBTの短周期と同様である。このため、単位胞42内のp型ベース領域12の個数は1つとなる。メサ領域47に挟まれたゲートトレンチ13の両側壁のうち、一方の側壁にはn型エミッタ領域16が接触しないので、各ゲートトレンチ13において反転層チャネルが形成されない側壁が必ず存在するようになる。
図24は、図23に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図24は、図23に示す実施例5にかかるIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。図24に示すように、実施例5にかかるIGBTでは、ゲートトレンチ13の長手方向において、ホール電流が集まる領域41が、ホール電流が疎な領域43にて分断されているが、実施例3にかかるIGBTと同様に、ゲートトレンチの短手方向では、ホール電流が集まる領域41が連続的に形成されている。これによって、実施例3にかかるIGBTと同様の効果(IE効果の増強、ターンオフ時の電界強度分布とその正帰還の抑制、等)を奏する。
次に、本発明の実施例5にかかるIGBTの変形例である実施例6にかかるIGBTについて、図25,26を用いて説明する。図25は、本発明の実施例6にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。実施例6にかかるIGBTの、実施例5にかかるIGBTとの相違点は、隣り合うメサ領域47において、n型エミッタ領域16が接するゲートトレンチ13の紙面上の左右が逆になる点である。
図25に示すように、実施例6にかかるIGBTの単位胞42の短周期は、p型ベース領域12のゲートトレンチ短手方向の幅と、ゲートトレンチ13の短手方向の幅とを2つ分ずつ足し合わせた長さである。実施例6にかかるIGBTの単位胞42の長周期は、実施例5にかかるIGBTの長周期と同様である。すなわち、実施例6にかかるIGBTの単位胞42は、実施例5にかかるIGBTの単位胞をゲートトレンチ短手方向に2つ隣接させた構造を単位構造としている。このため、実施例6にかかるIGBTの単位胞42内には、計2つのp型ベース領域12が含まれている。
図26は、図25に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図26は、図25に示す実施例6にかかるIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に示す平面図である。図26に示すように、実施例6にかかるIGBTにおいては、ゲートトレンチ13の長手方向と短手方向との両方において、ホール電流が集まる領域41が、ホール電流が疎な領域43にて分断されている。そのため、実施例6にかかるIGBTは、実施例5にかかるIGBTと比べてIE効果の増強度合いが若干弱くなる。しかし、実施例6にかかるIGBTは、従来のIGBTと比べると、ゲートトレンチ13のトレンチピッチが短くなり、且つ活性領域における反転層チャネルの面積も2倍程度大きくなっている。その結果、従来のIGBTよりもオン電圧が小さくなる。また、実施例6にかかるIGBTにおけるターンオフ時の電界強度の分散と正帰還の抑制の効果は、実施例5にかかるIGBTと同様である。
次に、本発明の実施例5にかかるIGBTの変形例である実施例7にかかるIGBTについて、図27および図28を用いて説明する。図27は、本発明の実施例7にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。実施例7にかかるIGBTの、実施例5にかかるIGBTとの相違点は、隣り合うメサ領域47において、p型ベース領域12が交互に配置された、市松模様状の配置になっている点である。このため、図27に示すように、実施例7にかかるIGBTの単位胞42内では、あるメサ領域47に配置されたp型ベース領域12は、このメサ領域47にゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47のn型ドリフト領域11に隣り合うように配置されている。
図28は、図27に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図28は、図27に示す実施例7にかかるIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41を模式的に図示した平面図である。図28に示すように、ゲートトレンチ13の長手方向と短手方向の両方において、ホール電流が集まる領域41が均等に配置されている。
すなわち、実施例7にかかるIGBTでは、ホール電流が疎な領域が形成されず、ホール電流が集まる領域41は、ホール電流が疎な領域に分断されない。そのため、実施例7にかかるIGBTは、実施例1にかかるIGBTと同様の、IE効果の増強の効果が得られ、その結果、十分小さいオン電圧が得られる。また、実施例7にかかるIGBTのターンオフ時の電界強度の分散と正帰還の抑制の効果は、実施例1にかかるIGBTと同様である。
次に、本発明の実施例7にかかるIGBTの変形例である実施例8にかかるIGBTについて、図29,30を用いて説明する。図29は、本発明の実施例8にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。実施例8にかかるIGBTの、実施例7にかかるIGBTとの相違点は、隣り合うメサ領域47において、n型エミッタ領域16が接するゲートトレンチ13の紙面上の左右が逆になる点である。図29に示すように、実施例8にかかるIGBTの単位胞42内では、ゲートトレンチ13を介して隣り合うメサ領域47内にそれぞれ配置されているn型エミッタ領域16が、それぞれ左側のゲートトレンチ13および右側のゲートトレンチ13に接触している。
図30は、図29に示す半導体装置の電流経路を模式的に示す平面図である。図30は、図29に示す実施例8にかかるIGBTの平面図に、ゲート電極がオンの状態で流れるホール電流のフロー40、ホール電流が集まる領域41、およびホール電流が疎な領域43を模式的に図示した平面図である。図30に示すように、実施例8にかかるIGBTでは、ゲートトレンチ13の短手方向において、ホール電流が集まる領域41が、ホール電流が疎な領域43にて分断されている。一方、ゲートトレンチ13の長手方向では、ホール電流が集まる領域41が連続的に形成されている。
このような実施例8にかかるIGBTにおけるホール電流が集まる領域41とホール電流が疎な領域43との分布は、従来のIGBTに近いものである。しかし、実施例8にかかるIGBTは、従来のIGBTと比べると、ゲートトレンチ13のトレンチピッチが短くなり、且つ活性領域における反転層チャネルの面積も2倍程度大きくなっている。その結果、従来のIGBTよりもオン電圧が小さくなる。
また、実施例8にかかるIGBTは、ターンオフ時の電界強度の分散と正帰還の抑制の効果が従来のIGBTよりも格段に抑えられる。その理由は、ホール電流が疎な領域43がp型ベース領域ではなく、ゲートトレンチ13(1本おき)に形成されているためである。すなわち、従来のIGBTが全てのゲートトレンチ13にホール電流が集まる領域41が形成されるのに対し、実施例8にかかるIGBTは、1本おきのゲートトレンチ13にホール電流が集まる領域41が形成される。その結果、実施例8にかかるIGBTは、ホールの集中が緩和され、ゲートトレンチ13の底部における、ホールによる電界強度の増強が抑えられる。
ここで、実施例8にかかるIGBTと、実施例7にかかるIGBTおよび実施例1にかかるIGBTとにおけるオン電圧の相違について説明する。図31は、本発明の実施例1,7,8にかかる半導体装置の電気的特性を示す特性図である。図31は、上記3つの実施例1,7,8にかかるIGBTにおけるオン電圧(Collector Voltage)とコレクタ電流(Collector Current Density)曲線(I−V曲線)である。図31において、実施例1にかかるIGBTのI−V曲線は直線(交互配置)で示す。実施例7にかかるIGBTのI−V曲線は長点線(一方配置2)で示す。実施例8にかかるIGBTのI−V曲線は短点線(一方配置1)で示す。
実施例1,7,8にかかるIGBTのうち最もオン電圧が小さいのは、実施例1にかかるIGBTである。また、実施例7にかかるIGBTおよび実施例8にかかるIGBTは、オン電圧が近いが、実施例7にかかるIGBTのオン電圧の方が実施例8にかかるIGBTのオン電圧よりも小さい。実施例7にかかるIGBTのオン電圧が実施例1にかかるIGBTよりも大きいのは、全てのゲートトレンチ13において、ゲートトレンチ13の側壁のうち片方の側壁には反転層チャネルが形成されないためである。
すなわち、図28にて模式的に示した実施例7にかかるIGBTのホール電流が集まる領域41の分布において、ホールの集まり具合が実施例1にかかるIGBTのホール電流が集まる領域の分布よりも弱くなっている。このことから、n型エミッタ領域16のゲートトレンチ13への接し方は、どちらかといえば、左右のゲートトレンチ13に対して交互に接すること(例えば実施例1にかかるIGBT)が好ましい。勿論、実施例7,8にかかるIGBTのように、片側のゲートトレンチ13に接する場合も、従来のIGBTよりは好ましい作用効果が生じる。
次に、実施例9にかかるIGBTについて、図32を用いて説明する。図32は、本発明の実施例9にかかる半導体装置の要部を示す平面図である。この実施例9にかかるIGBTは、これまで述べた全ての本発明の実施例にかかるIGBTに適用されるものである。実施例9にかかるIGBTは、図32(a)に示すようにp型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bに接している構造であってもよいし、図32(b)に示すようにp型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bとは若干の離間領域45を介して離間した構造であってもよい。
図32(a),32(b)に示す実施例9にかかるIGBTの構造のうちのどちらの構造においても、本発明の実施例にかかるIGBTにて上述したような様々な効果を奏する。特に、図32(a)に示すように、p型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bと接する構造は、ターンオフ時のホールの引き抜き(ホールが、p型ベース領域からp型コンタクト領域17を通ってエミッタ電極に抜けること)の効果を奏しやすい。
すなわち、図32(b)に示すようにp型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bから離れた構造は、p型コンタクト領域17とゲートトレンチ13bとの離間領域45に若干の抵抗分が発生するので、ゲートトレンチ13bに向うホールの割合が若干減少する。図32(a)に示すp型コンタクト領域17がゲートトレンチ13bと接する構造は、p型コンタクト領域17とゲートトレンチ13bとの離間領域45に発生する抵抗分がないため、ラッチアップ耐量が少し高くなるので好ましい。
なお、これまでの実施例にかかるIGBTでは、定格電圧が1200Vの場合について説明したが、これに限らず、他の定格電圧、例えば600V、1700V、3300V、6500Vにおいても同様の効果を奏する。特に、3300V以上の所謂高耐圧クラスでは半導体基板の比抵抗が高い(100Ωcm以上)ため、ターンオフ時のホール濃度の増加が直接的に電界強度の増加を引き起こす。そこで、本発明にかかるIGBTを用いれば、ホール電流の集まる領域を均等に分散させて、特にゲートトレンチの底部において、ターンオフ時の電界強度の増加を抑えることができるので、より好ましくなる。