JPWO2012017694A1 - ガラスフィラー - Google Patents

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Abstract

本発明は、アクリル樹脂に好適に配合することができ、良好かつ安定した品質を示し、ガラス製造装置に対する負荷を軽減できるガラスフィラーを提供する。本発明のガラスフィラーは、二酸化珪素(SiO2)、三酸化二ホウ素(B2O3)、酸化アルミナ(Al2O3)および酸化ナトリウム(Na2O)を必須成分として含有するガラス組成物からなる。ガラス組成物は、質量%で表して、45≦SiO2≦65、21≦B2O3≦35、5≦Al2O3≦15、4≦Na2O≦9、を含有する。

Description

本発明は、ガラスフィラーに関し、より詳しくは、樹脂(特に、アクリル樹脂)に好適に配合することができるガラスフィラーに関する。
アクリル樹脂は、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体である。アクリル樹脂は他の樹脂材料に比較して、透明性、耐衝撃性、耐久性および加工性に優れており、光学材料の素材などに用いられている。
アクリル樹脂の機械的強度や耐熱性などをさらに向上させるには、アクリル樹脂にフィラーを配合することが考えられる。一般に、熱可塑性樹脂などの樹脂の補強を目的として配合されるフィラーとしては、鱗片状、繊維状、粉末状、ビーズ状などの形状を有するガラスフィラーが知られている。ガラスフィラーを構成するガラスとしては、Eガラスなどの無アルカリ珪酸塩ガラス、Cガラスなどの含アルカリ珪酸塩ガラスまたは通常のソーダライムガラスが用いられる。
しかし、アクリル樹脂に配合するガラスフィラーとして上記のガラスを用いた場合、アクリル樹脂の性能が損なわれることがある。すなわち、アクリル樹脂の屈折率とガラスフィラーの屈折率との差が大きいため、アクリル樹脂とガラスフィラーとの間の界面において光が散乱し、アクリル樹脂の透明性が損なわれ易い。
近年、アクリル樹脂への配合に適したガラスフィラーが開発されている。例えば、特許文献1には、エポキシ樹脂、環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂など、屈折率が1.47〜1.56である透明樹脂との光学恒数の整合性が高く、樹脂との親和性が高いガラス繊維が開示されている。
特開2008−255002号公報
しかし、特許文献1に開示されているガラス組成物は、実際にガラスフィラーとして用いるためには、SrO、BaOまたはZnOを実質的に必要とする。特許文献1の実施例には、SrO、BaOおよびZnOを含まないガラス組成物も開示されているが(実施例7,8,10)、本発明者の検討によると、これらのガラス組成物には、失透しやすく屈折率が高い(実施例7)、作業温度(成形温度)が高すぎる(実施例8,10)といった問題があった。
SrOおよびBaOの原料は一般に高価であり、ガラスの製造コストを上げる一因となる。また、これらの原料には取り扱いに配慮が必要なものが多い。さらに、ZnOは、揮発性に富む成分であるためガラスの溶融時に飛散する可能性があるうえ、ガラスの組成が変動するためガラス組成物の品質の制御が困難になる。したがって、SrO、BaOおよびZnOを必要としないガラス組成物によってガラスフィラーを構成することが望まれる。
本発明の目的は、SrO、BaOおよびZnOのいずれも必要とすることなく、樹脂(特に、アクリル樹脂)に好適に配合することができるガラスフィラーを提供することである。
本発明は、
質量%で表して、
45≦SiO≦65、
21≦B≦35、
5≦Al≦15、
4≦NaO≦9、を含有するガラス組成物からなるガラスフィラーを提供する。
本発明のガラスフィラーを構成するガラス組成物は、二酸化珪素、三酸化二ホウ素、酸化アルミニウムおよび酸化ナトリウムを含有する。二酸化珪素、三酸化二ホウ素および酸化アルミニウムの含有率は、質量%で表して、45≦SiO≦65、21≦B≦35、5≦Al≦15、に設定されている。このため、ガラスの骨格を形成する機能を十分に発現するとともに、高いガラス転移温度、良好な溶融性および高い耐水性を実現し、ガラスの屈折率をアクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することができる。酸化ナトリウムの含有率は、質量%で表して、4≦NaO≦9に設定されている。このため、ガラス形成時における失透温度および粘度を良好にし、ガラス組成物の融点を下げることができる。
図1Aはガラスフィラーの一形態である鱗片状ガラスを模式的に示す斜視図であり、図1Bは鱗片状ガラスを模式的に示す平面図である。 図2は、鱗片状ガラスの製造装置を模式的に示す断面図である。 図3は、ガラスフィラーの一形態であるチョップドストランドを製造するための紡糸装置を示す図である。 図4は、図3の紡糸装置で得られたストランド巻体からチョップドストランドを製造するための装置を示す図である。
以下、本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
[ガラス組成物]
本実施形態のガラスフィラーを構成するガラス組成物は、二酸化珪素(SiO)、三酸化二ホウ素(B)、酸化アルミニウム(アルミナ、Al)および酸化ナトリウム(NaO)を必須成分として含有する。各成分の含有率はそれぞれ、質量%で表して、45≦SiO≦65、21≦B≦35、5≦Al≦15、4≦NaO≦9、に設定される。
以下、このガラス組成物を構成する各成分について説明する。以下において成分の含有率を示す%表示はすべて質量%である。
(SiO
二酸化珪素(SiO)は、ガラスの骨格を形成する主成分である。本明細書において、「主成分」とは含有量が最も多い成分であることを意味する。二酸化珪素は、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。二酸化珪素は、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。二酸化珪素の含有率が45%以上であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができる。二酸化珪素の含有率が45%以上であれば、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することができる。二酸化珪素の含有率が65%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
したがって、二酸化珪素の含有率は、45%以上であり、46%以上が好ましく、48%以上がより好ましく、50%以上が最も好ましい。二酸化珪素の含有率は、65%以下であり、65%未満が好ましく、60%未満がより好ましく、58%以下がさらに好ましく、55%以下が最も好ましい。二酸化珪素の含有率は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。例えば、二酸化珪素の含有率は45〜65%であり、46%以上60%未満であることが好ましい。
(B
三酸化二ホウ素(B)は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分でもある。三酸化二ホウ素を含有する場合、ガラスの融点を下げる効果が得られるため、ガラス原料を均一に溶融し易くなる。三酸化二ホウ素の含有率が21%以上であれば、失透温度および粘度の調整、ならびに耐水性の改善が容易になる。三酸化二ホウ素の含有率が35%を超えると、ガラスを溶融する際に溶融窯や蓄熱窯の炉壁を浸食して窯の寿命を著しく低下させる。
したがって、三酸化二ホウ素の含有率は、21%以上であり、24%以上が好ましく、25%より大きいことがより好ましく、25.1%以上がさらに好ましく、25.5%以上が最も好ましい。三酸化二ホウ素の含有率は、35%以下であり、32%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、28%以下が最も好ましい。三酸化二ホウ素の含有率は、これらの上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。例えば、三酸化二ホウ素の含有率は21〜32%であることが好ましく、24〜30%であることがより好ましい。
(Al
酸化アルミニウム(Al)は、ガラスの骨格を形成する成分である。酸化アルミニウムはガラスの失透温度および粘度を調整する成分であり、耐水性を向上させる成分でもある。酸化アルミニウムの含有率が5%以上であれば、失透温度および粘度の調整、ならびに耐水性の改善が容易になる。酸化アルミニウムの含有率が15%以下であれば、ガラスの融点が低くなり、ガラスを均一に溶融し易くなる。
したがって、酸化アルミニウムの含有率は、5%以上であり、8%より大きいことが好ましく、9%以上がより好ましく、10%より大きいことが最も好ましい。酸化アルミニウムの含有率は、15%以下であり、13%以下が好ましく、12%未満がより好ましく、11%未満が最も好ましい。酸化アルミニウムの含有率は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。例えば、酸化アルミニウムの含有率は8%より大きく15%以下であることが好ましく、8%より大きく13%以下であることがより好ましい。
(SiO+B+Al
ガラスの骨格を良好に維持することを重視する場合、二酸化珪素(SiO)、三酸化二ホウ素(B)および酸化アルミニウム(Al)の含有率の和(SiO+B+Al)が重要である。二酸化珪素、三酸化二ホウ素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO+B+Al)が71%以上であれば、失透温度および粘度の調整が容易になる。二酸化珪素、三酸化二ホウ素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO+B+Al)が95%以下であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができる。
したがって、二酸化珪素、三酸化二ホウ素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO+B+Al)は、71%以上であり、80%以上が好ましく、84%以上がより好ましく、86%以上がさらに好ましく、87%以上が最も好ましい。二酸化珪素、三酸化二ホウ素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO+B+Al)は、96%以下であり、95%以下が好ましく、94%以下がより好ましく、93%以下がさらに好ましく、92%以下が最も好ましい。二酸化珪素、三酸化二ホウ素および酸化アルミニウムの合計含有率(SiO+B+Al)は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。
(NaO)
酸化ナトリウム(NaO)は、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化ナトリウムの含有率が4%以上であれば、失透温度および粘度の調整が容易になる。酸化ナトリウムの含有率が9%以下であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上する。酸化ナトリウムの含有率が9%以下であれば、ガラスの耐水性も向上する。
したがって、酸化ナトリウムの含有率は、4%以上であり、5%より大きいことが好ましく、6%より大きいことがより好ましい。作業温度をさらに低下させ、粘度を下げることによってガラスフィラーを製造し易くすることが望まれる場合、酸化ナトリウムの含有率は、7%より大きくてもよい。酸化ナトリウムの含有率は、9%以下であり、8.5%以下が好ましく、8%未満がより好ましく、7.9%以下がさらに好ましく、7.5%以下がさらに好ましい。化学的耐久性(耐水性)等を向上させることが望まれる場合、酸化ナトリウムの含有率は、7%以下が最も好ましい。酸化ナトリウムの含有率は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。例えば、酸化ナトリウムの含有率は5%より大きく9%以下であることが好ましく、5%より大きく8.5%以下であることがより好ましい。
(P
五酸化二リン(P)は任意成分である。五酸化二リンは、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分でもある。五酸化二リンは、ガラスの屈折率を調整する成分である。他方、五酸化二リンは耐水性を悪化させる成分でもある。五酸化二リンの含有率が10%以下であれば、失透温度および粘度の調整、ならびに耐水性の改善が容易になる。
したがって、五酸化二リンの含有率は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。
ガラスの骨格を良好に維持することを重視する場合、二酸化珪素、三酸化二ホウ素、酸化アルミニウムおよび五酸化二リンの含有率の和(SiO+B+Al+P)も重要である。二酸化珪素、三酸化二ホウ素、酸化アルミニウムおよび五酸化二リンの合計含有率(SiO+B+Al+P)は、71%以上が好ましい。二酸化珪素、三酸化二ホウ素、酸化アルミニウムおよび五酸化二リンの合計含有率(SiO+B+Al+P)は、95.9%以下であり、95%以下が好ましい。
(MgO)
酸化マグネシウム(MgO)は任意成分である。酸化マグネシウムは、ガラスの耐熱性を保持しつつ、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分であり、耐水性を向上させる成分でもある。酸化マグネシウムは、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。酸化マグネシウムの含有率が0.1%以上であれば、失透温度および粘度の調整、ならびに耐水性の改善が容易になる。酸化マグネシウムの含有率が5%以下であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができる。酸化マグネシウムの含有率が5%以下であれば、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することができる。
したがって、酸化マグネシウムの含有率は、0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2%以上が最も好ましい。酸化マグネシウムの含有率は、5%以下が好ましく、5%未満がより好ましく、4%未満がさらに好ましく、3.5%以下が最も好ましい。酸化マグネシウムの含有率は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれることが好ましい。例えば、酸化マグネシウムの含有率は0.1%以上4%未満であることが好ましく、1%以上4%未満であることがより好ましい。
(MgO+NaO)
ガラスフィラーの成形し易さを重視する場合、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分であり、耐水性を向上させる成分でもある酸化マグネシウム(MgO)および酸化ナトリウム(NaO)の含有率の和(MgO+NaO)が重要である。酸化マグネシウムおよび酸化ナトリウムの合計含有率(MgO+NaO)が4.1%以上であれば、失透温度および粘度の調整、ならびに耐水性の改善が容易になる。酸化マグネシウムおよび酸化ナトリウムの合計含有率(MgO+NaO)が14%以下であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができる。
したがって、酸化マグネシウムおよび酸化ナトリウムの合計含有率(MgO+NaO)は、4.1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、5.5%以上がさらに好ましく、6.5%より大きいことが特に好ましく、7%より大きいことが最も好ましい。酸化マグネシウムおよび酸化ナトリウムの合計含有率(MgO+NaO)は、14%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましく、12%以下がさらに好ましく、11%未満が特に好ましく、10.5%未満が最も好ましい。酸化マグネシウムおよび酸化ナトリウムの合計含有率(MgO+NaO)は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれることが好ましい。
(CaO)
酸化カルシウム(CaO)は任意成分である。酸化カルシウムは、ガラスの耐熱性を保持しつつ、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分であり、耐水性を向上させる成分でもある。酸化カルシウムの含有率が5%以下であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができる。
したがって、酸化カルシウムの含有率は、5%以下が好ましく、5%未満がより好ましく、2%未満がさらに好ましく、1%未満が特に好ましく、0.5%未満が最も好ましい。
(MgO+CaO)
ガラスフィラーの成形し易さを重視する場合、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分であり、耐水性を向上させる成分でもある酸化マグネシウム(MgO)および酸化カルシウム(CaO)の含有率の和(MgO+CaO)が重要である。酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+CaO)が0.1%以上であれば、失透温度および粘度の調整、ならびに耐水性の改善が容易になる。酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+CaO)が5%以下であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができる。
したがって、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+CaO)は、0.1%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましく、2.5%以上が最も好ましい。酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+CaO)は、5%以下が好ましく、4.5%未満がより好ましく、4%未満がさらに好ましく、3.5%未満が最も好ましい。酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+CaO)は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれることが好ましい。
(MgO+NaO+CaO)
ガラスの失透温度および粘度を良好に保持できることを重視する場合、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分であり、耐水性を向上させる成分でもある酸化マグネシウム(MgO)、酸化ナトリウム(NaO)および酸化カルシウム(CaO)の含有率の和(MgO+NaO+CaO)が重要である。酸化マグネシウム、酸化ナトリウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+NaO+CaO)が5%以上であれば、失透温度および粘度の調整、ならびに耐水性の改善が容易になる。酸化マグネシウム、酸化ナトリウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+NaO+CaO)が13%以下であれば、失透温度の上昇を抑制し、失透のないガラスを容易に製造することができる。
したがって、酸化マグネシウム、酸化ナトリウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+NaO+CaO)は、5%以上が好ましく、5.5%以上がより好ましく、6.5%より大きいことがさらに好ましく、7%より大きいことが最も好ましい。酸化マグネシウム、酸化ナトリウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+NaO+CaO)は、13%以下であることが好ましく、12.5%以下がより好ましく、11.5%以下がさらに好ましく、11%以下が最も好ましい。酸化マグネシウム、酸化ナトリウムおよび酸化カルシウムの合計含有率(MgO+NaO+CaO)は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれることが好ましい。
(LiO)
酸化リチウム(LiO)は任意成分である。酸化リチウムは、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化リチウムを含有する場合、ガラスの融点を下げる効果が得られるため、ガラス原料を均一に溶融し易くなる。酸化リチウムを含有する場合、ガラスの作業温度を下げる効果が得られるため、ガラスフィラーを形成し易くなる。酸化リチウムの含有率が5%を超えると、ガラス転移温度が低くなり、ガラスの耐熱性が悪くなり、ガラスの耐水性が悪化する。酸化リチウムの含有率が5%を超えると、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することが容易でなくなる。
したがって、酸化リチウムの含有率は、5%以下が好ましく、2%未満がより好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.5%未満が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
(KO)
酸化カリウム(KO)は任意成分である。酸化カリウムは、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化カリウムは、ガラスの屈折率を調整する成分でもある。酸化カリウムの含有率が5%以下であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上し、ガラスの耐水性も向上する。酸化カリウムの含有率が5%以下であれば、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することができる。
したがって、酸化カリウムの含有率は、5%以下が好ましく、2%未満がより好ましく、1%未満がさらに好ましく、0.5%未満が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
(LiO+NaO+KO)
ガラスフィラーの成形し易さを重視する場合、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分であるアルカリ金属酸化物〔酸化リチウム(LiO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)〕の含有率の和(LiO+NaO+KO)が重要である。酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(LiO+NaO+KO)が4%以上であれば、失透温度および粘度の調整が容易になる。酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(LiO+NaO+KO)が9%以下であれば、ガラス転移温度が高くなり、ガラスの耐熱性が向上し、ガラスの耐水性も向上する。
したがって、酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(LiO+NaO+KO)は、4%以上が好ましく、5%より大きいことがより好ましく、6%より大きいことがさらに好ましく、7%より大きいことが最も好ましい。酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(LiO+NaO+KO)は、9%以下が好ましく、8.5%以下がより好ましく、8%未満がさらに好ましく、7.9%以下が最も好ましい。酸化リチウム、酸化ナトリウムおよび酸化カリウムの合計含有率(LiO+NaO+KO)は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。
(TiO
酸化チタン(TiO)は任意成分である。酸化チタンは、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化チタンの含有率が5%を超えると、ガラスの失透温度が上昇し過ぎ、ガラスを製造することが難しくなる。さらに、酸化チタンの含有率が5%を超えると、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することが容易でなくなる。
したがって、酸化チタンの含有率は、5%以下が好ましく、4%未満がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
(ZrO
酸化ジルコニウム(ZrO)は任意成分である。酸化ジルコニウムは、ガラスの失透温度および粘度を調整する成分である。酸化ジルコニウムの含有率が5%を超えると、ガラスの失透温度が上昇し過ぎ、ガラスを製造することが難しくなる。さらに、酸化ジルコニウムの含有率が5%を超えると、ガラスの屈折率を、アクリル樹脂への配合に適した範囲内に調整することが容易でなくなる。
したがって、酸化ジルコニウムの含有率は、5%以下が好ましく、2%未満がより好ましく、1%未満がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
(Fe)
鉄(Fe)は任意成分である。ガラス中に含まれる鉄は、通常、Fe3+またはFe2+の状態で存在する。Fe3+はガラスの紫外線吸収特性を向上させる成分であり、Fe2+はガラスの熱線吸収特性を向上させる成分である。鉄は、意図的に含ませなくとも、他の工業用原料から不可避的にガラス組成物に混入する場合がある。鉄の含有量が少なければ、ガラスの着色を防止することができる。透明性の高いアクリル樹脂にガラスフィラーを配合してアクリル樹脂成形体を得る場合、ガラスフィラー中の鉄の含有量が少なければ、アクリル樹脂成形体の透明性を損なうことがない。
したがって、鉄の含有率は小さいほうが好ましく、三酸化二鉄(Fe)に換算して0.5%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
(SO
三酸化硫黄(SO)は任意成分であるが、清澄剤として使用してもよい。硫酸塩の原料を使用すると、ガラス組成物中に三酸化硫黄が0.5%以下の含有率で含まれることがある。
(SrO)
酸化ストロンチウム(SrO)は、その原料の取扱いに配慮を要するとともに、高価である。したがって、酸化ストロンチウムは実質的に含有しないことが好ましい。
(BaO)
酸化バリウム(BaO)は、その原料の取扱いに配慮を要するとともに、高価である。したがって、酸化バリウムは実質的に含有しないことが好ましい。
(ZnO)
酸化亜鉛(ZnO)は、揮発し易いため、ガラスの溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、酸化亜鉛は実質的に含有しないことが好ましい。
(SrO+BaO+ZnO)
以上の理由から、ガラス組成物は、SrO、BaOおよびZnOを実質的に含有しないことが好ましい。
(F、Cl、Br、I)
フッ素(F)は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、フッ素は実質的に含有しないことが好ましい。
塩素(Cl)は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、塩素は実質的に含有しないことが好ましい。
臭素(Br)は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、臭素は実質的に含有しないことが好ましい。
ヨウ素(I)は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。したがって、ヨウ素は実質的に含有しないことが好ましい。
フッ素、塩素、臭素およびヨウ素の含有率の合計(F+Cl+Br+I)は、0.01%未満であることが好ましい。
(PbO)
酸化鉛(PbO)は、その原料の取扱いに配慮を要するため、実質的に含有しないことが好ましい。
(Sn)
ガラス中に含まれる錫(Sn)は、通常、Sn2+またはSn4+の状態で存在する。錫は、その原料の取扱いに配慮を要するため、二酸化錫(SnO)に換算して実質的に含有しないことが好ましい。
(As、Sb)
ガラス中に含まれるヒ素(As)は、通常、As3+またはAs5+の状態で存在する。ヒ素は、その原料の取扱いに配慮を要するため、三酸化二ヒ素(As)に換算して実質的に含有しないことが好ましい。
ガラス中に含まれるアンチモン(Sb)は、通常、Sb3+またはSb5+の状態で存在する。アンチモンは、その原料の取扱いに配慮を要するため、三酸化二アンチモン(Sb)に換算して実質的に含有しないことが好ましい。
ヒ素を三酸化二ヒ素に換算したときの含有率と、アンチモンを三酸化二アンチモンに換算したときの含有率との合計(As+Sb)は、0.01%未満であることが好ましい。
なお、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、例えば工業用原料から不可避的に混入する場合等を除き、意図的に含ませないことを意味する。実質的に含有しないとは、具体的には、含有率が0.1%未満、好ましくは0.05%未満、より好ましくは0.03%未満、最も好ましくは0.01%未満であることを意味する。
以上のように、本発明のガラスフィラーは、二酸化珪素、三酸化二ホウ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび酸化ナトリウムを必須成分とする。本発明のガラスフィラーは、これらの必須成分のみで構成されていてもよく、あるいは、これらの必須成分の他に、必要に応じて、五酸化二リン、酸化カルシウム、酸化リチウム、酸化カリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄(FeO、Fe)および三酸化硫黄が含まれていてもよい。具体的には、質量%で表して、以下の成分を含んでいてもよい、あるいは以下の成分から実質的に構成されていてもよいことが理解できる。本明細書において、「実質的に構成される」とは、その他の成分を実質的に含有しないことを意味する。
45≦SiO≦65、
21≦B≦35、
5≦Al≦15、
4≦NaO≦9、
0≦P≦10、
0≦MgO≦5、
0≦CaO≦5、
0≦LiO≦5、
0≦KO≦5、
0≦TiO≦5、
0≦ZrO≦5、
0≦Fe(全Feから換算したFe)≦0.5、
0≦SO≦0.5。
[ガラス組成物の物性]
次に、ガラスフィラーを構成するガラス組成物の物性について、以下詳細に説明する。
(溶融特性)
溶融ガラスの粘度が1000dPa・sec(1000poise)となるときの温度は、作業温度(成形温度)と呼ばれる。作業温度は、ガラスの成形に最も適する温度である。ガラスフィラーとして鱗片状ガラスまたはガラス繊維を製造する場合、ガラスの作業温度が1100℃以上であれば、鱗片状ガラスの厚みまたはガラス繊維径のばらつきを小さくできる。作業温度が1300℃以下であれば、ガラスを溶融する際の燃料費を低減でき、ガラス製造装置が熱による腐食を受け難くなり、装置寿命が延びる。
したがって、作業温度は、1100℃以上が好ましく、1150℃以上がより好ましい。作業温度は、1300℃以下が好ましく、1280℃以下がより好ましく、1260℃以下がさらに好ましく、1250℃以下が最も好ましい。作業温度は、これら上限と下限とを任意に組み合わせた範囲内にあるように選ばれる。例えば、作業温度は1100〜1300℃であることが好ましく、1100〜1280℃であることがより好ましく、1150〜1280℃であることがさらに好ましい。
作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが大きいほど、ガラス成形時に失透が生じ難くなり、均質なガラスを高い歩留りで製造できる。したがって、ΔTは10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましく、40℃以上が特に好ましく、50℃以上が最も好ましい。ΔTは、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。例えば、ΔTは20〜300℃であることが好ましく、20〜250℃であることがより好ましく、30〜250℃であることがさらに好ましい。
なお、失透とは、溶融ガラス素地中に生成して成長した結晶により、白濁を生じることをいう。このような溶融ガラス素地から製造されたガラスフィラーの中には、結晶化した塊が存在することがある。このようなガラスフィラーはアクリル樹脂に配合されるフィラーとして好ましくない。
(ガラス転移温度)
ガラスフィラーは、当該ガラスフィラーを構成するガラス組成物のガラス転移温度(ガラス転移点、Tg)が高いほど、耐熱性が高く、高温加熱を伴う加工に対して変形し難い。ガラス転移温度が450℃以上であるガラス組成物からなるガラスフィラーは、当該ガラスフィラーを分散させたアクリル樹脂組成物の耐熱性を高めることができる。ガラス組成物が含有する各成分の組成範囲を上述のように規定することにより、450℃以上のガラス転移温度を有するガラスを容易に得ることができる。ガラス組成物のガラス転移温度は、500℃以上が好ましく、520℃以上がより好ましい。ガラス組成物のガラス転移温度は、650℃以下が好ましく、600℃以下がより好ましく、550℃以下がさらに好ましい。例えば、ガラス組成物のガラス転移温度は500〜650℃であることが好ましく、500〜600℃であることがより好ましい。
(光学特性)
ガラスフィラーおよびアクリル樹脂の屈折率が互いに等しければ、ガラスフィラーとアクリル樹脂との間の界面における光の散乱がないため、アクリル樹脂の透明性を維持できる。このため、ガラス組成物の屈折率は、アクリル樹脂の屈折率に近いことが好ましい。アクリル樹脂は、通常、黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)で測定したときの屈折率nが、1.490〜1.494程度である。ガラス組成物の屈折率nは、1.480〜1.504であることが好ましく、1.482〜1.502がより好ましく、1.485〜1.499がさらに好ましく、1.488〜1.496が最も好ましい。
ガラス組成物およびアクリル樹脂の屈折率の差は、0.010以下であることが好ましく、0.008以下がより好ましく、0.005以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
なお、ガラス組成物は、その組成が同じであっても、製造時の熱履歴によって屈折率が若干の影響を受けることがある。例えば、溶融したガラスを徐冷して作製されたガラスのバルク(塊)の屈折率は、溶融したガラスを急冷して作製されたガラスフィラーの屈折率よりも僅かに高くなる傾向にある。これを考慮すると、アクリル樹脂との屈折率の相違は、ガラスフィラーの屈折率に基づいて記述することがより適切である。
アクリル樹脂は、通常、黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)で測定したときの屈折率nが、1.490〜1.494程度である。ガラスフィラーの屈折率nは、1.480〜1.504であることが好ましく、1.482〜1.502がより好ましく、1.485〜1.499がさらに好ましく、1.488〜1.496が最も好ましい。
ガラスフィラーおよびアクリル樹脂の屈折率の差は、0.010以下であることが好ましく、0.008以下がより好ましく、0.005以下がさらに好ましく、0.002以下が最も好ましい。
アッベ数は、ガラスなどの透明体の分散の程度を表す量であり、分散能の逆数である。ガラスフィラーのアッベ数およびアクリル樹脂のアッベ数が互いに近ければ、アクリル樹脂の透明性を維持できる。このため、ガラス組成物のアッベ数は、アクリル樹脂のアッベ数に近いことが好ましい。通常、アクリル樹脂のアッベ数νは、55〜60程度である。本発明において、ガラス組成物のアッベ数νは、65以下が好ましく、62以下がより好ましく、60以下がさらに好ましい。アッベ数νの下限は、50程度が好ましく、アッベ数νは54以上がより好ましい。例えば、アッベ数νは50〜65であることが好ましく、50〜62であることがより好ましい。
(化学的耐久性)
ガラス組成物が含有する各成分の含有率が上述で規定した組成範囲内にあれば、ガラス組成物は耐水性などの化学的耐久性に優れる。
[ガラスフィラー]
前記ガラス組成物は、例えば、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末、ガラスビーズなど、所定の形状を有するガラスフィラーに成形される。本発明のガラスフィラーは、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末およびガラスビーズから選ばれる少なくとも1つに相当する形態を有することが好ましい。ただし、これらの形態は、互いに厳密に区別されるものではない。互いに異なる形態を有する2種以上のガラスフィラーを組み合わせてフィラーとして用いてもよい。
図1Aは、ガラスフィラーとして用いられる鱗片状ガラス10を模式的に示す斜視図であり、図1Bはその鱗片状ガラス10を模式的に示す平面図である。鱗片状ガラス10は、例えば、平均厚さtが0.1〜15μm、平均粒子径aが0.2〜15000μm、アスペクト比(平均粒子径a/平均厚さt)が2〜1000の薄片状粒子である。なお、図1B中のSは、鱗片状ガラス10を平面視したときの面積である。
なお、鱗片状ガラスの平均厚さとは、少なくとも100枚の鱗片状ガラスを抜き取り、それらの鱗片状ガラスについて走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて厚さを測定し、その厚さの合計を、測定した鱗片状ガラスの枚数で割った値のことである。鱗片状ガラスの平均粒子径とは、レーザ回折散乱法に基づいて測定された粒度分布において、累積体積百分率が50%に相当する粒子径(D50)のことである。
この鱗片状ガラス10は、例えば、図2に示す装置を用いて製造できる。図2に示すように、耐火窯槽12において溶融された、所定の組成を有するガラス素地11は、ブローノズル13に送り込まれたガスにより風船状に膨らみ、中空状ガラス膜14となる。この中空状ガラス膜14を一対の押圧ロール15で粉砕することにより、鱗片状ガラス10が得られる。
ガラスフィラーとして用いられるチョップドストランドは、繊維径1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜1000の寸法を有するガラス繊維である。チョップドストランドは、例えば、図3および図4に示す装置を用いて製造できる。
図3に示すように、耐火窯槽内で溶融され、所定の組成を有するガラス素地は、底部に多数(例えば2400本)のノズルを有するブッシング20から引き出され、多数のガラスフィラメント21を形成する。ガラスフィラメント21には、冷却水が吹きかけられた後、バインダアプリケータ22の塗布ローラ23によりバインダ(集束剤)24が塗布される。バインダ24が塗布された多数のガラスフィラメント21は、補強パッド25により、各々が例えば800本程度のガラスフィラメント21からなる3本のストランド26として集束される。各ストランド26は、トラバースフィンガ27で綾振りされつつコレット28に嵌められた円筒チューブ29に巻き取られる。そして、ストランド26が巻き取られた円筒チューブ29をコレット28から外して、ケーキ(ストランド巻体)30が得られる。
次に、図4に示すように、クリル31にケーキ30を収容し、そのケーキ30からストランド26を引き出して、集束ガイド32によりストランド束33として束ねる。このストランド束33に、噴霧装置34より水または処理液を噴霧する。さらに、このストランド束33を切断装置35の回転刃36で切断して、チョップドストランド37が得られる。
ガラスフィラーとして用いられるミルドファイバーは、繊維径が1〜50μm、アスペクト比(繊維長/繊維径)2〜500の寸法を有するガラス繊維である。このようなミルドファイバーは、公知の方法に従って製造できる。
ガラス粉末は、ガラスを粉砕することによって製造される。ガラスフィラーとして用いるためには、ガラス粉末の平均粒子径が1〜500μmであることが好ましい。ここで、平均粒子径は、ガラス粉末粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラス粉末は、公知の方法に従って製造できる。
ガラスビーズは、ガラス組成物を球形またはそれに近い形となるように成形することによって製造される。ガラスフィラーとして用いるためには、ガラスビーズの粒子径が1〜500μmであることが好ましい。ここで、粒子径は、ガラスビーズ粒子と同じ体積を有する球体の直径として定義するものとする。このようなガラスビーズは、公知の方法に従って製造できる。
[アクリル樹脂組成物]
ガラス組成物から得られたガラスフィラーをアクリル樹脂に配合することにより、優れた性能を有するアクリル樹脂組成物が得られる。本発明のガラスフィラーは、アクリル樹脂との屈折率の差が小さく、アルカリ成分の溶出が少なく、化学的耐久性に優れている。したがって、得られるアクリル樹脂組成物は、アクリル樹脂と同等の透明性と、アクリル樹脂よりも優れた機械的強度および耐熱性とを兼ね備えている。
アクリル樹脂組成物は、公知の方法に従って製造できる。具体的には、混合機などを用いて加熱しながらアクリル樹脂とガラスフィラーとを溶融混練すればよい。アクリル樹脂としては、公知のものを使用できる。上述したように、アクリル樹脂に配合されるガラスフィラーとして、1種類の形態のガラスフィラーに限らず、複数種の形態のガラスフィラーを組み合わせて用いてもよい。アクリル樹脂組成物の性能を向上させるために、必要に応じて、各種のカップリング剤および添加剤を配合してもよい。溶融混練の温度は、アクリル樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
このようなアクリル樹脂組成物を成形して得られた成形品は、光学材料、電気機器、自動車部品、建築材料などに好適に使用できる。成形は公知の方法に従って行えばよく、押出成形法、射出成形法、プレス成形法、カレンダー成形によるシート成形法などが採用される。なお、成形時の加熱温度は、アクリル樹脂の耐熱温度以下であることが好ましい。
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜55および比較例1〜10)
表1〜表7に示した組成となるように、珪砂等の通常のガラス原料を調合し、実施例および比較例毎にガラス原料のバッチを作製した。電気炉を用いて、各バッチを1400〜1600℃まで加熱して溶融させ、組成が均一になるまで約4時間そのまま維持した。その後、溶融したガラス(ガラス溶融物)を鉄板上に流し出し、電気炉中で室温まで徐冷してガラス組成物(バルク:板状物)を得た。
得られたガラス組成物について、市販の膨張計〔(株)リガク、熱機械分析装置、TMA8510〕を用いて熱膨張係数を測定し、熱膨張曲線からガラス転移温度を求めた。
また、ガラス組成物について、通常の白金球引き上げ法により粘度と温度との関係を調べ、その結果から作業温度を求めた。ここで、白金球引き上げ法とは、溶融ガラス中に浸した白金球を等速運動で引き上げる際の負荷加重(抵抗)と白金球にはたらく重力および浮力などとの関係を、微小の粒子が流体中を沈降する際の粘度と落下速度との関係を示したストークス(Stokes)の法則にあてはめることにより、粘度を測定する方法である。
さらに、ガラス組成物を粒子径1.0〜2.8mmの大きさに粉砕し、白金ボートに入れ、温度勾配(800〜1400℃)のついた電気炉にて2時間加熱し、結晶の出現位置に対応する電気炉の最高温度から失透温度を求めた。ここで、粒子径は、ふるい分け法により測定された値である。なお、電気炉内の場所に応じて異なる温度(電気炉内の温度分布)は、予め測定されており、電気炉内の所定の場所に置かれたガラスは、予め測定された、当該所定の場所の温度で加熱される。ΔTは作業温度から失透温度を差し引いた温度差である。
ガラス組成物の屈折率としては、プルフリッヒ屈折率計を用いて、黄色ヘリウムd線(光の波長587.6nm)の屈折率nを求めた。
ガラス組成物のアッベ数νは、ガラス組成物の屈折率nを用いて下記式(1)により求めた。
(数1)
ν=(n−1)/(n−n) (1)
ここで、nはd線(波長587.6nm)の屈折率であり、nはF線(波長486.1nm)の屈折率であり、nはC線(波長656.3nm)の屈折率である。
これらの測定結果を表1〜表7に示す。なお、表中のガラス組成の値は、すべて質量%で表した値である。
Figure 2012017694
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実施例1〜55で得られたガラス組成物のガラス転移温度は、508℃〜542℃であった。これは、これらのガラス組成物が良好な耐熱性能を持つことを示している。実施例1〜55で得られたガラス組成物の作業温度は、1193℃〜1282℃であった。したがって、これらのガラス組成物はガラスフィラーの成形に好適である。実施例1〜55で得られたガラス組成物のΔT(作業温度−失透温度)は、20℃〜306℃であった。したがって、これらのガラス組成物はガラスフィラーの製造工程において失透を生じない。実施例1〜55で得られたガラス組成物の屈折率nは1.486〜1.504であった。実施例1〜55で得られたガラス組成物のアッベ数νは54〜63であった。
以上のことから、実施例1〜55で得られたガラス組成物は、フィラーとして樹脂(特に、アクリル樹脂)に配合する場合に適した屈折率とともに、ガラスフィラーの成形に適した溶融特性を有することが分かる。
他方、比較例1で得られたガラス組成物は、従来の板ガラスの組成を有し、SiO、B、AlおよびNaOの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例1で得られたガラス組成物の屈折率nは1.517であり、実施例1〜55における屈折率nに比べて高かった。
比較例2で得られたガラス組成物は、従来のCガラスの組成を有し、SiO、B、AlおよびNaOの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例2で得られたガラス組成物の屈折率nは1.523であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物の屈折率nに比べて高かった。
比較例3で得られたガラス組成物は、従来のEガラスの組成を有し、BおよびNaOの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例3で得られたガラス組成物の屈折率nは1.561であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物の屈折率nに比べて高かった。
比較例4〜6で得られたガラス組成物は、それぞれ特開2008−255002号公報(特許文献1)の実施例7、実施例8および実施例10に記載されている、SrO、BaOおよびZnOを含まないガラスと同様の組成を有する。
比較例4で得られたガラス組成物は、SiO、B、AlおよびNaOの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。それゆえ、比較例4では、ガラスの失透が生じたため、均質なガラス組成物が得られなかった。比較例4で得られたガラス組成物は、特開2008−255002号公報(特許文献1)の実施例7に開示されたガラスと同様の組成を有する。特許文献1の実施例7には、屈折率およびアッベ数が測定され、失透による糸切れを生じることなくガラス繊維化できたと記載されている。しかし、本発明者が追試したところ、失透が生じて紡糸することができなかった。比較例4におけるガラス組成は、失透性が高く、厳しく限定された条件の下でしか紡糸することができない組成であると考えられる。比較例4で得られたガラス組成物の屈折率nは1.505であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物の屈折率nに比べて高かった。
比較例5で得られたガラス組成物は、SiOおよびBの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。このため、比較例5で得られたガラス組成物は、作業温度が1350℃であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物の作業温度に比べて高かった。比較例5で得られたガラス組成物の屈折率nは1.512であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物の屈折率nに比べて高かった。
比較例6で得られたガラス組成物は、SiO、BおよびAlの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。このため、比較例6で得られたガラス組成物は、作業温度が1305℃であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物の作業温度に比べて高かった。
比較例7で得られたガラス組成物は、SiOおよびAlの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例7で得られたガラス組成物のガラス転移温度は495℃であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物のガラス転移温度に比べて低かった。比較例7で得られたガラス組成物の作業温度は1306℃であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物の作業温度に比べて高かった。比較例7で得られたガラス組成物のΔTは383℃であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物のΔTに比べて高かった。
比較例8で得られたガラス組成物は、SiOの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例8で得られたガラス組成物の作業温度は1039℃であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物の作業温度に比べて低かった。比較例8で得られたガラス組成物のΔTは−108℃であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物のΔTに比べて小さかった。比較例8で得られたガラス組成物の屈折率nは1.514であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物の屈折率nに比べて高かった。
比較例9で得られたガラス組成物は、SiOおよびBの含有率が本発明において規定される組成範囲より外にあった。そのため、比較例9で得られたガラス組成物のガラス転移温度は445℃であり、実施例1〜55で得られたガラス組成物のガラス転移温度に比べて低かった。
(実施例56〜110)
実施例56〜110では、それぞれ実施例1〜55で得られたガラス組成物(バルク)を用いて鱗片状ガラスを作製した。すなわち、ガラス組成物(バルク)を電気炉で再溶融した後、冷却しながらペレットに成形した。このペレットを図2に示す製造装置に投入し、平均厚さが0.5〜1μmおよび平均粒子径が1〜1000μmである鱗片状ガラスを作製した。鱗片状ガラスの平均厚さは、電子顕微鏡((株)キーエンス、リアルサーフェスビュー顕微鏡、VE−7800)を用い、100粒の鱗片状ガラスに対して鱗片状ガラスの断面から厚さを測定し、それらを平均することにより求めた。鱗片状ガラスの平均粒子径は、レーザ回折粒度分布測定装置(日機装(株)、粒度分析計、マイクロトラックHRA)によって測定した。
実施例56〜110で得られた鱗片状ガラスの屈折率(n)を測定した。鱗片状ガラスの屈折率としては、浸液法により、黄色ナトリウムD線(光の波長589.3nm)の屈折率nを求めた。この結果を表8〜表13に示す。
Figure 2012017694
Figure 2012017694
Figure 2012017694
Figure 2012017694
Figure 2012017694
Figure 2012017694
表8〜表13に示すように、実施例56〜110で得られた鱗片状ガラスの屈折率(n)は1.480〜1.499の範囲であり、アクリル樹脂の屈折率(nが1.490〜1.494)に近い値であった。
実施例56〜110で得られた鱗片状ガラスをそれぞれガラスフィラーとしてアクリル樹脂に配合することにより、種々のアクリル樹脂組成物が得られた。
(実施例111〜165)
実施例111〜165では、それぞれ実施例1〜55で得られたガラス組成物(バルク)を用いて、ガラスフィラーとして用いることのできるチョップドストランドを作製した。すなわち、ガラス組成物(バルク)を電気炉で再溶融した後、冷却しながらペレットに成形した。このガラスペレットを図3および図4に示す製造装置に投入して、平均繊維径が10〜20μm、長さが3mmであるチョップドストランドを作製した。
実施例111〜165で得られたチョップドストランドをそれぞれガラスフィラーとしてアクリル樹脂に配合することにより、種々のアクリル樹脂組成物が得られた。
(実施例166)
実施例1で得られたガラス組成物と同じ組成を有するように、珪砂等の通常のガラス原料を調合してガラス原料のバッチを作製した。このバッチを直接、図2に示す製造装置に投入した以外は実施例56と同様にして、鱗片状ガラスを作製した。得られた鱗片状ガラスの屈折率(n)を測定した結果を表13に併せて示す。
表8および表13に示すように、実施例166で得られた鱗片状ガラスの屈折率(n)は、実施例1で得られたガラスペレットを再溶融して作製された、実施例56で得られた鱗片状ガラスの屈折率(n)とほぼ等しい値になった。
前述したように、ガラス組成物はその組成が同一であっても、製造時の熱履歴によって屈折率が影響を受けることがある。しかし、本発明のガラスフィラーは、実施例56のようにガラスペレットなどのガラスのバルク(塊)を再溶融して作製された場合、および、実施例166のように各成分の原料を調合したバッチを溶融して得たガラス溶融物から直接作製された場合のいずれであっても、屈折率がほとんど変化しない。本発明のガラスフィラーは、いずれの方法を採用しても作製することができる。
以上の実施例から明らかなように、本発明はその別の観点から、
ガラス原料を溶融し、質量%で表して、
45≦SiO≦65、
21≦B≦35、
5≦Al≦15、
4≦NaO≦9、を含有するガラス溶融物を得る工程と、
前記ガラス溶融物をフィラーへと成形する工程とを含むガラスフィラーの製造方法を提供する。
なお、実施例56〜165から明らかなように、本発明の製造方法に用いる「ガラス原料」は、珪砂等工業的に使用される原料に加え、予め製造されたガラスペレットなどのガラス組成物であってもよい。
本発明のガラスフィラーは、樹脂、特に、アクリル樹脂に配合されるフィラーとして用いることができる。本発明のガラスフィラーをアクリル樹脂に配合して得られるアクリル樹脂組成物を成形することにより、光学材料、電気機器、自動車部品、建築材料などに好適に利用できる成形品を得ることができる。

Claims (13)

  1. 質量%で表して、
    45≦SiO≦65、
    21≦B≦35、
    5≦Al≦15、
    4≦NaO≦9、を含有するガラス組成物からなるガラスフィラー。
  2. 前記ガラス組成物がSrO、BaOおよびZnOを実質的に含有しない請求項1に記載のガラスフィラー。
  3. 前記ガラス組成物が酸化マグネシウム(MgO)をさらに含み、前記酸化マグネシウムの含有率が質量%で表して、
    0.1≦MgO≦5
    である請求項1に記載のガラスフィラー。
  4. 前記ガラス組成物におけるSiO、BおよびAlの合計含有率が、質量%で表して、
    80≦SiO+B+Al≦95
    である請求項1に記載のガラスフィラー。
  5. 前記ガラス組成物におけるMgOおよびNaOの合計含有率が、質量%で表して、
    5≦MgO+NaO≦13
    である請求項1に記載のガラスフィラー。
  6. 屈折率nが1.480〜1.504である請求項1に記載のガラスフィラー。
  7. 前記ガラス組成物のアッベ数νが50〜65である請求項1に記載のガラスフィラー。
  8. 前記ガラス組成物の作業温度が1100〜1300℃である請求項1に記載のガラスフィラー。
  9. 前記ガラス組成物の作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが10〜300℃である請求項1に記載のガラスフィラー。
  10. 前記ガラス組成物のガラス転移温度が500〜650℃である請求項1に記載のガラスフィラー。
  11. 鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末およびガラスビーズから選ばれる少なくとも1つに相当する形態を有する、請求項1に記載のガラスフィラー。
  12. 請求項1に記載のガラスフィラーとアクリル樹脂とを含有するアクリル樹脂組成物。
  13. ガラス原料を溶融し、質量%で表して、
    45≦SiO≦65、
    21≦B≦35、
    5≦Al≦15、
    4≦NaO≦9、を含有するガラス溶融物を得る工程と、
    前記ガラス溶融物をフィラーへと成形する工程とを含むガラスフィラーの製造方法。
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