以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1(a)、図1(b)及び図1(c)は、本発明の実施形態に係るミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図1(a)は、実施形態に係るミラー110の模式的断面図である。図1(b)は、ミラー110の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。図1(c)は、ミラー110の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は電場EFを表している。なお、電場EFは、電場振幅の絶対値2乗である。
図1(a)に表したように、実施形態に係るミラー110は第1の方向に互いに積層された複数の誘電体層DLを備える。
なお、ミラー110は、平面ミラーでも良く、曲面ミラーでも良い。例えば、ミラー110が球面状や円筒状のような曲面ミラーである場合は、誘電体層DLが、曲面のそれぞれの場所で曲面に対して垂直な方向に沿って積層される。すなわち、平面ミラーの場合は、第1の方向は、その平面に対して垂直な方向である。また、曲面ミラーの場合は、第1の方向は、その曲面のそれぞれの場所においてその曲面に対して垂直な方向である。以下では、説明を簡単にするためにミラー110が平面ミラーである場合として説明する。
ここで、積層方向(第1の方向)をZ軸方向とする。
複数の誘電体層DLのそれぞれの第1の方向に沿った厚さは、設計波長の1/2の長さである。ここで、設計波長は、実施形態に係るミラー110が反射する光の波長であり、以下では設計波長λとする。
複数の誘電体層DLのうちのいずれかは、第1の方向に沿った厚さが設計波長の1/8の第1部分と、第1部分と第1の方向において積層され、第1の方向に沿った厚さが設計波長の1/8の第2部分と、第1部分と第2部分との間に設けられた第3部分とを有す。第3部分の第1の方向に沿った厚さは、設計波長の1/4である。
本願明細書においては、「厚さ」は、光学的厚さ(光学的距離)とされる。なお、光学的厚さは、物理的厚さに媒質の屈折率を乗じた値とされる。媒質の厚み方向において屈折率が変化する場合は、物理的厚さに媒質の屈折率を乗じた値を媒質の厚さ方向に沿って積分した値が「厚さ」(光学的厚さ)とされる。
また、本願明細書において、「積層される」とは、2つの層が互いに接して積層される場合の他、2つの層の間に他の層が挿入された状態で2つの層が積層される場合も含む。本具体例では、第1誘電体薄膜L1と第2誘電体薄膜L2との間に、第3誘電体薄膜L3が挿入された状態で、第2誘電体薄膜L2は第1誘電体薄膜L1に積層される。なお、本願明細書において、「積層された」及び「積層される」の表現において、複数の層の形成順序は任意である。
第1部分は、第1部分屈折率(本具体例では高屈折率nH)を有する。第2部分は、第1部分屈折率よりも低い第2部分屈折率(本具体例では低屈折率nL)を有する。第3部分は、第1部分の側から第2部分の側に向かうに従って漸減する第3部分屈折率を有する。そして、第3部分屈折率の第1の方向に関する分散は、第1部分屈折率の第1の方向に関する分散及び第2部分屈折率の第1の方向に関する分散よりも大きい。ここでの「分散」は、屈折率の波長依存性を意味するものではなく、統計学的な意味での分散(平均値との差の2乗の平均値)である。
すなわち、誘電体層DLの側面の側の第1部分及び第2部分における屈折率の厚さ方向に沿った変化よりも、誘電体層DLの中央部分の第3部分において、屈折率の変化が大きく、第3部分の屈折率は、第1部分から第2分部に向かうに従って漸減する。
これにより、低損失で高反射のミラーが得られる。
以下、本実施形態に係るミラーの例として、複数の誘電体層DLのうちのいずれかが以下のような3層構造を有する場合として説明する。
図1(a)に表したように、ミラー110においては、複数の誘電体層DLのうちのいずれかは、第1の3層構造体BS1を含む。
第1の3層構造体BS1は、第1誘電体薄膜L1と、第2誘電体薄膜L2と、第3誘電体薄膜L3と、を有する。
第1誘電体薄膜L1は、設計波長の1/8よりも大きく設計波長の1/4よりも小さい第1厚さd1を有する。すなわち、第1厚さd1は、λ/8よりも大きく、λ/4よりも小さい。
第1誘電体薄膜L1は、第1屈折率n1を有する。図1(b)に表したように、第1屈折率n1は、例えば高屈折率nHである。第1誘電体薄膜L1は、実質的に一様な屈折率を有する、誘電体からなる薄膜である。
第2誘電体薄膜L2は、第1の方向において、第1誘電体薄膜L1と積層される。
第2誘電体薄膜L2は、設計波長の1/8よりも大きく設計波長の1/4よりも小さい第2厚さd2を有する。すなわち、第2厚さd2は、λ/8よりも大きくλ/4よりも小さい。
第2誘電体薄膜L2は、第1屈折率n1よりも低い第2屈折率n2を有する。図1(b)に表したように、第2屈折率n2は、例えば低屈折率nLである。第2誘電体薄膜L2は、実質的に一様な屈折率を有する、誘電体からなる薄膜である。
第3誘電体薄膜L3は、第1誘電体薄膜L1と第2誘電体薄膜L2との間に設けられる。第3誘電体薄膜L3は、設計波長の1/2の値から第1厚さd1及び第2厚さd2の合計を減じた第3厚さd3を有する。すなわち、第3厚さd3は、{λ/2−(d1+d2)}である。第1厚さd1及び第2厚さd2の値によって、第3厚さd3は、零よりも大きい値から、λ/4の値までの範囲の値を取り得る。なお、第1の3層構造体BS1の厚さ(第1厚さd1、第2厚さd2及び第3厚さd3の合計)は、λ/2である。
図1(b)に表したように、第3誘電体薄膜L3は、第1誘電体薄膜L1の側から第2誘電体薄膜L2の側に向かうに従って漸減する第3屈折率n3を有する。例えば、第3屈折率n3は、第1誘電体薄膜L1の側から第2誘電体薄膜L2の側に向かうに従って、高屈折率nH(第1屈折率n1)から低屈折率nL(第2屈折率n2)に向かって漸減する。第3誘電体薄膜L3は、厚さ方向に沿って屈折率が変化する、誘電体からなる薄膜である。
なお、第1誘電体薄膜L1及び第2誘電体薄膜L2のそれぞれの屈折率は実質的に一様であり、これらの層のそれぞれの屈折率の変化は、第3誘電体薄膜L3における屈折率の変化よりも、十分に小さい。
第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2及び第3誘電体薄膜L3の積層方向は、第1方向(Z軸方向)である。ここで、第1誘電体薄膜L1から第2誘電体薄膜L2に向かう方向をZ軸の正の方向とする。
実施形態に係るミラー110においては、第1誘電体薄膜L1の第3誘電体薄膜L3とは反対側の面が、入射面ISとなる。すなわち、ミラー110は、外界から入射面ISに入射する光を、外界に向けて反射する。
図1に例示したように、本具体例のミラー110は、例えば、基板SB(基体)の主面の上に設けられることができる。
このように、実施形態に係るミラー110においては、複数の誘電体層DLのいずれかが、上記のような高屈折率を有する第1誘電体薄膜L1と、その高屈折率よりも低い低屈折率を有する第2誘電体薄膜L2と、それらの間に設けられ、屈折率が漸減する第3誘電体薄膜L3と、を有する第1の3層構造体BS1を有することで、高い反射率を維持しつつ、界面散乱損失を抑制でき、低損失で高反射のミラーを提供することができる。
すなわち、図1(c)に表したように、第1の3層構造体BS1において、厚さ方向の中央部において電場EFは大きく、第1の3層構造体BS1のうちの厚さ方向の両端の側においては、電場EFは小さい。ミラー110においては、電場EFが大きい領域では屈折率が漸減しており、屈折率差が小さい。界面散乱損失は、界面の両側の媒質の屈折率差が小さいほど小さくなるので、電場EFが大きい領域に配置された第3誘電体薄膜L3において、界面散乱損失が抑制される。そして、電場EFが大きい領域で、屈折率の減少が大きいため、反射率は高い値を維持できる。これにより、実施形態に係るミラー110によって、低損失で高反射のミラーを提供することができる。
ミラー110において、第1の3層構造体BS1を含む誘電体層DLは、複数の誘電体層DLのうちで、第2誘電体薄膜L2から第1誘電体薄膜L1に向かう端(Z軸の負の方向の端)に配置される。すなわち、第1の3層構造体BS1を含む誘電体層DLは、複数の誘電体層DLの一方の端に配置される。そして、第2誘電体薄膜L1は、第3誘電体薄膜L3と、第1の3層構造体BS1を含む誘電体層DLを除く複数の誘電体層DLと、の間に配置される。複数の誘電体層DLのうちで、ミラー110の入射面ISの側の端に、第1の3層構造体BS1の誘電体層DLが配置される。これにより、高反射率と低損失とを最も向上させることができる。
さらに、図1(a)に表したように、実施形態に係るミラー110においては、複数の誘電体層DLのうちの第1の3層構造体BS1を含む誘電体層DLとは異なる誘電体層DLは、第2の3層構造体BS2を含むことができる。
本具体例では、第2の3層構造体BS2は、第1の3層構造体BS1の第2誘電体薄膜L2の側に設けられる。すなわち、第2の3層構造体BS2は、第1の3層構造体BS1の入射面IS(ミラー110の入射面IS)とは反対の側に設けられる。
第2の3層構造体BS2は、第4誘電体薄膜L4と、第5誘電体薄膜L5と、第6誘電体薄膜L6と、を有する。
第4誘電体薄膜L4は、第2誘電体薄膜L2の第3誘電体薄膜L3とは反対の側に設けられる。第4誘電体薄膜L4は、設計波長の1/8よりも大きく前記設計波長の1/4よりも小さい第4厚さd4を有する。すなわち、第4厚さd4は、λ/8よりも大きくλ/4よりも小さい。
第4誘電体薄膜L4は、第4屈折率n4を有する。図1(b)に表したように、本具体例では、第4屈折率n4は、高屈折率nHである。第4誘電体薄膜L4は、実質的に一様な屈折率を有する、誘電体からなる薄膜である。
第5誘電体薄膜L5は、第4誘電体薄膜L4の第2誘電体薄膜L2とは反対の側に設けられる。第5誘電体薄膜L5は、設計波長の1/8よりも大きく設計波長の1/4よりも小さい第5厚さd5を有する。すなわち、第5厚さd5は、λ/8よりも大きくλ/4よりも小さい。
第5誘電体薄膜L5は、第4屈折率n4よりも低い第5屈折率n5を有する。図1(b)に表したように、本具体例では、第5屈折率n5は、低屈折率nLである。第5誘電体薄膜L5は、実質的に一様な屈折率を有する、誘電体からなる薄膜である。
そして、第6誘電体薄膜L6は、第4誘電体薄膜L4と第5誘電体薄膜L5との間に設けられる。第6誘電体薄膜L6は、設計波長の1/2から第4厚さd4及び第5厚さd5の合計を減じた第6厚さd6を有する。すなわち、第6厚さd6は、{λ/2−(d4+d5)}である。第4厚さd4及び第5厚さd5の値によって、第6厚さd6は、零よりも大きい値から、λ/4の値までの範囲の値を取り得る。なお、第2の3層構造体BS2の厚さ(第4厚さd4、第5厚さd5及び第6厚さd6の合計)は、λ/2である。第6誘電体薄膜L6は、厚さ方向に沿って屈折率が変化する、誘電体からなる薄膜である。
なお、第4誘電体薄膜L4及び第5誘電体薄膜L5のそれぞれ屈折率は、実質的に一様であり、これらの層のそれぞれの屈折率の変化は、第6誘電体薄膜L6における屈折率の変化よりも、十分に小さい。
図1(b)に表したように、第6誘電体薄膜L6は、第4誘電体薄膜L4の側から第5誘電体薄膜L5の側に向かうに従って漸減する第6屈折率n6を有する。例えば、第6屈折率n6は、第4誘電体薄膜L4の側から第5誘電体薄膜L5の側に向かうに従って、高屈折率nH(第4屈折率n4)から低屈折率nL(第5屈折率n5)に向かって漸減する。
上記のように、本具体例では、第4屈折率n4は第1屈折率n1と同じであり、第5屈折率n5は第2屈折率n2と同じである。ただし、実施形態において、第2屈折率n2は第1屈折率n1よりも小さく、第5屈折率n5は第4屈折率n4よりも小さければ良く、第1屈折率n1と第4屈折率n4との関係、及び、第2屈折率n2と第5屈折率n5との関係、は、それぞれ任意である。
このように、ミラー110は、複数の誘電体層DLを有し、複数の誘電体層DLのうちの複数が、上記のような3層構造体とすることができる。
例えば、ミラー110は、K個(Kは1以上の整数)の誘電体層DLを備える。K個の誘電体層DLのうちの、入射面から数えて、j番目(jは1以上でN以下の整数)の誘電体層DLjが、3層構造体BSjとされる。3層構造体BSjは、高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)と、その高屈折率よりも低い低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)と、それらの間に設けられ、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)と、を有する。ここで、誘電体層DLの数であるKは、ミラー110において求められる反射率の設計値により定められる。Kが大きいほど、ミラー110における反射率が高くなる。
実施形態に係るミラー110においては、複数の誘電体層DLのうちの1つ以上が、3層構造体BSである。3層構造体BSの数をN(Nは1以上、K以下である)とする。
3層構造体BSのそれぞれにおいては、厚さ方向の中央部(誘電体薄膜L(3j))において屈折率が変化(漸減)し、3層構造体BSのうちの厚さ方向の両端の側の層(高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)、及び、低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)においては、屈折率は実質的に一定である。
図1(c)に表したように、3層構造体BSのそれぞれにおいて、厚さ方向の中央部において電場EFは大きく、3層構造体BSのうちの厚さ方向の両端の側においては、電場EFは小さい。
ミラー110においては、電場EFが大きい領域に、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)(例えば第3誘電体薄膜L3及び第6誘電体薄膜L6など)が配置され、電場EFが小さい領域に、高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)(例えば第1誘電体薄膜L1及び第4誘電体薄膜L4など)、及び、低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)(例えば第2誘電体薄膜L2及び第5誘電体薄膜L5など)が配置されている。
これにより、ミラー110においては、電場EFが大きい領域では、屈折率が漸減しており、屈折率差が小さい。そして、屈折率が低屈折率から高屈折率へ不連続的に変化する部分では電場EFが実質的に零である。
界面の両側の媒質の屈折率差が小さいほど界面散乱損失は小さくなるので、電場EFが大きい領域である屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)においては、界面散乱損失が抑制される。そして、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)と高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)との間の界面、及び、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)と低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)との間の界面においても、界面散乱損失は抑制される。
また、界面における電場が小さいほど界面散乱損失は小さくなるので、屈折率が低屈折率から高屈折率へ不連続的に変化する部分である、低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)と高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j+1)との間の界面における界面散乱損失は抑制される。また、例えば、3層構造体BSjの低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)と、3層構造体BSjの入射面ISとは反対の側で3層構造体BSjと隣接する、別の誘電体層の高屈折率を有する層と、の間の界面における界面散乱損失が抑制される。
このように、ミラー110においては、電場EFが大きい領域において屈折率を漸減させ、電場EFが実質的に零の領域で屈折率を不連続的に上昇させることで、界面散乱損失を抑制できる。
そして、ミラー110においては、電場EFが大きい領域で、屈折率が減少しているため、反射率は高い値を維持できる。すなわち、電場EFが大きい領域で、屈折率が、例えば高屈折率nHから低屈折率nLに変化するため、反射率は高い値を維持できる。
これにより、実施形態に係るミラー110によって、低損失で高反射のミラーを提供することができる。
界面の微細な凹凸に起因した散乱によって生じる界面散乱損失と、屈折率差を有する界面における反射率と、は、共に電場EFが大きい領域で大きくなるが、界面散乱損失と反射率とにおける特性の差異により、電場EFが大きい領域において屈折率を漸減させることで、反射率を低下させずに界面散乱損失を小さくできる。すなわち、電場EFが大きい領域において、屈折率を例えば高屈折率nHから低屈折率nLに漸減させることで、反射率を低下させずに界面散乱損失を小さくできる。
図1(c)に表したように、電場EFは、3層構造体BSのそれぞれの厚さ方向(Z軸方向)の中央部で大きく、端の側で小さい。ここで、3層構造体BSのそれぞれの厚さ方向の中央部分のλ/4以下の厚さの領域(3層構造体BSの厚さの1/2の厚さの領域)において、電場EFが相対的に大きいと見なすことができる。このため、電場EFが大きい領域に対応させて、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)(例えば第3誘電体薄膜L3及び第6誘電体薄膜L6など)の厚さは、零よりも大きい値から、λ/4以下の値とされる。
従って、それぞれの3層構造体BSにおいて、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)の両側にそれぞれ配置される高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)(例えば第1誘電体薄膜L1及び第4誘電体薄膜L4など)、及び、低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)(例えば第2誘電体薄膜L2及び第5誘電体薄膜L5など)の厚さは、それぞれ、λ/8よりも大きくλ/4よりも小さい範囲の値に設定される。
なお、3層構造体BSの厚さがλ/2であるため、高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)、及び、低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)の厚さがλ/4の場合には、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)が設けられないことに相当する。
このように、実施形態に係るミラー110においては、電場EFが大きい領域において屈折率を変化(漸減)させつつ、電場EFが実質的に零である領域で、屈折率を低屈折率から高屈折率へ不連続的に変化させることで、界面散乱損失を抑制する。そして、それと同時に、電場EFが大きい領域で、屈折率を減少させることで、反射率は高い値を維持できる。すなわち、電場EFが大きい領域で、屈折率を例えば高屈折率nHから低屈折率nLに変化させることで、反射率は高い値を維持できる。
なお、例えば、ミラー110が、空気(または真空)中にが置かれ、空気(または真空)中を進む光をミラー110によって反射する場合は、図1に例示したように、例えば、基板BSの上にミラー110が設けられ、ミラー110の基板BSとは反対の側が入射面ISとなる。
また、例えば、バルク誘電体の表面にミラー110が設けられ、そのバルク誘電体の内部を進む光をミラー110が反射する場合、ミラー110のバルク誘電体の側が入射面ISとなる。例えば、バルク誘電体内を、その表面に設置されたミラーによって光が往復する光共振器などにおいては、この構成が採用される。
なお、複数の誘電体層DLのうちに3層構造体BSが複数設けられる場合において、3層構造体BSの配置は任意である。ただし、既に説明したように、複数の誘電体層DLのうちで最も入射面ISに近い側に3層構造体BSのいずれかを配置することが、高反射率と低損失との観点で望ましい。
なお、3層構造体BSの数Nが2以上である場合、便宜上、第1の3層構造体BS1は、最も入射面ISに近い側に配置されるものとし、第2の3層構造体BS2は、第1の3層構造体BS1よりも入射面ISから遠い位置に配置されるものとする。
例えば、3層構造体BSの数Nが3である場合、便宜上、第1の3層構造体BS1は、入射面ISに最も近い側に配置されるものとし、第2の3層構造体BS2は、第1の3層構造体BS1よりも入射面ISから遠い側に配置され、第3の3層構造体BS3は、第2の3層構造体BS2よりも入射面ISから遠い側に配置されるものとする。
ただし、3層構造体BSの数Nが3以上である場合において、第1の3層構造体BS1と第2の3層構造体BS2との位置関係に着目すれば、例えば、入射面ISに2番目に近い3層構造体BSを第1の3層構造体BS1とし、第2の3層構造体BS2は、第1の3層構造体BS1の入射面ISとは反対の側に配置されると見なしても良い。すなわち、第1の3層構造体BS1は、3つ以上の3層構造体BSのうちで必ずしも入射面ISに最も近い側に配置されなくても良く、3つ以上の3層構造体BSのうちの任意の3層構造体BSを第1の3層構造体BS1と見なし、その第1の3層構造体BS1よりも入射面ISから遠い側の3層構造体BSを、第2の3層構造体BS2と見なしても良い。
図2(a)、図2(b)及び図2(c)は、本発明の実施形態に係る別のミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図2(a)は実施形態に係る別のミラー111dの模式的断面図である。図2(b)は、ミラー111dの特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。図2(c)は、ミラー111dの特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は電場EFを表している。
図2(a)に表したように、ミラー111dにおいては、複数の誘電体層DLのうちの第1の3層構造体BS1を含む誘電体層DLとは異なる誘電体層DLは、第1の2層構造体SF1を含む。
本具体例では、ミラー111dにおいては、複数の誘電体層DLのうちの4つが3層構造体BSを含む誘電体層DLである。すなわち、4つの3層構造体BS(第1の3層構造体BS1、第2の3層構造体BS2、第3の3層構造体BS3及び第4の3層構造体BS4)が設けられる。そして、1つ以上の2層構造体SF1が設けられる。図2(a)においては、2つの2層構造体SF(第1の2層構造体SF1及び第2の2層構造体SF2)が例示されている。
第1の2層構造体SF1は、第1高屈折率誘電体膜HF1と、第1低屈折率誘電体膜LF1と、を有する。
第1高屈折率誘電体膜HF1は、第2誘電体薄膜L2の第3誘電体薄膜L3とは反対の側に設けられる。
図2(b)に表したように、第1高屈折率誘電体膜HF1は、設計波長の1/4の厚さ(λ/4)を有する。
第1低屈折率誘電体膜LF1は、第1高屈折率誘電体膜HF1の第2誘電体薄膜L2とは反対の側に設けられる。本具体例では、第1低屈折率誘電体膜LF1は、第1高屈折率誘電体膜HF1の第4の3層構造体BS4とは反対の側に設けられている。
第1低屈折率誘電体膜LF1は、設計波長の1/4の厚さ(λ/4)を有し、第1高屈折率誘電体膜HF1よりも低い屈折率を有する。
このように、第1の2層構造体SF1は、高屈折率を有する層(第1高屈折率誘電体膜HF1)と、その高屈折率よりも低い低屈折率を有する層(第1低屈折率誘電体膜LF1)と、の2層構造を有している。
このように、ミラー111dにおいては、複数の誘電体層DLのいずれか1つ以上が、3層構造を有する3層構造体BSを含み、複数の誘電体層DLの他のいずれか1つ以上が、2層構造を有する2層構造体SF(例えば第1の2層構造体SF1など)、を含む。
ミラー111dにおいて、3層構造体BSの数は1つでも良い。この場合には、第1の2層構造体SF1は、第1の3層構造体BS1の入射面ISとは反対の側(第2誘電体薄膜L2の第1誘電体薄膜L1とは反対の側)に設けられる。すなわち、第1高屈折率誘電体膜HF1は、第1の3層構造体BS1の入射面ISとは反対の側に設けられる。そして、第1低屈折率誘電体膜LF1は、第1高屈折率誘電体膜HF1の第1の3層構造体BS1とは反対の側に設けられる。
そして、複数の3層構造体BSが設けられる場合、すなわち、ミラー111dが、第1の3層構造体BS1及び第2の3層構造体BS2を有する場合は、第1の2層構造体SF1は、第2の3層構造体BS1の第1の3層構造体BS1とは反対の側に設けられる。すなわち、第1高屈折率誘電体膜HF1は、第2の3層構造体BS2の第1の3層構造体BS1とは反対の側に設けられる。そして、第1低屈折率誘電体膜LF1は、第1高屈折率誘電体膜HF1の第2の3層構造体BS2とは反対の側に設けられる。
さらに、図2(a)及び図2(b)に表したように、実施形態に係るミラー111dにおいては、複数の誘電体層DLのうちのいずれかが、3層構造体BSを含む誘電体層DLであり、他の誘電体層DLが第1の2層構造体SF1を含む誘電体層であり、さらに、他の誘電体層DLが第2の2層構造体SF2を含む誘電体層である。
第2の2層構造体SF2は、第1の2層構造体SF1の第1の3層構造体BS1とは反対の側に設けられる。すなわち、第2の2層構造体SF2は、入射面ISからの距離が第1の2層構造体SF1よりも遠い位置に配置される。
すなわち、例えば、3層構造体BSが1つ設けられる場合には、複数の誘電体層DLのうちの第1の3層構造体BS1を含む誘電体層DL、及び、第1の2層構造体SF1を含む誘電体膜DLとは異なる誘電体層DLは、第2の2層構造体SF2を含み、第2の2層構造体SF2は、第1の2層構造体SF1の第1の3層構造体BS1とは反対の側に設けられる。
また、例えば、3層構造体BSが2つ以上(例えば、第1の3層構造体BS1及び第2の3層構造体BS2など)設けられる場合は、複数の誘電体層DLのうちの第1の3層構造体BS1を含む誘電体層DL、第2の3層構造体BS2を含む誘電体層DL、及び、第1の2層構造体SF1を含む誘電体膜DLとは異なる誘電体層DLは、第2の2層構造体SF2を含み、第2の2層構造体SF2は、第1の2層構造体SF1の第2の3層構造体BS2とは反対の側に設けられる。
第2の2層構造体SF1は、第2高屈折率誘電体膜HF2と、第2低屈折率誘電体膜LF2と、を有する。
第2高屈折率誘電体膜HF2は、第1低屈折率誘電体膜LF1の第1高屈折率誘電体膜HF1とは反対の側に設けられる。第2高屈折率誘電体膜HF2は、設計波長の1/4の厚さ(λ/4)を有する。
第2低屈折率誘電体膜LF2は、第2高屈折率誘電体膜HF2の第1の2層構造体SF1とは反対の側に設けられ、設計波長の1/4の厚さ(λ/4)を有し、第2高屈折率誘電体膜HF2よりも低い屈折率を有する。
このように、第2の2層構造体SF2も、高屈折率を有する層(第2高屈折率誘電体膜HF2)と、その高屈折率よりも低い低屈折率を有する層(第2低屈折率誘電体膜LF2)と、の2層構造を有している。このような2層構造の2層構造体SFは複数設けられることができる。
このように、ミラー111dにおいては、複数の2層構造体SFが設けられることができ、そのうちの1つの2層構造体SFを第1の2層構造体SF1とし、第1の2層構造体SF1とは別の2層構造体SFを第2の2層構造体SF2とすることができる。
ここで、2層構造体SFの数をM(Mは1以上で(K−1)以下の整数)とする。複数の誘電体層DLの数Kは、例えば、(N+M)である。なお、(N+M)が大きいほど、反射率が高くなる。そして、(N+M)が一定のとき、3層構造体BSの数であるNが大きいほど、界面散乱損失は小さくできる。なお、3層構造体BSの作製が2層構造体SFの作製よりも難しい場合には、界面散乱損失を減らしつつ作製が比較的容易になるように、3層構造体の数Nとして適切な数が選ばれる。
2層構造体SFの数Mが2以上である場合、第1の2層構造体SF1は、複数の2層構造SFのうちで入射面ISに最も近い側であり、3層構造体BSの側に配置されるものとする。そして、第2の2層構造体SF2は、第1の2層構造体SF1よりも入射面ISから遠い側に配置されるものとする。
なお、この場合も、2層構造体SFの数Mが3以上である場合において、第1の2層構造体SF1と第2の2層構造体SF2との位置関係に着目すれば、例えば、入射面ISに2番目に近い2層構造体SFを第1の2層構造体SF1とし、第2の2層構造体SF2は、第1の2層構造体SF1の入射面ISとは反対の側に配置されると見なすことができる。すなわち、第1の2層構造体SF1は、3つ以上の2層構造体SFにおいて必ずしも入射面ISに最も近い側に配置されなくても良く、3つ以上の2層構造体SFのうちの任意の2層構造体SFを第1の2層構造体SF1と見なすことができる。そして、その第1の2層構造体SF1よりも入射面から遠い側の2層構造体SFが、第2の2層構造体SF2と見なされることができる。
このように、実施形態に係るミラーは、3層構造を有する3層構造体BSを1つ以上備える。実施形態に係るミラーは、2層構造を有する2層構造体SFを1つ以上さらに備えることができる。
このような構成を有する実施形態に係るミラーの特性について、比較例と対比させながら説明する。
(第1比較例)
図3(a)、図3(b)及び図3(c)は、第1比較例のミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図3(a)は第1比較例のミラー118の模式的断面図である。なお、図3(a)において、基板SBは省略されている。図3(b)は、ミラー118の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。図3(c)は、ミラー118の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は電場EFを表している。
図3(a)及び図3(b)に表したように、第1比較例のミラー118は、2層構造の2層構造体SF(例えば第1〜第6の2層構造体SF1〜SF6など)のみを有しており、3層構造の3層構造体BSを有していない。
2層構造体SFは、高屈折率を有する層(例えば第1高屈折率誘電体膜HF1など)と、その高屈折率よりも低い低屈折率を有する層(例えば第1低屈折率誘電体膜LF1など)と、の2層構造を有している。2層構造体SFにおいて、高屈折率を有する層から低屈折率を有する層に向かう方向がZ軸の正の方向とされる。なお、入射面ISは、第1の2層構造体SF1の第1高屈折率誘電体膜HFの第1低屈折率誘電体膜LF1とは反対側の面とされる。
図3(c)に表したように、ミラー118においては、Z軸の正の方向に進むに従って、電場EFが大きい部分で屈折率が不連続に大きく低下している。電場EFが大きい領域における屈折率差が大きいので、反射率は高いと考えられる。しかしながら、電場EFが大きい領域において屈折率差が大き過ぎるため、界面散乱損失が大きいと考えられる。
(第2比較例)
図4(a)、図4(b)及び図4(c)は、第2比較例のミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図4(a)は第2比較例のミラー119(及びミラー119d)の模式的断面図である。なお、図4(a)において、基板SBは省略されている。図4(b)は、ミラー119(及びミラー119d)の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。図4(c)は、ミラー119(及びミラー119d)の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は電場EFを表している。
図4(a)及び図4(b)に表したように、第2比較例のミラー119は、複数の屈折率傾斜層CL(例えば第1〜第4屈折率傾斜層CL1〜CL4など)を有している。
屈折率傾斜層CLのそれぞれにおいては、ミラー119の入射面ISからミラー119の内部に向かう方向に沿って、屈折率nが、高屈折率nHから低屈折率nLに向かって減少している。すなわち、複数の屈折率傾斜層CLのそれぞれにおいて、屈折率nが、層厚方向に沿って減少している。
ここで、屈折率傾斜層CLのそれぞれにおいて屈折率が減少する方向がZ軸の正の方向とされる。すなわち、高屈折率を有する層の側が入射面ISとされ、入射面ISから屈折率傾斜層CLの内部に向かう方向がZ軸の正の方向となる。
すなわち、第2比較例のミラー119は、例えば第1実施形態に係るミラー110における3層構造体BSの高屈折率の第1誘電体薄膜L1及び低屈折率の第2誘電体薄膜L2が設けられず、屈折率が層厚方向に沿って減少する(漸減する)層(例えば第3誘電体薄膜)のみが、複数の屈折率傾斜層CLのそれぞれにおいて設けられていることに相当する。
すなわち、屈折率傾斜層CLのそれぞれにおいては、厚さ方向の全域に渡って屈折率が変化(漸減)している。
また、このようなミラー119において、上記のような屈折率傾斜層CLの他に、2層構造の2層構造体SF(例えば第1及び第2の2層構造体SF1及びSF2など)を設けることができる。4つの屈折率傾斜層CL(例えば第1〜第4屈折率傾斜層CL1〜CL4)が設けられ、さらに、2層構造体SFが設けられる構成を有するミラーが、ミラー119dとされる。
このようなミラー119及びミラー119dの構成は、例えば非特許文献1(O.Arnon and P.Baumeister, "Electric field distribution and the reduction of laser damage in multilayers", 1 June 1980, Vol.19, No.11, APPLIED OPTICS, pp.1853-1855.)に記載されているミラーの構成に相当する。
図4(c)に表したように、第2比較例のミラー119(及びミラー119d)においては、Z軸の正の方向に進むに従って、電場EFの大きさに係わらず、屈折率は連続的に減少している。このため、第2比較例においては、電場EFが大きい領域における屈折率の変化が小さいため、界面散乱損失が抑制されると期待できる。しかしながら、第2比較例においては、電場EFが小さい領域でも屈折率が減少するために電場EFが大きい領域における屈折率変化が十分でないため、結果として、反射率が低下すると考えられる。
これに対し、実施形態に係るミラー110においては、電場EFが大きい領域において屈折率を変化(漸減)させることで、界面散乱損失を抑制する。そして、電場EFが大きい領域で屈折率が漸減するため、効率的に反射することができ、反射率は高い値を維持できる。すなわち、電場EFが大きい領域で屈折率が例えば高屈折率nHから低屈折率nLへ漸減するため、効率的に反射することができ、反射率は高い値を維持できる。
以下、実施形態に係るミラー及び第1及び第2比較例のミラーの特性について、シミュレーションした結果について説明する。
このシミュレーションでは、ミラーにおいて、3層構造体BSの数と2層構造体SFの数の合計が20とされた。また、屈折率傾斜層CLの数と2層構造体SFの数の合計が20とされた。
すなわち、20個の2層構造体SFのうちで、入射面ISに近い側のNi個(Niは0以上の整数)が、3層構造体BSまたは屈折率傾斜層CLによって置き換えられる。置き換え数Niが0の時が、第1比較例のミラー118に相当する。
置き換え数Niが1以上であり、Ni個の2層構造体SFが3層構造体BSによって置き換えられる場合が、実施形態に係るミラー110となる。置き換え数Niが20である場合は、20個の3層構造体BSが設けられ、2層構造体SFは設けられない。置き換え数Niが4の時が、図2に例示したミラー111dに相当する。
置き換え数Niが1以上であり、Ni個の2層構造体SFが屈折率傾斜層CLによって置き換えられる場合が、第2比較例のミラー119となる。置き換え数Niが20である場合は、20個の屈折率傾斜層CLが設けられ、2層構造体SFは設けられない。置き換え数Niが4の時が、図4に例示したミラー119dに相当する。
本シミュレーションにおいて、設計波長であるλは、550nm(ナノメートル)とされた。
実施形態に係るミラー110(及びミラー111d)においては、Ni個の3層構造体BSのそれぞれの構成は、互いに同じとされた。
すなわち、高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)及び低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)のそれぞれの厚さは、3λ/16であり、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)の厚さは、λ/8とされた。なお、3層構造体BSのそれぞれの厚さはλ/2である。
そして、高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)の屈折率(例えば第1屈折率n1及び第4屈折率n4など)、は、高屈折率nHであり、2.1とされた。低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)の屈折率(例えば第2屈折率n2及び第5屈折率n5など)は、低屈折率nLであり、1.46とされた。屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)の屈折率(例えば第3屈折率n3及び第6屈折率n6など)は、高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)の側から低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)の側に向けて、高屈折率nH(2.1)から低屈折率nL(1.46)に向けて直線的に減少するものとされた。具体的には、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)が100層に分割され、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)の屈折率は、高屈折率nH(2.1)から低屈折率nL(1.46)に向けて、100個のステップで階段状に減少するとした。この分割数は十分大きいので、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)の屈折率は直線的に連続的に減少すると見なすことができる。
また、高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)、低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)、及び、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)のそれぞれの界面のラフネスの大きさ(界面の凹凸の高さの標準偏差)は0.1nmとされた。
一方、2層構造体SFのそれぞれの構成は、互いに同じとされた。すなわち、既に説明したように、高屈折率を有する層及び低屈折率を有する層のそれぞれの厚さはλ/4であり、2層構造体SFのそれぞれの厚さはλ/2である。そして、2層構造体SFのそれぞれにおいて、高屈折率を有する層の屈折率は高屈折率nH(2.1)であり、低屈折率を有する層の屈折率は低屈折率nL(1.46)である。また、高屈折率を有する層、及び、低屈折率を有する層のそれぞれの界面のラフネスの大きさ(界面の凹凸の高さの標準偏差)は0.1nmとされた。
また、屈折率傾斜層CLのそれぞれの構成は、互いに同じとされた。すなわち、既に説明したように、屈折率傾斜層CLの厚さのそれぞれの厚さはλ/2である。そして、屈折率傾斜層CLのそれぞれにおいて、入射面ISの側(例えば基板SBとは反対の側)の屈折率は高屈折率nH(2.1)であり、入射面ISとは反対の側(例えば基板SBの側)の屈折率は低屈折率nL(1.46)であり、厚さ方向(Z軸方向)に沿って直線的に変化するものとした。この場合も、屈折率傾斜層CLが100層に分割され、屈折率は、高屈折率nH(2.1)から低屈折率nL(1.46)に向けて、100個のステップで階段状に減少するとした。また、屈折率傾斜層CLのそれぞれの界面のラフネスの大きさ(界面の凹凸の高さの標準偏差)は0.1nmとされた。
図5(a)及び図5(b)は、実施形態に係るミラー及び比較例のミラーの特性を例示するグラフ図である。
すなわち、図5(a)はミラーの界面散乱損失SSLと置き換え数Niとの関係を例示しており、横軸は置き換え数Niであり、縦軸は界面散乱損失SSLである。なお、縦軸は対数目盛りである。図5(b)はミラーの透過率Tと置き換え数Niとの関係を例示しており、横軸は置き換え数Niであり、縦軸は透過率Tである。なお、縦軸は対数目盛りである。
これらの図において、置き換え数Niが零である場合が第1比較例のミラー118に相当する。
置き換え数Niが1以上において、実線が実施形態に係るミラー110(ミラー111dを含む)に相当し、破線が第2比較例のミラー119(ミラー119dを含む)に相当する。
図5(a)に表したように、第1比較例のミラー118の界面散乱損失SSLは約4ppmであり、大きい。
そして、第2比較例のミラー119においては、置き換え数Niが大きくなるに従って、界面散乱損失SSLが減少している。これは、既に説明したように、第2比較例において、電場が大きい領域における屈折率差が小さいことの効果であると考えられる。しかしながら、界面散乱損失SSLの減少の程度は大きくない。例えば置き換え数Niが4であるミラー119dの場合の界面散乱損失SSLは約0.9ppmであり、置き換え数Niが10である場合の界面散乱損失SSLは約0.1ppmである。
実施形態に係るミラー110においても置き換え数Niが大きくなるに従って、界面散乱損失SSLが減少している。これも、電場が大きい領域における屈折率差が小さいことの効果である。そして、実施形態に係るミラー110においては、界面散乱損失SSLの減少の程度は大きい。例えば置き換え数Niが4であるミラー111dの場合の界面散乱損失SSLは約0.2ppmであり、置き換え数Niが10である場合の界面散乱損失SSLは約0.04ppmである。
このように、実施形態に係るミラー110においては、第2比較例のミラー119よりも界面散乱損失SSLの減少の効果が大きい。
一方、図5(b)に表したように、第1比較例のミラー118の透過率Tは約0.8ppmであり小さい。
そして、第2比較例のミラー119において、置き換え数Niが大きくなるに従って、透過率Tが著しく上昇している。例えば置き換え数Niが4であるミラー119dの場合の透過率Tは約4ppmであり、置き換え数Niが10である場合の透過率Tは約20ppmである。このように、第2比較例において透過率が上昇(反射率が低下)する。これは、電場EFが小さい領域でも屈折率が減少するために電場EFが大きい領域における屈折率変化が十分でないためであると考えられる。
これに対し、実施形態に係るミラー110においては、置き換え数Niに依存せず、透過率Tは小さい。例えば置き換え数Niが4であるミラー111dの場合も、置き換え数Niが10の場合も、透過率Tは約0.8ppmであり、第1比較例のミラー118と同じである。このように、実施形態に係るミラー110においては、透過率は小さい値を維持し、反射率は高い値を維持できる。これは、電場EFが小さい領域では、屈折率は実質的に一定であり、電場EFが大きい領域における屈折率変化が十分大きいためであると考えられる。
このように、厚さ方向の全域に渡って屈折率が変化する屈折率傾斜層CLを用いる第2比較例のミラー119においては、置き換え数Niが大きくなるに従って透過率Tが著しく増大する。これに対して、厚さ方向の中央部(本具体例ではλ/8の幅の領域)において屈折率が変化し、厚さ方向の両端の領域(本具体例ではそれぞれ3λ/16の幅の領域)においては屈折率が一定である3層構造体BSを用いる実施形態に係るミラー110においては、透過率Tは、置き換え数Niに依存せず小さい値を維持する。
第2比較例のミラー119においては、置き換え数Niの増大につれて、界面散乱損失SSLが減少し、透過率Tが上昇し(反射率が低下し)、両者はトレードオフの関係であるため、低損失かつ高反射の特性を得ることが困難である。
これに対し、実施形態に係るミラー110においては、置き換え数Niに依存せず透過率Tが小さいため、界面散乱損失SSLを効果的に減少することができる。これにより、低損失かつ高反射の特性を得ることができる。
なお、図5(a)に例示したように、実施形態に係るミラー110においては、置き換え数Niが約10以上で、界面散乱損失SSLの低減の効果が大きい。このため、層の数が20である本具体例の場合は、置き換え数Niは10以上であることが望ましい。ただし、用いる3層構造体BSの特性(3層構造体BSに含まれる各層の厚さ及び屈折率分布など)や、層の総数など、さらに、目的とするミラー110の要求特性などによっては、任意の置き換え数Niを採用し得る。
例えば、置き換え数Niが1である場合にも、実施形態に係るミラー110の界面散乱損失SSLは、第1比較例のミラー118及び第2比較例のミラー119よりも低く、また、ミラー110の透過率Tは、第1比較例のミラー118と同等であり、第2比較例のミラー119よりも低い。
なお、実施形態に係るミラー110において、2層構造の2層構造体SFの作製が、3層構造の3層構造体BSの作製よりも容易である場合には、3層構造体BSの数である置き換え数Niが小さい方が、ミラー110の作製が容易になる利点がある。
なお、上記の第2比較例のミラー119においては、屈折率傾斜層CLのそれぞれにおいて、屈折率が、高屈折率nHから低屈折率nLへ直線的に変化するとされたが、屈折率が曲線的に変化した場合も、屈折率傾斜層CLの全域で徐々に屈折率が減少する限り上記のミラー119の特性とほぼ同様の特性を示す。
第1比較例のミラー118のような誘電体多層膜ミラーにおいては、高屈折率を有する厚さλ/4の層と、低屈折率を有する厚さλ/4の層と、の2種類の誘電体薄膜が、交互に積層されている。このような誘電体多層膜ミラーにおいて、ミラーの損失の原因として、吸収及び散乱が挙げられ、吸収の少ない材料を用いた場合には、散乱がミラーの損失の主要な原因となる。散乱には、屈折率の異なる2つの媒質の界面におけるラフネスによる界面散乱と、1つの媒質内におけるバルク散乱と、が考えられるが、上記のような誘電体多層膜ミラーにおいては、屈折率差が大きい界面における散乱が、ミラーにおける損失の主要な原因になる。
実施形態に係るミラー110(及びミラー111d)は、屈折率の異なる2つの媒質の界面におけるラフネスによる界面散乱による損失を特に低減する効果を有する。
実施形態に係るミラー110(及びミラー111d)における3層構造体BSの特性は、種々の変形が可能である。すなわち、3層構造体BSに用いられる材料や作製方法などにより、3層構造体BSは種々の特性を有することができる。以下、3層構造体BSの特性の例について説明する。以下では、3層構造体BSとして第1の3層構造体BS1の第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2及び第3誘電体薄膜L3の特性の例について説明する。
図6(a)〜図6(i)は、実施形態に係るミラーの特性を例示するグラフ図である。
これらの図において、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。また、入射面ISは、Z=0の位置に配置され、複数の誘電体層DLは、Z>0の領域に設けられる。
図6(a)、図6(b)及び図6(c)に表したように、実施形態に係るミラー112a、112b及び112cにおいては、第1誘電体薄膜L1の第1屈折率n1は一定であり、第2誘電体薄膜L2の第2屈折率n2は一定である。
図6(a)に表したように、ミラー112aにおいては、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3は直線的に漸減している。すなわち、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3の変化率はZ軸方向に沿って一定である。
図6(b)に表したように、ミラー112bにおいては、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3の変化率は、第3誘電体薄膜L3のZ軸方向における中央部で大きく、第3誘電体薄膜L3のZ軸方向における端部で小さい。
図6(c)に表したように、ミラー112cにおいては、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3の変化率は、第3誘電体薄膜L3のZ軸方向における中央部で小さく、第3誘電体薄膜L3のZ軸方向における端部で大きい。
図6(d)、図6(e)及び図6(f)に表したように、実施形態に係るミラー112d、112e及び112fにおいては、第1誘電体薄膜L1の第1屈折率n1及び第2誘電体薄膜L2の第2屈折率n2は、Z軸の正の方向に沿って低下している。
そして、ミラー112d、112e及び112fにおける第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3の特性は、それぞれミラー112a、112b及び112cと同様である。
図6(g)、図6(h)及び図6(i)に表したように、実施形態に係るミラー112g、112h及び112iにおいては、第1誘電体薄膜L1の第1屈折率n1及び第2誘電体薄膜L2の第2屈折率n2は、Z軸の正の方向に沿って上昇している。
そして、ミラー112g、112h及び112iにおける第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3の特性は、それぞれミラー112a、112b及び112cと同様である。
このように、実施形態に係るミラーにおいては、第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2及び第3誘電体薄膜L3の特性は種々の変形が可能である。
上記のミラー112d〜112iにおいて、第1誘電体薄膜L1の第1屈折率n1及び第2誘電体薄膜L2の第2屈折率n2がZ軸方向に沿って変化する場合においても、その変化の程度は、第3誘電体薄膜L3における第3屈折率n3の変化(漸減)の程度よりも小さい。
このように、第1誘電体薄膜L1の第1屈折率n1、及び、第2誘電体薄膜L2の第2屈折率n2は、必ずしも一様でなくても良く、第1屈折率n1及び第2屈折率n2の変化の程度が、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率の変化の程度に比べて、十分に小さければ良い。
第3誘電体薄膜L3において、第3屈折率n3が、第1誘電体薄膜L1から第2誘電体薄膜L2の側に向かって漸減する際に、第3屈折率n3の変化(漸減)は、階段状(ステップ状)であっても良い。以下、第3屈折率n3の変化の特性について説明する。
図7(a)、図7(b)、図7(c)及び図7(d)は、本発明の実施形態に係る別のミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図7(a)は、実施形態に係る別のミラー120bの模式的断面図である。図7(b)は、ミラー120bの特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。図7(c)は、実施形態に係る別のミラー120cの模式的断面図である。図7(d)は、ミラー120cの特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。
図7(b)に表したように、ミラー120bにおいては、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3が2段階で変化(漸減)している。すなわち、第3誘電体薄膜L3が、積層された2つのサブ層を有し、2つのサブ層が、第1屈折率n1と第2屈折率n2との間の2つの値をそれぞれ有している。なお、図7(a)においては、このサブ層は省略されている。
図7(a)に表したように、ミラー120bにおいては、例えば、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1及び第2誘電体薄膜L2の第2厚さd2が3λ/40であり、第3誘電体薄膜L3の第3厚さd3がλ/10である。そして、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層の厚さは、d3/2であり、この場合は、(λ/10)/2である。
図7(d)に表したように、ミラー120cにおいては、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3が3段階で変化(漸減)している。すなわち、第3誘電体薄膜L3が、積層された3つのサブ層を有し、3つのサブ層が、第1屈折率n1と第2屈折率n2との間の3つの値をそれぞれ有している。なお、図7(c)においては、このサブ層は省略されている。
図7(c)に表したように、ミラー120cにおいては、例えば、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1及び第2誘電体薄膜L2の第2厚さd2が3λ/40であり、第3誘電体薄膜L3の第3厚さd3がλ/10である。そして、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層の厚さは、d3/3であり、この場合は、(λ/10)/3である。
このように、実施形態において、第3誘電体薄膜L3は複数のサブ層を有することができる。そして、複数のサブ層のそれぞれの屈折率が、第1誘電体薄膜L1から第2誘電体薄膜L2に向かって減少している。
ここで、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層の数をサブ層数NMLとする。実施形態に係るミラー120においては、サブ層数NMLが2以上の整数であり、第3誘電体薄膜L3が複数のサブ層を有する。サブ層数NMLが2である場合がミラー120bであり、サブ層数NMLが3である場合がミラー120cである。
図8(a)、図8(b)、図8(c)及び図8(d)は、比較例のミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図8(a)は、第3比較例のミラー128の模式的断面図である。図8(b)は、ミラー128の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。図8(c)は、第4比較例のミラー129bの模式的断面図である。図8(d)は、ミラー129bの特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。
図8(b)に表したように、第3比較例のミラー128においては、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3は一定であり漸減していない。すなわち、第3誘電体薄膜L3が1つの層であり、サブ層数NMLが1の場合に相当している。
図8(d)に表したように、第4比較例のミラー129bにおいては、第3誘電体薄膜L3が、積層された2つのサブ層を有し、2つのサブ層が、第1屈折率n1と第2屈折率n2との間の2つの値をそれぞれ有している。そして、ミラー129bにおいては、第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2、及び、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層、のそれぞれの厚さが同じに設定されている。
サブ層の数が任意である場合が、第4比較例のミラー129とされる。ミラー129においては、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層の数がNMLであり、第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2、及び、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層の合計の層の数kは、(NML+2)である。そして、第1誘電体薄膜L1及び第2誘電体薄膜L2の厚さ、及び、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層のそれぞれの厚さ、が、(λ/2)/kである。
第4比較例のミラー129において、サブ層数NMLが2の場合(すなわち、kが4の場合)がミラー129bに相当する。ミラー129bにおいては、屈折率傾斜層CLのうち、高屈折率層D1の厚さはλ/4であり、低屈折率層D2の厚さはλ/4であり、これらの層の間の中間層が2つのサブ層(サブ層DS1とサブ層DS2)を有しており、サブ層DS1とサブ層DS2のそれぞれの厚さがλ/4である。
また、第4比較例のミラー129において、サブ層数NMLが1の場合(すなわち、kが3の場合)がミラー129a(図示しない)となる。ミラー129aにおいては、高屈折率層D1の厚さ及び低屈折率層D2の厚さがλ/3であり、これらの層の間の中間層が1つのサブ層DS1であり、サブ層DS1の厚さがλ/3である。
第4比較例のミラー129において、合計の層の数kを十分大きくすると、すなわち、サブ層数NMLを十分大きくすると、第2比較例のミラー119に相当する構成となる。第4比較例のミラー129は屈折率傾斜CLを有すると見なされる。
サブ層数NMLを変えた場合のミラー120の特性のシミュレーション結果について、サブ層数NMLが1である第3比較例のミラー128、及び、第4比較例のミラー129の特性と共に説明する。
このシミュレーションでは、ミラー120においては、基板SBの上に20個の3層構造体BSが積層され、3層構造体BSどうしで特性は同じとされた。また、ミラー129においては、基板SBの上に20個の屈折率傾斜層CLが積層され、屈折率傾斜層CLどうしで特性は同じとされた。すなわち、2層構造体SFが設けられない。そして、高屈折率nHは2.1とされ、低屈折率nLは1.46とされた。
そして、実施形態に係るミラー120においては、第3誘電体薄膜L3におけるサブ層のそれぞれの屈折率は、高屈折率nHと低屈折率nLとの間をサブ層数NMLで等間隔に分割した値とされた。
本シミュレーションにおいても、設計波長であるλは550nmとされ、各層の界面のラフネスの大きさ(界面の凹凸の高さの標準偏差)は0.1nmとされた。
そして、ミラー120の場合には、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1及び第2誘電体薄膜L2の第2厚さd2が3λ/40であり、第3誘電体薄膜L3の第3厚さd3がλ/10である。そして、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層の厚さは、d3/NMLである。
一方、第4比較例のミラー129においては、第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2、及び、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層の厚さのそれぞれが(λ/2)/kであり、kは(NML+2)である。
図9(a)及び図9(b)は、実施形態に係るミラー及び比較例のミラーの特性を例示するグラフ図である。
すなわち、図9(a)はミラーの界面散乱損失SSLとサブ層数NMLとの関係を例示しており、横軸はサブ層数NMLであり、縦軸は界面散乱損失SSLである。なお、縦軸は対数目盛りである。図9(b)はミラーの透過率Tとサブ層数NMLとの関係を例示しており、横軸はサブ層数NMLであり、縦軸は透過率Tである。なお、縦軸は対数目盛りである。
これらの図において、実線は、実施形態に係るミラー120に相当する。実線で示された特性において、サブ層数NMLが2の場合がミラー120bに相当し、サブ層数NMLが3の場合がミラー120cに相当する。
実線で示された特性において、サブ層数NMLが1の場合が、第3比較例のミラー128に相当する。
破線は、第4比較例のミラー129に相当する。波線で示された特性において、サブ層数NMLが1の場合がミラー129aに相当し、サブ層数NMLが2の場合がミラー129bに相当する。
サブ層数NMLが0の場合は、第1比較例のミラー118に相当する。
図9(a)に表したように、第1比較例のミラー118に比べて、実施形態に係るミラー120及び第4比較例のミラー129の界面散乱損失SSLは小さい。そして、その減少の程度は、実施形態に係るミラー120及び第4比較例のミラー129において同等であり、サブ層数NMLが大きくなるにつれて界面散乱損失SSLが減少する。
図9(b)に表したように、第1比較例のミラー118の透過率Tは低い。そして、実施形態に係るミラー120においては、サブ層数NMLに依存せず透過率Tは小さく、第1比較例のミラー118と同等である。
しかしながら、第4比較例のミラー129においては、第1比較例及び実施形態に比べて透過率Tが著しく大きい。そして、第4比較例のミラー129においては、サブ層数NMLの増大につれて透過率Tが上昇する。これは、第4比較例においては、屈折率傾斜層CLにおいて屈折率が厚み方向に沿って等間隔で変化されるため、サブ層数NMLが大きくなるにつれて電場EFが小さい領域で屈折率が変化する割合が増すためであると考えられる。
このように、実施形態に係るミラー120においては、第3比較例及び第4比較例に対して界面散乱損失SSLが抑制され、透過率Tが低く、反射率が高い。
図9(a)に例示したように、実施形態に係るミラー120において、サブ層数NMLが大きい方が界面散乱損失SSLが減少するので、サブ層数NMLが大きいことが好ましい。サブ層数NMLが小さい方が生産性が高い場合は、サブ層数NMLは、得られる特性と生産性の両方の観点で適切に選択される。
以下、別のミラー130の特性について説明する。ミラー130においては、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1及び第2誘電体薄膜L2の第2厚さd2が、ミラー120とは異なる。
図10(a)及び図10(b)は、ミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図10(a)は、ミラー130の模式的断面図である。図10(b)は、ミラー130の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。
図10(b)に表したように、ミラー130においても、第3誘電体薄膜L3がサブ層を有しており、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3がサブ層数NMLの数の段階で変化(漸減)している。すなわち、第3誘電体薄膜L3が、積層されたNML個のサブ層を有している。
そして、ミラー130においては、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1及び第2誘電体薄膜L2の第2厚さd2がλ/8であり、第3誘電体薄膜L3の第3厚さd3がλ/4である。すなわち、ミラー130は、実施形態に係るミラーの条件である「第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1がλ/8よりも大きくλ/4よりも小さく、第2誘電体薄膜L2の第1厚さd2がλ/8よりも大きくλ/4よりも小さい」という条件の境界の特性を有する。
そして、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層のそれぞれ厚さは、d3/NML=λ/(4・NML)である。
図10(a)及び10(b)に例示したミラー130cにおいては、サブ層数NMLが3であり、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層のそれぞれの厚さは、λ/12である。
図11(a)、図11(b)、図11(c)及び図11(d)は、比較例のミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図11(a)は、比較例のミラー130bの模式的断面図である。図11(b)は、ミラー130bの特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。図11(c)は、比較例のミラー138の模式的断面図である。図11(d)は、ミラー138の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。
図11(a)及び図11(b)に表したように、ミラー130bにおいては、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1及び第2誘電体薄膜L2の第2厚さd2がλ/8であり、第3誘電体薄膜L3の第3厚さd3がλ/4である。そして、サブ層数NMLが2であり、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層のそれぞれの厚さがλ/8であるため、第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2、及び、第3誘電体薄膜L3に含まれるサブ層のそれぞれの厚さがλ/8で、互いに同じである。すなわち、ミラー130bにおいては、3層構造体BSにおいて屈折率が等間隔で変化させられる。ミラー130bの構成は、第4比較例のミラー120においてNMLが2(すなわちkが4)である時のミラー129bの構成と一致し、比較例と見なされる。
図11(c)及び図11(d)に表したように、ミラー138においても、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1及び第2誘電体薄膜L2の第2厚さd2がλ/8であり、第3誘電体薄膜L3の第3厚さd3がλ/4である。そして、サブ層数NMLが1である。
図12は、ミラーの特性を例示するグラフ図である。
すなわち、図12はミラーの透過率Tとサブ層数NMLとの関係を例示しており、横軸はサブ層数NMLであり、縦軸は透過率Tである。なお、縦軸は対数目盛りである。
そして、同図の実線は、ミラー130(ミラー130cを含む)の特性及び比較例のミラー130b及び138に対応する。同図には、図9(b)に例示した第4比較例のミラー129(屈折率が厚さ方向に沿って等間隔に変化する)の特性が、波線により示されている。
図12に表したように、ミラー130の構成(実線)において、サブ層数NMLを増大するにつれて透過率Tが減少する。なお、サブ層数NMLが1であるミラー138の透過率Tは著しく大きい。
そして、既に説明したように、ミラー129(破線)においては、サブ層数NMLが大きくなるにつれて透過率Tが増大する。
ミラー130の構成においてサブ層数NMLが2であるミラー130bの構成は、ミラー129の構成においてサブ層数NMLが2であるミラー129bの構成と同じになり、これらの透過率Tは一致する。
そして、ミラー130の構成において、サブ層数NMLが3以上においては、透過率Tは第4比較例のミラー129よりも小さくなり、サブ層数NMLが3以上のミラー130の方が、第4比較例よりも透過率Tが低くできる。
なお、上記のミラー130の構成においては、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1及び第2誘電体薄膜L2の第2厚さd2がλ/8であり、第3誘電体薄膜L3の第3厚さd3がλ/4とされたが、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1がλ/8よりも大きくλ/4よりも小さく、第2誘電体薄膜L2の第1厚さd2がλ/8よりも大きくλ/4よりも小さいという条件(本実施形態の条件)にすれば、サブ層数NMLが2の場合においても比較例のミラー129bよりも透過率Tは小さくできる。従って、この条件を採用すれば、サブ層数NMLが2以上の場合に、比較例よりも透過率が小さくできる。
このように、本発明の実施形態においては、第1誘電体薄膜L1の第1厚さd1がλ/8よりも大きくλ/4よりも小さく、第2誘電体薄膜L2の第1厚さd2がλ/8よりも大きくλ/4よりも小さい条件において、サブ層数NMLは2以上であれば良い。すなわち、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3が第1誘電体薄膜L1から第2誘電体薄膜L2の方向に向けて漸減すれば良い。
以下、実施形態に係るミラーの具体例及び製造方法の例について説明する。
実施形態に係るミラー110において、高屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−2)(例えば第1誘電体薄膜L1及び第4誘電体薄膜L4など)には、例えばTa2O5(屈折率が約2.1)を用いることができる。低屈折率を有する誘電体薄膜L(3j−1)(例えば第2誘電体薄膜L2及び第5誘電体薄膜L5など)には、例えば、SiO2(屈折率が約1.46)を用いることができる。屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)(例えば第3誘電体薄膜L3及び第6誘電体薄膜L6など)には、例えば、これらの材料を含む複合膜を用いることができる。ただし、3層構造体BSの各層に用いられる材料は任意であり、種々の変形が可能である。また、複数の3層構造体BSのそれぞれで用いられる材料や構成が異なっても良い。
また、基板SBには、例えば、十分滑らかに研磨された溶融石英基板を用いることができる。そして、このような基板SBの主面の上に3層構造体BSが、例えばイオンビームスパッタ法や蒸着法によって成膜される。
また、2層構造体SFの高屈折率を有する層(例えば第1高屈折率誘電体膜HF1など)には、例えばTa2O5を用いることができ、低屈折率を有する層(例えば第1低屈折率誘電体膜LF1など)には、例えばSiO2を用いることができる。ただし、2層構造体SFの各層に用いられる材料は任意であり、種々の変形が可能である。また、複数の2層構造体SFのそれぞれで用いられる材料や構成が異なっても良い。
実施形態に係るミラー110において、2層構造体SFが用いられる場合には、基板SBの主面の上に2層構造体SF(例えば複数の2層構造体SF)が成膜され、2層構造体SFの上に3層構造体BS(例えば複数の3層構造体BS)が成膜される。2層構造体SFも、例えばイオンビームスパッタ法や蒸着法などにより成膜される。
第3誘電体薄膜L3として、第1誘電体薄膜L1に用いられる第1屈折率n1を有する材料と、第2誘電体薄膜L2に用いられる第2屈折率n2を有する材料と、の複合物を用い、この複合物におけるこれらの材料の比率を変えることで第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3を変化(漸減)させることができる。
例えば、第1誘電体薄膜L1にはTiO2(屈折率が約2.4)が用いられ、第2誘電体薄膜L2にSiO2(屈折率が約1.46)が用いられる場合に、これらの材料の混合によって第3誘電体薄膜L3を形成することができる。
例えば、図1(a)〜図1(c)に例示したミラー110のように、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)の第3屈折率n3がZ軸方向に沿って連続的に変化する構成を作製するには、例えば、異なる屈折率を有する材料を用いた同時蒸着(coevaporation)法を採用することができる。
例えば、第3誘電体薄膜L3の形成には、TiO2とSiO2との同時蒸着法を採用することができる。そして、TiO2とSiO2の比率により、1.46以上2.4以下の任意の屈折率を得ることができ、比率を連続的に変化させることで、連続的に変化する屈折率が得られる。
また、イオンビームスパッタ法などを用いる場合は、例えば、同時蒸着等の方法によって作製された屈折率が互いに異なる複数の誘電体材料のターゲットを用いることができる。このような複数のターゲットを用いて成膜し、段階的に屈折率を変化させていくことで、屈折率が漸減する誘電体薄膜L(3j)中に、屈折率が互いに異なる複数のサブ層を設けることができる。また、サブ層数NMLを十分に大きくすることで、屈折率を近似的に連続的に変化させることができる。
図13(a)〜図13(f)は、本発明の実施形態に係るミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図13(a)、図13(b)及び図13(c)は、ミラー110の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表している。図13(a)の縦軸は屈折率nを表し、図13(b)の縦軸は3層構造体BS中の元素E1の含有率C1(任意目盛り)を表し、図13(c)の縦軸は3層構造体BS中の別の元素E2の含有率C2(任意目盛り)を表している。また、図13(d)、図13(e)及び(f)は、ミラー120(具体的にはミラー120b)の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表している。図13(d)の縦軸は屈折率nを表し、図13(e)の縦軸は3層構造体BS中の元素E1の含有率C1(任意目盛り)を表し、図13(f)の縦軸は3層構造体BS中の別の元素E2の含有率C2(任意目盛り)を表している。
本具体例においては、第1誘電体薄膜L1として第1材料(例えばTiO2)が用いられ、第2誘電体薄膜L2として第2材料(例えばSiO2)が用いられ、第3誘電体薄膜L3として第1材料と第2材料との複合物合が用いられ、第1材料と第2材料との比率を変えることで第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3が変化(漸減)させられる。
例えば、元素E1をTiとし、含有率C1をTiの含有率とする。元素E2をSiとし、含有率C2をSiの含有率とする。
図13(a)及び図13(b)に表したように、3層構造体BSにおける目的とする屈折率の変化に合わせて3層構造体BS中の各層に含まれる元素E1の含有率C1が変化させられる。すなわち、第1誘電体薄膜L1においては、元素E1の含有率C1が高く、第2誘電体薄膜L2においては、元素E1の含有率C1が低い。そして、第3誘電体薄膜L3においては、元素E1の含有率C1が、第1誘電体薄膜L1から第2誘電体薄膜L2に向かう方向に沿って漸減している。
また、図13(a)及び図13(c)に表したように、3層構造体BSにおける目的とする屈折率の変化に合わせて3層構造体BS中の各層に含まれる元素E2の含有率C2が変化させられる。すなわち、第1誘電体薄膜L1においては、元素E2の含有率C2が低く、第2誘電体薄膜L2においては、元素E2の含有率C2が高い。そして、第3誘電体薄膜L3においては、元素E2の含有率C2が、第2誘電体薄膜L2から第1誘電体薄膜L1に向かう方向に沿って漸減している。
図13(a)、図13(b)及び(c)に例示したミラー110においては、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3が連続的に滑らかに漸減する例であり、第3屈折率n3の変化に対応するように、元素E1の含有率C1及び元素E2の含有率C2が連続的に滑らかに変化させられる例である。
同様に、図13(d)、図13(e)及び図13(f)に表したように、第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3が段階的に漸減する場合も、3層構造体BSの屈折率の変化に合わせて3層構造体BS中の各層に含まれる元素E1の含有率C1、及び、元素E2の含有率C2が変化させられる。
このように、実施形態に係るミラーにおいては、第1誘電体薄膜L1は第1元素(例えば元素E1)を含み、第3誘電体薄膜L3に含まれる第1元素の濃度(含有率C1)は、第1誘電体薄膜L1から第2誘電体薄膜L2に向かう方向に沿って減少する。そして、第2誘電体薄膜L2は第1元素とは異なる第2元素(例えば元素E2)を含み、第3誘電体薄膜L3に含まれる第2元素の濃度(含有率C2)は、第2誘電体薄膜L2から第1誘電体薄膜L1に向かう方向に沿って減少する。
また、第3誘電体薄膜L3として、第1誘電体薄膜L1に用いられる第1屈折率n1を有する材料、及び、第2誘電体薄膜L2に用いられる第2屈折率n2を有する材料、の少なくともいずれかとは異なる材料を含んでも良い。
例えば、第1誘電体薄膜L1として第1材料を用い、第2誘電体薄膜L2として第2材料を用い、第3誘電体薄膜L3として第1材料と第3材料との複合物を用い、第1材料と第3材料との比率を変えることで第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3を変化(漸減)させることができる。また、例えば、第1誘電体薄膜L1として第1材料を用い、第2誘電体薄膜L2として第2材料を用い、第3誘電体薄膜L3として第2材料と第3材料との複合物を用い、第2材料と第3材料との比率を変えることで第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3を変化(漸減)させることができる。また、例えば、第1誘電体薄膜L1として第1材料を用い、第2誘電体薄膜L2として第2材料を用い、第3誘電体薄膜L3として第1材料と第2材料と第3材料との複合物を用い、第1材料と第2材料と第3材料との比率を変えることで第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3を変化(漸減)させることができる。
この場合においては、第1誘電体薄膜L1は第1元素(例えば元素E1)を含み、第3誘電体薄膜L3に含まれる第1元素の濃度(含有率C1)は、第1誘電体薄膜L1から第2誘電体薄膜L2に向かう方向に沿って減少する、及び、第2誘電体薄膜L2は第2元素(例えば元素E2)を含み、第3誘電体薄膜L3に含まれる第2元素の濃度(含有率C2)は、第2誘電体薄膜L2から第1誘電体薄膜L1に向かう方向に沿って減少する、の少なくともいずれかである。
さらに、第1誘電体薄膜L1として第1材料を用い、第2誘電体薄膜L2として第2材料を用い、第3誘電体薄膜L3として第3材料と第4材料との複合物を用い、第3材料と第4材料との比率を変えることで第3誘電体薄膜L3の第3屈折率n3を変化(漸減)させることもできる。
上記のように、実施形態に係るミラーにおいては、第3誘電体薄膜L3は、例えば、第1誘電体薄膜L1に含まれる材料と、第2誘電体薄膜L2に含まれる材料と、を用いた気相成膜法により作製され得る。また、第3誘電体薄膜L3は、例えば、第1誘電体薄膜L1に含まれる材料と、第2誘電体薄膜L2に含まれる材料と、を含むターゲットを用いた気相成膜法により作製され得る。
また、第3誘電体薄膜L3として、第1誘電体薄膜L1及び第2誘電体薄膜L2とは異なる材料を用いることができる。すなわち、第1誘電体薄膜L1は、第1元素を含み、記第2誘電体薄膜L2は、第2元素を含み、第3誘電体薄膜L3は、第1元素とは異なり、第2元素とは異なる第3元素を含むことができる。
さらに、第3誘電体薄膜L3は、例えば、第1誘電体薄膜L1に含まれる材料及び第2誘電体薄膜L2に含まれる材料とは異なる材料を用いた気相成膜法により作製され得る。特に、第3誘電体薄膜L3において段階的に屈折率が変化する場合は、屈折率が一定の各サブ層を異なる材料を用いて作製することができる。
例えば、第3誘電体薄膜L3には、互いに異なる材料からなり、互いに異なる屈折率を有する複数のサブ層を積層した構成を適用できる。すなわち、第3誘電体薄膜L3は、上記の第3元素を含む誘電体を含む第1サブ層と、第1方向において第1サブと積層され、第1元素とは異なり、第2元素とは異なり、第3元素とは異なる第4元素を含む誘電体を含む第2サブ層と、を有することができる。
このように、第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2及び第3誘電体薄膜L3の構成は種々の変形が可能である。
第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2及び第3誘電体薄膜L3の少なくともいずれかには、例えば、SiO2(屈折率=1.46)、Al2O3(屈折率=1.63)、Yb2O3(屈折率=1.75)、Y2O3(屈折率=1.79)、Sc2O3(屈折率=1.86)、Gd2O3(屈折率=1.92)、Ls2O3(屈折率=1.95)、Nd2O3(屈折率=2)、Ta2O5(屈折率=2.1)及びTiO2(屈折率=2.4)などのような種々の酸化物、並びに、例えば、LaF3(屈折率=1.59)などのようなフッ化物などを用いることができる。
また、上記の第1サブ層と第2サブ層とには、上記の材料のなかのいずれかを用いることができる。
図14(a)及び図14(b)は、本発明の実施形態に係る別のミラーの構成を例示する模式図である。
すなわち、図14(a)は、実施形態に係る別のミラー150の模式的断面図である。図14(b)は、ミラー150の特性を例示するグラフであり、横軸は位置を表し、縦軸は屈折率nを表している。
図14(a)及び図14(b)に表したように、図1に例示した複数の誘電体層DLのうちのいずれかが、第1側面誘電体薄膜L1aと、第2側面誘電体薄膜L2aと、中央部誘電体薄膜L3aと、を含む。
第1側面誘電体薄膜L1aは、設計波長の1/6よりも大きく設計波長の1/4よりも小さい厚さd1aを有する。第1側面誘電体薄膜L1aは、第1側面屈折率na(例えば高屈折率nH)を有する。
第2側面誘電体薄膜L2aは、第1側面誘電体膜L1aと第1の方向において積層され、設計波長の1/6よりも大きく設計波長の1/4よりも小さい厚さd2aを有する。第2側面誘電体薄膜L2aは、第1側面屈折率naよりも低い第2側面屈折率nb(例えば低屈折率nL)を有する。
中央部誘電体薄膜L3aは、第1側面誘電体薄膜L1aと第2側面誘電体薄膜L2aとの間に設けられ、設計波長の1/2の値から第1側面誘電体薄膜L1aの厚さd1a及び第2側面誘電体薄膜L2aの厚さd2aの合計を減じた厚さd3aを有する。中央部誘電体薄膜L3aの屈折率は、第1側面屈折率naよりも小さく、第2側面屈折率nbよりも大きい。
このように、中央部誘電体薄膜L3aの厚さd3aは、λ/6よりも薄く、第1側面誘電体薄膜L1aの厚さd1a及び第2側面誘電体薄膜L2aの厚さd2aよりも薄い。そして、第1側面誘電体薄膜L1aから、この薄い中央部誘電体薄膜L3aを介して、第2側面誘電体薄膜L2aに向かうに従って、屈折率は、第1側面屈折率naから第2側面屈折率nbへ漸減する。これにより、既に説明したように、電場EFが大きい領域において屈折率を漸減させ、電場EFが実質的に零の領域で屈折率を不連続的に上昇させることで、界面散乱損失を抑制できる。
このような構成のミラー150によっても、低損失で高反射のミラーが提供できる。
なお、複数の誘電体層DLが、上記のような第1側面誘電体薄膜L1a、第2側面誘電体薄膜L2a及び中央部側面誘電体L3aを有する構成を、有することができる。
なお、第1側面誘電体薄膜L1a、第2側面誘電体薄膜L2a及び中央部側面誘電体L3aを有する誘電体層DLは、複数の誘電体層DLの内の入射面ISの側の端に配置されることができる。すなわち、上記の第1側面誘電体薄膜L1a、第2側面誘電体薄膜L2a及び中央部側面誘電体L3aを含む誘電体層DLは、複数の誘電体層DLの一方の端に配置され、第2側面誘電体薄膜は、中央部誘電体薄膜と、第1側面誘電体薄膜L1a、第2側面誘電体薄膜L2a及び中央部側面誘電体L3aを含む誘電体層DLを除く複数の誘電体層DLと、の間に配置される。これにより、より低損失でより高反射となる。
なお、第1側面誘電体薄膜L1a、第2側面誘電体薄膜L2a及び中央部側面誘電体L3aには、第1誘電体薄膜L1、第2誘電体薄膜L2及び第3誘電体薄膜L3に関して説明した材料及び製造方法の少なくともいずれかを適用することができる。
実施形態に係るミラーは、例えば、超精密干渉計測装置、光ジャイロ装置、光スペクトルアナライザ装置、光周波数標準器及び量子計算機などに応用され得る。
超精密干渉計測装置は、光の干渉で距離などを測定する重力波検出器などを含む。この超精密干渉計測装置においては、精度を向上するために共振器が用いられ、この共振器のミラーが高反射で低損失なほど精度が向上できる。光ジャイロ装置は、例えば、角速度検出器などであり、航空機やロケットなどに搭載される。光ジャイロ装置は、ミラーを用いたリング共振器を含み、このミラーが高反射で低損失であるほど精度を向上できる。光の周波数やスペクトルを測定する光スペクトルアナライザ装置においては、狭帯域光バンドパスフィルタにミラーが用いられ、このミラーが高反射で低損失なほど分解能が向上する。光周波数標準器は、光を利用した周波数(時間)標準となるものであり、超狭帯域レーザとして高性能な光共振器が必要とされる。光共振器のミラーが高反射で低い損失なほど精度が向上できる。
図15は、本発明の実施形態に係るミラーが用いられる光学素子の構成を例示する模式図である。
すなわち、図15は、実施形態に係るミラーが用いられる共振器210の構成を例示している。
図15に表したように、共振器210は、例えばEIT(Electromagnetically Induced Transparency)結晶を用いた基体SBに、実施形態に係るミラーが設けられる。本具体例では、バルク誘電体である基体SBの一方の表面は平面であり、他方の表面は曲面である。基体SBの平面の側にミラー140aが設けられ、曲面の側にミラー140bが設けられる。ミラー140a及び、ミラー140bにおいて、入射面ISは、基体SBの側である。このような共振器210が、量子計算機に設けられる。このような量子計算機の実現には、高反射で低損失な共振器ミラーが必要とされる。これらの用途に本実施形態に係るミラーを適用することで、従来に比べて著しく高い性能を実現できる。
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、ミラーに含まれる3層構造体、2層構造体、誘電体薄膜、誘電体膜、基板等、各要素の具体的な構成の、形状、サイズ、材質、配置関係などに関して当業者が各種の変更を加えたものであっても、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施の形態として上述したミラーを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全てのミラーも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。