本発明は、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシート及びそれを用いた発光装置に関するものである。また本発明はシートの製造方法にも関する。
白色LEDや有機エレクトロルミネセンス素子などの新しい発光素子の開発が盛んであり、これに伴って、発光体からの光の取り出し効率を向上させる技術が検討されている。
図26は、一般的な有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)を用いた発光装置の断面構成及び光の伝搬の様子を示している。基板101の上に電極102、発光層103、透明電極104がこの順に積層され、透明電極104の上には透明基板105が載せられている。電極102、透明電極104の間に電圧を印加することで、発光層103の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極102において反射した後、透明電極104を透過し、透明基板105の表面上の点Pに表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において屈折して空気層106側に出射する。
透明基板105の屈折率をn’1とすると、入射角θが臨界角θc=sin-1(1/n’1)より大きくなった時、全反射が発生する。例えば、θc以上の角度で透明基板105の表面上の点Qに入射する光は全反射し、空気層106側に出射することはない。
図27(a)、(b)は上記発光装置において透明基板105が多層構造を有していると仮定した場合における光取り出し効率を説明する説明図である。図27(a)において、発光層103の屈折率をn’k、空気層106の屈折率をn0、発光層103と空気層106の間に介在する複数の透明層の屈折率を発光層103に近い側からn’k-1、n’k-2、…、n’1とし、発光層3内の点Sから発光する光の伝搬方位(屈折面の面法線となす角)をθ’k、各屈折面での屈折角を順にθ’k-1、θ’k-2、…、θ’1、θ0とすると、スネルの法則より次式が成り立つ。
n’k×sinθ’k=n’k-1×sinθ’k-1=…=n’1×sinθ’1
=n0×sinθ0 (式1)
従って、次式が成り立つ。
sinθ’k=sinθ0×n0/n’k (式2)
結局、(式2)は発光層103が空気層106に直接接触する場合のスネルの法則に他ならず、間に介在する透明層の屈折率には関係せずに、θ’k≧θc=sin-1(n0/n’k)で全反射が発生することを表している。
図27(b)は、発光層103から取り出せる光の範囲を模式的に示したものである。取り出せる光は、発光点Sを頂点、臨界角θcの2倍を頂角とし、屈折面の面法線に沿ったz軸を中心軸とする2対の円錐体109、109’の内部に含まれる。点Sからの発光が、全方位に等強度の光を放射するものとし、屈折面での透過率が臨界角以内の入射角で100%とすれば、発光層103からの取り出し効率ηは、球面110の表面積に対する、円錐体109、109’により球面110を切り取った面積の比に等しく、次式で与えられる。
η=1−cosθc (式3)
なお、実際の取り出し効率ηは臨界角以内の透過率が100%とはならないので、1−cosθcよりも小さくなる。また、発光素子としての全効率は、発光層の発光効率を上記取り出し効率ηに乗じた値となる。
これに対し、発光体からの光の取り出し効率を向上させる従来の技術として、例えば特許文献1、2に開示されている技術がある。特許文献1には、有機EL素子において、透明基板から大気へと光が出ていくときの透明基板表面での全反射を抑制する目的で、基板界面や内部の面あるいは反射面に回折格子を形成し、光取り出し面に対する光の入射角を変化させることにより光の取り出し効率を向上させるという原理に基づくものと記載されている発明が開示されている。
また、特許文献2には、光の取り出し効率のよい平面発光装置を提供するため、有機EL素子において透明基板の表面に透明の突起物を複数形成して透明基板と空気との界面における光の反射を防止することができると記載されている。
特開平11−283751号公報
特開2005−276581号公報
しかしながら、上述のような従来の発光装置において以下の問題があった。
図26に示す従来の有機EL素子を用いた発光装置では、発光層103からの光取り出し効率ηが最大でも1−cosθcを超えることがなく、発光層103の屈折率が決まれば、光取り出し効率の最大値が一義的に制限されていた。例えば、(式2)においてn0=1.0、n’k=1.457とすると、臨界角θc=sin−1(n0/n’k)=43.34度であり、光取り出し効率の最大値は1−cosθc=0.273程度と小さく、n’k=1.70では0.191程度まで下がる。
また、特許文献1に開示された技術では、確かに全反射になるべき光を取り出すことができるが、その逆もある。すなわち、回折格子層がないと仮定したときに発光層内の点から出射した光が、透明基板の屈折面(出射面)において臨界角より小さい角度で入射して透過、屈折する場合があるが、回折格子層がありそこで回折するときは、屈折面に対する入射角が臨界角を超え、全反射する場合がある。従って、特許文献1に開示された技術は光取り出し効率の向上を保証するものではない。更に特許文献1に開示された技術では、全ての光線に一律に所定量の方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は、方位によって光強度に分布があり、所定量のシフト幅が出射光の波長に依存することから、方位による色のアンバランスが存在する。
また、特許文献1に開示された発光装置では、外界(空気層側)から入射する光は透明基板の表面を規則的に反射し、発光層から取り出される光にとって外乱(いわゆる映り込み)となるため、透明基板の表面には反射防止膜等の光学処理が必要であり、製品コストを押し上げていた。
一方、特許文献2に開示された発光装置は屈折面における光の反射防止を目的にしたもので、この構造による光取り出し効率の改善は1、2割程度と小さいものに収まる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、臨界角以上の透明基板への入射光も出射させて光取り出し効率の大幅な向上を実現するとともに、映り込みを防ぎ、方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生も抑えるシート、発光装置およびシートの製造方法を提供することにある。
本発明のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.5μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1aは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
このような構成により、発光体からシート内部を通過してシートの他方の面に入射した光は、他方の面の面法線に対して臨界角以上の角度で入射しても他方の面上に設けられた微小領域による表面構造が、全反射が生じることを妨げて、その光の一部を外部に出射するとともに、他方の面で発光体の方に反射した光も発光体内の反射により再びシートの他方の面に入射すると全反射が生じず一部が外部へ出射される。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.5μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1aは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1bは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1aと前記微小領域δ2bとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1aは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1aは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1bは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1aと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ1a及びδ2aは、前記微小領域δ1bとδ2bとの間で前記基準面に対して連続的に傾いた面をなし、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2bとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.4μm以上3μm以下の複数の微小領域δ及びδ’に互いに独立して、かつ、重畳して分割されているとともに、前記微小領域δ及びδ’の1つは前記微小領域δ及びδ’の他の複数によってそれぞれ隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δの境界線は、前記複数の微小領域δ’の境界線と交差はするが、重なることはなく、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ’は、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ’1と、それ以外の複数の微小領域δ’2とからなり、前記微小領域δ1と微小領域δ’1とが重なる領域は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2と微小領域δ’2とが重なる領域は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ1と微小領域δ’2とが重なる領域は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2と微小領域δ’1とが重なる領域は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1と微小領域δ’1とが重なる領域と前記微小領域δ2と微小領域δ’2とが重なる領域との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
ある好ましい実施形態において、前記複数の微小領域δ’は市松模様を形成している。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上wμm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに確率Pの割合で選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、直径wと確率Pとはw=6×P2の関係を満足し、前記微小領域δ1は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上1.4μm以下である。
ある好ましい実施形態において、前記微小領域δは多角形かつそれぞれ合同な形状である。
本発明の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1aは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.5μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1aは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1bは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1aと前記微小領域δ2bとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1aは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1aは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1bは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1aと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ1a及びδ2aは、前記微小領域δ1bとδ2bとの間で前記基準面に対して連続的に傾いた面をなし、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2bとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.4μm以上3μm以下の複数の微小領域δ及びδ’に互いに独立して、かつ、重畳して分割されているとともに、前記微小領域δ及びδ’の1つは前記微小領域δ及びδ’の他の複数によってそれぞれ隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δの境界線は、前記複数の微小領域δ’の境界線と交差はするが、重なることはなく、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ’は、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ’1と、それ以外の複数の微小領域δ’2とからなり、前記微小領域δ1と微小領域δ’1とが重なる領域は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2と微小領域δ’2とが重なる領域は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ1と微小領域δ’2とが重なる領域は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2と微小領域δ’1とが重なる領域は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1と微小領域δ’1とが重なる領域と前記微小領域δ2と微小領域δ’2とが重なる領域との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
ある好ましい実施形態において前記複数の微小領域δ’は市松模様を形成している。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上wμm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに確率Pの割合で選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、直径wと確率Pとはw=6×P2の関係を満足し、前記微小領域δ1は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
ある好ましい実施形態において、前記微小領域δは多角形かつそれぞれ合同な形状である。
ある好ましい実施形態において、前記発光体の前記発光面と前記シートの前記一方の面とは界面を形成するように接しており、前記界面の両側において屈折率差が存在し、前記界面の表面形状は千鳥格子状もしくは市松模様の凹凸構造である。
ある好ましい実施形態において、前記媒質は空気である。
ある好ましい実施形態において、前記媒質はエアロゲルである。
ある好ましい実施形態において、前記発光体の光が生じる部分の屈折率がn2であるとき、n2−n1<0.1である。
本発明のシートの製造方法は、上記第1番目のシートの製造方法であって、シート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δ1を規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1パターンを除去後、前記微小領域δ1b及び前記微小領域δ2bを規定する第2マスクを用いて前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含する。
本発明のシートの製造方法は、上記第2番目のシートの製造方法であって、シート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δ1を規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1パターンを除去後、前記微小領域δ1a及び前記微小領域δ2aを規定する第2マスクを用いて前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含する。
本発明のシートの製造方法は、上記第3番目のシートの製造方法であって、シート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δ1を規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1パターンを除去後、前記微小領域δ1b及び前記微小領域δ2aを規定する第2マスクを用いて前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含する。
本発明のシートの製造方法は、上記第4番目のシートの製造方法であって、シート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δ1を規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1パターンを除去後、前記微小領域δ1a及び前記微小領域δ2bを規定する第2マスクを用いて前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含する。
本発明のシートの製造方法は、上記第6番目のシートの製造方法であってシート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δを規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1マスクを除去後、前記微小領域δ’を規定する第2マスクを用いて、前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含し、前記シート材料の一面に対する前記第1マスクの位置合わせ、及び、前記シート材料の一面に対する前記第2マスクの位置合わせが前記シート材と平行な面における直交する2方向にシフトしている。
ある好ましい実施形態において、前記第1パターンを用いたエッチングのエッチング量は前記dの1/3であり、前記第2パターンを用いたエッチングのエッチング量は前記dの2/3である。
本発明によれば、臨界角を超えた光の取り出しを繰り返し行えるため、光取り出し効率の大幅な改善が可能となる。更に、ランダムな構造での回折になるため、回折方位に規則性がなくなり、方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生や映り込みを抑えることが可能である。
(a)は第1の実施形態における有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す図であり、(b)は調整層を有する発光装置の断面を示した図であり、(c)は調整層との境界にも表面構造を設けた発光装置の断面を示した図である。
(a)は第1の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明する断面図、(b)は2回目のプロセスを説明する断面図、(c)は1回目のプロセスで形成される表面構造のパターン図、(d)は2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(f)は、第1の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(f)は、第1の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第1の実施形態における表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図であって、(a)は1回目の透過率の入射角依存性を示す説明図であり、(b)2回目の透過率の入射角依存性を示す説明図であり、(c)は1回目の透過率の入射角依存性を示す実験説明図である。
第1の実施形態の表面構造における取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であって、(a)は1回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であり、(b)は2回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であり、(c)は光取り出し効率を示す説明図である。
(a)は第2の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明する断面図、(b)は2回目のプロセスを説明する断面図、(c)は1回目のプロセスで形成される表面構造のパターン図、(d)は2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(f)は、第2の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(f)は、第2の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第2の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図である。
(a)、(c)は第3の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明するパターン図であり、(b)、(d)は2回目のプロセスを説明するパターン図であり、(e)は1回目と2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(d)は、第3の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(d)は、第3の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第3の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図である。
(a)、(c)は第4の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明するパターン図であり、(b)、(d)は2回目のプロセスを説明するパターン図であり、(e)は1回目と2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(d)は、第4の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(d)は、第4の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第4の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図である。
(a)、(c)は第5の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明するパターン図であり、(b)、(d)は2回目のプロセスを説明するパターン図であり、(e)は1回目と2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(d)は、第5の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(d)は、第5の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第5の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図である。
第6の実施形態における表面構造13のパターン図であり、(a)は凸になる比率Pが50%であり、(b)は凸になる比率Pが90%である。
(a)から(d)は、第6の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(f)は、第6の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(f)は、第6の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第6の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図であり、(a)は凸になる比率Pをパラメータにした比較、(b)は段差dをパラメータにした比較である。
(a)は第7の実施形態の第1の表面構造における1回目、または2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、(b)は第2の表面構造における1回目、または2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、(c)は第1の表面構造における2回目、または1回目のプロセスで形成されるパターン図、(d)は第2の表面構造における2回目、または1回目のプロセスで形成されるパターン図である。
(a)および(b)はその他の実施形態における有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す説明図である。
(a)は表面構造がチェッカー形状をなすパターン図であり、(b)は(a)の透過率tの入射角依存性を示す説明図である。
(a)および(b)はチェッカー形状の表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(c)は突起物のランダムな配置の仕方を説明する説明図である。
有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す説明図である。
(a)は多層構造の透明基板を、(b)は取り出し可能な光の範囲を説明する図である。
(a)は屈折率のステップ状の変化を、(b)は屈折率のなだらかな変化を、(c)は屈折面における入射角と透過率との関係を、(d)は光線と屈折面の関係を示す図である。
(a)は周期的構造を有した回折格子を界面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)の上面から見たパターンを示す図である。
回折格子による回折方位を説明する説明図である。
(a)はランダムに配置された突起を表面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)の上面から見たパターンを示す図である。
(a)から(h)は屈折面における光の場の境界条件を説明する説明図である。
(a)はピンホールを、(b)は位相シフターを配置した図である。
180度位相シフターがランダムに配置された屈折面の入射角に対する透過率を示した図である。
180度位相シフターがランダムに配置された屈折面の入射角に対する透過率を示す実験説明図である。
入射角に対する透過率を測定するための実験装置の構成図である。
本願発明の実施形態を説明する前に、特許文献1や特許文献2等の先行例を踏まえて、本願発明に至るまでの検討経過を説明する。
図28は屈折面(透明層表面と空気層との界面)での透過率を説明する説明図である。図28(d)に示すように、屈折率1.5の透明層107の内部から紙面方向に沿って透明層107の屈折面107aに角度θで入射し、空気側(屈折率1.0)に屈折する光の透過率は光の偏光状態に関係する。通常は、屈折面107a近傍での面法線に沿った屈折率分布が図28(a)に示すようなステップ状であるので、P偏光(電界ベクトルが紙面に平行な振動成分)は曲線108a、S偏光(電界ベクトルが紙面に直交する振動成分)は曲線108bの透過率特性を示す。いずれも入射角が臨界角(=41.8度)以下での振る舞いは異なるが、臨界角を超えるとゼロになる。
一方、透明層107の表層部分を多層構造として屈折率分布が図28(b)に示すようなテーパ状になると仮定すると、P偏光は曲線108A、S偏光は曲線108Bの透過率特性を示す。いずれも臨界角を超えるとゼロになることは変わらないが、臨界角以下での透過率が100%に近づき、臨界角を境にしたステップ関数の形状に近づく。図28(b)では屈折率が1.5から1.0まで0.01の偏差をなす厚さ0.01μmの膜を50層重ねた構造として計算したが、厚さ方向の屈折率変化の勾配が緩やかな程、P偏光、S偏光の差がなくなり、いずれも入射角に対する透過率のグラフがステップ関数に近づく結果が得られる。
全反射しないようにするためには、屈折面に入射する光の入射角を臨界角以下にする工夫が必要である。そのような工夫の一つとして、特許文献1を例にとり、図29に示す、透明基板205と透明電極204との界面に回折格子209を設けた有機EL素子を用いた発光装置の検討を行った。
図29(a)に示すように基板201の上に電極202、発光層203、透明電極204、回折格子層209をこの順に積層し、回折格子層209の上には透明基板205を設けている。回折格子層209は透明基板205との間でx方向、y方向ともピッチΛの凹凸周期構造をなし、凸部の形状は図29(b)に示すような幅wの正方形であって、この凸部を千鳥格子状に並べている。電極202、透明電極204の間に電圧を印加することで、発光層203の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極202において反射した後、透明電極204を透過し、回折格子層209を透過し、回折する。例えば、点Sを出射する光210aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると、光210bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射するが、実際には回折格子層209において回折するので、光210cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも小さくなり、これを透過できる。
上記の回折格子による回折方位を図30に従って説明する。屈折率nAの透明層207の内部から紙面方向に沿って透明層207の屈折面207a上の点Oに角度θで入射し、屈折率nBの透明層206側に回折する波長λの光を考える。屈折面207aには紙面に沿ってピッチΛをなす回折格子が形成されている。紙面上に点Oを中心にする半径nAの円211と半径nBの円212を描く。入射ベクトル210i(円211の円周上を始点として角度θで点Oに向かうベクトル)の屈折面207aへの正射影ベクトル(垂線の足Aから点Oに向かうベクトル)を210Iとし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210rを、その正射影ベクトル210Rがベクトル210Iと同一になるように描く。垂線の足Cを始点として、大きさqλ/Λのベクトル(格子ベクトル)を考える。ただし、qは回折次数(整数)である。図ではq=1の場合のベクトル210Dを描いており、その終点Bを垂線の足とし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210dを描く。作図の仕方から、ベクトル210rの方位角φ(屈折面法線となす角)は次式で与えられる。
nB×sinφ=nA×sinθ (式4)
これはスネルの法則そのものである。一方、回折光線の方位を与えるベクトル210dの方位角φ’(屈折面法線となす角)は次式で与えられる。
nB×sinφ’=nA×sinθ−qλ/Λ (式5)
ただし、図30の場合の角φ’はz軸(点Oを通る屈折面法線)を跨いでいるのでマイナスで定義される。
すなわち、回折光線は屈折光線からqλ/Λの分だけ方位がずれることになる。図29において、回折しないと仮定した光線210bは屈折光線に相当し、回折する光線210cは光線210bからqλ/Λの分だけ方位がずれることで、屈折面205aでの全反射を免れていることになる。従って、全反射になるべき光を取り出すことができるので、回折格子層を持たない有機EL発光装置に比べ、光取り出し効率の向上が見込めるようにも考えられる。
しかしながら、図29(a)において点Sを出射する光210Aを考えた場合、光210Aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると光210Bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以下の角度で入射して屈折面205aを屈折して透過していくが、実際には回折格子層209において回折するので、光210Cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも大きくなり屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射してしまう。このように、回折格子層209を設けても光取り出し効率の向上は必ずしも保証されるわけではない。
また、図29に示す有機EL素子を用いた発光装置では、全ての光線に関して一律にqλ/Λの分だけ方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は方位によって光強度に分布があり、シフト幅qλ/Λが出射光の波長λに依存するため、光が出射する方位によって色のアンバランスが存在する。即ち、見る方向によって異なる色の光が見えることになり、ディスプレイ用途にはもちろん、照明用の光源としても不都合である。
次に特許文献2を例にとり、図31に示す、透明基板305の表面に突起物315を設けた有機EL素子を用いた発光装置について検討を行った。図31(a)に示すように基板301の上に電極302、発光層303、透明電極304、透明基板305をこの順に積層し、透明基板305の表面305aに複数の突起物315を形成している。突起物315は幅w、高さhの四角柱形状のものを図31(b)に示すように透明基板表面305a上でランダムな位置に配置している。wの大きさは0.4〜20μm、hの大きさは0.4〜10μmの範囲にあり、このような突起物315を5000〜1000000個/mm2の範囲の密度で形成している。電極302、透明電極304の間に電圧を印加することで、発光層303の内部の点Sで発光し、この光310dは直接、もしくは電極302を反射した後、透明電極304を透過し、その一部が突起物315を通じて310fのように外界に取り出される。実際の突起物315はサイドエッチングにより先端に行くほど細くなるよう加工できるし、サイドエッチングがなくても実効的な屈折率が透明基板305と空気との中間付近の値を取るので、等価的に屈折率分布を緩やかに変化させられる。従って図28(b)に示す屈折率分布に近い分布となるため、突起物315により310eで示されるような光の反射を一部防止することができ、結果として光の取り出し効率を向上させることができる。また突起物315のサイズを波長以上に設定しても、突起物315がランダムに並んでいるので取り出された光の干渉を抑えることができる。
しかしながら、図31に示す構造の発光装置は、突起物の効果が特許文献2の中で主張されている反射防止にあるとすると、図28(c)の曲線108a、108bと曲線108A、108Bとの比較からわかるように、透過率の向上は臨界角以下の光によるものに限られ、光の取り出し効率の改善は1、2割程度に止まり、大きな改善は見込めない。
以上のような検討を行い、これらに基づいて本願発明者らは屈折面での全反射される光量を減らし、取り出せる光量を如何にして増すかについて更に検討を重ねていった。さらなる検討の手始めとして屈折面での光の境界条件を検討した。
図32は屈折面における光の場の境界条件を模式的に示しており、幅Wの光が屈折面Tに入射する場合を考えている。マックスウェルの方程式から、電界ベクトルまたは磁界ベクトルに関して、屈折面Tを挟んで周回する経路Aに沿った積分はゼロである。ただし周回路内部に電荷や光源がなく、屈折面Tに沿った電界ベクトルまたは磁界ベクトルの強度、位相が連続していることが前提条件である。
図32(a)のように幅Wが十分大きい場合には、屈折面に直交する幅tを屈折面に沿った幅sに比べ無視できるほど小さくでき、周回積分の内、屈折面に沿った成分しか残らない。この関係から、屈折面を挟んで電界ベクトルまたは磁界ベクトルが連続することが求められる。この連続性の関係を利用して導出されるのがフレネルの式であり、この式により反射、屈折の法則や全反射の現象等が完全に解き明かされる。
図32(b)のように、光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCに分割すると(図32(c)参照)、このうち周回積分Bは光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは光束外での電界ベクトルまたは磁界ベクトルがゼロなので、光束内にある経路PQの積分値だけが残る(図32(d)参照)。従って周回積分Cはゼロではなくなり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。更に、光の幅Wが波長の1/10程度まで小さくなると、図32(e)に示すように、周回積分CとC’が近接し経路PQとQ’P’が重なるので、CとC’を合わせた周回積分がゼロになり、周回路内で光が発光することはなくなる。
一方、図32(f)のように、πだけ位相差がある光が屈折面に沿って並ぶ場合、これらの光束をまたがる周回積分Aを考える。この場合も光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCとB’とに分割すると(図32(g)参照)、このうち周回積分B、B’は光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは屈折面に沿った成分が無視でき、2つの光束の境界に沿った経路PQとQ’P’の積分値だけが残る(図32(h)参照)。光束の位相がπの場の経路Q’P’での積分は光束の位相が0の場の経路P’Q’での積分に等しいので、周回積分Cは経路PQでの積分の2倍の大きさになり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。また、光束の位相がπ以外の値であっても2πの整数倍でなければ、周回積分Cは経路PQでの積分と経路Q’P’の積分とが相殺しないため、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。
従って、幅の狭い領域を透過する光だけでなく、狭い幅の2つの領域をそれぞれ透過する光の位相が異なる場合でも領域の境界付近で光が発生する(ただし、実効的に発光と同じ振る舞いをするだけで、実際に発光するわけではない)。この現象は、回折理論の成立前にヤングが提唱した境界回折に似ているため、ここでは境界回折効果と呼ぶことにする。
屈折面Tにおいてどのような入射条件であろうとも屈折面上で発光があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。すなわち、臨界角以上の入射光であっても、計算上屈折面で発光が生じるようにすれば全反射しないで透過光が現れると考えられる。そこで、本願発明者らはこのような考察結果から、臨界角を超えても光が透過する現象を実際に生じさせるための屈折面の構造を以下のように検討した。
境界回折効果が強く出る例として図33に示すように、発光体に載せられた透明基板の空気との境界面に(a)ピンホールを設けそれ以外は遮光してピンホール光(幅wの白い四角内のみに光が存在)としたものと、(b)幅wで仕切られた碁盤の目に180度の位相シフター18をランダムに配置したものとを取り上げた。なお最初はピンホールで検討を行ったが、ピンホールでは現実的な光の取り出しがほとんどできないので、ピンホールと同じ光取り出し特性を示すと考えたランダム配置の位相シフターも検討した。
図34は図33で示した構造での、屈折面における透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、光の波長を0.635μmとし、屈折率1.457の透明基板内で光量1の光が空気との境界面に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、2.0、4.0、20.0μm)にして示している(ピンホール光も180度位相シフターも全く同じ特性を示すので180度位相シフターのもので代用する)。図32(a)の条件に近いw=20μmの特性は、臨界角(43.34度)を超えると透過率がほぼゼロになる。wが0.4〜1.0μmまで小さくなると、図32(d)、(h)で説明した境界回折効果により、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。更にwを小さくすると(w=0.1,0.2μm)、図32(e)で説明した様に、あらゆる入射角で透過率が0に近づいてくる。なお、図34はヘルムホルツの波動方程式(いわゆるスカラー波動方程式)に基づく解析結果なので、P偏光とS偏光の差は現れていない。
図35は、P偏光入射における1回目の透過率tの入射角依存性を示す実験結果である。微細な位相シフター18の作製は実際には困難であるので、位相0度の部分を透過させ、位相180度の部分を遮光膜(Cr膜)で覆ったマスク(いわゆる幅wで仕切られた碁盤の目に遮光膜をランダムに配置したもので、ピンホール光をランダムに配置したものと同じ)で代用し、実験を行った(遮光膜外の領域に入射する光の光量で規格化すると、この場合の透過率特性も計算では図34に一致する)。実際に作製したマスクパターンでは幅wが0.6、0.8、1.0、2.0、5.0μmであった。実験装置は図36に示すように、半導体レーザー(波長0.635μm)、三角プリズム58(BK7)、マスク基板59(合成石英、屈折率は1.457、裏面にマスクパターン形成)、集光レンズ系50、光検出器51を備えている。屈折率1.51のマッチング液52を挟んで三角プリズムをマスク基板の表面に密着させ、三角プリズム側から方位角を計測しながらレーザー光を入射し、裏面側から漏れ出る透過光を集光レンズ系50で集め、光検出器51で透過光量を測定する。マスクの場合、全体の1/2の面積に相当する遮光膜の部分が遮光され、透過光量が位相シフターを用いたものに比べ1/2となるので、透過率tとしては遮光膜のない部分に入射する光量(全体の1/2の光量)で規格化する。実験結果は図34で示した解析結果と良く一致し、臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在し、wが小さいほどその傾向が強まることが分かる。
このような結果に基づいて、本願発明者らは更に検討を進め、全反射を防いで光の取り出し効率を飛躍的に向上させる今までにない発光装置に想到するに至った。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
(第1の実施形態)
第1の実施形態を図1から図5に基づいて説明する。
図1(a)は第1の実施形態における有機EL素子を用いた発光装置の断面構成と光の伝搬の様子を示している。基板1の上に電極2、発光層3、透明電極4がこの順に積層され、透明電極4の上には透明基板(透明なシートまたは透明な保護層)5が設けられている。基板1、電極2、発光層3、透明電極4が発光体を構成しており、透明電極4の表面が発光体の表面となる。透明基板5の一方の面は発光体の発光面側に位置しており、他方の面の表面には微小領域によって区画化され微細な凹凸を有する表面構造13が形成されている。表面構造13は媒体である空気層6と接している。
電極2、透明電極4の間に電圧を印加することで、発光層3の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、透明基板5表面の表面構造13上の点Pに、表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において表面構造13によって回折して空気層6側に出射する。
空気層6の屈折率をn0、透明基板5の屈折率をn1とすると、入射角θが臨界角θc=sin-1(n0/n1)より大きくなった時に全反射が発生するはずである。しかし、透明基板5表面に表面構造13があるため、点Qには臨界角θc以上の角度で光が入射しても全反射することなく回折し、空気層6側に出射する(1回目の光取り出し)。なお、点Qでは光の一部が反射するがその反射する成分は、電極2を反射した後、再び表面構造13上の点Rに入射し、その一部が空気層側6に出射し(2回目の光取り出し)、残りは反射する。以上の過程を無限に繰り返す。
ここで表面構造13がない従来の有機EL素子を用いた発光装置を考えると、臨界角以上の角度で透明基板と空気層との界面に透明基板側から入射した光は全反射し、それが電極で反射しても再び透明基板と空気層との界面においては再び臨界角以上で入射するので、2回目以降の光の取り出しは起こらず、この点で本実施形態とは異なっている。
以下に本実施形態の特徴である表面構造13について詳しく説明をする。分かり易さのため、製造工程とともに表面構造13の特徴を説明する。
図2は第1の実施形態における表面構造13の形成手順と断面図及びパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図2(a)は1回目のプロセスを示し、図2(b)は2回目のプロセスを示す。図2(a)では、第1のマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターン7aを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去している。
図2(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、灰色の目)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたもので(比率Pは50%以外でもよい)、図2(c)にはw=1.0μmの場合の例を示している。即ち、一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
微小領域δのそれぞれが微小領域δ1または微小領域δ2である確率は、それぞれPまたは1−Pである。このため、微小領域δにおいて、微小領域δ1または微小領域δ2が2以上連続して隣接し存在し得る。この場合、連続する微小領域δ1または微小領域δ2間に境界は形成されておらず、境界は仮想的である。しかし、この場合でも、微小領域δ1または微小領域δ2が連続することにより、これらの領域の境界がなくなっただけであり、透明基板5の表面は微小領域δを基準単位として分割されていると言える。
図2(b)では、透明基板5上に再びフォトレジストを塗布し、これを第2のマスクを用いて縮小露光等の方法で感光させ、感光部を除去してレジストパターン7bを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去している。このプロセスでの感光部(レジスト除去部)は微小領域δ1が微小領域δ2との境界線に沿った領域であり、境界線を中心にして幅2w/3の範囲が感光する。
図2(d)は2回目のプロセスで形成される最終的なパターン図であり、微小領域δ1は微小領域δ2に接する幅w/3の範囲の領域δ1a(濃い灰色領域)とそれ以外の領域δ1b(黒色領域)に二分され、微小領域δ2は微小領域δ1に接する幅w/3の範囲の領域δ2a(白領域)とそれ以外の領域δ2b(薄い灰色領域)に二分される。ここで透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1bは基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1aは基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2aは基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2bは基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。1回目と2回目のプロセスはこの順で行われてもよく、この逆でもよい。また、エッチングの深さは1回目と2回目で2:1としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1bは基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1aは基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2aは基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2bは基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。なお、第2のマスクの代わりにその反転マスク(遮光部と透過部が入れ替わったマスク)を用いてもよい。このとき、2回目のプロセスで形成される最終的なパターンは図2(d)と同じであるが、微小領域δ1aは基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1bは基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2bは基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2aは基準面からd/6だけ下方に窪んだ形状になる。
表面構造13の形成はエッチングで凹凸の形成された金型を作製し、この形状をプレスによりシート状の樹脂に転写し、このシートを透明基板5として接着層を介して透明電極4に貼り合わせるという方法で行ってもよい。この場合は透明基板5イコール透明なシートである。また、シートの表面あるいは保護層として形成された透明基板5の表面に直接にエッチングなどによって凹凸を形成する方法で行っても構わない。
このようなランダムパターンを回折する光はその伝搬方位もランダムになるので、特許文献1に記載された発光装置のような、方位による光強度の分布が存在せず、方位による色のアンバランスもない。また、外界(空気層側)から入射する光は透明基板5表面の表面構造13において反射するが、この反射光はランダムな方位に回折するため、外界の像が映り込むことにはならず、反射防止膜等の光学処理は不要であり、製品コストを低く抑えられる。
図3A、3Bは第1の実施形態における表面構造13から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図3A(a)〜(f)はλ=0.450μm、図3B(a)〜(f)はλ=0.635μmである場合の結果を示している。また、図3A、3Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μm、(e)はw=3.0μm、(f)はw=4.0μmである場合の結果を示している。
横軸の原点と曲線上の点を結ぶベクトルが出射光の光強度と出射方位を表しており、ベクトルの長さが光強度、ベクトルの方位が出射方位に対応する。縦軸は面法線軸の方位、横軸は面内軸の方位に対応し、実線は面内軸が図2(d)におけるx軸またはy軸に沿った断面(0度、90度の経度方位)、破線は面内軸がy=xまたはy=−xの直線に沿った断面(45度、135度の経度方位)における視野角依存性の解析結果を示す。90度方位の結果は0度方位と一致し、135度方位の結果は45度方位と一致するので省略している。曲線がなめらかであるほど、視野角の差異による光強度の変化が小さいことを示している。
これらの図からわかるように、境界幅w=0.5μmでは偏角(緯度)に対する強度変動が大きい偏角(緯度)が存在し、w=1.0〜2.0μmでは実線、破線とも偏角に対しなめらかな変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。w=3.0、4.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが0.5μm以上、3.0μm以下の条件で得られることが分かる。
図4は第1の実施形態における表面構造13の透過率tの入射角依存性を示す図であり、透明基板5内で光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気6側に出射するかを図4(a)に示している。図4(b)は表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合、すなわち2回目における透過率の入射角依存性を示している。ただし電極2での反射率を100%とし、往復間に吸収はないものとする。いずれの図も、発光層3及び透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μm、微小領域δ1bの微小領域δ2aに対する段差d=0.7μm、微小領域δ1の面積比率P=0.5とし、表面構造の幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、2.0、4.0μm)にしている。なお、段差d=0.7μmは垂直入射において凹部での透過光と凸部での透過光にπだけ位相差が発生する条件(d=λ/2(n1−n0))に相当する。
図4(a)は、w=0.1、0.2μmでの結果が異なる以外は180度位相シフターを用いた場合の結果(図34)に近く、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。図4(c)はP偏光入射における透過率tの入射角依存性を示す実験結果である。実験は電子線ビーム法により石英基板上に深さd=0.6μm、境界幅w=1.05μmの表面構造13を形成し、図36に示した測定装置を用いて行った。実験結果は図4(a)で示した解析結果と良く一致し、臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在することが分かる。本実施形態の前に説明したように、臨界角を超えても光が透過する理由は、屈折面上で等価的な発光(いわゆる境界回折効果)が行われ、その光が屈折面を挟んだ両方の媒質内を伝搬するためである。
点発光により光は透明基板5内で球面波となって均一に拡散すると仮定すると、発光方位角θ(前述の入射角θに一致)からθ+dθの間にある光量の総和はsinθdθに比例する。従って、取り出し光量は図4(a)、(b)で示した透過率tにsinθを掛けた値に比例する。図5(a)、(b)は第1の実施形態の表面構造における取り出し光量の入射角依存性を示す説明図である。すなわち、透明基板5内の1点(実際には発光層内の点)で発光する光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気層6側に出射するかを図5(a)に示し、図5(b)は表面構造13において1回反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合、すなわち2回目の取り出し光量の入射角依存性を示している。ただし電極2での反射率を100%とし、往復間に吸収はないものとする。
取り出し光量を入射角θで積分すると光取り出し効率が得られる。図5(c)は第1の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図4(a)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図5(c)において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3、0.9、1.4、2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線5a、5Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5b、5Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5c、5Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5d、5Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5e、5Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。
いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性で限定された範囲(w=0.5〜3.0μm)で曲線5a、5Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=3.0μmの近傍に取り出し効率の最大値があるが、これ以上大きくするとw=0.5〜3.0μmの全領域で取り出し効率は劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。この深さdは、上述した波長λの光、屈折率n1の透明基板5及び屈折率n0の空気6を用いた場合の推奨値である。透過する光の波長、透明基板の屈折率及び透明基板に接する媒質の屈折率が上述した値と異なる場合でも、各微小領域を透過する光の位相差がこの深さdに対応する値であれば同様の効果が得られると考えられる。従って、上述の深さdの範囲を、透過する光の波長λ、透明基板5の屈折率n1及び透明基板5に接する媒質の屈折率n0を用いて一般化した場合、深さdは、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)の関係を満たすことが好ましいと言える。ここで、透明基板5に接する媒質は、透明基板5の屈折率n1よりも小さければよい。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.4〜1μmで極大になり、wを小さく、または、大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率、図5(c)における直線5f)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=1.0μmから3.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図5(c)の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
透明基板5から見た、透明基板5の表面と電極2との間の往復における光透過率をτとすると、往復における光減衰を考慮した2回目の光取り出し効率はτ×η2になる。光取り出しは1回、2回にとどまらず無限に繰り返され、その関係が等比数列をなすと仮定して1回目がη1、2回目がτ×η2であれば、n回目はη1×(τ×η2/η1)
n-1と予想できる。従って、n回目までの光取り出しの合計は
となり、無限回ではη1/(1−τ×η2/η1)に漸近する。
図5(c)において曲線5b、5B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.344、η2=0.124であり、τ=0.88とすると、0.504の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.322、η2=0.140であり、0.522の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、本実施形態の発光装置は、w=0.6μm条件では図28(a)に示される発光装置の1.84倍、w=1.0の条件では1.91倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、(式6)より透明基板5と電極2との間の往復における光透過率τが大きければ、光取り出し効率は増大する。実際の発光層3は電極2や透明電極4以外に複数の透明層等に取り囲まれるが、それらの膜設計(発光層3を含めた膜の屈折率や厚みの決定)は、前述の光透過率τが最大になるように行うべきである。この時、表面構造13での反射は位相の分布がランダムになるので、反射光の重ね合わせはインコヒーレントな扱い(振幅加算でなく強度加算)になる。すなわち透明基板5表面の反射影響は無視でき、仮想的に反射率0%、透過率100%として扱える。この条件で透明基板5から光を発光させ、この光を発光層3を含む多層膜を多重に往復させ、透明基板5に戻ってくる複素光振幅の重ね合わせ光量を最大にすることを条件にして、各膜の屈折率や厚みが決定される。
透明基板5の屈折率n1が発光層3の屈折率n2より小さいとき、透明基板5と発光層3の間に介在する屈折率境界面でも全反射が発生する。更にこの境界面での屈折により、屈折光は面法線方向側にエネルギーが移行するので、この光がそのまま表面構造13に入射すると、入射角の大きい側の透過に効果がある表面構造13のメリットが損なわれる。例えば、有機EL素子では透明電極4の上に、透明基板5と電極2との間の光の往復における光透過率を調整するための透明な調整層が置かれることがある。この場合、透明基板5は調整層の上に載せられる(即ち調整層まで含んだ有機EL素子を発光体と言うことができる)が、透明基板5の屈折率n1が調整層の屈折率n1’よりも小さくなる場合、透明基板5と調整層との間に全反射が発生する境界面が存在し、特にn1’−n1>0.1の場合にはその影響が無視できなくなる。図1(b)はその時の光の伝搬の様子を示している。
図1(b)において、屈折率n2の発光層3の内部の点Sで発光する光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、屈折率n1’の調整層15を透過し、境界面15a上の点P’において屈折して、屈折率n1の透明基板5を透過し、透明基板5と空気6との境界面上の点Pを経て空気6側に出射する。ここではn1’≧n2>n1>1.0である。なお、n1’はn2よりも小さくても構わないが、この場合は透明電極4と調整層15との間でも全反射が発生する。透明基板5において空気6との境界面には本実施形態に係る表面構造13が形成されているので、臨界角を超えた光でも空気層6側に取り出すことができる。しかし、n1’>n1の関係から境界面15aでも全反射が発生する。すなわち、点P’への入射より入射角の大きい点Q’への入射では全反射し、この光は電極2との間で全反射を繰り返し、空気6側に取り出すことはできない。しかも、境界面15aを透過する光は屈折の結果、面法線方向側にエネルギーが移行するので、表面構造13からの光取り出し効率が劣化する。
このような場合、図1(c)に示すように、調整層15と透明基板5との境界面にも本実施形態に係る表面構造13’を設けることでこの面での臨界角を超えた入射光を空気6側に取り出すことができる。すなわち、表面構造13’により臨界角を超えた点Q’への入射でも全反射は発生せず一部が透過し、この面で反射する成分は電極2を反射した後、再び表面構造13’上の点R’に入射し、その一部が表面構造13を経て空気6側に出射でき、以上の過程を無限に繰り返す。しかも、境界面13’を透過する光は回折の結果、全方位にエネルギーが広がるので、表面構造13からの光取り出し効率を高く維持できる。表面構造13からの光取り出しで回折方位に規則性がなくなるので、表面構造13’は千鳥やチェッカー等の規則パターンであってもよい。図1(c)の構成は、凹凸を有する表面構造13,13’を2重に形成する複雑さはあるが、透明基板5に屈折率の低い材料を用いることができ、材料の選択の幅を広げられるメリットを有する。
(第2の実施形態)
第2の実施形態を図6から図8に基づいて説明する。なお第2の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図6は第2の実施形態における表面構造13の形成手順と断面図及びパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図6(a)は1回目のプロセスを示し、図6(b)は2回目のプロセスを示す。図6(a)では、第1のマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターン7aを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去している。図6(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、灰色の目)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたもので(比率Pは50%以外でもよい)、図6(c)にはw=1.0μmの場合の例を示している。即ち、一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
図6(b)では、透明基板5上に再びフォトレジストを塗布し、これを第2のマスクを用いて縮小露光等の方法で感光させ、感光部を除去してレジストパターン7bを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去している。このプロセスでの感光部(レジスト除去部)は微小領域δ1が微小領域δ2との境界線に沿った2つの領域でなされ、一つは微小領域δ2との境界線から微小領域δ1の側に向かって幅w/3の範囲、もう一つは微小領域δ1との境界線から微小領域δ2の側に向かって幅w/3の範囲を除いた領域である。
図6(d)は2回目のプロセスで形成される最終的なパターン図であり、微小領域δ1は微小領域δ2に接する幅w/3の範囲の領域δ1a(濃い灰色領域)とそれ以外の領域δ1b(黒色領域)に二分され、微小領域δ2は微小領域δ1に接する幅w/3の範囲の領域δ2a(薄い灰色領域)とそれ以外の領域δ2b(白領域)に二分される。ここで透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1bは基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1aは基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2bは基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2aは基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。1回目と2回目のプロセスはこの順で行われてもよく、この逆でもよい。また、エッチングの深さは1回目と2回目で2:1としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1bは基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1aは基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2bは基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2aは基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。なお、第2のマスクの代わりにその反転マスク(遮光部と透過部が入れ替わったマスク)を用いてもよい。このとき、2回目のプロセスで形成される最終的なパターンは図6(d)と同じであるが、微小領域δ1aは基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1bは基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2aは基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2bは基準面からd/6だけ下方に窪んだ形状になる。
図7A、7Bは第2の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図7A(a)〜(f)はλ=0.450μm、図7B(a)〜(f)はλ=0.635μmである場合の結果を示している。また、図7A、7Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μm、(e)はw=3.0μm、(f)はw=4.0μmである場合の結果を示している。
境界幅w=0.5〜2.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=3.0、4.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが3.0μm以下の条件で得られることが分かる。
図8は第2の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図8において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線8a、8Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線8b、8Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線8c、8Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線8d、8Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線8e、8Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性が小さい範囲(w=3.0μm以下)で曲線8a、8Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=3.0μmの近傍で優位性を保っているが、これ以上大きくするとw=0.5〜3.0μmの全領域で劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。第1の実施形態と同様、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜1μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=1.0μmから8.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図8の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図8において曲線8b,8B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.335、η2=0.119であり、τ=0.88とすると、0.487の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.306、η2=0.130であり、0.489の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、本実施形態の発光装置は、w=0.6μm条件では図28(a)に示される発光装置の1.78倍、w=1.0の条件では1.78倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、図6(b)の断面図から分かるように、微小領域δ1a、δ2aは微小領域δ1bからδ2bに向かう斜面を階段状に形成したものと見ることができる。微小領域δ1bからδ2bに向かう階段を更に細かく分割しても同様の効果が得られることは容易に類推でき、究極的には斜面形状にしてもよい。すなわち、微小領域δ1a、δ2aが斜面形状であっても、同様の効果を得ることができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態を図9から図11に基づいて説明する。なお第3の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図9は第3の実施形態における表面構造13の形成手順とパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図9(a)、(c)は1回目のプロセスを示し、図9(b)、(d)は2回目のプロセスを示す。
1回目のプロセスでは図9(a)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去する。図9(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ’)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ’1、右下がりストライプ)であるか、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ’2、白の目)であるかを、チェッカー模様状に割り当てたものである。即ち、微小領域δ’1は微小領域δ’2よりも透明基板5の表面の上方へd/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δ’は正方形であるが、微小領域δ’に内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
2回目のプロセスでは図9(b)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去する。図9(d)は2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、左下がりストライプ)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。即ち、一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。
これら2つのプロセスは、実際には図9(e)に示すように、2つのパターンが横方向、縦方向ともwだけシフトした状態で(シフト量はwである必要はない)、1回目のプロセス、2回目のプロセスの順、またはその逆の順で行われる。従って、透明基板5の表面は、1回目のプロセスによって、微小領域δ’(微小領域δ’1とδ’2)に分割されるとともに、2回目のプロセスによって、1回目のプロセスとは独立して、かつ、重畳して、微小領域δ(微小領域δ1とδ2)に分割されている。
透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1とδ’2が重なる領域は基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。また、エッチングの深さは1回目と2回目で1:2としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1とδ’2が重なる領は基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。
これにより、複数の微小領域δ1とδ2の少なくとも一部は、複数の微小領域δ’1とδ’2の少なくとも一部と互いに重なっている。しかし、シフト幅wが、微小領域δ1、δ2、δ’1及びδ’2の幅2wと一致しないため、それぞれの微小領域の境界は交差しても重なることはない。
図10A、10Bは第3の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図10Aにおいて(a)〜(d)はλ=0.450μm、図10B(a)〜(d)はλ=0.635μmである場合の結果を示している。図10A,10Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μmの条件である。境界幅w=0.5,1.0μmでは実線、破線とも偏角に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=1.5、2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角(緯度)に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが1.5μm以下の条件で得られることが分かる。
図11は第3の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図11において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線11a、11Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線11b、11Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線11c、11Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線11d、11Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線11e、11Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性で限定された範囲の一部(w=1.5μm以下)で曲線11a、11Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=1.5μmの近傍で優位性を保っているが、これ以上大きくするとw≦1.5μmの全領域で劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。第1の実施形態と同様、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜1μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.4μmから8.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図11の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図11において曲線8b,8B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.334、η2=0.142であり、τ=0.88とすると、0.534の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.317、η2=0.147であり、0.536の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.6μm条件では、本実施形態の発光装置は図28(a)に示される発光装置の1.95倍、w=1.0の条件では1.96倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、一般に縮小露光技術ではアライメント精度(2つのパターンの位置合わせ精度)をパターニング精度(パターニング可能な最小パターン寸法)の数分の1のレベルにすることができる。従って、本実施例は境界幅2wのサイズをパターンニングすれば、2回のプロセスの後では境界幅wの構造を形成できるもので、微細パターン形成という技術的なハードルを低くできるメリットもある。
(第4の実施形態)
第4の実施形態を図12から図14に基づいて説明する。なお第4の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図12は第4の実施形態における表面構造13の形成手順とパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図12(a)、(c)は1回目のプロセスを示し、図12(b)、(d)は2回目のプロセスを示す。
1回目のプロセスでは図12(a)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去する。図12(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ’)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ’1、右下がりストライプ)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ’2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。即ち、一つの微小領域δ’は別の複数の微小領域δ’によって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ’1は微小領域δ’2よりも透明基板5の表面の上方へd/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.4μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
2回目のプロセスでは図12(b)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去する。図12(d)は2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、左下がりストライプ)であるか、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかを、市松模様に割り当てたものである。即ち、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。
これら2つのプロセスにおける位置合わせは、図12(e)に示すように2つのパターンが透明基板5と平行な面における直交する2方向、つまり、横方向、縦方向ともwだけシフトした状態で(シフト量はwである必要はない)、1回目のプロセス、2回目のプロセスの順、またはその逆の順で行われる。従って、透明基板5の表面は、1回目のプロセスによって、微小領域δ’(微小領域δ’1とδ’2)に分割されるとともに、2回目のプロセスによって、1回目のプロセスとは独立して、かつ、重畳して、微小領域δ(微小領域δ1とδ2)に分割されている。
透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1とδ’2が重なる領域は基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。また、エッチングの深さは1回目と2回目で1:2としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1とδ’2が重なる領は基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。
これにより、複数の微小領域δ1とδ2の少なくとも一部は、複数の微小領域δ’1とδ’2の少なくとも一部と互いに重なっている。しかし、シフト幅wが、微小領域δ1、δ2、δ’1及びδ’2の幅2wと一致しないため、それぞれの微小領域の境界は交差しても重なることはない。
図13A、13Bは第4の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図13Aの(a)〜(d)はλ=0.450μm、図13Bの(a)〜(d)はλ=0.635μmの場合の結果を示している。図13A、13Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μmの条件である。境界幅w=0.5μmでは強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)の大きい偏角(緯度)が存在し、w=1.0μmでは実線、破線とも偏角に対しなめらかな強度変動を示す。wを大きくし、w=1.5、2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが0.5μm以上、1.5μm以下の条件で得られることが分かる。
図14は第4の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図14において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線9a、9Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線9b、9Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線9c、9Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線9d、9Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線9e、9Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性で限定された範囲(w=0.5〜1.5μm)で曲線9a、9Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=1.5μmの近傍で優位性を保っているが、これ以上大きくするとw=0.0〜1.5μmの全領域で劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。第1の実施形態と同様、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜1μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.4μmから8.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図14の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図14において曲線9b,9B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.350、η2=0.145であり、τ=0.88とすると、0.551の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.330、η2=0.140であり、0.527の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.6μm条件では、本実施形態の発光装置は図28(a)に示される発光装置の2.01倍、w=1.0の条件では1.92倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、一般に縮小露光技術ではアライメント精度(2つのパターンの位置合わせ精度)をパターニング精度(パターニング可能な最小パターン寸法)の数分の1のレベルにすることができる。従って、本実施例は境界幅2wのサイズをパターンニングすれば、2回のプロセスの後では境界幅wの構造を形成できるもので、微細パターン形成という技術的なハードルを低くできるメリットもある。
(第5の実施形態)
第5の実施形態を図15から図17に基づいて説明する。なお第5の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図15は第5の実施形態における表面構造13の形成手順とパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図15(a)、(c)は1回目のプロセスを示し、図15(b)、(d)は2回目のプロセスを示す。
1回目のプロセスでは図15(a)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去する。図15(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ’)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ’1、右下がりストライプ)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ’2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。即ち、一つの微小領域δ’は別の複数の微小領域δ’によって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ’1は微小領域δ’2よりも透明基板5の表面の上方へd/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.4μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
2回目のプロセスでは図15(b)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去する。図15(d)は2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、左下がりストライプ)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。即ち、一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。
これら2つのプロセスにおける位置合わせは、図15(e)に示すように2つのパターンが、透明基板5と平行な面における直交する2方向、横方向、縦方向ともwだけシフトした状態で(シフト量はwである必要はない)、1回目のプロセス、2回目のプロセスの順、またはその逆の順で行われる。従って、透明基板5の表面は、1回目のプロセスによって、微小領域δ’(微小領域δ’1とδ’2)に分割されるとともに、2回目のプロセスによって、1回目のプロセスとは独立して、かつ、重畳して、微小領域δ(微小領域δ1とδ2)に分割されている。
透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1とδ’2が重なる領域は基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。また、エッチングの深さは1回目と2回目で1:2としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1とδ’2が重なる領は基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。
これにより、複数の微小領域δ1とδ2の少なくとも一部は、複数の微小領域δ’1とδ’2の少なくとも一部と互いに重なっている。しかし、シフト幅wが、微小領域δ1、δ2、δ’1及びδ’2の幅2wと一致しないため、それぞれの微小領域の境界は交差しても重なることはない。
図16A、16Bは第5の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図16A(a)〜(d)はλ=0.450μm、図16B(a)〜(d)はλ=0.635μmの場合の結果を示している。図16A、16Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μmの条件である。境界幅w=0.5,1.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=1.5、2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが1.5μm以下の条件で得られることが分かる。
図17は第5の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図17において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線17a、17Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線17b、17Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線17c、17Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線17d、17Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線17e、17Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性で限定された範囲の一部(w=0.5〜1.5μm)で曲線17a、17Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=1.5μmの近傍で優位性を保っているが、これ以上大きくするとw=0.0〜1.5μmの全領域で劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。第1の実施形態と同様、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜1μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.4μmから2.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図17の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図17において曲線17b,17B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.334、η2=0.145であり、τ=0.88とすると、0.540の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.311、η2=0.166であり、0.586の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.6μm条件では、本実施形態の発光装置は図28(a)に示される発光装置の1.97倍、w=1.0の条件では2.14倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、一般に縮小露光技術ではアライメント精度(2つのパターンの位置合わせ精度)をパターニング精度(パターニング可能な最小パターン寸法)の数分の1のレベルにすることができる。従って、本実施例は境界幅2wのサイズをパターンニングすれば、2回のプロセスの後では境界幅wの構造を形成できるもので、微細パターン形成という技術的なハードルを低くできるメリットもある。
(第6の実施形態)
第6の実施形態を図18から図20に基づいて説明する。なお第6の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図18は第6の実施形態における表面構造13のパターン図を示している。表面構造13は透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、黒の目)であるか、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかが決められ、凸になる比率Pを50%としたのが図18(a)、90%としたのが図18(b)である。即ち、それぞれ一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へdだけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
図19A、19B、19Cは第6の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図19A(a)〜(d)は比率P=50%、図19B(a)〜(d)は比率P=70%、図19C(a)〜(f)は比率P=90%の場合の結果を示している。図19A、19B、19Cにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μm、(e)はw=3.0μm、(f)はw=4.0μmの条件である。比率P=50%の場合、境界幅w=0.5,1.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=1.5、2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが1.5μm以下の条件で得られることが分かる。比率P=70%の場合、境界幅w=0.5〜2.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=3.0、4.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが3.0μm以下の条件で得られることが分かる。一方、比率P=90%の場合、境界幅w=0.5〜4.0μmまで実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。従って、P=90%での境界幅wの上限値は4.0μmと推定できる。P=50%の場合、w=1.5μmであり、P=70%の場合、w=3.0μmであり、P=90%の場合、w=4.0μmであるから、これらの関係から、境界幅の上限値wは比率Pを用いて、w=6×P2の関係で近似できる。
図20(a)、(b)は第6の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図である。図20(a)は表面構造13の段差d=0.6μmとして、他は図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめており、比率P=50%、90%の場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線19a、19AはそれぞれP=0.5での1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線19b、19BはそれぞれP=0.9での1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。
図20(b)は比率P=50%として、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおき、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線20a、20Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線20b、20Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線20c、20Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線20d、20Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線20e、20Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。
一方、dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。視野角依存性で限定された範囲内(w=0.5〜1.5μm)で見ると曲線20e、20Eは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなるので、dの上限値は2.1μm程度と見てよい。また、曲線20aもw>0.8μmの範囲で他の深さに比べ光取り出し効率が下がり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜1.4μmが推奨値である。第1の実施形態と同様の理由から、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜2μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.2μmから8.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図20の範囲では現れていない)、w≦0.2μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図20(b)において曲線20b,20B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.318、η2=0.093であり、τ=0.88とすると、0.428の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.319、η2=0.102であり、0.469の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.6μm条件では、本実施形態の発光装置は図28(a)に示される発光装置の1.56倍、w=1.0の条件では1.71倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
(第7の実施形態)
第7の実施形態を図21に基づいて説明する。なお第7の実施形態は表面構造のパターンが第1から第6の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1から第6の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図21(a)、(b)は本実施形態における第1、2、4、5の表面構造33の1回目のプロセスで形成されるパターン図、または本実施形態における第3、5の表面構造33の2回目のプロセスで形成されるパターン図、または第6の表面構造33のパターン図を示している。図21(a)では、表面構造23は透明基板5の表面を一辺の長さwの正三角形(微小領域δ)に分割し、一つ一つの微小領域δが凸(図中の23a(微小領域δ1)、灰色の図形)であるかの比率P、凹(図中の23b(微小領域δ2)、白の図形)であるかの比率1−Pを各50%として凸と凹とをランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。一方、図21(b)では、透明基板5の表面を一辺の長さwの正六角形(微小領域δ)に分割し、一つ一つの図形が凸(図中の33a(微小領域δ1)、灰色の図形)であるかの比率P、凹(図中の33b(微小領域δ2)、白の図形)であるかの比率1−Pを各50%として凸と凹とをランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。第1から第6の実施形態では方形を基本としたパターン形成ルールであったが、第7の実施形態は多角形を基本としたパターン形成ルールに置き換わっている。この実施例では第3、4の実施形態で現れる市松模様(チェッカーパターン)も図21(c)、(d)に示すような多角形の規則パターン(凸になる目に規則性を持たせたパターン)に置き換わる。また、第1、2の実施形態で現れる2回目のプロセスでのエッチングパターンは境界線に沿った領域で行われたが、本実施例でも同じルールに従う。
第7の実施形態は1回目のプロセスで形成される表面構造23,33のパターン形状が第1から第6の実施形態とは異なるだけで、2つのプロセスを経て得られた構造では第1の実施形態と同じ原理が作用し、同一の効果が得られる(第6の実施形態では1回目のプロセスのみ)。また、正三角形や正六角形に限らず、同じ図形で隙間なく面分割ができるのであれば、任意の多角形であってもよく、その図形の大きさを一般的に表現すれば、その図形に内接する円の最大のものの直径が0.2μm以上3μm以下であることが条件となる。
なお、第1から第7の実施形態では、実際の加工体での表面構造13,23,33が厳密には正方形や正三角形、正六角形にはならず角の部分が丸まったり角が丸まった微小領域の隣の微小領域の角がその分変形したりするが、特性の劣化はなく同一の効果が得られることは言うまでもない。
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本発明の例示であって、本発明はこれらの例に限定されない。以上の実施形態において、表面構造の凸部分の表面に垂直な断面形状は矩形形状に限らず、台形や円錐形状となってもよく、凸部分の斜面が曲線になってもよい。
また、透明基板5の厚さが大きい場合、光の出射位置は光取り出しの回数が増すごとに発光点Sの位置から離れてくる。この場合、ディスプレイ用のELの様に300μm程度の画素ごとに区切られた構成では、光が隣の画素に紛れ込み、画質の劣化につながる。従って、図22(a)に示すように、表面構造13の形成された透明基板5は数μm程度に薄く構成し、その上に空気層を挟んで0.2mmから0.5mm程度の保護基板14で覆う構成が考えられる。保護基板の表面14a、裏面14bでは全反射は発生しないが、ARコートの必要はある。このとき表面構造13の上には空気層の代わりにエアロゲル等の低屈折率で透明な材料を用いてもよく、このとき一体構成になるため装置としての安定性が高い。
更に、以上の実施形態では、一つの面だけに表面構造13を形成したが、透明基板5の両面に同じような構造を形成することができる。また表面構造13と発光点Sの間に一般の回折格子13’を配置してもよい。この時図22(b)に示すように、透明基板5をフィルム形状にし、表面に表面構造13、裏面に回折格子13’や別仕様の表面構造13”を形成し、発光体側に接着層21を介して接着させる構造が考えられる。透明基板5の屈折率が小さく、発光層3との屈折率差が0.1以上ある場合には、接着層21の材料を発光層3の屈折率より0.1だけ小さいかそれ以上になるように選ぶと接着層21と発光層3との恭敬面での全反射はほとんど生じないとともに、接着層21と透明基板5の間の屈折面、及び透明基板5と空気6の間の屈折面で発生する全反射を、それぞれ表面構造13”(または回折格子13’)、及び表面構造13で回避できる。なお、回折格子13’や表面構造13”の凹部の深さまたは凸部の高さは凹部での透過光と凸部での透過光にπだけ位相差が発生する条件が好ましいが、これよりも凹の深さや凸の高さが小さい条件であってもよい。
なお参考として、図23(a)に表面構造が市松模様(チェッカー形状)をなすパターン図を示している。図23(a)において、表面構造は透明基板5の表面を一辺の長さwの正方形に分割し、灰色の正方形13aと白の正方形13bがチェッカーパターンを形成し、灰色が凸となり、相対的に白が凹の形状をなす。
図23(b)は図5(a)におけるものと同じ条件の下で、凹凸の段差d=0.70μmとして図23(a)に示した表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、透明基板5内で光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気6側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、1.0、2.0、4.0μm)にして示している。図23(b)をランダムパターンの特性である図3(a)と比べると、w=0.1、0.2μm(いわゆる回折光が発生しないナノ構造の領域)の曲線を除いて細かいうねりが存在することが分かる。これはチェッカーパターンによる回折で空気層側に回折光が発生したり消滅したりするためで、方位によって光強度に分布があることを示しており、周期パターン固有の問題である。
図24(a),(b)に、チェッカーパターンの表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を付記している。段差d=0.7μm、境界幅w=0.5μmとし、(a)はλ=0.450μm、(b)はλ=0.635μmの条件である。実線(0度、90度の経度方位)、破線(45度、135度の経度方位)とも偏角に対する変動が大きく、両者の乖離も大きいうえ、波長によって形状が大きく変化することが分かる。方位による光強度の分布や色のアンバランスが発生することは、特許文献1に記載された発光装置同様、周期パターンにおける致命的な欠点である。これらの課題は第1から7の実施形態では全て克服できている。
境界回折効果は光の位相の不連続な部分を一定間隔以上隔てた場合に発生するので、この効果を極大化させるためには、限られた面積内で位相の不連続な部分の出現比率を極大化させることが必要になる。屈折面を無数の微小領域で分割し、微小領域同士の境界で位相が不連続になるとすると、2つの条件により前述の出現比率の極大化がなされる。一つ目の条件は各微小領域の面積ができるだけ一つに揃うこと、2つ目の条件は隣り合う微小領域間にも位相差が存在することである。すなわち、微小領域の内に他のものより大きい面積のものがあれば、この大きな面積を分割した方が位相不連続の境界が増える。反対に微小領域の内に他のものより小さい面積のものがあるとすれば、これは他のものより大きい面積のものが存在することになり、この大きな面積を分割した方が位相不連続の境界が増える。この延長線として、各微小領域の面積ができるだけ一つに揃い、少なくとも各微小領域の面積がある基準面積に対し例えば0.5〜1.5倍の範囲(微小領域に内接する円のうち最大のものの直径が、基準になる直径に対し0.7〜1.3倍の範囲)に入ることが微小領域間の境界線の出現比率を極大化することになる。第1から第7の実施形態は全てこの条件に従っている。また微小領域への分割を極大化することができても、隣り合う微小領域同士で位相が揃えば効果が薄くなる。従って隣り合う微小領域間にも位相差の存在、すなわちランダムな位相の割り当てが必要である。第1から第5の実施形態はこの条件に従っており、境界回折効果を極大化させた構造になっている。
なお、第1から7の実施形態における表面形状は磨りガラスや面粗し等の表面状態や特許文献2に記載された発光装置で示された表面状態とは異なる。第1から7までの実施形態の1回目または2回目のプロセスでは、表面を幅wの碁盤の目(または多角形の目)に分割し、一つ一つの目に凸と凹をP:1−Pで割り当てたもので、このパターンには固有の幅wというスケールと固有の微小領域の形状とが存在し、凸部の総面積と凹部の総面積の比率もP:1−Pの関係に収まっている。これに対し、磨りガラスや面粗し等の表面状態は固有の幅wが存在せず微小領域の形状は不定形であり、凸部の総面積と凹部の総面積の比率もP:1−Pの関係になる訳ではない。このように、上記実施形態における表面形状は、完全にランダムなパターンではなく、ある規則に沿ったランダムパターンと言える。
完全にランダムなパターンとの違いをもう少し考察してみる。図25(a)に示すように、幅4wのテーブル16の上に幅wのカード17を8枚ランダムに並べる。即ち8枚のカード17の総面積はテーブル16の面積の1/2である。ただし、カード17はテーブル16をはみ出さないとする。図25(b)はカード17の重なりを許して配列している。図25(c)はカード17の重なりを許さずに配列している。図25(b)ではカード17が重なった分だけ、カードの面積総和がテーブル面積の1/2より小さくなる。図25(c)では面積比1/2を維持するものの、カード間にwよりも小さい微小な隙間jが発生し、これは図25(b)でも同じである。微小な隙間jが発生しその頻度が大きくなると、jを新たな境界幅と見ることができ、図5(c)からわかるようにj<0.2μmの条件で光取り出し効率が大きく劣化する。
上記の実施形態で用いたランダムパターンの生成原理は図25のものとは異なる。上記の実施形態では面積比はある比率に保たれ微小間隔j等の、幅wより小さいスケールは発生することはない。このように、上記実施形態における表面形状は、完全なランダムなパターンではなく、光取り出し効率を極大化するための規則に沿ったランダムパターンと言える。
また、第1から7の実施形態における表面形状が引き起こす現象は回折現象の一つである。図30で示したように、回折現象では表面形状を平均する平坦な基準面に対し仮想的に屈折する光線を0次回折光(全反射の場合には表れない)とし、この光を方位の基準としてシフトした方位に高次の回折光が発生する。本願のようなランダムな表面形状では0次以外の回折光の伝播方位がランダムになる。これに対し磨りガラスや面粗しは回折現象ではなく屈折現象を利用しており、デコボコした屈折面においてその面法線の方位がランダムになることで屈折の方位もランダムになっているだけである。すなわち、平行平板の上に第1から7の実施形態における表面形状を形成し、透かして見ると反対側の像の輪郭がはっきりと見える。これは表面形状で回折分離する光の中に0次回折光が必ず存在し、この光が反対側の像の輪郭を維持させている。これに対し、磨りガラスや面粗しでは0次回折光に相当する光が存在せず、透かして見ると反対側の像の輪郭がぼやけたものになる。特許文献2では表面の突起物により光が「素直に空気中に放射される」の表現があるだけで回折という表現がなく、「素直」という言葉をスネルの法則(屈折の法則)に従うと解釈できる。このため、特許文献2の構造は、磨りガラスや面粗しと同じ部類に入る構造であると理解でき、本願発明とは別のものであると言うことができる。
ちなみに、特許文献2に開示された技術の特徴は、透明絶縁基板の上に複数の透明な突起物を完全にランダムに配置することにあり、本願のように凸部と凹部とを同じ形状の微小領域の一つ以上の集合体とするという特徴は記載も示唆もされていない。このような特徴により、本願では凸部と凸部、または凹部と凹部を一定間隔隔てることができ、境界回折の効果を引き出すことができているが、特許文献2に記載された発光装置ではそうはならない。このような例示的な実施形態の特徴により顕著な光取り出し効果を奏することは本願発明者らが初めて見出したものであり、特許文献2には上記実施形態のような顕著な効果は記載されていない。特許文献2に記載された発光装置では単位面積当たり5000〜106個/mm2の数で幅0.4〜20μmの突起物が完全なランダムな配置で与えられており、形式的には上記実施形態の発光装置の一部がこの発光装置の中に含有される形にはなるが、突起物とそれ以外の部分との形状の関係、更にはそのような関係が存在して初めて奏される効果が記載も示唆もない以上、実質的には上記の実施形態は特許文献2に開示された技術には含まれず、特許文献2に開示された発明と本願発明とは全く別のものであると言うことができる。
なお、第1から7の実施形態では凹凸形状で光の位相をシフトさせた。位相のシフトは凹凸形状以外でも実現でき、例えば凹部に対応した領域と凸部に対応した領域で多層膜の厚みや屈折率条件を変えることでも可能である。この場合でも、上記実施形態と同じ効果が得られることは言うまでもない。また、第1から7の実施形態はそれぞれ独立して成り立つのではなく、それぞれの一部を組み合わせて、新たな実施例とすることも考えられる。また、第1から7の実施形態では有機エレクトロルミネセンス素子を例にとって説明したが、屈折率が1より大きい媒質内で発光する素子であれば全てに適用できる。例えば、LEDや導光板などへの適用も可能である。更に、発光装置が光を出射する媒質は空気に限定されない。上記実施形態の表面構造は、透明基板の屈折率が、透明基板が接している媒質の屈折率より大きい、特に0.1以上大きい場合に適用できる。
以上説明したように、本発明に係る発光装置は、光の取り出し効率を大幅に向上させる上、出射光の視野角特性も良好なので、ディスプレイや光源等として有用である。
1 基板
2 電極
3 発光層
4 透明電極
5 透明基板
6 空気
13 表面構造
S 発光点
本発明は、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシート及びそれを用いた発光装置に関するものである。また本発明はシートの製造方法にも関する。
白色LEDや有機エレクトロルミネセンス素子などの新しい発光素子の開発が盛んであり、これに伴って、発光体からの光の取り出し効率を向上させる技術が検討されている。
図26は、一般的な有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)を用いた発光装置の断面構成及び光の伝搬の様子を示している。基板101の上に電極102、発光層103、透明電極104がこの順に積層され、透明電極104の上には透明基板105が載せられている。電極102、透明電極104の間に電圧を印加することで、発光層103の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極102において反射した後、透明電極104を透過し、透明基板105の表面上の点Pに表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において屈折して空気層106側に出射する。
透明基板105の屈折率をn’1とすると、入射角θが臨界角θc=sin-1(1/n’1)より大きくなった時、全反射が発生する。例えば、θc以上の角度で透明基板105の表面上の点Qに入射する光は全反射し、空気層106側に出射することはない。
図27(a)、(b)は上記発光装置において透明基板105が多層構造を有していると仮定した場合における光取り出し効率を説明する説明図である。図27(a)において、発光層103の屈折率をn’k、空気層106の屈折率をn0、発光層103と空気層106の間に介在する複数の透明層の屈折率を発光層103に近い側からn’k-1、n’k-2、…、n’1とし、発光層3内の点Sから発光する光の伝搬方位(屈折面の面法線となす角)をθ’k、各屈折面での屈折角を順にθ’k-1、θ’k-2、…、θ’1、θ0とすると、スネルの法則より次式が成り立つ。
n’k×sinθ’k=n’k-1×sinθ’k-1=…=n’1×sinθ’1
=n0×sinθ0 (式1)
従って、次式が成り立つ。
sinθ’k=sinθ0×n0/n’k (式2)
結局、(式2)は発光層103が空気層106に直接接触する場合のスネルの法則に他ならず、間に介在する透明層の屈折率には関係せずに、θ’k≧θc=sin-1(n0/n’k)で全反射が発生することを表している。
図27(b)は、発光層103から取り出せる光の範囲を模式的に示したものである。取り出せる光は、発光点Sを頂点、臨界角θcの2倍を頂角とし、屈折面の面法線に沿ったz軸を中心軸とする2対の円錐体109、109’の内部に含まれる。点Sからの発光が、全方位に等強度の光を放射するものとし、屈折面での透過率が臨界角以内の入射角で100%とすれば、発光層103からの取り出し効率ηは、球面110の表面積に対する、円錐体109、109’により球面110を切り取った面積の比に等しく、次式で与えられる。
η=1−cosθc (式3)
なお、実際の取り出し効率ηは臨界角以内の透過率が100%とはならないので、1−cosθcよりも小さくなる。また、発光素子としての全効率は、発光層の発光効率を上記取り出し効率ηに乗じた値となる。
これに対し、発光体からの光の取り出し効率を向上させる従来の技術として、例えば特許文献1、2に開示されている技術がある。特許文献1には、有機EL素子において、透明基板から大気へと光が出ていくときの透明基板表面での全反射を抑制する目的で、基板界面や内部の面あるいは反射面に回折格子を形成し、光取り出し面に対する光の入射角を変化させることにより光の取り出し効率を向上させるという原理に基づくものと記載されている発明が開示されている。
また、特許文献2には、光の取り出し効率のよい平面発光装置を提供するため、有機EL素子において透明基板の表面に透明の突起物を複数形成して透明基板と空気との界面における光の反射を防止することができると記載されている。
特開平11−283751号公報
特開2005−276581号公報
しかしながら、上述のような従来の発光装置において以下の問題があった。
図26に示す従来の有機EL素子を用いた発光装置では、発光層103からの光取り出し効率ηが最大でも1−cosθcを超えることがなく、発光層103の屈折率が決まれば、光取り出し効率の最大値が一義的に制限されていた。例えば、(式2)においてn0=1.0、n’k=1.457とすると、臨界角θc=sin−1(n0/n’k)=43.34度であり、光取り出し効率の最大値は1−cosθc=0.273程度と小さく、n’k=1.70では0.191程度まで下がる。
また、特許文献1に開示された技術では、確かに全反射になるべき光を取り出すことができるが、その逆もある。すなわち、回折格子層がないと仮定したときに発光層内の点から出射した光が、透明基板の屈折面(出射面)において臨界角より小さい角度で入射して透過、屈折する場合があるが、回折格子層がありそこで回折するときは、屈折面に対する入射角が臨界角を超え、全反射する場合がある。従って、特許文献1に開示された技術は光取り出し効率の向上を保証するものではない。更に特許文献1に開示された技術では、全ての光線に一律に所定量の方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は、方位によって光強度に分布があり、所定量のシフト幅が出射光の波長に依存することから、方位による色のアンバランスが存在する。
また、特許文献1に開示された発光装置では、外界(空気層側)から入射する光は透明基板の表面を規則的に反射し、発光層から取り出される光にとって外乱(いわゆる映り込み)となるため、透明基板の表面には反射防止膜等の光学処理が必要であり、製品コストを押し上げていた。
一方、特許文献2に開示された発光装置は屈折面における光の反射防止を目的にしたもので、この構造による光取り出し効率の改善は1、2割程度と小さいものに収まる。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、臨界角以上の透明基板への入射光も出射させて光取り出し効率の大幅な向上を実現するとともに、映り込みを防ぎ、方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生も抑えるシート、発光装置およびシートの製造方法を提供することにある。
本発明のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.5μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1aは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
このような構成により、発光体からシート内部を通過してシートの他方の面に入射した光は、他方の面の面法線に対して臨界角以上の角度で入射しても他方の面上に設けられた微小領域による表面構造が、全反射が生じることを妨げて、その光の一部を外部に出射するとともに、他方の面で発光体の方に反射した光も発光体内の反射により再びシートの他方の面に入射すると全反射が生じず一部が外部へ出射される。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.5μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1aは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1bは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1aと前記微小領域δ2bとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1aは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1aは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1bは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1aと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ1a及びδ2aは、前記微小領域δ1bとδ2bとの間で前記基準面に対して連続的に傾いた面をなし、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2bとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.4μm以上3μm以下の複数の微小領域δ及びδ’に互いに独立して、かつ、重畳して分割されているとともに、前記微小領域δ及びδ’の1つは前記微小領域δ及びδ’の他の複数によってそれぞれ隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δの境界線は、前記複数の微小領域δ’の境界線と交差はするが、重なることはなく、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ’は、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ’1と、それ以外の複数の微小領域δ’2とからなり、前記微小領域δ1と微小領域δ’1とが重なる領域は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2と微小領域δ’2とが重なる領域は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ1と微小領域δ’2とが重なる領域は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2と微小領域δ’1とが重なる領域は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1と微小領域δ’1とが重なる領域と前記微小領域δ2と微小領域δ’2とが重なる領域との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上3.0μm以下である。
ある好ましい実施形態において、前記複数の微小領域δ’は市松模様を形成している。
本発明の他のシートは、一方の面を発光体に隣接させて用いられる透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上wμm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに確率Pの割合で選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、直径wと確率Pとはw=6×P2の関係を満足し、前記微小領域δ1は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しており、前記dは0.2μm以上1.4μm以下である。
ある好ましい実施形態において、前記微小領域δは多角形かつそれぞれ合同な形状である。
本発明の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1aは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.5μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1aは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1bは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1aと前記微小領域δ2bとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1aは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1aは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ1bは、前記基準面に対して前記他方の面上方へ、ゼロからd/2の間の高さで突き出しており、前記微小領域δ2aは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1aと前記微小領域δ2aとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記微小領域δ1は前記微小領域δ2との境界線に沿った領域δ1aと、それ以外の領域δ1bを含み、前記微小領域δ2は前記微小領域δ1との境界線に沿った領域δ2aと、それ以外の領域δ2bを含み、前記微小領域δ1bは、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2bは、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ1a及びδ2aは、前記微小領域δ1bとδ2bとの間で前記基準面に対して連続的に傾いた面をなし、前記基準面は、前記微小領域δ1bと前記微小領域δ2bとの前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.4μm以上3μm以下の複数の微小領域δ及びδ’に互いに独立して、かつ、重畳して分割されているとともに、前記微小領域δ及びδ’の1つは前記微小領域δ及びδ’の他の複数によってそれぞれ隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δの境界線は、前記複数の微小領域δ’の境界線と交差はするが、重なることはなく、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、前記複数の微小領域δ’は、前記複数の微小領域δからランダムに選ばれた複数の微小領域δ’1と、それ以外の複数の微小領域δ’2とからなり、前記微小領域δ1と微小領域δ’1とが重なる領域は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2と微小領域δ’2とが重なる領域は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記微小領域δ1と微小領域δ’2とが重なる領域は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2と微小領域δ’1とが重なる領域は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、ゼロからd/2の間の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1と微小領域δ’1とが重なる領域と前記微小領域δ2と微小領域δ’2とが重なる領域との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦2λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
ある好ましい実施形態において前記複数の微小領域δ’は市松模様を形成している。
本発明の他の発光装置は、発光面を有する発光体と、一方の面が前記発光面側に位置するように設けられた透明なシートであって、前記シートの他方の面は、内接する最大の円の直径が0.2μm以上wμm以下の複数の微小領域δに分割されているとともに、前記微小領域δの1つは前記微小領域δの他の複数によって隣接かつ囲繞されており、前記複数の微小領域δは、前記複数の微小領域δからランダムに確率Pの割合で選ばれた複数の微小領域δ1と、それ以外の複数の微小領域δ2とからなり、直径wと確率Pとはw=6×P2の関係を満足し、前記微小領域δ1は、前記他方の面に平行な所定の基準面に対して前記他方の面上方へ、d/2の高さで突き出しており、前記微小領域δ2は、前記基準面に対して前記他方の面下方へ、d/2の深さで窪んでおり、前記基準面は、前記微小領域δ1と前記微小領域δ2との前記他方の面に垂直な方向における中間の位置に存在しているシートとを備え、前記発光体は発光スペクトルの中心波長がλである光を前記発光面から出射し、前記シートの屈折率をn1、前記シートの他方の面が接する媒質の屈折率がn1よりも小さいn0としたとき、λ/6(n1−n0)≦d≦λ/(n1−n0)の関係を満たしている。
ある好ましい実施形態において、前記微小領域δは多角形かつそれぞれ合同な形状である。
ある好ましい実施形態において、前記発光体の前記発光面と前記シートの前記一方の面とは界面を形成するように接しており、前記界面の両側において屈折率差が存在し、前記界面の表面形状は千鳥格子状もしくは市松模様の凹凸構造である。
ある好ましい実施形態において、前記媒質は空気である。
ある好ましい実施形態において、前記媒質はエアロゲルである。
ある好ましい実施形態において、前記発光体の光が生じる部分の屈折率がn2であるとき、n2−n1<0.1である。
本発明のシートの製造方法は、上記第1番目のシートの製造方法であって、シート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δ1を規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1パターンを除去後、前記微小領域δ1b及び前記微小領域δ2bを規定する第2マスクを用いて前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含する。
本発明のシートの製造方法は、上記第2番目のシートの製造方法であって、シート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δ1を規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1パターンを除去後、前記微小領域δ1a及び前記微小領域δ2aを規定する第2マスクを用いて前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含する。
本発明のシートの製造方法は、上記第3番目のシートの製造方法であって、シート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δ1を規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1パターンを除去後、前記微小領域δ1b及び前記微小領域δ2aを規定する第2マスクを用いて前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含する。
本発明のシートの製造方法は、上記第4番目のシートの製造方法であって、シート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δ1を規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1パターンを除去後、前記微小領域δ1a及び前記微小領域δ2bを規定する第2マスクを用いて前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含する。
本発明のシートの製造方法は、上記第6番目のシートの製造方法であってシート材料を用意する工程と、前記シート材料の一面に、前記微小領域δを規定する第1マスクを用いて第1パターンを形成し、前記第1パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程と、前記第1マスクを除去後、前記微小領域δ’を規定する第2マスクを用いて、前記シート材料の一面に第2パターンを形成し、前記第2パターンを用いて前記シート材料をエッチングする工程とを包含し、前記シート材料の一面に対する前記第1マスクの位置合わせ、及び、前記シート材料の一面に対する前記第2マスクの位置合わせが前記シート材と平行な面における直交する2方向にシフトしている。
ある好ましい実施形態において、前記第1パターンを用いたエッチングのエッチング量は前記dの1/3であり、前記第2パターンを用いたエッチングのエッチング量は前記dの2/3である。
本発明によれば、臨界角を超えた光の取り出しを繰り返し行えるため、光取り出し効率の大幅な改善が可能となる。更に、ランダムな構造での回折になるため、回折方位に規則性がなくなり、方位による光強度の分布や色のアンバランスの発生や映り込みを抑えることが可能である。
(a)は第1の実施形態における有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す図であり、(b)は調整層を有する発光装置の断面を示した図であり、(c)は調整層との境界にも表面構造を設けた発光装置の断面を示した図である。
(a)は第1の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明する断面図、(b)は2回目のプロセスを説明する断面図、(c)は1回目のプロセスで形成される表面構造のパターン図、(d)は2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(f)は、第1の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(f)は、第1の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第1の実施形態における表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図であって、(a)は1回目の透過率の入射角依存性を示す説明図であり、(b)2回目の透過率の入射角依存性を示す説明図であり、(c)は1回目の透過率の入射角依存性を示す実験説明図である。
第1の実施形態の表面構造における取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であって、(a)は1回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であり、(b)は2回目の取り出し光量の入射角依存性を示す説明図であり、(c)は光取り出し効率を示す説明図である。
(a)は第2の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明する断面図、(b)は2回目のプロセスを説明する断面図、(c)は1回目のプロセスで形成される表面構造のパターン図、(d)は2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(f)は、第2の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(f)は、第2の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第2の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図である。
(a)、(c)は第3の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明するパターン図であり、(b)、(d)は2回目のプロセスを説明するパターン図であり、(e)は1回目と2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(d)は、第3の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(d)は、第3の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第3の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図である。
(a)、(c)は第4の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明するパターン図であり、(b)、(d)は2回目のプロセスを説明するパターン図であり、(e)は1回目と2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(d)は、第4の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(d)は、第4の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第4の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図である。
(a)、(c)は第5の実施形態における表面構造の1回目のプロセスを説明するパターン図であり、(b)、(d)は2回目のプロセスを説明するパターン図であり、(e)は1回目と2回目のプロセスで形成される表面構造の最終的なパターン図である。
(a)から(d)は、第5の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(d)は、第5の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第5の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図である。
第6の実施形態における表面構造13のパターン図であり、(a)は凸になる比率Pが50%であり、(b)は凸になる比率Pが90%である。
(a)から(d)は、第6の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(f)は、第6の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(f)は、第6の実施形態における表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
第6の実施形態の表面構造における光取り出し効率を示す説明図であり、(a)は凸になる比率Pをパラメータにした比較、(b)は段差dをパラメータにした比較である。
(a)は第7の実施形態の第1の表面構造における1回目、または2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、(b)は第2の表面構造における1回目、または2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、(c)は第1の表面構造における2回目、または1回目のプロセスで形成されるパターン図、(d)は第2の表面構造における2回目、または1回目のプロセスで形成されるパターン図である。
(a)および(b)はその他の実施形態における有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す説明図である。
(a)は表面構造がチェッカー形状をなすパターン図であり、(b)は(a)の透過率tの入射角依存性を示す説明図である。
(a)および(b)はチェッカー形状の表面構造から出射する光の視野角依存性を示す説明図である。
(a)から(c)は突起物のランダムな配置の仕方を説明する説明図である。
有機エレクトロルミネセンス素子の断面構成と光の伝搬の様子を示す説明図である。
(a)は多層構造の透明基板を、(b)は取り出し可能な光の範囲を説明する図である。
(a)は屈折率のステップ状の変化を、(b)は屈折率のなだらかな変化を、(c)は屈折面における入射角と透過率との関係を、(d)は光線と屈折面の関係を示す図である。
(a)は周期的構造を有した回折格子を界面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)の上面から見たパターンを示す図である。
回折格子による回折方位を説明する説明図である。
(a)はランダムに配置された突起を表面に備えた発光装置の断面を、(b)は(a)の上面から見たパターンを示す図である。
(a)から(h)は屈折面における光の場の境界条件を説明する説明図である。
(a)はピンホールを、(b)は位相シフターを配置した図である。
180度位相シフターがランダムに配置された屈折面の入射角に対する透過率を示した図である。
180度位相シフターがランダムに配置された屈折面の入射角に対する透過率を示す実験説明図である。
入射角に対する透過率を測定するための実験装置の構成図である。
本願発明の実施形態を説明する前に、特許文献1や特許文献2等の先行例を踏まえて、本願発明に至るまでの検討経過を説明する。
図28は屈折面(透明層表面と空気層との界面)での透過率を説明する説明図である。図28(d)に示すように、屈折率1.5の透明層107の内部から紙面方向に沿って透明層107の屈折面107aに角度θで入射し、空気側(屈折率1.0)に屈折する光の透過率は光の偏光状態に関係する。通常は、屈折面107a近傍での面法線に沿った屈折率分布が図28(a)に示すようなステップ状であるので、P偏光(電界ベクトルが紙面に平行な振動成分)は曲線108a、S偏光(電界ベクトルが紙面に直交する振動成分)は曲線108bの透過率特性を示す。いずれも入射角が臨界角(=41.8度)以下での振る舞いは異なるが、臨界角を超えるとゼロになる。
一方、透明層107の表層部分を多層構造として屈折率分布が図28(b)に示すようなテーパ状になると仮定すると、P偏光は曲線108A、S偏光は曲線108Bの透過率特性を示す。いずれも臨界角を超えるとゼロになることは変わらないが、臨界角以下での透過率が100%に近づき、臨界角を境にしたステップ関数の形状に近づく。図28(b)では屈折率が1.5から1.0まで0.01の偏差をなす厚さ0.01μmの膜を50層重ねた構造として計算したが、厚さ方向の屈折率変化の勾配が緩やかな程、P偏光、S偏光の差がなくなり、いずれも入射角に対する透過率のグラフがステップ関数に近づく結果が得られる。
全反射しないようにするためには、屈折面に入射する光の入射角を臨界角以下にする工夫が必要である。そのような工夫の一つとして、特許文献1を例にとり、図29に示す、透明基板205と透明電極204との界面に回折格子209を設けた有機EL素子を用いた発光装置の検討を行った。
図29(a)に示すように基板201の上に電極202、発光層203、透明電極204、回折格子層209をこの順に積層し、回折格子層209の上には透明基板205を設けている。回折格子層209は透明基板205との間でx方向、y方向ともピッチΛの凹凸周期構造をなし、凸部の形状は図29(b)に示すような幅wの正方形であって、この凸部を千鳥格子状に並べている。電極202、透明電極204の間に電圧を印加することで、発光層203の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極202において反射した後、透明電極204を透過し、回折格子層209を透過し、回折する。例えば、点Sを出射する光210aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると、光210bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射するが、実際には回折格子層209において回折するので、光210cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも小さくなり、これを透過できる。
上記の回折格子による回折方位を図30に従って説明する。屈折率nAの透明層207の内部から紙面方向に沿って透明層207の屈折面207a上の点Oに角度θで入射し、屈折率nBの透明層206側に回折する波長λの光を考える。屈折面207aには紙面に沿ってピッチΛをなす回折格子が形成されている。紙面上に点Oを中心にする半径nAの円211と半径nBの円212を描く。入射ベクトル210i(円211の円周上を始点として角度θで点Oに向かうベクトル)の屈折面207aへの正射影ベクトル(垂線の足Aから点Oに向かうベクトル)を210Iとし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210rを、その正射影ベクトル210Rがベクトル210Iと同一になるように描く。垂線の足Cを始点として、大きさqλ/Λのベクトル(格子ベクトル)を考える。ただし、qは回折次数(整数)である。図ではq=1の場合のベクトル210Dを描いており、その終点Bを垂線の足とし、点Oを始点として円212の円周上に終点をもつベクトル210dを描く。作図の仕方から、ベクトル210rの方位角φ(屈折面法線となす角)は次式で与えられる。
nB×sinφ=nA×sinθ (式4)
これはスネルの法則そのものである。一方、回折光線の方位を与えるベクトル210dの方位角φ’(屈折面法線となす角)は次式で与えられる。
nB×sinφ’=nA×sinθ−qλ/Λ (式5)
ただし、図30の場合の角φ’はz軸(点Oを通る屈折面法線)を跨いでいるのでマイナスで定義される。
すなわち、回折光線は屈折光線からqλ/Λの分だけ方位がずれることになる。図29において、回折しないと仮定した光線210bは屈折光線に相当し、回折する光線210cは光線210bからqλ/Λの分だけ方位がずれることで、屈折面205aでの全反射を免れていることになる。従って、全反射になるべき光を取り出すことができるので、回折格子層を持たない有機EL発光装置に比べ、光取り出し効率の向上が見込めるようにも考えられる。
しかしながら、図29(a)において点Sを出射する光210Aを考えた場合、光210Aが回折格子層209において回折せず直進すると仮定すると光210Bのように透明基板205の屈折面205aに臨界角以下の角度で入射して屈折面205aを屈折して透過していくが、実際には回折格子層209において回折するので、光210Cのように屈折面205aに対する入射角が臨界角よりも大きくなり屈折面205aに臨界角以上の角度で入射して全反射してしまう。このように、回折格子層209を設けても光取り出し効率の向上は必ずしも保証されるわけではない。
また、図29に示す有機EL素子を用いた発光装置では、全ての光線に関して一律にqλ/Λの分だけ方位がシフトした回折光が発生する。このような回折光を含んだ光は方位によって光強度に分布があり、シフト幅qλ/Λが出射光の波長λに依存するため、光が出射する方位によって色のアンバランスが存在する。即ち、見る方向によって異なる色の光が見えることになり、ディスプレイ用途にはもちろん、照明用の光源としても不都合である。
次に特許文献2を例にとり、図31に示す、透明基板305の表面に突起物315を設けた有機EL素子を用いた発光装置について検討を行った。図31(a)に示すように基板301の上に電極302、発光層303、透明電極304、透明基板305をこの順に積層し、透明基板305の表面305aに複数の突起物315を形成している。突起物315は幅w、高さhの四角柱形状のものを図31(b)に示すように透明基板表面305a上でランダムな位置に配置している。wの大きさは0.4〜20μm、hの大きさは0.4〜10μmの範囲にあり、このような突起物315を5000〜1000000個/mm2の範囲の密度で形成している。電極302、透明電極304の間に電圧を印加することで、発光層303の内部の点Sで発光し、この光310dは直接、もしくは電極302を反射した後、透明電極304を透過し、その一部が突起物315を通じて310fのように外界に取り出される。実際の突起物315はサイドエッチングにより先端に行くほど細くなるよう加工できるし、サイドエッチングがなくても実効的な屈折率が透明基板305と空気との中間付近の値を取るので、等価的に屈折率分布を緩やかに変化させられる。従って図28(b)に示す屈折率分布に近い分布となるため、突起物315により310eで示されるような光の反射を一部防止することができ、結果として光の取り出し効率を向上させることができる。また突起物315のサイズを波長以上に設定しても、突起物315がランダムに並んでいるので取り出された光の干渉を抑えることができる。
しかしながら、図31に示す構造の発光装置は、突起物の効果が特許文献2の中で主張されている反射防止にあるとすると、図28(c)の曲線108a、108bと曲線108A、108Bとの比較からわかるように、透過率の向上は臨界角以下の光によるものに限られ、光の取り出し効率の改善は1、2割程度に止まり、大きな改善は見込めない。
以上のような検討を行い、これらに基づいて本願発明者らは屈折面での全反射される光量を減らし、取り出せる光量を如何にして増すかについて更に検討を重ねていった。さらなる検討の手始めとして屈折面での光の境界条件を検討した。
図32は屈折面における光の場の境界条件を模式的に示しており、幅Wの光が屈折面Tに入射する場合を考えている。マックスウェルの方程式から、電界ベクトルまたは磁界ベクトルに関して、屈折面Tを挟んで周回する経路Aに沿った積分はゼロである。ただし周回路内部に電荷や光源がなく、屈折面Tに沿った電界ベクトルまたは磁界ベクトルの強度、位相が連続していることが前提条件である。
図32(a)のように幅Wが十分大きい場合には、屈折面に直交する幅tを屈折面に沿った幅sに比べ無視できるほど小さくでき、周回積分の内、屈折面に沿った成分しか残らない。この関係から、屈折面を挟んで電界ベクトルまたは磁界ベクトルが連続することが求められる。この連続性の関係を利用して導出されるのがフレネルの式であり、この式により反射、屈折の法則や全反射の現象等が完全に解き明かされる。
図32(b)のように、光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCに分割すると(図32(c)参照)、このうち周回積分Bは光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは光束外での電界ベクトルまたは磁界ベクトルがゼロなので、光束内にある経路PQの積分値だけが残る(図32(d)参照)。従って周回積分Cはゼロではなくなり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。更に、光の幅Wが波長の1/10程度まで小さくなると、図32(e)に示すように、周回積分CとC’が近接し経路PQとQ’P’が重なるので、CとC’を合わせた周回積分がゼロになり、周回路内で光が発光することはなくなる。
一方、図32(f)のように、πだけ位相差がある光が屈折面に沿って並ぶ場合、これらの光束をまたがる周回積分Aを考える。この場合も光の幅Wが波長の数十倍以下まで小さくなると幅tは無視できなくなる。この時、周回積分AをBとCとB’とに分割すると(図32(g)参照)、このうち周回積分B、B’は光束内に含まれるのでゼロになる。残った周回積分Cは屈折面に沿った成分が無視でき、2つの光束の境界に沿った経路PQとQ’P’の積分値だけが残る(図32(h)参照)。光束の位相がπの場の経路Q’P’での積分は光束の位相が0の場の経路P’Q’での積分に等しいので、周回積分Cは経路PQでの積分の2倍の大きさになり、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。また、光束の位相がπ以外の値であっても2πの整数倍でなければ、周回積分Cは経路PQでの積分と経路Q’P’の積分とが相殺しないため、計算上周回路内で光が発光することと等価になる。
従って、幅の狭い領域を透過する光だけでなく、狭い幅の2つの領域をそれぞれ透過する光の位相が異なる場合でも領域の境界付近で光が発生する(ただし、実効的に発光と同じ振る舞いをするだけで、実際に発光するわけではない)。この現象は、回折理論の成立前にヤングが提唱した境界回折に似ているため、ここでは境界回折効果と呼ぶことにする。
屈折面Tにおいてどのような入射条件であろうとも屈折面上で発光があると、その光は屈折面を挟んだ両方の媒質内に伝搬する。すなわち、臨界角以上の入射光であっても、計算上屈折面で発光が生じるようにすれば全反射しないで透過光が現れると考えられる。そこで、本願発明者らはこのような考察結果から、臨界角を超えても光が透過する現象を実際に生じさせるための屈折面の構造を以下のように検討した。
境界回折効果が強く出る例として図33に示すように、発光体に載せられた透明基板の空気との境界面に(a)ピンホールを設けそれ以外は遮光してピンホール光(幅wの白い四角内のみに光が存在)としたものと、(b)幅wで仕切られた碁盤の目に180度の位相シフター18をランダムに配置したものとを取り上げた。なお最初はピンホールで検討を行ったが、ピンホールでは現実的な光の取り出しがほとんどできないので、ピンホールと同じ光取り出し特性を示すと考えたランダム配置の位相シフターも検討した。
図34は図33で示した構造での、屈折面における透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、光の波長を0.635μmとし、屈折率1.457の透明基板内で光量1の光が空気との境界面に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、2.0、4.0、20.0μm)にして示している(ピンホール光も180度位相シフターも全く同じ特性を示すので180度位相シフターのもので代用する)。図32(a)の条件に近いw=20μmの特性は、臨界角(43.34度)を超えると透過率がほぼゼロになる。wが0.4〜1.0μmまで小さくなると、図32(d)、(h)で説明した境界回折効果により、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。更にwを小さくすると(w=0.1,0.2μm)、図32(e)で説明した様に、あらゆる入射角で透過率が0に近づいてくる。なお、図34はヘルムホルツの波動方程式(いわゆるスカラー波動方程式)に基づく解析結果なので、P偏光とS偏光の差は現れていない。
図35は、P偏光入射における1回目の透過率tの入射角依存性を示す実験結果である。微細な位相シフター18の作製は実際には困難であるので、位相0度の部分を透過させ、位相180度の部分を遮光膜(Cr膜)で覆ったマスク(いわゆる幅wで仕切られた碁盤の目に遮光膜をランダムに配置したもので、ピンホール光をランダムに配置したものと同じ)で代用し、実験を行った(遮光膜外の領域に入射する光の光量で規格化すると、この場合の透過率特性も計算では図34に一致する)。実際に作製したマスクパターンでは幅wが0.6、0.8、1.0、2.0、5.0μmであった。実験装置は図36に示すように、半導体レーザー(波長0.635μm)、三角プリズム58(BK7)、マスク基板59(合成石英、屈折率は1.457、裏面にマスクパターン形成)、集光レンズ系50、光検出器51を備えている。屈折率1.51のマッチング液52を挟んで三角プリズムをマスク基板の表面に密着させ、三角プリズム側から方位角を計測しながらレーザー光を入射し、裏面側から漏れ出る透過光を集光レンズ系50で集め、光検出器51で透過光量を測定する。マスクの場合、全体の1/2の面積に相当する遮光膜の部分が遮光され、透過光量が位相シフターを用いたものに比べ1/2となるので、透過率tとしては遮光膜のない部分に入射する光量(全体の1/2の光量)で規格化する。実験結果は図34で示した解析結果と良く一致し、臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在し、wが小さいほどその傾向が強まることが分かる。
このような結果に基づいて、本願発明者らは更に検討を進め、全反射を防いで光の取り出し効率を飛躍的に向上させる今までにない発光装置に想到するに至った。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。
(第1の実施形態)
第1の実施形態を図1から図5に基づいて説明する。
図1(a)は第1の実施形態における有機EL素子を用いた発光装置の断面構成と光の伝搬の様子を示している。基板1の上に電極2、発光層3、透明電極4がこの順に積層され、透明電極4の上には透明基板(透明なシートまたは透明な保護層)5が設けられている。基板1、電極2、発光層3、透明電極4が発光体を構成しており、透明電極4の表面が発光体の表面となる。透明基板5の一方の面は発光体の発光面側に位置しており、他方の面の表面には微小領域によって区画化され微細な凹凸を有する表面構造13が形成されている。表面構造13は媒体である空気層6と接している。
電極2、透明電極4の間に電圧を印加することで、発光層3の内部の点Sで発光し、この光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、透明基板5表面の表面構造13上の点Pに、表面の面法線に対して角度θで入射し、この点において表面構造13によって回折して空気層6側に出射する。
空気層6の屈折率をn0、透明基板5の屈折率をn1とすると、入射角θが臨界角θc=sin-1(n0/n1)より大きくなった時に全反射が発生するはずである。しかし、透明基板5表面に表面構造13があるため、点Qには臨界角θc以上の角度で光が入射しても全反射することなく回折し、空気層6側に出射する(1回目の光取り出し)。なお、点Qでは光の一部が反射するがその反射する成分は、電極2を反射した後、再び表面構造13上の点Rに入射し、その一部が空気層側6に出射し(2回目の光取り出し)、残りは反射する。以上の過程を無限に繰り返す。
ここで表面構造13がない従来の有機EL素子を用いた発光装置を考えると、臨界角以上の角度で透明基板と空気層との界面に透明基板側から入射した光は全反射し、それが電極で反射しても再び透明基板と空気層との界面においては再び臨界角以上で入射するので、2回目以降の光の取り出しは起こらず、この点で本実施形態とは異なっている。
以下に本実施形態の特徴である表面構造13について詳しく説明をする。分かり易さのため、製造工程とともに表面構造13の特徴を説明する。
図2は第1の実施形態における表面構造13の形成手順と断面図及びパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図2(a)は1回目のプロセスを示し、図2(b)は2回目のプロセスを示す。図2(a)では、第1のマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターン7aを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去している。
図2(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、灰色の目)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたもので(比率Pは50%以外でもよい)、図2(c)にはw=1.0μmの場合の例を示している。即ち、一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
微小領域δのそれぞれが微小領域δ1または微小領域δ2である確率は、それぞれPまたは1−Pである。このため、微小領域δにおいて、微小領域δ1または微小領域δ2が2以上連続して隣接し存在し得る。この場合、連続する微小領域δ1または微小領域δ2間に境界は形成されておらず、境界は仮想的である。しかし、この場合でも、微小領域δ1または微小領域δ2が連続することにより、これらの領域の境界がなくなっただけであり、透明基板5の表面は微小領域δを基準単位として分割されていると言える。
図2(b)では、透明基板5上に再びフォトレジストを塗布し、これを第2のマスクを用いて縮小露光等の方法で感光させ、感光部を除去してレジストパターン7bを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去している。このプロセスでの感光部(レジスト除去部)は微小領域δ1が微小領域δ2との境界線に沿った領域であり、境界線を中心にして幅2w/3の範囲が感光する。
図2(d)は2回目のプロセスで形成される最終的なパターン図であり、微小領域δ1は微小領域δ2に接する幅w/3の範囲の領域δ1a(濃い灰色領域)とそれ以外の領域δ1b(黒色領域)に二分され、微小領域δ2は微小領域δ1に接する幅w/3の範囲の領域δ2a(白領域)とそれ以外の領域δ2b(薄い灰色領域)に二分される。ここで透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1bは基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1aは基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2aは基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2bは基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。1回目と2回目のプロセスはこの順で行われてもよく、この逆でもよい。また、エッチングの深さは1回目と2回目で2:1としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1bは基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1aは基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2aは基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2bは基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。なお、第2のマスクの代わりにその反転マスク(遮光部と透過部が入れ替わったマスク)を用いてもよい。このとき、2回目のプロセスで形成される最終的なパターンは図2(d)と同じであるが、微小領域δ1aは基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1bは基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2bは基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2aは基準面からd/6だけ下方に窪んだ形状になる。
表面構造13の形成はエッチングで凹凸の形成された金型を作製し、この形状をプレスによりシート状の樹脂に転写し、このシートを透明基板5として接着層を介して透明電極4に貼り合わせるという方法で行ってもよい。この場合は透明基板5イコール透明なシートである。また、シートの表面あるいは保護層として形成された透明基板5の表面に直接にエッチングなどによって凹凸を形成する方法で行っても構わない。
このようなランダムパターンを回折する光はその伝搬方位もランダムになるので、特許文献1に記載された発光装置のような、方位による光強度の分布が存在せず、方位による色のアンバランスもない。また、外界(空気層側)から入射する光は透明基板5表面の表面構造13において反射するが、この反射光はランダムな方位に回折するため、外界の像が映り込むことにはならず、反射防止膜等の光学処理は不要であり、製品コストを低く抑えられる。
図3A、3Bは第1の実施形態における表面構造13から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図3A(a)〜(f)はλ=0.450μm、図3B(a)〜(f)はλ=0.635μmである場合の結果を示している。また、図3A、3Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μm、(e)はw=3.0μm、(f)はw=4.0μmである場合の結果を示している。
横軸の原点と曲線上の点を結ぶベクトルが出射光の光強度と出射方位を表しており、ベクトルの長さが光強度、ベクトルの方位が出射方位に対応する。縦軸は面法線軸の方位、横軸は面内軸の方位に対応し、実線は面内軸が図2(d)におけるx軸またはy軸に沿った断面(0度、90度の経度方位)、破線は面内軸がy=xまたはy=−xの直線に沿った断面(45度、135度の経度方位)における視野角依存性の解析結果を示す。90度方位の結果は0度方位と一致し、135度方位の結果は45度方位と一致するので省略している。曲線がなめらかであるほど、視野角の差異による光強度の変化が小さいことを示している。
これらの図からわかるように、境界幅w=0.5μmでは偏角(緯度)に対する強度変動が大きい偏角(緯度)が存在し、w=1.0〜2.0μmでは実線、破線とも偏角に対しなめらかな変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。w=3.0、4.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが0.5μm以上、3.0μm以下の条件で得られることが分かる。
図4は第1の実施形態における表面構造13の透過率tの入射角依存性を示す図であり、透明基板5内で光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気6側に出射するかを図4(a)に示している。図4(b)は表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合、すなわち2回目における透過率の入射角依存性を示している。ただし電極2での反射率を100%とし、往復間に吸収はないものとする。いずれの図も、発光層3及び透明基板5の屈折率n1=1.457、空気6の屈折率n0=1.0、光の波長λ=0.635μm、微小領域δ1bの微小領域δ2aに対する段差d=0.7μm、微小領域δ1の面積比率P=0.5とし、表面構造の幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.0、2.0、4.0μm)にしている。なお、段差d=0.7μmは垂直入射において凹部での透過光と凸部での透過光にπだけ位相差が発生する条件(d=λ/2(n1−n0))に相当する。
図4(a)は、w=0.1、0.2μmでの結果が異なる以外は180度位相シフターを用いた場合の結果(図34)に近く、臨界角を超えても大きな透過率が存在する。図4(c)はP偏光入射における透過率tの入射角依存性を示す実験結果である。実験は電子線ビーム法により石英基板上に深さd=0.6μm、境界幅w=1.05μmの表面構造13を形成し、図36に示した測定装置を用いて行った。実験結果は図4(a)で示した解析結果と良く一致し、臨界角(43.34度)を超えても大きな透過率が存在することが分かる。本実施形態の前に説明したように、臨界角を超えても光が透過する理由は、屈折面上で等価的な発光(いわゆる境界回折効果)が行われ、その光が屈折面を挟んだ両方の媒質内を伝搬するためである。
点発光により光は透明基板5内で球面波となって均一に拡散すると仮定すると、発光方位角θ(前述の入射角θに一致)からθ+dθの間にある光量の総和はsinθdθに比例する。従って、取り出し光量は図4(a)、(b)で示した透過率tにsinθを掛けた値に比例する。図5(a)、(b)は第1の実施形態の表面構造における取り出し光量の入射角依存性を示す説明図である。すなわち、透明基板5内の1点(実際には発光層内の点)で発光する光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気層6側に出射するかを図5(a)に示し、図5(b)は表面構造13において1回反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合、すなわち2回目の取り出し光量の入射角依存性を示している。ただし電極2での反射率を100%とし、往復間に吸収はないものとする。
取り出し光量を入射角θで積分すると光取り出し効率が得られる。図5(c)は第1の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図4(a)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図5(c)において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3、0.9、1.4、2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線5a、5Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5b、5Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5c、5Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5d、5Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線5e、5Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。
いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性で限定された範囲(w=0.5〜3.0μm)で曲線5a、5Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=3.0μmの近傍に取り出し効率の最大値があるが、これ以上大きくするとw=0.5〜3.0μmの全領域で取り出し効率は劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。この深さdは、上述した波長λの光、屈折率n1の透明基板5及び屈折率n0の空気6を用いた場合の推奨値である。透過する光の波長、透明基板の屈折率及び透明基板に接する媒質の屈折率が上述した値と異なる場合でも、各微小領域を透過する光の位相差がこの深さdに対応する値であれば同様の効果が得られると考えられる。従って、上述の深さdの範囲を、透過する光の波長λ、透明基板5の屈折率n1及び透明基板5に接する媒質の屈折率n0を用いて一般化した場合、深さdは、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)の関係を満たすことが好ましいと言える。ここで、透明基板5に接する媒質は、透明基板5の屈折率n1よりも小さければよい。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.4〜1μmで極大になり、wを小さく、または、大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率、図5(c)における直線5f)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=1.0μmから3.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図5(c)の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
透明基板5から見た、透明基板5の表面と電極2との間の往復における光透過率をτとすると、往復における光減衰を考慮した2回目の光取り出し効率はτ×η2になる。光取り出しは1回、2回にとどまらず無限に繰り返され、その関係が等比数列をなすと仮定して1回目がη1、2回目がτ×η2であれば、n回目はη1×(τ×η2/η1)
n-1と予想できる。従って、n回目までの光取り出しの合計は
となり、無限回ではη1/(1−τ×η2/η1)に漸近する。
図5(c)において曲線5b、5B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.344、η2=0.124であり、τ=0.88とすると、0.504の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.322、η2=0.140であり、0.522の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、本実施形態の発光装置は、w=0.6μm条件では図28(a)に示される発光装置の1.84倍、w=1.0の条件では1.91倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、(式6)より透明基板5と電極2との間の往復における光透過率τが大きければ、光取り出し効率は増大する。実際の発光層3は電極2や透明電極4以外に複数の透明層等に取り囲まれるが、それらの膜設計(発光層3を含めた膜の屈折率や厚みの決定)は、前述の光透過率τが最大になるように行うべきである。この時、表面構造13での反射は位相の分布がランダムになるので、反射光の重ね合わせはインコヒーレントな扱い(振幅加算でなく強度加算)になる。すなわち透明基板5表面の反射影響は無視でき、仮想的に反射率0%、透過率100%として扱える。この条件で透明基板5から光を発光させ、この光を発光層3を含む多層膜を多重に往復させ、透明基板5に戻ってくる複素光振幅の重ね合わせ光量を最大にすることを条件にして、各膜の屈折率や厚みが決定される。
透明基板5の屈折率n1が発光層3の屈折率n2より小さいとき、透明基板5と発光層3の間に介在する屈折率境界面でも全反射が発生する。更にこの境界面での屈折により、屈折光は面法線方向側にエネルギーが移行するので、この光がそのまま表面構造13に入射すると、入射角の大きい側の透過に効果がある表面構造13のメリットが損なわれる。例えば、有機EL素子では透明電極4の上に、透明基板5と電極2との間の光の往復における光透過率を調整するための透明な調整層が置かれることがある。この場合、透明基板5は調整層の上に載せられる(即ち調整層まで含んだ有機EL素子を発光体と言うことができる)が、透明基板5の屈折率n1が調整層の屈折率n1’よりも小さくなる場合、透明基板5と調整層との間に全反射が発生する境界面が存在し、特にn1’−n1>0.1の場合にはその影響が無視できなくなる。図1(b)はその時の光の伝搬の様子を示している。
図1(b)において、屈折率n2の発光層3の内部の点Sで発光する光は直接、もしくは電極2を反射した後、透明電極4を透過し、屈折率n1’の調整層15を透過し、境界面15a上の点P’において屈折して、屈折率n1の透明基板5を透過し、透明基板5と空気6との境界面上の点Pを経て空気6側に出射する。ここではn1’≧n2>n1>1.0である。なお、n1’はn2よりも小さくても構わないが、この場合は透明電極4と調整層15との間でも全反射が発生する。透明基板5において空気6との境界面には本実施形態に係る表面構造13が形成されているので、臨界角を超えた光でも空気層6側に取り出すことができる。しかし、n1’>n1の関係から境界面15aでも全反射が発生する。すなわち、点P’への入射より入射角の大きい点Q’への入射では全反射し、この光は電極2との間で全反射を繰り返し、空気6側に取り出すことはできない。しかも、境界面15aを透過する光は屈折の結果、面法線方向側にエネルギーが移行するので、表面構造13からの光取り出し効率が劣化する。
このような場合、図1(c)に示すように、調整層15と透明基板5との境界面にも本実施形態に係る表面構造13’を設けることでこの面での臨界角を超えた入射光を空気6側に取り出すことができる。すなわち、表面構造13’により臨界角を超えた点Q’への入射でも全反射は発生せず一部が透過し、この面で反射する成分は電極2を反射した後、再び表面構造13’上の点R’に入射し、その一部が表面構造13を経て空気6側に出射でき、以上の過程を無限に繰り返す。しかも、境界面13’を透過する光は回折の結果、全方位にエネルギーが広がるので、表面構造13からの光取り出し効率を高く維持できる。表面構造13からの光取り出しで回折方位に規則性がなくなるので、表面構造13’は千鳥やチェッカー等の規則パターンであってもよい。図1(c)の構成は、凹凸を有する表面構造13,13’を2重に形成する複雑さはあるが、透明基板5に屈折率の低い材料を用いることができ、材料の選択の幅を広げられるメリットを有する。
(第2の実施形態)
第2の実施形態を図6から図8に基づいて説明する。なお第2の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図6は第2の実施形態における表面構造13の形成手順と断面図及びパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図6(a)は1回目のプロセスを示し、図6(b)は2回目のプロセスを示す。図6(a)では、第1のマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターン7aを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去している。図6(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、灰色の目)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたもので(比率Pは50%以外でもよい)、図6(c)にはw=1.0μmの場合の例を示している。即ち、一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
図6(b)では、透明基板5上に再びフォトレジストを塗布し、これを第2のマスクを用いて縮小露光等の方法で感光させ、感光部を除去してレジストパターン7bを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去している。このプロセスでの感光部(レジスト除去部)は微小領域δ1が微小領域δ2との境界線に沿った2つの領域でなされ、一つは微小領域δ2との境界線から微小領域δ1の側に向かって幅w/3の範囲、もう一つは微小領域δ1との境界線から微小領域δ2の側に向かって幅w/3の範囲を除いた領域である。
図6(d)は2回目のプロセスで形成される最終的なパターン図であり、微小領域δ1は微小領域δ2に接する幅w/3の範囲の領域δ1a(濃い灰色領域)とそれ以外の領域δ1b(黒色領域)に二分され、微小領域δ2は微小領域δ1に接する幅w/3の範囲の領域δ2a(薄い灰色領域)とそれ以外の領域δ2b(白領域)に二分される。ここで透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1bは基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1aは基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2bは基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2aは基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。1回目と2回目のプロセスはこの順で行われてもよく、この逆でもよい。また、エッチングの深さは1回目と2回目で2:1としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1bは基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1aは基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2bは基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2aは基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。なお、第2のマスクの代わりにその反転マスク(遮光部と透過部が入れ替わったマスク)を用いてもよい。このとき、2回目のプロセスで形成される最終的なパターンは図6(d)と同じであるが、微小領域δ1aは基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1bは基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2aは基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2bは基準面からd/6だけ下方に窪んだ形状になる。
図7A、7Bは第2の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図7A(a)〜(f)はλ=0.450μm、図7B(a)〜(f)はλ=0.635μmである場合の結果を示している。また、図7A、7Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μm、(e)はw=3.0μm、(f)はw=4.0μmである場合の結果を示している。
境界幅w=0.5〜2.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=3.0、4.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが3.0μm以下の条件で得られることが分かる。
図8は第2の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図8において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線8a、8Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線8b、8Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線8c、8Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線8d、8Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線8e、8Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性が小さい範囲(w=3.0μm以下)で曲線8a、8Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=3.0μmの近傍で優位性を保っているが、これ以上大きくするとw=0.5〜3.0μmの全領域で劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。第1の実施形態と同様、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜1μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=1.0μmから8.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図8の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図8において曲線8b,8B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.335、η2=0.119であり、τ=0.88とすると、0.487の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.306、η2=0.130であり、0.489の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、本実施形態の発光装置は、w=0.6μm条件では図28(a)に示される発光装置の1.78倍、w=1.0の条件では1.78倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、図6(b)の断面図から分かるように、微小領域δ1a、δ2aは微小領域δ1bからδ2bに向かう斜面を階段状に形成したものと見ることができる。微小領域δ1bからδ2bに向かう階段を更に細かく分割しても同様の効果が得られることは容易に類推でき、究極的には斜面形状にしてもよい。すなわち、微小領域δ1a、δ2aが斜面形状であっても、同様の効果を得ることができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態を図9から図11に基づいて説明する。なお第3の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図9は第3の実施形態における表面構造13の形成手順とパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図9(a)、(c)は1回目のプロセスを示し、図9(b)、(d)は2回目のプロセスを示す。
1回目のプロセスでは図9(a)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去する。図9(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ’)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ’1、右下がりストライプ)であるか、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ’2、白の目)であるかを、チェッカー模様状に割り当てたものである。即ち、微小領域δ’1は微小領域δ’2よりも透明基板5の表面の上方へd/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δ’は正方形であるが、微小領域δ’に内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
2回目のプロセスでは図9(b)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去する。図9(d)は2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、左下がりストライプ)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。即ち、一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。
これら2つのプロセスは、実際には図9(e)に示すように、2つのパターンが横方向、縦方向ともwだけシフトした状態で(シフト量はwである必要はない)、1回目のプロセス、2回目のプロセスの順、またはその逆の順で行われる。従って、透明基板5の表面は、1回目のプロセスによって、微小領域δ’(微小領域δ’1とδ’2)に分割されるとともに、2回目のプロセスによって、1回目のプロセスとは独立して、かつ、重畳して、微小領域δ(微小領域δ1とδ2)に分割されている。
透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1とδ’2が重なる領域は基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。また、エッチングの深さは1回目と2回目で1:2としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1とδ’2が重なる領は基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。
これにより、複数の微小領域δ1とδ2の少なくとも一部は、複数の微小領域δ’1とδ’2の少なくとも一部と互いに重なっている。しかし、シフト幅wが、微小領域δ1、δ2、δ’1及びδ’2の幅2wと一致しないため、それぞれの微小領域の境界は交差しても重なることはない。
図10A、10Bは第3の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図10Aにおいて(a)〜(d)はλ=0.450μm、図10B(a)〜(d)はλ=0.635μmである場合の結果を示している。図10A,10Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μmの条件である。境界幅w=0.5,1.0μmでは実線、破線とも偏角に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=1.5、2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角(緯度)に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが1.5μm以下の条件で得られることが分かる。
図11は第3の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図11において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線11a、11Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線11b、11Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線11c、11Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線11d、11Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線11e、11Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性で限定された範囲の一部(w=1.5μm以下)で曲線11a、11Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=1.5μmの近傍で優位性を保っているが、これ以上大きくするとw≦1.5μmの全領域で劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。第1の実施形態と同様、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜1μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.4μmから8.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図11の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図11において曲線8b,8B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.334、η2=0.142であり、τ=0.88とすると、0.534の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.317、η2=0.147であり、0.536の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.6μm条件では、本実施形態の発光装置は図28(a)に示される発光装置の1.95倍、w=1.0の条件では1.96倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、一般に縮小露光技術ではアライメント精度(2つのパターンの位置合わせ精度)をパターニング精度(パターニング可能な最小パターン寸法)の数分の1のレベルにすることができる。従って、本実施例は境界幅2wのサイズをパターンニングすれば、2回のプロセスの後では境界幅wの構造を形成できるもので、微細パターン形成という技術的なハードルを低くできるメリットもある。
(第4の実施形態)
第4の実施形態を図12から図14に基づいて説明する。なお第4の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図12は第4の実施形態における表面構造13の形成手順とパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図12(a)、(c)は1回目のプロセスを示し、図12(b)、(d)は2回目のプロセスを示す。
1回目のプロセスでは図12(a)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去する。図12(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ’)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ’1、右下がりストライプ)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ’2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。即ち、一つの微小領域δ’は別の複数の微小領域δ’によって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ’1は微小領域δ’2よりも透明基板5の表面の上方へd/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.4μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
2回目のプロセスでは図12(b)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去する。図12(d)は2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、左下がりストライプ)であるか、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかを、市松模様に割り当てたものである。即ち、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。
これら2つのプロセスにおける位置合わせは、図12(e)に示すように2つのパターンが透明基板5と平行な面における直交する2方向、つまり、横方向、縦方向ともwだけシフトした状態で(シフト量はwである必要はない)、1回目のプロセス、2回目のプロセスの順、またはその逆の順で行われる。従って、透明基板5の表面は、1回目のプロセスによって、微小領域δ’(微小領域δ’1とδ’2)に分割されるとともに、2回目のプロセスによって、1回目のプロセスとは独立して、かつ、重畳して、微小領域δ(微小領域δ1とδ2)に分割されている。
透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1とδ’2が重なる領域は基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。また、エッチングの深さは1回目と2回目で1:2としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1とδ’2が重なる領は基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。
これにより、複数の微小領域δ1とδ2の少なくとも一部は、複数の微小領域δ’1とδ’2の少なくとも一部と互いに重なっている。しかし、シフト幅wが、微小領域δ1、δ2、δ’1及びδ’2の幅2wと一致しないため、それぞれの微小領域の境界は交差しても重なることはない。
図13A、13Bは第4の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図13Aの(a)〜(d)はλ=0.450μm、図13Bの(a)〜(d)はλ=0.635μmの場合の結果を示している。図13A、13Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μmの条件である。境界幅w=0.5μmでは強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)の大きい偏角(緯度)が存在し、w=1.0μmでは実線、破線とも偏角に対しなめらかな強度変動を示す。wを大きくし、w=1.5、2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが0.5μm以上、1.5μm以下の条件で得られることが分かる。
図14は第4の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図14において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線9a、9Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線9b、9Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線9c、9Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線9d、9Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線9e、9Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性で限定された範囲(w=0.5〜1.5μm)で曲線9a、9Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=1.5μmの近傍で優位性を保っているが、これ以上大きくするとw=0.0〜1.5μmの全領域で劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。第1の実施形態と同様、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜1μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.4μmから8.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図14の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図14において曲線9b,9B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.350、η2=0.145であり、τ=0.88とすると、0.551の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.330、η2=0.140であり、0.527の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.6μm条件では、本実施形態の発光装置は図28(a)に示される発光装置の2.01倍、w=1.0の条件では1.92倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、一般に縮小露光技術ではアライメント精度(2つのパターンの位置合わせ精度)をパターニング精度(パターニング可能な最小パターン寸法)の数分の1のレベルにすることができる。従って、本実施例は境界幅2wのサイズをパターンニングすれば、2回のプロセスの後では境界幅wの構造を形成できるもので、微細パターン形成という技術的なハードルを低くできるメリットもある。
(第5の実施形態)
第5の実施形態を図15から図17に基づいて説明する。なお第5の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図15は第5の実施形態における表面構造13の形成手順とパターン図を示している。表面構造13は2つのプロセスで形成される。図15(a)、(c)は1回目のプロセスを示し、図15(b)、(d)は2回目のプロセスを示す。
1回目のプロセスでは図15(a)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さd/3だけエッチングし、レジストを除去する。図15(c)は1回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ’)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ’1、右下がりストライプ)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ’2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。即ち、一つの微小領域δ’は別の複数の微小領域δ’によって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ’1は微小領域δ’2よりも透明基板5の表面の上方へd/3だけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.4μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
2回目のプロセスでは図15(b)に示したマスクを用いて縮小露光等の方法で透明基板5上に形成されたフォトレジストを感光させ、感光部を除去してレジストパターンを形成し(現像)、透明基板5を深さ2d/3だけエッチングし、レジストを除去する。図15(d)は2回目のプロセスで形成されるパターン図であり、この段階での表面構造13は透明基板5の表面を幅2w(wを境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、左下がりストライプ)であるかの比率P、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかの比率1−Pを各50%としてランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。即ち、一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へ2d/3だけ突き出している。
これら2つのプロセスにおける位置合わせは、図15(e)に示すように2つのパターンが、透明基板5と平行な面における直交する2方向、横方向、縦方向ともwだけシフトした状態で(シフト量はwである必要はない)、1回目のプロセス、2回目のプロセスの順、またはその逆の順で行われる。従って、透明基板5の表面は、1回目のプロセスによって、微小領域δ’(微小領域δ’1とδ’2)に分割されるとともに、2回目のプロセスによって、1回目のプロセスとは独立して、かつ、重畳して、微小領域δ(微小領域δ1とδ2)に分割されている。
透明基板5の表面に垂直な方向に関する中間の位置に、透明基板5表面に平行な基準面を定めると、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出しており、微小領域δ1とδ’2が重なる領域は基準面からd/6だけ上方に突き出しており、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪んでおり、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面からd/6だけ下方に窪んでいる。また、エッチングの深さは1回目と2回目で1:2としたが、それ以外でもよく、結果として、微小領域δ1とδ’1が重なる領域は基準面からd/2だけ上方に突き出し、微小領域δ1とδ’2が重なる領は基準面から0からd/2の間の値だけ上方に突き出し、微小領域δ2とδ’2が重なる領域は基準面からd/2だけ下方に窪み、微小領域δ2とδ’1が重なる領域は基準面から0からd/2の間の値だけ下方に窪んでおればよい。
これにより、複数の微小領域δ1とδ2の少なくとも一部は、複数の微小領域δ’1とδ’2の少なくとも一部と互いに重なっている。しかし、シフト幅wが、微小領域δ1、δ2、δ’1及びδ’2の幅2wと一致しないため、それぞれの微小領域の境界は交差しても重なることはない。
図16A、16Bは第5の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図16A(a)〜(d)はλ=0.450μm、図16B(a)〜(d)はλ=0.635μmの場合の結果を示している。図16A、16Bにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μmの条件である。境界幅w=0.5,1.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=1.5、2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが1.5μm以下の条件で得られることが分かる。
図17は第5の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図であり、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめている。図17において、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線17a、17Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線17b、17Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線17c、17Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線17d、17Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線17e、17Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。一方、視野角依存性で限定された範囲の一部(w=0.5〜1.5μm)で曲線17a、17Aは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。d=2.1μmまではw=1.5μmの近傍で優位性を保っているが、これ以上大きくするとw=0.0〜1.5μmの全領域で劣化するので、dの上限値は3μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜3μmが推奨値である。第1の実施形態と同様、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、2λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜1μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.4μmから2.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図17の範囲では現れていない)、w≦0.4μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図17において曲線17b,17B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.334、η2=0.145であり、τ=0.88とすると、0.540の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.311、η2=0.166であり、0.586の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.6μm条件では、本実施形態の発光装置は図28(a)に示される発光装置の1.97倍、w=1.0の条件では2.14倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
なお、一般に縮小露光技術ではアライメント精度(2つのパターンの位置合わせ精度)をパターニング精度(パターニング可能な最小パターン寸法)の数分の1のレベルにすることができる。従って、本実施例は境界幅2wのサイズをパターンニングすれば、2回のプロセスの後では境界幅wの構造を形成できるもので、微細パターン形成という技術的なハードルを低くできるメリットもある。
(第6の実施形態)
第6の実施形態を図18から図20に基づいて説明する。なお第6の実施形態は表面構造13のパターンが第1の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図18は第6の実施形態における表面構造13のパターン図を示している。表面構造13は透明基板5の表面を幅w(境界幅と呼ぶ)の碁盤の目(正方形の微小領域δ)に隙間なく分割し、一つ一つの目が凸(微小領域δ1、黒の目)であるか、この凸に対して相対的に凹(微小領域δ2、白の目)であるかが決められ、凸になる比率Pを50%としたのが図18(a)、90%としたのが図18(b)である。即ち、それぞれ一つの微小領域δは別の複数の微小領域δによって隣接されているとともに囲繞されており、微小領域δ1は微小領域δ2よりも透明基板5の表面の上方へdだけ突き出している。本実施形態では、微小領域δは正方形であるが、微小領域δに内接する最大の円の直径が0.2μm以上3μm以下であれば、他の形状であってもよい。
図19A、19B、19Cは第6の実施形態における表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を示す説明図であり、段差d=0.6μmとし、波長λと境界幅wをパラメータにして示している。図19A(a)〜(d)は比率P=50%、図19B(a)〜(d)は比率P=70%、図19C(a)〜(f)は比率P=90%の場合の結果を示している。図19A、19B、19Cにおいて、(a)はw=0.5μm、(b)はw=1.0μm、(c)はw=1.5μm、(d)はw=2.0μm、(e)はw=3.0μm、(f)はw=4.0μmの条件である。比率P=50%の場合、境界幅w=0.5,1.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=1.5、2.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが1.5μm以下の条件で得られることが分かる。比率P=70%の場合、境界幅w=0.5〜2.0μmでは実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。wを大きくし、w=3.0、4.0μmになると面法線方向の近傍での偏角に対する強度変動が大きくなる。従って、偏角に対する強度変動が緩やかな視野角依存性は境界幅wが3.0μm以下の条件で得られることが分かる。一方、比率P=90%の場合、境界幅w=0.5〜4.0μmまで実線、破線とも偏角(緯度)に対しなめらかな強度変動(即ち視差に伴う強度差が少ないこと)を示す。従って、P=90%での境界幅wの上限値は4.0μmと推定できる。P=50%の場合、w=1.5μmであり、P=70%の場合、w=3.0μmであり、P=90%の場合、w=4.0μmであるから、これらの関係から、境界幅の上限値wは比率Pを用いて、w=6×P2の関係で近似できる。
図20(a)、(b)は第6の実施形態における表面構造13の光取り出し効率を示す説明図である。図20(a)は表面構造13の段差d=0.6μmとして、他は図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおいてまとめており、比率P=50%、90%の場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線19a、19AはそれぞれP=0.5での1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線19b、19BはそれぞれP=0.9での1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。
図20(b)は比率P=50%として、図5(c)におけるものと同じ条件の下、横軸に表面構造13の境界幅wをおき、表面構造13の段差d=0.7μmに加え、d=0.3,0.9,1.4,2.1μmの場合の光取り出し効率(1回目の光取り出し効率η1)、更には透明電極4での吸収や電極2での反射損など、往復における光減衰はないとして、表面構造13で反射し、電極2を反射した後、再び表面構造13に入射する場合の光取り出し効率(2回目の光取り出し効率η2)も示している。曲線20a、20Aはそれぞれd=0.3μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線20b、20Bはそれぞれd=0.7μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線20c、20Cはそれぞれd=0.9μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線20d、20Dはそれぞれd=1.4μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率、曲線20e、20Eはそれぞれd=2.1μmでの1回目、及び2回目の光取り出し効率である。いずれの曲線も境界幅wが0.2μm以下で大きく劣化するので、境界幅wの下限値は0.2μm程度と見てよい。
一方、dを大きくしていくと1回目の光取り出し効率はwの小さい領域で劣化し、その極大点がwの大きい側にシフトしていく。視野角依存性で限定された範囲内(w=0.5〜1.5μm)で見ると曲線20e、20Eは他の深さに比べ光取り出し効率が小さくなるので、dの上限値は2.1μm程度と見てよい。また、曲線20aもw>0.8μmの範囲で他の深さに比べ光取り出し効率が下がり、段差d=0.3μmは劣化の始まりといえるので、dの下限値は0.2μm程度と見てよい。従って、深さdの範囲は0.2〜1.4μmが推奨値である。第1の実施形態と同様の理由から、透明基板5の屈折率n1、空気6の屈折率n0、光のスペクトルの中心波長λを用いて上述の深さdの推奨値を表わすと、λ/(n1−n0)≧d≧λ/6(n1−n0)となる。
d≦0.9μmの場合、1回目の光取り出し効率はいずれも境界幅wが0.2〜2μmで極大になり、wを小さく、または大きくしていくと0.27(いわゆる(式3)で与えられる値で表面が鏡面とした場合の光取り出し効率)に漸近する。2回目の光取り出し効率はいずれもw=0.2μmから8.0μmの間で極大値をなし、wを大きくしていくと0.0に漸近し(図20の範囲では現れていない)、w≦0.2μmではwが小さくなるに従って0.0に収束する。
図20(b)において曲線20b,20B(d=0.7μm)で見てみると、w=0.6μmの時、η1=0.318、η2=0.093であり、τ=0.88とすると、0.428の光取り出し効率が得られる。w=1.0μmの時には、η1=0.319、η2=0.102であり、0.469の光取り出し効率が得られる。一方、図26、図28(a)に示される従来の発光装置は、η1=0.274、η2=0であり、2回目以降は全てゼロとなり、合計で0.274である。従って、w=0.6μm条件では、本実施形態の発光装置は図28(a)に示される発光装置の1.56倍、w=1.0の条件では1.71倍の光取り出し効率を実現できることが分かる。
(第7の実施形態)
第7の実施形態を図21に基づいて説明する。なお第7の実施形態は表面構造のパターンが第1から第6の実施形態と違うだけで、他の構成は全て第1から第6の実施形態と同じであり、共通の構成についてはその説明を省略する。
図21(a)、(b)は本実施形態における第1、2、4、5の表面構造33の1回目のプロセスで形成されるパターン図、または本実施形態における第3、5の表面構造33の2回目のプロセスで形成されるパターン図、または第6の表面構造33のパターン図を示している。図21(a)では、表面構造23は透明基板5の表面を一辺の長さwの正三角形(微小領域δ)に分割し、一つ一つの微小領域δが凸(図中の23a(微小領域δ1)、灰色の図形)であるかの比率P、凹(図中の23b(微小領域δ2)、白の図形)であるかの比率1−Pを各50%として凸と凹とをランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。一方、図21(b)では、透明基板5の表面を一辺の長さwの正六角形(微小領域δ)に分割し、一つ一つの図形が凸(図中の33a(微小領域δ1)、灰色の図形)であるかの比率P、凹(図中の33b(微小領域δ2)、白の図形)であるかの比率1−Pを各50%として凸と凹とをランダムに割り当てたものである(比率Pは50%以外でもよい)。第1から第6の実施形態では方形を基本としたパターン形成ルールであったが、第7の実施形態は多角形を基本としたパターン形成ルールに置き換わっている。この実施例では第3、4の実施形態で現れる市松模様(チェッカーパターン)も図21(c)、(d)に示すような多角形の規則パターン(凸になる目に規則性を持たせたパターン)に置き換わる。また、第1、2の実施形態で現れる2回目のプロセスでのエッチングパターンは境界線に沿った領域で行われたが、本実施例でも同じルールに従う。
第7の実施形態は1回目のプロセスで形成される表面構造23,33のパターン形状が第1から第6の実施形態とは異なるだけで、2つのプロセスを経て得られた構造では第1の実施形態と同じ原理が作用し、同一の効果が得られる(第6の実施形態では1回目のプロセスのみ)。また、正三角形や正六角形に限らず、同じ図形で隙間なく面分割ができるのであれば、任意の多角形であってもよく、その図形の大きさを一般的に表現すれば、その図形に内接する円の最大のものの直径が0.2μm以上3μm以下であることが条件となる。
なお、第1から第7の実施形態では、実際の加工体での表面構造13,23,33が厳密には正方形や正三角形、正六角形にはならず角の部分が丸まったり角が丸まった微小領域の隣の微小領域の角がその分変形したりするが、特性の劣化はなく同一の効果が得られることは言うまでもない。
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本発明の例示であって、本発明はこれらの例に限定されない。以上の実施形態において、表面構造の凸部分の表面に垂直な断面形状は矩形形状に限らず、台形や円錐形状となってもよく、凸部分の斜面が曲線になってもよい。
また、透明基板5の厚さが大きい場合、光の出射位置は光取り出しの回数が増すごとに発光点Sの位置から離れてくる。この場合、ディスプレイ用のELの様に300μm程度の画素ごとに区切られた構成では、光が隣の画素に紛れ込み、画質の劣化につながる。従って、図22(a)に示すように、表面構造13の形成された透明基板5は数μm程度に薄く構成し、その上に空気層を挟んで0.2mmから0.5mm程度の保護基板14で覆う構成が考えられる。保護基板の表面14a、裏面14bでは全反射は発生しないが、ARコートの必要はある。このとき表面構造13の上には空気層の代わりにエアロゲル等の低屈折率で透明な材料を用いてもよく、このとき一体構成になるため装置としての安定性が高い。
更に、以上の実施形態では、一つの面だけに表面構造13を形成したが、透明基板5の両面に同じような構造を形成することができる。また表面構造13と発光点Sの間に一般の回折格子13’を配置してもよい。この時図22(b)に示すように、透明基板5をフィルム形状にし、表面に表面構造13、裏面に回折格子13’や別仕様の表面構造13”を形成し、発光体側に接着層21を介して接着させる構造が考えられる。透明基板5の屈折率が小さく、発光層3との屈折率差が0.1以上ある場合には、接着層21の材料を発光層3の屈折率より0.1だけ小さいかそれ以上になるように選ぶと接着層21と発光層3との恭敬面での全反射はほとんど生じないとともに、接着層21と透明基板5の間の屈折面、及び透明基板5と空気6の間の屈折面で発生する全反射を、それぞれ表面構造13”(または回折格子13’)、及び表面構造13で回避できる。なお、回折格子13’や表面構造13”の凹部の深さまたは凸部の高さは凹部での透過光と凸部での透過光にπだけ位相差が発生する条件が好ましいが、これよりも凹の深さや凸の高さが小さい条件であってもよい。
なお参考として、図23(a)に表面構造が市松模様(チェッカー形状)をなすパターン図を示している。図23(a)において、表面構造は透明基板5の表面を一辺の長さwの正方形に分割し、灰色の正方形13aと白の正方形13bがチェッカーパターンを形成し、灰色が凸となり、相対的に白が凹の形状をなす。
図23(b)は図5(a)におけるものと同じ条件の下で、凹凸の段差d=0.70μmとして図23(a)に示した表面構造の透過率tの入射角依存性を示す説明図であり、透明基板5内で光量1の光が表面構造に角θ(屈折面法線となす角)で入射し、1回目でどれだけが空気6側に出射するかを幅wをパラメータ(w=0.1、0.2、0.4、1.0、2.0、4.0μm)にして示している。図23(b)をランダムパターンの特性である図3(a)と比べると、w=0.1、0.2μm(いわゆる回折光が発生しないナノ構造の領域)の曲線を除いて細かいうねりが存在することが分かる。これはチェッカーパターンによる回折で空気層側に回折光が発生したり消滅したりするためで、方位によって光強度に分布があることを示しており、周期パターン固有の問題である。
図24(a),(b)に、チェッカーパターンの表面構造から出射する1回目の取り出し光の視野角依存性の解析結果を付記している。段差d=0.7μm、境界幅w=0.5μmとし、(a)はλ=0.450μm、(b)はλ=0.635μmの条件である。実線(0度、90度の経度方位)、破線(45度、135度の経度方位)とも偏角に対する変動が大きく、両者の乖離も大きいうえ、波長によって形状が大きく変化することが分かる。方位による光強度の分布や色のアンバランスが発生することは、特許文献1に記載された発光装置同様、周期パターンにおける致命的な欠点である。これらの課題は第1から7の実施形態では全て克服できている。
境界回折効果は光の位相の不連続な部分を一定間隔以上隔てた場合に発生するので、この効果を極大化させるためには、限られた面積内で位相の不連続な部分の出現比率を極大化させることが必要になる。屈折面を無数の微小領域で分割し、微小領域同士の境界で位相が不連続になるとすると、2つの条件により前述の出現比率の極大化がなされる。一つ目の条件は各微小領域の面積ができるだけ一つに揃うこと、2つ目の条件は隣り合う微小領域間にも位相差が存在することである。すなわち、微小領域の内に他のものより大きい面積のものがあれば、この大きな面積を分割した方が位相不連続の境界が増える。反対に微小領域の内に他のものより小さい面積のものがあるとすれば、これは他のものより大きい面積のものが存在することになり、この大きな面積を分割した方が位相不連続の境界が増える。この延長線として、各微小領域の面積ができるだけ一つに揃い、少なくとも各微小領域の面積がある基準面積に対し例えば0.5〜1.5倍の範囲(微小領域に内接する円のうち最大のものの直径が、基準になる直径に対し0.7〜1.3倍の範囲)に入ることが微小領域間の境界線の出現比率を極大化することになる。第1から第7の実施形態は全てこの条件に従っている。また微小領域への分割を極大化することができても、隣り合う微小領域同士で位相が揃えば効果が薄くなる。従って隣り合う微小領域間にも位相差の存在、すなわちランダムな位相の割り当てが必要である。第1から第5の実施形態はこの条件に従っており、境界回折効果を極大化させた構造になっている。
なお、第1から7の実施形態における表面形状は磨りガラスや面粗し等の表面状態や特許文献2に記載された発光装置で示された表面状態とは異なる。第1から7までの実施形態の1回目または2回目のプロセスでは、表面を幅wの碁盤の目(または多角形の目)に分割し、一つ一つの目に凸と凹をP:1−Pで割り当てたもので、このパターンには固有の幅wというスケールと固有の微小領域の形状とが存在し、凸部の総面積と凹部の総面積の比率もP:1−Pの関係に収まっている。これに対し、磨りガラスや面粗し等の表面状態は固有の幅wが存在せず微小領域の形状は不定形であり、凸部の総面積と凹部の総面積の比率もP:1−Pの関係になる訳ではない。このように、上記実施形態における表面形状は、完全にランダムなパターンではなく、ある規則に沿ったランダムパターンと言える。
完全にランダムなパターンとの違いをもう少し考察してみる。図25(a)に示すように、幅4wのテーブル16の上に幅wのカード17を8枚ランダムに並べる。即ち8枚のカード17の総面積はテーブル16の面積の1/2である。ただし、カード17はテーブル16をはみ出さないとする。図25(b)はカード17の重なりを許して配列している。図25(c)はカード17の重なりを許さずに配列している。図25(b)ではカード17が重なった分だけ、カードの面積総和がテーブル面積の1/2より小さくなる。図25(c)では面積比1/2を維持するものの、カード間にwよりも小さい微小な隙間jが発生し、これは図25(b)でも同じである。微小な隙間jが発生しその頻度が大きくなると、jを新たな境界幅と見ることができ、図5(c)からわかるようにj<0.2μmの条件で光取り出し効率が大きく劣化する。
上記の実施形態で用いたランダムパターンの生成原理は図25のものとは異なる。上記の実施形態では面積比はある比率に保たれ微小間隔j等の、幅wより小さいスケールは発生することはない。このように、上記実施形態における表面形状は、完全なランダムなパターンではなく、光取り出し効率を極大化するための規則に沿ったランダムパターンと言える。
また、第1から7の実施形態における表面形状が引き起こす現象は回折現象の一つである。図30で示したように、回折現象では表面形状を平均する平坦な基準面に対し仮想的に屈折する光線を0次回折光(全反射の場合には表れない)とし、この光を方位の基準としてシフトした方位に高次の回折光が発生する。本願のようなランダムな表面形状では0次以外の回折光の伝播方位がランダムになる。これに対し磨りガラスや面粗しは回折現象ではなく屈折現象を利用しており、デコボコした屈折面においてその面法線の方位がランダムになることで屈折の方位もランダムになっているだけである。すなわち、平行平板の上に第1から7の実施形態における表面形状を形成し、透かして見ると反対側の像の輪郭がはっきりと見える。これは表面形状で回折分離する光の中に0次回折光が必ず存在し、この光が反対側の像の輪郭を維持させている。これに対し、磨りガラスや面粗しでは0次回折光に相当する光が存在せず、透かして見ると反対側の像の輪郭がぼやけたものになる。特許文献2では表面の突起物により光が「素直に空気中に放射される」の表現があるだけで回折という表現がなく、「素直」という言葉をスネルの法則(屈折の法則)に従うと解釈できる。このため、特許文献2の構造は、磨りガラスや面粗しと同じ部類に入る構造であると理解でき、本願発明とは別のものであると言うことができる。
ちなみに、特許文献2に開示された技術の特徴は、透明絶縁基板の上に複数の透明な突起物を完全にランダムに配置することにあり、本願のように凸部と凹部とを同じ形状の微小領域の一つ以上の集合体とするという特徴は記載も示唆もされていない。このような特徴により、本願では凸部と凸部、または凹部と凹部を一定間隔隔てることができ、境界回折の効果を引き出すことができているが、特許文献2に記載された発光装置ではそうはならない。このような例示的な実施形態の特徴により顕著な光取り出し効果を奏することは本願発明者らが初めて見出したものであり、特許文献2には上記実施形態のような顕著な効果は記載されていない。特許文献2に記載された発光装置では単位面積当たり5000〜106個/mm2の数で幅0.4〜20μmの突起物が完全なランダムな配置で与えられており、形式的には上記実施形態の発光装置の一部がこの発光装置の中に含有される形にはなるが、突起物とそれ以外の部分との形状の関係、更にはそのような関係が存在して初めて奏される効果が記載も示唆もない以上、実質的には上記の実施形態は特許文献2に開示された技術には含まれず、特許文献2に開示された発明と本願発明とは全く別のものであると言うことができる。
なお、第1から7の実施形態では凹凸形状で光の位相をシフトさせた。位相のシフトは凹凸形状以外でも実現でき、例えば凹部に対応した領域と凸部に対応した領域で多層膜の厚みや屈折率条件を変えることでも可能である。この場合でも、上記実施形態と同じ効果が得られることは言うまでもない。また、第1から7の実施形態はそれぞれ独立して成り立つのではなく、それぞれの一部を組み合わせて、新たな実施例とすることも考えられる。また、第1から7の実施形態では有機エレクトロルミネセンス素子を例にとって説明したが、屈折率が1より大きい媒質内で発光する素子であれば全てに適用できる。例えば、LEDや導光板などへの適用も可能である。更に、発光装置が光を出射する媒質は空気に限定されない。上記実施形態の表面構造は、透明基板の屈折率が、透明基板が接している媒質の屈折率より大きい、特に0.1以上大きい場合に適用できる。
以上説明したように、本発明に係る発光装置は、光の取り出し効率を大幅に向上させる上、出射光の視野角特性も良好なので、ディスプレイや光源等として有用である。
1 基板
2 電極
3 発光層
4 透明電極
5 透明基板
6 空気
13 表面構造
S 発光点