上記先行例の回折光学素子は、位相格子部分の断面が何れも矩形波形状、三角波形状、台形波形状あるいは正弦波形状のものであり、位相差部分を2次元的に多値化したバイナリー光学素子ではない。
本発明は従来技術のこのような状況の下になされたものであり、その目的は、2次元的に多値化した微細な周期構造を持つ光ビーム分割素子や光学ローパスフィルター等として使用可能な回折光学素子を提供することである。
上記目的を達成する本発明の回折光学素子は、透明基板表面が直交する2方向に整列して同一形状の微細な長方形領域に分割されており、何れか1方向に行端を揃えて複数の行が並んでいるものとして、透明基板表面に垂直に入射する基準波長光に対して、奇数番目の行の中の奇数番目の長方形領域は位相2pπを与えるように構成され、偶数番目の長方形領域は位相{(4q+1)π/2+δπ/2}を与えるように構成され、偶数番目の行の中の奇数番目の長方形領域は位相{(4r+3)π/2+3δπ/2}を与えるように構成され、偶数番目の長方形領域は位相{(4s+2)π/2+δπ}を与えるように構成されている(だだし、−0.25≦δ≦0.25,p,q,r,s:整数)ことを特徴とするものである。
この場合に、長方形領域は同一形状の正方形領域からなっていることが望ましい。
本発明のもう1つの回折光学素子は、透明基板表面が直交する2方向に整列して同一形状の微細な長方形領域に分割されており、何れか1方向に行端を揃えて複数の行が並んでいるものとして、透明基板表面に垂直に入射する基準波長光に対して、奇数番目の行の中の奇数番目の長方形領域は位相2pπを与えるように構成され、偶数番目の長方形領域は位相{(4q+1)π/2+δπ/2}を与えるように構成され、偶数番目の行の中の奇数番目の長方形領域は位相{(4r+3)π/2+3δπ/2}を与えるように構成され、偶数番目の長方形領域は位相{(4s+2)π/2+δπ}を与えるように構成されている(だだし、−0.25≦δ≦0.25,p,q,r,s:整数)回折光学素子において、
何れの長方形領域も、行方向及び列方向において隣接する長方形領域との間の辺を中心に頂点の位置を変えずにそれぞれの辺に直交する両方向に割り込んでなる中間領域が設定され、何れの長方形領域も最早長方形から中間領域の割り込み分変形され、各中間領域には、その両側の領域の位相を0〜2πの値に換算した値の略中間の値又はその値に2πの整数倍を加えた値の位相が与えられ、ただし、その両側の領域の位相を0〜2πの値に換算した値の差がπを越える場合は、その両側の領域の位相を0〜2πの値に換算した値の略中間の値又はその値に2πの整数倍を加えた値にさらにπを加えた値の位相が与えられてなることを特徴とするものである。
この場合に、中間領域の割り込み分変形される前の長方形領域が同一形状の正方形領域からなることが望ましい。
また、中間領域の境界線は滑らかな曲線からなることが望ましく、例えば、正弦波曲線からなる。
本発明の回折光学素子は、透明基板に略垂直に入射する光束を4本又は5本の光束に分割する光束分割素子として使用可能であり、また、相互にずれた4枚又は5枚の同一画像を重畳して撮像面に入射させる光学ローパスフィルターとして使用可能である。
本発明は、以上のような回折光学素子の製造方法であって、フォトエッチングにより基板に2のn乗(n:2以上の自然数)の段数の凹凸を形成して凹凸型を得た後、前記凹凸型を用いて樹脂層に型付けを行い、前記樹脂層の表面に回折光学素子の凹凸を形成することを特徴とする方法を含むものである。前記の2のn乗の段数は、通常各段差を等しく設定する。
本発明により、回折光学素子の位相変調量を2次元的に4値又は8値とすることで、不要な高次回折光を減少させることができると共に、分割される光束あるいは像の形成に寄与する光束の回折効率を向上させることができる。また、このような位相変調量が4値又は8値の回折光学素子を例えばデジタルカメラ用の光学ローパスフィルターとして用いると、画像上に重畳されるノイズ光や偽像をより少なくすることができる。さらには、本発明により、従来の水晶製の光学ローパスフィルターに比べてより薄型の光学ローパスフィルターを構成することが可能となる。
以下に、まず、本発明の回折光学素子の基礎原理を説明する。
図1に、特願2003−311036号で提案された本発明の回折光学素子の基礎になる2次元的に2値化した微細な周期構造を持つ回折光学素子10の平面図(a)と斜視図(b)を示す。この回折光学素子10は、透明基板1の表面に直交する2軸x、yを設定すると、x軸、y軸両方向に整列して同一形状の微細な正方形領域2、3が碁盤の目状に分割配置されており、透明基板1に垂直に入射する基準波長λ0 の光に対して位相0を与える正方形領域2と位相πを与える正方形領域3が、x軸方向、y軸方向それぞれに交互に配置されている。そして、x軸とy軸の間の45°、135°に設定される相互に直交する対角方向をX軸、Y軸とすると、X軸、Y軸両方向に、位相0を与える正方形領域2と位相πを与える正方形領域3が整列するように、これら正方形領域2と3が配置されている。すなわち、正方形領域2と3の配置はいわゆる市松模様を構成している。そして、x軸方向、y軸方向の正方形領域2又は3の繰り返しピッチをΛとすると、対角方向のX軸方向、Y軸方向の正方形領域2又は3の繰り返しピッチはΛ/√2となる。例えばΛ=4μmの場合、対角方向(X軸、Y軸方向)の繰り返しピッチはΛ/√2=4/√2μm=2√2μmとなる。また、基準波長λ0 =800nmとしている。
このような構成の回折光学素子10に透明基板1に垂直に基準波長λ0 の光20を入射させると、図2に示すように、反対側に4本の回折光21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y が射出する。ただし、回折方向は直交する2軸のx軸、y軸方向ではなく、直交する対角方向のX軸方向、Y軸方向であり、それぞれの方向の+1次光21+1X 、21+1Y 、−1次光21-1X 、21-1Y である。回折光学素子10の透明基板1の法線に対する回折角θは、これらの4本の回折光21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y に対して、回折の式から、θ=arcsin{λ0 /(Λ/√2)}の関係にあり、上記の数値例の場合でλ0 =0.8μmの場合は、θ=16.43°となる。ただし、X軸方向、Y軸方向何れも+1次光と−1次光は当然ながらθの符号は反対である。
このように直交する対角方向X軸方向、Y軸方向に回折光が出る理由は、位相0を与える正方形領域2及び位相πを与える正方形領域3をそれぞれ連続的に繋いだ直線状領域(1次元位相回折格子)が対角方向であるX軸方向とY軸方向に繰り返しているからであると考えられる。また、0次回折光が出ないのは、回折光学素子10全面で位相0を与える正方形領域2の面積と位相πを与える正方形領域3の面積が等しく、回折光学素子10から離れた遠方位置では、正方形領域2を回折されずに透過した成分と正方形領域3を回折されずに透過した成分とが相互に相殺するためである。また、奇数次の高次光も若干回折するが(偶数次の回折光はない。)、次の表1に示すように、これらの回折光は+1次光21+1X 、21+1Y 、−1次光21-1X 、21-1Y に対して相対的に弱いので、通常の使用状態では無視し得る。
以上に述べた位相変調量が2値の回折光学素子10の各回折次数の強度を次の表1に示す。表1で、横軸をX軸方向、縦軸をY軸方向とし、それぞれの数字は次数を表すとする。基準波長λ0 =532nmとし、使用波長λも同じ532nmとしている。上記の4本の回折光21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y は、それぞれ(+1,0)次、(−1,0)次、(0,+1)次、(0,−1)次に対応し、入射光20の強度を100%とすると、16.4%となる(表中の“E−0n”(nは0又は正の整数)は×10-nを意味する。以下、同じ。)。この表1から、+1次光21+1X 、21+1Y 、−1次光21-1X 、21-1Y の回折効率は65.6%、それ以外の次数の回折光(ノイズ光)の回折効率は34.4%で、SN比は1.94となる。
図1のような構成の回折光学素子10は、入射光20を4本の回折光21
+1X 、21
-1X 、21
+1Y 、21
-1Y に均等に分割する光束分割素子として使用可能であり、また、正方形領域3が与える位相をπから若干ずらすことにより、0次回折光の強度が+1次光21
+1X 、21
+1Y 、−1次光21
-1X 、21
-1Y と略同じにすることができ、入射光20を5本の光束に略均等に分割する光束分割素子としても使用可能である。このような光束分割素子は、例えば、同心円又は渦巻き状のトラックに沿って情報が記録されている光記録媒体の読み取りヘッドのトラッキング制御のために、あるいは、同心円又は渦巻き状のトラックに沿って情報が記録されている光記録媒体の読み取りヘッドのトラッキング位置センサー信号発生のために用いることができる(詳細は、特願2003−311036号参照)。
また、このように、入射光20を4本又は5本の光束に略均等に分割する光束分割素子は、CCDアレイやCMOSアレイ等に代表される離散的画素構造を有する固体撮像素子を用いた撮像光学装置の光学ローパスフィルターとして使用できる。図3(a)に側面図、(b)に撮像面で光束の分離の様子を示すように、図示しない結像光学系(対物光学系)によってCCD11の撮像面12に結像するように変換された光線20は、結像光学系とCCD11の撮像面12の間に配置された光学ローパスフィルターを構成する回折光学素子10を通り、CCD11の撮像面12でx軸方向及びy軸方向の分離距離がδの4本の結像光線21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y に分離されて入射する。そして、各結像光線21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y は各々CCD11の撮像面12に被写体の像を結像するので、結局撮像面12には同じ画像であってx軸方向及びy軸方向に距離δだけ相互にずれた4枚の画像が重畳して結像することになる。そのため、撮像面12に重畳して結像される画像はボケて空間周波数の高周波成分が取り除かれた画像となる(特許文献9)。
1つの具体例としては、CCD11のx軸方向及びy軸方向の画素ピッチが3.00μmの場合に、上記ずれ距離δは典型的には同じ3.00μmに選ばれる(もちろん、それより小さくてもよい。)。回折光学素子(光学ローパスフィルター)10の裏面(撮像面12側)に屈折率1.50で厚さ0.5mmのガラス板13が配置され、そのガラス板13の裏面から撮像面12までの距離を1.0mm、波長λ=532nmとすると、このようなずれ距離δを得るには、前記回折角θは0.09116°であり、回折光学素子(光学ローパスフィルター)10のX軸方向、Y軸方向の正方形領域2又は3の繰り返しピッチΛ/√2は334.4μm、x軸方向、y軸方向の正方形領域2又は3の繰り返しピッチΛは472.9μmとなる。
以上は、入射光20を4本の光束に略均等に分割する回折光学素子10を光学ローパスフィルターとして用いるものとしているが、5本の光束に略均等に分割する回折光学素子10でも同様に光学ローパスフィルターとして用いることができる。
さて、図1に示したような位相変調量が0とπの2値からなる光束分割素子は、前記したように、有効な光束21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y 全体の回折効率は65.6%程度で、不要なノイズ光の回折効率が34.4%程度と比較的高い。
そこで、本発明においては、図1のような位相変調量が2値の回折光学素子10を4値以上の位相変調量のものに変形してより高い回折効率のものにすることを考える。
図4(a)は、図1のような基準波長λ0 の光に対して位相0を与える正方形領域2と位相πを与える正方形領域3とがいわゆる市松模様を構成している回折光学素子10を、正方形領域2、3の対角方向が横方向(X軸方向)と縦方向(Y軸方向)に向くように配置した場合の平面図であり、同図(b)に示すような基本パターンを縦横に4×4配置して構成したものであり、その基本パターンは同図(c)に示すような位相分布をしている。
このような構成において、位相0を与える正方形領域2及び位相πを与える正方形領域3をそれぞれ横方向(X軸方向)に連続的に繋いだ直線状領域4及び5は同じ幅(L/2)で縦方向に交互に並び、また、位相0を与える正方形領域2及び位相πを与える正方形領域3をそれぞれ縦方向(Y軸方向)に連続的に繋いだ直線状領域4’及び5’は同じ幅(L/2)で横方向に交互に並ぶことになる。ここで、図1との関連で、L=Λ/√2としている。直線状領域4及び5は格子が横に向く1次元位相回折格子を、直線状領域4’及び5’は格子が縦に向く1次元位相回折格子を構成していると考えられる。位相0を与える直線状領域4と直線状領域4’の交差する領域は、正方形領域2中の対角線が相互に45°傾いたより小さな正方形領域31を構成し、位相πを与える直線状領域5と直線状領域5’の交差する領域は、正方形領域3中の対角線が相互に45°傾いたより小さな正方形領域32を構成する。位相変調量が2値のものを4値のものに変更するとき、この正方形領域31と32はそれぞれ元の位相が0の領域2と位相がπの領域3に全て重なるので、それぞれ位相0と位相πとして残すものとする。
一方、例えば横に伸びる直線状領域4に沿って考えるとき、正方形領域31と隣の正方形領域31の間に同様の大きさの正方形領域33が存在する。この領域は、元の位相が0の領域2と位相がπの領域3が均等に混在する領域であり、かつ、両側に位相が0の正方形領域31に隣接するので、位相をπ/2(=2π/4)を割り当てるのが素直である。横に伸びる直線状領域4の正方形領域31の間の正方形領域33に位相π/2(=2π/4)を割り当てるとすると、縦に伸びる直線状領域4’の正方形領域31の間の正方形領域34にも位相π/2(=2π/4)を割り当てるのが合理的なように考えられる。しかし、この領域にもπ/2(=2π/4)を割り当てると、回折光学素子10全面で位相π/2(=2π/4)を与える領域の面積が全体の半分になり、回折光学素子10から離れた遠方位置では、この位相π/2(=2π/4)を与える領域を回折されずに透過した成分を打ち消す成分を透過させる領域がない。そこで、工夫を施す。縦に伸びる直線状領域4’の正方形領域31の間の正方形領域34にかかる位相0の正方形領域2の位相0は2πと等価である。したがって、正方形領域34での位相の平均値は(π+2π)/2=3π/2となる。この3π/2を正方形領域34に割り当てる。縦に伸びる直線状領域4’に沿って位相0の領域31と位相3π/2の領域34が交互に並ぶと、位相のギャップが大きすぎるように見えるが、位相3π/2は位相−π/2と等価であるので、領域31と領域34の間の位相差はπ/2であり、横に伸びる直線状領域4の領域31と領域33の間の位相差π/2に等しいと言えるので、格別不合理はない。
なお、以上の検討から、正方形領域33に位相3π/2を割り当て、正方形領域34に位相π/2を割り当てるようにしても同じである。
以上のような正方形領域31〜34の区分とそれら正方形領域31〜34への位相割り当てを行った位相変調量が4値の回折光学素子10の平面図(a)と、その基本パターン(b)と、その基本パターンの位相分布(c)を図5に示す。図5(a)の回折光学素子10は、同図(b)に示す基本パターンを縦横に4×4配置して構成したものである。この位相変調量が4値の回折光学素子10の各回折次数の強度を次の表2に示す。表2で、横軸をX軸方向、縦軸をY軸方向とし、それぞれの数字は次数を表すとする。基準波長λ0 =532nmとし、使用波長も同じλ=532nmとしており、また、回折光学素子10のX軸方向、Y軸方向の正方形領域31〜34の繰り返しピッチL=334.4μmとしている。図1の4本の回折光21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y は、それぞれ(+1,0)次、(−1,0)次、(0,+1)次、(0,−1)次に対応し、入射光20の強度を100%とすると、20.3%となる。この表2から、+1次光21+1X 、21+1Y 、−1次光21-1X 、21-1Y の回折効率は81.2%、それ以外の次数の回折光(ノイズ光)の回折効率は18.8%で、SN比は4.32となる。
この結果から、図1のような位相変調量が2値の回折光学素子10を、本発明に基づいて図5のように位相変調量が4値の回折光学素子10とすることにより、分割する有効な4本の光束21
+1X 、21
-1X 、21
+1Y 、21
-1Y の回折効率をより上げ、不要なノイズ光を減らせることが分かる。したがって、このような位相変調量が4値の回折光学素子10を図3に示したような撮像光学装置の光学ローパスフィルターとして使用することにより、高周波成分をより効果的にカットして画質を低下させずに不要なノイズを取り除けるようになる。また、2値の場合と同様に、また、正方形領域32〜34の位相をそれぞれπ、π/2(又は3π/2)、3π/2(又はπ/2)から若干ずらすことにより、0次回折光の強度が+1次光21
+1X 、21
+1Y 、−1次光21
-1X 、21
-1Y と略同じにすることができ、入射光20を5本の光束に略均等に分割する光束分割素子としても使用可能となる。
さて、次に、以上のようにして位相変調量を4値化した図5のようなの回折光学素子10を8値化してさらに高い回折効率のものにすることを考える。図6(a)に、図5の4値化した回折光学素子10の基本パターンを示す。この基本パターンを用いて8値化する方法を説明する。例えば4値化した回折光学素子10において、正方形領域31〜34の間には、相互に位相差がπ/2又は3π/2だけ異なる4種類の辺がある。具体的には、正方形領域31の左右(X軸方向)で接する正方形領域33との間の辺と、正方形領域31の上下(Y軸方向)で接する正方形領域34との間の辺と、正方形領域32の左右(X軸方向)で接する正方形領域34との間の辺と、正方形領域32の上下(Y軸方向)で接する正方形領域33との間の辺の4種類である。図6(b)に示すように、それらの辺を中心に、辺が横向きの場合上下の領域それぞれ均等に高さa/Lの三角形の形で割り込んで、また、辺が縦向きの場合左右の領域それぞれ均等に高さa/Lの三角形の形で割り込んで、隣接する位相差の間の位相を持つ領域41〜44を設定する。すなわち、領域31と領域33の間に、位相が領域31と33の中間のπ/4の領域41を、領域33と領域32の間に、位相が領域33と32の中間の3π/4の領域42を、領域32と領域34の間に、位相が領域32と34の中間の5π/4の領域43を設定する。領域34と領域31の間に、図4で領域34に位相3π/2を割り当てたのと同様の理由で、領域31の位相を2πと等価とし、この位相と領域34の位相との中間の7π/4の領域44を設定する。なお、このような領域41〜44を領域31〜34の間に設定すると、領域31〜34は最早正方形の形状はしていない。
このような中間領域41〜44を設定して4値化した場合の正方形領域31〜34への割り込み高さをa/L(Lは基本パターンのX軸方向、Y軸方向への繰り返しピッチ)とし、そのaを変数として4本の回折光21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y それぞれの回折効率を調べると、図7のような結果が得られた。この結果から、aが1/32≦a≦5/32(0.03125≦a≦0.15625)の間にある場合に、位相変調量が4値の図5の回折光学素子10より回折効率が高いものを得られることが分かる。より望ましくは、1/16≦a≦1/8(0.0625≦a≦0.125)の間にあることが好ましい。
ただし、図6の場合は、隣接する例えば領域31と領域42の境界線が滑らかな曲線でないので高次の回折が起こる可能性があるため、図8(a)に示すように、境界線を元の正方形領域31〜34各々の頂点(格子点)を通り振幅がa/Lの滑らかな正弦波で近似する。その場合の基本パターは図8(b)に示すようなる。ここで、a=9/128≒0.07に選ぶと、4本の回折光21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y それぞれの回折効率は22.1%と略最適化された。
以上のような2次元的に隣接する領域31、41、33、42、32、43、34、44間で相互に位相差π/4を持つように位相変調量を8値化した場合の回折光学素子10の平面図(a)と、その基本パターン(b)と、その基本パターンの位相分布(c)を図9に示す。図9(a)の回折光学素子10は、同図(b)に示す基本パターンを縦横に4×4配置して構成したものである。ただし、図8のように境界線を正弦波で近似し、a=9/128≒0.07としている。この位相変調量が8値の回折光学素子10の各回折次数の強度を次の表3に示す。表3で、横軸をX軸方向、縦軸をY軸方向とし、それぞれの数字は次数を表すとする。基準波長λ0 =532nmとし、使用波長も同じλ=532nmとしており、また、回折光学素子10のX軸方向、Y軸方向の領域31〜34、41〜44の繰り返しピッチL=334.4μmとしている。図1の4本の回折光21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y は、それぞれ(+1,0)次、(−1,0)次、(0,+1)次、(0,−1)次に対応し、入射光20の強度を100%とすると、22.1%となる。この表3から、+1次光21+1X 、21+1Y 、−1次光21-1X 、21-1Y の回折効率は88.4%、それ以外の次数の回折光(ノイズ光)の回折効率は11.6%で、SN比は7.62となる。
この結果から、本発明に基づいて、図1のような回折光学素子10を図9に示すように位相変調量が8値のものとすることにより、分割する有効な4本の光束21
+1X 、21
-1X 、21
+1Y 、21
-1Y の回折効率をさらに上げ、不要なノイズ光をさらに減らせることが分かる。したがって、このような位相変調量が8値の回折光学素子10を図3に示したような撮像光学装置の光学ローパスフィルターとして使用することにより、高周波成分をより効果的にカットして画質を低下させずに不要なノイズを確実に取り除けるようになる。また、2値、4値の場合と同様に、また、領域32〜34、41〜44の位相をそれぞれ4π/4、2π/4、6π/4、π/4、3π/4、5π/4、7π/4から若干ずらすことにより、0次回折光の強度が+1次光21
+1X 、21
+1Y 、−1次光21
-1X 、21
-1Y と略同じにすることができ、入射光20を5本の光束に略均等に分割する光束分割素子としても使用可能となる。
ところで、図5や図9の回折光学素子10において、X軸方向とY軸方向の繰り返しピッチは等しいものとしていたが、X軸方向とY軸方向の繰り返しピッチを異なるものとしても、入射光20を4本の回折光21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y あるいはそれに0次回折光を加えた5本の光束に略均等に分割することができる。その例を図5の構成を例にとり説明する。図10に示すように、位相変調量が4値の回折光学素子10の基本パターンのX軸方向の長さ(繰り返しピッチ)を334.4μmとし、Y軸方向の長さ(繰り返しピッチ)をその2倍の668.8μmとした場合の各回折次数の強度を次の表4に示す。表4で、横軸をX軸方向、縦軸をY軸方向とし、それぞれの数字は次数を表すとする。基準波長λ0 =532nmとし、使用波長も同じλ=532nmとしている。図1の4本の回折光21+1X 、21-1X 、21+1Y 、21-1Y は、それぞれ(+1,0)次、(−1,0)次、(0,+1)次、(0,−1)次に対応する。この表4から、回折効率、SN比共表2の場合と略同様になることが分かる。
以上において、回折光学素子10を表面に形成する透明基板1の屈折率をnとすると、位相0を与える領域31に対して位相πを与える領域32は厚さd
4/4 だけ厚く、2(n−1)d
4/4 /λ
0 =(2s+1)(s:整数)の関係を満足すればよく、sは必ずしも0である必要はない。また、同様に、位相π/2を与える領域33は厚さd
2/4 だけ厚く、2(n−1)d
2/4 /λ
0 =(2q+1/2)(q:整数)の関係を満足すればよく、位相3π/2を与える領域34は厚さd
6/4 だけ厚く、2(n−1)d
6/4 /λ
0 =(2r+3/2)(r:整数)の関係を満足すればよく、位相π/4を与える領域41は厚さd
1/4 だけ厚く、2(n−1)d
1/4 /λ
0 =(2e+1/4)(e:整数)の関係を満足すればよく、位相3π/4を与える領域42は厚さd
3/4 だけ厚く、2(n−1)d
3/4 /λ
0 =(2f+3/4)(f:整数)の関係を満足すればよく、位相5π/4を与える領域43は厚さd
5/4 だけ厚く、2(n−1)d
5/4 /λ
0 =(2g+5/4)(g:整数)の関係を満足すればよく、位相7π/4を与える領域44は厚さd
7/4 だけ厚く、2(n−1)d
7/4 /λ
0 =(2h+7/4)(h:整数)の関係を満足すればよい。q、r、s、e、f、g、hは必ずしも0である必要はない。また、位相0を与える領域31に関しては、位相2pπを与えるように構成してもよい(p:整数)。
また、以上の領域32〜34、41〜44に関しては、位相をそれぞれ4π/4、2π/4、6π/4、π/4、3π/4、5π/4、7π/4から25%以下だけずらすようにしても、入射光20を4本又は5本の光束に略均等に分割することができるようになり、以上のような光束分割素子としても使用できるものである。
さて、以上のような本発明の回折光学素子及びそれを利用した光学ローパスフィルターの製造方法としては、例えば計算機ホログラムの製造方法に用いられるフォトリソグラフィーを利用する方法や凹凸型を使用して複製する方法等を利用すればよい(特許文献10)。以下に、本発明の位相変調量が4値又は8値の回折光学素子の製造方法の実施例を説明する。
図11(a)〜(d)は、本発明の回折光学素子10を複製するのに好ましい凹凸型を基板に形成する方法の一例を示す図であり、半導体回路製造用のフォトマスクを製造する工程を利用することができ、フォトマスクブランク、描画装置であるレーザー描画装置、電子線描画装置を利用することができる。これらの描画装置を使用する場合において、本発明の回折光学素子10は、同じ基本パターン(図5(b)、図9(b))を2次元的に繰り返し配列したものであるので、描画装置にその基本パターンのデータと配列に必要な縦横等のピッチを与えることにより、描画装置のデータ処理の負担を大幅に軽減でき、また、基本パターンのデータを得る演算についても、回折光学素子10全体についての演算に比べ、負担の大幅な軽減が図れる。回折光学素子10が5cm×5cmの大きさであり、基本パターンの大きさ(L×L)が250μm×250μmである場合には、基本パターンに関するデータは回折光学素子10全体のデータに比べて、面積比で言うと1/40,000になるからである。
図11(a)に示すように、例えば、15cm×15cm、厚み6.4mmの合成石英等の基板51上に表面低反射クロム薄膜52を積層したフォトマスクブランク板50のクロム薄膜52上に、ドライエッチング耐性のあるレジスト(図示の例ではポジ型)層53を、例えば400nm程度の厚みの薄膜状に形成する。ドライエッチング用レジストとしては、一例として、日本ゼオン(株)製、ZEP7000等が使用でき、レジストの積層は、スピンナー等による回転塗付によって行うことができる。このレジスト層53に対し、パターン露光を行うが、パターン露光はパターン54を用いる以外に、レーザー描画装置若しくは電子線描画装置を用いることにより、レーザービーム若しくは電子ビームを走査することによっても行うこともできる。例えば、ETEC社製の電子線描画装置「MEBES4500」を使用することができる。
露光によりレジスト樹脂が硬化した易溶化部分53bと未露光部分53aとが区画形成されるので、図11(b)に示すように、現像液を噴霧して行うスプレー現像等によって、溶剤現像して易溶化部分53bを除去し、レジストパターン53aを形成する。なお、レジストとしては、ネガ型を使用することもでき、現像は現像液への浸漬によっても行える。また、以降の工程では、ドライエッチング以外に、浸漬によるウェットのエッチングも行えるので、使用するレジストとしては、ドライエッチング耐性のあるレジストには限らない。
形成されたレジストパターン53aを利用して、図11(c)に示すように、ドライエッチングにより、レジストで被覆されていない部分のクロム薄膜52をエッチングして除去し、除去した部分において、下層の石英基板51を露出させる。次いで、露出した石英基板51に対して、図11(d)に示すように、同様にドライエッチングを施して、石英基板51をエッチングし、エッチングの進行により生じた凹部55と、クロム薄膜52及びレジスト薄膜53aとが下から順に被覆している石英基板51の元の部分からなる凸部とを形成する。この後、レジスト薄膜を溶解等により除去し、石英基板51がエッチングされて生じた凹部55と、頂部にクロム薄膜52が積層した部分からなる凸部56とを有する石英基板を得る。
以上の方法のみでは、凸部と凹部の2値(高低の2段、深さとしては、元の石英基板の表面に加えてもう1つのレベルの面が生じる。)のものしか得られないが、上記で得られたものに対し、レジストの形成→パターン露光→レジストの現像→クロム薄膜のドライエッチング→石英基板のドライエッチング→レジスト除去からなるフォトエッチングの工程を繰り返すことにより、1回目のフォトエッチングにより生じた凹部及び凸部に対してフォトエッチングを施すことができ、エッチングの深さを制御することにより、元の石英基板の表面に加えて、さらに3つのレベルの面が生じ、元の石英基板の表面も加えて数えれば4段の段数(4値)が生じる。このとき、レジストとしては、ドライエッチング耐性を有するノボラック樹脂系のi線レジストを使用し、465nm程度の薄膜とし、露光は、例えば描画装置としてALTA3500を使用して行う。
図12は、上記のフォトエッチングの工程の繰り返し回数と生じる段差の数を示す図で、図12(a)は1回の工程で段数2が生じている様子を示す。図12(a)における上下各々の段に再度上記工程が繰り替えし適用されることにより、図2(b)に示すように、段数4が生じており、本発明の位相変調量が4値の回折光学素子を作製することができる。さらに、工程を繰り返し、合計3回の工程の繰り返しにより、段数8が生じ、本発明の位相変調量が8値の回折光学素子を作製することができる。したがって、フォトエッチングの回数n(自然数)に対し、最大で2のn乗の段数が生じる。このようにして、所定の段数を得た後、クロム薄膜52をウェットエッチングにより除去し、石英基板51表面に所定の段数の深さの凹凸が形成された回折光学素子10の凹凸型を得ることができる。
本発明の回折光学素子10は、位相分布のデータを再現するには再度の演算を行えばよいとは言え、演算の手間もあり、また、凹凸型に使用の際に突然に汚染したり、破損する等の事故もあり得る。そこで、この種の凹凸型を用いる生産においては、最初に得られる型から1個乃至ごく少ない数の複製型を作り、この複製型から、生産用の型を必要数作製して、生産に使用するのがよい。なお、凹凸型の耐久性を増すにには、凹凸型の型面にめっきを行って剥がして作る金属めっき型を使用することが好ましい。なお、凹凸型の製造は、適当な基板に対し、ダイヤモンド針等で機械彫刻することによっても行うことができる。
凹凸型(好ましくは、上記の生産用の型)を使用して回折光学素子10を複製する方法としては、図13(a)に示すような凹凸型60を加熱により軟化した樹脂層に押し付けて複製する方法、インジェクション法、若しくは、キャスティング法が利用でき、これら方法に使用する樹脂としては、熱可塑性、熱硬化性の何れも使用できる。工業的には、好ましくは紫外線硬化性樹脂を含む未硬化樹脂組成物を凹凸型60の型面(図13(a)の下面)に接触させ、樹脂組成物の反対側に基材となるプラスチックフィルムをラミネートして、樹脂組成物を凹凸型とプラスチックフィルムとの間にサンドイッチした状態で、紫外線を照射する等して硬化させ、凹凸型の型面の凹凸が付与され硬化した樹脂層からなる位相変調層62をプラスチックフィルム63ごと積層体61として剥がす方法によるのがより効率的である(図13(b))。このプラスチックフィルム63は、樹脂組成物の硬化後、都合により剥がしてもよい(図13(c))。
紫外線硬化性樹脂としては、一例として、不飽和ポリエステル、メラミン、エポキシ、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、若しくは、トリアジン系アクリレート等の熱硬化性樹脂、若しくは、これらにラジカル重合性不飽和単量体を加え電離放射線硬化性としたものなどを使用することができる。
また、基材となるプラスチックフィルム63としては、透明性及び平滑性が高いものが好ましく、厚さ1μm〜1mm、好ましくは10μm〜100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、アクリルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム等が例示できる。
基材はプラスチックフィルムに限らず、ガラス板としてもよい。
以上のように、本発明に基づいて、回折光学素子の位相変調量を4値又は8値とすることにより、光学ローパスフィルターの厚さを水晶製のものよりも薄型化が可能となる。例えば、水晶製の光学ローパスフィルター(設計によるが2mm程度)の半分(1mm)以下にすることが可能である。プラスチックフィルムを基材として紫外線硬化樹脂を用いて位相回折格子(回折光学素子)を賦型すれば、100μm以下にできる。基材としてプラスチックフィルムを用いず、直接カバーガラス若しくはレンズを基材として4値又は8値の位相回折格子として賦型するようにすれば、30μm以下1μmまで薄型化が可能となる。
以上、本発明の回折光学素子とそれを利用した光学ローパスフィルターをその原理と実施例に基づいて説明してきたが、本発明はこれら実施例に限定されず種々の変形が可能である。例えば、図9の構成において、各中間領域41〜44をさらに2値以上の多値化することにより、位相変調量を16値以上にした回折光学素子を得ることができる。なお、本発明の回折光学素子10の射出側に体積ホログラム感光材料を密着あるいは近接して配置し、複製照明光を回折光学素子10側から入射させてホログラム複製することにより、回折光学素子10と同様の特性(特に、5本の光に分割する回折光学素子)の体積ホログラムを作製することができる。