JPWO2009093692A1 - 人工ペプチド及びその利用 - Google Patents
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Abstract
Description
本願は2008年1月25日に出願された日本国特許出願第2008−014966号に基づく優先権を主張しており、当該日本国出願の全内容は本明細書中に参照として援用されている。
例えば、特許文献1には、ポリペプチド、DNA等を細胞内に導入するための細胞透過性キャリアペプチドが記載されている。この特許文献には、細胞透過性キャリアペプチドと異種ポリペプチド、DNA等を連結したキャリアペプチドコンジュゲートを用いることによって、ポリペプチド、DNA等の生理活性物質を高効率に細胞内に導入することができると記載されている。
しかしながら、特許文献1及び2に記載されるような従来の細胞透過性ペプチド(例えば、HIV由来のタンパク質導入ドメイン:TAT)は、細胞外部から細胞膜を透過して細胞質に目的のペプチドモチーフを導入するツールとしては有用であるものの、核内への移送能力は著しく低く、さらには核小体に目的のペプチドモチーフ(ペプチド断片)を移送することは望めなかった。
ここで「ペプチドモチーフ(配列モチーフ)」とは、当該分野において通常使用されるのと同様の意味で本明細書において用いられる用語であり、ポリペプチド(タンパク質)の機能的な最小単位となる部分構造を指す用語である。即ち、ペプチドモチーフとは、何らかの機能や構造と関連付けられる比較的短いアミノ酸配列をいう。かかる意味において配列番号1に示す上記アミノ酸配列もまた、細胞外から核内(典型的には核小体)へのペプチド移行に関与するペプチドモチーフとして認識され得る。
localization signal:NoLS)として知られる上記配列番号1に示すアミノ酸配列と、目的とする他のペプチドモチーフ(具体例は後述する実施例参照)を構成するアミノ酸配列とを含むペプチドを合成し、培養中の真核細胞に添加したところ、当該ペプチドが高効率に対象細胞の細胞膜を通過し得ること、さらには高効率に核膜を通過し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記構成の本発明の方法によると、目的とするペプチドモチーフ(即ち、対象とする細胞に導入しようとする機能を有するモチーフ)を構成するアミノ酸配列を上記配列番号1により規定される「細胞膜透過性核小体局在シグナル配列」と組み合わせて得られた人工ペプチドを構築(合成) し、対象とする真核細胞に添加することによって、当該目的のペプチドモチーフ(即ち該モチーフを含む人工ペプチド)を真核細胞の外部(細胞膜の外側)から核内(好ましくは核小体)に高効率に移送することができる。
このような比較的鎖長の短いペプチド(典型的にはリニア(直線)形状のペプチド)は化学合成が容易であり、対象とする真核細胞内に容易に導入され得るため好ましい。
本発明によると、ヒトその他哺乳類の幹細胞(例えば体性幹細胞)に所定の機能を有する目的のモチーフを核内(好ましくはさらに核小体)に移送することにより、当該幹細胞の形質転換、例えば特定の細胞(神経細胞、骨細胞、筋肉細胞、皮膚細胞、等)への分化を実現することができる。
このペプチドは、以下のアミノ酸配列:
KKRTLRKNDRKKR(配列番号1)
により規定される細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側又はC末端側に、天然においてはかかる配列に隣接して存在しないペプチドモチーフを構成するアミノ酸配列を備えるように合成されたペプチド鎖から構成されている。
上記「細胞膜透過及び核小体移行配列」と目的のペプチドモチーフ(配列モチーフ)とを近接させて構築した単純な配列構成のペプチドを用いることによって、真核細胞の細胞膜の外側から細胞質内、さらには核内(好ましくは核小体)に目的とするモチーフ(機能を有するアミノ酸配列)を高効率に移送することができる。総アミノ酸残基数が500以下である人工ペプチド(典型的にはリニア形状のペプチド)は、化学合成が容易であり、真核細胞内へ高効率に導入可能であることから好ましい。
目的のペプチドモチーフおよび該モチーフを構成するアミノ酸配列を選択すること、
以下のアミノ酸配列:
KKRTLRKNDRKKR(配列番号1)
により規定される細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側又はC末端側に、前記選択されたペプチドモチーフのアミノ酸配列を備えるペプチド鎖を設計すること、および、上記設計したペプチド鎖を合成すること、を包含する。
好ましい一態様では、全アミノ酸残基数が500以下となるように上記ペプチド鎖を設計する。
<配列表フリーテキスト>
配列番号1〜配列番号85 合成ペプチド
また、本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の説明では、場合に応じてアミノ酸をIUPAC-IUBガイドラインで示されたアミノ酸に関する命名法に準拠した1文字表記(但し配列表では3文字表記)で表す。
本明細書において「ペプチド」とは、複数のペプチド結合を有するアミノ酸ポリマーを指す用語であり、ペプチド鎖に含まれるアミノ酸残基の数によって限定されない。従ってアミノ酸残基数が10程度までのオリゴペプチド或いはそれ以上のアミノ酸残基から成るポリペプチドも本明細書における人工ペプチドに包含される。
本明細書において「アミノ酸残基」とは、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖のN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を包含する用語である。
ここで配列番号1に記載される具体的なアミノ酸配列は、細胞内情報伝達に関与するプロテインキナーゼの1種であるヒト内皮細胞に存在するLIMキナーゼ2(LIM Kinase 2:上記非特許文献1参照)の第491番目のアミノ酸残基から第503番目のアミノ酸残基までの合計13アミノ酸残基から成る配列部分(即ちモチーフ)に相当する核小体局在シグナルであることに加え、本発明者によって新たに優れた細胞膜透過性を示すことが見出された配列である。
従って、ここで開示される「上記配列番号1のアミノ酸配列により規定(把握)される「細胞膜透過性核小体局在シグナル配列」とは、典型的には配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一の配列であるが、当該同一配列の他に、細胞膜透過性及び核移行性を損なうことなく1個または数個(例えば5個以下典型的には2,3個)のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加(挿入)されて形成されたアミノ酸配列を包含する。即ち、そのような軽微な改変配列は、ここで開示される情報に基づいて当業者にとって容易に利用されるものであり、ここで開示される技術的思想としての「細胞膜透過性核小体局在シグナル配列」に包含されるからである。典型例として、配列番号1のアミノ酸配列のうち1個又は数個(典型的には2個又は3個)のアミノ酸残基が保守的に置換したいわゆる同類置換(conservative amino acid replacement)によって生じた配列(例えば塩基性アミノ酸残基が別の塩基性アミノ酸残基に置換した配列)、或いは、所定のアミノ酸配列について1個又は数個(典型的には2個又は3個)のアミノ酸残基が付加(挿入)した若しくは欠失した配列が挙げられる。
また、細胞膜透過性核小体局在シグナル配列についても同様であり、一つのペプチド鎖に少なくとも1単位の細胞膜透過性核小体局在シグナル配列が存在すればよいが、これに限定されず、同一配列又は相互に配列の異なる複数の細胞膜透過性核小体局在シグナル配列が一つのペプチド鎖の複数箇所に存在していてもよい。
即ち、特許文献2には、エロンジンA(ElonginA)と複合体を形成して転写調節因子として働くことが知られているエロンジンBC(ElonginBC)コンプレックス(具体的にはElonginCの一部)に結合し得る領域(アミノ酸配列)であるSOCS−ボックスを有する種々のSOCSタンパク質(サイトカイン情報伝達のサプレッサー)及びそれらのファミリータンパク質(以下総称して「SOCS系タンパク質」という。)を構成するアミノ酸配列の一部であって、ElonginBCコンプレックスに結合すると考えられている特定領域「BC−ボックス」に包含されるアミノ酸配列が、体性幹細胞に対して高い神経分化誘導活性を有することが記載されている。
具体的には、mSOCS−1(配列番号2),mSOCS−2(配列番号3),mSOCS−3(配列番号4),mSOCS−4(配列番号5),mSOCS−5(配列番号6),hSOCS−6(配列番号7),hSOCS−7(配列番号8),hRAR−1(配列番号9),hRAR−like(配列番号10),mWSB−1(配列番号11),mWSB−2(配列番号12),mASB−1(配列番号13),mASB−2(配列番号14),hASB−3(配列番号15),LRR−1(配列番号16),hASB−7(配列番号17),mASB−10(配列番号18),hASB−14(配列番号19),に含まれるBC−ボックスのN末端から15個の連続するアミノ酸残基から成るアミノ酸配列を示している(非特許文献2〜5参照)。
また、特に詳細な説明は省略するが、配列番号20〜80は、ウイルス(HIV、AdV、SIV等)や哺乳動物から同定された種々のSOCS系タンパク質のBC−ボックスに含まれるアミノ酸配列及び該配列から成るペプチドを示している。例えば、配列番号75および配列番号79は、ヒトから同定されたSOCS系タンパク質(MUF1)のBC−ボックスに含まれるアミノ酸配列である。また、配列番号80は、マウスから同定されたSOCS系タンパク質mCIS(cytokine-inducible SH2-containing protein)のBC−ボックスに含まれるアミノ酸配列である。
これらは例示であり、BC−ボックスの構成アミノ酸配列(モチーフ)をこれらに限定することを意図したものではない。ここに例示するまでもなく、様々なBC−ボックスの構成アミノ酸配列が本願出願当時に出版されている数々の文献に記載されている。それらアミノ酸配列は一般的な検索手段によって容易に知ることができる。
即ち、かかる構成の人工ペプチド(神経分化誘導ペプチド)は、上記細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側又はC末端側に、神経分化誘導に関するペプチドモチーフとしていずれかのBC−ボックス由来のアミノ酸配列(以下「BC−ボックス関連配列」ともいう。典型的には配列番号2〜80のうちのいずれかに示すアミノ酸配列から選択される少なくとも10個(例えばN末端から少なくとも10個)の連続するアミノ酸残基から成るアミノ酸配列)を備えるように合成される。好ましくは、総アミノ酸残基数が50以下である。
なお、上述した細胞膜透過性核小体局在シグナル配列の場合と同様、神経分化誘導に関するペプチドモチーフとしての機能を保持する限りにおいて、1個または数個(例えば5個以下典型的には2,3個)のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加(挿入)されて形成される改変アミノ酸配列もまた、上記「BC−ボックス由来のアミノ酸配列(BC−ボックス関連配列)」に包含される。
神経分化誘導剤の形態に関して特に限定はない。例えば、典型的な形態として、液剤、懸濁剤、乳剤、エアロゾル、泡沫剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、カプセル、軟膏が挙げられる。また、注射等に用いるため、使用直前に生理食塩水又は適当な緩衝液(例えばPBS)等に溶解して薬液を調製するための凍結乾燥物、造粒物とすることもできる。
なお、神経分化誘導ペプチド(主成分)及び種々の担体(副成分)を材料にして種々の形態の薬剤(組成物)を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準じればよく、かかる製剤方法自体は本発明を特徴付けるものでもないため詳細な説明は省略する。処方に関する詳細な情報源として、例えばComprehensive Medicinal Chemistry, Corwin Hansch監修,Pergamon Press刊(1990)が挙げられる。
例えば、ここで開示されるBC−ボックス関連配列を含む神経分化誘導ペプチド(即ち該ペプチドを含む神経分化誘導剤)は、液剤として、静脈内、筋肉内、皮下、皮内若しくは腹腔内への注射によって患者(即ち生体)に所望する量だけ投与することができる。或いは、錠剤等の固体形態のものは経口投与することができる。これにより、生体内で、典型的には患部又はその周辺に存在する体性幹細胞から、神経細胞を発生(生産)させることができる。このため、神経再生が有力な治療法となる種々の神経疾患を効果的に治療することが可能となる。例えば、パーキンソン病、脳梗塞、アルツハイマー病、脊髄損傷による身体の麻痺、脳挫傷、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、脳腫瘍、網膜変性症等の神経疾患を再生医療的アプローチによって治療することが実現される。
而して、大量に生産された神経細胞、或いは該生産された神経細胞を含む細胞材料(生組織や細胞塊)を再び生体内(典型的には神経再生が要求されている患部)に戻すことによっても、生体に直接神経分化誘導剤(神経分化誘導ペプチド)を投与する場合と同様の治療効果が得られ得る。
以上の説明から明らかなように、本発明はまた、ここで開示される上記構成の神経分化誘導ペプチドのいずれかを利用することによって、神経疾患治療に有用な、神経細胞に分化誘導された細胞、細胞塊又は生組織を提供することができる。
人工ペプチドは、ペプチド鎖を構成する全アミノ酸残基数が500以下(好適には300以下、特に好ましくは100以下、例えば50以下)であるものが望ましい。このような短鎖長のペプチドは化学合成手法によって容易に構築することができる。
なお、ペプチドのコンホメーション(立体構造)については特に限定されるものではないが、免疫原(抗原)になり難いという観点から直鎖状又はへリックス状のものが好ましい。
なお、本発明の人工ペプチドとしては、全てのアミノ酸残基がL型アミノ酸であるものが好ましいが、内在する細胞膜透過性核小体局在シグナル配列ならびにペプチドモチーフの所望する機能を失わない限りにおいて、アミノ酸残基の一部又は全部がD型アミノ酸に置換されているものであってもよい。
また、内在する細胞膜透過性核小体局在シグナル配列ならびにペプチドモチーフの所望する機能を失わない限りにおいて、これら配列に含まれ得ない付加的な配列を部分的に含み得る。
一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞(例えばイースト、昆虫細胞、植物細胞、動物(哺乳類)細胞)に導入し、所定の条件で当該宿主細胞又は該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とするポリペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)からポリペプチドを単離し、精製することによって、目的のアミノ酸配列から成るペプチドを得ることができる。一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞(例えばイースト、昆虫細胞、植物細胞、哺乳類細胞)に導入し、所定の条件で当該宿主細胞又は該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とするポリペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)からポリペプチドを単離し、精製することによって、目的のペプチドを得ることができる。
なお、組換えベクターの構築方法及び構築した組換えベクターの宿主細胞への導入方法等は、当該分野で従来から行われている方法をそのまま採用すればよく、かかる方法自体は特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
或いは、無細胞タンパク質合成システム用の鋳型DNA(即ち目的とする人工ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む合成遺伝子断片)を構築し、ペプチド合成に必要な種々の化合物(ATP、RNAポリメラーゼ、アミノ酸類等)を使用し、いわゆる無細胞タンパク質合成システムを採用して目的のポリペプチドをインビトロ合成することができる。無細胞タンパク質合成システムについては、例えばShimizuらの論文(Shimizu et al., Nature Biotechnology, 19, 751-755(2001))、Madinらの論文(Madin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(2), 559-564(2000))が参考になる。これら論文に記載された技術に基づいて、本願出願時点において既に多くの企業がポリペプチドの受託生産を行っており、また、無細胞タンパク質合成用キット(例えば、日本の東洋紡績(株)から入手可能なPROTEIOS(商標)Wheat germ cell-free protein synthesis kit)が市販されている。
従って、核内(好ましくは核小体)への導入対象であるペプチドモチーフに対応するアミノ酸配列(例えば上述したBC−ボックス関連配列)を決定し、上記細胞膜透過性核小体局在シグナル配列と合わせてペプチド鎖を設計しさえすれば、そのアミノ酸配列に従って無細胞タンパク質合成システムによって目的のペプチドを容易に合成・生産することができる。例えば、日本の(株)ポストゲノム研究所のピュアシステム(登録商標)に基づいてペプチドを容易に生産することができる。
計6種類のペプチド(サンプル1〜5、比較サンプル1)を後述するペプチド合成機を用いて製造した。表1には、これら合成ペプチドのアミノ酸配列を列挙している。
サンプル1は、細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のC末端側にhSOCS−6(配列番号7)のアミノ酸配列を有する総アミノ酸残基数が28である合成ペプチドである(配列番号81)。
サンプル2は、細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側にhSOCS−6(配列番号7)のアミノ酸配列を有する総アミノ酸残基数が28である合成ペプチドである(配列番号82)。
サンプル3は、細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側にhASB−7(配列番号17)のアミノ酸配列を有する総アミノ酸残基数が28である合成ペプチドである(配列番号83)。
サンプル4は、細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側にmASB−10(配列番号18)のアミノ酸配列を有する総アミノ酸残基数が28である合成ペプチドである(配列番号84)。
サンプル5は、細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側にhASB−14(配列番号19)のアミノ酸配列を有する総アミノ酸残基数が28である合成ペプチドである(配列番号85)。
比較サンプル1は、細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のみから成る総アミノ酸残基数が13である合成ペプチドである(配列番号1)。
なお、いずれのサンプルも、C末端アミノ酸のカルボキシル基(−COOH)はアミド化(−CONH2)されている。
而して、上記ペプチド合成機の合成プログラムに準じて脱保護基反応及び縮合反応を反復して樹脂に結合するFmoc−アミノ酸からペプチド鎖を伸長していき、目的の鎖長の合成ペプチドを得た。具体的には、20%ピペリジン/ジメチルホルムアミド(DMF)(ペプチド合成用グレード、関東化学(株)製品)によって、アミノ酸のアミノ保護基であるFmocを切断除去し、DMFで洗浄し、Fmoc−アミノ酸(-OH)各4eqを反応させ、DMFで洗浄する操作を反復した。そして、ペプチド鎖の伸長反応が全て終了した後、20%ピペリジン/DMFによりFmoc基を切断し、DMF、メタノールの順で上記反応物を洗浄した。
次いで、濾液に冷却エタノールを加え、氷冷水で冷却してペプチド沈澱物を得た。その後、遠心分離(2500rpmで5分間)によって上澄みを廃棄した。沈殿物に冷ジエチルエーテルを新たに加えて十分に撹拌した後、上記と同じ条件で遠心分離を行った。この撹拌と遠心分離の処理を計3回反復して行った。
具体的には、プレカラム(日本ウォーターズ(株)製品、Guard-Pak Delta-pak C18 A300)及びC18逆相カラム(日本ウォーターズ(株)製品、XTerra(登録商標)カラム、MS C18、5μm、4.6×150mm)を使用し、0.1%トリフルオロ酢酸水溶液と0.1%トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液との混合液を溶離液に用いた。即ち、溶離液に含まれる上記トリフルオロ酢酸アセトニトリル溶液の分量を経時的に増大させつつ(容積比で10%から80%への濃度勾配を設ける)、1.5mL/分の流速で上記カラムを用いて30〜40分間の分離精製を行った。なお、逆相カラムから溶離したペプチドは紫外線検出器(490E Detector:Waters社製品)を用いて波長:220nmで検出され、記録チャート上にピークとして示される。
また、溶離した各ペプチドの分子量をPerSeptive Biosystems社製のVoyager DE RP(商標)を用いてMALDI-TOF/MS(Matrix-Assisted Laser Desorption Time of Flight Mass Spectrometry:マトリックス支援レーザーイオン化−飛行時間型−質量分析)に基づいて決定した。その結果、目的のペプチドが合成・精製されていることが確認された。
上記実施例1で得られた6種の人工ペプチドについて、神経分化誘導活性を調べた。
即ち、これらサンプルペプチドを、ラットから採取した神経幹細胞の培養液中に添加し、インキュベーションした。ペプチド添加量は、何れのペプチドについても培養液中のペプチド濃度が1μMとなるように調整した。
また、同じサンプルに対して神経分化誘導マーカーによる評価を行った。即ち、ニューロン(神経細胞)を識別するマーカーとしてチューブリンを採用し、当該チューブリンを識別する蛍光色素標識抗チューブリン抗体を用いた蛍光抗体法によって培養液中のチューブリンの存在(即ちニューロンの存在)の有無を確認した。また、グリア細胞を識別するマーカーとしてグリア細胞の細胞骨格タンパク質であるグリア繊維性酸性タンパク質(GFAP)を採用し、当該GFAPを識別する蛍光色素標識抗GFAP抗体を用いた蛍光抗体法によって培養液中のGFAPの存在(即ちグリア細胞の存在)の有無を確認した。
他方、図2に示すように、比較サンプル1のペプチドを添加した細胞培養物については、蛍光色素標識抗チューブリン抗体の存在による蛍光発色も蛍光色素標識抗GFAP抗体の存在による蛍光発色も認められず、神経幹細胞からニューロン(及びグリア細胞)への分化は認められなかった。
上記実施例1で得られた5種の神経分化誘導活性(上記実施例2参照)を有する人工ペプチドについて、細胞膜透過性能を調べた。
具体的には、マウス胎児(E14.5)から採取した大脳線条体をマウス神経幹細胞用増殖培地(Cell Applications社製品)に懸濁し、セルストレーナーを通して組織片を除去することによりマウス神経幹細胞(mNSC)を含む細胞懸濁液を作製した。次いで、細胞密度が2×105cells/mLとなるように上記増殖培地で調整した細胞懸濁液を超低接着表面フラスコにて37℃、5%CO2条件下で1週間培養し、ニューロスフェア(未分化状態の神経幹細胞を含む細胞塊)を作製した。そして、かかる作製したニューロスフェアをピペッティングにより分散させて、以下に記す膜透過試験に用いた。
(1)培養容器:Poly-D-Lysine coated chamber slide(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社(BD)のBioCoat製品)を用いた。
(2)方法:上記ニューロスフェア由来のマウス神経幹細胞(mNSC)を含む細胞懸濁液を上記増殖培地にて5×104cells/mLに調整した。次いで、該細胞懸濁液中に、予めFITC(fluorescein isothiocyanate)でラベルされた上記人工ペプチド(上記サンプル1〜5の何れか)を該ペプチド濃度が1μMとなるように添加した。そして、上記培養容器の各ウェルに該FITCラベル化ペプチド(上記サンプル1〜5の何れか)を含む細胞懸濁液を1mLずつ添加した。かかる添加から37℃、5%CO2条件下で0.5時間培養した試料(即ちウェル中の細胞培養物)、1時間培養した試料、2時間培養した試料、及び6時間培養した試料をそれぞれサンプリングし、メタノールで固定した。次いで、Prolong(登録商標)Gold Antifade Reagent(Invitrogen社製品)を使用して該メタノール固定された試料(細胞)を封入した。そして、各試料(メタノール固定後に上記封入した試料)について、共焦点レーザー顕微鏡を用いてFITCラベル化ペプチドの局在を確認した。
図3〜6は、FITCラベルした上記サンプル1のペプチドを添加した細胞懸濁液についての結果を示す顕微鏡写真であり、図3,4,5および6は、それぞれ、0.5時間培養後、1時間培養後、2時間培養後、及び6時間培養後の試料についての結果である。
これら顕微鏡写真から明らかなように、上記添加されたペプチドは、添加後迅速に細胞外から細胞膜を透過して細胞内に移行し更に核内に移行すること(即ち核内に局在すること)が確認された。即ち、上記実施例1で得られた計5種(サンプル1〜5)の神経分化誘導活性を有する人工ペプチドは、優れた細胞膜透過性を示すことが確認された。
Claims (13)
- 真核細胞の外部から該細胞の核内に目的とするペプチドモチーフを移送する方法であって、
以下のアミノ酸配列:
KKRTLRKNDRKKR(配列番号1)
により規定される細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側又はC末端側に前記目的のペプチドモチーフを構成するアミノ酸配列を備えるペプチド鎖を合成すること、
前記合成ペプチドを、対象である真核細胞又は該細胞を有する組織を含有する培地に添加すること、および、
前記合成ペプチドが添加された真核細胞又は該細胞を含む組織を培養すること、
を包含する方法。 - 前記合成ペプチドを構成する総アミノ酸残基数が500以下である、請求項1に記載の方法。
- 前記目的のペプチドモチーフを構成するアミノ酸配列は、配列番号2〜80のうちの何れかのアミノ酸配列から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記合成ペプチドを構成する総アミノ酸残基数が50以下である、請求項3に記載の方法。
- 前記真核細胞がヒト又はヒト以外の哺乳動物由来の幹細胞である、請求項1〜4の何れかに記載の方法。
- 真核細胞の外部から該細胞の核内に目的とするペプチドモチーフを移送するために人為的に合成された人工ペプチドであって、
以下のアミノ酸配列:
KKRTLRKNDRKKR(配列番号1)
により規定される細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側又はC末端側に、天然においては前記配列に隣接して存在しない前記目的のペプチドモチーフを構成するアミノ酸配列を備えるように合成されたペプチド鎖から構成されている、人工ペプチド。 - 総アミノ酸残基数が500以下である、請求項6に記載の人工ペプチド。
- 前記目的のペプチドモチーフを構成するアミノ酸配列は、配列番号2〜80のうちから選択される何れかである、請求項6又は7に記載の人工ペプチド。
- 前記合成ペプチド鎖を構成する総アミノ酸残基数が50以下である、請求項8に記載の人工ペプチド。
- 真核細胞の外部から該細胞の核内に目的とするペプチドモチーフを移送するための人工ペプチドを製造する方法であって、
前記ペプチドモチーフおよび該モチーフを構成するアミノ酸配列を選択すること、
以下のアミノ酸配列:
KKRTLRKNDRKKR(配列番号1)
により規定される細胞膜透過性核小体局在シグナル配列のN末端側又はC末端側に、前記選択されたペプチドモチーフのアミノ酸配列を備えるペプチド鎖を設計すること、および、
前記設計したペプチド鎖を合成すること、
を包含する製造方法。 - 全アミノ酸残基数が500以下となるように前記ペプチド鎖を設計する、請求項10に記載の製造方法。
- 前記目的のペプチドモチーフを構成するアミノ酸配列は、配列番号2〜80のうちの何れかのアミノ酸配列から選択される、請求項10又は11に記載の製造方法。
- 前記合成ペプチドを構成する総アミノ酸残基数が50以下である、請求項12に記載の製造方法。
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