JPWO2009047999A1 - 空気入りタイヤ - Google Patents

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Abstract

排水性、操縦安定性、耐偏摩耗性及び静音性が充分に向上した空気入りタイヤ。空気入りタイヤ1は、トレッド部2に、タイヤ周方向に沿って延びる少なくとも1本のタイヤ周方向溝9を有する。また、トレッド部踏面に、タイヤ周方向に対し同一方向に傾斜し、その傾斜角度が夫々10〜60°の範囲内にある2本以上の小溝10からなり、かかる小溝10の端部を連結してジグザグ状に構成された複数の傾斜溝を形成する。このとき、トレッド部2のいずれのタイヤ幅方向断面においても、傾斜溝11が含まれており、傾斜溝11の一部はタイヤ周方向溝9に開口している。

Description

この発明は、トレッド部に、タイヤ周方向に沿って延びる少なくとも1本のタイヤ周方向溝を有する空気入りタイヤに関するものであり、かかる空気入りタイヤの排水性、操縦安定性、耐偏摩耗性及び静音性の向上を図る。
タイヤの性能向上に対する要求が高まるにつれ、操縦安定性、乗り心地性、耐偏摩耗性、排水性、静音性など、従来の考え方では互いに背反すると考えられてきた複数の性能を両立させる様々な手法が提案されてきた。
例えば、特許文献1には、トレッド部に、4本のタイヤ周方向溝を配設することにより、タイヤ赤道面を含む中央陸部、トレッド端を含むショルダー陸部、及び、中央陸部とショルダー陸部との間に中間陸部を区画形成しており、かかる中間陸部に、略タイヤ周方向に延びる小溝及び、タイヤ周方向に対し傾斜して延びる小溝により構成された複数の傾斜溝を具えており、かかる傾斜溝の一部はタイヤ周方向溝に開口している空気入りタイヤが開示されている。この発明の空気入りタイヤは、複数本のタイヤ周方向溝を具えており、かつ、中間陸部において略タイヤ周方向に延びる小溝を具えており、タイヤ負荷転動時にトレッド上を流れる水の方向がタイヤ周方向に一致していることから、排水性が向上している。また、かかる傾斜溝が部分的にタイヤ周方向溝に開口していることから、傾斜溝が二本のタイヤ周方向溝間を連通しているタイヤに比べ、中間陸部の剛性が向上しており、操縦安定性が向上している。更に、中間陸部内に複数本の小溝を配設することにより、中間陸部の剛性の適正化を図られ、操縦安定性及び静音性が向上している。
また、特許文献2には、トレッド部に、4本のタイヤ周方向溝を配設することにより、タイヤ赤道面を含む中央陸部、トレッド端を含むショルダー陸部、及び、中央陸部とショルダー陸部との間に中間陸部を区画形成しており、タイヤの車両装着姿勢にて、最も車両外側に位置しているタイヤ周方向溝からタイヤ赤道面を横切って少なくともトレッド端に開口するまで延びる複数本の第一傾斜溝を配設し、かかる第一傾斜溝は、比較的溝幅の狭い細溝部と比較的溝幅の広い太溝部とを具え、タイヤ周方向に対する延在角度が車両外側から車両内側に向かって漸増する延在形状を有している空気入りタイヤが開示されている。この発明のタイヤでは、複数本のタイヤ周方向溝を配設することにより、高性能タイヤとして最低限必要な排水性を確保しつつ、3列の陸部列を形成することにより、陸部剛性の適正化が図られ、ドライ路面及びウエット路面の双方での操縦安定性が向上している。また、傾斜溝を複数本配設することにより、トレッド接地域内の水を効率良く車両内側に排出することが可能となり、特にコーナリング走行時の排水性が向上している。この際、傾斜溝の、特に排水性に及ぼす影響が支配的な部分を太溝部で構成し、特に陸部剛性及びロードノイズの発生に及ぼす影響が支配的な部分を細溝部で構成することにより、排水性、操縦安定性及び静音性が向上している。
更に、特許文献3には、トレッド部に、その一端がタイヤ周方向溝に開口し、他端が陸部内に終端する溝部である共鳴器を具え、かかる共鳴器は、タイヤ負荷転動時の路面接地面内にて少なくとも1つ含まれている。この発明のタイヤでは、タイヤ負荷転動時に常に少なくとも1つの共鳴器が接地していることから、タイヤ周方向溝から発生する気柱共鳴音を有効に低減して、静音性が向上している。また、共鳴器を設けることで、トレッド部におけるネガティブ率が大きくなり、排水性能も向上している。
特開2005−161921号公報 特開2005−162145号公報 国際公開第2004/103737号パンフレット
しかし、特許文献1及び2に記載のタイヤでは、排水性、操縦安定性及び静音性は向上してはいるものの、トレッド部の偏摩耗については充分に考慮されておらず、偏摩耗の発生に起因して溝形状が変化して排水性、操縦安定性及び静音性が低下する虞がある。また特許文献3に記載のタイヤでは、共鳴器を構成する溝の長さを充分に確保するために、リブ状陸部が実質的に分断された形状となっており、かかる陸部内の剛性が位置によって大きく異なるので、陸部剛性が不均一となり、操縦安定性が低下する。かかる剛性差に起因して、剛性の異なるリブ状陸部が連続して路面に接地することで、振動が発生するので、操縦安定性及び静音性が低下する。それらのことから、排水性、操縦安定性及び静音性のみならず、耐偏摩耗性も併せて向上させたタイヤが望まれている。また、タイヤの更なる高性能化も望まれていることから、排水性、操縦安定性及び静音性の更なる向上も併せて希求されている。
したがって、この発明の目的は、トレッド部の形状の適正化を図ることにより、排水性、操縦安定性、耐偏摩耗性及び静音性がより向上した空気入りタイヤを提供することにある。
上記の目的を達成するため、この発明は、トレッド部に、タイヤ周方向に沿って延びる少なくとも1本のタイヤ周方向溝を有する空気入りタイヤにおいて、トレッド部踏面にタイヤ周方向に対し同一方向に傾斜し、その傾斜角度が夫々10〜60°の範囲内にある2本以上の小溝からなり、小溝の端部を連結してジグザグ状に構成された複数の傾斜溝を形成し、周方向に隣接する2つの傾斜溝は周方向に部分的にオーバーラップしており、傾斜溝の一部はタイヤ周方向溝に開口していることを特徴とする空気入りタイヤである。かかるタイヤは、少なくとも1本のタイヤ周方向溝を有し、また、各小溝が同一方向に延在し、その傾斜角度が10〜60°の範囲内で傾斜しており、傾斜溝が折畳まれていることから、溝幅を同一としたときの傾斜溝一本当たりの溝容積を大きくして、排水性を向上することが可能となる。もちろん、溝幅を大きくし、傾斜溝の溝容積を大きくすることもできるが、そうすると、トレッド部にて傾斜溝を設けた領域とその他の領域との剛性差が大きくなり過ぎて、偏摩耗を防止することができなくなる。また、隣接する傾斜溝を周方向に部分的にオーバーラップさせることで、タイヤ負荷転動時にタイヤ周方向にて傾斜溝が常に路面に接地することとなり、周方向に常に傾斜溝が存在するので、安定した排水性を確保することが可能となる。かかる傾斜溝のオーバーラップにより、傾斜溝が断続的に路面に接地する場合に比べ、傾斜溝を設けた領域内における剛性差が生じにくくなり、かかる剛性差に起因したタイヤ負荷転動時の振動の発生が抑制され、静音性、操縦安定性を向上しつつも、偏摩耗の発生を抑制することが可能となる。更に、傾斜溝の一部がタイヤ周方向溝に開口していることから、かかる開口している部分から、タイヤ周方向溝に傾斜溝内の水が流れて、傾斜溝における吸水と排水のサイクルが促進されるので、排水性を向上させることが可能となる。また、傾斜溝の一端がタイヤ周方向溝に開口していることにより、かかる傾斜溝が共鳴器として機能し、タイヤ周方向溝から発生する気柱管共鳴音を低減することが可能である。なお、傾斜溝が折畳み構造であることから、傾斜溝の容積を必要に応じて調節することができ、タイヤ周方向溝から発生する気柱共鳴音に対応させた容積に調節した共鳴器とすることが可能である。なお、ここでいう「タイヤ周方向に対し同一方向に傾斜」とは、傾斜溝を構成する小溝が、タイヤ周方向をY軸、タイヤ幅方向をX軸とした直交座標を仮定したとき、タイヤ周方向と小溝とのなす角のうち鋭角が、第1象限及び第3象限にある関係、または第2象限及び第4象限にある関係をいうものとし、「周方向に隣接する2つの該傾斜溝は周方向に部分的にオーバーラップしており」とは、トレッド部のいずれのタイヤ幅方向断面で見ても、傾斜溝が必ず含まれている配置をいうものとする。
また、トレッド部に、少なくとも2本のタイヤ周方向溝を有し、かかるタイヤ周方向溝によりリブ状陸部を区画形成し、かかるリブ状陸部に傾斜溝を形成してなることが好ましい。
更に、車両装着時にリブ状陸部がタイヤ赤道面よりも車両外側となるよう装着方向が指定されていることが好ましい。
更にまた、リブ状陸部の幅は、トレッド部の路面接地幅の20%以上であることが好ましい。この「リブ状陸部の幅」とは、次の規格に記載されている適用サイズにおける標準リム(または、“Approved Rim”、“Recommended Rim”)にタイヤを組み付け、次の規格に記載されている適用サイズにおける単輪の最大荷重(最大負荷能力)および最大荷重に対応する空気圧を適用した条件での接地状態において、タイヤ幅方向断面にてリブ状陸部をトレッド部のペリフェリに沿って測定した距離をいうものとする。また、「トレッド部の路面接地幅」とは、同様の条件での接地状態において、タイヤ幅方向断面にて路面に接地しているトレッド部をトレッド部のペリフェリに沿って測定した距離をいうものとする。そして、規格とは、タイヤが生産または使用される地域に有効な産業規格によって決められている。例えば、アメリカ合衆国ではThe Tire and Rim Association Inc.の“Year Book”であり、欧州ではThe European Tyre and Rim Technical Organisationの“Standards Manual”であり、日本では日本自動車タイヤ協会の“JATMA Year Book”にて規定されている。
加えて、リブ状陸部におけるネガティブ率は20〜40%であることが好ましい。
加えてまた、傾斜溝を複数具え、かかる傾斜溝は異なる容積を有することが好ましい。ここでいう「傾斜溝は異なる容積を有する」とは、少なくとも2つの傾斜溝の容積が異なることをいい、最大で全ての傾斜溝の容積が異なることをいう。
また、傾斜溝は、第一小溝と、第一小溝の一方の端部に連結し、第一小溝のタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも小さな角度で傾斜する第二小溝と、第一小溝の他方の端部に連結し、第一小溝のタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも小さな角度で傾斜する第三小溝とからなることが好ましい。
更に、傾斜溝が周方向に部分的にオーバーラップしている部分のタイヤ周方向長さが、リブ状陸部の幅の10〜150%の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30〜80%の範囲内である。
この発明によれば、トレッド部の形状の適正化を図ることにより、排水性、操縦安定性、耐偏摩耗性及び静音性がより向上した空気入りタイヤを提供することが可能となる。
この発明に従う代表的なタイヤのトレッド部の部分展開図である。 この発明に従うその他のタイヤのトレッド部の部分展開図である。 図2に示すタイヤのタイヤ幅方向断面図である。 この発明に従うその他のタイヤのトレッド部の部分展開図である。 この発明に従うその他のタイヤのトレッド部の部分展開図である。 従来技術のタイヤのトレッド部の部分展開図である。 従来技術のタイヤのトレッド部の部分展開図である。 従来技術のタイヤのトレッド部の部分展開図である。 従来技術のタイヤのトレッド部の部分展開図である。 この発明に従うその他のタイヤのトレッド部の部分展開図である。
符号の説明
1 タイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
7 ベルト層
8 インナーライナ
9 タイヤ周方向溝
10 小溝
11 傾斜溝
12 第一小溝
13 第二小溝
14 第三小溝
15 リブ状陸部
CL タイヤ赤道面
W1 リブ状陸部の幅
W2 トレッド部の路面接地幅
K 傾斜溝のタイヤ周方向溝に開口している箇所
以下、図面を参照しつつこの発明の実施の形態を説明する。図1はこの発明に従う代表的な空気入りタイヤ(以下「タイヤ」という。)のトレッド部の部分展開図である。図2は、この発明に従うその他のタイヤのトレッド部の部分展開図である。図3は図2に示すタイヤの断面図である。図4及び5は、この発明に従うその他のタイヤのトレッド部の部分展開図である。
この発明のタイヤ1は、慣例に従い、路面に接地するトレッド部2と、このトレッド部2の両側部からタイヤ径方向内側に延びる一対のサイドウォール部3と、各サイドウォール部3のタイヤ径方向内側に設けられ、リムに嵌合される一対のビード部4とで構成されている。このタイヤ1の内部には、各ビード部4に埋設したビードコア5、5間にトロイド状に延びてタイヤ1の骨格構造をなす、例えばラジアル構造のカーカス6と、このカーカス6のクラウン域の外周側に位置し、トレッド部2を補強するベルト層7とが配設されている。タイヤ1の内面側には空気不透過性のインナーライナ8が配設されている。
また、図1に示すこの発明のタイヤ1のトレッド部2は、タイヤ周方向に沿って延びる1本のタイヤ周方向溝9を有する。トレッド部2の踏面には、同一方向、すなわちタイヤ周方向に対し第1象限及び第3象限に延在し、その傾斜角度が夫々10〜60°の範囲内にある3本の小溝10(図示例では、第一〜第三小溝12〜14)からなり、かかる小溝10の端部を連結してジグザグ状に構成された複数の傾斜溝11を形成する。周方向に隣接する2つの傾斜溝11は、周方向に部分的にオーバーラップしており、かかる傾斜溝11の一部はタイヤ周方向溝9に開口している。ここで、「ジグザグ状」とは隣接する小溝10において、その隣接する小溝10の端部同士が構成する角が、90°以下の鋭角となっているものとする。かかるタイヤ1は、複数本のタイヤ周方向溝9を有していること、及び、各小溝10が同一方向に延在し、その傾斜角度が10〜60°の範囲内で傾斜しており、傾斜溝11が折畳まれていることから、溝幅を同一としたときの傾斜溝一本当たりの溝容積を大きくして、排水性を向上することが可能となる。もちろん、溝幅を大きくすることで溝容積を大きくすることもできるが、そうすると、トレッド部2にて傾斜溝11を設けた領域とその他の領域との剛性差が大きくなり過ぎて、偏摩耗を防止することができなくなる。これに対し、例えば、小溝10の角度範囲が10°未満の場合には、傾斜溝11が充分に折畳まれないことから、ネガティブ率が充分に確保されずに、排水性が低下する。一方、小溝10の角度範囲が60°を超える場合には、同一の傾斜溝11内における小溝10同士が接近し過ぎて、トレッド部2内に先端の細い陸部部分ができ、剛性を充分に確保することができずに操縦安定性が低下する虞がある。また、周方向に隣接する2つの周方向溝12が周方向にオーバーラップしていない場合には、タイヤ負荷転動時に路面に傾斜溝11が接地しない領域が発生し、排水性が低下してしまうが、この発明のタイヤ1では周方向に隣接する2つの傾斜溝11が周方向にオーバーラップしており、いずれのタイヤ幅方向断面においても傾斜溝11が含まれていることから、傾斜溝11がタイヤ負荷転動時に常に路面に接地することとなり、安定した排水性を確保することが可能となる。また、かかるオーバーラップにより、傾斜溝11が断続的に路面に接地せずに、常に接地することとなることことから、傾斜溝11を設けた領域内の剛性差が生じにくくなり、剛性差に起因したタイヤ負荷転動時の振動の発生を抑制し、静音性、操縦安定性を向上しつつも、偏摩耗の発生を抑制することが可能となる。また、小溝10の角度範囲が60°以下とすることにより、傾斜溝11が同時に接地面に入らずに、同様に静音性を維持することが可能となる。更に、傾斜溝11の一部がタイヤ周方向溝9に開口している(開口している箇所を図中にて「K」で表示)ことから、かかる開口している部分から、傾斜溝11内の水がタイヤ周方向溝2に流れ込み、傾斜溝11内における吸水及び排水のサイクルが促進されるので、傾斜溝11がタイヤ周方向溝9に全く開口していない場合よりも、排水性を向上させることが可能となる。更にまた、傾斜溝11の一端がタイヤ周方向溝9に開口していることにより、かかる傾斜溝11が共鳴器として機能し、タイヤ周方向溝9から発生する気柱管共鳴音を低減させることが可能である。低減可能な気柱共鳴音の共鳴周波数は共鳴器の容積に応じて異なる。傾斜溝11が折畳み構造であることから、傾斜溝11の容積を必要に応じて調節することができ、タイヤ周方向溝9から発生する気柱共鳴音に対応させた容積に調節した共鳴器とすることが可能である。加えて、傾斜溝11を構成する小溝10の溝幅はその端部に向かって漸減する形状であることから、傾斜溝11にて小石や砂利を噛み込んでしまっても、タイヤ負荷転動に伴い、噛み込んでしまった小石や砂利にタイヤ径方向外側への押圧が負荷され、かかる小石や砂利が傾斜溝11から外れ易くなり、石噛み防止性能が向上する。なお、図1に示すように、小溝10は湾曲した形状であるが、小溝10の端部同士を直線でつないだ仮想線が、タイヤ周方向に対し、上記した角度範囲にて傾斜していれば、上記した種々の効果が得られる。
また、図2及び3に示すように、トレッド部2に、少なくとも2本、図示例では4本のタイヤ周方向溝9を有し、かかるタイヤ周方向溝9はリブ状陸部15を区画形成し、かかるリブ状陸部15に傾斜溝11を形成してなることが好ましい。なぜなら、リブ状陸部15に傾斜溝11を配設することにより、リブ状陸部15の剛性を制御し、所期した性能を確保することが可能となるからである。また、傾斜溝11がリブ状陸部15を区画形成している2本のタイヤ周方向溝9間を連通するように延在し、タイヤ周方向溝9に開口している場合には、リブ状陸部15の剛性が低下して、タイヤ負荷転動時に溝形状が過剰に変形する。かかる過剰な変形は、溝容積を小さくし、排水性能を低下させるが、この発明のタイヤ1のように、傾斜溝11をタイヤ周方向溝9に部分的に開口させることで、リブ状陸部15の剛性を充分に確保して、傾斜溝11の過剰な変形に起因した溝容積の減少を抑制して、排水性能の有効に確保することが可能となる。
更に、車両装着時にリブ状陸部15がタイヤ赤道面よりも車両外側となるよう装着方向が指定されていることが好ましい。なぜなら、コーナリング走行時には、タイヤ赤道面CLよりも車両外側にあるトレッド部領域の負荷荷重が大きくなるので、コーナリング走行時の排水性や操縦安定性を効果的に向上させるには、タイヤ赤道面CLよりも車両外側に傾斜溝11を具えたリブ状陸部15を配置することが好ましいからである。また、タイヤの車両装着時に車両内側となる領域にあるトレッド部踏面の曲率半径が、車両外側となる領域にあるトレッド部踏面の曲率半径よりも小さく、タイヤ1がネガティブキャンバにて装着されている場合には、車両外側となる領域にあるトレッド部2における接地長がタイヤ幅方向外側程小さくなり、車両外側となる領域にあるトレッド部2にタイヤ周方向溝9に対して傾斜角度の大きなラグ溝を設けると、パターンノイズが悪化するので、車両外側に傾斜溝11を具えたリブ状陸部15を配置することが好ましいからである。
更にまた、リブ状陸部15の幅W1は、トレッド部2の路面接地幅W2の20%以上であることが好ましい。なぜなら、リブ状陸部15の幅W1がトレッド部2の路面接地幅W2の20%未満の場合には、リブ状陸部15の配設面積が小さくなり過ぎて、リブ状陸部15に傾斜溝11を形成しても、傾斜溝11の面積も併せて小さくなることから、傾斜溝11の溝容積を充分に確保することができずに、排水性が有効に向上することができない可能性があるからである。
加えて、リブ状陸部15におけるネガティブ率は20〜40%であることが好ましい。なぜなら、リブ状陸部15のネガティブ率が40%を超える場合には、溝容積が大きくなることにより排水性能は向上するが、リブ状陸部15の剛性が低下し過ぎることから、リブ状陸部15の過剰な倒れ込み変形を引き起こし、操縦安定性能が低下する可能性があるからである。一方、リブ状陸部15のネガティブ率が20%未満の場合には、溝容積が不足して、排水性を有効に向上することができない可能性があるからである。
加えてまた、傾斜溝11を複数具え、かかる傾斜溝11は異なる容積を有することが好ましい。なぜなら、タイヤ周方向溝9から発生する気柱共鳴音の周波数帯域が広域にわたっている場合に、複数の容積を有する傾斜溝11を設けることにより、容積の異なる傾斜溝11が、共鳴周波数の異なる複数の共鳴器として機能して、1種類の容積の傾斜溝11では有効に低減できない気柱共鳴音を、広域にわたり低減させられる可能性があるからである。
また、傾斜溝11は、第一小溝12と、第一小溝12の一方の端部に連結し、第一小溝12のタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも小さな角度で傾斜する第二小溝13と、第一小溝12の他方の端部に連結し、第一小溝12のタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも小さな角度で傾斜する第三小溝14とからなることが好ましい。なぜなら、第一小溝12の傾斜角度よりも、第二小溝13及び第三小溝14の傾斜角度が大きい場合には、傾斜溝11を充分に折畳まれずに充分な傾斜溝11の溝容積が確保されないことから、排水性能が低下し、かつ、リブ状陸部15を適度な剛性まで低下させることができずに、パターンノイズが大きくなり過ぎる可能性があるからである。
更に、傾斜溝11が周方向に部分的にオーバーラップしている部分のタイヤ周方向長さが、リブ状陸部の幅W1の10〜150%の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30〜80%の範囲内である。なぜなら、傾斜溝11が周方向に部分的にオーバーラップしている部分のタイヤ周方向長さが、リブ状陸部の幅W1の150%を超える場合には、傾斜溝11により(特にはタイヤ幅方向に対する)リブ状陸部の剛性が低下して、操縦安定性が低下するからである。一方、傾斜溝11が周方向に部分的にオーバーラップしている部分のタイヤ周方向長さが、リブ状陸部の幅W1の10%未満の場合には、ハンドル操作時にリブ状陸部にサイドフォースが負荷されて、接地形状が変わったときや、路面状態の変動により、接地圧分布が変わったとき等に発明の効果が得られないからである。
なお、上述したところはこの発明の実施形態の一部を示したに過ぎず、この発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの構成を交互に組み合わせたり、種々の変更を加えたりすることができる。例えば、図1及び2には略直線状の小溝10を示しているが、図示はしていないが、小溝10を曲線状とすることもできる。この場合、小溝10の両端を結んだ仮想直線の延在方向を小溝10の延在方向とし、タイヤ周方向に対するかかる延在方向の角度を傾斜角度とする。また、図4に示すように、傾斜溝12のタイヤ周方向溝9への開口位置を任意の位置に変更することもできる。更に、図5に示すように、5本の小溝10により傾斜溝11を構成することもできる。
次に、従来のトレッドパターンを有する従来のタイヤ(従来例タイヤ1)、この発明に従うタイヤの傾斜溝の構成に類似した傾斜溝の構成を具えるタイヤ(比較例タイヤ1〜3)及びこの発明に従う傾斜溝の構成を具えるタイヤ(実施例タイヤ1及び2)を、タイヤサイズ205/55R16の乗用車用ラジアルタイヤとして、夫々試作し、排水性、操縦安定性、耐偏摩耗性及び静音性に関し評価したので、以下に説明する。
従来例タイヤ1、比較例タイヤ1〜3は、夫々図6〜9に示すようなトレッドパターンを具えており、表1に示す諸元を有する。従来例タイヤ1は、リブ状陸部にタイヤ周方向に延びる小溝及び、タイヤ周方向に対し傾斜する小溝により構成された複数の傾斜溝を具えており、かかる傾斜溝の一部はタイヤ周方向溝に開口しており、周方向に隣接する2つの傾斜溝が周方向にオーバーラップしている。比較例タイヤ1は、リブ状陸部に、タイヤ周方向に対し一本だけが逆方向に傾斜している3本の小溝によりジグザグ状に構成された複数の傾斜溝を具えており、かかる傾斜溝の一部はタイヤ周方向溝に開口しており、周方向に隣接する2つの傾斜溝が周方向にオーバーラップしていない。比較例タイヤ2は、リブ状陸部に、タイヤ周方向に対し同一方向に傾斜し、その傾斜角度が夫々10〜60°の範囲内にある3本の小溝によりジグザグ状に構成された複数の傾斜溝を具えており、かかる傾斜溝の一部はタイヤ周方向溝に開口しており、周方向に隣接する2つの傾斜溝が周方向にオーバーラップしていない。比較例タイヤ3は、リブ状陸部に、タイヤ周方向に対し同一方向に傾斜し、その傾斜角度が夫々10〜60°の範囲内にある3本の小溝によりジグザグ状に構成された複数の傾斜溝を具えており、かかる傾斜溝の一部はタイヤ周方向溝に開口しており、周方向に隣接する2つの傾斜溝が比較例タイヤよりも近い配置となっているが、周方向にオーバーラップしていない。また、実施例タイヤ1及び2は、夫々図4及び10に示すようなトレッドパターンを具えており、表1に示す諸元を有する。実施例タイヤ1は、リブ状陸部に、タイヤ周方向に対し同一方向に傾斜し、その傾斜角度が夫々25〜80°の範囲内にある3本の小溝によりジグザグ状に構成された複数の傾斜溝を具えており、かかる傾斜溝の一部はタイヤ周方向溝に開口しており、周方向に隣接する2つの傾斜溝が周方向にオーバーラップしている。また、実施例タイヤ2は、リブ状陸部に、タイヤ周方向に対し同一方向に傾斜し、その傾斜角度が夫々25〜80°の範囲内にある2本の小溝により構成された複数の傾斜溝を具えており、かかる傾斜溝の一部はタイヤ周方向溝に開口しており、周方向に隣接する2つの傾斜溝が周方向にオーバーラップしている。なお、いずれのタイヤにおいてもサイプが配されているが、これは、本発明の効果を奏するためのものでも、効果を阻害するものでもない。
Figure 2009047999
これら各供試タイヤをサイズ6.5×16Jのリムに取り付けてタイヤ車輪とし、空気圧:230kPa(相対圧)、フロントタイヤのタイヤ負荷荷重:4.0kN、リアタイヤのタイヤ負荷荷重:3.1kNを適用した状態で、車両に装着し、各種評価に供した。
排水性は、プロのドライバーが上記車両を、水深10mmの濡れたサーキット路にて走行させて、ハイドロプレーニング現象が発生する速度を比較することにより評価した。このとき、従来例タイヤ1の排水性を100として換算し、その他のタイヤを相対評価した。なお、数値が大きいほど排水性に優れていることを示し、その評価結果は表2に示す。
操縦安定性は、プロのドライバーが上記車両を、路面の乾燥したサーキット路にて時速60〜180km/hで走行させて、フィーリングにより評価した。このとき、従来例タイヤ1の操縦安定性を6として換算し、その他のタイヤを相対評価した。なお、数値が大きいほど操縦安定性に優れていることを示し、その評価結果は表2に示す。
静音性は、プロのドライバーが上記車両をサーキット路にて時速60〜120km/hにて走行させて、フィーリングにより評価した。この時、従来例タイヤ1の静音性を100として換算し、その他のタイヤを相対評価した。なお、数値が大きいほど静音性に優れることを示し、その評価結果は表2に示す。
耐偏摩耗性は、プロのドライバーが上記車両を一般道に10000km走行させて、ブロック陸部内におけるヒールアンドトウ摩耗による摩耗量を比較することにより評価した。なお、摩耗量が小さいことは耐偏摩耗性に優れていることを示し、その評価結果は表2に示す。
Figure 2009047999
表2の結果から明らかなように、従来例タイヤ1を基準としたとき、比較例タイヤ1は、操縦安定性及び静音性は同等であり、耐偏摩耗性及び排水性が低下していた。また、比較例タイヤ2は、操縦安定性は同等であり、静音性、耐偏摩耗性及び排水性が低下していた。それに対し、実施例タイヤ1及び2は、操縦安定性、排水性、耐偏摩耗性及び静音性のいずれもが有効に向上していた。
以上のことから明らかなように、この発明により、排水性、操縦安定性、耐偏摩耗性及び静音性を充分に向上した空気入りタイヤを提供することが可能となった。

Claims (8)

  1. トレッド部に、タイヤ周方向に沿って延びる少なくとも1本のタイヤ周方向溝を有する空気入りタイヤにおいて、
    トレッド部踏面に、タイヤ周方向に対し同一方向に傾斜し、その傾斜角度が夫々10〜60°の範囲内にある2本以上の小溝からなり、該小溝の端部を連結してジグザグ状に構成された複数の傾斜溝を形成し、周方向に隣接する2つの該傾斜溝は周方向に部分的にオーバーラップしており、該傾斜溝の一部は前記タイヤ周方向溝に開口していることを特徴とする空気入りタイヤ。
  2. 前記トレッド部に、少なくとも2本のタイヤ周方向溝を有し、該タイヤ周方向溝によりリブ状陸部を区画形成し、該リブ状陸部に前記傾斜溝を形成してなる、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
  3. 車両装着時に前記リブ状陸部がタイヤ赤道面よりも車両外側となるよう装着方向が指定された、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
  4. 前記リブ状陸部の幅は、前記トレッド部の路面接地幅の20%以上である、請求項2又は3に記載の空気入りタイヤ。
  5. 前記リブ状陸部におけるネガティブ率は20〜40%である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
  6. 前記傾斜溝を複数具え、該傾斜溝は異なる容積を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
  7. 前記傾斜溝は、第一小溝と、該第一小溝の一方の端部に連結し、該第一小溝のタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも小さな角度で傾斜する第二小溝と、該第一小溝の他方の端部に連結し、該第一小溝のタイヤ周方向に対する傾斜角度よりも小さな角度で傾斜する第三小溝とからなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
  8. 前記傾斜溝が周方向にオーバーラップしている部分のタイヤ周方向長さが、リブ状陸部の幅の10〜150%の範囲内にある、請求項2〜7のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
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