JPWO2008016154A1 - 微粒子の製造方法および有機カルボン酸インジウムの製造方法 - Google Patents
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Abstract
P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子の製造方法であって、(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程を有する微粒子の製造方法、並びにインジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させる有機カルボン酸インジウムの製造方法である。
Description
本発明は、微粒子の製造方法および有機カルボン酸インジウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段で粒径制御が可能にかつ大量生産にも適用可能に製造する方法、およびInP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造する方法に関するものである。
近年、半導体微結晶(微粒子)が注目され、その研究が盛んに行われている。半導体微結晶は、量子閉じ込め効果を利用することによって、同一材料でも粒径制御により発光波長を制御可能であるという特徴があり、発光中心材料として期待されている。
なかでもCdSe微結晶は、製造が容易であり、CdSe粒径の制御も比較的容易であることから、利用性が高く、研究が進んでいるが、Cd由来の毒性を有するという欠点がある。
一方InP微結晶は、Cdのような毒性の問題が無いため、新たな発光中心として注目されてきている。
InPの合成法としては、これまで種々の方法が知られている。例えば、(1)ウェットプロセスとして、溶媒にP((CH2)7CH3)3とOP((CH2)7CH3)3の混合物を用い、In原料としてInCl(COO)2を用い、P原料としてP(Si(CH3)3)3(以下、P(TMS)3と記すことがある。)を用いて、260〜300℃にて3〜6日間反応させて合成する方法(例えば、「J.Phys.Chem.」、第98巻、第4966頁(1994年)参照)、(2)In原料としてIn(OR)3を用い、P原料として過剰のP(TMS)3を用い、沸騰ピリジン溶液中で反応させて、トルエンに可溶なアモルファスのInP(詳しくは、InP[P(TMS)3]x)を直接生成する方法(例えば、「Polyhedron」、第13巻、第1131頁(1994年)参照)などが報告されている。
しかしながら、前記(1)の方法においては、合成に長時間を要し、生産性に劣り、工業的に実施するには、満足し得る方法とはいえない。また、(2)の方法においては、生成するInPはアモルファスのものであり、発光中心などの発光材料として使用できない。
さらに、従来の方法で得られるInP粒子は、溶液中での分散性が悪く、反応中に沈降しやすいという欠点を有している。
また、長鎖脂肪酸インジウム塩のオクタデセン(ODE)溶液を所定の温度まで加熱しておき、そこにトリス(トリメチルシリル)ホスフィン(P(TMS)3)のODE溶液をできるだけ短時間に注入することでInPナノ結晶を合成する方法が報告されている(例えば、「Nano Lett.」、第2巻、第1027頁(2002年)および「Chem.Mater.」、第17巻、第3754頁(2005年)参照)。
この方法においては、生成する微粒子のサイズは、反応時間によって制御されている。すなわち、P(TMS)3を可能な限り速やかに反応容器に投入することにより結晶核を均一に系中に発生させ、続いて起こる粒子成長反応の開始点を系中のすべての粒子について同じにし、粒子のある成長段階で急速に反応を停止することで、粒子のサイズ分布をそろえて合成するというものである。したがってこの手法では反応時間によって粒子サイズを変化させようとしているが、粒子サイズの制御性は劣悪である。
さらに、酢酸インジウムとミリスチン酸やパルミチン酸などの配位子とオクタデセンなどの非配位性溶媒とを含む溶液を300℃程度の高温に加熱し、これにP(TMS)3を含むオクタデセン溶液を1回又は多数回注入したのち、250〜270℃程度で反応させ、InPナノ結晶を生成させる方法が開示されている(例えば、特表2005−521755号公報参照)。
しかしながら、この反応においては、副生する酢酸が系内に残留するおそれがあると共に、系中の活性プロトンの存在により、P(TMS)3が分解して、有毒なホスフィンが発生するおそれがある。
このように、ウェットプロセスによるInP微粒子の製造に関しては、種々の方法が知られているが、これまで、反応温度と生成するInP微粒子の粒径との関係については、なんら言及されていない。ましてや反応温度によって、生成するInP微粒子の粒径を制御することは、これまで行われていなかった。
一方、InP微粒子の合成原料の一つとして用いられる脂肪酸インジウムは、例えば(1)酢酸インジウムを当量の脂肪酸を含むオクタデセン溶液中で加熱し、酢酸を揮発させて、脂肪酸インジウムを得る方法(例えば、「Nano Lett.」、第2巻、第1027頁(2002年)参照)、および(2)インジウムトリシクロペンタジエニルと脂肪酸との反応によって、脂肪酸インジウムを得る方法(例えば、「Chem.Mater.」、第17巻、第3754頁(2005年)参照)が知られている。
しかしながら、前記(1)の方法においては、系中に未反応の脂肪酸が残留する可能性と副生する酢酸が系中に残留する可能性があることが欠点である。これらは系中に活性プロトンを供与するため、P(TMS)3を分解して有毒ガスであるホスフィンを発生させる原因となる。
また、前記(2)の方法においては、インジウムトリシクロペンタジエニルは、非常に反応高活性かつ熱的に不安定で、酸素や水と接触すると発火する危険性があるほか、その保管や取り扱いには厳重な注意と相応の設備を要求する。調べた限りでは取り扱っている試薬会社は皆無であり、原料合成が必要であるが、上記理由により大変に困難である。また、脂肪酸の残留による悪影響は前者の手法と同様である。
なかでもCdSe微結晶は、製造が容易であり、CdSe粒径の制御も比較的容易であることから、利用性が高く、研究が進んでいるが、Cd由来の毒性を有するという欠点がある。
一方InP微結晶は、Cdのような毒性の問題が無いため、新たな発光中心として注目されてきている。
InPの合成法としては、これまで種々の方法が知られている。例えば、(1)ウェットプロセスとして、溶媒にP((CH2)7CH3)3とOP((CH2)7CH3)3の混合物を用い、In原料としてInCl(COO)2を用い、P原料としてP(Si(CH3)3)3(以下、P(TMS)3と記すことがある。)を用いて、260〜300℃にて3〜6日間反応させて合成する方法(例えば、「J.Phys.Chem.」、第98巻、第4966頁(1994年)参照)、(2)In原料としてIn(OR)3を用い、P原料として過剰のP(TMS)3を用い、沸騰ピリジン溶液中で反応させて、トルエンに可溶なアモルファスのInP(詳しくは、InP[P(TMS)3]x)を直接生成する方法(例えば、「Polyhedron」、第13巻、第1131頁(1994年)参照)などが報告されている。
しかしながら、前記(1)の方法においては、合成に長時間を要し、生産性に劣り、工業的に実施するには、満足し得る方法とはいえない。また、(2)の方法においては、生成するInPはアモルファスのものであり、発光中心などの発光材料として使用できない。
さらに、従来の方法で得られるInP粒子は、溶液中での分散性が悪く、反応中に沈降しやすいという欠点を有している。
また、長鎖脂肪酸インジウム塩のオクタデセン(ODE)溶液を所定の温度まで加熱しておき、そこにトリス(トリメチルシリル)ホスフィン(P(TMS)3)のODE溶液をできるだけ短時間に注入することでInPナノ結晶を合成する方法が報告されている(例えば、「Nano Lett.」、第2巻、第1027頁(2002年)および「Chem.Mater.」、第17巻、第3754頁(2005年)参照)。
この方法においては、生成する微粒子のサイズは、反応時間によって制御されている。すなわち、P(TMS)3を可能な限り速やかに反応容器に投入することにより結晶核を均一に系中に発生させ、続いて起こる粒子成長反応の開始点を系中のすべての粒子について同じにし、粒子のある成長段階で急速に反応を停止することで、粒子のサイズ分布をそろえて合成するというものである。したがってこの手法では反応時間によって粒子サイズを変化させようとしているが、粒子サイズの制御性は劣悪である。
さらに、酢酸インジウムとミリスチン酸やパルミチン酸などの配位子とオクタデセンなどの非配位性溶媒とを含む溶液を300℃程度の高温に加熱し、これにP(TMS)3を含むオクタデセン溶液を1回又は多数回注入したのち、250〜270℃程度で反応させ、InPナノ結晶を生成させる方法が開示されている(例えば、特表2005−521755号公報参照)。
しかしながら、この反応においては、副生する酢酸が系内に残留するおそれがあると共に、系中の活性プロトンの存在により、P(TMS)3が分解して、有毒なホスフィンが発生するおそれがある。
このように、ウェットプロセスによるInP微粒子の製造に関しては、種々の方法が知られているが、これまで、反応温度と生成するInP微粒子の粒径との関係については、なんら言及されていない。ましてや反応温度によって、生成するInP微粒子の粒径を制御することは、これまで行われていなかった。
一方、InP微粒子の合成原料の一つとして用いられる脂肪酸インジウムは、例えば(1)酢酸インジウムを当量の脂肪酸を含むオクタデセン溶液中で加熱し、酢酸を揮発させて、脂肪酸インジウムを得る方法(例えば、「Nano Lett.」、第2巻、第1027頁(2002年)参照)、および(2)インジウムトリシクロペンタジエニルと脂肪酸との反応によって、脂肪酸インジウムを得る方法(例えば、「Chem.Mater.」、第17巻、第3754頁(2005年)参照)が知られている。
しかしながら、前記(1)の方法においては、系中に未反応の脂肪酸が残留する可能性と副生する酢酸が系中に残留する可能性があることが欠点である。これらは系中に活性プロトンを供与するため、P(TMS)3を分解して有毒ガスであるホスフィンを発生させる原因となる。
また、前記(2)の方法においては、インジウムトリシクロペンタジエニルは、非常に反応高活性かつ熱的に不安定で、酸素や水と接触すると発火する危険性があるほか、その保管や取り扱いには厳重な注意と相応の設備を要求する。調べた限りでは取り扱っている試薬会社は皆無であり、原料合成が必要であるが、上記理由により大変に困難である。また、脂肪酸の残留による悪影響は前者の手法と同様である。
本発明は、このような事情のもとで、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段で粒径制御が可能にかつ大量生産にも適用可能に製造する方法、およびInP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造する方法を目的とするものである。
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子を製造するに際し、前記元素Xの原料と元素Yの原料との溶媒中での反応において、反応温度により、生成する微粒子の粒径を制御し得ることに着目し、前記元素Xの原料と元素Yの原料と溶媒を含む混合溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる簡単な手段によって、所望の平均粒径を有する微粒子が得られることを見出した。
また、前記元素Yの原料として用いられる有機カルボン酸インジウムを、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させることにより、簡易にかつ工業的に有利に製造し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1) P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子の製造方法であって、
(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および
(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程、
を有することを特徴とする微粒子の製造方法、
(2) 元素Xの原料が、一般式(I)
Xn(SiR1 3)m …(I)
および/または一般式(II)
XHp(SiR2 3)q …(II)
(式中、n、m、pおよびqは、それぞれ1以上の整数、R1およびR2は、それぞれアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
で表される化合物を含む上記(1)項に記載の方法、
(3) 元素Yの原料が、有機オキソ酸塩またはアルコキシドを含む上記(1)または(2)項に記載の方法、
(4) 反応温度が80〜350℃である上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の方法、
(5) 微粒子が、InP微粒子である上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の方法、
(6) InP微粒子の製造に用いられるIn原料が、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムである上記(5)項に記載の方法、
(7) 微粒子の平均粒径が、1〜10nmである上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の方法、
(8) (a)工程および(b)工程は、いずれもバッチ式で実施する上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の方法、
(9) インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させることを特徴とする有機カルボン酸インジウムの製造方法、および
(10) 有機カルボン酸無水物が、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸の無水物である上記(9)項に記載の方法、
を提供するものである。
本発明によれば、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段により、粒径制御が可能に、かつ大量生産にも適用可能な方法で製造することができる。
また、InP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造することができる。
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子を製造するに際し、前記元素Xの原料と元素Yの原料との溶媒中での反応において、反応温度により、生成する微粒子の粒径を制御し得ることに着目し、前記元素Xの原料と元素Yの原料と溶媒を含む混合溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる簡単な手段によって、所望の平均粒径を有する微粒子が得られることを見出した。
また、前記元素Yの原料として用いられる有機カルボン酸インジウムを、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させることにより、簡易にかつ工業的に有利に製造し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1) P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子の製造方法であって、
(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および
(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程、
を有することを特徴とする微粒子の製造方法、
(2) 元素Xの原料が、一般式(I)
Xn(SiR1 3)m …(I)
および/または一般式(II)
XHp(SiR2 3)q …(II)
(式中、n、m、pおよびqは、それぞれ1以上の整数、R1およびR2は、それぞれアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
で表される化合物を含む上記(1)項に記載の方法、
(3) 元素Yの原料が、有機オキソ酸塩またはアルコキシドを含む上記(1)または(2)項に記載の方法、
(4) 反応温度が80〜350℃である上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の方法、
(5) 微粒子が、InP微粒子である上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の方法、
(6) InP微粒子の製造に用いられるIn原料が、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムである上記(5)項に記載の方法、
(7) 微粒子の平均粒径が、1〜10nmである上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の方法、
(8) (a)工程および(b)工程は、いずれもバッチ式で実施する上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の方法、
(9) インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させることを特徴とする有機カルボン酸インジウムの製造方法、および
(10) 有機カルボン酸無水物が、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸の無水物である上記(9)項に記載の方法、
を提供するものである。
本発明によれば、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段により、粒径制御が可能に、かつ大量生産にも適用可能な方法で製造することができる。
また、InP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造することができる。
図1は、実施例2における反応温度とInP微粒子の平均粒径との関係を示すグラフである。
図2は、実施例2において反応温度を160〜220℃の間で変動させて得られたInP微粒子の可視紫外吸収分光スペクトルである。
図3は、実施例2において反応温度を160〜220℃の間で変動させて得られたInP微粒子のXRDパターンである。
図4は、実施例2で反応温度を220℃と一定にし、反応時間を5〜60分の間で変動させて得られたInP微粒子の可視紫外線吸収分光スペクトルである。
図5は、実施例2で得られたZnSe被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
図6は、実施例3で得られたZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
図7は、実施例3で得られた水分散化してなるZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
図2は、実施例2において反応温度を160〜220℃の間で変動させて得られたInP微粒子の可視紫外吸収分光スペクトルである。
図3は、実施例2において反応温度を160〜220℃の間で変動させて得られたInP微粒子のXRDパターンである。
図4は、実施例2で反応温度を220℃と一定にし、反応時間を5〜60分の間で変動させて得られたInP微粒子の可視紫外線吸収分光スペクトルである。
図5は、実施例2で得られたZnSe被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
図6は、実施例3で得られたZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
図7は、実施例3で得られた水分散化してなるZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
本発明の微粒子の製造方法は、P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子を製造する方法であり、
(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および
(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程、
を有する。
前記のP、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xの原料としては、例えば一般式(I)
Xn(SiR1 3)m …(I)
および/または一般式(II)
XHp(SiR2 3)q …(II)
(式中、n、m、pおよびqは、それぞれ1以上の整数、R1およびR2は、それぞれアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
で表される化合物を含む原料を用いることができる。
前記の一般式(I)および一般式(II)において、R1およびR2のうちのアルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐を有するアルキル基を挙げることができる。このようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などを挙げることができる。
また、R1およびR2のうちのアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基を挙げることができ、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。さらに、アラルキル基としては、炭素数7〜10のアラルキル基を挙げることができ、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基、メチルフェネチル基などが挙げられる。
3つのR1および3つのR2は、それぞれにおいて、たがいに同一であっても異なっていてもよい。
一般式(I)Xn(SiR1 3)mで表される化合物の中では、XがPである化合物が好ましく、Pn(SiR1 3)mで表される化合物としては、例えばトリス(トリメチルシリル)ホスフィン、トリス(トリエチルシリル)ホスフィン、トリス(トリ−n−プロピルシリル)ホスフィン、トリス(トリイソプロピルシリル)ホスフィン、トリス(ジメチルフェニルシリル)ホスフィン、トリス(ジメチルベンジルシリル)ホスフィンなどが挙げられる。
また、一般式(II)XHp(SiR2 3)qで表される化合物の中では、XがPである化合物が好ましく、PHp(SiR2 3)qで表される化合物としては、例えばビス(トリメチルシリル)ホスフィンPH(Si(CH3)3)2などが挙げられる。
これらの元素Xの原料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、反応性などの観点から、トリス(トリメチルシリル)ホスフィンが好適である。
一方、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yの原料としては、有機オキソ酸塩またはアルコキシドを含む原料を用いることができる。
前記有機オキソ酸塩としては、有機カルボン酸塩[A−C(=O)O−]、有機リン酸塩[A−O−P(=O)(−O)O−]、有機ホスホン酸塩[A−P(=O)(−O)O−]、有機スルホン酸塩[A−S(=O)(=O)O−]などを用いることができる。
これらの有機オキソ酸塩と、前記Xn(SiR1 3)mやXHp(SiR2 3)qとの反応においては、有機カルボン酸塩である場合、A−C(=O)O−SiR3(R=R1またはR2)として、有機リン酸塩である場合、A−O−P(=O)(−O)O−SiR3として、有機ホスホン酸塩である場合、A−P(=O)(−O)O−SiR3として、有機スルホン酸塩である場合、A−S(=O)(=O)O−SiR3として、それぞれ6員環経由で脱離する。また、元素Yの原料がアルコキシド[AO−]である場合、A−O−SiR3として4員環経由で脱離する。
なお、前記Aはアルキル基またはアルケニル基を示す。
本発明においては、前記元素Yの原料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で生成する微粒子の無極性溶媒に対する分散性や原料の合成の容易さなどの観点から、有機カルボン酸塩が好適である。この有機カルボン酸塩を構成する有機カルボン酸としては、有機モノカルボン酸が好ましく、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸がより好ましい。炭素数4〜30の長鎖脂肪酸としては、例えばデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、オレイン酸などを挙げることができる。
本発明においては、反応溶媒として、反応条件下で元素Xの原料および元素Yの原料とは反応せず、かつ原料である脂肪酸In塩が溶解されるものであればよい。
本発明においては、まず(a)工程において、前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、前記溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する。混合原料を溶媒中に混合する温度は10〜40℃(室温)が好ましい。
元素Yの原料と元素Xの原料との使用割合については、得られる微粒子の溶媒への分散性などの面から、Y原子の量が、X原子の量よりも化学量論的に過剰になるように、元素Yの原料と元素Xの原料を用いることが好ましく、Y原子とX原子の割合がモル比で1:0.1〜1:1になるように用いることがより好ましく、1:0.5〜1:0.8になるように用いることが特に好ましい。
さらに、溶媒中の元素Xの原料および元素Yの原料の濃度は、反応性および生成する微粒子の反応性や分散性などの面から、Y濃度で、通常0.005〜0.5モル/L程度、好ましくは0.01〜0.1モル/Lである。
次に、(b)工程において、前記(a)工程で調製した混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応を行う。
本発明者は、前記元素Xの原料と元素Yの原料との溶媒中での反応において、反応温度により、生成する微粒子の粒径を制御し得ることを見出したことにより、本発明をなすに至ったものである。
本発明におけるInPナノ結晶の粒径制御について考察する。本発明は、例えば、脂肪酸インジウムとトリス(トリメチルシリル)ホスフィン[P(TMS)3]を、トリオクチルホスフィン溶媒中において、室温であらかじめ混合しておき、所定の温度まで加熱することにより、生成するInPナノ結晶の粒径を反応温度のみによって制御するものである。このInPナノ結晶の粒径制御を加熱温度のみによって制御することができる理由は、InPナノ結晶の成長過程がOstwald成長(粒子同士が融合することで粒子が成長すること)に支配されていることによるものと考えられる。すなわち、室温においても脂肪酸インジウムとP(TMS)3は反応し、In−P結合を有する微小クラスターを形成していると考えられる。反応溶液を加熱していくと、〜80℃においてベータ脱離によって脂肪酸シリルエステルがクラスターから脱離することにより、閃亜鉛鉱型の単位胞を有するInP微結晶が生成される。このInP微結晶はサイズ効果のために温度によって安定に構造を保てる粒子のサイズに下限があると考えられる。この下限サイズは温度の上昇に伴って大きくなるため、より小さな微結晶はより低い温度で不安定な状態となり、衝突・融合によって安定に構造を保てる粒子サイズまで会合成長を行なう。会合成長はその不安定性のため下限サイズ以下の粒子同士の融合が優先されると考えられる。従って反応溶液の温度が上昇すると、それ以下の温度では安定であった粒子であっても下限粒子サイズを下回った際には会合成長を開始し、安定に構造を保てるサイズに至った時点で成長を停止する。反応溶液の昇温中はこの過程が繰り返されると考えられる。従ってある温度で反応溶液の温度上昇が停止し一定となった場合、溶液中には下限サイズよりも若干大きな粒子のみが存在することとなる。このため、本発明では昇温速度や反応時間によらず、反応温度のみによってInPナノ結晶の粒径を制御することが可能であると考えられる。
本発明は、従来用いられてきた「反応時間による粒径制御」とは異なる成長過程に基づくものと考えている。本発明の成長過程は、共有結合性の高い微粒子、すなわち15族―13族化合物や、12−14−15族カルコパイライト型化合物(例:ZnGeP2)などに適している。
図1は、トリオクチルホスフィン中におけるミリスチン酸インジウムとP(TMS)3との反応において、反応温度と生成InP微粒子の平均粒径との関係を示すグラフである(実施例2参照)。
図1から、反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との間に相関関係を有し、反応温度が高くなるに伴い、InP微粒子の平均粒径が大きくなることが分かる。したがって、予め製造しようとする微粒子を得る反応における同一の原料および溶媒を用い、同一の反応条件における反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係を求めておき、その相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応させることにより、所望の平均粒径を有する微粒子を製造することができる。
すなわち、本発明の方法によれば、反応温度により、生成する微粒子の粒径を容易に制御することが可能である。また、発光波長は粒子サイズによって変化する(粒子サイズが小さくなると、発光波長は短波長側にシフトする。)ことが知られており、したがって、反応温度により、発光波長の制御が可能となる。
本発明においては、反応温度は、反応速度、生成する微粒子の粒径や分散性および使用する溶媒の沸点や熱安定性などの面から、通常80〜350℃程度、好ましくは120〜300℃である。
反応圧力については特に制限はなく、常圧または加圧下で反応を行うことができる。通常、使用する溶媒の沸点が反応温度以上であれば、常圧下で反応が行われ、該沸点が反応温度未満であれば、自発圧力下で反応が行われる。
反応時間は、反応温度、元素Xの原料や元素Yの原料の種類および溶媒の種類などに左右され、一概に定めることはできないが、通常1〜600分程度、好ましくは5〜300分、より好ましくは5〜200分である。
本発明の方法は、得られる微粒子の平均粒径が、反応開始時の昇温速度、反応時の加熱時間(反応時間)、反応終了後の冷却速度に依存しないので、得られる微粒子の粒径制御が極めて容易であるという特徴を有する。
本発明の方法においては、粒径分布と操作の簡便性の観点から、前記(a)工程および(b)工程は、いずれもバッチ式で実施することが好ましい。
このようにして、平均粒径が1〜10nm程度の微粒子を、簡単な手段で容易に製造することができる。
本発明の方法は、特に微粒子としてInP微粒子の製造に適用するのが望ましい。この場合、InP微粒子の製造に用いられるIn原料としては、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムが好ましい。特にインジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムが好ましい。
ここで、インジウムトリアルコキシドとしては、例えばインジウムトリメトキシド、インジウムトリエトキシド、インジウムトリ−n−プロポキシド、インジウムトリイソプロポキシド、インジウムトリ−n−ブトキシド、インジウムトリイソブトキシド、インジウムトリ−sec−ブトキシドなどを用いることができる。
また、有機モノカルボン酸無水物としては、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸の無水物であることが好ましい。この長鎖脂肪酸の無水物としては、例えばデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、オレイン酸など脂肪酸の無水物を挙げることができる。
インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物との反応は、これらを溶解し、かつ反応温度において、前記各化合物と反応しない溶媒中で行うことが好ましい。
このような方法により得られる脂肪酸インジウムは、例えばエタノールなどの洗浄により、副生する脂肪酸アルキルエステルを除去することができ、精製脂肪酸インジウムを得ることができる。
従来の脂肪酸インジウムの製造方法としては、例えば(1)酢酸インジウムを当量の脂肪酸を含むオクタデセン溶液中で加熱し、酢酸を揮発させて、脂肪酸インジウムを得る方法や、(2)インジウムトリシクロペンタジエニルと脂肪酸との反応によって、脂肪酸インジウムを得る方法が知られている。しかし、前記(1)の方法においては、系中に未反応の脂肪酸が残留する可能性と副生する酢酸が系中に残留する可能性があることが欠点である。これらは系中に活性プロトンを供与するため、脂肪酸インジウムとP(TMS)3などとの反応において、P(TMS)3などを分解し有毒ガスであるホスフィンを発生させる原因となる。
また、前記(2)の方法においては、インジウムトリシクロペンタジエニルは非常に反応高活性かつ熱的に不安定で、酸素や水と接触すると発火する危険性があるほか、その保管や取り扱いには厳重な注意と相応の設備を要求すると共に、入手性が困難であり、また、脂肪酸の残留による悪影響は、前記(1)の場合と同様である。
これに対し、本発明のように、インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物との反応により、脂肪酸インジウムを得る方法は、原料として活性プロトンを有する化合物を用いていないため、P(TMS)3などの活性プロトンによる分解が皆無である上、副生する脂肪酸アルキルエステルは、InPの生成になんら影響せず、かつエタノールなどの洗浄により、容易に除去可能であり、しかも原料化合物の入手が容易である。
本発明はまた、インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物とを反応させることを特徴とする有機カルボン酸インジウムの製造方法をも提供する。この製造方法の詳細については、前述したとおりである。
InP結晶の製造においては、前述のようにして得られた脂肪酸インジウムと、Pn(SiR1 3)mやPHp(SiR2 3)q(n、m、p、q、R1及びR2は、前記と同じである。)と、好ましくは溶媒を含む混合溶液を、予め求めておいた反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応させることにより、所望の粒径のInP微粒子を製造することができる。反応温度は、好ましくは80〜350℃の範囲で選ばれる。また、得られるInP微粒子としては、平均粒径1〜10nmのものが好ましい。この場合、InP微粒子の発光波長は450〜800nm程度である。
このようにして形成されたInP微粒子は、その表面に長鎖アルキル基または長鎖アルケニル基を有する分子が配位しているため、トルエンなどの無極性溶媒に対して高い分散性を示す。
前記InP微粒子の表面配位分子を、極性溶媒に対して親和性の高い分子に交換することで、極性溶媒に対して高い分散性を示すInP微粒子を調製することができる。極性溶媒に対して親和性の高い分子としては、例えばヒドロキシ酢酸、メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、10−カルボキシ−1−デカンチオールなどを挙げることができる。
本発明においては、前記のようにして作製されたInP微粒子を反応液から分離することなく、その表面にZnSeやZnSなどからなるシェルを、従来公知の方法により形成させることができる。InP微粒子の表面に、このようなシェルを形成することにより、InP微粒子内への励起子の閉じ込め効果を得ることができるため、励起子由来の発光強度を増大することが可能となる。
本発明の微粒子の製造方法によれば、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、マイクロ流路などの特殊な装置を使用する必要がない上、複雑な条件制御を必要とせず、簡単な手段により、粒径制御(発光波長の制御)が可能に、かつ大量生産が可能に製造することができる。
(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および
(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程、
を有する。
前記のP、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xの原料としては、例えば一般式(I)
Xn(SiR1 3)m …(I)
および/または一般式(II)
XHp(SiR2 3)q …(II)
(式中、n、m、pおよびqは、それぞれ1以上の整数、R1およびR2は、それぞれアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
で表される化合物を含む原料を用いることができる。
前記の一般式(I)および一般式(II)において、R1およびR2のうちのアルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐を有するアルキル基を挙げることができる。このようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などを挙げることができる。
また、R1およびR2のうちのアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基を挙げることができ、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。さらに、アラルキル基としては、炭素数7〜10のアラルキル基を挙げることができ、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基、メチルフェネチル基などが挙げられる。
3つのR1および3つのR2は、それぞれにおいて、たがいに同一であっても異なっていてもよい。
一般式(I)Xn(SiR1 3)mで表される化合物の中では、XがPである化合物が好ましく、Pn(SiR1 3)mで表される化合物としては、例えばトリス(トリメチルシリル)ホスフィン、トリス(トリエチルシリル)ホスフィン、トリス(トリ−n−プロピルシリル)ホスフィン、トリス(トリイソプロピルシリル)ホスフィン、トリス(ジメチルフェニルシリル)ホスフィン、トリス(ジメチルベンジルシリル)ホスフィンなどが挙げられる。
また、一般式(II)XHp(SiR2 3)qで表される化合物の中では、XがPである化合物が好ましく、PHp(SiR2 3)qで表される化合物としては、例えばビス(トリメチルシリル)ホスフィンPH(Si(CH3)3)2などが挙げられる。
これらの元素Xの原料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、反応性などの観点から、トリス(トリメチルシリル)ホスフィンが好適である。
一方、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yの原料としては、有機オキソ酸塩またはアルコキシドを含む原料を用いることができる。
前記有機オキソ酸塩としては、有機カルボン酸塩[A−C(=O)O−]、有機リン酸塩[A−O−P(=O)(−O)O−]、有機ホスホン酸塩[A−P(=O)(−O)O−]、有機スルホン酸塩[A−S(=O)(=O)O−]などを用いることができる。
これらの有機オキソ酸塩と、前記Xn(SiR1 3)mやXHp(SiR2 3)qとの反応においては、有機カルボン酸塩である場合、A−C(=O)O−SiR3(R=R1またはR2)として、有機リン酸塩である場合、A−O−P(=O)(−O)O−SiR3として、有機ホスホン酸塩である場合、A−P(=O)(−O)O−SiR3として、有機スルホン酸塩である場合、A−S(=O)(=O)O−SiR3として、それぞれ6員環経由で脱離する。また、元素Yの原料がアルコキシド[AO−]である場合、A−O−SiR3として4員環経由で脱離する。
なお、前記Aはアルキル基またはアルケニル基を示す。
本発明においては、前記元素Yの原料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で生成する微粒子の無極性溶媒に対する分散性や原料の合成の容易さなどの観点から、有機カルボン酸塩が好適である。この有機カルボン酸塩を構成する有機カルボン酸としては、有機モノカルボン酸が好ましく、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸がより好ましい。炭素数4〜30の長鎖脂肪酸としては、例えばデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、オレイン酸などを挙げることができる。
本発明においては、反応溶媒として、反応条件下で元素Xの原料および元素Yの原料とは反応せず、かつ原料である脂肪酸In塩が溶解されるものであればよい。
本発明においては、まず(a)工程において、前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、前記溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する。混合原料を溶媒中に混合する温度は10〜40℃(室温)が好ましい。
元素Yの原料と元素Xの原料との使用割合については、得られる微粒子の溶媒への分散性などの面から、Y原子の量が、X原子の量よりも化学量論的に過剰になるように、元素Yの原料と元素Xの原料を用いることが好ましく、Y原子とX原子の割合がモル比で1:0.1〜1:1になるように用いることがより好ましく、1:0.5〜1:0.8になるように用いることが特に好ましい。
さらに、溶媒中の元素Xの原料および元素Yの原料の濃度は、反応性および生成する微粒子の反応性や分散性などの面から、Y濃度で、通常0.005〜0.5モル/L程度、好ましくは0.01〜0.1モル/Lである。
次に、(b)工程において、前記(a)工程で調製した混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応を行う。
本発明者は、前記元素Xの原料と元素Yの原料との溶媒中での反応において、反応温度により、生成する微粒子の粒径を制御し得ることを見出したことにより、本発明をなすに至ったものである。
本発明におけるInPナノ結晶の粒径制御について考察する。本発明は、例えば、脂肪酸インジウムとトリス(トリメチルシリル)ホスフィン[P(TMS)3]を、トリオクチルホスフィン溶媒中において、室温であらかじめ混合しておき、所定の温度まで加熱することにより、生成するInPナノ結晶の粒径を反応温度のみによって制御するものである。このInPナノ結晶の粒径制御を加熱温度のみによって制御することができる理由は、InPナノ結晶の成長過程がOstwald成長(粒子同士が融合することで粒子が成長すること)に支配されていることによるものと考えられる。すなわち、室温においても脂肪酸インジウムとP(TMS)3は反応し、In−P結合を有する微小クラスターを形成していると考えられる。反応溶液を加熱していくと、〜80℃においてベータ脱離によって脂肪酸シリルエステルがクラスターから脱離することにより、閃亜鉛鉱型の単位胞を有するInP微結晶が生成される。このInP微結晶はサイズ効果のために温度によって安定に構造を保てる粒子のサイズに下限があると考えられる。この下限サイズは温度の上昇に伴って大きくなるため、より小さな微結晶はより低い温度で不安定な状態となり、衝突・融合によって安定に構造を保てる粒子サイズまで会合成長を行なう。会合成長はその不安定性のため下限サイズ以下の粒子同士の融合が優先されると考えられる。従って反応溶液の温度が上昇すると、それ以下の温度では安定であった粒子であっても下限粒子サイズを下回った際には会合成長を開始し、安定に構造を保てるサイズに至った時点で成長を停止する。反応溶液の昇温中はこの過程が繰り返されると考えられる。従ってある温度で反応溶液の温度上昇が停止し一定となった場合、溶液中には下限サイズよりも若干大きな粒子のみが存在することとなる。このため、本発明では昇温速度や反応時間によらず、反応温度のみによってInPナノ結晶の粒径を制御することが可能であると考えられる。
本発明は、従来用いられてきた「反応時間による粒径制御」とは異なる成長過程に基づくものと考えている。本発明の成長過程は、共有結合性の高い微粒子、すなわち15族―13族化合物や、12−14−15族カルコパイライト型化合物(例:ZnGeP2)などに適している。
図1は、トリオクチルホスフィン中におけるミリスチン酸インジウムとP(TMS)3との反応において、反応温度と生成InP微粒子の平均粒径との関係を示すグラフである(実施例2参照)。
図1から、反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との間に相関関係を有し、反応温度が高くなるに伴い、InP微粒子の平均粒径が大きくなることが分かる。したがって、予め製造しようとする微粒子を得る反応における同一の原料および溶媒を用い、同一の反応条件における反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係を求めておき、その相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応させることにより、所望の平均粒径を有する微粒子を製造することができる。
すなわち、本発明の方法によれば、反応温度により、生成する微粒子の粒径を容易に制御することが可能である。また、発光波長は粒子サイズによって変化する(粒子サイズが小さくなると、発光波長は短波長側にシフトする。)ことが知られており、したがって、反応温度により、発光波長の制御が可能となる。
本発明においては、反応温度は、反応速度、生成する微粒子の粒径や分散性および使用する溶媒の沸点や熱安定性などの面から、通常80〜350℃程度、好ましくは120〜300℃である。
反応圧力については特に制限はなく、常圧または加圧下で反応を行うことができる。通常、使用する溶媒の沸点が反応温度以上であれば、常圧下で反応が行われ、該沸点が反応温度未満であれば、自発圧力下で反応が行われる。
反応時間は、反応温度、元素Xの原料や元素Yの原料の種類および溶媒の種類などに左右され、一概に定めることはできないが、通常1〜600分程度、好ましくは5〜300分、より好ましくは5〜200分である。
本発明の方法は、得られる微粒子の平均粒径が、反応開始時の昇温速度、反応時の加熱時間(反応時間)、反応終了後の冷却速度に依存しないので、得られる微粒子の粒径制御が極めて容易であるという特徴を有する。
本発明の方法においては、粒径分布と操作の簡便性の観点から、前記(a)工程および(b)工程は、いずれもバッチ式で実施することが好ましい。
このようにして、平均粒径が1〜10nm程度の微粒子を、簡単な手段で容易に製造することができる。
本発明の方法は、特に微粒子としてInP微粒子の製造に適用するのが望ましい。この場合、InP微粒子の製造に用いられるIn原料としては、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムが好ましい。特にインジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムが好ましい。
ここで、インジウムトリアルコキシドとしては、例えばインジウムトリメトキシド、インジウムトリエトキシド、インジウムトリ−n−プロポキシド、インジウムトリイソプロポキシド、インジウムトリ−n−ブトキシド、インジウムトリイソブトキシド、インジウムトリ−sec−ブトキシドなどを用いることができる。
また、有機モノカルボン酸無水物としては、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸の無水物であることが好ましい。この長鎖脂肪酸の無水物としては、例えばデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、オレイン酸など脂肪酸の無水物を挙げることができる。
インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物との反応は、これらを溶解し、かつ反応温度において、前記各化合物と反応しない溶媒中で行うことが好ましい。
このような方法により得られる脂肪酸インジウムは、例えばエタノールなどの洗浄により、副生する脂肪酸アルキルエステルを除去することができ、精製脂肪酸インジウムを得ることができる。
従来の脂肪酸インジウムの製造方法としては、例えば(1)酢酸インジウムを当量の脂肪酸を含むオクタデセン溶液中で加熱し、酢酸を揮発させて、脂肪酸インジウムを得る方法や、(2)インジウムトリシクロペンタジエニルと脂肪酸との反応によって、脂肪酸インジウムを得る方法が知られている。しかし、前記(1)の方法においては、系中に未反応の脂肪酸が残留する可能性と副生する酢酸が系中に残留する可能性があることが欠点である。これらは系中に活性プロトンを供与するため、脂肪酸インジウムとP(TMS)3などとの反応において、P(TMS)3などを分解し有毒ガスであるホスフィンを発生させる原因となる。
また、前記(2)の方法においては、インジウムトリシクロペンタジエニルは非常に反応高活性かつ熱的に不安定で、酸素や水と接触すると発火する危険性があるほか、その保管や取り扱いには厳重な注意と相応の設備を要求すると共に、入手性が困難であり、また、脂肪酸の残留による悪影響は、前記(1)の場合と同様である。
これに対し、本発明のように、インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物との反応により、脂肪酸インジウムを得る方法は、原料として活性プロトンを有する化合物を用いていないため、P(TMS)3などの活性プロトンによる分解が皆無である上、副生する脂肪酸アルキルエステルは、InPの生成になんら影響せず、かつエタノールなどの洗浄により、容易に除去可能であり、しかも原料化合物の入手が容易である。
本発明はまた、インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物とを反応させることを特徴とする有機カルボン酸インジウムの製造方法をも提供する。この製造方法の詳細については、前述したとおりである。
InP結晶の製造においては、前述のようにして得られた脂肪酸インジウムと、Pn(SiR1 3)mやPHp(SiR2 3)q(n、m、p、q、R1及びR2は、前記と同じである。)と、好ましくは溶媒を含む混合溶液を、予め求めておいた反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応させることにより、所望の粒径のInP微粒子を製造することができる。反応温度は、好ましくは80〜350℃の範囲で選ばれる。また、得られるInP微粒子としては、平均粒径1〜10nmのものが好ましい。この場合、InP微粒子の発光波長は450〜800nm程度である。
このようにして形成されたInP微粒子は、その表面に長鎖アルキル基または長鎖アルケニル基を有する分子が配位しているため、トルエンなどの無極性溶媒に対して高い分散性を示す。
前記InP微粒子の表面配位分子を、極性溶媒に対して親和性の高い分子に交換することで、極性溶媒に対して高い分散性を示すInP微粒子を調製することができる。極性溶媒に対して親和性の高い分子としては、例えばヒドロキシ酢酸、メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、10−カルボキシ−1−デカンチオールなどを挙げることができる。
本発明においては、前記のようにして作製されたInP微粒子を反応液から分離することなく、その表面にZnSeやZnSなどからなるシェルを、従来公知の方法により形成させることができる。InP微粒子の表面に、このようなシェルを形成することにより、InP微粒子内への励起子の閉じ込め効果を得ることができるため、励起子由来の発光強度を増大することが可能となる。
本発明の微粒子の製造方法によれば、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、マイクロ流路などの特殊な装置を使用する必要がない上、複雑な条件制御を必要とせず、簡単な手段により、粒径制御(発光波長の制御)が可能に、かつ大量生産が可能に製造することができる。
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1 ミリスチン酸インジウム溶液の調製
窒素を満たしたグローブボックス中において、インジウムトリイソプロポキシド(株式会社高純度化学研究所製)879mgを、減圧蒸留によって精製したトリオクチルホスフィン(TOP:東京化成工業株式会社製)50gに溶解し、0.05mol/L溶液を調製した。
次いで、これに、無水ミリスチン酸(東京化成工業株式会社製)3.60gを加え、60℃で10分間加熱することで、ミリスチン酸インジウムを生成させ、ミリスチン酸インジウム0.05mol/L TOP溶液を調製した。
実施例2 脂肪酸インジウムを利用したInPナノ結晶の合成
(1)InP微粒子の合成
窒素を満たしたグローブボックス中において、実施例1で調製したミリスチン酸インジウム溶液1.6g(1.93mL)に、あらかじめ調製しておいたトリス(トリメチルシリル)ホスフィン[P(TMS)3](Acros Organics社製)の0.05mol/L TOP溶液1.2g(1.44mL)を加えた。オイルバスでこの反応溶液を10分間加熱することによってInP微粒子を合成した。加熱温度は100℃から300℃の間で選択した。生成するInP微粒子の平均粒径は加熱温度によって制御可能であった。その後反応溶液を室温まで自然冷却させると、TOP溶媒に分散したInP微粒子の分散液が得られた。図1に、反応温度とInP微粒子の平均粒径との関係をグラフで示す。図1から、反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との間に相関関係を有し、反応温度が100℃から300℃と高くなるに伴い、InP微粒子の平均粒径が2nmから3.5nmへと大きくなることが分った。
表1に、反応温度を220℃と一定にし、反応時間(加熱時間)を5〜60分の間で変動させたときの反応時間とInP微粒子の平均粒径との関係を示す。
表1から、得られたInP微粒子の平均粒径は反応時間(加熱時間)に依存しないことが分った。
(2)InP微粒子の分析
上記(1)で得られた分散液に、エタノール[和光純薬工業株式会社製]を約50mL加えて、InP微粒子の沈殿を生成させた。生成させた沈殿を遠心分離により分取し、これに約1mLのトルエン[和光純薬工業株式会社製]を加えることにより、InP微粒子のトルエン分散液を作製した。さらにエタノール添加−遠心分離−トルエンへの分散を数回繰り返し、分散液中に残留している遊離TOPを除去した。粒子サイズによる分級操作は行わなかった。
加熱温度160℃から220℃によって得られたInP微粒子の希薄トルエン分散液について測定した可視紫外吸収分光スペクトルを図2に示す。量子閉じ込め効果によって短波長側にシフトしたInP微粒子のバンド間遷移に相当するピークが450〜600nmに明瞭に観察された。このピークは加熱温度が高くなるに従って長波長側にシフトすることから、生成するInP微粒子の平均粒径は加熱温度によって制御されており、加熱温度が高くなるに従って生成する微粒子の平均粒径が大きくなることが分った。
図3に、得られたInP微粒子の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。それぞれの散乱ピークの位置が、パルクInPのピーク位置と一致していることが確認された。
図4に、反応温度を200℃と一定にし、反応時間(加熱時間)を5〜60分の間で変動させて得られたInP微粒子の希薄トルエン分散液について測定した可視紫外吸収分光スペクトルを示す。図4から、スペクトルカーブは、反応時間が5、10、30および60分の場合においてほぼ一致しており、InP微粒子の平均粒径は反応時間に依存しないことが分った。
(3)ZnSeシェルの作製
上記のように、加熱温度によって平均粒径を制御しつつInP微粒子を作製することが可能である。
また、ZnSeシェルまたはZnSシェルの生成を妨げる副生成物は発生しないため、生成したInP微粒子を反応液から分離することなくシェルの構築が可能である。
上記(1)で得たInP微粒子表面に、ZnSeやZnS等からなるシェルを構築することにより、捕獲準位からの発光を除去することができ、また、InPよりバンドギャップの広い材料で被覆することによるInP微粒子内への励起子の閉じ込め効果を得ることができるため、励起子由来の発光強度を増大することが可能である。
まず、以下に示す手順で、ZnとSeの前駆体溶液をそれぞれ調製した。なお、特に記載が無い場合は、試薬は処理せずそのまま用いた。
酢酸亜鉛二水和物110mgとオレイン酸735mgを、オクタデセン15g(いずれも和光純薬工業株式会社製)に添加し、窒素を吹き込みながら180℃に加熱した。これにより、水と酢酸を除去した。1時間加熱後、室温まで自然冷却させたところ、オレイン酸亜鉛の析出が確認された。冷却後、これにTOP5g(東京化成工業株式会社製)を添加し、析出したオレイン酸亜鉛が完全に溶解するまで振盪して、亜鉛前駆体溶液を調製した。
セレン前駆体溶液は、粒状(直径約2mm)セレン494mg(ALDRICH社製)を、TOP25g(東京化成工業株式会社製)に溶解させて調製した。
次にこのようにして調製した亜鉛前駆体溶液とセレン前駆体溶液を用いて、以下に示す手順で、InP微粒子の表面にZnSeを被覆した。
窒素を満たしたグローブボックス中において、上記(1)で作製したInP微粒子のTOP分散液0.2gに亜鉛前駆体溶液1gとセレン前駆体溶液0.5gを加え、240℃で15時間加熱した。加熱後、室温まで自然冷却させることにより、TOP溶媒に分散したZnSe被覆InP微粒子を合成した。この際、分散液中に沈殿物は観察されなかった。
得られた分散液に、過剰量のエタノール(和光純薬工業株式会社製)を加えて、ZnSe被覆InP微粒子の沈殿を生成させた。生成させた沈殿を遠心分離により分取し、トルエンに分散させた。ZnSe被覆InP微粒子は、トルエンへ高い分散性を示した。
ここで、得られたZnSe被覆InP微粒子(分取したものでも良いし、トルエン分散液から溶媒除去により取り出したものでも良い)を用いて、さらに上述のZnSe被覆工程を繰り返すことにより、被覆ZnSe膜を厚くすることが可能である。InPを被覆するZnSe膜を厚くすることにより、InPの蛍光強度を向上させることができる。
得られたZnSe被覆InP微粒子の発光スペクトルを図5に示す。InP微粒子の合成温度によって発光のピーク位置が550nmから600nmにシフトすることが観察された。発光ピークの半値幅は約70nmであった。また、発光の量子収率は約30%であった。なお、ZnSeで被覆していないもの(図示せず)と比較して、発光強度が向上していた。なお、ZnSeの被覆がInP表面上に形成することでInP微粒子の表面近傍の欠陥準位や表面準位が消失したこと、および、InP微粒子よりさらにバンドギャップの大きいZnSeの被覆によって、InP微粒子内への励起子の閉じ込め効果が得られたことによると考えられる。
実施例3 水分散性InP微粒子の作製
実施例2で得られたInP微粒子およびZnSe微粒子はその表面に長鎖アルキル基を有する分子が配位しているため、トルエン等の無極性有機溶媒に対して高い分散性を示した。この表面配位分子を水と親和性の高い分子に交換することで、水に対して高い分散性を示すInP微粒子を調製することが可能である。この配位分子置換反応中にZnSeシェルは溶解してしまうが、化学的により安定なZnSシェルを最外層に導入することで、水への高い分散性と高い発光効率の両方を有するInP微粒子を作製可能である。
(1)ZnSシェルの構築
ZnSシェルの構築は、実施例2で作製したInP微粒子TOP分散液に対しても、ZnSe被覆InP微粒子に対しても行うことが可能である。ここでは、InP微粒子へのZnSシェルの導入手法について記述する。ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(東京化成工業株式会社製)218mgを25gのTOPに溶解し、ZnS前駆体溶液を調製した。窒素を満たしたグローブボックス中において、実施例2にて作製したInP微粒子のTOP分散液(加熱温度180℃)に、ZnS前駆体溶液15gを加え、200℃で15時間加熱することで、ZnS被覆InP微粒子を作製した。微粒子の反応溶媒からの分離手法はZnSe被覆InP微粒子のそれと同様である。
図6に、得られたZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルを示す。波長570nmに励起子緩和による発光ピークが観測された。また、ピークの長波長側には表面準位等の捕獲準位による発光が観測されなかった。このことは、ZnS被覆によってInP微粒子の表面準位が効果的に消失され、励起子の量子閉じ込めが効果的に働いたことを示している。
(2)メルカプト酢酸への配位子の変換
上記(1)で作製したZnS被覆InP微粒子の最表面にはミリスチン酸およびTOPが配位していると考えられる。これをメルカプト酢酸に変換することにより、高極性溶媒への高い分散性を有するInP微粒子への変換が可能である。
上記(1)で作製したZnS被覆InP微粒子(またはZnS被覆ZnSe被覆InP微粒子)を塩化メチレン(和光純薬工業株式会社製)約0.5mLに溶解した。これにメルカプト酢酸(和光純薬工業株式会社製)約0.5mLを加えると、微粒子の沈殿が発生した。さらにトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を、沈殿がすべて溶解するまで滴下した。この溶液を室温で約45分間撹拌した後、トルエンを約10mL加えて発生した沈殿を遠心分離にて分取した。この沈殿はさらに塩化メチレン、アセトン(和光純薬工業株式会社製)でそれぞれ洗浄した。発生した沈殿は水に対して良好な分散性を示した。この沈殿に純水を約0.5mL加えて分散液とし、さらにアセトンを約10mL加えて生じた沈殿(沈殿が発生しない場合は25質量%アンモニア水を数滴加えた)を遠心分離で分取した。この沈殿に純水を約1mL加えZnS被覆InP微粒子の水分散液を調製した。この分散液に不純物として微量に含まれるメルカプト酢酸および無機塩類を除去するため、遠心濃縮器(ザルトリウス社製、分画分子量50,000)を用いて透析による精製を5回行った。
配位子置換によって水分散化したZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルを図7に示す。配位子置換によってピークの形状は変化しないことから、置換反応後もZnSが有効にInPの励起子を閉じ込めていることがわかった。
実施例1 ミリスチン酸インジウム溶液の調製
窒素を満たしたグローブボックス中において、インジウムトリイソプロポキシド(株式会社高純度化学研究所製)879mgを、減圧蒸留によって精製したトリオクチルホスフィン(TOP:東京化成工業株式会社製)50gに溶解し、0.05mol/L溶液を調製した。
次いで、これに、無水ミリスチン酸(東京化成工業株式会社製)3.60gを加え、60℃で10分間加熱することで、ミリスチン酸インジウムを生成させ、ミリスチン酸インジウム0.05mol/L TOP溶液を調製した。
実施例2 脂肪酸インジウムを利用したInPナノ結晶の合成
(1)InP微粒子の合成
窒素を満たしたグローブボックス中において、実施例1で調製したミリスチン酸インジウム溶液1.6g(1.93mL)に、あらかじめ調製しておいたトリス(トリメチルシリル)ホスフィン[P(TMS)3](Acros Organics社製)の0.05mol/L TOP溶液1.2g(1.44mL)を加えた。オイルバスでこの反応溶液を10分間加熱することによってInP微粒子を合成した。加熱温度は100℃から300℃の間で選択した。生成するInP微粒子の平均粒径は加熱温度によって制御可能であった。その後反応溶液を室温まで自然冷却させると、TOP溶媒に分散したInP微粒子の分散液が得られた。図1に、反応温度とInP微粒子の平均粒径との関係をグラフで示す。図1から、反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との間に相関関係を有し、反応温度が100℃から300℃と高くなるに伴い、InP微粒子の平均粒径が2nmから3.5nmへと大きくなることが分った。
表1に、反応温度を220℃と一定にし、反応時間(加熱時間)を5〜60分の間で変動させたときの反応時間とInP微粒子の平均粒径との関係を示す。
(2)InP微粒子の分析
上記(1)で得られた分散液に、エタノール[和光純薬工業株式会社製]を約50mL加えて、InP微粒子の沈殿を生成させた。生成させた沈殿を遠心分離により分取し、これに約1mLのトルエン[和光純薬工業株式会社製]を加えることにより、InP微粒子のトルエン分散液を作製した。さらにエタノール添加−遠心分離−トルエンへの分散を数回繰り返し、分散液中に残留している遊離TOPを除去した。粒子サイズによる分級操作は行わなかった。
加熱温度160℃から220℃によって得られたInP微粒子の希薄トルエン分散液について測定した可視紫外吸収分光スペクトルを図2に示す。量子閉じ込め効果によって短波長側にシフトしたInP微粒子のバンド間遷移に相当するピークが450〜600nmに明瞭に観察された。このピークは加熱温度が高くなるに従って長波長側にシフトすることから、生成するInP微粒子の平均粒径は加熱温度によって制御されており、加熱温度が高くなるに従って生成する微粒子の平均粒径が大きくなることが分った。
図3に、得られたInP微粒子の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。それぞれの散乱ピークの位置が、パルクInPのピーク位置と一致していることが確認された。
図4に、反応温度を200℃と一定にし、反応時間(加熱時間)を5〜60分の間で変動させて得られたInP微粒子の希薄トルエン分散液について測定した可視紫外吸収分光スペクトルを示す。図4から、スペクトルカーブは、反応時間が5、10、30および60分の場合においてほぼ一致しており、InP微粒子の平均粒径は反応時間に依存しないことが分った。
(3)ZnSeシェルの作製
上記のように、加熱温度によって平均粒径を制御しつつInP微粒子を作製することが可能である。
また、ZnSeシェルまたはZnSシェルの生成を妨げる副生成物は発生しないため、生成したInP微粒子を反応液から分離することなくシェルの構築が可能である。
上記(1)で得たInP微粒子表面に、ZnSeやZnS等からなるシェルを構築することにより、捕獲準位からの発光を除去することができ、また、InPよりバンドギャップの広い材料で被覆することによるInP微粒子内への励起子の閉じ込め効果を得ることができるため、励起子由来の発光強度を増大することが可能である。
まず、以下に示す手順で、ZnとSeの前駆体溶液をそれぞれ調製した。なお、特に記載が無い場合は、試薬は処理せずそのまま用いた。
酢酸亜鉛二水和物110mgとオレイン酸735mgを、オクタデセン15g(いずれも和光純薬工業株式会社製)に添加し、窒素を吹き込みながら180℃に加熱した。これにより、水と酢酸を除去した。1時間加熱後、室温まで自然冷却させたところ、オレイン酸亜鉛の析出が確認された。冷却後、これにTOP5g(東京化成工業株式会社製)を添加し、析出したオレイン酸亜鉛が完全に溶解するまで振盪して、亜鉛前駆体溶液を調製した。
セレン前駆体溶液は、粒状(直径約2mm)セレン494mg(ALDRICH社製)を、TOP25g(東京化成工業株式会社製)に溶解させて調製した。
次にこのようにして調製した亜鉛前駆体溶液とセレン前駆体溶液を用いて、以下に示す手順で、InP微粒子の表面にZnSeを被覆した。
窒素を満たしたグローブボックス中において、上記(1)で作製したInP微粒子のTOP分散液0.2gに亜鉛前駆体溶液1gとセレン前駆体溶液0.5gを加え、240℃で15時間加熱した。加熱後、室温まで自然冷却させることにより、TOP溶媒に分散したZnSe被覆InP微粒子を合成した。この際、分散液中に沈殿物は観察されなかった。
得られた分散液に、過剰量のエタノール(和光純薬工業株式会社製)を加えて、ZnSe被覆InP微粒子の沈殿を生成させた。生成させた沈殿を遠心分離により分取し、トルエンに分散させた。ZnSe被覆InP微粒子は、トルエンへ高い分散性を示した。
ここで、得られたZnSe被覆InP微粒子(分取したものでも良いし、トルエン分散液から溶媒除去により取り出したものでも良い)を用いて、さらに上述のZnSe被覆工程を繰り返すことにより、被覆ZnSe膜を厚くすることが可能である。InPを被覆するZnSe膜を厚くすることにより、InPの蛍光強度を向上させることができる。
得られたZnSe被覆InP微粒子の発光スペクトルを図5に示す。InP微粒子の合成温度によって発光のピーク位置が550nmから600nmにシフトすることが観察された。発光ピークの半値幅は約70nmであった。また、発光の量子収率は約30%であった。なお、ZnSeで被覆していないもの(図示せず)と比較して、発光強度が向上していた。なお、ZnSeの被覆がInP表面上に形成することでInP微粒子の表面近傍の欠陥準位や表面準位が消失したこと、および、InP微粒子よりさらにバンドギャップの大きいZnSeの被覆によって、InP微粒子内への励起子の閉じ込め効果が得られたことによると考えられる。
実施例3 水分散性InP微粒子の作製
実施例2で得られたInP微粒子およびZnSe微粒子はその表面に長鎖アルキル基を有する分子が配位しているため、トルエン等の無極性有機溶媒に対して高い分散性を示した。この表面配位分子を水と親和性の高い分子に交換することで、水に対して高い分散性を示すInP微粒子を調製することが可能である。この配位分子置換反応中にZnSeシェルは溶解してしまうが、化学的により安定なZnSシェルを最外層に導入することで、水への高い分散性と高い発光効率の両方を有するInP微粒子を作製可能である。
(1)ZnSシェルの構築
ZnSシェルの構築は、実施例2で作製したInP微粒子TOP分散液に対しても、ZnSe被覆InP微粒子に対しても行うことが可能である。ここでは、InP微粒子へのZnSシェルの導入手法について記述する。ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(東京化成工業株式会社製)218mgを25gのTOPに溶解し、ZnS前駆体溶液を調製した。窒素を満たしたグローブボックス中において、実施例2にて作製したInP微粒子のTOP分散液(加熱温度180℃)に、ZnS前駆体溶液15gを加え、200℃で15時間加熱することで、ZnS被覆InP微粒子を作製した。微粒子の反応溶媒からの分離手法はZnSe被覆InP微粒子のそれと同様である。
図6に、得られたZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルを示す。波長570nmに励起子緩和による発光ピークが観測された。また、ピークの長波長側には表面準位等の捕獲準位による発光が観測されなかった。このことは、ZnS被覆によってInP微粒子の表面準位が効果的に消失され、励起子の量子閉じ込めが効果的に働いたことを示している。
(2)メルカプト酢酸への配位子の変換
上記(1)で作製したZnS被覆InP微粒子の最表面にはミリスチン酸およびTOPが配位していると考えられる。これをメルカプト酢酸に変換することにより、高極性溶媒への高い分散性を有するInP微粒子への変換が可能である。
上記(1)で作製したZnS被覆InP微粒子(またはZnS被覆ZnSe被覆InP微粒子)を塩化メチレン(和光純薬工業株式会社製)約0.5mLに溶解した。これにメルカプト酢酸(和光純薬工業株式会社製)約0.5mLを加えると、微粒子の沈殿が発生した。さらにトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を、沈殿がすべて溶解するまで滴下した。この溶液を室温で約45分間撹拌した後、トルエンを約10mL加えて発生した沈殿を遠心分離にて分取した。この沈殿はさらに塩化メチレン、アセトン(和光純薬工業株式会社製)でそれぞれ洗浄した。発生した沈殿は水に対して良好な分散性を示した。この沈殿に純水を約0.5mL加えて分散液とし、さらにアセトンを約10mL加えて生じた沈殿(沈殿が発生しない場合は25質量%アンモニア水を数滴加えた)を遠心分離で分取した。この沈殿に純水を約1mL加えZnS被覆InP微粒子の水分散液を調製した。この分散液に不純物として微量に含まれるメルカプト酢酸および無機塩類を除去するため、遠心濃縮器(ザルトリウス社製、分画分子量50,000)を用いて透析による精製を5回行った。
配位子置換によって水分散化したZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルを図7に示す。配位子置換によってピークの形状は変化しないことから、置換反応後もZnSが有効にInPの励起子を閉じ込めていることがわかった。
本発明の微粒子の製造方法によれば、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段で粒径制御が可能に、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を製造することができる。
また、本発明の脂肪酸インジウムの製造方法によれば、InP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造することができる。
また、本発明の脂肪酸インジウムの製造方法によれば、InP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造することができる。
【書類名】 明細書
【発明の名称】微粒子の製造方法および有機カルボン酸インジウムの製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の製造方法および有機カルボン酸インジウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段で粒径制御が可能にかつ大量生産にも適用可能に製造する方法、およびInP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体微結晶(微粒子)が注目され、その研究が盛んに行われている。半導体微結晶は、量子閉じ込め効果を利用することによって、同一材料でも粒径制御により発光波長を制御可能であるという特徴があり、発光中心材料として期待されている。
なかでもCdSe微結晶は、製造が容易であり、CdSe粒径の制御も比較的容易であることから、利用性が高く、研究が進んでいるが、Cd由来の毒性を有するという欠点がある。
一方InP微結晶は、Cdのような毒性の問題が無いため、新たな発光中心として注目されてきている。
【0003】
InPの合成法としては、これまで種々の方法が知られている。例えば、(1)ウェットプロセスとして、溶媒にP((CH2)7CH3)3とOP((CH2)7CH3)3の混合物を用い、In原料としてInCl(COO)2を用い、P原料としてP(Si(CH3)3)3(以下、P(TMS)3と記すことがある。)を用いて、260〜300℃にて3〜6日間反応させて合成する方法(例えば、非特許文献1参照)、(2)In原料としてIn(OR)3を用い、P原料として過剰のP(TMS)3を用い、沸騰ピリジン溶液中で反応させて、トルエンに可溶なアモルファスのInP(詳しくは、InP[P(TMS)3]x)を直接生成する方法(例えば、非特許文献2参照)などが報告されている。
【0004】
しかしながら、前記(1)の方法においては、合成に長時間を要し、生産性に劣り、工業的に実施するには、満足し得る方法とはいえない。また、(2)の方法においては、生成するInPはアモルファスのものであり、発光中心などの発光材料として使用できない。
さらに、従来の方法で得られるInP粒子は、溶液中での分散性が悪く、反応中に沈降しやすいという欠点を有している。
【0005】
また、長鎖脂肪酸インジウム塩のオクタデセン(ODE)溶液を所定の温度まで加熱しておき、そこにトリス(トリメチルシリル)ホスフィン(P(TMS)3)のODE溶液をできるだけ短時間に注入することでInPナノ結晶を合成する方法が報告されている(例えば、非特許文献3および非特許文献4参照)。
【0006】
この方法においては、生成する微粒子のサイズは、反応時間によって制御されている。すなわち、P(TMS)3を可能な限り速やかに反応容器に投入することにより結晶核を均一に系中に発生させ、続いて起こる粒子成長反応の開始点を系中のすべての粒子について同じにし、粒子のある成長段階で急速に反応を停止することで、粒子のサイズ分布をそろえて合成するというものである。したがってこの手法では反応時間によって粒子サイズを変化させようとしているが、粒子サイズの制御性は劣悪である。
【0007】
さらに、酢酸インジウムとミリスチン酸やパルミチン酸などの配位子とオクタデセンなどの非配位性溶媒とを含む溶液を300℃程度の高温に加熱し、これにP(TMS)3を含むオクタデセン溶液を1回又は多数回注入したのち、250〜270℃程度で反応させ、InPナノ結晶を生成させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、この反応においては、副生する酢酸が系内に残留するおそれがあると共に、系中の活性プロトンの存在により、P(TMS)3が分解して、有毒なホスフィンが発生するおそれがある。
このように、ウェットプロセスによるInP微粒子の製造に関しては、種々の方法が知られているが、これまで、反応温度と生成するInP微粒子の粒径との関係については、なんら言及されていない。ましてや反応温度によって、生成するInP微粒子の粒径を制御することは、これまで行われていなかった。
【0009】
一方、InP微粒子の合成原料の一つとして用いられる脂肪酸インジウムは、例えば(1)酢酸インジウムを当量の脂肪酸を含むオクタデセン溶液中で加熱し、酢酸を揮発させて、脂肪酸インジウムを得る方法(例えば、非特許文献3参照)、および(2)インジウムトリシクロペンタジエニルと脂肪酸との反応によって、脂肪酸インジウムを得る方法(例えば、非特許文献4参照)が知られている。
しかしながら、前記(1)の方法においては、系中に未反応の脂肪酸が残留する可能性と副生する酢酸が系中に残留する可能性があることが欠点である。これらは系中に活性プロトンを供与するため、P(TMS)3を分解して有毒ガスであるホスフィンを発生させる原因となる。
【0010】
また、前記(2)の方法においては、インジウムトリシクロペンタジエニルは、非常に反応高活性かつ熱的に不安定で、酸素や水と接触すると発火する危険性があるほか、その保管や取り扱いには厳重な注意と相応の設備を要求する。調べた限りでは取り扱っている試薬会社は皆無であり、原料合成が必要であるが、上記理由により大変に困難である。また、脂肪酸の残留による悪影響は前者の手法と同様である。
【先行技術文献】
【0011】
【特許文献】
【特許文献1】特表2005−521755号公報
【非特許文献】
【非特許文献1】「J.Phys.Chem.」、第98巻、第4966頁(1994年)
【非特許文献2】「Polyhedron」、第13巻、第1131頁(1994年)
【非特許文献3】「Nano Lett.」、第2巻、第1027頁(2002年)
【非特許文献4】「Chem.Mater.」、第17巻、第3754頁(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような事情のもとで、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段で粒径制御が可能にかつ大量生産にも適用可能に製造する方法、およびInP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造する方法を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子を製造するに際し、前記元素Xの原料と元素Yの原料との溶媒中での反応において、反応温度により、生成する微粒子の粒径を制御し得ることに着目し、前記元素Xの原料と元素Yの原料と溶媒を含む混合溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる簡単な手段によって、所望の平均粒径を有する微粒子が得られることを見出した。
【0014】
また、前記元素Yの原料として用いられる有機カルボン酸インジウムを、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させることにより、簡易にかつ工業的に有利に製造し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1) P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子の製造方法であって、
(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および
(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程、
を有することを特徴とする微粒子の製造方法、
(2) 元素Xの原料が、一般式(I)
Xn(SiR1 3)m …(I)
および/または一般式(II)
XHp(SiR2 3)q …(II)
(式中、n、m、pおよびqは、それぞれ1以上の整数、R1およびR2は、それぞれアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
で表される化合物を含む上記(1)項に記載の方法、
(3) 元素Yの原料が、有機オキソ酸塩またはアルコキシドを含む上記(1)または(2)項に記載の方法、
(4) 反応温度が80〜350℃である上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の方法、
(5) 微粒子が、InP微粒子である上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の方法、
(6) InP微粒子の製造に用いられるIn原料が、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムである上記(5)項に記載の方法、
(7) 微粒子の平均粒径が、1〜10nmである上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の方法、
(8) (a)工程および(b)工程は、いずれもバッチ式で実施する上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の方法、
(9) インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させることを特徴とする有機カルボン酸インジウムの製造方法、および
(10) 有機カルボン酸無水物が、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸の無水物である上記(9)項に記載の方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段により、粒径制御が可能に、かつ大量生産にも適用可能な方法で製造することができる。
【0017】
また、InP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例2における反応温度とInP微粒子の平均粒径との関係を示すグラフである。
【図2】実施例2において反応温度を160〜220℃の間で変動させて得られたInP微粒子の可視紫外吸収分光スペクトルである。
【図3】実施例2において反応温度を160〜220℃の間で変動させて得られたInP微粒子のXRDパターンである。
【図4】実施例2で反応温度を220℃と一定にし、反応時間を5〜60分の間で変動させて得られたInP微粒子の可視紫外線吸収分光スペクトルである。
【図5】実施例2で得られたZnSe被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
【図6】実施例3で得られたZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
【図7】実施例3で得られた水分散化してなるZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の微粒子の製造方法は、P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子を製造する方法であり、
(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および
(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程、
を有する。
【0020】
前記のP、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xの原料としては、例えば一般式(I)
Xn(SiR1 3)m …(I)
および/または一般式(II)
XHp(SiR2 3)q …(II)
(式中、n、m、pおよびqは、それぞれ1以上の整数、R1およびR2は、それぞれアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
で表される化合物を含む原料を用いることができる。
【0021】
前記の一般式(I)および一般式(II)において、R1およびR2のうちのアルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐を有するアルキル基を挙げることができる。このようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などを挙げることができる。
【0022】
また、R1およびR2のうちのアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基を挙げることができ、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。さらに、アラルキル基としては、炭素数7〜10のアラルキル基を挙げることができ、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基、メチルフェネチル基などが挙げられる。
3つのR1および3つのR2は、それぞれにおいて、たがいに同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
一般式(I)Xn(SiR1 3)mで表される化合物の中では、XがPである化合物が好ましく、Pn(SiR1 3)mで表される化合物としては、例えばトリス(トリメチルシリル)ホスフィン、トリス(トリエチルシリル)ホスフィン、トリス(トリ−n−プロピルシリル)ホスフィン、トリス(トリイソプロピルシリル)ホスフィン、トリス(ジメチルフェニルシリル)ホスフィン、トリス(ジメチルベンジルシリル)ホスフィンなどが挙げられる。
【0024】
また、一般式(II)XHp(SiR2 3)qで表される化合物の中では、XがPである化合物が好ましく、PHp(SiR2 3)qで表される化合物としては、例えばビス(トリメチルシリル)ホスフィンPH(Si(CH3)3)2などが挙げられる。
【0025】
これらの元素Xの原料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、反応性などの観点から、トリス(トリメチルシリル)ホスフィンが好適である。
【0026】
一方、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yの原料としては、有機オキソ酸塩またはアルコキシドを含む原料を用いることができる。
【0027】
前記有機オキソ酸塩としては、有機カルボン酸塩[A−C(=O)O−]、有機リン酸塩[A−O−P(=O)(−O)O−]、有機ホスホン酸塩[A−P(=O)(−O)O−]、有機スルホン酸塩[A−S(=O)(=O)O−]などを用いることができる。
【0028】
これらの有機オキソ酸塩と、前記Xn(SiR1 3)mやXHp(SiR2 3)qとの反応においては、有機カルボン酸塩である場合、A−C(=O)O−SiR3(R=R1またはR2)として、有機リン酸塩である場合、A−O−P(=O)(−O)O−SiR3として、有機ホスホン酸塩である場合、A−P(=O)(−O)O−SiR3として、有機スルホン酸塩である場合、A−S(=O)(=O)O−SiR3として、それぞれ6員環経由で脱離する。また、元素Yの原料がアルコキシド[AO−]である場合、A−O−SiR3として4員環経由で脱離する。
なお、前記Aはアルキル基またはアルケニル基を示す。
【0029】
本発明においては、前記元素Yの原料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で生成する微粒子の無極性溶媒に対する分散性や原料の合成の容易さなどの観点から、有機カルボン酸塩が好適である。この有機カルボン酸塩を構成する有機カルボン酸としては、有機モノカルボン酸が好ましく、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸がより好ましい。炭素数4〜30の長鎖脂肪酸としては、例えばデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、オレイン酸などを挙げることができる。
【0030】
本発明においては、反応溶媒として、反応条件下で元素Xの原料および元素Yの原料とは反応せず、かつ原料である脂肪酸In塩が溶解されるものであればよい。
【0031】
本発明においては、まず(a)工程において、前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、前記溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する。混合原料を溶媒中に混合する温度は10〜40℃(室温)が好ましい。
【0032】
元素Yの原料と元素Xの原料との使用割合については、得られる微粒子の溶媒への分散性などの面から、Y原子の量が、X原子の量よりも化学量論的に過剰になるように、元素Yの原料と元素Xの原料を用いることが好ましく、Y原子とX原子の割合がモル比で1:0.1〜1:1になるように用いることがより好ましく、1:0.5〜1:0.8になるように用いることが特に好ましい。
【0033】
さらに、溶媒中の元素Xの原料および元素Yの原料の濃度は、反応性および生成する微粒子の反応性や分散性などの面から、Y濃度で、通常0.005〜0.5モル/L程度、好ましくは0.01〜0.1モル/Lである。
【0034】
次に、(b)工程において、前記(a)工程で調製した混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応を行う。
【0035】
本発明者は、前記元素Xの原料と元素Yの原料との溶媒中での反応において、反応温度により、生成する微粒子の粒径を制御し得ることを見出したことにより、本発明をなすに至ったものである。
【0036】
本発明におけるInPナノ結晶の粒径制御について考察する。本発明は、例えば、脂肪酸インジウムとトリス(トリメチルシリル)ホスフィン[P(TMS)3]を、トリオクチルホスフィン溶媒中において、室温であらかじめ混合しておき、所定の温度まで加熱することにより、生成するInPナノ結晶の粒径を反応温度のみによって制御するものである。このInPナノ結晶の粒径制御を加熱温度のみによって制御することができる理由は、InPナノ結晶の成長過程がOstwald成長(粒子同士が融合することで粒子が成長すること)に支配されていることによるものと考えられる。すなわち、室温においても脂肪酸インジウムとP(TMS)3は反応し、In−P結合を有する微小クラスターを形成していると考えられる。反応溶液を加熱していくと、〜80℃においてベータ脱離によって脂肪酸シリルエステルがクラスターから脱離することにより、閃亜鉛鉱型の単位胞を有するInP微結晶が生成される。このInP微結晶はサイズ効果のために温度によって安定に構造を保てる粒子のサイズに下限があると考えられる。この下限サイズは温度の上昇に伴って大きくなるため、より小さな微結晶はより低い温度で不安定な状態となり、衝突・融合によって安定に構造を保てる粒子サイズまで会合成長を行なう。会合成長はその不安定性のため下限サイズ以下の粒子同士の融合が優先されると考えられる。従って反応溶液の温度が上昇すると、それ以下の温度では安定であった粒子であっても下限粒子サイズを下回った際には会合成長を開始し、安定に構造を保てるサイズに至った時点で成長を停止する。反応溶液の昇温中はこの過程が繰り返されると考えられる。従ってある温度で反応溶液の温度上昇が停止し一定となった場合、溶液中には下限サイズよりも若干大きな粒子のみが存在することとなる。このため、本発明では昇温速度や反応時間によらず、反応温度のみによってInPナノ結晶の粒径を制御することが可能であると考えられる。
【0037】
本発明は、従来用いられてきた「反応時間による粒径制御」とは異なる成長過程に基づくものと考えている。本発明の成長過程は、共有結合性の高い微粒子、すなわち15族―13族化合物や、12−14−15族カルコパイライト型化合物(例:ZnGeP2)などに適している。
【0038】
図1は、トリオクチルホスフィン中におけるミリスチン酸インジウムとP(TMS)3との反応において、反応温度と生成InP微粒子の平均粒径との関係を示すグラフである(実施例2参照)。
【0039】
図1から、反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との間に相関関係を有し、反応温度が高くなるに伴い、InP微粒子の平均粒径が大きくなることが分かる。したがって、予め製造しようとする微粒子を得る反応における同一の原料および溶媒を用い、同一の反応条件における反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係を求めておき、その相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応させることにより、所望の平均粒径を有する微粒子を製造することができる。
【0040】
すなわち、本発明の方法によれば、反応温度により、生成する微粒子の粒径を容易に制御することが可能である。また、発光波長は粒子サイズによって変化する(粒子サイズが小さくなると、発光波長は短波長側にシフトする。)ことが知られており、したがって、反応温度により、発光波長の制御が可能となる。
【0041】
本発明においては、反応温度は、反応速度、生成する微粒子の粒径や分散性および使用する溶媒の沸点や熱安定性などの面から、通常80〜350℃程度、好ましくは120〜300℃である。
【0042】
反応圧力については特に制限はなく、常圧または加圧下で反応を行うことができる。通常、使用する溶媒の沸点が反応温度以上であれば、常圧下で反応が行われ、該沸点が反応温度未満であれば、自発圧力下で反応が行われる。
【0043】
反応時間は、反応温度、元素Xの原料や元素Yの原料の種類および溶媒の種類などに左右され、一概に定めることはできないが、通常1〜600分程度、好ましくは5〜300分、より好ましくは5〜200分である。
【0044】
本発明の方法は、得られる微粒子の平均粒径が、反応開始時の昇温速度、反応時の加熱時間(反応時間)、反応終了後の冷却速度に依存しないので、得られる微粒子の粒径制御が極めて容易であるという特徴を有する。
【0045】
本発明の方法においては、粒径分布と操作の簡便性の観点から、前記(a)工程および(b)工程は、いずれもバッチ式で実施することが好ましい。
【0046】
このようにして、平均粒径が1〜10nm程度の微粒子を、簡単な手段で容易に製造することができる。
【0047】
本発明の方法は、特に微粒子としてInP微粒子の製造に適用するのが望ましい。この場合、InP微粒子の製造に用いられるIn原料としては、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムが好ましい。特にインジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムが好ましい。
【0048】
ここで、インジウムトリアルコキシドとしては、例えばインジウムトリメトキシド、インジウムトリエトキシド、インジウムトリ−n−プロポキシド、インジウムトリイソプロポキシド、インジウムトリ−n−ブトキシド、インジウムトリイソブトキシド、インジウムトリ−sec−ブトキシドなどを用いることができる。
【0049】
また、有機モノカルボン酸無水物としては、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸の無水物であることが好ましい。この長鎖脂肪酸の無水物としては、例えばデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、オレイン酸など脂肪酸の無水物を挙げることができる。
【0050】
インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物との反応は、これらを溶解し、かつ反応温度において、前記各化合物と反応しない溶媒中で行うことが好ましい。
このような方法により得られる脂肪酸インジウムは、例えばエタノールなどの洗浄により、副生する脂肪酸アルキルエステルを除去することができ、精製脂肪酸インジウムを得ることができる。
【0051】
従来の脂肪酸インジウムの製造方法としては、例えば(1)酢酸インジウムを当量の脂肪酸を含むオクタデセン溶液中で加熱し、酢酸を揮発させて、脂肪酸インジウムを得る方法や、(2)インジウムトリシクロペンタジエニルと脂肪酸との反応によって、脂肪酸インジウムを得る方法が知られている。しかし、前記(1)の方法においては、系中に未反応の脂肪酸が残留する可能性と副生する酢酸が系中に残留する可能性があることが欠点である。これらは系中に活性プロトンを供与するため、脂肪酸インジウムとP(TMS)3などとの反応において、P(TMS)3などを分解し有毒ガスであるホスフィンを発生させる原因となる。
【0052】
また、前記(2)の方法においては、インジウムトリシクロペンタジエニルは非常に反応高活性かつ熱的に不安定で、酸素や水と接触すると発火する危険性があるほか、その保管や取り扱いには厳重な注意と相応の設備を要求すると共に、入手性が困難であり、また、脂肪酸の残留による悪影響は、前記(1)の場合と同様である。
【0053】
これに対し、本発明のように、インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物との反応により、脂肪酸インジウムを得る方法は、原料として活性プロトンを有する化合物を用いていないため、P(TMS)3などの活性プロトンによる分解が皆無である上、副生する脂肪酸アルキルエステルは、InPの生成になんら影響せず、かつエタノールなどの洗浄により、容易に除去可能であり、しかも原料化合物の入手が容易である。
【0054】
本発明はまた、インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物とを反応させることを特徴とする有機カルボン酸インジウムの製造方法をも提供する。この製造方法の詳細については、前述したとおりである。
【0055】
InP結晶の製造においては、前述のようにして得られた脂肪酸インジウムと、Pn(SiR1 3)mやPHp(SiR2 3)q(n、m、p、q、R1及びR2は、前記と同じである。)と、溶媒とを含む混合溶液を、予め求めておいた反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応させることにより、所望の粒径のInP微粒子を製造することができる。反応温度は、好ましくは80〜350℃の範囲で選ばれる。また、得られるInP微粒子としては、平均粒径1〜10nmのものが好ましい。この場合、InP微粒子の発光波長は450〜800nm程度である。
【0056】
このようにして形成されたInP微粒子は、その表面に長鎖アルキル基または長鎖アルケニル基を有する分子が配位しているため、トルエンなどの無極性溶媒に対して高い分散性を示す。
【0057】
前記InP微粒子の表面配位分子を、極性溶媒に対して親和性の高い分子に交換することで、極性溶媒に対して高い分散性を示すInP微粒子を調製することができる。極性溶媒に対して親和性の高い分子としては、例えばヒドロキシ酢酸、メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、10−カルボキシ−1−デカンチオールなどを挙げることができる。
【0058】
本発明においては、前記のようにして作製されたInP微粒子を反応液から分離することなく、その表面にZnSeやZnSなどからなるシェルを、従来公知の方法により形成させることができる。InP微粒子の表面に、このようなシェルを形成することにより、InP微粒子内への励起子の閉じ込め効果を得ることができるため、励起子由来の発光強度を増大することが可能となる。
【0059】
本発明の微粒子の製造方法によれば、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、マイクロ流路などの特殊な装置を使用する必要がない上、複雑な条件制御を必要とせず、簡単な手段により、粒径制御(発光波長の制御)が可能に、かつ大量生産が可能に製造することができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
ミリスチン酸インジウム溶液の調製
窒素を満たしたグローブボックス中において、インジウムトリイソプロポキシド(株式会社高純度化学研究所製)879mgを、減圧蒸留によって精製したトリオクチルホスフィン(TOP:東京化成工業株式会社製)50gに溶解し、0.05mol/L溶液を調製した。
【0062】
次いで、これに、無水ミリスチン酸(東京化成工業株式会社製)3.60gを加え、60℃で10分間加熱することで、ミリスチン酸インジウムを生成させ、ミリスチン酸インジウム0.05mol/L TOP溶液を調製した。
【実施例2】
【0063】
脂肪酸インジウムを利用したInPナノ結晶の合成
(1)InP微粒子の合成
窒素を満たしたグローブボックス中において、実施例1で調製したミリスチン酸インジウム溶液1.6g(1.93mL)に、あらかじめ調製しておいたトリス(トリメチルシリル)ホスフィン[P(TMS)3](Acros Organics社製)の0.05mol/L TOP溶液1.2g(1.44mL)を加えた。オイルバスでこの反応溶液を10分間加熱することによってInP微粒子を合成した。加熱温度は100℃から300℃の間で選択した。生成するInP微粒子の平均粒径は加熱温度によって制御可能であった。その後反応溶液を室温まで自然冷却させると、TOP溶媒に分散したInP微粒子の分散液が得られた。図1に、反応温度とInP微粒子の平均粒径との関係をグラフで示す。図1から、反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との間に相関関係を有し、反応温度が100℃から300℃と高くなるに伴い、InP微粒子の平均粒径が2nmから3.5nmへと大きくなることが分った。
【0064】
表1に、反応温度を220℃と一定にし、反応時間(加熱時間)を5〜60分の間で変動させたときの反応時間とInP微粒子の平均粒径との関係を示す。
【0065】
【表1】
表1から、得られたInP微粒子の平均粒径は反応時間(加熱時間)に依存しないことが分った。
【0066】
(2)InP微粒子の分析
上記(1)で得られた分散液に、エタノール[和光純薬工業株式会社製]を約50mL加えて、InP微粒子の沈殿を生成させた。生成させた沈殿を遠心分離により分取し、これに約1mLのトルエン[和光純薬工業株式会社製]を加えることにより、InP微粒子のトルエン分散液を作製した。さらにエタノール添加−遠心分離−トルエンへの分散を数回繰り返し、分散液中に残留している遊離TOPを除去した。粒子サイズによる分級操作は行わなかった。
【0067】
加熱温度160℃から220℃によって得られたInP微粒子の希薄トルエン分散液について測定した可視紫外吸収分光スペクトルを図2に示す。量子閉じ込め効果によって短波長側にシフトしたInP微粒子のバンド間遷移に相当するピークが450〜600nmに明瞭に観察された。このピークは加熱温度が高くなるに従って長波長側にシフトすることから、生成するInP微粒子の平均粒径は加熱温度によって制御されており、加熱温度が高くなるに従って生成する微粒子の平均粒径が大きくなることが分った。
【0068】
図3に、得られたInP微粒子の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。それぞれの散乱ピークの位置が、パルクInPのピーク位置と一致していることが確認された。
【0069】
図4に、反応温度を200℃と一定にし、反応時間(加熱時間)を5〜60分の間で変動させて得られたInP微粒子の希薄トルエン分散液について測定した可視紫外吸収分光スペクトルを示す。図4から、スペクトルカーブは、反応時間が5、10、30および60分の場合においてほぼ一致しており、InP微粒子の平均粒径は反応時間に依存しないことが分った。
【0070】
(3)ZnSeシェルの作製
上記のように、加熱温度によって平均粒径を制御しつつInP微粒子を作製することが可能である。
【0071】
また、ZnSeシェルまたはZnSシェルの生成を妨げる副生成物は発生しないため、生成したInP微粒子を反応液から分離することなくシェルの構築が可能である。
【0072】
上記(1)で得たInP微粒子表面に、ZnSeやZnS等からなるシェルを構築することにより、捕獲準位からの発光を除去することができ、また、InPよりバンドギャップの広い材料で被覆することによるInP微粒子内への励起子の閉じ込め効果を得ることができるため、励起子由来の発光強度を増大することが可能である。
【0073】
まず、以下に示す手順で、ZnとSeの前駆体溶液をそれぞれ調製した。なお、特に記載が無い場合は、試薬は処理せずそのまま用いた。
【0074】
酢酸亜鉛二水和物110mgとオレイン酸735mgを、オクタデセン15g(いずれも和光純薬工業株式会社製)に添加し、窒素を吹き込みながら180℃に加熱した。これにより、水と酢酸を除去した。1時間加熱後、室温まで自然冷却させたところ、オレイン酸亜鉛の析出が確認された。冷却後、これにTOP5g(東京化成工業株式会社製)を添加し、析出したオレイン酸亜鉛が完全に溶解するまで振盪して、亜鉛前駆体溶液を調製した。
【0075】
セレン前駆体溶液は、粒状(直径約2mm)セレン494mg(ALDRICH社製)を、TOP25g(東京化成工業株式会社製)に溶解させて調製した。
【0076】
次にこのようにして調製した亜鉛前駆体溶液とセレン前駆体溶液を用いて、以下に示す手順で、InP微粒子の表面にZnSeを被覆した。
【0077】
窒素を満たしたグローブボックス中において、上記(1)で作製したInP微粒子のTOP分散液0.2gに亜鉛前駆体溶液1gとセレン前駆体溶液0.5gを加え、240℃で15時間加熱した。加熱後、室温まで自然冷却させることにより、TOP溶媒に分散したZnSe被覆InP微粒子を合成した。この際、分散液中に沈殿物は観察されなかった。
【0078】
得られた分散液に、過剰量のエタノール(和光純薬工業株式会社製)を加えて、ZnSe被覆InP微粒子の沈殿を生成させた。生成させた沈殿を遠心分離により分取し、トルエンに分散させた。ZnSe被覆InP微粒子は、トルエンへ高い分散性を示した。
【0079】
ここで、得られたZnSe被覆InP微粒子(分取したものでも良いし、トルエン分散液から溶媒除去により取り出したものでも良い)を用いて、さらに上述のZnSe被覆工程を繰り返すことにより、被覆ZnSe膜を厚くすることが可能である。InPを被覆するZnSe膜を厚くすることにより、InPの蛍光強度を向上させることができる。
【0080】
得られたZnSe被覆InP微粒子の発光スペクトルを図5に示す。InP微粒子の合成温度によって発光のピーク位置が550nmから600nmにシフトすることが観察された。発光ピークの半値幅は約70nmであった。また、発光の量子収率は約30%であった。なお、ZnSeで被覆していないもの(図示せず)と比較して、発光強度が向上していた。なお、ZnSeの被覆がInP表面上に形成することでInP微粒子の表面近傍の欠陥準位や表面準位が消失したこと、および、InP微粒子よりさらにバンドギャップの大きいZnSeの被覆によって、InP微粒子内への励起子の閉じ込め効果が得られたことによると考えられる。
【実施例3】
【0081】
水分散性InP微粒子の作製
実施例2で得られたInP微粒子およびZnSe微粒子はその表面に長鎖アルキル基を有する分子が配位しているため、トルエン等の無極性有機溶媒に対して高い分散性を示した。この表面配位分子を水と親和性の高い分子に交換することで、水に対して高い分散性を示すInP微粒子を調製することが可能である。この配位分子置換反応中にZnSeシェルは溶解してしまうが、化学的により安定なZnSシェルを最外層に導入することで、水への高い分散性と高い発光効率の両方を有するInP微粒子を作製可能である。
【0082】
(1)ZnSシェルの構築
ZnSシェルの構築は、実施例2で作製したInP微粒子TOP分散液に対しても、ZnSe被覆InP微粒子に対しても行うことが可能である。ここでは、InP微粒子へのZnSシェルの導入手法について記述する。ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(東京化成工業株式会社製)218mgを25gのTOPに溶解し、ZnS前駆体溶液を調製した。窒素を満たしたグローブボックス中において、実施例2にて作製したInP微粒子のTOP分散液(加熱温度180℃)に、ZnS前駆体溶液15gを加え、200℃で15時間加熱することで、ZnS被覆InP微粒子を作製した。微粒子の反応溶媒からの分離手法はZnSe被覆InP微粒子のそれと同様である。
【0083】
図6に、得られたZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルを示す。波長570nmに励起子緩和による発光ピークが観測された。また、ピークの長波長側には表面準位等の捕獲準位による発光が観測されなかった。このことは、ZnS被覆によってInP微粒子の表面準位が効果的に消失され、励起子の量子閉じ込めが効果的に働いたことを示している。
【0084】
(2)メルカプト酢酸への配位子の変換
上記(1)で作製したZnS被覆InP微粒子の最表面にはミリスチン酸およびTOPが配位していると考えられる。これをメルカプト酢酸に変換することにより、高極性溶媒への高い分散性を有するInP微粒子への変換が可能である。
【0085】
上記(1)で作製したZnS被覆InP微粒子(またはZnS被覆ZnSe被覆InP微粒子)を塩化メチレン(和光純薬工業株式会社製)約0.5mLに溶解した。これにメルカプト酢酸(和光純薬工業株式会社製)約0.5mLを加えると、微粒子の沈殿が発生した。さらにトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を、沈殿がすべて溶解するまで滴下した。この溶液を室温で約45分間撹拌した後、トルエンを約10mL加えて発生した沈殿を遠心分離にて分取した。この沈殿はさらに塩化メチレン、アセトン(和光純薬工業株式会社製)でそれぞれ洗浄した。発生した沈殿は水に対して良好な分散性を示した。この沈殿に純水を約0.5mL加えて分散液とし、さらにアセトンを約10mL加えて生じた沈殿(沈殿が発生しない場合は25質量%アンモニア水を数滴加えた)を遠心分離で分取した。この沈殿に純水を約1mL加えZnS被覆InP微粒子の水分散液を調製した。この分散液に不純物として微量に含まれるメルカプト酢酸および無機塩類を除去するため、遠心濃縮器(ザルトリウス社製、分画分子量50,000)を用いて透析による精製を5回行った。
【0086】
配位子置換によって水分散化したZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルを図7に示す。配位子置換によってピークの形状は変化しないことから、置換反応後もZnSが有効にInPの励起子を閉じ込めていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の微粒子の製造方法によれば、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段で粒径制御が可能に、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を製造することができる。
また、本発明の脂肪酸インジウムの製造方法によれば、InP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造することができる。
【発明の名称】微粒子の製造方法および有機カルボン酸インジウムの製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子の製造方法および有機カルボン酸インジウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段で粒径制御が可能にかつ大量生産にも適用可能に製造する方法、およびInP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体微結晶(微粒子)が注目され、その研究が盛んに行われている。半導体微結晶は、量子閉じ込め効果を利用することによって、同一材料でも粒径制御により発光波長を制御可能であるという特徴があり、発光中心材料として期待されている。
なかでもCdSe微結晶は、製造が容易であり、CdSe粒径の制御も比較的容易であることから、利用性が高く、研究が進んでいるが、Cd由来の毒性を有するという欠点がある。
一方InP微結晶は、Cdのような毒性の問題が無いため、新たな発光中心として注目されてきている。
【0003】
InPの合成法としては、これまで種々の方法が知られている。例えば、(1)ウェットプロセスとして、溶媒にP((CH2)7CH3)3とOP((CH2)7CH3)3の混合物を用い、In原料としてInCl(COO)2を用い、P原料としてP(Si(CH3)3)3(以下、P(TMS)3と記すことがある。)を用いて、260〜300℃にて3〜6日間反応させて合成する方法(例えば、非特許文献1参照)、(2)In原料としてIn(OR)3を用い、P原料として過剰のP(TMS)3を用い、沸騰ピリジン溶液中で反応させて、トルエンに可溶なアモルファスのInP(詳しくは、InP[P(TMS)3]x)を直接生成する方法(例えば、非特許文献2参照)などが報告されている。
【0004】
しかしながら、前記(1)の方法においては、合成に長時間を要し、生産性に劣り、工業的に実施するには、満足し得る方法とはいえない。また、(2)の方法においては、生成するInPはアモルファスのものであり、発光中心などの発光材料として使用できない。
さらに、従来の方法で得られるInP粒子は、溶液中での分散性が悪く、反応中に沈降しやすいという欠点を有している。
【0005】
また、長鎖脂肪酸インジウム塩のオクタデセン(ODE)溶液を所定の温度まで加熱しておき、そこにトリス(トリメチルシリル)ホスフィン(P(TMS)3)のODE溶液をできるだけ短時間に注入することでInPナノ結晶を合成する方法が報告されている(例えば、非特許文献3および非特許文献4参照)。
【0006】
この方法においては、生成する微粒子のサイズは、反応時間によって制御されている。すなわち、P(TMS)3を可能な限り速やかに反応容器に投入することにより結晶核を均一に系中に発生させ、続いて起こる粒子成長反応の開始点を系中のすべての粒子について同じにし、粒子のある成長段階で急速に反応を停止することで、粒子のサイズ分布をそろえて合成するというものである。したがってこの手法では反応時間によって粒子サイズを変化させようとしているが、粒子サイズの制御性は劣悪である。
【0007】
さらに、酢酸インジウムとミリスチン酸やパルミチン酸などの配位子とオクタデセンなどの非配位性溶媒とを含む溶液を300℃程度の高温に加熱し、これにP(TMS)3を含むオクタデセン溶液を1回又は多数回注入したのち、250〜270℃程度で反応させ、InPナノ結晶を生成させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、この反応においては、副生する酢酸が系内に残留するおそれがあると共に、系中の活性プロトンの存在により、P(TMS)3が分解して、有毒なホスフィンが発生するおそれがある。
このように、ウェットプロセスによるInP微粒子の製造に関しては、種々の方法が知られているが、これまで、反応温度と生成するInP微粒子の粒径との関係については、なんら言及されていない。ましてや反応温度によって、生成するInP微粒子の粒径を制御することは、これまで行われていなかった。
【0009】
一方、InP微粒子の合成原料の一つとして用いられる脂肪酸インジウムは、例えば(1)酢酸インジウムを当量の脂肪酸を含むオクタデセン溶液中で加熱し、酢酸を揮発させて、脂肪酸インジウムを得る方法(例えば、非特許文献3参照)、および(2)インジウムトリシクロペンタジエニルと脂肪酸との反応によって、脂肪酸インジウムを得る方法(例えば、非特許文献4参照)が知られている。
しかしながら、前記(1)の方法においては、系中に未反応の脂肪酸が残留する可能性と副生する酢酸が系中に残留する可能性があることが欠点である。これらは系中に活性プロトンを供与するため、P(TMS)3を分解して有毒ガスであるホスフィンを発生させる原因となる。
【0010】
また、前記(2)の方法においては、インジウムトリシクロペンタジエニルは、非常に反応高活性かつ熱的に不安定で、酸素や水と接触すると発火する危険性があるほか、その保管や取り扱いには厳重な注意と相応の設備を要求する。調べた限りでは取り扱っている試薬会社は皆無であり、原料合成が必要であるが、上記理由により大変に困難である。また、脂肪酸の残留による悪影響は前者の手法と同様である。
【先行技術文献】
【0011】
【特許文献】
【特許文献1】特表2005−521755号公報
【非特許文献】
【非特許文献1】「J.Phys.Chem.」、第98巻、第4966頁(1994年)
【非特許文献2】「Polyhedron」、第13巻、第1131頁(1994年)
【非特許文献3】「Nano Lett.」、第2巻、第1027頁(2002年)
【非特許文献4】「Chem.Mater.」、第17巻、第3754頁(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような事情のもとで、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段で粒径制御が可能にかつ大量生産にも適用可能に製造する方法、およびInP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造する方法を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子を製造するに際し、前記元素Xの原料と元素Yの原料との溶媒中での反応において、反応温度により、生成する微粒子の粒径を制御し得ることに着目し、前記元素Xの原料と元素Yの原料と溶媒を含む混合溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる簡単な手段によって、所望の平均粒径を有する微粒子が得られることを見出した。
【0014】
また、前記元素Yの原料として用いられる有機カルボン酸インジウムを、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させることにより、簡易にかつ工業的に有利に製造し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1) P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子の製造方法であって、
(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および
(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程、
を有することを特徴とする微粒子の製造方法、
(2) 元素Xの原料が、一般式(I)
Xn(SiR1 3)m …(I)
および/または一般式(II)
XHp(SiR2 3)q …(II)
(式中、n、m、pおよびqは、それぞれ1以上の整数、R1およびR2は、それぞれアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
で表される化合物を含む上記(1)項に記載の方法、
(3) 元素Yの原料が、有機オキソ酸塩またはアルコキシドを含む上記(1)または(2)項に記載の方法、
(4) 反応温度が80〜350℃である上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の方法、
(5) 微粒子が、InP微粒子である上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の方法、
(6) InP微粒子の製造に用いられるIn原料が、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムである上記(5)項に記載の方法、
(7) 微粒子の平均粒径が、1〜10nmである上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載の方法、
(8) (a)工程および(b)工程は、いずれもバッチ式で実施する上記(1)〜(7)項のいずれか1項に記載の方法、
(9) インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させることを特徴とする有機カルボン酸インジウムの製造方法、および
(10) 有機カルボン酸無水物が、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸の無水物である上記(9)項に記載の方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段により、粒径制御が可能に、かつ大量生産にも適用可能な方法で製造することができる。
【0017】
また、InP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例2における反応温度とInP微粒子の平均粒径との関係を示すグラフである。
【図2】実施例2において反応温度を160〜220℃の間で変動させて得られたInP微粒子の可視紫外吸収分光スペクトルである。
【図3】実施例2において反応温度を160〜220℃の間で変動させて得られたInP微粒子のXRDパターンである。
【図4】実施例2で反応温度を220℃と一定にし、反応時間を5〜60分の間で変動させて得られたInP微粒子の可視紫外線吸収分光スペクトルである。
【図5】実施例2で得られたZnSe被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
【図6】実施例3で得られたZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
【図7】実施例3で得られた水分散化してなるZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の微粒子の製造方法は、P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子を製造する方法であり、
(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および
(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程、
を有する。
【0020】
前記のP、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xの原料としては、例えば一般式(I)
Xn(SiR1 3)m …(I)
および/または一般式(II)
XHp(SiR2 3)q …(II)
(式中、n、m、pおよびqは、それぞれ1以上の整数、R1およびR2は、それぞれアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
で表される化合物を含む原料を用いることができる。
【0021】
前記の一般式(I)および一般式(II)において、R1およびR2のうちのアルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐を有するアルキル基を挙げることができる。このようなアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基などを挙げることができる。
【0022】
また、R1およびR2のうちのアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基を挙げることができ、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられる。さらに、アラルキル基としては、炭素数7〜10のアラルキル基を挙げることができ、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基、メチルフェネチル基などが挙げられる。
3つのR1および3つのR2は、それぞれにおいて、たがいに同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
一般式(I)Xn(SiR1 3)mで表される化合物の中では、XがPである化合物が好ましく、Pn(SiR1 3)mで表される化合物としては、例えばトリス(トリメチルシリル)ホスフィン、トリス(トリエチルシリル)ホスフィン、トリス(トリ−n−プロピルシリル)ホスフィン、トリス(トリイソプロピルシリル)ホスフィン、トリス(ジメチルフェニルシリル)ホスフィン、トリス(ジメチルベンジルシリル)ホスフィンなどが挙げられる。
【0024】
また、一般式(II)XHp(SiR2 3)qで表される化合物の中では、XがPである化合物が好ましく、PHp(SiR2 3)qで表される化合物としては、例えばビス(トリメチルシリル)ホスフィンPH(Si(CH3)3)2などが挙げられる。
【0025】
これらの元素Xの原料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、反応性などの観点から、トリス(トリメチルシリル)ホスフィンが好適である。
【0026】
一方、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yの原料としては、有機オキソ酸塩またはアルコキシドを含む原料を用いることができる。
【0027】
前記有機オキソ酸塩としては、有機カルボン酸塩[A−C(=O)O−]、有機リン酸塩[A−O−P(=O)(−O)O−]、有機ホスホン酸塩[A−P(=O)(−O)O−]、有機スルホン酸塩[A−S(=O)(=O)O−]などを用いることができる。
【0028】
これらの有機オキソ酸塩と、前記Xn(SiR1 3)mやXHp(SiR2 3)qとの反応においては、有機カルボン酸塩である場合、A−C(=O)O−SiR3(R=R1またはR2)として、有機リン酸塩である場合、A−O−P(=O)(−O)O−SiR3として、有機ホスホン酸塩である場合、A−P(=O)(−O)O−SiR3として、有機スルホン酸塩である場合、A−S(=O)(=O)O−SiR3として、それぞれ6員環経由で脱離する。また、元素Yの原料がアルコキシド[AO−]である場合、A−O−SiR3として4員環経由で脱離する。
なお、前記Aはアルキル基またはアルケニル基を示す。
【0029】
本発明においては、前記元素Yの原料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で生成する微粒子の無極性溶媒に対する分散性や原料の合成の容易さなどの観点から、有機カルボン酸塩が好適である。この有機カルボン酸塩を構成する有機カルボン酸としては、有機モノカルボン酸が好ましく、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸がより好ましい。炭素数4〜30の長鎖脂肪酸としては、例えばデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、オレイン酸などを挙げることができる。
【0030】
本発明においては、反応溶媒として、反応条件下で元素Xの原料および元素Yの原料とは反応せず、かつ原料である脂肪酸In塩が溶解されるものであればよい。
【0031】
本発明においては、まず(a)工程において、前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、前記溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する。混合原料を溶媒中に混合する温度は10〜40℃(室温)が好ましい。
【0032】
元素Yの原料と元素Xの原料との使用割合については、得られる微粒子の溶媒への分散性などの面から、Y原子の量が、X原子の量よりも化学量論的に過剰になるように、元素Yの原料と元素Xの原料を用いることが好ましく、Y原子とX原子の割合がモル比で1:0.1〜1:1になるように用いることがより好ましく、1:0.5〜1:0.8になるように用いることが特に好ましい。
【0033】
さらに、溶媒中の元素Xの原料および元素Yの原料の濃度は、反応性および生成する微粒子の反応性や分散性などの面から、Y濃度で、通常0.005〜0.5モル/L程度、好ましくは0.01〜0.1モル/Lである。
【0034】
次に、(b)工程において、前記(a)工程で調製した混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応を行う。
【0035】
本発明者は、前記元素Xの原料と元素Yの原料との溶媒中での反応において、反応温度により、生成する微粒子の粒径を制御し得ることを見出したことにより、本発明をなすに至ったものである。
【0036】
本発明におけるInPナノ結晶の粒径制御について考察する。本発明は、例えば、脂肪酸インジウムとトリス(トリメチルシリル)ホスフィン[P(TMS)3]を、トリオクチルホスフィン溶媒中において、室温であらかじめ混合しておき、所定の温度まで加熱することにより、生成するInPナノ結晶の粒径を反応温度のみによって制御するものである。このInPナノ結晶の粒径制御を加熱温度のみによって制御することができる理由は、InPナノ結晶の成長過程がOstwald成長(粒子同士が融合することで粒子が成長すること)に支配されていることによるものと考えられる。すなわち、室温においても脂肪酸インジウムとP(TMS)3は反応し、In−P結合を有する微小クラスターを形成していると考えられる。反応溶液を加熱していくと、〜80℃においてベータ脱離によって脂肪酸シリルエステルがクラスターから脱離することにより、閃亜鉛鉱型の単位胞を有するInP微結晶が生成される。このInP微結晶はサイズ効果のために温度によって安定に構造を保てる粒子のサイズに下限があると考えられる。この下限サイズは温度の上昇に伴って大きくなるため、より小さな微結晶はより低い温度で不安定な状態となり、衝突・融合によって安定に構造を保てる粒子サイズまで会合成長を行なう。会合成長はその不安定性のため下限サイズ以下の粒子同士の融合が優先されると考えられる。従って反応溶液の温度が上昇すると、それ以下の温度では安定であった粒子であっても下限粒子サイズを下回った際には会合成長を開始し、安定に構造を保てるサイズに至った時点で成長を停止する。反応溶液の昇温中はこの過程が繰り返されると考えられる。従ってある温度で反応溶液の温度上昇が停止し一定となった場合、溶液中には下限サイズよりも若干大きな粒子のみが存在することとなる。このため、本発明では昇温速度や反応時間によらず、反応温度のみによってInPナノ結晶の粒径を制御することが可能であると考えられる。
【0037】
本発明は、従来用いられてきた「反応時間による粒径制御」とは異なる成長過程に基づくものと考えている。本発明の成長過程は、共有結合性の高い微粒子、すなわち15族―13族化合物や、12−14−15族カルコパイライト型化合物(例:ZnGeP2)などに適している。
【0038】
図1は、トリオクチルホスフィン中におけるミリスチン酸インジウムとP(TMS)3との反応において、反応温度と生成InP微粒子の平均粒径との関係を示すグラフである(実施例2参照)。
【0039】
図1から、反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との間に相関関係を有し、反応温度が高くなるに伴い、InP微粒子の平均粒径が大きくなることが分かる。したがって、予め製造しようとする微粒子を得る反応における同一の原料および溶媒を用い、同一の反応条件における反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係を求めておき、その相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応させることにより、所望の平均粒径を有する微粒子を製造することができる。
【0040】
すなわち、本発明の方法によれば、反応温度により、生成する微粒子の粒径を容易に制御することが可能である。また、発光波長は粒子サイズによって変化する(粒子サイズが小さくなると、発光波長は短波長側にシフトする。)ことが知られており、したがって、反応温度により、発光波長の制御が可能となる。
【0041】
本発明においては、反応温度は、反応速度、生成する微粒子の粒径や分散性および使用する溶媒の沸点や熱安定性などの面から、通常80〜350℃程度、好ましくは120〜300℃である。
【0042】
反応圧力については特に制限はなく、常圧または加圧下で反応を行うことができる。通常、使用する溶媒の沸点が反応温度以上であれば、常圧下で反応が行われ、該沸点が反応温度未満であれば、自発圧力下で反応が行われる。
【0043】
反応時間は、反応温度、元素Xの原料や元素Yの原料の種類および溶媒の種類などに左右され、一概に定めることはできないが、通常1〜600分程度、好ましくは5〜300分、より好ましくは5〜200分である。
【0044】
本発明の方法は、得られる微粒子の平均粒径が、反応開始時の昇温速度、反応時の加熱時間(反応時間)、反応終了後の冷却速度に依存しないので、得られる微粒子の粒径制御が極めて容易であるという特徴を有する。
【0045】
本発明の方法においては、粒径分布と操作の簡便性の観点から、前記(a)工程および(b)工程は、いずれもバッチ式で実施することが好ましい。
【0046】
このようにして、平均粒径が1〜10nm程度の微粒子を、簡単な手段で容易に製造することができる。
【0047】
本発明の方法は、特に微粒子としてInP微粒子の製造に適用するのが望ましい。この場合、InP微粒子の製造に用いられるIn原料としては、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムが好ましい。特にインジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムが好ましい。
【0048】
ここで、インジウムトリアルコキシドとしては、例えばインジウムトリメトキシド、インジウムトリエトキシド、インジウムトリ−n−プロポキシド、インジウムトリイソプロポキシド、インジウムトリ−n−ブトキシド、インジウムトリイソブトキシド、インジウムトリ−sec−ブトキシドなどを用いることができる。
【0049】
また、有機モノカルボン酸無水物としては、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸の無水物であることが好ましい。この長鎖脂肪酸の無水物としては、例えばデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸、オレイン酸など脂肪酸の無水物を挙げることができる。
【0050】
インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物との反応は、これらを溶解し、かつ反応温度において、前記各化合物と反応しない溶媒中で行うことが好ましい。
このような方法により得られる脂肪酸インジウムは、例えばエタノールなどの洗浄により、副生する脂肪酸アルキルエステルを除去することができ、精製脂肪酸インジウムを得ることができる。
【0051】
従来の脂肪酸インジウムの製造方法としては、例えば(1)酢酸インジウムを当量の脂肪酸を含むオクタデセン溶液中で加熱し、酢酸を揮発させて、脂肪酸インジウムを得る方法や、(2)インジウムトリシクロペンタジエニルと脂肪酸との反応によって、脂肪酸インジウムを得る方法が知られている。しかし、前記(1)の方法においては、系中に未反応の脂肪酸が残留する可能性と副生する酢酸が系中に残留する可能性があることが欠点である。これらは系中に活性プロトンを供与するため、脂肪酸インジウムとP(TMS)3などとの反応において、P(TMS)3などを分解し有毒ガスであるホスフィンを発生させる原因となる。
【0052】
また、前記(2)の方法においては、インジウムトリシクロペンタジエニルは非常に反応高活性かつ熱的に不安定で、酸素や水と接触すると発火する危険性があるほか、その保管や取り扱いには厳重な注意と相応の設備を要求すると共に、入手性が困難であり、また、脂肪酸の残留による悪影響は、前記(1)の場合と同様である。
【0053】
これに対し、本発明のように、インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物との反応により、脂肪酸インジウムを得る方法は、原料として活性プロトンを有する化合物を用いていないため、P(TMS)3などの活性プロトンによる分解が皆無である上、副生する脂肪酸アルキルエステルは、InPの生成になんら影響せず、かつエタノールなどの洗浄により、容易に除去可能であり、しかも原料化合物の入手が容易である。
【0054】
本発明はまた、インジウムトリアルコキシドと有機モノカルボン酸無水物とを反応させることを特徴とする有機カルボン酸インジウムの製造方法をも提供する。この製造方法の詳細については、前述したとおりである。
【0055】
InP結晶の製造においては、前述のようにして得られた脂肪酸インジウムと、Pn(SiR1 3)mやPHp(SiR2 3)q(n、m、p、q、R1及びR2は、前記と同じである。)と、溶媒とを含む混合溶液を、予め求めておいた反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させて反応させることにより、所望の粒径のInP微粒子を製造することができる。反応温度は、好ましくは80〜350℃の範囲で選ばれる。また、得られるInP微粒子としては、平均粒径1〜10nmのものが好ましい。この場合、InP微粒子の発光波長は450〜800nm程度である。
【0056】
このようにして形成されたInP微粒子は、その表面に長鎖アルキル基または長鎖アルケニル基を有する分子が配位しているため、トルエンなどの無極性溶媒に対して高い分散性を示す。
【0057】
前記InP微粒子の表面配位分子を、極性溶媒に対して親和性の高い分子に交換することで、極性溶媒に対して高い分散性を示すInP微粒子を調製することができる。極性溶媒に対して親和性の高い分子としては、例えばヒドロキシ酢酸、メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、10−カルボキシ−1−デカンチオールなどを挙げることができる。
【0058】
本発明においては、前記のようにして作製されたInP微粒子を反応液から分離することなく、その表面にZnSeやZnSなどからなるシェルを、従来公知の方法により形成させることができる。InP微粒子の表面に、このようなシェルを形成することにより、InP微粒子内への励起子の閉じ込め効果を得ることができるため、励起子由来の発光強度を増大することが可能となる。
【0059】
本発明の微粒子の製造方法によれば、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を、マイクロ流路などの特殊な装置を使用する必要がない上、複雑な条件制御を必要とせず、簡単な手段により、粒径制御(発光波長の制御)が可能に、かつ大量生産が可能に製造することができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
ミリスチン酸インジウム溶液の調製
窒素を満たしたグローブボックス中において、インジウムトリイソプロポキシド(株式会社高純度化学研究所製)879mgを、減圧蒸留によって精製したトリオクチルホスフィン(TOP:東京化成工業株式会社製)50gに溶解し、0.05mol/L溶液を調製した。
【0062】
次いで、これに、無水ミリスチン酸(東京化成工業株式会社製)3.60gを加え、60℃で10分間加熱することで、ミリスチン酸インジウムを生成させ、ミリスチン酸インジウム0.05mol/L TOP溶液を調製した。
【実施例2】
【0063】
脂肪酸インジウムを利用したInPナノ結晶の合成
(1)InP微粒子の合成
窒素を満たしたグローブボックス中において、実施例1で調製したミリスチン酸インジウム溶液1.6g(1.93mL)に、あらかじめ調製しておいたトリス(トリメチルシリル)ホスフィン[P(TMS)3](Acros Organics社製)の0.05mol/L TOP溶液1.2g(1.44mL)を加えた。オイルバスでこの反応溶液を10分間加熱することによってInP微粒子を合成した。加熱温度は100℃から300℃の間で選択した。生成するInP微粒子の平均粒径は加熱温度によって制御可能であった。その後反応溶液を室温まで自然冷却させると、TOP溶媒に分散したInP微粒子の分散液が得られた。図1に、反応温度とInP微粒子の平均粒径との関係をグラフで示す。図1から、反応温度と生成するInP微粒子の平均粒径との間に相関関係を有し、反応温度が100℃から300℃と高くなるに伴い、InP微粒子の平均粒径が2nmから3.5nmへと大きくなることが分った。
【0064】
表1に、反応温度を220℃と一定にし、反応時間(加熱時間)を5〜60分の間で変動させたときの反応時間とInP微粒子の平均粒径との関係を示す。
【0065】
【表1】
表1から、得られたInP微粒子の平均粒径は反応時間(加熱時間)に依存しないことが分った。
【0066】
(2)InP微粒子の分析
上記(1)で得られた分散液に、エタノール[和光純薬工業株式会社製]を約50mL加えて、InP微粒子の沈殿を生成させた。生成させた沈殿を遠心分離により分取し、これに約1mLのトルエン[和光純薬工業株式会社製]を加えることにより、InP微粒子のトルエン分散液を作製した。さらにエタノール添加−遠心分離−トルエンへの分散を数回繰り返し、分散液中に残留している遊離TOPを除去した。粒子サイズによる分級操作は行わなかった。
【0067】
加熱温度160℃から220℃によって得られたInP微粒子の希薄トルエン分散液について測定した可視紫外吸収分光スペクトルを図2に示す。量子閉じ込め効果によって短波長側にシフトしたInP微粒子のバンド間遷移に相当するピークが450〜600nmに明瞭に観察された。このピークは加熱温度が高くなるに従って長波長側にシフトすることから、生成するInP微粒子の平均粒径は加熱温度によって制御されており、加熱温度が高くなるに従って生成する微粒子の平均粒径が大きくなることが分った。
【0068】
図3に、得られたInP微粒子の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。それぞれの散乱ピークの位置が、パルクInPのピーク位置と一致していることが確認された。
【0069】
図4に、反応温度を200℃と一定にし、反応時間(加熱時間)を5〜60分の間で変動させて得られたInP微粒子の希薄トルエン分散液について測定した可視紫外吸収分光スペクトルを示す。図4から、スペクトルカーブは、反応時間が5、10、30および60分の場合においてほぼ一致しており、InP微粒子の平均粒径は反応時間に依存しないことが分った。
【0070】
(3)ZnSeシェルの作製
上記のように、加熱温度によって平均粒径を制御しつつInP微粒子を作製することが可能である。
【0071】
また、ZnSeシェルまたはZnSシェルの生成を妨げる副生成物は発生しないため、生成したInP微粒子を反応液から分離することなくシェルの構築が可能である。
【0072】
上記(1)で得たInP微粒子表面に、ZnSeやZnS等からなるシェルを構築することにより、捕獲準位からの発光を除去することができ、また、InPよりバンドギャップの広い材料で被覆することによるInP微粒子内への励起子の閉じ込め効果を得ることができるため、励起子由来の発光強度を増大することが可能である。
【0073】
まず、以下に示す手順で、ZnとSeの前駆体溶液をそれぞれ調製した。なお、特に記載が無い場合は、試薬は処理せずそのまま用いた。
【0074】
酢酸亜鉛二水和物110mgとオレイン酸735mgを、オクタデセン15g(いずれも和光純薬工業株式会社製)に添加し、窒素を吹き込みながら180℃に加熱した。これにより、水と酢酸を除去した。1時間加熱後、室温まで自然冷却させたところ、オレイン酸亜鉛の析出が確認された。冷却後、これにTOP5g(東京化成工業株式会社製)を添加し、析出したオレイン酸亜鉛が完全に溶解するまで振盪して、亜鉛前駆体溶液を調製した。
【0075】
セレン前駆体溶液は、粒状(直径約2mm)セレン494mg(ALDRICH社製)を、TOP25g(東京化成工業株式会社製)に溶解させて調製した。
【0076】
次にこのようにして調製した亜鉛前駆体溶液とセレン前駆体溶液を用いて、以下に示す手順で、InP微粒子の表面にZnSeを被覆した。
【0077】
窒素を満たしたグローブボックス中において、上記(1)で作製したInP微粒子のTOP分散液0.2gに亜鉛前駆体溶液1gとセレン前駆体溶液0.5gを加え、240℃で15時間加熱した。加熱後、室温まで自然冷却させることにより、TOP溶媒に分散したZnSe被覆InP微粒子を合成した。この際、分散液中に沈殿物は観察されなかった。
【0078】
得られた分散液に、過剰量のエタノール(和光純薬工業株式会社製)を加えて、ZnSe被覆InP微粒子の沈殿を生成させた。生成させた沈殿を遠心分離により分取し、トルエンに分散させた。ZnSe被覆InP微粒子は、トルエンへ高い分散性を示した。
【0079】
ここで、得られたZnSe被覆InP微粒子(分取したものでも良いし、トルエン分散液から溶媒除去により取り出したものでも良い)を用いて、さらに上述のZnSe被覆工程を繰り返すことにより、被覆ZnSe膜を厚くすることが可能である。InPを被覆するZnSe膜を厚くすることにより、InPの蛍光強度を向上させることができる。
【0080】
得られたZnSe被覆InP微粒子の発光スペクトルを図5に示す。InP微粒子の合成温度によって発光のピーク位置が550nmから600nmにシフトすることが観察された。発光ピークの半値幅は約70nmであった。また、発光の量子収率は約30%であった。なお、ZnSeで被覆していないもの(図示せず)と比較して、発光強度が向上していた。なお、ZnSeの被覆がInP表面上に形成することでInP微粒子の表面近傍の欠陥準位や表面準位が消失したこと、および、InP微粒子よりさらにバンドギャップの大きいZnSeの被覆によって、InP微粒子内への励起子の閉じ込め効果が得られたことによると考えられる。
【実施例3】
【0081】
水分散性InP微粒子の作製
実施例2で得られたInP微粒子およびZnSe微粒子はその表面に長鎖アルキル基を有する分子が配位しているため、トルエン等の無極性有機溶媒に対して高い分散性を示した。この表面配位分子を水と親和性の高い分子に交換することで、水に対して高い分散性を示すInP微粒子を調製することが可能である。この配位分子置換反応中にZnSeシェルは溶解してしまうが、化学的により安定なZnSシェルを最外層に導入することで、水への高い分散性と高い発光効率の両方を有するInP微粒子を作製可能である。
【0082】
(1)ZnSシェルの構築
ZnSシェルの構築は、実施例2で作製したInP微粒子TOP分散液に対しても、ZnSe被覆InP微粒子に対しても行うことが可能である。ここでは、InP微粒子へのZnSシェルの導入手法について記述する。ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(東京化成工業株式会社製)218mgを25gのTOPに溶解し、ZnS前駆体溶液を調製した。窒素を満たしたグローブボックス中において、実施例2にて作製したInP微粒子のTOP分散液(加熱温度180℃)に、ZnS前駆体溶液15gを加え、200℃で15時間加熱することで、ZnS被覆InP微粒子を作製した。微粒子の反応溶媒からの分離手法はZnSe被覆InP微粒子のそれと同様である。
【0083】
図6に、得られたZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルを示す。波長570nmに励起子緩和による発光ピークが観測された。また、ピークの長波長側には表面準位等の捕獲準位による発光が観測されなかった。このことは、ZnS被覆によってInP微粒子の表面準位が効果的に消失され、励起子の量子閉じ込めが効果的に働いたことを示している。
【0084】
(2)メルカプト酢酸への配位子の変換
上記(1)で作製したZnS被覆InP微粒子の最表面にはミリスチン酸およびTOPが配位していると考えられる。これをメルカプト酢酸に変換することにより、高極性溶媒への高い分散性を有するInP微粒子への変換が可能である。
【0085】
上記(1)で作製したZnS被覆InP微粒子(またはZnS被覆ZnSe被覆InP微粒子)を塩化メチレン(和光純薬工業株式会社製)約0.5mLに溶解した。これにメルカプト酢酸(和光純薬工業株式会社製)約0.5mLを加えると、微粒子の沈殿が発生した。さらにトリエチルアミン(関東化学株式会社製)を、沈殿がすべて溶解するまで滴下した。この溶液を室温で約45分間撹拌した後、トルエンを約10mL加えて発生した沈殿を遠心分離にて分取した。この沈殿はさらに塩化メチレン、アセトン(和光純薬工業株式会社製)でそれぞれ洗浄した。発生した沈殿は水に対して良好な分散性を示した。この沈殿に純水を約0.5mL加えて分散液とし、さらにアセトンを約10mL加えて生じた沈殿(沈殿が発生しない場合は25質量%アンモニア水を数滴加えた)を遠心分離で分取した。この沈殿に純水を約1mL加えZnS被覆InP微粒子の水分散液を調製した。この分散液に不純物として微量に含まれるメルカプト酢酸および無機塩類を除去するため、遠心濃縮器(ザルトリウス社製、分画分子量50,000)を用いて透析による精製を5回行った。
【0086】
配位子置換によって水分散化したZnS被覆InP微粒子の発光スペクトルを図7に示す。配位子置換によってピークの形状は変化しないことから、置換反応後もZnSが有効にInPの励起子を閉じ込めていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の微粒子の製造方法によれば、特殊な装置(マイクロ流路など)の使用および複雑な条件制御の必要がなく、簡単な手段で粒径制御が可能に、発光中心材料として期待されているInP微粒子などの微粒子を製造することができる。
また、本発明の脂肪酸インジウムの製造方法によれば、InP微粒子などの製造におけるIn源として有用な有機カルボン酸インジウムを、簡易にかつ工業的に有利に製造することができる。
Claims (10)
- P、AsおよびSbの中から選ばれる少なくとも1種の元素Xと、Ga、In、Zn、Cd、Si、GeおよびSnの中から選ばれる少なくとも1種の元素Yとを、分子内に有する微粒子の製造方法であって、
(a)前記元素Xの原料と前記元素Yの原料とを、溶媒中で混合し、混合原料溶液を調製する工程、および
(b)前記混合原料溶液を、予め求めておいた反応温度と生成する微粒子の平均粒径との相関関係に基づき、所定の反応温度まで上昇させる工程、
を有することを特徴とする微粒子の製造方法。 - 元素Xの原料が、一般式(I)
Xn(SiR1 3)m …(I)
および/または一般式(II)
XHp(SiR2 3)q …(II)
(式中、n、m、pおよびqは、それぞれ1以上の整数、R1およびR2は、それぞれアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
で表される化合物を含む請求項1に記載の方法。 - 元素Yの原料が、有機オキソ酸塩またはアルコキシドを含む請求項1または2に記載の方法。
- 反応温度が80〜350℃である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 微粒子が、InP微粒子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- InP微粒子の製造に用いられるIn原料が、インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とから調製された有機カルボン酸インジウムである請求項5に記載の方法。
- 微粒子の平均粒径が、1〜10nmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- (a)工程および(b)工程は、いずれもバッチ式で実施する請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- インジウムアルコキシドと有機カルボン酸無水物とを反応させることを特徴とする有機カルボン酸インジウムの製造方法。
- 有機カルボン酸無水物が、炭素数4〜30の長鎖脂肪酸の無水物である請求項9に記載の方法。
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