JPWO2004090318A1 - 組合せオイルリング - Google Patents
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Abstract
Description
ピストンリングには圧力リングと、オイルリングとがあるが、特に、オイルリングは圧力リングに対して張力(ピストンリングをその径方向外方に拡張する力)を5〜12倍と高くすることにより、オイルリングの機能、すなわち、オイル掻き落とし機能およびオイルコントロール機能を満足させている。例えば、ピストンリング(圧力リング+オイルリング)の張力を合計したリング合計張力をボア径で割った合計張力比についてみると、1984年では0.6〜1.0N/mmであったが、低フリクション化が求められているため、徐々に低下し、現状は0.2〜0.6N/mmまで小さくなり、対応を求められている。
よって、この数値は1984年当時より約半分となっているが、このような背景の中でオイルリングの機能性を満足させることが求められている。
ピストンリングの対応としては、張力の低下に伴いピストンリングの接触面積を小さくし薄幅化が進んでいる。オイルリングは圧力リングに比べオイル掻き落とし機能を持たせるため、さらに接触幅を小さくすることで、接触面積を小さくし面圧を上げ、シール性、オイル掻き性を向上させている。
しかしながら、エンジン始動時から、オイルリングの張力を、上記範囲内、すなわち、エンジンが十分に駆動している場合と同程度とすると、逆にオイルリングの作用が働きすぎて機関の始動性を損なう危険性が高い。これは、エンジン始動時においては、潤滑油の温度および機関温度が、徐々に上昇している段階であり、エンジンの始動からある程度の時間が経過し十分に駆動している場合と比較して、それらの温度は低く、潤滑油の粘度は高い状態にあるからである。よって、エンジンの始動から十分にエンジンが駆動した状態に移行するまでの間においては、潤滑油の温度および機関温度の上昇に伴い、オイルリングの機能も徐々に発揮されるように、その面圧も増加していくことが望まれる。
例えば、実公平3−41078号公報には、Ni−Ti系の形状記憶合金を用いて形成されたコイルエキスパンダを用いたオイルリングにおいて、コイルエキスパンダが、低温では収縮状態に存し、高温では伸びた状態に存するように処理されている技術が開示されている。
このように、コイルエキスパンダを形状記憶合金を用いて形成することにより、温度に応じてオイルリングをその径方向外方へ押圧する力を変化させることができるため、エンジンの始動性を向上させることが可能である。しかしながら、形状記憶合金材の横弾性係数は、Ni−Ti系の2元系において、収縮状態にある場合には5000〜10000MPa程度であり、伸びた状態では約20000MPa程度である。この数値は通常用いられるスチール線材からなるコイルエキスパンダと比較し、1/4程度しかないため、スチール線材の場合と同程度の張力を得るためには、形状記憶合金からなる線材の太さをスチール線材の太さよりも4倍としなければならない。一方、昨今のオイルリングにおいては、追従性向上のために薄幅化される傾向にあり、サイズ上の制約から、形状記憶合金を用いて形成されたコイルエキスパンダは実用に供することは難しかった。
さらに、実公平7−43540号公報においても、コイルエキスパンダをNi−Ti系の2元系の形状記憶合金から形成した技術の開示はあるが、解決しようとする課題が、ディーゼルエンジンピストンリング溝に付着したカーボンを取り除くことであり、組合せオイルリングの機能を向上させることを目的とするものではない。
また、形状記憶合金を用いて形成されたエキスパンダではないが、薄幅化されたオイルリングに対応可能であり、充分な張力を発現するエキスパンダとして、特開2001−208200号公報には、矩形断面の板材を板厚方向に波状に成形し、さらにそれを環状に成形してなるエキスパンダを用いる技術が開示されている。しかしながら、エキスパンダが発現する張力は、エンジン始動時においても、エンジンが十分に駆動している状態と変わらないことから始動性に問題があった。仮に形状記憶合金の矩形材を用い、軸方向波状に形させる場合は、後処理にて記憶熱処理(材料に形状を記憶させる処理)をする際冶具にセットする為生産性が著しく悪い。
上記目的を達成するために、本発明は、第1態様において、二つのレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリングと、前記オイルリングの二つのレールを連結する柱部内周側に形成された内周溝に配置され、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、前記コイルエキスパンダが、形状記憶合金を用いて形成され、断面形状が矩形状である異形線により形成されていることを特徴とする組合せオイルリングを提供する。
本発明においては、形状記憶合金からなり、断面形状が矩形状である異形線を用いて形成されたコイルエキスパンダとすることにより、図4に示すようにコイル径(d7)と線材厚み(35)の比率(コイル径/線材厚み=比率)が2.8〜3より小さい領域は製造が困難な為、同一コイル径において同一張力の設計とする場合、丸形状に対し異形線はエキスパンダ線の線材厚み(35)を小さくすること、すなわち上記比率を大きくすることができ、製造性からも有利である。したがって、寸法上制約のある薄幅化されたオイルリングであっても対応することができるため、オイル掻き落とし機能およびオイルコントロール機能に優れた組合せオイルリングとすることができる。また、形状記憶合金を用いていることから、エンジンの始動時におけるオイルの粘度が高い状態でも低フリクション化が可能である。
上記記載の本発明においては、上記形状記憶合金により形成されているコイルエキスパンダは、上記コイルエキスパンダ自体の温度が、上記形状記憶合金のマルテンサイト変態温度よりも高い場合には、長手方向に伸長するように処理されていることが好ましい。このような処理を施すことにより、エンジンの始動からある程度の時間が経過し、エンジンが十分に駆動している状態では、潤滑油の温度および機関温度が上昇し、コイルエキスパンダ自体の温度がマルテンサイト変態温度を越えると、コイルエキスパンダは、その長手方向に伸長するため、エンジン始動時と比較して張力が増加する。これに伴いオイルリングの面圧も増加することから、シリンダ内の余分な潤滑油を掻き落とすのに十分な作用を得ることができる。
また本発明においては、上記コイルエキスパンダを形成する異形線の断面形状における厚みと幅との比は1:1〜1:4の範囲内であることが好ましい。上記範囲内の厚みと幅との比を有する異形線であれば、所定のピッチで異形線をコイル状に巻き、コイルエキスパンダとした場合に、所望の張力を得ることができるからである。
また、本発明は、第2態様において、二つのレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリングと、上記オイルリングの二つのレールを連結する柱部内周側に形成された内周溝に配置され、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、上記オイルリングの軸方向幅は、0.3mm〜3.0mmの範囲内であり、上記コイルエキスパンダは、形状記憶合金により形成されており、コイルエキスパンダ自体の温度が上記形状記憶合金のマルテンサイト変態温度よりも高くなると、コイルエキスパンダの長手方向に伸長するように処理されていることを特徴とする組合せオイルリングを提供する。
本発明においては、上記範囲内にある薄幅化されたオイルリングと、上記処理が施された形状記憶合金からなるコイルエキスパンダとすることにより、より一層の追従性の向上を図ることが可能である。これは、本発明におけるコイルエキスパンダは、それ自体の温度がマルテンサイト変態温度を越えると、その長手方向に伸長するように処理されていることから、エンジンの始動時よりも、エンジンが十分に駆動している状態の方が、コイルエキスパンダが発現する張力を高くすることができるため、これに伴いオイルリングの追従性を向上させることができるからである。よって、薄幅化されたオイルリングと形状記憶合金により形成されたコイルエキスパンダとの両者の作用から、優れた追従性を有する組合せオイルリングとすることができ、また、エンジンの始動時におけるオイルの粘度が高い状態でも低フリクション化が可能である。
上記記載の本発明においては、上記オイルリングの軸方向幅は、1.0mm〜3.0mmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内の軸方向幅を有するオイルリングとした場合、コイルエキスパンダのマルテンサイト変態による追従性の向上が著しく、より優れた追従性を有する組合せオイルリングとすることができるからである。
さらに本発明においては、上記形状記憶合金により形成されているコイルエキスパンダは、異形線を用いて形成されていることが好ましい。異形線をコイル状に巻くことにより、コイルエキスパンダの製造性が良好な範囲内で所望とする張力を得ることができるからである。
また本発明においては、上記コイルエキスパンダを形成する異形線の断面形状における厚みと幅との比は1:1〜1:4の範囲内であることが好ましい。上記範囲内の厚みと幅との比を有する異形線であれば、所定のピッチで異形線をコイル状に巻き、コイルエキスパンダとした場合に、所望の張力を得ることができるからである。
本発明の第1態様によれば、形状記憶合金からなり、断面形状が矩形状である異形線を用いて形成されたコイルエキスパンダとすることにより、コイルエキスパンダのコイル径を大きくすることなく、所望の張力を得ることができる。したがって、寸法上制約のある薄幅化されたオイルリングに対応することができるため、オイル掻き落とし機能およびオイルコントロール機能に優れた組合せオイルリングとすることができる。また、形状記憶合金を用いていることから、エンジンの始動時におけるオイルの粘度が高い状態でも低フリクション化が可能である。
また、本発明の第2態様によれば、オイルリング軸方向幅が所定の範囲内にあるオイルリングと、形状記憶合金を用いて形成されており、コイルエキスパンダ自体の温度がマルテンサイト変態温度よりも高くなると、その長手方向に伸長するように処理が施されているコイルエキスパンダとを組み合わせた組合せオイルリングとすることにより、より一層追従性の向上を図ることが可能である。これは、本発明におけるコイルエキスパンダは、上述したように処理されていることから、エンジンの始動時よりも、エンジンが十分に駆動している状態の方が、コイルエキスパンダが発現する張力を高くすることができるため、これに伴いオイルリングの追従性を向上させることができるからである。よって、薄幅化されたオイルリングと形状記憶合金により形成されたコイルエキスパンダとの両者の作用から、優れた追従性を有する組合せオイルリングとすることができ、また、エンジンの始動時におけるオイルの粘度が高い状態でも低フリクション化が可能であるといった効果を奏する。
図2は、本発明におけるコイルエキスパンダを説明する説明図である。
図3は、本発明におけるコイルエキスパンダを説明する説明図である。
図4は、コイルエキスパンダを形成する線材において、その断面形状を丸形状および矩形状とした場合、両者の違いを説明する説明図である。
図5は、本発明の組合せオイルリングの他の例を示す概略断面図である。
図6は、マルテンサイト変態前後におけるコイルエキスパンダの張力変化を調べた結果を示すグラフである。
図7は、室温時および高温時におけるオイルリング追従可能量を示すグラフである。
図8は、室温時および高温時におけるオイルリング追従可能量の変化量とオイルリング軸方向幅との関係を示すグラフである。
図9は、本発明の実施例における、コイルエキスパンダの異形線の断面形状における横比率に対する可変張力代の変化を示すグラフである。
A.第1態様
まず、本発明の第1態様の組み合わせオイルリングについて説明する。
本態様の組み合せオイルリングは、二つのレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリングと、前記オイルリングの二つのレールを連結する柱部内周側に形成された内周溝に配置され、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、前記コイルエキスパンダが、形状記憶合金を用いて形成され、断面形状が矩形状である異形線により形成されていることを特徴とするものである。
本態様においては、形状記憶合金からなり、その断面形状が矩形状である異形線を用いてコイルエキスパンダを形成していることから、コイルエキスパンダのコイル径を大きくすることなく、充分な張力を得ることができる。これは、以下の理由による。
図4にコイルエキスパンダ断面の説明図を示す。説明のために、図中左端面にピッチ(p)を揃え、○線と□線を重ねて表記した。製造性(コイル径(d7)/線材厚み(35)の比率が2.8以下の領域は製造性困難)やコイル内周に通す連結線スペースの確保を考慮して内径(d17)は設定する。
薄幅リングに対応する為にコイル径(d7)は小さく設定する必要があるが、上記の如くコイル径(d7)と、内径(d17)は制約を受ける。○線の場合、張力を大きくする場合○線寸法(d35)を大きくせねばならなく、コイル径(d7)一定の場合には、内径(d17)を小さくせねばならない。又、内径(d17)を確保する場合はコイル径(d7)が大きくなってしまう。それに対し、□線の場合はコイル径(d7)と、内径(d17)を変えることなく、線材厚み(35)に対し線材幅(32)を大きく設定できるので同一ピッチでも所望の張力が得られることができる。
したがって、本態様においては、形状記憶合金からなり、断面形状が矩形状である異形線を用いて形成されたコイルエキスパンダとすることにより、図4に示すようにコイル径(d7)と線材厚み(35)の比率(コイル径/線材厚み=比率)が2.8〜3より小さい領域は製造が困難な為、同一コイル径において同一張力の設計とする場合、丸形状に対し異形線はエキスパンダ線の線材厚み(35)を小さくすること、すなわち上記比率を大きくすることができ、製造性からも有利である。よって、寸法上制約のある薄幅化されたオイルリングであっても対応することができるため、オイル掻き落とし機能およびオイルコントロール機能に優れた組合せオイルリングとすることができる。また、形状記憶合金を用いていることから、エンジンの始動時におけるオイルの粘度が高い状態でも低フリクション化が可能である。
このような利点を有する本態様の組合せオイルリングについて、図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本態様の組合せオイルリングの一例を示した概略断面図である。まず、オイルリング1は、二つのレール2、3を柱状のウェブ4で連結した断面略I字形を呈し、二つのレール2、3を対照的に配置することにより形成されている。
当該オイルリング1は、シリンダボア20の内壁21を摺動する摺動面6が先端に形成されている摺動部突起5を有する。また、レール2および3をウェブ4で連結して形成される外周溝7は、シリンダ内壁21から摺動面6によって掻きとられた潤滑油が受容される溝であり、さらに、外周溝7に受容された潤滑油は、ウェブ4に多数設けられている油孔8を通過し、オイルリング1の内周側へと移動する。
さらに、上述した構成を有するオイルリング1において、レール2および3をウェブ4で連結して内周側に形成される内周溝9には、オイルリング1をオイルリング1の径方向外方へ付勢して、シリンダ内壁21にオイルリングを押し付けるコイルエキスパンダ10が配置されている。
本態様においては、このコイルエキスパンダ10を、形状記憶合金からなり、断面形状が矩形状である異形線をコイル状に巻いて形成することにより、薄幅化されたオイルリングの内周溝に配置できる程度のコイル径を有するコイルエキスパンダとした場合であっても、充分な張力を得ることができるため、オイル掻き落とし機能およびオイルコントロール機能に優れた組合せオイルリングとすることができる。
なお、図1には、本態様の組合せオイルリングの一例として、オイルリング1とコイルエキスパンダ10とからなる2ピースオイルリングの例を示しているが、本態様の組合せオイルリングは、図1に示す2ピースオイルリングに限らず、3ピースオイルリング、4ピースオイルリングとする場合であってもよい。
以下、このような本態様の組合せオイルリングについて、コイルエキスパンダおよびオイルリングについて各々詳細に説明する。
1.コイルエキスパンダ
コイルエキスパンダは、組合せオイルリングにおいて、オイルリングのレールをウェブで連結して内周側に形成される内周溝に配置されるものであり、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢することにより、オイルリングにおけるオイル掻き落とし機能等を確実なものとするために設けられているものである。
本態様では、このようなコイルエキスパンダを、形状記憶合金からなる線材を用いて形成し、さらに、上記線材において、その断面形状が矩形状である異形線としたことに特徴を有するものである。
一般に、形状記憶合金は、室温では、マルテンサイト状態(M相)であり、高温ではオーステナイト状態(A相)となる。このマルテンサイト状態からオーステナイト状態への変態を逆マルテンサイト変態といい、オーステナイト状態からマルテンサイト状態への変態をマルテンサイト変態という。このような変態が生じる温度を称して、以下、マルテンサイト変態温度とする。このマルテンサイト変態温度は、ある温度幅を持っており、示唆熱分析により吸熱反応および発熱反応のピークから求める。
このような形状記憶合金は、マルテンサイト変態温度以下において、合金を変形させ荷重を除いた後、ある温度(例えば、Ti−Ni系ではマルテンサイト変態温度−10℃〜100℃)以上に加熱することによってもとの形状に戻る現象、すなわち、形状記憶効果を有している。このような形状記憶効果において、予め記憶させた形状に合金が戻る温度をマルテインサイト変態温度としている。
本態様においては、このような形状記憶効果を利用し、コイルエキスパンダ自体の温度が、マルテンサイト変態温度よりも高くなった場合には、コイルエキスパンダが、その長手方向に伸長するように処理されていることが好ましい。まず、エンジン始動時においては、潤滑油の温度および機関温度は、徐々に上昇している段階にあり、エンジンの始動からある程度の時間が経過し十分に駆動した後の場合と比較して、それらの温度は低く、潤滑油の粘度は高い状態にある。また、この際の温度は本態様におけるマルテンサイト変態温度よりも低い。通常のコイルエキスパンダは、エンジン始動時においても、エンジンが十分に駆動している状態と同程度の張力が発現されることから、エンジン始動時においてはオイルリングの作用が働きすぎて機関の始動性を損なう要因となっていた。しかしながら、本態様においては、エンジン始動時における機関温度等がマルテンサイト変態温度よりも低いため、コイルエキスパンダはその長手方向に伸長することはなく、充分な張力を発揮しない。したがって、始動性を低下させるほどにオイルリングの面圧を高めることがないので、機関の始動性を向上させることができる効果を有する。
一方、エンジンが十分に駆動している段階においては、オイルリングのオイル掻き落とし機能およびオイルコントロール機能を得るためにある程度高い面圧を所望とするが、機関温度の上昇に伴い、コイルエキスパンダ自体の温度がマルテンサイト変態温度を超えると、コイルエキスパンダは、その長手方向に伸張することにより、バネとしての反力が増し、張力を増加させることができる。その結果、オイルリングは、その機能を十分に発現させることができる程度の面圧を得ることができる。このような理由により、本態様においては、コイルエキスパンダ自体の温度が、マルテンサイト変態温度よりも高くなった場合には、コイルエキスパンダの長手方向に伸長するように処理されていることが好ましい。
このようにマルテンサイト変態後におけるコイルエキスパンダの張力の増加について、実際に実験により得た結果を図6に示す。なお、実験は、Ni−Ti系(50〜51原子%Ni)形状記憶合金を用いコイルエキスパンダのコイル径を1.1mmとし、異形線の断面形状における厚みと幅との比を1:3(厚み0.3mm、幅0.9mm)、オイルリング(呼び径はφ79mm)の軸方向幅(h1)を1.5mmとして行った。
図6に示した結果から明らかなように、室温におけるコイルエキスパンダが及ぼす張力に対して、マルテンサイト変態後におけるコイルエキスパンダが及ぼす張力は、約65.3%も上昇しており、機関温度が上昇し、マルテンサイト変態温度よりも、コイルエキスパンダ自体の温度が高くなった際には、充分な張力を得ることができることが明らかである。
また、本態様におけるコイルエキスパンダの張力は、マルテンサイト変態前においては、例えば、h1寸法2.0mm以下に用いるコイルエキスパンダとした場合、1N〜20Nの範囲内、その中でも、1N〜10Nの範囲内であることが好ましい。マルテンサイト変態前は、エンジンは暖機状態にあり、徐々に機関温度が上昇している段階にあるので、上記範囲内の張力を有するコイルエキスパンダであれば、機関の始動性を向上させることができるからである。
さらに、マルテンサイト変態後の張力は、オイルリングの機能を損なうことがない程度であれば特に限定はされないが、具体的には、例えば、h1寸法2.0mm以下に用いるコイルエキスパンダとした場合、3N〜30Nの範囲内、その中でも、3N〜20Nの範囲内であることが好ましい。一般的に、フリクションの低減にはオイルリングの面圧を低くすることが有効であるが、コイルエキスパンダのマルテンサイト変態後における張力を上記範囲内に調整することにより、フリクションの低減を実現でき、燃費の向上を図ることができるからである。
さらに、本態様におけるコイルエキスパンダを形成する材料としては、形状記憶合金であれば特に限定はされない。具体的には、Ti−Ni系、Cu−Zn−Al系、Fe−Mn−Si系等を挙げることができる。中でも、本態様においては、Ti−Ni系であることが好ましく、最も好ましくは、Ti−Niである。強度、耐疲労、繰返し特性、耐食性の観点から最も優れているからである。
Ti−Niからなる形状記憶合金を使用した場合、その比率としては、Ti−50原子%Ni〜Ti−51原子%Niであることが好ましい。
また、Ti−Ni系及びFe−Mn−Si系の場合におけるマルテンサイト変態温度としては、−10℃から200℃の範囲とすることが望ましく、例えば、Ti−Ni系の場合では、−10℃〜100℃、その中でも、30℃〜100℃の範囲内であることが好ましい。マルテンサイト変態温度は、形状記憶合金の組成や形状記憶合金を製造する際の熱処理等により変化させることができるが、マルテンサイト変態温度を上記範囲内に調整することにより、オイルリングの機能が十分に発揮される程度の面圧が必要な温度において、コイルエキスパンダにマルテンサイト変態が生じ、充分な張力を得ることができるからである。
さらに本態様におけるコイルエキスパンダは、断面形状が矩形状の異形線を用い形成されていることを特徴とする。これにより、薄幅化されたオイルリングの内周溝に設置可能な程度にコイルエキスパンダのコイル径を小さくした場合であっても、充分な張力を発現することができ、形状記憶合金からなるコイルエキスパンダにおける張力不足の問題を解決することができる。
なお、ここでいう矩形状とは、正方形および長方形等を意味し、また、全体的に矩形状として捉えることができる程度も含んでおり、加工精度の問題等から角が若干丸みを帯びているような場合も含むものとする。
具体的に、コイルエキスパンダを形成する異形線において、その断面形状における厚み(図3における厚み35)と幅(図3における幅32)との比は、1:1〜1:4の範囲内、その中でも、1:2〜1:3.5の範囲内、中でも、1:2〜1:3の範囲内であることが好ましい。上記範囲より、幅の長さの比率が大きい場合は、ピッチを大きくする必要があり、所定の曲率で曲げることが困難となる場合があるため好ましくない。一方、上記範囲よりも幅の比を小さくすると、所定のピッチで巻いた際に、隣り合う線材同士間に形成される空隙が広くなるためバネ定数が小さくなり、充分な張力を得ることができない場合があるから好ましくない。
また、異形線の厚みは、例えば、h1寸法2mm以下のコイルエキスパンダにおいて、0.2mm〜0.5mmの範囲内、その中でも0.3mm〜0.4mmの範囲内であることが好ましい。上記範囲よりも薄くすると、バネとしての反力が弱くなり充分な張力が得られないため好ましくなく、一方、上記範囲よりも厚くすると、所定のコイル径のコイルエキスパンダとすることができないため好ましくない。また、幅は0.2mm〜2.0mmの範囲内、その中でも0.45mm〜1.0mmの範囲内であることが好ましい。
なお、ここでいうピッチとは、線材をコイル状に巻いた際に、線材一回転における、線材の中心から、隣り合う線材の中心までの長さを意味する。具体的には、図2に示すように、AからBまでの一回転において、Aの位置における線材の中心から、Bの位置における線材の中心までの間隔pを指している。このようなピッチは、コイルエキスパンダのコイル径に応じて、ほぼ所定の範囲内に決定される。また、ここでいう、コイルエキスパンダのコイル径とは、コイルエキスパンダの径方向における長さのうち、最も外側の長さを意味しており、具体的には、図2に示すd7を指しているが、具体的に、このコイル径としては、例えば、h1寸法2mm以下のコイルエキスパンダにおいて、0.3mm〜1.8mmの範囲内、その中でも、0.4mm〜1.4mmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内のコイル径であれば、薄幅化されたオイルリングであっても対応することができるからである。コイルエキスパンダのコイル径を上記範囲内とした場合、ピッチは、例えば、h1寸法2mm以下のコイルエキスパンダにおいて、0.3mm〜1.8mmの範囲内、その中でも、0.3mm〜1.4mmの範囲内にほぼ規定される。本態様のコイルエキスパンダは、上記範囲内にあるピッチで異形線をコイル状に巻くことにより形成されたものであるが、ピッチは、均一であることが好ましい。なお、本明細書において所定のピッチと表現した場合は、上記範囲内にある場合を意味している。
また、異形線をコイル状に巻きコイルエキスパンダを形成する際の巻き方としては、異形線の断面形状における長辺側がコイルエキスパンダの周方向を形成するように巻くことが好ましい。このような巻き方が、コイルエキスパンダのコイル径を最も小さくし、かつバネとしての反力を十分に発現することができるため、所望の張力を得ることができるからである。
このような巻き方を具体的に図面を用いて説明する。図3は、本態様におけるコイルエキスパンダをその長手方向で切断した際の概略断面図を示している。図3に示すように、コイルエキスパンダを形成する異形線の断面形状31において、幅32および厚み35を有する面33が、矢印34で示す周方向を形成するように巻く。このような巻き方は、断面形状が矩形状からなる異形線において、最もコイルエキスパンダのコイル径が小さくなる巻き方であり、寸法に制約を有する薄幅化されたオイルリングの内周溝であっても配置することができ、また所望の張力を十分に得ることができる。また、合口は密着巻きまたは巻取りのいずれであってもよい。
2.オイルリング
次に、オイルリングについて説明する。一般的にオイルリングは、シリンダ内壁の余分な潤滑油を掻き落とし、潤滑油の消費量を適性水準に抑えるために設けられているものである。
本態様におけるオイルリングは、二つのレールを柱部で連結した断面略I字形を呈し、二つのレールを連結して内周側に形成される内周溝に上述したコイルエキスパンダを配置することができるのであれば特に限定はされない。具体的には、一般的に組合せオイルリングにおいて使用されているオイルリングを挙げることができる。例えば、その全体的な形状としては、図1に示すように、摺動部突起5の断面形状が台形状に形成されている形状や、図5(A)に示すように、摺動部突起5の内側部分が階段状に形成されている形状や、図5(B)に示すように摺動部突起5がオイルリング1の軸方向の内方側に設けられており軸方向外方側には、一般的に肩30と呼ばれる部分がある形状等を挙げることができる。
このようなオイルリングにおいて、本態様においては、薄幅化されたオイルリングを用いることが好ましい。追従性に優れているからである。また、上述したコイルエキスパンダは、寸法に制約がある薄幅化されたオイルリングに対応可能であり、充分な張力を発現できることから、本態様の効果を最大限に活かすことができるからである。
なお、ここでいう薄幅化とは、オイルリング軸方向幅を薄くしたことを意味している。ここでオイルリング軸方向幅とは、オイルリングを構成する上下レールにおいて、上レールの上面から下レールの下面までのオイルリング軸方向におけるオイルリングの幅を意味し、具体的には、図1に示すように、上レール2の上面から下レール3の下面までのオイルリング軸方向における幅h1を指している。
具体的にオイルリング軸方向幅としては、3mm以下、その中でも、1.0mm〜2mmの範囲内であることが好ましい。オイルリング軸方向幅が上記範囲内にある薄幅化されたオイルリングであれば、追従性を向上させることができ、ピストンリングの軽量化および潤滑油の消費量の低下を実現することができるからである。これは、薄幅化されたオイルリングの方が、例えば、ピストンを高速回転させオイルリングに傾きが生じた場合などに、シリンダ内壁より離れる距離を小さくすることができるため、このような不都合による影響が小さく、結果的に追従性を向上させることとなるからである。
本態様において、オイルリングを形成する材料としては、適度な靭性を有し、また、コイルエキスパンダからの張力により変形するおそれのない材料、具体的には、従来からのオイルリングに用いられている鋼材であれば特に限定はされない。その中でも、マルテンサイトステンレス鋼(SUS440、SUS410材)、10Cr、8Cr、合金工具鋼(SKD材)、SKD61、SWOSC−V、SWRH相当材等を好適に用いることができる。
3.組合せオイルリング
本態様の組合せオイルリングは、上述したオイルリングの柱部内周側に形成された内周溝に、上述したコイルエキスパンダが配置されてなるものであり、前記コイルエキスパンダが、形状記憶合金を用いて形成され、断面形状が矩形状である異形線により形成されていることを特徴とするものである。
このように本態様においては、形状記憶合金からなり、断面形状が矩形状である異形線を用いて形成されたコイルエキスパンダとすることにより、コイルエキスパンダのコイル径を大きくすることなく、所望の張力を得ることができる。したがって、寸法上制約のある薄幅化されたオイルリングであっても対応することができるため、オイル掻き落とし機能およびオイルコントロール機能に優れた組合せオイルリングとすることができる。また、形状記憶合金を用いていることから、エンジンの始動時におけるオイルの粘度が高い状態でも低フリクション化が可能である。
このような本発明の組合せオイルリングの張力は、シリンダ内壁に良好に付勢できるのであれば特に限定はされないが、具体的には、組合せオイルリングの張力をボア径で割った張力比が0.5N/mm以下であることが好ましく、中でも、0.2N/mm以下であることが好ましい。上記範囲内の張力を有する組合せオイルリングは一般的に低張力組合せオイルリングと呼ばれるものであるが、このような低張力組合せオイルリングとすることによりフリクションを低減させることができるからである。
B.第2態様
次に、本発明の第2態様の組み合わせオイルリングについて説明する。
本態様の組合せオイルリングは、二つのレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリングと、上記オイルリングの二つのレールを連結する柱部内周側に形成された内周溝に配置され、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、上記オイルリングの軸方向幅は、0.3mm〜3mmの範囲内であり、上記コイルエキスパンダは、形状記憶合金により形成されており、コイルエキスパンダ自体の温度が上記形状記憶合金のマルテンサイト変態温度よりも高くなると、コイルエキスパンダの長手方向に伸長するように処理されていることを特徴とする組合せオイルリングを提供する。
本態様においては、上記範囲内にある薄幅化されたオイルリングと、上記処理が施された形状記憶合金からなるコイルエキスパンダとを組み合わせた組合せオイルリングとすることにより、より一層の追従性の向上を図ることが可能である。これは、本態様におけるコイルエキスパンダは、それ自体の温度がマルテンサイト変態温度を越えると、その長手方向に伸長するように処理されていることから、エンジンの始動時よりも、エンジンが十分に駆動している状態の方が、コイルエキスパンダが発現する張力を高くすることができるため、これに伴いオイルリングの追従性を向上させることができるからである。よって、薄幅化されたオイルリングと形状記憶合金により形成されたコイルエキスパンダとの両者の作用から、優れた追従性を有する組合せオイルリングとすることができ、また、エンジンの始動時におけるオイルの粘度が高い状態でも低フリクション化が可能である。
このような利点を有する本態様の組合せオイルリングについて図面を用いて説明する。
図1は、本態様の組合せオイルリングの一例を図示した概略断面図である。本態様の組み合わせオイルリングの概略的な構造は、上記第1態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
本態様のオイルリングは、オイルリング軸方向幅h1が上述した範囲内となるように形成されている。また、本態様においては、このコイルエキスパンダ10を、形状記憶合金により形成し、さらに、コイルエキスパンダ自体の温度がマルテンサイト変態温度よりも高くなると、コイルエキスパンダの長手方向に伸長するように処理されているものとしている。これにより、マルテンサイト変態後には、コイルエキスパンダの張力が増大するため、これに伴ってオイルリングの追従性も向上させることができる。よって、薄幅化されたオイルリングと、形状記憶合金により形成されたコイルエキスパンダとの両者の作用により、優れた追従性を有する組合せオイルリングとすることが可能である。
なお、図1には、本態様の組合せオイルリングの一例として、オイルリング1とコイルエキスパンダ10とからなる2ピースオイルリングの例を示しているが、本態様の組合せオイルリングは、図1に示す2ピースオイルリングに限らず、3ピースオイルリング、4ピースオイルリングとする場合であってもよい。
以下、このような本態様の組合せオイルリングについて、オイルリングおよびコイルエキスパンダについて各々詳細に説明する。
1.オイルリング
まず、オイルリングについて説明する。一般的にオイルリングは、シリンダ内壁の余分な潤滑油を掻き落とし、潤滑油の消費量を適性水準に抑えるために設けられているものである。
このようなオイルリングは、本態様においては、二つのレールを柱部で連結した断面略I字形を呈し、二つのレールを連結する柱部内周側に形成された内周溝に後述するコイルエキスパンダを配置することができ、さらに、その軸方向幅が所定の範囲内にあるように形成されている。
なお、ここでいうオイルリング軸方向幅とは、オイルリングを構成する上下レールにおいて、上レールの上面から下レールの下面までのオイルリング軸方向におけるオイルリングの幅を意味し、具体的には、図1に示すように、上レール2の上面から下レール3の下面までのオイルリング軸方向における幅h1を指している。
このようなオイルリング軸方向幅は、0.3mm〜3mmの範囲内であり、その中でも、1.0mm〜3.0mmの範囲内であることが好ましい。さらに好ましくは、1.0mm〜2.0mmの範囲内である。オイルリング軸方向幅が上記範囲内にあるオイルリングは、薄幅化されたオイルリングであり、追従性の向上に効果を有する。よって、オイルリングの機能を高め、潤滑油の消費量低減を実現することができる。また、ピストンリングの軽量化にも効果がある。
このようにオイルリングの軸方向幅を薄幅化することにより、追従性の向上に効果がある理由について、追従性を示す式を用いて以下に説明する。
追従性の程度を示すPk(追従性係数)は下記の式により求めることができる。
なお、Pk値は、その値が大きくなるほど追従性が増すことを意味し、小さくなるほど、追従性が低下することを意味している。
Pk=3×Ft×d12/(E×h1×a13×K)
上記式の各文字は、Pk:追従性係数、Ft:張力、d1:ボア径、E:ヤング率、h1:オイルリング軸方向幅、a1:オイルリング径方向幅、K:形状係数を示している。
なお、ここでいうボア径とは、オイルリングが摺動するシリンダボアの直径を意味している。さらに、オイルリング径方向幅とは、オイルリングの径方向における厚みを意味し、オイルリングの最も外方の径と最も内方の径との差で求められる。具体的には、図1に示すa1を指している。
ここで、d1、EおよびKを定数とし、α=3d12/(E×K)とおくと、上記式は、
Pk=Ft/(h1×a13)×α
と書き換えられる。
上記式からFtが大きくなるとPk値も大きくなり、若しくは、h1またはa1が小さくなると、Pk値が大きくなることが分かる。
また、a1とh1とは一般的にほぼ比例の関係にあり、所定の数値をsとおくと、a1=h1×sと置き換えることができる。これより、上記式は、
Pk=Ft/(h14×s3)×α
となり、h1寸法、すなわちオイルリング軸方向幅の4乗と、追従性係数とは反比例の関係にあることが分かる。図7の室温時のデータより、h1=3の場合に対し、h1=1.5の場合や、さらにh1=1.0の場合には、薄幅化することでボアへの追従性が向上する。
以上より、オイルリング軸方向幅の変化は追従性に大きく影響することが上記式より明らかであり、よってオイルリング軸方向幅の薄幅化は、追従性の向上に効果があるのである。
また、本態様における組合せオイルリングにおいて、シリンダボアの変形量に対して、どの程度オイルリングが追従可能であるかについて実験を行いその結果を図7の高温時(変態後)に示す。オイルリングの軸方向幅h1は、3.0mm、2.0mm、1.5mm、1.0mmとして行った。なお、温度条件は室温時および高温時とし、高温時においては、本態様におけるコイルエキスパンダは、その長手方向に伸長するマルテンサイト変態を生じている。
図7に示した結果から明らかなように、オイルリング軸方向幅h1が薄くなるにつれてオイルリングの追従可能量が大きくなることが分かる。また、本態様においては、後述するコイルエキスパンダにおいて、形状記憶合金を用いて形成し、コイルエキスパンダ自体の温度が形状記憶合金のマルテンサイト変態温度を超えた場合には、その長手方向に伸長するように処理が施されていることから、高温時においては、この形状記憶効果の作用により、追従性が向上している。特に、h1寸法が3mmの場合は、室温時においては、当該エンジン変形量よりも下の追従可能量であるが、高温時においては、当該エンジン変形量よりも上の追従可能量であることから、薄幅化されたオイルリングおよび上述した処理が施されたコイルエキスパンダの両者の作用により、充分な追従性が得られたことが示唆される。
また、図8は、図7におけるオイルリング追従可能量の結果に基づいて、室温時および高温時におけるその変化量を、オイルリング軸方向幅ごとに示したグラフである。図8に示す結果から、オイルリング軸方向幅が2.0mm程度から、傾きが大きく変化していることから、オイルリング軸方向幅が2.0mm以下となると、コイルエキスパンダのマルテンサイト変態後において、追従性の向上が著しいことが分かる。
次に、オイルリング軸方向における摺動面幅について説明する。ここでいう摺動面幅とは、図1に示すように、シリンダ内壁21と接触する摺動面6の軸方向と平行方向の幅xを示し、かつ二つのレールの両方の幅を足し合わせた数値とすることとする。このような摺動面幅は、0.1mm〜1mmの範囲内、その中でも、0.1mm〜0.5mmの範囲内であることが好ましい。上述したように薄幅化されたオイルリングにおいて、摺動面幅が上記範囲内であれば、十分に対応することが可能であるからである。
さらに、本態様におけるオイルリングの全体的な形状としては、二つのレールを柱部で連結した断面略I字形を呈し、二つのレールを連結して内周側に形成される内周溝に上述したコイルエキスパンダを配置することができるのであれば特に限定はされない。例えば、図1に示すように、摺動部突起5の断面形状が台形状に形成されている形状や、図5(A)に示すように、摺動部突起5の内側部分が階段状に形成されている形状や、図5(B)に示すように摺動部突起5がオイルリング1の軸方向の内方側に設けられており軸方向外方側には、一般的に肩30と呼ばれる部分がある形状等を挙げることができる。
本態様において、オイルリングを形成する材料としては、第1態様と同様なので省略する。
2.コイルエキスパンダ
次に本態様におけるコイルエキスパンダについて説明する。
コイルエキスパンダは、組合せオイルリングにおいて、オイルリングのレールをウェブで連結して内周側に形成される内周溝に配置されるものであり、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢することにより、オイルリングにおけるオイル掻き落とし機能等を確実なものとするために設けられているものである。
本態様におけるこのようなコイルエキスパンダは、形状記憶合金からなる線材を用いて形成され、かつ、コイルエキスパンダ自体の温度が形状記憶合金のマルテンサイト変態温度よりも高くなった際には、その長手方向へ伸長するように処理されているものである。
本態様においては、このような形状記憶効果を利用し、例えば、エンジン始動時から、暖機状態を経て十分にエンジンが駆動した状態では、エンジンの機関温度等は本態様におけるマルテンサイト変態温度よりも高いことから、コイルエキスパンダはマルテンサイト変態を生じ、エンジン始動時と比較して、その張力を増加させることができる。これに伴いオイルリングの面圧も上昇することから、コイルエキスパンダのマルテンサイト変態後は、追従性をより向上させることができる。したがって、上述したオイルリングと、このようなコイルエキスパンダとの両者の作用により充分な追従性を実現することができ、オイルリングの機能に優れた組合せオイルリングとすることができるのである。
さらに、形状記憶合金を用いていることから、機関の始動性の向上にも効果がある。これは以下の理由による。
まず、エンジン始動時においては、潤滑油の温度および機関温度は、徐々に上昇している段階にあり、エンジンの始動からある程度の時間が経過し十分に駆動した後の場合と比較して、それらの温度は低く、潤滑油の粘度は高い状態にある。また、この際の温度は本態様におけるマルテンサイト変態温度よりも低い。通常のコイルエキスパンダは、エンジン始動時においても、エンジンが十分に駆動している状態と同程度の張力が発現されることから、エンジン始動時においてはオイルリングの作用が働きすぎて機関の始動性を損なう要因となっていた。しかしながら、本態様においては、エンジン始動時における機関温度等がマルテンサイト変態温度よりも低いため、コイルエキスパンダはその長手方向に伸長することはなく、充分な張力を発揮しない。したがって、始動性を低下させるほどにオイルリングの面圧を高めることがなく、機関の始動時には低フリクションとすることができる効果を有する。本態様におけるコイルエキスパンダの張力、マルテンサイト変態後の張力、さらに、コイルエキスパンダを形成する材料は第1態様の「1.コイルエキスパンダ」と同様な為説明を省略する。
コイルエキスパンダは、断面形状が異形線を用い形成されていることが好ましい。これにより、薄幅化されたオイルリングの内周溝に設置可能な程度にコイルエキスパンダのコイル径を小さくした場合であっても、充分な張力を発現することができるからである。この理由については、「A.第1態様」で図4に基づき示した通りである。
なお、ここでいう異形線とは、線材の断面形状が円形状である丸線を含まないことを意味している。また、全体的に丸みを帯びていなければ、加工精度等の問題から角が若干丸みを帯びているような場合も含むものとする。具体的に異形線としては、その断面形状が、正方形や長方形等の矩形状である線材を挙げることができる。
コイルエキスパンダを形成する異形線において、その断面形状における厚みと幅との比、異形線の厚み、ピッチ、巻き方については、第1態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
3.組合せオイルリング
本態様の組合せオイルリングは、上述したオイルリングの柱部内周側に形成された内周溝に、上述したコイルエキスパンダが配置されてなるものであり、オイルリングの軸方向幅は、0.3mm〜3mmの範囲内であり、前記コイルエキスパンダは、形状記憶合金により形成されており、コイルエキスパンダ自体の温度が形状記憶合金のマルテンサイト変態温度よりも高い場合には、コイルエキスパンダの長手方向に伸長するように処理されていることを特徴とするものである。
このように本態様においては、上記範囲内にある薄幅化されたオイルリングと、上記処理が施された形状記憶合金からなるコイルエキスパンダとすることにより、追従性の向上を図ることが可能である。これは、本態様におけるコイルエキスパンダは、それ自体の温度がマルテンサイト変態温度を越えると、その長手方向に伸長するように処理されていることから、エンジンの始動時よりも、エンジンが十分に駆動している状態の方が、コイルエキスパンダが発現する張力を高くすることができるため、これに伴いオイルリングの追従性を向上させることができるからである。よって、薄幅化されたオイルリングと形状記憶合金により形成されたコイルエキスパンダとの両者の作用から、優れた追従性を有する組合せオイルリングとすることが可能である。
このような本態様の組合せオイルリングの張力は、第1態様オイルリングで述べた通りである。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
コイルエキスパンダの異形線の断面形状における厚みと幅との比(横比率)に対する可変張力代の変化を調べた。実際に実験により得た結果を図9に示す。なお、実験は、コイルエキスパンダのコイル径(図2のd7寸法)を1.1mm〜1.5mm、ピッチ(図2のp)を0.7mm〜1.4mm、異形線の断面形状における厚み(図3の35)を0.3mm〜0.4mm、幅(図3の32)を0.45mm〜1.00mmの範囲内で変化させて行なった。バネ歪は、異形線の断面形状における厚み(図3の35)とコイルエキスパンダのコイル径(図2のd7)および縮み代(エキスパンダ自由状態−リングにセットした状態)をリング寸法及び張力から設定した。この際に用いた種々の横比率の試料のエキスパンダバネ歪み、呼び径(外径寸法)、オイルリング軸方向幅(図1のh1)、および、可変張力代を表1に示す。それぞれの試料をマルテンサイト変態させた後に得られた張力を次式により求めた。
(可変後張力−可変前張力)/可変前張力×100=可変張力代(%)
以上の結果よりコイルエキスパンダの寸法比を1:1〜1:3.5の範囲内にすることで、可変張力代が20%以上の数値が得られる。特に、比率を1:2〜1:3.5にすることで、約60%以上の可変張力代が得られた。このことは、マルテンサイト変態後の高温時に(高回転域)をオイル消費を満足できる張力にしておけば常温時の張力は約40%(100/1.6=0.625)低く設定でき、フリクションの低減に寄与することができる。
Claims (7)
- 二つのレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリングと、前記オイルリングの二つのレールを連結する柱部内周側に形成された内周溝に配置され、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、
前記コイルエキスパンダが、形状記憶合金を用いて形成され、断面形状が矩形状である異形線により形成されていることを特徴とする組合せオイルリング。 - 前記形状記憶合金により形成されているコイルエキスパンダは、前記コイルエキスパンダ自体の温度が、前記形状記憶合金のマルテンサイト変態温度よりも高い場合には、長手方向に伸長するように処理されていることを特徴とする請求項1に記載の組合せオイルリング。
- 前記コイルエキスパンダを形成する異形線の断面形状における厚みと幅との比は1:1〜1:4の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の組合せオイルリング。
- 二つのレールを柱部で連結した断面略I字形のオイルリングと、前記オイルリングの二つのレールを連結する柱部内周側に形成された内周溝に配置され、オイルリングをその径方向外方に押圧付勢するコイルエキスパンダとからなる組合せオイルリングにおいて、
前記オイルリングの軸方向幅は、0.3mm〜3mmの範囲内であり、前記コイルエキスパンダは、形状記憶合金により形成されており、コイルエキスパンダ自体の温度が前記形状記憶合金のマルテンサイト変態温度よりも高くなると、コイルエキスパンダの長手方向に伸長するように処理されていることを特徴とする組合せオイルリング。 - 前記オイルリングの軸方向幅は、1.0mm〜3.0mmの範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の組合せオイルリング。
- 前記形状記憶合金により形成されているコイルエキスパンダは、異形線を用いて形成されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の組合せオイルリング。
- 前記コイルエキスパンダを形成する異形線の断面形状における厚みと幅との比は1:1〜1:4の範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の組合せオイルリング。
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