JPWO2003100822A1 - 高圧水銀蒸気放電ランプおよびランプユニット - Google Patents
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Abstract
本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、前記発光管の内部空間に含まれる少なくとも水銀及び希ガスと、前記発光管の内部空間に対向して配置された2以上の電極とを備えた高圧水銀蒸気放電ランプである。点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間の短半径をrs[mm]、前記内部空間の長半径をrl[mm](rl≧rs)、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、rl≦0.0103×W−0.00562×P−0.316×rs+0.615×t+1.93の関係をも満足する。
Description
技術分野
本発明は、高圧水銀蒸気放電ランプおよびランプユニットに関し、特に超高圧で明るい光を放射することができる割れにくい高圧水銀蒸気放電ランプに関している。
背景技術
水銀ランプは、点灯時の水銀圧力の増加とともにラインスペクトルから連続スペクトルへと分光分布が変化し、輝度も向上する。高圧水銀蒸気放電ランプは輝度が高く、従来より、半導体製造装置の露光用に用いられてきたが、プロジェクタなどのより強力な光源として用いられる場合には、水銀圧力(動作圧力)を更に高めることが求められている。
高圧水銀蒸気放電ランプの従来技術は、例えば、特開平6−52830号公報に記載されている。この高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスのランプ容器と、ランプ容器の放電スペース内に配された一対のタングステン電極と、放電スペース内に封入された所定量の水銀、ハロゲンおよび希ガスとを有している。放電スペースは楕円体形状を有している。このランプの動作時の消費電力(ランプ電力)は70〜150[W]の範囲内にある。上記の先行技術文献は、楕円体の放電スペース内形状として、放電路方向(楕円体の長径)の寸法、放電路を横切る最大直径(楕円体の短径)ならびにランプ容器の最大外径、放電路の長さを所定の範囲内に規定することを記載している。
また、上記先行技術文献は、ランプ電力を70〜150[W]とすることによりより、多くの光束を確保する一方で、ランプ容器内側の温度が所定の温度範囲となることを実現できることを教示している。その理由として、放電スペース内に所定の温度範囲外の部分が存在する場合、封入されている所定置のハロゲンによって生じているハロゲンサイクルが機能しなくなり、容器の黒化や電極の腐食が生じランプ短寿命の原因になると記載されている。この原因を克服することが、上記先行技術文献に開示されている発明の解決しようとする課題であった。
特開平2−148561号公報は、高圧水銀蒸気放電ランプの他の従来例を開示している。この先行技術文献も、特開平6−52830号公報と同様に、放電容器と、タングステン電極と、所定量の水銀およびンとを有するランプを開示し、その銀蒸気圧を200バールより大きく、管壁負荷を1[W/mm2]より大きく設定することを教示している。このように規定されている理由は、先の特開平6−52830号公報で述べられている内容とほぼ同じである。具体的には、規定範囲内でランプを構成することにより、十分な光束を確保する一方で、電極から蒸発するタングステンによる容器壁の黒化を防ぐことを目的としている。
しかし、特開平2−148561号公報で開示されているランプは、細長く、狭い放電容器形状をしており、ランプ電力も50[W]である。このため、経時にともない、十分な光束を得るにはランプ電力が不十分であり、黒化防止に十分な放電容器内温度が得られない。
特開2001−283782号公報は、ランプ電力が180[W]以上の高圧水銀蒸気放電灯を開示している。このランプには、所定量の水銀とハロゲンが封入され、発光管最大径部の内径、発光管最大径部の肉厚、電極間距離の三値が所定の関係を有することが規定されている。このように規定されている理由は、上記三値が満たされる条件を満足するランプが、光学特性および寿命試験において、良好な結果を示したと記述されている。特開2001−283782号公報において試験結果が記載されているランプは、ラこの文献の表1によると、水銀封入量が規定範囲の上限である0.25mg/mm3の場合、ランプ電力が200[W]で、動作圧力は250気圧前後と概算される。すなわち、このランプの動作圧力の上限は、250気圧前後であると理解される。
近年、プロジェクタに用いられる光源には、より高い光出力が求められ、高効率化および小形化の要求は益々強くなってきている。このような光源に高圧水銀蒸気放電ランプを用いる場合、上記の先行技術文献に開示されている知見によっては解決できない課題が発生している。
ランプの高光出力化という観点から、光束の総量を増加させるために定格ランプ電力の増加が進み、150[W]より大きく、200〜300[W]クラスの需要が増えている。
高効率化に関しては、ランプ点灯時の動作圧力を増加させることによる放電発光の可視域の発光効率の向上が有効である。その観点から、近年、250気圧以上の動作圧力が望まれている。このような動作圧力の増加は、電極間距離の短縮化(短アーク化)を進める上でも必要である。プロジェクタの光源に高圧水銀蒸気放電ランプを用いる場合、電極間距雛を短くすることにより、投写時の光利用効率が良くなる。特開平6−52830号公報は、ランプ電力130[W]〜150[W]で、電極間距離が1.8〜2.0mmのランプを開示している。上記の理由から、200〜300[W]クラスのランプにおいても、電極間距離1.0〜1.5mm以下を達成することが強く望まれている。
電極間距離を短くする際に動作圧力を増加させる理由は、電極間に印加される単位長さあたりの電圧が動作圧力に比例するためである。仮に、ランプ電力および動作圧力が変化しない状況(発光管内の単位体積あたりの封入水銀量が一定の場合など)で、電極間距離が短くなれば、その分、ランプ電圧は減少し、ランプ電流が増加する。ランプ電流の増加は、放電電極に熱的に大きな負担を強いることによるランプ短寿布化を招く。更には、点灯回路の最大許容電流の増加に伴う追加安全対策が必要となる。このように、ランプ電流の増加は好ましくない。
一方、プロジェクタなどの製品筐体寸法の小形化に伴い、ランプ自身を更に小形化することが強く望まれている。
ランプ電力および動作圧力が増大し、ランプが小形化することにより、ランプ破損対策がこれまで以上に重要になってきている。従来からも、ランプ破損に関する指摘は多く存在したが、これらは、長期のランプ寿布点灯中に石英ガラスが失透などを生じ変形し、破損に至るという現象を想定している。
しかしながら、ランプ電力および動作圧力が増大し、ランプ自身が小形化すると、熱的負荷および発光管内の圧力負荷が飛躍的に増大するため、石英ガラスに失透や変形などが生じる前に、より具体的にはランプ寿布の初期段階で破損に至る場合がある。
本発明者が、上記のランプ破損が生じた後の残骸を観察したところ、石英ガラスに失透や変形はなく、発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れていた。このような破損の様子を図7に示す。図7に示す高圧水銀蒸気放電ランプ700は、石英ガラスからなる発光管(バルブ)101と、発光管101から延在した側管部106とを有し、側管部106には、電極102の一部と、電極102に溶接された金属箔107と、外部リード線108の一部が埋設されている。
図7からわかるように、発光管101の発光管膨部109は、その一部が起点となって左右に真っ二つに割れて破損している。この破損の形態は、これまでの破損とは全く異なる形態である。従来の高圧水銀蒸気放電ランプでは、発光管内壁が黒化や失透を生じ、それが原因となって発光管が変形を生じ、破損に至っていた。このような破損のメカニズムとは全く異なるメカニズムで図7に示す破損は生じていると考えられる。
本発明は、上記の新しい課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ランプ電力および動作圧力が増大した場合においても、発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れることを抑制した高圧水銀蒸気放電ランプを提供することにある。
発明の開示
本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、前記発光管の内部空間に対向して配置された2以上の電極と、を備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間の短半径をrs[mm]、前記内部空間の長半径をrl[mm](rl rs)、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、rl≦0.0103×W−0.00562×P−0.316×rs+0.615×t+1.93の関係をも満足する。
好ましい実施形態において、アーク長が2mm以下である。
好ましい実施形態において、点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である。
好ましい実施形態において、W≧200[ワット]を満足する。
好ましい実施形態において、244×rs+111×rl+40.2×t≧4.47×W+138の関係を更に満足する。
好ましい実施形態において、前記発光管に結合された2つの側管部を備え、前記2つの側管部の各々は、前記発光管からアーク長方向に平行に延びる柱状部分を有しており、前記柱状部分は、略円筒状の第1のガラス部と、前記第1のガラス部の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部とを有しており、かつ、圧縮応力が印加されている部位を含んでいる。
好ましい実施形態において、前記圧縮応力が印加されている部位は、前記第2のガラス部、前記第2のガラス部と前記第1のガラス部との境界部、前記第2ガラス部のうちの前記第1のガラス部側の部分、および、前記第1ガラス部のうちの前記第2ガラス部側の部分のいずれかである。
好ましい実施形態において、前記第1のガラス部と前記第2のガラスでとの境界近傍には、両者の応力差に起因する歪みが境界領域が存在している。
好ましい実施形態において、前記圧縮応力の少なくとも一部は、前記側管部の長手方向に印加されている。
本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、前記発光管の内部空間に対向して設置された2以上の電極とを備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である。
本発明のランプユニットは、上記いずれかの高圧水銀蒸気放電ランプと、前記高圧水銀蒸気放電ランプの前記発光管から出た光を反射する反射鏡とを備え、前記発光管の内部空間の長半径方向が地上に対して水平になるようにして点灯される。
発明を実施するための最良の形態
(実施形態1)
図1を参照しながら、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第1の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ100の構成を示す断面図である。
本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ100は、石英ガラスによって作られた発光管101と、発光管101から延在した2つの側管部106とを備えている。
発光管101は、放電スペースとして機能する内部空間を有しており、この内部空間の形状は略楕円体である。発光管101の内部空間には、一対の電極102が突出しており、電極102の先端が所定の距離を置いて対向している。一対の電極102の間でアーク放電が生じ、アーク長は、電極102の先端の間隔によって規定される。なお、発光管101の内部空間には、封入物質として、水銀3、ハロゲン(不図示)、希ガス(不図示)が封入されている。
側管部106は、発光管101からアーク長方向(図1における水平横方向)に平行に延びており、発光管101の気密性を保持する「封止部(シール部)」として機能する。側管部106には、電極102の一部と、電極102に溶接された金属箔107と、電極102が溶接されている側の反対の側で金属箔107に溶接された外部リード線108の一部が埋設されている。本実施形態における電極102はタングステンから形成され、金属箔107および外部リード線108はモリブテンから形成されている。
発光管101の内部空間に突出している各電極102の先端部分には、熱容量を大きくするためにタングステンコイルが巻かれている。
本明細書では、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、発光管の内部空間の短半径をrs[mm]、発光管の内部空間の長半径をrl[mm](rl≧rs)、発光管の内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]と標記するる。これらのパラメータを種々の大きさに設定した11種類のランプを作製し、ランプ寿命点灯後初期のうちに破損に至ったかどうかを評価した。評価結果を、以下の表1に示す。ランプが破損した場合を「×」、破損しなかった場合を「○」で示している。
【表1】
(表1)内の動作圧力P[気圧]は、一般に用いられる次の経験式(式1)で定義している。
【式1】
(式1)のように定義可能な理由は、次のとおりである。
蒸発した水銀蒸気で満たされている発光管内部の微小体積ΔVs[m3]において、理想気体の状態方程式P・ΔVs=Δns・R・Tsが成立する。ここで、Pは圧力[Pa]、Δnsは水銀量[mol]、Rは8.314[J/Mol/K]、Tsは温度[K]である。
この式を、P[気圧]、Δns[mg]、ΔVs[cm3]を用いて書き換え、全内容積にわたって積分(ΣΔn≡n)すると、次式が得られる。
【式2】
このとき、発光管内水銀蒸気が場所に関係なく一定と仮定すれば、
【式3】
と表される。
発光管内水銀蒸気の温度は場所によって異なるが、発光管内壁に負荷される圧力は各ΔVsの圧力の荷重平均である。このため、ΔVsが均等分割されていると考えれば、各ΔVsにおけるTsの発光管内容積に対する荷重平均値でもって(式3)中のTを代用することは妥当である。一般にプロジェクタなどに用いられる電極間距離1.0〜2.0mmの高圧水銀蒸気放電ランプの発光管内温度分布は放電中央部が6000〜7000K、発光管内壁表面温度が1000〜1500Kである。このことから発光管内の荷重平均温度は2000〜3000Kと推定され、この値を(式3)のTに代入すれば、定数A=0.828〜1.242となり1に近いことから、これが経験式(式1)の妥当性を説明する理由である。
(式1)に示した破損評価は点灯後エージング中の6時間以内に破損したものを「×」と示した。「×」印のいすれのランプについて、破損後の残骸を確認した。発光管内表面にあたる石英ガラスに失透や黒化などは生じていない。また、図1の電極封止部104(電極102と発光管101との境界付近)から亀裂が進展した様子もなく、いずれも発光管膨部109の一部が破損の起点となって真っ二つになって破損したことが推察された。
これらの評価結果に基づき、我々は、以下のことを見出した。
すなわち、従来のようにランプ電力が100[W]クラス、点灯時の動作圧力も200気圧前後であれば、従来からの課題である発光管の失透、黒化、およびそれらに伴うランプ寿布の低下を抑制するようにランプの構造を決定すればよかった。しかし、ランプ電力が200[W]以上に上昇し、点灯時の動作圧力も、これまでにない250気圧以上に高められると、ランプ点灯の初期段階における発光管膨部中央の破損を防止することが重要になってきた。
このような新しい課題を解決するためには、増大するランプ点灯時の熱的負荷・圧力負荷に十分耐えうる発光管の機械的強度を確保するための新しいランプ設計の指針が必要である。
我々が着目したのは、ランプの水平点灯時における発光管内壁に生じる応力である。ランプ点灯時、発光管内壁には、熱的負荷による応力(熱応力)と水銀蒸気の圧力による応力とが組み合わさった応力が発生している。この熱応力は、発光管内の略中央に位置する放電アーク5が熱源となって生じる。ランプ発光管部の温度分布は、熱源で最大値を示し、この熱源を中心におよそ同心状に石英ガラス外表面に向かって徐々に減少する。石英ガラス外表面では、外気に対する強い輻射放熱が生じるため、石英ガラス内のランプ点灯時における熱応力は、内表面から外表面に向かって、同心状に大きくなっていく。このため、発光管の外表面における熱応力に対して内表面における熱応力は、「圧縮」応力の傾向を示す。
一方、圧力による応力は、ランプ点灯時における発光管内部に発生する水銀蒸気圧によって発生する。この応力は、発光管の内表面で最も大きく、外表面に向かって同心状に減少していく。
なお、本明細書における「水平点灯」とは、発光管の略楕円体形状の内部空間の長半径方向(=アーク長方向)が、地上に対して略水平になる状態でランプが動作することを意味する。例えばプロジェクタに用いられるランプユニットでは、発光管101からの光を反射する反射鏡と、水平点灯を行うランプとが組み合わせて用いられることがある。高圧水銀蒸気放電ランプの水平点灯は、プロジェクタの光源として用いられる場合に限定されず、照明用のランプとして使用される場合にも行われ得る。
図2(a)および(b)は、図1に示す構成を有する高圧水銀蒸気放電ランプにおける発光管に発生する応力の分布の一例を模式的に示す。図2(a)のグラフには、発光管膨部109の肉厚部分に生じている熱応力、圧力による応力、それらの和として最終的に生じる応力が示されている。グラフの横軸は、発光管の内表面aから外表面bに向かう直線上の位置を示し、縦軸は、応力の相対値を示している。正の応力は引張応力、負の応力は圧縮応力を表している。
図2からわかるように、熱応力は、内表面aにおいて負の極性を示す(圧縮応力)が、内表面aから離れて外表面bに近づくにつれて熱応力は正の方向に増加する。熱応力の極性は、内表面aと外表面bとの間で「正」に変化し、外表面bの近傍では引張応力になる。これに対して、圧力による応力は、内表面aで最大となり、内表面aから外表面bに向かって低下しているが、内表面aから外表面bまでの全範囲で正の極性を示し、常に引張応力の状態にある。
石英ガラスの内部に生じる応力は、上記二つの応力の和である。図2からわかるように、熱応力および圧力による応力の勾配は、発光管の内表面aで最も大きく、極性は反対である。発光管の内表面aに生じる応力は、熱応力の絶対値と圧力による応力の絶対値との差によって規定されるため、これらの応力の変化に極めて敏感である。従って、発光管の形状をどのように設計するかによって、発光管の内表面aに生じる応力は大きく変化し、発光管膨部の割れ易さが決まる。
そこで我々は、破損時に亀裂の起点となっていると推測される発光管膨部109における応力値に着目し、ランプ点灯時に発光管内壁表面に生じる応力値を、汎用有限要素法構造解析プログラム(Finite Element Method)を利用して計算した。この計算の手順を以下に述べる。
図3は、FEMに用いたモデルの一例を示している。このモデルでは、小さな楕円体の中空を内部に含む相対的に大きな楕円体によって構成される発光管を計算の対象としている。図3には、発光管の8分の1の部分の断面が示されている。
FEMに用いた上記モデルの形状を規定するパラメータは、発光管内部短半径rs[mm]、発光管内部長半径rl[mm]、及び、発光管膨部肉厚t[mm]である。ここで、rs≦rlの関係を与えている。
図1に示す電極102は、モデルに含めず省略している。破損時の様子からみて、図1の電極封止部104が亀裂の起点になっていないため、応力の計算上、無視できると判断したためである。このため、放電容器である発光管部のみの応力分布が発光管形状にどのような相関関係を持つのかを明確にするモデルを採用した。
実際のランプは、図1に示すように、側管部106(図1参照)を有している。この側管部106の形状がランプ各部温度分布や応力分布に影響を与えることも考えられる。S.Nakaoらの文献(S.Nakao他:IDW’00予稿集LAD2−4)によれば、側管部106の形状がやや複雑な場合に、当該部分に集中する応力が側管部106の形状に依存する。このことは、側管部106がランプ破損の亀裂の起点になることを想定しており、上記文献に記載されている破損は、本発明の課題である発光管膨部の破損とは異なる現象である。本発明は、側管部106における破損の問題を解決したランプにおいて特に重要な効果をもたらす。
我々が行った上記計算における設定条件を更に述べる。この計算は、モデル作成後、まず石英ガラス内に発生する温度分布を計算した。そして、その結果を用いて、応力分布を計算した。これは、熱−構造練成解析の通常の手順に従っている。
最初の温度分布の計算に用いた設定条件は、次の通りである。すなわち、ランプ点灯時に、投入したエネルギのうち、熱エネルギーとして消費される部分を、発光管の内壁全表面に一様に分配した。ランプ点灯時に熱エネルギーとして消費される割合は、全消費エネルギー(=ランプ電力)の30%とした(ELENBAAS:「THE HIGH PRESSURE MERCURY VAPOUR DISCHARGE」、NORTH−HOLLAND PUBLISHING COMPANY、1951)。
発光管の内表面および外表面では、輻射放熱を考慮し、モデルの最外郭には空気領域を設けた。ただし、空気領域における対流は無視した。
実際のランプでは、発光管内部に対流を生じる水銀蒸気領域が存在するが、ランプ点灯時の熱エネルギーがランプ電力の30%という値を採用することによって、水銀蒸気領域を設定する必要はなくなる。よって、本モデルでは、水銀蒸気領域は設定していない。
石英ガラスの密度は2200[kg/m3]、比熱は1152.55[J/kgK]、熱伝導率は1.7[W/mK]とした。
応力分布の計算を行うための設定条件は、次の通りである。すなわち、モデル各部の温度が室温(18℃)から上昇することによって発生する熱応力と、発光管の内壁表面に対して一様に及ぶ動作圧力とに基づいて計算した。温度の上昇は、先に計算で得られた温度分布に基づいて決定した。応力の計算に必要な、物理的なパラメータについては、石英ガラスのヤング率を73100[N/mm2]、ポアソン比を0.17、線膨張係数を5.6×10−7に設定した。
ランプ電力Wは150、200、300[W]の3条件、動作圧力Pは250、350、450[気圧]の3条件、発光管内部短半径rsは1.5、2.5、3.5[mm]の3条件、発光管内部長半径rlは1.5、2.5、3.5、4.5、5.5、6.5[mm]の中からrs≦rlを満たす最小値から順に4条件、発光管膨部肉厚tは2、4[mm]の2条件で行った。rs=rlとなる中空真円球の場合も含め、計216通りの条件について計算を行った。
図4は、計算結果の一例を示すグラフである。図4に示す計算結果は、ランプ電力W=200[W]、動作圧力P=350[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、発光管内部長半径rl=1.5、2.5、3.5、4.5[mm]、肉厚t=2[mm]とした場合に得られたものである。
図4のグラフの横軸は、「肉厚位置[mm]」を示している。この肉厚位置は、図3のモデルの原点座標をゼロとし、発光管膨部の内表面から外表面にむかう直線上における原点からの距離(位置)を表している。グラフの縦軸は、ランプ点灯時の応力[N/mm2](熱応力と圧力による応力の和)を表している。ここで、応力の正値は引張応力を表し、負値は圧縮応力を表す。
図4からわかるように、ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚tが同じ場合であっても、発光管内部長半径rlが異なると、応力分布が異なる。応力の値の発光管内部長半径rlへの依存度は、発光管の内表面で最も強い。
図4に結果を示した条件以外の条件においても、図4に示す傾向と同様の傾向が観察された。図5のグラフは、ランプ電力W=150[W]、動作圧力P=450[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、発光管内部長半径rl=1.5、2.5、3.5、4.5[mm]、肉厚t=4[mm]の場合に得られた計算結果を示している。図5に示される応力分布についても、図4に示される応力分布と同様の傾向が観察される。
図6は、図4のデータに基づいて作成したグラフであり、発光管の内表面(肉厚位置:1.5mm)における応力のrl依存性を示している。図6のグラフ中の実線は、回帰曲線を示しているため、ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚tを固定したとき、所望の発光管の内表面における応力を所望の大きさにするために必要な発光管内部長半径rlが求められる。すべての計算結果ついても、同様の整理を行った。
(表1)に示すランプ1〜10についても、各パラメータ(ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管内部長半径rl、発光管膨部肉厚t)をもとに、FEMプログラムを用いて、発光管の内表面における応力値を計算した。計算結果と、そのときの破損評価結果を並べて(表2)に示す。
【表2】
表2から、発光管膨部の内表面に生じる応力が、5[N/mm2]前後で破損が生じる。言い換えると、発光管膨部の内表面に生じる応力を5[N/mm2]以下に抑えられれば、破損を防止できる可能性が高まる。
そこで、先に行った全ての計算結果を用い、発光管膨部内表面に生じる応力が5[N/mm2]以下となるための重回帰式を求めた。ここで、rlを目的変数として、W、P、rs、tを説明変数とした。
例えば、図6のグラフに示すランプの場合、発光管膨部内表面に生じる応力が5[N/mm2]となるrlは、回帰曲線より、2.46[mm]であることがわかる。これは、図4のグラフについて説明したとおり、W=200[W]、動作圧力P=350[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、肉厚t=2[mm]の時のランプに閏する値である。このようなセットを全て抽出し、重回帰分析を行えばよい。
発光管膨部内表面に生じる応力が引張応力5[N/mm2]以下となるための重回帰式として、(式4)が得られた。
【式4】
重回帰分析の重相関係数は0.90であった。つまり、FEM計算によって得られた実績値は、(式4)において計算される理論値によって十分な精度で表現されることが明らかとなった。
なお、本発明では、ランプ電力W≧150[ワット]、動作圧力ガラス肉厚P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、(式4)を満足するように高圧水銀蒸気放電ランプを設計する。
(式4)を満たすランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚t、発光管内部長半径rlの組み合わせとすることにより、ランプ電力Wの増加および動作圧力Pの上昇に対し、ランプ寿命点灯後初期のうちに発光管膨部の一部が起点となり、左右真二つに割ったように破損する現象を抑制することが可能となるわけであるが、ランプ実用面からすると、ランプ長寿命化も合わせて実現する必要がある。
そこで、(表1)に示す11種類のランプについて、寿命試験を行った。点灯のべ時間1000時間までの点滅点灯試験において、点灯試験中に発生する石英ガラス発光管の破損、極端な変形の状態を目視にて評価した。評価結果を(表3)に示す。また、各ランプについて、前述したFEM計算を行った際に得られた温度分布に基づいて、発光管膨部内表面の温度(水平点灯の場合において、上側部に相当)を算出した。この結果も表3に示している。
【表3】
ここで寿命評価の判断基準は、「○」は、わずかな変形のみ、「×」は、極端な変形を生じて破損に至ったもの、「△」は、変形は生じたが破損しなかったものである。
ここでの前述したFEM計算を行った際にあらかじめ得た温度分布の結果から、発光管膨部内表面の温度を算出した方法について述べる。前述した計216種類の各温度分市計算結果から発光管膨部内表面の温度Tを抽出し、目的変数を温度T、説明変数をW、rs、rl、tとして先と同様重回帰分析により重回帰式を求めた。前述
したように結果としての熱エネルギーを発光管内部表面に直接設定しているので、温度Tは水銀蒸気の動作圧力Pには依存しない。得られた重回帰式は(式5)となった。
【式5】
重回帰分析の重相関係数は0.96であった。(式5)を用いて得た(表3)の結果をみると、寿命評価が「○」となるか否かは発光管膨部内表面温度1650℃前後が、寿命特性を左右する閾値であることが推察される。1650℃という数字は一般に言われる石英ガラスの軟化点温度に近い。通常ならランプは早期に変形を生じると考えられるが、同時に内部最表面に生じる圧縮応力が変形を抑制する方向に働いていると考えられる(ランプNo.8、11)。
そこで、(式4)に示した各パラメータの組み合わせに加えて、膨部内表面温度は1650℃以下が望ましいという観点から、(式5)から以下の(式6)を得た。
【式6】
この(式6)を更に変形して以下の(式7)を得た。
【式7】
(式4)および(式7)を同時に満足するようにランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚t、発光管内部長半径rlを適切に設定することにより、ランプ電力Wが増加し、動作圧力Pが高くなっても、ランプ寿命点灯後初期に発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れる現象をより確実に抑制でき、長寿命化の実現が容易になる。
発光管膨部の内壁表面における引張応力を5[N/mm2]以下することは、ランプ電力Wが低く、かつ動作圧力Pが低い条件のもとでは比較的簡単に実現できる。逆に、動作圧力Wが高くなると(150ワット以上、更には200ワット以上)、発光管膨部の内表面に生じる圧力による応力(図2参照)が増大し、発光管膨部の内壁表面における引張応力を5[N/mm2]以下にすることが非常に困難になる。
一方、内表面における熱応力の最小値と外表面における熱応力の最大値の差は、両表面間の温度差によって決定される。ランプにおいて同じ熱エネルギーをもってこの温度差を付けようとするならば、肉厚を厚くすればよい。低動作圧力の場合は発光管膨部内表面の圧力による応力(引張応力)が小さいため、発光管強度を維持するための圧縮方向の熱応力の必要性も少なく、したがって肉厚tを厚くする必要も少ない。加えてランプ電力Wが低いと、熱として消費されるエネルギー量も少ないため、発光管内表面が軟化点温度に近くなることもほとんどなく、形状設計における自由度は多い。それに比較して、ランプ電力Wが150ワット以上、動作圧力Pが250気圧以上になると、増大する発光管膨部内表面の圧力による応力(引張応力)を緩和するために、熱応力によってバランスをとる必要がある。しかし、発光管の肉厚tが5mmを超えて厚くなることは、ランプの小型軽量化を阻み、また、ガラスの光透過率を低下させることになるため、好ましくない。
このように、高圧水銀蒸気放電ランプのランプ電力Wおよび動作圧力Pが増加すると、設計の自由度が少なくなり、安全で長寿命なランプを提供することが困難になるため、今後益々、本発明の効果が重要になってくる。
なお、上記計算結果および実験結果は、ランプ電力Wが150[W]以上の場合に得られたものであるが、ランプ電力Wが200[W]以上の場合に、本発明は更に有益な効果をもたらす。また、動作圧力Pが250気圧以上である場合は、発光管と側管部との境界部での亀裂も生じやすくなる。このような亀裂を抑制するためには、以下に説明する実施形態2の構成を採用することが好ましい。本発明は、実施形態2に示すような構成を採用することにより、膨部中央での破損が最も重要な問題になる場合に特に有益な効果をもたらすといえる。
(実施形態2)
次に、図8から図10を参照しながら、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第2の実施形態を説明する。
本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプは、実施形態1について説明した設計手法で設計された構造を有するとともに、これに加えて、発光管と側管部との境界部分での割れを抑制する構造を備えている。
図8(a)および(b)は、本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ200の構成を模式的に示している。本実施形態のランプ200は、発光物質6が封入される発光管1と、発光管1から延在した側管部2とを備えている。図8(a)は、ランプ200の全体構成を模式的に示しており、図8(b)は、図8(a)中の線b−b線における発光管101側から見た側管部2の断面構成を模式的に示している。
ランプ200の側管部2は、発光管1の内部10の気密性を保持する「封止部」として機能する。ランプ200は、2つの側管部2を備えたダブルエンド型のランプである。
本実施形態における側管部2は、発光管1から延在した略円筒状の第1のガラス部8と、第1のガラス部8の内側(中心側)の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7とを有している。また、側管部2は、圧縮応力が印加されている部位7を有しており、本実施形態において、圧縮応力が印加されている部位は、第2のガラス部7に相当する部分である。側管部2の断面形状は、図8(b)に示すように、略円形であり、側管部2内に、ランプ電力を供給するための金属部4が設けられている。この金属部4の一部は、第2のガラス部7と接しており、本実施形態では、第2のガラス7の中心部に金属部4が位置している。第2のガラス7は、側管部2の中心部に位置しており、第2のガラス部7の外周は、第1のガラス部8によって覆われている。
本実施形態のランプ200に対して、光弾性効果を利用した鋭敏色板法による歪み測定を実行して、側管部2を観察すると、第2のガラス部7に相当する部分に圧縮応力が存在していることが確認される。鋭敏色板法による歪み測定では、ランプ200の形状を維持したまま、側管部2を輪切り状にした断面内の歪み(応力)の観測を行うことができないのであるが、第2のガラス部7に相当する部分に圧縮応力が観測されたということは、第2のガラス部7の全体または大半に圧縮応力が印加されている場合の他、第2のガラス部7と第1ガラス部8との境界部に圧縮応力が印加されている場合、第2ガラス部7のうちの第1のガラス部8側の部分、または、第1ガラス部8のうちの第2のガラス部7側の部分に圧縮応力が印加されている場合のいずれか又はそれらが複合した形で、側管部2の一部に圧縮応力が印加されているということになる。また、この測定では、側管部2の長手方向に圧縮する応力(または歪み)は積分値で観測される。
側管部2における第1のガラス部8は、SiO2を99重量%以上含むものであり、例えば、石英ガラスから構成されている。一方、第2のガラス部7は、15重量%以下のAl2O3および4重量%以下のBのうちの少なくとも一方と、SiO2とを含むものであり、例えば、バイコールガラスから構成されている。SiO2にAl2O3やBを添加すると、ガラスの軟化点は下げるため、第2のガラス部7の軟化点は、第1のガラス部8の軟化点温度よりも低い。なお、バイコールガラス(Vycor glas:商品名)とは、石英ガラスに添加物を混入させて軟化点を下げて、石英ガラスよりも加工性を向上させたガラスであり、例えば、ホウケイ酸ガラスを熱・化学処理して、石英の特性に近づけることによって作製することができる。バイコールガラスの組成は、例えば、シリカ(SiO2)96.5重量%、アルミナ(Al2O3)0.5重量%、ホウ素(B)3重量%である。本実施形態では、バイコールガラス製のガラス管から、第2のガラス部7は形成されている。なお、バイコール製のガラス管の代わりに、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラス管を用いても良い。
側管部2の一部に印加されている圧縮応力は、実質的にゼロ(すなわち、Okgf/cm2)を超えたものであればよい。なお、この圧縮応力は、ランプが点灯していない状態のものである。この圧縮応力の存在により、従来の構造よりも耐圧強度を向上させることができる。この圧縮応力は、約10kgf/cm2以上(約9.8×105N/m2以上)であることが好ましい。そして、約50kgf/cm2以下(約4.9×106N/m2以下)であることが好ましい。10kgf/cm2未満であると、圧縮歪みが弱く、ランプの耐圧強度を十分に上げられない場合が生じ得るからである。そして、50kgf/cm2を超えるような構成にするには、それを実現させるのに、実用的なガラス材料が存在しないからである。ただし、10kgf/cm2未満であっても、実質的に0の値を超えれば、従来の構造よりも耐圧を上げることができ、また、50kgf/cm2を超えるような構成を実現できる実用的な材料が開発されたならば、50kg/cm2を超える圧縮応力を第2のガラス部7が有していてもよい。
ランプ200を歪検査器で観測した結果から推測すると、第1のガラス部8と第2のガラス部7との間の境界周辺には、両者の圧縮応力の差によって生じた歪み境界領域20が存在していると思われる。このことは、圧縮応力は、専ら、第2のガラス部7(または、第2のガラス部7の外周近傍領域)に存在しており、第1のガラス部8全体には、第2のガラス部7の圧縮応力がそれほど(または、ほとんど)伝わってないことを意味していると考えられる。両者(8、7)の圧縮応力の差は、例えば、約10kgf/cm2から約50kgf/cm2の範囲内となり得る。
ランプ200の発光管1は、略球形をしており、第1のガラス部8と同様に、石英ガラスから構成されている。なお、長寿命などの優れた特性を発揮する高圧水銀ランプ(特に、超高圧水銀ランプ)を実現する上では、発光管1を構成する石英ガラスとして、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、1ppm以下)高純度の石英ガラスを用いることが好ましい。なお、勿論、通常のアルカリ金属不純物レベルの石英ガラスを用いることも可能である。発光管1の外径は例えば5mm〜20mm程度であり、発光管1のガラス厚は例えば1mm〜5mm程度である。発光管1内の放電空間(10)の容積は、例えば0.01〜1cc程度(0.01〜1cm3)である。本実施形態では、外径9mm程度、内径4mm程度、放電空間の容量0.06cc程度の発光管1が用いられる。
発光管1内には、一対の電極棒(電極)3が互いに対向して配置されている。電極棒3の先端は、0.2〜5mm程度(例えば、0.6〜1.0mm)の間隔(アーク長)Dで、発光管1内に配置されており、電極棒3のそれぞれは、タングステン(W)から構成されている。電極棒3の先端には、ランプ動作時における電極先端温度を低下させることを目的として、コイル12が巻かれている。本実施形態では、コイル12として、タングステン製のコイルを用いているが、トリウム−タングステン製のコイルを用いてもよい。また、電極棒3も、タングステン棒だけでなく、トリウム−タングステンから構成された棒を使用してもよい。
発光管1内には、発光物質として、水銀6が封入されている。超高圧水銀ランプとしてランプ200を動作させる場合、水銀6は、例えば、200mg/cc程度またはそれ以上(220mg/cc以上または230mg/cc以上、あるいは250mg/cc以上)、好ましくは、300mg/cc程度またはそれ以上(例えば、300mg/cc〜500mg/cc)の水銀と、5〜30kPaの希ガス(例えば、アルゴン)と、必要に応じて、少量のハロゲンとが発光管1内に封入されている。
発光管1内に封入されるハロゲンは、ランプ動作中に電極棒3から蒸発したW(タングステン)を再び電極棒3に戻すハロゲンサイクルの役割を担っており、例えば、臭素である。封入するハロゲンは、単体の形態だけでなく、ハロゲン前駆体の形態(化合物の形態)のものでもよく、本実施形態では、ハロゲンをCH2Br2の形態で発光管10内に導入している。また、本実施形態におけるCH2Br2の封入量は、0.0017〜0.17mg/cc程度であり、これは、ランプ動作時のハロゲン原子密度に換算すると、0.01〜1μmol/cc程度に相当する。なお、ランプ200の耐圧強度(動作圧力)は、20MPa以上(例えば、30〜50MPa程度、またはそれ以上)にすることができる。また、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上であり、特に上限は設定されない。例示的に示すと、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上から、300W/cm2程度の範囲(好ましくは、80〜200W/cm2程度)のランプを実現することができる。冷却手段を設ければ、300W/cm2程度以上の管壁負荷を達成することも可能である。なお、定格電力は、例えば、150W(その場合の管壁負荷は、約130W/cm2に相当)である。
放電空間10内に一端が位置する電極棒3は、側管部2内に設けられた金属箔4に溶接により接続されており、金属箔4の少なくとも一部は、第2のガラス部7内に位置している。図8に示した構成では、電極棒3と金属箔4との接続部を含む箇所を、第2のガラス部7が覆うような構成にしている。図8に示した構成における第2のガラス部7の寸法を例示すると、側管部2の長手方向の長さで、約2〜20mm(例えば、3mm、5mm、7mm)であり、第1のガラス部8と金属箔4との間に挟まっている第2のガラス部7の厚さは、約0.01〜2mm(例えば、0.1mm)である。第2のガラス部7の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離Hは、約0mm〜約6mm(例えば、0mm〜約3mm、または、1mm〜6mm)である。第2のガラス部7を放電空間10内に露出させたくない場合には、距離Hは0mmよりも大きくなり、例えば、1mm以上となる。そして、金属箔4の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離B(言い換えると、電極棒3だけで側管部2内に埋まっている長さ)は、例えば、約3mmである。
上述したように、側管部2の断面形状は、略円形であり、その略中央部に金属箔4が設けられている。金属箔4は、例えば、矩形のモリブデン箔(Mo箔)であり、金属箔4の幅(短辺側の長さ)は、例えば、1.0mm〜2.5mm程度(好ましくは、1.0mm〜1.5mm程度)である。金属箔4の厚さは、例えば、15μm〜30μm程度(好ましくは、15μm〜20μm程度)である。厚さと幅との比は、だいたい1:100程度になっている。また、金属箔4の長さ(長辺側の長さ)は、例えば、5mm〜50mm程度である。
電極棒3が位置する側と反対側には、外部リード5が溶接により設けられている。金属箔4のうち、電極棒3が接続された側と反対側には、外部リード5が接続されており、外部リード5の一端は、側管部2の外まで延びている。外部リード5を点灯回路(不図示)に電気的に接続することにより、点灯回路と、一対の電極棒3とが電気的に接続されることになる。側管部2は、封止部のガラス部(7、8)と金属箔4とを圧着させて、発光管1内の放電空間10の気密を保持する役割を果たしている。側管部2によるシール機構を以下に簡単に説明する。
側管部2のガラス部を構成する材料と、金属箔4を構成するモリブデンとは互いに熱膨張係数が異なるので、熱膨張係数の観点からみると、両者は、一体化された状態にはならない。ただし、本構成(箔封止)の場合、封止部のガラス部からの圧力により、金属箔4が塑性変形を起こして、両者の間に生じる隙間を埋めることができる。それによって、側管部2のガラス部と金属箔4とを互いに圧着させた状態にすることができ、側管部2で発光管1内のシールを行うことができる。すなわち、側管部2のガラス部と金属箔4との圧着による箔封止によって、側管部2のシールは行われている。本実施形態では、圧縮歪みのある第2のガラス部7が設けられているので、このシール構造の信頼性が向上されている。
次に、側管部2における圧縮歪みについて説明する。図9(a)および(b)は、側管部2の長手方向(電極軸方向)に沿った圧縮歪みの分布を模式的に示しており、図9(a)は、第2のガラス部7が設けられたランプ200の構成の場合、一方、図9(b)は、第2のガラス部7の無いランプ200’の構成(参考例)の場合を示している。
図9(a)に示した側管部2のうち、第2のガラス部7に相当する領域(網掛け領域)に圧縮応力(圧縮歪み)が存在し、第1のガラス部8の箇所(斜線領域)における圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。一方、図9(b)に示すように、第2のガラス部7の無い側管部2の場合、局所的に圧縮歪みが存在している箇所はなく、第1のガラス部8の圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。
本願発明者は、実際にランプ200の歪みを定量的に測定し、側管部2のうち第2のガラス部7に圧縮応力が存在することを観測した。この歪みの定量化は、光弾性効果を利用した鋭敏色板法を用いて行うことができる。この手法によると、歪み(応力)のある箇所の色が変化して見え、その色を歪み標準器と比較して歪みの大きさを定量化することができる。つまり、測定したい歪みの色と同色の光路差を読みとることで、応力を算出することができる。歪みの定量化のために使用した測定器は、歪検査器(東芝製:SVP−200)であり、この歪検査器を用いると、側管部2の圧縮歪みの大きさを、側管部2に印加されている応力の平均値として求めることができる。
本願発明者は、側管部2における光の透過距離L、すなわち、側管部2の外径Lを測定し、そして、歪み標準器を用いて、測定時の側管部2の色から光路差Rを読みとった。また、光弾性常数Cは、石英ガラスの光弾性常数3.5を使用した。これらを上記式に代入し、算出された応力値の結果を図10の棒グラフに示す。
図10に示すように、応力が0[kgf/cm2]であったランプ本数は、0本であり、10.2[kgf/cm2]であったランプ本数は、43本であり、20.4[kgf/cm2]であったランプ本数は、17本であり、そして、35.7[kgf/cm2]であったランプ本数は、0本であった。
一方、参考例のランプ200’の場合、測定した全てのランプについて、応力は、0[kgf/cm2]であった。なお、測定原理上、側管部2に印加されている応力の平均値から、側管部2の圧縮応力を算定したが、第2のガラス部7を設けることで側管部2の一部に圧縮応力が印加された状態になることは、図10の結果より容易に結論付けることができる。なぜならば、参考例のランプ200’については、側管部2に圧縮応力は存在しなかったからである。また、図10は、離散的な応力値を示しているが、これは、歪み標準器から読み取る光路差が離散的なものであることに起因している。従って、応力値が離散的なのは、鋭敏色板法による歪み測定の原理によるものである。実際には、例えば、10.2[kgf/cm2]と20.4[kgf/cm2]との間の値を示す応力値も存在するものと思われるが、第2のガラス部7もしくは第2のガラス部7の外周周辺領域に、所定量の圧縮応力が存在していることにはかわりない。
なお、本測定では、側管部2の長手方向(電極軸3が延びる方向)についての応力を観察したが、このことは、他の方向において圧縮応力が存在していないことを意味するものではない。側管部2の径方向(中心−外周方向)、または、側管部2の周方向(例えば、時計周り方向)について圧縮応力が存在しているかどうかを測定するには、発光管1や側管部2を切断する必要があるのであるが、そのような切断を行ったとたん、第2のガラス部7の圧縮応力が緩和されてしまう。従って、ランプ200に対して切断を行わない状態で測定できるのは、側管部2の長手方向についての圧縮応力であるため、本願発明者は、少なくとも、その方向での圧縮応力を定量化したのである。
本実施形態のランプ200では、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7に圧縮歪み(少なくとも長手方向への圧縮歪み)が存在しているので、高圧放電ランプの耐圧強度を向上させることができる。言い換えると、図8および図9(a)に示した本実施形態のランプ200の方が、図9(b)に示した参考例のランプ200’よりも、耐圧強度を高くすることができる。図8に示した本実施形態のランプ200は、従来の最高レベルの動作圧である20MPa程度を超える、30MPa以上の動作圧で動作させることが可能である。
(実施形態3)
次に、図11を参照しながら、本発明によるランプユニットの実施形態を説明する。本実施形態では、前述のランプ100および200が、反射鏡と組み合わせられ、ミラー付きランプまたはランプユニットを構成している。
図11は、本発明の実施形態であるランプ200を備えたミラー付きランプ900の断面を模式的に示している。ミラー付ランプ900は、略球形の発光管1と一対の側管部2とを有するランプ200と、ランプ200から発せられた光を反射する反射鏡60とを備えている。なお、ランプ200は、例示であり、ランプ100であってもよい。また、ミラー付ランプ900は、反射鏡60を保持するランプハウスを更に備えていてもよい。ここで、ランプハウスを備えた構成のものは、ランプユニットに包含されるものである。
反射鏡60は、例えば、平行光束、所定の微小領域に収束する集光光束、または、所定の微小領域から発散したのと同等の発散光束になるようにランプ100からの放射光を反射するように構成されている。反射鏡60としては、例えば、放物面鏡や楕円面鏡を用いることができる。
本実施形態では、ランプ200の一方の側管部2に口金56が取り付けられており、当該側管部2から延びた外部リード5と口金56とは電気的に接続されている。側管部2と反射鏡60とは、例えば無機系接着剤(例えばセメントなど)で固着されて一体化されている。反射鏡60の前面開口部側に位置する側管部2の外部リード5には、引き出しリード線65が電気的に接続されており、引き出しリード線65は、リード線5から、反射鏡60のリード線用開口部62を通して反射鏡60の外にまで延ばされている。反射鏡60の前面開口部には、例えば前面ガラスを取り付けることができる。
このようなミラー付ランプまたはランプユニットは、例えば、液晶やDMD(Digital Micromiror Device)を用いたプロジェクタのような画像投影装置に取り付けることができ、画像投影装置用光源として使用される。また、このようなミラー付ランプまたはランプユニットと、画像表示素子(DMDパネルや液晶パネルなど)を含む光学系とを組み合わせることにより、画像投影装置を構成することができる。例えば、DMDを用いたプロジェクタ(デジタルライトプロセッシング(DLP)プロジェクタ)や、LCOS(LiquidCrystal on Silicon)構造を採用した反射型のプロジェクタを提供することができる。更に、本実施形態のランプおよびランプユニットは、画像投影装置用光源の他に、紫外線ステッパ用光源、または競技スタジアム用光源や自動車のヘッドライト用光源、道路標識を照らす投光器用光源などとしても使用することができる。
産業上の利用可能性
本発明は、従来と比較して、ランプ電力の高電力化ならびに発光管内動作圧力の高圧力化に最適な設計指針を明示できたことにより、ランプ寿命点灯後初期のうちに発光管膨部の一部が起点となり、左右真二つに割ったように破損する現象を抑制することが可能となり、更に長寿命化も合わせて実現することが可能となった。同時にランプ自体の性能としても高光出力化、高効率化が実現する。このようなランプをプロジェクタに搭載することにより、プロジェクタ性能においてもランプ破損抑制による安全性、ランプ長寿命化による長時間動作信頼性ならびにランプ交換頻度が少なくなることによるメンテナンス費用の低コスト化、加えて高光出力化によるスクリーン照度向上、高効率化による省エネルギー効果など訴求ポイントは数多くなり、その効果は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施形態1における高圧水銀蒸気放電ランプの図である。
図2(a)は、実施形態1における発光管膨部石英ガラス内に発生する一般的な応力のグラフ、(b)は「位置」を示す図である。
図3は、本発明の実施形態1におけるFEMモデルの図である。
図4は、本発明の実施形態1におけるFEM計算結果の一例を示した図である。
図5は、本発明の実施形態1におけるFEM計算結果の一例を示した図である。
図6は、図4における発光管内部最表面の応力と発光管内部長半径との関係を示す図である。
図7は、発光管膨部から真っ二つに割れた従来の高圧水銀蒸気放電ランプを示す図である。
図8(a)は、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第2の実施形態の全体構成を模式的に示す断面図である、図8(b)は、図8(a)中の線b−b線における発光管101側から見た側管部2の断面構成を模式的に示す図である。
図9(a)は、本発明の第2実施形態における第2のガラス部7が設けられたランプ200の構成を示す断面図であり、図9(b)は、第2のガラス部7の無いランプ200’の構成を示す断面図である。
図10は、本発明のランプについて求めた応力値の結果を示す棒グラフである。
図11は、本発明によるランプユニットの実施形態を示す断面図である。
本発明は、高圧水銀蒸気放電ランプおよびランプユニットに関し、特に超高圧で明るい光を放射することができる割れにくい高圧水銀蒸気放電ランプに関している。
背景技術
水銀ランプは、点灯時の水銀圧力の増加とともにラインスペクトルから連続スペクトルへと分光分布が変化し、輝度も向上する。高圧水銀蒸気放電ランプは輝度が高く、従来より、半導体製造装置の露光用に用いられてきたが、プロジェクタなどのより強力な光源として用いられる場合には、水銀圧力(動作圧力)を更に高めることが求められている。
高圧水銀蒸気放電ランプの従来技術は、例えば、特開平6−52830号公報に記載されている。この高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスのランプ容器と、ランプ容器の放電スペース内に配された一対のタングステン電極と、放電スペース内に封入された所定量の水銀、ハロゲンおよび希ガスとを有している。放電スペースは楕円体形状を有している。このランプの動作時の消費電力(ランプ電力)は70〜150[W]の範囲内にある。上記の先行技術文献は、楕円体の放電スペース内形状として、放電路方向(楕円体の長径)の寸法、放電路を横切る最大直径(楕円体の短径)ならびにランプ容器の最大外径、放電路の長さを所定の範囲内に規定することを記載している。
また、上記先行技術文献は、ランプ電力を70〜150[W]とすることによりより、多くの光束を確保する一方で、ランプ容器内側の温度が所定の温度範囲となることを実現できることを教示している。その理由として、放電スペース内に所定の温度範囲外の部分が存在する場合、封入されている所定置のハロゲンによって生じているハロゲンサイクルが機能しなくなり、容器の黒化や電極の腐食が生じランプ短寿命の原因になると記載されている。この原因を克服することが、上記先行技術文献に開示されている発明の解決しようとする課題であった。
特開平2−148561号公報は、高圧水銀蒸気放電ランプの他の従来例を開示している。この先行技術文献も、特開平6−52830号公報と同様に、放電容器と、タングステン電極と、所定量の水銀およびンとを有するランプを開示し、その銀蒸気圧を200バールより大きく、管壁負荷を1[W/mm2]より大きく設定することを教示している。このように規定されている理由は、先の特開平6−52830号公報で述べられている内容とほぼ同じである。具体的には、規定範囲内でランプを構成することにより、十分な光束を確保する一方で、電極から蒸発するタングステンによる容器壁の黒化を防ぐことを目的としている。
しかし、特開平2−148561号公報で開示されているランプは、細長く、狭い放電容器形状をしており、ランプ電力も50[W]である。このため、経時にともない、十分な光束を得るにはランプ電力が不十分であり、黒化防止に十分な放電容器内温度が得られない。
特開2001−283782号公報は、ランプ電力が180[W]以上の高圧水銀蒸気放電灯を開示している。このランプには、所定量の水銀とハロゲンが封入され、発光管最大径部の内径、発光管最大径部の肉厚、電極間距離の三値が所定の関係を有することが規定されている。このように規定されている理由は、上記三値が満たされる条件を満足するランプが、光学特性および寿命試験において、良好な結果を示したと記述されている。特開2001−283782号公報において試験結果が記載されているランプは、ラこの文献の表1によると、水銀封入量が規定範囲の上限である0.25mg/mm3の場合、ランプ電力が200[W]で、動作圧力は250気圧前後と概算される。すなわち、このランプの動作圧力の上限は、250気圧前後であると理解される。
近年、プロジェクタに用いられる光源には、より高い光出力が求められ、高効率化および小形化の要求は益々強くなってきている。このような光源に高圧水銀蒸気放電ランプを用いる場合、上記の先行技術文献に開示されている知見によっては解決できない課題が発生している。
ランプの高光出力化という観点から、光束の総量を増加させるために定格ランプ電力の増加が進み、150[W]より大きく、200〜300[W]クラスの需要が増えている。
高効率化に関しては、ランプ点灯時の動作圧力を増加させることによる放電発光の可視域の発光効率の向上が有効である。その観点から、近年、250気圧以上の動作圧力が望まれている。このような動作圧力の増加は、電極間距離の短縮化(短アーク化)を進める上でも必要である。プロジェクタの光源に高圧水銀蒸気放電ランプを用いる場合、電極間距雛を短くすることにより、投写時の光利用効率が良くなる。特開平6−52830号公報は、ランプ電力130[W]〜150[W]で、電極間距離が1.8〜2.0mmのランプを開示している。上記の理由から、200〜300[W]クラスのランプにおいても、電極間距離1.0〜1.5mm以下を達成することが強く望まれている。
電極間距離を短くする際に動作圧力を増加させる理由は、電極間に印加される単位長さあたりの電圧が動作圧力に比例するためである。仮に、ランプ電力および動作圧力が変化しない状況(発光管内の単位体積あたりの封入水銀量が一定の場合など)で、電極間距離が短くなれば、その分、ランプ電圧は減少し、ランプ電流が増加する。ランプ電流の増加は、放電電極に熱的に大きな負担を強いることによるランプ短寿布化を招く。更には、点灯回路の最大許容電流の増加に伴う追加安全対策が必要となる。このように、ランプ電流の増加は好ましくない。
一方、プロジェクタなどの製品筐体寸法の小形化に伴い、ランプ自身を更に小形化することが強く望まれている。
ランプ電力および動作圧力が増大し、ランプが小形化することにより、ランプ破損対策がこれまで以上に重要になってきている。従来からも、ランプ破損に関する指摘は多く存在したが、これらは、長期のランプ寿布点灯中に石英ガラスが失透などを生じ変形し、破損に至るという現象を想定している。
しかしながら、ランプ電力および動作圧力が増大し、ランプ自身が小形化すると、熱的負荷および発光管内の圧力負荷が飛躍的に増大するため、石英ガラスに失透や変形などが生じる前に、より具体的にはランプ寿布の初期段階で破損に至る場合がある。
本発明者が、上記のランプ破損が生じた後の残骸を観察したところ、石英ガラスに失透や変形はなく、発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れていた。このような破損の様子を図7に示す。図7に示す高圧水銀蒸気放電ランプ700は、石英ガラスからなる発光管(バルブ)101と、発光管101から延在した側管部106とを有し、側管部106には、電極102の一部と、電極102に溶接された金属箔107と、外部リード線108の一部が埋設されている。
図7からわかるように、発光管101の発光管膨部109は、その一部が起点となって左右に真っ二つに割れて破損している。この破損の形態は、これまでの破損とは全く異なる形態である。従来の高圧水銀蒸気放電ランプでは、発光管内壁が黒化や失透を生じ、それが原因となって発光管が変形を生じ、破損に至っていた。このような破損のメカニズムとは全く異なるメカニズムで図7に示す破損は生じていると考えられる。
本発明は、上記の新しい課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ランプ電力および動作圧力が増大した場合においても、発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れることを抑制した高圧水銀蒸気放電ランプを提供することにある。
発明の開示
本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、前記発光管の内部空間に対向して配置された2以上の電極と、を備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間の短半径をrs[mm]、前記内部空間の長半径をrl[mm](rl rs)、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、rl≦0.0103×W−0.00562×P−0.316×rs+0.615×t+1.93の関係をも満足する。
好ましい実施形態において、アーク長が2mm以下である。
好ましい実施形態において、点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である。
好ましい実施形態において、W≧200[ワット]を満足する。
好ましい実施形態において、244×rs+111×rl+40.2×t≧4.47×W+138の関係を更に満足する。
好ましい実施形態において、前記発光管に結合された2つの側管部を備え、前記2つの側管部の各々は、前記発光管からアーク長方向に平行に延びる柱状部分を有しており、前記柱状部分は、略円筒状の第1のガラス部と、前記第1のガラス部の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部とを有しており、かつ、圧縮応力が印加されている部位を含んでいる。
好ましい実施形態において、前記圧縮応力が印加されている部位は、前記第2のガラス部、前記第2のガラス部と前記第1のガラス部との境界部、前記第2ガラス部のうちの前記第1のガラス部側の部分、および、前記第1ガラス部のうちの前記第2ガラス部側の部分のいずれかである。
好ましい実施形態において、前記第1のガラス部と前記第2のガラスでとの境界近傍には、両者の応力差に起因する歪みが境界領域が存在している。
好ましい実施形態において、前記圧縮応力の少なくとも一部は、前記側管部の長手方向に印加されている。
本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、前記発光管の内部空間に対向して設置された2以上の電極とを備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である。
本発明のランプユニットは、上記いずれかの高圧水銀蒸気放電ランプと、前記高圧水銀蒸気放電ランプの前記発光管から出た光を反射する反射鏡とを備え、前記発光管の内部空間の長半径方向が地上に対して水平になるようにして点灯される。
発明を実施するための最良の形態
(実施形態1)
図1を参照しながら、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第1の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ100の構成を示す断面図である。
本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ100は、石英ガラスによって作られた発光管101と、発光管101から延在した2つの側管部106とを備えている。
発光管101は、放電スペースとして機能する内部空間を有しており、この内部空間の形状は略楕円体である。発光管101の内部空間には、一対の電極102が突出しており、電極102の先端が所定の距離を置いて対向している。一対の電極102の間でアーク放電が生じ、アーク長は、電極102の先端の間隔によって規定される。なお、発光管101の内部空間には、封入物質として、水銀3、ハロゲン(不図示)、希ガス(不図示)が封入されている。
側管部106は、発光管101からアーク長方向(図1における水平横方向)に平行に延びており、発光管101の気密性を保持する「封止部(シール部)」として機能する。側管部106には、電極102の一部と、電極102に溶接された金属箔107と、電極102が溶接されている側の反対の側で金属箔107に溶接された外部リード線108の一部が埋設されている。本実施形態における電極102はタングステンから形成され、金属箔107および外部リード線108はモリブテンから形成されている。
発光管101の内部空間に突出している各電極102の先端部分には、熱容量を大きくするためにタングステンコイルが巻かれている。
本明細書では、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、発光管の内部空間の短半径をrs[mm]、発光管の内部空間の長半径をrl[mm](rl≧rs)、発光管の内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]と標記するる。これらのパラメータを種々の大きさに設定した11種類のランプを作製し、ランプ寿命点灯後初期のうちに破損に至ったかどうかを評価した。評価結果を、以下の表1に示す。ランプが破損した場合を「×」、破損しなかった場合を「○」で示している。
【表1】
(表1)内の動作圧力P[気圧]は、一般に用いられる次の経験式(式1)で定義している。
【式1】
(式1)のように定義可能な理由は、次のとおりである。
蒸発した水銀蒸気で満たされている発光管内部の微小体積ΔVs[m3]において、理想気体の状態方程式P・ΔVs=Δns・R・Tsが成立する。ここで、Pは圧力[Pa]、Δnsは水銀量[mol]、Rは8.314[J/Mol/K]、Tsは温度[K]である。
この式を、P[気圧]、Δns[mg]、ΔVs[cm3]を用いて書き換え、全内容積にわたって積分(ΣΔn≡n)すると、次式が得られる。
【式2】
このとき、発光管内水銀蒸気が場所に関係なく一定と仮定すれば、
【式3】
と表される。
発光管内水銀蒸気の温度は場所によって異なるが、発光管内壁に負荷される圧力は各ΔVsの圧力の荷重平均である。このため、ΔVsが均等分割されていると考えれば、各ΔVsにおけるTsの発光管内容積に対する荷重平均値でもって(式3)中のTを代用することは妥当である。一般にプロジェクタなどに用いられる電極間距離1.0〜2.0mmの高圧水銀蒸気放電ランプの発光管内温度分布は放電中央部が6000〜7000K、発光管内壁表面温度が1000〜1500Kである。このことから発光管内の荷重平均温度は2000〜3000Kと推定され、この値を(式3)のTに代入すれば、定数A=0.828〜1.242となり1に近いことから、これが経験式(式1)の妥当性を説明する理由である。
(式1)に示した破損評価は点灯後エージング中の6時間以内に破損したものを「×」と示した。「×」印のいすれのランプについて、破損後の残骸を確認した。発光管内表面にあたる石英ガラスに失透や黒化などは生じていない。また、図1の電極封止部104(電極102と発光管101との境界付近)から亀裂が進展した様子もなく、いずれも発光管膨部109の一部が破損の起点となって真っ二つになって破損したことが推察された。
これらの評価結果に基づき、我々は、以下のことを見出した。
すなわち、従来のようにランプ電力が100[W]クラス、点灯時の動作圧力も200気圧前後であれば、従来からの課題である発光管の失透、黒化、およびそれらに伴うランプ寿布の低下を抑制するようにランプの構造を決定すればよかった。しかし、ランプ電力が200[W]以上に上昇し、点灯時の動作圧力も、これまでにない250気圧以上に高められると、ランプ点灯の初期段階における発光管膨部中央の破損を防止することが重要になってきた。
このような新しい課題を解決するためには、増大するランプ点灯時の熱的負荷・圧力負荷に十分耐えうる発光管の機械的強度を確保するための新しいランプ設計の指針が必要である。
我々が着目したのは、ランプの水平点灯時における発光管内壁に生じる応力である。ランプ点灯時、発光管内壁には、熱的負荷による応力(熱応力)と水銀蒸気の圧力による応力とが組み合わさった応力が発生している。この熱応力は、発光管内の略中央に位置する放電アーク5が熱源となって生じる。ランプ発光管部の温度分布は、熱源で最大値を示し、この熱源を中心におよそ同心状に石英ガラス外表面に向かって徐々に減少する。石英ガラス外表面では、外気に対する強い輻射放熱が生じるため、石英ガラス内のランプ点灯時における熱応力は、内表面から外表面に向かって、同心状に大きくなっていく。このため、発光管の外表面における熱応力に対して内表面における熱応力は、「圧縮」応力の傾向を示す。
一方、圧力による応力は、ランプ点灯時における発光管内部に発生する水銀蒸気圧によって発生する。この応力は、発光管の内表面で最も大きく、外表面に向かって同心状に減少していく。
なお、本明細書における「水平点灯」とは、発光管の略楕円体形状の内部空間の長半径方向(=アーク長方向)が、地上に対して略水平になる状態でランプが動作することを意味する。例えばプロジェクタに用いられるランプユニットでは、発光管101からの光を反射する反射鏡と、水平点灯を行うランプとが組み合わせて用いられることがある。高圧水銀蒸気放電ランプの水平点灯は、プロジェクタの光源として用いられる場合に限定されず、照明用のランプとして使用される場合にも行われ得る。
図2(a)および(b)は、図1に示す構成を有する高圧水銀蒸気放電ランプにおける発光管に発生する応力の分布の一例を模式的に示す。図2(a)のグラフには、発光管膨部109の肉厚部分に生じている熱応力、圧力による応力、それらの和として最終的に生じる応力が示されている。グラフの横軸は、発光管の内表面aから外表面bに向かう直線上の位置を示し、縦軸は、応力の相対値を示している。正の応力は引張応力、負の応力は圧縮応力を表している。
図2からわかるように、熱応力は、内表面aにおいて負の極性を示す(圧縮応力)が、内表面aから離れて外表面bに近づくにつれて熱応力は正の方向に増加する。熱応力の極性は、内表面aと外表面bとの間で「正」に変化し、外表面bの近傍では引張応力になる。これに対して、圧力による応力は、内表面aで最大となり、内表面aから外表面bに向かって低下しているが、内表面aから外表面bまでの全範囲で正の極性を示し、常に引張応力の状態にある。
石英ガラスの内部に生じる応力は、上記二つの応力の和である。図2からわかるように、熱応力および圧力による応力の勾配は、発光管の内表面aで最も大きく、極性は反対である。発光管の内表面aに生じる応力は、熱応力の絶対値と圧力による応力の絶対値との差によって規定されるため、これらの応力の変化に極めて敏感である。従って、発光管の形状をどのように設計するかによって、発光管の内表面aに生じる応力は大きく変化し、発光管膨部の割れ易さが決まる。
そこで我々は、破損時に亀裂の起点となっていると推測される発光管膨部109における応力値に着目し、ランプ点灯時に発光管内壁表面に生じる応力値を、汎用有限要素法構造解析プログラム(Finite Element Method)を利用して計算した。この計算の手順を以下に述べる。
図3は、FEMに用いたモデルの一例を示している。このモデルでは、小さな楕円体の中空を内部に含む相対的に大きな楕円体によって構成される発光管を計算の対象としている。図3には、発光管の8分の1の部分の断面が示されている。
FEMに用いた上記モデルの形状を規定するパラメータは、発光管内部短半径rs[mm]、発光管内部長半径rl[mm]、及び、発光管膨部肉厚t[mm]である。ここで、rs≦rlの関係を与えている。
図1に示す電極102は、モデルに含めず省略している。破損時の様子からみて、図1の電極封止部104が亀裂の起点になっていないため、応力の計算上、無視できると判断したためである。このため、放電容器である発光管部のみの応力分布が発光管形状にどのような相関関係を持つのかを明確にするモデルを採用した。
実際のランプは、図1に示すように、側管部106(図1参照)を有している。この側管部106の形状がランプ各部温度分布や応力分布に影響を与えることも考えられる。S.Nakaoらの文献(S.Nakao他:IDW’00予稿集LAD2−4)によれば、側管部106の形状がやや複雑な場合に、当該部分に集中する応力が側管部106の形状に依存する。このことは、側管部106がランプ破損の亀裂の起点になることを想定しており、上記文献に記載されている破損は、本発明の課題である発光管膨部の破損とは異なる現象である。本発明は、側管部106における破損の問題を解決したランプにおいて特に重要な効果をもたらす。
我々が行った上記計算における設定条件を更に述べる。この計算は、モデル作成後、まず石英ガラス内に発生する温度分布を計算した。そして、その結果を用いて、応力分布を計算した。これは、熱−構造練成解析の通常の手順に従っている。
最初の温度分布の計算に用いた設定条件は、次の通りである。すなわち、ランプ点灯時に、投入したエネルギのうち、熱エネルギーとして消費される部分を、発光管の内壁全表面に一様に分配した。ランプ点灯時に熱エネルギーとして消費される割合は、全消費エネルギー(=ランプ電力)の30%とした(ELENBAAS:「THE HIGH PRESSURE MERCURY VAPOUR DISCHARGE」、NORTH−HOLLAND PUBLISHING COMPANY、1951)。
発光管の内表面および外表面では、輻射放熱を考慮し、モデルの最外郭には空気領域を設けた。ただし、空気領域における対流は無視した。
実際のランプでは、発光管内部に対流を生じる水銀蒸気領域が存在するが、ランプ点灯時の熱エネルギーがランプ電力の30%という値を採用することによって、水銀蒸気領域を設定する必要はなくなる。よって、本モデルでは、水銀蒸気領域は設定していない。
石英ガラスの密度は2200[kg/m3]、比熱は1152.55[J/kgK]、熱伝導率は1.7[W/mK]とした。
応力分布の計算を行うための設定条件は、次の通りである。すなわち、モデル各部の温度が室温(18℃)から上昇することによって発生する熱応力と、発光管の内壁表面に対して一様に及ぶ動作圧力とに基づいて計算した。温度の上昇は、先に計算で得られた温度分布に基づいて決定した。応力の計算に必要な、物理的なパラメータについては、石英ガラスのヤング率を73100[N/mm2]、ポアソン比を0.17、線膨張係数を5.6×10−7に設定した。
ランプ電力Wは150、200、300[W]の3条件、動作圧力Pは250、350、450[気圧]の3条件、発光管内部短半径rsは1.5、2.5、3.5[mm]の3条件、発光管内部長半径rlは1.5、2.5、3.5、4.5、5.5、6.5[mm]の中からrs≦rlを満たす最小値から順に4条件、発光管膨部肉厚tは2、4[mm]の2条件で行った。rs=rlとなる中空真円球の場合も含め、計216通りの条件について計算を行った。
図4は、計算結果の一例を示すグラフである。図4に示す計算結果は、ランプ電力W=200[W]、動作圧力P=350[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、発光管内部長半径rl=1.5、2.5、3.5、4.5[mm]、肉厚t=2[mm]とした場合に得られたものである。
図4のグラフの横軸は、「肉厚位置[mm]」を示している。この肉厚位置は、図3のモデルの原点座標をゼロとし、発光管膨部の内表面から外表面にむかう直線上における原点からの距離(位置)を表している。グラフの縦軸は、ランプ点灯時の応力[N/mm2](熱応力と圧力による応力の和)を表している。ここで、応力の正値は引張応力を表し、負値は圧縮応力を表す。
図4からわかるように、ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚tが同じ場合であっても、発光管内部長半径rlが異なると、応力分布が異なる。応力の値の発光管内部長半径rlへの依存度は、発光管の内表面で最も強い。
図4に結果を示した条件以外の条件においても、図4に示す傾向と同様の傾向が観察された。図5のグラフは、ランプ電力W=150[W]、動作圧力P=450[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、発光管内部長半径rl=1.5、2.5、3.5、4.5[mm]、肉厚t=4[mm]の場合に得られた計算結果を示している。図5に示される応力分布についても、図4に示される応力分布と同様の傾向が観察される。
図6は、図4のデータに基づいて作成したグラフであり、発光管の内表面(肉厚位置:1.5mm)における応力のrl依存性を示している。図6のグラフ中の実線は、回帰曲線を示しているため、ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚tを固定したとき、所望の発光管の内表面における応力を所望の大きさにするために必要な発光管内部長半径rlが求められる。すべての計算結果ついても、同様の整理を行った。
(表1)に示すランプ1〜10についても、各パラメータ(ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管内部長半径rl、発光管膨部肉厚t)をもとに、FEMプログラムを用いて、発光管の内表面における応力値を計算した。計算結果と、そのときの破損評価結果を並べて(表2)に示す。
【表2】
表2から、発光管膨部の内表面に生じる応力が、5[N/mm2]前後で破損が生じる。言い換えると、発光管膨部の内表面に生じる応力を5[N/mm2]以下に抑えられれば、破損を防止できる可能性が高まる。
そこで、先に行った全ての計算結果を用い、発光管膨部内表面に生じる応力が5[N/mm2]以下となるための重回帰式を求めた。ここで、rlを目的変数として、W、P、rs、tを説明変数とした。
例えば、図6のグラフに示すランプの場合、発光管膨部内表面に生じる応力が5[N/mm2]となるrlは、回帰曲線より、2.46[mm]であることがわかる。これは、図4のグラフについて説明したとおり、W=200[W]、動作圧力P=350[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、肉厚t=2[mm]の時のランプに閏する値である。このようなセットを全て抽出し、重回帰分析を行えばよい。
発光管膨部内表面に生じる応力が引張応力5[N/mm2]以下となるための重回帰式として、(式4)が得られた。
【式4】
重回帰分析の重相関係数は0.90であった。つまり、FEM計算によって得られた実績値は、(式4)において計算される理論値によって十分な精度で表現されることが明らかとなった。
なお、本発明では、ランプ電力W≧150[ワット]、動作圧力ガラス肉厚P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、(式4)を満足するように高圧水銀蒸気放電ランプを設計する。
(式4)を満たすランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚t、発光管内部長半径rlの組み合わせとすることにより、ランプ電力Wの増加および動作圧力Pの上昇に対し、ランプ寿命点灯後初期のうちに発光管膨部の一部が起点となり、左右真二つに割ったように破損する現象を抑制することが可能となるわけであるが、ランプ実用面からすると、ランプ長寿命化も合わせて実現する必要がある。
そこで、(表1)に示す11種類のランプについて、寿命試験を行った。点灯のべ時間1000時間までの点滅点灯試験において、点灯試験中に発生する石英ガラス発光管の破損、極端な変形の状態を目視にて評価した。評価結果を(表3)に示す。また、各ランプについて、前述したFEM計算を行った際に得られた温度分布に基づいて、発光管膨部内表面の温度(水平点灯の場合において、上側部に相当)を算出した。この結果も表3に示している。
【表3】
ここで寿命評価の判断基準は、「○」は、わずかな変形のみ、「×」は、極端な変形を生じて破損に至ったもの、「△」は、変形は生じたが破損しなかったものである。
ここでの前述したFEM計算を行った際にあらかじめ得た温度分布の結果から、発光管膨部内表面の温度を算出した方法について述べる。前述した計216種類の各温度分市計算結果から発光管膨部内表面の温度Tを抽出し、目的変数を温度T、説明変数をW、rs、rl、tとして先と同様重回帰分析により重回帰式を求めた。前述
したように結果としての熱エネルギーを発光管内部表面に直接設定しているので、温度Tは水銀蒸気の動作圧力Pには依存しない。得られた重回帰式は(式5)となった。
【式5】
重回帰分析の重相関係数は0.96であった。(式5)を用いて得た(表3)の結果をみると、寿命評価が「○」となるか否かは発光管膨部内表面温度1650℃前後が、寿命特性を左右する閾値であることが推察される。1650℃という数字は一般に言われる石英ガラスの軟化点温度に近い。通常ならランプは早期に変形を生じると考えられるが、同時に内部最表面に生じる圧縮応力が変形を抑制する方向に働いていると考えられる(ランプNo.8、11)。
そこで、(式4)に示した各パラメータの組み合わせに加えて、膨部内表面温度は1650℃以下が望ましいという観点から、(式5)から以下の(式6)を得た。
【式6】
この(式6)を更に変形して以下の(式7)を得た。
【式7】
(式4)および(式7)を同時に満足するようにランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚t、発光管内部長半径rlを適切に設定することにより、ランプ電力Wが増加し、動作圧力Pが高くなっても、ランプ寿命点灯後初期に発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れる現象をより確実に抑制でき、長寿命化の実現が容易になる。
発光管膨部の内壁表面における引張応力を5[N/mm2]以下することは、ランプ電力Wが低く、かつ動作圧力Pが低い条件のもとでは比較的簡単に実現できる。逆に、動作圧力Wが高くなると(150ワット以上、更には200ワット以上)、発光管膨部の内表面に生じる圧力による応力(図2参照)が増大し、発光管膨部の内壁表面における引張応力を5[N/mm2]以下にすることが非常に困難になる。
一方、内表面における熱応力の最小値と外表面における熱応力の最大値の差は、両表面間の温度差によって決定される。ランプにおいて同じ熱エネルギーをもってこの温度差を付けようとするならば、肉厚を厚くすればよい。低動作圧力の場合は発光管膨部内表面の圧力による応力(引張応力)が小さいため、発光管強度を維持するための圧縮方向の熱応力の必要性も少なく、したがって肉厚tを厚くする必要も少ない。加えてランプ電力Wが低いと、熱として消費されるエネルギー量も少ないため、発光管内表面が軟化点温度に近くなることもほとんどなく、形状設計における自由度は多い。それに比較して、ランプ電力Wが150ワット以上、動作圧力Pが250気圧以上になると、増大する発光管膨部内表面の圧力による応力(引張応力)を緩和するために、熱応力によってバランスをとる必要がある。しかし、発光管の肉厚tが5mmを超えて厚くなることは、ランプの小型軽量化を阻み、また、ガラスの光透過率を低下させることになるため、好ましくない。
このように、高圧水銀蒸気放電ランプのランプ電力Wおよび動作圧力Pが増加すると、設計の自由度が少なくなり、安全で長寿命なランプを提供することが困難になるため、今後益々、本発明の効果が重要になってくる。
なお、上記計算結果および実験結果は、ランプ電力Wが150[W]以上の場合に得られたものであるが、ランプ電力Wが200[W]以上の場合に、本発明は更に有益な効果をもたらす。また、動作圧力Pが250気圧以上である場合は、発光管と側管部との境界部での亀裂も生じやすくなる。このような亀裂を抑制するためには、以下に説明する実施形態2の構成を採用することが好ましい。本発明は、実施形態2に示すような構成を採用することにより、膨部中央での破損が最も重要な問題になる場合に特に有益な効果をもたらすといえる。
(実施形態2)
次に、図8から図10を参照しながら、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第2の実施形態を説明する。
本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプは、実施形態1について説明した設計手法で設計された構造を有するとともに、これに加えて、発光管と側管部との境界部分での割れを抑制する構造を備えている。
図8(a)および(b)は、本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ200の構成を模式的に示している。本実施形態のランプ200は、発光物質6が封入される発光管1と、発光管1から延在した側管部2とを備えている。図8(a)は、ランプ200の全体構成を模式的に示しており、図8(b)は、図8(a)中の線b−b線における発光管101側から見た側管部2の断面構成を模式的に示している。
ランプ200の側管部2は、発光管1の内部10の気密性を保持する「封止部」として機能する。ランプ200は、2つの側管部2を備えたダブルエンド型のランプである。
本実施形態における側管部2は、発光管1から延在した略円筒状の第1のガラス部8と、第1のガラス部8の内側(中心側)の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7とを有している。また、側管部2は、圧縮応力が印加されている部位7を有しており、本実施形態において、圧縮応力が印加されている部位は、第2のガラス部7に相当する部分である。側管部2の断面形状は、図8(b)に示すように、略円形であり、側管部2内に、ランプ電力を供給するための金属部4が設けられている。この金属部4の一部は、第2のガラス部7と接しており、本実施形態では、第2のガラス7の中心部に金属部4が位置している。第2のガラス7は、側管部2の中心部に位置しており、第2のガラス部7の外周は、第1のガラス部8によって覆われている。
本実施形態のランプ200に対して、光弾性効果を利用した鋭敏色板法による歪み測定を実行して、側管部2を観察すると、第2のガラス部7に相当する部分に圧縮応力が存在していることが確認される。鋭敏色板法による歪み測定では、ランプ200の形状を維持したまま、側管部2を輪切り状にした断面内の歪み(応力)の観測を行うことができないのであるが、第2のガラス部7に相当する部分に圧縮応力が観測されたということは、第2のガラス部7の全体または大半に圧縮応力が印加されている場合の他、第2のガラス部7と第1ガラス部8との境界部に圧縮応力が印加されている場合、第2ガラス部7のうちの第1のガラス部8側の部分、または、第1ガラス部8のうちの第2のガラス部7側の部分に圧縮応力が印加されている場合のいずれか又はそれらが複合した形で、側管部2の一部に圧縮応力が印加されているということになる。また、この測定では、側管部2の長手方向に圧縮する応力(または歪み)は積分値で観測される。
側管部2における第1のガラス部8は、SiO2を99重量%以上含むものであり、例えば、石英ガラスから構成されている。一方、第2のガラス部7は、15重量%以下のAl2O3および4重量%以下のBのうちの少なくとも一方と、SiO2とを含むものであり、例えば、バイコールガラスから構成されている。SiO2にAl2O3やBを添加すると、ガラスの軟化点は下げるため、第2のガラス部7の軟化点は、第1のガラス部8の軟化点温度よりも低い。なお、バイコールガラス(Vycor glas:商品名)とは、石英ガラスに添加物を混入させて軟化点を下げて、石英ガラスよりも加工性を向上させたガラスであり、例えば、ホウケイ酸ガラスを熱・化学処理して、石英の特性に近づけることによって作製することができる。バイコールガラスの組成は、例えば、シリカ(SiO2)96.5重量%、アルミナ(Al2O3)0.5重量%、ホウ素(B)3重量%である。本実施形態では、バイコールガラス製のガラス管から、第2のガラス部7は形成されている。なお、バイコール製のガラス管の代わりに、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラス管を用いても良い。
側管部2の一部に印加されている圧縮応力は、実質的にゼロ(すなわち、Okgf/cm2)を超えたものであればよい。なお、この圧縮応力は、ランプが点灯していない状態のものである。この圧縮応力の存在により、従来の構造よりも耐圧強度を向上させることができる。この圧縮応力は、約10kgf/cm2以上(約9.8×105N/m2以上)であることが好ましい。そして、約50kgf/cm2以下(約4.9×106N/m2以下)であることが好ましい。10kgf/cm2未満であると、圧縮歪みが弱く、ランプの耐圧強度を十分に上げられない場合が生じ得るからである。そして、50kgf/cm2を超えるような構成にするには、それを実現させるのに、実用的なガラス材料が存在しないからである。ただし、10kgf/cm2未満であっても、実質的に0の値を超えれば、従来の構造よりも耐圧を上げることができ、また、50kgf/cm2を超えるような構成を実現できる実用的な材料が開発されたならば、50kg/cm2を超える圧縮応力を第2のガラス部7が有していてもよい。
ランプ200を歪検査器で観測した結果から推測すると、第1のガラス部8と第2のガラス部7との間の境界周辺には、両者の圧縮応力の差によって生じた歪み境界領域20が存在していると思われる。このことは、圧縮応力は、専ら、第2のガラス部7(または、第2のガラス部7の外周近傍領域)に存在しており、第1のガラス部8全体には、第2のガラス部7の圧縮応力がそれほど(または、ほとんど)伝わってないことを意味していると考えられる。両者(8、7)の圧縮応力の差は、例えば、約10kgf/cm2から約50kgf/cm2の範囲内となり得る。
ランプ200の発光管1は、略球形をしており、第1のガラス部8と同様に、石英ガラスから構成されている。なお、長寿命などの優れた特性を発揮する高圧水銀ランプ(特に、超高圧水銀ランプ)を実現する上では、発光管1を構成する石英ガラスとして、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、1ppm以下)高純度の石英ガラスを用いることが好ましい。なお、勿論、通常のアルカリ金属不純物レベルの石英ガラスを用いることも可能である。発光管1の外径は例えば5mm〜20mm程度であり、発光管1のガラス厚は例えば1mm〜5mm程度である。発光管1内の放電空間(10)の容積は、例えば0.01〜1cc程度(0.01〜1cm3)である。本実施形態では、外径9mm程度、内径4mm程度、放電空間の容量0.06cc程度の発光管1が用いられる。
発光管1内には、一対の電極棒(電極)3が互いに対向して配置されている。電極棒3の先端は、0.2〜5mm程度(例えば、0.6〜1.0mm)の間隔(アーク長)Dで、発光管1内に配置されており、電極棒3のそれぞれは、タングステン(W)から構成されている。電極棒3の先端には、ランプ動作時における電極先端温度を低下させることを目的として、コイル12が巻かれている。本実施形態では、コイル12として、タングステン製のコイルを用いているが、トリウム−タングステン製のコイルを用いてもよい。また、電極棒3も、タングステン棒だけでなく、トリウム−タングステンから構成された棒を使用してもよい。
発光管1内には、発光物質として、水銀6が封入されている。超高圧水銀ランプとしてランプ200を動作させる場合、水銀6は、例えば、200mg/cc程度またはそれ以上(220mg/cc以上または230mg/cc以上、あるいは250mg/cc以上)、好ましくは、300mg/cc程度またはそれ以上(例えば、300mg/cc〜500mg/cc)の水銀と、5〜30kPaの希ガス(例えば、アルゴン)と、必要に応じて、少量のハロゲンとが発光管1内に封入されている。
発光管1内に封入されるハロゲンは、ランプ動作中に電極棒3から蒸発したW(タングステン)を再び電極棒3に戻すハロゲンサイクルの役割を担っており、例えば、臭素である。封入するハロゲンは、単体の形態だけでなく、ハロゲン前駆体の形態(化合物の形態)のものでもよく、本実施形態では、ハロゲンをCH2Br2の形態で発光管10内に導入している。また、本実施形態におけるCH2Br2の封入量は、0.0017〜0.17mg/cc程度であり、これは、ランプ動作時のハロゲン原子密度に換算すると、0.01〜1μmol/cc程度に相当する。なお、ランプ200の耐圧強度(動作圧力)は、20MPa以上(例えば、30〜50MPa程度、またはそれ以上)にすることができる。また、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上であり、特に上限は設定されない。例示的に示すと、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上から、300W/cm2程度の範囲(好ましくは、80〜200W/cm2程度)のランプを実現することができる。冷却手段を設ければ、300W/cm2程度以上の管壁負荷を達成することも可能である。なお、定格電力は、例えば、150W(その場合の管壁負荷は、約130W/cm2に相当)である。
放電空間10内に一端が位置する電極棒3は、側管部2内に設けられた金属箔4に溶接により接続されており、金属箔4の少なくとも一部は、第2のガラス部7内に位置している。図8に示した構成では、電極棒3と金属箔4との接続部を含む箇所を、第2のガラス部7が覆うような構成にしている。図8に示した構成における第2のガラス部7の寸法を例示すると、側管部2の長手方向の長さで、約2〜20mm(例えば、3mm、5mm、7mm)であり、第1のガラス部8と金属箔4との間に挟まっている第2のガラス部7の厚さは、約0.01〜2mm(例えば、0.1mm)である。第2のガラス部7の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離Hは、約0mm〜約6mm(例えば、0mm〜約3mm、または、1mm〜6mm)である。第2のガラス部7を放電空間10内に露出させたくない場合には、距離Hは0mmよりも大きくなり、例えば、1mm以上となる。そして、金属箔4の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離B(言い換えると、電極棒3だけで側管部2内に埋まっている長さ)は、例えば、約3mmである。
上述したように、側管部2の断面形状は、略円形であり、その略中央部に金属箔4が設けられている。金属箔4は、例えば、矩形のモリブデン箔(Mo箔)であり、金属箔4の幅(短辺側の長さ)は、例えば、1.0mm〜2.5mm程度(好ましくは、1.0mm〜1.5mm程度)である。金属箔4の厚さは、例えば、15μm〜30μm程度(好ましくは、15μm〜20μm程度)である。厚さと幅との比は、だいたい1:100程度になっている。また、金属箔4の長さ(長辺側の長さ)は、例えば、5mm〜50mm程度である。
電極棒3が位置する側と反対側には、外部リード5が溶接により設けられている。金属箔4のうち、電極棒3が接続された側と反対側には、外部リード5が接続されており、外部リード5の一端は、側管部2の外まで延びている。外部リード5を点灯回路(不図示)に電気的に接続することにより、点灯回路と、一対の電極棒3とが電気的に接続されることになる。側管部2は、封止部のガラス部(7、8)と金属箔4とを圧着させて、発光管1内の放電空間10の気密を保持する役割を果たしている。側管部2によるシール機構を以下に簡単に説明する。
側管部2のガラス部を構成する材料と、金属箔4を構成するモリブデンとは互いに熱膨張係数が異なるので、熱膨張係数の観点からみると、両者は、一体化された状態にはならない。ただし、本構成(箔封止)の場合、封止部のガラス部からの圧力により、金属箔4が塑性変形を起こして、両者の間に生じる隙間を埋めることができる。それによって、側管部2のガラス部と金属箔4とを互いに圧着させた状態にすることができ、側管部2で発光管1内のシールを行うことができる。すなわち、側管部2のガラス部と金属箔4との圧着による箔封止によって、側管部2のシールは行われている。本実施形態では、圧縮歪みのある第2のガラス部7が設けられているので、このシール構造の信頼性が向上されている。
次に、側管部2における圧縮歪みについて説明する。図9(a)および(b)は、側管部2の長手方向(電極軸方向)に沿った圧縮歪みの分布を模式的に示しており、図9(a)は、第2のガラス部7が設けられたランプ200の構成の場合、一方、図9(b)は、第2のガラス部7の無いランプ200’の構成(参考例)の場合を示している。
図9(a)に示した側管部2のうち、第2のガラス部7に相当する領域(網掛け領域)に圧縮応力(圧縮歪み)が存在し、第1のガラス部8の箇所(斜線領域)における圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。一方、図9(b)に示すように、第2のガラス部7の無い側管部2の場合、局所的に圧縮歪みが存在している箇所はなく、第1のガラス部8の圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。
本願発明者は、実際にランプ200の歪みを定量的に測定し、側管部2のうち第2のガラス部7に圧縮応力が存在することを観測した。この歪みの定量化は、光弾性効果を利用した鋭敏色板法を用いて行うことができる。この手法によると、歪み(応力)のある箇所の色が変化して見え、その色を歪み標準器と比較して歪みの大きさを定量化することができる。つまり、測定したい歪みの色と同色の光路差を読みとることで、応力を算出することができる。歪みの定量化のために使用した測定器は、歪検査器(東芝製:SVP−200)であり、この歪検査器を用いると、側管部2の圧縮歪みの大きさを、側管部2に印加されている応力の平均値として求めることができる。
本願発明者は、側管部2における光の透過距離L、すなわち、側管部2の外径Lを測定し、そして、歪み標準器を用いて、測定時の側管部2の色から光路差Rを読みとった。また、光弾性常数Cは、石英ガラスの光弾性常数3.5を使用した。これらを上記式に代入し、算出された応力値の結果を図10の棒グラフに示す。
図10に示すように、応力が0[kgf/cm2]であったランプ本数は、0本であり、10.2[kgf/cm2]であったランプ本数は、43本であり、20.4[kgf/cm2]であったランプ本数は、17本であり、そして、35.7[kgf/cm2]であったランプ本数は、0本であった。
一方、参考例のランプ200’の場合、測定した全てのランプについて、応力は、0[kgf/cm2]であった。なお、測定原理上、側管部2に印加されている応力の平均値から、側管部2の圧縮応力を算定したが、第2のガラス部7を設けることで側管部2の一部に圧縮応力が印加された状態になることは、図10の結果より容易に結論付けることができる。なぜならば、参考例のランプ200’については、側管部2に圧縮応力は存在しなかったからである。また、図10は、離散的な応力値を示しているが、これは、歪み標準器から読み取る光路差が離散的なものであることに起因している。従って、応力値が離散的なのは、鋭敏色板法による歪み測定の原理によるものである。実際には、例えば、10.2[kgf/cm2]と20.4[kgf/cm2]との間の値を示す応力値も存在するものと思われるが、第2のガラス部7もしくは第2のガラス部7の外周周辺領域に、所定量の圧縮応力が存在していることにはかわりない。
なお、本測定では、側管部2の長手方向(電極軸3が延びる方向)についての応力を観察したが、このことは、他の方向において圧縮応力が存在していないことを意味するものではない。側管部2の径方向(中心−外周方向)、または、側管部2の周方向(例えば、時計周り方向)について圧縮応力が存在しているかどうかを測定するには、発光管1や側管部2を切断する必要があるのであるが、そのような切断を行ったとたん、第2のガラス部7の圧縮応力が緩和されてしまう。従って、ランプ200に対して切断を行わない状態で測定できるのは、側管部2の長手方向についての圧縮応力であるため、本願発明者は、少なくとも、その方向での圧縮応力を定量化したのである。
本実施形態のランプ200では、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7に圧縮歪み(少なくとも長手方向への圧縮歪み)が存在しているので、高圧放電ランプの耐圧強度を向上させることができる。言い換えると、図8および図9(a)に示した本実施形態のランプ200の方が、図9(b)に示した参考例のランプ200’よりも、耐圧強度を高くすることができる。図8に示した本実施形態のランプ200は、従来の最高レベルの動作圧である20MPa程度を超える、30MPa以上の動作圧で動作させることが可能である。
(実施形態3)
次に、図11を参照しながら、本発明によるランプユニットの実施形態を説明する。本実施形態では、前述のランプ100および200が、反射鏡と組み合わせられ、ミラー付きランプまたはランプユニットを構成している。
図11は、本発明の実施形態であるランプ200を備えたミラー付きランプ900の断面を模式的に示している。ミラー付ランプ900は、略球形の発光管1と一対の側管部2とを有するランプ200と、ランプ200から発せられた光を反射する反射鏡60とを備えている。なお、ランプ200は、例示であり、ランプ100であってもよい。また、ミラー付ランプ900は、反射鏡60を保持するランプハウスを更に備えていてもよい。ここで、ランプハウスを備えた構成のものは、ランプユニットに包含されるものである。
反射鏡60は、例えば、平行光束、所定の微小領域に収束する集光光束、または、所定の微小領域から発散したのと同等の発散光束になるようにランプ100からの放射光を反射するように構成されている。反射鏡60としては、例えば、放物面鏡や楕円面鏡を用いることができる。
本実施形態では、ランプ200の一方の側管部2に口金56が取り付けられており、当該側管部2から延びた外部リード5と口金56とは電気的に接続されている。側管部2と反射鏡60とは、例えば無機系接着剤(例えばセメントなど)で固着されて一体化されている。反射鏡60の前面開口部側に位置する側管部2の外部リード5には、引き出しリード線65が電気的に接続されており、引き出しリード線65は、リード線5から、反射鏡60のリード線用開口部62を通して反射鏡60の外にまで延ばされている。反射鏡60の前面開口部には、例えば前面ガラスを取り付けることができる。
このようなミラー付ランプまたはランプユニットは、例えば、液晶やDMD(Digital Micromiror Device)を用いたプロジェクタのような画像投影装置に取り付けることができ、画像投影装置用光源として使用される。また、このようなミラー付ランプまたはランプユニットと、画像表示素子(DMDパネルや液晶パネルなど)を含む光学系とを組み合わせることにより、画像投影装置を構成することができる。例えば、DMDを用いたプロジェクタ(デジタルライトプロセッシング(DLP)プロジェクタ)や、LCOS(LiquidCrystal on Silicon)構造を採用した反射型のプロジェクタを提供することができる。更に、本実施形態のランプおよびランプユニットは、画像投影装置用光源の他に、紫外線ステッパ用光源、または競技スタジアム用光源や自動車のヘッドライト用光源、道路標識を照らす投光器用光源などとしても使用することができる。
産業上の利用可能性
本発明は、従来と比較して、ランプ電力の高電力化ならびに発光管内動作圧力の高圧力化に最適な設計指針を明示できたことにより、ランプ寿命点灯後初期のうちに発光管膨部の一部が起点となり、左右真二つに割ったように破損する現象を抑制することが可能となり、更に長寿命化も合わせて実現することが可能となった。同時にランプ自体の性能としても高光出力化、高効率化が実現する。このようなランプをプロジェクタに搭載することにより、プロジェクタ性能においてもランプ破損抑制による安全性、ランプ長寿命化による長時間動作信頼性ならびにランプ交換頻度が少なくなることによるメンテナンス費用の低コスト化、加えて高光出力化によるスクリーン照度向上、高効率化による省エネルギー効果など訴求ポイントは数多くなり、その効果は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施形態1における高圧水銀蒸気放電ランプの図である。
図2(a)は、実施形態1における発光管膨部石英ガラス内に発生する一般的な応力のグラフ、(b)は「位置」を示す図である。
図3は、本発明の実施形態1におけるFEMモデルの図である。
図4は、本発明の実施形態1におけるFEM計算結果の一例を示した図である。
図5は、本発明の実施形態1におけるFEM計算結果の一例を示した図である。
図6は、図4における発光管内部最表面の応力と発光管内部長半径との関係を示す図である。
図7は、発光管膨部から真っ二つに割れた従来の高圧水銀蒸気放電ランプを示す図である。
図8(a)は、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第2の実施形態の全体構成を模式的に示す断面図である、図8(b)は、図8(a)中の線b−b線における発光管101側から見た側管部2の断面構成を模式的に示す図である。
図9(a)は、本発明の第2実施形態における第2のガラス部7が設けられたランプ200の構成を示す断面図であり、図9(b)は、第2のガラス部7の無いランプ200’の構成を示す断面図である。
図10は、本発明のランプについて求めた応力値の結果を示す棒グラフである。
図11は、本発明によるランプユニットの実施形態を示す断面図である。
【書類名】明細書
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水銀蒸気放電ランプおよびランプユニットに関し、特に超高圧で明るい光を放射することができる割れにくい高圧水銀蒸気放電ランプに関している。
【背景技術】
【0002】
水銀ランプは、点灯時の水銀圧力の増加とともにラインスペクトルから連続スペクトルヘと分光分布が変化し、輝度も向上する。高圧水銀蒸気放電ランプは輝度が高く、従来より、半導体製造装置の露光用に用いられてきたが、プロジェクタなどのより強力な光源として用いられる場合には、水銀圧力(動作圧力)を更に高めることが求められている。
【0003】
高圧水銀蒸気放電ランプの従来技術は、例えば、特開平6−52830号公報に記載されている。この高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスのランプ容器と、ランプ容器の放電スペース内に配された一対のタングステン電極と、放電スペース内に封入された所定量の水銀、ハロゲンおよび希ガスとを有している。放電スペースは楕円体形状を有している。このランプの動作時の消費電力(ランプ電力)は70〜150[W]の範囲内にある。上記の先行技術文献は、楕円体の放電スペース内形状として、放電路方向(楕円体の長径)の寸法、放電路を横切る最大直径(楕円体の短径)ならびにランプ容器の最大外径、放電路の長さを所定の範囲内に規定することを記載している。
【0004】
また、上記先行技術文献は、ランプ電力を70〜150[W]とすることによりより、多くの光束を確保する一方で、ランプ容器内側の温度が所定の温度範囲となることを実現できることを教示している。その理由として、放電スペース内に所定の温度範囲外の部分が存在する場合、封入されている所定量のハロゲンによって生じているハロゲンサイクルが機能しなくなり、容器の黒化や電極の腐食が生じランプ短寿命の原因になると記載されている。この原因を克服することが、上記先行技術文献に開示されている発明の解決しようとする課題であった。
【0005】
特開平2−148561号公報は、高圧水銀蒸気放電ランプの他の従来例を開示している。この先行技術文献も、特開平6−52830号公報と同様に、放電容器と、タングステン電極と、所定量の水銀およびンとを有するランプを開示し、その銀蒸気圧を200バールより大きく、管壁負荷を1[W/mm2]より大きく設定することを教示している。このように規定されている理由は、先の特開平6−52830号公報で述べられている内容とほぼ同じである。具体的には、規定範囲内でランプを構成することにより、十分な光束を確保する一方で、電極から蒸発するタングステンによる容器壁の黒化を防ぐことを目的としている。
【0006】
しかし、特開平2−148561号公報で開示されているランプは、細長く、狭い放電容器形状をしており、ランプ電力も50[W]である。このため、経時にともない、十分な光束を得るにはランプ電力が不十分であり、黒化防止に十分な放電容器内温度が得られない。
【0007】
特開2001−283782号公報は、ランプ電力が180[W]以上の高圧水銀蒸気放電灯を開示している。このランプには、所定量の水銀とハロゲンが封入され、発光管最大径部の内径、発光管最大径部の肉厚、電極間距離の三値が所定の関係を有することが規定されている。このように規定されている理由は、上記三値が満たされる条件を満足するランプが、光学特性および寿命試験において、良好な結果を示したと記述されている。特開2001−283782号公報において試験結果が記載されているランプは、ラこの文献の表1によると、水銀封入量が規定範囲の上限である0.25mg/mm3の場合、ランプ電力が200[W]で、動作圧力は250気圧前後と概算される。すなわち、このランプの動作圧力の上限は、250気圧前後であると理解される。
【0008】
近年、プロジェクタに用いられる光源には、より高い光出力が求められ、高効率化および小形化の要求は益々強くなってきている。このような光源に高圧水銀蒸気放電ランプを用いる場合、上記の先行技術文献に開示されている知見によっては解決できない課題が発生している。
【0009】
ランプの高光出力化という観点から、光束の総量を増加させるために定格ランプ電力の増加が進み、150[W]より大きく、200〜300[W]クラスの需要が増えている。
【0010】
高効率化に関しては、ランプ点灯時の動作圧力を増加させることによる放電発光の可視域の発光効率の向上が有効である。その観点から、近年、250気圧以上の動作圧力が望まれている。このような動作圧力の増加は、電極間距離の短縮化(短アーク化)を進める上でも必要である。プロジェクタの光源に高圧水銀蒸気放電ランプを用いる場合、電極間距離を短くすることにより、投写時の光利用効率が良くなる。特開平6−52830号公報は、ランプ電力130[W]〜150[W]で、電極間距離が1.8〜2.0mmのランプを開示している。上記の理由から、200〜300[W]クラスのランプにおいても、電極間距離1.0〜1.5mm以下を達成することが強く望まれている。
【0011】
電極間距離を短くする際に動作圧力を増加させる理由は、電極間に印加される単位長さあたりの電圧が動作圧力に比例するためである。仮に、ランプ電力および動作圧力が変化しない状況(発光管内の単位体積あたりの封入水銀量が一定の場合など)で、電極間距離が短くなれば、その分、ランプ電圧は減少し、ランプ電流が増加する。ランプ電流の増加は、放電電極に熱的に大きな負担を強いることによるランプ短寿命化を招く。更には、点灯回路の最大許容電流の増加に伴う追加安全対策が必要となる。このように、ランプ電流の増加は好ましくない。
【0012】
一方、プロジェクタなどの製品筐体寸法の小形化に伴い、ランプ自身を更に小形化することが強く望まれている。
【0013】
ランプ電力および動作圧力が増大し、ランプが小形化することにより、ランプ破損対策がこれまで以上に重要になってきている。従来からも、ランプ破損に関する指摘は多く存在したが、これらは、長期のランプ寿命点灯中に石英ガラスが失透などを生じ変形し、破損に至るという現象を想定している。
【0014】
しかしながら、ランプ電力および動作圧力が増大し、ランプ自身が小形化すると、熱的負荷および発光管内の圧力負荷が飛躍的に増大するため、石英ガラスに失透や変形などが生じる前に、より具体的にはランプ寿命の初期段階で破損に至る場合がある。
【0015】
本発明者が、上記のランプ破損が生じた後の残骸を観察したところ、石英ガラスに失透や変形はなく、発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れていた。このような破損の様子を図7に示す。図7に示す高圧水銀蒸気放電ランプ700は、石英ガラスからなる発光管(バルブ)101と、発光管101から延在した側管部106とを有し、側管部106には、電極102の一部と、電極102に溶接された金属箔107と、外部リード線108の一部が埋設されている。
【0016】
図7からわかるように、発光管101の発光管膨部109は、その一部が起点となって左右に真っ二つに割れて破損している。この破損の形態は、これまでの破損とは全く異なる形態である。従来の高圧水銀蒸気放電ランプでは、発光管内壁が黒化や失透を生じ、それが原因となって発光管が変形を生じ、破損に至っていた。このような破損のメカニズムとは全く異なるメカニズムで図7に示す破損は生じていると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記の新しい課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ランプ電力および動作圧力が増大した場合においても、発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れることを抑制した高圧水銀蒸気放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、前記発光管の内部空間に対向して配置された2以上の電極と、を備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間の短半径をrs[mm]、前記内部空間の長半径をrl[mm](rl≧rs)、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、rl≦0.0103×W−0.00562×P−0.316×rs+0.615×t+1.93の関係をも満足する。
【0019】
好ましい実施形態において、アーク長が2mm以下である。
【0020】
好ましい実施形態において、点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である。
【0021】
好ましい実施形態において、W≧200[ワット]を満足する。
【0022】
好ましい実施形態において、244×rs+111×rl+40.2×t≧4.47×W+138の関係を更に満足する。
【0023】
好ましい実施形態において、前記発光管に結合された2つの側管部を備え、前記2つの側管部の各々は、前記発光管からアーク長方向に平行に延びる柱状部分を有しており、前記柱状部分は、略円筒状の第1のガラス部と、前記第1のガラス部の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部とを有しており、かつ、圧縮応力が印加されている部位を含んでいる。
【0024】
好ましい実施形態において、前記圧縮応力が印加されている部位は、前記第2のガラス部、前記第2のガラス部と前記第1のガラス部との境界部、前記第2ガラス部のうちの前記第1のガラス部側の部分、および、前記第1ガラス部のうちの前記第2ガラス部側の部分のいずれかである。
【0025】
好ましい実施形態において、前記第1のガラス部と前記第2のガラスでとの境界近傍には、両者の応力差に起因する歪みが境界領域が存在している。
【0026】
好ましい実施形態において、前記圧縮応力の少なくとも一部は、前記側管部の長手方向に印加されている。
【0027】
本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、前記発光管の内部空間に対向して設置された2以上の電極とを備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である。
【0028】
本発明のランプユニットは、上記いずれかの高圧水銀蒸気放電ランプと、前記高圧水銀蒸気放電ランプの前記発光管から出た光を反射する反射鏡とを備え、前記発光管の内部空間の長半径方向が地上に対して水平になるようにして点灯される。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、従来と比較して、ランプ電力の高電力化ならびに発光管内動作圧力の高圧力化に最適な設計指針を明示できたことにより、ランプ寿命点灯後初期のうちに発光管膨部の一部が起点となり、左右真二つに割ったように破損する現象を抑制することが可能となり、更に長寿命化も合わせて実現することが可能となった。同時にランプ自体の性能としても高光出力化、高効率化が実現する。このようなランプをプロジェクタに搭載することにより、プロジェクタ性能においてもランプ破損抑制による安全性、ランプ長寿命化による長時間動作信頼性ならびにランプ交換頻度が少なくなることによるメンテナンス費用の低コスト化、加えて高光出力化によるスクリーン照度向上、高効率化による省エネルギー効果など訴求ポイントは数多くなり、その効果は計り知れない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(実施形態1)
図1を参照しながら、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第1の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ100の構成を示す断面図である。
【0031】
本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ100は、石英ガラスによって作られた発光管101と、発光管101から延在した2つの側管部106とを備えている。
【0032】
発光管101は、放電スペースとして機能する内部空間を有しており、この内部空間の形状は略楕円体である。発光管101の内部空間には、一対の電極102が突出しており、電極102の先端が所定の距離を置いて対向している。一対の電極102の間でアーク放電が生じ、アーク長は、電極102の先端の間隔によって規定される。なお、発光管101の内部空間には、封入物質として、水銀3、ハロゲン(不図示)、希ガス(不図示)が封入されている。
【0033】
側管部106は、発光管101からアーク長方向(図1における水平横方向)に平行に延びており、発光管101の気密性を保持する「封止部(シール部)」として機能する。側管部106には、電極102の一部と、電極102に溶接された金属箔107と、電極102が溶接されている側の反対の側で金属箔107に溶接された外部リード線108の一部が埋設されている。本実施形態における電極102はタングステンから形成され、金属箔107および外部リード線108はモリブテンから形成されている。
【0034】
発光管101の内部空間に突出している各電極102の先端部分には、熱容量を大きくするためにタングステンコイルが巻かれている。
【0035】
本明細書では、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、発光管の内部空間の短半径をrs[mm]、発光管の内部空間の長半径をrl[mm](rl≧rs)、発光管の内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]と標記するる。これらのパラメータを種々の大きさに設定した11種類のランプを作製し、ランプ寿命点灯後初期のうちに破損に至ったかどうかを評価した。評価結果を、以下の表1に示す。ランプが破損した場合を「×」、破損しなかった場合を「○」で示している。
【0036】
【表1】
(表1)内の動作圧力P[気圧]は、一般に用いられる次の経験式(式1)で定義している。
【0037】
【式1】
【0038】
(式1)のように定義可能な理由は、次のとおりである。
【0039】
蒸発した水銀蒸気で満たされている発光管内部の微小体積ΔVs[m3]において、理想気体の状態方程式P・ΔVs=Δns・R・Tsが成立する。ここで、Pは圧力[Pa]、Δnsは水銀量[mol]、Rは8.314[J/Mol/K]、Tsは温度[K]である。
【0040】
この式を、P[気圧]、Δns[mg]、ΔVs[cm3]を用いて書き換え、全内容積にわたって積分(ΣΔn≡n)すると、次式が得られる。
【0041】
【式2】
【0042】
このとき、発光管内水銀蒸気が場所に関係なく一定と仮定すれば、
【0043】
【式3】
と表される。
【0044】
発光管内水銀蒸気の温度は場所によって異なるが、発光管内壁に負荷される圧力は各ΔVsの圧力の荷重平均である。このため、ΔVsが均等分割されていると考えれば、各ΔVsにおけるTsの発光管内容積に対する荷重平均値でもって(式3)中のTを代用することは妥当である。一般にプロジェクタなどに用いられる電極間距離1.0〜2.0mmの高圧水銀蒸気放電ランプの発光管内温度分布は放電中央部が6000〜7000K、発光管内壁表面温度が1000〜1500Kである。このことから発光管内の荷重平均温度は2000〜3000Kと推定され、この値を(式3)のTに代入すれば、定数A=0.828〜1.242となり1に近いことから、これが経験式(式1)の妥当性を説明する理由である。
【0045】
(式1)に示した破損評価は点灯後エージング中の6時間以内に破損したものを「×」と示した。「×」印のいずれのランプについて、破損後の残骸を確認した。発光管内表面にあたる石英ガラスに失透や黒化などは生じていない。また、図1の電極封止部104(電極102と発光管101との境界付近)から亀裂が進展した様子もなく、いずれも発光管膨部109の一部が破損の起点となって真っ二つになって破損したことが推察された。
【0046】
これらの評価結果に基づき、我々は、以下のことを見出した。
【0047】
すなわち、従来のようにランプ電力が100[W]クラス、点灯時の動作圧力も200気圧前後であれば、従来からの課題である発光管の失透、黒化、およびそれらに伴うランプ寿命の低下を抑制するようにランプの構造を決定すればよかった。しかし、ランプ電力が200[W]以上に上昇し、点灯時の動作圧力も、これまでにない250気圧以上に高められると、ランプ点灯の初期段階における発光管膨部中央の破損を防止することが重要になってきた。
【0048】
このような新しい課題を解決するためには、増大するランプ点灯時の熱的負荷・圧力負荷に十分耐えうる発光管の機械的強度を確保するための新しいランプ設計の指針が必要である。
【0049】
我々が着目したのは、ランプの水平点灯時における発光管内壁に生じる応力である。ランプ点灯時、発光管内壁には、熱的負荷による応力(熱応力)と水銀蒸気の圧力による応力とが組み合わさった応力が発生している。この熱応力は、発光管内の略中央に位置する放電アーク5が熱源となって生じる。ランプ発光管部の温度分布は、熱源で最大値を示し、この熱源を中心におよそ同心状に石英ガラス外表面に向かって徐々に減少する。石英ガラス外表面では、外気に対する強い輻射放熱が生じるため、石英ガラス内のランプ点灯時における熱応力は、内表面から外表面に向かって、同心状に大きくなっていく。このため、発光管の外表面における熱応力に対して内表面における熱応力は、「圧縮」応力の傾向を示す。
【0050】
一方、圧力による応力は、ランプ点灯時における発光管内部に発生する水銀蒸気圧によって発生する。この応力は、発光管の内表面で最も大きく、外表面に向かって同心状に減少していく。
【0051】
なお、本明細書における「水平点灯」とは、発光管の略楕円体形状の内部空間の長半径方向(=アーク長方向)が、地上に対して略水平になる状態でランプが動作することを意味する。例えばプロジェクタに用いられるランプユニットでは、発光管101からの光を反射する反射鏡と、水平点灯を行うランプとが組み合わせて用いられることがある。高圧水銀蒸気放電ランプの水平点灯は、プロジェクタの光源として用いられる場合に限定されず、照明用のランプとして使用される場合にも行われ得る。
【0052】
図2(a)および(b)は、図1に示す構成を有する高圧水銀蒸気放電ランプにおける発光管に発生する応力の分布の一例を模式的に示す。図2(a)のグラフには、発光管膨部109の肉厚部分に生じている熱応力、圧力による応力、それらの和として最終的に生じる応力が示されている。グラフの横軸は、発光管の内表面aから外表面bに向かう直線上の位置を示し、縦軸は、応力の相対値を示している。正の応力は引張応力、負の応力は圧縮応力を表している。
【0053】
図2からわかるように、熱応力は、内表面aにおいて負の極性を示す(圧縮応力)が、内表面aから離れて外表面bに近づくにつれて熱応力は正の方向に増加する。熱応力の極性は、内表面aと外表面bとの間で「正」に変化し、外表面bの近傍では引張応力になる。これに対して、圧力による応力は、内表面aで最大となり、内表面aから外表面bに向かって低下しているが、内表面aから外表面bまでの全範囲で正の極性を示し、常に引張応力の状態にある。
【0054】
石英ガラスの内部に生じる応力は、上記二つの応力の和である。図2からわかるように、熱応力および圧力による応力の勾配は、発光管の内表面aで最も大きく、極性は反対である。発光管の内表面aに生じる応力は、熱応力の絶対値と圧力による応力の絶対値との差によって規定されるため、これらの応力の変化に極めて敏感である。従って、発光管の形状をどのように設計するかによって、発光管の内表面aに生じる応力は大きく変化し、発光管膨部の割れ易さが決まる。
【0055】
そこで我々は、破損時に亀裂の起点となっていると推測される発光管膨部109における応力値に着目し、ランプ点灯時に発光管内壁表面に生じる応力値を、汎用有限要素法構造解析プログラム(Finite Element Method)を利用して計算した。この計算の手順を以下に述べる。
【0056】
図3は、FEMに用いたモデルの一例を示している。このモデルでは、小さな楕円体の中空を内部に含む相対的に大きな楕円体によって構成される発光管を計算の対象としている。図3には、発光管の8分の1の部分の断面が示されている。
【0057】
FEMに用いた上記モデルの形状を規定するパラメータは、発光管内部短半径rs[mm]、発光管内部長半径rl[mm]、及び、発光管膨部肉厚t[mm]である。ここで、rs≦rlの関係を与えている。
【0058】
図1に示す電極102は、モデルに含めず省略している。破損時の様子からみて、図1の電極封止部104が亀裂の起点になっていないため、応力の計算上、無視できると判断したためである。このため、放電容器である発光管部のみの応力分布が発光管形状にどのような相関関係を持つのかを明確にするモデルを採用した。
【0059】
実際のランプは、図1に示すように、側管部106(図1参照)を有している。この側管部106の形状がランプ各部温度分布や応力分布に影響を与えることも考えられる。S.Nakaoらの文献(S.Nakao他:IDW'00予稿集LAD2−4)によれば、側管部106の形状がやや複雑な場合に、当該部分に集中する応力が側管部106の形状に依存する。このことは、側管部106がランプ破損の亀裂の起点になることを想定しており、上記文献に記載されている破損は、本発明の課題である発光管膨部の破損とは異なる現象である。本発明は、側管部106における破損の問題を解決したランプにおいて特に重要な効果をもたらす。
【0060】
我々が行った上記計算における設定条件を更に述べる。この計算は、モデル作成後、まず石英ガラス内に発生する温度分布を計算した。そして、その結果を用いて、応力分布を計算した。これは、熱−構造練成解析の通常の手順に従っている。
【0061】
最初の温度分布の計算に用いた設定条件は、次の通りである。すなわち、ランプ点灯時に、投入したエネルギのうち、熱エネルギーとして消費される部分を、発光管の内壁全表面に一様に分配した。ランプ点灯時に熱エネルギーとして消費される割合は、全消費エネルギー(=ランプ電力)の30%とした(ELENBAAS:「THE HIGH PRESSURE MERCURY VAPOUR DISCHARGE」、NORTH-HOLLAND PUBLISHING COMPANY、1951)。
【0062】
発光管の内表面および外表面では、輻射放熱を考慮し、モデルの最外郭には空気領域を設けた。ただし、空気領域における対流は無視した。
【0063】
実際のランプでは、発光管内部に対流を生じる水銀蒸気領域が存在するが、ランプ点灯時の熱エネルギーがランプ電力の30%という値を採用することによって、水銀蒸気領域を設定する必要はなくなる。よって、本モデルでは、水銀蒸気領域は設定していない。
【0064】
石英ガラスの密度は2200[kg/m3]、比熱は1152.55[J/kgK]、熱伝導率は1.7[W/mK]とした。
【0065】
応力分布の計算を行うための設定条件は、次の通りである。すなわち、モデル各部の温度が室温(18℃)から上昇することによって発生する熱応力と、発光管の内壁表面に対して一様に及ぶ動作圧力とに基づいて計算した。温度の上昇は、先に計算で得られた温度分布に基づいて決定した。応力の計算に必要な、物理的なパラメータについては、石英ガラスのヤング率を73100[N/mm2]、ポアソン比を0.17、線膨張係数を5.6×10-7に設定した。
【0066】
ランプ電力Wは150、200、300[W]の3条件、動作圧力Pは250、350、450[気圧]の3条件、発光管内部短半径rsは1.5、2.5、3.5[mm]の3条件、発光管内部長半径rlは1.5、2.5、3.5、4.5、5.5、6.5[mm]の中からrs≦rlを満たす最小値から順に4条件、発光管膨部肉厚tは2、4[mm]の2条件で行った。rs=rlとなる中空真円球の場合も含め、計216通りの条件について計算を行った。
【0067】
図4は、計算結果の一例を示すグラフである。図4に示す計算結果は、ランプ電力W=200[W]、動作圧力P=350[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、発光管内部長半径rl=1.5、2.5、3.5、4.5[mm]、肉厚t=2[mm]とした場合に得られたものである。
【0068】
図4のグラフの横軸は、「肉厚位置[mm]」を示している。この肉厚位置は、図3のモデルの原点座標をゼロとし、発光管膨部の内表面から外表面にむかう直線上における原点からの距離(位置)を表している。グラフの縦軸は、ランプ点灯時の応力[N/mm2](熱応力と圧力による応力の和)を表している。ここで、応力の正値は引張応力を表し、負値は圧縮応力を表す。
【0069】
図4からわかるように、ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚tが同じ場合であっても、発光管内部長半径rlが異なると、応力分布が異なる。応力の値の発光管内部長半径rlへの依存度は、発光管の内表面で最も強い。
【0070】
図4に結果を示した条件以外の条件においても、図4に示す傾向と同様の傾向が観察された。図5のグラフは、ランプ電力W=150[W]、動作圧力P=450[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、発光管内部長半径rl=1.5、2.5、3.5、4.5[mm]、肉厚t=4[mm]の場合に得られた計算結果を示している。図5に示される応力分布についても、図4に示される応力分布と同様の傾向が観察される。
【0071】
図6は、図4のデータに基づいて作成したグラフであり、発光管の内表面(肉厚位置:1.5mm)における応力のrl依存性を示している。図6のグラフ中の実線は、回帰曲線を示しているため、ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚tを固定したとき、所望の発光管の内表面における応力を所望の大きさにするために必要な発光管内部長半径rlが求められる。すべての計算結果ついても、同様の整理を行った。
【0072】
(表1)に示すランプ1〜10についても、各パラメータ(ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管内部長半径rl、発光管膨部肉厚t)をもとに、FEMプログラムを用いて、発光管の内表面における応力値を計算した。計算結果と、そのときの破損評価結果を並べて(表2)に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2から、発光管膨部の内表面に生じる応力が、5[N/mm2]前後で破損が生じる。言い換えると、発光管膨部の内表面に生じる応力を5[N/mm2]以下に抑えられれば、破損を防止できる可能性が高まる。
【0075】
そこで、先に行った全ての計算結果を用い、発光管膨部内表面に生じる応力が5[N/mm2]以下となるための重回帰式を求めた。ここで、rlを目的変数として、W、P、rs、tを説明変数とした。
【0076】
例えば、図6のグラフに示すランプの場合、発光管膨部内表面に生じる応力が5[N/mm2]となるrlは、回帰曲線より、2.46[mm]であることがわかる。これは、図4のグラフについて説明したとおり、W=200[W]、動作圧力P=350[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、肉厚t=2[mm]の時のランプに関する値である。このようなセットを全て抽出し、重回帰分析を行えばよい。
【0077】
発光管膨部内表面に生じる応力が引張応力5[N/mm2]以下となるための重回帰式として、(式4)が得られた。
【0078】
【式4】
【0079】
重回帰分析の重相関係数は0.90であった。つまり、FEM計算によって得られた実績値は、(式4)において計算される理論値によって十分な精度で表現されることが明らかとなった。
【0080】
なお、本発明では、ランプ電力W≧150[ワット]、動作圧力ガラス肉厚P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、(式4)を満足するように高圧水銀蒸気放電ランプを設計する。
【0081】
(式4)を満たすランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚t、発光管内部長半径rlの組み合わせとすることにより、ランプ電力Wの増加および動作圧力Pの上昇に対し、ランプ寿命点灯後初期のうちに発光管膨部の一部が起点となり、左右真二つに割ったように破損する現象を抑制することが可能となるわけであるが、ランプ実用面からすると、ランプ長寿命化も合わせて実現する必要がある。
【0082】
そこで、(表1)に示す11種類のランプについて、寿命試験を行った。点灯のべ時間1000時間までの点滅点灯試験において、点灯試験中に発生する石英ガラス発光管の破損、極端な変形の状態を目視にて評価した。評価結果を(表3)に示す。また、各ランプについて、前述したFEM計算を行った際に得られた温度分布に基づいて、発光管膨部内表面の温度(水平点灯の場合において、上側部に相当)を算出した。この結果も表3に示している。
【0083】
【表3】
【0084】
ここで寿命評価の判断基準は、「○」は、わずかな変形のみ、「×」は、極端な変形を生じて破損に至ったもの、「△」は、変形は生じたが破損しなかったものである。
【0085】
ここでの前述したFEM計算を行った際にあらかじめ得た温度分布の結果から、発光管膨部内表面の温度を算出した方法について述べる。前述した計216種類の各温度分布計算結果から発光管膨部内表面の温度Tを抽出し、目的変数を温度T、説明変数をW、rs、rl、tとして先と同様重回帰分析により重回帰式を求めた。前述したように結果としての熱エネルギーを発光管内部表面に直接設定しているので、温度Tは水銀蒸気の動作圧力Pには依存しない。得られた重回帰式は(式5)となった。
【0086】
【式5】
【0087】
重回帰分析の重相関係数は0.96であった。(式5)を用いて得た(表3)の結果をみると、寿命評価が「○」となるか否かは発光管膨部内表面温度1650℃前後が、寿命特性を左右する閾値であることが推察される。1650℃という数字は一般に言われる石英ガラスの軟化点温度に近い。通常ならランプは早期に変形を生じると考えられるが、同時に内部最表面に生じる圧縮応力が変形を抑制する方向に働いていると考えられる(ランプNo.8、11)。
【0088】
そこで、(式4)に示した各パラメータの組み合わせに加えて、膨部内表面温度は1650℃以下が望ましいという観点から、(式5)から以下の(式6)を得た。
【0089】
【式6】
【0090】
この(式6)を更に変形して以下の(式7)を得た。
【0091】
【式7】
【0092】
(式4)および(式7)を同時に満足するようにランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚t、発光管内部長半径rlを適切に設定することにより、ランプ電力Wが増加し、動作圧力Pが高くなっても、ランプ寿命点灯後初期に発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れる現象をより確実に抑制でき、長寿命化の実現が容易になる。
【0093】
発光管膨部の内壁表面における引張応力を5[N/mm2]以下することは、ランプ電力Wが低く、かつ動作圧力Pが低い条件のもとでは比較的簡単に実現できる。逆に、動作圧力Wが高くなると(150ワット以上、更には200ワット以上)、発光管膨部の内表面に生じる圧力による応力(図2参照)が増大し、発光管膨部の内壁表面における引張応力を5[N/mm2]以下にすることが非常に困難になる。
【0094】
一方、内表面における熱応力の最小値と外表面における熱応力の最大値の差は、両表面間の温度差によって決定される。ランプにおいて同じ熱エネルギーをもってこの温度差を付けようとするならば、肉厚を厚くすればよい。低動作圧力の場合は発光管膨部内表面の圧力による応力(引張応力)が小さいため、発光管強度を維持するための圧縮方向の熱応力の必要性も少なく、したがって肉厚tを厚くする必要も少ない。加えてランプ電力Wが低いと、熱として消費されるエネルギー量も少ないため、発光管内表面が軟化点温度に近くなることもほとんどなく、形状設計における自由度は多い。それに比較して、ランプ電力Wが150ワット以上、動作圧力Pが250気圧以上になると、増大する発光管膨部内表面の圧力による応力(引張応力)を緩和するために、熱応力によってバランスをとる必要がある。しかし、発光管の肉厚tが5mmを超えて厚くなることは、ランプの小型軽量化を阻み、また、ガラスの光透過率を低下させることになるため、好ましくない。
【0095】
このように、高圧水銀蒸気放電ランプのランプ電力Wおよび動作圧力Pが増加すると、設計の自由度が少なくなり、安全で長寿命なランプを提供することが困難になるため、今後益々、本発明の効果が重要になってくる。
【0096】
なお、上記計算結果および実験結果は、ランプ電力Wが150[W]以上の場合に得られたものであるが、ランプ電力Wが200[W]以上の場合に、本発明は更に有益な効果をもたらす。また、動作圧力Pが250気圧以上である場合は、発光管と側管部との境界部での亀裂も生じやすくなる。このような亀裂を抑制するためには、以下に説明する実施形態2の構成を採用することが好ましい。本発明は、実施形態2に示すような構成を採用することにより、膨部中央での破損が最も重要な問題になる場合に特に有益な効果をもたらすといえる。
【0097】
(実施形態2)
次に、図8から図10を参照しながら、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第2の実施形態を説明する。
【0098】
本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプは、実施形態1について説明した設計手法で設計された構造を有するとともに、これに加えて、発光管と側管部との境界部分での割れを抑制する構造を備えている。
【0099】
図8(a)および(b)は、本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ200の構成を模式的に示している。本実施形態のランプ200は、発光物質6が封入される発光管1と、発光管1から延在した側管部2とを備えている。図8(a)は、ランプ200の全体構成を模式的に示しており、図8(b)は、図8(a)中の線b−b線における発光管101側から見た側管部2の断面構成を模式的に示している。
【0100】
ランプ200の側管部2は、発光管1の内部10の気密性を保持する「封止部」として機能する。ランプ200は、2つの側管部2を備えたダブルエンド型のランプである。
【0101】
本実施形態における側管部2は、発光管1から延在した略円筒状の第1のガラス部8と、第1のガラス部8の内側(中心側)の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7とを有している。また、側管部2は、圧縮応力が印加されている部位7を有しており、本実施形態において、圧縮応力が印加されている部位は、第2のガラス部7に相当する部分である。側管部2の断面形状は、図8(b)に示すように、略円形であり、側管部2内に、ランプ電力を供給するための金属部4が設けられている。この金属部4の一部は、第2のガラス部7と接しており、本実施形態では、第2のガラス7の中心部に金属部4が位置している。第2のガラス7は、側管部2の中心部に位置しており、第2のガラス部7の外周は、第1のガラス部8によって覆われている。
【0102】
本実施形態のランプ200に対して、光弾性効果を利用した鋭敏色板法による歪み測定を実行して、側管部2を観察すると、第2のガラス部7に相当する部分に圧縮応力が存在していることが確認される。鋭敏色板法による歪み測定では、ランプ200の形状を維持したまま、側管部2を輪切り状にした断面内の歪み(応力)の観測を行うことができないのであるが、第2のガラス部7に相当する部分に圧縮応力が観測されたということは、第2のガラス部7の全体または大半に圧縮応力が印加されている場合の他、第2のガラス部7と第1ガラス部8との境界部に圧縮応力が印加されている場合、第2ガラス部7のうちの第1のガラス部8側の部分、または、第1ガラス部8のうちの第2のガラス部7側の部分に圧縮応力が印加されている場合のいずれか又はそれらが複合した形で、側管部2の一部に圧縮応力が印加されているということになる。また、この測定では、側管部2の長手方向に圧縮する応力(または歪み)は積分値で観測される。
【0103】
側管部2における第1のガラス部8は、SiO2を99重量%以上含むものであり、例えば、石英ガラスから構成されている。一方、第2のガラス部7は、15重量%以下のAl2O3および4重量%以下のBのうちの少なくとも一方と、SiO2とを含むものであり、例えば、バイコールガラスから構成されている。SiO2にAl2O3やBを添加すると、ガラスの軟化点は下げるため、第2のガラス部7の軟化点は、第1のガラス部8の軟化点温度よりも低い。なお、バイコールガラス(Vycor glas:商品名)とは、石英ガラスに添加物を混入させて軟化点を下げて、石英ガラスよりも加工性を向上させたガラスであり、例えば、ホウケイ酸ガラスを熱・化学処理して、石英の特性に近づけることによって作製することができる。バイコールガラスの組成は、例えば、シリカ(SiO2)96.5重量%、アルミナ(Al2O3)0.5重量%、ホウ素(B)3重量%である。本実施形態では、バイコールガラス製のガラス管から、第2のガラス部7は形成されている。なお、バイコール製のガラス管の代わりに、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラス管を用いても良い。
【0104】
側管部2の一部に印加されている圧縮応力は、実質的にゼロ(すなわち、0kgf/cm2)を超えたものであればよい。なお、この圧縮応力は、ランプが点灯していない状態のものである。この圧縮応力の存在により、従来の構造よりも耐圧強度を向上させることができる。この圧縮応力は、約10kgf/cm2以上(約9.8×105N/m2以上)であることが好ましい。そして、約50kgf/cm2以下(約4.9×106N/m2以下)であることが好ましい。10kgf/cm2未満であると、圧縮歪みが弱く、ランプの耐圧強度を十分に上げられない場合が生じ得るからである。そして、50kgf/cm2を超えるような構成にするには、それを実現させるのに、実用的なガラス材料が存在しないからである。ただし、10kgf/cm2未満であっても、実質的に0の値を超えれば、従来の構造よりも耐圧を上げることができ、また、50kgf/cm2を超えるような構成を実現できる実用的な材料が開発されたならば、50kg/cm2を超える圧縮応力を第2のガラス部7が有していてもよい。
【0105】
ランプ200を歪検査器で観測した結果から推測すると、第1のガラス部8と第2のガラス部7との間の境界周辺には、両者の圧縮応力の差によって生じた歪み境界領域20が存在していると思われる。このことは、圧縮応力は、専ら、第2のガラス部7(または、第2のガラス部7の外周近傍領域)に存在しており、第1のガラス部8全体には、第2のガラス部7の圧縮応力がそれほど(または、ほとんど)伝わってないことを意味していると考えられる。両者(8、7)の圧縮応力の差は、例えば、約10kgf/cm2から約50kgf/cm2の範囲内となり得る。
【0106】
ランプ200の発光管1は、略球形をしており、第1のガラス部8と同様に、石英ガラスから構成されている。なお、長寿命などの優れた特性を発揮する高圧水銀ランプ(特に、超高圧水銀ランプ)を実現する上では、発光管1を構成する石英ガラスとして、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、1ppm以下)高純度の石英ガラスを用いることが好ましい。なお、勿論、通常のアルカリ金属不純物レベルの石英ガラスを用いることも可能である。発光管1の外径は例えば5mm〜20mm程度であり、発光管1のガラス厚は例えば1mm〜5mm程度である。発光管1内の放電空間(10)の容積は、例えば0.01〜1cc程度(0.01〜1cm3)である。本実施形態では、外径9mm程度、内径4mm程度、放電空間の容量0.06cc程度の発光管1が用いられる。
【0107】
発光管1内には、一対の電極棒(電極)3が互いに対向して配置されている。電極棒3の先端は、0.2〜5mm程度(例えば、0.6〜1.0mm)の間隔(アーク長)Dで、発光管1内に配置されており、電極棒3のそれぞれは、タングステン(W)から構成されている。電極棒3の先端には、ランプ動作時における電極先端温度を低下させることを目的として、コイル12が巻かれている。本実施形態では、コイル12として、タングステン製のコイルを用いているが、トリウム−タングステン製のコイルを用いてもよい。また、電極棒3も、タングステン棒だけでなく、トリウム−タングステンから構成された棒を使用してもよい。
【0108】
発光管1内には、発光物質として、水銀6が封入されている。超高圧水銀ランプとしてランプ200を動作させる場合、水銀6は、例えば、200mg/cc程度またはそれ以上(220mg/cc以上または230mg/cc以上、あるいは250mg/cc以上)、好ましくは、300mg/cc程度またはそれ以上(例えば、300mg/cc〜500mg/cc)の水銀と、5〜30kPaの希ガス(例えば、アルゴン)と、必要に応じて、少量のハロゲンとが発光管1内に封入されている。
【0109】
発光管1内に封入されるハロゲンは、ランプ動作中に電極棒3から蒸発したW(タングステン)を再び電極棒3に戻すハロゲンサイクルの役割を担っており、例えば、臭素である。封入するハロゲンは、単体の形態だけでなく、ハロゲン前駆体の形態(化合物の形態)のものでもよく、本実施形態では、ハロゲンをCH2Br2の形態で発光管10内に導入している。また、本実施形態におけるCH2Br2の封入量は、0.0017〜0.17mg/cc程度であり、これは、ランプ動作時のハロゲン原子密度に換算すると、0.01〜1μmol/cc程度に相当する。なお、ランプ200の耐圧強度(動作圧力)は、20MPa以上(例えば、30〜50MPa程度、またはそれ以上)にすることができる。また、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上であり、特に上限は設定されない。例示的に示すと、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上から、300W/cm2程度の範囲(好ましくは、80〜200W/cm2程度)のランプを実現することができる。冷却手段を設ければ、300W/cm2程度以上の管壁負荷を達成することも可能である。なお、定格電力は、例えば、150W(その場合の管壁負荷は、約130W/cm2に相当)である。
【0110】
放電空間10内に一端が位置する電極棒3は、側管部2内に設けられた金属箔4に溶接により接続されており、金属箔4の少なくとも一部は、第2のガラス部7内に位置している。図8に示した構成では、電極棒3と金属箔4との接続部を含む箇所を、第2のガラス部7が覆うような構成にしている。図8に示した構成における第2のガラス部7の寸法を例示すると、側管部2の長手方向の長さで、約2〜20mm(例えば、3mm、5mm、7mm)であり、第1のガラス部8と金属箔4との間に挟まっている第2のガラス部7の厚さは、約0.01〜2mm(例えば、0.1mm)である。第2のガラス部7の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離Hは、約0mm〜約6mm(例えば、0mm〜約3mm、または、1mm〜6mm)である。第2のガラス部7を放電空間10内に露出させたくない場合には、距離Hは0mmよりも大きくなり、例えば、1mm以上となる。そして、金属箔4の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離B(言い換えると、電極棒3だけで側管部2内に埋まっている長さ)は、例えば、約3mmである。
【0111】
上述したように、側管部2の断面形状は、略円形であり、その略中央部に金属箔4が設けられている。金属箔4は、例えば、矩形のモリブデン箔(Mo箔)であり、金属箔4の幅(短辺側の長さ)は、例えば、1.0mm〜2.5mm程度(好ましくは、1.0mm〜1.5mm程度)である。金属箔4の厚さは、例えば、15μm〜30μm程度(好ましくは、15μm〜20μm程度)である。厚さと幅との比は、だいたい1:100程度になっている。また、金属箔4の長さ(長辺側の長さ)は、例えば、5mm〜50mm程度である。
【0112】
電極棒3が位置する側と反対側には、外部リード5が溶接により設けられている。金属箔4のうち、電極棒3が接続された側と反対側には、外部リード5が接続されており、外部リード5の一端は、側管部2の外まで延びている。外部リード5を点灯回路(不図示)に電気的に接続することにより、点灯回路と、一対の電極棒3とが電気的に接続されることになる。側管部2は、封止部のガラス部(7、8)と金属箔4とを圧着させて、発光管1内の放電空間10の気密を保持する役割を果たしている。側管部2によるシール機構を以下に簡単に説明する。
【0113】
側管部2のガラス部を構成する材料と、金属箔4を構成するモリブデンとは互いに熱膨張係数が異なるので、熱膨張係数の観点からみると、両者は、一体化された状態にはならない。ただし、本構成(箔封止)の場合、封止部のガラス部からの圧力により、金属箔4が塑性変形を起こして、両者の間に生じる隙間を埋めることができる。それによって、側管部2のガラス部と金属箔4とを互いに圧着させた状態にすることができ、側管部2で発光管1内のシールを行うことができる。すなわち、側管部2のガラス部と金属箔4との圧着による箔封止によって、側管部2のシールは行われている。本実施形態では、圧縮歪みのある第2のガラス部7が設けられているので、このシール構造の信頼性が向上されている。
【0114】
次に、側管部2における圧縮歪みについて説明する。図9(a)および(b)は、側管部2の長手方向(電極軸方向)に沿った圧縮歪みの分布を模式的に示しており、図9(a)は、第2のガラス部7が設けられたランプ200の構成の場合、一方、図9(b)は、第2のガラス部7の無いランプ200’の構成(参考例)の場合を示している。
【0115】
図9(a)に示した側管部2のうち、第2のガラス部7に相当する領域(網掛け領域)に圧縮応力(圧縮歪み)が存在し、第1のガラス部8の箇所(斜線領域)における圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。一方、図9(b)に示すように、第2のガラス部7の無い側管部2の場合、局所的に圧縮歪みが存在している箇所はなく、第1のガラス部8の圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。
【0116】
本願発明者は、実際にランプ200の歪みを定量的に測定し、側管部2のうち第2のガラス部7に圧縮応力が存在することを観測した。この歪みの定量化は、光弾性効果を利用した鋭敏色板法を用いて行うことができる。この手法によると、歪み(応力)のある箇所の色が変化して見え、その色を歪み標準器と比較して歪みの大きさを定量化することができる。つまり、測定したい歪みの色と同色の光路差を読みとることで、応力を算出することができる。歪みの定量化のために使用した測定器は、歪検査器(東芝製:SVP−200)であり、この歪検査器を用いると、側管部2の圧縮歪みの大きさを、側管部2に印加されている応力の平均値として求めることができる。
【0117】
本願発明者は、側管部2における光の透過距離L、すなわち、側管部2の外径Lを測定し、そして、歪み標準器を用いて、測定時の側管部2の色から光路差Rを読みとった。また、光弾性常数Cは、石英ガラスの光弾性常数3.5を使用した。これらを上記式に代入し、算出された応力値の結果を図10の棒グラフに示す。
【0118】
図10に示すように、応力が0[kgf/cm2]であったランプ本数は、0本であり、10.2[kgf/cm2]であったランプ本数は、43本であり、20.4[kgf/cm2]であったランプ本数は、17本であり、そして、35.7[kgf/cm2]であったランプ本数は、0本であった。
【0119】
一方、参考例のランプ200’の場合、測定した全てのランプについて、応力は、0[kgf/cm2]であった。なお、測定原理上、側管部2に印加されている応力の平均値から、側管部2の圧縮応力を算定したが、第2のガラス部7を設けることで側管部2の一部に圧縮応力が印加された状態になることは、図10の結果より容易に結論付けることができる。なぜならば、参考例のランプ200’については、側管部2に圧縮応力は存在しなかったからである。また、図10は、離散的な応力値を示しているが、これは、歪み標準器から読み取る光路差が離散的なものであることに起因している。従って、応力値が離散的なのは、鋭敏色板法による歪み測定の原理によるものである。実際には、例えば、10.2[kgf/cm2]と20.4[kgf/cm2]との間の値を示す応力値も存在するものと思われるが、第2のガラス部7もしくは第2のガラス部7の外周周辺領域に、所定量の圧縮応力が存在していることにはかわりない。
【0120】
なお、本測定では、側管部2の長手方向(電極軸3が延びる方向)についての応力を観察したが、このことは、他の方向において圧縮応力が存在していないことを意味するものではない。側管部2の径方向(中心−外周方向)、または、側管部2の周方向(例えば、時計周り方向)について圧縮応力が存在しているかどうかを測定するには、発光管1や側管部2を切断する必要があるのであるが、そのような切断を行ったとたん、第2のガラス部7の圧縮応力が緩和されてしまう。従って、ランプ200に対して切断を行わない状態で測定できるのは、側管部2の長手方向についての圧縮応力であるため、本願発明者は、少なくとも、その方向での圧縮応力を定量化したのである。
【0121】
本実施形態のランプ200では、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7に圧縮歪み(少なくとも長手方向への圧縮歪み)が存在しているので、高圧放電ランプの耐圧強度を向上させることができる。言い換えると、図8および図9(a)に示した本実施形態のランプ200の方が、図9(b)に示した参考例のランプ200’よりも、耐圧強度を高くすることができる。図8に示した本実施形態のランプ200は、従来の最高レベルの動作圧である20MPa程度を超える、30MPa以上の動作圧で動作させることが可能である。
【0122】
(実施形態3)
次に、図11を参照しながら、本発明によるランプユニットの実施形態を説明する。本実施形態では、前述のランプ100および200が、反射鏡と組み合わせられ、ミラー付きランプまたはランプユニットを構成している。
【0123】
図11は、本発明の実施形態であるランプ200を備えたミラー付きランプ900の断面を模式的に示している。ミラー付ランプ900は、略球形の発光管1と一対の側管部2とを有するランプ200と、ランプ200から発せられた光を反射する反射鏡60とを備えている。なお、ランプ200は、例示であり、ランプ100であってもよい。また、ミラー付ランプ900は、反射鏡60を保持するランプハウスを更に備えていてもよい。ここで、ランプハウスを備えた構成のものは、ランプユニットに包含されるものである。
【0124】
反射鏡60は、例えば、平行光束、所定の微小領域に収束する集光光束、または、所定の微小領域から発散したのと同等の発散光束になるようにランプ100からの放射光を反射するように構成されている。反射鏡60としては、例えば、放物面鏡や楕円面鏡を用いることができる。
【0125】
本実施形態では、ランプ200の一方の側管部2に口金56が取り付けられており、当該側管部2から延びた外部リード5と口金56とは電気的に接続されている。側管部2と反射鏡60とは、例えば無機系接着剤(例えばセメントなど)で固着されて一体化されている。反射鏡60の前面開口部側に位置する側管部2の外部リード5には、引き出しリード線65が電気的に接続されており、引き出しリード線65は、リード線5から、反射鏡60のリード線用開口部62を通して反射鏡60の外にまで延ばされている。反射鏡60の前面開口部には、例えば前面ガラスを取り付けることができる。
【0126】
このようなミラー付ランプまたはランプユニットは、例えば、液晶やDMD(Digital Micromiror Device)を用いたプロジェクタのような画像投影装置に取り付けることができ、画像投影装置用光源として使用される。また、このようなミラー付ランプまたはランプユニットと、画像表示素子(DMDパネルや液晶パネルなど)を含む光学系とを組み合わせることにより、画像投影装置を構成することができる。例えば、DMDを用いたプロジェクタ(デジタルライトプロセッシング(DLP)プロジェクタ)や、LCOS(LiquidCrystal on Silicon)構造を採用した反射型のプロジェクタを提供することができる。更に、本実施形態のランプおよびランプユニットは、画像投影装置用光源の他に、紫外線ステッパ用光源、または競技スタジアム用光源や自動車のヘッドライト用光源、道路標識を照らす投光器用光源などとしても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】 本発明の実施形態1における高圧水銀蒸気放電ランプの図である。
【図2】 (a)は、実施形態1における発光管膨部石英ガラス内に発生する一般的な応力のグラフ、(b)は「位置」を示す図である。
【図3】 本発明の実施形態1におけるFEMモデルの図である。
【図4】 本発明の実施形態1におけるFEM計算結果の一例を示した図である。
【図5】 本発明の実施形態1におけるFEM計算結果の一例を示した図である。
【図6】 図4における発光管内部最表面の応力と発光管内部長半径との関係を示す図である。
【図7】 発光管膨部から真っ二つに割れた従来の高圧水銀蒸気放電ランプを示す図である。
【図8】 (a)は、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第2の実施形態の全体構成を模式的に示す断面図である、(b)は、(a)中の線b−b線における発光管101側から見た側管部2の断面構成を模式的に示す図である。
【図9】 (a)は、本発明の第2実施形態における第2のガラス部7が設けられたランプ200の構成を示す断面図であり、(b)は、第2のガラス部7の無いランプ200’の構成を示す断面図である。
【図10】 本発明のランプについて求めた応力値の結果を示す棒グラフである。
【図11】 本発明によるランプユニットの実施形態を示す断面図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水銀蒸気放電ランプおよびランプユニットに関し、特に超高圧で明るい光を放射することができる割れにくい高圧水銀蒸気放電ランプに関している。
【背景技術】
【0002】
水銀ランプは、点灯時の水銀圧力の増加とともにラインスペクトルから連続スペクトルヘと分光分布が変化し、輝度も向上する。高圧水銀蒸気放電ランプは輝度が高く、従来より、半導体製造装置の露光用に用いられてきたが、プロジェクタなどのより強力な光源として用いられる場合には、水銀圧力(動作圧力)を更に高めることが求められている。
【0003】
高圧水銀蒸気放電ランプの従来技術は、例えば、特開平6−52830号公報に記載されている。この高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスのランプ容器と、ランプ容器の放電スペース内に配された一対のタングステン電極と、放電スペース内に封入された所定量の水銀、ハロゲンおよび希ガスとを有している。放電スペースは楕円体形状を有している。このランプの動作時の消費電力(ランプ電力)は70〜150[W]の範囲内にある。上記の先行技術文献は、楕円体の放電スペース内形状として、放電路方向(楕円体の長径)の寸法、放電路を横切る最大直径(楕円体の短径)ならびにランプ容器の最大外径、放電路の長さを所定の範囲内に規定することを記載している。
【0004】
また、上記先行技術文献は、ランプ電力を70〜150[W]とすることによりより、多くの光束を確保する一方で、ランプ容器内側の温度が所定の温度範囲となることを実現できることを教示している。その理由として、放電スペース内に所定の温度範囲外の部分が存在する場合、封入されている所定量のハロゲンによって生じているハロゲンサイクルが機能しなくなり、容器の黒化や電極の腐食が生じランプ短寿命の原因になると記載されている。この原因を克服することが、上記先行技術文献に開示されている発明の解決しようとする課題であった。
【0005】
特開平2−148561号公報は、高圧水銀蒸気放電ランプの他の従来例を開示している。この先行技術文献も、特開平6−52830号公報と同様に、放電容器と、タングステン電極と、所定量の水銀およびンとを有するランプを開示し、その銀蒸気圧を200バールより大きく、管壁負荷を1[W/mm2]より大きく設定することを教示している。このように規定されている理由は、先の特開平6−52830号公報で述べられている内容とほぼ同じである。具体的には、規定範囲内でランプを構成することにより、十分な光束を確保する一方で、電極から蒸発するタングステンによる容器壁の黒化を防ぐことを目的としている。
【0006】
しかし、特開平2−148561号公報で開示されているランプは、細長く、狭い放電容器形状をしており、ランプ電力も50[W]である。このため、経時にともない、十分な光束を得るにはランプ電力が不十分であり、黒化防止に十分な放電容器内温度が得られない。
【0007】
特開2001−283782号公報は、ランプ電力が180[W]以上の高圧水銀蒸気放電灯を開示している。このランプには、所定量の水銀とハロゲンが封入され、発光管最大径部の内径、発光管最大径部の肉厚、電極間距離の三値が所定の関係を有することが規定されている。このように規定されている理由は、上記三値が満たされる条件を満足するランプが、光学特性および寿命試験において、良好な結果を示したと記述されている。特開2001−283782号公報において試験結果が記載されているランプは、ラこの文献の表1によると、水銀封入量が規定範囲の上限である0.25mg/mm3の場合、ランプ電力が200[W]で、動作圧力は250気圧前後と概算される。すなわち、このランプの動作圧力の上限は、250気圧前後であると理解される。
【0008】
近年、プロジェクタに用いられる光源には、より高い光出力が求められ、高効率化および小形化の要求は益々強くなってきている。このような光源に高圧水銀蒸気放電ランプを用いる場合、上記の先行技術文献に開示されている知見によっては解決できない課題が発生している。
【0009】
ランプの高光出力化という観点から、光束の総量を増加させるために定格ランプ電力の増加が進み、150[W]より大きく、200〜300[W]クラスの需要が増えている。
【0010】
高効率化に関しては、ランプ点灯時の動作圧力を増加させることによる放電発光の可視域の発光効率の向上が有効である。その観点から、近年、250気圧以上の動作圧力が望まれている。このような動作圧力の増加は、電極間距離の短縮化(短アーク化)を進める上でも必要である。プロジェクタの光源に高圧水銀蒸気放電ランプを用いる場合、電極間距離を短くすることにより、投写時の光利用効率が良くなる。特開平6−52830号公報は、ランプ電力130[W]〜150[W]で、電極間距離が1.8〜2.0mmのランプを開示している。上記の理由から、200〜300[W]クラスのランプにおいても、電極間距離1.0〜1.5mm以下を達成することが強く望まれている。
【0011】
電極間距離を短くする際に動作圧力を増加させる理由は、電極間に印加される単位長さあたりの電圧が動作圧力に比例するためである。仮に、ランプ電力および動作圧力が変化しない状況(発光管内の単位体積あたりの封入水銀量が一定の場合など)で、電極間距離が短くなれば、その分、ランプ電圧は減少し、ランプ電流が増加する。ランプ電流の増加は、放電電極に熱的に大きな負担を強いることによるランプ短寿命化を招く。更には、点灯回路の最大許容電流の増加に伴う追加安全対策が必要となる。このように、ランプ電流の増加は好ましくない。
【0012】
一方、プロジェクタなどの製品筐体寸法の小形化に伴い、ランプ自身を更に小形化することが強く望まれている。
【0013】
ランプ電力および動作圧力が増大し、ランプが小形化することにより、ランプ破損対策がこれまで以上に重要になってきている。従来からも、ランプ破損に関する指摘は多く存在したが、これらは、長期のランプ寿命点灯中に石英ガラスが失透などを生じ変形し、破損に至るという現象を想定している。
【0014】
しかしながら、ランプ電力および動作圧力が増大し、ランプ自身が小形化すると、熱的負荷および発光管内の圧力負荷が飛躍的に増大するため、石英ガラスに失透や変形などが生じる前に、より具体的にはランプ寿命の初期段階で破損に至る場合がある。
【0015】
本発明者が、上記のランプ破損が生じた後の残骸を観察したところ、石英ガラスに失透や変形はなく、発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れていた。このような破損の様子を図7に示す。図7に示す高圧水銀蒸気放電ランプ700は、石英ガラスからなる発光管(バルブ)101と、発光管101から延在した側管部106とを有し、側管部106には、電極102の一部と、電極102に溶接された金属箔107と、外部リード線108の一部が埋設されている。
【0016】
図7からわかるように、発光管101の発光管膨部109は、その一部が起点となって左右に真っ二つに割れて破損している。この破損の形態は、これまでの破損とは全く異なる形態である。従来の高圧水銀蒸気放電ランプでは、発光管内壁が黒化や失透を生じ、それが原因となって発光管が変形を生じ、破損に至っていた。このような破損のメカニズムとは全く異なるメカニズムで図7に示す破損は生じていると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記の新しい課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ランプ電力および動作圧力が増大した場合においても、発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れることを抑制した高圧水銀蒸気放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、前記発光管の内部空間に対向して配置された2以上の電極と、を備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間の短半径をrs[mm]、前記内部空間の長半径をrl[mm](rl≧rs)、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、rl≦0.0103×W−0.00562×P−0.316×rs+0.615×t+1.93の関係をも満足する。
【0019】
好ましい実施形態において、アーク長が2mm以下である。
【0020】
好ましい実施形態において、点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である。
【0021】
好ましい実施形態において、W≧200[ワット]を満足する。
【0022】
好ましい実施形態において、244×rs+111×rl+40.2×t≧4.47×W+138の関係を更に満足する。
【0023】
好ましい実施形態において、前記発光管に結合された2つの側管部を備え、前記2つの側管部の各々は、前記発光管からアーク長方向に平行に延びる柱状部分を有しており、前記柱状部分は、略円筒状の第1のガラス部と、前記第1のガラス部の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部とを有しており、かつ、圧縮応力が印加されている部位を含んでいる。
【0024】
好ましい実施形態において、前記圧縮応力が印加されている部位は、前記第2のガラス部、前記第2のガラス部と前記第1のガラス部との境界部、前記第2ガラス部のうちの前記第1のガラス部側の部分、および、前記第1ガラス部のうちの前記第2ガラス部側の部分のいずれかである。
【0025】
好ましい実施形態において、前記第1のガラス部と前記第2のガラスでとの境界近傍には、両者の応力差に起因する歪みが境界領域が存在している。
【0026】
好ましい実施形態において、前記圧縮応力の少なくとも一部は、前記側管部の長手方向に印加されている。
【0027】
本発明の高圧水銀蒸気放電ランプは、石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、前記発光管の内部空間に対向して設置された2以上の電極とを備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である。
【0028】
本発明のランプユニットは、上記いずれかの高圧水銀蒸気放電ランプと、前記高圧水銀蒸気放電ランプの前記発光管から出た光を反射する反射鏡とを備え、前記発光管の内部空間の長半径方向が地上に対して水平になるようにして点灯される。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、従来と比較して、ランプ電力の高電力化ならびに発光管内動作圧力の高圧力化に最適な設計指針を明示できたことにより、ランプ寿命点灯後初期のうちに発光管膨部の一部が起点となり、左右真二つに割ったように破損する現象を抑制することが可能となり、更に長寿命化も合わせて実現することが可能となった。同時にランプ自体の性能としても高光出力化、高効率化が実現する。このようなランプをプロジェクタに搭載することにより、プロジェクタ性能においてもランプ破損抑制による安全性、ランプ長寿命化による長時間動作信頼性ならびにランプ交換頻度が少なくなることによるメンテナンス費用の低コスト化、加えて高光出力化によるスクリーン照度向上、高効率化による省エネルギー効果など訴求ポイントは数多くなり、その効果は計り知れない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(実施形態1)
図1を参照しながら、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第1の実施形態を説明する。図1は、本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ100の構成を示す断面図である。
【0031】
本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ100は、石英ガラスによって作られた発光管101と、発光管101から延在した2つの側管部106とを備えている。
【0032】
発光管101は、放電スペースとして機能する内部空間を有しており、この内部空間の形状は略楕円体である。発光管101の内部空間には、一対の電極102が突出しており、電極102の先端が所定の距離を置いて対向している。一対の電極102の間でアーク放電が生じ、アーク長は、電極102の先端の間隔によって規定される。なお、発光管101の内部空間には、封入物質として、水銀3、ハロゲン(不図示)、希ガス(不図示)が封入されている。
【0033】
側管部106は、発光管101からアーク長方向(図1における水平横方向)に平行に延びており、発光管101の気密性を保持する「封止部(シール部)」として機能する。側管部106には、電極102の一部と、電極102に溶接された金属箔107と、電極102が溶接されている側の反対の側で金属箔107に溶接された外部リード線108の一部が埋設されている。本実施形態における電極102はタングステンから形成され、金属箔107および外部リード線108はモリブテンから形成されている。
【0034】
発光管101の内部空間に突出している各電極102の先端部分には、熱容量を大きくするためにタングステンコイルが巻かれている。
【0035】
本明細書では、点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、発光管の内部空間の短半径をrs[mm]、発光管の内部空間の長半径をrl[mm](rl≧rs)、発光管の内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]と標記するる。これらのパラメータを種々の大きさに設定した11種類のランプを作製し、ランプ寿命点灯後初期のうちに破損に至ったかどうかを評価した。評価結果を、以下の表1に示す。ランプが破損した場合を「×」、破損しなかった場合を「○」で示している。
【0036】
【表1】
(表1)内の動作圧力P[気圧]は、一般に用いられる次の経験式(式1)で定義している。
【0037】
【式1】
【0038】
(式1)のように定義可能な理由は、次のとおりである。
【0039】
蒸発した水銀蒸気で満たされている発光管内部の微小体積ΔVs[m3]において、理想気体の状態方程式P・ΔVs=Δns・R・Tsが成立する。ここで、Pは圧力[Pa]、Δnsは水銀量[mol]、Rは8.314[J/Mol/K]、Tsは温度[K]である。
【0040】
この式を、P[気圧]、Δns[mg]、ΔVs[cm3]を用いて書き換え、全内容積にわたって積分(ΣΔn≡n)すると、次式が得られる。
【0041】
【式2】
【0042】
このとき、発光管内水銀蒸気が場所に関係なく一定と仮定すれば、
【0043】
【式3】
と表される。
【0044】
発光管内水銀蒸気の温度は場所によって異なるが、発光管内壁に負荷される圧力は各ΔVsの圧力の荷重平均である。このため、ΔVsが均等分割されていると考えれば、各ΔVsにおけるTsの発光管内容積に対する荷重平均値でもって(式3)中のTを代用することは妥当である。一般にプロジェクタなどに用いられる電極間距離1.0〜2.0mmの高圧水銀蒸気放電ランプの発光管内温度分布は放電中央部が6000〜7000K、発光管内壁表面温度が1000〜1500Kである。このことから発光管内の荷重平均温度は2000〜3000Kと推定され、この値を(式3)のTに代入すれば、定数A=0.828〜1.242となり1に近いことから、これが経験式(式1)の妥当性を説明する理由である。
【0045】
(式1)に示した破損評価は点灯後エージング中の6時間以内に破損したものを「×」と示した。「×」印のいずれのランプについて、破損後の残骸を確認した。発光管内表面にあたる石英ガラスに失透や黒化などは生じていない。また、図1の電極封止部104(電極102と発光管101との境界付近)から亀裂が進展した様子もなく、いずれも発光管膨部109の一部が破損の起点となって真っ二つになって破損したことが推察された。
【0046】
これらの評価結果に基づき、我々は、以下のことを見出した。
【0047】
すなわち、従来のようにランプ電力が100[W]クラス、点灯時の動作圧力も200気圧前後であれば、従来からの課題である発光管の失透、黒化、およびそれらに伴うランプ寿命の低下を抑制するようにランプの構造を決定すればよかった。しかし、ランプ電力が200[W]以上に上昇し、点灯時の動作圧力も、これまでにない250気圧以上に高められると、ランプ点灯の初期段階における発光管膨部中央の破損を防止することが重要になってきた。
【0048】
このような新しい課題を解決するためには、増大するランプ点灯時の熱的負荷・圧力負荷に十分耐えうる発光管の機械的強度を確保するための新しいランプ設計の指針が必要である。
【0049】
我々が着目したのは、ランプの水平点灯時における発光管内壁に生じる応力である。ランプ点灯時、発光管内壁には、熱的負荷による応力(熱応力)と水銀蒸気の圧力による応力とが組み合わさった応力が発生している。この熱応力は、発光管内の略中央に位置する放電アーク5が熱源となって生じる。ランプ発光管部の温度分布は、熱源で最大値を示し、この熱源を中心におよそ同心状に石英ガラス外表面に向かって徐々に減少する。石英ガラス外表面では、外気に対する強い輻射放熱が生じるため、石英ガラス内のランプ点灯時における熱応力は、内表面から外表面に向かって、同心状に大きくなっていく。このため、発光管の外表面における熱応力に対して内表面における熱応力は、「圧縮」応力の傾向を示す。
【0050】
一方、圧力による応力は、ランプ点灯時における発光管内部に発生する水銀蒸気圧によって発生する。この応力は、発光管の内表面で最も大きく、外表面に向かって同心状に減少していく。
【0051】
なお、本明細書における「水平点灯」とは、発光管の略楕円体形状の内部空間の長半径方向(=アーク長方向)が、地上に対して略水平になる状態でランプが動作することを意味する。例えばプロジェクタに用いられるランプユニットでは、発光管101からの光を反射する反射鏡と、水平点灯を行うランプとが組み合わせて用いられることがある。高圧水銀蒸気放電ランプの水平点灯は、プロジェクタの光源として用いられる場合に限定されず、照明用のランプとして使用される場合にも行われ得る。
【0052】
図2(a)および(b)は、図1に示す構成を有する高圧水銀蒸気放電ランプにおける発光管に発生する応力の分布の一例を模式的に示す。図2(a)のグラフには、発光管膨部109の肉厚部分に生じている熱応力、圧力による応力、それらの和として最終的に生じる応力が示されている。グラフの横軸は、発光管の内表面aから外表面bに向かう直線上の位置を示し、縦軸は、応力の相対値を示している。正の応力は引張応力、負の応力は圧縮応力を表している。
【0053】
図2からわかるように、熱応力は、内表面aにおいて負の極性を示す(圧縮応力)が、内表面aから離れて外表面bに近づくにつれて熱応力は正の方向に増加する。熱応力の極性は、内表面aと外表面bとの間で「正」に変化し、外表面bの近傍では引張応力になる。これに対して、圧力による応力は、内表面aで最大となり、内表面aから外表面bに向かって低下しているが、内表面aから外表面bまでの全範囲で正の極性を示し、常に引張応力の状態にある。
【0054】
石英ガラスの内部に生じる応力は、上記二つの応力の和である。図2からわかるように、熱応力および圧力による応力の勾配は、発光管の内表面aで最も大きく、極性は反対である。発光管の内表面aに生じる応力は、熱応力の絶対値と圧力による応力の絶対値との差によって規定されるため、これらの応力の変化に極めて敏感である。従って、発光管の形状をどのように設計するかによって、発光管の内表面aに生じる応力は大きく変化し、発光管膨部の割れ易さが決まる。
【0055】
そこで我々は、破損時に亀裂の起点となっていると推測される発光管膨部109における応力値に着目し、ランプ点灯時に発光管内壁表面に生じる応力値を、汎用有限要素法構造解析プログラム(Finite Element Method)を利用して計算した。この計算の手順を以下に述べる。
【0056】
図3は、FEMに用いたモデルの一例を示している。このモデルでは、小さな楕円体の中空を内部に含む相対的に大きな楕円体によって構成される発光管を計算の対象としている。図3には、発光管の8分の1の部分の断面が示されている。
【0057】
FEMに用いた上記モデルの形状を規定するパラメータは、発光管内部短半径rs[mm]、発光管内部長半径rl[mm]、及び、発光管膨部肉厚t[mm]である。ここで、rs≦rlの関係を与えている。
【0058】
図1に示す電極102は、モデルに含めず省略している。破損時の様子からみて、図1の電極封止部104が亀裂の起点になっていないため、応力の計算上、無視できると判断したためである。このため、放電容器である発光管部のみの応力分布が発光管形状にどのような相関関係を持つのかを明確にするモデルを採用した。
【0059】
実際のランプは、図1に示すように、側管部106(図1参照)を有している。この側管部106の形状がランプ各部温度分布や応力分布に影響を与えることも考えられる。S.Nakaoらの文献(S.Nakao他:IDW'00予稿集LAD2−4)によれば、側管部106の形状がやや複雑な場合に、当該部分に集中する応力が側管部106の形状に依存する。このことは、側管部106がランプ破損の亀裂の起点になることを想定しており、上記文献に記載されている破損は、本発明の課題である発光管膨部の破損とは異なる現象である。本発明は、側管部106における破損の問題を解決したランプにおいて特に重要な効果をもたらす。
【0060】
我々が行った上記計算における設定条件を更に述べる。この計算は、モデル作成後、まず石英ガラス内に発生する温度分布を計算した。そして、その結果を用いて、応力分布を計算した。これは、熱−構造練成解析の通常の手順に従っている。
【0061】
最初の温度分布の計算に用いた設定条件は、次の通りである。すなわち、ランプ点灯時に、投入したエネルギのうち、熱エネルギーとして消費される部分を、発光管の内壁全表面に一様に分配した。ランプ点灯時に熱エネルギーとして消費される割合は、全消費エネルギー(=ランプ電力)の30%とした(ELENBAAS:「THE HIGH PRESSURE MERCURY VAPOUR DISCHARGE」、NORTH-HOLLAND PUBLISHING COMPANY、1951)。
【0062】
発光管の内表面および外表面では、輻射放熱を考慮し、モデルの最外郭には空気領域を設けた。ただし、空気領域における対流は無視した。
【0063】
実際のランプでは、発光管内部に対流を生じる水銀蒸気領域が存在するが、ランプ点灯時の熱エネルギーがランプ電力の30%という値を採用することによって、水銀蒸気領域を設定する必要はなくなる。よって、本モデルでは、水銀蒸気領域は設定していない。
【0064】
石英ガラスの密度は2200[kg/m3]、比熱は1152.55[J/kgK]、熱伝導率は1.7[W/mK]とした。
【0065】
応力分布の計算を行うための設定条件は、次の通りである。すなわち、モデル各部の温度が室温(18℃)から上昇することによって発生する熱応力と、発光管の内壁表面に対して一様に及ぶ動作圧力とに基づいて計算した。温度の上昇は、先に計算で得られた温度分布に基づいて決定した。応力の計算に必要な、物理的なパラメータについては、石英ガラスのヤング率を73100[N/mm2]、ポアソン比を0.17、線膨張係数を5.6×10-7に設定した。
【0066】
ランプ電力Wは150、200、300[W]の3条件、動作圧力Pは250、350、450[気圧]の3条件、発光管内部短半径rsは1.5、2.5、3.5[mm]の3条件、発光管内部長半径rlは1.5、2.5、3.5、4.5、5.5、6.5[mm]の中からrs≦rlを満たす最小値から順に4条件、発光管膨部肉厚tは2、4[mm]の2条件で行った。rs=rlとなる中空真円球の場合も含め、計216通りの条件について計算を行った。
【0067】
図4は、計算結果の一例を示すグラフである。図4に示す計算結果は、ランプ電力W=200[W]、動作圧力P=350[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、発光管内部長半径rl=1.5、2.5、3.5、4.5[mm]、肉厚t=2[mm]とした場合に得られたものである。
【0068】
図4のグラフの横軸は、「肉厚位置[mm]」を示している。この肉厚位置は、図3のモデルの原点座標をゼロとし、発光管膨部の内表面から外表面にむかう直線上における原点からの距離(位置)を表している。グラフの縦軸は、ランプ点灯時の応力[N/mm2](熱応力と圧力による応力の和)を表している。ここで、応力の正値は引張応力を表し、負値は圧縮応力を表す。
【0069】
図4からわかるように、ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚tが同じ場合であっても、発光管内部長半径rlが異なると、応力分布が異なる。応力の値の発光管内部長半径rlへの依存度は、発光管の内表面で最も強い。
【0070】
図4に結果を示した条件以外の条件においても、図4に示す傾向と同様の傾向が観察された。図5のグラフは、ランプ電力W=150[W]、動作圧力P=450[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、発光管内部長半径rl=1.5、2.5、3.5、4.5[mm]、肉厚t=4[mm]の場合に得られた計算結果を示している。図5に示される応力分布についても、図4に示される応力分布と同様の傾向が観察される。
【0071】
図6は、図4のデータに基づいて作成したグラフであり、発光管の内表面(肉厚位置:1.5mm)における応力のrl依存性を示している。図6のグラフ中の実線は、回帰曲線を示しているため、ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚tを固定したとき、所望の発光管の内表面における応力を所望の大きさにするために必要な発光管内部長半径rlが求められる。すべての計算結果ついても、同様の整理を行った。
【0072】
(表1)に示すランプ1〜10についても、各パラメータ(ランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管内部長半径rl、発光管膨部肉厚t)をもとに、FEMプログラムを用いて、発光管の内表面における応力値を計算した。計算結果と、そのときの破損評価結果を並べて(表2)に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2から、発光管膨部の内表面に生じる応力が、5[N/mm2]前後で破損が生じる。言い換えると、発光管膨部の内表面に生じる応力を5[N/mm2]以下に抑えられれば、破損を防止できる可能性が高まる。
【0075】
そこで、先に行った全ての計算結果を用い、発光管膨部内表面に生じる応力が5[N/mm2]以下となるための重回帰式を求めた。ここで、rlを目的変数として、W、P、rs、tを説明変数とした。
【0076】
例えば、図6のグラフに示すランプの場合、発光管膨部内表面に生じる応力が5[N/mm2]となるrlは、回帰曲線より、2.46[mm]であることがわかる。これは、図4のグラフについて説明したとおり、W=200[W]、動作圧力P=350[気圧]、発光管内部短半径rs=1.5[mm]、肉厚t=2[mm]の時のランプに関する値である。このようなセットを全て抽出し、重回帰分析を行えばよい。
【0077】
発光管膨部内表面に生じる応力が引張応力5[N/mm2]以下となるための重回帰式として、(式4)が得られた。
【0078】
【式4】
【0079】
重回帰分析の重相関係数は0.90であった。つまり、FEM計算によって得られた実績値は、(式4)において計算される理論値によって十分な精度で表現されることが明らかとなった。
【0080】
なお、本発明では、ランプ電力W≧150[ワット]、動作圧力ガラス肉厚P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、(式4)を満足するように高圧水銀蒸気放電ランプを設計する。
【0081】
(式4)を満たすランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚t、発光管内部長半径rlの組み合わせとすることにより、ランプ電力Wの増加および動作圧力Pの上昇に対し、ランプ寿命点灯後初期のうちに発光管膨部の一部が起点となり、左右真二つに割ったように破損する現象を抑制することが可能となるわけであるが、ランプ実用面からすると、ランプ長寿命化も合わせて実現する必要がある。
【0082】
そこで、(表1)に示す11種類のランプについて、寿命試験を行った。点灯のべ時間1000時間までの点滅点灯試験において、点灯試験中に発生する石英ガラス発光管の破損、極端な変形の状態を目視にて評価した。評価結果を(表3)に示す。また、各ランプについて、前述したFEM計算を行った際に得られた温度分布に基づいて、発光管膨部内表面の温度(水平点灯の場合において、上側部に相当)を算出した。この結果も表3に示している。
【0083】
【表3】
【0084】
ここで寿命評価の判断基準は、「○」は、わずかな変形のみ、「×」は、極端な変形を生じて破損に至ったもの、「△」は、変形は生じたが破損しなかったものである。
【0085】
ここでの前述したFEM計算を行った際にあらかじめ得た温度分布の結果から、発光管膨部内表面の温度を算出した方法について述べる。前述した計216種類の各温度分布計算結果から発光管膨部内表面の温度Tを抽出し、目的変数を温度T、説明変数をW、rs、rl、tとして先と同様重回帰分析により重回帰式を求めた。前述したように結果としての熱エネルギーを発光管内部表面に直接設定しているので、温度Tは水銀蒸気の動作圧力Pには依存しない。得られた重回帰式は(式5)となった。
【0086】
【式5】
【0087】
重回帰分析の重相関係数は0.96であった。(式5)を用いて得た(表3)の結果をみると、寿命評価が「○」となるか否かは発光管膨部内表面温度1650℃前後が、寿命特性を左右する閾値であることが推察される。1650℃という数字は一般に言われる石英ガラスの軟化点温度に近い。通常ならランプは早期に変形を生じると考えられるが、同時に内部最表面に生じる圧縮応力が変形を抑制する方向に働いていると考えられる(ランプNo.8、11)。
【0088】
そこで、(式4)に示した各パラメータの組み合わせに加えて、膨部内表面温度は1650℃以下が望ましいという観点から、(式5)から以下の(式6)を得た。
【0089】
【式6】
【0090】
この(式6)を更に変形して以下の(式7)を得た。
【0091】
【式7】
【0092】
(式4)および(式7)を同時に満足するようにランプ電力W、動作圧力P、発光管内部短半径rs、発光管膨部肉厚t、発光管内部長半径rlを適切に設定することにより、ランプ電力Wが増加し、動作圧力Pが高くなっても、ランプ寿命点灯後初期に発光管膨部の一部が起点となって左右真二つに割れる現象をより確実に抑制でき、長寿命化の実現が容易になる。
【0093】
発光管膨部の内壁表面における引張応力を5[N/mm2]以下することは、ランプ電力Wが低く、かつ動作圧力Pが低い条件のもとでは比較的簡単に実現できる。逆に、動作圧力Wが高くなると(150ワット以上、更には200ワット以上)、発光管膨部の内表面に生じる圧力による応力(図2参照)が増大し、発光管膨部の内壁表面における引張応力を5[N/mm2]以下にすることが非常に困難になる。
【0094】
一方、内表面における熱応力の最小値と外表面における熱応力の最大値の差は、両表面間の温度差によって決定される。ランプにおいて同じ熱エネルギーをもってこの温度差を付けようとするならば、肉厚を厚くすればよい。低動作圧力の場合は発光管膨部内表面の圧力による応力(引張応力)が小さいため、発光管強度を維持するための圧縮方向の熱応力の必要性も少なく、したがって肉厚tを厚くする必要も少ない。加えてランプ電力Wが低いと、熱として消費されるエネルギー量も少ないため、発光管内表面が軟化点温度に近くなることもほとんどなく、形状設計における自由度は多い。それに比較して、ランプ電力Wが150ワット以上、動作圧力Pが250気圧以上になると、増大する発光管膨部内表面の圧力による応力(引張応力)を緩和するために、熱応力によってバランスをとる必要がある。しかし、発光管の肉厚tが5mmを超えて厚くなることは、ランプの小型軽量化を阻み、また、ガラスの光透過率を低下させることになるため、好ましくない。
【0095】
このように、高圧水銀蒸気放電ランプのランプ電力Wおよび動作圧力Pが増加すると、設計の自由度が少なくなり、安全で長寿命なランプを提供することが困難になるため、今後益々、本発明の効果が重要になってくる。
【0096】
なお、上記計算結果および実験結果は、ランプ電力Wが150[W]以上の場合に得られたものであるが、ランプ電力Wが200[W]以上の場合に、本発明は更に有益な効果をもたらす。また、動作圧力Pが250気圧以上である場合は、発光管と側管部との境界部での亀裂も生じやすくなる。このような亀裂を抑制するためには、以下に説明する実施形態2の構成を採用することが好ましい。本発明は、実施形態2に示すような構成を採用することにより、膨部中央での破損が最も重要な問題になる場合に特に有益な効果をもたらすといえる。
【0097】
(実施形態2)
次に、図8から図10を参照しながら、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第2の実施形態を説明する。
【0098】
本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプは、実施形態1について説明した設計手法で設計された構造を有するとともに、これに加えて、発光管と側管部との境界部分での割れを抑制する構造を備えている。
【0099】
図8(a)および(b)は、本実施形態の高圧水銀蒸気放電ランプ200の構成を模式的に示している。本実施形態のランプ200は、発光物質6が封入される発光管1と、発光管1から延在した側管部2とを備えている。図8(a)は、ランプ200の全体構成を模式的に示しており、図8(b)は、図8(a)中の線b−b線における発光管101側から見た側管部2の断面構成を模式的に示している。
【0100】
ランプ200の側管部2は、発光管1の内部10の気密性を保持する「封止部」として機能する。ランプ200は、2つの側管部2を備えたダブルエンド型のランプである。
【0101】
本実施形態における側管部2は、発光管1から延在した略円筒状の第1のガラス部8と、第1のガラス部8の内側(中心側)の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7とを有している。また、側管部2は、圧縮応力が印加されている部位7を有しており、本実施形態において、圧縮応力が印加されている部位は、第2のガラス部7に相当する部分である。側管部2の断面形状は、図8(b)に示すように、略円形であり、側管部2内に、ランプ電力を供給するための金属部4が設けられている。この金属部4の一部は、第2のガラス部7と接しており、本実施形態では、第2のガラス7の中心部に金属部4が位置している。第2のガラス7は、側管部2の中心部に位置しており、第2のガラス部7の外周は、第1のガラス部8によって覆われている。
【0102】
本実施形態のランプ200に対して、光弾性効果を利用した鋭敏色板法による歪み測定を実行して、側管部2を観察すると、第2のガラス部7に相当する部分に圧縮応力が存在していることが確認される。鋭敏色板法による歪み測定では、ランプ200の形状を維持したまま、側管部2を輪切り状にした断面内の歪み(応力)の観測を行うことができないのであるが、第2のガラス部7に相当する部分に圧縮応力が観測されたということは、第2のガラス部7の全体または大半に圧縮応力が印加されている場合の他、第2のガラス部7と第1ガラス部8との境界部に圧縮応力が印加されている場合、第2ガラス部7のうちの第1のガラス部8側の部分、または、第1ガラス部8のうちの第2のガラス部7側の部分に圧縮応力が印加されている場合のいずれか又はそれらが複合した形で、側管部2の一部に圧縮応力が印加されているということになる。また、この測定では、側管部2の長手方向に圧縮する応力(または歪み)は積分値で観測される。
【0103】
側管部2における第1のガラス部8は、SiO2を99重量%以上含むものであり、例えば、石英ガラスから構成されている。一方、第2のガラス部7は、15重量%以下のAl2O3および4重量%以下のBのうちの少なくとも一方と、SiO2とを含むものであり、例えば、バイコールガラスから構成されている。SiO2にAl2O3やBを添加すると、ガラスの軟化点は下げるため、第2のガラス部7の軟化点は、第1のガラス部8の軟化点温度よりも低い。なお、バイコールガラス(Vycor glas:商品名)とは、石英ガラスに添加物を混入させて軟化点を下げて、石英ガラスよりも加工性を向上させたガラスであり、例えば、ホウケイ酸ガラスを熱・化学処理して、石英の特性に近づけることによって作製することができる。バイコールガラスの組成は、例えば、シリカ(SiO2)96.5重量%、アルミナ(Al2O3)0.5重量%、ホウ素(B)3重量%である。本実施形態では、バイコールガラス製のガラス管から、第2のガラス部7は形成されている。なお、バイコール製のガラス管の代わりに、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラス管を用いても良い。
【0104】
側管部2の一部に印加されている圧縮応力は、実質的にゼロ(すなわち、0kgf/cm2)を超えたものであればよい。なお、この圧縮応力は、ランプが点灯していない状態のものである。この圧縮応力の存在により、従来の構造よりも耐圧強度を向上させることができる。この圧縮応力は、約10kgf/cm2以上(約9.8×105N/m2以上)であることが好ましい。そして、約50kgf/cm2以下(約4.9×106N/m2以下)であることが好ましい。10kgf/cm2未満であると、圧縮歪みが弱く、ランプの耐圧強度を十分に上げられない場合が生じ得るからである。そして、50kgf/cm2を超えるような構成にするには、それを実現させるのに、実用的なガラス材料が存在しないからである。ただし、10kgf/cm2未満であっても、実質的に0の値を超えれば、従来の構造よりも耐圧を上げることができ、また、50kgf/cm2を超えるような構成を実現できる実用的な材料が開発されたならば、50kg/cm2を超える圧縮応力を第2のガラス部7が有していてもよい。
【0105】
ランプ200を歪検査器で観測した結果から推測すると、第1のガラス部8と第2のガラス部7との間の境界周辺には、両者の圧縮応力の差によって生じた歪み境界領域20が存在していると思われる。このことは、圧縮応力は、専ら、第2のガラス部7(または、第2のガラス部7の外周近傍領域)に存在しており、第1のガラス部8全体には、第2のガラス部7の圧縮応力がそれほど(または、ほとんど)伝わってないことを意味していると考えられる。両者(8、7)の圧縮応力の差は、例えば、約10kgf/cm2から約50kgf/cm2の範囲内となり得る。
【0106】
ランプ200の発光管1は、略球形をしており、第1のガラス部8と同様に、石英ガラスから構成されている。なお、長寿命などの優れた特性を発揮する高圧水銀ランプ(特に、超高圧水銀ランプ)を実現する上では、発光管1を構成する石英ガラスとして、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、1ppm以下)高純度の石英ガラスを用いることが好ましい。なお、勿論、通常のアルカリ金属不純物レベルの石英ガラスを用いることも可能である。発光管1の外径は例えば5mm〜20mm程度であり、発光管1のガラス厚は例えば1mm〜5mm程度である。発光管1内の放電空間(10)の容積は、例えば0.01〜1cc程度(0.01〜1cm3)である。本実施形態では、外径9mm程度、内径4mm程度、放電空間の容量0.06cc程度の発光管1が用いられる。
【0107】
発光管1内には、一対の電極棒(電極)3が互いに対向して配置されている。電極棒3の先端は、0.2〜5mm程度(例えば、0.6〜1.0mm)の間隔(アーク長)Dで、発光管1内に配置されており、電極棒3のそれぞれは、タングステン(W)から構成されている。電極棒3の先端には、ランプ動作時における電極先端温度を低下させることを目的として、コイル12が巻かれている。本実施形態では、コイル12として、タングステン製のコイルを用いているが、トリウム−タングステン製のコイルを用いてもよい。また、電極棒3も、タングステン棒だけでなく、トリウム−タングステンから構成された棒を使用してもよい。
【0108】
発光管1内には、発光物質として、水銀6が封入されている。超高圧水銀ランプとしてランプ200を動作させる場合、水銀6は、例えば、200mg/cc程度またはそれ以上(220mg/cc以上または230mg/cc以上、あるいは250mg/cc以上)、好ましくは、300mg/cc程度またはそれ以上(例えば、300mg/cc〜500mg/cc)の水銀と、5〜30kPaの希ガス(例えば、アルゴン)と、必要に応じて、少量のハロゲンとが発光管1内に封入されている。
【0109】
発光管1内に封入されるハロゲンは、ランプ動作中に電極棒3から蒸発したW(タングステン)を再び電極棒3に戻すハロゲンサイクルの役割を担っており、例えば、臭素である。封入するハロゲンは、単体の形態だけでなく、ハロゲン前駆体の形態(化合物の形態)のものでもよく、本実施形態では、ハロゲンをCH2Br2の形態で発光管10内に導入している。また、本実施形態におけるCH2Br2の封入量は、0.0017〜0.17mg/cc程度であり、これは、ランプ動作時のハロゲン原子密度に換算すると、0.01〜1μmol/cc程度に相当する。なお、ランプ200の耐圧強度(動作圧力)は、20MPa以上(例えば、30〜50MPa程度、またはそれ以上)にすることができる。また、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上であり、特に上限は設定されない。例示的に示すと、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上から、300W/cm2程度の範囲(好ましくは、80〜200W/cm2程度)のランプを実現することができる。冷却手段を設ければ、300W/cm2程度以上の管壁負荷を達成することも可能である。なお、定格電力は、例えば、150W(その場合の管壁負荷は、約130W/cm2に相当)である。
【0110】
放電空間10内に一端が位置する電極棒3は、側管部2内に設けられた金属箔4に溶接により接続されており、金属箔4の少なくとも一部は、第2のガラス部7内に位置している。図8に示した構成では、電極棒3と金属箔4との接続部を含む箇所を、第2のガラス部7が覆うような構成にしている。図8に示した構成における第2のガラス部7の寸法を例示すると、側管部2の長手方向の長さで、約2〜20mm(例えば、3mm、5mm、7mm)であり、第1のガラス部8と金属箔4との間に挟まっている第2のガラス部7の厚さは、約0.01〜2mm(例えば、0.1mm)である。第2のガラス部7の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離Hは、約0mm〜約6mm(例えば、0mm〜約3mm、または、1mm〜6mm)である。第2のガラス部7を放電空間10内に露出させたくない場合には、距離Hは0mmよりも大きくなり、例えば、1mm以上となる。そして、金属箔4の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離B(言い換えると、電極棒3だけで側管部2内に埋まっている長さ)は、例えば、約3mmである。
【0111】
上述したように、側管部2の断面形状は、略円形であり、その略中央部に金属箔4が設けられている。金属箔4は、例えば、矩形のモリブデン箔(Mo箔)であり、金属箔4の幅(短辺側の長さ)は、例えば、1.0mm〜2.5mm程度(好ましくは、1.0mm〜1.5mm程度)である。金属箔4の厚さは、例えば、15μm〜30μm程度(好ましくは、15μm〜20μm程度)である。厚さと幅との比は、だいたい1:100程度になっている。また、金属箔4の長さ(長辺側の長さ)は、例えば、5mm〜50mm程度である。
【0112】
電極棒3が位置する側と反対側には、外部リード5が溶接により設けられている。金属箔4のうち、電極棒3が接続された側と反対側には、外部リード5が接続されており、外部リード5の一端は、側管部2の外まで延びている。外部リード5を点灯回路(不図示)に電気的に接続することにより、点灯回路と、一対の電極棒3とが電気的に接続されることになる。側管部2は、封止部のガラス部(7、8)と金属箔4とを圧着させて、発光管1内の放電空間10の気密を保持する役割を果たしている。側管部2によるシール機構を以下に簡単に説明する。
【0113】
側管部2のガラス部を構成する材料と、金属箔4を構成するモリブデンとは互いに熱膨張係数が異なるので、熱膨張係数の観点からみると、両者は、一体化された状態にはならない。ただし、本構成(箔封止)の場合、封止部のガラス部からの圧力により、金属箔4が塑性変形を起こして、両者の間に生じる隙間を埋めることができる。それによって、側管部2のガラス部と金属箔4とを互いに圧着させた状態にすることができ、側管部2で発光管1内のシールを行うことができる。すなわち、側管部2のガラス部と金属箔4との圧着による箔封止によって、側管部2のシールは行われている。本実施形態では、圧縮歪みのある第2のガラス部7が設けられているので、このシール構造の信頼性が向上されている。
【0114】
次に、側管部2における圧縮歪みについて説明する。図9(a)および(b)は、側管部2の長手方向(電極軸方向)に沿った圧縮歪みの分布を模式的に示しており、図9(a)は、第2のガラス部7が設けられたランプ200の構成の場合、一方、図9(b)は、第2のガラス部7の無いランプ200’の構成(参考例)の場合を示している。
【0115】
図9(a)に示した側管部2のうち、第2のガラス部7に相当する領域(網掛け領域)に圧縮応力(圧縮歪み)が存在し、第1のガラス部8の箇所(斜線領域)における圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。一方、図9(b)に示すように、第2のガラス部7の無い側管部2の場合、局所的に圧縮歪みが存在している箇所はなく、第1のガラス部8の圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。
【0116】
本願発明者は、実際にランプ200の歪みを定量的に測定し、側管部2のうち第2のガラス部7に圧縮応力が存在することを観測した。この歪みの定量化は、光弾性効果を利用した鋭敏色板法を用いて行うことができる。この手法によると、歪み(応力)のある箇所の色が変化して見え、その色を歪み標準器と比較して歪みの大きさを定量化することができる。つまり、測定したい歪みの色と同色の光路差を読みとることで、応力を算出することができる。歪みの定量化のために使用した測定器は、歪検査器(東芝製:SVP−200)であり、この歪検査器を用いると、側管部2の圧縮歪みの大きさを、側管部2に印加されている応力の平均値として求めることができる。
【0117】
本願発明者は、側管部2における光の透過距離L、すなわち、側管部2の外径Lを測定し、そして、歪み標準器を用いて、測定時の側管部2の色から光路差Rを読みとった。また、光弾性常数Cは、石英ガラスの光弾性常数3.5を使用した。これらを上記式に代入し、算出された応力値の結果を図10の棒グラフに示す。
【0118】
図10に示すように、応力が0[kgf/cm2]であったランプ本数は、0本であり、10.2[kgf/cm2]であったランプ本数は、43本であり、20.4[kgf/cm2]であったランプ本数は、17本であり、そして、35.7[kgf/cm2]であったランプ本数は、0本であった。
【0119】
一方、参考例のランプ200’の場合、測定した全てのランプについて、応力は、0[kgf/cm2]であった。なお、測定原理上、側管部2に印加されている応力の平均値から、側管部2の圧縮応力を算定したが、第2のガラス部7を設けることで側管部2の一部に圧縮応力が印加された状態になることは、図10の結果より容易に結論付けることができる。なぜならば、参考例のランプ200’については、側管部2に圧縮応力は存在しなかったからである。また、図10は、離散的な応力値を示しているが、これは、歪み標準器から読み取る光路差が離散的なものであることに起因している。従って、応力値が離散的なのは、鋭敏色板法による歪み測定の原理によるものである。実際には、例えば、10.2[kgf/cm2]と20.4[kgf/cm2]との間の値を示す応力値も存在するものと思われるが、第2のガラス部7もしくは第2のガラス部7の外周周辺領域に、所定量の圧縮応力が存在していることにはかわりない。
【0120】
なお、本測定では、側管部2の長手方向(電極軸3が延びる方向)についての応力を観察したが、このことは、他の方向において圧縮応力が存在していないことを意味するものではない。側管部2の径方向(中心−外周方向)、または、側管部2の周方向(例えば、時計周り方向)について圧縮応力が存在しているかどうかを測定するには、発光管1や側管部2を切断する必要があるのであるが、そのような切断を行ったとたん、第2のガラス部7の圧縮応力が緩和されてしまう。従って、ランプ200に対して切断を行わない状態で測定できるのは、側管部2の長手方向についての圧縮応力であるため、本願発明者は、少なくとも、その方向での圧縮応力を定量化したのである。
【0121】
本実施形態のランプ200では、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7に圧縮歪み(少なくとも長手方向への圧縮歪み)が存在しているので、高圧放電ランプの耐圧強度を向上させることができる。言い換えると、図8および図9(a)に示した本実施形態のランプ200の方が、図9(b)に示した参考例のランプ200’よりも、耐圧強度を高くすることができる。図8に示した本実施形態のランプ200は、従来の最高レベルの動作圧である20MPa程度を超える、30MPa以上の動作圧で動作させることが可能である。
【0122】
(実施形態3)
次に、図11を参照しながら、本発明によるランプユニットの実施形態を説明する。本実施形態では、前述のランプ100および200が、反射鏡と組み合わせられ、ミラー付きランプまたはランプユニットを構成している。
【0123】
図11は、本発明の実施形態であるランプ200を備えたミラー付きランプ900の断面を模式的に示している。ミラー付ランプ900は、略球形の発光管1と一対の側管部2とを有するランプ200と、ランプ200から発せられた光を反射する反射鏡60とを備えている。なお、ランプ200は、例示であり、ランプ100であってもよい。また、ミラー付ランプ900は、反射鏡60を保持するランプハウスを更に備えていてもよい。ここで、ランプハウスを備えた構成のものは、ランプユニットに包含されるものである。
【0124】
反射鏡60は、例えば、平行光束、所定の微小領域に収束する集光光束、または、所定の微小領域から発散したのと同等の発散光束になるようにランプ100からの放射光を反射するように構成されている。反射鏡60としては、例えば、放物面鏡や楕円面鏡を用いることができる。
【0125】
本実施形態では、ランプ200の一方の側管部2に口金56が取り付けられており、当該側管部2から延びた外部リード5と口金56とは電気的に接続されている。側管部2と反射鏡60とは、例えば無機系接着剤(例えばセメントなど)で固着されて一体化されている。反射鏡60の前面開口部側に位置する側管部2の外部リード5には、引き出しリード線65が電気的に接続されており、引き出しリード線65は、リード線5から、反射鏡60のリード線用開口部62を通して反射鏡60の外にまで延ばされている。反射鏡60の前面開口部には、例えば前面ガラスを取り付けることができる。
【0126】
このようなミラー付ランプまたはランプユニットは、例えば、液晶やDMD(Digital Micromiror Device)を用いたプロジェクタのような画像投影装置に取り付けることができ、画像投影装置用光源として使用される。また、このようなミラー付ランプまたはランプユニットと、画像表示素子(DMDパネルや液晶パネルなど)を含む光学系とを組み合わせることにより、画像投影装置を構成することができる。例えば、DMDを用いたプロジェクタ(デジタルライトプロセッシング(DLP)プロジェクタ)や、LCOS(LiquidCrystal on Silicon)構造を採用した反射型のプロジェクタを提供することができる。更に、本実施形態のランプおよびランプユニットは、画像投影装置用光源の他に、紫外線ステッパ用光源、または競技スタジアム用光源や自動車のヘッドライト用光源、道路標識を照らす投光器用光源などとしても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】 本発明の実施形態1における高圧水銀蒸気放電ランプの図である。
【図2】 (a)は、実施形態1における発光管膨部石英ガラス内に発生する一般的な応力のグラフ、(b)は「位置」を示す図である。
【図3】 本発明の実施形態1におけるFEMモデルの図である。
【図4】 本発明の実施形態1におけるFEM計算結果の一例を示した図である。
【図5】 本発明の実施形態1におけるFEM計算結果の一例を示した図である。
【図6】 図4における発光管内部最表面の応力と発光管内部長半径との関係を示す図である。
【図7】 発光管膨部から真っ二つに割れた従来の高圧水銀蒸気放電ランプを示す図である。
【図8】 (a)は、本発明による高圧水銀蒸気放電ランプの第2の実施形態の全体構成を模式的に示す断面図である、(b)は、(a)中の線b−b線における発光管101側から見た側管部2の断面構成を模式的に示す図である。
【図9】 (a)は、本発明の第2実施形態における第2のガラス部7が設けられたランプ200の構成を示す断面図であり、(b)は、第2のガラス部7の無いランプ200’の構成を示す断面図である。
【図10】 本発明のランプについて求めた応力値の結果を示す棒グラフである。
【図11】 本発明によるランプユニットの実施形態を示す断面図である。
Claims (11)
- 石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、
前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、
前記発光管の内部空間に対向して配置された2以上の電極と、
を備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、
点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間の短半径をrs[mm]、前記内部空間の長半径をrl[mm](rl≧rs)、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、
W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、rl≦0.0103×W−0.00562×P−0.316×rs+0.615×t+1.93の関係をも満足する高圧水銀蒸気放電ランプ。 - アーク長が2mm以下である請求項1に記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。
- 点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である請求項1または2に記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。
- W≧200[ワット]を満足する請求項1から3のいすれかに記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。
- 244×rs+111×rl+40.2×t≧4.47×W+138の関係を更に満足する請求項1から4のいずれかに記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。
- 前記発光管に結合された2つの側管部を備え、
前記2つの側管部の各々は、前記発光管からアーク長方向に平行に延びる柱状部分を有しており、
前記柱状部分は、略円筒状の第1のガラス部と、前記第1のガラス部の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部とを有しており、かつ、圧縮応力が印加されている部位を含んでいる、請求項1から5のいずれかに記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。 - 前記圧縮応力が印加されている部位は、
前記第2のガラス部、
前記第2のガラス部と前記第1のガラス部との境界部、
前記第2ガラス部のうちの前記第1のガラス部側の部分、および、
前記第1ガラス部のうちの前記第2ガラス部側の部分のいずれかである、請求項請求項6に記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。 - 前記第1のガラス部と前記第2のガラスでとの境界近傍には、両者の応力差に起因する歪みが境界領域に存在している、請求項6または7に記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。
- 前記圧縮応力の少なくとも一部は、前記側管部の長手方向に印加されている請求項6から8のいずれかに記載の高圧水銀蒸気放電ランプ。
- 石英ガラスから形成され、略楕円体状の内部空間を有する発光管と、
前記発光管の内部空間に封入された少なくとも水銀及び希ガスを含むガスと、
前記発光管の内部空間に対向して設置された2以上の電極と、
を備えた高圧水銀蒸気放電ランプであって、
点灯動作時におけるランプ電力をW[ワット]、前記発光管の内部空間における動作圧力をP[気圧]、前記内部空間を規定する膨部の肉厚をt[mm]としたとき、
W≧150[ワット]、P≧250[気圧]、及びt≦5[mm]の関係を満足するとともに、点灯動作時における前記発光管の膨部内壁表面における引張応力が5[N/mm2]以下である高圧水銀蒸気放電ランプ。 - 請求項1から10までのいずれかに記載の高圧水銀蒸気放電ランプと、
前記高圧水銀蒸気放電ランプの前記発光管から出た光を反射する反射鏡と、
を備え、
前記発光管の内部空間の長半径方向が地上に対して水平になるようにして点灯されるランプユニット。
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