JPWO2003081243A1 - 蛍光偏光法、それに用いるキット、およびバイオセンサ - Google Patents
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Abstract
本発明の蛍光偏光法は、被検物質を測定する蛍光偏光法であって、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された第1固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(a)と、上記被検物質に、上記蛍光標識物質と上記結合物質とを接触させる工程(b)と、上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する工程(c)とを含む。
Description
技術分野
本発明は、試料中の被検物質を分析する方法に関する。
背景技術
免疫測定法は、抗原抗体反応を利用した測定を行なう方法である。これまでに、様々な測定原理に基づく免疫測定法が報告されている。例えば、酵素免疫測定法、蛍光測定法、発光測定法などの免疫複合体と未反応物質との分離(BF分離:BFは、Binding/Freeの略)を必要とする測定法、比濁法、比ろう法、ラテックス凝集法などのBF分離を必要としない測定法がある。いずれの測定法も、抗原抗体反応を光学的に検出する測定法である。
免疫測定法のうち、酵素免疫測定法、蛍光測定法、発光測定法のようなBF分離を必要とするものは、抗原抗体反応に関与していないフリーの抗原および抗体を除去するために洗浄操作が必要となる。また、この洗浄操作を装置のシステムに組み入れ、自動化することにより、操作性を向上させることができるが、装置が高価になる。
免疫測定法のうち、比濁法、比ろう法、ラテックス凝集法のようなBF分離を必要としないものは、上記のBF分離を必要とする測定法に比べて操作性は比較的良い。しかし、抗原抗体反応による生成する抗原抗体からなる複合体を、散乱光または透過光で検出するため、高い感度を要する測定項目には不向きである。
近年においては、抗原抗体反応を蛍光偏光を利用して検出する免疫測定法(以下、蛍光偏光法と称する)が注目されている。蛍光偏光法は、BF分離を必要としないため洗浄操作がいらない。また、基本的には蛍光を測定するため、感度も良い。このように、上記の測定法に比べて利点がある。
蛍光偏光(蛍光偏光解消とも呼ばれる)と称される現象は、1950年以後に生体高分子に適用するための研究が開始され、そして1970年代後半から本格的に生化学あるいは生物学などの分野の広範囲に亘る応用研究が行なわれている。
蛍光偏光を測定するための専用の測定装置(以下、蛍光偏光測定装置と称する)は、簡単に述べると、従来の蛍光光度計と同様の構成に加えて、さらに偏光板が2枚追加された装置である。蛍光偏光測定装置は、検出部のセルとして、通常の蛍光測定と同じく四面透明石英製セルが用いられる。可視部領域での測定においてはガラス製のセルを用い得る。
蛍光偏光測定装置では、光源から発せられる光線からフィルターあるいはグレイティングプリズムによってモノクロ波(単色光)を得て、それを偏光子により偏光して励起光を得る。この偏光子を通過した励起光をセルに当てると溶液中の蛍光色素をもつ分子のみがその励起光を吸収する。蛍光偏光測定装置において、蛍光色素の特性蛍光緩和時間内に発する蛍光の垂直成分と平行成分が検出されると、Perrinの式により蛍光偏光度が算出される。蛍光偏光度の値は、原理的に、分子の大小に依存する分子の回転運動の速度の差に依存する。このため、蛍光の検出を阻害する不純物などの影響があったとしても、蛍光強度の数値は直接的に抗原濃度によるものではない。従って、全く蛍光が検出されない状況以外では、試料を前処理することなく測定でき、さらにBF分離の必要性もない。以上のことからわかるように、蛍光偏光法は簡易な免疫測定法である。
これまで、蛍光偏光を利用した免疫測定技術としては、特開平11−813332号公報に記載の方法がある。これらの方法では、被検物質に結合する、蛍光色素で標識した抗体を用いる。一般に、臨床検査では、上記のように様々な免疫測定法が利用されている。
解決課題
しかしながら、上記従来の蛍光偏光法は、抗原抗体反応の前後における分子量の変化量を算出する方法であるため、抗原抗体反応の前後における分子量変化が小さい場合、または蛍光色素の蛍光緩和時間が短すぎるあるいは長すぎる場合に、高感度で測定することが困難である。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり高感度で測定することができる蛍光偏光法、それに用いるキット、およびバイオセンサを提供する。
発明の開示
本発明の蛍光偏光法は、被検物質を測定する蛍光偏光法であって、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された第1固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(a)と、上記被検物質に、上記蛍光標識物質と上記結合物質とを接触させる工程(b)と、上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する工程(c)とを含む。
上述の従来の方法では、被検物質に特異的に結合する結合物質が固体支持体上に固定されていない。このため、被検物質と蛍光標識物質とからなる複合体に回転運動が生じる。このため、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光が解消される。従って、蛍光偏光度があまり大きく変化しないことがある。つまり、測定においてS/N比が増大し、感度が低下することがある。一方、本発明の蛍光偏光法では、試料中に被検物質が存在している場合、工程(b)において蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
上記被検物質は、溶液中に含まれていてもよい。
上記工程(c)では、上記工程(b)の前後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
上記工程(b)の前に、上記被検物質を含まない溶液を上記蛍光標識物質と上記結合物質とに接触させる工程(f)をさらに含み、上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する各蛍光偏光度と、上記被検物質の濃度との相関を求める工程(g)をさらに含むことが好ましい。
上記結合物質が固定化されていない第2固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(d)と、上記被検物質に、上記蛍光標識物質とを接触させる工程(e)とをさらに含み、上記第2固体支持体は、上記結合物質が除去された上記第1固体支持体と同じ材料で形成されており、上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(e)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
上記第1固体支持体は、マイクロタイタープレートであってもよい。
上記第1固体支持体は、微粒子であってもよい。
上記蛍光標識物質は、蛍光緩和時間が1ナノ秒以上である蛍光色素によって標識されていることが好ましい。
上記蛍光色素は、上記結合物質の一級〜三級アミノ基、カルボキシル基、チオール基、フェニル基、フェノール基またはヒドロキシル基に結合しているものでもよい。
上記結合物質は、抗体、レセプター、核酸、またはインヒビターのいずれかであってもよい。
上記結合物質は、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、Fab抗体、F(ab2)抗体、またはFv抗体のいずれか1つであってもよい。
上記被検物質は、生体内物質、微生物、またはウィルスであってもよい。
上記結合物質は第1の抗体であり、上記蛍光標識物質は蛍光色素で標識された第2の抗体であり、上記第1の抗体と上記第2の抗体とは、それぞれ異なるエピトープを認識する構成としてもよい。
本発明のキットは、被検物質を測定する蛍光偏光法に用いるキットであって、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを備える。
本発明のキットによれば、試料中に被検物質が存在している場合、蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
本発明のバイオセンサは、被検物質を含む溶液が移動する流路を備え、上記流路は、被検物質を含む溶液を導入するための試料導入部と、上記試料導入部に接続され、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質が、上記溶液中に溶出可能な状態で充填された蛍光標識物質保持部と、上記蛍光標識物質保持部に接続され、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固体支持体に固定化された結合物質保持部とを備える。
本発明のバイオセンサによれば、試料中に被検物質が存在している場合、蛍光標識物質保持部において蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、結合物質保持部において被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
上記溶液は、上記流路内を毛細管力、遠心力、または電位差により駆動される構成としてもよい。
上記流路は、上記固体支持体で形成されており、上記固体支持体が、キャピラリーであってもよい。
上記キャピラリーは、担体が充填されている構成としてもよい。
上記キャピラリーは、内部を自由に溶液が流れる構成としてもよい。
上記固体支持体は、上記被検物質を含む溶液の溶媒を含浸する材料であってもよい。
少なくとも2つの流路を備える構成としてもよい。
最良の実施形態
本発明は、試料中の被検物質を測定するために、被検物質と特異的に結合する物質が固定化された固相上で行なう蛍光偏光法に関する。以下に、本発明の実施形態を図1および図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の蛍光偏光法の原理を模式的に表す概略図である。図2は、本発明の蛍光偏光法のフローチャートである。
一般に、蛍光偏光法は、溶液中の分子の回転運動によって蛍光偏光が解消する現象を利用する。すなわち、分子が小さいほど溶液中における回転運動が早いので、蛍光偏光が大きく解消され、蛍光偏光度の値が小さくなる。反対に、分子が大きいほど溶液中における回転運動が遅いので、蛍光偏光があまり解消されず、蛍光偏光度の値が大きくなる。
図1に示すように、本実施形態では、被検物質14と特異的に結合する結合物質12が固定化された固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用いる。固体支持体11上に固定化された結合物質12で蛍光標識物質13が結合した被検物質14を捕捉することによって、蛍光標識物質13と被検物質14との複合体の回転運動を抑制、または静止させる。これは、溶液中の蛍光標識物質13と被検物質14との複合体の「動」の状態を、特異結合反応により固相上に捕捉して「静」の状態にすることによって蛍光偏光度を大きく変化させることを意味する。蛍光偏光度の変化量は、特異結合反応によって、固定化された結合物質12に結合した被検物質14の濃度を示すものとなる。
本実施形態の蛍光偏光法は、被検物質14を測定する方法であって、図2に示すように、被検物質14と特異的に結合する結合物質12(代表的には抗体)が固定化された固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意する工程St1と、被検物質14に、蛍光標識物質13と結合物質12とを接触させる工程St2と、蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する工程St3とを含む。
各工程を詳細に説明する。
工程St1では、図1(a)に示すように、被検物質14が存在しない状態では、蛍光標識物質13は、結合物質12(代表的には抗体)に捕捉されないで溶液中に存在する。このとき、蛍光標識物質13は溶液中で回転運動するので、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光は解消される。従って、蛍光偏光度の値は小さい。
工程St2では、図1(b)に示すように、被検物質14を含む試料を添加する。このことにより、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とで、サンドイッチ型の複合体を形成する。なお、この工程は、上記工程St1以前に行なってもよい。
工程St3では、図1(c)に示すように、試料中に被検物質14が存在している場合、工程St1で用意された蛍光標識物質13と、被検物質14とが特異的に結合し、さらに、被検物質14と、固体支持体11上に固定化された結合物質12とが特異的に結合して、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とからなるサンドイッチ型の複合体を形成する。このため、蛍光標識物質13の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。ここで、試料中の被検物質14の濃度は、被検物質14が存在しない場合の蛍光偏光度の値と、被検物質14が存在した場合の蛍光偏光度の値との差に相関する。
上述のように、従来の方法(例えば、特開平11−813332号公報に記載の方法)では、被検物質に特異的に結合する結合物質が固体支持体上に固定されていない。このため、被検物質と蛍光標識物質とからなる複合体に回転運動が生じる。このため、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光が解消される。従って、蛍光偏光度があまり大きく変化しないことがある。つまり、測定においてS/N比が増大し、感度が低下することがある。
しかしながら、本発明の蛍光偏光法では、図1(c)に示すように、試料中に被検物質14が存在している場合、工程St1で用意された蛍光標識物質13と、被検物質14とが特異的に結合し、さらに、被検物質14と、固体支持体11上に固定化された結合物質12とが特異的に結合して、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とからなるサンドイッチ型の複合体が形成される。このため、蛍光標識物質13の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
本実施形態では、工程St2の前後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としているが、本発明はこれに限定されない。例えば、工程St2の前に、被検物質14を含まない溶液を蛍光標識物質13と結合物質12とに接触させる前工程をさらに含み、工程St3では、工程St2および前工程の後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
さらに、例えば、結合物質12が固定化されている固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意し、上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度の測定を開始する。次に、継続的に蛍光偏光度の測定を行ないながら、蛍光偏光度の測定開始の任意の時間後に被検物質14を含む試料溶液を蛍光標識物質13と結合物質12とを接触させる。この、蛍光偏光度の測定開始から経時的な蛍光偏光度の変化をモニターすることができる。
また、結合物質12が固定化されていない固体支持体(不図示)と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意し、被検物質を含む試料溶液に、結合物質12が固定化されていない固体支持体と蛍光標識物質とを接触させた後に、蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定し、上記工程St2の後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
本実施形態の蛍光偏光法には、被検物質14と特異的に結合する結合物質12が固定化された固体支持体11と、被検物質14と特異的に結合する蛍光標識物質13とを備えるキットが用いられる。
固体支持体11は、具体的には測定セルである。測定セルとしては、予め蛍光標識物質13を含有させておいたものでもよい。このキットを用いることにより、測定の際には、測定セルを蛍光偏光測定装置内に配置し、測定セル内に試料を導入するだけで簡易に測定が行なえる。
本実施形態の蛍光測定法およびキットに用いられる固体支持体としては、測定したい被検物質を含む試料溶液の溶媒を含浸する材料が好適に用いられる。例えば、ニトロセルロース製メンブレン、酢酸セルロース製メンブレン、ガラス繊維濾紙などが好適に用いられる。
また、本発明に用いられる固体支持体として、マイクロタイタープレートもまた好適に用いられる。マイクロタイタープレートとしては、ポリスチレン製、ポリビニール製、ポリカーボネート製、ポリプロピレン製、シリコン系、ガラス系、デキストラン系材料から形成されたマイクロタイタープレートを用いることができる。
本発明に用いられる固体支持体として、微粒子もまた好適に用いられる。微粒子としては、例えば、無機コロイド、ラテックス粒子、磁性粒子などが挙げられる。
本発明に用いられる固体支持体には、当業者に公知の手法により、物理的吸着または化学的結合によって、被検物質と特異的に結合できる結合物質が固定化される。当業者に公知のスペーサーなどのリガンドを固体支持体に導入し、上記物質を固定化してもよい。スペーサーとして任意の長さの炭素鎖をもつ化合物を用いることができる。またアビジンと複合体を形成するビオチンなどのリガンドが当業者に公知である。
本実施形態において、固体支持体に固定化される物質(結合物質)として、被検物質と特異的に結合する限り、任意の抗体、レセプター、核酸、インヒビターなどを用い得る。蛍光色素で標識される物質としてもまた、被検物質と特異的に結合する限り、任意の抗体、レセプター、核酸、インヒビターなどを用い得る。
本実施形態に用いる抗体としては、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、Fab抗体、F(ab)2抗体、Fv抗体であり得る。
本実施形態において、測定可能な被検物質は、生体内物質、微生物、ウィルスなどである。生体内物質は、例えば、ペプチド、タンパク質、脂質、糖類または核酸類などを意味する。微生物は、大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、クラミジア、ピロリ菌などの細菌を含む。ウィルスは、インフルエンザ、C型肝炎ウィルス、HIVなどを含む。
本実施形態で用いられる蛍光標識物質は、被検物質に特異的に結合し、且つ、蛍光色素で標識されたものであれば、いかなる物質でも用いることができる。本実施形態では、結合物質に蛍光色素で標識されたものが用いられているが、これに限定されない。それぞれ異なるエピトープを認識する第1の抗体と第2の抗体とを用意し、いずれか一方を蛍光色素で標識して、それぞれを結合物質と蛍光標識物質として、必要に応じて用いてもよい。
なお、本実施形態の蛍光偏光法では、蛍光標識物質の濃度が重要である。もし、測定系内に高濃度の蛍光標識物質が存在していると、固体支持体に固定化された結合物質によって被検物質を介して捕捉された蛍光標識物質よりも、捕捉されていない(つまりフリーの)蛍光標識物質の量が多くなる。この状態で蛍光偏光測定を行なった場合、フリーの蛍光標識物質の量が多いため蛍光偏光度に大きな変化が得られない。従って、本実施形態の蛍光偏光法によって、被検物質を測定する上で、蛍光標識物質の濃度を最適化することが非常に好ましい。
最適化の方法としては、例えば、マイクロタイタープレートに任意の量の被検物質を固定化し、これに対して希釈系列を作製した蛍光標識物質溶液をそれぞれ添加していき、蛍光偏光度を測定する。一般に、蛍光標識物質の濃度が高くなるほど蛍光偏光度は小さくなっていく。また、固定化された被検物質の量が多くなると、蛍光偏光度が減少し始める蛍光標識物質の濃度が大きくなっていく。仮に、測定を保証しなければならない被検物質濃度の領域で、図3に示すような結果が得られた場合、蛍光標識物質の濃度を図中の線41で示される濃度以下および線43で示される濃度以上に設定すれば、蛍光偏光度に変化が見られなくなる。従って、蛍光偏光度が被検物質の量に応じて変化するように、蛍光標識物質の濃度を図中の線42で示される濃度付近に設定することが好ましい。
本実施形態で用いられる蛍光標識物質に標識される蛍光色素は、蛍光偏光法を原理として測定する上で重要な材料である。蛍光色素は、一般に、励起波長、蛍光波長、ストークスシフト、蛍光緩和時間などのパラメーターでその特性が表される。本実施形態で用いられる蛍光色素は、代表的には、蛍光緩和時間でその特性が規定され、通常、約0.1ナノ秒から約1,000ナノ秒の範囲の蛍光緩和時間を有るものが好ましい。より好ましくは、約1ナノ秒以上の蛍光寿命を有する蛍光色素が用いられる。本実施形態で用いる蛍光色素は、被検物質との結合によって変化する蛍光標識物質の分子量を考慮して選択される。被検物質と結合した蛍光標識物質から放出される蛍光の偏光度は、分子の大きさ、すなわち、分子の回転運動速度と比例する関係にあるからである。本実施形態では、分子量の小さい、すなわち溶液中で回転運動速度の大きい蛍光標識物質が得られるような蛍光色素が好適に用いられ、それによって、捕捉前後の蛍光偏光度の変化を増大することができる。このような蛍光色素の例としては、フルオレセイン誘導体、ダンシル誘導体、ピレン誘導体、金属錯体が挙げられる。
また、本実施形態で用いられる蛍光色素は、代表的には、被検物質と特異的に結合する物質中に含まれる、一級〜三級アミノ基、カルボキシル基、チオール基、フェニル基、フェノール基またはヒドロキシル基と反応して上記物質を標識する。このため、例えば、上記で列挙した蛍光色素に、イソチオシアノ基、サクシイミジル基、スルフォニルクロライド基、アジド基、チオール基、マレイミド基などの官能基が公知の方法に従って導入されたものを用いてもよい。
次に、上述の本実施形態の蛍光偏光法を用いたバイオセンサを、図4を参照しながら以下に説明する。図4は、本実施形態のバイオセンサおよびそれを用いた蛍光偏光測定装置の1つの構成例を示す。
本実施形態のバイオセンサ20は、図4に示すように、固定化された固体支持体21(本実施形態ではキャピラリー)から構成されている。固体支持体21は、試料導入部22と、蛍光標識物質13が充填された蛍光標識物質保持部23aと、結合物質12が固定化された結合物質保持部23bとを有する。試料導入部22と蛍光標識物質保持部23aと結合物質保持部23bとは、被検物質を含む試料溶液が流れる流路となっている。
バイオセンサ20における蛍光偏光度の変化を算出する蛍光偏光測定装置30は、バイオセンサ20を収容する収容部を備え(図示せず)、且つ、励起光26側に偏光板24、および蛍光27側に偏光板25を備えており、蛍光偏光度の変化を測定する際に、蛍光27側の偏光板25を回転させる機能を有している。
図5(a)および図5(b)は、図4に示す構成例における蛍光偏光測定装置の検出部を模式的に示す図である。図5(a)および図5(b)では、バイオセンサ20の結合物質保持部23bをセル28として模式的に示してある。図5(a)に示すように、蛍光27側の第2偏光板25は、偏光度変化を測定する際に、矢印で示されるように回転し、回転する間にセルから発せられる蛍光の平行成分および垂直成分が逐次的にモニターされ、それらを基に蛍光偏光度が算出される。これに代わり、図5(b)に示すように、蛍光偏光度の変化を算出する装置として、偏光板を回転させる機能を備えていない検出器を用いてもよい。この場合、セル28から発せられる蛍光は、その平行成分30および垂直成分31が、蛍光側に配置された2つの偏光板25、25’を用いることでそれぞれ同時にモニターされ、それらを基に蛍光偏光度が算出される。なお、図5中、20、24、および26で示される参照番号は、図4と同様に、それぞれ入射光、励起側偏光板、および励起光を示す。
本実施形態の蛍光偏光測定装置30内に、さらに抗原抗体反応を行なうため温度条件を整えるための反応部、蛍光標識物質保持部23aに蛍光標識物質13を供給する手段、および蛍光偏光度の変化を算出する手段もまた集積化されていてもよい。勿論、蛍光偏光測定装置30が、複数の反応部を備え、蛍光偏光度を測定する手段が、複数の反応部から発せられる蛍光偏光度を同時に測定する構成としてもよい。さらに、同時に測定された蛍光偏光度の差を算出する手段をさらに備える構成としてもよい。
また、反応部、蛍光標識物質13を供給する手段、蛍光偏光度の変化を算出する手段が集積化された蛍光偏光測定装置30内に、バイオセンサ20さらに集積化することによって、バイオチップとすることも可能である。
試料導入部から導入された試料に含まれる被検物質は、蛍光標識物質保持部23aを通って蛍光標識物質13と結合し、固体支持体21(図4ではキャピラリー)上に固定化された結合物質12(本実施形態では抗体)にさらに結合する。蛍光偏光測定装置30は、結合物質保持部23bから発せられる蛍光偏光度の変化を検出する。
従来より、簡易な検査法として、ドライケミストリーによる検査法がある。ドライケミストリーとは、フィルムや試験紙のような展開層マトリクスに乾燥状態で保存された試薬に対して、液状の試料を点着させて、試料中の被検物質を測定する方法である。デバイスとしては、単層の展開層マトリクスに試薬を担持させた単層式、および展開層マトリクスとして、展開層、反応層、試薬層などを層状に積層させた多層式がある。ドライケミストリーによる検査法の特徴としては、試薬が既に展開層マトリクス上に担持されているため、試薬の調整が不要で、小スペースで保存でき、被検体量が少量でよいことなどがあげられる。
代表的なドライケミストリーによる検査法としては、免疫クロマトグラフィー法がある(例えば、特許番号2890384号公報に記載されている)。免疫クロマトグラフィー法とは、抗原抗体反応と毛細管現象を利用した検査法で、デバイスには、メンブレンフィルターに代表される担体上に、固定化された第1の抗体と、検出試薬として標識された第2の抗体とが、それぞれ乾燥状態で担持されている。検査の際には、上記デバイス上に被検物質(抗原)を含んだ検体試料を添加し、毛細管現象により展開させ、サンドイッチ型の抗原抗体反応を用いて反応部位を発色させることにより、抗原の同定、存在の有無、または抗原量を測定する。
免疫クロマトグラフィー法は、1つの操作で、反応、洗浄、検出の工程を行なえる。従って、操作の簡便性に利点があり、さらに、迅速な判定が行なえる。妊娠診断薬に代表されるように、その簡便さから臨床検査分野の中でも近年着目されているポイント・オブ・ケア・テスティング(POCT)において適用可能な検査法となり得る。
臨床検査の簡易測定法として知られる免疫クロマトグラフィー法は、1つの操作で、反応、洗浄、検出の工程を行なえるという利点がある。しかし、抗原抗体反応に時間を必要とし、固相上を液状試料が展開する時間を長くする必要があるためメンブレンのような多孔質からなる材料も用いてしか行なえない。しかも、免疫クロマトグラフィー法で用いられるメンブレン等の多孔質からなる材料は高価であり、デバイスとしてのコストが高い。
一方、本実施形態のバイオセンサ20では、固体支持体21として用いられる材料がメンブレンのような多孔質からなる材料に限定されない。従って、本実施形態のバイオセンサを低コストで製造することが可能であり、臨床検査、特に、POCTにおいて特に好適に用いられる。
本実施形態のバイオセンサに固体支持体21として、キャピラリーが用いられている。本実施形態では、キャピラリー内に蛍光標識物質保持部23aおよび結合物質保持部23bを備え、結合物質保持部23bは、蛍光偏光測定が可能なように、例えば、石英ガラス、プラスチックのような透明の材料で形成されている。また、キャピラリー内で液状の試料を展開する駆動力として、例えば、毛細管力、遠心力、電位差などの物理的な力を用いることが可能である。また、必要に応じてキャピラリー内に担体を充填することも可能である。利用可能な担体としては、ガラスウール、ポリアクリルアミドゲル、微粒子などが挙げられる。勿論、キャピラリー内を担体のない自由に溶液が流れる状態としてもよい。
また、本実施形態のバイオセンサ20の固体支持体21として用いられる材料として、ニトロセルロース製メンブレン、酢酸セルロース製メンブレン、ガラス製濾紙などの多孔質材料を基礎にした矩形形態(つまり、試験片)であってもよい。このような多孔質からなる材料において液体試料を展開させる駆動力として毛細管力を用いる。その展開方向は、矩形形態の縦方向、横方向いずれであってもよい。
なお、本実施形態では1つの流路を備えるバイオセンサを説明したが、勿論、複数の流路を備え、複数の測定を同時に行なうことが可能な構成としてもよい。
実施例
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を例示するものあって、本発明を制限するものではない。
以下の手順で、尿中物質であるヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hcg;分子量37,000)を被検物質として測定した。
1.ピレン標識抗hcg−βモノクローナル抗体の調製
抗hcg−βモノクローナル抗体およびピレンブチル酸スクシイミジルエステル(SPB)(いずれもモレキュラー・シーブ社より入手)を使用して、以下に示すようにピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体を調製した。
2.0mg/ml濃度の抗hcG−βモノクローナル抗体を含むリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(pH7.4)溶液(1000μl)と、DMSO中に1.00mg/ml濃度となるようにピレンブチル酸スクシイミジルエステル(抗体に対して10倍量)を溶解した溶液(20μl)とを混合した。この混合液を、4時間撹拌しながら25℃でインキュベートすることにより、抗hcG−βモノクローナル抗体とピレンブチル酸スクシイミジルエステルとを反応させた。得られた反応液を、セファデックスG−25ゲルろ過カラム(Pharmacia)(サイズ:10×60mm、流速:約2ml/分)に供することにより未反応のSPBを除去し、ピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体を含む画分を回収した。
まず、回収した画分について、調製したピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体の標識量および蛍光特性を評価した。
紫外・可視分光計(島津製、UV−1600PC)を使用して測定したところ、回収した画分は、1mlあたり約0.8mgの抗体を含み、そしてピレンの330nmの吸光度からその濃度が0.88mg/mlであったことから、抗hcG−βモノクローナル抗体1分子あたり約1.1個のピレンが標識されていることが確認された。また蛍光分光光度計(島津製、RF−5300PC)を使用して回収した画分が発する蛍光の特性を測定した結果、抗hcG−βモノクローナル抗体に結合したピレンは、330nmの波長の光で励起されて397nmの波長の蛍光を発生し、その蛍光の寿命は100ナノ秒であることが確認された。
2.抗hcG−αモノクローナル抗体固定化セルの調製
測定セルとしてポリスチレン製セルを使用した。このセルに、700μlの抗hcG−αモノクローナル抗体1mg/ml溶液を入れて一晩放置した。その後、セル内の溶液を吸引して除去した後セルを洗浄した。さらに、セルに1%BSA溶液を添加し、一晩放置することによりセル内壁をBSAでブロッキングした。抗体がセル内壁に固定化されていることは、セルに酵素標識hcgを添加すると発色することにより確認した。
3.蛍光偏光度の測定
蛍光偏光度測定装置として、日本分光製FP715を使用した(測定条件;測定温度 35℃、励起波長 330nm、蛍光波長 397nm、Gfactor:0.942)。
上記2に示すように調製した抗hcG−αモノクローナル抗体固定化セルを蛍光偏光装置に設置し、試料として、hcgを、0、50、100、200、300、500、600、800、および1000 IU/lを含む溶液をそれぞれ用意した。測定は、上記のhcg溶液上記ピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体の混合液(700μl)と、上記のhcg溶液(60μl)とを混合し、35℃で0.5分間攪拌した後、上記測定条件で0.5分間、上記hcg溶液の各々について蛍光偏光度を測定した。結果を図6に示す。図6に示すように、蛍光偏光度は、hcgの濃度にほぼ比例することが示された。
産業上の利用可能性
本発明は、環境測定、食品管理および医療診断の分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
図1(a)〜(c)は、本発明の原理を模式的に表す概略図である。
図2は、本発明の蛍光偏光法のフローチャートである。
図3は、本発明の1つの実施形態であるバイオセンサの概略を示す図。
図4は、本発明のバイオセンサおよびそれを用いた蛍光偏光測定装置の1つの構成例を示す。
図5(a)および図5(b)は、図4に示す構成例における蛍光偏光測定装置の検出部を模式的に示す図である。
図6は、本発明によるヒト絨毛性性腺刺激ホルモンの測定結果を示す図である。
本発明は、試料中の被検物質を分析する方法に関する。
背景技術
免疫測定法は、抗原抗体反応を利用した測定を行なう方法である。これまでに、様々な測定原理に基づく免疫測定法が報告されている。例えば、酵素免疫測定法、蛍光測定法、発光測定法などの免疫複合体と未反応物質との分離(BF分離:BFは、Binding/Freeの略)を必要とする測定法、比濁法、比ろう法、ラテックス凝集法などのBF分離を必要としない測定法がある。いずれの測定法も、抗原抗体反応を光学的に検出する測定法である。
免疫測定法のうち、酵素免疫測定法、蛍光測定法、発光測定法のようなBF分離を必要とするものは、抗原抗体反応に関与していないフリーの抗原および抗体を除去するために洗浄操作が必要となる。また、この洗浄操作を装置のシステムに組み入れ、自動化することにより、操作性を向上させることができるが、装置が高価になる。
免疫測定法のうち、比濁法、比ろう法、ラテックス凝集法のようなBF分離を必要としないものは、上記のBF分離を必要とする測定法に比べて操作性は比較的良い。しかし、抗原抗体反応による生成する抗原抗体からなる複合体を、散乱光または透過光で検出するため、高い感度を要する測定項目には不向きである。
近年においては、抗原抗体反応を蛍光偏光を利用して検出する免疫測定法(以下、蛍光偏光法と称する)が注目されている。蛍光偏光法は、BF分離を必要としないため洗浄操作がいらない。また、基本的には蛍光を測定するため、感度も良い。このように、上記の測定法に比べて利点がある。
蛍光偏光(蛍光偏光解消とも呼ばれる)と称される現象は、1950年以後に生体高分子に適用するための研究が開始され、そして1970年代後半から本格的に生化学あるいは生物学などの分野の広範囲に亘る応用研究が行なわれている。
蛍光偏光を測定するための専用の測定装置(以下、蛍光偏光測定装置と称する)は、簡単に述べると、従来の蛍光光度計と同様の構成に加えて、さらに偏光板が2枚追加された装置である。蛍光偏光測定装置は、検出部のセルとして、通常の蛍光測定と同じく四面透明石英製セルが用いられる。可視部領域での測定においてはガラス製のセルを用い得る。
蛍光偏光測定装置では、光源から発せられる光線からフィルターあるいはグレイティングプリズムによってモノクロ波(単色光)を得て、それを偏光子により偏光して励起光を得る。この偏光子を通過した励起光をセルに当てると溶液中の蛍光色素をもつ分子のみがその励起光を吸収する。蛍光偏光測定装置において、蛍光色素の特性蛍光緩和時間内に発する蛍光の垂直成分と平行成分が検出されると、Perrinの式により蛍光偏光度が算出される。蛍光偏光度の値は、原理的に、分子の大小に依存する分子の回転運動の速度の差に依存する。このため、蛍光の検出を阻害する不純物などの影響があったとしても、蛍光強度の数値は直接的に抗原濃度によるものではない。従って、全く蛍光が検出されない状況以外では、試料を前処理することなく測定でき、さらにBF分離の必要性もない。以上のことからわかるように、蛍光偏光法は簡易な免疫測定法である。
これまで、蛍光偏光を利用した免疫測定技術としては、特開平11−813332号公報に記載の方法がある。これらの方法では、被検物質に結合する、蛍光色素で標識した抗体を用いる。一般に、臨床検査では、上記のように様々な免疫測定法が利用されている。
解決課題
しかしながら、上記従来の蛍光偏光法は、抗原抗体反応の前後における分子量の変化量を算出する方法であるため、抗原抗体反応の前後における分子量変化が小さい場合、または蛍光色素の蛍光緩和時間が短すぎるあるいは長すぎる場合に、高感度で測定することが困難である。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり高感度で測定することができる蛍光偏光法、それに用いるキット、およびバイオセンサを提供する。
発明の開示
本発明の蛍光偏光法は、被検物質を測定する蛍光偏光法であって、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された第1固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(a)と、上記被検物質に、上記蛍光標識物質と上記結合物質とを接触させる工程(b)と、上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する工程(c)とを含む。
上述の従来の方法では、被検物質に特異的に結合する結合物質が固体支持体上に固定されていない。このため、被検物質と蛍光標識物質とからなる複合体に回転運動が生じる。このため、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光が解消される。従って、蛍光偏光度があまり大きく変化しないことがある。つまり、測定においてS/N比が増大し、感度が低下することがある。一方、本発明の蛍光偏光法では、試料中に被検物質が存在している場合、工程(b)において蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
上記被検物質は、溶液中に含まれていてもよい。
上記工程(c)では、上記工程(b)の前後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
上記工程(b)の前に、上記被検物質を含まない溶液を上記蛍光標識物質と上記結合物質とに接触させる工程(f)をさらに含み、上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する各蛍光偏光度と、上記被検物質の濃度との相関を求める工程(g)をさらに含むことが好ましい。
上記結合物質が固定化されていない第2固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(d)と、上記被検物質に、上記蛍光標識物質とを接触させる工程(e)とをさらに含み、上記第2固体支持体は、上記結合物質が除去された上記第1固体支持体と同じ材料で形成されており、上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(e)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
上記第1固体支持体は、マイクロタイタープレートであってもよい。
上記第1固体支持体は、微粒子であってもよい。
上記蛍光標識物質は、蛍光緩和時間が1ナノ秒以上である蛍光色素によって標識されていることが好ましい。
上記蛍光色素は、上記結合物質の一級〜三級アミノ基、カルボキシル基、チオール基、フェニル基、フェノール基またはヒドロキシル基に結合しているものでもよい。
上記結合物質は、抗体、レセプター、核酸、またはインヒビターのいずれかであってもよい。
上記結合物質は、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、Fab抗体、F(ab2)抗体、またはFv抗体のいずれか1つであってもよい。
上記被検物質は、生体内物質、微生物、またはウィルスであってもよい。
上記結合物質は第1の抗体であり、上記蛍光標識物質は蛍光色素で標識された第2の抗体であり、上記第1の抗体と上記第2の抗体とは、それぞれ異なるエピトープを認識する構成としてもよい。
本発明のキットは、被検物質を測定する蛍光偏光法に用いるキットであって、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを備える。
本発明のキットによれば、試料中に被検物質が存在している場合、蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
本発明のバイオセンサは、被検物質を含む溶液が移動する流路を備え、上記流路は、被検物質を含む溶液を導入するための試料導入部と、上記試料導入部に接続され、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質が、上記溶液中に溶出可能な状態で充填された蛍光標識物質保持部と、上記蛍光標識物質保持部に接続され、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固体支持体に固定化された結合物質保持部とを備える。
本発明のバイオセンサによれば、試料中に被検物質が存在している場合、蛍光標識物質保持部において蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、結合物質保持部において被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
上記溶液は、上記流路内を毛細管力、遠心力、または電位差により駆動される構成としてもよい。
上記流路は、上記固体支持体で形成されており、上記固体支持体が、キャピラリーであってもよい。
上記キャピラリーは、担体が充填されている構成としてもよい。
上記キャピラリーは、内部を自由に溶液が流れる構成としてもよい。
上記固体支持体は、上記被検物質を含む溶液の溶媒を含浸する材料であってもよい。
少なくとも2つの流路を備える構成としてもよい。
最良の実施形態
本発明は、試料中の被検物質を測定するために、被検物質と特異的に結合する物質が固定化された固相上で行なう蛍光偏光法に関する。以下に、本発明の実施形態を図1および図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の蛍光偏光法の原理を模式的に表す概略図である。図2は、本発明の蛍光偏光法のフローチャートである。
一般に、蛍光偏光法は、溶液中の分子の回転運動によって蛍光偏光が解消する現象を利用する。すなわち、分子が小さいほど溶液中における回転運動が早いので、蛍光偏光が大きく解消され、蛍光偏光度の値が小さくなる。反対に、分子が大きいほど溶液中における回転運動が遅いので、蛍光偏光があまり解消されず、蛍光偏光度の値が大きくなる。
図1に示すように、本実施形態では、被検物質14と特異的に結合する結合物質12が固定化された固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用いる。固体支持体11上に固定化された結合物質12で蛍光標識物質13が結合した被検物質14を捕捉することによって、蛍光標識物質13と被検物質14との複合体の回転運動を抑制、または静止させる。これは、溶液中の蛍光標識物質13と被検物質14との複合体の「動」の状態を、特異結合反応により固相上に捕捉して「静」の状態にすることによって蛍光偏光度を大きく変化させることを意味する。蛍光偏光度の変化量は、特異結合反応によって、固定化された結合物質12に結合した被検物質14の濃度を示すものとなる。
本実施形態の蛍光偏光法は、被検物質14を測定する方法であって、図2に示すように、被検物質14と特異的に結合する結合物質12(代表的には抗体)が固定化された固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意する工程St1と、被検物質14に、蛍光標識物質13と結合物質12とを接触させる工程St2と、蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する工程St3とを含む。
各工程を詳細に説明する。
工程St1では、図1(a)に示すように、被検物質14が存在しない状態では、蛍光標識物質13は、結合物質12(代表的には抗体)に捕捉されないで溶液中に存在する。このとき、蛍光標識物質13は溶液中で回転運動するので、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光は解消される。従って、蛍光偏光度の値は小さい。
工程St2では、図1(b)に示すように、被検物質14を含む試料を添加する。このことにより、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とで、サンドイッチ型の複合体を形成する。なお、この工程は、上記工程St1以前に行なってもよい。
工程St3では、図1(c)に示すように、試料中に被検物質14が存在している場合、工程St1で用意された蛍光標識物質13と、被検物質14とが特異的に結合し、さらに、被検物質14と、固体支持体11上に固定化された結合物質12とが特異的に結合して、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とからなるサンドイッチ型の複合体を形成する。このため、蛍光標識物質13の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。ここで、試料中の被検物質14の濃度は、被検物質14が存在しない場合の蛍光偏光度の値と、被検物質14が存在した場合の蛍光偏光度の値との差に相関する。
上述のように、従来の方法(例えば、特開平11−813332号公報に記載の方法)では、被検物質に特異的に結合する結合物質が固体支持体上に固定されていない。このため、被検物質と蛍光標識物質とからなる複合体に回転運動が生じる。このため、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光が解消される。従って、蛍光偏光度があまり大きく変化しないことがある。つまり、測定においてS/N比が増大し、感度が低下することがある。
しかしながら、本発明の蛍光偏光法では、図1(c)に示すように、試料中に被検物質14が存在している場合、工程St1で用意された蛍光標識物質13と、被検物質14とが特異的に結合し、さらに、被検物質14と、固体支持体11上に固定化された結合物質12とが特異的に結合して、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とからなるサンドイッチ型の複合体が形成される。このため、蛍光標識物質13の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
本実施形態では、工程St2の前後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としているが、本発明はこれに限定されない。例えば、工程St2の前に、被検物質14を含まない溶液を蛍光標識物質13と結合物質12とに接触させる前工程をさらに含み、工程St3では、工程St2および前工程の後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
さらに、例えば、結合物質12が固定化されている固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意し、上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度の測定を開始する。次に、継続的に蛍光偏光度の測定を行ないながら、蛍光偏光度の測定開始の任意の時間後に被検物質14を含む試料溶液を蛍光標識物質13と結合物質12とを接触させる。この、蛍光偏光度の測定開始から経時的な蛍光偏光度の変化をモニターすることができる。
また、結合物質12が固定化されていない固体支持体(不図示)と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意し、被検物質を含む試料溶液に、結合物質12が固定化されていない固体支持体と蛍光標識物質とを接触させた後に、蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定し、上記工程St2の後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
本実施形態の蛍光偏光法には、被検物質14と特異的に結合する結合物質12が固定化された固体支持体11と、被検物質14と特異的に結合する蛍光標識物質13とを備えるキットが用いられる。
固体支持体11は、具体的には測定セルである。測定セルとしては、予め蛍光標識物質13を含有させておいたものでもよい。このキットを用いることにより、測定の際には、測定セルを蛍光偏光測定装置内に配置し、測定セル内に試料を導入するだけで簡易に測定が行なえる。
本実施形態の蛍光測定法およびキットに用いられる固体支持体としては、測定したい被検物質を含む試料溶液の溶媒を含浸する材料が好適に用いられる。例えば、ニトロセルロース製メンブレン、酢酸セルロース製メンブレン、ガラス繊維濾紙などが好適に用いられる。
また、本発明に用いられる固体支持体として、マイクロタイタープレートもまた好適に用いられる。マイクロタイタープレートとしては、ポリスチレン製、ポリビニール製、ポリカーボネート製、ポリプロピレン製、シリコン系、ガラス系、デキストラン系材料から形成されたマイクロタイタープレートを用いることができる。
本発明に用いられる固体支持体として、微粒子もまた好適に用いられる。微粒子としては、例えば、無機コロイド、ラテックス粒子、磁性粒子などが挙げられる。
本発明に用いられる固体支持体には、当業者に公知の手法により、物理的吸着または化学的結合によって、被検物質と特異的に結合できる結合物質が固定化される。当業者に公知のスペーサーなどのリガンドを固体支持体に導入し、上記物質を固定化してもよい。スペーサーとして任意の長さの炭素鎖をもつ化合物を用いることができる。またアビジンと複合体を形成するビオチンなどのリガンドが当業者に公知である。
本実施形態において、固体支持体に固定化される物質(結合物質)として、被検物質と特異的に結合する限り、任意の抗体、レセプター、核酸、インヒビターなどを用い得る。蛍光色素で標識される物質としてもまた、被検物質と特異的に結合する限り、任意の抗体、レセプター、核酸、インヒビターなどを用い得る。
本実施形態に用いる抗体としては、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、Fab抗体、F(ab)2抗体、Fv抗体であり得る。
本実施形態において、測定可能な被検物質は、生体内物質、微生物、ウィルスなどである。生体内物質は、例えば、ペプチド、タンパク質、脂質、糖類または核酸類などを意味する。微生物は、大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、クラミジア、ピロリ菌などの細菌を含む。ウィルスは、インフルエンザ、C型肝炎ウィルス、HIVなどを含む。
本実施形態で用いられる蛍光標識物質は、被検物質に特異的に結合し、且つ、蛍光色素で標識されたものであれば、いかなる物質でも用いることができる。本実施形態では、結合物質に蛍光色素で標識されたものが用いられているが、これに限定されない。それぞれ異なるエピトープを認識する第1の抗体と第2の抗体とを用意し、いずれか一方を蛍光色素で標識して、それぞれを結合物質と蛍光標識物質として、必要に応じて用いてもよい。
なお、本実施形態の蛍光偏光法では、蛍光標識物質の濃度が重要である。もし、測定系内に高濃度の蛍光標識物質が存在していると、固体支持体に固定化された結合物質によって被検物質を介して捕捉された蛍光標識物質よりも、捕捉されていない(つまりフリーの)蛍光標識物質の量が多くなる。この状態で蛍光偏光測定を行なった場合、フリーの蛍光標識物質の量が多いため蛍光偏光度に大きな変化が得られない。従って、本実施形態の蛍光偏光法によって、被検物質を測定する上で、蛍光標識物質の濃度を最適化することが非常に好ましい。
最適化の方法としては、例えば、マイクロタイタープレートに任意の量の被検物質を固定化し、これに対して希釈系列を作製した蛍光標識物質溶液をそれぞれ添加していき、蛍光偏光度を測定する。一般に、蛍光標識物質の濃度が高くなるほど蛍光偏光度は小さくなっていく。また、固定化された被検物質の量が多くなると、蛍光偏光度が減少し始める蛍光標識物質の濃度が大きくなっていく。仮に、測定を保証しなければならない被検物質濃度の領域で、図3に示すような結果が得られた場合、蛍光標識物質の濃度を図中の線41で示される濃度以下および線43で示される濃度以上に設定すれば、蛍光偏光度に変化が見られなくなる。従って、蛍光偏光度が被検物質の量に応じて変化するように、蛍光標識物質の濃度を図中の線42で示される濃度付近に設定することが好ましい。
本実施形態で用いられる蛍光標識物質に標識される蛍光色素は、蛍光偏光法を原理として測定する上で重要な材料である。蛍光色素は、一般に、励起波長、蛍光波長、ストークスシフト、蛍光緩和時間などのパラメーターでその特性が表される。本実施形態で用いられる蛍光色素は、代表的には、蛍光緩和時間でその特性が規定され、通常、約0.1ナノ秒から約1,000ナノ秒の範囲の蛍光緩和時間を有るものが好ましい。より好ましくは、約1ナノ秒以上の蛍光寿命を有する蛍光色素が用いられる。本実施形態で用いる蛍光色素は、被検物質との結合によって変化する蛍光標識物質の分子量を考慮して選択される。被検物質と結合した蛍光標識物質から放出される蛍光の偏光度は、分子の大きさ、すなわち、分子の回転運動速度と比例する関係にあるからである。本実施形態では、分子量の小さい、すなわち溶液中で回転運動速度の大きい蛍光標識物質が得られるような蛍光色素が好適に用いられ、それによって、捕捉前後の蛍光偏光度の変化を増大することができる。このような蛍光色素の例としては、フルオレセイン誘導体、ダンシル誘導体、ピレン誘導体、金属錯体が挙げられる。
また、本実施形態で用いられる蛍光色素は、代表的には、被検物質と特異的に結合する物質中に含まれる、一級〜三級アミノ基、カルボキシル基、チオール基、フェニル基、フェノール基またはヒドロキシル基と反応して上記物質を標識する。このため、例えば、上記で列挙した蛍光色素に、イソチオシアノ基、サクシイミジル基、スルフォニルクロライド基、アジド基、チオール基、マレイミド基などの官能基が公知の方法に従って導入されたものを用いてもよい。
次に、上述の本実施形態の蛍光偏光法を用いたバイオセンサを、図4を参照しながら以下に説明する。図4は、本実施形態のバイオセンサおよびそれを用いた蛍光偏光測定装置の1つの構成例を示す。
本実施形態のバイオセンサ20は、図4に示すように、固定化された固体支持体21(本実施形態ではキャピラリー)から構成されている。固体支持体21は、試料導入部22と、蛍光標識物質13が充填された蛍光標識物質保持部23aと、結合物質12が固定化された結合物質保持部23bとを有する。試料導入部22と蛍光標識物質保持部23aと結合物質保持部23bとは、被検物質を含む試料溶液が流れる流路となっている。
バイオセンサ20における蛍光偏光度の変化を算出する蛍光偏光測定装置30は、バイオセンサ20を収容する収容部を備え(図示せず)、且つ、励起光26側に偏光板24、および蛍光27側に偏光板25を備えており、蛍光偏光度の変化を測定する際に、蛍光27側の偏光板25を回転させる機能を有している。
図5(a)および図5(b)は、図4に示す構成例における蛍光偏光測定装置の検出部を模式的に示す図である。図5(a)および図5(b)では、バイオセンサ20の結合物質保持部23bをセル28として模式的に示してある。図5(a)に示すように、蛍光27側の第2偏光板25は、偏光度変化を測定する際に、矢印で示されるように回転し、回転する間にセルから発せられる蛍光の平行成分および垂直成分が逐次的にモニターされ、それらを基に蛍光偏光度が算出される。これに代わり、図5(b)に示すように、蛍光偏光度の変化を算出する装置として、偏光板を回転させる機能を備えていない検出器を用いてもよい。この場合、セル28から発せられる蛍光は、その平行成分30および垂直成分31が、蛍光側に配置された2つの偏光板25、25’を用いることでそれぞれ同時にモニターされ、それらを基に蛍光偏光度が算出される。なお、図5中、20、24、および26で示される参照番号は、図4と同様に、それぞれ入射光、励起側偏光板、および励起光を示す。
本実施形態の蛍光偏光測定装置30内に、さらに抗原抗体反応を行なうため温度条件を整えるための反応部、蛍光標識物質保持部23aに蛍光標識物質13を供給する手段、および蛍光偏光度の変化を算出する手段もまた集積化されていてもよい。勿論、蛍光偏光測定装置30が、複数の反応部を備え、蛍光偏光度を測定する手段が、複数の反応部から発せられる蛍光偏光度を同時に測定する構成としてもよい。さらに、同時に測定された蛍光偏光度の差を算出する手段をさらに備える構成としてもよい。
また、反応部、蛍光標識物質13を供給する手段、蛍光偏光度の変化を算出する手段が集積化された蛍光偏光測定装置30内に、バイオセンサ20さらに集積化することによって、バイオチップとすることも可能である。
試料導入部から導入された試料に含まれる被検物質は、蛍光標識物質保持部23aを通って蛍光標識物質13と結合し、固体支持体21(図4ではキャピラリー)上に固定化された結合物質12(本実施形態では抗体)にさらに結合する。蛍光偏光測定装置30は、結合物質保持部23bから発せられる蛍光偏光度の変化を検出する。
従来より、簡易な検査法として、ドライケミストリーによる検査法がある。ドライケミストリーとは、フィルムや試験紙のような展開層マトリクスに乾燥状態で保存された試薬に対して、液状の試料を点着させて、試料中の被検物質を測定する方法である。デバイスとしては、単層の展開層マトリクスに試薬を担持させた単層式、および展開層マトリクスとして、展開層、反応層、試薬層などを層状に積層させた多層式がある。ドライケミストリーによる検査法の特徴としては、試薬が既に展開層マトリクス上に担持されているため、試薬の調整が不要で、小スペースで保存でき、被検体量が少量でよいことなどがあげられる。
代表的なドライケミストリーによる検査法としては、免疫クロマトグラフィー法がある(例えば、特許番号2890384号公報に記載されている)。免疫クロマトグラフィー法とは、抗原抗体反応と毛細管現象を利用した検査法で、デバイスには、メンブレンフィルターに代表される担体上に、固定化された第1の抗体と、検出試薬として標識された第2の抗体とが、それぞれ乾燥状態で担持されている。検査の際には、上記デバイス上に被検物質(抗原)を含んだ検体試料を添加し、毛細管現象により展開させ、サンドイッチ型の抗原抗体反応を用いて反応部位を発色させることにより、抗原の同定、存在の有無、または抗原量を測定する。
免疫クロマトグラフィー法は、1つの操作で、反応、洗浄、検出の工程を行なえる。従って、操作の簡便性に利点があり、さらに、迅速な判定が行なえる。妊娠診断薬に代表されるように、その簡便さから臨床検査分野の中でも近年着目されているポイント・オブ・ケア・テスティング(POCT)において適用可能な検査法となり得る。
臨床検査の簡易測定法として知られる免疫クロマトグラフィー法は、1つの操作で、反応、洗浄、検出の工程を行なえるという利点がある。しかし、抗原抗体反応に時間を必要とし、固相上を液状試料が展開する時間を長くする必要があるためメンブレンのような多孔質からなる材料も用いてしか行なえない。しかも、免疫クロマトグラフィー法で用いられるメンブレン等の多孔質からなる材料は高価であり、デバイスとしてのコストが高い。
一方、本実施形態のバイオセンサ20では、固体支持体21として用いられる材料がメンブレンのような多孔質からなる材料に限定されない。従って、本実施形態のバイオセンサを低コストで製造することが可能であり、臨床検査、特に、POCTにおいて特に好適に用いられる。
本実施形態のバイオセンサに固体支持体21として、キャピラリーが用いられている。本実施形態では、キャピラリー内に蛍光標識物質保持部23aおよび結合物質保持部23bを備え、結合物質保持部23bは、蛍光偏光測定が可能なように、例えば、石英ガラス、プラスチックのような透明の材料で形成されている。また、キャピラリー内で液状の試料を展開する駆動力として、例えば、毛細管力、遠心力、電位差などの物理的な力を用いることが可能である。また、必要に応じてキャピラリー内に担体を充填することも可能である。利用可能な担体としては、ガラスウール、ポリアクリルアミドゲル、微粒子などが挙げられる。勿論、キャピラリー内を担体のない自由に溶液が流れる状態としてもよい。
また、本実施形態のバイオセンサ20の固体支持体21として用いられる材料として、ニトロセルロース製メンブレン、酢酸セルロース製メンブレン、ガラス製濾紙などの多孔質材料を基礎にした矩形形態(つまり、試験片)であってもよい。このような多孔質からなる材料において液体試料を展開させる駆動力として毛細管力を用いる。その展開方向は、矩形形態の縦方向、横方向いずれであってもよい。
なお、本実施形態では1つの流路を備えるバイオセンサを説明したが、勿論、複数の流路を備え、複数の測定を同時に行なうことが可能な構成としてもよい。
実施例
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を例示するものあって、本発明を制限するものではない。
以下の手順で、尿中物質であるヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hcg;分子量37,000)を被検物質として測定した。
1.ピレン標識抗hcg−βモノクローナル抗体の調製
抗hcg−βモノクローナル抗体およびピレンブチル酸スクシイミジルエステル(SPB)(いずれもモレキュラー・シーブ社より入手)を使用して、以下に示すようにピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体を調製した。
2.0mg/ml濃度の抗hcG−βモノクローナル抗体を含むリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(pH7.4)溶液(1000μl)と、DMSO中に1.00mg/ml濃度となるようにピレンブチル酸スクシイミジルエステル(抗体に対して10倍量)を溶解した溶液(20μl)とを混合した。この混合液を、4時間撹拌しながら25℃でインキュベートすることにより、抗hcG−βモノクローナル抗体とピレンブチル酸スクシイミジルエステルとを反応させた。得られた反応液を、セファデックスG−25ゲルろ過カラム(Pharmacia)(サイズ:10×60mm、流速:約2ml/分)に供することにより未反応のSPBを除去し、ピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体を含む画分を回収した。
まず、回収した画分について、調製したピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体の標識量および蛍光特性を評価した。
紫外・可視分光計(島津製、UV−1600PC)を使用して測定したところ、回収した画分は、1mlあたり約0.8mgの抗体を含み、そしてピレンの330nmの吸光度からその濃度が0.88mg/mlであったことから、抗hcG−βモノクローナル抗体1分子あたり約1.1個のピレンが標識されていることが確認された。また蛍光分光光度計(島津製、RF−5300PC)を使用して回収した画分が発する蛍光の特性を測定した結果、抗hcG−βモノクローナル抗体に結合したピレンは、330nmの波長の光で励起されて397nmの波長の蛍光を発生し、その蛍光の寿命は100ナノ秒であることが確認された。
2.抗hcG−αモノクローナル抗体固定化セルの調製
測定セルとしてポリスチレン製セルを使用した。このセルに、700μlの抗hcG−αモノクローナル抗体1mg/ml溶液を入れて一晩放置した。その後、セル内の溶液を吸引して除去した後セルを洗浄した。さらに、セルに1%BSA溶液を添加し、一晩放置することによりセル内壁をBSAでブロッキングした。抗体がセル内壁に固定化されていることは、セルに酵素標識hcgを添加すると発色することにより確認した。
3.蛍光偏光度の測定
蛍光偏光度測定装置として、日本分光製FP715を使用した(測定条件;測定温度 35℃、励起波長 330nm、蛍光波長 397nm、Gfactor:0.942)。
上記2に示すように調製した抗hcG−αモノクローナル抗体固定化セルを蛍光偏光装置に設置し、試料として、hcgを、0、50、100、200、300、500、600、800、および1000 IU/lを含む溶液をそれぞれ用意した。測定は、上記のhcg溶液上記ピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体の混合液(700μl)と、上記のhcg溶液(60μl)とを混合し、35℃で0.5分間攪拌した後、上記測定条件で0.5分間、上記hcg溶液の各々について蛍光偏光度を測定した。結果を図6に示す。図6に示すように、蛍光偏光度は、hcgの濃度にほぼ比例することが示された。
産業上の利用可能性
本発明は、環境測定、食品管理および医療診断の分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
図1(a)〜(c)は、本発明の原理を模式的に表す概略図である。
図2は、本発明の蛍光偏光法のフローチャートである。
図3は、本発明の1つの実施形態であるバイオセンサの概略を示す図。
図4は、本発明のバイオセンサおよびそれを用いた蛍光偏光測定装置の1つの構成例を示す。
図5(a)および図5(b)は、図4に示す構成例における蛍光偏光測定装置の検出部を模式的に示す図である。
図6は、本発明によるヒト絨毛性性腺刺激ホルモンの測定結果を示す図である。
【書類名】 明細書
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の被検物質を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫測定法は、抗原抗体反応を利用した測定を行なう方法である。これまでに、様々な測定原理に基づく免疫測定法が報告されている。例えば、酵素免疫測定法、蛍光測定法、発光測定法などの免疫複合体と未反応物質との分離(BF分離:BFは、Binding/Freeの略)を必要とする測定法、比濁法、比ろう法、ラテックス凝集法などのBF分離を必要としない測定法がある。いずれの測定法も、抗原抗体反応を光学的に検出する測定法である。
【0003】
免疫測定法のうち、酵素免疫測定法、蛍光測定法、発光測定法のようなBF分離を必要とするものは、抗原抗体反応に関与していないフリーの抗原および抗体を除去するために洗浄操作が必要となる。また、この洗浄操作を装置のシステムに組み入れ、自動化することにより、操作性を向上させることができるが、装置が高価になる。
【0004】
免疫測定法のうち、比濁法、比ろう法、ラテックス凝集法のようなBF分離を必要としないものは、上記のBF分離を必要とする測定法に比べて操作性は比較的良い。しかし、抗原抗体反応による生成する抗原抗体からなる複合体を、散乱光または透過光で検出するため、高い感度を要する測定項目には不向きである。
【0005】
近年においては、抗原抗体反応を蛍光偏光を利用して検出する免疫測定法(以下、蛍光偏光法と称する)が注目されている。蛍光偏光法は、BF分離を必要としないため洗浄操作がいらない。また、基本的には蛍光を測定するため、感度も良い。このように、上記の測定法に比べて利点がある。
【0006】
蛍光偏光(蛍光偏光解消とも呼ばれる)と称される現象は、1950年以後に生体高分子に適用するための研究が開始され、そして1970年代後半から本格的に生化学あるいは生物学などの分野の広範囲に亘る応用研究が行なわれている。
【0007】
蛍光偏光を測定するための専用の測定装置(以下、蛍光偏光測定装置と称する)は、簡単に述べると、従来の蛍光光度計と同様の構成に加えて、さらに偏光板が2枚追加された装置である。蛍光偏光測定装置は、検出部のセルとして、通常の蛍光測定と同じく四面透明石英製セルが用いられる。可視部領域での測定においてはガラス製のセルを用い得る。
【0008】
蛍光偏光測定装置では、光源から発せられる光線からフィルターあるいはグレイティングプリズムによってモノクロ波(単色光)を得て、それを偏光子により偏光して励起光を得る。この偏光子を通過した励起光をセルに当てると溶液中の蛍光色素をもつ分子のみがその励起光を吸収する。蛍光偏光測定装置において、蛍光色素の特性蛍光緩和時間内に発する蛍光の垂直成分と平行成分が検出されると、Perrinの式により蛍光偏光度が算出される。蛍光偏光度の値は、原理的に、分子の大小に依存する分子の回転運動の速度の差に依存する。このため、蛍光の検出を阻害する不純物などの影響があったとしても、蛍光強度の数値は直接的に抗原濃度によるものではない。従って、全く蛍光が検出されない状況以外では、試料を前処理することなく測定でき、さらにBF分離の必要性もない。以上のことからわかるように、蛍光偏光法は簡易な免疫測定法である。
【0009】
これまで、蛍光偏光を利用した免疫測定技術としては、特開平11−813332号公報に記載の方法がある。これらの方法では、被検物質に結合する、蛍光色素で標識した抗体を用いる。一般に、臨床検査では、上記のように様々な免疫測定法が利用されている。
【特許文献1】特開平11−813332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の蛍光偏光法は、抗原抗体反応の前後における分子量の変化量を算出する方法であるため、抗原抗体反応の前後における分子量変化が小さい場合、または蛍光色素の蛍光緩和時間が短すぎるあるいは長すぎる場合に、高感度で測定することが困難である。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり高感度で測定することができる蛍光偏光法、それに用いるキット、およびバイオセンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の蛍光偏光法は、被検物質を測定する蛍光偏光法であって、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された第1固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(a)と、上記被検物質に、上記蛍光標識物質と上記結合物質とを接触させる工程(b)と、上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する工程(c)とを含む。
【0013】
上述の従来の方法では、被検物質に特異的に結合する結合物質が固体支持体上に固定されていない。このため、被検物質と蛍光標識物質とからなる複合体に回転運動が生じる。このため、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光が解消される。従って、蛍光偏光度があまり大きく変化しないことがある。つまり、測定においてS/N比が増大し、感度が低下することがある。一方、本発明の蛍光偏光法では、試料中に被検物質が存在している場合、工程(b)において蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
【0014】
上記被検物質は、溶液中に含まれていてもよい。
【0015】
上記工程(c)では、上記工程(b)の前後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0016】
上記工程(b)の前に、上記被検物質を含まない溶液を上記蛍光標識物質と上記結合物質とに接触させる工程(f)をさらに含み、上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0017】
上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する各蛍光偏光度と、上記被検物質の濃度との相関を求める工程(g)をさらに含むことが好ましい。
【0018】
上記結合物質が固定化されていない第2固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(d)と、上記被検物質に、上記蛍光標識物質とを接触させる工程(e)とをさらに含み、上記第2固体支持体は、上記結合物質が除去された上記第1固体支持体と同じ材料で形成されており、上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(e)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0019】
上記第1固体支持体は、マイクロタイタープレートであってもよい。
【0020】
上記第1固体支持体は、微粒子であってもよい。
【0021】
上記蛍光標識物質は、蛍光緩和時間が1ナノ秒以上である蛍光色素によって標識されていることが好ましい。
【0022】
上記蛍光色素は、上記結合物質の一級〜三級アミノ基、カルボキシル基、チオール基、フェニル基、フェノール基またはヒドロキシル基に結合しているものでもよい。
【0023】
上記結合物質は、抗体、レセプター、核酸、またはインヒビターのいずれかであってもよい。
【0024】
上記結合物質は、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、Fab抗体、F(ab2)抗体、またはFv抗体のいずれか1つであってもよい。
【0025】
上記被検物質は、生体内物質、微生物、またはウィルスであってもよい。
【0026】
上記結合物質は第1の抗体であり、上記蛍光標識物質は蛍光色素で標識された第2の抗体であり、上記第1の抗体と上記第2の抗体とは、それぞれ異なるエピトープを認識する構成としてもよい。
【0027】
本発明のキットは、被検物質を測定する蛍光偏光法に用いるキットであって、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを備える。
【0028】
本発明のキットによれば、試料中に被検物質が存在している場合、蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
【0029】
本発明のバイオセンサは、被検物質を含む溶液が移動する流路を備え、上記流路は、被検物質を含む溶液を導入するための試料導入部と、上記試料導入部に接続され、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質が、上記溶液中に溶出可能な状態で充填された蛍光標識物質保持部と、上記蛍光標識物質保持部に接続され、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固体支持体に固定化された結合物質保持部とを備える。
【0030】
本発明のバイオセンサによれば、試料中に被検物質が存在している場合、蛍光標識物質保持部において蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、結合物質保持部において被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
【0031】
上記溶液は、上記流路内を毛細管力、遠心力、または電位差により駆動される構成としてもよい。
【0032】
上記流路は、上記固体支持体で形成されており、上記固体支持体が、キャピラリーであってもよい。
【0033】
上記キャピラリーは、担体が充填されている構成としてもよい。
【0034】
上記キャピラリーは、内部を自由に溶液が流れる構成としてもよい。
【0035】
上記固体支持体は、上記被検物質を含む溶液の溶媒を含浸する材料であってもよい。
【0036】
少なくとも2つの流路を備える構成としてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、試料中の被検物質を測定するために、被検物質と特異的に結合する物質が固定化された固相上で行なう蛍光偏光法に関する。以下に、本発明の実施形態を図1および図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の蛍光偏光法の原理を模式的に表す概略図である。図2は、本発明の蛍光偏光法のフローチャートである。
【0038】
一般に、蛍光偏光法は、溶液中の分子の回転運動によって蛍光偏光が解消する現象を利用する。すなわち、分子が小さいほど溶液中における回転運動が早いので、蛍光偏光が大きく解消され、蛍光偏光度の値が小さくなる。反対に、分子が大きいほど溶液中における回転運動が遅いので、蛍光偏光があまり解消されず、蛍光偏光度の値が大きくなる。
【0039】
図1に示すように、本実施形態では、被検物質14と特異的に結合する結合物質12が固定化された固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用いる。固体支持体11上に固定化された結合物質12で蛍光標識物質13が結合した被検物質14を捕捉することによって、蛍光標識物質13と被検物質14との複合体の回転運動を抑制、または静止させる。これは、溶液中の蛍光標識物質13と被検物質14との複合体の「動」の状態を、特異結合反応により固相上に捕捉して「静」の状態にすることによって蛍光偏光度を大きく変化させることを意味する。蛍光偏光度の変化量は、特異結合反応によって、固定化された結合物質12に結合した被検物質14の濃度を示すものとなる。
【0040】
本実施形態の蛍光偏光法は、被検物質14を測定する方法であって、図2に示すように、被検物質14と特異的に結合する結合物質12(代表的には抗体)が固定化された固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意する工程St1と、被検物質14に、蛍光標識物質13と結合物質12とを接触させる工程St2と、蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する工程St3とを含む。
【0041】
各工程を詳細に説明する。
【0042】
工程St1では、図1(a)に示すように、被検物質14が存在しない状態では、蛍光標識物質13は、結合物質12(代表的には抗体)に捕捉されないで溶液中に存在する。このとき、蛍光標識物質13は溶液中で回転運動するので、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光は解消される。従って、蛍光偏光度の値は小さい。
【0043】
工程St2では、図1(b)に示すように、被検物質14を含む試料を添加する。このことにより、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とで、サンドイッチ型の複合体を形成する。なお、この工程は、上記工程St1以前に行なってもよい。
【0044】
工程St3では、図1(c)に示すように、試料中に被検物質14が存在している場合、工程St1で用意された蛍光標識物質13と、被検物質14とが特異的に結合し、さらに、被検物質14と、固体支持体11上に固定化された結合物質12とが特異的に結合して、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とからなるサンドイッチ型の複合体を形成する。このため、蛍光標識物質13の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。ここで、試料中の被検物質14の濃度は、被検物質14が存在しない場合の蛍光偏光度の値と、被検物質14が存在した場合の蛍光偏光度の値との差に相関する。
【0045】
上述のように、従来の方法(例えば、特開平11−813332号公報に記載の方法)では、被検物質に特異的に結合する結合物質が固体支持体上に固定されていない。このため、被検物質と蛍光標識物質とからなる複合体に回転運動が生じる。このため、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光が解消される。従って、蛍光偏光度があまり大きく変化しないことがある。つまり、測定においてS/N比が増大し、感度が低下することがある。
【0046】
しかしながら、本発明の蛍光偏光法では、図1(c)に示すように、試料中に被検物質14が存在している場合、工程St1で用意された蛍光標識物質13と、被検物質14とが特異的に結合し、さらに、被検物質14と、固体支持体11上に固定化された結合物質12とが特異的に結合して、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とからなるサンドイッチ型の複合体が形成される。このため、蛍光標識物質13の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
【0047】
本実施形態では、工程St2の前後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としているが、本発明はこれに限定されない。例えば、工程St2の前に、被検物質14を含まない溶液を蛍光標識物質13と結合物質12とに接触させる前工程をさらに含み、工程St3では、工程St2および前工程の後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0048】
さらに、例えば、結合物質12が固定化されている固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意し、上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度の測定を開始する。次に、継続的に蛍光偏光度の測定を行ないながら、蛍光偏光度の測定開始の任意の時間後に被検物質14を含む試料溶液を蛍光標識物質13と結合物質12とを接触させる。この、蛍光偏光度の測定開始から経時的な蛍光偏光度の変化をモニターすることができる。
【0049】
また、結合物質12が固定化されていない固体支持体(不図示)と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意し、被検物質を含む試料溶液に、結合物質12が固定化されていない固体支持体と蛍光標識物質とを接触させた後に、蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定し、上記工程St2の後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0050】
本実施形態の蛍光偏光法には、被検物質14と特異的に結合する結合物質12が固定化された固体支持体11と、被検物質14と特異的に結合する蛍光標識物質13とを備えるキットが用いられる。
【0051】
固体支持体11は、具体的には測定セルである。測定セルとしては、予め蛍光標識物質13を含有させておいたものでもよい。このキットを用いることにより、測定の際には、測定セルを蛍光偏光測定装置内に配置し、測定セル内に試料を導入するだけで簡易に測定が行なえる。
【0052】
本実施形態の蛍光測定法およびキットに用いられる固体支持体としては、測定したい被検物質を含む試料溶液の溶媒を含浸する材料が好適に用いられる。例えば、ニトロセルロース製メンブレン、酢酸セルロース製メンブレン、ガラス繊維濾紙などが好適に用いられる。
【0053】
また、本発明に用いられる固体支持体として、マイクロタイタープレートもまた好適に用いられる。マイクロタイタープレートとしては、ポリスチレン製、ポリビニール製、ポリカーボネート製、ポリプロピレン製、シリコン系、ガラス系、デキストラン系材料から形成されたマイクロタイタープレートを用いることができる。
【0054】
本発明に用いられる固体支持体として、微粒子もまた好適に用いられる。微粒子としては、例えば、無機コロイド、ラテックス粒子、磁性粒子などが挙げられる。
【0055】
本発明に用いられる固体支持体には、当業者に公知の手法により、物理的吸着または化学的結合によって、被検物質と特異的に結合できる結合物質が固定化される。当業者に公知のスペーサーなどのリガンドを固体支持体に導入し、上記物質を固定化してもよい。スペーサーとして任意の長さの炭素鎖をもつ化合物を用いることができる。またアビジンと複合体を形成するビオチンなどのリガンドが当業者に公知である。
【0056】
本実施形態において、固体支持体に固定化される物質(結合物質)として、被検物質と特異的に結合する限り、任意の抗体、レセプター、核酸、インヒビターなどを用い得る。蛍光色素で標識される物質としてもまた、被検物質と特異的に結合する限り、任意の抗体、レセプター、核酸、インヒビターなどを用い得る。
【0057】
本実施形態に用いる抗体としては、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、Fab抗体、F(ab)2抗体、Fv抗体であり得る。
【0058】
本実施形態において、測定可能な被検物質は、生体内物質、微生物、ウィルスなどである。生体内物質は、例えば、ペプチド、タンパク質、脂質、糖類または核酸類などを意味する。微生物は、大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、クラミジア、ピロリ菌などの細菌を含む。ウィルスは、インフルエンザ、C型肝炎ウィルス、HIVなどを含む。
【0059】
本実施形態で用いられる蛍光標識物質は、被検物質に特異的に結合し、且つ、蛍光色素で標識されたものであれば、いかなる物質でも用いることができる。本実施形態では、結合物質に蛍光色素で標識されたものが用いられているが、これに限定されない。それぞれ異なるエピトープを認識する第1の抗体と第2の抗体とを用意し、いずれか一方を蛍光色素で標識して、それぞれを結合物質と蛍光標識物質として、必要に応じて用いてもよい。
【0060】
なお、本実施形態の蛍光偏光法では、蛍光標識物質の濃度が重要である。もし、測定系内に高濃度の蛍光標識物質が存在していると、固体支持体に固定化された結合物質によって被検物質を介して捕捉された蛍光標識物質よりも、捕捉されていない(つまりフリーの)蛍光標識物質の量が多くなる。この状態で蛍光偏光測定を行なった場合、フリーの蛍光標識物質の量が多いため蛍光偏光度に大きな変化が得られない。従って、本実施形態の蛍光偏光法によって、被検物質を測定する上で、蛍光標識物質の濃度を最適化することが非常に好ましい。
【0061】
最適化の方法としては、例えば、マイクロタイタープレートに任意の量の被検物質を固定化し、これに対して希釈系列を作製した蛍光標識物質溶液をそれぞれ添加していき、蛍光偏光度を測定する。一般に、蛍光標識物質の濃度が高くなるほど蛍光偏光度は小さくなっていく。また、固定化された被検物質の量が多くなると、蛍光偏光度が減少し始める蛍光標識物質の濃度が大きくなっていく。仮に、測定を保証しなければならない被検物質濃度の領域で、図3に示すような結果が得られた場合、蛍光標識物質の濃度を図中の線41で示される濃度以下および線43で示される濃度以上に設定すれば、蛍光偏光度に変化が見られなくなる。従って、蛍光偏光度が被検物質の量に応じて変化するように、蛍光標識物質の濃度を図中の線42で示される濃度付近に設定することが好ましい。
【0062】
本実施形態で用いられる蛍光標識物質に標識される蛍光色素は、蛍光偏光法を原理として測定する上で重要な材料である。蛍光色素は、一般に、励起波長、蛍光波長、ストークスシフト、蛍光緩和時間などのパラメーターでその特性が表される。本実施形態で用いられる蛍光色素は、代表的には、蛍光緩和時間でその特性が規定され、通常、約0.1ナノ秒から約1,000ナノ秒の範囲の蛍光緩和時間を有るものが好ましい。より好ましくは、約1ナノ秒以上の蛍光寿命を有する蛍光色素が用いられる。本実施形態で用いる蛍光色素は、被検物質との結合によって変化する蛍光標識物質の分子量を考慮して選択される。被検物質と結合した蛍光標識物質から放出される蛍光の偏光度は、分子の大きさ、すなわち、分子の回転運動速度と比例する関係にあるからである。本実施形態では、分子量の小さい、すなわち溶液中で回転運動速度の大きい蛍光標識物質が得られるような蛍光色素が好適に用いられ、それによって、捕捉前後の蛍光偏光度の変化を増大することができる。このような蛍光色素の例としては、フルオレセイン誘導体、ダンシル誘導体、ピレン誘導体、金属錯体が挙げられる。
【0063】
また、本実施形態で用いられる蛍光色素は、代表的には、被検物質と特異的に結合する物質中に含まれる、一級〜三級アミノ基、カルボキシル基、チオール基、フェニル基、フェノール基またはヒドロキシル基と反応して上記物質を標識する。このため、例えば、上記で列挙した蛍光色素に、イソチオシアノ基、サクシイミジル基、スルフォニルクロライド基、アジド基、チオール基、マレイミド基などの官能基が公知の方法に従って導入されたものを用いてもよい。
【0064】
次に、上述の本実施形態の蛍光偏光法を用いたバイオセンサを、図4を参照しながら以下に説明する。図4は、本実施形態のバイオセンサおよびそれを用いた蛍光偏光測定装置の1つの構成例を示す。
【0065】
本実施形態のバイオセンサ20は、図4に示すように、固定化された固体支持体21(本実施形態ではキャピラリー)から構成されている。固体支持体21は、試料導入部22と、蛍光標識物質13が充填された蛍光標識物質保持部23aと、結合物質12が固定化された結合物質保持部23bとを有する。試料導入部22と蛍光標識物質保持部23aと結合物質保持部23bとは、被検物質を含む試料溶液が流れる流路となっている。
【0066】
バイオセンサ20における蛍光偏光度の変化を算出する蛍光偏光測定装置30は、バイオセンサ20を収容する収容部を備え(図示せず)、且つ、励起光26側に偏光板24、および蛍光27側に偏光板25を備えており、蛍光偏光度の変化を測定する際に、蛍光27側の偏光板25を回転させる機能を有している。
【0067】
図5(a)および図5(b)は、図4に示す構成例における蛍光偏光測定装置の検出部を模式的に示す図である。図5(a)および図5(b)では、バイオセンサ20の結合物質保持部23bをセル28として模式的に示してある。図5(a)に示すように、蛍光27側の第2偏光板25は、偏光度変化を測定する際に、矢印で示されるように回転し、回転する間にセルから発せられる蛍光の平行成分および垂直成分が逐次的にモニターされ、それらを基に蛍光偏光度が算出される。これに代わり、図5(b)に示すように、蛍光偏光度の変化を算出する装置として、偏光板を回転させる機能を備えていない検出器を用いてもよい。この場合、セル28から発せられる蛍光は、その平行成分30および垂直成分31が、蛍光側に配置された2つの偏光板25、25’を用いることでそれぞれ同時にモニターされ、それらを基に蛍光偏光度が算出される。なお、図5中、20、24、および26で示される参照番号は、図4と同様に、それぞれ入射光、励起側偏光板、および励起光を示す。
【0068】
本実施形態の蛍光偏光測定装置30内に、さらに抗原抗体反応を行なうため温度条件を整えるための反応部、蛍光標識物質保持部23aに蛍光標識物質13を供給する手段、および蛍光偏光度の変化を算出する手段もまた集積化されていてもよい。勿論、蛍光偏光測定装置30が、複数の反応部を備え、蛍光偏光度を測定する手段が、複数の反応部から発せられる蛍光偏光度を同時に測定する構成としてもよい。さらに、同時に測定された蛍光偏光度の差を算出する手段をさらに備える構成としてもよい。
【0069】
また、反応部、蛍光標識物質13を供給する手段、蛍光偏光度の変化を算出する手段が集積化された蛍光偏光測定装置30内に、バイオセンサ20さらに集積化することによって、バイオチップとすることも可能である。
【0070】
試料導入部から導入された試料に含まれる被検物質は、蛍光標識物質保持部23aを通って蛍光標識物質13と結合し、固体支持体21(図4ではキャピラリー)上に固定化された結合物質12(本実施形態では抗体)にさらに結合する。蛍光偏光測定装置30は、結合物質保持部23bから発せられる蛍光偏光度の変化を検出する。
【0071】
従来より、簡易な検査法として、ドライケミストリーによる検査法がある。ドライケミストリーとは、フィルムや試験紙のような展開層マトリクスに乾燥状態で保存された試薬に対して、液状の試料を点着させて、試料中の被検物質を測定する方法である。デバイスとしては、単層の展開層マトリクスに試薬を担持させた単層式、および展開層マトリクスとして、展開層、反応層、試薬層などを層状に積層させた多層式がある。ドライケミストリーによる検査法の特徴としては、試薬が既に展開層マトリクス上に担持されているため、試薬の調整が不要で、小スペースで保存でき、被検体量が少量でよいことなどがあげられる。
【0072】
代表的なドライケミストリーによる検査法としては、免疫クロマトグラフィー法がある(例えば、特許番号2890384号公報に記載されている)。免疫クロマトグラフィー法とは、抗原抗体反応と毛細管現象を利用した検査法で、デバイスには、メンブレンフィルターに代表される担体上に、固定化された第1の抗体と、検出試薬として標識された第2の抗体とが、それぞれ乾燥状態で担持されている。検査の際には、上記デバイス上に被検物質(抗原)を含んだ検体試料を添加し、毛細管現象により展開させ、サンドイッチ型の抗原抗体反応を用いて反応部位を発色させることにより、抗原の同定、存在の有無、または抗原量を測定する。
【0073】
免疫クロマトグラフィー法は、1つの操作で、反応、洗浄、検出の工程を行なえる。従って、操作の簡便性に利点があり、さらに、迅速な判定が行なえる。妊娠診断薬に代表されるように、その簡便さから臨床検査分野の中でも近年着目されているポイント・オブ・ケア・テスティング(POCT)において適用可能な検査法となり得る。
【0074】
臨床検査の簡易測定法として知られる免疫クロマトグラフィ−法は、1つの操作で、反応、洗浄、検出の工程を行なえるという利点がある。しかし、抗原抗体反応に時間を必要とし、固相上を液状試料が展開する時間を長くする必要があるためメンブレンのような多孔質からなる材料も用いてしか行なえない。しかも、免疫クロマトグラフィー法で用いられるメンブレン等の多孔質からなる材料は高価であり、デバイスとしてのコストが高い。
【0075】
一方、本実施形態のバイオセンサ20では、固体支持体21として用いられる材料がメンブレンのような多孔質からなる材料に限定されない。従って、本実施形態のバイオセンサを低コストで製造することが可能であり、臨床検査、特に、POCTにおいて特に好適に用いられる。
【0076】
本実施形態のバイオセンサに固体支持体21として、キャピラリーが用いられている。本実施形態では、キャピラリー内に蛍光標識物質保持部23aおよび結合物質保持部23bを備え、結合物質保持部23bは、蛍光偏光測定が可能なように、例えば、石英ガラス、プラスチックのような透明の材料で形成されている。また、キャピラリ−内で液状の試料を展開する駆動力として、例えば、毛細管力、遠心力、電位差などの物理的な力を用いることが可能である。また、必要に応じてキャピラリー内に担体を充填することも可能である。利用可能な担体としては、ガラスウール、ポリアクリルアミドゲル、微粒子などが挙げられる。勿論、キャピラリ−内を担体のない自由に溶液が流れる状態としてもよい。
【0077】
また、本実施形態のバイオセンサ20の固体支持体21として用いられる材料として、ニトロセルロース製メンブレン、酢酸セルロース製メンブレン、ガラス製濾紙などの多孔質材料を基礎にした矩形形態(つまり、試験片)であってもよい。このような多孔質からなる材料において液体試料を展開させる駆動力として毛細管力を用いる。その展開方向は、矩形形態の縦方向、横方向いずれであってもよい。
【0078】
なお、本実施形態では1つの流路を備えるバイオセンサを説明したが、勿論、複数の流路を備え、複数の測定を同時に行なうことが可能な構成としてもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を例示するものあって、本発明を制限するものではない。
【0080】
以下の手順で、尿中物質であるヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hcg;分子量37,000)を被検物質として測定した。
【0081】
1.ピレン標識抗hcg−βモノクローナル抗体の調製
抗hcg−βモノクローナル抗体およびピレンブチル酸スクシイミジルエステル(SPB)(いずれもモレキュラー・シーブ社より入手)を使用して、以下に示すようにピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体を調製した。
【0082】
2.0mg/ml濃度の抗hcG−βモノクローナル抗体を含むリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(pH7.4)溶液(1000μl)と、DMSO中に1.00mg/ml濃度となるようにピレンブチル酸スクシイミジルエステル(抗体に対して10倍量)を溶解した溶液(20μl)とを混合した。この混合液を、4時間撹拌しながら25℃でインキュベートすることにより、抗hcG−βモノクローナル抗体とピレンブチル酸スクシイミジルエステルとを反応させた。得られた反応液を、セファデックスG−25ゲルろ過カラム(Pharmacia)(サイズ:10×60mm、流速:約2ml/分)に供することにより未反応のSPBを除去し、ピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体を含む画分を回収した。
【0083】
まず、回収した画分について、調製したピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体の標識量および蛍光特性を評価した。
【0084】
紫外・可視分光計(島津製、UV−1600PC)を使用して測定したところ、回収した画分は、1mlあたり約0.8mgの抗体を含み、そしてピレンの330nmの吸光度からその濃度が0.88mg/mlであったことから、抗hcG−βモノクローナル抗体1分子あたり約1.1個のピレンが標識されていることが確認された。また蛍光分光光度計(島津製、RF−5300PC)を使用して回収した画分が発する蛍光の特性を測定した結果、抗hcG−βモノクローナル抗体に結合したピレンは、330nmの波長の光で励起されて397nmの波長の蛍光を発生し、その蛍光の寿命は100ナノ秒であることが確認された。 2.抗hcG−αモノクローナル抗体固定化セルの調製
測定セルとしてポリスチレン製セルを使用した。このセルに、700μlの抗hcG−αモノクローナル抗体1mg/ml溶液を入れて一晩放置した。その後、セル内の溶液を吸引して除去した後セルを洗浄した。さらに、セルに1%BSA溶液を添加し、一晩放置することによりセル内壁をBSAでブロッキングした。抗体がセル内壁に固定化されていることは、セルに酵素標識hcgを添加すると発色することにより確認した。
【0085】
3.蛍光偏光度の測定
蛍光偏光度測定装置として、日本分光製FP715を使用した(測定条件;測定温度 35℃、励起波長 330nm、蛍光波長 397nm、Gfactor:0.942)。
【0086】
上記2に示すように調製した抗hcG−αモノクローナル抗体固定化セルを蛍光偏光装置に設置し、試料として、hcgを、0、50、100、200、300、500、600、800、および1000 IU/lを含む溶液をそれぞれ用意した。測定は、上記のhcg溶液上記ピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体の混合液(700μl)と、上記のhcg溶液(60μl)とを混合し、35℃で0.5分間攪拌した後、上記測定条件で0.5分間、上記hcg溶液の各々について蛍光偏光度を測定した。結果を図6に示す。図6に示すように、蛍光偏光度は、hcgの濃度にほぼ比例することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、環境測定、食品管理および医療診断の分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】 図1(a)〜(c)は、本発明の原理を模式的に表す概略図である。
【図2】 図2は、本発明の蛍光偏光法のフローチャートである。
【図3】 図3は、本発明の1つの実施形態であるバイオセンサの概略を示す図。
【図4】 図4は、本発明のバイオセンサおよびそれを用いた蛍光偏光測定装置の1つの構成例を示す。
【図5】 図5(a)および図5(b)は、図4に示す構成例における蛍光偏光測定装置の検出部を模式的に示す図である。
【図6】 図6は、本発明によるヒト絨毛性性腺刺激ホルモンの測定結果を示す図である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の被検物質を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫測定法は、抗原抗体反応を利用した測定を行なう方法である。これまでに、様々な測定原理に基づく免疫測定法が報告されている。例えば、酵素免疫測定法、蛍光測定法、発光測定法などの免疫複合体と未反応物質との分離(BF分離:BFは、Binding/Freeの略)を必要とする測定法、比濁法、比ろう法、ラテックス凝集法などのBF分離を必要としない測定法がある。いずれの測定法も、抗原抗体反応を光学的に検出する測定法である。
【0003】
免疫測定法のうち、酵素免疫測定法、蛍光測定法、発光測定法のようなBF分離を必要とするものは、抗原抗体反応に関与していないフリーの抗原および抗体を除去するために洗浄操作が必要となる。また、この洗浄操作を装置のシステムに組み入れ、自動化することにより、操作性を向上させることができるが、装置が高価になる。
【0004】
免疫測定法のうち、比濁法、比ろう法、ラテックス凝集法のようなBF分離を必要としないものは、上記のBF分離を必要とする測定法に比べて操作性は比較的良い。しかし、抗原抗体反応による生成する抗原抗体からなる複合体を、散乱光または透過光で検出するため、高い感度を要する測定項目には不向きである。
【0005】
近年においては、抗原抗体反応を蛍光偏光を利用して検出する免疫測定法(以下、蛍光偏光法と称する)が注目されている。蛍光偏光法は、BF分離を必要としないため洗浄操作がいらない。また、基本的には蛍光を測定するため、感度も良い。このように、上記の測定法に比べて利点がある。
【0006】
蛍光偏光(蛍光偏光解消とも呼ばれる)と称される現象は、1950年以後に生体高分子に適用するための研究が開始され、そして1970年代後半から本格的に生化学あるいは生物学などの分野の広範囲に亘る応用研究が行なわれている。
【0007】
蛍光偏光を測定するための専用の測定装置(以下、蛍光偏光測定装置と称する)は、簡単に述べると、従来の蛍光光度計と同様の構成に加えて、さらに偏光板が2枚追加された装置である。蛍光偏光測定装置は、検出部のセルとして、通常の蛍光測定と同じく四面透明石英製セルが用いられる。可視部領域での測定においてはガラス製のセルを用い得る。
【0008】
蛍光偏光測定装置では、光源から発せられる光線からフィルターあるいはグレイティングプリズムによってモノクロ波(単色光)を得て、それを偏光子により偏光して励起光を得る。この偏光子を通過した励起光をセルに当てると溶液中の蛍光色素をもつ分子のみがその励起光を吸収する。蛍光偏光測定装置において、蛍光色素の特性蛍光緩和時間内に発する蛍光の垂直成分と平行成分が検出されると、Perrinの式により蛍光偏光度が算出される。蛍光偏光度の値は、原理的に、分子の大小に依存する分子の回転運動の速度の差に依存する。このため、蛍光の検出を阻害する不純物などの影響があったとしても、蛍光強度の数値は直接的に抗原濃度によるものではない。従って、全く蛍光が検出されない状況以外では、試料を前処理することなく測定でき、さらにBF分離の必要性もない。以上のことからわかるように、蛍光偏光法は簡易な免疫測定法である。
【0009】
これまで、蛍光偏光を利用した免疫測定技術としては、特開平11−813332号公報に記載の方法がある。これらの方法では、被検物質に結合する、蛍光色素で標識した抗体を用いる。一般に、臨床検査では、上記のように様々な免疫測定法が利用されている。
【特許文献1】特開平11−813332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の蛍光偏光法は、抗原抗体反応の前後における分子量の変化量を算出する方法であるため、抗原抗体反応の前後における分子量変化が小さい場合、または蛍光色素の蛍光緩和時間が短すぎるあるいは長すぎる場合に、高感度で測定することが困難である。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり高感度で測定することができる蛍光偏光法、それに用いるキット、およびバイオセンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の蛍光偏光法は、被検物質を測定する蛍光偏光法であって、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された第1固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(a)と、上記被検物質に、上記蛍光標識物質と上記結合物質とを接触させる工程(b)と、上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する工程(c)とを含む。
【0013】
上述の従来の方法では、被検物質に特異的に結合する結合物質が固体支持体上に固定されていない。このため、被検物質と蛍光標識物質とからなる複合体に回転運動が生じる。このため、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光が解消される。従って、蛍光偏光度があまり大きく変化しないことがある。つまり、測定においてS/N比が増大し、感度が低下することがある。一方、本発明の蛍光偏光法では、試料中に被検物質が存在している場合、工程(b)において蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
【0014】
上記被検物質は、溶液中に含まれていてもよい。
【0015】
上記工程(c)では、上記工程(b)の前後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0016】
上記工程(b)の前に、上記被検物質を含まない溶液を上記蛍光標識物質と上記結合物質とに接触させる工程(f)をさらに含み、上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0017】
上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する各蛍光偏光度と、上記被検物質の濃度との相関を求める工程(g)をさらに含むことが好ましい。
【0018】
上記結合物質が固定化されていない第2固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(d)と、上記被検物質に、上記蛍光標識物質とを接触させる工程(e)とをさらに含み、上記第2固体支持体は、上記結合物質が除去された上記第1固体支持体と同じ材料で形成されており、上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(e)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0019】
上記第1固体支持体は、マイクロタイタープレートであってもよい。
【0020】
上記第1固体支持体は、微粒子であってもよい。
【0021】
上記蛍光標識物質は、蛍光緩和時間が1ナノ秒以上である蛍光色素によって標識されていることが好ましい。
【0022】
上記蛍光色素は、上記結合物質の一級〜三級アミノ基、カルボキシル基、チオール基、フェニル基、フェノール基またはヒドロキシル基に結合しているものでもよい。
【0023】
上記結合物質は、抗体、レセプター、核酸、またはインヒビターのいずれかであってもよい。
【0024】
上記結合物質は、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、Fab抗体、F(ab2)抗体、またはFv抗体のいずれか1つであってもよい。
【0025】
上記被検物質は、生体内物質、微生物、またはウィルスであってもよい。
【0026】
上記結合物質は第1の抗体であり、上記蛍光標識物質は蛍光色素で標識された第2の抗体であり、上記第1の抗体と上記第2の抗体とは、それぞれ異なるエピトープを認識する構成としてもよい。
【0027】
本発明のキットは、被検物質を測定する蛍光偏光法に用いるキットであって、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを備える。
【0028】
本発明のキットによれば、試料中に被検物質が存在している場合、蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
【0029】
本発明のバイオセンサは、被検物質を含む溶液が移動する流路を備え、上記流路は、被検物質を含む溶液を導入するための試料導入部と、上記試料導入部に接続され、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質が、上記溶液中に溶出可能な状態で充填された蛍光標識物質保持部と、上記蛍光標識物質保持部に接続され、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固体支持体に固定化された結合物質保持部とを備える。
【0030】
本発明のバイオセンサによれば、試料中に被検物質が存在している場合、蛍光標識物質保持部において蛍光標識物質と被検物質とが特異的に結合し、さらに、結合物質保持部において被検物質と固体支持体上に固定化された結合物質とが特異的に結合して、被検物質と蛍光標識物質と結合物質とからなる複合体が形成される。このため、蛍光標識物質の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
【0031】
上記溶液は、上記流路内を毛細管力、遠心力、または電位差により駆動される構成としてもよい。
【0032】
上記流路は、上記固体支持体で形成されており、上記固体支持体が、キャピラリーであってもよい。
【0033】
上記キャピラリーは、担体が充填されている構成としてもよい。
【0034】
上記キャピラリーは、内部を自由に溶液が流れる構成としてもよい。
【0035】
上記固体支持体は、上記被検物質を含む溶液の溶媒を含浸する材料であってもよい。
【0036】
少なくとも2つの流路を備える構成としてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、試料中の被検物質を測定するために、被検物質と特異的に結合する物質が固定化された固相上で行なう蛍光偏光法に関する。以下に、本発明の実施形態を図1および図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の蛍光偏光法の原理を模式的に表す概略図である。図2は、本発明の蛍光偏光法のフローチャートである。
【0038】
一般に、蛍光偏光法は、溶液中の分子の回転運動によって蛍光偏光が解消する現象を利用する。すなわち、分子が小さいほど溶液中における回転運動が早いので、蛍光偏光が大きく解消され、蛍光偏光度の値が小さくなる。反対に、分子が大きいほど溶液中における回転運動が遅いので、蛍光偏光があまり解消されず、蛍光偏光度の値が大きくなる。
【0039】
図1に示すように、本実施形態では、被検物質14と特異的に結合する結合物質12が固定化された固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用いる。固体支持体11上に固定化された結合物質12で蛍光標識物質13が結合した被検物質14を捕捉することによって、蛍光標識物質13と被検物質14との複合体の回転運動を抑制、または静止させる。これは、溶液中の蛍光標識物質13と被検物質14との複合体の「動」の状態を、特異結合反応により固相上に捕捉して「静」の状態にすることによって蛍光偏光度を大きく変化させることを意味する。蛍光偏光度の変化量は、特異結合反応によって、固定化された結合物質12に結合した被検物質14の濃度を示すものとなる。
【0040】
本実施形態の蛍光偏光法は、被検物質14を測定する方法であって、図2に示すように、被検物質14と特異的に結合する結合物質12(代表的には抗体)が固定化された固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意する工程St1と、被検物質14に、蛍光標識物質13と結合物質12とを接触させる工程St2と、蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する工程St3とを含む。
【0041】
各工程を詳細に説明する。
【0042】
工程St1では、図1(a)に示すように、被検物質14が存在しない状態では、蛍光標識物質13は、結合物質12(代表的には抗体)に捕捉されないで溶液中に存在する。このとき、蛍光標識物質13は溶液中で回転運動するので、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光は解消される。従って、蛍光偏光度の値は小さい。
【0043】
工程St2では、図1(b)に示すように、被検物質14を含む試料を添加する。このことにより、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とで、サンドイッチ型の複合体を形成する。なお、この工程は、上記工程St1以前に行なってもよい。
【0044】
工程St3では、図1(c)に示すように、試料中に被検物質14が存在している場合、工程St1で用意された蛍光標識物質13と、被検物質14とが特異的に結合し、さらに、被検物質14と、固体支持体11上に固定化された結合物質12とが特異的に結合して、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とからなるサンドイッチ型の複合体を形成する。このため、蛍光標識物質13の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。ここで、試料中の被検物質14の濃度は、被検物質14が存在しない場合の蛍光偏光度の値と、被検物質14が存在した場合の蛍光偏光度の値との差に相関する。
【0045】
上述のように、従来の方法(例えば、特開平11−813332号公報に記載の方法)では、被検物質に特異的に結合する結合物質が固体支持体上に固定されていない。このため、被検物質と蛍光標識物質とからなる複合体に回転運動が生じる。このため、蛍光偏光を照射しても蛍光偏光が解消される。従って、蛍光偏光度があまり大きく変化しないことがある。つまり、測定においてS/N比が増大し、感度が低下することがある。
【0046】
しかしながら、本発明の蛍光偏光法では、図1(c)に示すように、試料中に被検物質14が存在している場合、工程St1で用意された蛍光標識物質13と、被検物質14とが特異的に結合し、さらに、被検物質14と、固体支持体11上に固定化された結合物質12とが特異的に結合して、被検物質14と蛍光標識物質13と結合物質12とからなるサンドイッチ型の複合体が形成される。このため、蛍光標識物質13の回転運動は、抑制または静止される。これによって、蛍光偏光度は大きく変化し、その変化の量を大きな測定値として表すことができる。
【0047】
本実施形態では、工程St2の前後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としているが、本発明はこれに限定されない。例えば、工程St2の前に、被検物質14を含まない溶液を蛍光標識物質13と結合物質12とに接触させる前工程をさらに含み、工程St3では、工程St2および前工程の後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0048】
さらに、例えば、結合物質12が固定化されている固体支持体11と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意し、上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度の測定を開始する。次に、継続的に蛍光偏光度の測定を行ないながら、蛍光偏光度の測定開始の任意の時間後に被検物質14を含む試料溶液を蛍光標識物質13と結合物質12とを接触させる。この、蛍光偏光度の測定開始から経時的な蛍光偏光度の変化をモニターすることができる。
【0049】
また、結合物質12が固定化されていない固体支持体(不図示)と、被検物質14に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質13とを用意し、被検物質を含む試料溶液に、結合物質12が固定化されていない固体支持体と蛍光標識物質とを接触させた後に、蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定し、上記工程St2の後の蛍光標識物質13に起因する蛍光偏光度を測定する構成としてもよい。
【0050】
本実施形態の蛍光偏光法には、被検物質14と特異的に結合する結合物質12が固定化された固体支持体11と、被検物質14と特異的に結合する蛍光標識物質13とを備えるキットが用いられる。
【0051】
固体支持体11は、具体的には測定セルである。測定セルとしては、予め蛍光標識物質13を含有させておいたものでもよい。このキットを用いることにより、測定の際には、測定セルを蛍光偏光測定装置内に配置し、測定セル内に試料を導入するだけで簡易に測定が行なえる。
【0052】
本実施形態の蛍光測定法およびキットに用いられる固体支持体としては、測定したい被検物質を含む試料溶液の溶媒を含浸する材料が好適に用いられる。例えば、ニトロセルロース製メンブレン、酢酸セルロース製メンブレン、ガラス繊維濾紙などが好適に用いられる。
【0053】
また、本発明に用いられる固体支持体として、マイクロタイタープレートもまた好適に用いられる。マイクロタイタープレートとしては、ポリスチレン製、ポリビニール製、ポリカーボネート製、ポリプロピレン製、シリコン系、ガラス系、デキストラン系材料から形成されたマイクロタイタープレートを用いることができる。
【0054】
本発明に用いられる固体支持体として、微粒子もまた好適に用いられる。微粒子としては、例えば、無機コロイド、ラテックス粒子、磁性粒子などが挙げられる。
【0055】
本発明に用いられる固体支持体には、当業者に公知の手法により、物理的吸着または化学的結合によって、被検物質と特異的に結合できる結合物質が固定化される。当業者に公知のスペーサーなどのリガンドを固体支持体に導入し、上記物質を固定化してもよい。スペーサーとして任意の長さの炭素鎖をもつ化合物を用いることができる。またアビジンと複合体を形成するビオチンなどのリガンドが当業者に公知である。
【0056】
本実施形態において、固体支持体に固定化される物質(結合物質)として、被検物質と特異的に結合する限り、任意の抗体、レセプター、核酸、インヒビターなどを用い得る。蛍光色素で標識される物質としてもまた、被検物質と特異的に結合する限り、任意の抗体、レセプター、核酸、インヒビターなどを用い得る。
【0057】
本実施形態に用いる抗体としては、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、Fab抗体、F(ab)2抗体、Fv抗体であり得る。
【0058】
本実施形態において、測定可能な被検物質は、生体内物質、微生物、ウィルスなどである。生体内物質は、例えば、ペプチド、タンパク質、脂質、糖類または核酸類などを意味する。微生物は、大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、クラミジア、ピロリ菌などの細菌を含む。ウィルスは、インフルエンザ、C型肝炎ウィルス、HIVなどを含む。
【0059】
本実施形態で用いられる蛍光標識物質は、被検物質に特異的に結合し、且つ、蛍光色素で標識されたものであれば、いかなる物質でも用いることができる。本実施形態では、結合物質に蛍光色素で標識されたものが用いられているが、これに限定されない。それぞれ異なるエピトープを認識する第1の抗体と第2の抗体とを用意し、いずれか一方を蛍光色素で標識して、それぞれを結合物質と蛍光標識物質として、必要に応じて用いてもよい。
【0060】
なお、本実施形態の蛍光偏光法では、蛍光標識物質の濃度が重要である。もし、測定系内に高濃度の蛍光標識物質が存在していると、固体支持体に固定化された結合物質によって被検物質を介して捕捉された蛍光標識物質よりも、捕捉されていない(つまりフリーの)蛍光標識物質の量が多くなる。この状態で蛍光偏光測定を行なった場合、フリーの蛍光標識物質の量が多いため蛍光偏光度に大きな変化が得られない。従って、本実施形態の蛍光偏光法によって、被検物質を測定する上で、蛍光標識物質の濃度を最適化することが非常に好ましい。
【0061】
最適化の方法としては、例えば、マイクロタイタープレートに任意の量の被検物質を固定化し、これに対して希釈系列を作製した蛍光標識物質溶液をそれぞれ添加していき、蛍光偏光度を測定する。一般に、蛍光標識物質の濃度が高くなるほど蛍光偏光度は小さくなっていく。また、固定化された被検物質の量が多くなると、蛍光偏光度が減少し始める蛍光標識物質の濃度が大きくなっていく。仮に、測定を保証しなければならない被検物質濃度の領域で、図3に示すような結果が得られた場合、蛍光標識物質の濃度を図中の線41で示される濃度以下および線43で示される濃度以上に設定すれば、蛍光偏光度に変化が見られなくなる。従って、蛍光偏光度が被検物質の量に応じて変化するように、蛍光標識物質の濃度を図中の線42で示される濃度付近に設定することが好ましい。
【0062】
本実施形態で用いられる蛍光標識物質に標識される蛍光色素は、蛍光偏光法を原理として測定する上で重要な材料である。蛍光色素は、一般に、励起波長、蛍光波長、ストークスシフト、蛍光緩和時間などのパラメーターでその特性が表される。本実施形態で用いられる蛍光色素は、代表的には、蛍光緩和時間でその特性が規定され、通常、約0.1ナノ秒から約1,000ナノ秒の範囲の蛍光緩和時間を有るものが好ましい。より好ましくは、約1ナノ秒以上の蛍光寿命を有する蛍光色素が用いられる。本実施形態で用いる蛍光色素は、被検物質との結合によって変化する蛍光標識物質の分子量を考慮して選択される。被検物質と結合した蛍光標識物質から放出される蛍光の偏光度は、分子の大きさ、すなわち、分子の回転運動速度と比例する関係にあるからである。本実施形態では、分子量の小さい、すなわち溶液中で回転運動速度の大きい蛍光標識物質が得られるような蛍光色素が好適に用いられ、それによって、捕捉前後の蛍光偏光度の変化を増大することができる。このような蛍光色素の例としては、フルオレセイン誘導体、ダンシル誘導体、ピレン誘導体、金属錯体が挙げられる。
【0063】
また、本実施形態で用いられる蛍光色素は、代表的には、被検物質と特異的に結合する物質中に含まれる、一級〜三級アミノ基、カルボキシル基、チオール基、フェニル基、フェノール基またはヒドロキシル基と反応して上記物質を標識する。このため、例えば、上記で列挙した蛍光色素に、イソチオシアノ基、サクシイミジル基、スルフォニルクロライド基、アジド基、チオール基、マレイミド基などの官能基が公知の方法に従って導入されたものを用いてもよい。
【0064】
次に、上述の本実施形態の蛍光偏光法を用いたバイオセンサを、図4を参照しながら以下に説明する。図4は、本実施形態のバイオセンサおよびそれを用いた蛍光偏光測定装置の1つの構成例を示す。
【0065】
本実施形態のバイオセンサ20は、図4に示すように、固定化された固体支持体21(本実施形態ではキャピラリー)から構成されている。固体支持体21は、試料導入部22と、蛍光標識物質13が充填された蛍光標識物質保持部23aと、結合物質12が固定化された結合物質保持部23bとを有する。試料導入部22と蛍光標識物質保持部23aと結合物質保持部23bとは、被検物質を含む試料溶液が流れる流路となっている。
【0066】
バイオセンサ20における蛍光偏光度の変化を算出する蛍光偏光測定装置30は、バイオセンサ20を収容する収容部を備え(図示せず)、且つ、励起光26側に偏光板24、および蛍光27側に偏光板25を備えており、蛍光偏光度の変化を測定する際に、蛍光27側の偏光板25を回転させる機能を有している。
【0067】
図5(a)および図5(b)は、図4に示す構成例における蛍光偏光測定装置の検出部を模式的に示す図である。図5(a)および図5(b)では、バイオセンサ20の結合物質保持部23bをセル28として模式的に示してある。図5(a)に示すように、蛍光27側の第2偏光板25は、偏光度変化を測定する際に、矢印で示されるように回転し、回転する間にセルから発せられる蛍光の平行成分および垂直成分が逐次的にモニターされ、それらを基に蛍光偏光度が算出される。これに代わり、図5(b)に示すように、蛍光偏光度の変化を算出する装置として、偏光板を回転させる機能を備えていない検出器を用いてもよい。この場合、セル28から発せられる蛍光は、その平行成分30および垂直成分31が、蛍光側に配置された2つの偏光板25、25’を用いることでそれぞれ同時にモニターされ、それらを基に蛍光偏光度が算出される。なお、図5中、20、24、および26で示される参照番号は、図4と同様に、それぞれ入射光、励起側偏光板、および励起光を示す。
【0068】
本実施形態の蛍光偏光測定装置30内に、さらに抗原抗体反応を行なうため温度条件を整えるための反応部、蛍光標識物質保持部23aに蛍光標識物質13を供給する手段、および蛍光偏光度の変化を算出する手段もまた集積化されていてもよい。勿論、蛍光偏光測定装置30が、複数の反応部を備え、蛍光偏光度を測定する手段が、複数の反応部から発せられる蛍光偏光度を同時に測定する構成としてもよい。さらに、同時に測定された蛍光偏光度の差を算出する手段をさらに備える構成としてもよい。
【0069】
また、反応部、蛍光標識物質13を供給する手段、蛍光偏光度の変化を算出する手段が集積化された蛍光偏光測定装置30内に、バイオセンサ20さらに集積化することによって、バイオチップとすることも可能である。
【0070】
試料導入部から導入された試料に含まれる被検物質は、蛍光標識物質保持部23aを通って蛍光標識物質13と結合し、固体支持体21(図4ではキャピラリー)上に固定化された結合物質12(本実施形態では抗体)にさらに結合する。蛍光偏光測定装置30は、結合物質保持部23bから発せられる蛍光偏光度の変化を検出する。
【0071】
従来より、簡易な検査法として、ドライケミストリーによる検査法がある。ドライケミストリーとは、フィルムや試験紙のような展開層マトリクスに乾燥状態で保存された試薬に対して、液状の試料を点着させて、試料中の被検物質を測定する方法である。デバイスとしては、単層の展開層マトリクスに試薬を担持させた単層式、および展開層マトリクスとして、展開層、反応層、試薬層などを層状に積層させた多層式がある。ドライケミストリーによる検査法の特徴としては、試薬が既に展開層マトリクス上に担持されているため、試薬の調整が不要で、小スペースで保存でき、被検体量が少量でよいことなどがあげられる。
【0072】
代表的なドライケミストリーによる検査法としては、免疫クロマトグラフィー法がある(例えば、特許番号2890384号公報に記載されている)。免疫クロマトグラフィー法とは、抗原抗体反応と毛細管現象を利用した検査法で、デバイスには、メンブレンフィルターに代表される担体上に、固定化された第1の抗体と、検出試薬として標識された第2の抗体とが、それぞれ乾燥状態で担持されている。検査の際には、上記デバイス上に被検物質(抗原)を含んだ検体試料を添加し、毛細管現象により展開させ、サンドイッチ型の抗原抗体反応を用いて反応部位を発色させることにより、抗原の同定、存在の有無、または抗原量を測定する。
【0073】
免疫クロマトグラフィー法は、1つの操作で、反応、洗浄、検出の工程を行なえる。従って、操作の簡便性に利点があり、さらに、迅速な判定が行なえる。妊娠診断薬に代表されるように、その簡便さから臨床検査分野の中でも近年着目されているポイント・オブ・ケア・テスティング(POCT)において適用可能な検査法となり得る。
【0074】
臨床検査の簡易測定法として知られる免疫クロマトグラフィ−法は、1つの操作で、反応、洗浄、検出の工程を行なえるという利点がある。しかし、抗原抗体反応に時間を必要とし、固相上を液状試料が展開する時間を長くする必要があるためメンブレンのような多孔質からなる材料も用いてしか行なえない。しかも、免疫クロマトグラフィー法で用いられるメンブレン等の多孔質からなる材料は高価であり、デバイスとしてのコストが高い。
【0075】
一方、本実施形態のバイオセンサ20では、固体支持体21として用いられる材料がメンブレンのような多孔質からなる材料に限定されない。従って、本実施形態のバイオセンサを低コストで製造することが可能であり、臨床検査、特に、POCTにおいて特に好適に用いられる。
【0076】
本実施形態のバイオセンサに固体支持体21として、キャピラリーが用いられている。本実施形態では、キャピラリー内に蛍光標識物質保持部23aおよび結合物質保持部23bを備え、結合物質保持部23bは、蛍光偏光測定が可能なように、例えば、石英ガラス、プラスチックのような透明の材料で形成されている。また、キャピラリ−内で液状の試料を展開する駆動力として、例えば、毛細管力、遠心力、電位差などの物理的な力を用いることが可能である。また、必要に応じてキャピラリー内に担体を充填することも可能である。利用可能な担体としては、ガラスウール、ポリアクリルアミドゲル、微粒子などが挙げられる。勿論、キャピラリ−内を担体のない自由に溶液が流れる状態としてもよい。
【0077】
また、本実施形態のバイオセンサ20の固体支持体21として用いられる材料として、ニトロセルロース製メンブレン、酢酸セルロース製メンブレン、ガラス製濾紙などの多孔質材料を基礎にした矩形形態(つまり、試験片)であってもよい。このような多孔質からなる材料において液体試料を展開させる駆動力として毛細管力を用いる。その展開方向は、矩形形態の縦方向、横方向いずれであってもよい。
【0078】
なお、本実施形態では1つの流路を備えるバイオセンサを説明したが、勿論、複数の流路を備え、複数の測定を同時に行なうことが可能な構成としてもよい。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を例示するものあって、本発明を制限するものではない。
【0080】
以下の手順で、尿中物質であるヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hcg;分子量37,000)を被検物質として測定した。
【0081】
1.ピレン標識抗hcg−βモノクローナル抗体の調製
抗hcg−βモノクローナル抗体およびピレンブチル酸スクシイミジルエステル(SPB)(いずれもモレキュラー・シーブ社より入手)を使用して、以下に示すようにピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体を調製した。
【0082】
2.0mg/ml濃度の抗hcG−βモノクローナル抗体を含むリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(pH7.4)溶液(1000μl)と、DMSO中に1.00mg/ml濃度となるようにピレンブチル酸スクシイミジルエステル(抗体に対して10倍量)を溶解した溶液(20μl)とを混合した。この混合液を、4時間撹拌しながら25℃でインキュベートすることにより、抗hcG−βモノクローナル抗体とピレンブチル酸スクシイミジルエステルとを反応させた。得られた反応液を、セファデックスG−25ゲルろ過カラム(Pharmacia)(サイズ:10×60mm、流速:約2ml/分)に供することにより未反応のSPBを除去し、ピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体を含む画分を回収した。
【0083】
まず、回収した画分について、調製したピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体の標識量および蛍光特性を評価した。
【0084】
紫外・可視分光計(島津製、UV−1600PC)を使用して測定したところ、回収した画分は、1mlあたり約0.8mgの抗体を含み、そしてピレンの330nmの吸光度からその濃度が0.88mg/mlであったことから、抗hcG−βモノクローナル抗体1分子あたり約1.1個のピレンが標識されていることが確認された。また蛍光分光光度計(島津製、RF−5300PC)を使用して回収した画分が発する蛍光の特性を測定した結果、抗hcG−βモノクローナル抗体に結合したピレンは、330nmの波長の光で励起されて397nmの波長の蛍光を発生し、その蛍光の寿命は100ナノ秒であることが確認された。 2.抗hcG−αモノクローナル抗体固定化セルの調製
測定セルとしてポリスチレン製セルを使用した。このセルに、700μlの抗hcG−αモノクローナル抗体1mg/ml溶液を入れて一晩放置した。その後、セル内の溶液を吸引して除去した後セルを洗浄した。さらに、セルに1%BSA溶液を添加し、一晩放置することによりセル内壁をBSAでブロッキングした。抗体がセル内壁に固定化されていることは、セルに酵素標識hcgを添加すると発色することにより確認した。
【0085】
3.蛍光偏光度の測定
蛍光偏光度測定装置として、日本分光製FP715を使用した(測定条件;測定温度 35℃、励起波長 330nm、蛍光波長 397nm、Gfactor:0.942)。
【0086】
上記2に示すように調製した抗hcG−αモノクローナル抗体固定化セルを蛍光偏光装置に設置し、試料として、hcgを、0、50、100、200、300、500、600、800、および1000 IU/lを含む溶液をそれぞれ用意した。測定は、上記のhcg溶液上記ピレン標識抗hcG−βモノクローナル抗体の混合液(700μl)と、上記のhcg溶液(60μl)とを混合し、35℃で0.5分間攪拌した後、上記測定条件で0.5分間、上記hcg溶液の各々について蛍光偏光度を測定した。結果を図6に示す。図6に示すように、蛍光偏光度は、hcgの濃度にほぼ比例することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、環境測定、食品管理および医療診断の分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】 図1(a)〜(c)は、本発明の原理を模式的に表す概略図である。
【図2】 図2は、本発明の蛍光偏光法のフローチャートである。
【図3】 図3は、本発明の1つの実施形態であるバイオセンサの概略を示す図。
【図4】 図4は、本発明のバイオセンサおよびそれを用いた蛍光偏光測定装置の1つの構成例を示す。
【図5】 図5(a)および図5(b)は、図4に示す構成例における蛍光偏光測定装置の検出部を模式的に示す図である。
【図6】 図6は、本発明によるヒト絨毛性性腺刺激ホルモンの測定結果を示す図である。
Claims (22)
- 被検物質を測定する蛍光偏光法であって、
上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された第1固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(a)と、
上記被検物質に、上記蛍光標識物質と上記結合物質とを接触させる工程(b)と、
上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する工程(c)と、
を含む蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記被検物質は、溶液中に含まれている蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記工程(c)では、上記工程(b)の前後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記工程(b)の前に、上記被検物質を含まない溶液を上記蛍光標識物質と上記結合物質とに接触させる工程(f)をさらに含み、
上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する蛍光偏光法。 - 請求項4に記載の蛍光偏光法において、
上記工程(b)および上記工程(f)の後の上記蛍光標識物質に起因する各蛍光偏光度と、上記被検物質の濃度との相関を求める工程(g)をさらに含む蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記結合物質が固定化されていない第2固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを用意する工程(d)と、
上記被検物質に、上記第2固体支持体と上記蛍光標識物質とを接触させる工程(e)とをさらに含み、
上記第2固体支持体は、上記結合物質が除去された上記第1固体支持体と同じ材料で形成されており、
上記工程(c)では、上記工程(b)および上記工程(e)の後の上記蛍光標識物質に起因する蛍光偏光度を測定する蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記第1固体支持体は、マイクロタイタープレートである蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記第1固体支持体は、微粒子である蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記蛍光標識物質は、蛍光緩和時間が1ナノ秒以上である蛍光色素によって標識されている蛍光偏光法。 - 請求項9に記載の蛍光偏光法において、
上記蛍光色素は、上記結合物質の一級〜三級アミノ基、カルボキシル基、チオール基、フェニル基、フェノール基またはヒドロキシル基に結合している蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記結合物質は、抗体、レセプター、核酸、またはインヒビターのいずれかである蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記結合物質は、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、Fab抗体、F(ab2)抗体、またはFv抗体のいずれか1つである蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記被検物質は、生体内物質、微生物、またはウイルスである蛍光偏光法。 - 請求項1に記載の蛍光偏光法において、
上記結合物質は第1の抗体であり、
上記蛍光標識物質は蛍光色素で標識された第2の抗体であり、
上記第1の抗体と上記第2の抗体とは、それぞれ異なるエピトープを認識する蛍光偏光法。 - 被検物質を測定する蛍光偏光法に用いるキットであって、
上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固定化された固体支持体と、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質とを備えるキット。 - 被検物質を含む溶液が移動する流路を備え、
上記流路は、被検物質を含む溶液を導入するための試料導入部と、
上記試料導入部に接続され、上記被検物質に特異的に結合する、蛍光色素で標識した蛍光標識物質が、上記溶液中に溶出可能な状態で充填された蛍光標識物質保持部と、
上記蛍光標識物質保持部に接続され、上記被検物質と特異的に結合する結合物質が固体支持体に固定化された結合物質保持部とを備えるバイオセンサ。 - 請求項16に記載のバイオセンサにおいて、
上記溶液は、上記流路内を毛細管力、遠心力、または電位差により駆動されるバイオセンサ。 - 請求項16に記載のバイオセンサにおいて、
上記流路は、上記固体支持体で形成されており、
上記固体支持体が、キャピラリーであるバイオセンサ。 - 請求項18に記載のバイオセンサにおいて、
上記キャピラリーは、担体が充填されているバイオセンサ。 - 請求項18に記載のバイオセンサにおいて、
上記キャピラリーは、内部を自由に溶液が流れるバイオセンサ。 - 請求項16に記載のバイオセンサにおいて、
上記固体支持体は、上記被検物質を含む溶液の溶媒を含浸する材料であるバイオセンサ。 - 請求項16に記載のバイオセンサにおいて、
少なくとも2つの流路を備えるバイオセンサ。
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